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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026780
(43)【公開日】2025-02-25
(54)【発明の名称】梁端接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20250217BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
E04B1/58 508T
E04B1/30 Z
E04B1/58 506T
E04B1/30 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131726
(22)【出願日】2023-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522496493
【氏名又は名称】株式会社カナイグループ
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】熊川 佳伸
(72)【発明者】
【氏名】入江 康孝
(72)【発明者】
【氏名】浅見 忠明
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】金井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】金井 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 正芳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優也
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC15
2E125AC23
2E125AC24
2E125AG03
2E125AG12
2E125AG23
2E125AG41
2E125BB01
2E125BB02
2E125BB22
2E125BD01
2E125BE02
2E125BE07
2E125BF01
2E125CA05
2E125CA79
(57)【要約】
【課題】梁端の接合状態を構造計算上のモデルと良好に適合させることができるとともに、木質材からなる梁の割裂破壊を抑える。
【解決手段】矩形断面を有する木質梁1の端部を、支持構造部材である鉄骨梁2に固定された接合プレート3を介して該鉄骨梁に接合する。木質梁の端面に設けられた鉛直方向のスリットに上記接合プレートが挿入され、木質梁の側面から水平方向に貫通する複数のピン孔及び接合プレートのピン孔と対応する位置に設けられた複数の貫通孔に挿通されたドリフトピン5によって木質梁と接合プレートが接合されている。ピン孔は、木質梁の下端から最下段のピン孔までに所定の距離を保持するとともに梁高の下方に寄せて配列され、接合プレートに設けられた複数の貫通孔のうちの一部であって1つ又は近接した位置にある複数の貫通孔は円孔3aであり、他の貫通孔3bは水平方向に長軸を有する長孔となっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材からなり矩形断面を有する梁の端部を、支持構造部材に固定された接合プレートを介して該支持構造部材に接合し、支持させる梁端接合構造であって、
前記接合プレートは、前記梁の軸線方向に突き出した鉛直面を有するものであり、
前記梁の端面に設けられた鉛直方向のスリットに前記接合プレートが挿入され、
前記梁の側面から水平方向に貫通する複数のピン孔及び前記接合プレートの前記ピン孔と対応する位置に設けられた複数の貫通孔に挿通されたドリフトピンによって前記梁と前記接合プレートが接合されており、
前記ピン孔は、前記梁の下端から最下段のピン孔までに所定の距離を保持するとともに梁高の下方に寄せて配列され、
前記接合プレートに設けられた複数の貫通孔のうちの一部であって1つ又は近接した位置にある複数の貫通孔は円孔であり、他の貫通孔は水平方向に長軸を有する長孔となっていることを特徴とする梁端接合構造。
【請求項2】
前記ピン孔及び前記貫通孔は、鉛直方向に所定間隔で設けられて孔列をなし、水平方向に間隔をあけて複数列が形成されており、隣り合う2つの列で孔の高さ方向の位置が異なった千鳥状となっていることを特徴とする請求項1に記載の梁端接合構造。
【請求項3】
前記梁の下端から最下段のピン孔までの距離は、前記ドリフトピン及び接合プレートを含む梁と支持構造部材の接合部の耐火性を保持するために設定される距離であることを特徴とする請求項1に記載の梁端接合構造。
【請求項4】
前記貫通孔のうちの円孔は、最も離れた位置にある2つの貫通孔間の中央位置に最も近い1つ又は中央位置に近接する複数の貫通孔であることを特徴とする請求項1に記載の梁端接合構造。
【請求項5】
前記支持構造部材は、支持梁又は柱であり、該支持梁又は該柱の側面と前記梁の端面との間には空間が設けられ、該空間内に吸熱材が介挿されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の梁端接合構造。
【請求項6】
前記支持構造部材は前記梁より梁高が小さい支持梁であり、該支持梁と前記梁との上端はほぼ同じ高さに設定され
前記接合プレートは前記支持梁の下端より下方に伸長して設けられ、
前記梁と前記接合プレートとを接合するドリフトピンの一部又は全部は、前記支持梁の下端より下方に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の梁端接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材からなる梁の端部を支持構造部材に接合して支持させる梁端接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木造の大規模又は中規模の建築物では、梁として大断面の木質材が用いられることが多くなっている。また、木質材と鉄骨材との複合構造、木質材とコンクリート部材との複合構造等が採用されることもあり、木質材からなる大断面の梁を他の構造部材、例えば木質材、鉄骨材、鉄筋コンクリート部材、鉄骨鉄筋コンクリート部材である梁や柱と接合する必要が生じている。
【0003】
一般に、木質材からなる梁を他の構造部材と接合する構造としては、例えば特許文献1や特許文献2に開示されるものがある。これらは、梁端が接合される支持構造部材に梁受け金物を固定し、この梁受け金物を介して梁端を支持構造部材に接合するものである。梁受け金物は支持構造部材から突き出した鉛直面を有する鋼板部を有するものであり、木質材からなる梁の端面に設けられたスリット内に上記鋼板部が挿入される。そして、木質材からなる梁の側面から水平方向に設けられたピン孔及び鋼板部に設けられた貫通孔にドリフトピンを挿通して梁受け金物と梁とを接合するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-231562
【特許文献1】特開2008-215057
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、梁の断面が大きくなり、梁上の載荷重が大きくなって梁端に作用するせん断力が大きくなるとドリフトピンの数が多くなり、これらは上下方向に配列されることになる。このようにドリフトピンの数が多くなると梁端の回転変位が梁端を支持する支持構造部材によって拘束され、梁端に作用する曲げモーメントが大きくなる。このような梁端と支持構造部材との接合を構造計算においてピン接合と仮定すると実際の構造との乖離が大きくなる。また、複数のドリフトピンによって梁受け金物と接合した構造では完全な剛結合とはならず、回転方向に多少の相対変位を生じるものとなり、構造計算で梁端を剛結合としても実際の構造との差が生じてしまう。
【0006】
一方、梁は他の支持構造部材と接合するときに、一般に上面を基準にして位置が設定され、図8に示すように木質材からなる梁を接合するための金物62の取り付け位置も上面の位置を基準に設定される。このため、梁61を支持する金物62及びドリフトピン63の位置が梁高の上に偏ることがある。ドリフトピン63の位置が上部に偏ると梁端に作用するせん断力を梁高の上部で支持することになる。このため、図8中に示すようにドリフトピン63が配列された位置の下側で梁端に木質材の割れ64が生じ易くなる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、梁端の接合状態を構造計算上のモデルと良好に適合させることができるとともに、木質材からなる梁の割裂破壊を抑えることができる梁端接合構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 木質材からなり矩形断面を有する梁の端部を、支持構造部材に固定された接合プレートを介して該支持構造部材に接合し、支持させる梁端接合構造であって、 前記接合プレートは、前記梁の軸線方向に突き出した鉛直面を有するものであり、 前記梁の端面に設けられた鉛直方向のスリットに前記接合プレートが挿入され、 前記梁の側面から水平方向に貫通する複数のピン孔及び前記接合プレートの前記ピン孔と対応する位置に設けられた複数の貫通孔に挿通されたドリフトピンによって前記梁と前記接合プレートが接合されており、 前記ピン孔は、前記梁の下端から最下段のピン孔までに所定の距離を保持するとともに梁高の下方に寄せて配列され、 前記接合プレートに設けられた複数の貫通孔のうちの一部であって1つ又は近接した位置にある複数の貫通孔は円孔であり、他の貫通孔は水平方向に長軸を有する長孔となっている梁端接合構造を提供する。
【0009】
この梁端接合構造では、接合プレート及びドリフトピンを介して梁の端部が支持構造部材に支持される。そして、一部の貫通孔以外は長孔となっており、これらの長孔に挿通されたドリフトピンは長孔内で水平方向に移動が可能となって、梁端は貫通孔が円孔となっているドリフトピンの周りで回転方向の変位が許容される。つまり梁端はピン接合に近い状態で支持構造部材に接合される。
複数のドリフトピンのすべてが接合プレートの円孔に挿通されていると、完全な剛結合ではなく、わずかな相対変位を許容しながら梁と支持構造部材との間で曲げモーメントが伝達され、不確定要素を含む接合構造となる。これに対し、上記のようにドリフトピンが挿通される貫通孔の一部を長孔にすることによりピン接合に近い状態として構造計算と良好に対応する構造とすることができる。
また、ドリフトピンが挿通されるピン孔を、梁の下方に寄せて設けることにより、梁端を下方から支持することができ、梁端に作用するせん断力によって支持する部分の下側で梁に割裂つまりほぼ水平方向の割れが生じるのを抑えることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の梁端接合構造において 前記ピン孔及び前記貫通孔は、鉛直方向に所定間隔で設けられて孔列をなし、水平方向に間隔をあけて複数列が形成されており、隣り合う2つの列で孔の高さ方向の位置が異なった千鳥状となっているものとする。
【0011】
この梁端接合構造では、ドリフトピンを挿通するピン孔及び接合プレートの貫通孔を千鳥状に設けることにより、複数のピン孔及び貫通孔を小さい範囲に集中して設けることができ、ドリフトピンの長孔内での移動を小さく抑えることが可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の梁端接合構造において、 前記梁の下端から最下段のピン孔までの距離は、前記ドリフトピン及び接合プレートを含む梁と支持構造部材の接合部の耐火性を保持するために設定される距離とする。
【0013】
この梁端接合構造では、梁の下部が火炎に曝されたときにも建造物に要求される耐火性を有するものとなり、接合部で梁を支持する状態を維持することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の梁端接合構造において、 前記貫通孔のうちの円孔は、最も離れた位置にある2つの貫通孔間の中央位置に最も近い1つ又は中央位置に近接する複数の貫通孔とする。
【0015】
この梁端接合構造では、接合プレートに設けられる長孔を円孔に近い位置に設けることができ、長孔内でドリフトピンの移動を小さく抑えることができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の梁端接合構造において、 前記支持構造部材は、支持梁又は柱であり、該支持梁又は該柱の側面と前記梁の端面との間には空間が設けられ、該空間内に吸熱材が介挿されているものとする。
【0017】
この梁端接合構造で支持構造部材が鋼からなるときには、火災時に支持構造部材が高温となるが、木質材の梁に熱が伝達されて木質材の梁が燃焼開始温度以上となるのを抑えることができる。また、支持構造部材が木質材であるときには、支持構造部材と梁との相互間での熱の伝達を遅らせることが可能となる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の梁端接合構造において、 前記支持構造部材は前記梁より梁高が小さい支持梁であり、該支持梁と前記梁との上端はほぼ同じ高さに設定され、 前記接合プレートは前記支持梁の下端より下方に伸長して設けられ、 前記梁と前記接合プレートとを接合するドリフトピンの一部又は全部は、前記支持梁の下端より下方に設けられているものとする。
【0019】
この梁端接合構造では、梁の高さが支持構造部材である支持梁の高さより大きいときにも、梁を下部で支持して支持梁に接合することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の梁端接合構造では、梁端の接合状態が回転変位を許容するものとなり、実際の構造物の状態と良好に適合した構造解析が可能となる。また、梁端を端面の下部で支持することによって木質材からなる梁の割裂破壊を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態である梁端接合構造を示す平面図及び側面図である。
図2図1に示す梁端接合構造に用いられる接合プレート及び梁端を接合するためのドリフトピンの配置を示す拡大図である。
図3】本発明の他の実施形態である梁端接合構造を示す平面図である。
図4】本発明の他の実施形態である梁端接合構造を示す平面図である。
図5】本発明の他の実施形態である梁端接合構造を示す平面図及び側面図である。
図6】本発明の他の実施形態である梁端接合構造を示す側面図である。
図7】本発明の他の実施形態である梁端接合構造を示す平面図である。
図8】従来の梁端接合構造の問題点を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である梁端接合構造の平面図及び側面図である。
この梁端接合構造は、I形断面の鉄骨梁2の側面に、木質材からなる梁1の端面を対向させて該鉄骨梁2と該木質梁1とを接合する構造である。支持構造部材である鉄骨梁2にはボルト4によって接合プレート3が固定され、この接合プレート3に木質梁1が複数のドリフトピン5を介して接合されるものである。
【0023】
鉄骨梁2の木質梁1が接合される部分には、鉄骨梁2のウェブ2aとほぼ直角方向の鉛直面を有する梁受け部材6が設けられている。この梁受け部材6は鋼板からなるものでウェブ2a、上フランジ2b及び下フランジ2cに溶接接合され、上部は上フランジ2b及び下フランジ2cの側縁より張り出しており、この部分に接合プレート3を接合するための複数のボルト孔が設けられている。
【0024】
接合プレート3は矩形の鋼板であり、上記梁受け部材6の上フランジ2b及び下フランジ2cより張り出した部分に一部が重ね合わされ、上記梁受け部材6のボルト孔と対応する部分にボルト孔が設けられている。そして、重ね合わされた双方のボルト孔に挿通したボルト4を締め付けることによって該接合プレート3が鉄骨梁2に固定されている。ボルト4は通常のボルトでもよいが、高力ボルトを用いるのが望ましい。
【0025】
木質梁1は、矩形の断面を有する集成材からなるものであり、梁幅に対して梁高が大きくなっている。そして、上面が鉄骨梁2の上面とほぼ同じ高さとなるように接合される。この木質梁1の端面には、鉛直方向にスリットが設けられており、このスリットに上記梁受け部材6に固定された接合プレート3が挿入されている。
【0026】
この木質梁1には、側面から反対側の側面へほぼ水平に貫通し、ドリフトピン5が挿通されるピン孔が複数設けられている。そして、接合プレート3の上記ピン孔と対応する位置には貫通孔が設けられており、木質梁1のピン孔から接合プレート3に設けられた貫通孔に挿通されたドリフトピン5によって木質梁1と接合プレート3とが接合されている。
【0027】
上記木質梁1に設けられたピン孔は、挿通されるドリフトピン5の円形断面とほぼ同径の円孔であり、挿通されたドリフトピン5の外周面にぴったりと密着するように形成される。これらのピン孔は、図1に示すように鉛直方向に一定の間隔で形成された孔列が2列設けられ、双方の孔列で各ピン孔の高さ方向の位置が互いに異なるように、つまり千鳥状となるように形成されている。そして、これらのピン孔は、木質梁1の梁高内で下方に寄せて形成され、最も下方となる位置に形成されるピン孔は、木質梁1の下面から耐火性能又は構造上において必要な高さの位置に設定されている。
耐火性能から要求される高さは、例えば所定の耐火時間においてもドリフトピン5が木質梁1を支持する性能を失わない高さであり、構造上において要求される高さは、ドリフトピン5を介して木質梁1が支持された状態で木質梁1の割れ等の変形が生じない高さとして定めることができる。
【0028】
一方、木質梁1に設けられたピン孔と対応する位置で接合プレート3に形成された貫通孔は、図2に示すように、孔列の高さ方向における中位にある2つの貫通孔3aは円形であり、ドリフトピン5がほとんど隙間を生じることなく挿通される大きさに設定されている。また、2つの円孔より高い位置及び低い位置にある貫通孔3bは水平方向に長軸を有する長孔となっている。
【0029】
なお、図2に示す実施の形態では、円孔となっている貫通孔3aは2つであるが、一つでもよいし、3つ以上の複数であってもよい。ただし、複数の貫通孔を円孔とするときには、円孔とする複数の貫通孔は互いに近接した位置にあるものを選択し、できるだけ狭い範囲に集約された配置とするのが望ましい。
また、円孔となっている貫通孔3aは、上下方向に配列された中位のものとしているが、上位の貫通孔を円孔としてもよい。
一方、図2に示す実施の形態では、接合プレート3の貫通孔及び木質梁のピン孔は、2列に形成されているが、1列であってもよいし、3列以上に形成されるものであってもよく、梁端に作用するせん断力に応じて適宜に設計することができる。
【0030】
一般に、梁上に荷重が作用したとき、梁にたわみが生じるとともに梁端が拘束されていると梁端に曲げモーメントが発生する。梁端が他の梁の側面に接合されているようなときには、梁端から曲げモーメントが他の梁に伝達され、他の梁にはねじりモーメントが作用する。
しかしながら、上記実施形態の梁端接合構造では、木質梁1にたわみが生じたときに梁端では大きな拘束力は作用せず、梁端の回転変位が許容される。つまり、木質梁1のピン孔に挿通されたドリフトピン5は、図2に示すように接合プレート3の長孔3b内に挿通されたものが木質梁1とともに水平方向に移動し、木質梁1の梁端は、接合プレート3の円孔3a付近を中心にして回転変位が生じる。このとき、摩擦等によって多少の拘束力は作用するが、梁端から支持構造部材である鉄骨梁2に伝達される曲げモーメントは大幅に低減される。
【0031】
これにより、木質梁1の端部は鉄骨梁2との間でピン接合に近い状態で挙動をすることになり、ピン接合として構造解析を行った結果と良好に適合する。したがって、実際の梁端接合部の挙動と構造解析上の挙動との不一致による不確実性を解消して信頼性の高い設計が可能となる。
【0032】
また、ドリフトピン5が挿通される木質梁1のピン孔が、梁高の下方に寄せて形成されていることにより、ドリフトピン5が挿通されている領域の下側で木質梁1に割れが生じるのを抑えることができる。つまり、木質梁1の梁高の全域にわたって作用するせん断力を梁端の上部で支持すると、支持する領域の下側に上下方向の引張力が作用し、割れが生じ易くなるが、上記構成によって割れを回避することができる。さらに、ドリフトピン5の配置によって割れを抑止することが可能になるのにともない、ドリフトピン5を配列する位置と梁端面との間の長さを小さくすることができ、回転変位が生じる位置を支持構造部材に近づけて支持構造部材に生じる曲げモーメントを低減することができる。
【0033】
図3は、本発明の他の実施形態である梁端接合構造の平面図である。
この梁端接合構造は、木質梁11として幅が大きい部材を用いるときに採用することができるものである。
鉄骨梁12には、図1に示す梁端接合構造と同様に梁受け部材16が鉄骨梁12のウェブ、上フランジ及び下フランジに溶接して設けられているが、梁受け部材16は所定の間隔を開けて2つが平行な鉛直面を形成するように設けられている。そして、それぞれの梁受け部材16に接合プレート13が高力ボルト14によって接合される。木質梁11の端面には、平行に固定された接合プレート13の間隔と対応するように2つのスリットが鉛直方向に設けられており、これらのスリットに接合プレート13がそれぞれ挿入される。
【0034】
木質梁11の側面からは反対側の側面に向けて複数のピン孔がほぼ水平に設けられており、接合プレート13には上記ピン孔と対応する位置に貫通孔が設けられている。これらのピン孔には木質梁11の側面からドリフトピン15が挿入され、接合プレート13の貫通孔に挿通される。ドリフトピン15は、木質梁11の幅と同等の長さを有するものを用いて木質梁11と2つの接合プレート13に挿通するものであってもよいが、図3に示すように一つのピン孔に対して木質梁11のそれぞれの側面から梁幅より短いドリフトピン15を挿入し、それぞれ一方の接合プレート13の貫通孔に挿通させるのが望ましい。
【0035】
上記木質梁11に形成されるピン孔及び2つの接合プレート13に形成される貫通孔の配置は、図1に示す梁端接合構造と同様の配置を採用することができ、接合プレート13に形成された貫通孔の一部は円孔となっており、その他の貫通孔を水平方向に長軸を有する長孔となっている。
これにより、図1に示す梁端接合構造と同様に、鉄骨梁12と木質梁11との接合部は木質梁11からの曲げモーメントの伝達が低減され、いわゆるピン接合に近い状態で挙動する。これにより断面力等の発生は構造解析の結果と良好に合致するものとなる。
【0036】
図4は、本発明の他の実施形態であって、木質梁21の端部を角型の鋼管からなる鉄骨柱22の側面に接合する構造の平面図である。
この梁端接合構造では、鉄骨柱22の側面に鋼板からなる梁受け部材26が溶接によって取り付けられている。この梁受け部材26に接合プレート23が高力ボルト24によって固定される。
接合プレート23、木質梁21及びこれらを接合するドリフトピン25は、図1に示す梁端接合構造と同じ構成とすることができ、接合プレート23に形成される貫通孔及び木質梁21に設けられるピン孔の配置、貫通孔の形状等についても同様の構成を採用することができる。
これにより、この梁端接合構造でも、図1に示す梁端接合構造と同様の効果を奏するものとなる。
【0037】
図5は、本発明の梁端接合構造の他の実施形態を示す平面図及び側面図である。
この梁端接合構造は、木質梁31を支持構造部材である他の木質梁32に接合するものであり、第1の木質梁31の端面を支持構造部材である第2の木質梁32の側面に対向させて接合するものとなっている。
この接合構造で用いられる接合プレート33は第2の木質梁32にボルト34によって直接に固定されている。この接合プレート33は、第2の木質梁32の側面に当接される取付基板33aと、この取付基板33aから垂直に突き出した張出板部33bとを有するものである。そして、張出板部33bの板面が鉛直方向となって第1の木質梁31の軸線方向に張り出すように第2の木質梁32に取り付けられている。
【0038】
上記接合プレート33の取付基板33aには、複数のボルト孔が設けられており、第2の木質梁32には上記ボルト孔と対応する位置にボルトを挿通する貫通孔が設けられている。これらのボルト孔及び貫通孔に挿通されたボルト34にナット37をねじり合わせ、支圧板38を介して締め付けることによって接合プレート33を第2の木質梁32に固定している。
【0039】
第1の木質梁31の端面には、鉛直方向のスリットが形成されており、このスリットに上記接合プレート33の張出板部33bが挿入される。接合プレート33の張出板部33bには、ドリフトピン35を挿通する複数の貫通孔33cが形成され、第1の木質梁31には対応する位置に側面から反対側の側面に至るピン孔が形成されており、これらのピン孔及び接合プレート33の貫通孔33cにドリフトピン35を挿通することによって接合プレート33と第1の木質梁31とが接合されている。
接合プレート33に形成される貫通孔33c及び第1の木質梁31に設けられるピン孔の配置、貫通孔33cの形状については図1に示す梁端接合構造と同様の構成を採用するができ、同様の効果を奏するものとなる。
【0040】
図6は、本発明の他の実施形態である梁端接合構造の側面図である。
この梁端接合構造では、支持構造部材である鉄骨梁42及び木質梁41の梁高が大きく、木質梁41の梁高は鉄骨梁42よりさらに大きくなっている。
鉄骨梁42はI型断面を有するものであり、鋼板材からなる梁受け部材46を備えている。この梁受け部材46は、板面が鉛直方向となってウェブ42aと直角となるように取り付けられ、鉄骨梁42の下面付近で下フランジ42cの側縁より木質梁41の軸線方向に張り出している。そして、下フランジ42cより張り出した部分に接合プレート43を固定するためのボルト孔が設けられている。
接合プレート43は鋼板材からなり、鉄骨梁42の下面より下方に突き出した状態で一部が梁受け部材46と重ね合わされ、高力ボルト44により梁受け部材46に固定されている。
【0041】
木質梁41の端面には鉛直方向のスリットが形成されており、梁受け部材46に固定されて木質梁41の軸線方向に突き出した接合プレート43が上記スリット内に挿入される。接合プレート43には、ドリフトピン45を挿通する複数の貫通孔が形成され、木質梁41には対応する位置にピン孔が形成されており、これらのピン孔及び接合プレート43の貫通孔にドリフトピン45を挿通することによって接合プレート43と木質梁41とが接合される。
【0042】
この梁端接合構造では、上記接合プレート43に形成される複数の貫通孔及び木質梁41に形成される複数のピン孔は、一部が鉄骨梁42の下面より下方に分布するように配列されている。接合プレート43に設けられた貫通孔は、図1に示す梁端接合構造と同様に、一部の貫通孔を円孔とし、他の貫通孔を長孔として木質梁41の端部の回転変位を許容する構造とすることができる。また、木質梁41の梁高が大きくなっても該木質梁41を梁高の下部で支持して支持構造部材である鉄骨梁42に接合することができ、木質梁41の端部で割れが生じるのを有効に防止することが可能となる。
【0043】
図7は、本発明の他の実施形態である梁端接合構造の平面図である。
この梁端接合構造は、支持構造部材である鉄骨梁52、鉄骨梁52に設けられた梁受け部材56、木質梁51、木質梁51と鉄骨梁52とを接合するための接合プレート53、接合プレート53に形成された貫通孔及び木質梁51に形成されたピン孔の配置、形状は、図1に示す梁端接合構造と同じ構成となっている。そして、この梁端接合構造では木質梁51及び鉄骨梁52に耐火被覆57,58が施されている。また、木質梁51の端面には、接合プレート53がスリットに挿入されている部分を除き全面に吸熱材として石膏ボード59が貼り付けられている。この石膏ボード59は、木質梁51の端面付近で接合プレート53と密接するように支持されている。
【0044】
木質梁の端面に貼り付けられる吸熱材は、上記石膏ボードの他に、ケイ酸カルシウム板、ロックウール、セメント板、グラスウール、モルタル板、石板、ガラス板、繊維強化セメント板、不燃シート等を用いることができる。
また、木質梁51及び鉄骨梁52の耐火被覆57,58は、これらの側面と下面を覆うものであり、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板、ロックウール板、セメント板、ALCパネル、コンクリート板等を用いることができる。
なお、耐火被覆57,58は、木質梁51及び鉄骨梁52の全周を覆うもの、つまり両側面及び上下面を被覆するものであってもよい。
【0045】
この梁端接合構造では、木質梁51及び支持構造部材である鉄骨梁52に耐火被覆57,58が施されているので、火災時にも木質梁51及び鉄骨梁52の温度の上昇を遅らせることができる。また、鉄骨梁52の温度上昇は木質梁51より早く生じて高温になるが、梁受け部材56及び接合プレート53を介して木質梁51に伝達される熱の一部が石膏ボード59に吸収される。また、高温となった鉄骨梁52から木質梁51の端面への放射熱、鉄骨梁52と木質梁51の端面との間の空間における対流熱も吸収される。石膏ボード59には20%程度の結晶水が含まれており、加熱時に放出されて蒸発潜熱による吸熱効果が生じるものである。また、石膏ボード59の温度上昇による蓄熱効果によっても熱が吸収される。
なお、吸熱材として上記のような石膏ボード以外の材料を用いたときにも、吸熱量の違いはあるが同様の効果が得られる。
【0046】
以上に説明した梁端接合構造は、本願に係る発明の実施の形態であって、本願に係る発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本願に係る発明の範囲内で適宜に設計することができる。
例えば、支持構造部材が木質材である実施形態として、第2の木質梁32に第1の木質梁31を接合する形態について説明したが、支持構造部材が木質の柱であっても同様に木質梁を接合することができる。
また、以上に説明した実施の形態では、支持構造部材が鉄骨材又は木質材となっているが、これらに限らず支持構造部材がコンクリートの梁又は柱であってもよい。このときには、コンクリートの柱又は梁に一部が埋め込まれたアンカー部材を用いて接合プレートを柱又は梁に固定することができる。また、アンカー部材でブラケットをコンクリートの柱又は梁に固定し、このブラケットに接合プレートを固定するものであってもよい。
【0047】
さらに、梁端接合構造の細部について、次のような点について適宜に設計することができる。
1)支持構造部材が鉄骨梁のときに、梁受け部材は、図1に示すように上部が上フランジと下フランジの側縁より張り出すものや、図6に示すように下部が上フランジと下フランジの側縁より張り出すもの、下フランジより下側で張り出すものであってもよいし、中位部から張り出すもの等、任意に設計することができる。また、上フランジ又は下フランジの側縁から張り出す部分を備えずに、接合プレートを上フランジと下フランジとの間に差し入れて接合するものであってもよい。
2)接合プレートは、以上に説明した実施の形態では矩形の鋼板となっているが、矩形に限定されるものではなく、台形等の他の形状のものを採用することもできる。
3)木質梁は、以上に説明した実施の形態では、梁幅に対して梁高が大きな矩形の断面となっているが、これに限定されるものではなく、梁高に対して梁幅が大きくなった矩形の断面や、その他の形状の断面のものを用いることもできる。
4)支持構造部材が梁であるときに、以上に説明した実施の形態では、木質梁の上面と支持構造部材である鉄骨梁又は木質の梁の上面とが、ほぼ同じ高さに設定されているが、これに限定されるものではなく、支持構造部材である梁の上面より接合する木質梁の上面を高く又は低く設定して段差ができるように接合するものであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1:木質梁, 2:鉄骨梁, 2a:ウェブ, 2b:上フランジ, 2c:下フランジ 3:接合プレート, 3a:接合プレートに設けられた貫通孔のうちの円孔,3b:接合プレートに設けられた貫通孔のうちの長孔, 4:ボルト, 5:ドリフトピン, 6:梁受け部材,
11:木質梁, 12:鉄骨梁, 13:接合プレート, 14:高力ボルト, 15:ドリフトピン, 16:梁受け部材,
21:木質梁, 22:鉄骨柱, 23:接合プレート, 24:高力ボルト, 25:ドリフトピン, 26:梁受け部材,
31:第1の木質梁, 32:第2の木質梁(支持構造部材), 33:接合プレート, 33a:接合プレートの取付基板, 33b:接合プレートの張出板部, 33c:接合プレートに設けられた貫通孔, 34:ボルト, 35:ドリフトピン, 37:ナット, 38:支圧板,
41:木質梁, 42:鉄骨梁, 42a:ウェブ, 42b:上フランジ, 42c:下フランジ, 43:接合プレート, 44:高力ボルト, 45:ドリフトピン, 46:梁受け部材,
51:木質梁, 52:鉄骨梁, 53:接合プレート, 54:高力ボルト, 55:ドリフトピン, 56:梁受け部材, 57,58:耐火被覆, 59:石膏ボード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8