(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027623
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】ラン複合抽出物、及び抗うつ効果を有する組成物を製造するための使用
(51)【国際特許分類】
A61K 36/898 20060101AFI20250220BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20250220BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20250220BHJP
A61K 31/047 20060101ALI20250220BHJP
A61K 31/20 20060101ALI20250220BHJP
A61K 31/336 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
A61K36/898
A61P25/24
A61K31/045
A61K31/047
A61K31/20
A61K31/336
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132553
(22)【出願日】2023-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】523312705
【氏名又は名称】竇建文
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】蕭郁芸
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZA12
4C088AB89
4C088BA08
4C088NA14
4C088ZA12
4C206CA08
4C206DA04
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、複数のジメチルオクタン系化合物及び他の分離不能な成分を含む揮発性芳香化合物を含有するラン複合抽出物に関する。
【解決手段】このラン複合抽出物は、必要のある被験者に所定期間連続投与されることで、被験者の脳の接続性及び自律神経系を改善し、さらに主観的情感を調整することができるため、有効成分として、抗うつ効果を有する組成物の製造に使用される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルオクタン系化合物(dimethyloctane-based compound)及び他の分離不能な成分を含む揮発性芳香化合物(volatile aroma compound)を有効成分として少なくとも70重量%含有するラン複合抽出物。
【請求項2】
該ジメチルオクタン系化合物が、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール(3,7-dimethyl-1,6-octadien-3-ol)、2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオール(2,6-dimethyl-3,7-octadiene-2,6-diol)、2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール(2,6-dimethyl-1,7-octadiene-3,6-diol)、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール(3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol)及び2,6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオール(2,6-dimethyl-2,6-octadiene-1,8-diol)からなる群より選ばれるジメチルオクテノール(dimethyl octenol)を含む請求項1に記載のラン複合抽出物。
【請求項3】
30重量%~45重量%の該3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールと、40重量%~50重量%の該3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールとを含み、該3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールの含有量が該3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールの含有量よりも大きい請求項2に記載のラン複合抽出物。
【請求項4】
該3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールと、該3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールとを55重量%~95重量%含み、該3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールの含有量が該3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールの含有量よりも大きい請求項2に記載のラン複合抽出物。
【請求項5】
該3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール、該3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール、該2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール、該2,6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオール、及び該2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオールを60重量%~90重量%含む請求項2に記載のラン複合抽出物。
【請求項6】
該3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールが、シス-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール[(2Z)-3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol]及びトランス-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール[(2E)-3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol]を含む異性体を含有する請求項2に記載のラン複合抽出物。
【請求項7】
該ジメチルオクタン系化合物が、ジメチルオクタノールオキシド(dimethyl octanol oxide)及び/又はジメチルオクタジエン酸(dimethyl octadienoic acid)をさらに含む請求項1に記載のラン複合抽出物。
【請求項8】
該ジメチルオクタノールオキシドが、1,2-エポキシ-3,7-ジメチル-6-オクテン-3-オール(1,2-epoxy-3,7-dimethyl-6-octen-3-ol)を含む請求項7に記載のラン複合抽出物。
【請求項9】
該ジメチルオクタジエン酸が、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸(3,7-dimethyl-2,6-octadienoic acid)を含む請求項7に記載のラン複合抽出物。
【請求項10】
ファレノプシスベリーナ(Phalaenopsis bellina)由来である請求項1に記載のラン複合抽出物。
【請求項11】
有効量のラン複合抽出物を含む組成物をその必要のある被験者に少なくとも1ヶ月連続投与することを含み、該ラン複合抽出物は、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール、2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオール、2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール、及び2,6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオールからなる群より選ばれるジメチルオクテノールを含むジメチルオクタン系化合物と、他の分離不能な成分とを含む揮発性芳香化合物を少なくとも70重量%含有し、該組成物の剤形が、固体、液体又は気体を含む、抗うつ効果を有する組成物を製造するためのラン複合抽出物の使用。
【請求項12】
該ジメチルオクタン系化合物が、ジメチルオクタノールオキシド及び/又はジメチルオクタジエン酸をさらに含み、該ジメチルオクタノールオキシドが、1,2-エポキシ-3,7-ジメチル-6-オクテン-3-オールを含み、該ジメチルオクタジエン酸が、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸を含む請求項11に記載の抗うつ効果を有する組成物を製造するためのラン複合抽出物の使用。
【請求項13】
該抗うつ効果には、該被験者の脳の接続性及び自律神経系の改善、該被験者の主観的情感の調整が含まれる請求項11に記載の抗うつ効果を有する組成物を製造するためのラン複合抽出物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラン抽出物及びその使用に関し、特に、複数の揮発性ジメチルオクタン系化合物を含むラン複合抽出物、及び抗うつ効果を有する組成物を製造するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アロマテラピー(aromatherapy)は、精油及び他の芳香化合物を含む植物材料や芳香性植物油を使用することで、精神的又は身体的健康を改善する。アロマテラピーは、補完療法(complementary therapy)として、又は代替医療(alternative medicine)の一形態として用いることができる。標準治療と補完療法を併用することができ、アロマテラピーが心身疾患の様々な面に臨床的影響を与える可能性があることを示す証拠が増えている。
【0003】
しかしながら、芳香剤そのものに関しては、芳香剤の定量化又は精製を可能にする研究はほとんどない。また、着香剤のほとんどは化合物で成分が複雑である。したがって、天然植物の複合抽出物及びその新規用途の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【0004】
このため、本発明の一態様において、複数のジメチルオクタン系化合物(dimethyloctane-based compound)を含む揮発性芳香化合物(volatile aroma compound)を有効成分として含有するラン複合抽出物を提供する。
【0005】
また、本発明の他の態様において、複数のジメチルオクタン系化合物及び他の分離不能な成分を含む揮発性芳香化合物を組成物の有効成分として、固体、液体又は気体の剤形で被験者に投与することで、被験者の脳の接続性(brain connectivity)及び自律神経系(autonomic system,ANS)を改善し、主観的情感(subjective feeling)を調整する、抗うつ効果を有する組成物を製造するためのラン複合抽出物の使用を提供する。
【0006】
本発明の前記態様によれば、ラン複合抽出物を提出する。一実施例において、このラン複合抽出物は、揮発性芳香化合物(volatile aroma compound)を有効成分として少なくとも70重量%(wt.%)含んでもよく、前記揮発性芳香化合物は、例えば、ジメチルオクタン系化合物(dimethyloctane-based compound)及び他の分離不能な成分を含んでもよい。
【0007】
前記実施例において、前記ジメチルオクタン系化合物は、例えば、ジメチルオクテノール(dimethyl octenol)を含んでもよい。いくつかの例において、前記ジメチルオクテノールは、例えば、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール(3,7-dimethyl-1,6-octadien-3-ol)、2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオール(2,6-dimethyl-3,7-octadiene-2,6-diol)、2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール(2,6-dimethyl-1,7-octadiene-3,6-diol)、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール(3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol)、及び2,6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオール(2,6-dimethyl-2,6-octadiene-1,8-diol)からなる群より選ばれてもよい。
【0008】
前記実施例において、前記ラン複合抽出物は、30重量%~45重量%の3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールと、40重量%~50重量%の3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールとを含んでもよく、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールの含有量が3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールの含有量よりも大きい。いくつかの例において、前記ラン複合抽出物は、例えば、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールと、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールとを55重量%~95重量%含んでもよく、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールの含有量が3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールの含有量よりも大きくてもよい。
【0009】
前記実施例において、前記ラン複合抽出物は、例えば、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール、2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール、2,6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオール、及び2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオールを60重量%~71重量%含んでもよい。
【0010】
前記実施例において、前記3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールは、1つ又は複数の異性体を含んでもよく、前記異性体は、例えば、シス-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール[(2Z)-3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol]及びトランス-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール[(2E)-3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol]を含んでもよい。
【0011】
前記実施例において、前記ジメチルオクタン系化合物は、さらに、ジメチルオクタノールオキシド(dimethyl octanol oxide)及び/又はジメチルオクタジエン酸(dimethyl octadienoic acid)を選択的に含んでもよい。いくつかの例において、前記ジメチルオクタノールオキシドは、例えば、1,2-エポキシ-3,7-ジメチル-6-オクテン-3-オール(1,2-epoxy-3,7-dimethyl-6-octen-3-ol)を含んでもよい。他のいくつかの例では、前記ジメチルオクタジエン酸は、例えば、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸[(2E)-3,7-dimethylocta-2,6-dienoic acid]を含んでもよい。
【0012】
前記実施例において、前記ラン複合抽出物は、ファレノプシスベリーナ(Phalaenopsis bellina)由来である。
【0013】
本発明の他の態様によれば、抗うつ効果を有する組成物を製造するためのラン複合抽出物の使用を提出する。有効量のラン複合抽出物を含有する医薬組成物を被験者に少なくとも28日間連続投与することを含み、ラン複合抽出物は、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール、2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオール、2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール、及び2,6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオールからなる群より選ばれるジメチルオクテノールを含有するジメチルオクタン系化合物を含む揮発性芳香化合物を少なくとも70重量%含有し、医薬組成物の剤形が、例えば、固体、液体又は気体を含んでもよい。
【0014】
前記実施例において、前記ジメチルオクタン系化合物は、ジメチルオクタノールオキシド及び/又はジメチルオクタジエン酸をさらに含み、ジメチルオクタノールオキシドは、例えば、1,2-エポキシ-3,7-ジメチル-6-オクテン-3-オールを含んでもよく、ジメチルオクタジエン酸は、例えば、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸を含んでもよい。
【0015】
前記実施例において、前記抗うつ効果には、被験者の脳の接続性及び自律神経系の改善、被験者の主観的情感の調整が含まれる。
【0016】
本発明に係るラン複合抽出物、及び抗うつ効果を有する組成物を製造するための使用において、このラン複合抽出物は、ジメチルオクタン系化合物及び他の分離不能な成分を含む揮発性芳香化合物を含有し、必要のある被験者に所定期間連続投与されることで、被験者の脳の接続性及び自律神経系を改善し、主観的情感を調整するため、有効成分として、抗うつ効果を有する組成物の製造に使用される。
【0017】
なお、上記の概略的な説明及び以下の詳細な説明は、単なる例示に過ぎず、保護を求めている発明をさらに説明するためのものであることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の上記及び他の目的、特徴、利点、実施例をより明確かつ理解しやすくするために、添付図面の詳細な説明は以下のとおりである。
【
図1】本発明の一実施例に係るラン複合抽出物のガスクロマトグラフィ質量分析クロマトグラムである。
【
図2A】本発明の一実施例に係るラン複合抽出物が投与された被験者の脳の矢状(sagittal)断面(
図2A)、冠状(coronal)断面(
図2B)及び軸位(axial)断面(
図2C)の磁気共鳴画像検査の画像である。
【
図2B】本発明の一実施例に係るラン複合抽出物が投与された被験者の脳の矢状(sagittal)断面(
図2A)、冠状(coronal)断面(
図2B)及び軸位(axial)断面(
図2C)の磁気共鳴画像検査の画像である。
【
図2C】本発明の一実施例に係るラン複合抽出物が投与された被験者の脳の矢状(sagittal)断面(
図2A)、冠状(coronal)断面(
図2B)及び軸位(axial)断面(
図2C)の磁気共鳴画像検査の画像である。
【
図3】本発明の一実施例において被験者にラン複合抽出物及びラベンダー精油(対照群、芳香族アルコールのみを含む)を投与する前後の心拍数変動を示す棒グラフである。
【
図4】本発明の一実施例において被験者にラン複合抽出物及び芳香族アルコール(対照群)を投与する前後の血清C-ペプチド濃度を示す棒グラフである。
【
図5】本発明の一実施例に係るラン複合抽出物の被験者の脳に対する考えられる作用メカニズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
参考文献における用語の定義又は使用が、本明細書での該用語の定義と一致しないか、又はそれに矛盾する場合、本明細書での該用語の定義が適用され、該参考文献における該用語の定義は適用されない。また、文脈上他の定義がない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0020】
上記のように、本発明は、ジメチルオクタン系化合物及び他の分離不能な成分を含む揮発性芳香化合物を有効成分として含有し、必要のある被験者に所定期間連続投与されることで、被験者の脳の接続性(brain connectivity)及び自律神経系(autonomic system,ANS)を改善し、主観的情感(subjective feeling)を調整する効果を奏することができる、抗うつ効果を有するラン複合抽出物、及び抗うつ効果を有する組成物を製造するための使用を提供する。
【0021】
一実施例において、ここでいう「ラン複合抽出物」と「オーキッド精油」とは、本明細書で互換的に使用してもよく、少なくとも70重量%(wt.%)の揮発性芳香化合物(volatile aroma compound)を有効成分として含有する複合抽出物を指す。特に限定しないが、一実施例において、前記ラン複合抽出物は、例えば、ファレノプシスベリーナ(Phalaenopsis bellina)の花に由来してもよい。前記揮発性芳香化合物は、天然(非合成)化合物であり、25℃における蒸気圧は、特に限定しないが、0.2mmHg以下、例えば、0.0002mmHg~0.2mmHgであることが好ましい。
【0022】
一実施例において、前記揮発性芳香化合物は、例えば、モノテルペン類(monoterpenes)であってもよく、例えば、ジメチルオクタン系化合物(dimethyloctane-based compound)及び他の分離不能な成分を含む。いくつかの例では、前記ジメチルオクタン系化合物は、例えば、ジメチルオクテノール(dimethyl octenol)を含んでもよい。
【0023】
いくつかの例において、前記ジメチルオクテノールの具体例は、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール(3,7-dimethyl-1,6-octadien-3-ol、リナロール(linalool)とも呼ばれ、下記式(I)で示される)、2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオール(2,6-dimethyl-3,7-octadiene-2,6-diol)、2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール(2,6-dimethyl-1,7-octadiene-3,6-diol)、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール(3,7-dimethyl-2,6-octadien-1-ol)、及び2、6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオール(2,6-dimethyl-2,6-octadiene-1,8-diol)からなる群を含んでもよいが、これらに限定されない。前記例において、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールは、シス-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール[(2Z)-3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol、ネロール(nerol)とも呼ばれる]及びトランス-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール[(2E)-3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol、ゲラニオール(trans-geraniol)とも呼ばれ、下記式(II)で示される]を含む異性体を含んでもよい。
【0024】
他の実施例において、前記ジメチルオクタン系化合物は、ジメチルオクタノールオキシド(dimethyl octanol oxide)及び/又はジメチルオクタジエン酸(dimethyl octadienoic acid)を選択的に含んでもよい。
【0025】
いくつかの例において、前記ジメチルオクタノールオキシドの具体例は、1,2-エポキシ-3,7-ジメチル-6-オクテン-3-オール[1,2-epoxy-3,7-dimethyl-6-octen-3-ol、リナロールオキシド(linalool oxide)又は1,2-エポキシリナロール(1,2-epoxylinalool)とも呼ばれる]を含んでもよいが、これに限定されない。
【0026】
他の例において、前記ジメチルオクタジエン酸の具体例は、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸[3,7-dimethyl-2,6-octadienoic acid、ゲラン酸(geranic acid)とも呼ばれる]を含んでもよいが、これに限定されない。
【0027】
前記ラン複合抽出物は、従来の方法で製造することができ、例えば、BMC Plant Biology(2006年第6号、論文番号14(合計14ページ))で開示された方法、及び中国特許公告番号CN211374645Uで開示された揮発性芳香化合物の収集装置によって製造することができ、これらは参考文献として本明細書に組み込まれる。
【0028】
つまり、ファレノプシスベリーナ(Phalaenopsis bellina)を温度30℃/25℃(昼/夜)、相対湿度84%、光合成光量子束密度(photosynthetic photon flux density,PPFD)90μmolm-2s-1で栽培する。開花の3段目(即ち、開花後5日目~10日目)において、ファレノプシスベリーナ全体を従来の揮発性芳香化合物収集装置の内部に入れ、ヘッドスペース吸着抽出法(headspace sorptive extraction,HSSE)によって、活性炭トラップ(1.5mg)を用いて400ml/分の速度で前記装置の内部から空気を吸引し、28~42時間(1日当たり7時間連続で、4~6日間にわたって)にわたって花を抽出した後、従来の減圧濃縮法で溶媒を除去して、揮発性芳香化合物を収集する。前記揮発性芳香化合物を従来の再溶解(redissolving)、保留(fixing)及び熟成(aging)処理して、ラン複合抽出物を得る。前記熟成処理において、再溶解及び保留後の揮発性芳香化合物溶液に、生花の均一物(天然の触媒用酵素を含有する)を加え、30℃~40℃で1~3ヶ月処理することにより、精油を十分に反応させて、熟成された精油を得る。なお、得られたラン複合抽出物が前記揮発性芳香化合物を含有することで、被験者の脳の接続性及びANSを改善し、主観的情感を調整する効果を奏するには、本発明では特定品種のランを選ぶ必要がある。ランが前記特定品種から選択されなかった場合、前記特定の成分及び特定の含有量の揮発性芳香化合物を得ることが期待できず、被験者の脳の接続性及びANSの改善、主観的情感の調整の効果も期待できない。
【0029】
一例において、前記ラン複合抽出物は、揮発性芳香化合物を豊富に含み、例えば、30重量%~45重量%の3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールと、40重量%~50重量%の3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールとを含んでもよく、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールの含有量は、例えば、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールの含有量よりも大きくてもよい。他の例において、前記ラン複合抽出物は、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールと、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールとを55重量%(wt.%)~95重量%含んでもよく、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールの含有量が3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールの含有量よりも大きくてもよい。他の例において、前記揮発性芳香化合物を豊富に含むラン複合抽出物は、例えば、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール、2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール、2,6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオール、及び2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオールを60重量%~71重量%含んでもよい。
【0030】
ここでいう「他の分離不能な成分」とは、従来の前処理、抽出処理、後処理工程で分離できない、又は分離が困難な揮発性成分を指す。一例において、該ラン複合抽出物は、他の分離不能な成分を、例えば、45重量%以下の含有量で含んでもよいが、好ましくは45重量%以下、より好ましくは30~36重量%以下である。
【0031】
使用時において、前記ラン複合抽出物は、必要のある被験者に所定期間連続投与されることで、被験者の脳の接続性(brain connectivity)及び自律神経系(autonomic system,ANS)を改善し、主観的情感(subjective feeling)を調整する効果を奏することができるため、有効成分として、抗うつ効果を有する組成物(例えば、医薬組成物、化粧品組成物など)の製造に使用される。
【0032】
一実施例において、前記ラン複合抽出物の被験者への投与方法は、例えば、アロマテラピーであってもよい。この実施例において、ラン複合抽出物の剤形は、固体、液体又は気体を含んでもよいが、これらに限定されない。ここでいう「アロマテラピー」とは、非伝統医学の補完療法又は処理に属しており、通常、香燻らし、霧化、直接吸入、経皮吸収などの方法によって、揮発性芳香化合物を豊富に含むラン複合抽出物を被験者に投与することで、抗うつ効果を評価することを指す。
【0033】
いくつかの例において、前記ラン複合抽出物の被験者への投与期間は、特に限定せず、少なくとも1ヶ月、1ヶ月~3ヶ月、2ヶ月、又は前記期間よりも長い期間又は短い期間にわたって連続投与してもよい。
【0034】
他のいくつかの例において、前記ラン複合抽出物の被験者への投与量は特に限定しない。市販の精油ディフューザーにより霧化を行う例において、市販の精油電子ディフューザーにラン複合抽出物を、例えば、10mlあたり1~10滴添加して霧化を行い、被験者は1日に10~30分間吸入する。前記ラン複合抽出物を霧化して被験者に投与するための空間は特に限定せず、開放、半開放又は密閉空間のいずれであってもよいが、約40m3~約60m3の大きさの密閉空間が好ましい。ラン複合抽出物を吸入する際に、ラン複合抽出物の投与量を増やすように、被験者は、経皮吸収を選択的に併用してもよい。
【0035】
ここでいう「抗うつ効果」とは、客観的神経生理指標及び主観的情感尺度に基づいて、ラン複合抽出物の被験者に対する抗うつ効果を評価することを指す。一実施例において、前記客観的神経生理指標は、脳の接続性(brain connectivity)及び自律神経系(autonomic system,ANS)の評価指標を含んでもよいが、これらに限定されない。いくつかの例において、脳の接続性の評価指標は、機能的接続性(functional connectivity,FC)の変化率を含んでもよいが、これに限定されず、ANSの評価指標は、心拍数変動(heart rate variability,HRV)、交感神経活動、副交感神経活動を含んでもよいが、これらに限定されない。他の実施例において、話しすぎ、喜び、悲しみ、眠気、不安、緊張、元気いっぱい、落ち着き、恐怖、憂うつ、怒り、興奮、快適などの主観的情感を評価するように、前記主観的情感尺度は、視覚的アナログスケール(Visual analogue scale,VAS)を含んでもよいが、これに限定されない。他の実施例において、例えば、血清c-ペプチド濃度(インスリン抵抗性の低下に関連する)など、脳の接続性及びANSに関連する他の生理活性も評価指標として選ばれてもよい。ラン複合抽出物を被験者に所定期間投与した後に、FC変化率の低下、HRVの安定化、交感神経活動の低下、副交感神経活動の上昇、c-ペプチド濃度の減少、元気いっぱい、落ち着き、快適のうちの少なくとも1つが現れた場合、ラン複合抽出物に抗うつ効果があると判断する。
【0036】
なお、以下の特定のラン品種、特定の製造工程、特定の組成、特定の投与量、特定の検査方法、視点、例及び実施例は、説明のための例示に過ぎず、本発明を限定するものではないことが理解されるであろう。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の主な特徴は様々な実施例に適用することができる。したがって、当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本技術案の必要な技術的特徴を容易に確定し、本発明に対して様々な変更や修飾を行って、異なる使用及び条件に適用することができる。
【0037】
【実施例0038】
1.1 ラン複合抽出物の製造
【0039】
ラン複合抽出物(ラン精油とも呼ばれる)及びラベンダー精油(対照群とする)は、BMC Plant Biology(2006年第6号、論文番号14(合計14ページ))で開示された方法、及び中国特許公告番号CN211374645Uで開示された装置により製造された。
【0040】
まず、ファレノプシスベリーナ(P.bellina)を温度30℃/25℃(昼/夜)、相対湿度84%、PPFD 90μmolm-2s-1で栽培した。開花の3段目(即ち、開花後5日目~10日目)において、ファレノプシスベリーナ全体を揮発性芳香化合物収集装置の内部に入れ、ヘッドスペース吸着抽出法(HSSE)によって、活性炭トラップ(1.5mg)を用いて400ml/分の速度で前記装置の内部から空気を吸引し、35時間(1日当たり7時間連続で、5日間にわたって)にわたって花を抽出した後、従来の減圧濃縮法で溶媒を除去して、揮発性芳香化合物を収集した。前記揮発性芳香化合物を従来の再溶解、保留及び熟成処理して、ラン複合抽出物を得た。前記熟成処理において、再溶解及び保留後の揮発性芳香化合物溶液に、生花の均一物(天然の触媒用酵素を含有する)を加え、30℃~40℃で2ヶ月処理することにより、精油を十分に反応させて、熟成された精油を得た。
【0041】
市販のガスクロマトグラフィ質量分析装置(Gas Chromatography Mass Spectrometer,GC-MS)によって分析した結果、ラン複合抽出物に含まれる揮発性芳香化合物には、ジメチルオクタン系化合物(dimethyloctane-based compound)及び他の分離不能な成分が含まれていた。
【0042】
前記ジメチルオクタン系化合物は、ジメチルオクテノール(dimethyl octenol)を含む。ジメチルオクテノールは、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール[(3,7-dimethyl-1,6-octadien-3-ol、リナロール(linalool)とも呼ばれる)]、2,6-ジメチル-3,7-オクタジエン-2,6-ジオール(2,6-dimethyl-3,7-octadiene-2,6-diol)、2,6-ジメチル-1,7-オクタジエン-3,6-ジオール(2,6-dimethyl-1,7-octadiene-3,6-diol)、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール[3,7-dimethylocta-2,6-dien-1-ol、ここで、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールのシス異性体は、ネロール(nerol)とも呼ばれ、トランス異性体はゲラニオール(trans-geraniol)とも呼ばれる]、及び2、6-ジメチル-2,6-オクタジエン-1,8-ジオール(2,6-dimethyl-2,6-octadiene-1,8-diol)を含んでもよい。
【0043】
前記ジメチルオクタン系化合物は、ジメチルオクタノールオキシド(dimethyl octanol oxide)及び/又はジメチルオクタジエン酸(dimethyl octadienoic acid)をさらに含む。ジメチルオクタノールオキシドは、1,2-エポキシ-3,7-ジメチル-6-オクテン-3-オール[1,2-epoxy-3,7-dimethyl-6-octen-3-ol、リナロールオキシド(linalool oxide)又は1,2-エポキシリナロール(1,2-epoxylinalool)とも呼ばれる]を含む。ジメチルオクタジエン酸は、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸[3,7-dimethyl-2,6-octadienoic acid、ゲラン酸(geranic acid)とも呼ばれる]を含む。
【0044】
図1及び表1を参照されたい。
図1及び表1では、本発明の一実施例に係るラン複合抽出物のガスクロマトグラフィ質量分析クロマトグラム(
図1)及び各成分の含有量(表1)を示している。
図1及び表1の結果から分かるように、実施例1のラン複合抽出物に含まれる揮発性芳香化合物は、すべて天然化合物であり、主に、例えば、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール[
図1の式(I)で示される]及びトランス-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール[
図1の式(II)で示される]などのジメチルオクタン系化合物であった。
【0045】
また、
図1中の各ピークは異なる化合物を表しており、主要な化合物である3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールとトランス-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール以外にも、多くの分離不能な成分があるため、前記化合物が添加された標準品で容易に模倣することはできない。
【0046】
【0047】
1.2 被験者
【0048】
この実施例は、二群、ランダム化比較、二重盲検試験である。39人の被験者を募集し、ランダムにアロマテラピー群(ラン群被験者19人及びラベンダー群被験者20人を含む)と非アロマテラピー群(非アロマテラピー群被験者18人を含む)に分けた。前記被験者の年齢は18歳~65歳であった。医師は、ミニ国際神経精神医学インタビュー(the Mini International Neuropsychiatric Interview,MINI)の中国語版に基づいて、被験者に他の精神的、医学的又は神経的障害がないかを評価し、潜在的な精神疾患がある被験者を除外した。除外対象は、(i)検査/面談時に医学的又は精神的疾患を持つ患者、(ii)妊婦、妊娠している可能性のある女性及び授乳中の女性、(iii)過去6ヶ月以内に薬物又はアルコール依存又は乱用の経験のある患者、(iv)ラン及びラベンダーにアレルギーのある被験者、(v)園芸の趣味があるか、前記植物に頻繁に接触する被験者を含む。充分な説明の後、告知された被験者全員が同意した。この実施例は、成功大学附属病院の人体研究倫理審査委員会によって審査され、承認された。
【0049】
1.3 アロマテラピー
【0050】
同じ濃度の前記ラン複合抽出物又は対照群のラベンダー精油を市販の精油電子ディフューザに10mlあたり4滴加えて霧化して、被験空間(約40m3~約60m3の大きさ)を揮発性芳香化合物で満たして、被験者に対するアロマテラピーが効果的に行われるようにした。
【0051】
被験者は、アロマテラピーを毎日1回、2ヶ月間継続した。毎回のアロマテラピーは、2つの段階に分けてそれぞれ15分間ずつ行われ、2つの段階の間に被験者の休憩時間を10分間確保した。
【0052】
実施例2、評価方法
【0053】
2.1 生理指標
【0054】
2.1.1 脳機能の磁気共鳴画像検査
【0055】
(1)画像の取得
【0056】
アロマテラピーの前後に、磁気共鳴画像スキャナーにより被験者の脳機能をそれぞれ解析した。まず、被験者に8チャンネルヘッドコイルを装着し、国立成功大学心理研究及び画像形成センターで3.0テスラ磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging,MRI)スキャナー(MR750,GE Medical Systems,Milwaukee,WI,USA)によって安静時機能的MRI(functional MRI,fMRI)を撮像した。高解像度のT1強調3D構造画像([TR]/[TE]=7.7ms/2.9ms、フリップ角=12°、視野=224mm2、面内マトリックスサイズ=256×256、スライス厚=1mm、スライス数=166)及びT2*強調エコープラナーイメージングシーケンス([TR]/[TE]=2000ms/33ms、フリップ角=90°、視野=240mm2、面内マトリックスサイズ=64×64、スライス厚=3mm、スライス数=40、5分10秒以内で取得)の撮像により、高解像度の解剖学的T1画像及びfMRI画像を得た。信号の飽和と磁場の安定性を確保するために、安静時fMRIシリーズの最初の5枚の機能的画像は除外された。被験者はスキャン中に覚醒した状態(目を閉じ、頭を動かさずにリラックスした状態で何も考えない)を維持する必要がある。また、被験者の頭部の動きと騒音を軽減するように、ヘッドクッションと耳栓が提供された。
【0057】
(2)画像の前処理
【0058】
安静時fMRIデータ処理アシスタント(Data Processing Assistant for Resting-State fMRI,DPARSF)ツールボックス(中国北京師範大学認知神経科学及学習国家重点実験室)及び統計的パラメトリックマッピング(Statistical Parametric Mapping 12,SPM12,Wellcome Trust Center for Neuroimaging,London,http://www.fil.ion.ucl.ac.uk/spm)によって前処理を行った。MATLAB 2016a ソフトウェア(MathWorks Inc.,Natick,MA,USA)によって、すべての機能的画像に対して、スライスタイミング(slice timing)補正、頭部の動き補正であるリアラインメント、個人ごとの解剖学的画像に対するコレジストレーション、国際脳マッピングコンソーシアム(International Consortium for Brain Mapping,ICBM)による東アジア人の脳に対する空間テンプレートを用いた標準化処理を行った。頭部の動きが2mm又は2°を超える被験者の画像は除外された。標準化ステップにおいて、画像は、2mm3の等方性ボクセルサイズにリサンプリングされた後、半値全幅が6mmの3Dガウスカーネル(Gaussian kernel)で空間的に平滑化された。その後、線形トレンドを除去し、得られた時系列から頭部動きパラメータを回帰し、自発的なニューロン活動に関連する低周波振動を抽出するように、時系列は時間バンドパスフィルタ(0.01~0.1Hz)で調整された。
【0059】
(3)視床シード(thalamus seeds)の定義
【0060】
Kjelvik G.らにより2012年7月に神経生理学雑誌(J.Neurophysiol.)第108巻第2号645~57頁に発表された「人間の脳における匂い識別の表現(The human brain representation of odor identification)」における定義に基づいて、視床の関心領域(regions of interest,ROI)を中心とする半径3mmの球形をシードとして、全脳の安静時の接続性を検査した[モントリオール神経学研究所(Montreal Neurological Institute,MNI)座標(coordinates):左:-7、-10、8;右:7、-24、-2]。各群間の全脳のボクセルごとの解析(voxel-wise whole-brain,VVWB)の比較を計算した。各被験者のシード領域の平均時系列活動を抽出し、視床シードの機能的接続性(functional connectivity,FC)マップを生成した。その後、Fisherのr-to-z変換法によって、得られた個人毎のFCマップをzマップに変換して、群の2次分析を行った。
【0061】
2.1.2 HRV測定
【0062】
アロマテラピーの前後に被験者のANS活動及びHRV測定を行ってもよい。
【0063】
(1)ANS活動
【0064】
午前10時に始まる心血管測定の前に、快適な温度(25~27℃)を維持した静かな部屋で仰臥位の適応トレーニングを20分間行った。過換気を避けるために、被験者にはリラックスして普通に呼吸するよう指示された。心臓の自律機能は、心拍間隔(interbeat interval,IBI)の短期測定に基づいた幾何学的方法によって計算した。つまり、IBIk+1とIBIkをグラフに描画することによって、IBIのシーケンス(IBI1、IBI2・・・IBIn)を二次元平面上の図形に変換した。横軸(T)の長さは、交感神経及び副交感神経の遮断による影響を受けるが、縦軸(L)の長さは、副交感神経の遮断による影響のみを受ける。log10(L×T)は心臓迷走神経指数(cardiac vagal index)であり、L/T比率は心臓交感神経指数(cardiac sympathetic index)である。これら2つの指数は、従来の測定方法(スペクトル分析を含む)よりも信頼性が高いことが証明された。この幾何学的方法は、信頼性の高い測定方法であり、その利点としては、(i)呼吸や他の動作の制御が必要ないこと、及び(ii)評価には100個のIBI値だけで十分であることがある。
【0065】
(2)HRV測定
【0066】
HRVのパワースペクトル密度(power spectral densith,PSD)分析は、高速フーリエ変換(fast Fourier transformation,FFT)によって行われてもよい。関連するスペクトル成分は、低周波(LF)(0.04~0.15Hz)、HF(0.15~0.40Hz)及び総パワー(≦0.4Hz)に定義された。超低周波(VLF)の数値は除外された。総パワーは全ての自発活動を表す。HRVのHFパワーは、心臓の副交感神経(迷走神経)活動の指標を表し、LFパワーは、血管運動性交感神経活動又は交感神経と迷走神経活動の指標を表す。LF/HF比を交感神経と迷走神経による心臓への影響の相対的バランスの指標とし、LF/HF比が高いほど、交感神経活動の増加又は副交感神経調整の減少を表す。歪度を補正するように、これらの指標を自然対数に変換した。
【0067】
2.1.3 血液検査
【0068】
本実施例では、従来の血液検査法によってアロマテラピー前後の被験者の血液中のC-ペプチド(C-peptide)濃度を測定し、関連する測定方法は公知であるので、ここでは説明を省略する。
【0069】
2.2 視覚的アナログスケール(VAS)
【0070】
視覚的アナログスケール(VAS)は、アンケート調査による心理測定尺度である。VASは、直接測定できない主観的特徴又は態度を測定するためのツールである。各個別の項目に回答する際、回答者は、両端点間の実線に沿った指示位置によって、陳述に対する同意度を指定する。一部の研究では、これらの尺度で介入前後の被験者の情緒的反応を表している。この尺度は、アロマテラピー群のみに使用された。
【0071】
2.3 データ統計
【0072】
本明細書に記載された数値は、被験者にラン複合抽出物(実験群)、ラベンダー精油(対照群)を投与する前後の結果を分散分析(ANOVA)で検証したものであり、対照群の精油投与前後のデータは同じであった。アロマテラピー使用前後の複数の生理パラメータの変化率[(使用後の数値-使用前の数値)/使用前の数値)]を計算し、実験群及び対照群のFC接続性の変化率と他の変数との相関関係を分析した。その他の分析は、市販のソフトウェアSPSS Statistics 20.0(SPSS Inc.,Chicago,IL)で行われ、p<0.05で統計的有意差があると判断する。アスタリスク*はp<0.05を表す。
【0073】
実施例3、ラン複合抽出物の抗うつ効果の評価
【0074】
3.1 磁気共鳴画像(MRI)結果の評価
【0075】
図2A~
図2Cを参照されたい。
図2A~
図2Cでは、本発明の一実施例に係るラン複合抽出物が投与された被験者の脳の矢状(sagittal)断面(
図2A)、冠状(coronal)断面(
図2B)及び軸位(axial)断面(
図2C)のMRI検査の画像を示している。
【0076】
図2A~
図2Cに示すように、被験者にラン複合抽出物を2ヶ月連続投与すると、被験者の左視床と右下側頭回との接続が減少したため、ラン複合抽出物に抗うつ効果があると判断した。
【0077】
3.2 心拍数変動(HRV)の評価
【0078】
図3を参照されたい。
図3は、本発明の一実施例において被験者にラン複合抽出物及びラベンダー精油(対照群、芳香族アルコールのみを含む)を投与する前後の心拍数変動(HRV)を示す棒グラフである。
【0079】
図3に示すように、被験者にラン複合抽出物又はラベンダー精油(対照群、芳香族アルコールのみを含む)を投与する前後で、HRVに顕著な差はなかったが、低下の傾向が見られ、ラン複合抽出物を投与した後のHRVの低下傾向(平均値が1.69回/分減少)は、ラベンダー精油を投与したもの(平均値が0.29回/分減少)よりも大きかった。
【0080】
3.3 血清C-ペプチド濃度の評価
【0081】
図4を参照されたい。
図4は、本発明の一実施例において被験者にラン複合抽出物及びラベンダー精油(対照群、芳香族アルコールのみ含む)を投与する前後の血清C-ペプチド濃度を示す棒グラフであり、アスタリスク*はp<0.05を表す。
【0082】
図4に示すように、対照群にラベンダー精油(芳香族アルコールのみを含む)を投与した場合と比較して、被験者にラン複合抽出物を投与した場合、血清C-ペプチド濃度が実際に減少し、この差は統計的有意差であった。
【0083】
3.4 FC(機能的接続性)の変化率及び主観的情感の評価
【0084】
表2及び表3を参照されたい。表2は、本発明の一実施例においてラン複合抽出物及びラベンダー精油(対照群、芳香族アルコールのみを含む)を被験者に投与する前後のHRV及び情緒の視覚的アナログスケールの結果であり、表3は、本発明の一実施例においてラン複合抽出物及びラベンダー精油(対照群、芳香族アルコールのみを含む)を被験者に投与する前後のFC(機能的接続性)の変化率及び情緒の視覚的アナログスケールの相関結果である。
【0085】
表2及び表3に示すように、被験者にラン複合抽出物を2ヶ月連続投与すると、FCの変化率が低下し、元気いっぱい、落ち着き、快適等の主観的情感が改善されたため、ラン複合抽出物に抗うつ効果があると判断した。
【0086】
自律神経は、交感神経と副交感神経に分けられる。ストレスに対抗する際、交感神経は、通常、身体の器官を戦闘状態にし、血圧の上昇、心拍数の増加、筋肉の収縮などの生理的覚醒が起こり、ストレスがなくなると、副交感神経は、器官を休ませ、ストレスによって引き起こされた生理的覚醒は減少する。また、交感神経と副交感神経は、情緒の調整(特に、落ち着き又は恐怖など)にも大きく関係している。
図3、表2及び表3から分かるように、自律神経機能と密接に関連する様々な主観的情感(例えば、元気いっぱい、落ち着き、快適の情緒指標が大幅に向上し、恐怖の情緒指標が大幅に低下する)から、ラン複合抽出物には、交感神経活動を低下させ、副交感神経活動を高める効果があると合理的に推測できるため、ラン複合抽出物に抗うつ効果があると判断した。
【0087】
図5を参照されたい。
図5は、脳の前側501の前頭前皮質(prefrontal cortex,PFC)-セロトニントランスポーター(serotonin transporter,SERT)-自律神経系(ANS)の間の相互作用の考えられるメカニズムの1つを示している。現在、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor,BDNF)がうつ病の病態メカニズムと関係していると考えられ、ストレスや憂うつは海馬のBDNFの減少を引き起こす可能性があることは知られている。ANSの機能不全もうつ病発生の神経生理指標の1つであると考えられている。トップダウン制御の機能不全(例えば、BDNF、PFCなど)は、下流のニューラルネットワーク[例えば、ANS、孤束核(nucleus tractus solitaries,NTS)]の相互作用によって補うことができる。脳の生理的及び心理的恒常性を維持するように、BDNFレベルの低下及びPFC機能の低下により、セロトニンとANSとの間の相互作用が調整される可能性がある。しかし、前記実施例において、ラン複合抽出物によるアロマテラピーの後、前記ラン複合抽出物は、PFCに影響を与えた後、ANSに影響を与えることで、抗うつ効果を奏する。
【0088】
上記をまとめると、本発明における特定のラン品種、特定の製造工程、特定の組成、特定の投与量、特定の検査方法、又は特定の評価方法は、本発明に係るラン複合抽出物、及び抗うつ効果を有する組成物を製造するための使用を例示して説明するためのものに過ぎない。しかし、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、ラン複合抽出物を他の既知の植物抽出物(例えば、精油、芳香蒸留水など)と選択的に併用することができ、他の組成、他の投与量、他の検査方法、又は他の評価方法も抗うつ効果を有する組成物の製造に使用することができ、上記に限定されないことを当業者は理解されるであろう。例えば、前記ラン複合抽出物は、医薬組成物、化粧品組成物、又は食品組成物であってもよく、医薬、化粧品又は食品に許容される担体、賦形剤及び/又は添加剤を選択的に含んでもよく、散剤、錠剤、顆粒剤、マイクロカプセル、アンプル、スプレー剤、溶液、オイル、O/Wエマルション、W/Oエマルション、W/O/Wエマルション、O/W/Oエマルションなどの剤形に製造されてもよい。
【0089】
前記実施例によれば、本発明のラン複合抽出物の利点は、このラン複合抽出物が、複数のジメチルオクタン系化合物及び他の分離不能な成分を含む揮発性芳香化合物を含有することである。このラン複合抽出物は、必要のある被験者に所定期間連続投与されることで、被験者の脳の接続性及びANSを改善し、さらに主観的情感を調整することができるため、有効成分として、抗うつ効果を有する組成物の製造に使用される。
【0090】
本発明は、複数の特定の実施例によって開示されたが、他の実施例も可能である。したがって、本明細書に添付された特許請求の範囲の精神及び範囲は、本明細書に含まれた実施例の説明により限定されるべきではない。
【0091】
表2
BMI:ボディマス指数(body mass index)
HRV:心拍数変動(heart rate variability)
HF:高周波(high frequency)
LF:低周波(low frequency)
VLF:超低周波(very low frequency)
TotalPower:総パワー
RMSSD:連続差の二乗平均平方根(Root mean square of the successive differences)
PNN:確率的ニューラルネットワーク(probabilistic neural network,PNN)
【0092】
表3
FC割合:機能的接続性(functional connectivity)の相関割合
FC変化率:[(後-前)/前]
r:RMSSD
p:PNN
斜体太字の数値: 統計的有意差がある