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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027619
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/182 20060101AFI20250220BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20250220BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20250220BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
B01J27/182 A ZAB
B01J37/04 102
B01J37/02 101Z
B01J37/02 101A
B01D53/86 245
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132548
(22)【出願日】2023-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】辻口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 克
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA06
4D148AA13
4D148AB01
4D148AB02
4D148BA02X
4D148BA03X
4D148BA04X
4D148BA06X
4D148BA07X
4D148BA08X
4D148BA14X
4D148BA34X
4D148BA41X
4D148BA44X
4D148BB17
4D148DA03
4D148DA20
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA02C
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA05C
4G169BA14A
4G169BA14B
4G169BA14C
4G169BA47C
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB06C
4G169BC02B
4G169BC03B
4G169BC09B
4G169BC33A
4G169BC33B
4G169BC33C
4G169BD07B
4G169CA02
4G169CA03
4G169CA07
4G169CA14
4G169DA06
4G169EA11
4G169EB14Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC13X
4G169EC14X
4G169EC15X
4G169EC16X
4G169EC17X
4G169EC18X
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB05
4G169FB14
4G169FB16
4G169FB17
4G169FB27
4G169FB49
4G169FC02
4G169FC04
4G169FC09
(57)【要約】
【課題】高い触媒活性を有する触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】SiO及びZrOを含む多孔質ガラス担体に金微粒子が担持されてなる触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO及びZrOを含む多孔質ガラス担体に金微粒子が担持されてなる触媒。
【請求項2】
前記多孔質ガラス担体がさらにTiOを含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記多孔質ガラス担体の細孔径分布の中央値が1~1000nm以下である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記金微粒子の平均粒子径が0.1~10nm以下である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項5】
排ガス浄化用触媒である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項6】
請求項1又は2に記載された触媒の製造方法であって、
ハロゲンを含まない3価の金化合物が分散したpH8以上の溶液中で、弱酸の共役塩基の存在下において、金化合物の加水分解反応を進行させて金錯体溶液を得る溶液調製工程、
前記金錯体溶液を前記多孔質ガラス担体へ含浸させ、前記多孔質ガラス担体に金微粒子を担持させる担持工程を備える、触媒の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質ガラス担体は、スピノーダル分相したガラスの一方の相を酸で溶出することにより製造される、請求項6に記載の触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金微粒子を酸化物等の担体表面に担持した金微粒子担持触媒の応用が検討されている。当該触媒は、例えば、一酸化炭素酸化除去などの室内空気浄化、NOx低減等の大気環境保全、水素中の一酸化炭素選択酸化等の燃料電池関連反応、プロピレンからのプロピレンオキサイド合成反応等の化学プロセス用反応等への応用が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には金ヒドロキソ陰イオン錯体溶液をSiO担体粉末に加えた後、水分を蒸発乾固させ、350℃で焼成することにより得られる金微粒子担持体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-259993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金微粒子担持体は金微粒子だけでなく酸化物担体も触媒活性に寄与しうる。しかし、SiO担体は活性が低いため、金微粒子担持体の更なる触媒活性向上が難しい。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主目的は、高い触媒活性を有する触媒及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、担体の成分を調整することにより、SiO担体以上の触媒活性が得られることを見出した。以下において、上記課題を解決する触媒及びその製造方法の各態様について説明する。
【0008】
態様1の触媒は、SiO及びZrOを含む多孔質ガラス担体に金微粒子が担持されてなることを特徴とする。
【0009】
態様2の触媒は、態様1において、多孔質ガラス担体がさらにTiOを含むことが好ましい。
【0010】
態様3の触媒は、態様1又は態様2において、多孔質ガラス担体の細孔径分布の中央値が1~1000nmであることが好ましい。
【0011】
態様4の触媒は、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、金微粒子の平均粒子径が0.1~10nm以下であることが好ましい。
【0012】
態様5の触媒は、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、排ガス浄化用触媒であることが好ましい。
【0013】
態様6の触媒の製造方法は、態様1から態様5のいずれか一つの態様の触媒を製造する方法であって、ハロゲンを含まない3価の金化合物が分散したpH8以上の溶液中で、弱酸の共役塩基の存在下において、金化合物の加水分解反応を進行させて金錯体溶液を得る溶液調製工程、金錯体溶液を多孔質ガラス担体へ含浸させ、多孔質ガラス担体に金微粒子を担持させる担持工程を備えることを特徴とする。
【0014】
態様7の触媒の製造方法は、態様6において、多孔質ガラス担体は、スピノーダル分相したガラスの一方の相を酸で溶出することにより製造されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い触媒活性を有する触媒及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好ましい実施態様について説明する。ただし、以下の実施態様は単なる例示であり、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【0017】
<触媒>
本発明の触媒は、SiO及びZrOを含む多孔質ガラス担体に金微粒子が担持されてなることを特徴とする。言い換えると、本発明の触媒は、SiO及びZrOを含む多孔質ガラス担体と、当該多孔質ガラス担体に担持された金微粒子を備えることを特徴とする。
【0018】
<多孔質ガラス担体>
本発明で用いる担体は、SiO及びZrOを含む多孔質ガラスからなる。当該構成を有する担体(多孔質ガラス担体)は、耐アルカリ性及び耐酸性に優れ、かつ触媒活性に優れる。以下、多孔質ガラス担体の成分について説明する。なお、特に断りがない場合、多孔質ガラス担体の成分含有量に関する説明において、「%」は「質量%」を意味する。
【0019】
SiOは多孔質ガラス担体における網目形成酸化物の主成分である。SiOの含有量の下限は40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、特に80%以上であることが好ましく、SiOの含有量の上限は99%以下、98%以下、95%以下、90%以下、特に89%以下であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、多孔質ガラス担体の耐候性や機械的強度が低下する傾向がある。SiOの含有量が多すぎると、他の成分の導入を妨げることになる。
【0020】
ZrOは多孔質ガラス担体に耐アルカリ性を高める成分である。また、触媒活性を高める成分でもある。ZrOの含有量の下限は1%以上、2%以上、特に5%以上であることが好ましく、ZrOの含有量の上限は50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、特に20%以下であることが好ましい。ZrOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られなくなる。ZrOの含有量が多すぎると、多孔質ガラスの機械的強度が弱くなる。
【0021】
SiO+ZrOの含有量(SiO及びZrOの合量)の下限は41%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に90%以上であることが好ましい。SiO+ZrOの含有量が少なすぎると、上記効果が得づらくなる。SiO+ZrOの含有量の上限は他の成分を導入する観点から、99.9%以下、99%以下、98%以下、特に95%以下としてもよい。
【0022】
多孔質ガラス担体は、さらにTiOを含むことが好ましい。TiOを含むことにより触媒活性をより一層高めることができる。TiOの含有量の下限は0%以上、0.1%以上、特に0.5%以上であることが好ましく、TiOの含有量の上限は15%以下、10%以下、8%以下、特に5%以下であることが好ましい。TiOの含有量が多すぎると、多孔質ガラスの機械的強度が弱くなる。
【0023】
多孔質ガラス担体は、耐候性や機械的強度を高める観点から、さらにB、Al、CaO、P、NaO及びKOを含有することが好ましい。より詳細には、B+Al+CaO+P+NaO+KOの含有量(B、Al、CaO、P、NaO及びKOの合量)の下限は0%以上、特に0.1%以上であることが好ましく、B+Al+CaO+P+NaO+KOの含有量の上限は15%以下、10%以下、8%以下、特に5%以下であることが好ましい。なお、B、Al、CaO、P、NaO及びKOの各成分の含有量の好ましい範囲は以下のとおりである。
【0024】
はガラスネットワークを形成する成分である。Bの含有量の下限は0%以上、特に0.1%以上としてもよい。一方、多孔質ガラス担体の耐候性を高める観点から、Bの含有量の上限は15%以下、10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。本発明において、「実質的に含有しない」とは、意図的に原料として含有させないことを意味し、客観的には含有量が0.1%未満の場合を指す。
【0025】
Alは多孔質ガラス担体の耐候性や機械的強度を向上させる成分である。Alの含有量の下限は、0%以上、特に0.1%以上であることが好ましい。一方、他の成分を導入する観点から、Alの含有量の上限は15%以下、10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。
【0026】
MgO、CaO、SrO及びBaOは多孔質ガラス担体の耐アルカリ性向上に寄与する成分である。MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の下限は、例えば各々0%以上、特に0.1%以上であることが好ましい。一方、分相の促進の観点から、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の上限は、各々15%以下、10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。また、MgO、CaO、SrO及びBaOから選択される少なくとも2種以上の成分を含有させる場合、その合量の下限は0%以上、特に0.1%以上であることが好ましく、その合量の上限は10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。なお、MgO、CaO、SrO及びBaOのうち、多孔質ガラス担体の耐アルカリ性を向上させる効果が特に大きいという点で、特にCaOを含有することが好ましい。
【0027】
は多孔質ガラス担体の耐アルカリ性向上に寄与する成分である。Pの含有量の下限は、例えば0%以上、特に0.1%以上であることが好ましい。一方、結晶化の防止の観点から、Pの含有量の上限は15%以下、10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。
【0028】
NaOの含有量の下限は0%以上、特に0.1%以上としてもよい。一方、多孔質ガラス担体の耐候性を高める観点から、NaOの含有量の上限は15%以下、10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下であることが好ましい。
【0029】
Oの含有量の下限は0%以上、特に0.1%以上としてもよい。一方、多孔質ガラス担体の耐候性を高める観点から、KOの含有量の上限は15%以下、10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、特に1%以下であることが好ましい。
【0030】
多孔質ガラス担体には、上記成分以外にも、LiO、ZnO、La、Ta、TeO、Nb、Gd、Y、Eu、Sb、SnO及びBi等を各々15%以下、各々10%以下、各々5%以下、特に各々3%以下含有してもよく、合量で20%以下の範囲で含有させてもよい。
【0031】
なお、PbOは環境負荷物質であるため、実質的に含有しないことが好ましい。
【0032】
多孔質ガラス担体の細孔径分布の中央値は、1000nm以下、200nm以下、150nm以下、120nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、特に50nm以下であることが好ましい。細孔分布の中央値の下限は特に限定されないが、現実的には1nm以上、特に3nm以上であることが好ましい。なお、細孔形状は真球状や略楕円状の孔の連続体や、チューブ状等が挙げられる。
【0033】
多孔質ガラス担体はその使用目的に応じて適宜形状を選択することができる。例えば、粉末状、顆粒状、ペレット状、平板状、ブロック状、繊維状、網状、ビーズ状、ハニカム状等を選択することができる。
【0034】
<金微粒子>
金微粒子は金ナノ粒子又は金クラスターであることが好ましい。より詳細には、金微粒子の平均粒子径は10nm以下、9nm以下、特に8nm以下であることが好ましい。当該平均粒子径を有する金微粒子は高い触媒活性を有する。金微粒子の平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば0.1nm以上、特に0.2nm以上としてもよい。なお、平均粒子径は球状粒子の場合は直径、楕円形粒子の場合は長径の平均値を意味し、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)観察から粒子径分布を作成することにより求めることができる。
【0035】
多孔質ガラス担体表面における金微粒子の担持量は0.001~10重量%、特に0.01~5重量%であることが好ましい。担持量が少なすぎると触媒活性が低下する。担持量が多すぎても触媒活性の向上が見込めない。なお、金微粒子の担持量は、担持された金微粒子を王水等により担体上から溶出させ、溶出液をICP発光分析することにより測定することができる。
【0036】
本発明の触媒は上記構成を有することにより、多孔質ガラス担体の触媒活性を高めることができる。具体的には、本発明の触媒はCO酸化触媒活性を示すため、排ガス浄化用触媒として特に好適に用いることができる。CO酸化活性(CO転化率)はCO供給量に対し、反応により消失したCOの割合を意味し、例えば流通式固定床型装置で測定できる。具体的には、触媒粉末をサンプル管に詰め、シリカウールで蓋をする。次に20%O(Ar balance)を用いて250℃20分の前処理を行う。反応ガスには1%COガス(in air)を用い、流速33mL/minで供給する。恒温槽で温度を制御し、白金温度計にて温度をモニタリングする。測定温度範囲は0~200℃とできる。反応ガス中のCO濃度をガスクロマトグラフ(例えば、島津製作所製GC-8A)で分析し、触媒層を通さないときのCO濃度を基準にしてCO転化率を算出することができる。
【0037】
例えば、本発明の触媒は、CO転化率が50%に到達したときの温度(50%CO転化温度)が200℃以下、180℃以下、150℃以下、130℃以下、100℃以下、特に90℃以下であることが好ましい。50%CO転化温度が低いため、本発明の触媒はCO酸化活性に優れた触媒として用いることができる。
【0038】
<触媒の製造方法>
本発明の触媒の製造方法は、ハロゲンを含まない3価の金化合物が分散したpH8以上の溶液中で、弱酸の共役塩基の存在下において、金化合物の加水分解反応を進行させて金錯体溶液を得る溶液調製工程、金錯体溶液を多孔質ガラス担体へ含浸させ、多孔質ガラス担体に金微粒子を担持させる担持工程を備えることを特徴とする。一般に、触媒作製に用いられる金化合物はハロゲンを含む化合物(例えば、塩化金酸)であることが多い。しかし、塩化金酸に含まれる塩素は金微粒子を凝集させるため、塩素を除去する処理工程が別途必要となり、工程が煩雑となりやすい。一方、本発明は金化合物がハロゲンを含まない3価の化合物であるため、上記問題が生じず、複雑な処理工程を必要としない。したがって、触媒を容易に作製することができる。
【0039】
ここで、弱酸の共役塩基とは弱酸HAの下記電離式で表されるAを意味する。弱酸の共役塩基は特に限定されないが、例えば、酢酸イオン、プロピオン酸イオン等のカルボキシレート陰イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、クエン酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、酒石酸イオン等を挙げることができる。
【0040】
【化1】
【0041】
また、ハロゲンを含まない3価の化合物としては、例えば、下記の(1)~(4)に示す金化合物を好適に用いることができる。
(1)金カルボキシラート:Au(CHCOO)、Au(CCOO)等。塩基性塩であるAu(OH)(CHCOO)、Au(OH)(CHCOO)等を含んでもよい。
(2)酸化金:Au
(3)水酸化金:Au(OH)
(4)金とアルカリ金属との複酸化物:NaAuO、KAuO
【0042】
<溶液調製工程>
はじめに、金錯体溶液を調製する。具体的には、ハロゲンを含まない3価の金化合物が分散したpH8以上の溶液中で、弱酸の共役塩基の存在下において、金化合物の加水分解反応を進行させて金錯体溶液を調製する。金化合物が分散したpH8以上の溶液(水溶液)は、例えば、あらかじめ弱酸と強塩基との塩を水に溶解し、pHが8以上となるように調整した溶液に3価の金化合物を添加することにより調製してもよい。また、3価の金化合物を水に分散させた溶液に弱酸と強塩基との塩を添加してpHを8以上としてもよい。このとき、塩の添加量は溶液のpHが8以上となるよう調整すればよい。また、金化合物として酢酸金等を用いる場合には、金化合物自体から弱酸の共役塩基である酢酸イオンが生じるため、NaOH等の強塩基を用いてpH調整を行ってもよい。
【0043】
金化合物が分散した溶液のpHは8以上であり、特に10以上であることが好ましい。pHが8未満では水酸化金Au(OH)の沈殿が生じやすく、均一な金錯体溶液を得ることが困難となる。pHの上限に限定はないが、通常14程度以下とすればよい。また、分散を均一にする観点から、溶液中の金化合物の含有量は0.001~10重量%程度とすることが好ましい。
【0044】
弱酸と強塩基との塩としては、例えば、陽イオン成分としてアルカリ金属イオン(K、Na等)、アルカリ土類金属イオン(Ca2+、Ba2+等)等を含み、上記した共役塩基を生じる弱酸の塩を用いることが好ましい。特に、陽イオン成分としてアルカリ金属イオンを含む弱酸の塩を用いることが好ましい。
【0045】
金化合物が分散したpH8以上の溶液において、金化合物が金ヒドロキソ陰イオン錯体として完全に溶解することにより、透明の均一な金錯体溶液を得ることができる。より詳細には、金のヒドロキソ陰イオン錯体が均一に溶解したハロゲンを含まない透明の均一な金錯体溶液を得ることができる。このとき、溶解時間を短縮する観点から、金化合物が分散したpH8以上の溶液を80℃以上に加熱することが好ましく、特に煮沸還流することが好ましい。もっとも、金化合物の加水分解が徐々に進行するため、常温でも時間をかけると透明の均一な金錯体溶液を得ることができる。
【0046】
例えば、金化合物として酢酸金を用い、pH調整に炭酸ナトリウムを用いる場合には、酢酸金を脱イオン水に加え、タッチミキサーや超音波洗浄機などを用いコロイドとして分散させることができる。これに炭酸ナトリウム水溶液を加えてpH8以上とし、沸騰還流すると、数分で茶色のコロイド液から黄色の透明な金錯体溶液となり、約10分程度で無色透明な金錯体溶液が得られる。
【0047】
なお、金化合物として水酸化金、酸化金等を用いる場合は、酢酸金を用いる場合と比較して透明溶液を得るために長時間を要するが、いずれの反応条件を用いた場合でも、原料粉末の溶け残りやコロイドが無くなるまで反応させれば透明な金錯体溶液を得ることができる。なお、原料粉末の溶け残りが存在する場合であっても、上澄み液を分取して透明な金錯体溶液としてもよい。
【0048】
このように、本発明で用いる金錯体溶液は、金微粒子を粗大化させる要因であり、かつ触媒反応に対して被毒物質となるハロゲンを含まない。そのため、金微粒子を均一に担持した高活性の触媒を容易に得ることができる。
【0049】
ここで、金錯体溶液は、少なくとも一つの配位子がOHであり、ハロゲン陰イオンを配位子として含まない平面四角形構造の3価金のヒドロキソ陰イオン錯体と、金に配位していない弱酸の共役塩基を含み、pHが8以上であることが好ましい。弱酸の共役塩基が存在するために、溶液が緩衝作用を持ちpHが安定する。これにより、溶液中の金錯体が一定の条件で担体と相互作用し、均一な金微粒子が生成するのに役立つと考えられる。また、当該溶液はハロゲンを含まないため、金微粒子の粗大化を防ぐことができる。そのため、金微粒子を均一に担持した高活性の触媒を容易に得ることができる。
【0050】
該金のヒドロキソ陰イオン錯体溶液において、3価の金のヒドロキソ陰イオン錯体としては、例えば、下記(1)~(4)の条件を満足するものが好ましい。
【0051】
(1)下記式で表される平面四角形構造を持つ金錯体であること。
【0052】
【化2】
【0053】
(2)金は3価であり、アニオン配位子a,b,c,dの配位により全体として負電荷を持つ陰イオン錯体である。
(3)配位子a,b,c,dのうち、少なくとも1つはOHである。
(4)配位子a,b,c,dは、いずれもハロゲン陰イオンではない。
上記した金のヒドロキソ陰イオン錯体において、配位子a,b,c,dのうちOH以外の配位子は、ハロゲン陰イオンではないアニオン配位子であればどのようなものでもよい。例えば、酢酸イオンCHCOO、炭酸イオンCO 2-等を例示することができる。
【0054】
なお、上記式において、nの値は、アニオン配位子の種類によって決まる負電荷の価数を示す。nはアニオン配位子a,b,c,dの合計価数から金の価数である3を引いた値である。
【0055】
金のヒドロキソ陰イオン錯体としては、下記の化合物を例示できる。
【0056】
【化3】
【0057】
上記の各式の金のヒドロキソ陰イオン錯体は、[Au(OH)、[Au(OH)(CHCOO)、[Au(OH)(CO)]2-等と略記することができる。これらの金錯体は、含浸液中で単一種である必要はなく、複数種を含んでいてもよい。例えば、金のヒロドキソ陰イオン錯体として[Au(OH)と、[Au(OH)(CHCOO)]を含む溶液であってもよい。
【0058】
<担持工程>
次に、上記した方法で調製した金錯体溶液を多孔質ガラス担体に含浸させ、金微粒子を担持させる。より詳細には、金錯体溶液を多孔質ガラス担体に含浸させ、水分を除去して金錯体を担体表面に固定化させた後、熱処理を行うことにより金微粒子を生成する。
【0059】
(i)多孔質ガラス担体への含浸
金錯体溶液を多孔質ガラス担体に含浸させる方法は特に限定されず、担体の体積に対して溶液を過剰に用いて該溶液中に担体を浸漬する方法であってもよく、担体の細孔容積に見合う量の溶液を担体に滴下させるincipient wetness法によって含浸させてもよい。これらの場合、目的の担持量となるように、金錯体溶液の濃度をあらかじめ調整することが必要である。なお、上述したように、本発明の錯体の製造方法では多孔質ガラス担体がSiO及びZrOを含む。そのため担体の耐アルカリ性が高く、金錯体溶液のpHが8以上の塩基性溶液であっても多孔質構造が劣化しにくいと考えられる。
【0060】
次に、水分を除去して金錯体を担体表面に固定化する。水分の除去方法は特に限定されず、ホットプレート上での加熱による蒸発乾固、ロータリーエバポレーターでの減圧乾燥、凍結乾燥法などの任意の方法を適用できる。
【0061】
担体表面に固定化される金微粒子の量は、所望の触媒活性が得られる量であればよく、例えば、金微粒子と多孔質ガラス担体の合計量を基準として、0.01~60重量%程度とすることが好ましい。
【0062】
金微粒子を担持した状態の多孔質ガラス担体の比表面積は、BET法による測定値として、例えば、1~2000m/g程度、特に5~1000m/g程度であることがより好ましい。比表面積が上記値を有することにより触媒反応の活性点が多くなり、かつ機械的強度が高いといった効果が得られる。
【0063】
(ii)熱処理による金微粒子の生成
上記した方法で多孔質ガラス担体表面に金錯体を固定化した後、加熱することにより金微粒子を担持させることができる。加熱雰囲気は特に限定されず、酸素含有雰囲気中、還元雰囲気中、不活性雰囲気中等の各種の雰囲気中で熱処理を行うことができる。例えば、酸素含有雰囲気としては、大気雰囲気、酸素を窒素、ヘリウム、アルゴン等で希釈した混合気体雰囲気などを利用できる。還元雰囲気としては、例えば、窒素ガスで希釈した1~10体積%程度の水素ガス、一酸化炭素ガス等を用いることができる。不活性雰囲気としては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンガス等を用いることができる。
【0064】
熱処理温度は多孔質ガラス担体の耐熱温度以下で、通常、100~600℃程度とすればよく、安定かつ微細な金微粒子を得るためには、200~400℃程度とすることが好ましい。熱処理時間は特に限定されないが、上記した温度範囲の所定の熱処理温度に達した後、5分以上、特に10分以上加熱すればよい。
【0065】
(iii)水洗による可溶性塩分の除去と乾燥
次に、上記した熱処理後の多孔質ガラス担体を水洗する。熱処理後の多孔質ガラス担体には、酢酸イオン、炭酸イオン等の弱酸の共役塩基がアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の形で残存する。これらの塩類が表面に残存すると物理的に活性点を塞ぐなどして活性低下の原因となるため、洗浄液が中性になるまで水洗してこれらの塩類を除去することが好ましい。
【0066】
水洗方法は特に限定されず、例えば、吸引ろ過器を用いてろ紙上で脱イオン水をかけながら洗浄する方法、ビーカーに担持体粉末と脱イオン水を入れて上澄み液を入れ替えながら洗浄するデカンテーション法、遠心分離機を用いて沈殿と水を分離しながら洗浄する方法など、一般的な水洗方法を適宜適用できる。
【0067】
水洗後に乾燥することにより、多孔質ガラス担体に金微粒子が担持されてなる触媒を得ることができる。乾燥温度は、熱処理による金微粒子の生成の際の温度を下回る温度であればよく、通常、室温~150℃の間の温度とすればよい。
【0068】
上記した方法により、金微粒子が多孔質ガラス担体に均一に担持された金微粒子触媒を得ることができる。本発明方法によって得られる金微粒子触媒は、触媒反応に対して被毒物質となるハロゲンを含有しないため、各種の触媒反応に対して高い活性を示す。例えば、一酸化炭素酸化除去などの室内空気浄化に好適に用いることができる。また、NOx低減等の大気環境保全、水素中の一酸化炭素選択酸化等の燃料電池関連反応、プロピレンからのプロピレンオキサイド合成反応等の化学プロセス用反応等の従来から金微粒子触媒が用いられている各種の分野へ使用してもよい。
【0069】
<多孔質ガラス担体の製造>
本発明で用いる多孔質ガラス担体は、スピノーダル分相したガラスの一方の相を酸で溶出することにより製造されることが好ましい。より詳細には、多孔質ガラス担体の製造方法は、例えば、ガラス母材を熱処理して2相に分相させて分相ガラス材を得る分相工程、及び、分相ガラス材の一方の相を酸で除去する除去工程を含むことが好ましい。
【0070】
<分相工程>
分相工程では、ガラス母材を熱処理して2相に分相させて分相ガラス材を得る。ガラス母材は、例えば、モル%で、SiO 40~80%、B 0超~40%、NaO 0超~20%、KO 0~20%、TiO 0~10%、ZrO 0超~20%、Al 0~10%、及び、RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種) 0~20%を含有することが好ましい。以下、ガラス母材における各成分の含有量を上記のように特定した理由を説明する。なお、特に断りがない場合、ガラス母材の成分含有量に関する説明において、「%」は「モル%」を意味する。
【0071】
SiOはガラスネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は40~80%、45~75%、47~60%、特に50~65%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、製造工程においてガラス母材が割れやすくなる。SiOの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0072】
はガラスネットワークを形成し、分相を促進する成分である。Bの含有量は0超~40%、10~30%、特に15~25%であることが好ましい。Bの含有量が少なすぎると、分相が進みにくくなる。Bの含有量が多すぎると、ガラス母材の耐候性が低下しやすくなる。
【0073】
NaOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに、分相を促進させる成分である。NaOの含有量は0超~20%、3~15%、特に4~10%であることが好ましい。NaOの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくい。NaOが多すぎると、かえって分相が進みにくくなる。
【0074】
Oはガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であるとともに、分相を促進させる成分である。また、シリカリッチ相中のZrO含有量を増加させる成分である。そのため、KOを含有させることにより、得られる多孔質ガラス担体中のZrO含有量が増加し、耐アルカリ性を向上させることができる。KOの含有量は0~20%、0.3超~5%、0.5~5%、特に0.8~3%であることが好ましい。KOの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくい。一方、KOの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0075】
NaO+KOの含有量(NaO及びKOの合量)は0超~20%、2~15%、4~12%、特に5~10%であることが好ましい。NaO+KOの含有量が少なすぎると、溶融温度が高くなり、溶融性が低下するおそれがある。また分相しにくくなる。NaO+KOの含有量が多すぎると、逆に分相しにくくなる。
【0076】
TiOはガラス母材の酸処理時のエッチングレートを高める成分である。TiOの含有量は0~10%、0.1~58%、特に0.5~56%であることが好ましい。TiOの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくくなる。一方、TiOの含有量が多すぎると、多孔質ガラス担体が着色し可視光透過率が低下しやすくなる。
【0077】
ZrOはガラス母材の耐候性や多孔質ガラス担体の耐アルカリ性を向上させる成分である。ZrOの含有量は0超~20%、2~15%、特に2.5~12%であることが好ましい。ZrOの含有量が少なすぎると、上記効果を得にくい。一方、ZrOの含有量が多すぎると、失透しやすくなるとともに分相しにくくなる。
【0078】
TiO+ZrOの含有量(TiO及びZrOの合量)は0超~25%、1~20%、特に3~20%であることが好ましい。TiO+ZrOが小さすぎると、多孔質ガラス担体の耐アルカリ性が低下しやすくなる。一方、TiO+ZrOが多すぎると、分相しにくくなる。
【0079】
Alは多孔質ガラス担体の耐候性や機械的強度を向上させる成分である。Alの含有量は0~10%、0.1~7%、特に1~5%であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、溶融温度が上昇し溶融性が低下しやすくなる。
【0080】
MgO、CaO、SrO及びBaOは、シリカリッチ相中のZrO含有量を増加させる成分である。そのため、ROを含有させることにより、得られる多孔質ガラス担体中のZrO含有量が増加し、耐アルカリ性を向上させることができる。また、上記成分は多孔質ガラス担体の耐候性を向上させる成分である。MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrO及びBaOの合量)は0~20%、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12であることが好ましい。これらの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。なお、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量は各々0~20%、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12%であることが好ましい。また、MgO、CaO、SrO及びBaOから選択される少なくとも2種の成分を含有させる場合、その合量は0~20%、1~17%、3~15%、4~13%、5~12%、特に6.5~12%であることが好ましい。多孔質ガラス担体の耐アルカリ性を向上させる効果が特に大きいという点で、CaOを使用することが好ましい。
【0081】
ガラス母材は上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
【0082】
ZnOはシリカリッチ相中のZrO含有量を増加させる成分である。ZnOの含有量は0~20%、0~10%、特に0~3%未満であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、分相しにくくなる。
【0083】
は分相を促進させる成分である。Pの含有量は0~10%、0.01~5%、特に0.05~2%であることが好ましい。Pの含有量が多すぎると、結晶化する恐れがある。
【0084】
また、LiO、La、Ta、TeO、Nb、Gd、Y、Eu、Sb、SnO及びBi等を各々15%以下、各々10%以下、特に各々5%以下、合量で30%以下の範囲で含有させてもよい。
【0085】
なお、PbOは環境負荷物質であるため、実質的に含有しないことが好ましい。
【0086】
所望のガラス組成となるように調合したガラスバッチを、例えば1300~1600℃で3~12時間溶融する。次いで、溶融ガラスを成形した後、例えば400~600℃で10分~10時間徐冷を行うことによりガラス母材を得る。得られたガラス母材の形状は特に限定されず、必要な多孔質ガラス担体の形状に応じて適宜選択することができる。
【0087】
次に、得られたガラス母材を熱処理し、シリカリッチ相と酸化ホウ素リッチ相の2相に分相(スピノーダル分相)させて分相ガラス材を得る。ガラス母材の熱処理温度は500~800℃、600~780℃、特に650~750℃であることが好ましい。熱処理温度が高すぎると、ガラス母材が軟化変形する恐れがある。熱処理温度が低すぎると、ガラス母材を分相させにくくなる。熱処理時間は1分以上、10分以上、特に30分以上であることが好ましい。熱処理時間が短すぎると、ガラス母材を分相させにくくなる。熱処理時間の上限は特に限定されないが、長時間熱処理しても分相はある一定以上は進まなくなるため、現実的には180時間以下である。
【0088】
なお、分相工程において、分相ガラス材の最表面にシリカ含有層(シリカを概ね80モル%以上含有する層)が形成される場合がある。シリカ含有層は酸で除去し難いため、シリカ含有層が形成された際は、分相ガラス材を切削または研磨し、シリカ含有層を除去した後に酸に浸漬させると、酸化ホウ素リッチ相を除去しやすくなる。また、シリカ含有層を除去するために、分相ガラス材をフッ酸に短時間浸漬させてもよい。
【0089】
<除去工程>
次に、分相ガラス材を酸溶液に浸漬させ、酸化ホウ素リッチ相を除去することにより多孔質ガラス担体を得る。酸溶液としては、塩酸や硝酸を用いることが好ましく、これらの酸溶液を混合して用いてもよい。酸溶液の濃度は0.1~5mol/L、特に0.5~3mol/Lであることが好ましい。酸溶液への浸漬時間は0.1時間以上、0.2時間、特に1時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、エッチングが不十分となり、所望の細孔径、細孔容積、又は比表面積を有する多孔質ガラス担体を得にくくなる。浸漬時間が長すぎると、多孔質ガラス担体が酸溶液に溶解する恐れがあるため、浸漬時間の上限は50時間以下、40時間以下、30時間以下、20時間以下、特に10時間以下であることが好ましい。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、エッチングが不十分となり、所望の連続孔を有する多孔質ガラス担体を得にくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には、99℃以下である。
【0090】
また、酸化ホウ素リッチ相を酸で除去した多孔質ガラス担体は、細孔内にホウ素リッチ相由来のSiOゲル及びZrOゲルが残留する。したがって、酸化ホウ素リッチ層の除去処理に加えて、さらに酸溶液及びアルカリ溶液による追加のエッチング処理を行うことにより、ZrOゲルやSiOゲルを除去することが好ましい。
【0091】
ZrOゲルは、例えば多孔質ガラス担体を硫酸に浸漬させることで除去できる。硫酸の濃度は0.1~5mol/L、特に1~5mol/Lであることが好ましい。硫酸への浸漬時間は0.1時間以上、0.2時間以上、特に1時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、ZrOゲルを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には50時間以下、40時間以下、30時間以下、20時間以下、さらには10時間以下である。浸漬温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、ZrOゲルを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には99℃以下である。
【0092】
SiOゲルは、例えば多孔質ガラス担体をアルカリ溶液に浸漬させることで除去できる。アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を用いることができる。なお、これらのアルカリ溶液を混合して用いてもよい。アルカリ溶液の濃度は0.1~5mol/L、特に0.5~3mol/Lであることが好ましい。アルカリ溶液への浸漬時間は0.1時間以上、特に0.2時間以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、SiOゲルを除去しにくくなる。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には20時間以下、さらには10時間以下である。浸漬温度は15℃以上、特に20℃以上であることが好ましい。浸漬温度が低すぎると、SiOゲルを除去しにくくなる。浸漬温度の上限は特に限定されないが、現実的には99℃以下である。
【実施例0093】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
<実施例>
はじめに、表1に示すガラス組成となるように原料を調合した。次に、調合した原料を白金坩堝に入れ、1500℃で4時間溶融した。溶融時には白金スターラーを用いて攪拌し、溶融ガラスの均質化を行った。次に、得られた溶融ガラスを金属板上に流し出して板状に成形した後、540℃~580℃で30分間徐冷し、ガラス母材を得た。得られたガラス母材は10mm×10mm×0.5mmのサイズとなるよう切削及び研磨を行った。
【0098】
次に、ガラス母材を熱処理して分相ガラス材を得た。具体的には、ガラス母材を電気炉に入れて695℃で24時間熱処理を行った。
【0099】
得られた分相ガラス材に対して以下の処理を行った。はじめに1mol/Lの硝酸(95℃)中に48時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。続いて、第2の酸処理として3mol/Lの硫酸(95℃)中に48時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。続いて、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(25℃)中に5時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄した。最後に、自然乾燥により水分を揮発させ、多孔質ガラス担体を得た。
【0100】
得られた多孔質ガラス担体の断面をFE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡、日立製作所社製SU-8220)で観察したところ、いずれのガラスもスピノーダル分相に基づいたスケルトン構造を有していた。また、得られた多孔質ガラス担体の組成、細孔径分布の中央値を表2に示す。多孔質ガラス担体の組成は、EDX(エネルギー分散型X線分析装置、堀場製作所製EMAX Evolution EX-370 X-Max150)により調査した。細孔径分布の中央値は、細孔径分布測定装置(アントンパール社製 QUADRASORB SI)により測定した。
【0101】
次に、多孔質ガラス担体へ金微粒子担持を行った。はじめに、酢酸金Au(CHCOO)(Thermo Scientific製)95.2mgを0.1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液50mLに加え、超音波分散させた後90分の沸騰還流を行った。当該操作により[Au(OH)を含む金錯体溶液を得た。次に、当該金錯体溶液を担持量に対応した分量測りとり、1gの粒状の多孔質ガラス担体へ加え、40℃で蒸発乾固させた。350℃で30分、大気雰囲気で熱処理を行った後、洗浄液が中性になるまで水洗し、100℃で乾燥させることにより金担持多孔質ガラス担体を得た。FE-SEMにより観察すると、実施例1から3いずれも、平均粒子径6nmの金微粒子が担持されていた。金微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察から粒子径分布を作成することにより求めた。
【0102】
CO酸化活性(CO転化率)は流通式固定床型装置で測定した。はじめに、100mgの触媒粉末をサンプル管に詰め、シリカウールで蓋をした。20%O(Ar balance)を用いて250℃20分の前処理を行った。反応ガスには1%COガス(in air)を用い、流速33mL/minで供給した。恒温槽で温度を制御し、白金温度計にて温度をモニタリングした。測定温度範囲は0~200℃とした。反応ガス中のCO濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所製GC-8A)で分析し、触媒層を通さないときのCO濃度を基準にしてCO転化率を算出した。50%CO転化温度を表3に示す。
【0103】
<比較例>
ジメチル金(III)、金(II)アセチルアセトナートとSiO粉末をアルゴンガス雰囲気で粉砕した後、空気中、300℃で焼成し金担持SiO(比較例1)を作製した。比較例1について、実施例と同様に50%CO転化温度を評価した。評価結果を表3に示す。
【0104】
表3に示すように、実施例1~3における50%CO転化温度は80℃以下と低くなった。一方、比較例1における50%CO転化温度は200℃超と高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、金微粒子が均一に担持された多孔質ガラス担体からなる触媒を得ることができる。当該触媒は、触媒反応に対して被毒物質となるハロゲンを含まず、簡単な処理方法によって得ることができる。また、本発明の触媒は高いCO酸化活性を有することから、排ガス浄化用触媒として好適である。