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  • 特開-トマトの保存方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002708
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】トマトの保存方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/148 20060101AFI20241226BHJP
   A23B 7/157 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A23B7/148
A23B7/157
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103035
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】509262529
【氏名又は名称】株式会社イチネンホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】多賀 淳
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏和
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169HA07
4B169KA01
4B169KA07
4B169KA10
4B169KC03
4B169KC19
4B169KD02
4B169KD03
(57)【要約】
【課題】簡便な方法でトマトを長期間保存できる方法を提供する。
【解決手段】樹上完熟させたトマトを次亜塩素酸水で洗浄し次亜塩素酸水洗浄トマトを得る工程と、
前記次亜塩素酸水洗浄トマトを水で洗浄し、水洗浄トマトを得る工程と、
前記水洗浄トマトを窒素中で保存する工程を有することを特徴とするトマトの保存方法では、完熟トマトであっても3~5週間は新鮮なトマトと変わらず食することができる。さらに、3~4週間目くらいになると樹上完熟の場合よりも高い糖度と低い酸度になり、甘いトマトとして販売し食することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹上完熟させたトマトを次亜塩素酸水で洗浄し次亜塩素酸水洗浄トマトを得る工程と、
前記次亜塩素酸水洗浄トマトを水で洗浄し水洗浄トマトを得る工程と、
前記水洗浄トマトを窒素中で保存する工程を有するトマトの保存方法。
【請求項2】
前記窒素中で保存する工程は、6℃以下0℃以上の温度中での保存である請求項1に記載のトマトの保存方法。
【請求項3】
前記トマトはミニトマト若しくは房で収穫できるトマトである請求項1に記載のトマトの保存方法。
【請求項4】
前記保存する工程は、2週間以上5週間以下である請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載されたトマトの保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトマトの保存方法に関するものであり、特に樹上完熟させた後の収穫トマトであっても、さらに糖度および糖酸バランスが高くなる甘いトマトを得ることができる保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トマトの保存方法では、青いトマトは10℃~15℃で保存し追熟させる。この追熟には3~5日程度の時間を要し、その後1週間程度であれば新鮮な状態で食べることができるとされている。また、冷蔵庫で保存した場合は、赤く熟した状態で10日ほどが保存期間とされている。また、冷凍保存すれば2か月程は保存できるとされている。
【0003】
一方、トマトを直接販売する販売所では、消費者は赤く熟したトマトの購買を希望しているので、販売者は販売する段階で熟したトマトを売り渡せるように努める。
【0004】
すると、緑果の状態で収穫したトマトを追熟の期間で販売所まで輸送し、熟してから販売することが考えられる。これによって収穫からおよそ2週間までのトマトを販売することができる。
【0005】
また、樹上完熟させたトマトは甘味や旨味が増えるため商品価値は高まる。しかし、追熟の期間がなくなるだけ、保存可能期間は短くなる。
【0006】
そこでトマトの保存期間を長くできれば、入荷から販売までの間の在庫調整に余裕ができるので、生産者、販売者にはメリットが多い。このため、鮮度や食感を失わずに保存する方法が検討されてきた。
【0007】
特許文献1では、最初は10~100%の一酸化窒素又はアルゴン又はこれらの混合物と0~50%の酸素とを含有し残分は存在するならば不活性ガスであるガス状雰囲気中に、新鮮な食用農産物を1時間以上の期間0.5~3×10^5Paの圧力下で冷却温度で最初から配置することからなる、新鮮な食用農産物の保存処理方法が開示されている。
【0008】
また特許文献2には、野菜を洗浄する工程S101と、洗浄した野菜をブランチングして、表面温度を40℃~90℃の範囲に設定する工程S103と、この表面温度を冷凍開始温度として、ブランチングした野菜を、冷凍開始温度から0.9℃/分以上の平均冷却速度で冷凍終了温度まで急速冷凍する工程S105とを含む冷凍野菜の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平03-206873号公報
【特許文献2】特開2019-135973号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「次亜塩素酸ナトリウムを用いた洗浄・殺菌操作の理論と実際」福崎智司 調理食品と技術 Vol,16 No,1 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、最初に無酸素、次に酸素含有雰囲気にするなど、細かい調整が必要であり、容易な実施であるとは言えない。また、特許文献2は、基本的に冷凍野菜の製造方法であり、冷凍していないトマトの長期保存についての方法を開示したものではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するためのもので、簡易な方法でトマトの長期保存を可能にするものである。具体的に本発明に係るトマトの保存方法は、
樹上完熟させたトマトを次亜塩素酸水で洗浄し次亜塩素酸水洗浄トマトを得る工程と、
前記次亜塩素酸水洗浄トマトを水で洗浄し水洗浄トマトを得る工程と、
前記水洗浄トマトを窒素中で保存する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るトマトの保存方法は、次亜塩素酸水で洗浄し、窒素封入するだけの簡便な方法で、トマトの保存期間を数週間延ばすことができる。これによって、収穫から販売地までの間の輸送によるトマトの劣化を抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係るトマトの保存方法であれば、樹上完熟させた時よりも糖酸バランスを高めることができ、甘味の高いトマトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のトマトの保存方法を含む複数の保存方法によるトマトのフルクトースの継時変化を示すグラフである。
図2】本発明のトマトの保存方法を含む複数の保存方法によるトマトのグルコースの継時変化を示すグラフである。
図3】本発明のトマトの保存方法を含む複数の保存方法によるトマトのクエン酸量の継時変化を示すグラフである。
図4】本発明のトマトの保存方法を含む複数の保存方法によるトマトの糖酸バランスの継時変化を示すグラフである。
図5】本発明のトマトの保存方法を含む複数の保存方法によるトマトのグルタミン酸量の継時変化を示すグラフである。
図6】本発明のトマトの保存方法を含む複数の保存方法による各種トマトの官能試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明に係るトマトの保存方法について実施例および図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。また、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0017】
本発明に係るトマトの保存方法は、
樹上完熟させたトマトを次亜塩素酸水で洗浄し次亜塩素酸水洗浄トマトを得る工程と、
前記次亜塩素酸水洗浄トマトを水で洗浄し水洗浄トマトを得る工程と、
前記水洗浄トマトを窒素中で保存する工程を有する。
【0018】
本発明に係るトマトの保存方法が対象とするトマトは、トマトであれば、特に種類を問わない。しかし、中玉から小玉(ミニトマト)に対して好適に利用できる。中玉から小玉のトマトは、緑熟果で収穫して追熟させるよりも、樹上完熟させた方が味がよいからである。房で収穫できるトマトは、樹上完熟させる場合が多く、好適に利用できる。房で収穫できるトマトとは、例えば小鈴、キャロル7、ナイヤガラスイート、ルージュ・ド・ボルドー、ジェナリー、レデリー等が該当する。
【0019】
また、本発明に係るトマトの保存方法は、樹上完熟させたトマトを保存によりより旨味と甘みを増やすことができるからである。次亜塩素酸水の洗浄の際には、ヘタはついていたままでよい。
【0020】
次亜塩素酸水は少なくとも10ppm以上の濃度であるのが望ましい。また、100ppm程度の濃度であればよく、20ppmから40ppmの濃度であれば十分に効果を奏することを確認している。
【0021】
次亜塩素酸水による洗浄は次亜塩素酸水中でトマトを攪拌したり、トマト表面を拭きながらといった操作をするまでもなく、浸漬させておけばよい。もちろん、トマト表面に傷をつけない範囲で攪拌したり、スポンジなどでのこすり洗いを排除するものではない。浸漬の時間は次亜塩素酸の濃度にも依存するが、30秒以上、10分以下である。
【0022】
次亜塩素酸水での洗浄は、トマトの皮やヘタに付着した微生物を除去するものと考えられる。次亜塩素酸水で洗浄したトマトを次亜塩素酸水洗浄トマトと呼ぶ。
【0023】
次に次亜塩素酸水トマトは水で洗浄される。次亜塩素酸水は、毒性はなく、可食物と認定されているが、残留させないのが望ましいと考えられるからである。水は特に限定されるものではなく、飲料可能な水であれば、水道水でよい。水洗浄された次亜塩素酸水洗浄トマトを水洗浄トマトと呼ぶ。
【0024】
次に水洗浄トマトを窒素中で保存する。窒素中の保存によって、トマトの呼吸を低下させる。この操作によって、クエン酸回路の働きがアンバランスになることで、糖度と旨味であるグルタミン酸の比率が上がり、樹上完熟させたときよりもおいしいと感じるトマトを得ることができる。
【0025】
また、この保存の工程では温度を低下させてもよい。温度を低下させることで、生体活動自体を遅くすることができるからである。以下実施例について説明する。
【実施例0026】
樹上完熟させたミニトマトを洗浄と非洗浄の2つのグループに分けた。洗浄のグループは30ppmの次亜塩素酸水に1分間浸漬し次亜塩素酸水洗浄トマトを得た。次にこれらの次亜塩素酸水洗浄を、水道水の流水で5分間洗浄し、水洗浄トマトを得た。
【0027】
水洗浄トマトは、室温で自然乾燥させたのち、窒素封入のグループと空気封入のグループに分けた。窒素封入のグループはポリエチレン製の袋に入れ、袋の内部を窒素パージし、入口を溶着した。また、空気封入のグループは空気を入れた後、入り口を溶着した。
【0028】
非洗浄のグループは、さらに窒素封入のグループと空気封入のグループに分けた。それぞれのグループをポリエチレン製の袋に入れ、窒素封入のグループは窒素で袋内をパージして入口を溶着した。また、空気封入のグループは空気を袋に入れて入口を溶着した。
【0029】
以上のように、次亜塩素酸水で洗浄し窒素封入したグループ(以後単に「次亜窒素」と呼ぶ。)と、次亜塩素酸水で洗浄し空気封入したグループ(以後単に「次亜空気」と呼ぶ。)と、洗浄せずに窒素封入したグループ(以後単に「窒素」と呼ぶ。)と、洗浄せずに空気封入した4つのグループ(以後単に「空気」と呼ぶ。)を形成させた。それぞれのグループには、10個のトマトが含まれるようにした。また、それぞれのグループは少なくとも6袋ずつ調製した。
【0030】
上記のサンプルを4℃に保たれた低温室で、2週間、3週間、4週間、5週間保存した。封入した日をゼロ日サンプルとした。また、2週間、3週間、4週間、5週間目のサンプルは、それぞれ2週間目サンプル、3週間目サンプル、4週間目サンプル、5週間目サンプルと呼ぶ。
【0031】
測定のためのサンプル調製
各時間経過後のサンプルは以下の様にして調製し、測定用サンプルにした。
(1)4つのグープから所定時間経過後の袋を取り出し、フードプロセッサで粉砕し、凍結乾燥した。これを乾燥サンプルと呼ぶ。
(2)乾燥サンプルをさらに細かく砕き、0.1g量り取った。
(3)80%エタノール溶液10mLを加え、80℃のブロックヒータで10分間加温した。
(4)高速冷却遠心分離機により遠心分離(4℃、6000g、10min)し、上清を濾過した。
(5)残渣に対して(3)から(4)の手順を3回繰り返した。
(6)得られた濾液をロータリーエバポレーターで減圧下濃縮乾固し、5mLのmilliQで再溶解した。
(7)その溶液を0.45μmのメンブレンフィルターで再度濾過したものを測定用溶液とした。
【0032】
糖成分の測定には、荷電化粒子検出器(CAD)を用いた。使用したカラムはAsahipakNH2P-50 4E(4.6×250mm)を用いた。移動相は(A)水、(B)アセトニトリル 75%B(0-10min)、75-50%B(10-30min)とした。流速は1mL/minであり、カラム温度は室温、サンプル注入量は20μLとした。
【0033】
また、クエン酸グルタミン酸分析(LC-ESI-MS/MS)にはTSQ Enduraを用いた。イオン源はESI(negative)である。カラムはYMC Triart PFP (2.0×150mm,3μm)を用いた。移動相は0.5%ギ酸であり、流速は200μL/minとした。カラム温度およびVaporizer temperatureは共に40℃とした。サンプル注入量は5μLとした。
【0034】
選択イオンは、グルタミン酸の場合m/z 148.1→84.1 at 14.6eVであり、クエン酸の場合m/z 190.9→85.1 at 16.7eVである。
【0035】
結果を図1から図5に示す。図1および図2を参照する。図1は糖量(フルクトース)の継時変化をグラフにしたものであり、図2は糖量(グルコース)の継時変化をグラフにしたものである。糖量の高さは甘味を示す指標と言える。いずれのグラフも横軸は経過日数であり、縦軸は糖量(μg/mL)である。フルクトースもグルコースも経過日数にしたがって、概ね増加傾向であるのがわかる。ただし、フルクトースもグルコースのいずれも3週間(21日経過時)目では、次亜窒素の値が最も高くなっていた。
【0036】
図3はクエン酸量の継時変化をグラフにしたものである。クエン酸量は酸っぱさを示す指標となる。横軸は経過日数であり、縦軸はクエン酸量(μg/mL)である。クエン酸量は概ね経過日数に応じて減少傾向にある。3週間(21日経過時)目では、次亜窒素が最も低かった。
【0037】
図4は糖酸バランスの継時変化をグラフにしたものである。糖酸バランスは、「(フルクトース量+グルコース量)/クエン酸量」の比である。この比は甘さと酸っぱさの割合であり、この比が有る程度高ければ、ほどよい酸味のある甘味を感じさせることができると考えられる。図4において横軸は経過日数であり、縦軸は比(無単位)である。糖酸バランスも経過日数と共に概ね増加傾向を示す。3週間(21日経過時)目では、次亜窒素の糖酸バランスが最も高い値を示した。これは糖(フルクトース量およびグルコース量)では、最も高い値を示し(図1および図2参照)、クエン酸量では最も低い値を示した(図3参照。)からである。
【0038】
図5はグルタミン酸量の継時変化をグラフにしたものである。グルタミン酸は旨味成分として知られている。横軸は経過日数であり、縦軸はグルタミン酸量(μg/mL)である。グルタミン酸は3週間(21日経過時)目までは、概ね変化がなく、4週間(28日経過時)目から次亜塩素酸水で洗浄したものは上昇傾向、次亜塩素酸水で洗浄しなかったものは下降傾向を示した。また、次亜塩素酸水で洗浄し、窒素封入した「次亜窒素」は、4週間(28日経過時)目から5週間(35日経過時)目にかけてグルタミン酸量が非常に増加した。
【0039】
以上の結果を考察すると、糖濃度(グルコース、フルクトースの両方:図1および図2参照)は次亜塩素酸洗浄に関わらず3週目あたりまでは「窒素封入」したサンプル(「窒素」および「次亜窒素」)が高値で類似した推移をしていた。
【0040】
クエン酸量(図3参照)は封入気体が窒素、空気に関わらず3週目あたりまでは「次亜塩素酸洗浄」したサンプル(「次亜窒素」および「次亜空気」)が低値で、「洗浄なし」なしのサンプル(「空気」および「窒素」)は封入気体が異なっても高値で類似した推移を示した。
【0041】
グルタミン酸量(図4参照)は、保存期間が長く(3週目以降)なってくると、封入気体が空気若しくは窒素のどちらであっても「次亜塩素酸水洗浄」したサンプル(「次亜窒素」および「次亜空気」)が増加傾向であり、「洗浄なし」のサンプル(「窒素」および「空気」)が減少傾向であった。
【0042】
したがって、「次亜窒素」のサンプルは、糖濃度およびグルタミン酸は高値で、またクエン酸は低値に推移し、多くの人に好まれやすい味のトマトに変化した。
【0043】
この原因はまだ明らかではない。例えば、解糖系においては、糖からピルビン酸までは酸素がなくても反応する。しかし、「窒素封入」のサンプルでは、その先のクエン酸回路で好気的条件で進行する、ピルビン酸→アセチルCoA→クエン酸→・・・→オキサロ酢酸の代謝がうまく進まず、ピルビン酸が蓄積するために糖が高値で推移したとも考えられる。
【0044】
一方、次亜塩素酸水のうち、次亜塩素酸イオンではなく電離していない分子型の次亜塩素酸は容易に細胞壁と細胞膜を透過するということが報告されており(非特許文献1)、一部トマト表皮に取り込まれた次亜塩素酸分子が細胞質を酸化してクエン酸回路に影響を与えた可能性が考えられる。
【0045】
以上の結果から次亜塩素酸水で洗浄したサンプルは3週間目で糖酸バランスが最も高くなり、またグルタミン酸量も高いレベルを維持していた。そこで、実際にこれらのサンプルに対して官能試験を行ってみた。
【0046】
参加者はイチネンホールディングスに所属する2名と近畿大学に所属する3名の計5名である。参加者にはサンプルの条件は告知せず、経過時間毎に4種類のサンプルを食してもらい、その感想をまとめ各人に点数をつけてもらった。5週目のサンプルの官能試験が終わった時点でそれまでの点数を合計し、順位付けを行った。結果を図6に示す。
【0047】
図6を参照して、縦軸方向にはサンプルの種類、横軸方向には経過日数(週で示した。)を示す。最後の右端欄には総合評価の順位を示した。
【0048】
加工ゼロ日目である「当日」では、それぞれのサンプルに官能の違いはなかった。2週間後から3週間後にかけて「空気」サンプルや「窒素」サンプルは新鮮さや腐敗に近い味が目立ち始めた。一方、「次亜空気」および「次亜塩素」は2週間から3週間後でも味が劣化せず、「次亜窒素」サンプルでは、4サンプル中最も甘味が強かった。これは、「次亜窒素」サンプルは、3週間目で糖酸バランスが最も高くなったことと一致している。
【0049】
その後5週間目で「空気」サンプルは、外観の変化はほとんどないにも関わらず、味としては痛んでいるに近い味(「気持ち悪い味」と表現した)になった。一方、「窒素」サンプルは咀嚼の最初に感じるトマト独特のパリッとした食感が失われ(「やわらかい」と表現した。)、味が薄くなった。また、「次亜空気」サンプルは、トマト独特の咀嚼の最初に感じる食感は残っていたが、味が薄くなった。一方、「次亜窒素」サンプルは、酸味が少し強くなった程度で十分に美味しいトマトであった。
【0050】
この結果、5週間の総合評価としては、「次亜窒素」サンプル、「次亜空気」サンプル、「窒素」サンプル、「空気」サンプルの順で総合評価の順位がきまった。
【0051】
以上のように、本発明に係るトマトの保存方法を採用することで、樹上完熟させた後であっても、保存によってさらに糖酸バランスおよびグルタミン酸量を増やすことができ、収穫からの販売可能期限を延ばすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るトマトの保存方法は、トマトの保存、特にミニトマト若しくは房で収穫できるトマトの保存に好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6