(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026708
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】真菌感染症の治療のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 7/64 20060101AFI20250214BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20250214BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C07K7/64 ZNA
A61K38/12
A61P31/10
C07K7/64
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024217463
(22)【出願日】2024-12-12
(62)【分割の表示】P 2022580112の分割
【原出願日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】63/044,943
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522188026
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF SOUTHERN CALIFORNIA
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】セルステッド、マイケル イー.
(72)【発明者】
【氏名】トラン、ダット キュー.
(72)【発明者】
【氏名】シャール、ジャスティン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】バッソ、ヴィルジニア
(57)【要約】
【課題】播種性真菌疾患及び/又は関連する敗血症ショックを治療する際に、2相効果をもたらすθディフェンシンのペプチドアナログを開発する。
【解決手段】これらのアナログは、殺菌効果をもたらすために必要とされる濃度より低い濃度において活性であり、最初に免疫系のエフェクタ細胞を動員することによって感染病原体を対処し、次に免疫系を調節し、炎症反応を下方調節することにより機能する。これらのθディフェンシンアナログは、天然に存在するθディフェンシンが効果を示さない濃度において保護的であり、天然のθディフェンシンに見られない構造的及び配列的特徴のコアセットを含む。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
14個のアミノ酸からなり、以下の構造を有する環状ペプチドであって、
【化1】
AA3及びAA12はジスルフィド結合により結合されるシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合により結合されるシステインであり、AA4はアルギニンであり、AA11はアルギニンであり、AA6、AA7、及びAA8の内二つはアルギニンであり、AA6、AA7、AA8、及びAA9によって規定される前記環状ペプチドのβターン部分は、二つより多くの隣接するアルギニンを含まず、前記環状ペプチドは、生理的pHにおいて少なくとも約36%の正電荷含有量をもたらす五つ以上のアルギニン残基を備える、環状ペプチド。
【請求項2】
AA1がグリシンである、請求項1に記載の環状ペプチド。
【請求項3】
AA2が第1の疎水性アミノ酸である、請求項1に記載の環状ペプチド。
【請求項4】
前記第1の疎水性アミノ酸はバリンである、請求項3に記載の環状ペプチド。
【請求項5】
AA9は第2の疎水性アミノ酸である、請求項1に記載の環状ペプチド。
【請求項6】
前記第2の疎水性アミノ酸はバリンである、請求項5に記載の環状ペプチド。
【請求項7】
AA13はアルギニンである、請求項1に記載の環状ペプチド。
【請求項8】
AA14はアルギニンである、請求項1に記載の環状ペプチド。
【請求項9】
播種性真菌疾患及び関連する敗血症又は敗血症ショックを治療又は予防する際の環状ペプチドの使用方法であって、前記環状ペプチドは、以下の共通構造図を有し、
【化2】
AA3及びAA12はジスルフィド結合により結合されるシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合により結合されるシステインであり、AA4はアルギニンであり、AA11はアルギニンであり、AA6、AA7、及びAA8の内二つはアルギニンであり、AA6、AA7、AA8、及びAA9によって規定される前記環状ペプチドのβターン部分は、二つより多くの隣接するアルギニンを含まず、前記環状ペプチドは、生理的pHにおいて少なくとも約36%の正電荷含有量をもたらす五つ以上のアルギニン残基を備える、使用方法。
【請求項10】
AA1はグリシンであり、又はAA2は第1の疎水性アミノ酸であり、又はAA9は第2の疎水性アミノ酸であり、又はAA13はアルギニンであり、又はAA14はアルギニンである、請求項9に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は生物医学、特にペプチド医薬品である。
【背景技術】
【0002】
背景説明は本発明の理解に役立ち得る情報を含む。本明細書に提供される情報が先行技術である又は現在の請求項記載の発明に関連すること、又は具体的に又は暗黙的に参照される出版物が先行技術であることを認めるものではない。
【0003】
表在性真菌感染症(例えば、口及び生殖器の粘膜など)は、比較的一般的であり、ほとんど命を脅かさない。しかし、全身性又は播種性の真菌感染症は、30%から50%までの範囲の死亡率を有し得る。真菌病原体は、特に外科手術患者の間及びカテーテル留置患者の間での院内感染の主要な原因である。全身性真菌感染症のリスク増加はまた、免疫機能の低下、好中球減少、及び糖尿病に関連する。全身性又は播種性真菌感染症のリスク増加はまた、炎症性又は自己免疫疾患の治療のための生物学的療法の使用に関連し、この療法は、免疫反応の構成要素を選択的に抑制する。
【0004】
全身性真菌感染症は、典型的にカンジダ属菌(例えば、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)など)によって引き起こされるが、これは本来至る所に存在するため、簡単には回避されない。抗真菌薬が利用可能である一方で、耐性菌又は多剤耐性菌がますます蔓延している。不運なことに、多剤耐性真菌によって引き起こされる全身性感染は、世界的な健康懸念事項となっている。約150万の播種性真菌症の事例が毎年発生しており、高い死亡率に関連している。
【0005】
多剤耐性カンジダ属菌感染症の増加は、全身性カンジダ症の高い死亡率に寄与する。全身性カンジダ症の主要なリスク因子は、バイオフィルムの存在であり、これは静脈カテーテルのような埋め込み型医療デバイスで頻繁に発生する。このようなバイオフィルムは抗真菌治療に対して抵抗性を示すことが知られており、真菌病原体の血液感染性の拡散の一般的な原因である。
【0006】
効果的かつ比較的毒性のない抗真菌薬の開発は、困難であることが分かっている。侵襲的な真菌感染症の治療に用いられる抗真菌薬は、ポリエン系、アゾール系及びエキノカンジン系の3種類のみが現在存在している。これらの内エキノカンジン系が一番最近承認された抗真菌薬の種類であり、30年近く前に初めて導入された。現在利用可能な抗真菌薬の使用に関する制限は、分子標的の範囲の制限、深刻な悪い副作用、及びバイオフィルムに対する活性の欠如を含む。多剤耐性真菌病原体の出現は、真菌感染症の治療に対する新しいアプローチの開発の緊急の必要性を浮き彫りにする。
【0007】
ディフェンシンは感染に対する生体の非特異的防御部分である小さい抗菌性タンパク質の多様なファミリーである。α、β、及びθディフェンシンという、3種類の互いに異なりかつ構造的に区別されるクラスのディフェンシンタンパク質がある。α及びβディフェンシンは線状であり、それぞれ約2.6kDa又は4.5kDaの分子量を有するペプチドを含有するトリ-ジスルフィドである。対照的に、θディフェンシンは、18個のアミノ酸からなる環状ペプチド(すなわち、骨格がアミノ末端又はカルボキシル末端の両方が遊離しない一連のペプチド結合により形成された環状のペプチド)である。
【0008】
θディフェンシンは、アカゲザル、ヒヒ、及び他の旧世界のサルの組織に発現している。それらは、人間及び他のヒト科の動物には存在しない。天然に存在するθディフェンシンは、三つのジスルフィド結合により安定化された18個の骨格環化(すなわち、側鎖ではなくαアミン基を介して)ペプチドからなる。これらの三つのジスルフィド結合は、全ての既知のθディフェンシンに保存されている。θディフェンシンは、もともとペプチドの抗菌特性に基づいて発見され、ディフェンシンとして分類された。最近では、θディフェンシンは、強力な免疫調整効果を有し得ることが見出されてきている。
【0009】
国際特許出願公開第WO2007/044998号(特許文献1)(Lehrer et al)は、構造/活性の関係を導くための試みとしてエナンチオマー含有量の程度を変化させることを含むレトロサイクリンペプチド及びそのペプチドのアナログについて構造と生物活性との間の関係性を記載する。しかし、これらのアナログは、天然のレトロサイクリンの長さ及び構造を保持する。加えて、参照文献は抗菌活性についての説明のみである。
【0010】
様々なディフェンシンのペプチドアナログが調査される。例えば、欧州特許出願第EP2990415号(特許文献2)(Colavita et al)は、親タンパク質と比較して向上した抗生物質効果を示すβディフェンシンの環状アナログを記載する。しかし、このようなβディフェンシンは、炎症誘発性サイトカインの放出を刺激することが示され、これは安全性に問題があるため、その実用性は限定的である。
【0011】
米国特許出願公開第US2003/0022829号(特許文献3)(Maury et al)は、キメラθディフェンシンの合成及び生物学的活性を記載し、保存されたアミノ酸置換の可能性について推測するが、これらは天然のθディフェンシンの長さ及び構造を保持するようである。米国特許第10,512,669号(特許文献4)(Selsted et al)は、RTD-1由来の様々なテトラデカペプチドθディフェンシンアナログ及びこれらの生物学的特性を記載する。
【0012】
従って、特に播種性真菌感染症のような、真菌感染症の管理及び/又は治療のための安全かつ有効な化合物の必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2007/044998号明細書
【特許文献2】欧州特許出願第2990415号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0022829号明細書
【特許文献4】米国特許第10,512,669号明細書
【発明の概要】
【0014】
本発明の主題は、天然のθディフェンシンと比較して、真菌感染症(特に、播種性又は全身性真菌感染症)の治療において向上した活性を有するθディフェンシンの合成アナログを提供する。これらのペプチドは、宿主指向性メカニズムで作用し、生体外で同じ病原体に対して直接殺菌効果及び/又は静真菌効果(複数)を有するアナログの濃度を下回る濃度において有効である。
【0015】
本発明の概念の一つの実施形態は、14個のアミノ酸からなり、
図7Aに示す構造を有する環状ペプチドであり、これは2対のシステインの間に二つのジスルフィド結合を含み、AA3及びAA12はジスルフィド結合により結合されるシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合により結合されるシステインであり、AA4はセリン又は第1の疎水性アミノ酸であり、AA11はセリン又は第2の疎水性の酸であり、AA6はアルギニンであり、AA7はアルギニンであり、AA8はアルギニンであり、前記環状ペプチドは生理的pHにおいて少なくとも約36%の正電荷含有量をもたらす五つのアルギニン残基を備える。いくつかの実施形態では、前記第1の疎水性アミノ酸及び前記第2の疎水性アミノ酸はロイシン又はイソロイシンである。いくつかの実施形態では、AA1はグリシンである。いくつかの実施形態では、AA2は第3の疎水性アミノ酸である(例えば、バリン又はロイシン)。いくつかの実施形態では、AA9は第4の疎水性アミノ酸である(例えば、バリン又はフェニルアラニン)。いくつかの実施形態では、AA13及びAA14はアルギニンである。いくつかの実施形態では、AA4はアラニン又はセリンであり得ない。いくつかの実施形態では、AA11はアラニンであり得ない。
【0016】
別の実施形態では、14個のアミノ酸からなり、
図7Aに示す構造を有する環状ペプチドであり、これは2対のシステインの間に二つのジスルフィド結合を含み、AA3及びAA12はジスルフィド結合により結合されるシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合により結合されるシステインであり、AA4はアルギニンであり、AA11はアルギニンであり、AA6、AA7及びAA8の内二つはアルギニンであり、前記環状ペプチドは生理的pHにおいて少なくとも約36%の正電荷含有量をもたらす五つ以上のアルギニン残基を備える。
【0017】
このような環状ペプチドは、播種性真菌感染症のマウスモデルにおいて全身に適用されるときに、θディフェンシン自体と比較して向上した生存を提供するθディフェンシンのアナログであり得る。いくつかの実施形態では、前記環状ペプチドは敗血症のマウスモデルへの適用に2相反応を提供する。このような2相反応は、抗真菌活性を有する宿主エフェクタ細胞の動員の第1段階及び宿主炎症反応の緩和の第2段階を含む。いくつかの実施形態では、前記環状ペプチドはTACE阻害活性を有し、及び/又はTNFの発現、プロセシング及び放出の内少なくとも一つを抑制する。
【0018】
このような環状ペプチドは、極限環境温度、低いpH、凍結及び/又は解凍への暴露、及び例えば、血液、血漿、又は血清などの生体マトリックスへの溶解後も活性を保持する。いくつかの実施形態では、このような環状ペプチドは、播種性真菌疾患及び関連する敗血症ショックを治療又は予防するための有効量において免疫反応を起こさない。このような環状ペプチドは、宿主の病原体クリアランスを強化するように宿主免疫系を活性化させてもよく、敗血症ショックを治療又は予防するための有効量において疾患消散及び生存率を強化するように炎症を調節するという活性を有してもよい。
【0019】
本発明の概念の別の実施形態は、播種性真菌疾患のリスクがある動物へ上述の環状ペプチドを投与することにより、敗血症ショック及び/又は深刻な敗血症を治療又は予防する方法である。
【0020】
本発明の概念の別の実施形態は、播種性真菌疾患及び/又は関連する敗血症ショック及び/又は深刻な敗血症を治療又は予防する際の上述の環状ペプチドの使用方法、又は播種性真菌疾患及び/又は敗血症ショックを治療又は予防する際に有効な薬剤の調製におけるこのような環状ペプチドの使用方法である。
【0021】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様及び利点は、類似の番号が類似の構成要素を示す添付の図面と共に、以下の好適な実施形態の詳細な説明により、明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、天然に存在するθディフェンシンRTD-1(配列番号1)の略図を示す。
【
図2】
図2は、合成θディフェンシンアナログ環状ペプチド1(配列番号2)の略図を示す。
【
図3】
図3は、合成θディフェンシンアナログ環状ペプチド2(配列番号3)の略図を示す。
【
図4】
図4は、合成θディフェンシンアナログ環状ペプチド3(配列番号4)の略図を示す。
【
図5】
図5は、合成θディフェンシンアナログ環状ペプチド4(配列番号5)の略図を示す。
【
図6】
図6は、合成θディフェンシンアナログ環状ペプチド5(配列番号6)の略図を示す。
【
図7A】
図7Aは、従来の線状ペプチドに見られる個別のアミン及びカルボキシ末端が無い場合に、本明細書に記載される環状テトラデカペプチド内の特定のアミノ酸の指定に用いられる番号付けシステムを示す。
【
図7B】
図7Bは、環状ペプチド5(配列番号6)に適用されたこの番号付けシステムを示す。
【
図8】
図8は、合成θディフェンシンアナログ環状ペプチド6(配列番号7)の略図を示す。
【
図9】
図9は、播種性カンジダ症の生体内モデルにおけるRTD-1、合成環状テトラデカペプチド環状ペプチド5及び二つの抗真菌薬の効果の研究の代表的な結果を示す。マウスにカンジダ・アルビカンス遺伝子学的参考株SC5314の3×10
5芽胞をT=0で静脈注射により感染させた。T=24hにおいて、マウスに1日1回で7日間、生理食塩水、5mg/kgカスポファンギン(Caspo)、5mg/kgフルコナゾール(Fluco)、5mg/kgRTD-1、又は0.25mg/kgの環状ペプチド5を腹腔内投与により治療した。マウスを26日間(p.i)観察し、治療したマウスの生存率をログランク検定によって生理食塩水対照に対して比較を行った:RTD-1、Caspo、及びFluco、P=3.4×10
-6;0.25mg/kgの環状ペプチド5、P=2.3×10
-7。
【
図10】
図10は、播種性カンジダ症の生体内モデルにおいて0.25mg/kg及び0.1mg/kgの合成環状テトラデカペプチド環状ペプチド5及び5mg/kgのフルコナゾール(Fluco)の効果の研究の代表的な結果を示す。マウスにカンジダ・アルビカンスSC5314の3×10
5芽胞をT=0において静脈注射により感染させた。T=24hにおいて、マウスに1日1回で7日間、腹腔内投与により治療した。マウスを30日間(p.i)観察し、生存率強化をログランク検定により分析した。
【
図11】
図11は、
図10に示す研究と同様に、播種性カンジダ症の生体内モデルにおいて、0.25mg/kgの合成環状テトラデカペプチド環状ペプチド5及び0.1mg/kgの環状ペプチド3及び5mg/kgのフルコナゾール(Fluco)の効果の研究の代表的な結果を示す。
【
図12】
図12は、
図10に示す研究と同様に、播種性カンジダ症の生体内モデルにおいて、0.25mg/kgの合成環状テトラデカペプチド環状ペプチド5及び0.1mg/kgの環状ペプチド4及び5mg/kgのフルコナゾール(Fluco)の効果の研究の代表的な結果を示す。
【
図13】
図13は、
図10に示す研究と同様に、播種性カンジダ症の生体内モデルにおいて、0.25mg/kgの合成環状テトラデカペプチド環状ペプチド5及び0.1mg/kgの環状ペプチド1及び5mg/kgのフルコナゾール(Fluco)の効果の研究の代表的な結果を示す。
【
図14】
図14は、
図10に示す研究と同様に、播種性カンジダ症の生体内モデルにおいて、0.25mg/kgの合成環状テトラデカペプチド環状ペプチド5及び0.1mg/kgの環状ペプチド2及び5mg/kgのフルコナゾール(Fluco)の効果の研究の代表的な結果を示す。
【
図15】
図15は、
図10に示す研究と同様に、播種性カンジダ症の生体内モデルにおいて、0.25mg/kgの合成環状テトラデカペプチド環状ペプチド5及び0.1mg/kgの環状ペプチド6及び5mg/kgのフルコナゾール(Fluco)の効果の研究の代表的な結果を示す。
【
図16】
図16は、播種性カンジダ症のマウスモデルにおいて、フルコナゾール(Fluco)及び本発明の概念の合成環状テトラデカペプチドを用いた治療における真菌クリアランスの研究の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の主題は、宿主媒介プロセスを用いた真菌感染症(例えば、播種性真菌感染症)の治療における2相効果を誘導する新しいペプチドを提供する。このようなペプチドは、まず、感染性真菌生物を対処するために免疫系のエフェクタ細胞を動員し、次に、炎症反応を調節するために免疫系を調節することによって作用し得る。新しいペプチドは、宿主免疫系のエフェクタ細胞の動員を介する間接的な抗真菌効果を提供し、敗血症/敗血症ショックを予防及び/又は治療するために修飾された配列を有する天然に存在するθディフェンシンのアナログである。これらの新しいθディフェンシンアナログは、宿主固有の免疫エフェクタの存在しない場合において、直接的抗真菌効果を提供しない(すなわち、生体外でそのような濃度において適用されるときに殺菌効果又は静真菌効果を生じない)抗真菌未満の血漿濃度において有効である。このようなθディフェンシンアナログは、天然のθディフェンシンが効果を示さない濃度において保護的でもよく、天然のθディフェンシンにおいて見られない構造的及び配列的特徴のコアセットを含んでもよい。
【0024】
本出願の文脈では、真菌病原体に関する「抗真菌未満の濃度」は、例えば、宿主免疫エフェクタの非存在下において生体外(例えば、液体培養培地中)で真菌病原体に適用されたときに、そのように記載された化合物が抗真菌効果を有さない濃度であることは理解されるべきである。例えば、カンジダ・アルビカンスに関する化合物の抗真菌未満の濃度は、生体外環境(例えば、宿主免疫エフェクタの非存在下)において菌に対して抗真菌効果を示す濃度未満の濃度である。
【0025】
Basso et al.(Basso et al.,“アカゲサルθディフェンシン1は、宿主指向性メカニズムにより全身性カンジダ症において長期の生存を促進する”Nature Scientific Reports(2019)9:16905)は、カンジダ・アルビカンスの異種菌株に関する天然のθディフェンシンRTD-1の抗真菌未満の濃度の測定の一例を提供する。カンジダ・アルビカンスの異種菌株の培養はRPMI培地又は50%血清を含有するRPMI培地で確立した。異なる量のフルコナゾール(Fluco)、カスポファンギン(Caspo)、又はRTD-1を適用し、真菌増殖のモニタリングを行った。MFCは、加えた種菌に対して99%の殺傷力を発揮する最低濃度として測定された。MICは、増殖を抑制する最低濃度として測定された。結果は表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
このようなデータに基づいて、カンジダ・アルビカンスについての血清の存在下におけるRTD-1の抗真菌未満の濃度は100μg/mL未満である。このような抗真菌未満の濃度は実験的に(例えば、患者サンプルからの培養によって)又は、好適には過去のデータから測定され得る。
【0026】
以下の説明は本発明の理解に役立ち得る情報を含む。本明細書に提供される情報が先行技術である又は現在の請求項記載の発明に関連すること、又は具体的に又は暗黙的に参照される出版物が先行技術であることを認めるものではない。
【0027】
いくつかの実施形態では、本発明の特定の実施形態を記載し、請求するために使用される、成分量、濃度などの特性、反応条件、及びその他を表す数は、用語「約」によって修飾される場合があることは理解されるべきである。従って、いくつかの実施形態では、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、特定の実施形態によって得ようとする所望の特性に応じて変わり得る近似値である。いくつかの実施形態では、数値パラメータは、報告された有効数字に照らして、通常の丸め技術を適用することにより解釈されるべきである。本発明のいくつかの実施形態の広い範囲を記載する数値範囲及びパラメータは近似値であるにも関わらず、特定の例に記載される数値は実行できるほど正確に報告される。本発明のいくつかの実施形態に示される数値は、それらのそれぞれの試験測定に見出される標準偏差から必然的にもたらされる特定の誤差を含み得る。
【0028】
本明細書の記載及び以下の特許請求の範囲の全体において用いられるように、「一つの」、「一つの」、及び「その」の意味は、文脈が明確に他を指示しない限り、複数の指示対象を含む。また、本明細書の記載に用いられるように、「中に」の意味は、文脈が明確に他を指示しない限り、「中に」及び「上に」を含む。
【0029】
本明細書に開示される本発明の代替要素又は実施形態のグループ化は、限定として解釈されるべきではない。各グループメンバーは個別に、又はグループの他のメンバー又は本明細書に見出される他の要素と任意に組み合わせて参照及び請求され得る。グループの一つ以上のメンバーは、利便性及び/又は特許性の理由で、グループに含まれ、又はグループから消され得る。任意のこのような包含又は削除が発生するとき、本明細書は、添付の特許請求の範囲において用いられる全てのマーカッシュグループの記載を満たすように修正されたグループを含有すると見なされる。
【0030】
本明細書の値の範囲の列挙は、範囲内に収まる各個別の値を個々に示す省略方法として役立つことを意図しているに過ぎない。本明細書において別段の指示がない限り、それぞれの個別の値は、それが本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書内に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行され得る。本明細書の特定の実施形態に関してもたらされる任意の及び全ての例、又は例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をより明らかにすることを意図し、他に請求される本発明の範囲に限定をもたらさない。本明細書のいかなる言語も本発明の実施に不可欠な任意の請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0031】
以下の議論は本発明の主題の多くの例示的な実施形態を提供する。各実施形態は本発明の単一の組み合わせを示すが、本発明の主題は開示された要素の全ての可能な組み合わせを含むことが考慮される。従って、一つの実施形態が要素A、B、及びCを備え、第2の実施形態が要素B及びDを備える場合、明示的に開示されなくても、本発明の主題は、A、B、C、又はDの他の残りの組み合わせを含むことも考慮される。
【0032】
開示されたペプチドは、抗真菌未満の量である低量で投与されたとき、播種性又は全身性真菌感染症及び関連する敗血症又はショックによる死亡率を減少させるのに有効である2相反応の提供を含む、多くの有利な技術効果を提供することを理解されたい。
【0033】
最近、Basso et al.(Basso et al.,“アカゲザルθディフェンシン1は、宿主指向性メカニズムによる全身性カンジダ症における長期の生存を促進する”Nature Scientific Reports(2019)9:16905)は、天然に存在するθディフェンシンRTD-1(配列番号1)がカンジダ・アルビカンスの感受性株及び多剤耐性株の両方の全身性カンジダ症の動物モデルにおいて有効であることを示している。この論文は参照により本明細書に組み込まれる。RTD-1が生体外研究において有効であったが、抗真菌活性は、血清の存在によって無効になり、マウス動物モデル研究における生体内で有効であると見出された濃度より50倍以上高い濃度が必要である。このような生体内での研究は、RTD-1を用いた治療において抗真菌活性及び炎症誘発性サイトカインの長期的な生産の低減の両方を示し、その両方が播種性真菌感染症からの回復及びこのような感染症の潜在的な有害後遺症の低減に寄与することを示した。以下に示すように、θディフェンシンの新しい合成アナログは、同様の又は向上した活性を提供し得る。
【0034】
発明者は、サイズが小さく、ジスルフィド結合の数が少ないにも関わらず、親ペプチドの抗真菌活性の少なくとも一部を示すθディフェンシンRTD-1の合成環状テトラデカペプチドアナログを開発している。RTD-1の構造は
図1に示す。示すように、RTD-1(アカゲザルに天然に発現している)は、ペプチドの環状一次構造を通過するジスルフィド結合により結合される3対のシステインを含む環状オクタデカペプチドである。
【0035】
RTD-1の合成(すなわち、天然に存在しない)アナログの多くの例は、
図2から
図6及び
図8に示す。
図2はθディフェンシンアナログ環状ペプチド1(配列番号2)の環状構造を示す。
図3はθディフェンシンアナログ環状ペプチド2(配列番号3)の環状構造を示す。
図4はθディフェンシンアナログ環状ペプチド3(配列番号4)の環状構造を示す。
図5はθディフェンシンアナログ環状ペプチド4(配列番号5)の環状構造を示す。
図6はθディフェンシンアナログ環状ペプチド5(配列番号6)の環状構造を示し、これらの研究におけるモデル化合物として使用される。
図8はθディフェンシンアナログ環状ペプチド6(配列番号7)の環状構造を示す。例示的な合成アナログの各々は、ジスルフィド結合により結合される2対のシステインを含むテトラデカペプチドである。これらのジスルフィド結合は、合成ペプチドの環状一次構造を通過し、追加のアミノ酸を組み込む「箱型」構造を形成する。これらの例示的なアナログは、RTD-1との様々な程度の配列同一性を示し、かつ場合によって合成ペプチドアナログのシステインによって規定された「箱型」の近く及び間において保存されたアミノ酸置換を示すことを理解されるべきである。
【0036】
発明者は、実質的な生体内抗真菌活性を有し、播種性カンジダ症のモデルにおいてマウスの長期生存をもたらす一連のθディフェンシンアナログを調製し、スクリーニングした。これらの効果は、直接性抗真菌活性が生体外モデル病原体で見出された濃度をはるかに下回る驚くべき低濃度である。理論に縛られることなく、発明者は、観測された抗真菌効果が宿主免疫エフェクタの調節に起因すると考える。播種性真菌感染症の長期生存には、感染生物の管理及び感染症への宿主応答により誘導されるショックの管理の両方が必要であり、そのいずれもが死をもたらし得ることは理解されるべきである。
【0037】
播種性真菌感染症に対する活性の例が提供されるが、発明者は、本明細書に記載されるθディフェンシンアナログが、局所真菌感染症(例えば、鵞口瘡)のような他の真菌感染症の治療に有効であり得ると考える。加えて、発明者は、本明細書に記載されたθディフェンシンアナログが、免疫又は炎症反応の異常調節に起因する様々な状態(慢性状態を含む)の治療に用いられ得ると考える。このような慢性状態の例は関節リウマチ及び炎症性腸疾患を含む。
【0038】
発明者は、θディフェンシンが抗ウイルス活性を有することが見出されていることに注目し、本発明の概念のθディフェンシンアナログが、同様に抗ウイルス性活性をもたらすことが可能であり、ウイルス性疾患及びウイルス感染症の炎症性後遺症の治療に有用であることを証明できると考える。このような治療は予防及び/又は進行中の疾患を含む。いくつかの実施形態では、そのように治療される進行中の疾患は症候性である。他の実施形態では、そのように治療される進行中の疾患は無症候性である。
【0039】
驚くべきことに、θディフェンシンアナログは、全身性真菌感染症に反応して免疫系を調節する際に2相反応をもたらすことが明らかにされた。初期の効果は好中球の動員であり、真菌病原体のクリアランスをもたらす。これは感染症に対して有効に働き、驚くべきことに、生体外モデル病原体に対して抗真菌効果を示さないθディフェンシンアナログの濃度において起きることが見出された。この初期の動員効果に続いて、これらの合成θディフェンシンアナログは、長期生存及び播種性真菌感染症に起因する敗血症ショックの予防に寄与する長期免疫調節効果(例えば、TNF、IL-6及び他の炎症性サイトカインを低減する)を示す。
【0040】
上述のように、天然に存在するθディフェンシン及び例示的なθディフェンシンアナログの例を
図1から
図6及び
図8に示す。これらの環状ペプチドは、ペプチド骨格を介して環化され、それにより従来のアミノ末端及びカルボキシル末端を欠くことは理解されるべきである。従って、添付のアミノ酸配列表に提供されるアミノ酸配列情報は、これらのθディフェンシンアナログの個別のN末端又はC末端の記述として解釈されるべきではない。本出願の文脈内で、アミノ酸位置は、
図7Aに示すように、θディフェンシンアナログの共通構造特徴に基づいた数字指定を用いて同定される。示すように、環状テトラデカペプチド鎖に沿ったそれぞれの位置は数字指定を有する。モデル合成環状テトラデカペプチドの環状ペプチド5(
図6に示す)へのこの番号付けスキームの適用は
図7Bに示す。このような14アミノ酸アナログについて、
図7A及び
図7Bに示すように、それらの三次元構造は、環状θディフェンシン及びそれらのアナログに使用するために適合された番号付けシステムを用いて指定され、アミノ酸6から9によって形成される第1のβターン及びアミノ酸13、14、1、及び2によって形成される第2のβターンを含むことが理解されるべきである。
【0041】
適切な環状テトラデカペプチドは、播種性カンジダ症のマウスモデルに対してスクリーニングすることにより同定され得る。American Type Culture Collectionから入手したカンジダ・アルビカンスSC5314は適切な参照株として用いられ得る。好適な実施形態では、耐性カンジダ・アルビカンス及び/又は二つ以上の抗真菌薬に対して耐性を示すカンジダ・アルビカンスの一つ以上の株が用いられ得る。代表的な抗真菌薬は、カスポファンギン及びフルコナゾールを含む。試験される環状のテトラデカペプチド及び抗真菌薬は、水又は等張生理食塩水において懸濁され又は溶解され、皮下、筋肉内、静脈内及び/又は腹腔内注射によって投与され得る。
【0042】
合成環状テトラデカペプチド及び抗真菌化合物の生体外活性は、RTD-1に関して上述される当技術分野において知られている従来の培養技術を用いて測定されてもよく、抗真菌未満の濃度を測定するために用いてもよい。全身性又は播種性カンジダ症は、例えば、近交系のBALB/c又は非近交系のCD-1雌マウスに、0.15mLから2mLまでのカンジダ・アルビカンス(参照株又は耐性株)を約2×105から約2×107CFU/mLまでの菌で投与することによって生体内でモデル化され得る。動物は、病原体投与前、病原体投与時、又は病原体投与後に、合成環状テトラデカペプチドの候補により治療され得る。抗真菌薬及び/又は合成環状テトラデカペプチドの候補は、このような全身性又は播種性カンジダ症の生体内モデルにおいて、皮下、筋肉内、静脈内及び/又は腹腔内に投与され得る。
【0043】
発明者は、生体内でかなりの抗真菌活性を示す多くの新しいθディフェンシンアナログを同定している。例示的な環状ペプチドのアミノ酸配列は表2に示す。アミノ酸の同一性が、
図7Aに確立された環状構造内の対応する位置の数字指定を用いて示されることは理解されるべきである。
【表2】
ペプチド環状ペプチド1、環状ペプチド2、環状ペプチド3、及び環状ペプチド4は、環状ペプチド5と共通構造特徴を示し、発明者は、これが播種性真菌疾患の生体内モデルにおいて抗真菌及び抗炎症活性を示す他の合成環状テトラデカペプチドに共通して見出されると考える。
【0044】
環状ペプチド6は、ペプチドのジスルフィド結合に関わるシステインの間にアルギニンを挟むこと(すなわち、「C-X-Cボックス」内)、及び表2におけるアミノ酸6、7、8、及び9によって規定される第1のβターン内に連続した(すなわち、隣接した)アルギニンのトリプレットを含まないことにおいて、モデルペプチド環状ペプチド5とは顕著に異なる。発明者は、環状ペプチド6が、環状ペプチド1、環状ペプチド2、環状ペプチド3、及び環状ペプチド4によって示されるものとは異なるファミリーの合成環状テトラデカペプチドθディフェンシンアナログを示すと考える。発明者は、2対のジスルフィド結合されたシステインによって区切られたC-X-Cボックス構造内に複数のアルギニンを含み、及び/又は位置6、7、及び8において連続/隣接するアルギニンの特徴的トリプレットを欠く合成環状テトラデカペプチドが、播種性真菌感染症の生体内モデルにおいて顕著な抗真菌活性を有し得ることをさらに考える。
【0045】
活性研究では、顕著な抗真菌活性を有することが初期に同定された合成環状テトラデカペプチド環状ペプチド5(配列番号6)を、モデルペプチドとして用いた。簡潔に、7から8週齢の免疫能力を有する雌BALB/cマウスに3×10
5CFUのカンジダ・アルビカンスSC5314をT=0において静脈内に投与した。感染の24時間後、マウスに生理食塩水、フルコナゾール(Fluco)、カスポファンギン(Caspo)、又は合成環状テトラデカペプチドを1日1回、7日間腹腔内に投与した。発明者は、0.25mg/kgの環状ペプチド5が5mg/kgのRTD-1よりも効果的であるように、モデルペプチド環状ペプチド5が、この生体内モデルにおいて天然のθディフェンシンRTD-1よりも実質的に強力であることを以前に測定していた。両方のペプチドが、5mg/kgのフルコナゾール(
図9参照)よりも効果的であった。しかし、環状ペプチド5ペプチドの用量を0.1mg/kgまで減少すると、生存率の向上をもたらさなかった(
図10参照)。
【0046】
合成環状テトラデカペプチドの候補に対して、5mg/kgを超える濃度で投与されたときに、毒性の欠如を測定することにより、耐性について事前スクリーニングを行った。合成環状テトラデカペプチドの候補に対して、環状ペプチド5参照ペプチド及びフルコナゾールと各候補を比較して、各ペプチドの1日の用量(0.1及び0.5mg/kg)、7日間、感染の24時間後に始まる条件で、上述のカンジダ症モデルにおける効果についてスクリーニングを行った。
【0047】
これらの試験プロトコル下で、生理食塩水投与カンジダ・アルビカンス感染マウスは、毛の乱れ及び有意な体重減少を示し、5から10日以内に瀕死になり、その時点までに30%を超える体重減少があった。対照的に、長期生存している環状ペプチド5投与カンジダ敗血症マウスは、一時的に体重が平均15%減少したが、10日目までに頭打ちになり、このコホートの90%が3日目までに初期体重を回復した)。
【0048】
カンジダ敗血症モデル及び有効性の指標として生存率を用いることで、環状ペプチド5と同等以上である多くの合成環状テトラデカペプチドを同定した。これらの中には環状ペプチド3、環状ペプチド4、環状ペプチド1、環状ペプチド2、及び環状ペプチド6があった。これらについての生体内播種性カンジダ症モデルの結果は、
図10から
図15に示す。
【0049】
図10は、0.25mg/kg又は0.1mg/kgの環状ペプチド5を用いた試験による代表的な結果を示す。環状ペプチド5は、生理食塩水投与と同様の結果であり、比較的に効果が低いことが分かった。
図11は、0.25mg/kgの環状ペプチド5投与と0.1mg/kgの環状ペプチド3投与との間の代表的な比較結果を示す。環状ペプチド3は、この比較的低用量で効果を発揮することを見出した。
図12は、環状ペプチド5及び環状ペプチド4の比較研究の代表的な結果を示し、両方のペプチドを0.25mg/kgで用いた。環状ペプチド4は、この用量において有効である。
図13は、環状ペプチド5投与と環状ペプチド1投与との間の代表的な比較結果を示し、両方のペプチドを0.25mg/kgで適用した。環状ペプチド1は、この用量において有効である。
図14は、0.25mg/kgの環状ペプチド5及び0.1mg/kgの環状ペプチド1の比較研究による代表的な結果を示す。環状ペプチド1は、この比較的低用量において有効である。
【0050】
上述のように、環状ペプチド6は、ペプチドの特徴的なβターン部分(AA6、AA7、AA8、及びAA9によって規定される)内の連続する(すなわち、隣接する)アルギニン残基のトリプレットが欠如していること、及び環状ペプチドのこのファミリーの特徴的なC-X-Cボックス内に疎水性のアミノ酸ではなく、強塩基性のアルギニン残基を有することにおいて本明細書に引用される他のペプチドと異なる。
図15は、環状ペプチド5と環状ペプチド6との間の比較研究からの代表的なデータを示し、ペプチドを0.25mg/kgで用いた。環状ペプチド6は、両方の先行技術(抗真菌薬(フルコナゾール)及び環状ペプチド5)の結果を超える生存率をもたらすことを見出した。
【0051】
それぞれの場合において、特定の合成環状テトラデカペプチドが生存率を強化し、その効果は非常に有意であった(P<1×10-5、ログランク検定)。環状ペプチド3、環状ペプチド4、環状ペプチド1、及び環状ペプチド6はエンドポイント分析(30日(p.i.)におけるχ2検定)により生存率を強化することにおいてフルコナゾールより効果的であった。同定された全ての合成テトラデカペプチドは、この生体内モデルにおいて有意に体重減少を抑制した。
【0052】
腎真菌負荷は、瀕死の生理食塩水投与対照(5から10日(p.i.))及び合成環状テトラデカペプチド又はフルコナゾール投与長期生存(30日(p.i.))の腎ホモジネートにおいて測定した。
図16に示すように、合成環状テトラデカペプチド(0.1又は0.25mg/kg)及び5mg/kgのフルコナゾールは真菌負荷を低減した。環状ペプチド5、環状ペプチド3、環状ペプチド4、及び環状ペプチド1は、フルコナゾールよりも大きく真菌負荷を低減した(
図16のアスタリスク;フィッシャーのLSD検定により分析:環状ペプチド5(P=3×10
-3)、環状ペプチド3(P=7.4×10
-3)、環状ペプチド4(P=0.02)、及び環状ペプチド1(P=3.5×10
-5)。
【0053】
多くの配列特徴が、これらの参照ペプチドと比較して、RTD-1及び環状ペプチド5由来のアナログへ優れた活性を与えることを確認した。上述のように、環状ペプチド3、環状ペプチド4、環状ペプチド1、及び環状ペプチド2は、明確な構造類似性を示す合成環状テトラデカペプチドθディフェンシンアナログのグループを示す。発明者は、顕著な抗真菌活性及び/又は抗炎症活性を有し、このファミリー内であるθディフェンシンアナログが、少なくとも以下を有し得ると考える。
・二つのジスルフィド結合(それぞれ、システイン3とシステイン12との間、及びシステイン5とシステイン10との間)。
・セリン又はθディフェンシンアナログの一次構造におけるシステイン3とシステイン5との間に位置する疎水性アミノ酸及びシステイン10とシステイン12との間に位置する疎水性アミノ酸(すなわち、位置4及び位置11)であり、疎水性アミノ酸は、好適にはロイシン又はイソロイシンである。上述のジスルフィド結合と組み合わせて、ペプチドの環状一次構造内に「C-X-Cボックス」として特徴を規定し、ここで「C」はシステインであり、「X」はセリン、ロイシン、又はイソロイシンである。
・生理的pHにおいて+5の電荷を有するペプチドをもたらす合計五つのアルギニン残基。
・位置6、7、及び8(すなわち、第1βターン内)に存在する、隣接するアルギニンのトリプレット。
いくつかの実施形態では、活性θディフェンシンアナログはまた、一つ以上の以下の特徴を含み得る。
・位置1に存在するグリシン。
・位置2及び位置9に存在する疎水性アミノ酸であり、好適にはバリン又はロイシンである。
・第2のβターン(例えば、位置13及び14)内のアルギニン対。
【0054】
候補ペプチドの毒性は、活性θディフェンシンアナログが以下の一つ以上を含むべきではないことを示唆する。
・位置4におけるアラニン。
・位置11におけるアラニン。
【0055】
従って、発明者は、上述の「C-X-Cボックス」構造、位置6、7、及び8における隣接するアルギニン残基のトリプレット、位置9における疎水性アミノ酸(例えば、バリン又はフェニルアラニン)を含み、アルギニン含有量に起因する+5の正味の正電荷(合計アミノ酸含有量の約36%)を有する合成環状テトラデカペプチドθディフェンシンアナログが、播種性真菌感染症において死亡率の減少及び/又は長期生存率の向上の点で有効であり、炎症反応又は免疫反応の異常調節によって特徴付けられる他の状態を治療する点で有効であり得ると考える。
【0056】
発明者は、環状ペプチド6が、以下を除いて上記特徴の全て又はいくつかを有するθディフェンシンの合成環状テトラデカペプチドアナログの異なるファミリーの代表であると考える。
・C-X-Cボックス内の二つ以上の正電荷を有するアミノ酸(例えば、アルギニン、リジン)の複数の存在。
・AA6、AA7、AA8、及びAA9に規定される第2のβターン内の連続する(すなわち、隣接する)アルギニントリプレットの欠如。
【0057】
本明細書に記載するように、θディフェンシンの合成環状テトラデカペプチドアナログは、任意の適切な方法を用いて適用され得る。例えば、そのようなアナログは、注射又は注入によって提供され得る。いくつかのθディフェンシンアナログについて観測される高度な有効性は、これらが単純な皮下、皮内、皮下、及び/又は筋肉内注射によって有効量の投与を必要とする個人に提供され得ることを示す。
【0058】
代わりに、環状構造及びジスルフィド結合の存在によってもたらされる低い分子量及び高度な安定性は、本発明の概念のθディフェンシンアナログの経口投与を可能にし得る。このような経口投与は、経口投与に適した液体薬剤担体中のθディフェンシンアナログの溶液又は懸濁液の投与を含み得る。いくつかの実施形態では、θディフェンシンアナログは、経口投与の前に液体媒体中で再構成される乾燥又は凍結乾燥形態において提供され得る。このような乾燥又は凍結乾燥製剤は、安定剤を含み得る。このような安定剤は、糖類(例えば、マンニトール、スクロース、トレハロース)及び/又はタンパク質(例えば、アルブミン)を含む。
【0059】
代わりに、θディフェンシンのアナログは、錠剤、カプセル、丸薬、又は経口投与のために他の適切な固体及び小型の形態で提供され得る。このような製剤は、θディフェンシンアナログの放出を遅らせる(例えば、小腸に到達するまで放出を遅らせる)ためにもたらすコーティング、殻、又は類似の構成要素を含み得る。このような製剤は、同封物又はコーティング内の液体形態中にθディフェンシンを含み得る。代わりに、このような製剤は、乾燥又は凍結乾燥形態中にθディフェンシンアナログを含み得る。適切な乾燥又は凍結乾燥形態は、粉末、顆粒、及び圧縮固体を含む。このような乾燥又は凍結乾燥製剤は、安定剤を含み得る。適切な安定剤は、糖類(例えば、マンニトール、スクロース、トレハロース)及び/又はタンパク質(例えばアルブミン)を含む。
【0060】
上述のように、本発明の概念のθディフェンシンアナログは、播種性真菌感染症及び関連する敗血症及び/又は敗血症ショックを有効に治療し得る。いくつかの実施形態では、このような治療が、進行中の急性状態に反応する。他の実施形態では、このような治療は予防であり、例えば、個人が播種性真菌感染症を有していると疑われるとき、又はこの状態を発症する可能性が高いときに、播種性真菌感染症の発症を抑制するために用いられる。治療は、任意の適切なスケジュールにおいて、本発明の概念のθディフェンシンアナログの投与によって提供され得る。例えば、θディフェンシンアナログは、一回投与、定期的投与、又は継続的注入として提供され得る。定期的投与は、任意の適切な間隔で投与され得る。定期的な間隔は1時間毎、2時間毎、4時間毎、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、2日毎、3日毎、1週間2回、1週間毎、2週間毎、4週間毎、2ヶ月毎、3ヶ月毎、4ヶ月毎、1年3回、1年2回、1年毎であり得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、θディフェンシンアナログの投与方法は、治療中に変更され得る。例えば、本発明の概念のθディフェンシンアナログは、最初は静脈注射又は注入(例えば、急性播種性真菌感染症における有効濃度を急速に提供する)によって投与されてもよく、後に治療の残り期間にわたって有効濃度を維持するために、皮内注射、筋肉内注射、及び/又は経口投与により投与されてもよい。
【0062】
予防的な使用のため、θディフェンシンアナログは、観測可能な症状が発生する前に投与され得る。進行中の疾患又は状態の治療のために、θディフェンシンアナログは、疾患又は状態を有効的に治療するのに適切な期間に投与され得る。このような期間は、制御された期間にわたってもよく、又は長期間(例えば、慢性的な状態の治療のため)であってもよい。
【0063】
本発明の概念のいくつかの実施形態では、θディフェンシンアナログは、他の医薬活性化合物と組み合わせて用いられ得る。適切な化合物は、θディフェンシン、異なるθディフェンシンアナログ、抗真菌抗生物質、抗菌性抗生物質、抗ウイルス薬、抗炎症薬(例えば、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬)、昇圧剤、及び/又は生物製剤(例えば、抗体又は抗体断片)を含む。このような追加の医薬化合物は、θディフェンシンアナログと同じスケジュール又は独立したスケジュールで提供され得る。いくつかの実施形態では、θディフェンシンアナログ含有製剤は、このような追加の医薬活性化合物の一つ以上を組み込んで提供され得る。発明者は、このような連携療法は、追加の医薬活性化合物と組み合わせたθディフェンシンアナログ投与の累積効果が、連携療法のために用いられる量に対応する量のθディフェンシンアナログ及び追加の医薬活性化合物を用いた治療において観測される個々の効果の合計を超える相乗効果を提供し得ると考える。
【0064】
本明細書における本発明の概念から逸脱することなく、既に記載された以外にも多くの変更が可能であることは、当業者にとって明らかであるべきである。従って、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の趣旨を除いて制限されるべきではない。加えて、本明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈する際に、全ての用語は、文脈と矛盾しない可能な限り最も広い方法で解釈されるべきである。特に、用語「備える」及び「備えている」は、要素、構成要素、又は工程を非排他的方法で示すものとして解釈されるべきであり、参照された要素、構成要素、又は工程は、明確に参照されていない他の要素、構成要素、又は工程と共に存在してもよく、又は用いられてもよく、又は組み合わされてもよいことを示す。本明細書、特許請求の範囲が、A、B、C...及びNからなる群から選択されたものの内少なくとも一つを示す場合、この文言は、A+N、又はB+N等ではなく、その群からの単に一つの要素を必須とすることと解釈されるべきである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2025-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載した発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】