IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クルツ スタンピング テクノロジー(ホーフェイ) カンパニー リミテッドの特許一覧

特開2025-27464インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法
<>
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図1
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図2
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図3
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図4
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図5
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図6
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図7a
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図7b
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図8a
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図8b
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図8c
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図8d
  • 特開-インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027464
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20250219BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20250219BHJP
【FI】
B44C1/17 L
B32B7/06
B44C1/17 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024135096
(22)【出願日】2024-08-13
(31)【優先権主張番号】202311029284.2
(32)【優先日】2023-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523466282
【氏名又は名称】クルツ スタンピング テクノロジー(ホーフェイ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ リンフェン
(72)【発明者】
【氏名】フ ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ファン
【テーマコード(参考)】
3B005
4F100
【Fターム(参考)】
3B005EB01
3B005EB03
3B005EC30
3B005FB02
3B005FB13
3B005FB14
3B005FB23
3B005FB25
3B005FB34
3B005FC08Y
3B005FC08Z
3B005FC09Y
3B005FC09Z
3B005FE03
3B005FF01
3B005FG01Z
3B005FG08X
3B005FG08Z
3B005FG11Z
3B005GA04
3B005GA06
4F100AK01A
4F100AK07A
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AK41B
4F100AK41C
4F100AK41D
4F100AK41E
4F100AK42E
4F100AK45A
4F100AK46A
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AK51D
4F100AK51E
4F100AK54
4F100AK74A
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CA13C
4F100CA18B
4F100CA18C
4F100CA18D
4F100CA18E
4F100CA30B
4F100CA30C
4F100CA30D
4F100CA30E
4F100CB00B
4F100CC00D
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EH46D
4F100EH46E
4F100EJ08B
4F100EJ08C
4F100EJ08D
4F100EJ08E
4F100EJ54B
4F100EJ54C
4F100EJ54D
4F100EJ54E
4F100EJ91E
4F100JA06D
4F100JB09B
4F100JB09C
4F100JB09D
4F100JB09E
4F100JK06
4F100JK09
4F100JL09
4F100JL11
4F100JL14D
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、素地(11)と、素地(11)に貼付された転写フィルム(1)の転写プライ(3)と、を備えるインサートシート(10)に関する。転写プライ(3)は、特に以下の順序で、素地(11)上に配置された、少なくとも1つの水性接着剤層(6)と、少なくとも1つの水性カラー層(5)と、水性トップコート層(4)と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地(11)と、当該素地(11)に貼付された転写フィルム(1)の転写プライ(3)と、を備えるインサートシート(10)であって、
前記転写プライ(3)は、特に以下の順序で前記素地(11)上に配置された、少なくとも1つの水性接着剤層(6)と、少なくとも1つの水性カラー層(5)と、水性トップコート層(4)と、
を備える、ことを特徴とするインサートシート(10)。
【請求項2】
前記素地(11)は、個別にもしくは組み合わせて、ラミネート、共押出物もしくは混合物として、ABS、PC、PPA、POM、PMMA、PPから選択される、材料もしくは材料の組合せを含み、および/または、
前記素地(11)は、200μm~750μm、好ましくは350μm~500μmの層厚を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のインサートシート(10)。
【請求項3】
前記水性接着剤層(6)は、前記素地(11)の表面に直接隣接し、および/または、
前記水性トップコート層(4)は、2μm~100μm、好ましくは5μm~80μm、更に好ましくは15μm~50μmの層厚を有し、および/または、
前記水性トップコート層(4)は、
10重量%~40重量%の水性アクリル系バインダーもしくは水性ポリウレタン系バインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.2重量%~3重量%の消泡剤と、を含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載のインサートシート(10)。
【請求項4】
前記インサートシート(10)は、好ましくは前記水性トップコート層(4)と前記少なくとも1つの水性カラー層(5)との間に配置された、水性タイコート層(7)を備え、および/または、
前記水性タイコート層(7)は、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有し、および/または、
前記水性タイコート層(7)は、20重量%~50重量%の水性アクリル系もしくは水性ポリエステル系もしくは水性ポリウレタン系のバインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のインサートシート(10)。
【請求項5】
前記少なくとも1つの水性カラー層(5)は、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有し、および/または、
前記少なくとも1つの水性カラー層(5)は、20重量%~40重量%の水性アクリル系もしくは水性ポリエステル系もしくは水性ポリウレタン系のバインダーと、60重量%~80重量%の脱イオン水と、5重量%~20重量%の少なくとも1種の着色顔料と、0.5重量%~20重量%の分散添加剤と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のインサートシート(10)。
【請求項6】
前記少なくとも1つの水性接着剤層(6)は、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有し、および/または、
前記少なくとも1つの水性接着剤層(6)は、20重量%~50重量%の水性アクリル系もしくは水性ポリエステル系もしくは水性ポリウレタン系のバインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のインサートシート(10)。
【請求項7】
前記インサートシート(10)は、好ましくはVW内装仕様TL226に準拠して測定された、40μgC/gサンプル以下の炭素の放散値EGを有し、ならびに/または、
前記インサートシート(10)が、VW内装仕様TL226に準拠して測定されたPV3900スケールによる2~3のレベルの臭気試験結果を有し、ならびに/または、
前記インサートシート(10)が、VW内装仕様TL226に準拠して測定された、クリーム試験および/もしくはサンローション試験および/もしくは加水分解試験および/もしくは耐光性試験に合格している、ことを特徴とする請求項1に記載のインサートシート(10)。
【請求項8】
前記インサートシート(10)は、DIN EN 20105-A02に準拠して測定された、前記クリーム試験および/もしくはサンローション試験および/もしくは加水分解試験および/もしくは耐光性試験について4以上のグレースケール評価を有し、ならびに/または、
前記インサートシート(10)は、VW内装仕様TL 226に準拠して測定された、前記クリーム試験および/もしくはサンローション試験および/もしくは加水分解試験および/もしくは耐光性についての目視および特性試験に合格しており、ならびに/または、
前記インサートシート(10)は、DIN EN ISO 2409:2013-06に準拠してクロスカットによって測定された、前記クリーム試験および/もしくはサンローション試験および/もしくは加水分解試験および/もしくは耐光性について、GT0~GT1の接着性試験値ISOを有し、ならびに/または、
前記インサートシート(10)は、VW内装仕様TL226に準拠して測定された、前記クリーム試験および/もしくはサンローション試験および/もしくは加水分解試験および/もしくは耐光性に対する引っかき抵抗性試験に合格している、ことを特徴とする請求項1に記載のインサートシート(10)。
【請求項9】
特に請求項1~8のいずれか一項に記載のインサートシート(10)を加飾するための転写フィルム(1)であって、
キャリア層(2)および転写プライ(3)を備え、
前記転写プライ(3)は、特に以下の順序で前記キャリア層上に配置された、水性トップコート層(4)と、少なくとも1つの水性カラー層(5)と、水性接着剤層(6)と、を備える、ことを特徴とする転写フィルム(1)。
【請求項10】
前記キャリア層(2)は、材料としてPETを含み、6μm~100μmの層厚を有する、ことを特徴とする請求項9に記載の転写フィルム(1)。
【請求項11】
転写フィルム(1)は、好ましくは前記キャリア層(2)と前記転写プライ(3)との間に配置された剥離層、特に水性トップコート層(4)を備える、ことを特徴とする請求項9に記載の転写フィルム(1)。
【請求項12】
前記水性トップコート層(4)は、2μm~100μm、好ましくは5μm~80μm、更に好ましくは15μm~50μmの層厚を有し、および/または、
前記水性トップコート層(4)は、10重量%~40重量%の水性アクリル系バインダーもしくは水性ポリウレタン系バインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.2重量%~3重量%の消泡剤と、を含む、ことを特徴とする請求項9に記載の転写フィルム(1)。
【請求項13】
前記転写フィルム(1)は、好ましくは前記水性トップコート層(4)と前記少なくとも1つの水性カラー層(5)との間に配置された、水性タイコート層(7)を備え、
好ましくは、前記水性タイコート層(7)は、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有し、および/または、
前記水性タイコート層(7)は、20重量%~50重量%の水性アクリル系もしくは水性ポリエステル系もしくは水性ポリウレタン系のバインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む、ことを特徴とする請求項9に記載の転写フィルム(1)。
【請求項14】
前記少なくとも1つの水性カラー層(5)は、-0.25mm~+0.25mmの見当公差を有し、および/または、
前記少なくとも1つの水性カラー層(5)は、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有し、および/または、
前記少なくとも1つの水性カラー層(5)は、20重量%~40重量%の水性アクリル系もしくは水性ポリエステル系もしくは水性ポリウレタン系のバインダーと、60重量%~80重量%の脱イオン水と、5重量%~20重量%の少なくとも1種の着色顔料と、0.5重量%~20重量%の分散添加剤と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む、ことを特徴とする請求項9に記載の転写フィルム(1)。
【請求項15】
前記少なくとも1つの水性接着剤層(6)は、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有し、および/または、
前記少なくとも1つの水性接着剤層(6)は、20重量%~50重量%の水性アクリル系もしくは水性ポリエステル系もしくは水性ポリウレタン系のバインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む、ことを特徴とする請求項9に記載の転写フィルム(1)。
【請求項16】
インサートシート(10)、好ましくは請求項1~8に記載のインサートシート(10)を製造する方法であって、
前記インサートシート(10)は、素地(11)と、当該素地(11)に貼付された、特に請求項9~15に記載の転写フィルム(1)の転写プライ(3)と、を含み、
キャリア層(2)を設ける工程と、
転写フィルム(1)を設けるため、特に以下の順序で、水性トップコート層(4)、少なくとも1つの水性カラー層(5)、および水性接着剤層(6)を、前記キャリア層(2)の表面上に印刷によって塗布する工程と、
素地(11)を設ける工程と、
前記素地(11)の表面上に前記転写フィルム(1)の前記転写プライ(3)に対して熱ラミネートを行う工程と、
を含み、
前記水性接着剤層(6)は前記素地(11)の前記表面に直接隣接する、ことを特徴とする方法。
【請求項17】
前記水性トップコート層(4)は、スロットダイにより前記キャリア層(2)の表面上に塗布され、および/または、
前記水性トップコート層(4)を塗布する間、前記水性トップコート層(4)は、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有する、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
水性タイコート層(7)は、グラビア印刷により前記キャリア層(2)の表面上に、好ましくは前記水性トップコート層(4)の表面上に塗布され、
好ましくは、前記水性タイコート層(7)を塗布する間、前記水性タイコート層(7)は、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有する、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの水性カラー層(5)は、前記キャリア層(2)の表面上に、好ましくは前記水性トップコート層(4)もしくは前記水性タイコート層(7)の上面上にグラビア印刷によって塗布され、および/または、
前記少なくとも1つの水性カラー層(5)を塗布する間、前記少なくとも1つの水性カラー層(5)は、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有する、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記水性接着剤層(6)は、前記キャリア層(2)の表面上に、好ましくは前記少なくとも1つの水性カラー層(5)の表面上にグラビア印刷によって塗布され、および/または、
前記水性接着剤層(6)を塗布する間、前記水性接着剤層(6)は、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有する、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記水性トップコート層(4)および/もしくは前記水性タイコート層(7)および/もしくは前記少なくとも1つの水性カラー層(5)および/もしくは前記水性接着剤層(6)は、5m/分~200m/分、好ましくは10m/分~100m/分、更に好ましくは15m/分~100m/分の印刷速度で塗布され、ならびに/または、
前記水性トップコート層(4)および/もしくは前記水性タイコート層(7)および/もしくは前記少なくとも1つの水性カラー層(5)および/もしくは前記水性接着剤層(6)は、80℃~200℃、好ましくは90℃~180℃、更に好ましくは100℃~150℃の乾燥温度で乾燥される、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記熱ラミネートは、0.2m/分~60m/分、好ましくは0.5m/分~40m/分、更に好ましくは1m/分~20m/分のラミネート速度で行われ、および/または、
前記熱ラミネートは、90℃~180℃、好ましくは80℃~160℃、更に好ましくは100℃~150℃のラミネート温度で行われ、および/または、
前記熱ラミネートが、5バール~100バール、好ましくは10バール~90バール、更に好ましくは20バール~60バールのラミネート圧力で行われる、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記転写プライ(3)、好ましくは前記水性トップコート層(4)および/もしくは前記水性タイコート層(7)および/もしくは前記少なくとも1つの水性カラー層(5)および/もしくは前記水性接着剤層(6)を、好ましくは前記素地もしくはインサートシートの形成もしくは深絞り後に、UV照射によって硬化させる工程と、ならびに/または、
前記キャリア層(2)を剥離する工程と、
を更に含む、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサートシート、転写フィルムおよびインサートシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に自動車分野における、加飾成形部品の製造には、通常、インサート成形プロセスが使用されている。このため、特に平坦な2次元形態の、プラスチック素地は、転写フィルムの転写プライで加飾されている。これらの加飾素地は、通常、インサートと呼ばれる。加飾後、そのようなインサートは、特に深絞りされて、3次元または2.5次元の形態に形成され、射出成形機の金型に挿入される。加飾成形部品を提供するために、インサートにはプラスチック化合物がバックインジェクションされる。スプレー塗装またはインモールド加飾(IMD)などの他の加飾プロセスと比較して、インサート成形プロセスはより安定しており、加飾デザインの選択肢がはるかに多い。インサート成形プロセスは、インモールド射出と加飾とを1つの工程に組み合わせる。したがって、それは労働力、エネルギーおよびコストを削減する。インサート成形プロセスの主な利点は、このプロセスが、深く引き伸ばされた、特に深絞りされた3次元または2.5次元部品に適しており、様々な設計要求を満たすことができることである。
【0003】
しかしながら、インサートシートを加飾するために使用される転写フィルムの転写プライの層には、従来、溶媒系塗装が使用されている。例えば、これらは、溶媒系トップコート層、溶媒系インク層および溶媒系接着剤層である。このような溶媒系ラッカーは、様々な溶媒を数多く含有する。印刷中、ほとんどすべての溶媒が蒸発する。しかしながら、転写フィルム中の残留溶媒はまた、最終加飾成形部品中に高いVOC(=揮発性有機化合物)含有量を発生させる。このような揮発性有機化合物は、人体に有害であるとともに環境にも有害である。従来、転写フィルム、特にインサートシートの製造プロセスにおいてさえ溶媒系ラッカーを使用することに起因して、大気汚染を回避するために数多くの安全対策が充足される必要がある。そのような安全対策には費用が掛かる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、本発明の目的は、環境に無害なインサートシートおよび転写フィルム、ならびにインサートシートの製造方法を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、素地と、素地に貼付された転写フィルムの転写プライと、を含むインサートシートによって達成される。転写プライは、特に以下の順序で素地上に配置された、少なくとも1つの水性接着剤層と、少なくとも1つの水性カラー層と、水性トップコート層と、を含む。
【0006】
この目的は、キャリア層および転写プライを含む、特に請求項1~8のいずれか一項に記載のインサートシートを加飾するための、転写フィルムによって更に達成され、転写プライは、特に以下の順序でキャリア層上に配置された、水性トップコート層と、少なくとも1つの水性カラー層と、水性接着剤層と、を含む。
【0007】
更に、この目的は、素地と、素地に貼付された、特に請求項9~15に記載の転写フィルムの転写プライと、を含む、好ましくは請求項1~8に記載のインサートシートを製造する方法であって、
キャリア層を設ける工程と、
転写フィルムを設けるため、特に以下の順序で、水性トップコート層、少なくとも1つの水性カラー層、および水性接着剤層を、キャリア層の表面上に印刷によって塗布する工程と、
素地を設ける工程と、
素地の表面上に転写フィルムの転写プライを熱ラミネートする工程と、
を含み、
特に、水性接着剤層が素地の表面に直接隣接することを特徴とする方法によって達成される。
【0008】
本発明により、インサートシートの製造プロセス内およびインサートシート自体中の環境に有害な溶媒の量を低減または完全に回避することが可能になる。トップコート層および/またはカラー層および/または接着剤層および/またはタイコート層に水性ラッカーを使用することにより、特に自動車部門用に用いられる、環境に無害なインサートシートおよび/または加飾成形部品を製造することが可能になる一方、これらの加飾成形部品および/またはインサートシートは、溶剤系装飾を有するインサートシートを備えた加飾成形部品とほとんど同じ機械的、化学的および/または環境的影響に対する抵抗性を有する。
【0009】
層、プライおよびフィルムは、特に、本質的に平面状の、それゆえ単層または多層の構造体を意味すると理解される。フィルムは、好ましくは自己支持性である。層またはプライは、例えば、自己支持性または非自己支持性である。
【0010】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0011】
好ましくは、素地は、ABS、PC、PPA、POM、PMMA、PPから選択される材料または材料の組合せを、個別にまたは組み合わせて、ラミネート、共押出物または混合物として含むことができる。ABS(=アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)がインサートシートの材料として用いられることが好ましい。その理由は、これらのプラスチック素地が加工しやすく、湿式ワニス系を用いる加飾が容易であり、環境の影響に対する良好な抵抗性を有するためである。一部の実施形態では、素地に別の材料を使用することもできる。一般に、インサートシートをバックインジェクションするために使用されるプラスチック化合物と同様の材料を使用することが有用である。素地の材料とプラスチック化合物との類似性は、これらの2種の要素間の接着性を改善する。
【0012】
また、素地は、200μm~750μm、好ましくは350μm~500μmの層厚を有してもよい。
【0013】
更に、水性接着剤層が、素地の表面に直接隣接するようにしてもよい。水性接着剤層の主な課題は、転写プライと素地との間にしっかりとした接着性をもたらすことである。加飾成形部品について後述するように、抵抗性に応じた数多くの要件を満たす必要がある。加飾転写プライの素地への接着性は、それらのうちの1つである。
【0014】
更に、熱ラミネートによって転写フィルムの転写プライを転写するために、接着剤層が活性化され、次いで硬化されて素地への確実な結合を形成するようにしてもよい。好ましくは、水性接着剤層の硬化は、インサートシートが形成または深絞りされた後に生じる。
【0015】
転写フィルム自体は、熱ラミネートによって転写プライを転写することによってインサートシートを加飾するために使用されるが、上述のようにキャリア層を含む。
【0016】
転写フィルムのキャリア層が、材料としてPETを含み、かつ6μm~100μmの層厚を有することが好ましい。
【0017】
また、転写プライをインサートシートの素地に転写した後にキャリア層が剥離されるようにすることも好ましい。
【0018】
このため、転写フィルムが、好ましくはキャリア層と転写プライとの間に配置された、剥離層、特に水性トップコート層をも含むようにしてもよい。
【0019】
また、剥離層は水性剥離層であってもよい。水性剥離層は、特に、0.01μm~1μm、好ましくは0.05μm~0.3μmの層厚を有する。更に、水性剥離層が、1種または複数種の水性化合物、好ましくは1種または複数種のポリマーおよび/またはオリゴマーを含むことが可能である。そのようなポリマーおよび/またはオリゴマーは、好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリオール、デンプン、糖類、アラビアゴム、ゼラチン、脂質、ポリエチレンオキシド、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリル酸および/またはポリアミドから選択される。水性剥離層が、これらのポリマーおよび/またはオリゴマーの組合せを有することが可能である。水性剥離層は、好ましくは、ポリビニルアルコール、特に75%~100%のけん化度を有する部分的にけん化されたポリ酢酸ビニルから製造されたポリビニルアルコールを含む。
【0020】
あるいは、剥離層は水性でなくてもよい。剥離層が、ワックス、カルナバワックス、モンタン酸エステル、ポリエチレンワックス、ポリアミドワックス、PTFEワックス、シリコーン、メラミンホルムアルデヒド樹脂から選択される少なくとも1種の材料または材料の組合せを含むようにするのが好ましい。有利な実施形態では、少なくとも1つの剥離層が、1μm未満、特に0.5μm未満の層厚を有するようにすることができる。
【0021】
剥離層は、好ましくは、従来のキャリア層よりも良好および/または異なる剥離挙動を有するポリマー剥離層である。そのような剥離層は、キャリア層に不可逆的に接合され、転写プライは剥離層上に配置される。転写プライは、特に、ポリマー剥離層を用いてより容易にキャリア層から剥離されることができ、その結果、インサートシートのより高品質の加飾が達成される。
【0022】
上述のように、転写プライは、特に、以下の順序でキャリア層上に配置された、水性トップコート層と、少なくとも1つの水性カラー層と、水性接着剤層と、を含む。一部の実施形態では、転写フィルムは、好ましくは水性トップコート層と少なくとも1つの水性カラー層との間に配置された、水性タイコート層を含んでいてもよい。タイコート層は、水性トップコート層と水性カラー層との間の接着性を更に向上および安定化させることができる。
【0023】
水性タイコート層が、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有することが可能であり得る。
【0024】
水性タイコート層は、20重量%~50重量%の水性アクリル系または水性ポリエステル系または水性ポリウレタン系バインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含んでもよい。この組成物は、特にグラビア印刷に対する、改善された印刷適性をもたらす。
【0025】
更に、水性タイコート層は、グラビア印刷によってキャリア層の表面上に、好ましくは水性トップコート層の表面上に塗布されてもよい。
【0026】
好ましくは、水性タイコート層を塗布する間、水性タイコート層が、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有するようにする。
【0027】
更に、水性トップコート層は、2μm~100μm、好ましくは5μm~80μm、更に好ましくは15μm~50μmの層厚を有するようにするのが好ましい。このような層厚の選択により、一方では対応する保護がもたらされ、他方では転写フィルムのさらなる加工性がもたらされ、水性トップコート層と転写プライの他の層との境界面での層間剥離が生じないことが保証される。更に、これは、水性トップコート層がインサートシートおよび/または加飾された射出成形部品の外層に相当し得るため、機械的および/または物理的および/または化学的環境の影響に対するインサートシート、特に加飾された射出成形部品の抵抗性を改善する。
【0028】
また、水性トップコート層は、10重量%~40重量%の水性アクリル系バインダーまたは水性ポリウレタン系バインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.2重量%~3重量%の消泡剤と、を含むものであってもよい。この組成物は、特にスロットダイに対する、改善された印刷適性をもたらす。
【0029】
水性トップコート層は、スロットダイによってキャリア層の表面に塗布されることが更に好ましい。
【0030】
更に、水性トップコート層を塗布する間、水性トップコート層は、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有する。
【0031】
少なくとも1つの水性カラー層は、単層または多層の水性カラー層として形成されてもよい。この水性カラー層は、好ましくは1つ以上の層を含む。少なくとも1つの水性カラー層は、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有することが好ましい。少なくとも1つの水性カラー層は、好ましくは、1つ以上の水性カラー層、特に着色ワニス層を有してもよい。これらの水性カラー層は、いずれの場合も、別様に染色されることができ、ならびに/または透明および/もしくは不透明に形成されることができ、また、1つ以上のさらなる層、特に透明層によって分離されることもできる。水性カラー層は、いずれの場合も、それらの層平面の表面全体にわたって、またはそれらの層平面内に部分的にのみ存在することができる。水性カラー層は、好ましくは、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、パッド印刷、ゼログラフィー印刷またはそれらの組合せから選択される公知の印刷方法によって塗布される。水性カラー層は、バインダーおよび着色剤および/またはフィラーおよび/または顔料、特にまた、光学的に変化する顔料および/または干渉層顔料および/または液晶顔料および/または磁気配向性顔料および/または熱変色性顔料および/または金属顔料から構成されることができる。更に、水性カラー層は、燐光染料および/または発光染料を含むこともできる。着色剤は、着色染料および/または着色顔料を含むことができる。
【0032】
本文脈において、透明とは、人間の観測者に見える光の波長範囲内、特に380nm~780nmにおいて、この波長範囲内にわたって平均化された透過率が50%を超える、好ましくは70%を超える、特に好ましくは80%を超える領域を特に意味する。
【0033】
本文脈において、不透明とは、人間の観測者に見える光の波長範囲内、特に380nm~780nmにおいて、この波長範囲内にわたって平均化された透過率が40%未満、好ましくは30%未満、特に好ましくは20%未満の領域を特に意味する。
【0034】
更に、少なくとも1つの水性カラー層が、転写フィルム、特にインサートシートの加飾的側面を担うようにするのが好ましい。少なくとも1つの水性カラー層は、模様が付けられて配置されてもよい。「模様が付けられて」とは、好ましくは、1つ以上の模様を有することを意味する。模様は、特に、グラフィカルに設計された輪郭、図形表現、画像、記号、ロゴ、エンドレス柄、肖像画、英数字文字、テキスト、グリッディングなどであり、または上記の模様のうちの1つ以上の組合せである。
【0035】
少なくとも1つの水性カラー層または各水性カラーは、-0.25mm~+0.25mmの見当公差を有するようにするのが更に好ましい。
【0036】
見当(位置)もしくは見当合せ(位置合わせ)、または見当精度(位置制度)もしくは見当合せ精度(位置合わせ制度)により、2つ以上の要素および/または層の互いに対する位置精度が意味される。見当精度は、できるだけ小さくなるように事前に定義された許容誤差内で変化するものである。同時に、複数の要素および/または層の互いに対する見当精度は、プロセスの信頼性を高めるために重要な特徴である。位置的に正確な位置決めは、特に知覚的な、好ましくは光学的に検出可能な見当合せ(位置合わせ)マークまたはレジスターマークによって影響を受ける可能性がある。これらの見当合せ(位置合わせ)マークまたはレジスターマークは、特定の別個の要素または領域または層を表すことができ、あるいはそれら自体が位置決めされる要素または領域または層の一部であり得る。
【0037】
少なくとも1つの水性カラー層が、20重量%~40重量%の水性アクリル系または水性ポリエステル系または水性ポリウレタン系バインダーと、60重量%~80重量%の脱イオン水と、5重量%~20重量%の少なくとも1つの着色顔料と、0.5重量%~20重量%の分散添加剤と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含むようにすることができる。この組成物は、特にグラビア印刷に対する、改善された印刷適性をもたらす。
【0038】
更に、少なくとも1つの水性カラー層が、グラビア印刷によってキャリア層の表面上に、好ましくは水性トップコート層の上面上または水性タイコート層の上面上に塗布されるようにすることができる。
【0039】
更に、少なくとも1つの水性カラー層を塗布する間、少なくとも1つの水性カラー層が、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有してもよい。このような粘度は、少なくとも1つの水性カラー層の印刷適性を改善する。
【0040】
少なくとも1つの水性接着剤層が、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有する場合が有利なこともあり得る。
【0041】
更に、少なくとも1つの水性接着剤層は、20重量%~50重量%の水性アクリル系または水性ポリエステル系または水性ポリウレタン系のバインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含んでもよい。この組成物は、特にグラビア印刷に対する、改善された印刷適性をもたらす。
【0042】
水性接着剤層は、グラビア印刷によってキャリア層の表面上に、好ましくは少なくとも1つの水性カラー層の表面上に塗布されるようにすることもできる。
【0043】
更に、水性接着剤層を塗布する間、水性接着剤層が、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有することが好ましい。
【0044】
更に、水性トップコート層および/または水性タイコート層および/または少なくとも1つの水性カラー層および/または水性接着剤層は、5m/分~200m/分、好ましくは10m/分~100m/分、更に好ましくは15m/分~100m/分の印刷速度で塗布されるようにしてもよい。好ましくは、そのような印刷速度は、上記の組成物および粘度に基づいて実現され得る。このような高い印刷速度は、スループット、したがって効率を向上させる。
【0045】
転写プライの層を塗布した後、好ましくは、当該層を乾燥することが好ましい。好ましくは、水性トップコート層および/または水性タイコート層および/または少なくとも1つの水性カラー層および/または水性接着剤層を、80℃~200℃、好ましくは90℃~180℃、更に好ましくは100℃~150℃の乾燥温度で乾燥する。上記層を乾燥することにより、確実に層が互いに十分な接着性を有することになる。
【0046】
層を乾燥した後、インサートシートの中間製品として転写箔を製造する。用途に応じて、インサートシートは、顧客の敷地内で、または転写フィルム製造のすぐ下流で製造されることができる。
【0047】
上述のように、インサートシートを好ましく製造するため、転写フィルムの転写プライが、熱ラミネートによってインサートシートの素地に転写されるようにする。熱ラミネートは、0.2m/分~60m/分、好ましくは0.5m/分~40m/分、更に好ましくは1m/分~20m/分のラミネート速度で行われるようにするのが好ましい。
【0048】
更に、熱ラミネートは、90℃~180℃、好ましくは80℃~160℃、更に好ましくは100℃~150℃のラミネート温度で行われてもよい。
【0049】
また、熱ラミネートは、5バール~100バール、好ましくは10バール~90バール、更に好ましくは20バール~60バールのラミネート圧力で行われてもよい。
【0050】
熱ラミネート中に、転写プライの層が熱暴露により靭性を失い、したがって変形可能かつ柔軟になることが可能である。これは、インサートシートのその後の成形または深絞りに有利である。次いで、転写シートの層は、時に激しい伸張および圧縮に耐えることができ、割れまたはしわが生じない。その結果、インサートシート上の高品質で均一な加飾が得られる。しかし、本発明の方法は、好ましくは、転写プライ、好ましくは水性トップコート層および/または水性タイコート層および/または少なくとも1つの水性カラー層および/または水性接着剤層を、好ましくは素地またはインサートシートの形成または深絞り後に、UV照射によって硬化させる工程を更に含んでもよい。
【0051】
硬化は、層が互いに十分な接着性を有し、外部環境の影響に抵抗性を示すことを保証する。
【0052】
更に、本発明の方法は、キャリア層を剥離する工程を更に含んでもよい。
【0053】
好ましくは、キャリア層は、インサートシートが深絞りもしくは形成される前に、またはインサートシートが深絞りもしくは形成された後に、剥離される。
【0054】
冒頭で述べたように、自動車産業は、例えば内装部品用の加飾された射出成形部品に高い要件を課している。したがって、インサートシートまたは加飾された射出成形部品が、これらの要件を満たすことが好ましい。これは、以下に記載される適切な試験で好ましく実証される。
【0055】
本発明によるインサートシートで加飾された射出成形部品がその後のすべての試験で使用された。これは、インサートシートのすべての層が硬化状態にあることを意味する。ただし、試験には、バックインジェクションされていないインサートシートのみを使用することも可能である。しかしながら、取り扱いがより容易であるという理由から、適切に加飾された射出成形部品に対して試験を行うことにした。
【0056】
冒頭で述べたように、VOC(=揮発性有機化合物)は、転写フィルムおよび/またはインサートシートおよび/または加飾成形部品において低減または回避されるべきである。
【0057】
VOCを測定するために、FID検出器(水素炎イオン化検出器)を備えたガスクロマトグラフまたは質量分析器、例えばCombi PALオートサンプラーを有するISQ QD&Trace 1300 GCから構成されたサーモフィッシャーGC-MSシステムが使用される。更に、ガスクロマトグラフは、長さ30m、内径0.25mmおよび膜厚0.25μmの壁被覆開放管状(WCOT)、例えばZebron ZB-WAXを備える。
【0058】
インサートシートおよび/または転写フィルムのサンプルが、10mg超で25mg未満の重量の小片に分割される。好ましくは、少なくとも0.1mgの精度の分析天秤を使用することが推奨される。これらの小片が2.000g±0.001gまで秤量され、20mlの容積のヘッドスペースバイアルに入れられる。サンプルごとに、3つのヘッドスペースバイアルを調製し、測定する必要がある。
【0059】
測定前に、サンプルに含まれる物質でバイアルを富化するために、120℃の温度で5時間±5分間、ガスクロマトグラフィー炉内で、サンプルを含むヘッドスペースバイアルは、ヘッドスペースサンプリングバイアルにコンディショニングされる。この直後にバイアルを分析する必要がある。少なくとも3つのサンプルを分析する必要がある。すべてのサンプル分析、ブランクバイアルおよび較正溶液に対して、適用量が同一で再現性があることを保証する必要がある。
【0060】
サンプルは、以下の試験条件下で測定される。まず、ガスクロマトグラフィー質量分析法の炉内の一定温度である50℃を3分間維持する。そのような炉は、サンプルをコンディショニングするためのオーブンである。次いで、温度は、12℃/分の比率で200℃まで加熱される。200℃の温度に達したら、温度を4分間維持する。注入ポート温度は200℃であり、検出器温度は250℃である。スプリット比は約1:20である。キャリアガスとして、ヘリウムおよび窒素を22cm/s~27cm/sのガス速度で使用する。キャリアガスを別々に注入し、炉内の混合物を定める。
【0061】
外部標準法による較正特性は、全炭素排出量の定量的測定および特定の個々の物質の量の測定のために作成される。
【0062】
アセトンは、全炭素排出量の較正物質として機能し、個々の物質については、その物質自体が使用される必要がある。
【0063】
ガスクロマトグラフィー炉に新しいカラムを設置した後と、この装置の各変更後の両方で、7つの較正溶液を用いた一般的な較正が行われる必要がある。更に、少なくとも3つの溶液を用いて少なくとも4週間の間、チェック較正を行う必要がある。
【0064】
較正溶液の調製は、アセトンおよびn-ブタノールで作られる。7つの較正溶液は、較正用サンプルとしてのn-ブタノール中の1リットル当たりアセトン、0.1g、0.5g、1g、5g、10g、50g、100gの濃度を有することが好ましい。1リットル当たり0.5g、5g、および50gのアセトンを有する少なくとも3つの溶液がチェック較正のために使用される必要がある。チェック較正の前に、n-ブタノールおよびアセトンについて同時にピークが発生しないことを確実にする必要がある。
【0065】
較正中に使用されるすべての物質は、少なくとも試薬グレードの品質を有する必要がある。
【0066】
較正測定中、(最低濃度から)4μl±0.2μlの溶液を取得して20mlの空のヘッドスペースバイアルに注入するために、10μl注入器が使用され、直ちにポリテトラフルオロエチレンで密封される。注入器内に気泡が存在してはならず、各較正溶液は少なくとも3つのバイアルを必要とすることに留意されたい。
【0067】
その後、較正溶液が入ったバイアルには120℃の一定温度で1時間の持続時間の温度処理が施される。次いで、較正されたサンプルは質量分析法によって分析され、コンピュータによって記録される。各サンプルは、スペクトル中のそれぞれのピークを生成する。各ピークは、特定の幅および特定の高さを有し、これらが一緒になって、較正された各サンプルのピーク面積を定める。次いで、較正溶液からの各ピーク面積からの面積の値は、一方の軸(Y)にピーク面積を有し、他方の軸(X)に較正溶液からの異なるアセトン濃度を有する第2の図に描かれる。
【0068】
次いで、まっすぐな直線が、較正溶液の濃度(単位はg/l)に対するアセトンのピーク面積のこの第2の図に描かれる。この描かれた理想直線は、較正曲線を定める。更に、コンピュータ分析中、相関係数(R)が自動的に取得され、相関係数は0.995を超える必要があり、そうでない場合には別の較正が必要とされる。描かれた直線の傾きは、全炭素排出量を表す較正係数kを表し、k(i)は個々の物質の排出量を表す。係数kは以下の単位を有する(数1)。
【数1】
【0069】
炭素の全体的な放散値EG(単位はμgC/gサンプル)は、好ましくは以下の式(数2)によって計算される。
【数2】
式中、Aは全体的なピーク値面積である。Aはピーク値面積ベースライン値であり、これは、3回測定された空のガラスバイアルの信号値で構成される平均値により決定されたブランク値ピーク面積である。換言すれば、Aは、好ましくは周囲空気中に含まれる炭素の質量の基準値を示す。一方、Aは、サンプルおよび周囲空気中に含まれる炭素の質量の値を示す。AおよびAは、両方ともカウント・分の単位を有する。更に、kは全炭素排出量に対する相関係数であり、「2」はサンプル質量に関連する係数である。したがって、係数「2」は、サンプル1グラム当たり2μlの較正溶液がヘッドスペースバイアルに注入されることを示す。したがって、係数「2」は単位μl/gを有する。
係数0.6204は、アセトン中の炭素の含有量を示す。アセトン中の炭素の含有量は、以下の式(数3)によって計算される。
【数3】
【0070】
特に、インサートシート、特に転写フィルムまたは加飾成形部品は、好ましくはVW内装仕様TL226(VW interior spec TL226)に準拠して測定される、40μgC/gサンプル以下の炭素の放散値EGを有することが有利なことに示されている。更に、少なくとも3つのサンプルが試験されるようにすることが好ましい。
【0071】
全体的な放散値Ei(単位はμg/g)は、好ましくは、以下の式(数4)によって計算される。
【数4】
式中、Bは個々の分析物質サンプルiのピーク値面積であり、k(i)は個々の物質の相関係数であり、「2」はサンプル質量に関する係数である。したがって、係数「2」は、サンプル1グラム当たり2μlの較正溶液がヘッドスペースバイアルに注入されることを示す。したがって、係数「2」は単位μl/gを有する。
【0072】
臭気試験のために、インサートシートの試験片が80℃で1リットルの保存ガラス中に2時間保存される。試験片は、例えば、18.8cmの長さ、11cmの幅を有する。その後、試験片は取り出され、5分間静置される。その後、試験片は、3名の異なる人々によって独立して試験片の臭いの強度について試験される。評価は、以下に示すようにPV3900スケールにしたがって与えられる。
【表1】
【0073】
特に、インサートシート、特に加飾成形部品は、VW内装仕様TL226にしたがって測定されたPV3900スケールによる2~3のレベルの臭気試験結果を有することが有利なことに示されている。
【0074】
クリーム試験およびサンローション試験のために、試験片の表面、特にインサートシートおよび/または加飾成形部品の表面はガーゼで覆われ、クリーム試験およびサンローション試験には、それぞれ異なる試験片が使用される。ガーゼは、好ましくは綿ガーゼ(20番手)である。各試験片について、クリームまたはサンローションがガーゼ上に塗布され、クリームまたはサンローションがガーゼの隙間を均一かつ完全に満たすようにガーゼに押し付けられる。クリームおよびサンローションには、Thierry PV 3964と呼ばれる複数の試験クリームを有する一般的なテストボックスが使用される。クリームまたはサンローションが塗布された後、ガーゼが付いた試験片は80±2℃の温度の空気循環オーブンに24時間載置される。その後、ガーゼは除去され、試験片の表面は、クリームまたはサンローションが完全に除去されるように洗浄される。
【0075】
その後、試験片および元のインサートシート、特に加飾成形部品は、以下に記載されるように、グレースケール試験ならびに/または目視およびハプティック特性試験ならびに/またはクロスカット試験ならびに/または引っかき抵抗性試験により評価される。クリームおよびサンローション試験に合格するには、上記の各試験が合格されなければならない。
【0076】
特に、インサートシート、特に加飾成形部品は、VW内装仕様TL226に準拠して測定されたクリームおよびサンローション試験に合格していることが有利に示されている。
【0077】
加水分解試験のために、試験片、特にインサートシートおよび/または加飾成形部品は、加水分解試験チャンバ内に、例えば高低温湿度熱チャンバ内に、特にWeiss Technik GmbH(ドイツ、ライスキルヒェン35447)社のPRO C/340/70/3型チャンバ内に載置され、90±2℃の温度および95%以上の相対湿度下で72時間の持続時間にわたってエージングされる。
【0078】
その後、試験片および元のインサートシート、特に加飾成形部品は、以下に記載されるように、グレースケール試験ならびに/または目視およびハプティック特性試験ならびに/またはクロスカット試験ならびに/または引っかき抵抗性試験により評価される。加水分解試験に合格するには、上記の各試験が合格されなければならない。
【0079】
特に、インサートシート、特に加飾成形部品は、有利なことに、VW内装仕様TL226に準拠して測定された加水分解試験に合格していることが示されている。
【0080】
耐光性試験のために、試験片、特にインサートシートおよび/または加飾成形部品は、キセノンランプ耐候性試験チャンバ内に、例えば、Atlas Material Testing Technology GmbH(ドイツ、リンゼンゲリヒト-アルテンハスラウ63589)の「Xenotest Beta+」内に載置される。試験チャンバ内にはまた、フィルタ、例えばXenochrom 320フィルタが、フィルタが試験片を取り囲むように試験チャンバ内に載置される。ブラックスタンダード温度は100±3℃に設定され、試験片室温は65±3℃に設定される。更に、相対湿度は20±10%に設定される。試験片は、320時間の持続時間にわたって300nm~400nmの波長範囲内で測定された60W/mの放射強度で照射される。
【0081】
その後、試験片および元のインサートシート、特に加飾成形部品は、以下に記載されるように、グレースケール試験ならびに/または目視およびハプティック特性試験ならびに/またはクロスカット試験ならびに/または引っかき抵抗性試験により評価される。耐光性試験に合格するには、上記の各試験が合格されなければならない。
【0082】
特に、インサートシート、特に加飾成形部品は、有利なことに、VW内装仕様TL226に準拠して測定された耐光性試験に合格していることが示されている。
【0083】
更に、インサートシート、特に加飾成形部品は、DIN EN 20105-A02に準拠して測定されたクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性試験について4以上のグレースケール等級を有するようにするのが好ましい。グレースケールテストは、色の変化を検出する。この目的のために、スケールの正確な比色仕様が永久記録として与えられている。本質的な、または5段階のスケールは、堅牢度評価5、4、3、2および1に対応する知覚された色差を示す光沢のないグレーの5対のカラーチップからなる。この本質的なスケールは、4~5、3~4、2~3および1~2の半段階堅牢度評価に対応する知覚された色差を示す同様のチップまたは見本を用意することによって増補されてもよく、そのようなスケールは9段階スケールと呼ばれる。本願の場合、9段階スケールが使用された。各対の第1の部材は、ニュートラルグレー色であり、堅牢度評価5を示す対の第2の部材は、第1の部材と同一である。残りの対の第2の部材は、色がますます明るくなり、その結果、各対は、比色測定的に定義されるコントラストまたは知覚された色差の増加を呈するようになる。完全な比色測定仕様を以下の表に示す。
【表2】
【0084】
更に、グレースケールが示されている図9に対して参照がなされる。例えば、試験された試験片と元の材料との間に認識された差がない場合にのみ、5の評価が与えられる。
【0085】
試験片は、色がニュートラルグレーでなければならず、鏡面反射成分を含む分光光度計で測定された。比色測定データは、CIE1964補助標準表色系をイルミナントD65に使用して計算された。
【0086】
元のインサートシートの一片、特に加飾成形部品の一片が、試験された試験片と同じ平面に並べて載置され、同じ方向に向けられる。グレースケールは、同じ平面内の近傍に載置される。光キャビネット内の標準イルミナントD65は、表面に約45°で入射するように配置されている。観測方向は、表面の平面に対してほぼ垂直である。観測者の眼と試験片、特にインサートシートおよび/または加飾成形部品との間の距離は約50cmである。元のインサートシート、特に加飾成形部品と試験された試験片との間の差は、グレースケールを考慮して評価される。
【0087】
更に、インサートシート、特に加飾成形部品は、VW内装仕様TL 226に準拠して測定されたクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性に対する目視試験および特性試験に合格しているようにするのが好ましい。この目的のために、クリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性のそれぞれについて、観測者の眼と試験片、好ましくはインサートシートまたは加飾成形部品との間の50cmの距離で、光キャビネット内の標準イルミナントD65の下で目視評価が行われる。試験片は、光源に対して2つの異なる角度位置、すなわち斜視(図7a参照)および上面視(図7b参照)の下で観測される。未試験試験片と比較して、目視外観または触覚特性に変化が生じなかったことが示されている。例えば、割れ、発泡、色ずれ、曇り、層間剥離、軟化および変形のいずれも発生しなかった。
【0088】
特に、接着強度の試験中、DIN EN ISO 2409:2013-06に準拠して試験領域の表面上で測定された接着強度は、GT0~GT1の範囲内にあり、および/またはASTM D 3359-09、好ましくは試験方法Bに準拠して測定された接着強度は、5B~4Bの範囲内にあり、好ましいことに、この際に水性トップコート層は完全に硬化されている、ということが有利なことに示されている。
【0089】
接着強度は、特にDIN EN ISO 2409:2013-06に準拠して、好ましくはDIN EN ISO 2409:2013-0のドイツ語版(Beschichtungsstoffe-Gitterschnittpruefung[塗料およびワニス-クロスカット試験]、発行日2013-06)に準拠したクロスカット試験により測定される。特に、それぞれの場合において、少なくとも1つの塗装に、6つの切り込みが垂直に作られ、および6つの切り込みが水平に作られ、ならびに/または平行に走る6つの切り込みが平行に走る6つのさらなる切り込みに対して90°の角度で、好ましくはナイフを使用し、好ましくはステンシルを用いて作られる。切り込みはまた、特に、好ましくは転写プライの厚さまでの深さで、水性トップコート層を貫通し、および/または成形部品にまで切り込まれる。切り込み幅は、特に、水性トップコート層の層厚、特に転写プライの厚さに応じて選択される。
【0090】
60μm未満の層厚を有する、水性トップコート層の層厚、特に転写プライの厚さの場合、切り込み間の距離は、好ましくは約1mmである。
【0091】
特に、水性トップコート層の上面図において、切り込みは、試験領域の表面を完全に含む、好ましくは正方形の形状の、測定領域に導入されることが好ましい。測定領域は、好ましくはこのようにして表面の少なくとも一部にわたって少なくとも1つの塗装を含む。特に6N/25mm~10N/25mmの接着性を有する、透明接着テープまたは接着クレープテープが、試験領域の表面に好ましくは貼り付けられる。透明接着テープまたは接着クレープテープは、特に、貼り付け後0.5秒~1秒の期間に、好ましくは60°の角度で表面から剥離される。
【0092】
評価は、特に試験領域の表面の目視評価および、好ましくはGT0~GT5と略される、0(非常に良好な接着強度)~5(非常に低い接着強度)のクロスカット特性値への分類によって行われる。
【0093】
代替的または追加的に、ASTM D 3359-09、試験方法Bに準拠して接着強度を測定することが可能である。
【0094】
対応する特性値の分類の基準は、好ましくは以下の表に見出され、特に試験領域のあり得る表面は、図8a、図8b、図8cおよび図8dで概略的に示されている。
【表3】
【0095】
したがって、GT0~GT1の範囲内および/または5B~4Bの範囲内では、剥がれ落ちた領域がせいぜい5%であることを好ましくは意味する。
【0096】
更に、インサートシート、特に加飾成形部品が、DIN EN ISO 2409:2013-06に準拠したクロスカットによって測定されるクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性に対するGT0~GT1の範囲内の接着性試験値ISOを有するようにするのが好ましい。
【0097】
特に、インサートシート、特に加飾成形部品は、VW内装仕様TL226に準拠して測定されたクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性に対する引っかき抵抗性試験に合格していることが有利にも示されている。引っかき抵抗性試験のために、10-N荷重およびボッシュ試験先端(直径0.75mm)を有するエリクセン硬度試験鉛筆タイプ318またはタイプ318S(Erichsen GmbH&Co.KG(ドイツ、ヘーマー58675)社製)が使用される。クリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性のそれぞれについて、塗装面の剥がれが生じないことが示されている。更に、素地、例えばインサートシートおよび/または加飾成形部品を装填することによって引き起こされる圧入の痕跡は、許容可能である。
【0098】
更に、インサートシートが、VW内装仕様TL226に準拠して測定されたクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性試験に合格しているようにするのが好ましい。
【0099】
本発明によるインサートシートは、自動車産業のすべての要件を満たすことが示されている。更に、水性層は、従来使用されている溶媒系層とほぼ同じまたは更に良好な抵抗性を有することが証明されている。例えば、溶剤系層を有する従来型インサートシートと本発明の水性層を有するインサートシートとの比較を以下の表に示す。
【表4】
【0100】
VOC試験について分かるように、水性インサートシートはより良い値に達する。VOC試験の値が低いほど、インサートシートは良好で環境に無害である。更に、臭気試験に対しても、本発明による水性インサートシートは、溶媒系層を有する従来型インサートシートよりも良好な性能を有する。
【0101】
本発明による転写フィルム、本発明によるインサートシート、および本発明によるインサートシートを製造するための方法は、例えば、自動車部門、特にコックピット部品、パネル、アーマチュアなどに使用される。
【0102】
本発明のさらなる実施形態が図面に示され、以下に説明される。したがって、示された実施形態は、限定的であると理解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1】転写フィルムの概略図である。
図2】素地に貼付された転写フィルムの概略図である。
図3】インサートシートの概略図である。
図4】転写フィルムの別の概略図である。
図5】素地に貼付された転写フィルムの別の概略図である。
図6】インサートシートの別の概略図である。
図7a】目視およびハプティック特性試験の2つの異なる観測位置の概略図である。
図7b】目視およびハプティック特性試験の2つの異なる観測位置の概略図である。
図8a】クロスカット試験における試験領域の概略図である。
図8b】クロスカット試験における試験領域の概略図である。
図8c】クロスカット試験における試験領域の概略図である。
図8d】クロスカット試験における試験領域の概略図である。
図9】グレースケール試験で使用される9段階グレースケールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0104】
図1は、転写フィルム1の概略図を示す。このような転写フィルム1は、例えば、いわゆるインサート成形プロセスで用いられるインサートシート10を加飾するために用いられる。インサート成形では、加飾射出成形部品を得るために、予め成形されたインサートシート10は射出成形金型内に挿入され、射出成形コンパウンドがバックインジェクションされる。インサートシート10を用いることにより、複雑な形状を有する射出成形部品が加飾され得る。
【0105】
図1による転写フィルム1は、キャリア層2および転写プライ3を備え、転写プライ3は、以下の順序でキャリア層2上に配置された、水性トップコート層4、水性カラー層5および水性接着剤層6を備える。水性層のみを含むそのような転写プライ3は、有害または不健康な溶媒を回避するという大きな利点をもたらす。概して、溶媒を含有する層が使用される場合、溶媒または揮発性有機化合物は、層を通って拡散することがあるため、例えば、人により吸入される周囲空気に入る可能性がある。したがって、水性塗装は、溶媒系塗装よりも環境に無害であり、健康に優しい。
【0106】
好ましくは、キャリア層2は、材料としてPETを含み、3μm~300μmの層厚を有する。
【0107】
有利には、水性トップコート層4は、2μm~100μm、好ましくは5μm~80μm、更に好ましくは15μm~50μmの層厚を有する。水性トップコート層4は、水性カラー層5等の下地加飾層に対する一種の保護層として機能する。転写フィルム1の転写プライ3がインサートシート10に貼付され、キャリア層2が除去された後、水性トップコート層4は、層構造の最外層に相当する。好ましくは、水性トップコート層4は、機械的および/または化学的および/または物理的環境の影響に対して一定の抵抗性を有する。
【0108】
好ましくは、水性トップコート層4は、10重量%~40重量%の水性アクリル系バインダーまたは水性ポリウレタン系バインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.2重量%~3重量%の消泡剤と、を含む。
【0109】
有利には、水性トップコート層4は、スロットダイによってキャリア層2の表面上に塗布される。したがって、転写フィルム1、特にインサートシート10の製造プロセス中に、好ましくは最初にキャリア層2が設けられ、その後、水性トップコート層4がキャリア層2の表面上に印刷される。
【0110】
水性トップコート層4を塗布する間、水性トップコート層4が0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有するようにしてもよい。
【0111】
次に、転写フィルム1、特にインサートシート10の製造プロセスにおいて、少なくとも1つの水性カラー層5が、グラビア印刷によってキャリア層2の表面上に、好ましくは水性トップコート層4の上面上に塗布されるようにしてもよい。1つの水性カラー層5のみが塗布されるようにしてもよく、または、複数の水性カラー層5が塗布されるようにしてもよい。
【0112】
更に、少なくとも1つの水性カラー層5を塗布する間、少なくとも1つの水性カラー層5が、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有するようにするのが好ましい。
【0113】
特に、少なくとも1つの水性カラー層5は、20重量%~40重量%の水性アクリル系または水性ポリエステル系または水性ポリウレタン系バインダーと、60重量%~80重量%の脱イオン水と、5重量%~20重量%の少なくとも1つの着色顔料と、0.5重量%~20重量%の分散添加剤と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む。
【0114】
更に、少なくとも1つの水性カラー層5が、-0.25mm~+0.25mmの見当公差(register tolerance)を有するのが更に好ましい。
【0115】
好ましくは、水性接着剤層6は、少なくとも1つの水性カラー層5の後に塗布される。例えば、水性接着剤層6は、グラビア印刷によってキャリア層2の表面上に、好ましくは少なくとも1つの水性カラー層5の表面上に塗布される。
【0116】
有利には、水性接着剤層6を塗布する間、水性接着剤層6は、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有する。
【0117】
更に、少なくとも1つの水性カラー層5は、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有する。
【0118】
好ましくは、少なくとも1つの水性接着剤層6は、20重量%~50重量%の水性アクリル系または水性ポリエステル系または水性ポリウレタン系のバインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む。
【0119】
図2は、素地11に貼付された転写フィルム1の概略図を示す。この目的のため、最初に素地11が設けられてもよく、次に転写フィルム1の転写プライ3が素地11の表面上に熱ラミネートされてもよく、特に水性接着剤層6は素地11の表面に直接隣接している。
【0120】
好ましくは、熱ラミネートは、0.2m/分~60m/分、好ましくは0.5m/分~40m/分、更に好ましくは1m/分~20m/分のラミネート速度で行われる。
【0121】
特に、熱ラミネートは、90℃~180℃、好ましくは80℃~160℃、更に好ましくは100℃~150℃のラミネート温度で行われる。
【0122】
更に、熱ラミネートが、5バール~100バール、好ましくは10バール~90バール、更に好ましくは20バール~60バールのラミネート圧力で行われるようにするのが好ましい。
【0123】
図3は、インサートシート10の概略図を示す。インサートシート10は、素地11と転写フィルム1の転写プライ3との積層体であることが好ましい。図2に示す図示とは対照的に、インサートシート10はもはやキャリア層2を有していない。好ましくは、本発明の方法は、キャリア層2を剥離する工程を更に含む。
【0124】
更に、素地11が、個別にまたは組み合わせて、ラミネート、共押出物または混合物として、ABS、PC、PPA、POM、PMMA、PPから選択される、材料または材料の組合せを含むようにするのが好ましい。原則として、インサートシート10が形成され、次いで射出成形金型内でプラスチック化合物がバックインジェクションされる。好ましくは、インサートシート10の素地11は、プラスチック化合物と同様の材料で形成される。
【0125】
特に、素地11は、200μm~750μm、好ましくは350μm~500μmの層厚を有する。このような層厚は、インサートシート10が、特に射出成形金型内の高圧に対して、十分な安定性を有し、また、バックインジェクション前にインサートシート10が形成されることを可能にするほどに十分に柔軟であることを保証する。
【0126】
例えば、コックピットカバーのような、自動車産業における加飾目的用のそのようなインサートシート10の適用のためには、多数の要件を満たす必要がある。これらは、例えば、機械的、物理的および化学的抵抗性ならびに目視外観に関する。
【0127】
例えば、インサートシート10が、好ましくはVW内装仕様TL226(VW interior spec TL226)に準拠して測定される、40μg C/gサンプル以下の炭素の放散値EGを有するようにする。これは、ほとんどのVOCがインサートシート10の層を通って拡散することができないことを意味する。一方、これは、インサートシート10の層が水性であり、したがって、通常VOCに該当する溶媒を含有しないという事実に起因する。第2に、これは、水性トップコート層4が拡散に対する高い抵抗性を有し、その結果、VOCの拡散が抑制されるためである。インサートシート10またはインサートシート10の層を通って拡散する溶媒が少ないほど、これは環境に対しておよび運転者の健康に対しても良好である。
【0128】
更に、インサートシート10が、VW内装仕様TL226に準拠して測定されたPV3900スケールによる2~3のレベルの臭気試験結果を有するようにするのが好ましい。上述したように、臭気テストでは、3人の試験者がインサートシート10の臭いを強度に対して主観的に試験し、1が識別不能なレベルであり、6が耐え難いレベルである1~6のスケールでこれを評価する。
【0129】
好ましいことに、インサートシート10は、VW内装仕様TL226に準拠して測定されたクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性試験に合格している。上に掲げた各試験に合格するために、各試験について、グレースケール、光学的外観、接着性および引っかき抵抗性についてサンプルが試験される。
【0130】
特に、インサートシート10は、DIN EN 20105-A02に準拠して測定されたクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性試験について4以上のグレースケール評価を有する。
【0131】
更に、インサートシート10が、VW内装仕様TL226に準拠して測定されたクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性に対する目視および特性試験に合格しているようにするのが好ましい。
【0132】
インサートシート10が、DIN EN ISO 2409:2013-06に準拠してクロスカットによって測定されるクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性についてGT0~GT1の範囲内の接着性試験値ISOを有するようにするのが更に好ましい。
【0133】
好ましいことに、インサートシート10は、VW内装仕様TL226に準拠して測定されたクリーム試験および/またはサンローション試験および/または加水分解試験および/または耐光性に対する引っかき抵抗性試験に合格している。
【0134】
図4は、図1による転写フィルム1の構造に本質的に対応する転写フィルム1の代替実施形態を示すが、転写フィルム1が、水性トップコート層4と少なくとも1つの水性カラー層5との間に配置された水性タイコート層7を備えるという違いがある。
【0135】
水性タイコート層7が、0.5μm~20μm、好ましくは1μm~15μm、更に好ましくは1.5μm~7μmの層厚を有するようにするのが好ましい。
【0136】
特に、水性タイコート層7は、20重量%~50重量%の水性アクリル系または水性ポリエステル系または水性ポリウレタン系のバインダーと、50重量%~80重量%の脱イオン水と、0.1重量%~5重量%のレベリング剤と、0.1重量%~5重量%の消泡剤と、を含む。
【0137】
好ましくは、転写フィルム1、特にインサートシート10を製造する間、水性タイコート層7は、グラビア印刷によってキャリア層2の表面上に、好ましくは水性トップコート層4の表面上に塗布される。
【0138】
更に、好ましくは、水性タイコート層7を塗布する間、水性タイコート層7は、0.10Pa・s~1.0Pa・s、好ましくは0.2Pa・s~0.8Pa・s、更に好ましくは0.3Pa・s~0.5Pa・sの動粘度を有する。
【0139】
更に、水性トップコート層4および/または水性タイコート層7および/または少なくとも1つの水性カラー層5および/または水性接着剤層6が、5m/分~200m/分、好ましくは10m/分~100m/分、更に好ましくは15m/分~100m/分の印刷速度で塗布されるようにするのが更に好ましい。
【0140】
水性トップコート層4および/または水性タイコート層7および/または少なくとも1つの水性カラー層5および/または水性接着剤層6が、80℃~200℃、好ましくは90℃~180℃、更に好ましくは100℃~150℃の乾燥温度で乾燥されることも可能であり得る。
【0141】
図5は、素地11に貼付された転写フィルム1の別の概略図を示す。図5では、図4に関して説明した転写フィルム1が素地11に貼付される。本発明の方法は、転写フィルム1、特に転写プライ3を素地11に貼付した後に、好ましくは、転写プライ3、好ましくは水性トップコート層4および/または水性タイコート層7および/または少なくとも1つの水性カラー層5および/または水性接着剤層6を、好ましくは素地もしくはインサートシートの形成または深絞り後に、UV照射によって硬化させる工程を含む。
【0142】
転写フィルム1が素地11に貼付される前、転写プライ3の層は未硬化状態または予備硬化状態にある。これは、層が十分に高い粘度を有するため流動することができないが依然として変形可能であるという事実により特徴づけられる。したがって、個々の層の変形能力が重要であり、その理由は、インサートシート10が後に形成され、形成中に加飾、特に転写プライ3に割れが発生しないようにするためである。好ましくは、インサートシート10または転写プライ3は、成形後に硬化される。
【0143】
図6は、図3によるインサートシート10の構造に本質的に対応するインサートシート10の代替実施形態を示すが、インサートシート10が、水性トップコート層4と少なくとも1つの水性カラー層5との間に配置された水性タイコート層7を含むという違いがある。
【0144】
図7は、上述の目視およびハプティック特性試験のための2つの異なる観測位置の概略図を示す。
【0145】
図8a~図8dには、クロスカット試験における試験領域の概略図が示されている。クロスカット試験は、上記で詳細に説明されている。
【0146】
図8aは、ISO特性値GT1およびASTM特性値4Bに対応する表面を示す。図から分かるように、塗装の小さな薄片が格子線の交点で剥離している。剥がれ落ちた領域は、区画の約5%である。
【0147】
図8bは、ISO特性値GT2およびASTM特性値3Bに対応する表面を示す。図から分かるように、塗装は、切り込みの縁に沿っておよび/または格子線の交点で剥がれ落ちている。剥がれ落ちた領域は、区画の約15%である。
【0148】
図8cは、ISO特性値GT3およびASTM特性値2Bに対応する表面を示す。図から分かるように、塗装は、切り込みの縁に沿って幅広の条片状に部分的もしくは完全に剥がれ落ちており、および/または、塗装は個々の区画で完全もしくは部分的に剥がれ落ちている。剥がれ落ちた領域は、区画の約35%である。
【0149】
図8dは、ISO特性値GT4およびASTM特性値1Bに対応する表面を示す。図から分かるように、塗装は、切り込みの縁に沿って幅広の条片状に剥がれ落ちている、および/または、個々の区画上で完全もしくは部分的に剥がれ落ちている。剥がれ落ちた領域は、区画の約65%である。
【0150】
図9は、上述のグレースケールテストで使用された9段階グレースケールを示す。
【符号の説明】
【0151】
1 転写フィルム
2 キャリア層
3 転写プライ
4 水性トップコート層
5 水性カラー層
6 水性接着剤層
7 水性タイコート層
10 インサートシート
11 素地
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図8c
図8d
図9