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特開2025-27748ディスプレイ装置およびヘッドマウントディスプレイ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027748
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】ディスプレイ装置およびヘッドマウントディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13363 20060101AFI20250220BHJP
   G02B 30/26 20200101ALI20250220BHJP
   G02B 27/02 20060101ALI20250220BHJP
   G02F 1/1347 20060101ALI20250220BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20250220BHJP
   G02F 1/13357 20060101ALI20250220BHJP
   H04N 13/337 20180101ALI20250220BHJP
   H04N 13/302 20180101ALI20250220BHJP
【FI】
G02F1/13363
G02B30/26
G02B27/02 Z
G02F1/1347
G02F1/13 505
G02F1/13357
H04N13/337
H04N13/302
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132841
(22)【出願日】2023-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】米山 茂信
(72)【発明者】
【氏名】森本 哲郎
【テーマコード(参考)】
2H088
2H189
2H199
2H291
2H391
【Fターム(参考)】
2H088EA05
2H088EA10
2H088HA12
2H088HA14
2H088HA15
2H088HA24
2H088HA28
2H088JA04
2H088MA01
2H088MA20
2H189AA27
2H189HA16
2H189JA14
2H189LA14
2H189LA15
2H189LA16
2H189LA18
2H189LA20
2H189MA15
2H199BA20
2H199CA23
2H199CA29
2H199CA65
2H199CA86
2H291FA02Y
2H291FA14Y
2H291FA30X
2H291FA56X
2H291FA85Z
2H291FA86Z
2H291FD04
2H291HA15
2H291LA21
2H291LA40
2H291MA02
2H291PA42
2H391AA01
2H391AB04
2H391AB08
2H391EA02
2H391EA11
2H391EA16
2H391EB02
2H391FA03
2H391FA06
(57)【要約】
【課題】積層方式のライトフィールドディスプレイ装置において、回折現象による表示画像の品質の劣化を回避する技術を提供する。
【解決手段】ディスプレイ装置1は、第一の液晶ディスプレイパネル10と、第二の液晶ディスプレイパネル20とが、媒質層30を挟んで積層されたライトフィールド方式のディスプレイ装置である。第一の液晶ディスプレイパネルは、少なくとも部分的にコヒーレントである光を出射する光源11を有する。第一の液晶ディスプレイパネルおよび第二の液晶ディスプレイパネルの少なくとも一方の画素開口上に位相シフター膜26が形成され、第二の液晶ディスプレイパネルにおいて、少なくとも一方向に隣接する画素から出射される光の位相が170°以上190°以下異なっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の液晶ディスプレイパネルと、第二の液晶ディスプレイパネルとが、媒質層を挟んで積層されたライトフィールド方式のディスプレイ装置であって、
前記第一の液晶ディスプレイパネルは、少なくとも部分的にコヒーレントである光を出射する光源を有し、
前記第一の液晶ディスプレイパネルおよび前記第二の液晶ディスプレイパネルの少なくとも一方の画素開口上に位相シフター膜が形成され、
前記第二の液晶ディスプレイパネルにおいて、少なくとも一方向に隣接する画素から出射される光の位相が170°以上190°以下異なっている、
ディスプレイ装置。
【請求項2】
前記位相シフター膜が、前記ディスプレイ装置の正面視において市松模様状に配置され、
前記第二の液晶ディスプレイパネルにおいて、直交する二方向に隣接する画素から出射される光の位相が170°以上190°以下異なっている、
請求項1に記載のディスプレイ装置。
【請求項3】
前記一方向に隣接する画素から出射される光の位相が180°異なっている、
請求項1または2に記載のディスプレイ装置。
【請求項4】
前記光源が、スーパーコンティニュウムレーザー、RGB合成白色光レーザー、半導体レーザー、およびLED光源のいずれかである、
請求項1に記載のディスプレイ装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載のディスプレイ装置と、
前記第二の液晶ディスプレイパネルよりも観察者側に配置された接眼レンズと、
を備える、
ヘッドマウントディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ装置、より詳しくは、ライトフィールド技術を用いたディスプレイ装置に関する。このディスプレイ装置を適用したヘッドマウントディスプレイ装置についても言及する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ装置から出射され観察者の目に入射する光線を制御するライトフィールド技術が注目されている。人間は、各種物体で反射された光線が瞳に入ることによりその物体を見ることができる。ライトフィールド技術はこの反射光線を人工的にディスプレイで再現したものであり、結果としてヒトが自然界で見るような奥行き感を提供することができる。
【0003】
ライトフィールド技術を用いるディスプレイ装置としていくつかの態様が知られているが、代表的なものとして、マイクロレンズアレイ方式と積層方式とを挙げることができる。
マイクロレンズアレイ方式では、直径がマイクロメートルオーダーのレンズを有するアレイがディスプレイパネルの表面に取り付けられている。マイクロレンズアレイ方式では、ディスプレイパネルから出射された光をマイクロレンズアレイが特定の方向の光線の束に分解して観察者の目に導く。
【0004】
もう一方の積層方式では、特許文献1に記載のように、2枚のディスプレイパネルが媒質層を挟んで重ねられた構造を有する。観察者から遠い側に位置する第一のディスプレイパネルは、バックライト等を備え、光を出射する機能を有する。観察者に近い側に位置する第二のディスプレイパネルは光を出射する機能を有さず、第一のディスプレイから出射された光により照明される。
積層方式では、第一のディスプレイパネルのある画素から出射された光線は、第二のディスプレイパネルのある画素を通って観察者の目に入射しており、光線が通過する画素の組み合わせにより光線を制御している。
【0005】
マイクロレンズアレイ方式では、1個のマイクロレンズが複数の画素を覆うため、原理的に表示解像度の低下が避けられない。
一方、積層方式では、第一のディスプレイパネルと第二のディスプレイパネルとを十分位置合わせする必要があるものの、解像度を上げることはそれほど困難ではない点で優れている。最新の液晶ディスプレイパネルでは、1インチあたり1000画素(1000ppi)以上を有するものも報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2020-521174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、積層方式において画素サイズを小さくしていくと、光の回折現象により表示画像の品質が劣化することを見出した。発明者らは、これを解決して本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、積層方式のライトフィールドディスプレイ装置において、回折現象による表示画像の品質の劣化を回避する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、第一の液晶ディスプレイパネル10と、第二の液晶ディスプレイパネル20とが、媒質層30を挟んで積層されたライトフィールド方式のディスプレイ装置である。
第一の液晶ディスプレイパネルは、少なくとも部分的にコヒーレントである光を出射する光源11を有する。
第一の液晶ディスプレイパネルおよび第二の液晶ディスプレイパネルの少なくとも一方の画素開口上に位相シフター膜26が形成され、第二の液晶ディスプレイパネルにおいて、少なくとも一方向に隣接する画素から出射される光の位相が170°以上190°以下異なっている。
【0010】
本発明の第二の態様は、第一の態様に係るディスプレイ装置と、第二の液晶ディスプレイパネルよりも観察者側に配置された接眼レンズとを備えたヘッドマウントディスプレイ装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ライトフィールドディスプレイ装置において、回折現象による表示画像の品質の劣化を回避することに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るディスプレイ装置を示す模式図である。
図2】ヒトの眼の網膜と光線の関係を示す模式図である。
図3】ライトフィールドディスプレイ装置を見る際の網膜と光線の関係を示す模式図である。
図4】光線逆進の原理を使った画像のボケを示す模式図である。
図5】画素の開口と回折の関係を示す模式図である。
図6】隣接する画素の開口の光の位相が同一である場合の回折光の重ね合わせの模式図である。
図7】隣接する画素の一方の開口に位相シフター膜を設けた場合の回折光の重ね合わせの模式図である。
図8】従来のライトフィールドディスプレイ装置において隣接する画素から出射された光の挙動を示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係るディスプレイ装置において隣接する画素から出射された光の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図1から図9を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るディスプレイ装置1を模式的に示す図である。ディスプレイ装置1は、ライトフィールド方式を用いたディスプレイ装置であり、第一パネル10と第二パネル20との2枚の液晶ディスプレイパネルを備えている。
ディスプレイ装置1は、第二パネル20側が正面であり、観察者は正面側から表示される画像を視認する。
【0014】
第一パネル10には、光源11と、液晶層12と、カラーフィルタ13とが順に配置されており、公知のカラー液晶ディスプレイパネルと概ね同様の構造を有する。第二パネル20は、第一パネル10から光源11を取り除いた構造を有する。さらに、第一パネル10と第二パネル20は、複数設けられた画素のそれぞれがブラックマトリックス50で区画されている。第一パネル10と第二パネル20とは、画素の開口サイズが同じである。第一パネル10の画素40Aと第二パネル20の画素40Bにおける開口サイズが同じであることから、第一パネル10と第二パネル20は同じ製造プロセスを用いて製造できる。このため、ディスプレイ装置1におけるトータルの製造コストを低減できる利点が生じる。
【0015】
第二パネル20の画素40Bの表面には、上下方向及び左右方向の両方において、画素一つおきに位相シフター膜26が形成されている。これにより、第二パネル20の正面視において、位相シフター膜26は市松模様状(チェス盤における白黒の配置と同様)に配置されている。
【0016】
本実施形態において、第一パネル10と第二パネル20の正面視形状は、同一寸法の長方形あるいは正方形である。第一パネル10と第二パネル20とは、第二パネル20側から見たディスプレイ装置1の正面視において、互いの四辺が一致するように配置されている。
【0017】
第一パネル10と第二パネル20とは、間に媒質層30を挟んで配置されている。すなわち、第一パネル10と第二パネル20とは、媒質層30の厚さに応じた距離離れて概ね平行に配置されている。
媒質層30の材料の典型例は空気層であるが、空気(屈折率1.0002926)とほぼ同様の屈折率を有する、アルゴン(屈折率1.000281)、二酸化炭素(屈折率1.000449)、ヘリウム(屈折率1.000036)、水素(屈折率1.000140)、窒素(屈折率1.000297)、酸素(屈折率1.000276)等からなる層や、これらの混合物からなる層も使用できる。さらに、真空層(屈折率1.0000)も使用でき、本発明における媒質層に含まれる。
【0018】
位相シフター膜26の材料としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート樹脂)(波長550nmでの屈折率1.490)、二酸化シリコン(波長550nmでの屈折率1.460)、レジスト(波長550nmでの屈折率1.51~1.53)、テフロン(登録商標)樹脂(波長550nmでの屈折率1.35~1.42)等が使用できる。
【0019】
発明者らは、積層方式のライトフィールドディスプレイ装置の開発過程において、光の回折現象によって表示画像の品質が劣化する現象を見出した。以下、詳細に説明する。
図2に示すように、空間上の光点101を観察者が見る場合を考える。光点101は、観察者の眼の水晶体のレンズ作用によって、観察者の眼球103内の網膜上に像102として結像する。
【0020】
観察者が積層型のライトフィールドディスプレイ装置を見る場合、複数枚のディスプレイパネルによって光線が再生されるため、図3に示すように、2枚のディスプレイパネルによって再生された光線が網膜上に結像した像202が視認される。このとき、光線は第二のディスプレイパネル212上の開口205および206を通過した後に拡散するため、光点201の像202は、図2に示す像102よりも大きく網膜上に結像する。言い換えると、観察者はボケを伴った像を視認することになる。
【0021】
図3で示したボケは、光線逆進の原理から、図4に示すように、開口205、206に対して逆の方向から入射して拡散した光が図2に示す光点201の位置に集まった際の像301のボケとして考えることができる。
そこで、図5を用いて開口の大きさとボケの量に関する考察を行う。開口405の幅をDとするとき、後方距離Lの位置のボケのサイズδは、δ=λ・L/Dで表される。なお、λは光の波長を示す。例えば、波長0.5μm、開口のサイズ50μmのとき、後方距離10mmの位置のボケの大きさδは、0.5×10000÷50=100で、100μmとなる。開口の幅Dは、通常ディスプレイパネルの画素の大きさに等しいため、ボケのサイズは画素の2倍となり、無視できない大きさであることが理論的に分かる。
【0022】
次に、回折現象に起因するボケによる画素の解像に関する影響について説明する。図6に示すように、隣接する画素開口505、506から出射した光が拡散すると、その一部は像の位置で重なり合う。重なり合った光の振幅の和を取り、その二乗を求めることによって像の位置における光の強度分布を求めることができる。図6に示した例では、回折による光の広がりにより、像の位置での光の強度分布のピークが1つになっており、本来異なるピークを有する二つの画素による光を分離できていない。このことは、第二のディスプレイパネルから離れた位置の物体を表示しようとした場合、第二のディスプレイパネルの画素が細かくなればなるほど、回折によるボケが大きくなり、観察者の網膜にはボケた再生画像が結像することを意味する。つまり、観察者は劣化した再生画像を視認することになる。
【0023】
次に、ディスプレイ装置1において、第二パネル20の隣接する画素の開口605、606から出射される光を考える。図7に示すように、開口606から出射する光は、位相シフター膜26を通過するため、もう一方の開口605から出射する光に対して180度位相がずれた光となる。それぞれの画素から出射した光は、図9と同様に拡散してその一部が重なり合うが、それぞれの画素から出射した光に180度の位相のズレがあるため、振幅の符号が逆転した状態で重なり合う。その結果、重なり合った部分の振幅が打ち消し合い、その二乗をとった強度分布に谷が生じてピークが1つにならず、2つの画素からの光が分離できるようになる。
発明者らは、上述したように、隣接する画素の光の位相を位相シフター膜26でほぼ反転する程度に異ならせることによって、回折によるボケの発生を回避することに成功した。このことは、第二パネル20から離れた位置の物体を表示しようとした場合、第二パネル20の画素サイズを小さくしても回折によるボケを回避できることを示しており、観察者はボケの少ない再生像を視認できる。
【0024】
上述した効果を得るためには、隣接する画素開口から出射された光同士が干渉する必要がある。そのため、第一パネル10の光源11は、干渉性のある光、つまりコヒーレントな光を発するものである必要がある。
コヒーレントな光を発する光源としては、スーパーコンティニュウムレーザー、あるいはRGB合成白色レーザー、半導体レーザー等を例示できる。ただし、瞳孔に入る光が干渉すればよいだけであるため、光源11の具体的構成はこれらには限られず、波長幅の狭い単色のLED光源や、バンドパスフィルターを組み合わせた各種光源など、少なくとも部分的にコヒーレントである光を発する他の構成の光源も用いることができる。
ヒトの瞳孔の大きさは、平均で約4.5mmであり、明るさによって、概ね2.5mmから6.9mmの範囲で変化する。このため、光源11が発する、少なくとも部分的にコヒーレントである光のコヒーレンス長は、2.5mm以上であることが好ましく、4.5mm以上であることがより好ましい。
【0025】
上記のように構成された、本実施形態に係るディスプレイ装置1の動作について説明する。第一パネル10の光源11から出射された光線は、液晶層12およびカラーフィルタ13、さらに媒質層30を通って第二パネル20に向かう。
【0026】
積層型のライトフィールドディスプレイ装置において、ディスプレイパネル上での表示解像度を向上させるには、2枚のディスプレイパネルにおける画素40の開口サイズを小さくすればよい。例えば、各画素40の開口サイズを1/3にすると、表示解像度は理論上3倍になる。
【0027】
しかし、上述のように観察者に近い側に位置する第二パネル20において、光の回折によって画像のボケを生じ、結果として第二パネルから離れた位置の表示画像の品質が劣化することが分かった。この理論的に起きてしまう回折による像のボケをここでは回折限界と呼ぶ。
【0028】
図8に示すような、位相シフター膜26を備えず、その他の点においてディスプレイ装置1と概ね同様の構成を有する従来のディスプレイ装置80においては、(b)に示すように、隣接する2つの画素40から出射される光の振幅の位相が一致している。その結果、観察者の網膜上の像点位置における光の強度分布のピークは、図6で説明した回折により、(c)に示すように一つとなる。つまり、2つの光は、観察者において合成された1つの光として認識され、その結果ボケが視認される。
【0029】
一方、図9に示すディスプレイ装置1では、位相シフター膜26によって回折限界を超える解像度を実現している。位相シフター膜26は、第二パネル20の正面視において、市松模様状に配置されているため、上下方向および左右方向の直交する二方向のいずれにおいても、隣接する2つの画素の一方は位相シフター膜26を有し、もう一方は位相シフター膜26を有さない状態が確保されている。
【0030】
第一パネル10から出射して第二パネル20における位相シフター膜26を有さない画素40B1に入射した光線は、第二パネル20を通過しても位相は変化しない。一方で、第一パネル10から出射して第二パネル20における位相シフター膜26を有する画素40B2に入射した光線は、位相を変化させて第二パネル20を通過する。位相シフター膜26を有さない画素(以下、「第一画素」と称することがある。)を通過する光線と、位相シフター膜26を有する画素(以下、「第二画素」と称することがある。)を通過する光線の光路差長ΔLは下記の式(1)で表される。
ΔL=(n-n)d …(1)
【0031】
式(1)において、nおよびnは、それぞれ位相シフター膜26の屈折率および媒質層30の屈折率、dは光の通過距離である。nを空気の屈折率として約1とすると、式(1)は下記の式(2)となる。
ΔL=(n-1)d …(2)
【0032】
第二画素を通過する光線の位相を、第一画素を通過する光線に対して180°(λ/2)異ならせるためには、ΔL=λ/2とする必要がある。したがって、位相シフター膜26の膜厚の好適な値は下記の式(3)により得られる。
d=λ/(2(n-1)) …(3)
【0033】
式(3)におけるλは、光線の波長である。したがって、第二パネル20の画素40がR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)等のサブ画素を有する場合、それぞれのサブ画素を通過した光線の中心波長は異なるため、位相シフター膜26の最適な厚さは、各サブ画素でわずかに異なる。このため、サブ画素ごとに最適化された厚さの位相シフター膜26が形成されることが理想的であるが、他の態様として、可視光の波長範囲である350~780nmの中央値に近く、かつヒトの眼の感度が高い550nmをλとしてすべてのサブ画素で同一の厚さの位相シフター膜26を設けてもよい。いずれの態様においても、第二画素を通過する光線の位相を、第一画素を通過する光線に対して概ね180°程度異ならせることができる。
位相のシフト量は完全に180°である必要はなく、差分が170°~190°の範囲内であれば、干渉による充分な打消し効果を得ることができる。
【0034】
上述したように、第一画素を通過した光線と、第二画素を通過した光線では、位相シフター膜26により、図9の(b)に示すように、振幅分布の位相が180°異なっている。これにより、観察者の網膜上の像点においても、図9の(c)に示すように、2つに区別できるようになる。その結果、観察者はボケを感じず良好な画質で表示を視認できる。
なお、ヒトの網膜は光の強度を振幅の2乗として認識するため、像点における光の強度分布は、図9の(d)のようになる。したがって、第一画素を通過した光線と、第二画素を通過した光線との位相の違いを観察者が認識することはなく、第一画素を通過した光線と、第二画素を通過した光線とで視認態様に差は生じない。
【0035】
以上説明したように、本実施形態に係るディスプレイ装置1は、積層方式のライトフィールドディスプレイ装置において、回折限界を超える画像解像度の実現に寄与する。
第二パネル20は、光源を除けば第一パネル10に位相シフター膜26を設けた点のみが異なっているため、製造した第一パネルに位相シフター膜26を形成するだけで第二パネル20を作製できる。このため、第二パネル20専用の製造ライン等が必要なく、製造コストを低減しやすいという利点もある。
【0036】
本発明に係るディスプレイ装置について、実施例および比較例を用いてさらに説明する。本発明の技術的範囲は、実施例の具体的内容のみを根拠として限定されることはない。
【0037】
(実施例1)
正面視長方形の同一サイズのIPS(In-Plane Switching)方式の液晶ディスプレイパネルを2枚準備した。一方のディスプレイにスーパーコンティニュウムレーザー光源およびカラーフィルタ(RGB)を取り付けて第一パネルとし、もう一方はカラーフィルタのみ取り付けて第二パネルとした。
【0038】
第一パネルと第二パネルの表示解像度は等しく、1インチあたり377画素(377ppi)であり、各画素の開口サイズは63.0μmである。画素と画素の間に形成されるブラックマトリックスの幅は4.3μmである。
【0039】
第二パネルにおいて、一つおきの画素の表面に膜厚598nmの二酸化シリコンからなる位相シフター膜を形成した。位相シフター膜は、画素開口と同じサイズの開口が市松模様状に形成されたメタルマスクを第二パネルの表面に被せ、シリコン材料を酸素雰囲気下でスパッタすることにより形成した。
【0040】
第一パネルと第二パネルとを20mmの間隔を空けて正面視で完全に重ね、この状態を固定することにより、実施例1に係るディスプレイ装置を得た。このディスプレイ装置は、媒質層として、厚さ20mmの空気層を有する。
さらに、このディスプレイ装置に接眼レンズを取り付け、実施例1に係るヘッドマウントディスプレイ(HMD)装置を作製した。
【0041】
実施例1に係るHMD装置を用い、第一パネルに所定の映像を表示して、目視による評価を行ったところ、表示のボケは認められず、良好であった。
【0042】
(実施例2)
第一パネルと第二パネルの表示解像度を1インチあたり1539画素(1539ppi)とした。各画素の開口サイズは12.9μmである。ブラックマトリックスの幅は3.6μmである。
第一パネルにおける光源はRGB合成白色光レーザーとした。
位相シフター膜の厚さは561nmとした。
【0043】
第一パネルと第二パネルとを10mmの間隔を空けて正面視で完全に重ね、この状態を固定することにより、実施例2に係るディスプレイ装置を得た。このディスプレイ装置は、媒質層として、厚さ10mmの空気層を有する。
さらに、このディスプレイ装置に接眼レンズを取り付け、実施例2に係るHMD装置を作製した。
【0044】
実施例2に係るHMD装置を用い、第一パネルに所定の映像を表示して、目視による評価を行ったところ、表示のボケは認められず、良好であった。
【0045】
(比較例1)
第二パネルに位相シフター膜を形成しない点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1に係るディスプレイ装置およびHMD装置を作製した。
【0046】
比較例1に係るHMD装置を用い、第一パネルに所定の映像を表示して、目視による評価を行ったところ、第一パネルに入力した映像信号に対して表示のボケが認められ、良好でなかった。
【0047】
(比較例2)
第二パネルに位相シフター膜を形成しない点を除き、実施例2と同様の手順で比較例2に係るディスプレイ装置およびHMD装置を作製した。
【0048】
比較例2に係るHMD装置を用い、第一パネルに所定の映像を表示して、目視による評価を行ったところ、第一パネルに入力した映像信号に対して表示のボケが認められ、良好でなかった。
【0049】
以上、本発明の各実施形態および実施例について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【0050】
本発明に係るディスプレイ装置は、3つ以上のディスプレイパネルを備えてもよい。また、位相シフター膜は、複数あるディスプレイパネルのいずれに設けられてもよいが、観察者に最も近いディスプレイパネルに設けられることで効果を最大化できる。
さらに、位相シフター膜が複数のディスプレイパネルに分散して配置されてもよい。
【0051】
本発明に係る位相シフター膜は、上述した市松模様状に配置されることが最良であるが、上下方向または水平方向に延びるストライプ状に配置されてもよい。この場合は、左右方向または上下方向に隣接する画素から出射される光のみにおいて干渉による打消しが生じるが、このような構成でも、一定のボケ抑制効果を発揮することができる。
【0052】
本発明に係る位相シフター膜は、上述したスパッタ等の成膜技術により形成されるものには限られない。したがって、同様の効果を奏すれば、フィルム状あるいはシート状の部材を貼り付ける等により形成されたものも、本発明における位相シフター膜に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 ディスプレイ装置
10 第一パネル(第一の液晶ディスプレイパネル)
11 光源
20 第二パネル(第二の液晶ディスプレイパネル)
26 位相シフター膜
30 媒質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9