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2025-26621シス-(-)-フロシノピペリドールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026621
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】シス-(-)-フロシノピペリドールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 211/42 20060101AFI20250214BHJP
   A61K 31/453 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C07D211/42
A61K31/453
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024214704
(22)【出願日】2024-12-09
(62)【分割の表示】P 2021514236の分割
【原出願日】2020-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019079299
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】畳谷 嘉人
(72)【発明者】
【氏名】露峯 信二郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋子
(57)【要約】
【課題】驚くべき高選択性でシス-(-)-フロシノピペリドールを製造する方法を提供すること。
【解決手段】(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノンを(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸を用いて光学分割する際に、エーテル系溶媒を添加することにより、極めて高収率にて、(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩」を得、そしてこれのスラリーを塩基処理した後、「立体的にかさ高い還元剤」を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品として有用なアルボシジブの各種中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルボシジブ(フラボピリドール、化学名:2-(2-クロロフェニル)-5,7-ジヒドロキシ-8-[(3S,4R)-3-ヒドロキシ-1-メチルピペリジン-4-イル]-4H-1-ベンゾピラン-4-オン)は、下記の構造:
【0003】
【化1】
を有する合成フラボンである。アルボシジブは、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の強力且つ選択的な阻害剤であり、魅力的ながんの治療剤であり、現在、血液癌を用途とする臨床開発が進められている。
【0004】
アルボシジブの中間体に係るシス-(-)-フロシノピペリドールの製造方法としては、例えば、特許文献1及び非特許文献1に記載の方法が知られている。またシス-(-)-フロシノピペリドール製造の中間体である1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンの製造方法は、非特許文献2、特許文献2、および特許文献3が知られている。
【0005】
特許文献1、非特許文献1には(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンからシス-(-)-フロシノピペリドールを取得する方法が記載されている。
【0006】
特許文献2、非特許文献2には、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オールから、シス-(-)-フロシノピペリドールを取得する方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オールからシス-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンを取得する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第98/13344号
【特許文献2】米国特許第4900727号明細書
【特許文献3】米国特許第5849733号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K. S. Kim,et al., J. Med. Chem. 43, 4126(2000)
【非特許文献2】R. Naik.,et al., Tetrahedron 44, 2081(1988)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、工業生産に適したシス-(-)-フロシノピペリドールの製造方法に関する。すなわち、本発明は、安全、簡便かつ高収率にて、高純度のシス-(-)-フロシノピペリドールを製造する方法を提供する。
【0011】
より詳細に述べると、本発明者らは鋭意検討した結果、「(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オール(1)」と、「三酸化硫黄複合体(2)」とを適切な溶媒下で反応させることにより、「(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン(3)」(本明細書中では、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンと称する場合もある)を、室温付近かつ高収率にて製造できることを見出した。さらに、(3)を「(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸(4)」を用いて動的速度論的光学分割する際に、エーテル系溶媒を添加することにより、極めて高収率にて、「(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩(5)」(本明細書中では、(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンと称する場合もある)が得られることを見出した。また、(5)のフリー体(6)は通常不安定であるが、(5)のスラリーを塩基処理することにより安定的に取り扱えることを見出し、(6)を「立体的にかさ高い還元剤(7)」を用いることで、驚くべき高選択性で「シス-(-)-フロシノピペリドール(I)」に還元できることを見出した。
【0012】
【化2】
【0013】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0014】
[項1]下記工程(d)を含む、式(I)
【化3】
で表されるシス-(-)-フロシノピペリドール若しくはその塩、又はその溶媒和物の製造方法:
(d)
式(6)
【化4】
で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を、溶媒中、
式(7)
【化5】
の化合物又はその溶媒和物[式中、Mはアルカリ金属である。]
と反応させることにより、
式(I)
【化6】
で表されるシス-(-)-フロシノピペリドール若しくはその塩、又はその溶媒和物を製造する工程。
【0015】
[項2]前記工程(d)で用いられる式(7)のMが、リチウム、ナトリウム又はカリウムである、項1に記載の製造方法。
【0016】
[項3]前記工程(d)で用いられる式(7)のMが、リチウムである、項1または項2に記載の製造方法。
【0017】
[項4]前記工程(d)において、還元反応後の生成物を酸性水溶液で抽出し、該抽出溶液のpHを上昇させることで、式(I)の化合物、若しくはその溶媒和物を取得することを特徴とする、項1~項3のいずれか一項に記載の製造方法。
【0018】
[項5]前記工程(d)において、還元反応後の生成物を酸性水溶液で抽出し、該抽出溶液を、塩基性水溶液に滴下することで、式(I)の化合物、若しくはその溶媒和物を取得することを特徴とする、項1~項4のいずれか一項に記載の製造方法。
【0019】
[項6]前記工程(d)において、酸性水溶液のpHが6.0~6.5である、項1~項5のいずれか一項に記載の製造方法。
【0020】
[項7]前記工程(d)において、酸性水溶液のpHが6.0である、項1~項6のいずれか一項に記載の製造方法。
【0021】
[項8]前記工程(d)の前に、下記工程(c)を更に含む、項1~7のいずれか一項に記載の製造方法:
(c)
式(5)
【化7】
で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩、又はその溶媒和物を、溶媒中、塩基と反応させて、
式(6)
【化8】
で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を製造する工程。
【0022】
[項9]前記工程(c)で用いられる塩基が有機塩基である、項1~項8のいずれか一項に記載の製造方法。
【0023】
[項10]前記工程(c)で用いられる塩基が第三級アミンである、項1~項9のいずれか一項に記載の製造方法。
【0024】
[項11]前記工程(c)で用いられる溶媒がエーテル系溶媒である、項1~項10のいずれか一項に記載の製造方法。
【0025】
[項12]前記工程(c)において、塩基で中和した生成物を単離せず、溶液状態にて前記(d)工程を行うことを特徴とする、項1~項11のいずれか一項に記載の製造方法。
【0026】
[項13]前記工程(c)の前に、下記工程(b)を更に含む、項1~項12のいずれか一項に記載の製造方法:
(b)
式(3)
【化9】
で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を、反応溶媒中で
式(4)
【化10】
で表される(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸若しくはその塩、又はその溶媒和物
と反応させることにより、
式(5)
【化11】
で表わされる(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩又はその溶媒和物を製造する工程。
【0027】
[項14]前記(b)工程において、反応溶媒が、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、及び芳香族系溶媒から選択される少なくとも一つの反応溶媒である、項1~項13のいずれか一項に記載の製造方法。
【0028】
[項15]前記(b)工程で用いられる反応溶媒が、アルコール系溶媒である、項1~項14のいずれか一項に記載の製造方法。
【0029】
[項16]前記(b)工程において、式(3)で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を、式(4)の化合物と反応させた後、反応溶液に貧溶媒を添加することで、式(5)で表される化合物又はその溶媒和物を析出させることを特徴とする、項1~項15のいずれか一項に記載の製造方法。
【0030】
[項17]前記(b)工程で用いられる貧溶媒が、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルカン系溶媒、及び芳香族系溶媒から選択される少なくとも一つの貧溶媒である、項1~項16のいずれか一項に記載の製造方法。
【0031】
[項18]前記(b)工程で用いられる貧溶媒が、エーテル系溶媒である、項1~項17のいずれか一項に記載の製造方法。
【0032】
[項19]前記工程(b)の前に、下記工程(a)を更に含む、項1~18のいずれか一項に記載の製造方法:
(a)
式(1)
【化12】
で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オール若しくはその塩、又はその溶媒和物と
式(2)
【化13】
で表される化合物若しくはその塩、又は溶媒和物[式中、Yは、5員~10員のヘテロアリール基、若しくは第三級アミン、若しくはアミドである。]、及びジアルキルスルホキシド
と反応させることにより、
式(3)
【化14】
で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を製造する工程。
【0033】
[項20]前記工程(a)で用いられる式(2)のYが、ピリジンである、項1~項19のいずれか一項に記載の製造方法。
【0034】
[項21]前記工程(a)の反応が、-10℃以上の温度で行われることを特徴とする、項1~項20のいずれか一項に記載の製造方法。
【0035】
[項22]前記工程(a)の反応が、0℃から30℃の温度で行われることを特徴とする、項1~項21のいずれか一項に記載の製造方法。
[項23]下記工程(c)を含む、式(6)
【化15】
で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物の製造方法:
(c)
式(5)
【化16】
で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩、又はその溶媒和物を、溶媒中、塩基と反応させて、
式(6)
【化17】
で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を製造する工程。
【0036】
[項24]前記工程(c)で用いられる塩基が有機塩基である、項23に記載の製造方法。
【0037】
[項25]前記工程(c)で用いられる塩基が第三級アミンである、項23又は項24のいずれか一項に記載の製造方法。
【0038】
[項26]前記工程(c)で用いられる溶媒がエーテル系溶媒である、項23~項25のいずれか一項に記載の製造方法。
[項27]下記工程(b)を含む、式(5)
【化18】
で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩又はその溶媒和物の製造方法:
(b)
式(3)
【化19】
で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を、反応溶媒中で
式(4)
【化20】
で表される(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸若しくはその塩、又はその溶媒和物
と反応させることにより、
式(5)
【化21】
で表わされる(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩又はその溶媒和物を製造する工程。
【0039】
[項28]前記(b)工程において、反応溶媒が、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、及び芳香族系溶媒から選択される少なくとも一つの反応溶媒である、項27に記載の製造方法。
【0040】
[項29]前記(b)工程で用いられる反応溶媒が、アルコール系溶媒である、項27又は項28に記載の製造方法。
【0041】
[項30]前記(b)工程において、式(3)で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を、式(4)の化合物と反応させた後、反応溶液に貧溶媒を添加することで、式(5)で表される化合物又はその溶媒和物を析出させることを特徴とする、項27~項29のいずれか一項に記載の製造方法。
【0042】
[項31]前記(b)工程で用いられる貧溶媒が、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルカン系溶媒、及び芳香族系溶媒から選択される少なくとも一つの貧溶媒である、項27~30のいずれか一項に記載の製造方法。
【0043】
[項32]前記(b)工程で用いられる貧溶媒が、エーテル系溶媒である、項27~項31のいずれか一項に記載の製造方法。
【0044】
[項33]下記工程(a)を含む、
式(3)
【化22】
で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物の製造方法:
(a)
式(1)
【化23】
で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オール若しくはその塩、又はその溶媒和物と
式(2)
【化24】
で表される化合物若しくはその塩、又は溶媒和物[式中、Yは、5員~10員のヘテロアリール基、若しくは第三級アミン、若しくはアミドである。]、及びジアルキルスルホキシド
と反応させることにより、
式(3)
【化25】
で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を製造する工程。
【0045】
[項34]前記工程(a)で用いられる式(2)のYが、ピリジンである、項33に記載の製造方法。
【0046】
[項35]前記工程(a)の反応が、-10℃以上の温度で行われることを特徴とする、項33又は項34のいずれか一項に記載の製造方法。
【0047】
[項36]前記工程(a)の反応が、0℃から30℃の温度で行われることを特徴とする、項33~項35のいずれか一項に記載の製造方法。
【0048】
本発明において、上記の一つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0049】
本発明の製造方法によれば、既知の製造方法に比べ、シス-(-)-フロシノピペリドールを、高収率で、高選択的で、高純度で製造することができ、その再現性が高く、安全であり、安価であり、簡便である等の効果を奏するものである。
【0050】
本発明は、先行技術文献に記載される既知の製造方法に比べ、シス-(-)-フロシノピペリドールへと誘導する還元の選択性が著しく高いため、カラムクロマトグラフィー精製を必要とせず、目的物を効率よく製造できる工業的に適した方法を提供する(工程(d))。
【0051】
また本発明は、先行技術文献に記載される既知の製造方法に比べ、動的速度論的分割の収率が高く、中和後のフリー体を単離する必要もないため、操作を容易に行うことができる等の利点を提供することができる(工程(b)及び(c))。
【0052】
加えて、本発明の反応では、-60℃附近という極低温が必要であったアルコールの酸化を室温附近で行うことができ、より容易に製造することができる(工程(a))。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0054】
本明細書における用語について以下に説明する。
【0055】
本発明における「溶媒和物」とは、化合物と、溶媒との組み合わせにより形成される複合体を意味する。溶媒和物の例としては、水和物、メタノール和物、エタノール和物などが挙げられる。
【0056】
本明細書における「ある化合物、若しくはその塩、又はその溶媒和物」は、前記化合物、前記化合物の塩、前記化合物の溶媒和物、または前記化合物の塩の溶媒和物を意味する。
【0057】
本明細書において「エステル系溶媒」とは、分子内にエステル結合を1個以上含む化合物で、反応温度において液体であり、反応基質を溶解若しくは分散させる性質を持つ溶媒を意味する。
「エステル系溶媒」の具体例として、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチルが挙げられる。好ましくは、酢酸エチル、酢酸イソプロピルが挙げられる。
【0058】
本明細書において「エーテル系溶媒」とは、分子内にエーテル結合を1個以上含む化合物で、反応温度において液体であり、反応基質を溶解若しくは分散させる性質を持つ溶媒を意味する。
「エーテル系溶媒」の具体例として、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-ターシャリーブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルが挙げられる。好ましくは、メチル-ターシャリーブチルエーテルが挙げられる。
【0059】
本明細書において「アルコール系溶媒」とは、分子内に水酸基を1個以上含む化合物で、反応温度において液体であり、反応基質を溶解若しくは分散させる性質を持つ溶媒を意味する。
「アルコール系溶媒」の具体例として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、ターシャリー-ブチルアルコールが挙げられる。好ましくは、メタノールが挙げられる。
【0060】
本明細書において「アミド系溶媒」とは、分子内にアミド結合を1個以上含む化合物で、反応温度において液体であり、反応基質を溶解若しくは分散させる性質を持つ溶媒を意味する。
「アミド系溶媒」の具体例として、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0061】
本明細書において「ニトリル系溶媒」とは、分子内にシアノ基を1個以上含む化合物で、反応温度において液体であり、反応基質を溶解若しくは分散させる性質を持つ溶媒を意味する。
「ニトリル系溶媒」の具体例として、アセトニトリル、プロピオニトリルが挙げられる。
【0062】
本明細書において「アルカン系溶媒」とは、炭素、水素のみよりなる非芳香族の化合物で、反応温度において液体であり、反応基質を溶解若しくは分散させる性質を持つ溶媒を意味する。
「アルカン系溶媒」の具体例として、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタンが挙げられる。
【0063】
本明細書において「芳香族系溶媒」とは、ベンゼン環を1個以上含む化合物で、反応温度において液体であり、反応基質を溶解若しくは分散させる性質を持つ溶媒を意味する。
「芳香族系溶媒」の具体例として、トルエン、キシレン、メシチレンが挙げられる。
【0064】
本明細書において「ジアルキルスルホキシド」とは、C1-10アルキル基を2つ有するスルホキシドであり、具体例としては、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ドデシルメチルスルホキシドが挙げられる。好ましくは、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0065】
本明細書において「5員~10員のヘテロアリール基」とは、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から独立して選ばれる1から4個の原子を含み、単環の5~7員環の芳香族複素環基(「5員~7員のヘテロアリール基」)及び2環の8~10員の芳香族複素環基(「8員~10員のヘテロアリール基」)を含む。
【0066】
「5員~10員のヘテロアリール基」として好ましくは、単環の5~7員環の芳香族複素環基(「5員~7員のヘテロアリール基」)が挙げられ、さらに好ましくは、5員もしくは6員の単環の芳香族複素環基(「5員~6員のヘテロアリール基」)が挙げられ、最も好ましくは6員の単環の芳香族複素環基(「6員のヘテロアリール基」)が挙げられる。
【0067】
「5員~10員のヘテロアリール基」として、具体的にはピリジル基、ピリダジニル基、イミダゾリル基、ピリミジニル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、ピラジニル基、トリアジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、インドリル基、インダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンズイミダゾリル基、キノキサリル基、ナフチリジニル基、ピロロ[3,2-c]ピリジニル基、ピリド[3,2-d]ピリジニル基、ピリド[3、2-d]ピリミジニル基、イミダゾロ[4,5-c]ピリジル基及び2-オキソ-1,2-ジヒドロー1,7-ナフチリジニル基等が挙げられる。
【0068】
「5員~10員のヘテロアリール基」として好ましくは、ピリジル基、ピリミジニル基、イミダゾリル基、及びピリダジニル基であり、より好ましくは、ピリジル基、ピリミジニル基、及びイミダゾリル基であり、さらに好ましくは、ピリジル基、及びピリミジニル基であり、最も好ましくはピリジル基である。
【0069】
本明細書において「アミド」とは、分子内にアミド結合を1個以上含む化合物であり、好ましくは、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンであり、より好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミドである。
【0070】
本明細書において「塩基」には、無機塩基及び有機塩基の両方が含まれる。
【0071】
「無機塩基」の具体例として、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、又は炭酸セシウム、或いはこれらの混合物等が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、又は炭酸セシウムが挙げられる。より好ましくは、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は炭酸セシウムが挙げられる。最も好ましくは、炭酸カリウム、又は炭酸セシウムが挙げられる。
【0072】
「有機塩基」の具体例として、トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエタン-1,2-ジアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N-メチルモルホリン、ジアザビシクロウンデセン、メチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピリミジン又はピリジンが挙げられる。より好ましくは、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエタン-1,2-ジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N-メチルピペリジン、ピリミジン、又はピリジンが挙げられる。さらに好ましくは、N,N,N’,N’-テトラメチルエタン-1,2-ジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N-メチルピペリジン、ピリミジン、又はピリジンが挙げられる。最も好ましくは、トリエチルアミンが挙げられる。
【0073】
「第三級アミン」の具体例として、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリンが挙げられる。より好ましくは、トリエチルアミンが挙げられる。
【0074】
「酸性水溶液」の具体例として、酢酸、アルギン酸、アントラニル酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エテンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、フロン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グルコレン(glucorenic)酸、ガラクツロン酸、グリシド酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、リン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファニル酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウムなどの水溶液が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、硫酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウムが挙げられる。
【0075】
「塩基性水溶液」の具体例として、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、または炭酸セシウム、或いはこれらの混合物等が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、又は炭酸セシウムが挙げられる。
【0076】
本明細書において、「塩」を形成する酸には、例えば、限定されないが、酢酸、アルギン酸、アントラニル酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エテンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、フロン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グルコレン(glucorenic)酸、ガラクツロン酸、グリシド酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、リン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファニル酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸などがある。
【0077】
本発明に係る式(I)の化合物、又は必要に応じてその塩、又はその溶媒和物の製造方法について以下に述べる。(±)1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オール(1)は、特許文献2、または特許文献3に記載の方法、及びそれに準じた方法、又は当業者に周知の合成方法を適宜組み合わせて製造することができる。
【0078】
また、各工程で得られた化合物は反応液のままか混合物として次の反応に用いることもできるが、常法に従って、反応混合物から単離することもでき、再結晶、蒸留、クロマトグラフィーなどの分離手段により容易に精製することができる。
【0079】
以下の反応における化合物の各記号は、特に記載のない限り、前記と同意義を示す。
【0080】
以下に、本発明の化合物の製造法について、例を挙げて説明するが、本発明はもとよりこれらに限定されるものではない。
【0081】
これらの製造法は、有機合成化学を習熟している者の知識に基づき、適宜改良することができる。下記製造法において、原料として用いられる化合物は、反応に支障をきたさない限り、それらの塩を用いてもよい。
【0082】
下記製造法において、具体的に保護基の使用を明示していなくても、反応点以外のいずれかの官能基が反応条件で変化する場合、又は反応後の処理を実施するのに不適当な場合には、反応点以外を必要に応じて保護し、反応終了後又は一連の反応を行った後に脱保護することにより目的化合物を得ることができる。これらの過程で用いられる保護基としては、文献(T.W. Greene and P. G. M. Wuts, “Protective Group in OrganicSynthesis”, 3rdEd., John Wiley and Sons, Inc., New York (1999))等に記載されている通常
の保護基を用いることができる。また、保護基の導入及び除去は、有機合成化学で常用される方法(例えば、上記文献に記載の方法等)又はそれらに準じた方法により行うことができる。
【0083】
下記製造法における出発原料及び中間体は、市販品として購入可能であるか、又は公知文献に記載された方法もしくは公知化合物から公知の方法に準じて合成することにより入手可能である。また、これらの出発原料及び中間体は、反応に支障をきたさない限り、それらの塩や溶媒和物を用いてもよい。
【0084】
製造方法
【化26】
【0085】
以下に述べるように、本発明の方法では、シス選択的にα位が置換された環状ケトンを還元するする工程(d)が最も重要な特徴の一つであるものの、工程(a)、(b)及び(c)についても、本発明の重要な特徴である。工程(a)、(b)、(c)及び(d)について以下好ましい実施形態を交えて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
工程(a)
【化27】
【0087】
(式中Yは、5員~10員のヘテロアリール基、若しくは第三級アミン、若しくはアミドである。)
【0088】
式(1)で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オールは、市販の物を使用するか、若しくは各種文献記載の方法によって製造することができる。例えば、特許文献2に記載の方法で製造することができる。
【0089】
式(2)で表される三酸化硫黄複合体は、市販の物を使用するか、若しくは各種文献記載の方法によって製造することができる。例えば、D. C. Akwaboah, et al., Org.
Lett. 19、1180(2017)に記載の方法で製造することができる。
【0090】
本工程は式(1)で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オールを、溶媒中、或いは無溶媒下、式(2)で表される三酸化硫黄複合体とジアルキルスルホキシドとを反応させることにより式(3)で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノンを得る工程である。
【0091】
本工程に使用されるジアルキルスルホキシドは、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ドデシルメチルスルホキシドが挙げられる。好ましくは、ジメチルスルホキシドが挙げられる。本工程に使用される溶媒は、ジクロロメタンが挙げられるが、ジアルキルスルホキシドを溶媒としても良い。
【0092】
式(2)で表される化合物の使用量は、1当量の式(1)で表される化合物に対して、通常、0.8当量~10当量、好ましくは2.5当量~3.5当量である。
【0093】
ジアルキルスルホキシドの使用量は、1当量の式(1)で表される化合物に対して、通常、0.8当量~10当量、好ましくは6当量~7当量である。
【0094】
反応時間は、通常、1時間~12時間程度であり、好ましくは2時間~4時間である。
【0095】
反応温度は、通常、-10℃~50℃であり、好ましくは10℃~30℃である。
【0096】
工程(b)
【化28】
【0097】
式(4)で表される(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸は、市販の物を使用できる。
【0098】
本工程は、前記製造工程(a)にて製造された、式(3)で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノンに係るラセミ化合物を、反応溶媒中、式(4)で表される(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸を用いて動的速度論的分割することにより、式(5)で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩((+)-ジベンゾイル-D-酒石酸に係る特定の立体を有する化合物)のみを取得する工程である。本明細書において、この工程(b)の化学反応に用いられる溶媒を「反応溶媒」と称する。反応溶媒としては、工程(b)の反応の進行に資するものであればどのような溶媒を用いてもよい。
【0099】
反応溶媒としては、例えば、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、及び芳香族系溶媒から選択される少なくとも一つの溶媒が挙げられる。本反応で用いられる反応溶媒として好ましくは、アルコール系溶媒が挙げられる。より好ましくは、メタノールが挙げられる。
【0100】
また、本反応において、式(3)で表される(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン若しくはその塩、又はその溶媒和物を、式(4)の化合物と反応させた後、反応溶液に貧溶媒を添加することで、式(5)で表される化合物又はその溶媒和物を析出させることが望ましい。「貧溶媒」は、目的とする生成物の反応溶媒に対する溶解度より、貧溶媒を反応溶液に加えたときの反応溶媒と貧溶媒との混合物に対する該目的とする生成物の溶解度が低い溶媒であり、当業者は、本明細書の記載および公知技術を参照して、使用する反応溶媒に適切な貧溶媒を適宜選択することができる。貧溶媒としては、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルカン系溶媒、及び芳香族系溶媒から選択される少なくとも一つの貧溶媒が挙げられる。貧溶媒として好ましくは、エーテル系溶媒が挙げられる。より好ましくは、メチル-ターシャリーブチルエーテルが挙げられる。
【0101】
式(4)で表される化合物の使用量は、1当量の式(3)で表される化合物に対して、通常、0.8当量~10当量、好ましくは1当量~1.5当量である。
【0102】
反応時間は、通常、10分~10時間程度であり、好ましくは30分~2時間である。
【0103】
反応温度は、通常、-10℃~100℃であり、好ましくは40℃~60℃である。
【0104】
工程(c)
【化29】
【0105】
本工程は、前記工程(b)で得られた、式(5)で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩を、塩基で処理する工程である。この塩基処理によって、酒石酸がとれ、式(6)で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノンが系中で生成していることになる。
【0106】
本工程で使用される塩基としては、好ましくは有機塩基が挙げられる。より好ましくは、第三級アミンが挙げられる。さらに好ましくは、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリンが挙げられる。最も好ましくは、トリエチルアミンが挙げられる。
【0107】
本反応で用いられる溶媒は、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、及び芳香族系溶媒が挙げられる。より好ましくは、エーテル系溶媒が挙げられる。さらに好ましくは、1,2-ジメトキシエタン及び/又はテトラヒドロフランが挙げられる。
【0108】
なお、本反応は、好ましくは、工程(d)と連続して行われる特徴を有し、その場合、式(6)で表される化合物を単離することなく、工程(d)が行われる。
【0109】
塩基の使用量は、1当量の式(5)で表される化合物に対して、通常、1当量~10当量、好ましくは3当量~5当量である。
【0110】
反応時間は、通常、10分~10時間程度であり、好ましくは20分~1時間である。
【0111】
反応温度は、通常、-10℃~50℃であり、好ましくは10℃~25℃である。
【0112】
工程(d)
【化30】
【0113】
本工程は、前記工程(c)で得られた、式(6)で表される(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)-3-ピペリジノンを、溶媒中、式(7)で表されるトリイソブチルボロヒドリド塩を用いて還元し、式(I)で表されるシス-(-)-フロシノピペリドールを得る工程である。
【0114】
式(7)で表されるトリイソブチルボロヒドリド塩の使用量は、1当量の式(6)で表される化合物に対して、通常、1当量~10当量、好ましくは1.5当量~3当量である。トリイソブチルボロヒドリド塩として好ましくは、ナトリウムトリイソブチルボロヒドリド、カリウムトリイソブチルボロヒドリド、及びリチウムトリイソブチルボロヒドリドが挙げられる。より好ましくは、リチウムトリイソブチルボロヒドリドが挙げられる。すなわち、式(7)に係るアルカリ金属Mとして、好ましくは、リチウム、ナトリウム及びカリウムが挙げられ、より好ましくは、リチウムが挙げられる。
【0115】
本反応に用いられる溶媒として好ましくは、エーテル系溶媒、及び芳香族系溶媒が挙げられる。好ましくはエーテル系溶媒が挙げられる。より好ましくは、1,2-ジメトキシエタン及び/又はテトラヒドロフランが挙げられる。反応時間は、通常、10分~10時間程度であり、好ましくは1時間~3時間である。
【0116】
反応温度は、通常、-10℃~50℃であり、好ましくは-5℃~15℃である。
【0117】
本反応に係る後処理は、好ましくは、還元反応後の生成物を酸性水溶液で抽出し、該抽出溶液のpHを上昇させる(例えば、該抽出溶液を塩基性水溶液に滴下する)ことで、式(I)で表される化合物を取得することを特徴とする。酸性水溶液のpHは、好ましくは5.5~6.5であり、より好ましくは、6.0~6.4が挙げられる。塩基性水溶液として好ましくは、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸セシウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液が挙げられる。好ましくは、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が挙げられる。より好ましくは、3~20%水酸化カリウム水溶液が挙げられる。最も好ましくは、5~10%の水酸化カリウム水溶液が挙げられる。
【0118】
本発明に係る製造方法(d)により、シス-(-)-フロシノピペリドールを安価、安全、高純度かつ高収率にて製造することができる。また、出発物質に対して、工程(a)、(b)及び(c)を行うことにより、安価、安全かつ簡便に各中間体を製造することができる。
【0119】
式(1)の化合物は既知物質であり、既知文献の方法に従い、容易に合成できる。当該化合物を用い、三酸化硫黄ピリジン複合体存在下、ジメチルスルホキシド中で工程(a)を行うことにより、式(3)の化合物を高収率、高純度、安価、安全かつ簡便に製造することができる。なお、通常よく用いられるスワン酸化では-60℃といった極低温が必要であるが、本反応では室温附近で操作でき、製造する上で極めて有用である。
【0120】
式(3)の化合物と式(4)の化合物から塩を形成する工程(b)を、メタノール中で行った後に、メチル-ターシャリーブチルエーテル(MTBE)を添加することで、式(5)の化合物の結晶を高収率、高純度、安価、安全かつ簡便に製造することができる。既知文献の方法では、結晶化後のろ液から2番晶を取得しているが、本反応では、1番晶のみの取得でより高収率に製造することができる。操作がより簡便であり、製造する上で有用である。
【0121】
式(5)の化合物と、塩基としてトリエチルアミンを用いて、1,2-ジメトキシエタン(DME)とテトラヒドロフラン(THF)との混合溶媒中で、工程(c)を行うことにより、式(6)のエーテル溶液を高収率、高純度、安価、安全かつ安定的に製造することができる。式(6)の化合物は容易にラセミ化するが、本反応ではラセミ化することなく式(6)の化合物を高い光学純度で得ることができる。
【0122】
式(6)の化合物のエーテル溶液と、リチウムトリイソブチルボロヒドリドを用いて、エーテル溶媒中で工程(d)を行うことにより、シス-(-)-フロシノピペリドールを高収率、高選択的、高純度に製造することができる。既知文献の方法、例えば非特許文献1では、シス-(-)-フロシノピペリドールのcis/trans選択性は約7/3であるが、本反応では99.8/0.2と驚くべき選択性を示す。また、そのために精製も容易となり、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製が不要であり、製造する上で、極めて有用である。
【0123】
試薬等を加える順序は先に挙げたものに限定されるものではない。
【実施例0124】
以下に参考例及び実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、化合物の同定は元素分析値、マス・スペクトル、高速液体クロマト質量分析計;LCMS、NMRスペクトル、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により行った。
【0125】
高速液体クロマト;HPLCの測定条件は、以下の通りであり、保持時間をRt(分)で示す。なお、各実測値においては、測定に用いた測定条件を付記する。なお、下記において、HPLC純度(面積%)とは、下記の測定条件のいずれかを用い、各ピーク面積を比較することにより、純度を算出している。
【0126】
方法A
カラム:Kinetex 1.7um C18 100A (100×2.1mm)
溶離液:A液:0.01mol/lリン酸水素二ナトリウム水溶液、B液:アセトニトリル
勾配条件:
【0127】
【表1】
流量:1.2mL/min
カラム温度:40℃
波長:230nm
【0128】
方法Aで測定した1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オールのRtを、下表に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
方法B
カラム:Kinetex 1.7um C18 100A (100×2.1mm)
溶離液:A液:0.05%トリフルオロ酢酸水溶液、B液:アセトニトリル(0.05%トリフルオロ酢酸
勾配条件:
【0131】
【表3】
流量:0.3mL/min
カラム温度:40℃
波長:220nm
【0132】
方法Bで測定した1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン、(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン及びシス-(-)-フロシノピペリドールのRtを、下表に示す。
【0133】
【表4】
【0134】
方法C
カラム:Chiralpak AD 5um (250×4.6mm)
溶離液:ヘプタン/2-プロパノール/トリエチルアミン:80/20/0.02
流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
波長:235nm
【0135】
方法Cで測定した、1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン、(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン及びシス-(-)-フロシノピペリドールのRtを、下表に示す。
【0136】
【表5】
【0137】
明細書の記載を簡略化するために実施例及び実施例中の表において以下に示すような略号を用いることもある。
MTBE:メチル-ターシャリーブチルエーテル
DME:1,2-ジメトキシエタン、
THF:テトラヒドロフラン、
DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、
DMF:N、N-ジメチルホルムアミド
MEK:メチルエチルケトン
DMSО:ジメチルスルホキシド
CDCl:重水素化クロロホルム
MeОH:メタノール
min:分
NMRに用いられる記号としては、δは化学シフト値、sは一重線、dは二重線、tは三重線、qは四重線、mは多重線、及びJはスピン結合定数を意味する。
【0138】
次に本発明を、実施例および参考例によりさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。また、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。尚、以下の実施例および参考例において示された化合物名は必ずしもIUPAC命名法に従うものではない。
【0139】
実施例1:(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンの製造方法
【0140】
【化31】
【0141】
窒素雰囲気下、三酸化硫黄ピリジン複合体(52.6g)をジメチルスルホキシド(172g)に30℃で溶解し、15℃に冷却した。別の容器で窒素雰囲気下、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オール塩酸塩(35g)をジメチルスルホキシド(55.9g)に懸濁し、ジイソプロピルエチルアミン(56.9g)を20℃に保ちつつ滴下後、DBU(16.77g)を20℃で滴下した。
この懸濁液に、先の三酸化硫黄ピリジン複合体のジメチルスルホキシド溶液を、内温を20℃に保ちつつ滴下し、得られた溶液を20℃で2時間攪拌した。冷やしたトルエン(210g)を20℃で滴下し、得られた溶液を10℃に冷却した。水(245g)を10℃で滴下後、25℃に昇温した。分液後、下層の水層をトルエン(105g)で2回抽出し、分液上層と合一後、有機層を飽和食塩水(140g)で2回、飽和塩化アンモニア水(70g)、水(35g)で洗浄した。トルエン(105g)を加えて内容量96gまで濃縮した。MTBE(280g)を加え、内容量98gまで濃縮した。MTBE(280g)を加え、内容量95gまで濃縮した。MTBE(280g)を加え、内容量91gまで濃縮した。残滓を55℃まで昇温し、アセトニトリル(10.5g)を加え、ヘプタン(65g)を55℃で滴下した。30℃に冷却後、少量の1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンを添加し、30℃で攪拌した。55℃まで再度昇温後にろ過し、ろ液を30℃まで冷却した。少量の1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンを再び添加し、0℃まで冷却した。ヘプタン(65g)を加え、析出物をろ取した。該析出物をMTBEとヘプタンの混合溶媒で洗浄した後、乾燥させ、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン(18.5g、収率:60%、HPLC面積%:95.3面積%)を得た。
H-NMR (400 MHz, CDCl) δ:1.90-1.97 (m, 1H), 2.33 (s, 1H), 2.38 (s, 3H), 2.45-2.52 (m, 1H), 2.81 (d,J = 16.0 Hz, 1H), 2.89 (d,J = 11.6 Hz, 1H),3.44 (d,J = 15.6 Hz, 1H), 3.73 (s, 6H), 3.78 (s, 3H), 3.87 (dd,J = 11.8, 7.4 Hz, 1H),6.12 (s, 2H)
【0142】
実施例1の製造方法は、特許文献2,及び3、並びに非特許文献2の方法と比較し、反応を室温付近で実施でき、工業化する上で優れている。特許文献3と比較し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製が不要な点で優れている。
【0143】
実施例2:(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩の製造方法
【0144】
【化32】
【0145】
窒素雰囲気下、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン(500g)と(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸(352.7g)を室温でメタノール(1750g)に溶解し、50℃に昇温した。(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸(352.7g)のメタノール(500g)溶液を50℃で30分かけて滴下し、1時間保温して、攪拌した。MTBE(2250g)を50℃で滴下し、滴下後に55℃に昇温し、5時間保温して、攪拌した。20℃に冷却し、一晩保温して、攪拌した。析出物をろ取し、該析出物をメタノール(500g)とMTBE(500g)の混液で2回洗浄、MTBE(1000g)で2回洗浄した後、乾燥させて(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩(901.2g、収率:79%、HPLC純度:41.84面積%、(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸のHPLC面積%:57.64面積%)を得た。
H-NMR (400MHz,DMSО-d6)δ:1.80-1.85(m,1H),2.18-2.28(m,1H),2.46(s,3H),2.71-2.79(m,1H),3.05-3.09(m,1H),3.15-3.19(m,1H),3.43-3.48(m, 1H),3.70(s,6H),3.76(s,3H),3.83(dd,J=12.0Hz,6.8Hz,1H),5.79(s,2H),6.22(s,2H),7.56(dd,J=7.8,7.8Hz,4H),7.70(dd,J=7.4Hz,7.4Hz,2H),7.98(d,J=7.6Hz)
【0146】
実施例2の製造方法は、特許文献1、非特許文献1と比較し、再現性の点で優れている。また、1回の晶析で収率79%が達成でき、操作性の点で優れている。特許文献2、並びに非特許文献2と比較し、不要な鏡像体が生成せず、収率の点で優れている。不要な鏡像体を除去する必要がなく、操作性の点でも優れている。
【0147】
実施例3:(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩の塩基処理
【0148】
【化33】
【0149】
(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩(400g)を反応容器内で減圧下、50℃で8時間乾燥させた後、5℃に冷却した。DME(2000g)とTHF(2000g)を加え、トリエチルアミン(253.9g)を内温5℃で滴下後、18℃に昇温し、30分保温、攪拌した。沈殿をろ過で除き、THF(240g)で2回洗浄し、ろ液と洗液を合一した(4461g、収率:100%、HPLC純度:97.55面積%、光学純度:99.36%ee)。この溶液を精製することなく、次の工程で使用した。
【0150】
実施例3の塩基処理は、特許文献1、または2、並びに非特許文献1、または2と比較し、比較的不安定な生成物を単離する必要がない点で優れている。さらには、トリエチエルアミンを使用することで、ラセミ化が抑制できる点でも優れている。特許文献2、並びに非特許文献2と比較し、ラセミ化が抑制できる点で優れている。
【0151】
実施例4:シス-(-)-フロシノピペリドールの製造方法
【0152】
【化34】
【0153】
窒素雰囲気下、リチウムトリイソブチルボロヒドリドのTHF溶液(1210.6g)を0℃まで冷却した。実施例3で得られた溶液(4461.0g)を内温0℃で滴下し、0℃で2時間保温、攪拌した。この溶液を5℃に冷却した15%水酸化カリウム水溶液(1875g)に10℃以下で滴下した。滴下後、15℃に昇温し、30%過酸化水素水(426.7g)を内温30℃以下で滴下した。20℃で30分、攪拌後、24%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(413.55g)を20℃で滴下し、1時間攪拌した。ヨウ化カリウムでんぷん試験紙で過酸化物をチェックし、トルエン(1752g)を加えた。10分攪拌後、水層を除き、有機層(7403g)を2802gまで減圧濃縮した。トルエン(1752g)を再び加え、958gまで減圧濃縮し、トルエン(1456g)を加えた。20℃で5%リン酸二水素カリウム水溶液(525.7g)を加え、濃塩酸(56g)でpH:6.37に調整した。分液後の下層の一部(37.2g)を7%水酸化カリウム水溶液(876g)に20℃で滴下し、シス-(-)-フロシノピペリドール(0.88g)を添加した。分液後の下層の残り(710.1g)を20℃で滴下し、20℃で2時間保温、攪拌した。析出物をろ取し、該析出物を水(200g)で2回洗浄した後、乾燥させてシス-(-)-フロシノピペリドール(156.4g、収率:88.6%、HPLC純度:99.91面積%、光学純度:99.3%ee)を得た。
H-NMR (400 MHz,CDCl) δ:1.37-1.42(m,1H),1.65(s,3H),2.04(ddd,J=11.6,11.6,2.7Hz,1H),2.12-2.15(m,1H),2.31(s,3H),2.83-2.94(m,1H),2.96-3.02(m,2H),3.34-3.39(m,1H),3.81(s,9H),3.84-3.85(m,1H),6.17(s,2H)
【0154】
実施例4の製造方法は、特許文献1、並びに非特許文献1と比較し、収率、シス選択性の点で優れている。さらには、反応温度が0℃と極低温が不要であり、カラムクロマトグラフィーを使用せずとも精製できるという操作性の点でも優れている。特許文献2、または3、並びに非特許文献2と比較し、還元反応の収率の点で優れている。
【0155】
本願発明に係る実施例1~4の製造方法を用いることにより、高効率、高選択的かつ高純度にてシス-(-)-フロシノピペリドールを工業的に製造することができる。
【0156】
本願発明に係る製造方法と比較すべく、以下、スワン酸化により(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オンを製造した(参考例1)。また、光学分割を行い(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩を製造した(参考例2)。
【0157】
参考例1:(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン塩酸塩の製造方法
【0158】
【化35】
【0159】
窒素雰囲気下、塩化オキザリル(13.8g)を塩化メチレン(150g)に溶解し、-78℃に冷却した。この溶液に-70℃で、ジメチルスルホキシド(18.95g)の塩化メチレン(100g)溶液を30分かけて滴下した。-70℃で15分攪拌した。この溶液に-70℃で、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オール(25g)の塩化メチレン(75g)の溶液を25分で滴下した。この溶液を-78℃で1時間攪拌した。トリエチルアミン(40.9g)を-78℃で、30分で滴下し、30分攪拌した。-20℃に昇温し、飽和重曹水(250g)を30分で滴下した。水(250g)を加え、トルエン(250ml)で2回抽出した。有機層を合一し、飽和食塩水(100ml)を加えて分液後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、減圧濃縮し、残滓を酢酸エチル(100g)に溶解し、不溶物をろ過した。ろ液に4N塩酸/酢酸エチル(30ml)を滴下し、室温で攪拌した。析出物をろ取し、酢酸エチルで洗浄後、乾燥させ、粗(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン(26.5g)を得た。取得した固体(20g)を2-プロパノール(200g)に懸濁し、75℃に昇温して1時間攪拌した。20℃に冷却し、30分攪拌した。析出物をろ取し、2-プロパノール(50ml)で2回洗浄し、乾燥させて、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン塩酸塩(17.9g、収率:70%)を得た。
H-NMR (400MHz,CDCl) δ:1.90-1.97(m,1H),2.33(s,1H),2.38(s,3H),2.45-2.52(m,1H),2.81(d,J=16.0Hz,1H),2.89(d,J=11.6Hz,1H),3.44(d,J=15.6Hz,1H),3.73(s,6H),3.78(s,3H),3.87(dd,J=11.8Hz,7.4Hz,1H),6.12(s,2H)
【0160】
参考例1の製法は、特許文献2、又は3、或いは非特許文献2に類似する方法であり、反応の際、極低温が必要であるため、工程が煩雑であるとともに、製造施設が限られるなどの大量合成を行う際に大きな問題を生じる。一方、実施例1の製法は、極低温を必要とせず、安価にかつ、容易に通常の製造施設で大量合成を行うことができる。
【0161】
参考例2:(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩の製造方法
【0162】
【化36】
【0163】
窒素雰囲気下、(±)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン(15g)と(+)-ジベンゾイル-D-酒石酸(21.2g)を65℃でメタノール(68.2g)に溶解し、65℃で1時間攪拌した。これを0℃まで6時間かけて冷却し、0℃で終夜攪拌した。析出物をろ取し、冷メタノール(30g)で2回洗浄し、乾燥させて、(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩の1番晶(20.2g、収率:59%)を得た。ろ洗液(133.5g)を33.3gまで減圧濃縮し、65℃に昇温した。55℃に冷却後、(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩(7mg)を加え、1時間攪拌し、0℃まで6時間かけて冷却し、0℃で終夜攪拌した。析出物をろ取し、冷メタノール(9.6g)で2回洗浄し、乾燥させて(R)-1-メチル-4-(2,4,6-トリメトキシフェニル)ピペリジン-3-オン (+)-ジベンゾイル-D-酒石酸塩の2番晶(4.2g、収率:12%)を得た。
H-NMR (400 MHz,DMSО-d6) δ:1.80-1.85(m,1H),2.18-2.28(m,1H),2.46(s,3H),2.71-2.79(m,1H),3.05-3.09(m,1H),3.15-3.19(m,1H),3.43-3.48(m,1H),3.70(s,6H),3.76(s,3H),3.83(dd,J=12.0Hz,6.8Hz,1H),5.79,(s,2H),6.22(s,2H),7.56(dd,J=7.8Hz,7.8Hz,4H),7.70(dd,J=7.4Hz,7.4Hz,2H)、7.98(d,J=7.6Hz)
【0164】
参考例2の製法は、特許文献1、或いは非特許文献1に類似する方法であり、1番晶のろ液を濃縮し、さらに2番晶を取るため、工程が煩雑、長時間必要であるとともに、大量合成するには不向きである。実施例2と比べて収率も低い。一方、実施例2の方法は、一度の晶析のみで79%収率を達成でき、安価に且つ、容易に工業化できる優れた方法である。
【0165】
以下、参考例3~7において、本願発明を用いて製造したシス-(-)-フロシノピペリドールより、効率よくアルボシジブを製造できることを確認した。
【0166】
参考例3:シス-(-)-アセトフロシノピペリドールの製造方法
【0167】
【化37】
【0168】
窒素雰囲気下、無水酢酸(80g)を6℃に冷却し、シス-(-)-フロシノピペリドール(100g)を、内温を25℃以下に保ちつつ30分で加えた。13~18℃で4時間保温し、14℃に冷却した。三フッ化ホウ素酢酸複合体(200g)を内温45℃以下に保ちつつ30分かけて滴下した。55℃に昇温し、5時間保温した。25℃に冷却し、水(184g)を35℃で滴下し、水(90g)で滴下漏斗を洗浄した。35℃で3時間保温し、30%水酸化ナトリウム水(900g)を40~55℃で滴下し、60℃に昇温後、1時間保温し、20℃に冷却した。この溶液をブタノール(1111g)に加えた。
濃塩酸(138g)を30℃以下で滴下し、濃塩酸(37.7g)でpH11.2に調整した。水層をブタノール(270g)で抽出した。有機層を水(300g)で洗浄し、分液後、有機層を塩酸(濃塩酸:5.5gと水:200gの混液)で洗浄し、分液した。さらに水(200g)で洗浄し、分液した。有機層を222gまで減圧濃縮し、残滓にジイソプロピルエーテル(220g)を加え、65℃に昇温した。65℃で1時間保温後、0℃に冷却し、1時間保温した。析出物をろ取し、該析出物をジイソプロピルエーテル(73g)で2回洗浄し、乾燥させ、シス-(-)-アセトフロシノピペリドール(123g、収率:92%)を得た。
H-NMR (400 MHz,DMSО-d6) δ:1.22(d,J=11.6Hz,1H),1.90(dd,J=11.0Hz,11.0Hz,1),2.03(d,J=9.6Hz,1H),2.17(s,3H),2.47(s,3H),2.78-2.87(m,3H),3.08-3.13(m,3H),3.71(s,1H),3.82(s,3H),3.83(s,3H)
【0169】
参考例4:シス-(-)-フラボジメトキソル塩酸塩の製造方法
【0170】
【化38】
【0171】
窒素雰囲気下、カリウム-ターシャリーブトキシド(80.3g)をDMF(373g)
に加え、溶解させた。5℃に冷却し、12℃以下に保ちつつシス-(-)-アセトフロシノピペリドール(75g)を加えた。25℃で1時間30分保温し、2-クロロ安息香酸エチル(116g)を内温25℃に保ちつつ30分で加えた。30℃に昇温し、6時間保温した。16℃に冷却し、濃塩酸(458g)に50℃以下で滴下した。水(19g)で洗浄し、これも加えた。50℃で6時間30分保温、攪拌し、25℃に冷却した。水(773g)を加え、30%水酸化ナトリウム水(614g)を滴下した。30%水酸化ナトリウム水(69g)でpH11.1に調整し、ブタノール(243g)を加え、分液した。水層をブタノール(243g)で抽出し、有機層を合一した。65℃で減圧濃縮し(溜出量:603g)、25℃に冷却した。残滓にメタノール(269g)を加えて30分保温し、ろ過、ろ物をメタノール(30g)で洗浄し、ろ液と合一した。ろ洗液に濃塩酸(32g)を滴下し、40分25℃で保温した。シス-(-)-フラボジメトキソル塩酸塩(1.1g)を加え、25℃で30分攪拌後、ジイソプロピルエーテル(544g)を45分かけて滴下した。20℃で1時間保温した。析出物をろ取し、該析出物をジイソプロピルエーテル(163g)とメタノール(89g)の混液で洗浄した。ジイソプロピルエーテル(163g)で2回洗浄し、粗シス-(-)-フラボジメトキソル塩酸塩(102.6g、収率:92%)を得た。窒素雰囲気下、粗シス-(-)-フラボジメトキソル塩酸塩(90g)を2-プロパノール(113g)と水(216g)の混液に40℃で溶解し、30分保温した。30℃に冷却し、シス-(-)-フラボジメトキソル塩酸塩(0.9g)を加え、1時間保温した。3時間かけて5℃まで冷却し、5℃で2時間保温した。析出物を2-プロパノール(70g)で洗浄し、乾燥させ、シス-(-)-フラボジメトキソル塩酸塩(76.2g、収率:87%)を得た。
H-NMR (400 MHz,DMSО-d6) δ:1.83(d,J=13.2Hz,1H),2.71(s,3H),3.09-3.21(m,4H),3.29-3.33(m,1H),3.44(d,J=11.2Hz,1H),3.92(d,J=3.2Hz,3H),3.95(d,J=2.8Hz,3H),3.99(s,1H),5.46-5.48(m,1H),6.34(d,J=2.8Hz,1H),6.71(d,J=3.2Hz,1H),7.54-7.62(m,2H),7.67-7.69(m,1H),7.80-7.82(m,1H),9.49(s,1H)
【0172】
参考例5:粗アルボシジブフリー体の製造方法
【0173】
【化39】
【0174】
窒素雰囲気下、シス-(-)-フラボジメトキソル塩酸塩(40g)をクロロベンゼン(354g)に溶解し、75℃に昇温した。三臭化ホウ素(177g)を内温75℃に保ちながら4時間かけて滴下した。滴下漏斗をクロロベンゼン(4g)で洗い、加えた。80℃に昇温し、6時間保温した。室温に冷却し、終夜攪拌した。100℃に昇温し、2時間30分保温し、攪拌した。20℃に冷却し、水(40g)とメタノール(63g)の混液を、内温25℃を保ちつつ3時間かけて滴下した。25℃で15分間保温し、攪拌後、メタノール(63g)を内温25℃に保ちつつ滴下し、25℃で終夜攪拌した。内温72~79℃に昇温し、常圧蒸溜により濃縮した(溜出量79g)。水(18g)、メタノール(527g)とクロロベンゼン(239g)の混液を滴下しつつ、常圧蒸溜により濃縮した。(溜出量799g)50℃に冷却し、26.5%水酸化ナトリウム水(25g)を滴下した。内温72~79℃に昇温し、水(6g)、メタノール(176g)とクロロベンゼン(80g)の混液を滴下しつつ、引き続き常圧蒸溜により濃縮した。(溜出量263g)40℃に冷却後、再び72℃に昇温し、常圧濃縮した。50℃に冷却し、メタノール(112g)、クロロベンゼン(127g)を加え、26.5%水酸化ナトリウム水溶液(14g)を滴下した。50℃で1時間保温し、水(160g)を滴下後に20℃に冷却した。20℃で1時間保温し、析出物をろ取し、水(140g)とメタノール(48g)の混液で洗浄した。該析出物を水(140g)とメタノール(48g)に懸濁し、洗液を加え、保温した。結晶をろ取し、水(140g)とメタノール(48g)の混液で洗浄、水(200g)で4回洗浄した後乾燥させ、粗アルボシジブフリー体(29.7g、収率:86.1%)を得た。
H-NMR (400 MHz,MeОH-d4) δ:1.59(d,J=11.6Hz,1H),2.75(s,3H),2.97(ddd,J=12.4Hz,12.4Hz,2.9Hz,1H),3.04-3.14(m,2H),3.30-3.32(m,1H),3.41(d,J=12.0Hz,1H),3.57-3.61(m,1H),4.17(s,1H),6.03(s,1H),6.30(s,1H),7.49(ddd,J=7.4Hz,7.4Hz,1.6Hz,1H),7.54(ddd,J=7.6Hz,7.6Hz,1.7Hz,1H),7.60(dd,J=8.4Hz,1.2Hz,1H),7.68(dd,J=7.4Hz,1.8Hz,1H)
【0175】
参考例6:アルボシジブ塩酸塩エタノール和物の製造方法
【化40】
【0176】
窒素雰囲気下、粗アルボシジブフリー体(20g)をエタノール(228g)に溶解し、35℃に昇温した。濃塩酸(10.4g)を、内温35℃を保ちつつ滴下し、エタノール(4.6g)で滴下漏斗を洗浄した。74℃に昇温し、熱時ろ過し、エタノール(23g)でろ紙を洗浄した。ろ液と洗液を合一し、常圧濃縮した。(溜出量190g)25℃に冷却し、終夜保温した。-10℃に冷却し、2時間保温した。析出物をろ取し、該析出物を冷エタノール(94g)で洗浄、乾燥させ、アルボシジブ塩酸塩エタノール和物(22.4g、収率:93%)を得た。
H-NMR (400 MHz,MeОH-d4) δ:1.17(t,J=7.2Hz,3H),1.83-1.91(m,1H),2.86(s,3H),3.09-3.21(m,2H),3.32-3.35(m,1H),3.45(ddd,J=12.6Hz,2.4Hz,2.4Hz,1H),3.50-3.53(m,1H),3.60(q,J=7.1Hz,2H),3.69-3.74(m,1H),4.26(s,1H),6.34(s,1H),6.48(s,1H),7.52(ddd,J=7.3Hz,7.3Hz,1.3Hz,1H),7.58(ddd,J=7.6Hz,7.6Hz,1.9Hz,1H),7.62(dd,J=7.8Hz,1.4Hz,1H),7.76(dd,J=7.6Hz,1.6Hz,1H)
【0177】
参考例7:アルボシジブ塩酸塩の製造方法
【0178】
【化41】
窒素雰囲気下、アルボシジブ塩酸塩エタノール和物(20g)をメチルエチルケトン(297g)に溶解し、80℃に昇温し、4時間保温した。22℃に冷却し、1時間保温した。析出物をろ取し、該析出物をメチルエチルケトン(69g)で洗浄し、乾燥させ、アルボシジブ塩酸塩(17.7g、収率:98%、HPLC純度:99.6面積%、光学純度:>99.9%ee)を得た。
H-NMR (400 MHz,MeОH-d4) δ:1.83-1.91(m,1H),2.85(s,3H),3.10-3.22(m,2H),3.34(s,1H),3.42-3.46(m,1H),3.49-3.53(m,1H),3.69-3.73(m,1H),4.26(s,1H),6.34(s,1H),6.48(s,1H),7.52(ddd,J=7.4Hz,7.4Hz,1.5Hz,1H),7.58(ddd,J=7.8Hz,7.8Hz,2.0Hz,1H),7.63(dd,J=7.8Hz,1.4Hz,1H),7.75(dd,J=7.4Hz,1.4Hz,1H)
【0179】
以上のように,本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが,本発明は,特許請求の範囲によってのみ,その範囲が解釈されるべきであることが理解される。本願は、日本国出願特許2019-79299(2019年4月18日出願)に対して優先権を主張するものであり、その内容は、その全体が本明細書において参考として援用される。本明細書において引用した特許,特許出願および他の文献は,その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様に,その内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の製造方法を用いることにより,医薬品として有用なアルボシジブの中間体であるシス-(-)-フロシノピペリドールを,高収率,高選択的,高純度で安全かつ安価に製造することができる。