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  • 特開-溶鋼の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027292
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】溶鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20250219BHJP
【FI】
C21C5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131971
(22)【出願日】2023-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 言生
(72)【発明者】
【氏名】正木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直人
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014CB02
4K014CB05
4K014CD13
(57)【要約】
【課題】酸素ガスおよび炭材を炉内に供給できるランスを有する電気炉を用い、固体還元鉄を炉内に連続的に供給しながらアークを主たる熱源として原料を溶解し、引き続いて酸素ガスにより溶鉄を酸化精錬して溶鋼を得る溶鋼の製造方法において、スラグを適切にフォーミングさせ得る溶鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】電気炉1において、固体還元鉄および酸素ガスと炭材を炉内に連続的に供給しながら原料を溶解する第一工程と、酸素ガスと炭材を炉内に連続的に供給しながら溶鉄を酸化精錬して溶鋼を得る第二工程を有し、第一工程における炉内への酸素ガスの供給速度および炭材の供給速度を、第二工程における炉内への酸素ガスの供給速度および炭材の供給速度より小さくすることを特徴とする溶鋼の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ガスおよび炭材を炉内に供給できるランスを有する電気炉を用いて固体還元鉄を原料として溶鋼を製造する方法であって、前記固体還元鉄および酸素ガスと炭材を炉内に連続的に供給しながらアークを主たる熱源として原料を溶解する第一工程と、酸素ガスと炭材を炉内に連続的に供給しながら前記酸素ガスにより溶鉄を酸化精錬して溶鋼を得る第二工程を有し、
前記第一工程における炉内への前記酸素ガスの供給速度および前記炭材の供給速度をそれぞれ、前記第二工程における炉内への前記酸素ガスの供給速度および前記炭材の供給速度より小さくすることを特徴とする溶鋼の製造方法。
【請求項2】
前記固体還元鉄の見かけ密度を3960kg/m以上とすることを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼の製造方法。
【請求項3】
前記固体還元鉄に含まれる酸化鉄が1~10質量%、炭素が0.1~2.0質量%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶鋼の製造方法。
【請求項4】
前記電気炉への前記炭材の供給速度を第一工程でC(kg/min)、第二工程でC(kg/min)、前記炭材に含まれる固定炭素分がNFC(質量%)であり、また前記電気炉への第一工程における前記固体還元鉄の装入速度がW(kg/min)、前記固体還元鉄に含まれる炭素分がNiC(質量%)であるとき、C、C、NFC、W、NiCの関係が、下記の式(1)~式(4)を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶鋼の製造方法。
1C=C-(NiC/NFC)×W (1)
1C-ΔC≦C≦C1C+ΔC (2)
ΔC=(0.5/NFC)×W (3)
ΔC=(0.2/NFC)×W (4)
なお、C1C-ΔC<0の場合は式(2)左辺を0とし、C1C+ΔC<0の場合は式(2)右辺を0とする。
【請求項5】
前記電気炉への前記炭材の供給速度を第一工程でC(kg/min)、第二工程でC(kg/min)、前記炭材に含まれる固定炭素分がNFC(質量%)であり、また前記電気炉への第一工程における前記固体還元鉄の装入速度がW(kg/min)、前記固体還元鉄に含まれる炭素分がNiC(質量%)であるとき、C、C、NFC、W、NiCの関係が、下記の式(1)~式(4)を満たすことを特徴とする請求項3に記載の溶鋼の製造方法。
1C=C-(NiC/NFC)×W (1)
1C-ΔC≦C≦C1C+ΔC (2)
ΔC=(0.5/NFC)×W (3)
ΔC=(0.2/NFC)×W (4)
なお、C1C-ΔC<0の場合は式(2)左辺を0とし、C1C+ΔC<0の場合は式(2)右辺を0とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉において、固体還元鉄を主な原料とし、原料を溶解し精錬して溶鋼を得る、溶鋼の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄業における高炉・転炉法においては、鉄鉱石を鉄源とし、高炉にてコークスによって鉄鉱石を還元して溶銑を製造し、転炉にて溶銑を精錬して溶鋼としている。鉄鉱石の還元に際して二酸化炭素が排出される。これに対して電気炉法では、主にスクラップを鉄源とし、電力によってスクラップを溶解して溶鋼を得ている。温室効果ガスである二酸化炭素の排出量削減の観点より、高炉・転炉法から電気炉法への置き換えが注目されている。ただし高炉・転炉法から電気炉法に代替する観点からは、代替した電気炉法でも鉄鉱石を原料として用いる必要がある。そのため電気炉に供給される鉄源として、スクラップに替え、あるいはスクラップに加えて、鉄鉱石を直接還元した固体還元鉄の使用が想定される。したがって電気炉を用いた鉄鋼生産においては、固体還元鉄を新たな原料として用いるとともに、生産性および不純物に対する制約を高炉・転炉法相当にすることが将来にわたって必要となる。
【0003】
電気炉の操業においては炉内スラグのフォーミング制御が重要である。フォーミングは炉内で発生する一酸化炭素等のガスによって炉内のスラグが泡立つ現象であり、フォーミングによってスラグの体積は著しく増加する。フォーミングによってスラグの体積が増加することにより、電気炉で熱源として用いるアークを被覆することができるので、電気炉に投入されるエネルギー効率を改善する効果が得られる。したがってフォーミングの不足はエネルギー効率の悪化を招き、生産性を低下させるため避ける必要がある。一方過度にフォーミングさせることはフォーミングに必要な一酸化炭素ガスを生成するための酸素ガスと炭材の過剰使用につながるため生産コストの増大を招く。したがって電気炉における鉄鋼生産においてはフォーミングを適切に制御することが課題である。
【0004】
特許文献1には、低品位の鉄鉱石を原料として得られた固体還元鉄を用いた溶鋼の製造方法が開示されている。固体還元鉄は、SiOおよびAlを合計で3.0質量%以上、炭素を1.0質量%以上含有している。電気炉において、酸素を導入することなく固体還元鉄を加熱し、溶融させて、溶鋼とスラグとに分離し、電気炉から連続してスラグを排出するスラグ分離工程と、スラグ分離工程の後、電気炉において、溶鋼に、電気炉に導入する酸素の全量を吹き付けて脱炭する脱炭工程と、を有する溶鋼の製造方法である。固体還元鉄の炭素含有量を1.0質量%以上とすることにより、固体還元鉄中のFeOと炭素が反応し、十分な量のCOガスを発生させることができ、電気炉中に酸素を導入することなく、スラグを十分にフォーミングさせることができるとしている。特許文献2も同様の趣旨である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-080540号公報
【特許文献2】特開2021-102798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が対象とする溶鋼の製造方法において、電気炉の工程は、原料を溶解する第一工程と、溶鉄を酸化精錬して溶鋼を得る第二工程とを有する。第一工程においては、電気炉に固体還元鉄を連続的に供給しながらアークを主な熱源に、また、酸素ガスと炭材とを同時に供給し炭材の燃焼によって発生する熱を補助的に用いて固体還元鉄を溶解する。第二工程は、第一工程の後、炭材とともに酸素ガスを炉内に供給することで酸化精錬を行い、目的とする成分の溶鋼を得る。第一工程と第二工程のいずれも、電気炉内でスラグを適切にフォーミングさせることが必要である。
【0007】
特許文献1、2に記載の発明において、スラグ分離工程は、上記本発明の第一工程に属する工程である。特許文献1、2においては、前述のように、スラグ分離工程において、電気炉中に酸素を導入することなく、スラグを十分にフォーミングさせることができるとしている。しかし、本発明者らの知見では、電気炉中に酸素を導入しない場合、スラグを十分にフォーミングさせ得ないことがわかった。
【0008】
本発明は、第一工程と第二工程の酸素ガスの供給速度および炭材の供給速度の関係を明確化し、第一工程と第二工程のいずれもスラグを適切にフォーミングさせ得る溶鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]酸素ガスおよび炭材を炉内に供給できるランスを有する電気炉を用いて固体還元鉄を原料として溶鋼を製造する方法であって、前記固体還元鉄および酸素ガスと炭材を炉内に連続的に供給しながらアークを主たる熱源として原料を溶解する第一工程と、酸素ガスと炭材を炉内に連続的に供給しながら前記酸素ガスにより溶鉄を酸化精錬して溶鋼を得る第二工程を有し、
前記第一工程における炉内への前記酸素ガスの供給速度および前記炭材の供給速度をそれぞれ、前記第二工程における炉内への前記酸素ガスの供給速度および前記炭材の供給速度より小さくすることを特徴とする溶鋼の製造方法。
[2]前記固体還元鉄の見かけ密度を3960kg/m以上とすることを特徴とする、[1]に記載の溶鋼の製造方法。
[3]前記固体還元鉄に含まれる酸化鉄が1~10質量%、炭素が0.1~2.0質量%であることを特徴とする[1]または[2]に記載の溶鋼の製造方法。
[4]前記電気炉への炭材供給速度を第一工程でC(kg/min)、第二工程でC(kg/min)、炭材に含まれる固定炭素分がNFC(質量%)であり、また前記電気炉への第一工程における固体還元鉄の装入速度がW(kg/min)、還元鉄に含まれる炭素分がNiC(質量%)であるとき、C、C、NFC、W、NiCの関係が、下記の式(1)~式(4)を満たすことを特徴とする[1]~[3]のいずれかひとつに記載の溶鋼の製造方法。
1C=C-(NiC/NFC)×W (1)
1C-ΔC≦C≦C1C+ΔC (2)
ΔC=(0.5/NFC)×W (3)
ΔC=(0.2/NFC)×W (4)
なお、C1C-ΔC<0の場合は式(2)左辺を0とし、C1C+ΔC<0の場合は式(2)右辺を0とする。
【発明の効果】
【0010】
酸素ガス及び炭材を過剰に使用することなく、スラグのフォーミングを制御することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電気炉の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は電気炉におけるフォーミング制御を検討するにあたり、主要なガスである一酸化炭素を発生させるための炭素および酸素の導入経路に着目した。電気炉操業においては通常、酸素源として酸素ガス、炭素源として石炭等の炭材を導入している。一方で固体還元鉄は未還元の酸化鉄および炭素分を含有するため、これらの反応によって一酸化炭素ガスを発生することが可能である。本発明者は固体還元鉄を酸素源および炭素源として活用することによるフォーミング制御を着想した。
【0013】
酸素ガスおよび炭材を炉内に供給できるランスを有する電気炉において固体還元鉄を原料に用いる場合の操業例を以下に記す。前述のように、本発明の電気炉の工程は、原料を溶解する第一工程と、溶鉄を酸化精錬して溶鋼を得る第二工程とを有する。第一工程においては、電気炉に固体還元鉄および酸素ガスと炭材を連続的に供給しながらアークを主な熱源に、また、酸素ガスと炭材とを同時に供給し炭材の燃焼によって発生する熱を補助的に用いて固体還元鉄を溶解する。第二工程は、第一工程の後、炭材とともに酸素ガスを炉内に供給することで酸化精錬を行い、目的とする成分の溶鋼を得る。
【0014】
第一工程、第二工程いずれも、溶湯において酸素と炭素が反応してCOガスが発生し、このCOガスによって炉内の溶融スラグが泡立ち、スラグのフォーミングが発生する。主な酸素源としては、炉内に供給される酸素ガスと、固体還元鉄中に含まれる酸化鉄が該当する。主な炭素源としては、炉内に供給される炭材と、固体還元鉄中に含まれる炭素分が該当する。
【0015】
《第1実施形態》
本発明においては固体還元鉄のうち大部分あるいは全量が第一工程において投入されることに着目した。第二工程においては、炉内に供給する酸素ガスと炭材とが、COガスを発生させる酸素源、炭素源となる。まず、第二工程において、スラグを適切にフォーミングさせるための適切な酸素ガス供給速度、炭材供給速度を、実績に基づいて調整しつつ決定する。次に第一工程においては、固体還元鉄に含まれる酸化鉄および炭素分に相当する量の酸素ガスと炭材をフォーミングに活用することができ、第一工程における酸素ガス及び炭材の供給速度を第二工程における酸素ガスおよび炭材の供給速度より減じつつスラグのフォーミングを十分に担保できることを見出した。
【0016】
即ち第1実施形態では、第一工程における炉内への酸素ガスの供給速度および炭材の供給速度を、第二工程における炉内への酸素ガスの供給速度および炭材の供給速度より小さくすることを特徴とする。これにより、第一工程において、供給する酸素ガスと炭材の消費の低減を図るとともに、第二工程と同様にスラグを適切にフォーミングさせることが可能となる。
【0017】
《第2実施形態》
以下、本発明の望ましい実施形態を述べる。
固体還元鉄中の酸化鉄と炭素分をスラグのフォーミングに利用する上で固体還元鉄がスラグにできるだけ深く沈降し、望ましくはスラグと溶鉄の界面まで沈降した状態で一酸化炭素ガスを発生させることが有効である。固体還元鉄の沈降速度は固体還元鉄に作用する重力とスラグから受ける浮力及び発生ガスから受ける抗力の影響を受ける。このため、固体還元鉄の溶解に伴ってガスが発生する深さ方向の位置は、固体還元鉄の見かけ密度の影響を受ける。本発明者による実験の結果から、フォーミングが適切に維持されている状態では、固体還元鉄の見かけ密度を3960kg/m以上とすることで、スラグのフォーミングを促進することを見出した。固体還元鉄の見かけ密度を3960kg/m以上とすることで、固体還元鉄が速やかにスラグに沈降してスラグと溶鉄の界面に到達したためであると推定できる。また、固体還元鉄がスラグと溶鉄の界面にとどまる状態がフォーミング促進のために好適である点から、固体還元鉄の見かけ密度は7000kg/m以下とすることが望ましいが、一般的な固体還元鉄の見かけ密度は7000kg/m未満の範囲にある。なお、見かけ密度が3960~7000kg/mの間にある場合はいずれも固体還元鉄は速やかに沈降してスラグと溶鉄の界面にとどまるためフォーミング促進効果の変化は認められなかった。また、固体還元鉄の見かけ密度が7000kg/mを超える場合、固体還元鉄は速やかにメタルに沈降し、同様のフォーミング促進効果が得られると推定できる。
ここで固体還元鉄の見かけ密度とは、固体還元鉄を水中に浸漬させたときに排除する水の体積を固体還元鉄の容積とし、固体還元鉄の質量を前記容積で除した値とする、いわゆるアルキメデス法で得られる密度を意味する。固体還元鉄の見かけ密度は、固体還元鉄中の気泡および脈石成分の量によって変動する。固体還元鉄の見かけ密度を本発明の好適範囲に調整するためには、固体還元鉄を圧縮成型する際の圧力を調整すれば良い。
【0018】
即ち第2実施形態では、固体還元鉄の見かけ密度を3960kg/m以上とすることを特徴とする。
【0019】
《第3実施形態》
固体還元鉄に抗力を及ぼすガスは炉内に供給した酸素ガスと炭材との反応によって生じる一酸化炭素ガスが主であるが、固体還元鉄に含まれる酸化鉄および炭素分と炉内に供給した酸素ガスおよび炭材、溶鉄に溶存する炭素分が相互に反応することによって生じる一酸化炭素ガスが周囲の溶鉄およびスラグとの比重差によって上昇することに伴って生じる上昇流も固体還元鉄に抗力を及ぼす。したがって固体還元鉄に含まれる酸化鉄および炭素分が多くなると固体還元鉄の沈降を阻害する要因となる。一方で、固体還元鉄に含まれる酸化鉄および炭素分が少なくなるとこれらの反応により生じる一酸化炭素ガス量が少なくなり、フォーミング促進の効果を享受できなくなる。本発明者による実験の結果からフォーミングを制御する目的では固体還元鉄に含まれる成分として酸化鉄1~10質量%および炭素0.1~2.0%が好適であることを見出した。
【0020】
即ち第3実施形態では、固体還元鉄に含まれる酸化鉄が1~10質量%、炭素が0.1~2.0質量%であることを特徴とする。
【0021】
《第4実施形態》
第一工程における炭材の供給速度の好適な決定方法について説明する。
電気炉においてランスから吹込まれる炭材の大部分は、酸素と反応して一酸化炭素ガスを発生させ、スラグをフォーミングさせる目的で用いられる。したがって、第一工程における炭材の供給速度C(kg/min)は、第二工程における炭材の供給速度C(kg/min)に比して、第一工程で固体還元鉄から供給される炭素と同等分まで減じてもスラグを十分にフォーミングさせることができる。したがって炭材中に含まれる固定炭素分の割合がNFC(質量%)、第一工程における固体還元鉄の装入速度がW(kg/min)、還元鉄に含まれる炭素分がNiC(質量%)であるとき、第一工程における炭材の供給速度の狙い値C1Cは、下記の式(1)として算出される。そして、下記式(3)でΔCを定め、第一工程における炭材の供給速度Cが狙い値C1CよりもΔCを超えて高くなると、第一工程での炭材供給が過剰となり、第二工程開始時の溶鉄中炭素濃度が目標よりも高くなる、あるいは炉内で反応せずに飛散し、最終的に排気系統から排出される炭材の割合が多くなるので好ましくない。また、下記式(4)でΔCを定め、第一工程における炭材の供給速度Cが狙い値C1CよりもΔCを超えて低くなると、第一工程での炭材供給が不足となり、第二工程開始時の溶鉄中炭素濃度が目標よりも低くなる、あるいはフォーミング促進の効果を享受しにくくなるので好ましくない。即ちCを下記の式(2)~式(4)の範囲で制御することが本発明においては好適である。式(3)、式(4)については、ΔC=(0.3/NFC)×W、ΔC=(0.1/NFC)×Wとするとより好ましい。
1C=C-(NiC/NFC)×W (1)
1C-ΔC≦C≦C1C+ΔC (2)
ΔC=(0.5/NFC)×W (3)
ΔC=(0.2/NFC)×W (4)
なお、C1C-ΔC<0の場合は式(2)左辺を0とし、C1C+ΔC<0場合は式(2)右辺を0とする。
【0022】
即ち第4実施形態では、前記電気炉への前記炭材の供給速度を第一工程でC(kg/min)、第二工程でC(kg/min)、前記炭材に含まれる固定炭素分がNFC(質量%)であり、また前記電気炉への第一工程における前記固体還元鉄の装入速度がW(kg/min)、前記固体還元鉄に含まれる炭素分がNiC(質量%)であるとき、C、C、NFC、W、NiCの関係が、上記の式(1)~式(4)を満たすことを特徴とする。
【0023】
第4実施形態は第1実施形態に従属している。従って、式(2)右辺の値にかかわらず、第一工程の炭材の供給速度Cは、第二工程の炭材の供給速度Cより小さくなる。δC=0.9×(NiC/NFC)×Wとし、C≦C-δCとするとより好ましい。
【0024】
第二工程において溶鉄の脱炭精錬を行う場合、溶鉄中の炭素と吹き込んだ酸素ガスが反応してCOガスが生成し、このCOガスもスラグフォーミングに寄与している。従って、第一工程での炭材の供給速度の算出において、より好ましくは、上記の式(1)右辺において、第二工程での溶鉄の脱炭速度に相当する炭素供給速度を付加することができる。具体的には、第二工程での溶鉄の炭素濃度低減量(質量%)/100に溶鉄量(kg)をかけ、さらに脱炭所要時間(min)で除した値を式(1)の右辺に付加すれば良い。
【0025】
以上より、本実施形態で第一工程の炭材の供給速度は、0≦C<Cの範囲に限定されることがわかる。従って、
0≦C1C<C (5)
であれば、第一工程の炭材の供給速度Cを狙い値C1Cどおりにしたときに、第4実施形態の好適範囲とすることができるので好ましい。式(5)中辺のC1Cに式(1)を代入すると、
0≦C-(NiC/NFC)×W<C (6)
となる。
0≦C-(NiC/NFC)×W≦C-δC (7)
δC=0.9×(NiC/NFC)×W (8)
とするとより好ましい。
即ち固体還元鉄に含まれる炭素分NiC、固体還元鉄の装入速度Wを調整して式(6)、より好ましくは式(7)、式(8)を満たすこととすれば、第一工程の炭材の供給速度Cを狙い値C1Cどおりにしたときに、第4実施形態の好適範囲とすることができるので好ましい。
【0026】
ここにおいて、固体還元鉄中の炭素分NiCを調整する場合、鉄鉱石の還元工程に供する原料の配合を調整すればよい。
【0027】
固体還元鉄の装入速度Wを調整する手段としては、鉄原料中に占める固体還元鉄の割合を調整する、あるいは第一工程における固体還元鉄の装入所要時間を調整する、などによって行うことができる。
【0028】
《第一工程における酸素ガスの供給速度》
第一工程における酸素ガスの供給速度の好適な決定方法について説明する。
第二工程の酸素ガスの供給速度は、最適スラグフォーミングが実現できるよう、実績に基づいて決定される。ここにおいて、第二工程において供給する酸素ガスの総量は、フォーミングに必要な酸素に加え、溶鉄からの脱炭、脱りん等の酸化精錬に必要な量が付加された値となっている。脱炭精錬で生成したCOガスはスラグフォーミングに寄与しているので、脱炭精錬に用いられた酸素ガスはスラグフォーミングに寄与している。一方、脱りん精錬については、吹き込んだ酸素ガスがスラグのFeO生成およびりんの酸化に寄与しているのでスラグフォーミングには寄与していない。
【0029】
第一工程においてフォーミングに必要な酸素ガスの供給速度を、第二工程での酸素ガスの供給速度に基づいて算出するに際して、第一工程においてフォーミングに必要な酸素については、前記炭材と同様に第一工程における酸素ガスの供給速度は第二工程における酸素ガスの供給速度に対して固体還元鉄中の酸化鉄から供給される酸素の分だけ減じることができる。
ここにおいて、固体還元鉄中の酸化鉄含有量を調整する必要が生じた場合、鉄鉱石の還元プロセスにおける還元ガスの吹込み量等の操業条件を調整すればよい。
【0030】
さらに、第二工程での酸素ガスの供給速度に基づいて第一工程での酸素ガスの供給速度を算出するに際しては、第二工程での脱りん精錬に必要な量を減じた値とすると好ましい。具体的には、第二工程でのスラグ中のFeO濃度の増加代に応じて、スラグ中のFeO生成に要した酸素ガスの総量を第二工程の精錬時間で除してスラグ酸化用の酸素ガスの供給速度とする。第一工程での酸素ガスの供給速度を算出する際、第二工程での酸素ガスの供給速度から、固体還元鉄中の酸化鉄から供給される酸素の分を減じるとともに、上記スラグ酸化用の酸素ガスの供給速度を減じることとすれば良い。
【0031】
本発明における鉄原料は固体還元鉄だけに限定されず、スクラップ等の鉄源を併用することができる。ただし使用する固体還元鉄の割合が小さくなると、固体還元鉄中の成分によるフォーミングの促進を享受しにくくなる。具体的には、固体還元鉄に含まれる炭素分の合計質量が、第一工程で投入する炭材総量に含まれる固定炭素分の8%以上に相当するように固体還元鉄の使用割合を決定することが望ましい。
【実施例0032】
炉内径が6.5m、炉内に175tの溶鉄を保持することができ、出鋼量110t、出鋼時に種湯65tを炉内に残す電気炉において本発明を実施した場合の例を比較例とともに表に示す。図1に示すように、当該電気炉1は黒鉛電極2を有し、側壁部に幅1000mm、高さ995mmの排滓口3を有し、後述するマニピュレータ6の炭材ランス4、酸素ランス5の挿入、あるいは溶鋼のサンプリング操作は排滓口3を介して行った。固体還元鉄は原料投入シュート8より炉内に投入した。
【0033】
電気炉1は酸素の供給手段として可動式のマニピュレータ6に接続された酸素ランス5が1本、および電気炉1の内壁に固定されたランス2本(以下、炉壁ランス7と呼称する)を有し、マニピュレータ6の酸素ランス5からは最大で4000Nm/h、炉壁ランス7からは最大で各3200Nm/hの酸素ガスを炉内に供給することができる。本発明例および比較例においては純度99.5%以上の酸素ガスを用いた。
【0034】
電気炉1は炭材の供給手段としてマニピュレータ6に接続された炭材ランス4を1本および炉壁ランス7を2本有し、各ランスからは最大で60kg/minの炭材を炉内に供給することができる。当該炭材供給用のランスは前記酸素供給用のランスとは系統を別にし、炭材のキャリアガスとして二酸化炭素を用いた。本発明例および比較例においては固定炭素分を81%含有する無煙炭(即ちNFC=81質量%)を用いたが、炭材の種類は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができ、無煙炭以外の石炭および黒鉛やコークス、木炭等の石炭以外の炭材を使用することが可能である。また、同様にキャリアガスについても本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができ、アルゴンガス等の希ガスおよび窒素等の不活性ガスを使用することが可能である。
【0035】
本発明例および比較例においては固体還元鉄およびスクラップを鉄原料として用いた。装入する鉄原料の合計は、出鋼量110tに対応した量とする。表1に、鉄原料中に占める固体還元鉄の使用割合(質量%)を示す。固体還元鉄以外がスクラップである。第一工程においては、種湯65tを収容する炉内に、スクラップを装入するとともに、造滓材として生石灰6200kgを装入した後、固体還元鉄を原料投入シュート8から連続的に炉内に供給しながら、黒鉛電極2を用いたアーク通電と、酸素ランス5・炉壁ランス7を用いた酸素ガスの供給、および炭材ランス4・炉壁ランス7を用いた炭材の供給を行い、鉄原料を溶解した。第一工程において、固体還元鉄の供給所要時間はすべての実施例で一定としている。各実施例の固体還元鉄の使用割合に応じて、固体還元鉄の供給所要時間が一定となるよう、固体還元鉄の装入速度Wを調整した(表1)。
【0036】
本発明は3本の黒鉛電極2を有する三相交流式の電気炉において実施したが、単相交流式および直流式の電気炉においても本発明によるスラグのフォーミングを同様に享受することが可能であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で電気炉の通電方式に制限を設けるものではない。
【0037】
固体還元鉄の見かけ密度は使用前の固体還元鉄の一部を分析に供し、アルキメデス法により評価した。固体還元鉄の見かけ密度、炭素濃度および酸化鉄濃度は製造条件の異なる複数の固体還元鉄を用いることで変化させた。
固体還元鉄中の炭素濃度、酸化鉄濃度は使用前の固体還元鉄の一部を化学分析に供して評価した。
【0038】
第一工程の後、第二工程において炉内に酸素ガスを供給して酸化精錬を行い、溶鉄のサンプリングと分析を行って目的とする成分の溶鋼を得た。第二工程の後、炉底に設けられた出鋼孔を開孔し、溶鋼を取鍋(図示せず)に注湯した。ここで本発明例および比較例における目的の溶鋼成分は炭素が0.04~0.06質量%、りんが0.015~0.018質量%とした。
炭材供給速度(kg/min)、酸素供給速度(Ncm/h)、所要時間(min)を、第一工程、第二工程それぞれについて、表1に示した。表1の炭材供給速度欄には、式(2)の左辺、右辺の値を記載している。前記左辺、右辺それぞれがマイナスとなった場合、それらを「0」に変換せず、マイナスの値のままで記載している。
【0039】
炭材削減効果および酸素削減効果については、それぞれ第二工程での供給速度を基準として、第一工程で低減した割合(%)で評価した。
【0040】
本発明によるスラグフォーミング制御の効果を確認するため、以下に述べる手段を用いて本発明例および比較例における第一工程でフォーミングスラグの厚みを測定、比較した。還元鉄の装入開始時点から1分ごとに装入済み原料の質量から当該電気炉炉底からの静止溶鉄面高さを計算するとともにスラグ面にマイクロ波を照射してスラグ表面までの距離を測定するマイクロ波レベル計を用いてスラグ面の当該電気炉炉底からの高さを求めた。さらに各時点で測定したスラグ面高さから、静止溶鉄面高さを差し引くことによってスラグ厚みを計算し、これらを第一工程全体にわたって平均した値を表に記載した。
【0041】
本発明によるスラグフォーミング制御の効果は炭材および酸素使用量の削減量、スラグ厚みの観点から評価した。スラグ厚みについては本設備における標準的なアーク長300mmを被覆できない300mm未満に×、被覆できる300mm以上の厚みに○、特によく被覆できる450mm以上の厚みに◎を付した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の比較例No.1~5が比較例である。本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
比較例No.1~3は、炭材供給速度、酸素供給速度がいずれも、第一工程の供給速度が第二工程と同一である。そのため、炭材、酸素いずれも、削減効果が見られなかった。さらに、第一工程において、固体還元鉄から供給される炭素と酸化鉄の分だけ過剰なCO気泡が発生し、スラグ厚さが◎であった。
比較例No.4、5は第一工程で固体還元鉄を添加しない比較例である。
【0044】
表1の本発明例No.1~15が本発明例である。本発明範囲内ではあるが、好適範囲からは外れる数値に下線を付している。なお、第一工程の炭材供給速度Cが、式(2)左辺より小さい場合は式(2)左辺の値に下線を付し、Cが式(2)右辺(0に置き換える前の値)より大きい場合は式(2)右辺の値に下線を付している。
本発明例No.1~15はいずれも、比較例No.1~3と対比して、第一工程における炭材と酸素の両方を削減することができた。
【0045】
本発明例No.1は、固体還元鉄の見かけ密度が本発明の好適範囲下限より低く、スラグ厚さがやや薄めであった。
固体還元鉄の炭素含有量について、本発明例No.6は好適範囲を上限に外れ、本発明例No.8は好適範囲を下限に外れ、いずれもスラグ厚さがやや薄めであった。
固体還元鉄の酸化鉄含有量について、本発明例No.4は好適範囲を上限に外れ、本発明例No.5は好適範囲を下限に外れ、いずれもスラグ厚さがやや薄めであった。
【0046】
本発明例No.1、5、6は、第一工程の炭材供給速度Cが式(2)右辺(0に置き換える前の値)より大きく、No.11は、第一工程の炭材供給速度Cが式(2)右辺より大きく、いずれも第二工程開始時の溶鉄中炭素濃度が目標よりも高くなる、あるいは炉内で反応せずに排気系統から排出される炭材の割合が多くなる傾向を示した。その結果、本発明例No.1、5、6、11については、第一工程で高くなった溶鉄含有炭素について、第二工程において低下させるために余分の酸素ガスを供給する必要があり、第二工程の所要時間が増大する結果となった。本発明例No.10は、第一工程の炭材供給速度Cが式(2)左辺より小さく、フォーミング促進の効果を享受しにくくなり、スラグ厚さがやや薄めであった。
【符号の説明】
【0047】
1 電気炉
2 黒鉛電極
3 排滓口
4 炭材ランス
5 酸素ランス
6 マニピュレータ
7 炉壁ランス
8 原料投入シュート
20 溶鉄
21 スラグ
図1