(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026683
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】LBM、CPC、OPC、それらの調製方法及び品質管理方法、キット、移植材料並びに疾患モデル
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20250214BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250214BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20250214BHJP
【FI】
C12N5/077 ZNA
C12Q1/02
C12N5/10
C12N5/077
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024216869
(22)【出願日】2024-12-11
(62)【分割の表示】P 2021546984の分割
【原出願日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2019169278
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020062441
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 幹細胞・再生医学イノベーション創出プログラム」「ヒト多能性幹細胞に由来する分化指向性間葉系前駆細胞集団の選別単離方法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寳田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】山田 大祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 知佳
(72)【発明者】
【氏名】戸口田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】吉富 啓之
(57)【要約】
【課題】高効率及び高純度で目的とする骨組織又は軟骨組織を産生することができる肢芽間葉系細胞集団、骨芽前駆細胞集団又は軟骨前駆細胞集団、それらの調製方法、それらの品質管理方法を提供すること。
【解決手段】哺乳類の側板中胚葉細胞由来であり、かつ、PRRX1タンパク質陽性である、肢芽間葉系細胞集団。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRRX1陽性、CD90陽性及びCD140B陽性の条件を満たすシングルピークの細胞集団から構成される、ヒト軟骨前駆細胞集団。
【請求項2】
CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たさない細胞を実質的に含まない、請求項1に記載のヒト軟骨前駆細胞集団。
【請求項3】
前記ヒト軟骨前駆細胞集団が、PRRX1陽性、CD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性の条件を満たすシングルピークのヒト肢芽間葉系細胞集団から誘導されてなる、請求項1又は2に記載のヒト軟骨前駆細胞集団。
【請求項4】
前記ヒト軟骨前駆細胞集団が、PRRX1陽性、CD44陽性、CD140B陽性、CD49f陰性、CD99陽性、CD9陰性及びCD57陰性の条件を満たすシングルピークのヒト肢芽間葉系細胞集団から誘導されてなる、請求項1又は2に記載のヒト軟骨前駆細胞集団。
【請求項5】
前記ヒト軟骨前駆細胞集団が、PRRX1陽性、CD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性の条件を満たすシングルピークのヒト肢芽間葉系細胞集団から誘導されてなり、かつ、前記ヒト肢芽間葉系細胞集団におけるCD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性の条件を全て満たさない細胞の割合が5%以下である、請求項1又は2に記載のヒト軟骨前駆細胞集団。
【請求項6】
前記ヒト軟骨前駆細胞集団が、PRRX1陽性、CD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性の条件を満たすシングルピークのヒト肢芽間葉系細胞集団から誘導されてなり、かつ、前記ヒト肢芽間葉系細胞集団がCD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性の条件を全て満たさない細胞を実質的に含まない、請求項1又は2に記載のヒト軟骨前駆細胞集団。
【請求項7】
凍結保存された請求項1又は2に記載のヒト軟骨前駆細胞集団。
【請求項8】
ヒト軟骨前駆細胞がCD90陽性及びCD140B陽性の条件を満たすか否かを判定する工程を含む、ヒト軟骨前駆細胞集団の品質管理方法。
【請求項9】
以下の(i)~(iv)を含むヒトの多能性幹細胞から請求項1~7のいずれか1項に記載のヒト軟骨前駆細胞集団に誘導するためのキット:
(i) 多能性幹細胞から原始線条細胞に誘導するための培地
(ii) 原始線条細胞から側板中胚葉細胞に誘導するための培地
(iii) 側板中胚葉細胞から肢芽間葉系細胞に誘導するための培地
(iv) 肢芽間葉系細胞を拡大培養し、ヒト軟骨前駆細胞集団に誘導するための培地
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のヒト軟骨前駆細胞集団又は前記ヒト軟骨前駆細胞集団から分化誘導されたヒト軟骨細胞もしくは軟骨組織を含む移植材料。
【請求項11】
軟骨関連疾患患者由来のiPS細胞から誘導され、かつ、PRRX1陽性、CD90陽性及びCD140B陽性の条件を満たすシングルピークの細胞集団から構成されるヒト軟骨前駆細胞集団または前記ヒト軟骨前駆細胞集団から誘導されたヒト軟骨細胞を含む、ヒト軟骨関連疾患モデル。
【請求項12】
哺乳類の側板中胚葉細胞由来であり、かつ、PRRX1タンパク質陽性である、肢芽間葉系細胞集団を、Wntシグナルを活性化する環境下で培養する工程を含む、哺乳類の軟骨前駆細胞集団を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年9月18日に出願された、日本国特許出願第2019-169278号明細書、2020年3月31日に出願された、日本国特許出願第2020-62441号明細書(それらの開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、肢芽間葉系細胞集団、軟骨前駆細胞集団、骨芽前駆細胞集団、それらの調製方法及び品質管理方法、、移植材料並びに疾患モデルに関する。
【0003】
本明細書において、「CPC」は軟骨前駆細胞又は軟骨前駆細胞集団の意味で使用され、「LBM」は肢芽間葉系細胞又は肢芽間葉系細胞集団の意味で使用される。「OPC」は骨芽前駆細胞又は骨芽前駆細胞集団の意味で使用される。また、「PRRX1陽性」をPRRX1highと記載することがあり、「PRRX1陰性」をPRRX1lowと記載することがある。
【背景技術】
【0004】
体性幹細胞の一つである間葉系幹細胞は骨芽細胞や軟骨細胞といった細胞への分化能を有した細胞であり、再生医療への応用も考慮されているが、分化誘導効率の低さや自己増殖能の制限が難点となっている。また多能性幹細胞を用いた従来の分化誘導方法は、目的とする組織細胞へ直接誘導することに焦点を置いているが、その誘導効率と品質の低さが問題視されている(非特許文献1及び2)。
【0005】
また、骨芽細胞又は軟骨細胞の質が悪いと得られる骨組織、軟骨組織の質が低下し、生体内に移植することができなくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stem Cell Reports. 2015 Mar 10;4(3):404-18.
【非特許文献2】Nat Biotechnol. 2015 Jun;33(6):638-45.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高効率及び高純度で目的とする骨組織又は軟骨組織を産生することができる肢芽間葉系細胞集団、骨芽前駆細胞集団又は軟骨前駆細胞集団、それらの調製方法、それらの品質管理方法を提供することを1つの目的とする。
【0008】
また、本発明は、哺乳類の多能性幹細胞から前記肢芽間葉系細胞集団、骨芽前駆細胞集団、軟骨前駆細胞集団またはそれから誘導可能な軟骨細胞もしくは軟骨組織を得るためのキットを提供することをもう1つの目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、骨または軟骨に関連する疾患を治療するための移植材料を提供することをもう1つの目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、骨または軟骨に関連する疾患モデルを提供することをもう1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の肢芽間葉系細胞集団、軟骨前駆細胞集団、骨芽前駆細胞集団、それらの調製方法及び品質管理方法、キット、移植材料並びに疾患モデルを提供するものである。
項1. 哺乳類の側板中胚葉細胞由来であり、かつ、PRRX1タンパク質陽性である、肢芽間葉系細胞集団。
項2. CD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす、項1に記載の肢芽間葉系細胞集団。
項3. 多能性幹細胞から側板中胚葉細胞に分化誘導する工程、及び
前記工程により分化誘導された側板中胚葉細胞を、Wntシグナル活性化、かつ、FGFシグナル非活性化条件下で培養する工程を含む、項1又は2に記載の肢芽間葉系細胞集団を調製する方法。
項4. 項1又は2に記載の肢芽間葉系細胞集団を、Wntシグナル活性化剤を含まない環境下で培養する工程を含む、骨芽前駆細胞集団を調製する方法。
項5. 項1又は2に記載の肢芽間葉系細胞集団を、Wntシグナルを活性化する環境下で培養する工程を含む、哺乳類の軟骨前駆細胞集団を調製する方法。
項6. 項1又は2に記載の肢芽間葉系細胞集団を、Wntシグナルを活性化する環境下、かつFGFシグナル活性化条件下で培養する工程を含む、項5に記載の哺乳類の軟骨前駆細胞集団を調製する方法。
項7. 哺乳類の肢芽間葉系細胞がCD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たすか否かを判定する工程を含む、哺乳類の肢芽間葉系細胞集団の品質管理方法。
項8. 哺乳類の軟骨前駆細胞がCD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たすか否かを判定する工程を含む、哺乳類の軟骨前駆細胞集団の品質管理方法。
項9. CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす、哺乳類の軟骨前駆細胞集団。
項10. 凍結保存された項9に記載の哺乳類の軟骨前駆細胞集団。
項11. RUNX2陽性率が95%以上である哺乳類の骨芽前駆細胞集団。
項12. 凍結保存された項11に記載の哺乳類の骨芽前駆細胞集団。
項13. 以下の(i)~(iii)を含む哺乳類の多能性幹細胞から肢芽間葉系細胞(LBM)に誘導するためのキット:
(i) 多能性幹細胞から原始線条細胞に誘導するための培地
(ii) 原始線条細胞から側板中胚葉細胞に誘導するための培地
(iii) 側板中胚葉細胞から肢芽間葉系細胞に誘導するための培地
項14. 以下の(i)~(iv)を含む哺乳類の多能性幹細胞から軟骨前駆細胞に誘導するためのキット:
(i) 多能性幹細胞から原始線条細胞に誘導するための培地
(ii) 原始線条細胞から側板中胚葉細胞に誘導するための培地
(iii) 側板中胚葉細胞から肢芽間葉系細胞に誘導するための培地
(iv) 肢芽間葉系細胞から軟骨前駆細胞に誘導するための培地
項15. 以下の(i)~(v)を含む哺乳類の多能性幹細胞から軟骨細胞に誘導するためのキット:
(i) 多能性幹細胞から原始線条細胞に誘導するための培地
(ii) 原始線条細胞から側板中胚葉細胞に誘導するための培地
(iii) 側板中胚葉細胞から肢芽間葉系細胞に誘導するための培地
(iv) 肢芽間葉系細胞から軟骨前駆細胞に誘導するための培地
(v) 軟骨前駆細胞から軟骨細胞に誘導するための培地
項16. 以下の(i)~(iv)を含む哺乳類の多能性幹細胞からRUNX2陽性骨芽前駆細胞に誘導するためのキット:
(i) 多能性幹細胞から原始線条細胞に誘導するための培地
(ii) 原始線条細胞から側板中胚葉細胞に誘導するための培地
(iii) 側板中胚葉細胞から肢芽間葉系細胞に誘導するための培地
(vi) 肢芽間葉系細胞からRUNX2陽性骨芽前駆細胞に誘導するための培地
項17. 項9又は10に記載の哺乳類の軟骨前駆細胞集団又は前記軟骨前駆細胞集団から分化誘導された軟骨細胞もしくは軟骨組織を含む移植材料。
項18. 項11又は12に記載の哺乳類の骨芽前駆細胞集団又は前記骨芽前駆細胞集団から分化誘導された骨芽細胞もしくは骨組織を含む移植材料。
項19. 軟骨関連疾患患者由来のiPS細胞から誘導され、かつ、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす軟骨前駆細胞集団または前記軟骨前駆細胞集団から誘導された軟骨細胞を含む、軟骨関連疾患モデル。
項20. 骨関連疾患患者由来のiPS細胞から誘導されたRUNX2陽性率が95%以上である骨芽前駆細胞または前記骨芽前駆細胞集団から誘導された骨芽細胞を含む、骨関連疾患モデル。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、肢芽間葉系細胞集団、軟骨前駆細胞集団を品質管理することで、高品質な軟骨組織及び軟骨再生用の移植材料を得ることができる。
【0013】
本発明で得られる肢芽間葉系細胞集団及びそれから誘導可能な骨芽前駆細胞集団もしくは軟骨前駆細胞集団、或いは前記軟骨前駆細胞集団から誘導される軟骨細胞もしくは軟骨組織は、骨または軟骨に関連する疾患を治療するための移植材料として使用することができる。本発明の移植材料は、良性又は悪性の腫瘍が生じない安全な移植材料であることが、本発明者により確認されている。
【0014】
本発明の骨芽前駆細胞集団又は軟骨前駆細胞集団を用いることで、高品質な骨組織又は軟骨組織を得ることができる。
【0015】
本発明のキットを用いれば、iPS細胞などの多能性幹細胞から肢芽間葉系細胞集団、骨芽前駆細胞集団、軟骨前駆細胞集団またはそれから誘導可能な軟骨細胞もしくは軟骨組織を容易に得ることができる。
【0016】
本発明の肢芽間葉系細胞集団、軟骨前駆細胞集団、骨芽前駆細胞集団が骨又は軟骨関連疾患患者のiPS細胞から誘導された場合には、骨疾患モデル又は軟骨疾患モデルの作製、さらには、骨関連疾患もしくは軟骨関連疾患のモデルの作製に有用である。
【0017】
本発明の疾患モデルを用いれば、骨又は軟骨関連疾患の病態を研究でき、新たな治療薬の開発をサポートできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】PRRX1レポーター作製用ターゲッティングベクターを模式的に示す。
【
図3】側板中胚葉系譜を介したPRRX1陽性細胞への分化誘導のプロトコルを示す。
【
図4】HAND1(側板中胚葉のマーカー)に対する免疫染色の結果を示す。
【
図5】CDX2(沿軸中胚葉のマーカー)に対する免疫染色の結果を示す。
【
図6】側板中胚葉系譜を介したPRRX1陽性細胞への分化誘導のプロトコルを示す。
【
図7】用いた各種シグナルの活性化剤及び/又は抑制剤(16通りの組み合わせ)を示す。
【
図9】PRRX1についてqPCR(定量的RT-PCR)の測定結果を示す。
【
図10】HAND1(側板中胚葉のマーカー)についてqPCR(定量的RT-PCR)の測定結果を示す。
【
図11】ISL-1(側板中胚葉のマーカー)についてqPCR(定量的RT-PCR)の測定結果を示す。
【
図12】FOXF1(側板中胚葉のマーカー)についてqPCR(定量的RT-PCR)の測定結果を示す。
【
図13】側板中胚葉細胞(day2)からPRRX1陽性細胞を誘導する好ましいプロトコルを示す。
【
図15】PRRX1抗体を使用した免疫染色の結果を示す。
【
図16】CD抗原等の発現プロファイル(1)を示す。
【
図17】CD抗原等の発現プロファイル(2)を示す。
【
図18】CD抗原等の発現プロファイル(3)を示す。
【
図20】各タイムポイントでの位相差顕微鏡像を示す。
【
図21】各タイムポイントでのPRRX1 mRNA発現量を示す。
【
図22】各タイムポイントでの側板中胚葉マーカー(HAND1, ISL1, FOXF1)の mRNA発現量を示す。
【
図23】PRRX1抗体を使用した免疫染色の結果を示す。
【
図24】各タイムポイントでの位相差顕微鏡像を示す。
【
図25】各タイムポイントでのPRRX1、及び中胚葉マーカー(HAND1, ISL1, FOXF1)の mRNA発現量を示す。
【
図26】PRRX1抗体を使用した免疫染色結果を示す。
【
図27】沿軸中胚葉系譜を介したPRRX1陽性細胞への分化誘導のプロトコルを示す。
【
図28】HAND1(側板中胚葉のマーカー)に対する免疫染色の結果を示す。
【
図29】CDX2(沿軸中胚葉のマーカー)に対する免疫染色の結果を示す。
【
図30】用いた各種シグナルの活性化剤及び/又は抑制剤(6通りの組み合わせ)を示す。
【
図33】PRRX1、沿軸中胚葉マーカー(CDX2)、及び体節(somite)マーカー(MEOX1, PARAXIS)についてqPCR(定量的RT-PCR)の測定結果を示す。
【
図34】用いた各種シグナルの活性化剤及び/又は抑制剤(16通りの組み合わせ)を示す。
【
図35】RUNX2についてqPCR(定量的RT-PCR)の測定結果を示す。
【
図37】qPCR(定量的RT-PCR)の測定結果を示す。
【
図38】RUNX2についてqPCR(定量的RT-PCR)の測定結果を示す。
【
図39】RUNX2に対する免疫染色の結果を示す。
【
図44】コーティングの検討結果を示す。(A)Stem Medium 3を使用して各コーティング剤でコートした培養ディッシュに播種。(B)分化誘導時と同じかつ臨床用グレードのMatrix-511によるコーティングを選択。
【
図45】継代培養を実施した際の各継代数の時点の位相差顕微鏡像を示す。PN:継代回数。
【
図46】フローサイトメトリー解析結果及び増殖曲線を示す。PN:継代回数。
【
図47】各多能性幹細胞から誘導したhCPCの増殖能の比較。
【
図48】LBM細胞の品質管理方法の開発。(a) 414C2 iPSC株の染色体核型、(b)414C2 iPSC株より樹立したヒトCPC(PN3)の核型。
【
図49】液体窒素保存前後の細胞の位相差像を示す。(A)液体窒素保存前、(B)液体窒素保存後。
【
図50】hCPCとヒトLBM(day4)をRUNX2陽性骨芽前駆細胞分化誘導培地で誘導した細胞(hCPC由来とLBM由来)のRUNX2発現。hCPC由来ではRUNX2の発現上昇が認められないことが明らかになった。
【
図51】各hCPCの軟骨細胞マーカー(SOX5, SOX6, SOX9, COL2A1, ACAN)の発現。(a)各種iPS由来のhCPCのSOX9発現、(b)hCPCをStep 1 medium, Step 2 mediumで処理するプロトコル、(c)サイトカイン有り(complete)、サイトカイン無し(w/o cytokines)の細胞のアッセイ結果、(d) 軟骨細胞マーカー(SOX5, SOX6, SOX9, COL2A1, ACAN)のmRNA発現の結果。
【
図52】硝子軟骨様組織体の作製および染色。(a)hCPCから硝子軟骨を得るためのプロトコル、(b) step3処理42日目の硝子軟骨組織体、(c) HE染色、Alcian Blue染色、Safranin O染色、さらに軟骨細胞マーカー(SOX9, COL2)、肥大化軟骨細胞マーカー(COLX)、線維性軟骨マーカー(COL1)を免疫染色結果。
【
図53】ヒトLBM(day4)とhCPCから誘導した軟骨組織のSafranin Oによる染色結果。ヒトLBMよりもhCPCの軟骨組織形成能力が高いことが明らかになった。
【
図54】硝子軟骨様組織体のNOD-SCIDマウスへの皮下移植。(a)hCPCから軟骨組織体を誘導し、皮下移植するためのプロトコル、(b)皮下から取り出した硝子軟骨様組織体の切片作製、(c)各iPS細胞(414C2、Reporter)又はES細胞(SEES6)由来の硝子軟骨様組織体のSafO染色結果。
【
図55】ヒト由来軟骨組織塊のSCIDラットの軟骨欠損部位への移植実験。(a)軟骨組織塊の作製及び軟骨欠損部位への移植、(b)移植2週間後の移植組織の生着の確認。
【
図56】硝子軟骨様組織体のNOD-SCIDマウスへの皮下移植。(a)hCPCのマウス腎被膜下移植のプロトコル、(b)移植後8週目に得られた硝子軟骨組織体の免疫染色結果、(c)腎被膜下移植直後の写真。
【
図57】軟骨板の作製。(a)hCPCから軟骨板を得るためのプロトコル、(b)hCPCスフェロイドをモールド投入直後、15日培養後、30日培養後の写真。
【
図58】モールド内で形成された軟骨板組織のサフラニンO染色結果。 (a)モールド内で形成された軟骨板組織のサフラニンO染色結果。(b) モールド内で形成された軟骨板組織をNOD-SCIDマウス皮下へ移植し、移植3週間後のサフラニンO染色結果。
【
図59】軟骨前駆細胞(CPC)の品質管理技術の概要。CPCの品質管理(=軟骨細胞/軟骨組織の形成能力)方法を開発した。CPCから軟骨細胞/組織を安定的に供給するには、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす状態でhCPCを拡大培養することが重要。
【
図60】肢芽間葉系細胞(LBM)の品質管理技術の概要を示す。LBMの品質管理(=PRRX1陽性CPCの形成能力)方法を開発した。LBMから軟骨組織形成能力の高いCPCを供給するには、「CD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性、CD57陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす状態のLBM」からCPCを誘導することが重要であり、特に「CD44陽性、CD140B陽性、CD49f陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす状態のLBM」からCPCを誘導することが重要である。
【
図61】(a)~(b)PRRX1陽性のヒト軟骨前駆細胞(hCPC)のPRRX1の発現パターン。(c)それから作り出される軟骨組織の染色結果。それぞれのPRRX1発現状態のhCPCを培養dishより回収し、分化誘導を実施した。軟骨分化誘導後に形成された組織を固定し、HE染色、アルシアンブルー染色、サフラニンO染色を実施した結果、PRRX1の発現量が高い状態で維持したhCPCは軟骨細胞/組織形成能力が高いが、PRRX1の発現量が低い状態で維持したhCPCは軟骨細胞/組織形成能力が低いことが分かった。つまり、PRRX1の発現量と、その最終的な軟骨組織形成能力には正の相関があることが分かる。
【
図62】PRRX1の発現量の違いによる、平面軟骨分化誘導時のアルシアンブルーの染色性の違い。PRRX1の発現量の高いhCPC (PRRX1陽性)あるいは低いhCPC(PRRX1陰性)を培養ディッシュに播種し、記載した手順に従って分化誘導を実施した。軟骨分化誘導後に細胞を固定し、アルシアンブルー染色を実施した結果、PRRX1の発現量の高いhCPCのみアルシアンブルー陽性のnoduleが形成された。
【
図63】以下の二種類の組み合わせにて、RNAseqをそれぞれ実施し、PRRX1発現の高いサンプルで上昇している遺伝子を抽出した。組み合わせ(1)からは、901遺伝子が抽出され、組み合わせ(2)からは、317遺伝子が抽出された。2つの組み合わせで共通する遺伝子を189個同定できた(=良質な細胞目印分子)。組み合わせ(1):hCPC(PRRX1陽性peak) vs hCPC(PRRX1陰性peak)、組み合わせ(2):hCPC(double peak)でのPRRX1陽性画分 vs PRRX1陰性画分。
【
図64】以下の二種類の組み合わせにて、RNAseqをそれぞれ実施し、PRRX1発現の低いサンプルで上昇している遺伝子を抽出した。組み合わせ(3)からは、728遺伝子が抽出され、組み合わせ(4)からは、479遺伝子が抽出された。2つの組み合わせで共通する遺伝子を220個同定できた(=悪質な細胞目印分子)組み合わせ(3):hCPC(PRRX1陽性peak) vs hCPC(PRRX1陰性peak)、組み合わせ(4):hCPC(double peak)でのPRRX1陽性画分 vs PRRX1陰性画分。
【
図65】PRRX1陽性hCPCの特異的遺伝子良質な目印分子(189遺伝子)と悪質な目印分子(220遺伝子)をGene analytics softwareにて解析したところ、良質な目印分子(189遺伝子)は、hCPCを定義付けする遺伝子であることがわかった。
【
図66】良質な目印分子(189遺伝子)と悪質な目印分子(220遺伝子)をEnricher softwareにて解析したところ、良質な目印分子(189遺伝子)は、hCPCを特徴付ける転写制御因子の発現パターンと類似していることがわかった。
【
図67】PRRX1陰性又は陽性hCPCを選択するための候補遺伝子RNAseqで同定されたPRRX1の発現量と相関性を持つ各表面抗原のフローサイトメトリーの結果。PRRX1の発現量が低いhCPC (PRRX1陰性)あるいはPRRX1の発現量が高いhCPC(PRRX1陽性)を各表面抗原に対する抗体で染色し、フローサイトメトリーにて発現量の比較を行った。その結果、CD90, CD140BはPRRX1陽性で発現が高いことが判明した。
【
図68】(a)~(b)PRRX1陽性のヒト肢芽間葉系細胞(LBM)のPRRX1の発現パターンとそれから作り出されるhCPC。(c)それぞれのhCPCから作り出される軟骨組織。それぞれのPRRX1発現状態のhCPCを培養dishより回収し、記載した手順に従って分化誘導を実施した。軟骨分化誘導後に形成された組織を固定し、HE染色、アルシアンブルー染色、サフラニンO染色を実施した結果、PRRX1の発現量が高い状態で維持したhCPCは軟骨細胞/組織形成能力が高いが、PRRX1の発現量が低い状態で維持したhCPCは軟骨細胞/組織形成能力が低いことが分かった。つまり、PRRX1の発現量と、その最終的な軟骨組織形成能力には正の相関があることが分かる。
【
図69】PRRX1陰性又は陽性LBMを選択するための候補遺伝子RNAseqで同定されたPRRX1の発現量と相関性を持つ各表面抗原のフローサイトメトリーの結果。PRRX1の発現量が低いLBM (PRRX1陰性)あるいはPRRX1の発現量が高いLBM(PRRX1陽性)を各表面抗原に対する抗体で染色し、フローサイトメトリーにて発現量の比較を行った。その結果、CD44、CD99、CD140BはPRRX1陽性で発現が高く、CD9、CD49f及びCD57はPRRX1陰性で発現が高いことが判明した。
【
図70】II型コラーゲン異常症疾患モデル1。(a) II型コラーゲン異常症関連疾患患者由来iPSC株(ACGII-1, HCG-1)よりhCPCを作製するプロトコル、(b)それぞれのhCPCについてのPRRX1発現の免疫染色、(c)増殖曲線、(d)アルシアンブルー染色による軟骨基質染色の結果、(e)各種軟骨分化マーカー遺伝子の発現の測定(qPCR)。
【
図71】II型コラーゲン異常症疾患モデル2。II型コラーゲン異常症関連疾患患者由来CPC(ACGII-1, HCG-1)では、健常人由来細胞(414C2)と比較して、軟骨細胞内グリコーゲン量低下が観察された。また、患者由来細胞では、正常細胞で認められるERの正常な配向配置が認められない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.肢芽間葉系細胞、軟骨前駆細胞、RUNX2陽性骨芽前駆細胞
本発明において、哺乳類の肢芽間葉系細胞(LBM)は、軟骨前駆細胞とRUNX2陽性骨芽前駆細胞の両方に分化することができる多能性の細胞である。一方、軟骨前駆細胞は、骨芽細胞へ変化しない点で、LBMとは異なる細胞である。軟骨細胞/軟骨組織は、本発明で品質管理されたLBM、本発明で品質管理されたCPCから誘導した方が良好なものが得られる。本発明の品質管理方法により高品質のLBM、CPCが得られ、LBMから誘導される骨芽前駆細胞、該骨芽前駆細胞から誘導される骨芽細胞又は骨組織、CPCから誘導される軟骨細胞又は軟骨組織は、移植に適用可能な高品質のものになる。
【0020】
本発明の肢芽間葉系細胞(LBM)、軟骨前駆細胞及びRUNX2陽性骨芽前駆細胞(以下、「LBM又はその分化細胞」と略すことがある)は、多能性幹細胞由来である。LBMと軟骨前駆細胞はPRRX1タンパク質陽性であり、RUNX2陽性骨芽前駆細胞はPRRX1タンパク質陰性である。また、本発明のLBMは増殖性を有し、例えばLBMから軟骨前駆細胞集団への分化誘導は、Wntシグナルを活性化する環境下に行うことができ、分化誘導と増殖を同時に行うことができる。CPCはFGFシグナル活性化剤の存在下に継代培養することによりその細胞数を大きく増加させることができる。CPCの継代培養により染色体の異常が起こらないことを本発明者は確認した。また、継代培養により細胞数を大きく増加させたCPCが生体内に移植したときに良性腫瘍又は悪性腫瘍をいずれも生じないことを本発明者は確認した。
【0021】
本明細書において、「多能性幹細胞」とは、自己複製する能力(自己複製能)と他の複数系統の細胞に分化する能力(多分化能)を併せて有する細胞を意味する。細胞が多能性幹細胞であることの確認は、自己複製能と多分化能を有することの確認に換えて、Oct3/4、Klf-4などの幹細胞マーカーの発現によっても確認することもできる。「前駆細胞」とは、幹細胞から最終の分化先である機能細胞へ分化する途中にある細胞を意味する。RUNX2陽性骨芽前駆細胞は骨芽細胞に分化誘導することができる細胞であり、LBMから骨芽前駆細胞集団に分化誘導することにより、RUNX2の陽性率が95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、特に99.5%以上、最も好ましくは100%RUNX2陽性の骨芽前駆細胞集団を得ることができる。RUNX2の陽性率が高い骨芽前駆細胞集団を使用することでより高品質の骨組織を産生することができる。また、本発明の軟骨前駆細胞から軟骨細胞を調製することで、iPS細胞やES細胞のような多能性幹細胞から直接軟骨細胞を得る場合と比較して、より高品質の軟骨組織を産生することができる。特に、本発明の品質管理方法に従い品質管理された軟骨前駆細胞を使用することで、安定して高品質の軟骨組織を再生することができる。
【0022】
本発明のLBM又はその分化細胞の由来生物は、哺乳類、例えばヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギ、サル、チンパンジーなどが例示され、ヒトが好ましい。
【0023】
PRRX1(Paired related homeobox 1)タンパク質とは、ホメオドメインを有する転写因子の一つであり、発生過程において側板中胚葉由来の肢芽で特異的に発現することが知られている。
【0024】
ヒト(Homo sapiens)のPRRX1遺伝子のcDNAの塩基配列及びPRRX1タンパク質のアミノ酸配列は、米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)が提供するGenBankに、下記のアクセッション番号で登録されている(複数のリビジョン(revision)が登録されている場合、最新のリビジョンを指すと理解される。):
ヒトPRRX1遺伝子:NM_006902(NM_006902.5)、NM_022716(NM_022716.4)
ヒトPRRX1タンパク質:NP_008833(NP_008833.1)、NP_073207(NP_073207.1)。
【0025】
細胞がPRRX1タンパク質陽性であることは、公知の手法により検出することができる。例えば、PRRX1遺伝子の転写プロモーター配列により発現が制御されるレポーター遺伝子による検出、PRRX1タンパク質に対する特異的な抗体を用いた免疫染色による検出等が例示される。
【0026】
本発明のLBM又はその分化細胞は、多能性幹細胞由来である。多能性幹細胞由来であるとは、多能性幹細胞を原材料細胞として分化誘導された細胞であることを意味する。例えば、多能性幹細胞由来のLBM又はその分化細胞は、分化誘導の工程の少なくとも一部が生体外でされたLBM又はその分化細胞である。
【0027】
多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの万能性(あらゆる体細胞及び生殖系列の細胞に分化する能力を有する細胞)が好ましい。
【0028】
本発明のLBM細胞は、好ましい実施態様において、CD9陰性、CD24陽性、CD29陽性、CD44陽性、CD46陽性、CD49f陰性、CD55陽性、CD57陰性、CD58陽性、CD90陽性、CD99陽性、CD140A陽性、CD140B陽性、SSEA1陰性、SSEA3陰性、SSEA4陽性、TRA-1-60陰性、TRA-1-81陰性、CD73陰性、CD105陰性及びCD166陰性からなる群から選択される少なくとも一つの抗原マーカーの発現陽性または陰性の特徴を有する。
【0029】
LBMは、PRRX1陽性であり、FGFシグナルを活性化する環境下で増殖性を有する。本発明の1つの実施形態において、LBMの表面抗原は、CD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種又は6種の条件を満たすことが好ましく(
図60)、特に、CD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも2種又は3種の条件を満たすことが好ましい。本発明の好ましい実施形態において、CD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも2種又は3種の条件を満たしていれば、さらにCD99陽性、CD9陰性及びCD57陰性からなる群から選ばれる1種、2種又は3種の条件を満たしていてもよい。LBM がCD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種又は6種の条件を満たす場合、軟骨前駆細胞又は骨芽前駆細胞に分化誘導するための原料として好ましい。したがって、D44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種又は6種の要件を満たすか否かを確認することにより、軟骨前駆細胞又は骨芽前駆細胞の原料としてのLBMの品質管理を行うことができる。
【0030】
本発明の好ましい1つの実施形態において、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種の条件を満たす哺乳類の軟骨前駆細胞集団は、高品質の軟骨組織を産生又は再生することができる。したがって、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種の条件を満たすか否かを調べることで軟骨前駆細胞集団の品質管理を行うことができる。
【0031】
本発明の品質管理方法において、LBMではCD44、CD99、CD140B、CD9、CD49f及びCD57からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面抗原の発現の有無を検出し、CPCではCD90及びCD140Bからなる群から選ばれる少なくとも1種の発現の有無を検出する。CPCでは、CD90、CD140Bが陽性であることが好ましい。LBMでは、これら6つのうち、CD44、CD99、CD140Bについては陽性であることが好ましく、CD9、CD49f及びCD57については陰性であることが好ましい。ここで、CD抗原の発現の「陽性」と「陰性」は、コントロール(抗体を入れていないサンプル)から得られる数値(陰性ヒストグラム)をおくことにより判断される。
【0032】
PRRX1陽性/陰性の判断は、例えばPRRX1-tdTomatoレポーター細胞を使用したフローサイトメトリーの数値を基準に行うことができ、具体的には、tdTomatoの測定値が4x104以上の値にピークが出る場合をPRRX1陽性、2x104以下の値にピークが出る場合をPRRX1陰性とすることができる。tdTomatoは蛍光標識の一例であり、他の標識を用いた場合にも同様の基準でPRRX1陽性/陰性を判断することができる。
【0033】
骨芽前駆細胞又は軟骨前駆細胞は、大量に製造し、凍結保存されて必要なときに骨又は軟骨の産生又は再生に使用され得る。
【0034】
凍結保存された軟骨前駆細胞が移植材料として好ましいことは、軟骨前駆細胞が、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも2種又は3種の条件を満たすことで確認できる。したがって、CD90陽性及びCD140B陽性の要件を満たすか否かを確認することにより、軟骨前駆細胞の品質管理を行うことができる。
軟骨前駆細胞が、軟骨関連疾患患者のiPS細胞から分化誘導された場合、この患者由来軟骨前駆細胞は、軟骨関連疾患の疾患モデルとなる。この疾患モデルは軟骨関連疾患の治療薬のスクリーニングに使用でき、凍結保存することが好ましい。
【0035】
同様に、骨芽前駆細胞が、骨関連疾患患者のiPS細胞から分化誘導された場合、この患者由来骨芽前駆細胞は、骨関連疾患の疾患モデルとなる。この疾患モデルは骨関連疾患の治療薬のスクリーニングに使用でき、同様に凍結保存することが好ましい。
【0036】
軟骨関連疾患としては、II型コラーゲン異常症、再発性多発軟骨炎(Relapsing Polychondritis)、変形性関節症、関節リウマチ、軟骨無形成症などが挙げられる。
【0037】
骨関連疾患としては、変形性関節症、骨粗しょう症、骨軟化症、関節リウマチ、大腿骨頭壊死、離断性骨軟骨炎、骨形成不全症などが挙げられる。
【0038】
iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞からLBMを分化誘導する条件が不適切である場合、LBMの品質が損なわれることになる。したがって、軟骨前駆細胞集団、骨芽前駆細胞集団に誘導する前にLBM がCD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種又は6種の条件を満たすか否かを確認し、品質管理を行うことが望ましい。CD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性、CD57陰性の6種のうち、CD44陽性、CD140B陽性およびCD49f陰性の3種がより重要であり、これら3種の少なくとも1種が満たされていれば、残りの3種(CD99陽性、CD9陰性、CD57陰性)の少なくとも1種がさらに満たされていてもよい。さらに、軟骨前駆細胞に関し、LBMの表面抗原による品質管理と軟骨前駆細胞の表面抗原による品質管理を2重に行うことが好ましい。
【0039】
LBMの調製において、まず多能性幹細胞から側板中胚葉細胞に分化誘導することができる。
【0040】
哺乳類、特にヒトの多能性幹細胞から側板中胚葉細胞に分化誘導する手段としては、公知の手段を用いることができる。例えば、文献:Loh et al,2016, Cell, 451-467に記載の方法に準じた方法を採用することができる。具体的には哺乳類、特にヒトの多能性幹細胞からまず原始線条細胞(Mid-primitive streak)へと分化誘導を行い、次いで原始線条細胞から側板中胚葉細胞への分化誘導を行う。
【0041】
側板中胚葉細胞に分化誘導されたことは、例えば側板中胚葉細胞の特異的マーカーであるHAND1タンパク質の発現を検出することにより確認することができる。
【0042】
次いで、側板中胚葉細胞をWntシグナルを活性化する環境下で培養し、LBMに分化誘導し、LBMをさらに分化誘導することで、CPCを得ることができる。本発明により品質管理されたCPCは凍結保存することにより、必要なときに軟骨細胞又は軟骨組織に導くことができる。hCPCは、ヒト軟骨細胞又はヒト軟骨組織に導くことができるので、ヒトの移植材料として特に好ましい。
【0043】
本発明の移植材料は、骨又は軟骨関連疾患の治療に使用することができ、その他に形成外科或いは美容外科などの用途にも好適に使用される。例えば、鼻の形状は、大鼻翼軟骨、鼻中隔軟骨、外側鼻軟骨などにより決まり、耳の形状は耳介軟骨により決まる。鼻や耳は、交通事故などの外傷や先天性鼻骨欠損、小耳症などの場合に、鼻や耳の形状を整え、或いは再建する必要が生じるが、本発明のLBM、CPC或いはそれから誘導される軟骨細胞、軟骨組織を所望の形状で作製し、移植することでこれらのことが可能になる。鼻や耳の再建術、美容外科手術の場合、シリコンや患者由来の肋軟骨などを使用するが、シリコンは異物であるので炎症、免疫反応などの異物反応が生じることがあり、患者の肋軟骨の使用は侵襲的であるが、本発明により得られる軟骨は、このような異物反応を抑制でき、かつ、非侵襲敵である。所望の形状の軟骨は、鼻、耳以外の本来軟骨が存在しない場所に埋め込んだ場合にも美容的効果を期待できる。例えば軟骨板又は軟骨ブロックを調製し、それを所望の形状に削ることで、所望の形状の軟骨移植材料を作製することができる。
【0044】
以下において、特に好ましい哺乳類であるヒトを例に挙げて説明する。
hLBMを以下のような不適切な条件でhCPCに誘導すると、CD90陽性及びCD140B陽性の条件を全て満たさない細胞のピークと全て満たす細胞のピークが存在するCPC集団が得られるか(ダブルピーク)、或いはCD90陽性及びCD140B陽性の条件を全て満たさない細胞の単一のピークからなるCPC集団が得られる(
図61)。これらのCPC集団から軟骨細胞、軟骨組織に分化誘導しても、移植に使えるような高品質の軟骨細胞、軟骨組織は得られない。
ヒト肢芽間葉系細胞(hLBM)をhCPCに誘導するために、継代培養の過程で1度でもコンフルエントな条件で培養すると、CD90陽性及びCD140B陽性の条件を全て満たさない細胞のピークが発現し、移植に適さないhCPCになる。
CD90陽性及びCD140B陽性の条件を全て満たすhCPCを得るためには、細胞がコンフルエントになる前に継代を行うことが好ましい。
【0045】
図61のように、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を全て満たさない細胞の単一のピークからなるhCPC集団(PRRX1陰性)は軟骨細胞又は軟骨組織に誘導することは不適切であるが、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を全て満たす細胞(PRRX1陽性)と満たさない細胞(PRRX1陰性)のダブルピークになった場合、その後に継代培養を続けるにつれて、全体がCD90陽性及びCD140B陽性の条件を全て満たさない細胞から構成される細胞集団に収束するので、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を全て満たさない細胞のピークが確認できた時点で培養を停止することができる。なお、培養の終了時点で、CD90陽性及びCD140B陽性の条件を全て満たさない細胞によるピークが確認できない程度、好ましくはCD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を全て満たさない細胞の割合が5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特にこのような不適切な細胞を実質的に含まないhCPCは、移植に使用可能な程度の良好な軟骨細胞、軟骨組織に誘導することができる。また、このような良好なhCPCは、それ自体、軟骨欠損症や、変形性関節症を含む軟骨関連疾患の治療のための移植材料として有用である。
【0046】
図68(b)のように、CD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性の条件を全て満たさない細胞の単一のピークからなるLBM(PRRX1陰性)は、PRRX1陽性であるhCPC(=CD90陽性及びCD140B陽性の条件を全て満たすhCPC)又は骨芽前駆細胞に誘導することは不適切である。なお、培養の終了時点で、CD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性、特にCD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性の条件を全て満たさない細胞によるピークが確認できない程度、好ましくはCD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性の条件、特にCD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性の条件を全て満たさない細胞の割合が5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特にこのような不適切な細胞を実質的に含まないLBMは、移植に使用可能な程度の良好な軟骨細胞、軟骨組織に誘導するに足るhCPC並びに骨芽前駆細胞を誘導することができる。
【0047】
本発明の特に好ましい1つの実施形態は、本発明の品質管理方法で良好な品質であることが示されたLBMを用いて、CPCを調製し、さらにCPCについて本発明の品質管理方法を行う2段階の品質管理方法である。LBMとCPCについての2段階の品質管理方法を行うことで、CPCさらには最終的に得られる軟骨細胞、軟骨組織の品質をさらに高めることができる。
【0048】
CPCは、それ自体が移植材料として使用できるだけでなく、さらに軟骨細胞または軟骨組織に誘導して移植材料とすることができるので、CPC単独の品質管理、或いはLBMとCPCの2段階品質管理は、移植材料の調製に重要である。
【0049】
CPCは、2次元培養物或いは塊状の3次元培養物のいずれであってもよい。CPC細胞集団を直接患部に細胞懸濁液(移植材料)として注入する場合には、平面培養物が好適に用いられ、塊状のCPC を分化誘導すると塊状の軟骨組織を得ることができる。CPCの細胞懸濁液は、例えばヒアルロン酸注射液と同様に痛みを有する膝や半月板のような軟骨を有する患部に注射することができ、かつ、ヒアルロン酸と異なり軟骨の再生により痛みの原因を取り除くことができる。
【0050】
図67に示すように、hCPCが均一、かつ、3つの表面抗原が定められた基準の範囲内であるシングルピークの細胞集団の場合、良好な軟骨細胞/軟骨組織が誘導され、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種を満たすピークと満たさないピークを有する2以上のピークのhCPC(ダブルピーク)から軟骨細胞/軟骨組織を誘導した場合には、軟骨細胞/軟骨組織に欠陥を有することにより移植材料として不適切なものになる。さらに、3つの表面抗原が定められた基準の範囲外であるシングルピークのhCPCの場合、実質的に軟骨細胞/軟骨組織は得られない。
【0051】
図69に示すように、LBMが均一、かつ、6つの表面抗原が定められた基準の範囲内であるシングルピークの細胞集団の場合、良好なhCPCが誘導され、CD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種、特にCD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種を満たすピークと満たさないピークを有する2以上のピークのLBM(ダブルピーク)からhCPCを誘導した場合には、それから誘導した軟骨細胞/軟骨組織に欠陥を有することにより移植材料として不適切なものになる。さらに、6つの表面抗原が定められた基準の範囲外であるシングルピークのLBMの場合、実質的に軟骨細胞/軟骨組織は得られない。
【0052】
本発明の1つの実施形態においてCPCは、軟骨様組織へと分化して軟骨の移植を必要とする患者へ移植する移植材料として使用することができる。
【0053】
本発明の品質管理方法により選別されたCPCの軟骨細胞への分化誘導方法において、Wntシグナルを活性化する環境下での培養を行う期間は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されるものではない。例えば、24時間~12日程度、4日間~8日間程度とすることができる。必要に応じて、培地交換を行うことができる。培養条件は、常法に準じることが好ましい。
【0054】
培養において、必要において継代を行うことができる。継代を行う場合は、コンフルエント状態に到達する前または直後に細胞を回収し、細胞を新しい培地に播種する。また、本発明の培養において、培地を適宜交換することもできる。
【0055】
本発明で用いる培地は、特に限定されない。好ましい実施態様において、公知の軟骨誘導培地を用いることができる。軟骨誘導培地として、L-アスコルビン酸、ITS、GDF5、BMP4などの含む公知の組成が挙げられる。必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリンなどの抗菌薬、Non-Essential Amino Acids(NEAA)、ROCK阻害剤(例えば、Y-27362)等の成分を添加することができる。
【0056】
かくして、軟骨細胞又は軟骨組織が製造される。
【0057】
軟骨細胞が得られたことは、例えばサフラニンO染色が陽性であること、Alcian Blue染色が陽性であることなどにより確認することができる。
【0058】
本発明のLBMは、例えば、生体内でPRRX1陽性細胞(例えば、肢芽)が分化する機能細胞及び組織を分化誘導するための原材料として使用することができる。このような分化先の機能細胞及び組織としては、骨、線維芽細胞(例えば、真皮線維芽細胞)、関節、軟骨、腱靱帯などが例示される。
【0059】
本発明のLBM又はその分化細胞の好ましい実施態様において、当該LBM又はその分化細胞である軟骨前駆細胞、RUNX2陽性骨芽前駆細胞を凍結保存することができる。凍結保存したLBM、軟骨前駆細胞又はRUNX2陽性骨芽前駆細胞は、融解させた後に継代培養により増殖させることができる。
2.多能性幹細胞をLBMへ分化誘導する方法
上記の本発明のLBMは、多能性幹細胞から側板中胚葉細胞を分化誘導する工程、及び前記工程により分化誘導された細胞を、Wntシグナルを活性化する環境下で培養する工程の組み合わせにより製造することができる。
側板中胚葉細胞を介した分化誘導する方法
多能性幹細胞
本発明のLBMの製造方法において、多能性幹細胞としては、上記のものを使用できいる。
【0060】
側板中胚葉細胞
本発明のLBMの製造方法において、まず多能性幹細胞から側板中胚葉細胞を分化誘導する。
【0061】
多能性幹細胞から側板中胚葉細胞への分化誘導は、上記のように実施することができる(
図73参照)。
【0062】
側板中胚葉細胞が分化誘導されたことは、例えば側板中胚葉細胞の特異的マーカーであるHAND1タンパク質の発現を検出することにより確認することができる。
【0063】
側板中胚葉細胞から本発明のPRRX1陽性の肢芽間葉系細胞集団への分化誘導
次いで、分化誘導された側板中胚葉細胞をWntシグナルを活性化する環境下で培養し、本発明のPRRX1陽性のLBMに分化誘導する。なお、前の培養環境の影響を低減するために、PBS緩衝液等での洗浄を適宜行った上でWntシグナルを活性化する環境下での培養を行うことが好ましい。側板中胚葉細胞からLBMへの分化誘導は、FGF2などのFGFシグナル活性化剤の非存在下で行うことが好ましい。
【0064】
側板中胚葉細胞はFGF2などのFGFシグナル活性化剤とBMPとの存在下で培養すると、心臓中胚葉に分化する。したがって、側板中胚葉からLBMに誘導する場合、Wntシグナルを活性化する条件を使用するが、FGF2などのFGFシグナル活性化剤の有効量を培地中に添加しないことが望ましい。側板中胚葉細胞は、FGFシグナル活性化剤フリーの培地でLBMに分化誘導されるので、LBMに誘導する時点では、細胞数は大きく増加しない。
【0065】
本発明の特徴の1つは、LBMをWntシグナル活性化環境下で、好ましくはさらにFGF2などのFGFシグナル活性化剤の存在下に培養することで、細胞数を増やしながら軟骨前駆細胞を得る点にある。従来、FGFシグナル活性化剤は、側板中胚葉に作用させると心臓中胚葉のような目的外の細胞への分化を促進するために、LBMに対しては使用できないと思われていたが、本発明者は、いったんLBMに誘導した後に、Wntシグナル活性化剤とFGFシグナル活性化剤を作用させることで高品質の軟骨前駆細胞が得られることを見出した。
【0066】
Wntシグナルを活性化する環境下での培養
側板中胚葉細胞は、例えば有効量のWntシグナル活性化剤の存在下で培養をすることでWntシグナルを活性化する環境下での培養行うことができる。上記のように、この培養時には、FGFシグナル活性化剤の含有量は細胞増殖促進作用の有効量未満であることが好ましく、FGF2シグナル活性化剤を含まないことがより好ましい。
【0067】
Wntシグナル活性化剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達(特に、カノニカルWnt経路)を増強するものである。Wntシグナル活性化剤としては、GSK3β阻害剤、Wntファミリータンパク質などが挙げられる。
【0068】
GSK3β阻害剤としては、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(5-methyl-1H-imidazol-2-yl)-2-pyrimidinyl]amino]ethyl]amino]-3-pyridinecarbonitrile)、XAV939、LiClなどが挙げられる。
【0069】
Wntシグナル活性化剤としてCHIR99021を用いる場合、その添加量は例えば、0.1~20μM程度、好ましくは1~10μMとすることができる。
【0070】
BMPシグナルを抑制する環境下での培養
本発明の好ましい実施態様において、分化誘導された側板中胚葉細胞をWntシグナルを活性化する環境下で培養する工程を、BMPシグナルを抑制する環境下で行うことができる。
【0071】
BMPシグナルを抑制する環境下での培養は、例えば有効量のBMPシグナル抑制剤の存在下で培養をすることで行うことができる。
【0072】
BMPシグナル抑制剤は、BMPにより媒介されるシグナル伝達を抑制(阻害)するものである。BMPシグナル抑制剤としては、LDN193189(4-[6-[4-(1-Piperazinyl)phenyl]pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl]quinoline)又はその塩(例えば、塩酸塩)、DMH-1などが挙げられる。
【0073】
BMPシグナル抑制剤としてLDN193189を用いる場合、その添加量は例えば、0.1~10μM程度、好ましくは0.2~5μMとすることができる。
【0074】
TGFβシグナルを抑制する環境下での培養
本発明の好ましい実施態様において、分化誘導された側板中胚葉細胞をWntシグナルを活性化する環境下で培養する工程を、さらにTGFβシグナルを抑制する環境下で行うことができる。
【0075】
TGFβシグナルを抑制する環境下での培養は、例えば有効量のTGFβシグナル抑制剤の存在下で培養をすることで行うことができる。
【0076】
TGFβシグナル抑制剤は、TGFβにより媒介されるシグナル伝達を抑制(阻害)するものである。TGFβシグナル活性化剤としては、A-83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド)、SB431542などが挙げられる。
【0077】
TGFβシグナル抑制剤としてA-83-01を用いる場合、その添加量は例えば、0.1~10μM程度、好ましくは0.2~5μMとすることができる。
【0078】
ヘッジホッグシグナルを抑制する環境下での培養
本発明の好ましい実施態様において、分化誘導された側板中胚葉細胞をWntシグナルを活性化する環境下で培養する工程を、さらにヘッジホッグ(HH)シグナルを抑制する環境下で行うことが好ましい。
【0079】
ヘッジホッグシグナルを抑制する環境下での培養は、例えば有効量のヘッジホッグシグナル抑制剤の存在下で培養をすることで行うことができる。
【0080】
ヘッジホッグシグナル抑制剤は、ヘッジホッグにより媒介されるシグナル伝達を抑制(阻害)するものである。ヘッジホッグシグナル活性化剤としては、ビスモルデギブ(Vismordegib)、シクロパミン、ソニデジブなどが挙げられる。
【0081】
ヘッジホッグシグナル抑制剤としてビスモルデギブを用いる場合、その添加量は例えば、10nM~1μM程度、好ましくは50nM~500nM程度とすることができる。
【0082】
本発明の方法(A)は、目的とする本発明のLBM又はその分化細胞の誘導効率の観点から、Wntシグナルを活性化する環境下かつBMPシグナルを抑制する環境下での培養を行うことが好ましく、Wntシグナルを活性化する環境下かつBMPシグナルを抑制する環境下であって、TGFβシグナルを抑制する環境下及び/又はヘッジホッグシグナルを抑制する環境下での培養を行うことがより好ましく、Wntシグナルを活性化する環境下かつBMPシグナルを抑制する環境下かつTGFβシグナルを抑制する環境下かつヘッジホッグシグナルを抑制する環境下での培養を行うことがさらに好ましい。
【0083】
側板中胚葉細胞のLBMへの分化誘導は、Wntシグナル活性化環境下に行い、さらに、TGFβシグナル抑制剤、BMPシグナル抑制剤及びヘッジホッグシグナル抑制剤からなる群から選ばれる1種、2種又は3種の存在下に行うことができ、TGFβシグナル抑制剤、BMPシグナル抑制剤、TGFβシグナル抑制剤、及びヘッジホッグシグナル抑制剤の存在下に行うことがより好ましい。
【0084】
培養
培養は、細胞及び培地を格納するための適切な容器中で行うことができる。好適な培養を行う手法として、約37℃程度および二酸化炭素濃度約5%程度の条件下で培養する手法が例示されるが、これに限定されない。上記条件での培養は、例えば公知のCO2インキュベータを用いて温度及びCO2濃度を制御しながら行うことができる。
【0085】
培養は二次元細胞培養(平面培養)で行うことができる。二次元細胞培養は、容器を必要に応じて細胞の接着を促進するコーティング処理して行うことができる。
【0086】
Wntシグナルを活性化する環境下での培養を行う期間は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されるものではない。例えば、6時間~4日程度、好ましくは1日間~3日間程度、より好ましくは2日間程度(48時間程度)とすることができる。必要に応じて、培地交換を行うことができる。培養条件は、常法に準じることが好ましい。
【0087】
培養において、必要に応じて継代を行うことができる。継代を行う場合は、コンフルエント状態に到達する前または直後に細胞を回収し、細胞を新しい培地に播種する。また、本発明の培養において、培地を適宜交換することもできる。コンフルエント状態に到達してから培養を続けるとLBMの品質が低下し、品質管理において条件を満たさなくなる可能性が高い。
【0088】
培地
培地としてCDM2 basal medium、IMDM培地、F12培地などの無血清培地を用いることが好ましい。動物由来成分不含の状態で分化誘導並びに維持培養が可能である。また、ストレプトマイシン、ペニシリンなどの抗菌薬、Non-Essential Amino Acids(NEAA)、ROCK阻害剤(例えば、Y-27632)等の成分を添加することができる。
【0089】
かくして、本発明の多能性幹細胞由来であり、PRRX1タンパク質陽性であるLBMが製造される。
【0090】
本発明により製造されたPRRX1タンパク質陽性である個々のLBM細胞は、生体内において側板中胚葉細胞から分化する肢芽細胞と同等の性質を有すると考えられる。本発明のLBMは、均質な細胞集団であるが、生体内のLBM細胞は、様々な細胞と共存する状態にあり、例えばPRRX1タンパク質陽性の条件と、CD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性及びCD57陰性(特にCD44陽性、CD140B陽性及びCD49f陰性)の条件の一方又は両方を満たさない細胞を含む集団として存在するので、本発明の肢芽間葉系細胞集団(LBM)は、新規なものである。
【0091】
本発明のLBMは、均質かつ高品質であって、軟骨前駆細胞と骨芽前駆細胞に誘導することができ、軟骨前駆細胞と骨芽前駆細胞自体、或いはさらにこれらから得られた骨芽細胞、軟骨細胞、骨組織、軟骨組織は移植材料として優れている。
【0092】
3.骨芽前駆細胞への分化誘導
本発明のLBMは、例えばRUNX2陽性骨芽前駆細胞(以下、「RUNX2陽性細胞」と記載することがある)に分化誘導する原材料細胞として使用することができる。
【0093】
RUNX2陽性細胞は、骨芽細胞、さらに骨組織へと分化及び発生することができる細胞を意味する。RUNX2陽性細胞及びそれから誘導される骨芽細胞は、骨の再生を必要とする患者へ移植する移植材料として使用することができる。
【0094】
本発明のLBMを、Wntシグナルを活性化しない環境下で培養する工程を含む方法により、RUNX2陽性細胞を得ることができる。
【0095】
Wntシグナルを活性化しない環境下での培養
Wntシグナルを活性化しない環境下での培養は、具体的にはWntシグナル活性化剤を実質的に含まない培地を用いた培養により行うことができる。当該Wntシグナル活性化剤を含まない環境下で培養する工程の直前にWntシグナル活性化剤を含む培地を用いていた場合、PBS緩衝液等での洗浄を適宜行いWntシグナル活性化剤を除去した上で当該Wntシグナル活性化剤を含まない環境下での培養を行うことが好ましい。このような洗浄を行った場合等は、培地中に微量のWntシグナル活性化剤を含んでいたとしても、Wntシグナルは活性化されないので「Wntシグナルを活性化しない環境下」に包含される。
【0096】
Wntシグナル活性化剤としては、上記のものが挙げられる。
【0097】
BMPシグナルを抑制する環境下での培養
本発明のRUNX2陽性細胞への分化誘導の好ましい実施態様において、無血清培地中でBMPシグナルを抑制する環境下でLBMを培養する。
【0098】
BMPシグナルを抑制する環境下での培養は、例えば有効量のBMPシグナル抑制剤の存在下で培養をすることで行うことができる。
【0099】
BMPシグナル抑制剤は、上記のものが挙げられる。
【0100】
BMPシグナル抑制剤としてLDN193189を用いる場合、その添加量は例えば、0.1~1μM程度、好ましくは0.2~5μMとすることができる。
【0101】
TGFβシグナルを活性化する環境下での培養
本発明のRUNX2陽性細胞への分化誘導の好ましい実施態様において、無血清培地中で培養する工程を、さらにTGFβシグナルを活性化する環境下で行うことができる。
【0102】
TGFβシグナルを活性化する環境下での培養は、例えば有効量のTGFβシグナル活性化剤の存在下で培養をすることで行うことができる。
【0103】
TGFβシグナル活性化剤は、TGFβにより媒介されるシグナル伝達を増強するものである。TGFβシグナル活性化剤としては、TGFβ1タンパク質などが挙げられる。
【0104】
TGFβシグナル活性化剤としてTGFβ1タンパク質を用いる場合、その添加量は例えば、0.1~10μM程度、好ましくは0.2~5μMとすることができる。
【0105】
ヘッジホッグシグナルを活性化する環境下での培養
本発明のRUNX2陽性細胞への分化誘導の好ましい実施態様において、無血清培地中で培養する工程を、さらにヘッジホッグ(HH)シグナルを活性化する環境下で行うことが好ましい。
【0106】
ヘッジホッグシグナルを活性化する環境下での培養は、例えば有効量のヘッジホッグシグナル活性化剤の存在下で培養をすることで行うことができる。
【0107】
ヘッジホッグシグナル活性化剤は、ヘッジホッグにより媒介されるシグナル伝達を増強するものである。ヘッジホッグシグナル活性化剤としては、21Kなどのヘッジホッグアゴニストなどが挙げられる。
【0108】
ヘッジホッグシグナル活性化剤として21Kを用いる場合、その添加量は例えば、1~100nM程度、好ましくは1~10nM程度とすることができる。
【0109】
培養
培養は、細胞及び培地を格納するための適切な容器中で行うことができる。好適な培養を行う手法として、約37℃程度および二酸化炭素濃度約5%程度の条件下で培養する手法が例示されるが、これに限定されない。上記条件での培養は、例えば公知のCO2インキュベータを用いて温度及びCO2濃度を制御しながら行うことができる。
【0110】
RUNX2陽性細胞へ分化誘導する方法において、培養は二次元細胞培養(平面培養)で行うことができる。二次元細胞培養は、培養器具を必要に応じて細胞の接着を促進するコーティング処理して行うことができる。
【0111】
RUNX2陽性細胞へ分化誘導する方法において、Wntシグナルを活性化しない環境下での培養を行う期間は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されるものではない。例えば、1~20日程度、好ましくは3日間~15日間程度、より好ましくは5~10日間程度とすることができる。必要に応じて、培地交換を行うことができる。培養条件は、常法に準じることが好ましい。
【0112】
培養において、必要において継代を行うことができる。継代を行う場合は、コンフルエント状態に到達する前または直後に細胞を回収し、細胞を新しい培地に播種する。また、本発明の培養において、培地を適宜交換することもできる。
【0113】
培地
本発明ではCDM2 basal medium、IMDM培地、F12培地などの無血清培地を用いることが好ましい。動物由来成分不含の状態で分化誘導並びに維持培養が可能である。また、ストレプトマイシン、ペニシリンなどの抗菌薬、Non-Essential Amino Acids(NEAA)、ROCK阻害剤(例えば、Y-27362)等の成分を添加することができる。
【0114】
かくして、RUNX2陽性細胞が製造される。
【0115】
RUNX2陽性骨芽前駆細胞が得られたことは、例えばRUNX2陽性骨芽前駆細胞を骨芽細胞分化誘導培地にて処理した後にアリザリンレッド染色が陽性であることにより確認できる。
【0116】
4.LBMの軟骨前駆細胞への分化誘導
本発明のLBMは、例えば軟骨前駆細胞集団に分化誘導する原材料細胞として使用することができる。
【0117】
軟骨前駆細胞集団及び軟骨細胞集団は、軟骨の移植を必要とする患者へ移植する移植材料として使用することができる。
【0118】
本発明のLBMを、Wntシグナルを活性化する環境下、好ましくはさらに、FGF2などのFGFシグナル活性化剤の存在下に培養する工程を含む方法により、軟骨前駆細胞集団を得ることができる。
【0119】
Wntシグナルを活性化する環境下での培養
Wntシグナルを活性化する環境下での培養は、例えば有効量のWntシグナル活性化剤の存在下で培養をすることで行うことができる。
【0120】
Wntシグナル活性化剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達(特に、カノニカルWnt経路)を増強するものである。Wntシグナル活性化剤としては、GSK3β阻害剤、Wntファミリータンパク質などが挙げられる。
【0121】
GSK3β阻害剤としては、上記のものが挙げられる。
【0122】
Wntシグナル活性化剤としてCHIR99021を用いる場合、その添加量は例えば、0.1~20μM程度、好ましくは1~10μMとすることができる。
【0123】
FGFシグナル活性化剤の存在下での培養
LBMの軟骨前駆細胞への分化誘導には、FGFシグナル活性化剤が必要である。
【0124】
FGFシグナル活性化剤は、軟骨前駆細胞への分化誘導とともに、細胞数の増加にも寄与し、軟骨前駆細胞を大量に得ることを可能にする。
【0125】
FGFシグナル活性化剤としては、FGF2などが挙げられ、FGF2が好ましい。
【0126】
軟骨前駆細胞から軟骨細胞への分化誘導は、多段階で行うことが好ましい。具体的には、
(i)Wntシグナルを活性化する環境下かつFGFシグナルを活性化する環境下で培養する工程、次いで
(ii)FGFシグナル活性化剤の存在下での培養(好ましくはWntシグナル活性化剤の非存在下)をする工程、次いで
(iii)好ましくはWntシグナル活性化剤の非存在下かつFGFシグナルの活性化剤の非存在下での培養をする工程
の3段階で行うことが好ましい。
【0127】
上記3段階での分化誘導を行う場合、工程(i)及び工程(ii)は二次元細胞培養(平面培養)又は三次元培養で行うことができる。二次元細胞培養は、培養器具を必要に応じて細胞の接着を促進するコーティング処理して行うことができる。工程(iii)は、三次元培養で行うことが好ましい。なお、各段階の培養の間において、前の培養環境の影響を低減するために、PBS緩衝液等での洗浄を適宜行った上で培養を行うことが好ましい。
【0128】
培養
培養は、細胞及び培地を格納するための適切な容器中で行うことができる。好適な培養を行う手法として、約37℃程度および二酸化炭素濃度約5%程度の条件下で培養する手法が例示されるが、これに限定されない。上記条件での培養は、例えば公知のCO2インキュベータを用いて温度及びCO2濃度を制御しながら行うことができる。
【0129】
本発明の軟骨前駆細胞の分化誘導方法において、(i)Wntシグナルを活性化する環境下での培養を行う期間は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されるものではない。例えば、24時間~12日程度、4日間~8日間程度とすることができる。(ii)FGFシグナル活性化剤の存在下での培養を行う期間は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されるものではない。
(iii)好ましくはWntシグナル活性化剤の非存在下かつFGFシグナルの活性化剤の非存在下での培養を行う期間は、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されるものではない。(i)~(iii)の培養において、必要に応じて、培地交換を行うことができる。培養条件は、常法に準じることが好ましい。
【0130】
培養において、必要において継代を行うことができる。継代を行う場合は、コンフルエント状態に到達する前または直後に細胞を回収し、細胞を新しい培地に播種する。また、本発明の培養において、培地を適宜交換することもできる。
【0131】
培地
本発明の方法で用いる培地は、特に限定されない。好ましい実施態様において、公知の軟骨誘導培地を用いることができる。軟骨誘導培地として、L-アスコルビン酸、ITS、GDF5、BMP4などの含む公知の組成が挙げられる。必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリンなどの抗菌薬、Non-Essential Amino Acids(NEAA)、ROCK阻害剤(例えば、Y-27362)等の成分を添加することができる。
【0132】
かくして、軟骨細胞が製造される。
【0133】
軟骨細胞が得られたことは、例えばサフラニンO染色が陽性であること、Alcian Blue染色が陽性であることなどにより確認することができる。
【0134】
本発明のキットに使用される各培地を以下に示す。
(i) 多能性幹細胞から原始線条細胞に誘導するための培地
公知の培地が挙げられ、例えば、文献:Loh et al,2016, Cell, 451-467に記載された培地を使用することができる。
(ii) 原始線条細胞から側板中胚葉細胞に誘導するための培地
公知の培地が挙げられ、例えば、文献:Loh et al,2016, Cell, 451-467に記載された培地を使用することができる。
(iii) 側板中胚葉細胞から肢芽間葉系細胞に誘導するための培地
上記の無血清培地にWntシグナル活性化剤を添加した培地が挙げられる。この培地はFGF2などのFGFシグナル活性化剤は含まない。
(iv) 肢芽間葉系細胞から軟骨前駆細胞に誘導するための培地
上記の無血清培地にFGF2などのFGFシグナル活性化剤とWntシグナル活性化剤を含む培地を使用することができる。
(v) 軟骨前駆細胞から軟骨細胞に誘導するための培地
軟骨前駆細胞から軟骨細胞への分化誘導は、下記(a)~(c)の少なくとも1つの培地を用いることが好ましい。より好ましくは、(a)~(c)の培地を全て含むか、或いは、(a)と(c)の培地を含む。
(a)上記無血清培地にWntシグナルを活性化剤とFGFシグナル活性化剤を添加した培地。Wntシグナルを活性化剤があることで、塊状の軟骨前駆細胞に誘導することができる。この培地で培養した段階では、軟骨前駆細胞の性質を有している。
(b)上記無血清培地にFGFシグナル活性化剤を添加した培地。この培地はWntシグナル活性化剤を含まないことが好ましい。この培地で培養することで、軟骨前駆細胞を軟骨細胞に分化誘導することができる。
(c)上記無血清培地にWntシグナル活性化剤とFGFシグナル活性化剤を添加しない培地を使用することができる。この培地には、BMP4を添加するのが好ましい。
上記の(b)と(c)の培地は一方のみを含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。
(vi) 肢芽間葉系細胞からRUNX2陽性骨芽前駆細胞に誘導するための培地
Wntシグナル活性化剤を含まない上記無血清培地が挙げられる。
【実施例0135】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0136】
【0137】
肢芽間葉系細胞集団からは、軟骨前駆細胞、RUNX2陽性骨芽前駆細胞を経由して、主に四肢を構成する骨関節組織の骨芽細胞、軟骨細胞、腱靭帯細胞、真皮線維芽細胞などをさらに分化誘導することができる。
【0138】
参考例1:PRRX1レポーターヒトiPS細胞の作製
図2に示すターゲッティングベクター(Targeting Vector)及びCRISPR/Cas9システムを用いて、iPS細胞株である414C2細胞を親株として用いて、PRRX1遺伝子座に蛍光タンパク質tdTomatoをノックインした。これにより、iPS細胞でのPRRX1発現をtdTomato蛍光タンパク質にて可視化することのできるPRRX1レポーターiPS細胞を作製した。
【0139】
実施例1:側板中胚葉系譜を介したPRRX1陽性細胞への分化誘導
(iPS細胞から原始線条を介した側板中胚葉の誘導)
図3に示すプロコトールに従い、iPS細胞株(414C2、PRRX1レポーター細胞株)のそれぞれを、原始線条(Mid-Primitive streak、day1)、次いで側板中胚葉(Lateral plate mesoderm、day 2)へと分化誘導した。
【0140】
まず参考例1において得た未分化(undifferentiated)のPRRX1レポーターiPS細胞を播種(seed)し、通常のiPS細胞用培地(iPSC medium)で72時間(hr)培養した(day 0)。
【0141】
次いで、PBSで1回洗浄後、原始線条へと分化誘導するために、下記の組成の培地中で細胞を24時間培養した。
・原始線条 分化誘導用培地
CDM2 basal medium
30 ng/ml Activin A
40 ng/ml BMP4
6 μM CHIR99021
20 ng/ml FGF2
100 nM PIK90
10 μM Y-27632
次いで、PBSで1回洗浄後、側板中胚葉へと分化誘導するために、下記の組成の培地中で細胞を24時間培養した。
・原始線条 分化誘導用培地
CDM2 basal medium
1 μM A-83-01
30 ng/ml BMP4
1 μM C59
10 μM Y-27632
誘導した細胞について、HAND1(側板中胚葉のマーカー)及びCDX2(沿軸中胚葉のマーカー)に対する免疫染色を行った。結果を
図4及び
図5に示す。誘導した側板中胚葉細胞は、HAND1陽性CDX2陰性であることが確認できた。
【0142】
(PRRX1陽性細胞の分化誘導条件の検討)
上記の誘導したPRRX1レポーターを有する側板中胚葉細胞(day2)を、PBSで1回洗浄後、
図7に示す各種シグナルの活性化剤及び/又は抑制剤(16通りの組み合わせ)を含むCDM2 basal medium中で48時間培養した(
図6)。
【0143】
用いた試薬は以下の通りである。
CHIR(CHIR99021, GSK3β inhibitor)
C59 (Wnt-C59, PORCN inhibitor)
BMP4(Bone morphogenetic Protein 4)
LDN(LDN193189, ALK2/ALK3 inhibitor)
TGFβ1(Tumor growth factorβ1)
A8301(A83-01, ALK5 inhibitor)
21K(Hedgehog agonist)
Vismodegib(Hedgehog inhibitor)
48時間培養後における細胞(day4)におけるPRRX1の発現を、蛍光顕微鏡下でレポーターのtdTomatoの発現で観察し、評価した。
【0144】
結果を
図8に示す。組み合わせ(Combination)1,2,3,4,5,6,7,8において特に高いtdTomatoの発現が認められた。
【0145】
上記48時間培養後における細胞(day4)からRNAを回収し、PRRX1の発現を、qPCR(定量的RT-PCR)により評価した。
【0146】
結果を
図9に示す。組み合わせ1,2,3,4,5,6,7,8においてPRRX1の特に高い発現が認められた。
【0147】
また、上記48時間培養後における細胞(day4)からRNAを回収し、側板中胚葉のマーカーであるHAND1の発現を、qPCR(定量的RT-PCR)により測定した。
【0148】
結果を
図10に示す。組み合わせ1,2,3,4ではday2に比べてHAND1の発現が上昇していたが、組み合わせ5,6,7,8においてはHAND1の発現が減少していた。
【0149】
また、上記48時間培養後における細胞(day4)からRNAを回収し、側板中胚葉のマーカーであるISL-1の発現を、qPCR(定量的RT-PCR)により測定した。
【0150】
結果を
図11に示す。組み合わせ5,6,7,8において、day2と比較してISL1の発現が減少していた。
【0151】
また、上記48時間培養後における細胞(day4)からRNAを回収し、側板中胚葉のマーカーであるFOXF1の発現を、qPCR(定量的RT-PCR)により測定した。
【0152】
結果を
図12に示す。組み合わせ5,6,7,8において、day2と比較してFOXF1の発現が減少していた。
【0153】
以上の結果より、組み合わせ8(Combination 8)を、側板中胚葉細胞(day2)からPRRX1陽性肢芽間葉系細胞を誘導する特に効果の高い条件として選定した(
図13)。
【0154】
(分化誘導効率の評価)
上記の分化誘導工程におけるtdTomato陽性細胞への誘導効率をフローサイトメトリーにより評価した。結果を
図14に示す。Day 4におけるtdTomato陽性細胞への誘導効率は98%以上であった。
【0155】
また、Day 4の細胞に対してPRRX1抗体を使用した免疫染色を行った。結果を
図15に示す。PRRX1陽性である細胞のすべてが、tdTomato陽性であった。
【0156】
(CD抗原発現プロファイル)
上記の分化誘導工程におけるtdTomato陽性細胞におけるCD抗原の発現を、CD抗体アレイ(商品名:BD Lyoplate Screening Panels、BD製)を用いて評価した。
【0157】
結果を
図16~
図18に示す。Day 4におけるtdTomato陽性細胞は、
1)CD24陽性、CD29陽性、CD44陽性、CD46陽性、CD55陽性、CD58陽性、CD90陽性、CD140A陽性、CD140B陽性(
図16)、
2)SSEA1陰性、SSEA3陰性、SSEA4陽性、TRA-1-60陰性、TRA-1-81陰性(
図17)、及び
3)CD73陰性、CD90陽性、CD105陰性、CD166陰性(
図18)であった。
【0158】
すなわち、Day 4におけるtdTomato陽性細胞は:1)実質的に均一であり、2)Day 4に至る分化誘導の過程でES細胞マーカーのほとんどの発現が減少し、3)ヒト間葉系幹細胞(MSC)マーカーの発現も低かった。
【0159】
(ヒトiPS細胞(1383D2株)での検討)
ヒトiPS細胞株(1383D2株)を、PRRX1レポーター細胞株にて確立した分化誘導プロトコルにて処理した。
図19にプロトコルを示す。
【0160】
図20に各タイムポイントでの位相差顕微鏡像を、
図21に各タイムポイントでのPRRX1 mRNA発現量をそれぞれ示す。1383D2株を用いた分化誘導においても、Day4の時点でPRRX1発現の上昇が認められた。また、
図22に各タイムポイントでの側板中胚葉マーカー(HAND1, ISL1, FOXF1)の mRNA発現量を示す。1383D2株を用いた分化誘導においても、各側板中胚葉マーカーのmRNAが有意に減少した。
図23には、day0及びday4でのPRRX1抗体を使用した免疫染色の結果を示す。Day4の時点で誘導された細胞のほとんどはPRRX1陽性であった。
【0161】
(ヒトES細胞(SEES4株、SEES5株、SEES6株、SEES7株)での検討)
ヒトES細胞株(SEES4株、SEES5株、SEES6株、SEES7株)を、PRRX1レポーター細胞株にて確立した分化誘導プロトコルにて処理した各タイムポイントでの位相差顕微鏡像を
図24に示す。各タイムポイントでのPRRX1、及び中胚葉マーカー(HAND1, ISL1, FOXF1)の mRNA発現量を
図25に示す。Day2からDay4へ分化誘導すると、PRRX1の発現が上昇し、各側板中胚葉マーカーのmRNAが有意に減少している。day4でのPRRX1抗体を使用した免疫染色結果を
図26に示す。Day4の時点で誘導された細胞のほとんどはPRRX1陽性の肢芽間葉系細胞であった。
【0162】
実施例2:沿軸中胚葉系譜を介したPRRX1陽性細胞への分化誘導
(iPS細胞から原始線条を介した側板中胚葉の誘導)
図27に示すプロコトールに従い、iPS細胞株(414C2、PRRX1レポーター細胞株)のそれぞれを、原始線条(Anterior-Primitive streak、day1)、沿軸中胚葉(Paraxial mesoderm、day2)へと誘導した。
【0163】
まず参考例1において得た未分化(undifferentiated)のPRRX1レポーターiPS細胞を播種(seed)し、通常のiPS細胞用培地(iPSC medium)で72時間(hr)培養した(day 0)。
【0164】
次いで、PBSで1回後、沿軸中胚葉へと分化誘導するために、下記の組成の培地中で細胞を24時間培養した。
・原始線条 分化誘導用培地
CDM2 basal medium
30 ng/ml Activin A
4 μM CHIR99021
20 ng/ml FGF2
100 nM PIK90
次いで、PBSで1回洗浄後、沿軸中胚葉へと分化誘導するために、下記の組成の培地中で細胞を24時間培養した。
・沿軸中胚葉 分化誘導用培地
CDM2 basal medium
1 μM A-83-01
3 μM CHIR99021
250 nM LDN-193189
20 ng/ml FGF2
誘導した細胞について、HAND1(側板中胚葉のマーカー)及びCDX2(沿軸中胚葉のマーカー)に対する免疫染色を行った。結果を
図28及び
図29に示す。誘導した沿軸中胚葉細胞は、HAND1陰性CDX2陽性であることが確認できた。
【0165】
(PRRX1陽性細胞の分化誘導条件の検討)
上記の誘導したPRRX1レポーターを有する沿軸中胚葉細胞 (day2)を、PBSで1回洗浄後、
図30に示す各種シグナルの活性化剤及び/又は抑制剤(6通りの組み合わせ)を含むCDM2 basal medium中で48時間培養した。
【0166】
用いた試薬は以下の通りである。
CHIR(CHIR99021, GSK3β inhibitor)
BMP4(Bone morphogenetic Protein 4)
DAPT(γ-Secretase inhibitor)
PD0325901(MEK inhibitor)
48時間培養後における細胞(day4)におけるPRRX1の発現を、蛍光顕微鏡下でレポーターのtdTomatoの発現を観察し、評価した。
【0167】
結果を
図31に示す。組み合わせCHIR/BMP4, CHIR/BMP4, CHIR/BMP4/DAPT, CHIR/BMP4/PD, CHIR/BMP4/DAPT/PDの4種類の組み合わせにおいて特に高いtdTomatoの発現が認められた。
【0168】
CHIR/BMP4, CHIR/BMP4/DAPT, CHIR/BMP4/PD, CHIR/BMP4/DAPT/PDの4種類それぞれの処理を行い、48時間後(day4)にフローサイトメトリーにより、tdTomato陽性細胞への誘導効率を検討した。結果を
図32に示す。tdTomato陽性細胞への誘導効率は、CHIR/BMP4(61%), CHIR/BMP4/DAPT(75%), CHIR/BMP4/PD(91%), CHIR/BMP4/DAPT/PD(96%)であることが分かった。
【0169】
CHIR/BMP4, CHIR/BMP4/DAPT, CHIR/BMP4/PD, CHIR/BMP4/DAPT/PDの4種類の処理を行い、24時間後(day3)あるいは48時間後(day4)にそれぞれからRNAを回収し、qPCRによりPRRX1、沿軸中胚葉マーカー(CDX2)、及び体節(somite)マーカー(MEOX1, PARAXIS)の発現を測定した。結果を
図33に示す。いずれの組み合わせでもPRRX1の発現は上昇していたが、CHIR/BMP4/PDの組み合わせが、沿軸中胚葉マーカー、体節マーカーともに発現量が低いことがわかった。
【0170】
実施例3:肢芽間葉系細胞からRUNX2陽性骨芽前駆細胞への分化誘導
実施例1に記載の方法に準じて、肢芽間葉系細胞を得た。次いで、得られた細胞を
図34に示す各種シグナルの活性化剤、あるいは抑制剤を処理することで、RUNX2陽性骨芽前駆細胞への誘導条件を検討した(16通りの組み合わせ)。
CHIR(CHIR99021, GSK3b inhibitor)
C59 (Wnt-C59, PORCN inhibitor)
BMP4(Bone morphogenetic Protein 4)
LDN(LDN193189, ALK2/ALK3 inhibitor)
TGFβ1(Tumor growth factorβ1)
A8301(A83-01, ALK5 inhibitor)
21K(Hedgehog agonist)
Vismodegib(Hedgehog inhibitor)
肢芽間葉系細胞(day4, limb bud mesenchyme)に16通りの組み合わせ処理行い、48時間後(day6)において、それぞれからRNAを回収し、qPCRによりRUNX2(骨芽細胞分化の必須転写制御因子)の発現を測定した。
【0171】
結果を
図35に示す。組み合わせ9,10,11,12,13,14,15,16においてRUNX2の高い発現が認められた。この中でも特に、組み合わせ13(combination 13)が他の群にくらべ高いRUNX2発現を示した。
【0172】
以上の結果より、組み合わせ13(combination 13)を、肢芽間葉系細胞からRUNX2陽性骨芽前駆細胞を誘導する特に効果の高い条件として選定した(
図36)。
【0173】
肢芽間葉系細胞(day4)の時点からDay12までの段階で経時的にRNAを回収して、qPCRにより各種遺伝子発現(PRRX1, RUNX2, SP7, COL1A1, Bone sialoprotein (BSP)の発現を測定した。
【0174】
結果を
図37に示す。肢芽間葉系細胞からRUNX2陽性骨芽前駆細胞に誘導することにより、経時的にPRRX1の発現が減少するとともに、RUNX2発現や他の骨芽細胞分化マーカー(SP7, COL1A1, BSP)の発現が上昇することが明らかとなった。
【0175】
414C2株、PRRX1レポーター細胞株、1383D2株、SEES4株、SEES7株のそれぞれについて、肢芽間葉系細胞(day4, limb bud mesenchyme)へと誘導し、その後Combination13処理行い、8日後(day12)にRNAを回収し、qPCRによりRUNX2の発現を測定した。
【0176】
結果を
図38に示す。いずれの細胞株由来の肢芽間葉系細胞も、combination 13処理により、RUNX2発現が著明に上昇していることが明らかとなった。
【0177】
PRRX1レポーター細胞株、1383D2株、SEES4株のそれぞれについて、Day4とDay12の時点でRUNX2抗体を用いた細胞免疫染色を行った。
【0178】
結果を
図39に示す。Day 4ではRUNX2の発現は観察されなかったが、Day12ではほとんどの細胞がRUNX2陽性であった。
【0179】
さらに、414C2株、PRRX1レポーター細胞株、SEES4株、SEES7株のそれぞれについて、Day12の時点でRUNX2抗体を用いたフローサイトメトリー解析を行った。
【0180】
結果を
図40に示す。それぞれの株において誘導した細胞の95%以上の細胞がRUNX2陽性であった。
【0181】
PRRX1レポーター細胞株を肢芽間葉系細胞(day4, limb bud mesenchyme)へと誘導し、その後Combination13処理行い、8日間培養を行った。Day12の時点の細胞が骨芽細胞分化能を有しているかを検討するために、骨芽細胞誘導培地にて12日間培養を行い、その後アリザリンレッド染色を行った。
【0182】
結果を
図41に示す。誘導した細胞において、アリザリンレッドの染色性が有意に上昇していた。
【0183】
実施例4:LBMをstem medium 3(hCPC medium)を用いて継代してhCPCに誘導する方法及びstem medium 3を用いたhCPCの継代培養方法
参考例1で得たPRRX1レポーター細胞株を用いて、実施例1の分化誘導条件に従い側板中胚葉由来PRRX1陽性細胞(day4, limb bud mesenchyme)を調製した。同細胞を拡大培養する方法の条件検討を行った。
【0184】
Accutaseを使用して、day4の側板中胚葉由来PRRX1陽性細胞を回収し、回収した細胞を、各種組成の培養液(stem medium 1, 2,3)にて継代培養を行った。その結果、stem medium 3 (CDM2 basal medium+CHIR+A8301+EGF+FGF)にY-27632を加えると良好な結果が得られた。
【0185】
【0186】
また、dishのcoating剤の種類を検討した。継代してから1週間後の細胞数を比較すると、Non-coat = Gelatin < iMatrix-511 silk = Geltrex = Fibronectinであった。分化誘導時と同じかつ臨床用グレードのあるiMatrix-511によるコーティングを選択し、以下の実験に使用した(
図44)。
【0187】
図45に、上記の条件に継代培養を実施した際の各継代数の時点の位相差顕微鏡像を示す。肢芽間葉系細胞の形態を維持した状態で継代できている。
【0188】
図46に、継代培養を実施した際の各継代数でのtdTomatoのフローサイトメトリー解析結果と、増殖曲線を示す。tdTomato(PRRX1)陽性の状態を保持した状態で継代が可能であることが明らかとなった。
実施例5:肢芽間葉系細胞から誘導したhCPCの性質(増殖性、核型、液体窒素への保存)
健常人由来iPSC株(414C2、1383D2、PRRX1 reporter、HPS1042、HPS1043)あるいはヒトES細胞株(SEES4、SEES6、SEES7) よりヒト軟骨前駆細胞(CPC)を作製した。
【0189】
健常人由来iPSC株(414C2、1383D2、HPS1042、HPS1043)、PRRX1 reporter iPSC株(Reporter)あるいはヒトES細胞株(SEES6) よりヒトLBMを作製し、さらにヒトLBMからヒト軟骨前駆細胞(hCPC)を作製した。ヒトLBMからhCPCを作製したときの細胞数を
図47に示す。hCPCは約2~3日の倍増時間(doubling time)を持つことが明らかになった。
【0190】
また、ヒトiPS細胞(414C2)からhCPC(PN3)を作製し、ヒトiPS細胞(414C2)(
図48(a))とhCPC(PN3)(
図48(b))の核型を調べた。
図48から、iPS細胞からhCPCへの誘導の過程で核型は変化していないことが明らかになった。
【0191】
さらに、継代培養を行った肢芽間葉系細胞は、STEMCELL BANKERにて液体窒素中に保存可能であり、保存した細胞は、融解後再播種し、継代培養することが可能であることが明らかとなった(
図49)。
実施例6:LBM(day4)あるいはhCPCをRUNX2陽性骨芽前駆細胞分化誘導培地で培養した際のRUNX2(骨芽細胞前駆細胞のマーカー遺伝子)の発現量の比較。
【0192】
肢芽間葉系細胞(LBM)(Day4)と、hCPCを、Combination13処理(RUNX2陽性骨芽前駆細胞分化誘導培地:組成は
図50に記載)し、経時的にRNAを回収した。その結果、LBM(day4)ではRUNX2の発現が経時的に上昇するが、hCPCでは、そのような変化は認められなかった(
図50)。hCPCはLBM(day4)を拡大培養したものであるが、RUNX2陽性骨芽前駆細胞とは分化誘導能力が異なっていた。hCPCは、RUNX2陽性骨芽前駆細胞への分化能力はなく、軟骨分化指向性であり、hCPCとLBM(day4)は別物であることが明らかになった。
・RUNX2測定条件
各日数培養した細胞よりRNAを回収し、cDNAへと変換した後、RUNX2とACTB(内部標準)のmRNA発現をリアルタイムPCR法により測定した(その際に使用したprimerを表1に示す。)。測定後RUNX2発現量をACTBの発現量にて補正した。
【0193】
【0194】
実施例7
iPS(day0)、側板中胚葉細胞(day2)、LBM(day4)、hCPC、hCPCを
図51(b)で示されるStep 1 medium, Step 2 mediumで処理した細胞の各々について、RNAを回収し、軟骨細胞マーカー(SOX5, SOX6, SOX9, COL2A1, ACAN)の発現を検討した。その結果、Step 2 mediumで処理した細胞において軟骨細胞マーカーが著明に上昇していることが明らかとなった(
図51(d))。
【0195】
実施例8:硝子軟骨様組織体の染色
PRRX1 reporter iPSC株(Reporter)あるいはヒトES細胞株(SEES5) よりヒト軟骨前駆細胞(hCPC)を作製した。同細胞を、培養dishより回収し、ultra low U-bottom 96-well plateの1wellに対して、100,000 cells/well播種し、その後遠心操作により凝集物をwell上に作製した。その後、
図52(a)に記載プロトコルにより細胞を処理し、step3処理42日目の硝子軟骨組織体(
図52(b))より切片を作成し、HE染色、Alcian Blue染色、Safranin O染色、さらに軟骨細胞マーカー(SOX9, COL2)、肥大化軟骨細胞マーカー(COLX)、線維性軟骨マーカー(COL1)を免疫染色した(
図52(c))。
図52の結果から、硝子軟骨組織が得られていることが明らかになった。
【0196】
実施例9:LBMあるいはhCPCを用いた軟骨組織の作成
LBMあるいはhCPCから
図53に示す条件で硝子軟骨組織を誘導し、Safranin O染色を行った結果を
図53に示す。LBM由来とhCPC由来では硝子軟骨体への誘導効率が異なることが明らかになった。
【0197】
実施例10:硝子軟骨様組織体のNOD-SCIDマウスへの皮下移植
健常人由来iPSC株(414C2)、PRRX1 reporter iPSC株(Reporter)あるいはヒトES細胞株(SEES6) よりヒト軟骨前駆細胞(hCPC)を作製した。同細胞を、培養dishより回収し、ultra low U-bottom 96-well plateの1wellに対して、100,000 cells/well播種し、その後遠心操作により凝集物をwell上に作製した。その後、
図54(a)に記載プロトコルにより細胞を処理し、step3処理21日目の凝集物を、NOD-SCIDマウス皮下に移植した。移植後8週目に得られた硝子軟骨組織体より切片を作成し(手前側、中心部分、最奥、
図54(b))、軟骨基質が存在する部位が赤く染まるサフラニンO(SafO)染色を行った。その結果、腫瘍形成することなく、均一な硝子軟骨組織体が形成されていた(
図54(c))。
【0198】
実施例11:ヒト由来軟骨組織塊のSCIDラットの軟骨欠損部位への移植実験
PRRX1 reporter iPSC株(Reporter)よりヒト軟骨前駆細胞(hCPC)を作製した。同細胞を、培養dishより回収し、ultra low U-bottom 96-well plateの1wellに対して、100,000 cells/well播種し、その後遠心操作により凝集物をwell上に作製した。その後、
図55(a)に記載プロトコルにより細胞を処理し、step3処理21日目の凝集物を、SafO染色し、サフラニン陽性であることを確認した。生検トレパン(1mm)でSCIDラットの膝関節軟骨に穴を空け、軟骨組織塊(前記凝集物)を移植した。移植4週間後にSafO染色、トルイジンブルー染色、ヒトビメンチン特異的抗体を用いた免疫染色を行った。ヒト由来軟骨組織塊のSCIDマウスの軟骨欠損部位への生着を確認した(
図55(b))。
【0199】
実施例12:hCPC細胞のNOD-SCIDマウスへの腎被膜下移植
PRRX1 reporter iPSC株よりヒト軟骨前駆細胞(hCPC)を作製した。hCPC細胞1×10
5cellsを10μlのI型コラーゲンゲルに懸濁し、NOD-SCIDマウスの腎被膜下に移植した(
図56(a))。8週後の染色(HE、Alcian Blue、Safranin O)、SOX9発現、ヒトの核染色(human Nucleolei)の結果を
図56(b)に示す。hCPCの細胞懸濁液を成体に移植するのみで、移植部位にて軟骨組織が形成されることを確認した。
【0200】
実施例13:軟骨板の作製
品質管理されたヒト軟骨前駆細胞(
図57(a))を元にディンプルプレートを用いた軟骨前駆細胞のスフェロイドを形成させ、モールド内へ投入し、培養することで、従来の軟骨組織玉よりも大きく板状の軟骨組織の形成に成功した(
図57(b))。
【0201】
得られた板状の軟骨は、ヒト移植に使用可能な大きさを有していた。
【0202】
さらに、モールド内で軟骨分化誘導後に形成された組織を固定し、サフラニンO染色を実施した結果、ほとんどの組織体が形態学的にも硝子軟骨様に、またサフラニンO陽性であることが確認できた(
図58(a))。さらに、板状の軟骨組織をNOD-SCIDマウス皮下に移植した。移植4週間後に組織体を取り出しSafranin O染色を行った結果を
図58(b)に示す。作製した軟骨板が皮下で生着し、腫瘍形成することなく硝子軟骨組織体が生体内で維持されることを確認した。
【0203】
実施例14:ヒトLBM細胞からhCPCへの分化誘導とhCPCの品質管理方法
実施例1で得られたヒトLBM(day4)細胞集団を以下の条件で培養し、hCPCを得た。
・hCPCへの培養培地及び条件
(i)PRRX1陽性のシングルピークのhCPC(図61(a、b))
コーティング剤にはiMatrix511を使用して、ヒトLBM細胞を以下の培地中に懸濁して培養ディッシュに播種する。細胞がサブコンフルエントになる前に継代を行うことで、hCPCをPRRX1陽性の状態に維持できる。
・hCPC 培地
CDM2 basal medium
1 μM A-83-01
3 μM CHIR99021
20 ng/ml FGF2
20 ng/ml EGF
10 μM Y-27632
【0204】
(ii)hCPCについてのPRRX1陽性とPRRX1陰性のダブルピーク(図61(a、b))
hCPC細胞をコンフルエントにした状態で1週間培養し、継代を行うことでhCPCのダブルピーク細胞集団が得られる。hCPCダブルピーク細胞集団は最終的に後述するhCPCのPRRX1陰性細胞集団になるため、培養維持はできない。
【0205】
(iii)PRRX1陰性のシングルピークのhCPC(図61(a、b))
上記のダブルピークhCPCを継続継代することでPRRX1陰性のhCPCシングルピーク細胞集団が得られる。
【0206】
(iv)軟骨前駆細胞(CPC)と肢芽間葉系細胞(LBM)の品質管理
CPCの品質管理技術の概要を
図59に示す。CPCから軟骨細胞/組織を安定的に供給するには、CD90陽性及びCD140B陽性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす状態でhCPCを拡大培養することが重要であることが明らかになった。
LBMの品質管理技術の概要を
図60に示す。LBMから軟骨組織形成能力の高いCPCを供給するには、「CD44陽性、CD99陽性、CD140B陽性、CD9陰性、CD49f陰性、CD57陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす状態のLBM」からCPCを誘導することが重要であり、特に「CD44陽性、CD140B陽性、CD49f陰性からなる群から選ばれる少なくとも1種の条件を満たす状態のLBM」からCPCを誘導することが重要であることが明らかになった。
【0207】
実施例15:1段階で品質管理されたhCPCから軟骨組織への誘導
さらに、各hCPCから以下の条件で軟骨組織を誘導し、HE染色、Alcian Blue染色、Safranin O染色を行った結果を
図61(c)に示す。
【0208】
・HE染色条件
脱パラフィン後にEosinで1分間の染色を行い、次にヘマトキシリンで20分標本を処理することで核染色を行った。
【0209】
・Alcian Blue染色条件、
脱パラフィン後に標本を1%Alcian Blue / 3% Acectic acidで20分処理した後、3%Acetic acidで洗浄を行った後、ヘマトキシリンで20分標本を処理することで核染色を行った。
【0210】
・Safranin O染色条件
脱パラフィン後にWeigert`s iron hematoxylin溶液で10分間染色を行った。次にfast green溶液で5分間染色を行った後、1%acetic acidで洗浄を行った。次に0.1% Safranin O溶液で5分間染色を行った。
【0211】
さらに、PRRX1陽性のシングルピークのhCPC、PRRX1陰性のシングルピークのhCPCについて、軟骨分化誘導によるnodule形成を促し、Alcian Blue染色を行った結果を
図62に示す。
さらに、得られたhCPC(PRRX1陽性のシングルピーク、PRRX1陰性のシングルピーク、PRRX1陽性とPRRX1陰性のダブルピーク)ついて、RNAシークエンスを用いて解析し、PRRX1陽性とPRRX1陰性で高発現するmRNAを選択した。結果を
図63~66に示す。
さらに、ヒトiPS細胞(414C2)、hCPC(PRRX1陰性)、hCPC(PRRX1陽性)について、CD抗原の発現を、各CD抗原に対する抗体を用いて評価した。結果を
図67に示す。
【0212】
実施例16:ヒトLBMの品質管理方法
ヒトiPS細胞を、3x104 cells/3.5 cm dishの密度で播種し、播種3日後(Pluripotent 3 days)、あるいは7日後(Pluripotent 7 days)に,LBM細胞を得るための処理(実施例1に記載)を行う。
【0213】
播種3日後から処理した場合には、PRRX1の発現が高いLBM(PRRX1陽性, pluripotent 3 days)が得られたのに対して、播種7日後から処理した場合には、PRRX1の発現が低いLBM(PRRX1陰性, pluripotent 7 days)が得られる(
図68(a)~(c))。つまり、誘導スタート時のヒト多能性幹細胞状態がLBM(PRRX1陽性)を得るうえで重要であることを示している。
【0214】
LBM(PRRX1陰性, pluripotent 7 days)からhCPCを誘導するための第一継代目 [hCPC (pluripotent7 days,PN1)]では、PRRX1の発現の低い集団が得られ、その継代数を重ねていく(PN1→PN2→PN3→PN4→PN5)と、PN2の段階では、PRRX1の発現が低い集団/高い集団の不均一な細胞集団が得られ[hCPC, (pluripotent7 days,PN2)]、最終的なPN5の段階ではPRRX1の発現は高い均一な集団が得られる[hCPC, (pluripotent7 days,PN5)](
図68(b))。
PRRX1の発現が低い集団/高い集団の不均一な細胞集団[hCPC (pluripotent7 days,PN2)]、あるいPRRX1の発現は高い均一な細胞集団 [hCPC (pluripotent7 days,PN5)]のそれぞれを、軟骨分化誘導を行うと、hCPC (pluripotent7 days,PN5)からは均一にAlcian blue/SafraninOで染色される軟骨組織が形成されたが、hCPC (pluripotent7 days,PN2)からは、Alcian blue/SafraninOにてまばらに染まる不均一な軟骨組織が形成された(
図68(c))。
【0215】
さらに、ヒトiPS細胞(Negative control)、LBM(PRRX1陰性、7day)、hCPC(PRRX1陽性、3day)について、CD抗原の発現を、各CD抗原に対する抗体を用いて評価した。結果を
図69に示す。
【0216】
実施例17:II型コラーゲン異常症疾患モデル1
II型コラーゲン異常症関連疾患患者由来iPSC株(ACGII, HCG)よりhCPCを作製した(
図70(a))。それぞれのhCPCについてPRRX1の発現を免疫染色(
図70(b))と、増殖曲線(
図70(c))を確認した。それぞれを「平面培養下」にて上記の処理工程により軟骨分化誘導を行い、アルシアンブルー染色による軟骨基質染色、あるいは各種軟骨分化マーカー遺伝子の発現の測定(qPCR)を行った。その結果、健常人由来hCPC(414C2)、PRRX1 reporter iPSC株由来hCPC(Reporter)、ES細胞由来hCPC(SEES4、SEES5、SEES7)に比べて、II型コラーゲン異常症関連疾患患者由来hCPC(ACG-II-1、HCG-1)では、アルシアンブルー染色陽性軟骨基質の形成能が低下しており(
図70(d))、各種軟骨分化マーカー遺伝子の発現が低下していた(
図70(e))。II型コラーゲン異常症関連疾患患者由来細胞では、健常人由来細胞と比較して、軟骨細胞分化能が低下している。hCPCを使用することで、患者病態を再現することができる。この病態モデルを用いることで、II型コラーゲン異常症だけでなく、軟骨関連疾患に広く有効な薬物を探索できる。
【0217】
実施例18:II型コラーゲン異常症疾患モデル2
健常人由来iPSC株(414C2)、あるいはII型コラーゲン異常症関連疾患患者由来iPSC株(ACGII-1, HCG-1)よりhCPCを作製した。同細胞を、培養dishより回収し、ultra low U-bottom 96-well plateの1wellに対して、100,000 cells/well播種し、その後遠心操作により凝集物をwell上に作製した。その後、上記記載プロトコルにより細胞を処理し、最終的に得られた凝集物の電顕観察を行った。その結果、II型コラーゲン異常症関連疾患患者由来細胞では、健常人由来細胞と比較して、軟骨細胞内グリコーゲン量低下が観察された。また、患者由来細胞では、正常細胞で認められるERの正常な配向配置が認められないことがわかった(
図71)。II型コラーゲン異常症関連疾患患者由来細胞では、健常人由来細胞と比較して、軟骨細胞内グリコーゲン量低下が観察される。また、患者由来細胞では、正常細胞で認められるERの正常な配向配置が認められない。患者由来のiPS細胞から誘導されたhCPCを使用することで、患者病態を再現することができる。
【0218】
実施例19:骨形成不全症疾患モデル
骨形成不全症患者由来iPSC株(OIO2-1, OIO8-12) あるいは、それらのCOL1A1変異をゲノム編集により正常型に戻したiPSC株(各種rescue株;OIO2-1(res1), OIO8-12(res1))を、平面培養下にてRUNX2陽性骨芽前駆細胞への誘導後、骨芽細胞への分化誘導を行い(
図72)、アリザリンレッド染色による骨基質染色、Ca2+蓄積量の測定と総タンパク質との比、およびALP活性の測定を行った。その結果、アリザリンレッド染色性や、各種測定値は、rescue株の方で有意に高いことが分かった(
図72)。骨形成不全症患者由来細胞では、変異を正常型に戻した細胞と比較して、骨芽細胞分化能力が低下している。PRRX1陽性肢芽間葉系細胞からのRUNX2陽性骨芽前駆細胞分化誘導プロトコルを使用することで、骨形成不全症患者病態をin vitro再現することができる。
本発明で品質管理されたLBM、CPC、骨芽前駆細胞、並びにそれらから誘導された軟骨細胞もしくは軟骨組織、骨芽細胞もしくは骨組織は、骨又は軟骨に関連する疾患(膝関節症、半月板損傷、関節リウマチ、骨粗しょう症など)を治療するための移植に好ましく使用することができる。