(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027472
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】単一生物単位の生菌由来核酸の選択的検出、カウント、ゲノム解析
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20250218BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20250218BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20250218BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20250218BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20250218BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250218BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6888 Z
C12Q1/04
C12M1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024209824
(22)【出願日】2024-12-02
(62)【分割の表示】P 2021516288の分割
【原出願日】2020-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2019085836
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019201525
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.BRIJ
3.TWEEN
4.NONIDET
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出「シングルセルゲノム情報に基づいた海洋難培養微生物メタオミックス解析による環境リスク数理モデルの構築」委託研究、及び、平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)統合1細胞解析の革新的技術基盤「組織内の細胞多様性を明らかにする超並列ゲノム解析技術の創成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】519035229
【氏名又は名称】bitBiome株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】細川 正人
(72)【発明者】
【氏名】竹山 春子
(72)【発明者】
【氏名】西川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小川 雅人
(57)【要約】
【課題】本開示は、細胞の集団の組成を分析するにあたり、細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報と核酸情報とを併せて分析することを可能にする手法を提供することを課題とする。
【解決手段】本開示は、細胞の集団の組成を分析する方法であって、標識剤により標識された状態で、該細胞の集団の細胞が1細胞ずつ封入されたゲルカプセルを提供する工程であって、該標識剤は、生細胞と死細胞とを示差的に標識する、工程と、該細胞の集団の1つずつの細胞由来の核酸を増幅する工程と、該細胞の集団の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、該細胞の集団の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程とを含む、方法が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞集団組成の分析に関し、生物学的研究、医療、環境、ヘルスケアなどの分野において利用可能である。
【背景技術】
【0002】
環境からの生菌の選択的検出は、食品検査・種子検査などの衛生学的品質評価や微生物資材・微生物製剤の品質保証に用いられる。食品検査では、対象細菌が特定されており、実験室での培養法が確立されている対象については、標準寒天培地を用いて一定条件下で発育する菌数を測定する手法が一般的に取られている。しかし、培養日数を要することや培養の煩雑性から、生菌と死菌の蛍光染色観察による識別法などが代替技術として提案されている。画像をもとに判定することで既知種から構成される試料であれば観察資料の菌種の類推等も可能であるが、複数種の未知細菌・類似細菌から構成される試料の場合には菌種構成の特定が困難である。遺伝子検出をベースとした手法として、対象菌の配列を特異的に増幅検出する手法があり、PCR、qPCR、digital PCR、LAMP法などが用いられる。遺伝子検出をベースとした手法は感度が高く、多検体処理が可能であるが、通常の方法では死菌由来の核酸も同時に検出され、生菌に対する特異性がない。また、生菌の核酸のみを検出するPCR法やLAMP法では、配列既知の特定対象種にしか対応できない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示において、細胞の集団の組成を分析する方法およびそれに使用する試薬、組成物、キット、システムなどの技術が提供される。本開示の技術では。該細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、該細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程、あるいは、これらの使用される試薬、組成物、手段等が特徴の一つである。
【0004】
本開示は、1つの局面では、多様な微生物から生細胞に由来する核酸に対し特異的に反応を進め、1細胞ごとに並列調整された増幅ポリヌクレオチドを調製し、生細胞数の総数カウントや、微生物種を同定する遺伝子配列の網羅的読み取りを実行し、生細胞・死細胞が混在する細胞集団から生細胞由来の細胞数および配列情報を提供するものである。おおまかなコンセプトとしては、はじめに死細胞を標識して、核酸増幅した後に、生細胞由来の増幅核酸を標識して、生細胞由来核酸を特異的に検出する。
【0005】
本開示の実施形態の例として、以下のものが挙げられる。
(項目A)
細胞の集団の組成を分析する方法であって、
該細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、
該細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程と
を含む、方法。
(項目AA)
細胞の集団において、1細胞ごとに生細胞および死細胞の核酸の情報を提供する方法であって、
該細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、
該細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程と
を含む、方法。
(項目1)
細胞の集団の組成を分析する方法であって、
標識剤により標識された状態で、該細胞の集団の細胞が1細胞ずつ封入されたゲルカプセルを提供する工程であって、該標識剤は、該細胞の集団の1細胞ずつの生死情報として生細胞と死細胞とを示差的に標識する、工程と、
該細胞の集団の1つずつの細胞由来の核酸を増幅する工程と、
該細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、
該細胞の集団の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程と
を含む、方法。
(項目2)
前記細胞の集団の細胞が1細胞ずつ封入されたゲルカプセルを提供する工程が、
該細胞の集団に対して前記標識剤を加える工程と、
該細胞の集団の細胞を1細胞ずつゲルカプセルに封入する工程と
を包含する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目3)
前記細胞の集団の細胞が1細胞ずつ封入されたゲルカプセルを提供する工程が、
該細胞の集団の細胞を1細胞ずつゲルカプセルに封入する工程と、
前記ゲルカプセルに前記標識剤を加える工程と
を包含する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4)
前記増幅核酸の分析が、生細胞由来の核酸に対して行われる、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5)
前記標識剤が、死細胞を特異的に標識するか、または生細胞を特異的に標識する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記細胞の集団に対して、または前記ゲルカプセルに対して、死菌由来の核酸の分解を促進する核酸分解促進剤を添加する工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記核酸分解促進剤が、トポイソメラーゼ阻害剤である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記核酸分解促進剤が、Ciprofloxacin(CPFX)、Camptothecin(CPT)、Etoposide(ETP)、およびAmsacrine(m-AMSA)から選択される1つ以上を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目9)
前記標識剤が、死細胞の膜を透過する物質である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記標識剤が、死細胞の膜を透過して核酸に結合する物質である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記標識剤が、結合した核酸の増幅を阻害する物質である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記標識剤が、エチジウムモノアジド(EMA)、psoralen、4’-aminomethyl-4,5’-dimethylisopsoralen[4’-AMDMIP])、およびプロピジウムモノアジド(PMA)から選択される1つ以上を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目13)
前記1細胞ずつの生死情報が、1つずつの細胞由来の核酸の増幅の有無から得られる、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14)
1つずつの細胞由来の核酸の増幅の有無が、核酸の増幅を検出できる核酸結合性蛍光物質を用いて検出される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記核酸結合性蛍光物質が、EvaGreen、SYBR Green、SYBR Gold、SYTO9、SYTO10、Hoechst 33342、4',6-diamidino-2-phenylindole、Acridine Orange(AO)、Promidium iodide、およびEthidium homodimer-2から選択される1つ以上を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記細胞の集団の細胞を1細胞ずつゲルカプセルに封入する工程が、
該細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、
該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と
を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目17)
前記細胞の懸濁液をマイクロ流路中に流動させ、オイルで前記懸濁液をせん断することにより前記細胞を封入した前記液滴が作製されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18)
前記ゲルカプセルがアガロース、アクリルアミド、PEG、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、マトリゲル、コラーゲン又は光硬化性樹脂から形成されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目19)
前記ゲルカプセルがヒドロゲルカプセルであることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目20)
前記細胞の集団の1つずつの細胞由来の核酸を増幅する工程が、
前記ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する工程であって、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出し、該ゲルカプセル内に保持される、工程と、
該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程と
を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目21)
前記ゲルカプセルから夾雑物を除去する工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目22)
前記溶解用試薬がリゾチーム、ラビアーゼ、ヤタラーゼ、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ザイモリアーゼ、キチナーゼ、リソスタフィン、ムタノライシン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、フェノール、クロロホルム、グアニジン塩酸塩、尿素、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、TCEP-HCl、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、Triton X-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween 20、Tween 80、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPS、CHAPSO、ドデシル-β-D-マルトシド、Nonidet P-40、およびZwittergent 3-12からなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目23)
前記1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、分析する増幅核酸を含む試料を選択する工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目24)
前記増幅核酸の分析が、前記1つずつの細胞の種類を特定することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目25)
前記増幅核酸の分析が、前記1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料において、特定の配列を有する核酸を検出する工程を含む、項目1~24のいずれかに記載の方法。
(項目26)
前記特定の配列を有する核酸を検出する工程が、特定の配列を有する核酸を増幅および配列解読することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目27)
前記細胞の集団の組成の分析が、細胞の集団中の各種細胞の絶対数を特定することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目28)
前記細胞の集団の組成の分析が、細胞の集団中の生細胞における各種細胞の絶対数を特定することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目29)
前記細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、該1つずつの細胞のゲノム配列データを得る工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目30)
前記細胞の集団が、微生物叢である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目31)
FMT検体の品質評価のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目32)
食品の衛生学的品質の評価のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目33)
環境中の病原菌の存在の評価のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目34)
前記細胞の集団が、微生物製剤である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目35)
微生物製剤の品質評価のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目36)
微生物由来飼料、発酵食品、または微生物包含サプリメントの品質評価のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目37)
活性汚泥中の生菌のプロファイリングのための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目38)
環境中の生菌微生物の存在の評価のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目39)
抗菌薬の効果・スペクトラムの評価のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目40)
殺菌法の評価のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目41)
バイオフィルム中の生菌のプロファイリングのための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目B1)
細胞の集団に対してエチジウムモノアジド(EMA)またはプロピジウムモノアジド(PMA)を加え、光照射を行うステップと、
該細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、
該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と、
該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する工程であって、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出する、工程と、
該ゲルカプセルから夾雑物を除去する工程と、
該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程であって、ここで、EMAまたはPMAが結合したポリヌクレオチドは増幅されない、工程と、
増幅されたポリヌクレオチドを検出する工程と
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを選択する工程と、
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを計数する工程と、
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルにおいて増幅されたポリヌクレオチドを分析する工程と
を含む、方法。
(項目B2)
該細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、
該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と、
該ゲルカプセルにEMAまたはPMAを加え、光照射を行うステップと、
該ゲルカプセルを洗浄する工程と、1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する工程であって、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出する、工程と、
該ゲルカプセルから夾雑物を除去する工程と、
該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程であって、ここで、EMAまたはPMAが結合したポリヌクレオチドは増幅されない、工程と、
増幅されたポリヌクレオチドを検出する工程と
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを選択する工程と、
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを計数する工程と、
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルにおいて増幅されたポリヌクレオチドを分析する工程と
を含む、方法。
(項目C)
細胞の集団の組成を分析するためのシステムであって、
該細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る手段と、
該細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する手段と
を含む、システム。
(項目C-1)
前記項目のいずれか1項または複数項に記載の特徴を備える、前記項目に記載のシステム。
(項目C1)
細胞の集団の組成を分析するシステムまたはキットであって、
生細胞と死細胞とを示差的に標識する標識剤と、
該細胞をゲルカプセルに封入する手段と、
核酸を増幅する手段と、
核酸を分析する手段と
を含む、システムまたはキット。
(項目C1-1)
前記項目のいずれか1項または複数項に記載の特徴を備える、前記項目に記載のシステムまたはキット。
(項目C2)
生細胞と死細胞とを示差的に標識する標識剤を含む、細胞の集団の組成を分析する方法において使用するための組成物であって、該方法は、該細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、該細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程と
を含む、組成物。
(項目C2-1)
前記項目のいずれか1項または複数項に記載の特徴を備える、前記項目に記載の組成物。
(項目C3)
生細胞と死細胞とを示差的に標識する標識剤を含む、細胞の集団を一細胞ごとにゲルカプセルに封入して分析するための方法において使用するための組成物。
(項目C3-1)
前記項目のいずれか1項または複数項に記載の特徴を備える、前記項目に記載の組成物。
(項目C4)
前記増幅核酸の分析が、生細胞由来の核酸に対して行われる、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C5)
前記標識剤が、死細胞を特異的に標識するか、または生細胞を特異的に標識する、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C6)
前記細胞の集団に対して、または前記ゲルカプセルに対して添加される、死菌由来の核酸の分解を促進する核酸分解促進剤をさらに含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C7)
前記核酸分解促進剤が、トポイソメラーゼ阻害剤である、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C8)
前記核酸分解促進剤が、Ciprofloxacin(CPFX)、Camptothecin(CPT)、Etoposide(ETP)、およびAmsacrine(m-AMSA)から選択される1つ以上を含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C9)
前記標識剤が、死細胞の膜を透過する物質である、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C10)
前記標識剤が、死細胞の膜を透過して核酸に結合する物質である、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C11)
前記標識剤が、結合した核酸の増幅を阻害する物質である、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C12)
前記標識剤が、エチジウムモノアジド(EMA)、psoralen、4’-aminomethyl-4,5’-dimethylisopsoralen[4’-AMDMIP])、およびプロピジウムモノアジド(PMA)から選択される1つ以上を含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C13)
前記1細胞ずつの生死情報が、1つずつの細胞由来の核酸の増幅の有無から得られる、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C14)
1つずつの細胞由来の核酸の増幅の有無を検出するための手段(例えば、核酸の増幅を検出できる核酸結合性蛍光物質)をさらに備える、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C15)
前記核酸結合性蛍光物質が、EvaGreen、SYBR Green、SYBR Gold、SYTO9、SYTO10、Hoechst 33342、4',6-diamidino-2-phenylindole、Acridine Orange (AO)、Promidium iodide、およびEthidium homodimer-2から選択される1つ以上を含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C16)
細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する手段または細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する液滴作製部と、
液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する手段または液滴をゲル化してゲルカプセルを生成するゲルカプセル生成部と
をさらに備える、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C17)
前記細胞の懸濁液をマイクロ流路中に流動させ、オイルで前記懸濁液をせん断することにより前記細胞を封入した前記液滴が作製されるように構成される、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C18)
前記ゲルカプセルがアガロース、アクリルアミド、PEG、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、マトリゲル、コラーゲン又は光硬化性樹脂から形成されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C19)
前記ゲルカプセルがヒドロゲルカプセルであることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C20)
細胞を溶解するための手段またはゲルカプセルを溶解用試薬に浸漬する溶解用試薬浸漬部であって、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出し、該ゲルカプセル内に保持されるように構成される、手段または溶解用試薬浸漬部と、
ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する手段またはゲルカプセルを増幅用試薬に浸漬する増幅用試薬浸漬部と
をさらに備える、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C21)
前記ゲルカプセルから夾雑物を除去する手段またはゲルカプセルから夾雑物質を除去する除去部をさらに備える、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C22)
前記溶解用試薬がリゾチーム、ラビアーゼ、ヤタラーゼ、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ザイモリアーゼ、キチナーゼ、リソスタフィン、ムタノライシン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、フェノール、クロロホルム、グアニジン塩酸塩、尿素、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、TCEP-HCl、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、Triton X-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween 20、Tween 80、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPS、CHAPSO、ドデシル-β-D-マルトシド、Nonidet P-40、およびZwittergent 3-12からなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C23)
前記1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、分析する増幅核酸を含む試料を選択する手段または、ゲルカプセルを選別し、ゲルカプセルを収容容器に収容する選別部をさらに備える、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C24)
前記増幅核酸の分析が、前記1つずつの細胞の種類を特定することを含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C25)
前記増幅核酸の分析が、前記1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料において、特定の配列を有する核酸を検出する工程を含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C26)
前記特定の配列を有する核酸を検出する工程が、特定の配列を有する核酸を増幅および配列解読することを含む、項目25に記載の方法。
(項目C27)
前記細胞の集団の組成の分析が、細胞の集団中の各種細胞の絶対数を特定することを含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C28)
前記細胞の集団の組成の分析が、細胞の集団中の生細胞における各種細胞の絶対数を特定することを含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C29)
前記細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、該1つずつの細胞のゲノム配列データを得る工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C30)
前記細胞の集団が、微生物叢である、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C31)
FMT検体の品質評価のための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C32)
食品の衛生学的品質の評価のための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C33)
環境中の病原菌の存在の評価のための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C34)
前記細胞の集団が、微生物製剤である、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C35)
微生物製剤の品質評価のための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C36)
微生物由来飼料、発酵食品、または微生物包含サプリメントの品質評価のための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C37)
活性汚泥中の生菌のプロファイリングのための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C38)
環境中の生菌微生物の存在の評価のための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C39)
抗菌薬の効果・スペクトラムの評価のための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C40)
殺菌法の評価のための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目C41)
バイオフィルム中の生菌のプロファイリングのための、前記項目のいずれかに記載のシステム、キット、または組成物。
(項目D1)
エチジウムモノアジド(EMA)またはプロピジウムモノアジド(PMA)(細胞の生死を識別する試薬)と、
光照射手段と、
細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する手段と、
該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する手段と、
該ゲルカプセルの溶解用試薬であって、該溶解用試薬を、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出するように添加するように使用される、溶解用試薬と、
該ゲルカプセルから夾雑物を除去する手段と、
ポリヌクレオチドの増幅用試薬であって、該増幅用試薬は、該ポリヌクレオチドをに接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅するが、EMAまたはPMAが結合したポリヌクレオチドは増幅されないように使用される、増幅用試薬と、
ポリヌクレオチドの検出手段と
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを選択する手段と、
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを計数する手段と、
生菌に由来する試料を含むゲルカプセルにおいて増幅されたポリヌクレオチドを分析する手段と
を含む、システムまたはキット。
(項目D2)
生細胞と死細胞とを示差的に標識する標識剤(例えば、エチジウムモノアジド(EMA)またはプロピジウムモノアジド(PMA))を含む、細胞の集団の組成を分析する方法において使用するための組成物であって、該方法は、該細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、該細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程と
を含む、組成物。
【0006】
本開示において、上記1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態及び利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0007】
生細胞と死細胞の区別は、多様な生物学的研究で必要とされるものであり、複数細胞腫の混合試料中での解析は特に従来困難であった。本開示は、試料中で生細胞として存在する細菌について、培養可否および遺伝子配列情報の有無を問わずに生菌数の評価を行うことができ、かつ全ゲノム配列情報までを取得できる特徴を持つ。死菌由来のDNAは分解が進行しているため、単一生物レベルでのゲノム解析においてもノイズとなる可能性があるため、予め生菌に限定してゲノム配列情報を得られる点においても有効である。糞便移植や微生物製剤などで活用される微生物叢の品質評価においても、既知配列に限定されず、多様な対象を同一分析形式で評価可能である点も汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、生細胞由来DNAの選択的検出、カウント、ゲノム解析の流れを例示する模式図である。事前のサンプル処理として、死細胞DNAを化学修飾し、酵素反応による複製が生じない形にする。ゲル内で、生細胞・死細胞ともに溶解されDNAが精製される。ただし、DNA増幅時に生細胞由来のものだけが増える。増幅した生細胞DNA-gelを集める際に生細胞総数を計測する。その後個別にシーケンスして生細胞由来配列の分類とカウントを実施する。
【
図2】
図2は、加熱処理を行い、EMA処理した大腸菌を含むゲルカプセルのポリヌクレオチド増幅後の観察像を示す(上段:EMAあり、下段:EMAなし)。加熱殺菌を行ったサンプルでは、EMA処理によりポリヌクレオチド増幅が抑制され、蛍光(緑色輝点)がみられなくなっている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
(定義等)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義及び/又は基本的技術内容を適宜説明する。
【0011】
本明細書において、「細胞」とは、遺伝情報を有する分子を内包する粒子であって、(単独で可能かどうかにかかわらず)複製されることが可能である任意の粒子を指す。本明細書における「細胞」としては、生死の区別が可能であるものがすべて含まれ、単細胞生物の細胞、細菌、多細胞生物由来の細胞、真菌、ウイルスが共存する細胞などが包含される。
【0012】
本明細書において、「生体分子」とは、任意の生物またはウイルスが有する分子を指す。生体内分子には、核酸、タンパク質、糖鎖または脂質などを含み得る。本明細書において、「生体分子の類似体」とは、生体分子の天然または非天然の変種を指す。生体内分子の類似体には、修飾核酸、修飾アミノ酸、修飾脂質または修飾糖鎖などを含み得る。
【0013】
本明細書において、「集合」とは、2つ以上の細胞を含む集まりをいう。
【0014】
本明細書において、「サブ集合」とは、集合よりも少ない数の細胞を有する集合の一部分を指す。
【0015】
本明細書において、「ゲル」とは、コロイド溶液(ゾル)において、高分子物質またはコロイド粒子がその相互作用により全体として網目構造をつくり,溶媒あるいは分散媒である液相を多量に含んだまま流動性を失った状態のことをいう。本明細書において、「ゲル化」とは、溶液を「ゲル」の状態に変化させることをいう。
【0016】
本明細書において、「ゲルカプセル」とは、その中に細胞または細胞様構造物を保持することが可能なゲル状の微粒子状構造体を指す。
【0017】
本明細書において、「遺伝子分析」とは生体サンプル中の核酸(DNA、RNA等)の状態を調べることをいう。1つの実施形態では、遺伝子分析は、核酸増幅反応を利用するものを挙げることができる。これらを含め、遺伝子分析の例としては、配列決定、遺伝子型判定・多型分析(SNP分析、コピー数多型、制限酵素断片長多型、リピート数多型)、発現解析、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)、SYBR green法、融解曲線分析、リアルタイムPCR、定量RT-PCR、デジタルPCRなどを挙げることができる。
【0018】
本明細書において、「シングルセルレベル」とは、1つの細胞に含まれる遺伝情報に対して、他の細胞に含まれる遺伝情報と区別した状態で処理を行うことをいう。したがって、シングルセルレベルとは、「(一)細胞ごと」、「単一細胞レベル」などの用語でも表現されうる。例えば、「シングルセルレベル」でのポリヌクレオチドを増幅する場合、ある細胞中のポリヌクレオチドと、他の細胞中のポリヌクレオチドが区別可能な状態でそれぞれの増幅が行われる。
【0019】
本明細書において、「シングルセル解析」とは、1つの細胞に含まれる遺伝情報を、他の細胞に含まれる遺伝情報と区別した状態で解析することを指す。
【0020】
本明細書において、「核酸情報」とは、1つの細胞に含まれる核酸の情報を指し、特定の遺伝子配列の有無、特定の遺伝子の収量または全核酸収量を含む。
【0021】
本明細書において、「同一性」とは、2つの核酸分子間の配列類似性を指す。同一性は、比較のためにアライメントしうる各配列中の位置を比較することによって決定することができる。
【0022】
本明細書において、「微生物叢」とは、一定の物理的な範囲に存在している微生物の集合全体を指す。一定の物理的な範囲としては、例えば、ある個体の腸内、皮膚、口腔、鼻腔、または膣や、環境での水域、土壌、生物表面、生物内部などにおける一定範囲が挙げられる。微生物叢は、複数種の分類にわたる微生物の集合、例えば、真菌、細菌、古細菌、単細胞動物、ウイルス、あるいは多細胞生物の個々の細胞などの組合せであってもよく、一部の分類の微生物を抜き出して集合としてもよい。微生物叢の1つの例として、細菌叢が挙げられる。
【0023】
本明細書において、細胞集団の「組成」とは、細胞集団中にどのような種が含まれているか、または含まれている各々の種の量についての情報を指し、細胞集団中の一部の微生物種が含まれるかについて、またはその量についての情報も包含する。
【0024】
本明細書において、「標識する」とは、何らかの特徴に基づく区別が可能な状態にすることをいう。代表的には、「標識する」ことによって、何らかの特徴を有する細胞に特異的に物質が結合していることによって区別が可能となっている状態が挙げられるが、反対に、何らかの特徴を有する細胞には物質が結合していないことによって区別が可能となっている状態を生じさせることも、「標識する」と称し得る。
【0025】
本明細書において、「標識剤」とは、何らかの特徴に基づいて細胞または核酸を区別するのに使用し得る任意の物質を指す。代表的には、生細胞と死細胞とを示差的に標識し、区別するのに使用し得る物質が挙げられる。
【0026】
(本開示の概要)
以下に本開示の概要を、実施形態を参照して説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0027】
本開示において、細胞の集団の組成を分析する方法が提供され得る。方法は、標識剤により標識された状態で、該細胞の集団の細胞が1細胞ずつ封入されたゲルカプセルを提供する工程を含み得る。標識剤は、生細胞と死細胞とを示差的に標識し得る。標識剤は、細胞の集団の1細胞ずつの生死情報として生細胞と死細胞とを示差的に標識し得る。方法は、細胞の集団の1つずつの細胞由来の核酸を増幅する工程と、細胞の集団の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、細胞の集団の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程とを含み得る。本開示はまた、細胞の集団において、1細胞ごとに生細胞および死細胞の核酸の情報を提供する方法を提供する。この方法では、細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程とが包含され得る。
【0028】
本開示ではまた、細胞の集団の組成を分析するシステム、キット、組成物なども提供され得る。システム、キット、組成物は、細胞を標識する標識剤と、細胞が1細胞ずつ封入されたゲルカプセルを提供する手段、あるいは、それらのための組成物を含み得る。標識剤は、生細胞と死細胞とを示差的に標識し得る。システム、キット、組成物は、核酸増幅のための組成物または試薬あるいは手段を含み、核酸増幅は、細胞の集団の1つずつの細胞由来の核酸を増幅するように使用され、細胞の集団の1細胞ずつの生死情報を得ることができる。システム、キット、組成物は、核酸を分析する手段、試薬、キット、システムなどを含み、細胞の集団の1つずつの細胞由来の増幅核酸が分析される。本開示はまた、細胞の集団において、1細胞ごとに生細胞および死細胞の核酸の情報を提供するシステム、キット、組成物、装置、薬剤等を提供する。このシステム、キット、組成物、装置、薬剤等では、細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る手段、薬剤等と、細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する手段、薬剤等とが包含され得る。
【0029】
標識剤を加えて標識を行う工程は、細胞をゲルカプセルに封入する前に行ってもよく、細胞をゲルカプセルに封入した後に行うこともできる。細胞をゲルカプセルに封入した後に標識剤を加えて標識を行う場合、余剰の標識剤をカプセルを介して洗浄するなどの効果が期待できる。
【0030】
細胞の集団の細胞が1細胞ずつ封入されたゲルカプセルを提供する工程は、細胞の集団に対して標識剤を加える工程と、細胞の集団の細胞を1細胞ずつゲルカプセルに封入する工程とを包含し得る。細胞の集団の細胞が1細胞ずつ封入されたゲルカプセルを提供する工程は、細胞の集団の細胞を1細胞ずつゲルカプセルに封入する工程と、ゲルカプセルに前記標識剤を加える工程とを包含し得る。
【0031】
標識剤による示差的な標識によって、増幅核酸の分析を生細胞由来の核酸に対して行うことができる。試料中の細胞を核酸ベースで分析する(例えば、メタゲノム解析)場合には、生細胞由来の核酸の情報と死細胞由来の核酸の情報を区別することができず、実際に生存している細胞の情報が得られるかは不明である。また、試料中の細胞をシングルセルレベルで解析する場合、死細胞の状態になっている細胞も1つの細胞として検出される場合があり得る。死細胞は、完全に細胞としての形態を失って試料中に成分が浮遊しているような状態のものから、形状を維持した状態で存在しているものも存在する。従来は、後者の死細胞を除去できずに、低品質なゲノム増幅を実行してしまうことがあった。本開示の方法は、生細胞由来の核酸に対してのみ分析を実行することによって、そのような低品質なゲノム増幅を防止することができる。また、生細胞(例えば、生菌)がどの細胞であるかの情報が得られれば、この方法を使わない手法での分析結果との差分から死細胞(例えば、死菌)の内訳を知ることも可能である。
【0032】
生細胞の核酸を特異的に増幅して検出するPCR法やLAMP法が報告されている(Nogva et al., 2003; Soejima et al., 2008)が、配列既知の特定種にしか対応できない。これらの技法の原理は、死細胞のDNAを効率的に修飾するEthidium monoazide(EMA)、DNAの複製に必要なトポイソメラーゼの働きを阻害するTopoisomerase poisonであるCiprofloxacin(CPFX)、Camptothecin(CPT)、Etoposide(ETP)などで処理し、死菌DNAを分解することにより、生菌DNAのみを検出するというものである。
【0033】
本開示において、細胞の集団の細胞を1細胞ずつゲルカプセルに封入する工程は、細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程とを含み得る。
【0034】
(生死情報の取得)
本開示において、標識剤は、生細胞と死細胞とを示差的に標識し得る。標識剤は、死細胞を特異的に標識するか、または生細胞を特異的に標識してもよいし、生細胞と死細胞とを区別ができるように標識するものであってもよい。標識剤は、死細胞と生細胞との形態等の性質の差異を利用できるものであれば特段限定されない。代表的には、標識剤は、死細胞の膜を透過する物質である。死細胞は細胞膜(および/または細胞壁)の完全性が生細胞と比較して損なわれるため、生細胞の細胞膜を透過せず、死細胞の細胞膜を透過する物質を標識剤として利用可能である。この標識剤の有無を後続の工程にて検出することにより、1細胞ずつの生死情報を得ることができる。標識剤は、核酸の増幅を阻害するものであってよく、また、染色、蛍光、発光、ラマン散乱光または放射線などのシグナルまたは電荷変化を生じさせるものであってもよい。
【0035】
また、標識剤は、死細胞の膜を透過して核酸に結合する物質であり得る。核酸への結合は、例えば、核酸との共有結合や架橋反応、あるいは、核酸のらせんにインターカレートすることによってもよい。この結合の有無を後続の工程にて検出することにより、1細胞ずつの生死情報を得ることができる。標識剤は、代表的には、結合した核酸の増幅を阻害する物質であり得る。後続の工程にて、1細胞ずつの生死情報を、1つずつの細胞由来の核酸の増幅の有無から得ることができる。標識剤としては、エチジウムモノアジド(EMA)、psoralen、4’-aminomethyl-4,5’-dimethylisopsoralen[4’-AMDMIP])、プロピジウムモノアジド(PMA)などが挙げられ、本開示において、それらから選択される1つ以上が標識剤として含まれ得る。
【0036】
標識剤の添加に加えて、死菌由来の核酸の分解を促進する核酸分解促進剤を添加してもよい。核酸分解促進剤は、例えば、DNA複製に必要なトポイソメラーゼの働きを阻害するトポイソメラーゼ阻害剤、一部の微生物のDNA複製に必要なジャイレースの働きを阻害するジャイレース阻害剤などが挙げられ、本開示において、それらから選択される1つ以上が核酸分解促進剤として含まれ得る。核酸分解促進剤として、Ciprofloxacin(CPFX)、Camptothecin(CPT)、Etoposide(ETP)、Amsacrine(m-AMSA)などが挙げられ、本開示において、それらから選択される1つ以上が核酸分解促進剤として含まれ得る。
【0037】
標識剤として、核酸の増幅を阻害する物質を用いる場合、1細胞ずつの生死情報を、1つずつの細胞由来の核酸の増幅の有無から得ることができる。核酸の増幅の有無は、例えば、核酸の増幅を検出できる核酸結合性蛍光物質を用いて検出することができる。核酸結合性蛍光物質としては、例えば、EvaGreen、SYBR Green、SYBR Gold、SYTO9、SYTO10、Hoechst 33342、4',6-diamidino-2-phenylindole、Acridine Orange (AO)、Promidium iodide、Ethidium homodimer-2などが挙げられ、本開示において、それらから選択される1つ以上が核酸結合性蛍光物質として含まれ得る。
【0038】
(シングルセル解析)
本開示の1つの局面において、細胞集団の組成を分析する方法において、1つずつの細胞ごとの情報(生死情報および核酸情報)が得られることが1つの特徴である。これは、以下に詳述するような手法により1つずつの細胞の分析を行うことで実現することができる。複数の細胞由来の核酸の情報からは、ある配列の核酸の量を特定することができるものの、細胞の種類(例えば、微生物の種)ごとにコピー数の差があることから、特定の種類の細胞の絶対量を測定することができないが、1つずつの細胞由来の核酸の情報に基づくことによって、特定の種類の細胞の絶対量を測定することができる。また、本開示においては、特定の種類の細胞のうち、生細胞についての絶対量、数、比率などの測定が可能である。特に、微生物由来の核酸は1細胞あたりの量が少なく、複数の細胞由来の核酸が混合された状態で分析する場合であったとしても、増幅反応を用いることが一般的であるが、ランダムプライマーを用いるなど、核酸を全体として増幅しようとした場合であっても、GC含量などにより、配列ごとに増幅の程度に偏りが生じることが知られている。増幅に偏りが生じる場合、微生物叢内の特定の種の微生物の相対量の測定は困難である。
【0039】
1細胞ずつの細胞の分析においては、細胞の集団の細胞を1細胞ずつゲルカプセルに封入し得る。細胞の集団の細胞を1細胞ずつゲルカプセルに封入する工程は、細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程とを含み得る。
【0040】
したがって、本開示のシステム、キット、組成物等は、細胞ごとにゲルカプセルに封入するための手段、組成物、薬剤、キット、システムなどを含み得る。
【0041】
本開示において、1つずつの細胞由来の核酸ごとの情報は、任意の方法によって得てよいが、多数の細胞から簡便に1つずつの細胞由来の核酸ごとの情報を得るためには、微生物叢を含む試料を用い、細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、当該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と、当該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して細胞を溶解する工程と、当該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて当該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程とを含む、方法によって1つずつの細胞由来の増幅核酸を得ることが好ましい場合がある。本開示の一実施形態において、当該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて当該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程は、当該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内でゲル状態を保ちながら増幅することもできる。
【0042】
1つの実施形態において、液滴は、1つの細胞をマイクロ流路中に流動させ、オイルで懸濁液をせん断することにより1つの細胞を封入することで作製され得る。一部の実施形態において、ゲルカプセルはヒドロゲルカプセルであってもよい。
【0043】
ゲルカプセルの材料は、アガロース、アクリルアミド、光硬化性樹脂(例えば、PEG-DA)、PEG、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、マトリゲルTM、コラーゲンなどを含み得る。液滴のゲル化は、液滴にゲルカプセルの材料が含まれるように構成し、作製した液滴を冷却することによって行うことができる。あるいは、液滴に対して光等の刺激を与えることによってゲル化を行うこともできる。液滴にゲルカプセルの材料が含まれるようにするには、例えば、細胞または細胞様構造物の懸濁液にゲルカプセルの材料を含めておくことによって行うことができる。
【0044】
ゲルカプセルは、ヒドロゲルカプセルであってよい。本明細書において、「ヒドロゲル」とは、高分子物質またはコロイド粒子の網目構造によって保持されている溶媒あるいは分散媒が水であるものを指す。
【0045】
本開示の方法は、細胞の集団の1つずつの細胞由来の核酸を増幅する工程を含み得る。したがって、本開示のシステム、キット、組成物等は、核酸を増幅する核酸増幅剤を含み得る。当該増幅工程において、ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して細胞を溶解する工程が含まれ得、細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドがゲルカプセル内に溶出し、ゲルカプセル内に保持される。
【0046】
溶解用試薬は、リゾチーム、ラビアーゼ、ヤタラーゼ、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ザイモリアーゼ、キチナーゼ、リソスタフィン、ムタノライシン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、フェノール、クロロホルム、グアニジン塩酸塩、尿素、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、TCEP-HCl、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、Triton X-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween 20、Tween 80、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPS、CHAPSO、ドデシル-β-D-マルトシド、Nonidet P-40、およびZwittergent 3-12からなる群から少なくとも1種選択され得る。
【0047】
多様な微生物について、細胞ごとに核酸の増幅または分析を行う場合、溶解試薬または溶解試薬の組合せとして、ある程度強力なものを用いることが望ましい。例えば、グラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層を有する細胞壁を有するため、緩和なもののみでは細胞が十分に溶解できない可能性がある。
【0048】
必要に応じて、細胞を溶解した後に、ゲルカプセルから夾雑物を除去する工程が含まれ得る。溶解操作後にゲルカプセル内に残存する夾雑物は、後続のポリヌクレオチド増幅を阻害するため、適切な洗浄液を用いてゲルカプセル内を通液させ、前記阻害物質をゲルカプセル外に放出することが望ましい場合がある。これらの操作をゲルカプセル内で完遂するために、ポリヌクレオチドをゲルカプセル内に保持しながら、各種薬液と細胞溶解物の浸透・放出を達成するヒドロゲル構造を取ることが望ましい場合がある。ゲルカプセルを用いることにより、遺伝物質を保持したまま、残留試薬を希薄化することができる。このステップは繰り返すことも可能である。阻害が出ないレベルにまで試薬を希薄化することで、下流の操作、例えば、増幅反応をスムーズに行うことができる。
【0049】
夾雑物としては、試料中に残存する細胞に由来しない成分、溶解された細胞の成分(例えば、細胞膜、細胞内タンパク質、多糖類)、核酸結合タンパク質(例えば、ヒストン)、溶解試薬、余剰の標識剤、が挙げられる。ゲルカプセルを用いることにより、ゲルカプセル中に分析の対象となる核酸を保持したまま、緩衝液への浸漬、遠心分離、フィルター濾過などによって、夾雑物を除去することができる。ゲルカプセル封入後に標識剤を加える場合には、遊離の標識剤(例えば、EMA)を除去するために、洗浄工程を含めることが好ましい。洗浄工程においては、核酸に結合している分析の妨げとなるタンパク質類を除去しながら、核酸に結合している標識剤は結合した状態で維持され得る。
【0050】
さらに、増幅工程において、ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させてポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程が含まれ得る。この増幅工程において、上述の標識剤等によって、細胞の生死情報を得てもよい。加熱処理(80度以上)を伴う反応はゲル(例えば、アガロースゲル)の再溶解を招く可能性があるため、個別粒子化していた形状を崩壊させ、単一細胞隔離を無効化してしまう場合がある。この場合、約60度以下の酵素反応がゲル液滴形状を保つために望ましい。恒温鎖置換増幅反応(multiple displacement amplification)は、この温度の範囲内で実行可能であり、また、ゲノムDNA全域の増幅が可能である点で好ましい。用いる酵素としては、例えば、phi29ポリメラーゼ、Bstポリメラーゼ、Aacポリメラーゼ、リコンビナーゼポリメラーゼが挙げられる。またこの場合、ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させてポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程は、ポリヌクレオチドをゲルカプセル内でゲル状態を保ちながら増幅することもできる。
【0051】
特定の細胞(例えば、特定の微生物)を検出することを目的としたPCRを実施する場合、その微生物に応じた特定プライマーを使用することが一般的である。しかしながら、ゲノム全体の増幅を行う場合には、ランダムプライマーを用いることが好ましい。mRNAはゲノムDNAを元に細胞内に数千から数万種存在し、個々の分子量も多い。このためRNAを対象とした発現解析では、遺伝子の種類や発現量を絶対(相対)的に求めることが目的となるため、遺伝子の一部(数十塩基)だけを読み取って、どの遺伝子がどれだけ発現しているかを定量することが可能である。ゲノムDNAを対象とする場合、原則的にゲノムDNAは1細胞に1分子しか存在しないため、その1分子しか無い配列情報を漏らさず増やすことが、その数百万塩基の全てを解読するためには必要となり得る。ゲルカプセル中での処理は、そのような増幅にとって有利である。また、配列決定のための核酸を、1細胞から一部ずつの断片的な情報ではなく、全体として得られることはシングルセル解析において有利である。
【0052】
(分析)
本開示の細胞集団の分析で対象としうる細胞は、2つ以上の任意の数字であり、例えば、10個以上、50個以上、100個以上、500個以上、1000個以上、5000個以上、1万個以上、5万個以上、10万個以上、50万個以上、100万個以上、500万個以上、1000万個以上であり得る。本開示の細胞集団分析は、従来のシングルセル反応系、例えば、0.2mL、1.5mLマイクロチューブ反応系を用いるよりも多数の細胞からの、1つずつの細胞由来の核酸ごとの情報を用い得る。
【0053】
本開示における細胞の集団の組成の分析において、細胞の集団中の各種細胞の絶対数を特定することが含まれ得る。また、本開示において、1つずつの細胞の生死情報を得ることができるため、細胞の集団の組成の分析は、細胞の集団中の生細胞における各種細胞の絶対数を特定することを含み得る。細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、1つずつの細胞のゲノム配列データを得てもよく、これを、生細胞特異的に行うことができる。
【0054】
本開示において、個々の細胞の配列情報の総体に対する解析(例えば、ゲノム配列解読)を行う前に、多様な細胞から並列調製された核酸またはその他の生体分子の構造や配列から、その構造や配列を参照して個別の個体特異的に検出し、選抜することを行ってよい。すなわち、方法は、1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、分析する増幅核酸を含む試料を選択する工程を含み得る。増幅核酸の分析は、1つずつの細胞の種類を特定することを含んでもよい。選択は、細胞の生死情報を利用して行ってもよい。
【0055】
1つの実施形態において、選択は、特定の遺伝子配列の有無、特定の遺伝子の収量または全核酸収量に基づいて行い得る。一部の実施形態において、特定の遺伝子配列がある場合に選択してもよく、特定の遺伝子配列が無い場合に選択してもよい。一部の実施形態において、特定の遺伝子の収量が基準となる収量より多い場合選択してもよく、低い場合に選択してもよい。一部の実施形態において、全核酸収量が、基準となる収量より多い場合に選択してもよく、低い場合に選択してもよい。
【0056】
特定の実施形態において、特定の遺伝子配列の有無を、特定の遺伝子配列を特異的に検出する試薬、アガロースゲル電気泳動、マイクロチップ電気泳動、PCR、qPCR、遺伝子配列決定(サンガーシーケンシング、NGS)からなる群から選択される手段により検出する。一部の実施形態において、特定の遺伝子配列を特異的に検出する試薬として、抗体、プローブ、DNA結合性蛍光色素、蛍光色素結合ヌクレオチドが挙げられる。
【0057】
特定の実施形態において、特定の遺伝子の収量または全核酸収量を吸光度測定、蛍光光度測定、アガロースゲル電気泳動、マイクロチップ電気泳動により測定することができる。方法は、1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料において、特定の配列を有する核酸を検出する工程を含み得る。特定の配列を有する核酸を検出する工程は、特定の配列を有する核酸を増幅および配列解読することを含み得る。
【0058】
本開示の方法は、細胞集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、当該1つずつの細胞のゲノム配列データを得る工程を含み得る。ゲノム配列データを得ることによって、細胞集団中の個々の細胞について、単に配列としての情報だけではなく、配列が果たす機能という観点からの情報を得ることも可能である。
【0059】
本開示のシステム、キット、組成物等は、核酸配列のデータを得るための手段を含みうる。この手段は、細胞集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、当該1つずつの細胞のゲノム配列データを得ることができる限りどのような手段(例えば、キット、薬剤など)であってもよい。これらの手段は、ゲノム配列データを得た後、細胞集団中の個々の細胞について、単に配列としての情報だけではなく、配列が果たす機能という観点からの情報を得る機能を提供してもよい。
【0060】
1つずつの細胞のゲノム配列データから、分析するゲノム配列データを選択することが可能である。ゲノム配列データは情報量が多く、処理する量を限定することは、労力や時間の削減につながる。
【0061】
選択は、特定の遺伝子配列の有無および/または特定の遺伝子配列との同一性を評価することを含み得る。一部の実施形態において、特定の遺伝子配列との同一性は、BLAST等を用いることで評価することができる。特定の実施形態において、選択は、特定の遺伝子配列の有無に基づき、核酸情報を細胞ごとに選別してもよい。他の実施形態において、選択は、特定の遺伝子配列と、2つ以上の細胞に由来する核酸情報との同一性に基づき、核酸情報を細胞ごとに選別してもよい。一部の実施形態において、一定以上の同一性を有する場合に選択してもよく、一定以下の同一性の場合に選択してもよい。特定の実施形態において、同一性は、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、100%であってもよい。他の実施形態において、同一性は、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、または0%であってもよい。
【0062】
(細胞集団)
本開示において、細胞の集団は、動物または植物の体細胞または生殖細胞の集団、微生物細胞の集団、またはそれらの組み合わせであってよい。本開示において対象とする細胞または細胞様構造物は、特段限定されるものではないが、例えば、微生物(例えば、細菌、真菌、単細胞動物)、多細胞生物の細胞(例えば、体細胞、生殖細胞、培養細胞、腫瘍細胞、動物細胞、植物細胞)が挙げられる。本開示において、細胞の集団は、微生物叢または微生物製剤であり得る。
【0063】
本開示で対象とされ得る微生物は、限定されるものではないが、真正細菌、大腸菌、枯草菌、藍色細菌、球菌、桿菌、ラセン菌、グラム陰性菌、グラム陽性菌、古細菌、真菌、多細胞生物の個々の細胞あるいはそれらの任意の組合せを含むものが挙げられる。微生物叢の一例としては、細菌叢が挙げられる。微生物叢は、異なる細胞の性質(例えば、細胞壁の有無など)を有する複数の微生物を含み得るため、微生物種を問わず同一の様式で、細胞1つ毎の核酸情報を得るか、細胞1つごとの増幅核酸を得ることができる手段を採用することは、本開示の解析において好ましい場合があり得る。
【0064】
微生物叢は、限定されるものではないが、腸内微生物叢、皮膚微生物叢、口腔微生物叢、鼻腔微生物叢、膣微生物叢、土壌微生物叢、根圏微生物叢、河川・海水中微生物叢、活性汚泥微生物叢、昆虫共在微生物叢、動物共生微生物叢などであり得る。腸内細菌叢は、ヒトの健康状態への影響が広く研究されており、本開示の解析の対象として好ましいものの1つである。
【0065】
本開示において、同じ微生物叢に由来する、1つずつの細胞由来ではない核酸配列情報の解析の情報をさらに組み合わせて解析を行うことが可能である。解析としては、メタゲノム解析が挙げられる。メタゲノム解析は、培養という過程を経ずに、環境中の微生物がもつ核酸、遺伝子、DNAを全体として抽出、収集し、これらの構造(塩基配列)を網羅的に調べる手法である。個々の核酸や遺伝子がどの微生物由来かはわからないものの、環境中の微生物の集合体(コミュニティー)がもつ遺伝子群についての情報を得ることができ、このような手法をメタゲノム解析と呼ぶ。
【0066】
微生物叢組成の評価は、微生物叢中の各種微生物の絶対数を特定することを含み得る。1つずつの細胞由来の増幅核酸のそれぞれについて、微生物種を特定することによって、各種微生物の絶対数が特定され得る。微生物種の特定は、例えば、特定の遺伝子配列の有無を特定することによって行うことができる。
【0067】
ゲノム配列データを得ている場合、微生物叢組成の評価は、各微生物における長い遺伝子配列を比較することによって行ってよい。長い配列は、例えば、de novoアセンブリデータより抽出した遺伝子配列(例えば、16S遺伝子配列や共通遺伝子のセットなど)であってよい。このような長い遺伝子配列の比較は、評価の精度を高めるだけでなく、微生物叢における機能の評価も可能とし得る。例えば、配列情報のみでは、複数の種が存在することがわかってもそれぞれの機能については個別の情報が無ければ、微生物叢全体の機能の点を理解することができないが、遺伝子の情報に基づけば、微生物叢内で、特定の活性(例えば、酵素活性)を有する可能性のある種の量などについての情報を得ることができる。
【0068】
(応用)
本開示は、例えば、FMT(糞便微生物叢移植)検体の品質評価に用いられ得る。FMT検体の安定供給・品質保証として、菌叢解析・生菌数評価などの評価が必要となり得る。FMT検体では、検体ごとに菌叢が様変わりし、調査対象菌・菌数が異なる。本開示の技術は、対象種の構成比・配列情報が未知であっても適用できるため、従来の特定細菌培養法や観察法よりも技術的優位性があると考えられる。
【0069】
本開示は、例えば、微生物製剤の品質評価に用いられ得る。微生物製剤の製造品質保証・安定供給・投薬時の品質保証として、菌叢解析・生菌数評価などの評価が必要となり得る。微生物製剤は複数種の細菌カクテルとして調剤される。近縁種細菌の区別が必要な際は、顕微観察では対応できないため、DNA配列情報が必要である。また、長期培養・製造に伴う変異蓄積などにより、期待する性質が得られなくなる恐れがある。製剤間のロット管理面においても本開示の技術で多様な細菌種のゲノムレベル解析を実行できる点が有効利用できると考えられる。
【0070】
本開示は、例えば、食品微生物検査に用いられ得る。食品の衛生学的品質を評価する衛生指標菌(汚染指標菌)として、一般生菌数(生菌数)がある。しかしながら、培養を要する公定法は時間がかかり、特定細菌しか対象にできない。高精度な解析が要求される場合には、本開示の技術が有利に適用できると考えられる。
【0071】
本開示は、例えば、環境中の生菌調査に用いられ得る。環境中の病原菌による環境汚染を調べることができ、病原菌として、例えば、レジオネラやO-157、多剤耐性菌などが挙げられる。培養を要する公定法は時間がかかり、特定細菌しか対象にできない。高精度な解析が要求される場合は本開示の技術が有利に適用できると考えられる。例えば、環境中に生菌として存在する多剤耐性菌の特定や数の評価などを行うことができる。また、環境中、例えば、腸内・土壌・植物根圏など様々な環境で活性を持って活動している細菌を特定することができる。優良土壌、病害耐性植物根圏などでとくにホストに寄与していると考えられる生菌を特異的に検出し、ゲノム配列情報を優先的に取得するために、本開示の技術は有効である。
【0072】
本開示の方法は、例えば、微生物由来飼料および発酵食品、微生物包含サプリメントの品質評価、活性汚泥中の生菌のプロファイリング、環境中の生菌微生物の存在の評価、抗菌薬の効果・スペクトラムの評価、殺菌法の評価、バイオフィルム中の生菌のプロファイリングなどに用いられ得る。
【0073】
(システム)
本開示の別の局面において、細胞集団叢組成を分析するシステムが提供され得る。システムは、本明細書における他の項目において記載される任意の特徴を備える方法またはその工程を実装するための手段を備え得る。
【0074】
システムは、細胞中のポリヌクレオチドを増幅するための装置等を含み得る。装置等は、とりわけ、シングルセルレベルで細胞中のポリヌクレオチドを増幅することができるものであり得る。装置は、細胞を1細胞または構造物単位ずつ液滴中に封入する液滴作製部;液滴をゲル化してゲルカプセルを生成するゲルカプセル生成部;細胞または細胞を含むゲルカプセルに標識剤を添加し標識する標識部;ゲルカプセルを溶解用試薬に浸漬する溶解用試薬浸漬部;ゲルカプセルから夾雑物質を除去する除去部;および/またはゲルカプセルを増幅用試薬に浸漬する増幅用試薬浸漬部を備え得る。システムまたは装置は、ゲルカプセルを選別し、ゲルカプセルを収容容器に収容する選別部をさらに備え得る。システムまたは装置は、標識を検出して細胞の生死情報を得るための検出部を備え得る。
【0075】
システムまたは装置は、必要に応じて、細胞を封入する媒体、ゲルカプセルの材料、標識剤、核酸分解促進剤、溶解用試薬、増幅用試薬、核酸の増幅を検出できる核酸結合性蛍光物質、核酸の配列決定に用いられる試薬(例えば、ポリメラーゼ、プライマーセット(バーコード配列が含まれることもある)など)などの試薬を備え得る。試薬としては、本明細書の他の箇所に記載されるものに加えて、当技術分野で公知のものを使用してもよい。
【0076】
装置またはシステムは、増幅用試薬浸漬部において増幅されたポリヌクレオチド中の核酸配列の配列決定を行う配列決定部をさらに備え得る。配列決定部は上記装置と一体として提供されてもよく、システム中の別の装置として提供されてもよい。配列決定部は、サンガー法、マクサム・ギルバード法、単一分子リアルタイムシーケンシング(例えば、Pacific Biosciences、Menlo Park、California)、イオン半導体シーケンシング(例えば、Ion Torrent、South San Francisco、California)、シーケンシングバイシンセシス、パイロシーケンシング(例えば、454、Branford、Connecticut)、ライゲーションによるシーケンシング(例えば、Life Technologies、Carlsbad、CaliforniaのSOLiDシーケンシング)、合成および可逆性ターミネーターによるシーケンシング(例えば、Illumina、San Diego、California)、透過型電子顕微鏡法などの核酸イメージング技術、ナノポアシーケンシングなどを実行するための機器であってよい。
【0077】
システムまたは装置は、増幅した遺伝子を検出・計測する手段を備え得る。例えば、ゲルルカプセルの形状を扱うのに好適である、フローサイトメトリー機器が、上記装置と一体として提供されてもよく、システム中の別の装置として提供されてもよい。増幅した遺伝子を検出・計測する手段としては、検出反応を行う手段(例えば、サーマルサイクラーおよび適当な試薬)、および/またはシグナルを検出する手段(光センサ、カメラ、および適当な分析用の手段)が含まれ得る。増幅した遺伝子を検出・計測する手段は、標識を検出して細胞の生死情報を得るための検出部としても機能し得る。
【0078】
システムまたは装置は、本明細書の他の箇所に記載される任意の情報処理を行うように構成され得る、計算部を備え得る。計算部は、上記装置と一体として提供されてもよく、システム中の別の装置(コンピュータ)として提供されてもよい。本開示の別の局面では、計算部において、本明細書の他の箇所に記載される情報処理を行い、本開示の方法を実装させるためのプログラムおよびそれを記録した記憶媒体も提供され得る。計算部は、必要に応じて、かかるプログラムおよび/またはそれを記録した記憶媒体を備え得る。
【0079】
(キット)
本開示の1つの局面は、本開示の方法において用いられ得るキットを提供する。本開示において、細胞集団組成を分析するためのキットが提供され得る。キットは、ゲルカプセルの材料を含み得、ゲルカプセルを用いることは、本明細書の他の箇所に記載されるとおり、細胞または細胞様構造物中の核酸をシングルセルレベルで増幅することについて有利であり、微生物組成の分析に関して本明細書に記載されるとおり用いられ得る。キットは、例えば、ゲルカプセルの材料と、必要に応じて、1以上の試薬を含み得る。試薬としては、本明細書の他の箇所に記載されるものに加えて、当技術分野で公知のものを使用してもよい。 キットは、本明細書に記載されるか、または当技術分野で公知の標識剤、核酸分解促進剤、核酸の増幅を検出できる核酸結合性蛍光物質を含み得る。
【0080】
微生物叢組成を分析するためのキットは、溶解用試薬を含み得る。溶解用試薬は、リゾチーム、ラビアーゼ、ヤタラーゼ、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ザイモリアーゼ、キチナーゼ、リソスタフィン、ムタノライシン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、フェノール、クロロホルム、グアニジン塩酸塩、尿素、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、TCEP-HCl、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、Triton X-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween 20、Tween 80、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPS、CHAPSO、ドデシル-β-D-マルトシド、Nonidet P-40、Zwittergent 3-12からなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。溶解用試薬は、シングルセルレベルでの増幅ポリヌクレオチド、特に、ゲノム全域にわたる増幅産物を得るのに有用である。
【0081】
キットは、核酸の増幅用試薬を含み得る。増幅用試薬としては、例えば、ポリメラーゼ、プライマーセット(バーコード配列が含まれることもある)、塩基ミックス、好適なバッファーなどが挙げられる。キットは、核酸の配列決定に用いられる試薬(例えば、ポリメラーゼ、プライマーセット(バーコード配列が含まれることもある)など)などの試薬を備え得る。例えば、サンガーシーケンスやNGSにて特定の遺伝子を増幅・解読するための試薬(ポリメラーゼ、プライマーセット(バーコード配列が含まれることもある)ほか)が含まれ得る。また、キットは、特定の配列の検出・計測に用いられ得る試薬、例えば、核酸結合色素、蛍光標識プローブなどを含み得る。これらの試薬を用いて、増幅した遺伝子を検出・計測する機器(フローサイトメトリーなど)によって特定の配列の有無を測定することができる。
【0082】
キットは、試料を採取するための手段を含み得る。また、キットは、採取した試料を保存するための手段を含み得る。試料を採取するための手段としては、注射器、スワブ、生検パンチ、採尿容器、採便容器、唾液採取容器、医療用テープなどが挙げられる。保存するための手段としては、冷却剤(例えば、保冷剤、ドライアイス、液体窒素)や、保存液(例えば、グアニジン塩酸塩、硫酸アンモニウム、エタノールなどのいずれかを含む溶液)などが挙げられる。
【0083】
本開示の1つの局面では、細胞集団組成を分析するための、保存液を含む検体採取容器を備えるキットが提供され得る。保存液は、例えば、グアニジン溶液(例えば、FS-0007やFS-0008、テクノスルガラボ社)又はエタノール(例えば、OMR-200やOM-501、DNA genotek社)を含み得る。このような保存液を備えるキットを用いることにより、常温で一定期間病院施設等で保管されたとしても、その後のシングルセルレベル解析において、良好なゲノム解読率(コンプリート率)や、試料中の多くの生物系統の同定といった効果が奏され得る。また、通常行われている凍結便としての採便保存方法と比較して、利便性が格段に高い。
【0084】
保存液は、一般的には核酸の安定性を高めるために用いられ、例えば、グアニジン溶液およびアルコール類などは、タンパク質変性を生じさせ、核酸の分解を進行させる酵素の働きを阻害するように使用される。本開示の方法においては、試料の保存において、細胞としての形態安定性が維持されることが好ましい場合がある。これは、細胞が崩れているとドロップレットへの封入が難しくなること、または細胞デブリなどの多発によりデータの取得が困難になることなどによるものである。そのため、タンパク質変性を生じさせるような保存液は、細胞形態の安定性に対して不利であると予想されていたが、本明細書の実施例において、予想外に、保存液による保存後に細胞の多くが良好に形態を保持しており、本開示の方法において特に好適であることが見出されている。
【0085】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0086】
選択的膜透過性色素(例えば、EMA)を含む試薬を試料に添加する。その後、光照射によりEMAと核酸を結合させる。EMAは膜が破損した死菌の内部に浸透し、DNAを選択的に修飾する。生細胞由来の未染色のDNAはPCR増幅されるが、EMAが結合した死細胞由来のDNAは増幅できない状態となる。EMAを含む処理液を試料から除いた試料を調製し、増幅保持された1細胞ゲノム由来ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルを本明細書に記載の方法で調製する。このとき、ポリヌクレオチドは生菌を含むゲルカプセルにおいて選択的に増幅調製される。本ゲルカプセルをDNA結合蛍光色素などで染色し、フローサイトメトリーで蛍光陽性カプセルをカウントする。一定容量中の蛍光陽性カプセル数が導入された生菌総数に相当する。
【0087】
ついで、本明細書に記載の方法で、ゲルカプセルを1細胞ごとにマイクロプレートなどに分別収集する。さらに、プレート内で各ゲルカプセル中のポリヌクレオチドを鋳型として全ゲノム増幅反応を行い、これをライブラリマスタープレートとする。ついで、ライブラリマスタープレート中の反応液の一部を分取し、レプリカプレートを調製する。本レプリカを鋳型として標的遺伝子特異的なプライマーセットで増幅を行う。続いて、増幅物をサンガーシーケンスなどにより、配列を特定し各サンプルの微生物種を特定する。
【0088】
より効果的には、上記プライマーセットにバーコード配列を含ませて、各サンプルに異なるバーコードが付与される増幅反応を行い、複数レプリカプレート由来のPCR産物をプールして次世代シーケンスを行う。その後、バーコード配列でプレート・ウェル番号を特定するとともに、PCR産物の配列を特定することで一挙に数百から数千のサンプルの微生物種を特定する。なお、上記プライマーセットは複数の遺伝子領域を対象としたプライマーセットの混合物であってもよい。より具体的には、16S rRNA遺伝子のv3-v4、v1-v2領域などを対象としたものや、18S rRNA、ITSなど細菌やアーキア、真菌などを見分けるプライマーセットなどから選択される。前記プライマーセットを複数種同時に用いれば、細菌・アーキア・真菌を同時に検出することができる。
【0089】
また、対象とする遺伝子配列のプライマーセットの設計が困難な場合や、対象遺伝子領域を高精度に判定するためには、全ゲノムシーケンスを行ってデジタル配列情報から対象遺伝子領域を検索する方法が有効である。あるいは、全ゲノムシーケンスを行うことで、未知の生菌ゲノムを決定する目的であっても良い。レプリカプレートのサンプルから全ゲノムシーケンスを行い、次世代シーケンスから得られたデジタル配列情報から、遺伝子配列を抽出し、細菌種や遺伝子を特定するデータを取得する。検索・抽出する遺伝子は、16S rRNA遺伝子、18S rRNA遺伝子、ITSなど細菌やアーキア、真菌などを見分ける遺伝子領域から、特異的な酵素や二次代謝物生産に関わる遺伝子群などが候補となる。
【0090】
上記いずれかの方法で、ウェルプレート等に分取された各ゲルカプセルに含まれていた微生物種を特定し、計数するとともに、初期に測定した生菌総数と合わせることで、試料中の各微生物種の生細胞数をカウントすることができる。本反応では、全てのPCR反応が別個に行われ、各バーコードごとに微生物種を同定・計数していくことから、細胞数を反映したデジタルカウントデータが得られる。すなわち従来の問題であった、既知配列情報の有無、培養可否、遺伝子コピー数によるバイアスを避けたデータが得られる。また、相対比1%以下の希少細胞についても実質的な総数での比較が可能である。
【0091】
本開示の方法の1つの実施形態としては、細胞の集団に対してEMAを加え、光照射を行うステップと、該細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と、該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する工程であって、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出する、工程と、該ゲルカプセルから夾雑物を除去する工程と、該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程であって、ここで、EMAが結合したポリヌクレオチドは増幅されない、工程と、増幅されたポリヌクレオチドを検出する工程と、生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを選択する工程と、生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを計数する工程と、生菌に由来する試料を含むゲルカプセルにおいて増幅されたポリヌクレオチドを分析する工程とを含む、方法が挙げられる。本開示の方法の他の実施形態としては、該細胞の集団の細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と、該ゲルカプセルにEMAを加え、光照射を行うステップと、該ゲルカプセルを洗浄する工程と、1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する工程であって、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出する、工程と、該ゲルカプセルから夾雑物を除去する工程と、該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程であって、ここで、EMAが結合したポリヌクレオチドは増幅されない、工程と、増幅されたポリヌクレオチドを検出する工程と、生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを選択する工程と、生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを計数する工程と、生菌に由来する試料を含むゲルカプセルにおいて増幅されたポリヌクレオチドを分析する工程とを含む、方法が挙げられる。これらの方法における工程は、本開示の目的を達する限りにおいて、適宜一部のみを使用してもよく、本明細書に記載されるか、または当技術分野で公知の等価な技術で置き換え、またはそのような技術を追加して使用し得ることは当業者に理解される。
(その他の実施形態)
【0092】
本開示において、細胞の集団の組成を分析するためのシステムが提供され得る。システムには、細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る手段、および/または細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する手段が含まれ得る。本開示の実施形態において、細胞の集団の組成を分析するシステムまたはキットが提供され得、システムまたはキットは、生細胞と死細胞とを示差的に標識する標識剤、細胞をゲルカプセルに封入する手段、核酸を増幅する手段、および/または核酸を分析する手段を含み得る。本開示において、生細胞と死細胞とを示差的に標識する標識剤を含む組成物が提供され得、かかる組成物は、細胞の集団の組成を分析する方法において使用するためのものであり得る。当該方法は、細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、該細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程とを含み得る。本開示においては、生細胞と死細胞とを示差的に標識する標識剤を含む、細胞の集団を一細胞ごとにゲルカプセルに封入して分析するための方法において使用するための組成物もまた提供され得る。
【0093】
本開示においては、システムまたはキットが提供され、システムまたはキットは、細胞の生死を識別する試薬(例えば、エチジウムモノアジド(EMA)またはプロピジウムモノアジド(PMA)、光照射手段、細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する手段、該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する手段、該ゲルカプセルの溶解用試薬であって、該溶解用試薬を、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出するように添加するように使用される、溶解用試薬、該ゲルカプセルから夾雑物を除去する手段、ポリヌクレオチドの増幅用試薬であって、該増幅用試薬は、該ポリヌクレオチドに接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅するが、EMAが結合したポリヌクレオチドは増幅されないように使用される、増幅用試薬、ポリヌクレオチドの検出手段、生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを選択する手段、生菌に由来する試料を含むゲルカプセルを計数する手段、および/または生菌に由来する試料を含むゲルカプセルにおいて増幅されたポリヌクレオチドを分析する手段を含み得る。
【0094】
生細胞と死細胞とを示差的に標識する標識剤(例えば、エチジウムモノアジド(EMA)またはプロピジウムモノアジド(PMA)などの細胞の生死を識別する試薬)を含む、細胞の集団の組成を分析する方法において使用するための組成物であって、該方法は、該細胞の集団中の1細胞ずつの生死情報を得る工程と、該細胞の集団中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を分析する工程とを含む、組成物が提供され得る。
【0095】
本開示の分析するためのシステムは、試料中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料を提供する試料提供部と、該試料中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、試料組成を評価する組成評価部とを含む。ここで試料提供部は、試料を用い、細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する液滴封入部と、該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成するゲルカプセル生成部と、細胞を溶解するための1種以上の溶解用試薬が格納された、該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する細胞溶解部であって、該細胞溶解部は、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出し該ゲノムDNAまたはその部分に結合する物質が除去された状態で前記ゲルカプセル内に保持されるように構成されている、細胞溶解部と、該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅するための該ポリヌクレオチド増幅用試薬とを含む。
【0096】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0097】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したものではない。したがって、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0098】
以下、本開示の実施例を記載する。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用することができるが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0099】
(実施例1:実験例)
大腸菌K12株培養液を調製し、加熱処理(95℃、5min)あるいはアルコール処理(70%エタノールに懸濁)の死菌モデルサンプルを調製する。非処理(生菌)サンプル、死菌モデルサンプル、生菌・死菌混合サンプルを其々調製し、細菌ペレットを500μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、タカラバイオ社Viable Bacteria Selection Kit for PCRを用いてプロトコル通りに処理し、EMA添加・浸透・光照射までの処理を行う。その後、15,000×gで3分間遠心することで集菌する。菌体のペレットをPBSで2回遠心洗浄した後、PBS中に懸濁することで大腸菌懸濁液を取得する。調製した細胞懸濁液中の細胞濃度を測定し、終濃度1.5%になるように超低融点アガロースを加えることで、ゲルカプセル作製に用いる大腸菌懸濁液を調製する(細胞終濃度:1.5×103cells/μL)。
【0100】
以下のとおり大腸菌の微小液滴への封入を行い、微小液滴のゲル化およびゲルカプセル内での全ゲノム増幅を実施する。
【0101】
ポリジメチルシロキサン(Sylgard 184: Dow Corning社)を用いて自作したマイクロ流路を用いて、微小液滴の作製および微小液滴内への大腸菌の封入を行う。本実施例では、第一流路、第二流路、第三流路及び第四流路からなり、隣接する流路が直角に配置されたマイクロ流路を用いるが、略T字状に接続したマイクロ流路を使用することも可能である。本実施例のマイクロ流路は、幅34μm、高さ50μmのものを使用するが、作製する微小液滴の大きさや封入する1細胞の大きさによりマイクロ流路のサイズは適宜変更可能である。
【0102】
次に、第一流路(水相インレット)から大腸菌懸濁液を導入し、第二流路及び第四流路(油相インレット)からPico-Surf1(2% in Novec7500)(Sphere Fluidics社)(以下、「オイル」という)を導入して腸内微生物懸濁液をせん断することで、直径50μmの微小液滴を作製し、第三流路7を流動させて容量0.2mLのチューブに回収する。微小液滴は、500液滴/秒の速度で約45万個作製する。微小液滴内の細胞濃度は、0.1 cells/dropletである。
【0103】
本実施例では、微小液滴の直径を50μmと均一にすることで、1細胞ずつ微小液滴に封入され易くしている。1細胞の大きさを考慮すると、微小液滴の直径は、例えば1~250μmであり、20~200μmであることが好ましい。液滴の直径は、約1~250μm、より好ましくは約10~200μmであってよく、例えば、液滴の直径は、約1μm、約5μm、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約40μm、約50μm、約80μm、約100μm、約150μm、約200μm、または約250μmであってよい。
【0104】
チューブ内には複数の微小液滴とオイルが収容されるが、微小液滴はオイルよりも比重が軽いため上層に集積する。
【0105】
次に、チューブを氷上で15分間冷却し、超低融点アガロースにより微小液滴をゲル化する。ゲル化した微小液滴がゲルカプセルである。微小液滴の直径が50μmであることからゲルカプセルの直径も50μmとなる。ゲルカプセルの直径は、約1~250μm、より好ましくは約10~200μmであってよく、例えば、約1μm、約5μm、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約40μm、約50μm、約80μm、約100μm、約150μm、約200μm、または約250μmであってよい。ゲルカプセルの直径は、作製する液滴と同じであってもよいが、ゲル化に際して直径が変化してもよい。また、ゲルカプセルの直径は1~250μmであることが好ましい。ゲルカプセルの直径を均一とすることにより、後述する溶菌試薬の各ゲルカプセル内への浸透率をより均一化することができる。
【0106】
次に、チューブに20μLの1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール(SIGMA-ALDRICH社)を加え、下層のオイルを取り除いた後、アセトン(富士フイルム和光純薬社)(500μL)、イソプロパノール(富士フイルム和光純薬社)(500μL)を順に加えて遠心洗浄し、オイルの除去を行う。本実施例では、ゲルカプセルに浸透したオイルも夾雑物質に含まれるものとする。さらに、500μLのPBSを添加して遠心洗浄を3回行い、ゲルカプセルを水層(PBS)に懸濁した状態とする。ゲルカプセルは水層よりも比重が重いため下層に集積する。
【0107】
続いて、溶解用試薬としての溶菌試薬にゲルカプセルを順次浸漬し、ゲルカプセル内部で細胞の細胞壁等の収集目的物以外の部分を溶解し、ゲルカプセル内にゲノムDNAを溶出させる。
【0108】
具体的には、チューブに溶菌試薬の1種であるリゾチーム(10U/μL)(R1804M、Epicentre)を加え、細胞を溶解する。次に、チューブに溶菌試薬の1種であるアクロモペプチダーゼ(850U/mL)(015-09951、富士フイルム和光純薬社)を加える。次に、チューブに溶菌試薬の1種であるプロテアーゼK(1mg/mL)(MC5005、Promega)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.5%(71736-100ML、SIGMA-ALDRICH社)を加え、細胞を溶解した後に遠心洗浄を5回行いプロテアーゼ及び溶解した細胞のゲノムDNA以外の成分(夾雑物質)をチューブから除去する。続いて、溶菌試薬の1種である水酸化カリウムを含む水溶液であるBuffer D2(QIAGEN社)にゲルカプセルを浸漬し、残存成分の溶解とゲノムDNAの変性を行う。本実施例で使用する溶菌試液は、上述のとおり、リゾチーム、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼK、ドデシル硫酸ナトリウム及びBuffer D2である。なお、水酸化カリウムは通常のDNA増幅反応工程でも使用するが、溶菌の効果も兼ねていることから、本実施例では溶菌試薬の一つとした。ゲルカプセルの溶菌試薬への浸漬は短時間であるため、溶出させたゲノムDNAが溶菌試薬によりゲルカプセル外に流出されることはなく、ゲルカプセル内に保持される。本実施例では、ゲルカプセルに浸透した溶菌試薬も夾雑物質に含まれるものとする。
【0109】
本実施例では、リゾチーム、アクロモペプチダーゼ及びプロテアーゼKを順次加え、ドデシル硫酸ナトリウムを加えて細胞を溶解した後、Buffer D2を入れる前にのみ遠心洗浄を行う。これによって十分な洗浄効果を得ることができる。しかしながら、各溶菌試薬により細胞を溶解した後に遠心洗浄を行ってもよい。
【0110】
このように、複数種類の溶菌試薬により細胞の溶解を行うことで、目的のゲノムDNAを採取することができ、溶菌試薬への浸漬後に遠心洗浄を行うことで、溶菌試薬や溶解した細胞のポリヌクレオチド以外の成分等の夾雑物質を除去し、続くゲノムDNA増幅反応を阻害することなくゲノムDNAを精製することができる。
【0111】
水酸化カリウム溶液(Buffer D2)中で変性したゲノムDNAを保持するゲルカプセルを含むチューブに増幅用試薬を加え、ゲルカプセルを増幅用試薬に浸漬する。具体的には、鎖置換型DNA合成酵素であるphi29DNAポリメラーゼを用いたMDA(Multiple Displacement Amplification)法を使用する。ここでは、全ゲノム増幅反応試薬REPLI-g Single Cell Kit(QIAGEN社)に浸漬し、3時間の全ゲノム増幅反応を行った(S1000 サーマルサイクラー, Bio-Rad社)。増幅用試薬(REPLI-g Single Cell Kit)には水酸化カリウム溶液(Buffer D2)を中和する成分が含まれている。
【0112】
さらに、蛍光性DNAインターカレーターによる染色を行い、顕微鏡観察およびフローサイトメーターを用いて、蛍光を示すゲルカプセルをカウントし、個別に回収する。この結果、死菌モデルサンプルからは蛍光を示すゲルカプセルは観測されず、混合サンプルでは非処理(生菌)サンプルの約半数が蛍光シグナルを提示する。これは生菌・死菌の混合比に相当する比率である。
【0113】
回収した個々のゲルカプセルに対して65度で加熱を行うことによりゲルカプセルを溶解した後、各プレートのウェル内でMDA法による二次増幅を実施し、各ウェルにつき10μLのDNA増幅産物を含むライブラリマスタープレートを作成する。新しいプレートの各ウェルに39μLのヌクレアーゼフリー水を分注し、ライブラリマスタープレート中のDNA増幅産物1μLを加え、ライブラリマスタープレートの40倍希釈溶液を調製する。次に、希釈液1μLを用いてQubitフルオロメーター(Thermo Fisher Scientific)によるDNA濃度の定量を行う。また、希釈液1μLをテンプレートに用いて16S rRNA遺伝子のV3V4領域を対象としたPCRを行う。アガロースゲル電気泳動によってPCR産物の有無を確認後、増幅が見られたサンプルの一部についてサンガー法を用いてシークエンス解析を行う。得られた配列情報に対してBLASTを用いた相同性検索を行い、作成されたライブラリマスタープレートから想定通り大腸菌由来の16SrRNA配列を確認する。
【0114】
(実施例2:ゲルカプセル毎の生死情報の取得とシーケンス)
大腸菌K12株培養液を調製し、加熱処理(95℃、5min)によって死菌モデルサンプルを調製した。細菌ペレットを500μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁した。一部をタカラバイオ社Viable Bacteria Selection Kit for PCRを用いてプロトコル通りに処理し、EMA添加・浸透・光照射までの処理を行った。その後、15,000×gで3分間遠心することで集菌した。菌体のペレットをPBSで2回遠心洗浄した後、PBS中に懸濁することで大腸菌懸濁液を取得した。調製した細胞懸濁液中の細胞濃度を測定し、終濃度1.5%になるように超低融点アガロースを加えることで、ゲルカプセル作製に用いる大腸菌懸濁液を調製した(細胞終濃度:1.5×103cells/μL)。死菌モデルサンプルの他の一部は、EMA処理を行わずに、同様の濃度の懸濁液とした。
【0115】
以下のとおり大腸菌の微小液滴への封入を行い、微小液滴のゲル化およびゲルカプセル内での全ゲノム増幅を実施した。ポリジメチルシロキサン(Sylgard 184: Dow Corning社)を用いて自作したマイクロ流路を用いて、微小液滴の作製および微小液滴内への大腸菌の封入を行う。本実施例では、第一流路、第二流路、第三流路及び第四流路からなり、隣接する流路が直角に配置されたマイクロ流路を用いた。本実施例のマイクロ流路は、幅34μm、高さ50μmのものを使用した。
【0116】
次に、第一流路(水相インレット)から大腸菌懸濁液を導入し、第二流路及び第四流路(油相インレット)からPico-Surf1(2% in Novec7500)(Sphere Fluidics社)(以下、「オイル」という)を導入して腸内微生物懸濁液をせん断することで、直径50μmの微小液滴を作製し、第三流路7を流動させて容量0.2mLのチューブに回収した。微小液滴は、500液滴/秒の速度で約45万個作製した。微小液滴内の細胞濃度は、0.1 cells/dropletであった。本実施例では、微小液滴の直径を50μmとした。次に、チューブを氷上で15分間冷却し、超低融点アガロースにより微小液滴をゲル化した。ゲル化した微小液滴がゲルカプセルである。
【0117】
次に、チューブに20μLの1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール(SIGMA-ALDRICH社)を加え、下層のオイルを取り除いた後、アセトン(富士フイルム和光純薬社)(500μL)、イソプロパノール(富士フイルム和光純薬社)(500μL)を順に加えて遠心洗浄し、オイルの除去を行った。本実施例では、ゲルカプセルに浸透したオイルも夾雑物質に含まれるものとする。さらに、500μLのPBSを添加して遠心洗浄を3回行い、ゲルカプセルを水層(PBS)に懸濁した状態とした。ゲルカプセルは水層よりも比重が重いため下層に集積する。
【0118】
続いて、溶解用試薬としての溶菌試薬にゲルカプセルを順次浸漬し、ゲルカプセル内部で細胞の細胞壁等の収集目的物以外の部分を溶解し、ゲルカプセル内にゲノムDNAを溶出させた。具体的には、チューブに溶菌試薬の1種であるリゾチーム(10U/μL)(R1804M、Epicentre)を加え、細胞を溶解した。次に、チューブに溶菌試薬の1種であるアクロモペプチダーゼ(850U/mL)(015-09951、富士フイルム和光純薬社)を加えた。次に、チューブに溶菌試薬の1種であるプロテアーゼK(1mg/mL)(MC5005、Promega)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.5%(71736-100ML、SIGMA-ALDRICH社)を加え、細胞を溶解した後に遠心洗浄を5回行いプロテアーゼ及び溶解した細胞のゲノムDNA以外の成分(夾雑物質)をチューブから除去した。続いて、溶菌試薬の1種である水酸化カリウムを含む水溶液であるBuffer D2(QIAGEN社)にゲルカプセルを浸漬し、残存成分の溶解とゲノムDNAの変性を行った。
【0119】
水酸化カリウム溶液(Buffer D2)中で変性したゲノムDNAを保持するゲルカプセルを含むチューブに増幅用試薬を加え、ゲルカプセルを増幅用試薬に浸漬した。具体的には、鎖置換型DNA合成酵素であるphi29DNAポリメラーゼを用いたMDA(Multiple Displacement Amplification)法を使用した。ここでは、全ゲノム増幅反応試薬REPLI-g Single Cell Kit(QIAGEN社)に浸漬し、3時間の全ゲノム増幅反応を行った(S1000 サーマルサイクラー, Bio-Rad社)。増幅用試薬(REPLI-g Single Cell Kit)には水酸化カリウム溶液(Buffer D2)を中和する成分が含まれていた。
【0120】
さらに、蛍光性DNAインターカレーターによる染色を行い、顕微鏡観察およびフローサイトメーターを用いて、蛍光を示すゲルカプセルをカウントし、個別に回収した。この結果、死菌モデルサンプルからは蛍光を示すゲルカプセルは観測されなかった(
図2)。
【0121】
以上のようにして生菌と死菌が混在する集団から生菌と死菌とを区別したのち、生菌由来の細胞数および配列情報を得る。具体的には、上記のようにして得たゲルカプセルのうち、生菌を示す蛍光を発するゲルカプセルを、実施例1に示した手順で処理し、当該ゲルカプセルから得られたゲノム増幅物の一部または全部をシーケンス解析する。これにより、死菌を含まず、生菌にのみ由来する配列情報を選択的に得ることができ、その細胞の種類や個数から、生菌に限定した菌叢組成および総数を評価する。
【0122】
単一生物種サンプルのEMA添加後のシーケンス
上記のとおり大腸菌K12の生菌サンプルに対しEMA処理を行った生菌モデルサンプルから蛍光を示すゲルカプセルを回収した。回収した個々のゲルカプセルに対して65℃で加熱を行う(S1000サーマルサイクラー,Bio-Rad)ことによりゲルカプセルを溶解した後、各プレートのウェル内でMDA法(REPLI-g Single Cell Kit, 150345,QIAGEN)による二次増幅を実施し、各ウェルにつき10μLのDNA増幅産物を含むライブラリマスタープレートを作成した。
【0123】
上記の12個のサンプルに対して、Nextera XT DNA sample prep kit(Illumina社,FC-131-1096)を用いてライブラリー調製を行い、Miseq(Illumina社,SY-410-1003)を用いた全ゲノムシークエンスによって2×75bpのペアエンドリードを取得した。SPAdes(Bankevich A et al.,J Comput Biol. 2012 May;19(5):455-77. http://doi.org/10.1089/cmb.2012.002 1)を用いてシークエンスデータのアセンブリを行い、Contigを作製した。また、ゲノム解読率(コンプリート率)およびコンタミネーション度の評価にはCheckM(Parkset al., Genome Res. 2015. 25: 1043-1055, doi:10.1101/gr.186072.114)を用いてデフォルト条件で解析を行った。この結果、EMA処理生菌モデルで平均コンプリート率は29.5%、平均コンタミネーション率は0.9%と算出された。この結果から、本法にてEMA処理にて生菌を選抜し、ゲノムデータを取得できることが示唆された。
【0124】
複数生物種混在サンプルからの生菌シーケンス
NBRC微生物カクテル(Cell-Mock-001)(15種類の細菌株の混合サンプル)を用い、加熱処理(95℃、5min)により死菌モデルサンプルを調製した。非加熱処理(生菌)サンプル、死菌モデルサンプルを其々調製し、細菌ペレットを150μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、Biotium社のPMA 20mM in H
20を用いてプロトコルどおりに処理し、EMA添加・浸透・光照射までの処理を行った。その後、15,000×gで3分間遠心することで集菌した。菌体のペレットをPBSで2回遠心洗浄した後、PBS中に懸濁することで大腸菌懸濁液を取得した。調製した細胞懸濁液中の細胞濃度を測定し、終濃度1.5%になるように超低融点アガロースを加えることで、ゲルカプセル作製に用いる大腸菌懸濁液を調製した(細胞終濃度:1.5×10
3cells/μL)。続いて、実施例1と同様の手順で進行した。
その後、光性DNAインターカレーターによる染色を行い、顕微鏡観察およびフローサイトメーターを用いて、蛍光を示すゲルカプセルをカウントし、個別に回収した。この結果、死菌モデルサンプルからは蛍光を示すゲルカプセルは観測されず、PMA処理なしの生菌サンプル、PMA処理ありの生菌サンプルからは蛍光を示すゲルカプセルが観測された。回収した個々のゲルカプセルに対して65℃で加熱を行う(S1000サーマルサイクラー,Bio-Rad)ことによりゲルカプセルを溶解した後、各プレートのウェル内でMDA法(REPLI-g Single Cell Kit,150345,QIAGEN)による二次増幅を実施し、各ウェルにつき10μLのDNA増幅産物を含むライブラリマスタープレートを作成した。
上記のサンプルに対して、Nextera XT DNA sample prep kit(Illumina社,FC-131-1096)を用いてライブラリー調製を行い、Miseq(Illumina社,SY-410-1003)を用いた全ゲノムシークエンスによって2×75bpのペアエンドリードを取得した。SPAdes(Bankevich A et al.,J Comput Biol. 2012 May;19(5):455-77. http://doi.org/10.1089/cmb.2012.002 1)を用いてシークエンスデータのアセンブリを行い、Contigを作製した。また、ゲノム解読率(コンプリート率)およびコンタミネーション度の評価にはCheckM(Parkset al., Genome Res. 2015. 25: 1043-1055, doi:10.1101/gr.186072.114)を用いてデフォルト条件で解析を行った。16SrRNA配列またはGTDB-tkを用いた系統アノテーションの結果、PMA処理なしの微生物カクテルサンプル(48細胞分解析)では、Acinetobacterradioresistens, Staphylococcus epidermidis, Lactobacillus delbrueckii,Clostridium butyricum, Cutibacterium acnes, Bacillus subtilis, Escherichiacoli, Corynebacterium striatum, Comamonas terrigena, Parabacteroides distasonis由来の11種類の細菌ゲノムデータが得られたのに対し、PMA処理ありの微生物カクテルサンプル(96細胞分解析)では、Staphylococcusepidermidis, Clostridium butyricum, Bacillus subtilis, Escherichia coli,Bacteroides uniformis, Parabacteroides distasonis, Comamonas terrigenaの7種類の細菌ゲノムのデータが得られた(表1)。Acinetobacterradioresistens, Lactobacillus delbrueckii, Cutibacterium acnes, CorynebacteriumstriatumはPMA処理により1細胞増幅ゲノムライブラリーの選抜段階で排除されており、微生物カクテル中で死菌として存在するものが多いことが示唆された。また、Escherichiacoli , Comamonas terrigenaが特に生菌サンプルから他より多く検出されており、多くの細胞が生菌として微生物カクテル中に存在していたものと推察された。
【表1】
【0125】
(実施例3:応用例)
FMT検体または微生物製剤の品質評価を行う例
糞便微生物移植(FMT)検体などの1種以上の微生物を含む微生物の集合であって、疾患の予防・治療を目的とした物において、移植検体中の安定供給・品質保証のために、微生物の安定性(活性・個数)を評価することが目的であった場合、本発明技術を菌叢解析・生菌数評価のために適用することができる。FMT検体では、検体ごとに菌叢が様変わりし、調査対象菌・菌数が異なる。本開示の技術は、対象種の構成比・配列情報が未知であっても適用できるため、菌叢解析・生菌数評価に適する。具体的な手順として、当該FMT検体サンプルを実施例1に示した手順で処理し、ゲルカプセルから得られたゲノム増幅物の一部または全部をシーケンス解析することで、生菌に由来する配列情報のみを選択的に獲得し、その種類・個数から、生菌に限定した菌叢組成および総数を評価する。
【0126】
微生物製剤の品質評価を行う例
微生物製剤などの1種以上の微生物を含む微生物の集合であって、疾患の予防・治療や健康増進を目的とした物において、製剤製品中の安定供給・品質保証のために、微生物の安定性(活性・個数)を評価することが目的であった場合、本発明技術を菌叢解析・生菌数評価のために適用することができる。とくに、長期培養・製造に伴う変異蓄積などにより、期待する性質が得られなくなる恐れがあるが、製剤間のロット管理面においても本開示の技術で多様な細菌種のゲノムレベル解析を実行できる。具体的な手順として、当該サンプルを実施例1に示した手順で処理し、ゲルカプセルから得られたゲノム増幅物の一部または全部をシーケンス解析することで、生菌に由来する配列情報のみを選択的に獲得し、その種類・個数から、生菌に限定した菌叢組成および総数を評価することができる。また得られたゲノム配列をリファレンスゲノムと比較することで、製造工程におけるコンタミネーション発生や遺伝子変異の蓄積などによる品質劣化を評価する。
【0127】
食品微生物検査に用いる例
食品の衛生学的品質を評価する衛生指標菌(汚染指標菌)として、一般生菌数(生菌数)がある。しかしながら、培養を要する公定法は時間がかかり、特定細菌しか対象にできない。高精度な解析が要求される場合には、本開示の技術が有利に適用できると考えられる。具体的な手順として、当該サンプルを実施例1に示した手順で処理し、ゲルカプセルから得られたゲノム増幅物の一部または全部をシーケンス解析することで、生菌に由来する配列情報を選択的に獲得し、その種類・個数から、現行の食品微生物検査の対象生物である大腸菌群・大腸菌、サルモネラ属菌、腸内細菌科菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオなどの生菌存在数を評価する。また得られたゲノム配列をリファレンスゲノムと比較することで、株レベルでの菌種特定を行う。
【0128】
環境中の生菌調査に用いる例
環境中に生菌として存在する多剤耐性菌、腸内・土壌・植物根圏など様々な環境で活性を持って活動している微生物、バイオフィルムを形成する微生物、あるいは優良土壌、病害耐性植物根圏などでとくにホストに寄与していると考えられる微生物を特定し、特異的に検出またはゲノム配列情報を取得することを目的とした場合には、本開示の技術が有利に適用できると考えられる。具体的な手順として、当該サンプルを実施例1に示した手順で処理し、ゲルカプセルから得られたゲノム増幅物の一部または全部をシーケンス解析することで、生菌に由来する配列情報を選択的に獲得し、その種類・個数から、生菌に限定した菌叢組成および総数を評価するとともに、ゲノム配列情報からその新規性や保有遺伝子の評価などを行う。
【0129】
(実施例4:多様な細胞の中から特定の特徴を有する細胞のデータを選択的に獲得したい場合)
腸内細菌などの動物共生微生物や海洋・土壌微生物の中で、当業者が注目する特定の1種以上の微生物のゲノムデータを獲得することが目的であった場合には、ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルまたはゲルカプセルより回収した増幅核酸に対し、事前に標的とする微生物の遺伝子断片の有無を事前確認しておくことで、不要な遺伝子配列データ取得とそれにかかるコストを削減することができる。測定対象例としては、同一系統微生物の比較解析(例えば、疾患等に関連する微生物系統群における亜種の解析)や特定の遺伝子(例えば、微生物の生産する二次代謝産物や酵素)を有する微生物の探索、あるいは多系統の生物種を含む中から細菌・アーキア・真菌・その他真核細胞等を個別に選択して解析することなどを目的とした場合が想定される。特に、ホストであるヒトの腸内環境や口腔、皮膚環境の評価を目的として、特定の代謝機能を担う腸内細菌、口腔細菌を遺伝子から特異的に検出することや、皮膚細菌における亜種の検出することなどが想定される。
【0130】
(実施例5:ホストDNAなどが多量に混在する場合)
解析試料が、糞便、唾液、喀痰や皮膚、口腔、鼻腔、耳、生殖器などの拭い液、手術洗浄液、あるいは組織抽出物や血液であり、当該試料中に含まれる微生物を解析対象とした場合には、試料中に多くのホスト動物由来の細胞、細胞内小器官、核酸が含まれる。これらの一部も、ゲルカプセル内部に封入されポリヌクレオチド増幅が実行されうる。このため、増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルに対し、事前に標的とする微生物の遺伝子断片あるいはホスト由来の遺伝子断片の有無を確認しておくことで、ホスト由来のポリヌクレオチドを含む不要な遺伝子配列データ取得を避け、それにかかるコストを削減することができる。測定例としては、ヒト由来試料からの微生物検出、例えば、血液や喀痰からの病原性微生物の探索や組織内部に共生する微生物解析などが想定される。
【0131】
あるいは、ホスト由来のポリヌクレオチドを積極的に解析することで、微生物叢の複合的な解析に応用することもできる。
【0132】
例えば、消化管に存在する腸内細菌叢と宿主動物は、宿主が消化管という細菌叢定着のための嫌気的環境を提供すると同時に、腸内細菌叢は宿主の健康に影響を及ぼすという共生関係を持つことが知られている。例えば、ホストの健康状態への影響として、大きなものは栄養素の産生と感染症に対する防御・免疫系の発達などが挙げられる。また、他の例を挙げると、炎症性腸疾患は、遺伝的素因に加え、腸内細菌を初めとする腸内環境因子の異常が相まって起こる疾患である。
【0133】
このような病態等については、ホスト自体の遺伝子情報等の解析と、腸内微生物叢、つまり細菌、ウイルス、真菌とを含めた統合的解析と、宿主生理機能への作用機序を明らかにすることが必要であり、本開示の技術はこれらに寄与し得る。また、腸内微生物叢と種々の疾患の病態との関わりや、代謝産物を中心とした機能解析も、ホスト自体の遺伝子情報等も含めて解析することでより深化した解析を行うことができる。
【0134】
また、腸管においては、腸内細菌と生体側は栄養素を競合して取り合う関係である一方、生体のために腸内細菌は栄養素の代謝や分解も併せて行う。腸内細菌に由来する代謝物がどのような働きを示すかについては、ホスト側の遺伝子解析、メタボローム解析や生化学的解析等のデータを取得し、腸内細菌の機能については細菌のゲノム配列情報から機能を類推し、生成する代謝物、メタボローム等種々のデータを取得する。ホスト・腸内細菌双方のデータを複合的に解析することで、両者の関係を知ることができる。
【0135】
(実施例6:遺伝子変異の単一細胞単位での評価)
ゲノム配列上の変異多様性を単一細胞単位で評価し、微生物叢中の各微生物のゲノム不均質性や変異系統の発生や進展の追跡を実行することができる。増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルに対し、標的とする細胞の標的遺伝子変異箇所を選択的に増幅・検出することで、解析対象とする遺伝子配列データのみを特異的に取得し、それにかかるコストを削減することができる。遺伝子変異微生物やプラスミド感染の検出などに利用できる。
【0136】
(実施例7:特定生物種の保存性評価)
薬剤、農薬、食品などで、特定の生物種を包含することを立証する、あるいは棄却することが目的であった際に、本開示技術を用いることで特定生物を増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルから検出・選抜することで、その含有率を示すことができる。また得られた遺伝情報を詳細に解析することで、標品とのゲノムレベルでの一致度、保存性などを評価することができる。微生物製剤等の品質保証などに利用が想定される。
【0137】
具体的な手順としては、標的遺伝子を対象とした(1)BLAST、hmmerを用いた単一生物由来遺伝子配列の相同性検索、もしくは(2)BWA、bowtie2を用いた単一生物由来シーケンスデータのマッピングによって、単一生物由来遺伝子配列と標的遺伝子配列の差異を検出し、遺伝子変異を特定する。
【0138】
(実施例8:特定生物種の検出)
解析試料が、糞便、唾液、喀痰や皮膚、口腔、鼻腔、耳、生殖器などの拭い液、手術洗浄液、あるいは組織抽出物や血液などであり、特定の1種以上の微生物の存在を検知し、薬剤奏効性、薬剤耐性を判定することや食品の代謝能力を評価することがある。本開示技術を用いることで特定生物を増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルから検出・選抜することで、その含有率を示すことができる。また得られた遺伝情報を詳細に解析することで、ゲノムレベルでの機能推定と保存性などを評価することができる。
【0139】
例えば、マウス腸内微生物の単一細胞由来配列データを得た場合、食物繊維イヌリンを代謝する遺伝子あるいは微生物Bacteroides種を特定する遺伝子マーカーを元に、単一生物由来遺伝子配列の相同性検索を行うことで、当該食品イヌリンの分解を担う微生物および遺伝子群を特定し、既知遺伝子の相同性、アミノ酸配列に基づく立体構造予測からその機能を推定することができた。また、複数の腸内微生物の単一細胞由来配列データ中での当該微生物種の占める比率(含有率)までを評価することができた。
【0140】
(実施例9:土壌細菌の評価)
土壌や海水を解析試料の対象とした場合には、本開示の技術を用いて土壌や海水に生息する種々の特定生物を、増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルから検出・選抜することで、その生息区域の特定や生息量を示すことができる。また得られた遺伝情報を詳細に解析することで、当該土壌や海水に適した栽培品種や畜産または養殖品種などをゲノムレベルで評価することができる。さらに土壌細菌または海洋細菌を用いた無農薬製法などにも利用が想定される。
【0141】
具体的には、10gの土壌を容量50mLのチューブ(2342-050, Iwaki)に採取し(n=3)、リン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Dulbecco’sPhosphate-Buffered Saline, 14190-144, Thermo Fisher Scientific)を全量が40mLとなるまで加えて十分に懸濁した。懸濁後のチューブを氷上にて5分間静置した後、上清を新しい容量50mLのチューブに移した。上清を5μm径のフィルター(SMWP04700,Sigma-Aldrich)を用いて濾過した後、10,000×gで5分間遠心分離し(75004263, Thermo Fisher Scientific)、上清を除去した。ペレットを10mLのPBS中に再度懸濁し、1.5mLのチューブ(MCT-150-C,Axygen)に1mLずつ分注した後、10,000×gで5分間遠心分離することで土壌細菌を集菌した。菌体のペレットを1本の1.5mLのチューブにまとめ、PBSを用いて2回遠心分離により洗浄した後、PBS中に懸濁することで土壌細菌の細胞懸濁液を取得した。調製した細胞懸濁液中の細胞濃度を測定し(顕微鏡:CKX41,OLYMPUS、バクテリア計算盤A161,2-5679-01, アズワン)、終濃度1.5%になるように超低融点アガロース(A5030-10G,Sigma-Aldrich)を加えることで、ゲルカプセル作製に用いる土壌細菌懸濁液を調製した(細胞終濃度:1.5×103cells/μL)。続いて、実施例1または2に記載した手法と同様の手順で解析を進めて評価した。
【0142】
(実施例10:水圏微生物組成の解析)
実験は、4Lの海水または淡水を滅菌済のポリタンクに回収し、5μm径のフィルター(SMWP04700, Sigma-Aldrich)を用いて濾過したのち、0.22μm径のフィルター(GSWP04700,Sigma-Aldrich)で濾過することによって細菌画分をフィルター上にトラップした。0.22μm径のフィルターを、10mLのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Dulbecco’sPhosphate-Buffered Saline, 14190-144, Thermo Fisher Scientific)を含んだ容量25mLのチューブ(2362-025,Iwaki)内に入れ、十分に懸濁した。10mLの細菌懸濁液を1.5mLのチューブ(MCT-150-C, Axygen)に1mLずつ分注した後、10,000×gで5分間遠心分離することで海水または淡水由来の細菌を集菌した。菌体のペレットを1本の1.5mLのチューブにまとめ、PBSを用いて2回遠心分離により洗浄した後、PBS中に懸濁することで海水または淡水由来の細菌の細胞懸濁液を取得した。調製した細胞懸濁液中の細胞濃度を測定し(顕微鏡:CKX41,OLYMPUS、バクテリア計算盤A161,2-5679-01, アズワン)、終濃度1.5%になるように超低融点アガロース(A5030-10G, Sigma-Aldrich)を加えることで、ゲルカプセル作製に用いる海水または淡水由来細菌懸濁液を調製した(細胞終濃度:1.5×103cells/μL)。続いて、実施例1または2に記載した手法と同様の手順で解析を進めて評価した。
本開示は、生物学的研究、医療、環境、ヘルスケアなどの分野において利用可能である。薬剤、農薬、食品などで、特定の生物種が生存状態で包含されることを立証する、あるいは棄却することが目的であった際に、本開示の技術を用いることで特定生物を増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルから検出・選抜することで、その含有率を示すことができる。また得られた遺伝情報を詳細に解析することで、標品とのゲノムレベルでの一致度、保存性などを評価することができる。微生物製剤等の品質保証などに利用が想定される。本願は、日本国特許庁に2019年4月26日に出願された特許出願2019-85836および同年11月6日に出願された特許出願2019-201525に対して優先権主張をするものであり、同出願の内容自体は具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。