(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027431
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】粘膜アジュバント、及び粘膜アジュバントの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20250219BHJP
A61K 39/09 20060101ALI20250219BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250219BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K39/09
A61P37/04
A61P31/04
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024109729
(22)【出願日】2024-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2023131750
(32)【優先日】2023-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517450703
【氏名又は名称】株式会社バイオアパタイト
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195752
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 一正
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤(橋爪) 智美
(72)【発明者】
【氏名】泉福 英信
(72)【発明者】
【氏名】望月 千尋
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 有紀
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085AA38
4C085BA14
4C085FF01
4C085FF18
(57)【要約】
【課題】安全に人への投与ができ、高効率の粘膜アジュバントを提供することを課題とする。
【解決手段】バイオアパタイトによる粘膜アジェバンドであって、
焼成卵殻を用いた低硫酸塩バイオアパタイトを含み、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)の抗原性が前記低硫酸塩バイオアパタイトにより増強されることを特徴とする粘膜アジュバントとした。この構成により、低硫酸塩バイオアパタイトは、骨や歯の構成成分であり安全に人への投与ができるとともに、粒径が約20nmと非常に小さいため抗原提示細胞である樹状細胞に取り込まれやすく高効率の粘膜アジュバントを提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオアパタイトによる粘膜アジェバンドであって、
焼成卵殻を用いた低硫酸塩バイオアパタイトを含み、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)の抗原性が前記低硫酸塩バイオアパタイトにより増強されることを特徴とする粘膜アジュバント。
【請求項2】
前記低硫酸塩バイオアパタイトの周囲に、前記膜小胞が吸着されていることを特徴とする請求項1に記載の粘膜アジュバント。
【請求項3】
前記低硫酸塩バイオアパタイトの塩分濃度は、0.048%以下、好ましくは0.0048%以下、より好ましくは0.0001%以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘膜アジュバント。
【請求項4】
粘膜アジュバントの製造方法であって、焼成卵殻からバイオアパタイトを生成した後、脱塩して低硫酸塩バイオアパタイトを生成するとともに、ストレプトコッカス・ミュータンスを培養した後、固形の膜小胞を得る準備工程と、
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に、前記低硫酸塩バイオアパタイトと前記膜小胞を加えて撹拌する撹拌工程を備えたことを特徴とする粘膜アジュバントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵殻由来のバイオアパタイトを用いた粘膜アジュバント、及び粘膜アジュバントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは感染症に対する有効な防御手段である。そして、粘膜面を介して感染する病原体に対しては経鼻免疫、経口免疫法などの粘膜ワクチンにより粘膜面に防御免疫を構築することが感染防御につながる。しかし、IgA抗体に代表される粘膜免疫を十分に誘導するには、アジュバント剤をワクチン抗原と共に投与し抗原性を高めるとともに、ワクチン抗原を抗原提示細胞に効率よく取り込ませることが必要である。
【0003】
特許文献1には、ベロ毒素のサブユニットからなる粘膜免疫ワクチン用アジュバントが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開2003-321392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、毒性などの安全性の問題から人への経鼻ワクチンへの利用には至っていない。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決して、安全に人への投与ができ、高効率の粘膜アジュバントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、バイオアパタイトによる粘膜アジェバントであって、
焼成卵殻を用いた低硫酸塩バイオアパタイトを含み、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)の抗原性が前記低硫酸塩バイオアパタイトにより増強されることを特徴とする粘膜アジュバントを提供するものである。
【0008】
この構成により、低硫酸塩バイオアパタイトは、骨や歯の構成成分であり安全に人への投与ができるとともに、粒径が約20nmと非常に小さいため抗原提示細胞である樹状細胞に取り込まれやすく高効率の粘膜アジュバントを提供することができる。
出願人は、以前に、卵殻由来のアパタイトと細菌由来のメンブレムベジクルを用いたアジュバント効果について発表している(第95回日本細菌学会総会20221ADR(2022年3月29日)他)が、今回、上記のような具体的な構成とその顕著な効果について得ることができた。
【0009】
粘膜アジュバントであって、前記低硫酸塩バイオアパタイトの周囲に、前記膜小胞が吸着されている構成としてもよい。
【0010】
この構成により、低硫酸塩バイオアパタイトは表面に蛋白質吸着性を有しているため、膜小胞を吸着し、凝集体を形成することで抗原性を高め樹状細胞に認識される。
【0011】
粘膜アジュバントであって、前記低硫酸塩バイオアパタイトの塩分濃度は、0.048%以下、好ましくは0.0048%以下、より好ましくは0.0001%以下である構成としてもよい。
【0012】
酸性物質は体組織の再生を阻害することが知られている。この構成により、塩分濃度の低い低硫酸塩バイオアパタイトとすることで、硫酸塩によりストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)の吸着を阻害することを防止できていると思われる。
【0013】
また、上記課題を解決するために本発明は、粘膜アジュバントの製造方法であって、焼成卵殻からバイオアパタイトを合成時に脱塩して低硫酸塩バイオアパタイトを生成するとともに、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)を培養した後、固形の膜小胞を得る準備工程と、
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に、前記低硫酸塩バイオアパタイト100μg以上と前記膜小胞を加えて撹拌する撹拌工程を備えたことを特徴とする粘膜アジュバントの製造方法を提供するものである。
【0014】
この構成により、低硫酸塩バイオアパタイトは、骨や歯の構成成分であり安全に人への投与ができるとともに、粒径が約20nmと非常に小さいため抗原提示細胞である樹状細胞に取り込まれやすいため、簡単な方法で高効率の粘膜アジュバントを製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粘膜アジュバント、及び粘膜アジュバントの製造方法により、安全に人への投与ができ、高効率の粘膜アジュバントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1における粘膜アジュバントと膜小胞の電子顕微鏡写真1である。
【
図2】本発明の実施例1における粘膜アジュバントの全身免疫効果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例1における粘膜アジュバントの粘膜免疫効果を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例1における粘膜アジュバントと膜小胞により誘導されたサイトカインを示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例1における粘膜アジュバントにより誘導された抗体によるバイオフィルム形成阻害効果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例1における粘膜アジュバントと膜小胞により誘導された抗体の膜小胞に対する特異性を電気泳動により示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例1における粘膜アジュバントと膜小胞の電子顕微鏡写真2である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0017】
本発明の実施例1における粘膜アジュバントについて
図1―
図7を参照して説明する。
図1は、本発明の実施例1における粘膜アジュバントと膜小胞の電子顕微鏡写真1である。
図2は、本発明の実施例1における粘膜アジュバントの全身免疫効果を示すグラフである。
図3は、本発明の実施例1における粘膜アジュバントの粘膜免疫効果を示すグラフである。
図4は、本発明の実施例1における粘膜アジュバントと膜小胞により誘導されたサイトカインを示すグラフである。
図5は本発明の実施例1における粘膜アジュバントにより誘導された抗体によるバイオフィルム形成阻害効果を示すグラフである。
図6は、本発明の実施例1における粘膜アジュバントと膜小胞により誘導された抗体の膜小胞に対する特異性を電気泳動により示すグラフである。
図7は、本発明の実施例1における粘膜アジュバントと膜小胞の電子顕微鏡写真2である。
【0018】
実施例1における粘膜アジュバントは、焼成卵殻を用いた低硫酸塩バイオアパタイトを含み、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)の抗原性を増強させる。低硫酸塩バイオアパタイトは蛋白質を強力に吸着する性質を有していることから、その周囲に膜小胞が吸着された構造を有している。低硫酸塩バイオアパタイトに蛋白質が吸着すると、結合した蛋白質によりプラスチック表面に吸着される。この状態を自然乾燥後アセトン溶液に浸漬したものを電子顕微鏡で撮像した。(電子顕微鏡写真1を
図1に示す。)
図1(a)は、低硫酸塩バイオアパタイトのみをプラスチック表面においた場合、
図1(b)は、膜小胞が吸着した低硫酸塩バイオアパタイトをプラスチック表面においた場合の電子顕微鏡像を示す。
【0019】
また、別の電子顕微鏡写真2を
図7に示す。
図7(a)は、膜小胞の電子顕微鏡写真、
図7(b)は、低硫酸塩バイオアパタイトの電子顕微鏡写真、
図7(c)は、低硫酸塩バイオアパタイトに膜小胞が吸着した状態の電子顕微鏡写真である。
図7(c)で示すように、低硫酸塩バイオアパタイトに膜小胞が吸着している様子がよく観察できる。低硫酸塩バイオアパタイトに膜小胞が吸着することにより、凝集体を形成することで抗原性を高め樹状細胞に認識される。
【0020】
実施例1における粘膜アジュバントは、低硫酸塩バイオアパタイトの粒径は約20nmと非常に小さく、またその周囲にナノサイズの膜小胞が吸着された構造により、人に投与したときに樹状細胞に取り込まれやすい。
【0021】
(粘膜アジュバントの抗体産生効果)
まず、全身IgG免疫応答についての効果について説明する。膜小胞2μgに対して100μgの低硫酸塩バイオアパタイトを10μリットルのPBSに懸濁し、7週齢のBALB/cマウスの片鼻腔に5μリットルずつ初回の経鼻接種した。その後、3週間後に2回目、その後2週間後に3回目、またその後2週間後に4回目、さらにその後2週間後に5回目の経鼻接種を行った。膜小胞に対する全身IgG抗体応答をELISA法で評価した。その抗体産生効果の結果を
図2に示す。
図2の縦軸は、450nmの吸光度を示している。
【0022】
図2の横軸における(a)は、低硫酸塩バイオアパタイトのみを経鼻接種した場合の抗体産生効果を左側から初回接種、2回目接種、3回目接種、4回目接種、5回目接種について示している。
図2(b)は、膜小胞のみを経鼻接種した場合の効果を左側から初回接種、2回目接種、3回目接種、4回目接種、5回目接種について示している。また、
図2(c)は、低硫酸塩バイオアパタイトとストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)とを含む実施例1の粘膜アジュバントと抗原である膜小胞の組み合わせでの抗体産生効果を左側から初回接種、2回目接種、3回目接種、4回目接種、5回目接種について示している。
図2(d)は、ポジティブコントロール群として用いたpolyinosinic polycytidylic acid [poly(I-C)]と膜小胞の組合せの抗体産生効果を左側から初回接種、2回目接種、3回目接種、4回目接種、5回目接種について示している。なお、polyionosinic polycytidylic acid [poly(I-C)]は、人体には投与できない。
【0023】
図2(c)に示したように、低硫酸塩バイオアパタイトとストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)とを含む実施例1の粘膜アジュバントと抗原である膜小胞の組み合わせでの全身IgG抗体産生効果は高く、特に、5回目接種における抗体産生効果はポジティブコントロール群と比較しても引けを取らない。
【0024】
次に、粘膜IgA免疫応答についての抗体産生効果の評価結果を
図3に示す。評価方法は、全身免疫と同様で、マウスの片鼻腔に初回の経鼻接種した後、3週間後に2回目、その後2週間後に3回目、またその後2週間後に4回目、さらにその後2週間後に5回目の経鼻接種を行った。そして、抗原特異的IgA粘膜免疫応答に対する結果をELISA法で評価した。
図3の縦軸は、450nmの吸光度を示している。
【0025】
図3の横軸における(a)は、低硫酸塩バイオアパタイトのみを経鼻接種した場合の粘膜免疫の抗体産生効果を左側から初回接種、2回目接種、3回目接種、4回目接種、5回目接種について示している。
図3(b)は、膜小胞のみを経鼻接種した場合の効果を左側から初回接種、2回目接種、3回目接種、4回目接種、5回目接種について示している。また、
図3(c)は、低硫酸塩バイオアパタイトとストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)とを含む実施例1の粘膜アジュバントと抗原である膜小胞の組み合わせでの抗体産生効果を左側から初回接種、2回目接種、3回目接種、4回目接種、5回目接種について示している。
図3(d)は、ポジティブコントロール群として用いたpolyl:Cと膜小胞の組合せの抗体産生効果を左側から初回接種、2回目接種、3回目接種、4回目接種、5回目接種について示している。
【0026】
図3(c)に示したように、低硫酸塩バイオアパタイトとストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)とを含む実施例1の粘膜アジュバントと抗原である膜膜小胞の組み合わせで誘導された粘膜免疫においても抗体産生効果は高く、特に、5回目接種における抗体産生効果はポジティブコントロール群と比較しても同等である。
【0027】
次に、低硫酸塩バイオアパタイトとストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)とを含む実施例1の粘膜アジュバントと抗原である膜小胞の組み合わせによるサイトカインの産生効果について
図4を参照して説明する。
図4の縦軸は、サイトカイン(IL-4、IFN-g)の産生量を示している。
図4の横軸において、(a)は低硫酸塩バイオアパタイトと膜小胞を免疫したマウスの脾臓由来のCD4陽性ヘルパーT細胞を抗原提示細胞とともに培養した場合、(b)は低硫酸塩バイオアパタイトと膜小胞を免疫したマウスの脾臓由来のCD4陽性ヘルパーT細胞を抗原提示細胞と膜小胞とともに培養した場合を示している。
【0028】
図4で示されるように、低硫酸塩バイオアパタイトと膜小胞を免疫したマウスの脾臓由来のCD4陽性ヘルパーT細胞を膜小胞で再刺激した場合、IFN-gが産生された。IL-4は産生されなかった。つまり、低硫酸塩バイオアパタイトとストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)は主にTh1型免疫応答を誘導した。
【0029】
次に、誘導された抗体によるバイオフィルム形成阻害効果について
図5を参照して説明する。
図5の縦軸は、492nmの吸光度を示している。
図5の横軸において、(a)はIgG抗体を添加せず、膜小胞とStreptococcus mutans gtfB、C欠損変異株を添加した場合、(b)は低硫酸塩バイオアパタイトを免疫したマウス由来のIgG抗体、及び膜小胞とStreptococcus mutans gtfB、C欠損変異株を添加した場合、(c)は膜小胞を免疫したマウス由来のIgG抗体、及び膜小胞とStreptococcus mutans gtfB、C欠損変異株を添加した場合、(d)は低硫酸塩バイオアパタイトと膜小胞を免疫したマウス由来のIgG抗体、及び膜小胞とStreptococcus mutans gtfB、C欠損変異株を添加した場合、(e)はIgG抗体と膜小胞は添加せず、Streptococcus mutans gtfB、C欠損変異株を添加した場合を示している。
【0030】
図5(d)で示されるように、低硫酸塩バイオアパタイトと膜小胞を免疫したマウスの血清由来のIgG抗体を添加した場合、血清由来IgG抗体によりバイオフィルムの形成が顕著に阻害された。
【0031】
次に、グルコシルトランスフェラーゼ(GTF)に対する誘導抗体の特異性の解析について
図6を参照して説明する。
図6は、最後の免疫から2週間後に採取した血清又は唾液サンプルを一次抗体としてウエスタンブロティングに適用し、膜小胞に対する反応性を評価したものであり、(a)は血清サンプルの膜小胞に対する反応性、(b)は唾液サンプルの膜小胞に対する反応性を示している。
【0032】
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)には、う蝕病原因子であるグルコシルトランスフェラーゼ(GTF)が含まれている。
図6によると、血清中のIgG、唾液中のIgAともにこのグルコシルトランスフェラーゼ(GTF)に対する抗体が誘導されたことを示している。
【0033】
将来的には、このう蝕病原因子であるグルコシルトランスフェラーゼ(GTF)に替えて、感染症の病原因子を組込むと、それに対する抗体が誘導され得ることが予想される。
【0034】
(粘膜アジュバントの製造方法)
準備工程において、大量に廃棄されている鶏の卵殻を焼成して水に溶かし、塩化バリウムを加えて混濁を沈殿させ上澄みを吸引濾過後、脱塩して低硫酸塩バイオアパタイトを生成する。また、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)を培養した後、固形の膜小胞を得る。
次に、撹拌工程にて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に、低硫酸塩バイオアパタイト100μgに対して固形の膜小胞2μgを加えて撹拌する。
強い蛋白質吸着性を有する低硫酸塩バイオアパタイトが膜小胞を吸着することでPBS中に抗原である膜小胞と粘膜アジュバントである低硫酸塩バイオアパタイトの凝集物を生成することができる。
【0035】
このように、本発明の実施例1においては、バイオアパタイトによる粘膜アジェバンドであって、
焼成卵殻を用いた低硫酸塩バイオアパタイトを含み、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)の抗原性が前記低硫酸塩バイオアパタイトにより増強されることを特徴とする粘膜アジュバントにより、安全に人への投与ができ、高効率の粘膜アジュバントを提供することができる。
【0036】
また、粘膜アジュバントの製造方法であって、焼成卵殻からバイオアパタイトを生成した後、脱塩して低硫酸塩バイオアパタイトを生成するとともに、ストレプトコッカス・ミュータンスを培養した後、固形の膜小胞を得る準備工程と、
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に、前記低硫酸塩バイオアパタイトと前記膜小胞を加えて撹拌する撹拌工程を備えたことを特徴とする粘膜アジュバントの製造方法により、安全に人への投与ができ、高効率の粘膜アジュバントを提供することができる。
本発明における粘膜アジュバント、及び粘膜アジュバントの製造方法は、膜小胞(vesicle)に含まれるたんぱく質抗原を遺伝子組換えにより様々なものを挿入することで多様なワクチンに広く用いることができる。
粘膜アジュバントの製造方法であって、焼成卵殻からバイオアパタイトを生成した後、脱塩して低硫酸塩バイオアパタイトを生成するとともに、ストレプトコッカス・ミュータンスを培養した後、固形の膜小胞を得る準備工程と、
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に、前記低硫酸塩バイオアパタイトと前記膜小胞を加えて撹拌する撹拌工程を備えたことを特徴とする粘膜アジュバントの製造方法。
この構成により、低硫酸塩バイオアパタイトは、骨や歯の構成成分であり安全に人への投与ができるとともに、粒径が約20nmと非常に小さいため抗原提示細胞である樹状細胞に取り込まれやすく高効率の粘膜アジュバントを提供することができる。
低硫酸塩バイオアパタイトは表面に蛋白質吸着性を有しているため、膜小胞を吸着し、凝集体を形成することで抗原性を高め樹状細胞に認識される。
酸性物質は体組織の再生を阻害することが知られている。硫酸塩含有量が0.048%以下という硫酸塩含有量の低い低硫酸塩バイオアパタイトとすることで、硫酸塩によりストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が分泌する固形の膜小胞(vesicle)の吸着を阻害することを防止できていると思われる。
出願人は、以前に、卵殻由来のアパタイトと細菌由来のメンブレムベジクルを用いたアジュバント効果について発表している(第95回日本細菌学会総会20221ADR(2022年3月29日)他)が、今回、上記のような具体的な構成とその顕著な効果について得ることができた。