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特開2025-27584クランプ装置、該クランプ装置の製造方法、及びステアリング装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027584
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】クランプ装置、該クランプ装置の製造方法、及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/26 20060101AFI20250220BHJP
   F16D 1/06 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
F16D3/26 X
F16D1/06 210
F16D1/06 244
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132467
(22)【出願日】2023-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 渉
(57)【要約】
【課題】ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和できる、クランプ装置を提供する。
【解決手段】クランプ装置は、筒形状を有する基部20と、1対のフランジ部21a、21bとを備える。基部20は、軸方向に伸長した挿通孔と、円周方向1箇所に配置され、かつ、軸方向に伸長したスリット22と、径方向に関してスリット22の反対側に配置され、かつ、径方向に貫通した円形の開口形状を有する貫通孔26とを有する。スリット22は、軸方向一方側の端部に配置された円形の開口形状を有する幅広孔部32と、幅広孔部32の軸方向他方側に隣接して配置され、かつ、基部20の軸方向他方側の端面に開口した幅狭部33とからなる。幅広孔部32は、幅狭部33よりも大きな幅寸法を有し、貫通孔26と同軸に配置される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状を有する基部と、1対のフランジ部とを備え、
前記基部は、軸方向に伸長した挿通孔と、円周方向1箇所に配置され、かつ、前記軸方向に伸長したスリットと、径方向に関して前記スリットの反対側に配置され、かつ、前記径方向に貫通した円形の開口形状を有する貫通孔と、を有し、
前記スリットは、前記軸方向一方側の端部に配置された円形の開口形状を有する幅広孔部と、前記幅広孔部の前記軸方向他方側に隣接して配置され、かつ、前記基部の前記軸方向他方側の端面に開口した幅狭部とからなり、
前記幅広孔部は、前記幅狭部よりも大きな幅寸法を有し、前記貫通孔と同軸に配置されており、
前記1対のフランジ部は、同軸上に取付孔を有し、前記円周方向に関して前記幅狭部の両側に配置されている、
クランプ装置。
【請求項2】
前記貫通孔の内径は、前記幅広孔部の内径に等しい、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項3】
前記貫通孔の内径は、前記幅広孔部の内径と異なる、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項4】
前記貫通孔及び前記幅広孔部は、円筒孔である、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項5】
前記貫通孔及び前記幅広孔部は、テーパ孔である、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項6】
前記挿通孔は、非円形の断面形状を有する、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項7】
前記基部は、内周面に雌セレーション歯を有する、請求項6に記載したクランプ装置。
【請求項8】
前記1対のフランジ部は、前記基部と一体である、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項9】
他の部材に対してトルク伝達可能に接続される連結部を備える、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項10】
前記連結部は、1対のアーム部により構成される、請求項9に記載したクランプ装置。
【請求項11】
前記1対のアーム部のうち一方のアーム部は、前記円周方向に関する位相が前記スリットと一致する位置に配置されており、前記1対のアーム部のうち他方のアーム部は、前記円周方向に関する位相が前記貫通孔と一致する位置に配置されている、請求項10に記載したクランプ装置。
【請求項12】
請求項1~11のうちのいずれか1項に記載したクランプ装置の製造方法であって、
前記貫通孔及び前記幅広孔部を、共通の穴あけ工具を用いて一度に加工する、クランプ装置の製造方法。
【請求項13】
ステアリングホイールの操作により回転しかつ同軸上に配置されていない、2つの回転軸と、
前記2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続する自在継手と、を備え、
前記自在継手は、1対のヨークと、十字軸とを有し、
前記1対のヨークのうち少なくとも一方のヨークが、請求項10~11のうちのいずれか1項に記載したクランプ装置である、
ステアリング装置。
【請求項14】
ステアリングホイールの操作により回転しかつ同軸上に配置された、2つの回転軸と、
前記2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続する、連結装置と、を備え、
前記連結装置が、請求項1~9のうちのいずれか1項に記載したクランプ装置である、
ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クランプ装置、該クランプ装置の製造方法、及び該クランプ装置を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のステアリング装置は、操舵輪に舵角を付与するために使用される。
【0003】
ステアリング装置では、ステアリングホイールの回転は、ステアリングシャフト、中間シャフトなどを介して、ステアリングギヤユニットのピニオン軸に伝達される。ピニオン軸の回転は、ステアリングギヤユニットのラック軸の直線運動に変換される。これにより、操舵輪には、ステアリングホイールの回転操作量に応じた舵角が付与される。
【0004】
ステアリング装置では、ステアリングシャフト、中間シャフトなどの同軸上にない2つの回転軸の端部同士は、自在継手を介してトルク伝達可能に接続されている。
【0005】
自在継手は、1対のヨークと、十字軸とを備える。
【0006】
自在継手を構成するヨークは、クランプ装置の一種であり、筒形状を有する基部と、1対のフランジ部と、十字軸に接続される1対のアーム部とを有する。
【0007】
基部は、円周方向1箇所に軸方向に伸長したスリットを有し、縮径可能に構成されている。基部の内側には、ステアリングシャフト、ピニオン軸などの回転軸の端部が挿入される。1対のフランジ部は、円周方向に関してスリットの両側に備えられている。1対のフランジ部は、同軸上に配置された取付孔を有する。ヨークは、1対のフランジ部の一方のフランジ部に備えられた一方の取付孔を挿通したボルトを、他方のフランジ部に備えられた他方の取付孔に螺合しさらに締め付けることで、基部により回転軸を締め付け、回転軸に対して固定される。
【0008】
ヨークは、基部に備えられたスリットの構造の相違により、いわゆるオープンスリットタイプのヨークと、いわゆるクローズドスリットタイプのヨークとに大別される。
【0009】
クローズドスリットタイプのヨークは、オープンスリットタイプのヨークに比べて、強度を確保しやすいため、高トルクを伝達する用途に好ましく使用される。
【0010】
図27は、オープンスリットタイプのヨーク100aの従来構造の1例を示している。図28は、クローズドスリットタイプのヨーク100bの従来構造の1例を示している。
【0011】
オープンスリットタイプのヨーク100aは、基部101aの円周方向1箇所に、その軸方向両側の端部が開口端であるスリット102aを有する。クローズドスリットタイプのヨーク100bは、基部101bの円周方向1箇所に、その軸方向一方側の端部が閉鎖端であり、その軸方向他方側の端部が開口端であるスリット102bを有する。
【0012】
クローズドスリットタイプのヨーク100bは、オープンスリットタイプのヨーク100aに比べて、たわみ剛性が高く、変形抵抗が高くなりやすい。したがって、図示しないボルトを同じ大きさのトルクで締め付けた場合、クローズドスリットタイプのヨーク100bの締め付け力は、オープンスリットタイプのヨーク100aの締め付け力よりも小さくなりやすい。
【0013】
クローズドスリットタイプのヨーク100bを、高トルクが伝達されるコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置に組み込んだ場合には、締め付け力の不足に起因して、回転軸の端部が、基部101bに対して微細に摺動する可能性がある。この結果、基部101bの内周面に備えられた雌セレーション歯、及び/又は、回転軸の外周面に備えられた雄セレーション歯などに、フレッチング摩耗、フレッチング腐食などの損傷が進行する可能性がある。
【0014】
また、クローズドスリットタイプのヨーク100bは、ボルトの締め付け時に、基部101bのうちでスリット102bの閉鎖端の近傍に、応力が集中することで、亀裂などの損傷が生じる可能性もある。
【0015】
このような事情に鑑み、クローズドスリットタイプのヨークを対象として、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減する技術、及び、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和する技術が考えられている。
【0016】
特開2009-299706号公報には、スリットの閉鎖端を部分円筒面により構成することで、ヨークに発生する応力を緩和する技術が記載されている。
【0017】
特開2018-128077号公報には、基部のうちで、径方向に関してスリットの反対側に位置する部分に、該スリットと同形状の補助スリットを形成することで、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009-299706号公報
【特許文献2】特開2018-128077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特開2009-299706号公報に記載された従来構造のヨークは、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和することはできるが、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減することはできない。
【0020】
特開2018-128077号公報に記載された従来構造のヨークは、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減することはできるが、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和することはできない。
【0021】
特開2018-128077号公報に記載された従来構造のヨークは、基部の径方向反対側2箇所位置にスリット及び補助スリットを備えており、これらスリット及び補助スリットは、基部の軸方向端面に開口している。このため、基部のうちでスリット及び補助スリットが形成された部分の剛性が不足しやすい。また、ボルトの締め付け時においても、スリット及び補助スリットのそれぞれの近傍部分では、基部の内周面と軸部の外周面との間に隙間が残りやすい。したがって、回転軸の端部がボルトの中心軸回りに傾きやすく、スリット及び補助スリットのそれぞれの近傍部分に存在する雌セレーション歯などに、フレッチング摩耗やフレッチング腐食などの損傷が発生しやすくなる。
【0022】
上述したような問題は、同軸上に配置されていない2つの回転軸同士を接続する自在継手を構成するヨークに限らず、同軸上に配置された2つの回転軸同士を接続する連結装置などの、ヨーク以外のクランプ装置にも、同様に生じ得る問題である。
【0023】
本開示は、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和できる、クランプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本開示の一態様にかかるクランプ装置は、筒形状を有する基部と、1対のフランジ部とを備える。
【0025】
前記基部は、軸方向に伸長した挿通孔と、円周方向1箇所に配置され、かつ、前記軸方向に伸長したスリットと、径方向に関して前記スリットの反対側に配置され、かつ、前記径方向に貫通した円形の開口形状を有する貫通孔と、を有する。
【0026】
前記スリットは、前記軸方向一方側の端部に配置された円形の開口形状を有する幅広孔部と、前記幅広孔部の前記軸方向他方側に隣接して配置され、かつ、前記基部の前記軸方向他方側の端面に開口した幅狭部とからなる。
【0027】
前記幅広孔部は、前記幅狭部よりも大きな幅寸法を有し、前記貫通孔と同軸に配置されている。
【0028】
前記1対のフランジ部は、同軸上に取付孔を有し、前記円周方向に関して前記幅狭部の両側に配置されている。
【0029】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記貫通孔の内径は、前記幅広孔部の内径に等しい。
【0030】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記貫通孔の内径は、前記幅広孔部の内径と異なる。
【0031】
この場合には、前記貫通孔の内径は、前記幅広孔部の内径よりも大きくすることができる。あるいは、前記貫通孔の内径は、前記幅広孔部の内径よりも小さくすることもできる。
【0032】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記貫通孔及び前記幅広孔部は、円筒孔である。
【0033】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記貫通孔及び前記幅広孔部は、テーパ孔である。
【0034】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記挿通孔は、非円形の断面形状を有する。
【0035】
この場合には、前記基部は、内周面に雌セレーション歯を有することができる。あるいは、前記基部は、内周面に互いに平行な2つの平面部を有することもできる。あるいは、前記基部は、内周面に3つ以上の平面部を有することもできる。
【0036】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記1対のフランジ部は、前記基部と一体である。
【0037】
あるいは、前記1対のフランジ部は、前記基部と別体であることもできる。
【0038】
本開示の一態様にかかるクランプ装置は、他の部材に対してトルク伝達可能に接続される連結部をさらに備える。
【0039】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記連結部は、前記基部の前記軸方向一方側に隣接して備えられた、1対のアーム部からなる。この場合には、該クランプ装置は、自在継手を構成するヨークからなる。
【0040】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記1対のアーム部のうち一方のアーム部は、前記円周方向に関する位相が前記スリットと一致する位置に配置され、前記1対のアーム部のうち他方のアーム部は、前記円周方向に関する位相が前記貫通孔と一致する位置に配置される。
【0041】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記連結部は、前記基部の前記軸方向一方側に隣接して前記基部と同軸に配置された、外周面に雄セレーション歯もしくは雄スプライン歯を有する雄軸部、内周面に雌セレーション歯もしくは雌スプライン歯を有する雌軸部、あるいは、キー係合部により構成されることもできる。この場合には、該クランプ装置は、前記連結部を相手部材の端部に相対回転不能に嵌合させることで、同軸上に配置された2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続することができる。
【0042】
本開示の一態様にかかるクランプ装置の製造方法では、前記貫通孔及び前記幅広孔部を、共通の穴あけ工具を用いて一度に加工する。すなわち、前記貫通孔及び前記幅広孔部を同時加工により形成する。
【0043】
本開示の一態様にかかるステアリング装置は、ステアリングホイールの操作により回転しかつ同軸上に配置されていない2つの回転軸と、前記2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続する自在継手とを備える。
【0044】
前記自在継手は、1対のヨークと、十字軸とを有する。
【0045】
前記1対のヨークのうち少なくとも一方のヨークは、前記1対のアーム部を有する前記一態様にかかるクランプ装置である。
【0046】
本開示の一態様にかかるステアリング装置は、ステアリングホイールの操作により回転しかつ同軸上に配置された2つの回転軸と、前記2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続する、連結装置とを備える。
【0047】
前記連結装置は、前記連結部を有しない態様にかかるクランプ装置、あるいは、前記1対のアーム部以外の前記連結部を有する前記態様にかかるクランプ装置である。
【発明の効果】
【0048】
本開示の一態様にかかるクランプ装置によれば、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、本開示の実施の形態の第1例のステアリング装置を示す、部分切断側面図である。
図2図2は、図1のA-A線断面に相当する図である。
図3図3は、第1例に関して、中間シャフトとピニオン軸とを接続する自在継手の側面図である。
図4図4は、第1例のクランプ装置である第1ヨークを示す図である。
図5図5は、第1例の第1ヨークを、図4に示した状態から中心軸回りに180度回転させて示す図である。
図6図6は、第1例の第1ヨークを、図4の上側から見た図である。
図7図7は、第1例の第1ヨークを、図4の下側から見た図である。
図8図8は、第1例の第1ヨークを、図4の軸方向他方側から見た端面図である。
図9図9は、第1例の第1ヨークを、図4の軸方向一方側から見た端面図である。
図10図10は、図7のB-B線断面図である。
図11図11は、第1例の第1ヨークを、図4の軸方向他方側から見た斜視図である。
図12図12は、第1例の第1ヨークを、図11に示した状態から中心軸回りに180度回転させて示す斜視図である。
図13図13は、第1例の第1ヨークを、図4の軸方向一方側から見た斜視図である。
図14図14は、第1例の第1ヨークを、図13に示した状態から中心軸回りに180度回転させて示す斜視図である。
図15図15は、第1ヨークに共通の穴あけ工具を用いて貫通孔及び拡大孔部を形成する工程を示す模式図である。
図16図16は、本開示の実施の形態の第2例についての、図10に相当する図である。
図17図17は、本開示の実施の形態の第2例についての、図15に相当する図である。
図18図18は、本開示の実施の形態の第3例についての、図10に相当する図である。
図19図19は、本開示の実施の形態の第3例についての、図15に相当する図である。
図20図20は、本開示の実施の形態の第4例についての、図4に相当する図である。
図21図21は、第4例についての、図8に相当する図である。
図22図22は、本開示の実施の形態の第5例のステアリング装置を構成する中間シャフトを示す、側面図である。
図23図23は、第5例についての、図4に相当する図である。
図24図24は、第5例についての、図7に相当する図である。
図25図25は、本開示の参考例についての、図6に相当する図である。
図26図26は、本開示の参考例についての、図11に相当する図である。
図27図27は、オープンスリットタイプのヨークの従来構造の1例を示す、斜視図である。
図28図28は、クローズドスリットタイプのヨークの従来構造の1例を示す、斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
[第1例]
本開示の実施の形態の第1例について、図1図15を用いて説明する。
【0051】
本例は、本開示の一態様のクランプ装置を、自動車用のステアリング装置に組み込まれた自在継手を構成するヨークに適用した例である。
【0052】
[ステアリング装置の概要]
ステアリング装置1は、図1に全体構成を示すように、コラムアシスト式の電動パワーステアリング装置である。
【0053】
ステアリング装置1は、ステアリングホイール2と、ステアリングシャフト3と、ステアリングコラム4と、2つの自在継手5a、5bと、中間シャフト6と、ステアリングギヤユニット7と、1対のタイロッド8と、電動アシスト装置9とを備える。
【0054】
ステアリングシャフト3は、車体に支持されたステアリングコラム4の内側に、回転自在に支持されている。ステアリングシャフト3の後側の端部には、運転者が操作するステアリングホイール2が固定されている。ステアリングシャフト3の前側の端部は、ステアリングコラム4に固定されたギヤハウジング10の内側に挿入されており、トーションバー11を介して、出力シャフト12に連結されている。
【0055】
前後方向とは、ステアリング装置が組み付けられる車両の前後方向をいう。
【0056】
出力シャフト12の回転は、2つの自在継手5a、5b及び中間シャフト6を介して、ステアリングギヤユニット7を構成するピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、該ピニオン軸13と噛合したラック軸の直線運動に変換され、1対のタイロッド8を押し引きする。これにより、操舵輪にステアリングホイール2の操作量に応じた舵角が付与される。
【0057】
電動アシスト装置9は、図2に示すように、トルクセンサ14と、図示しないECUと、電動モータ15と、ウォーム減速機16とを備える。
【0058】
トルクセンサ14は、出力シャフト12の周囲に配置され、ステアリングシャフト3に対する出力シャフト12の相対的なねじれ方向及びねじれ量を検出する。ECUは、トルクセンサ14の検出信号、及び、図示しない車速センサにより測定される車速信号などに基づいて、補助トルクを決定する。電動モータ15は、ギヤハウジング10に固定されており、ECUによって通電方向及び通電量が制御される。ウォーム減速機16は、電動モータ15の回転力を減速して出力シャフト12に伝達する。電動アシスト装置9は、出力シャフト12に補助トルクを付与し、運転者がステアリングホイール2を操作するのに必要な操舵力を軽減する。
【0059】
中間シャフト6及び出力シャフト12は、ステアリングホイール2の操作によって回転し、かつ、同軸上に配置されていない2つの回転軸である。自在継手5aは、中間シャフト6及び出力シャフト12のそれぞれの端部同士を、トルク伝達可能に接続する。
【0060】
中間シャフト6及びピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操作によって回転し、かつ、同軸上に配置されていない2つの回転軸である。自在継手5bは、中間シャフト6及びピニオン軸13のそれぞれの端部同士を、トルク伝達可能に接続する。
【0061】
図3に示すように、自在継手5bは、ピニオン軸13の端部に固定されたクランプ装置に相当する第1ヨーク17と、中間シャフト6の端部に固定された第2ヨーク18と、十字軸19とにより構成される。本例では、自在継手5bを構成する第1ヨーク17及び第2ヨーク18のうちの第1ヨーク17に、本開示の一態様のクランプ装置が適用されている。
【0062】
なお、本開示の一態様のクランプ装置は、第1ヨーク17に代えて第2ヨーク18に適用することもできるし、第1ヨーク17及び第2ヨーク18の両方に適用することもできる。追加的あるいは代替的に、本開示の一態様のクランプ装置は、自在継手5aを構成する1対のヨークのうちの少なくとも一方のヨークに適用することもできる。これらの場合においても、第1ヨークと同様の構成が採られるため、その説明を本明細書では省略する。
【0063】
以下、第1ヨーク17について、図4図15を参照して説明する。
【0064】
[ヨークの構造]
第1ヨーク17は、いわゆるクローズドスリットタイプのヨークであり、筒形状を有する基部20と、1対のフランジ部21a、21bとを備える。
【0065】
基部20は、円周方向1箇所に、軸方向に伸長したスリット22を有し、縮径可能に構成されている。1対のフランジ部21a、21bは、基部20の円周方向に関してスリット22の両側に配置されている。第1ヨーク17は、一方のフランジ部21aに備えられた取付孔23aを挿通したボルト24(図3参照)を、他方のフランジ部21bに備えられた取付孔23bに螺合しさらに締め付けることで、基部20をピニオン軸13の端部に締め付け、ピニオン軸13に対して固定される。
【0066】
第1ヨーク17に関して、軸方向、円周方向及び径方向とは、特に断らない限り、基部20に関する軸方向、円周方向及び径方向をいう。また、基部20の軸方向に直交する方向である、図4及び図5の表裏方向、図6及び図7の上下方向、並びに、図8及び図9の左右方向を、第1方向という。基部20の軸方向及び第1方向のそれぞれに直交する方向である、図4及び図5の上下方向、図6及び図7の表裏方向、並びに、図8及び図9の上下方向を、第2方向という。
【0067】
スリットとは、長さ寸法に比べて幅寸法の小さい、細長い隙間をいう。
【0068】
第1ヨーク17は、金属製の素材に、たとえば、鍛造加工及び切削加工などを施して造られる。
【0069】
本例では、基部20の筒形状は、具体的には略円筒形状である。
【0070】
基部20は、挿通孔25と、スリット22と、貫通孔26とを有する。
【0071】
挿通孔25は、基部20を軸方向に伸長している。本例では、挿通孔25は、基部20を軸方向に貫通する。具体的には、挿通孔25は、基部20の径方向中央部を軸方向に貫通する。すなわち、挿通孔25の中心軸O25は、基部20の中心軸に一致する。挿通孔25には、ピニオン軸13の軸方向一方側の端部が挿入される。挿通孔は、基部を軸方向に貫通した貫通孔に限らず、基部を軸方向に貫通しない有底孔に構成されることもできる。
【0072】
挿通孔25の断面形状は、クランプ装置が適用される用途、特に、トルクの伝達の有無及び伝達するトルクの大きさに応じて、任意に決定される。トルク伝達を行う用途では、挿通孔25は、非円形状の断面形状を有する。非円形状には、歯車形状、長円形状(二面幅形状)、楕円形状、多角形形状などがある。
【0073】
本例では、挿通孔25は、歯車形状の断面形状を有する。より具体的には、挿通孔25は、基部20の内周面に雌セレーション歯27を円周方向に配置してなるセレーション孔により構成される。雌セレーション歯27は、ピニオン軸13の端部外周面に備えられた雄セレーション歯28と相対回転不能に係合する。
【0074】
基部20は、内周面の円周方向一部に、雌セレーション歯27の形成されていない欠歯部29を有する。欠歯部29は、基部20の内周面のうちで、スリット22を円周方向に跨ぐ範囲に設けられている。欠歯部29は、挿通孔25の中心軸O25を中心とする部分円筒面状に構成されている。欠歯部29の内径は、雌セレーション歯27の歯底円直径と同じ大きさを有する。
【0075】
挿通孔25の中心軸O25を中心とする欠歯部29の中心角は、特に限定されるものではないが、本例では、挿通孔25の中心軸O25を中心とする欠歯部29の中心角は、およそ80度である。
【0076】
雌セレーション歯27及び欠歯部29は、基部20の内周面の軸方向一方側の端部から軸方向他方側の端部にわたる範囲に形成されている。
【0077】
雌セレーション歯27及び欠歯部29は、たとえば、ブローチ工具を用いたブローチ加工により形成される。
【0078】
スリット22は、基部20の円周方向1箇所に配置され、かつ、軸方向に伸長している。スリット22の長さ方向は、軸方向に一致し、スリット22の幅方向は、第1方向に一致し、スリット22の深さ方向は、第2方向に一致する。
【0079】
スリット22は、基部20の外周面及び内周面に開口している。
【0080】
スリット22は、基部20の軸方向他方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に形成されている。
【0081】
スリット22の軸方向一方側の端部は、軸方向に閉じた閉鎖端30であり、スリット22の軸方向他方側の端部は、軸方向に開口した開口端31である。すなわち、スリット22は、基部20の軸方向一方側の端面には開口しないが、基部20の軸方向他方側の端面には開口している。
【0082】
スリット22は、幅広孔部32と、幅狭部33とからなる。
【0083】
幅広孔部32と幅狭部33とは、幅寸法が互いに異なり、軸方向に連通している。
【0084】
幅広孔部32は、スリット22の軸方向一方側の端部に配置されており、基部20の軸方向中間部に位置している。
【0085】
幅広孔部32は、第2方向から見て、円形の開口形状を有している。このため、スリット22の閉鎖端30は、凹曲面により構成されている。幅広孔部32の中心軸O32は、第2方向を向いており、挿通孔25の中心軸O25に直交する。
【0086】
本例では、幅広孔部32は、第2方向にわたり内径d32が変化しない円筒孔である。このため、スリット22の閉鎖端30は、部分円筒面により構成される。
【0087】
ただし、本開示を実施する場合には、幅広孔部は、第2方向に関して内径が変化するテーパ孔としても良い。この場合、スリットの閉鎖端は、テーパ面により構成される。
【0088】
幅広孔部32は、幅狭部33の幅寸法W33よりも大きな幅寸法W32を有する(W32>W33)。
【0089】
幅狭部33の幅寸法W33に対する幅広孔部32の幅寸法W32の比(W32/W33)は、特に限定されるものではないが、たとえば1.5以上6以下とすることができ、好ましくは3以上5以下とすることができる。本例では、幅狭部33の幅寸法W33に対する幅広孔部32の幅寸法W32の比(W33/W32)は、およそ4.5である。
【0090】
幅広孔部32は、たとえば、ドリルなどの穴あけ工具を用いた切削加工により形成される。
【0091】
幅狭部33は、幅広孔部32の軸方向他方側に隣接して配置されており、スリット22の軸方向他方側の端部から軸方向一方側部分にわたる範囲に備えられている。
【0092】
幅狭部33は、基部20の軸方向他方側の端面に開口している。このため、幅狭部33の軸方向他方側の端部は、軸方向に開口した開口端31を構成する。
【0093】
幅狭部33は、軸方向に直線状に伸長している。幅狭部33の中心軸O33は、挿通孔25の中心軸O25と略平行に配置されている。
【0094】
幅狭部33の中心軸O33は、幅広孔部32の中心軸O32に対して直交する。このため、スリット22は、挿通孔25の中心軸O25及び幅狭部33の中心軸O33をそれぞれ含む仮想平面βに関して、対称形状を有する。
【0095】
幅狭部33は、第2方向から見て、軸方向に長い長方形の開口形状を有している。
【0096】
幅狭部33の幅寸法W33は、ボルト24を締め付ける以前の状態で、幅狭部33の全長にわたり一定である。ただし、幅狭部33の幅寸法は、幅狭部33の軸方向位置に応じて異ならせることもできる。
【0097】
幅狭部33は、たとえば、回転切削工具であるカッターを用いた切削加工により形成される。
【0098】
貫通孔26は、基部20のうちで、径方向に関してスリット22の反対側に配置されており、かつ、基部20を径方向に貫通している。
【0099】
本例では、貫通孔26は、円周方向に関する位相がスリット22と180度異なる位置に配置されている。
【0100】
貫通孔26は、第2方向から見て、円形の開口形状を有している。貫通孔26の中心軸O26は、第2方向を向いており、挿通孔25の中心軸O25に直交する。
【0101】
本例では、貫通孔26は、第2方向にわたりの内径d26が変化しない円筒孔である。
【0102】
ただし、本開示を実施する場合には、貫通孔は、第2方向に関して内径が変化するテーパ孔としてもよい。
【0103】
本例では、貫通孔26の内径d26は、幅広孔部32の内径d32に等しい(d26=d32)。
【0104】
幅広孔部32は、貫通孔26と同軸に配置されている。すなわち、貫通孔26の中心軸O26と幅広孔部32の中心軸O32とは、一致している。
【0105】
貫通孔26は、たとえば、ドリルなどの穴あけ工具を用いた切削加工により形成される。
【0106】
本例では、貫通孔26の内径d26と幅広孔部32の内径d32とが等しいため、貫通孔26及び幅広孔部32を、共通の穴あけ工具を使用して加工できる。
【0107】
貫通孔26及び幅広孔部32を共通の穴あけ工具を使用して加工する場合には、貫通孔26及び幅広孔部32を、共通の穴あけ工具を使用して一度に加工(ワンパス加工)することができる。すなわち、共通の穴あけ工具を1度だけ第2方向に往復移動させることで、貫通孔26及び幅広孔部32を同時加工により形成できる。
【0108】
具体的には、穴あけ工具34の中心軸O34を、前記仮想平面β上に配置し、かつ、第2方向に向ける。そして、図15に示すように、穴あけ工具34を回転させながら矢印X方向に移動させて、貫通孔26を基部20の外周面側から加工した後、幅広孔部32を基部20の内周面側から加工する。その後、穴あけ工具34を、矢印X方向とは反対方向に退避させる。あるいは、穴あけ工具34を回転させながら矢印Y方向に移動させて、幅広孔部32を基部20の外周面側から加工した後、貫通孔26を基部20の内周面側から加工する。その後、穴あけ工具34を、矢印Y方向とは反対方向に退避させる。いずれの場合にも、穴あけ工具34を第2方向に1度だけ往復移動させることで、貫通孔26及び幅広孔部32を加工する。
【0109】
ただし、本開示を実施する場合には、貫通孔と幅広孔部とを、異なる穴あけ工具を使用して別々に加工することもできるし、共通の工具を使用して別々に加工することもできる。
【0110】
1対のフランジ部21a、21bは、円周方向に関してスリット22の幅狭部33の両側に配置されている。このため、1対のフランジ部21a、21bは、幅広孔部32よりも軸方向他方側に配置されている。
【0111】
1対のフランジ部21a、21bは、基部20の軸方向他方側の端部外周面に備えられている。1対のフランジ部21a、21bは、基部20の外周面のうちで円周方向に関してスリット22の両側に位置する部分から、第2方向にそれぞれ張り出している。1対のフランジ部21a、21bは、それぞれ板形状を有する。
【0112】
本例では、1対のフランジ部21a、21bは、第1方向から見て、略オーバル状の側面形状を有している。
【0113】
本例では、1対のフランジ部21a、21bは、基部20と一体である。
【0114】
1対のフランジ部21a、21bは、第1方向に離隔しており、略平行に配置されている。第1方向に関して1対のフランジ部21a、21bの内側面同士の間には、隙間35が備えられている。隙間35は、スリット22の幅狭部33と第2方向に連続している。隙間35は、ボルト24を締め付ける以前の状態で、幅狭部33の幅寸法と同じ大きさを有する。隙間35は、回転切削工具であるカッターを用いて、幅狭部33と同時に切削加工により形成することができる。
【0115】
第1方向に関する1対のフランジ部21a、21bの外側面同士の寸法は、ボルト24を締め付ける以前の状態で、基部20の外径とほぼ同じである。
【0116】
1対のフランジ部21a、21bは、同軸上に取付孔23a、23bを有する。取付孔23a、23bの中心軸O23は、第1方向を向いている。取付孔23a、23bの中心軸O23は、挿通孔25の中心軸O25に対し、ねじれの位置に配置されている。
【0117】
本例では、1対の取付孔23a、23bのうちの一方の取付孔23aは、円筒孔であるボルト挿通孔であり、1対の取付孔23a、23bのうちの他方の取付孔23bは、ねじ穴である。
【0118】
ただし、本開示を実施する場合には、1対の取付孔を円筒孔とすることもできる。この場合、1対の取付孔を挿通したボルトの先端部にナットを螺合することにより、基部が縮径される。
【0119】
第1ヨーク17は、他の部材に対してトルク伝達可能に接続するための連結部36をさらに備える。
【0120】
本例では、連結部36は、1対のアーム部37a、37bにより構成される。1対のアーム部37a、37bは、軸方向にそれぞれ伸長し、かつ、互いに離隔して配置されている。
【0121】
1対のアーム部37a、37bは、それぞれ略板状に構成されている。1対のアーム部37a、37bは、基部20の軸方向一方側に隣接して配置されている。1対のアーム部37a、37bの基端部は、基部20の軸方向一方側の端部のうち、基部20の径方向反対側となる2箇所位置に接続されている。
【0122】
図示の例では、1対のアーム部37a、37bは、第2方向に離隔して配置されている。換言すれば、1対のアーム部37a、37bは、1対のフランジ部21a、21bに対して円周方向に関する位相を90度ずらした位置に配置されている。
【0123】
ただし、本開示を実施する場合には、1対のアーム部は、第1方向に離隔して配置されてもよいし、その他の方向に離隔して配置されてもよい。
【0124】
1対のアーム部37a、37bのうち、一方のアーム部37aの円周方向に関する位相は、スリット22の円周方向に関する位相と一致しており、他方のアーム部37bの円周方向に関する位相は、貫通孔26の円周方向に関する位相と一致している。
【0125】
本例では、1対のアーム部37a、37bは、基部20と一体に構成されている。
【0126】
1対のアーム部37a、37bは、同軸上に配置された貫通孔である通孔38をそれぞれ有する。通孔38には、十字軸19を構成する軸部が軸受カップを介して回転自在に軸支される。
【0127】
第1ヨーク17をピニオン軸13の端部に固定するには、挿通孔25にピニオン軸13の端部を挿入し、雄セレーション歯28と雌セレーション歯27とをセレーション係合させる。また、一方のフランジ部21aに備えられた取付孔23aを挿通したボルト24を、他方のフランジ部21bに備えられた取付孔23bに螺合する。そして、さらにボルト24を締め付けることで、スリット22及び隙間35の幅寸法を小さくし、基部20を縮径させて、基部20によりピニオン軸13の端部を締め付ける。これにより、第1ヨーク17をピニオン軸13の端部に固定する。また、必要に応じて、ボルト24の中間部をピニオン軸13の外周面に係合させる。
【0128】
本例の第1ヨーク17によれば、ボルト24の締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルト24の締め付け時に発生する応力を緩和できる。
【0129】
本例の第1ヨーク17の基部20は、径方向に関してスリット22の反対側に、径方向に貫通した貫通孔26を有している。このため、本例の第1ヨーク17は、基部20のうちで、径方向に関してスリット22の反対側部分の剛性が低下する。したがって、ボルト24の締め付け時における第1ヨーク17の変形抵抗が低減される。
【0130】
スリット22は、軸方向一方側の端部に円形の開口形状を有する幅広孔部32を備えている。このため、スリット22の閉鎖端30は、凹曲面により構成される。したがって、本例の第1ヨーク17によれば、スリット22の閉鎖端30の近傍に応力が集中しにくくなるので、ボルト24の締め付け時に発生する応力が緩和される。
【0131】
以上のように、本例の第1ヨーク17によれば、ボルト24の締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルト24の締め付け時に発生する応力を緩和できる。
【0132】
本例の第1ヨーク17は、ボルト24の締め付け時における変形抵抗が低減されるため、基部20の締め付け力が十分に確保される。したがって、本例の第1ヨーク17は、運転者がステアリングホイール2を操作することによるトルクだけでなく、電動アシスト装置9による高トルクのアシストトルクが伝達される、コラムアシスト式のステアリング装置1に組み込まれた場合にも、基部20に対するピニオン軸13の微細摺動が抑制される。このため、雌セレーション歯27及び/又は雄セレーション歯28に、フレッチング摩耗やフレッチング腐食などの損傷が進行するのを抑制できる。
【0133】
本例の第1ヨーク17は、ボルト24の締め付け時に基部20に発生する応力が緩和されるため、基部20に亀裂などの損傷が発生することを防止される。
【0134】
本例の第1ヨーク17は、基部20のうちで径方向に関してスリット22の反対側に、基部20の軸方向他方側の端面に開口した補助スリットではなく、軸方向に閉じた貫通孔26を有している。このため、補助スリットを形成した場合に比べて、基部20の剛性を確保できる。したがって、ピニオン軸13の端部が基部20に対して傾くことを抑制でき、雌セレーション歯27及び/又は雄セレーション歯28に、フレッチング摩耗やフレッチング腐食などの損傷が発生するのを抑制できる。
【0135】
本例の第1ヨーク17では、貫通孔26と幅広孔部32とが同軸に配置されているため、これら貫通孔26及び幅広孔部32を、共通の穴あけ工具34を使用して一度に加工することができる。したがって、工数の増加を防止でき、第1ヨーク17の加工コストの上昇を防止できる。
【0136】
本例の第1ヨーク17は、挿通孔25の内周面のうちでスリット22を円周方向に跨ぐ範囲に欠歯部29を有しているため、ボルト24を締め付けた際に、雌セレーション歯27が雄セレーション歯28に第1方向に強く押し付けられる。したがって、高トルクを伝達する面で有利になる。
【0137】
[第2例]
本開示の実施の形態の第2例について、図16及び図17を用いて説明する。
【0138】
本例の第1ヨーク17aでは、貫通孔26aの内径d26が、第1例の構造に比べて大きい。このため、貫通孔26aの内径d26は、スリット22の幅広孔部32の内径d32と異なる(d26≠d32)。具体的には、貫通孔26aの内径d26は、幅広孔部32の内径d32よりも大きい(d26>d32)。
【0139】
本例の場合にも、貫通孔26aと幅広孔部32とは、同軸に配置されている。貫通孔26aは、第2方向にわたり内径d26が変化しない円筒孔である。幅広孔部32は、第2方向にわたり内径d32が変化しない円筒孔である。
【0140】
本例では、貫通孔26aの内径d26と幅広孔部32の内径d32とが異なるため、穴あけ工具34aとして、図17に示したような段付きドリルを使用することができる。穴あけ工具34aは、先端側に幅広孔部32の内径d32と等しい外径の小径軸部47を有し、かつ、基端側に貫通孔26aの内径d26と等しい外径の大径軸部48を有する。
【0141】
貫通孔26a及び幅広孔部32を加工するには、穴あけ工具34aの中心軸O34を、挿通孔25の中心軸O25と幅狭部33の中心軸O33とを含む仮想平面β上に配置し、かつ、第2方向に向ける。そして、穴あけ工具34aを回転させながら矢印X方向に移動させる。これにより、先ず、穴あけ工具34aの先端側の小径軸部47によって、貫通孔26aの下穴を基部20の外周面側から加工する。その後、穴あけ工具34aの先端側の小径軸部47によって、幅広孔部32を基部20の内周面側から加工すると同時に、穴あけ工具34aの基端側の大径軸部48によって、下穴の内径を広げて貫通孔26aを加工する。その後、穴あけ工具34aを、矢印X方向とは反対方向に退避させる。
【0142】
本例では、基部20のうちで、径方向に関してスリット22の反対側部分の剛性が、第1例の構造に比べてさらに低下する。したがって、ボルト24の締め付け時における第1ヨーク17aの変形抵抗がより低減される。
【0143】
第2例についてのその他の構成及び作用効果については、第1例と同じである。
【0144】
本開示を実施する場合に、第2例の変形例として、貫通孔の内径を、幅広孔部の内径よりも小さくすることができる。この場合には、段付きドリルの穴あけ工具を使用して、先端側の小径軸部によって、幅広孔部の下穴を基部の外周面側から加工する。その後、穴あけ工具の先端側の小径軸部によって、貫通孔を基部の内周面側から加工すると同時に、穴あけ工具の基端側の大径軸部によって、下穴の内径を広げて幅広孔部を加工することができる。
【0145】
[第3例]
本開示の実施の形態の第3例について、図18及び図19を用いて説明する。
【0146】
本例の第1ヨーク17bは、第2例の構造と同様に、貫通孔26bの内径は、幅広孔部32aの内径よりも大きい。また、貫通孔26bと幅広孔部32aとは、同軸に配置されている。
【0147】
本例では、幅広孔部32aは、第2方向に関して内径が変化するテーパ孔により構成されている。幅広孔部32aの内径は、基部20の外周面側から内周面側に向かうほど大きくなる。
【0148】
貫通孔26bは、第2方向に関して内径が変化するテーパ孔により構成されている。貫通孔26bの内径は、基部20の外周面側から内周面側に向かうほど小さくなる。
【0149】
本例では、貫通孔26bの内径と幅広孔部32aの内径とが異なり、かつ、貫通孔26b及び幅広孔部32aがテーパ孔であるため、穴あけ工具34bとして、図19に示すようなテーパドリルを使用することができる。穴あけ工具34bの外径は、先端側から基端側に向かうほど大きくなる。
【0150】
貫通孔26b及び幅広孔部32aを加工するには、穴あけ工具34bの中心軸O34を、挿通孔25の中心軸O25と幅狭部33の中心軸O33とを含む仮想平面β上に配置し、かつ、第2方向に向ける。そして、穴あけ工具34bを、回転させながら矢印X方向に移動させる。これにより、穴あけ工具34bの先端側部分によって、幅広孔部32aを基部20の内周面側から加工すると同時に、穴あけ工具34bの基端側部分によって、貫通孔26bを基部20の外周面側から加工する。その後、穴あけ工具34bを、矢印X方向とは反対方向に退避させる。
【0151】
本例では、基部20のうちで、径方向に関してスリット22の反対側部分の剛性が、第1例の構造に比べてさらに低下する。したがって、ボルト24の締め付け時における第1ヨーク17bの変形抵抗がより低減される。
【0152】
第3例についてのその他の構成及び作用効果については、第1例及び第2例と同じである。
【0153】
本開示を実施する場合に、第3例の変形例として、貫通孔の内径を、幅広孔部の内径よりも小さくすることができる。この場合には、貫通孔の内径を、基部の外周面側から内周面側に向かうほど大きくし、かつ、幅広孔部の内径を、基部の外周面側から内周面側に向かうほど小さくすることができる。そして、テーパドリルの穴あけ工具を使用し、穴あけ工具の先端側部分によって、貫通孔を基部の内周面側から加工すると同時に、穴あけ工具の基端側部分によって、幅広孔部を基部の外周面側から加工することができる。
【0154】
[第4例]
本開示の実施の形態の第4例について、図20及び図21を用いて説明する。
【0155】
本例の第1ヨーク17cでは、1対のフランジ部21c、21dは、基部20aと別体である。
【0156】
本例では、1対のフランジ部21c、21dは、締め付け部材39の一部に備えられている。
【0157】
締め付け部材39は、全体が欠円筒形状を有しており、略U字状の端面形状を有している。締め付け部材39は、1対のフランジ部21c、21dと、連結筒部40とを有する。
【0158】
連結筒部40は、半円筒形状を有し、1対のフランジ部21c、21dを連結する。
【0159】
締め付け部材39は、1対のフランジ部21c、21dと連結筒部40とにより囲まれた部分に、嵌合孔41を有する。
【0160】
締め付け部材39は、嵌合孔41に基部20aの軸方向他方側の端部を挿入することで、基部20aに対して取り付けられる。
【0161】
本例の第1ヨーク17cでは、1対のフランジ部21c、21dが、基部20aと別体に構成されているため、第1ヨーク17cの製造工程を簡略化できる。このため、第1ヨーク17cの製造コストの低減を図れる。
【0162】
第4例についてのその他の構成及び作用効果については第1例と同じである。
【0163】
[第5例]
本開示の実施の形態の第5例について、図22図24を用いて説明する。
【0164】
本例は、本開示の一態様のクランプ装置を、自動車用のステアリング装置に組み込まれた中間シャフトを構成する連結装置に適用した例である。
【0165】
本例の中間シャフト6aは、大型の自動車用のステアリング装置を構成し、ステアリングシャフトとステアリングギヤユニットのピニオン軸とをトルク伝達可能に接続する。
【0166】
中間シャフト6aは、第1シャフト42と、第2シャフト43と、連結装置44とを有する。
【0167】
第1シャフト42は、コラプシブルシャフトであり、自動車に衝突事故が発生して、所定値以上の大きさの衝撃荷重が加わった場合にのみ、全長が収縮可能な構成を有する。
【0168】
第2シャフト43は、自動車に衝突事故が発生していない定常状態においても、全長が伸縮可能な構成を有する。
【0169】
第1シャフト42及び第2シャフト43は、ステアリングホイール2(図1参照)の操作により回転しかつ同軸上に配置された、2つ回転軸である。
【0170】
連結装置44は、第1シャフト42の端部と第2シャフト43の端部とをトルク伝達可能に接続する。
【0171】
連結装置44は、基部20と1対のフランジ部21a、21bとを有する。本例の連結装置44は、第1例の第1ヨーク17とは異なり、連結部を備えていない。本例の連結装置44は、1対のアーム部を備えていない以外、第1例の第1ヨーク17と同じ構成を有する。
【0172】
本例では、基部20に備えられた挿通孔25(図8参照)の内側に、第2シャフト43の軸方向一方側の端部が挿入されている。これにより、基部20の内周面に備えられた雌セレーション歯27と、第2シャフト43の端部外周面に備えられた雄セレーション歯28とがセレーション係合している。
【0173】
基部20の軸方向一方側の端部には、第1シャフト42の軸方向他方側の端部が外嵌されている。基部20の軸方向一方側の端部と第1シャフト42の軸方向他方側の端部とは、溶接ビード部45により溶接固定されている。
【0174】
本例の連結装置44の基部20は、径方向に関してスリット22の反対側に貫通孔26を有し、かつ、スリット22の軸方向一方側の端部が幅広孔部32により構成されている。このため、本例の連結装置44によれば、ボルト24(図3参照)の締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルト24の締め付け時に発生する応力を緩和できる。
【0175】
第5例についてのその他の構成及び作用効果については、第1例と同じである。
【0176】
[参考例]
本開示の参考例について、図25及び図26を用いて説明する。
【0177】
本参考例の第1ヨーク17xは、基部20xのうちで、径方向に関してスリット22xの反対側に位置する部分に、貫通孔26xを有している。ただし、貫通孔26xは、円形の開口形状を有しておらず、軸方向に長い長円形の開口形状を有している。
【0178】
本参考例では、スリット22xは、軸方向一方側の端部に拡大孔部を有しておらず、幅狭部33xのみから構成されている。
【0179】
本参考例の第1ヨーク17xの基部20xは、径方向に関してスリット22xの反対側に、径方向に貫通した貫通孔26xを有しているため、ボルト24(図3参照)の締め付け時における第1ヨーク17xの変形抵抗が低減される。ただし、スリット22xは、軸方向一方側の端部に円形の開口形状を有する幅広孔部を備えておらず、閉鎖端30xに2つの隅角部46を備えている。このため、参考例の第1ヨーク17xでは、ボルト24の締め付け時に、閉鎖端30xの隅角部46の近傍に応力が集中しやすく、亀裂などの損傷が生じる可能性がある。
【0180】
本参考例の第1ヨーク17xでは、貫通孔26xは、軸方向に長い開口形状を有しているため、スリット22xの軸方向一方側の端部に幅広孔部を設けた場合にも、貫通孔26xと幅広孔部とを、共通の穴あけ工具を使用して一度に加工することはできない。このため、貫通孔26xと幅広孔部とは、異なる工具を使用して別々に加工する必要があり、加工コストが嵩む原因となる。
【0181】
本開示の実施の形態の第1例~第5例の第1ヨーク17、17a~17c及び連結装置44によれば、本参考例の第1ヨーク17xでは解決することのできない応力の集中の問題を解決できる。また、貫通孔26、26a、26bと幅広孔部32、32aとを、共通の穴あけ工具34、34a、34bを使用して一度に加工できるため、加工コストの低減を図れる。
【0182】
以上、本開示の実施の形態の第1例~第5例について説明したが、第1例~第5例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0183】
1 ステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングコラム
5a、5b 自在継手
6、6a 中間シャフト
7 ステアリングギヤユニット
8 タイロッド
9 電動アシスト装置
10 ギヤハウジング
11 トーションバー
12 出力シャフト
13 ピニオン軸
14 トルクセンサ
15 電動モータ
16 ウォーム減速機
17、17a、17b、17c、17x 第1ヨーク
18 第2ヨーク
19 十字軸
20、20a、20x 基部
21a、21b、21c、21d フランジ部
22、22x スリット
23a、23b 取付孔
24 ボルト
25 挿通孔
26、26a、26b、26x 貫通孔
27 雌セレーション歯
28 雄セレーション歯
29 欠歯部
30、30x 閉鎖端
31 開口端
32、32a 幅広孔部
33、33x 幅狭部
34、34a、34b 穴あけ工具
35 隙間
36 連結部
37a、37b アーム部
38 通孔
39 締め付け部材
40 連結筒部
41 嵌合孔
42 第1シャフト
43 第2シャフト
44 連結装置
45 溶接ビード部
46 隅角部
47 小径軸部
48 大径軸部
100a、100b ヨーク
101a、101b 基部
102a、102b スリット
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