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特開2025-27295情報処理システム、プログラムおよび射出成形機の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027295
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】情報処理システム、プログラムおよび射出成形機の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20250219BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
G05B23/02 P
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131974
(22)【出願日】2023-08-14
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVASCRIPT
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】松井 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】堀田 大吾
【テーマコード(参考)】
3C223
4F206
【Fターム(参考)】
3C223AA11
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB03
3C223FF04
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF26
3C223GG01
3C223HH02
4F206JA07
4F206JP13
4F206JP30
4F206JQ88
(57)【要約】
【課題】機器の物理量の関係性における機差を制御対象の特性として導出し、かかる機器ごとの特性に応じた制御を実現し、機差による機器の動作の違いを抑制するための情報を提供する。
【解決手段】制御対象機器の動作により得られる波形データを取得し、取得した波形データに含まれる変数の関係性に基づいて、少なくとも一部の変数である第1変数としての入力変数および少なくとも他の一部の変数である第2変数としての実績値を抽出する。そして、第1変数としての入力変数に基づいて第2変数に相当する変数としての出力値を導出し、導出した出力値と第2変数としての実績値とに基づいて制御対象機器の特性を求め、この制御対象機器の特性に基づき制御対象機器の制御に用いられる情報を出力し、制御対象機器へ送る。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象機器の動作により得られる波形データを取得する取得部と、
取得した前記波形データに含まれる変数の関係性に基づいて、少なくとも一部の変数である第1変数および少なくとも他の一部の変数である第2変数を抽出し、当該第1変数に基づいて当該第2変数に相当する変数を導出し、導出した変数と当該第2変数とに基づいて前記制御対象機器の特性を求める解析部と、
前記制御対象機器の特性に基づき当該制御対象機器の制御に用いられる情報を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする、情報処理システム。
【請求項2】
前記解析部は、複数の前記第1変数を入力し、中間層における複数の処理を経て一の出力を得る線形重回帰モデルを用い、当該出力として、前記第2変数に相当する前記変数を導出することを特徴とする、請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記解析部は、導出した前記変数と前記第2変数との誤差が小さくなるように、前記中間層の複数の処理に対して設定された重み値を修正し、修正後の当該重み値を前記制御対象機器の特性を表す情報とすることを特徴とする、請求項2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記出力部により出力される前記情報は、修正後の前記重み値に基づいて生成される、前記制御対象機器の制御におけるゲインの情報であることを特徴とする、請求項3に記載の情報処理システム。
【請求項5】
コンピュータを、
制御対象機器の動作により得られる波形データを取得する手段と、
取得した前記波形データに含まれる変数の関係性に基づいて、少なくとも一部の変数である第1変数および少なくとも他の一部の変数である第2変数を抽出し、当該第1変数に基づいて当該第2変数に相当する変数を導出し、導出した変数と当該第2変数とに基づいて前記制御対象機器の特性を求める手段と、
前記制御対象機器の特性に基づき当該制御対象機器の制御に用いられる情報を出力する手段として、
機能させることを特徴とする、プログラム。
【請求項6】
射出成形機を動作させて波形データを取得するステップと、
取得した前記波形データに含まれる変数の関係性に基づいて、少なくとも一部の変数である第1変数および少なくとも他の一部の変数である第2変数を抽出し、当該第1変数に基づいて当該第2変数に相当する変数を導出し、導出した変数と当該第2変数とに基づいて前記射出成形機の特性を求めるステップと、
前記射出成形機の特性に基づき、当該射出成形機の制御情報を調整するステップと、
を含むことを特徴とする、射出成形機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、プログラムおよび射出成形機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機器の制御において、PI(Proportional-Integral)制御ゲイン等の制御ゲインが用いられる。制御対象の応答は制御ゲインと制御対象の特性で決まる。したがって、制御ゲインは制御対象の機器の特性と実現したい応答が決まれば逆算することができる。
【0003】
特許文献1には、機械に係る情報を状態データとして観測する状態観測部と、加工に係る情報を判定データとして取得する判定データ取得部と、判定データと報酬条件とに基づいて報酬を計算する報酬計算部と、機械のサーボゲインの調整を機械学習する学習部と、機械のサーボゲインの調整の機械学習結果と状態データと基づいて、機械のサーボゲインの調整行動を決定する意思決定部と、決定されたサーボゲインの調整行動に基づいて機械のサーボゲインを変更するゲイン変更部と、を備える制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6457472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機器において検出される物理量には互いに関係性があるが、個々の機器ごとに、その関係性にバラつき(機差)が生じるような物理量がある。このような機差があると、同じ制御ゲインによる制御を行っても、制御に対する応答が機器ごとに異なってしまう。
【0006】
本発明は、機器の物理量の関係性における制御対象の特性を求め、かかる機器ごとの特性に応じた制御を実現し、機差による機器の動作の違いを抑制するための情報を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、制御対象機器の動作により得られる波形データを取得する取得部と、取得した前記波形データに含まれる変数の関係性に基づいて、少なくとも一部の変数である第1変数および少なくとも他の一部の変数である第2変数を抽出し、当該第1変数に基づいて当該第2変数に相当する変数を導出し、導出した変数と当該第2変数とに基づいて前記制御対象機器の特性を求める解析部と、前記制御対象機器の特性に基づき当該制御対象機器の制御に用いられる情報を出力する出力部と、を備えることを特徴とする、情報処理システムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、機器の物理量の関係性における制御対象の特性を求め、かかる機器ごとの特性に応じた制御を実現し、機差による機器の動作の違いを抑制するための情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態が適用される射出成形機の構成を示す図である。
図2】制御装置の構成を示す図である。
図3】データ処理装置の構成を示す図である。
図4】情報処理装置の構成を示す図である。
図5】情報処理装置を実現するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図6】機差の調整について模式的に示す図であり、図6(A)は機差の例を示す図、図6(B)は機差を調整した様子を示す図である。
図7】線形重回帰モデルの構成を示す図である。
図8】解析部による解析処理の例を示す図である。
図9】射出成形機において機器の特性に応じて制御情報を調整する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<装置構成>
図1は、本実施形態が適用される射出成形機の構成を示す図である。射出成形機10は、射出装置20と、型締装置30と、制御装置100と、データ処理装置200とを備える。射出成形機10は、制御対象機器の一例である。また、制御装置100およびデータ処理装置200には、情報処理装置400が接続されている。
【0011】
射出装置20は、成形材料を加熱するシリンダ、このシリンダ内で回転可能であると共に軸方向に進退可能に設けられているスクリュー、このスクリューを回転方向に駆動する回転モータ、このスクリューを軸方向に駆動するモータ等を備えて構成される。成形材料は、例えば、樹脂等である。射出装置20は、スクリューを回転させながら射出装置20から型締装置30へ向かう方向(前方)へ進出させることにより、シリンダ内で加熱されて液状となった成形材料を射出し、射出装置20の前方に配置された型締装置30の金型内へ充填する。射出装置20は、成形品の製造工程において、例えば、計量工程、充填工程、保圧工程などを行う。充填工程と保圧工程とをまとめて射出工程とも呼ぶ。
【0012】
型締装置30は、金型と、金型を締め付ける締め付け機構、この締め付け機構を駆動するモータ等を備えて構成される。型締装置30は、金型を閉じて射出装置20から射出された成形材料を金型内部へ受ける。このとき、型締装置30は、成形材料が充填されることによって金型が開かないように締め付け機構により金型を締め付ける(型締め)。金型に充填された成形材料が固化することにより成形品が生成される。この後、型締装置30は、金型を開いて、生成された成形品が取り出し可能になる。型締装置30は、成形品の製造工程において、例えば、型閉工程、昇圧工程、型締工程、脱圧工程、型開工程などを行う。
【0013】
制御装置100は、射出装置20および型締装置30の動作を制御する装置である。データ処理装置200は、射出装置20および型締装置30が動作するのに伴って得られるデータを処理する装置である。
【0014】
情報処理装置400は、制御装置100およびデータ処理装置200から射出成形機10の動作により得られる波形データを取得し、取得した波形データに基づき射出成形機10の特性を求める。この特性には、個々の射出成形機10における機差を生じさせる要素が含まれる。情報処理装置400は、求めた射出成形機10の特性の情報に基づき、個々の射出成形機10の機差を抑制するような制御を行うための情報を出力し、制御装置100に提供する。情報処理装置400の処理および出力される情報の詳細については後述する。
【0015】
<制御装置100の構成>
図2は、制御装置100の構成を示す図である。制御装置100は、射出装置20および型締装置30の動作を制御する。制御装置100は、例えば、コンピュータにより実現される。制御装置100は、制御部110と、記憶部120とを備える。制御装置100は、射出装置20および型締装置30を制御して、成形品の製造に係る工程を繰り返し行うことにより、成形品を繰り返し製造する。成形品の製造に係る工程には、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、突き出し工程などが含まれる。以下、これらの製造に係る工程をまとめて「製造工程」と呼ぶことがある。また、成形品を得るための一連の動作、例えば、上記の製造工程における計量工程の開始から次の計量工程の開始までの動作を「ショット」、「成形サイクル」等と呼ぶ。なお、成形品を製造する上記の各工程は例示に過ぎない。例えば、1ショットで実行される工程として上記に含まれない他の工程を含んでも良い。
【0016】
制御部110は、制御情報に基づいて、射出装置20および型締装置30を制御する。制御情報は、ユーザが設定する条件であり、例えば、図示しない入力装置を用いてユーザが入力した情報に基づいて生成される。制御情報には、例えば、樹脂温度、金型温度(シリンダ温度)、射出保圧時間、計量値、V-P切り替え位置、保圧圧力、射出速度(充填速度)、スクリュー回転数、スクリュー背圧、型締力等の成形条件が含まれる。これらの成形条件は、成形品や金型に応じて複数の組み合わせが決められる。この成形条件の組み合わせデータを、以下、成形条件データセットとも呼ぶ。また、制御情報には、機構やモータ等の駆動部に対する電圧、電流、圧力、速度、加速度などの制御データが含まれる。成形条件データセットは、成形品や金型の種類等に応じて用意され、記憶部120に格納されている。
【0017】
制御部110は、上記の成形条件データセットを用いて射出装置20および型締装置30を制御し、上記の各工程等を含む成形品の製造(ショット)に係る工程を実施する。制御部110は、成形品の製造開始時などに、製造しようとする成形品に対応する成形条件データセットを記憶部120から読み出す。そして、制御部110は、読み出した成形条件データセットを含む制御情報に基づいて射出装置20および型締装置30の動作を制御する。具体的には、制御部110は、製造工程において射出装置20および型締装置30から得られるデータが、成形条件データセットの設定値と一致するように、射出装置20および型締装置30を制御する。
【0018】
記憶部120は、制御部110による射出装置20および型締装置30の制御に用いられる制御情報を保持する。制御情報に含まれる成形条件データセットは、製造対象の成形品や金型に対応付けられて用意されている。記憶部120は、製造対象の成形品や金型ごとの成形条件データセットを保持する。また、図示しないが、記憶部120は、制御部110が射出装置20および型締装置30を制御するためのプログラムを保持している。詳しくは後述するが、制御装置100においてプロセッサが記憶部120に保持されたプログラムを読み込んで実行することにより、制御部110の機能が実現される。
【0019】
<データ処理装置200の構成>
図3は、データ処理装置200の構成を示す図である。データ処理装置200は、射出装置20および型締装置30が上記の成形品の製造に係る工程における動作を実行するのに伴って得られるデータを取得し、処理する。データ処理装置200は、例えば、コンピュータにより実現される。データ処理装置200は、データ取得部210と、処理部220と、記憶部230とを備える。
【0020】
データ取得部210は、射出装置20および型締装置30から処理対象のデータを取得する。射出装置20および型締装置30には、種々のセンサ、検出器などが取り付けられている。また、射出装置20や型締装置30に種々の計測機器が接続される場合もある。これらのセンサ、検出器、計測機器などを用いて取得されるデータ(以下、「取得データ」と呼ぶ)は、射出装置20および型締装置30による成形結果を表す情報であり、成形品の品質管理に用いられる。データ取得部210は、センサ、検出器、計測機器等から送信された取得データを受信し、記憶部230に格納する。
【0021】
処理部220は、記憶部230に格納された取得データを処理する。具体的には、処理部220は、各工程における取得データの代表値の抽出、各工程における取得データを時系列化した時系列データの生成等の処理を行う。処理部220は、代表値の抽出において、取得データに対し、平均値の算出、値の取り得る範囲の特定、最大値や最小値の特定等の統計処理を行う。
【0022】
記憶部230は、データ取得部210により取得された取得データを保持する。記憶部230に保持される取得データのデータ形式として、例えば、バイナリ、テキスト、CSV(Comma Separated Values)、INI、YAML(YAML Ain't Markup Language)、JSON(JavaScript Object Notation)等を用いても良い。これらの汎用的なデータ形式によるデータファイルとすることで、記憶部230に保持されているデータファイルを他の情報処理装置とデータ交換したり、外部装置から取得したデータファイルを編集したりすることが可能となる。また、図示しないが、記憶部230は、処理部220がデータ処理を実行するためのプログラムを保持している。詳しくは後述するが、データ処理装置200においてプロセッサが記憶部230に保持されたプログラムを読み込んで実行することにより、処理部220の機能が実現される。
【0023】
<情報処理装置400の構成>
図4は、情報処理装置400の構成を示す図である。情報処理装置400は、射出成形機10の動作により得られる波形データを取得して射出成形機10の特性を求め、求めた特性の情報に基づき、射出成形機10の制御に用いられる情報を出力する。情報処理装置400は、例えば、コンピュータにより実現される。情報処理装置400は、通信部410と、処理部420と、記憶部430とを備える。処理部420は、機械学習モデルを用いて射出成形機10の特性を解析する解析部421を有する。記憶部430は、解析部421による解析に用いられる機械学習モデル431を保持する。
【0024】
通信部410は、制御装置100およびデータ処理装置200から射出成形機10の動作により得られる波形データを受信する。受信対象のデータは、射出成形機10の動作時に波形データとして得られる種々のデータとし得る。具体的には、例えば、各種の機構に供給される電圧、電流、各種の機構の動作における速度、加速度、圧力などのデータが挙げられる。また、通信部410は、処理部420の処理により得られる射出成形機10の制御に用いられる情報を制御装置100へ送信する。通信部は、取得部の一例である。
【0025】
処理部420は、通信部410により受信した波形データを用いて、射出成形機10の特性を求める処理を行う。処理部420は、取得した波形データから機械学習モデルへの入力とする入力変数と、検証に用いる実績値とを抽出し、解析部421に入力する。入力変数は第1変数の一例であり、実績値は第2変数の一例である。ここで、入力変数と実績値とは、相互に関係性を有する変数である。すなわち、入力変数の値が変化すると、これに応じて実績値の値も変化する。また、処理部420は、解析部421による解析結果に基づき射出成形機10の制御のための情報を出力し、通信部410に制御装置100へ送信させる。処理部420は、出力部の一例である。
【0026】
解析部421は、入力した入力変数および実績値のうち、入力変数を機械学習モデル431に入力し、実績値に相当する変数(以下、「出力値」と呼ぶ)を導出する。解析部421は、機械学習装置の一例である。次に、解析部421は、実績値と出力値とを比較し、誤差を計算する。そして、解析部421は、実績値に対する出力値の誤差が小さくなるように、機械学習モデル431を調整する。解析部421による処理および機械学習モデル431の詳細については後述する。
【0027】
記憶部430は、通信部410により受信された波形データ、処理部420による処理で得られた情報、処理部420の解析部421により用いられる機械学習モデル431等を保持する。記憶部430に保持されるデータファイルのデータ形式としては、例えば、CSV、XML(Extensible Markup Language)、JSON等を用い得る。
【0028】
<情報処理装置400のハードウェア構成>
図5は、情報処理装置400を実現するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。図5に示すコンピュータは、演算手段であるプロセッサ401と、記憶手段である主記憶装置(メイン・メモリ)402および補助記憶装置403を備える。プロセッサ401としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、その他の種々の演算回路を用い得る。プロセッサ401は、補助記憶装置403に格納されたプログラムを主記憶装置402に読み込んで実行する。主記憶装置402としては、例えば、RAM(Random Access Memory)が用いられる。補助記憶装置403としては、例えば、磁気ディスク装置やSSD(Solid State Drive)等が用いられる。
【0029】
また、コンピュータは、画像を表示するための表示装置404と、コンピュータのユーザによる入力操作が行われる入力手段としての入力装置405とを備える構成としても良い。入力装置405としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等が用いられる。入力装置405として表示装置404と一体に構成されたタッチパネルが用いられる場合、ユーザは、表示装置404に表示された操作画面に対して指やペン型デバイスで触れることにより入力操作を行う。なお、図5に示すコンピュータの構成は一例に過ぎず、本実施形態で用いられるコンピュータは図5の構成例に限定されるものではない。例えば、記憶装置としてフラッシュ・メモリ等の不揮発性メモリやROM(Read Only Memory)を備える構成としても良い。
【0030】
情報処理装置400が図5に示すコンピュータにより実現される場合、通信部410は、例えば、プログラムを読み込んで実行するプロセッサ401および図示しない通信インターフェイスにより実現される。処理部420の機能は、例えば、プロセッサ401がプログラムを読み込んで実行することにより実現される。記憶部430は、例えば、補助記憶装置403により実現される。
【0031】
<制御対象機器の機差>
図6は、機差の調整について模式的に示す図であり、図6(A)は機差の例を示す図、図6(B)は機差を調整した様子を示す図である。図6(A)、(B)は、制御対象機器の動作速度が時間の経過に応じて変化する場合について、縦軸を速度、横軸を時間として示した波形図である。図6(A)、(B)において、破線が制御情報を示す波形図であり、実線が実績データを示す波形図である。
【0032】
射出成形機10等の機器は、通常、同じ機種であっても何らかの機差を有し、動作において差が生じる。例えば、モータの電流値を変化させることにより、図6に示すように速度を制御する場合を考える。この場合、モータの電流値が所望の状態となるように制御できたとしても、機差があると、図6(A)に示すように各機器において得られる速度にばらつきが生じてしまう。センサによって速度や位置を検出してフィードバックし、電流値を制御することにより最終的に所望の速度に収束するとしても、この所望の速度に到達するまでに生じるタイムラグやオーバーシュートが、機差に応じて異なる。図6(A)に示す例では、一つの制御情報(破線)にしたがって制御された三台の機器の速度変化(実線)の様子が示されている。図6(A)に示す例において、三台の機器は、同じ制御情報で制御されながら、それぞれ異なる速度変化を示している。
【0033】
本実施形態は、このような機差を機器ごとの特性として扱い、この機差を抑制するようにモータの電流値を制御することで、機差が抑制された速度制御を実現する。図6(B)に示す例では、図6(A)に示した例と同様の制御情報(破線)に従って、三大の機器の速度変化の様子を示している。図6(B)に示す例において、三台の機器は機差が抑制され、同じ制御情報に基づく制御により、同じ速度変化を示している。
【0034】
ここでは、電流値と速度との関係を例として説明したが、本実施形態の適用対象は上記の例に限定されない。機器においてセンサ等を用いて検出される物理量には、互いに関係性を有するものがある。そのような関係性を有する物理量であって、機器によってその関係性にばらつきが生じるような物理量に対し、本実施形態を適用し得る。例えば、電流と電圧の関係や、速度と加速度の関係が挙げられる。電流と電圧の関係では、電気的な抵抗において機差があるため、同じ電流量が流れた場合でも、機器によって得られる電圧値が異なる場合がある。また、速度と加速度の関係では、機器における動作対象の部材のイナーシャに機差があるため、同じ速度で動作させる場合でも、機器によって加速度が異なる場合がある。これらの制御対象機器における種々の物理量に関して、本実施形態を適用することにより、機器ごとの機差が抑制されて同じ動作をさせる制御を実現することができる。
【0035】
情報処理装置400は、図6(A)、(B)を参照して説明したような互いに関係性を有する物理量の波形データを解析し、制御対象機器である射出成形機10ごとの特性を特定する。そして、各射出成形機10の特性に応じた制御を行うための情報を生成し、制御装置100に提供する。波形データの解析手段として、情報処理装置400の処理部420は、機械学習モデル431を用いる。機械学習モデル431としては、例えば、線形重回帰モデルを用いることができる。
【0036】
なお、波形データの解析手段として、線形重回帰モデルの他、線形回帰モデルやその他の数理モデルを用いることも可能である。しかしながら、線形重回帰モデルを用いることで、他の手段と比較して学習モデルの構築が容易になる。これは、波形データが、複数の変数を持ち、また、入出力に関する正解データの収集が可能であり、また、波形データが有する複数の入力変数になり得るデータがそれぞれ四則演算で表し得る(近似的な計算式で表現されるものも含む)データだからである。このため、波形データの解析は、線形重回帰モデルに対する教師有り機械学習の特性と相性が良いと言える。これにより、テスト装置を使って機械を動作させ教師データを取得し、学習させて機械学習モデルを構築し、構築した機械学習モデルを用いた計算を経てパラメータを決定するまでの操作を、電圧電流速度など種々のパラメータを手動で調整する場合と比べて極めて短時間で行うことができる。
【0037】
図7は、線形重回帰モデルの構成を示す図である。機械学習モデル431に用いられる線形重回帰モデルは、複数の入力を受け付けて、複数の処理単位を表す複数のノードにより各入力の相関関係を考慮した解析を行い、単一の出力を得る。図7に示すモデルにおいて、x1~x3は入力変数、y1は出力である。中間層の各ノードに記されたw1~w4は各ノードに設定された重み値を表す。すなわち、図7に示すモデルでは、入力変数x1~x3が与えられると、各ノードにおける重み値w1~w4を用いた処理を経て、出力y1が得られる。そして、各ノードの重み値w1~w4を変更することにより、同じ入力変数x1~x3に対して異なる出力y1が得られる。なお、図7に示す入力変数およびノードの数は例示に過ぎず、図示の数には限定されない。
【0038】
図7に示す線形重回帰モデルを電流と電圧の関係に対して適用する場合、入力変数x1~x3には、例えば電流実績が入力され、出力y1としては、例えば電圧指令が得られる。そして、各ノードの重み値w1~w4には、例えば物理定数が設定される。重み値w1~w4に設定される物理定数の種類は、解析対象の物理量に応じて選択される。例えば、モータの電流実績を入力とし、電圧指令を出力とする場合、モータの抵抗値(R)、d軸インダクタンス(Ld)、q軸インダクタンス(Lq)、逆起電力の定数(Ke)、トルク定数(Kt)、粘性摩擦(Dm)、イナーシャ(J)等の物理定数を各ノードに割り当て、重み値を設定することができる。
【0039】
図8は、解析部421による解析処理の例を示す図である。解析部421は、図7を参照して説明したような機械学習モデル431(線形重回帰モデル)を用いた教師あり学習により、制御対象機器である射出成形機10から取得した波形データを解析し、機器の特性を特定する。波形データの形式は特に限定しない。例えば、CSV等による値がリスト化されたデータでも良いし、波形図であっても良い。ここでは一例として、機械学習モデル431は、モータの電流実績および速度実績から電圧および加速度を得るモデルであるものとする。なお、図8では、機械学習モデル431の中間層を一つのノードに集約して記載している。
【0040】
解析部421は、射出成形機10から取得された波形データから、入力変数Xとしてd軸電流、q軸電流、速度を抽出し、機械学習モデル431に入力する。また、解析部421は、入力した波形データからd軸電圧、q軸電圧、加速度の実績値(Y(実績))を抽出する。これらの実績値は、機械学習モデル431が入力変数であるd軸電流、q軸電流、速度に基づいて算出する出力内容に相当する。
【0041】
一方、機械学習モデル431は、入力されたd軸電流、q軸電流、速度に基づく出力(Y)として、d軸電圧、q軸電圧、加速度をそれぞれ導出する。ここで、d軸電圧、q軸電圧、加速度の各々が、それぞれd軸電流、q軸電流、速度に基づいて求められる。
【0042】
次に、解析部421は、波形データから抽出したd軸電圧、q軸電圧、加速度の実績値(Y(実績))と、機械学習モデル431を用いて得られたd軸電圧、q軸電圧、加速度の出力(Y)とを比較し、誤差を計算する。そして、この誤差が最小となるように、言い換えれば、d軸電圧、q軸電圧、加速度の出力(Y)がd軸電圧、q軸電圧、加速度の実績値(Y(実績))と一致するように、中間層の各ノードの重み値Wを修正する。そして、d軸電圧、q軸電圧、加速度の出力(Y)とd軸電圧、q軸電圧、加速度の実績値(Y(実績))との誤差を最小とする重み値Wが得られたならば、この重み値Wが、入力された波形データの取得元である射出成形機10のモータに関する特性を表す。制御対象機器である射出成形機10におけるこの特性の相違が、射出成形機10ごとの機差の一例である。
【0043】
上記の説明において、解析部421は、d軸電圧、q軸電圧、加速度の出力(Y)とd軸電圧、q軸電圧、加速度の実績値(Y(実績))との誤差が最小となるように重み値Wを修正したが、これは例示に過ぎない。例えば、上記の処理に代えて、解析部421は、この誤差が予め定められた閾値よりも小さくなるように重み値Wを修正することとしても良い。この場合、重み値Wを修正された機械学習モデル431を用いた解析により、d軸電圧、q軸電圧、加速度の実績値(Y(実績))に近似するd軸電圧、q軸電圧、加速度の出力(Y)が得られる。
【0044】
なお、図8に示した解析処理の例では、波形データから抽出したd軸電圧、q軸電圧、加速度の実績値(Y(実績))と、機械学習モデル431を用いて得られたd軸電圧、q軸電圧、加速度の出力(Y)とを比較して誤差を計算する例について説明したが、これらの変数は上記の例には限定されず、因果関係のある別の変数を用いて比較、誤差の計算を行っても良い。例えば、上記の加速度の実績値および出力に代えて、速度の時間微分や近似計算式等を用いて得られる値を用いても良い。また、電圧の実績値および出力に代えて、インバータのデューティー(ON-OFFの割合)の値を用いても良い。また、入力における速度として、センサ等により直接的に得られる速度データの代わりに、エンコーダの位置データの差分から計算される速度の値を用いても良い。また、入力として電流実績の代わりに、電流検出器から出力される電圧値を用いても良い。
【0045】
<制御対象機器の特性の調整>
情報処理装置400の処理部420は、上記のようにして得られた射出成形機10の特性の情報に基づいて、この射出成形機10における他の射出成型機との機差を抑制するような制御を行うための情報(以下、「特性調整情報」と呼ぶ)を生成する。かかる特性調整情報の一例として、処理部420は、制御装置100が射出装置20および型締装置30の制御に用いる制御情報を補正するためのゲインを生成しても良い。ゲインとは、射出成形機10の特性に基づく偏差を埋めるために、制御情報として用いる値に掛ける係数である。制御装置100は、情報処理装置400から取得したゲインを用いて制御情報を補正し、射出装置20および型締装置30を制御する。このようにすれば、制御装置100の制御部110が有する制御情報自体を、解析部421により解析された射出成形機10の特性(重み値W)に基づいて設計変更する必要はなく、制御部110が既に有している制御情報を補正するだけで済むので、設計変更の規模の増大を抑制することができる。
【0046】
これに対し、処理部420は、特性調整情報として、解析部421により解析された射出成形機10の特性(重み値W)に基づいて、制御装置100が射出装置20および型締装置30の制御に用いる制御情報を生成しても良い。制御装置100は、制御部110が有する制御情報を、情報処理装置400から取得した制御情報に置き換え、射出装置20および型締装置30を制御する。また、処理部420は、特性調整情報として、解析部421により解析された射出成形機10の特性(重み値W)の情報をそのまま制御装置100へ送信しても良い。この場合、制御装置100は、情報処理装置400から取得した射出成形機10の特性の情報に基づき、ゲインを生成して制御情報を補正したり、特性を反映した制御情報を生成したりする。
【0047】
図9は、射出成形機10において機器の特性に応じて制御情報を調整する手順を示すフローチャートである。まず、射出成形機10において、制御装置100が射出装置20および型締装置30を作動させ(S101)、データ処理装置200が射出装置20および型締装置30の動作に伴って検知されるセンサ情報を取得する(S102)。そして、制御装置100およびデータ処理装置200は、この射出装置20および型締装置30の動作により得られた波形データを情報処理装置400へ送信する(S103)。
【0048】
情報処理装置400は、制御装置100およびデータ処理装置200から受信した波形データを解析して射出成形機10の特性を求め(S104)、得られた特性に基づく特性調整情報を射出成形機10の制御装置100へ送信する(S105)。制御装置100は、情報処理装置400から特性調整情報を受信すると(S106)、受信した特性調整情報に基づいて、射出装置20および型締装置30を制御するための制御情報を調整する(S107)。これ以降、射出成形機10の制御装置100は、機器ごとの固有の特性を反映して調整された制御情報により、射出装置20および型締装置30を制御することとなる。そして、制御装置100による制御が変更され、機器の特性に応じた制御が行われることにより、機器の制御における他の機器との機差が抑制される。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態には限定されない。例えば、上記の実施形態では、射出成形機10に接続された情報処理装置400において波形データを解析し、特性調整情報を生成した。これに対し、射出成形機10のデータ処理装置200において波形データを解析し、特性調整情報を生成する構成としても良い。
【0050】
また、上記の実施形態では、機器ごとの機差を抑制することについて説明したが、同一機器において、動作環境等の差異に基づいて特性が変わる場合にも本実施形態を適用することができる。例えば、射出成形機10は、成形材料である樹脂の種類や金型の変更、外気温の変動などの影響を受けて特性が変わる。そこで、これらの環境の変更や変動に応じて波形データを取得し、それぞれの環境下における機器の特性を特定して、この特性に応じた制御を行う構成としても良い。
【0051】
また、本実施形態は、機器調整情報として制御におけるゲインを生成する場合、電流、速度、圧力等のPI制御における比例ゲインおよび積分ゲイン、ノイズフィルタの係数、フィードフォワードのゲイン等、制御工学で設計方法が確立されているゲインに対して広く適用することができる。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
10…射出成形機、20…射出装置、30…型締装置、100…制御装置、200…データ処理装置、400…情報処理装置、410…通信部、420…処理部、421…解析部、430…記憶部、431…機械学習モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9