IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 戸田建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-層間変位記録システム 図1
  • 特開-層間変位記録システム 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027256
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】層間変位記録システム
(51)【国際特許分類】
   G01H 1/00 20060101AFI20250219BHJP
   G01V 1/01 20240101ALI20250219BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
G01H1/00 E
G01V1/00 D
G01B11/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131911
(22)【出願日】2023-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千田 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 淳
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 純也
(72)【発明者】
【氏名】白 瓊
(72)【発明者】
【氏名】森 悠吾
【テーマコード(参考)】
2F065
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2F065AA09
2F065CC14
2F065FF04
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065MM02
2F065QQ31
2G064AB02
2G064AB19
2G064BA02
2G064BA08
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE01
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】地震による停電などによって電源が喪失した場合でも、層間変位を記録する。
【解決手段】記録装置13は、複数の層を有する建物80のいずれかの層に属する構造体(梁83)に対して少なくとも水平方向において固定され略水平に配置された記録面を有する。接触装置12は、建物80の前記構造体(梁83)とは異なる層に属する構造体(梁82)に対して少なくとも水平方向において固定され記録装置13の前記記録面に接触するよう配置されている。記録装置13は、前記記録面に接触装置12が接触した位置を、電力を消費せずに記録する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を有する建物のいずれかの層に属する構造体に対して少なくとも水平方向において固定され略水平に配置された記録面を有する記録装置と、
前記建物の前記構造体とは異なる層に属する構造体に対して少なくとも水平方向において固定され前記記録装置の前記記録面に接触するよう配置された接触装置と
を備え、
前記記録装置は、前記記録面に前記接触装置が接触した位置を、電力を消費せずに記録する、
層間変位記録システム。
【請求項2】
前記記録装置は、前記記録面に前記接触装置が接触した位置が変色することにより、前記接触装置が接触した位置を記録する、
請求項1の層間変位記録システム。
【請求項3】
前記記録装置の前記記録面を撮影する撮影装置を更に備える、
請求項2の層間変位記録システム。
【請求項4】
前記撮影装置が撮影した画像を解析して、最大層間変位量を算出する解析装置を更に備える、
請求項3の層間変位記録システム。
【請求項5】
前記撮影装置は、原点、長さ及び方位のうち少なくともいずれかを示す目印を、前記記録面とともに撮影し、
前記解析装置は、前記撮影装置が撮影した目印に基づいて、前記最大層間変位量を算出する、
請求項4の層間変位記録システム。
【請求項6】
前記目印は、前記記録面に設けられている、
請求項5の層間変位記録システム。
【請求項7】
前記記録装置は、電子メモパッドであり、
前記接触装置は、タッチペンである、
請求項1乃至6いずれかの層間変位記録システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震などによって発生する建物の層間変位を記録するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、地震の揺れに対する建物の健全性を診断するシステムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-181887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、変位センサとしてレーザ変位センサを用いることを開示している。
しかし、地震によって停電が発生した場合、レーザ変位センサが動作せず、変位を検出できなくなる可能性がある。
この発明は、例えばこのような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
層間変位記録システムは、記録装置と、接触装置とを有する。前記記録装置は、複数の層を有する建物のいずれかの層に属する構造体に対して少なくとも水平方向において固定され略水平に配置された記録面を有する。前記接触装置は、前記建物の前記構造体とは異なる層に属する構造体に対して少なくとも水平方向において固定され前記記録装置の前記記録面に接触するよう配置されている。前記記録装置は、前記記録面に前記接触装置が接触した位置を、電力を消費せずに記録する。
【発明の効果】
【0006】
記録面に接触装置が接触した位置を記録装置が記録するので、地震による停電などによって電源が喪失した場合であっても、層間変位を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】層間変位記録システムの一例を示す側面図。
図2】記録装置の一例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照して、層間変位記録システム10について説明する。
層間変位記録システム10は、地震などによって建物80に生じた水平方向層間変位を記録する。
層間変位記録システム10は、例えば、接触装置12と、記録装置13と、撮影装置14と、解析装置15と、固定部16及び17とを有する。
【0009】
記録装置13は、例えば、ほぼ水平に配置された記録面31(図2参照)を有する。
記録装置13は、建物80の梁83に対して、少なくとも水平方向(±Z方向に対して垂直な方向)において固定されている。例えば、記録装置13は、梁83に固定された固定部17の上面(+Z側の面)に固定されることにより、固定部17を介して梁83に固定される。これにより、記録面31が、建物80の梁83に対して、少なくとも水平方向において固定される。
なお、固定部17は、梁83に限らず、建物80のいずれかの層に属する構造体(例えば床など)に対して固定してもよい。また、記録装置13は、固定部17を介さず、梁83や床などの構造体に直接固定してもよい。
【0010】
接触装置12は、建物80の梁83とは異なる層(例えば一つ上の層)の梁82に対して、少なくとも水平方向において固定されている。例えば、接触装置12は、梁82に固定された固定部16の下端(-Z側の端部)に固定されることにより、固定部16を介して梁82に固定される。
なお、固定部16は、梁82に限らず、記録装置13が固定された構造体が属する層とは異なる層に属する構造体(例えば床など)に対して固定してもよい。また、接触装置12は、固定部16を介さず、梁82や床などの構造体に直接固定してもよい。
接触装置12は、例えば下側(-Z側)に細く延びた先端部が記録装置13の記録面31に接触するよう配置されている。先端部が記録面31に接触する部分の面積は、必要とされる精度の記録ができるよう、十分に小さいことが望ましい。
【0011】
接触装置12及び記録装置13のうちの少なくともいずれかは、梁82及び83に対して鉛直方向(±Z方向)に移動可能であってもよく、重りやばねなどにより、接触装置12と記録装置13とが近付く方向に付勢されていてもよい。そうすれば、地震の揺れなどによって梁82と梁83との間の鉛直方向における距離が変化しても、接触装置12が記録装置13の記録面31に常に接触した状態を保つことができる。
【0012】
記録装置13は、記録面31に接触装置12が接触した位置を、電力を消費せずに記録する。
接触装置12が梁82に対して固定され、記録装置13が梁83に対して固定されているので、地震による揺れにより、梁82と梁83との水平方向における位置関係が変わると、それに伴って、記録面31に接触装置12が接触する位置が変化する。これを記録しておくことにより最大層間変位量が記録され、地震が終わったのちに、地震によって発生した最大層間変形角を把握することができるので、建物80の被災度調査の労力を大幅に軽減することができる。
地震による加速度を記録して、記録した加速度から変位量を求める場合、積分を二回する必要があるので、誤差が増幅され、最大層間変形角を高い精度で把握することは難しい。これに対し、記録装置13は、地震による変位量を直接記録するので、最大層間変形角を高い精度で把握することができる。
【0013】
記録装置13の記録面31は、例えば、接触装置12が接触した位置が変色することにより、接触装置12が接触した位置を記録する。そうすれば、記録面31を目視することで、簡単に最大層間変位量を把握することができる。
例えば、接触装置12は鉛筆などの筆記用具であってもよく、記録面31は紙であってもよい。
【0014】
あるいは、接触装置12はタッチペンであってもよく、記録装置13は電子メモパッドであってもよい。
電子メモパッドには、消去時のみ電源が必要であって記録時には電源が不要なものがあるので、これを使用すれば、いつ来るかわからない地震を待つ間の待機電力がかからず、停電や電池切れなどの電源喪失による記録漏れを防ぐことができる。
また、筆記用具を用いる場合などよりも、接触する圧力が小さくてよいので、摩擦が小さくなり、揺れを正確に記録することができる。
【0015】
撮影装置14は、記録装置13の記録面31を撮影する。変位量が記録面31に記録されているので、撮影装置14は、記録面31の静止画を撮影すればよく、動画を撮影する必要はない。また、地震により停電した場合でも、停電から復旧したあとで撮影すればよい。
撮影装置14は、撮影した画像を解析装置15に対して送信する。これにより、記録装置13が記録した変位量を自動的に解析することができる。画像は、例えば建物80のなかに設置された無線LAN(ローカルエリアネットワーク)などのネットワークを介して送信してもよいし、公衆通信回線などを介して送信してもよい。
なお、撮影装置14は、図1に示すように建物80に固定して配置されたものであってもよいし、例えば調査員などが所持する携帯式のものであってもよい。また、例えば建物80に配置されている防犯カメラに写る位置に記録装置13を配置して、防犯カメラを撮影装置14として利用してもよい。
【0016】
解析装置15は、例えばサーバ装置などのコンピュータである。解析装置15は、建物80のなかに配置されていてもよいし、建物80とは異なる場所に配置されていてもよく、ネットワークなどを介して撮影装置14が送信した画像を受信できればよい。
解析装置15は、撮影装置14から受信した画像を解析することにより、梁82と梁83との間の水平方向における最大層間変位量を算出する。例えば、撮影装置14が撮影した画像を構成するピクセルのなかから、記録面31に接触装置12が接触したことにより変色した領域のピクセルを抽出し、抽出したピクセルのそれぞれについて、原点(地震発生前に、記録面31に接触装置12が接触していた位置)からの実際の距離を算出し、算出した距離のうち最大のものを、最大層間変位量とする。
【0017】
解析装置15は、算出した最大層間変位量と、梁82と梁83との間の鉛直方向(±Z方向)における距離(層間距離)とに基づいて、最大層間変形角を算出してもよい。例えば、算出した最大層間変位量を、あらかじめ記憶した層間距離で割った商を算出し、算出した商の逆正接(アークタンジェント)を求めて、最大層間変形角とする。
【0018】
図2を参照して、記録装置13について詳しく説明する。
記録装置13は、解析装置15による画像解析を容易にするための印32~37を有する。
印32~37は、撮影装置14が撮影する画像に写る位置に配置されている。印32~37は、例えば、記録面31にタッチペンで書き込むなどして記録面31のなかに配置してもよいし、記録面31に隣接する位置に配置してもよい。
【0019】
直線状の印32及び33は、原点(地震発生前に記録面31に接触装置12が接触する位置)を示している。すなわち、二つの印32及び33が交差する点が原点を示す。なお、印32及び33は、連続している必要はなく、例えば破線状であってもよく、両端部のみであってもよい。その場合、印32及び33それぞれの両端部を結ぶ仮想的な直線が交差する位置が原点を示す。
解析装置15は、撮影装置14が撮影した画像を解析することにより、印32及び33を抽出し、抽出した印32及び33に基づいて、画像中における原点の位置を把握する。
【0020】
点状の印34~36は、基準となる長さを示している。すなわち、印34と印35との間の距離が、あらかじめ決められた所定の長さであり、印35と印36との間の距離も、同様に、あらかじめ決められた所定の長さである。また、印35から見て、印34と印36とは、ちょうど90度異なる方向に配置されている。
解析装置15は、撮影装置14が撮影した画像を解析することにより、印34~36を抽出し、抽出した印34~36に基づいて、基準となる長さを把握する。
また、撮影装置14が記録面31を正面から撮影しているのではない場合、撮影装置14が撮影した画像には、記録面31が歪んで写る。解析装置15は、抽出した印34~36の画像内における位置関係に基づいて、記録面31の歪みを検出し、検出した歪みを補正する。これにより、撮影装置14が固定配置されたものでなくても、最大層間変位量を正確に把握することができる。
【0021】
印37は、方位を示している。例えば、矢印や「N」の文字がある方向が北であることを示す。
解析装置15は、撮影装置14が撮影した画像を解析することにより、印37を抽出し、抽出した印37に基づいて、方位(例えば、南北方向や東西方向など)を把握する。
【0022】
印32~37を記録面31に書き込む場合、印34~37は、記録面31に接触装置12が接触したことにより変色した領域と重ならないよう、原点から十分遠い位置に配置することが好ましい。また、印32及び33についても、両端部が変色領域と重ならないよう、原点から十分遠い位置に配置することが好ましい。そうすれば、印32及び33の中間部が変色領域と重なった場合でも、解析装置15が原点の位置を把握することができる。
【0023】
解析装置15は、印32~37から把握した原点の位置や、基準となる長さなどに基づいて、それぞれのピクセルの原点からの実際の距離を算出し、最大層間変位量を算出する。
また、解析装置15は、把握した方位に基づいて、所定の方向における最大層間変位量を算出してもよい。例えば、建物80の柱81が並ぶ方向をあらかじめ記憶しておき、柱81の並ぶ方向における最大層間変位量を算出する。
【0024】
なお、方位を示す印は、北など絶対的な方位を示すのではなく、柱81が並ぶ方向など建物80に対する相対的な方位を示してもよい。
また、原点の位置、基準となる長さ、方位などのうち二つ以上を一つの印で示してもよい。
【0025】
以上のように、接触装置12が記録面31に接触した位置を記録装置13が電力を消費せずに記録することにより、停電時でも地震などによる層間変位を記録することができ、最大層間変位量を容易に把握することができる。
【0026】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例である。本発明は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することなく様々に修正し、変更し、追加し、又は除去したものを含む。これは、以上の説明から当業者に容易に理解することができる。
【0027】
大地震が発生した場合、被災した建物については継続使用の可否を判断する必要があり、事業継続の観点からは、建物の被災度について迅速な調査および判定が求められる。一般に、被災した建物の健全性を評価する際の指標には、建物が経験した最大の層間変形角が用いられる。そのため、地震時の層間変形角を安価・正確・簡易に記録できれば、被災度判定の省力化に役立つ。
層間変位記録システムによれば、地震後に建物が経験した最大層間変形角を安価・正確・簡易に把握することができる。
ライティングタブレット(電子メモパッド)を用いて建物の層間変位の履歴を直接的に記録する。ライティングタブレットは記録の消去時にのみ電源を要し、記録時には電源が不要なものが安価に市販されており、同様のものを利用する。さらに、ライティングタブレットに3点程度の目印と方位をあらかじめ記しておけば、ライティングタブレットを撮影した静止画像データのみから変位の絶対量と方位との関係がわかり、建物の桁行・張間の各方向の最大層間変形角を把握することができる。画像データのオンライン送信機能と連動させれば、離れたところから、対象建物の継続使用の可否を判断することができる。
加速度を計測し震度として分類した揺れの大きさと過去の被災度データとの比較で建物の健全性を判断する間接的な評価と異なり、直接的に評価することができる。
加速度→速度→変位と2回の積分過程を経て加速度から変位を求める場合と異なり、正しい変位の把握をすることができる。
建物の地震後残留変形を実測し、経験最大層間変形角を推定する場合と異なり、現地調査等に多大な労力と時間をかける必要がない。
ライティングタブレットを用いた罫書板を用いる。監視カメラを設置すれば、画像送付も可能である。変形履歴を目視することもできる。ライティングタブレット側では、記録時に電源が不要であり、記録消去時のみ電源が必要となる。静止画像のデジタルデータのみからでもX・Y方向の最大層間変位の把握ができる。
地震により生じた建物の水平方向層間変位の履歴を直接的に記録することができる。
建物が経験した層間変形角の最大値を把握することができるので、被災した建物の健全性を直接的に評価できる。
オンラインで送信可能な静止画像データのみから建物の桁行・張間の各方向の最大層間変形角を把握できるため、被災建物の現地調査を行う必要がなく、被災度調査の労力を大幅に軽減することができる。
記録の対象が加速度ではなく、水平方向層間変位であり、被災建物の健全性評価に直接つながる。記録装置そのものは電源への接続が不要であり、停電が生じても記録を残すことが可能である。記録結果から建物の変形が視覚的に把握できる。安価な部品・部材で構成することができる。
用途を問わず、様々な建物への導入が可能であり、事業継続性を高めることができる。
大規模地震が発生した際に調査員が要する被災度調査の労力を軽減できる。
【符号の説明】
【0028】
10 層間変位記録システム、12 接触装置、13 記録装置、14 撮影装置、15 解析装置、16,17 固定部、31 記録面、32~37 印、80 建物、81 柱、82,83 梁。
図1
図2