(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027332
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】耐腐食磁石及び磁気吸着装置
(51)【国際特許分類】
C23F 13/18 20060101AFI20250219BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20250219BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20250219BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20250219BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20250219BHJP
C23F 13/02 20060101ALN20250219BHJP
【FI】
C23F13/18
C25D5/26 M
C23C28/02
C23F11/00 G
H01F7/02 F
H01F7/02 Z
C23F13/02 H
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132057
(22)【出願日】2023-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】500337473
【氏名又は名称】株式会社ソフテム
(71)【出願人】
【識別番号】514046840
【氏名又は名称】辰美産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 清美
(72)【発明者】
【氏名】伊川 辰茂
(72)【発明者】
【氏名】審良 善和
【テーマコード(参考)】
4K024
4K044
4K060
4K062
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA05
4K024AB02
4K024BA02
4K024BB14
4K024GA04
4K044AA02
4K044AB10
4K044BA06
4K044BA10
4K044BB03
4K044CA15
4K044CA18
4K060AA02
4K060BA03
4K060BA13
4K060BA43
4K060EA01
4K062AA05
4K062BA05
4K062FA01
(57)【要約】
【課題】高湿度環境あるいは水中での長期使用にも耐えられるより高い耐腐食性を備えた耐腐食磁石、及び、この耐腐食磁石を備えた磁気吸着装置の提供を目的とする
【解決手段】耐腐食磁石110は、ニッケル被膜111aで被覆されたネオジム磁石111と、ニッケル被膜111a上に形成された亜鉛被膜112と、を有する。磁気吸着装置は、耐腐食磁石110と、耐腐食磁石110を抱持するヨーク181とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル被膜で被覆された永久磁石と、
前記ニッケル被膜上に形成された亜鉛被膜と、
を有することを特徴とする耐腐食磁石。
【請求項2】
前記亜鉛被膜が、亜鉛鍍金である
ことを特徴とする請求項1に記載の耐腐食磁石。
【請求項3】
前記亜鉛被膜が、亜鉛テープである
ことを特徴とする請求項1に記載の耐腐食磁石。
【請求項4】
ニッケル被膜で被覆された永久磁石と、
前記ニッケル被膜上に形成されたエポキシ樹脂からなる第1絶縁層と、
を有することを特徴とする耐腐食磁石。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の耐腐食磁石と、
前記耐腐食磁石を抱持するヨークと、
を備える
ことを特徴とする磁気吸着装置。
【請求項6】
前記耐腐食磁石を被覆する亜鉛陽極層
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の磁気吸着装置。
【請求項7】
前記耐腐食磁石がリング状であり、
前記ヨークが、
前記耐腐食磁石と吸着するバックヨーク部と、
前記バックヨーク部と一体に形成されて前記耐腐食磁石を取り囲む外周ヨーク部と、
前記耐腐食磁石の内周側に配置されて前記バックヨーク部と一体に形成された内周ヨーク部と、を有し、
前記亜鉛陽極層が、
前記耐腐食磁石の外周面と前記外周ヨーク部の内周面との間と、
前記耐腐食磁石の内周面と前記内周ヨーク部の外周面との間と、
前記耐腐食磁石の、前記バックヨーク部との吸着面とは反対側の面と、
に形成されている
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気吸着装置。
【請求項8】
前記耐腐食磁石の表面上に形成されたエポキシ樹脂からなる第2絶縁層
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の磁気吸着装置。
【請求項9】
前記耐腐食磁石がリング状であり、
前記ヨークが、
前記耐腐食磁石と吸着するバックヨーク部と、
前記バックヨーク部と一体に形成されて前記耐腐食磁石を取り囲む外周ヨーク部と、
前記耐腐食磁石の内周側に配置されて前記バックヨーク部と一体に形成された内周ヨーク部と、を有し、
前記第2絶縁層が、
前記耐腐食磁石の外周面と前記外周ヨーク部の内周面との間と、
前記耐腐食磁石の内周面と前記内周ヨーク部の外周面との間と、
前記耐腐食磁石の、前記バックヨーク部との吸着面とは反対側の面と、
に形成されている
ことを特徴とする請求項8に記載の磁気吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食磁石及び磁気吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されているネオジム・サマコバ・アルニコ・フェライト等の永久磁石類は、主に大気中で使用することを前提にして造られ、高湿度環境や海水中で使用することまでは考えられてこなかった。
特にネオジム磁石は、主幹材料であるネオジム(Ne)が、電極電位が-2400mV(SCE)前後の卑金属であるため、大気中で使用した場合でも湿気や水分が侵入した場合に、他の金属素材との間でガルバニック電池を形成して陽極部となり溶解して崩壊するため、表面にニッケル鍍金を施さなければ使用できない。
このように永久磁石類は大気中での使用を前提としており、海水中で使用することまでは考えられていなかった。そして、ネオジム磁石が出現した時点から、その表面にニッケル鍍金を施す以外の腐食防止対策は講じられてこなかった。
【0003】
本発明者等は、海水中で電気防食用のAl陽極を取り付ける手段として、水中溶接に代わってネオジム磁石の吸着力を用いることを計画した。そして、ネオジム磁石の吸着力を増強すると共に海水中での腐食を防止するために、ネオジム磁石をヨークに収納してからさらに可撓性亜鉛陽極材を充填し、犠牲陽極層を形成して電気防食機能を付与した「磁気吸着装置」を開発した(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記磁気吸着装置は、その吸着性能の高さや使いやすさなどから、溶接等の従来の固定手段に代わる技術として高く評価されている。そして、その利便性を生かしてさらに活用範囲を拡げていくことが望まれているが、湿気や水分の多い環境でのさらなる長期使用を考えると、同装置に用いられる磁石のさらなる耐腐食性の向上が求められる。
例えば、磁石としてはネオジム磁石が適しているが、ネオジム磁石は、ネオジム(Ne)、ホウ素(B)、フェライト(Fe)等の素材を焼結して造られるものであり、その表面がポーラスであるため、湿気や水分が浸透しやすい。このような湿気や水分の浸透が生じると、素材間で異種金属接触電池(ガルバニック電池)を構成し、電位が卑なネオジムリッチ部が陽極となって溶解する。そのため、湿気や水分の浸透を阻止する対策として、ネオジム磁石は、その表面をニッケル鍍金層で被覆して使用される。しかしながら、ニッケル鍍金層自体もポーラスで表面に気孔が多数存在するため、高湿度環境や水中でのさらなる長期使用に際してはさらなる改良が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高湿度環境あるいは水中での長期使用にも耐えられるより高い耐腐食性を備えた耐腐食磁石、及び、この耐腐食磁石を備えた磁気吸着装置の提供を目的とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用している。
(1)本発明の一態様に係る耐腐食磁石は、
ニッケル被膜で被覆された永久磁石と、
前記ニッケル被膜上に形成された亜鉛被膜と、
を有する。
(2)上記(1)に記載の耐腐食磁石において、前記亜鉛被膜が、亜鉛鍍金であってもよい。
(3)上記(1)に記載の耐腐食磁石において、前記亜鉛被膜が、亜鉛テープであってもよい。
【0008】
上記(1)~(3)に記載の耐腐食磁石によれば、ニッケル被膜の表面にある気孔が亜鉛被膜により覆われている。そのため、この耐腐食磁石を、高湿度環境や水中(海水中を含む)で長期使用しても、湿気や水分がニッケル被膜の気孔を介して永久磁石に至ることがないので、永久磁石の溶解を防ぐことができる。したがって、この耐腐食磁石は、高湿度環境あるいは水中での長期使用にも耐えられる高い耐腐食性を備える。
【0009】
(4)本発明の他の態様に係る耐腐食磁石は、
ニッケル被膜で被覆された永久磁石と、
前記ニッケル被膜上に形成されたエポキシ樹脂からなる第1絶縁層と、
を有する。
上記(4)に記載の耐腐食磁石によれば、ニッケル被膜の表面にある気孔が第1絶縁層により覆われている。そのため、この耐腐食磁石を、高湿度環境や水中で長期使用しても、湿気や水分がニッケル被膜の気孔を介して永久磁石に至ることがないので、永久磁石の溶解を防ぐことができる。したがって、この耐腐食磁石は、高湿度環境あるいは水中での長期使用にも耐えられる高い耐腐食性を備える。
【0010】
(5)本発明の一態様に係る磁気吸着装置は、
上記(1)~(4)の何れか1項に記載の耐腐食磁石と、
前記耐腐食磁石を抱持するヨークと、
を備える。
上記(5)に記載の磁気吸着装置によれば、その耐腐食磁石が、高湿度環境あるいは水中での長期使用にも耐えられる高い耐腐食性を備える。従って、この磁気吸着装置は、高湿度環境や海水中で長期使用することができる。
【0011】
(6)上記(5)に記載の磁気吸着装置が、
前記耐腐食磁石を被覆する亜鉛陽極層
をさらに備えてもよい。
上記(6)に記載の磁気吸着装置によれば、耐腐食磁石の表面が亜鉛陽極層によってさらに覆われているので、より高い耐腐食性を有し、長期にわたり高い磁気吸着性能を発揮できる。
【0012】
(7)上記(6)に記載の磁気吸着装置において以下の構成を採用してもよい:
前記耐腐食磁石がリング状であり、
前記ヨークが、
前記耐腐食磁石と吸着するバックヨーク部と、
前記バックヨーク部と一体に形成されて前記耐腐食磁石を取り囲む外周ヨーク部と、
前記耐腐食磁石の内周側に配置されて前記バックヨーク部と一体に形成された内周ヨーク部と、を有し、
前記亜鉛陽極層が、
前記耐腐食磁石の外周面と前記外周ヨーク部の内周面との間と、
前記耐腐食磁石の内周面と前記内周ヨーク部の外周面との間と、
前記耐腐食磁石の、前記バックヨーク部との吸着面とは反対側の面と、
に形成されている。
上記(7)に記載の磁気吸着装置によれば、耐腐食磁石の表面が亜鉛陽極層によってさらに覆われているので、より高い耐腐食性を有し、長期にわたり高い磁気吸着性能を発揮できる。
【0013】
(8)上記(5)に記載の磁気吸着装置において、
前記耐腐食磁石の表面上に形成されたエポキシ樹脂からなる第2絶縁層
をさらに備えてもよい。
上記(8)に記載の磁気吸着装置によれば、耐腐食磁石の表面がエポキシ樹脂によってさらに覆われているので、より高い耐腐食性を有し、長期にわたり高い磁気吸着性能を発揮できる。
【0014】
(9)上記(8)に記載の磁気吸着装置において以下の構成を採用してもよい:
前記耐腐食磁石がリング状であり、
前記ヨークが、
前記耐腐食磁石と吸着するバックヨーク部と、
前記バックヨーク部と一体に形成されて前記耐腐食磁石を取り囲む外周ヨーク部と、
前記耐腐食磁石の内周側に配置されて前記バックヨーク部と一体に形成された内周ヨーク部と、を有し、
前記第2絶縁層が、
前記耐腐食磁石の外周面と前記外周ヨーク部の内周面との間と、
前記耐腐食磁石の内周面と前記内周ヨーク部の外周面との間と、
前記耐腐食磁石の、前記バックヨーク部との吸着面とは反対側の面と、
に形成されている。
上記(9)に記載の磁気吸着装置によれば、耐腐食磁石の表面が第2絶縁層によってさらに覆われているので、より高い耐腐食性を有し、長期にわたり高い磁気吸着性能を発揮できる。
【発明の効果】
【0015】
上記各態様によれば、高湿度環境あるいは水中での長期使用にも耐えられるより高い耐腐食性を備えた耐腐食磁石、及び、この耐腐食磁石を備えた磁気吸着装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態を示す図であって、磁気吸着装置をその中心軸線を含む断面で見た縦断面図である。
【
図3】同磁気吸着装置に備わる耐腐食磁石の詳細構造を説明する図であって、
図1のA部の拡大図である。
【
図4】
図3のB部を上下逆にした部分拡大断面図であり、電解亜鉛鍍金層で被覆した形態を示す。
【
図5】
図4に相当する部分拡大断面図であり、電解亜鉛鍍金層に代えて高純度亜鉛テープで被覆した形態を示す。
【
図6】
図4に相当する部分拡大断面図であり、電解亜鉛鍍金層に代えて無溶剤型エポキシ樹脂塗料を塗布して被覆した形態を示す。
【
図7】
図5に示した耐腐食磁石の製造方法を示す図であって、(a),(b),(c)の順に工程を進める。
【
図8】
図1に示した磁気吸着装置の要部を上下逆にした図であって、無溶剤型エポキシ樹脂塗料により絶縁層を形成した場合を示す縦断面図である。
【
図9】
図8に相当する図であって、耐腐食磁石の周囲に可撓性亜鉛陽極を充填して犠牲陽極層を形成した場合を示す縦断面図である。
【
図10】
図8に相当する図であって、ネオジム磁石の周囲を高純度亜鉛テープで被覆した耐腐食磁石に無溶剤型エポキシ樹脂塗料を塗布して絶縁層を形成した場合を示す縦断面図である。
【
図11】
図8に相当する図であって、ネオジム磁石の周囲を高純度亜鉛テープで被覆した耐腐食磁石の周囲に可撓性亜鉛陽極を充填して絶縁層を形成した場合を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の耐腐食磁石及びこれを備える磁気吸着装置の実施形態及びその各種変形例を、図面に基づいて以下に説明する。
【0018】
[磁気吸着装置]
図1は、本発明の一実施形態を示す図であって、磁気吸着装置180をその中心軸線を含む断面で見た縦断面図である。
図2は、同磁気吸着装置180の分解斜視図である。
本実施形態の磁気吸着装置180は、耐腐食磁石110を含む耐腐食磁気吸着構造176が特に特徴的となっている。以下の説明では、先に、磁気吸着装置180の全体構成を
図1及び
図2に基づいて説明し、その後に、耐腐食磁石110及び耐腐食磁気吸着構造176の詳細を続けて説明する。
【0019】
図2に示すように、本実施形態に係る磁気吸着装置180は、吸着装置本体180aと、吸着装置本体180aを設備機器等に固定するためのナット180bとを備えている。ボルト188は、吸着装置本体180aに螺合して使用され、磁気吸着装置180を吸着対象物に対して進退させることで吸着対象物に対する吸着力を調整する吸着力調整部材である。
【0020】
図2に示すように、吸着装置本体180aは、耐腐食磁石110を含む耐腐食磁気吸着構造176と、耐腐食磁気吸着構造176を収容するキャップ状のヨーク181とを備えている。なお、この
図2では、説明のために、耐腐食磁気吸着構造176のうち、平面視リング状の耐腐食磁石110のみを図示している。ヨーク181の、耐腐食磁石110を向く側と反対側の面には、ねじ軸部186が形成されている。
【0021】
図1に示すように、ヨーク181と耐腐食磁石110との隙間には、防食部材142a、142bが設けられている。さらに、耐腐食磁石110の下面、すなわち、ヨーク181内に収容した際に外部に向かって露出する面にも、防食部材142cが設けられている。本実施形態において、耐腐食磁石110と、耐腐食磁石110を覆う防食部材142a、142b、142c、142d(後述)とが、耐腐食磁気吸着構造176を構成している。この耐腐食磁気吸着構造176の詳細については後述する。
【0022】
ヨーク181は、耐腐食磁石110の背面側の磁石面に吸着する円盤状のバックヨーク部183と、耐腐食磁石110の外周面と対向する内周面を有する円筒状の外周ヨーク部184と、耐腐食磁石110の内周面と対向する外周面を有する内周ヨーク部185と、バックヨーク部183の、耐腐食磁石110に吸着する面とは反対側に設けられたねじ軸部186と、を一体に形成した構成を有する。そして、ヨーク181は、バックヨーク部183と外周ヨーク部184と内周ヨーク部185とにより形成された底面視リング状の溝部181b内に、耐腐食磁気吸着構造176を収容している。
【0023】
上記のようにリング状の耐腐食磁石110の内周及び外周のそれぞれに対向する内周ヨーク部185、外周ヨーク部184を設けていることで、本実施形態の磁気吸着装置180は、強力な吸着力を得られるようになっている。すなわち、このようなダブルヨーク構造を採用することで、耐腐食磁石110と内周ヨーク部185との間、及び耐腐食磁石110と外周ヨーク部184との間のそれぞれに吸着部が形成され、耐腐食磁石110の磁力を効率よく吸着に利用できるようになっている。
具体的には、上記構成ダブルヨーク構造の磁気吸着装置180は、内周ヨーク部185を設けない構成(シングルヨーク構造)の磁気吸着装置に比べて、約1.7倍もの高い吸着力が得られる。本実施形態では、このようにダブルヨーク構造を採用することで、寸法を大きくすることなく吸着力を大きく向上させており、重量の大きい設備機器であっても小型の磁気吸着装置180で固定することができる。
【0024】
また、ヨーク181の溝部181bは、
図1に示すように、耐腐食磁気吸着構造176の高さよりも大きい深さに形成されており、ヨーク181に耐腐食磁気吸着構造176を収容した状態で、外周ヨーク部184及び内周ヨーク部185の開口側にある吸着面が、耐腐食磁気吸着構造176の表面よりも先端側(吸着対象物1000側)に突出している。
このように耐腐食磁気吸着構造176よりもヨーク181を突出させておくことで、磁気吸着装置180を吸着対象物1000に吸着させたときの摩擦や衝撃から耐腐食磁気吸着構造176を保護することができ、耐腐食磁気吸着構造176が摩耗したり割れたりするのを防止することができる。
【0025】
図2に示すように、ねじ軸部186は、ヨーク181と一体に円筒状に形成されており、バックヨーク部183の外面の法線方向にねじ軸部186の延在方向が一致している。ねじ軸部186の外周面には、ナット180bが螺合するための雄ねじ部186aが形成されている。このねじ軸部186は、ナット180bと共に、磁気吸着装置180を設備機器等(不図示)に取り付ける部材として機能する。すなわち、設備機器に設けられた支持金具(
図1の符号S)のボルト穴Hにねじ軸部186を挿通してからナット180bを締結することで、簡便に設備機器等に取り付けることができる。なお、
図1の支持金具Sは紙面奥側に向かって延在し、そして設備機器に固定されている。よって、設備機器は、その支持金具Sにナット180bで固定された磁気吸着装置180が吸着対象物1000に磁気吸着することで、吸着対象物1000に対して固定される。
【0026】
ねじ軸部186には、ねじ軸部186を軸方向に貫通するねじ孔部181aが形成されている。ねじ孔部181aは、
図1に示すように、ヨーク181のバックヨーク部183と内周ヨーク部185とを同軸に貫通している。すなわち、ねじ孔部181aは、吸着装置本体180aを高さ方向に貫通して形成されている。
【0027】
ねじ孔部181aの内側面には、ボルト188の雄ねじ部189と螺合する雌ねじ部が形成されている。ねじ孔部181aは吸着装置本体180aを貫通しているので、ねじ孔部181aに十分な長さのボルト188を螺合させることで、ボルト188の先端部を内周ヨーク部185の先端から突出させることができる。また、ボルト188を軸回りに正回転または逆回転させることで、ヨーク181の吸着面からのボルト188の突出長さを自在に調整することができる。
【0028】
ねじ軸部186の雄ねじ部186aに螺合されるナット180bは、緩み止めナットであり、本実施形態の場合、
図2に示すように、ナット180bのねじ穴と同軸のフリクションリング187が設けられている。フリクションリング187は、ねじ穴の中心部側に突出する爪部を有しており、ナット180bをねじ軸部186に螺合することで前記爪部が雄ねじ部186aのねじ山に接して変形し、この変形により生じる反力によって雄ねじ部186aを押圧するようになっている。そして、フリクションリング187と雄ねじ部186aとの間に生じる摩擦力によってナット180bの自由回動が制限され、ナット180bが緩むのを防止するようになっている。
なお、ナット180bの緩み止め構造は特に限定されず、フリクションリングを用いたもののほか、スプリングワッシャを用いた構造や、ダブルナット構造、樹脂リングを用いた構造など、種々のものを用いることができる。
【0029】
図2に示すように、バックヨーク部183には、バックヨーク部183を貫通して耐腐食磁石110に達するねじ孔部(貫通孔)183aが複数形成されている。これらねじ孔部183aは、ヨーク181に耐腐食磁石110を収容する際に使用するものであり、ねじ孔部183aにボルト(不図示)を挿通してヨーク181の内側にボルトの先端を突出させておくことで、ヨーク181の開口側に配置した耐腐食磁石110がバックヨーク部183に吸着するのを規制する。これにより、耐腐食磁石110を配置する際にヨーク181の内部に引き込まれてバックヨーク部183に衝突し、その衝撃によって耐腐食磁石110割れたり、欠けたりするのを防止するようになっている。
【0030】
耐腐食磁石110をバックヨーク部183に吸着させた後のねじ孔部183aには、
図3に示す防食部材142dが設けられている。上述したように、ねじ孔部183aは製造時の磁石の組み付け、あるいは解体時の磁石の取り外し以外にはほとんど使用されない。そこで、ヨーク181内に耐腐食磁石110を取り付けた後、この耐腐食磁石110と接触するように、ねじ孔部183a内に防食部材142dを配することで、耐腐食磁石110の腐食を効果的に防止することができる。また、ねじ孔部183aを介した磁束の漏洩を低減できるので、磁力の利用効率を高めるとともに、他の部材に対して磁力が作用することも防止できる。なお、耐腐食磁石110に衝撃を加えることなくヨーク181の内部に収容できるのであれば、ねじ孔部183aを省略してもよい。その場合は、バックヨーク部183から貫通孔が無くなるので、貫通孔を埋める防食部材142dも不要となる。
【0031】
以上説明の構成を備えた磁気吸着装置180では、バックヨーク部183から突出して設けられたねじ軸部186に形成されたねじ孔部181aと、ねじ孔部181aに螺合されるボルト188とによって、強い磁力を有する耐腐食磁石110による吸着力の高さを制御し、安全かつ確実に吸着対象物に吸着させることができるようになっている。
【0032】
すなわち、この磁気吸着装置180を
図1に示すように吸着対象物1000に吸着させる場合は、まず、吸着装置本体180aのねじ孔部181aに、ねじ軸部186の上端からボルト188を螺合し、ボルト188の先端を内周ヨーク部185の先端から突出させた状態とする。このとき、ボルト188の突出長さは、磁気吸着装置180の吸着力にもよるが、概ね5mm~8mm程度を例示できる。
【0033】
そして、ボルト188の先端を突出させた状態の磁気吸着装置180を、吸着対象物1000に接近させる。すると、突出したボルト188の先端が吸着対象物1000の表面に突き当たって、磁気吸着装置180と吸着対象物1000との接触が妨げられ、磁気吸着装置180と吸着対象物1000とが、ギャップを介して離間された状態に保持される。このとき、磁気吸着装置180は、吸着対象物1000に対して弱い力で引き寄せられるか、あるいは全く引き寄せられない状態となる。
【0034】
その後、ボルト188の頭部を回動してボルト188を後退させると、磁気吸着装置180と吸着対象物1000とのギャップが徐々に小さくなり、それに伴って両者の引き合う力も大きくなる。そして、ボルト188を、その先端が内周ヨーク部185から突出しない位置まで後退させると、
図1に示すように、外周ヨーク部184及び内周ヨーク部185の吸着面が吸着対象物1000に当接する。これにより、磁気吸着装置180がその吸着面において吸着対象物1000に吸着した状態となる。
【0035】
一方、磁気吸着装置180を吸着対象物1000から取り外す場合には、
図1に示す吸着状態において、ボルト188を軸回りに回転させてボルト188の先端部を吸着対象物1000側に進出させる。すると、磁気吸着装置180と吸着対象物1000との間にギャップを形成することができる。磁気吸着装置180に用いられている耐腐食磁石110は、極めて強力な吸着力を有するため、人手で直接引き離すのは困難であるが、磁気吸着装置180の吸着力はヨーク181と吸着対象物1000とのギャップの2乗に反比例するため、数mmのギャップを形成するだけで人手でも容易に引き離せるようになる。
以上に説明のように、本実施形態の磁気吸着装置180は、吸着対象物1000への取り付け、取り外し、あるいは位置調整を、容易かつ安全に行うことが可能である。
【0036】
[耐腐食磁石及び耐腐食磁気吸着構造]
以上説明の全体構成に続いて、本実施形態の磁気吸着装置180において特に特徴的となっている耐腐食磁気吸着構造176の詳細を続けて説明する。以下では、この特徴を詳しく説明するために、従来構造の磁気吸着装置から本実施形態の構成に至るまでの開発経緯も含めて説明を進める。
【0037】
海水中に構築された鋼構造物の腐食防止対策として電気防食が採用されている。この電気防食では、防食電流の供給源となるアルミニウム合金陽極(以下:Al陽極)を、鋼製の被防食体に取り付ける。そして、この取り付けの手段として、従来では、水中でアークを直接飛ばして溶接する水中溶接が用いられていた。しかし、被防食体が鋼矢板である事例において、高張力鋼である鋼矢板の強度低下を水中溶接が誘発していることを、本発明者等は確認した。そして、本発明者等は、水中溶接に代わってAl陽極を取り付ける代替手段を開発すべく研究を進めた。そして、ネオジム磁石が持つ強力な磁力(吸着カ)を用いてAl陽極を鋼矢板に吸着させる「磁気吸着装置」を開発した。さらに、「日本磁気吸着工法協会」を設立し、本技術の普及に取り組んでいる。
【0038】
本発明者等は、磁気吸着工法を進展させる過程で、磁気吸着装置内のネオジム磁石が腐食損耗する現象を確認し、その原因を調査した。その結果、ネオジム磁石のニッケル鍍金層が保護層としての機能が低いため、亜鉛陽極を用いて電気防食を施しているにも関わらず、少しでも傷や欠陥があった場合にはそこから腐食が進行することを確認した。そこで、鹿児島大学の協力を得て、ネオジム磁石の海水中における耐久性試験を実施した。その結果、ニッケル鍍金層に瑕疵が生じた場合、ネオジム磁石が被防食体との間でガルバニックセルを形成し、陽極部となって激しく消耗することを確認した。このガルバニックセルにおいては、陽極部と陰極部の面積比が極端に大きい上に、ネオジム磁石の電位が-2400mV(SCE)、被防食体が防食電位に達していた場合は-900mV(SCE)前後であるので、電位差(起電力)が1500mVに達する上に、通電に伴う陰分極が殆ど進行しないため、大きな腐食電流が流れ続けることを確認した。
【0039】
そのため、この大規模なガルバニックセルの形成を阻止することが、ネオジム磁石を海水中で長期間安定して使用する上で必要であることを知見した。開発当初は、ニッケル鍍金層の腐食防止機能を強化して対応することを考え、ニッケル鍍金層の上部に電解亜鉛鍍金(厚み30μm前後)を施して、ニッケル-亜鉛の複合鍍金層を形成した。そして、この複合鍍金層に対して塩水噴霧試験を実施した結果、ニッケル鍍金層単独の場合に対して10以上の耐久性のあることを確認した。
【0040】
しかし、電解亜鉛鍍金を施すネオジム磁石の加工数量が少ない場合には、コスト面で見合わないという事情があった。そこで、代替策として、ニッケル鍍金層の上部に亜鉛テープ(厚み200μm)を貼り付けて犠牲陽極層を形成する構成を採用した。この亜鉛テープを用いた構成に対して塩水噴霧試験を実施した結果、電解亜鉛鍍金を施した場合と比べて7倍以上の耐腐食性向上が得られることを確認した。よって、亜鉛テープを用いて犠牲陽極機能を強化すれば、ガルバニックセルによる腐食をより大幅に低減できることが確認された。
【0041】
亜鉛テープの貼り付けは特別な技術や道工具類を必要とせず、ネオジム磁石の表面に施されているニッケル鍍金層を研掃して脱脂し、亜鉛テープを所定の形状寸法に切断加工して貼り付けて密着させるだけで、亜鉛陽極層を形成することができる。よって、電解亜鉛鍍金を施す場合よりも短時間かつ低価格で実施できる。
現用の亜鉛テープの厚みは200μmあるので、溶融亜鉛鍍金の最も厚い規格であるHDZ55の4倍の容量がある。そして、ニッケル鍍金層の欠陥部(微小気孔)を封鎖する遮断機能も具備しているので、ネオジム磁石及び被防食体間の電位差を消滅させてガルバニック電池の形成を阻止できる。
【0042】
さらに、電気化学的な手段以外として、ネオジム磁石を物理的に使用環境から遮断すれば、ガルバニックセルの形成を阻止できると考えた。そこで、現在、市販されている各種の絶縁塗料、ライニング材、充填剤の機能を調査した。その結果、米国のアマコート社から「シグマガードCSF650」の名称で販売されている、無溶剤型エポキシ樹脂塗料が海水に対して極めて優れた絶緑性と耐久性を有していることが判明した。
この無溶剤型エポキシ樹脂塗料は、ネオジム磁石を水中で使用する場合の被覆材として使用した場合に極めて高い耐久性を付与できる上に、下記の利点も有する。
(1)溶剤を用いない。
(2)コーナ一部やエッジ部の被覆性が高い。
(3)損傷部(オープンクレーター、オメガクレーター)部への充填性が高い。
(4)塗膜の収縮性が低いのでクラックを生じない。
【0043】
この無溶剤型エポキシ樹脂塗料は、採用した米海軍からも高い評価を得ており、100年以上の極めて長期間にわたる耐久性を期待できるとの情報も得られている。
そこで、無溶剤型エポキシ樹脂塗料をネオジム磁石のニッケル鍍金層の上に塗布して絶縁層を形成したサンプルと、ヨーク内に収納したネオジム磁石の周囲に無溶剤型エポキシ樹脂塗料を充填して絶縁層(ライニング部)を形成したサンプルとを製作した。そして、これらサンプルについて、塩水噴霧による耐久試験を実施して確認した。その結果、1000時間前後では塗膜部やライニング部に全く変化が認められず、長期間にわたり高い耐久性が得られることを確認した。
さらに、電気化学的な腐食防止対策(犠牲陽極機能の強化)と物理的な腐食防止対策(絶縁被膜の形成)とを適宜組み合わせることにより、永久磁石類の耐腐食性を従来の数倍~数十倍に向上させることができることも確認できた。
【0044】
以上の開発経緯を経て、本発明の耐腐食磁石及びこれを備える磁気吸着装置を得るに至った。これら耐腐食磁石及び磁気吸着装置の実施形態及び各種変形例を以下に説明する。まずは、
図3~
図7を参照しながら耐腐食磁石110の各態様を説明する。続いて、
図8~
図11を参照しながら、耐腐食磁気吸着構造176を備える磁気吸着装置180の各態様を説明する。
【0045】
図3は、磁気吸着装置180に備わる耐腐食磁気吸着構造176の詳細構造を説明する図であって、
図1のA部の拡大図である。
耐腐食磁気吸着構造176の耐腐食磁石110は、ネオジム磁石111と、亜鉛被膜112または第1絶縁層113と、亜鉛陽極層142または第2絶縁層143とを有する。
【0046】
ネオジム磁石111は、永久磁石の一例であり、これのみに限られるものではない。すなわち、用いる永久磁石としては、Nd-Fe-B系永久磁石に限らず、RE-Fe-M-B(REはNd、Y、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素、MはCo、Ti、Nb、Al、V、Mn、Sn、Ca、Mg、Pb、Sb、Zn、Si、Zr、Cr、Ni、Cu、Ga、Mo、W、Taからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素)で表記される鉄系の希土類永久磁石の他、Sm-Co磁石、フェライト磁石等も採用可能である。
【0047】
ネオジム磁石111は、薄いリング状の部品であり、一対の上面及び下面と、これら上面及び下面間を繋ぐ内周面及び外周面とを有する。ネオジム磁石111の上面及び下面は、互いに同一の内径及び外径を有してかつ互いに同軸をなす環状の平坦面である。また、ネオジム磁石111の内周面及び外周面は、互いに同じ高さ寸法を有してかつ同軸をなす環状かつ帯状の円弧面である。ネオジム磁石111をその中心軸線を含む断面で見た場合、
図3に示されるように、その上面と、内周面及び外周面との接続箇所には、略直角の角部が形成されている。同様に、ネオジム磁石111をその中心軸線を含む断面において見た場合、
図3に示されるように、その下面と、内周面及び外周面との接続箇所にも、略直角の角部が形成されている。
ネオジム磁石111は、その上面、下面、内周面、外周面の全てが、ニッケル被膜111aにより被覆されている。また、ネオジム磁石111は、上記した全ての角部もニッケル被膜111aにより被覆されている。なお、ニッケル被膜111aに代わって樹脂膜を採用してもよい。
【0048】
ネオジム磁石111の全面、すなわちニッケル被膜111aの全表面が、亜鉛被膜112または第1絶縁層113で被覆されている。ここで、亜鉛被膜112は、電解亜鉛鍍金層112aからなる場合と、高純度亜鉛テープ112bからなる場合との二形態を含む。
上記構成の詳細について、
図3に加えて
図4~
図7も参照しながら説明する。なお、
図4は、
図3のB部を上下逆にした部分拡大断面図であり、電解亜鉛鍍金層112a(亜鉛被膜112)で被覆した形態を示す。
図5は、
図4に対応する部分拡大断面図であり、電解亜鉛鍍金層112aに代わって高純度亜鉛テープ112b(亜鉛被膜112)で被覆した形態を示す。
図6は、
図4に対応する部分拡大断面図であり、電解亜鉛鍍金層112aに代わって無溶剤型エポキシ樹脂塗料からなる第1絶縁層113で被覆した形態を示す。
【0049】
まず、ネオジム磁石111の全面を亜鉛被膜112で被覆する構成では、
図4に示すように電解亜鉛鍍金層112aを形成する場合、あるいは、
図5に示すように高純度亜鉛テープ112bを貼り付けて被覆する場合との2つがある。これら2つの手段のどちらにおいてもニッケル被膜111aの気孔hを覆って封止することができるが、上述した通り、コスト面等の観点からは、高純度亜鉛テープ112bを貼り付けて被覆する
図5の形態の方がより好ましい。
【0050】
一方、
図6に示すようにネオジム磁石111の全面を第1絶縁層113で被覆する場合には、上述した無溶剤型エポキシ樹脂塗料をネオジム磁石111の全面、すなわちニッケル被膜111aの全表面に塗布し、そしてこの塗膜を乾燥させることによって形成する。この構成においても、ニッケル被膜111aに形成される気孔hを第1絶縁層113で覆って封止することができる。
【0051】
なお、無溶剤型エポキシ樹脂塗料は、塗布する前の混合(攪拌)時に大気が混入することが避けられず、そのまま放置すると、被膜である第1絶縁層113中に気泡が生じる原因となる。特に、本実施形態のように、塗装ではなくネオジム磁石111を覆うライニング材(充填材)として用いる場合には、無溶剤型エポキシ樹脂塗料中の気泡を消滅させることが求められる。すなわち、通常塗装する場合の塗膜厚よりも数倍~10倍厚いライニング材では、その内部に気泡が残留している場合の影響が大きく、気泡が少ない健全な部分と、気泡を多く含む不健全な部分との間において、被覆厚さの差を原因とする絶縁機能の格差が生じる上に、被膜劣化の進行原因になりやすい。加えて、本実施形態の磁気吸着装置180は、長期間、海水中に浸漬して使用する特殊な使い方をするので、十分な脱気を行って無溶剤型エポキシ樹脂塗料中の気泡を除去しておくことが好ましい。
具体的には、無溶剤型エポキシ樹脂塗料をネオジム磁石111の全面、すなわちニッケル被膜111aの全表面に塗布した後、真空タンク中に収容してそのまま乾燥させる。すると、無溶剤型エポキシ樹脂塗料内に混入していた気泡(空気)が膜外に発散していき、気泡が消滅した状態で乾燥及び固化させることができる。これにより、内部に気泡が存在せず各部位の絶縁機能を均等にする第1絶縁層113を形成できるので、海水に対して盤石な絶縁性を発揮してネオジム磁石111の腐食進行を防止することができる。
【0052】
一方、
図5に示した高純度亜鉛テープ112bをネオジム磁石111に貼り付けて被覆する場合は、例えば
図7に示す工程によってネオジム磁石111の全面を被覆する。この
図7は、
図5に示した形態に係る耐腐食磁石110の製造方法を示す図であって、(a),(b),(c)の順に工程を進めることを示す。
まず先に、ネオジム磁石111のニッケル被膜111aを研掃して脱脂しておく。
続いて、
図7(a)に示すように、高純度亜鉛テープ112bを、ネオジム磁石111の内周面の全周を覆うのに十分な長さに切った帯状の1枚と、ネオジム磁石111の外周面の全周を覆うのに十分な長さに切った帯状の1枚とのそれぞれを準備する。そして、各高純度亜鉛テープ112bを、ネオジム磁石111の全内周面及び全外周面を覆うように周方向に沿って貼り付ける。
【0053】
続いて、
図7(b)に示すように、高純度亜鉛テープ112bを、ネオジム磁石111の上面及び下面のそれぞれ全面を覆うのに十分な広さをもつように環状に切ったもの2枚を準備する。このとき、ネオジム磁石111の内周面及び外周面に対して先に貼った高純度亜鉛テープ112bとの間に隙間が生じないよう、後から貼る環状の高純度亜鉛テープ112bにおいては、その内周円が小さめで外周円が大きめとなるように切断する。そして、各高純度亜鉛テープ112bを、ネオジム磁石111の上面及び下面の全面を覆うように同軸に貼り付ける。
最後に、
図7(c)に示すように、ネオジム磁石111の上下面に貼り付けた高純度亜鉛テープ112bの内周部分及び外周部分を直角に折り曲げて、ネオジム磁石111の上下面に連なる各角部も覆っておく。この折り曲げにより、ネオジム磁石111の内周面及び外周面に貼った各高純度亜鉛テープ112bの上に折り重なるように、後から貼った各高純度亜鉛テープ112bを貼り付けることができる。このようにして、ネオジム磁石111の全面、すなわちニッケル被膜111aの全表面が、高純度亜鉛テープ112bにより隙間無く覆われ、耐腐食磁石110を得ることができる。その結果、
図5で説明したように、全ての気孔hを封止することができる。
【0054】
以上に例示した製造方法により得た耐腐食磁石110を磁気吸着装置180で用いるためには、上述した手順により、耐腐食磁石110をまず前記ヨーク181の溝部181b内の同軸をなす所定位置に磁気吸着させる。その後、
図8~
図11に例示するように、耐腐食磁石110の表面を亜鉛陽極層142または第2絶縁層143で被覆する。
【0055】
ここで、
図8は、
図1に示した磁気吸着装置180の要部を上下逆にした図であって、無溶剤型エポキシ樹脂塗料により形成された第2絶縁層143を形成した場合を示す縦断面図である。
本態様では、耐腐食磁石110の内周面と内周ヨーク部185の外周面との隙間と、耐腐食磁石110の外周面と外周ヨーク部184の内周面との隙間とに、無溶剤型エポキシ樹脂塗料が充填され、それを固化させて第2絶縁層143を形成する。さらに、耐腐食磁石110のうち、ヨーク181の開口に面した表面(
図8で言うと、耐腐食磁石110の紙面上側にある面)にも、無溶剤型エポキシ樹脂塗料が固化した第2絶縁層143が形成されている。これら3面に形成された第2絶縁層143によれば、耐腐食性が付与された耐腐食磁石110の全面に対して第2絶縁層143を重ねて覆うことにより、さらに耐腐食性を向上させることが可能である。また、ヨーク181の開口に面した表面に形成された第2絶縁層143は、溝部181b内の奥側に配置されるので、前記吸着対象物1000に磁気吸着装置180を吸着させた際、この吸着対象物1000から隙間を置いて離れた位置に配置される。よって、第2絶縁層143は、吸着対象物1000との直接接触による損傷が生じない配置構成となっている。
【0056】
ところで、上述したように、無溶剤型エポキシ樹脂塗料は、塗布する前の混合(攪拌)時に大気が混入することが避けられず、そのまま放置すると、第2絶縁層143中に気泡が生じる原因となる。特に、本実施形態のように、塗装ではなくライニング材(充填材)として用いる場合には、第2絶縁層143中の気泡を消滅させることが求められる。すなわち、通常塗装する場合の塗膜厚よりも数倍~10倍厚いライニング材では、その内部に気泡が残留している場合の影響が大きく、気泡が少ない健全な部分と、気泡を多く含む不健全な部分との間において、被覆厚さの差を原因とする絶縁機能の格差が生じる上に、被膜劣化の進行原因になりやすい。加えて、本実施形態の磁気吸着装置180は、長期間、海水中に浸漬して使用する特殊な使い方をするので、十分な脱気を行って第2絶縁層143中の気泡を除去することが好ましい。
具体的には、ヨーク181内に耐腐食磁石110を収納してから、無溶剤型エポキシ樹脂塗料を充填して覆った後、真空タンク中に収容してそのまま乾燥させる。すると、無溶剤型エポキシ樹脂塗料内に混入していた気泡(空気)が膜外に発散していくので、気泡が消滅した状態で乾燥及び固化させることができる。これにより、内部に気泡が存在せず各部位の絶縁機能を均等にできる第2絶縁層143を形成できるので、海水に対して盤石な絶縁性を発揮してネオジム磁石111の腐食進行を防止することができる。
【0057】
図9は、
図8に相当する図であって、耐腐食磁石110の周囲に可撓性亜鉛陽極を充填して亜鉛陽極層(犠牲陽極層)142を形成した場合を示す縦断面図である。可撓性亜鉛陽極は、亜鉛粉末又は亜鉛合金粉末を樹脂材料等に混合してペースト状としたものである。
【0058】
本態様では、耐腐食磁石110の内周面と内周ヨーク部185の外周面との隙間と、耐腐食磁石110の外周面と外周ヨーク部184の内周面との隙間とに、可撓性亜鉛陽極が充填され、それを固化させて亜鉛陽極層142を形成する。さらに、耐腐食磁石110のうち、ヨーク181の開口に面した表面(
図9で言うと、耐腐食磁石110の紙面上側にある面)にも、可撓性亜鉛陽極が固化した亜鉛陽極層142が形成されている。これら3面に形成された亜鉛陽極層142により、前記防食部材142a、142b、142cが形成される。このように、耐腐食性が付与された耐腐食磁石110の全面に亜鉛陽極層142を重ねて覆うことにより、さらに耐腐食性を向上させることが可能である。また、ヨーク181の開口に面した表面に形成された亜鉛陽極層142は、溝部181b内の奥側に配置されるので、前記吸着対象物1000に磁気吸着装置180を吸着させた際、この吸着対象物1000から隙間を置いて離れた位置に配置される。よって、亜鉛陽極層142は、吸着対象物1000との直接接触による損傷が生じない配置構成となっている。
【0059】
なお、亜鉛陽極層142は、少なくとも塗布時に粘性を有するペースト状(パテ状)であればよく、塗布後の加熱処理や乾燥処理により固化するものであってもよい。さらには、亜鉛陽極層142は、塗布時には導電性を有しておらず、加熱処理や乾燥処理により導電性を発現するものであってもよい。
この亜鉛陽極層142に含まれる金属粉末は、陽極電位、陽極効率、電解生成物の発生量、取り扱いの難易を考慮すると、亜鉛が最も適している。
【0060】
亜鉛陽極層142は、50μm以上の厚さに形成することが好ましく、500μm以上の厚さとすることがより好ましい。さらに1mm以上の厚さとすれば、極めて長期間にわたり防食作用を得られる防食部材となる。このような構成を備えていることで、十分な量の防食部材を備えた耐腐食磁気吸着構造176を構成することができるので、長期間にわたり水中や海水中で使用しても腐食せず、吸着力を持続させることができる。
【0061】
図10は、
図8の変形例に相当する図であって、高純度亜鉛テープ112bで被覆した場合の耐腐食磁石110の周囲に無溶剤型エポキシ樹脂塗料を塗布して第2絶縁層143を形成した場合を示す縦断面図である。すなわち、
図8で説明した構成において、耐腐食磁石110の構成のみが異なっており、その他は
図8の構成と同じである。
図11は、
図9の変形例に相当する図であって、高純度亜鉛テープ112bで被覆した場合の耐腐食磁石110の周囲に可撓性亜鉛陽極を充填して亜鉛陽極層142を形成した場合を示す縦断面図である。すなわち、
図9で説明した構成において、耐腐食磁石110の構成のみが異なっており、その他は
図9の構成と同じである。
【0062】
以上説明の耐腐食磁石110及び磁気吸着装置180の骨子を以下に纏める。
(1)
図3に示したように、本発明の一態様に係る耐腐食磁石110は、
ニッケル被膜111aで被覆されたネオジム磁石(永久磁石)111と、
ニッケル被膜111a上に形成された亜鉛被膜112と、
を有する。
(2)
図4に示したように、上記(1)に記載の耐腐食磁石110において、亜鉛被膜112が、電解亜鉛鍍金層(亜鉛鍍金)112aであってもよい。
(3)
図5に示したように、上記(1)に記載の耐腐食磁石110において、亜鉛被膜112が、高純度亜鉛テープ112bであってもよい。
【0063】
(4)
図6に示したように、本発明の他の態様に係る耐腐食磁石110は、
ニッケル被膜111aで被覆されたネオジム磁石(永久磁石)111と、
ニッケル被膜111a上に形成されたエポキシ樹脂からなる第1絶縁層113と、
を有する。
【0064】
(5)
図1に示したように、本発明の一態様に係る磁気吸着装置180は、
上記(1)~(4)の何れか1項に記載の耐腐食磁石110と、
耐腐食磁石110を抱持するヨーク181と、
を備える。
【0065】
(6)
図3に示したように、上記(5)に記載の磁気吸着装置180が、
耐腐食磁石110の表面を被覆する亜鉛陽極層142をさらに備えてもよい。
【0066】
(7)
図1に示したように、上記(6)に記載の磁気吸着装置180において以下の構成を採用してもよい:
耐腐食磁石110がリング状であり、
ヨーク181が、
耐腐食磁石110と吸着するバックヨーク部183と、
バックヨーク部183と一体に形成されて耐腐食磁石110を取り囲む外周ヨーク部184と、
耐腐食磁石110の内周側に配置されてバックヨーク部183と一体に形成された内周ヨーク部185と、を有し、
亜鉛陽極層142が、
耐腐食磁石110の外周面と外周ヨーク部184の内周面との間と、
耐腐食磁石110の内周面と内周ヨーク部185の外周面との間と、
耐腐食磁石110の、バックヨーク部183との吸着面とは反対側にある表面と、
に形成されている。
【0067】
(8)
図8に示したように、上記(5)に記載の磁気吸着装置180において、
耐腐食磁石110の表面上に形成されたエポキシ樹脂からなる第2絶縁層143
をさらに備えてもよい。
【0068】
(9)
図8に示したように、上記(8)に記載の磁気吸着装置180において以下の構成を採用してもよい:
耐腐食磁石110がリング状であり、
ヨーク181が、
耐腐食磁石110と吸着するバックヨーク部183と、
バックヨーク部183と一体に形成されて耐腐食磁石110を取り囲む外周ヨーク部184と、
耐腐食磁石110の内周側に配置されてバックヨーク部183と一体に形成された内周ヨーク部185と、を有し、
第2絶縁層143が、
耐腐食磁石110の外周面と外周ヨーク部184の内周面との間と、
耐腐食磁石110の内周面と内周ヨーク部185の外周面との間と、
耐腐食磁石110の、バックヨーク部183との吸着面とは反対側にある表面と、
に形成されている。
【0069】
上記(1)~(4)に記載の耐腐食磁石110によれば、ニッケル被膜111aの表面にある気孔hが亜鉛被膜112または第1絶縁層113により覆われている。そのため、この耐腐食磁石110を、高湿度環境や水中(海水中を含む)で長期使用しても、湿気や水分がニッケル被膜111aの気孔を介してネオジム磁石111に至ることがないので、ネオジム磁石111の溶解を防ぐことができる。したがって、この耐腐食磁石110は、高湿度環境あるいは水中での長期使用にも耐えられる高い耐腐食性を備える。
そして、上記(5)~(9)に記載の磁気吸着装置180によれば、耐腐食磁石110を備えるので、上記長期にわたり高い磁気吸着性を発揮し続けることが可能である。
【0070】
なお、上記各実施形態においては、外周ヨーク部184の、吸着対象物1000に対する吸着面の形状を、対向視でリング形状とした。しかし、吸着面は、円形のみに限らず、矩形や楕円形等のその他の形状を採用してもよい。吸着面の形状として例えば四角枠形状を採用した場合、この四角枠形状が正方形であっても良いし、あるいは長方形であってもよい。
また、以上に説明した各実施形態の磁気吸着装置180は、陸上、海水中を問わず、種々の用途に用いることができる。例えば、土木、建築用途では、鉄柱や鉄板などの鋼構造物の組み付けや、鋼構造物に対する付属品の取り付け等に好適に用いることができる。この用途では、従来、溶接、リベット、ボルト締結等の加工手段を用いて組み付けや取り付けを行っていたが、本発明の磁気吸着装置を採用すれば、これらを強力に吸着させて上記加工手段による施工と同等の強度を得られるので、工期の短縮や作業効率の向上といった効果が得られる。さらには、必要に応じて取り外すこともできるため、作業足場の設置等に用いれば、撤収作業をも迅速に行えるようになる。
【符号の説明】
【0071】
110…耐腐食磁石
111…ネオジム磁石(永久磁石)
111a…ニッケル被膜
112…亜鉛被膜
112b…高純度亜鉛テープ(亜鉛テープ)
113…第1絶縁層
142…亜鉛陽極層
143…第2絶縁層
180…磁気吸着装置
181…ヨーク
183…バックヨーク部
184…外周ヨーク部
185…内周ヨーク部
【手続補正書】
【提出日】2024-11-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全面がニッケル被膜で被覆された永久磁石と、
前記ニッケル被膜上に形成された亜鉛被膜と、
を有し、
前記亜鉛皮膜が、前記ニッケル被膜の全表面を被覆している
ことを特徴とする耐腐食磁石。
【請求項2】
前記亜鉛被膜が、亜鉛鍍金である
ことを特徴とする請求項1に記載の耐腐食磁石。
【請求項3】
前記亜鉛被膜が、亜鉛テープである
ことを特徴とする請求項1に記載の耐腐食磁石。
【請求項4】
全面がニッケル被膜で被覆された永久磁石と、
前記ニッケル被膜上に形成されたエポキシ樹脂からなる第1絶縁層と、
を有し、
前記第1絶縁層が、前記ニッケル被膜の全表面を被覆している
ことを特徴とする耐腐食磁石。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の耐腐食磁石と、
前記耐腐食磁石を抱持するヨークと、
を備える
ことを特徴とする磁気吸着装置。
【請求項6】
前記耐腐食磁石を被覆する亜鉛陽極層
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の磁気吸着装置。
【請求項7】
前記耐腐食磁石がリング状であり、
前記ヨークが、
前記耐腐食磁石と吸着するバックヨーク部と、
前記バックヨーク部と一体に形成されて前記耐腐食磁石を取り囲む外周ヨーク部と、
前記耐腐食磁石の内周側に配置されて前記バックヨーク部と一体に形成された内周ヨーク部と、を有し、
前記亜鉛陽極層が、
前記耐腐食磁石の外周面と前記外周ヨーク部の内周面との間と、
前記耐腐食磁石の内周面と前記内周ヨーク部の外周面との間と、
前記耐腐食磁石の、前記バックヨーク部との吸着面とは反対側の面と、
に形成されている
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気吸着装置。
【請求項8】
前記耐腐食磁石の表面上に形成されたエポキシ樹脂からなる第2絶縁層
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の磁気吸着装置。
【請求項9】
前記耐腐食磁石がリング状であり、
前記ヨークが、
前記耐腐食磁石と吸着するバックヨーク部と、
前記バックヨーク部と一体に形成されて前記耐腐食磁石を取り囲む外周ヨーク部と、
前記耐腐食磁石の内周側に配置されて前記バックヨーク部と一体に形成された内周ヨーク部と、を有し、
前記第2絶縁層が、
前記耐腐食磁石の外周面と前記外周ヨーク部の内周面との間と、
前記耐腐食磁石の内周面と前記内周ヨーク部の外周面との間と、
前記耐腐食磁石の、前記バックヨーク部との吸着面とは反対側の面と、
に形成されている
ことを特徴とする請求項8に記載の磁気吸着装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用している。(1)本発明の一態様に係る耐腐食磁石は、
全面がニッケル被膜で被覆された永久磁石と、
前記ニッケル被膜上に形成された亜鉛被膜と、
を有し、
前記亜鉛皮膜が、前記ニッケル被膜の全表面を被覆している。
(2)上記(1)に記載の耐腐食磁石において、前記亜鉛被膜が、亜鉛鍍金であってもよい。
(3)上記(1)に記載の耐腐食磁石において、前記亜鉛被膜が、亜鉛テープであってもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
(4)本発明の他の態様に係る耐腐食磁石は、
全面がニッケル被膜で被覆された永久磁石と、
前記ニッケル被膜上に形成されたエポキシ樹脂からなる第1絶縁層と、
を有し、
前記第1絶縁層が、前記ニッケル被膜の全表面を被覆している。
上記(4)に記載の耐腐食磁石によれば、ニッケル被膜の表面にある気孔が第1絶縁層により覆われている。そのため、この耐腐食磁石を、高湿度環境や水中で長期使用しても、湿気や水分がニッケル被膜の気孔を介して永久磁石に至ることがないので、永久磁石の溶解を防ぐことができる。したがって、この耐腐食磁石は、高湿度環境あるいは水中での長期使用にも耐えられる高い耐腐食性を備える。