(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027897
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/18 20060101AFI20250220BHJP
B23K 37/02 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
B23K9/18 E
B23K37/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133131
(22)【出願日】2023-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】本田 玲央
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB05
4E001DC05
4E001QA10
(57)【要約】
【課題】台車の転倒を防止できるサブマージアーク溶接システムを提供する。
【解決手段】サブマージアーク溶接を行うための溶接システムA1において、溶接ワイヤの先端を突出させ、被溶接物Wの溶接を行う溶接トーチ3と、溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置5と、溶接トーチ3が搭載され、溶接線に沿って移動する台車4と、溶接線に沿って延び、かつ、両端が被溶接物Wに直接または間接的に固定された支持部材45と、を備えた。台車4は、支持部材45が延びる方向に貫通する貫通部を有し、かつ、支持部材45が貫通部に挿通されている挿通部42を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムであって、
溶接ワイヤの先端を突出させ、被溶接物の溶接を行う溶接トーチと、
前記溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置と、
前記溶接トーチが搭載され、溶接線に沿って移動する台車と、
前記溶接線に沿って延び、かつ、両端が前記被溶接物に直接または間接的に固定された支持部材と、
を備え、
前記台車は、前記支持部材が延びる方向に貫通する貫通部を有し、かつ、前記支持部材が前記貫通部に挿通されている挿通部を備えている、
サブマージアーク溶接システム。
【請求項2】
前記挿通部は、環形状である、
請求項1に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項3】
前記挿通部は、環形状の一部に開放部を有する本体部と、前記本体部の一方端に連結されて前記開放部を開閉可能な開閉部と、を備えている、
請求項1に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項4】
前記挿通部は、平面視において前記台車に対して前記溶接トーチと同じ側に配置され、上方側が開放されている、
請求項1に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項5】
前記挿通部は、平面視において前記台車に対して前記溶接トーチとは反対側に配置され、下方側が開放されている、
請求項1に記載のサブマージアーク溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からサブマージアーク溶接が知られている。サブマージアーク溶接は、被溶接物の上に粒上のフラックスを散布し、フラックスの中に溶接ワイヤを送給して、溶接ワイヤの先端と被溶接物との間にアークを発生させて溶接を行うものである。サブマージアーク溶接では、例えば台車を溶接線に沿って移動させることで、溶接個所を移動させながら溶接を行う。サブマージアーク溶接では、太径の溶接ワイヤに大電流を流すことで、厚板を高能率で溶接することができる。特許文献1には、サブマージアーク溶接装置の一例が開示されている。当該サブマージアーク溶接装置は、溶接ワイヤが巻かれたワイヤリール、フラックスが充填されたホッパ、および溶接ヘッドなどが走行台車に搭載されている。走行台車は、溶接線に沿って設けられたレール上を走行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サブマージアーク溶接では、溶接個所がフラックスによって覆われている。したがって、溶接ワイヤが被溶接物に接触して短絡が発生しても、作業者は短絡に気付きにくい。短絡に気付かずに溶接ワイヤの送給が継続されると、台車が転倒する場合がある。
【0005】
図7は、短絡による台車の転倒について説明するための簡略図である。
図7(a)に示す溶接システムA100において、ワイヤリール6、ワイヤ送給装置5、および溶接トーチ3が台車4に搭載されている。同図は、台車4の走行方向の後方から見た簡略図である。ワイヤ送給装置5によって送給された溶接ワイヤの先端が溶接トーチ3の先端から電極8として突出し、電極8と被溶接物Wとの間にアークが発生して溶接が行われる。電極8の先端は、フラックス79によって覆われている。なお、
図7では、フラックス79を透過させて電極8が見えるように記載している。溶接中に溶接ワイヤ(電極8)の先端が被溶接物Wに接触して短絡が発生しても、実際には外部から視認できない。したがって、作業者は短絡に気付かず、溶接を停止しない。よって、ワイヤ送給装置5は、溶接ワイヤの送給を継続し、溶接ワイヤ(電極8)の先端が被溶接物Wの溶融池に突き刺さる。
【0006】
サブマージアーク溶接では、一般的に、太径の溶接ワイヤが用いられている。したがって、溶接ワイヤは、座屈しにくい。また、ワイヤ送給装置5は、高いトルクで溶接ワイヤを送給できるものが用いられているので、加圧ロールでの溶接ワイヤのスリップも生じにくい。したがって、作業者が短絡発生に気付かず、さらに溶接ワイヤの送給が継続すると、
図7(b)に示すように、点Xを中心として、台車4を矢印Yの方向に回転させるモーメントが働く。これにより、台車4は傾いた不安定な状態になり、台車が転倒する場合がある。台車の転倒は、溶接時の短絡発生による場合に限られず、非溶接時に溶接ワイヤをインチングし続けた場合などにも起こり得る。
【0007】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、台車の転倒を防止できるサブマージアーク溶接システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって提供されるサブマージアーク溶接システムは、サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムであって、溶接ワイヤの先端を突出させ、被溶接物の溶接を行う溶接トーチと、前記溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置と、前記溶接トーチが搭載され、溶接線に沿って移動する台車と、前記溶接線に沿って延び、かつ、両端が前記被溶接物に直接または間接的に固定された支持部材と、を備え、前記台車は、前記支持部材が延びる方向に貫通する貫通部を有し、かつ、前記支持部材が前記貫通部に挿通されている挿通部を備えている。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記挿通部は、環形状である。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記挿通部は、環形状の一部に開放部を有する本体部と、前記本体部の一方端に連結されて前記開放部を開閉可能な開閉部と、を備えている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記挿通部は、平面視において前記台車に対して前記溶接トーチと同じ側に配置され、上方側が開放されている。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記挿通部は、平面視において前記台車に対して前記溶接トーチとは反対側に配置され、下方側が開放されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、台車の挿通部は、溶接線に沿って延びる支持部材が貫通部に挿通されている。したがって、台車は、傾いた場合でも、支持部材が挿通部の貫通部の内面に当接するので、それ以上傾くことが抑制される。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接システムは、台車の転倒を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る溶接システムを説明するための図であり、(a)は溶接システムの全体構成を示すブロック図であり、(b)は溶接電源装置および制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る溶接システムの台車の外観を示す簡略図である。
【
図3】短絡による台車の転倒を防止する様子を示す簡略図である。
【
図4】第1実施形態に係る溶接システムの挿通部の変形例を示す簡略図である。
【
図5】第2実施形態に係る溶接システムの台車を、走行方向の後方から見た簡略図である。
【
図6】第3実施形態に係る溶接システムの台車を、走行方向の後方から見た簡略図である。
【
図7】短絡による台車の転倒について説明するための簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1および
図2は、第1実施形態に係る溶接システムA1を説明するための図である。
図1(a)は、溶接システムA1の全体構成を示すブロック図である。
図1(b)は、溶接電源装置2および制御装置1の内部構成を示すブロック図である。
図2は、台車4の外観を示す簡略図であり、
図2(a)は走行方向の後方から見た簡略図であり、
図2(b)は走行方向および鉛直方向に直交する方向から見た簡略図である。
図2(b)において、矢印は台車4の走行方向を示している。つまり、台車4は、矢印の方向に移動する。
【0017】
溶接システムA1は、サブマージアーク溶接を行うための溶接システムである。溶接システムA1は、制御装置1、溶接電源装置2、溶接トーチ3、台車4、ワイヤ送給装置5、ワイヤリール6、散布装置7、および電極8を備えている。溶接システムA1は、作業台Tに固定された被溶接物W(
図2参照)の溶接線に沿って台車4を移動させながら、散布装置7に粒状のフラックス79を散布させ、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤをフラックス79の中に送給させる。溶接ワイヤはワイヤリール6から供給される。溶接電源装置2は、商用電源Pから供給される交流電力を溶接に適した電力に変換して出力し、フラックス79の内部で、溶接ワイヤの先端部分である電極8と被溶接物Wとの間にアークを発生させる。当該アークの熱によって、溶接が行われる。これにより、被溶接物Wの溶接線に沿って溶接が行われる。
【0018】
溶接トーチ3は、ワイヤ送給装置5が送給する溶接ワイヤを溶接個所に案内する。溶接ワイヤの先端は、溶接トーチ3の先端から突出する電極8になる。溶接トーチ3は、先端部分に配置されかつ溶接電源装置2に導通するコンタクトチップ(図示なし)を備えている。溶接電源装置2は、コンタクトチップに接触する溶接ワイヤに、溶接電流を流す。
溶接トーチ3は、台車4に固定されており、台車4の移動に伴って移動する。なお、溶接トーチ3は台車4に直接固定されてもよいし、アームなどを介して間接的に固定されてもよい。本実施形態では、
図2に示すように、溶接トーチ3は、台車4から進行方向に対して右前方に延びるアームの先に固定されている。
【0019】
溶接電源装置2は、商用電源Pから供給される交流電力を所望の周波数の交流電力に変換して出力する。
図1(b)に示すように、溶接電源装置2は、整流平滑回路21、インバータ回路22、トランス23、整流平滑回路24、インバータ回路25、電流センサ26、および電圧センサ27、および制御回路28を備えている。
【0020】
整流平滑回路21は、商用電源Pから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。インバータ回路22は、制御回路28から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路21から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。トランス23は、インバータ回路22が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路24に出力する。
【0021】
整流平滑回路24は、トランス23から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。インバータ回路25は、制御回路28から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路24から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ回路25は、出力端子a(被溶接物Wに接続)の電位が出力端子b(溶接ワイヤに接続)の電位より高い状態である正極性と、出力端子aの電位が出力端子bの電位より低い状態である逆極性とを切り換える。
【0022】
電流センサ26は、溶接電源装置2の出力電流を検出するものであり、本実施形態では、インバータ回路25の一方の出力端子と出力端子aとを接続する接続線に配置されている。電流センサ26が検出する溶接電源装置2の出力電流は、電極8を流れる電流にほぼ等しい。電流センサ26は、検出した電流瞬時値に応じた電流値信号を制御回路28および制御装置1に出力する。なお、電流センサ26が配置される位置は限定されない。電圧センサ27は、溶接電源装置2の出力電圧を検出するものであり、本実施形態では、出力端子aと出力端子bとの端子間電圧を検出する。当該電圧は、被溶接物Wと電極8の先端との間に印加される電圧にほぼ等しい。電圧センサ27は、検出した電圧瞬時値に応じた電圧値信号を制御回路28および制御装置1に出力する。なお、電圧センサ27は、溶接トーチ3に取り付けたリード線と被溶接物Wに取り付けたリード線との間の電圧を検出してもよい。
【0023】
制御回路28は、溶接電源装置2を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路28は、電流センサ26から電流値信号を入力され、電圧センサ27から電圧値信号を入力され、制御装置1から各種指令信号および各種設定値を入力される。そして、制御回路28は、インバータ回路22およびインバータ回路25に、それぞれ駆動信号を出力する。なお、溶接電源装置2の構成は限定されない。
【0024】
制御装置1は、溶接システムA1の各種制御を行う。制御装置1は、汎用的なコンピュータに溶接システムA1の各種制御を行うプログラムをインストールしたものであってもよいし、溶接システムA1の制御のための専用装置であってもよい。制御装置1は、台車4を所定の移動速度で移動させる。移動速度は、被溶接物Wの材質および厚さなどに応じて設定される。制御装置1は、散布装置7に、フラックス79の散布の開始および停止を指示する。なお、散布装置7によるフラックス79の散布の開始および停止は、手動により行われてもよい。制御装置1は、ワイヤ送給装置5に、溶接ワイヤの送給の開始、停止、および、溶接ワイヤの送給速度を指示する。送給速度は、設定される溶接電流などに応じて設定される。制御装置1は、溶接電源装置2に、電力の出力を指示する。
【0025】
台車4は、ワイヤリール6、ワイヤ送給装置5、散布装置7、および溶接トーチ3を搭載して、被溶接物Wの溶接線に沿って移動する。なお、制御装置1も台車4に搭載されてもよい。
図2に示すように、溶接トーチ3およびワイヤ送給装置5は、台車4から進行方向に対して右前方に延びるアームの先に固定され、台車4の右前方に配置されている。なお、
図2においては図示しないが、散布装置7およびワイヤストレートナなども、台車4の右側に配置されている。一方、ワイヤリール6は、台車4から進行方向に対して左後方向に延びるアームの先に固定され、台車4の左後方に配置されている。なお、台車4に搭載される各部の配置位置は、上記したものに限定されない。台車4の重心位置が台車4の中心の近くに位置するように、各部は配置されている。なお、溶接トーチ3は、位置が上下または左右に移動可能に構成されてもよい。また、台車4は、溶接トーチ3の移動に応じて、または、散布装置7のホッパ内のフラックス79の量の減少、ワイヤリール6の溶接ワイヤの減少に応じて、台車4の重心位置の変化を抑制するためのバランサを備えてもよい。
【0026】
また、本実施形態では、溶接システムA1は、台車4の転倒を防止する構成を備えている。台車4は、
図2に示すように、挿通部42および固定部43を備えている。挿通部42は、固定部43を介して台車4の右側の側面41に固定されており、台車4の右側に配置されている。つまり、挿通部42は、平面視において台車4に対して溶接トーチ3と同じ側に配置されている。挿通部42は、円環形状であり、軸方向が台車4の走行方向に平行になるように固定されている。つまり、挿通部42は、走行方向に貫通した貫通部を有している。当該貫通部には、後述する支持部材45が挿通されている。本実施形態では、挿通部42および固定部43は、いわゆるアイボルト(吊りボルト)である。つまり、アイボルトのボルト部分が固定部43として台車4の本体部分に螺合され、アイボルトのリング部分が挿通部42として支持部材45を挿通されている。なお、挿通部42および固定部43は、アイボルトに限定されず、挿通部42と固定部43とが別体であってもよい。また、台車4は、固定部43を備えず、挿通部42が台車4に直接固定されてもよい。また、挿通部42の形状は限定されず、貫通部を有していればよく、例えば矩形環形状であってもよいし、筒状であってもよい。
【0027】
支持部材45は、ある程度の強度を有する細長い部材であり、台車4を転倒しないように支えることができる部材である。本実施形態では、支持部材45は、例えばワイヤロープである。なお、支持部材45は、これに限定されず、ロープまたは金属線などであってもよい。また、支持部材45は、金属棒などの柔軟性の小さい部材であってもよい。ただし、設置を容易にする観点から、ある程度の変形裕度がある部材が望ましい。
【0028】
支持部材45は、被溶接物Wの溶接線に沿って延びるように固定されている。本実施形態では、支持部材45は、
図2(b)に示すように、その両端がそれぞれ支柱46を介して、作業台Tに固定されている。支柱46は、支持部材45の高さ位置を台車4の挿通部42の高さ位置に合わせるための部材である、支柱46は、棒状の部材であり、一方の端部が作業台Tに固定され、他方の端部付近に支持部材45が固定されている。なお、支柱46は、作業台Tではなく、被溶接物Wに直接固定されてもよいし、台車走行用レール、地面、または床などに固定されてもよい。なお、支柱46を被溶接物Wに直接固定する場合は、被溶接物Wに傷跡を残さないようにするために、支柱46に磁石を取り付けて、当該磁石の磁力によって被溶接物Wに固定するなどの工夫が必要である。また、支持部材45は、支柱46を用いずに、建物などの壁または柱などに直接固定されてもよい。このように、支持部材45の固定方法は限定されず、支持部材45が被溶接物Wの溶接線に沿って延びるように、その両端が固定できればよい。
【0029】
本実施形態では、台車4は、走行方向に沿って並んで配置された2個の挿通部42を備えている。なお、挿通部42の数は限定されず、1個であってもよいし、3個以上であってもよい。各挿通部42はそれぞれ、貫通部に支持部材45が挿通されている。これにより、台車4は、支持部材45に沿って走行可能であり、また、溶接ワイヤの送給の継続による転倒を防止される。
【0030】
例えば、溶接中に溶接ワイヤ(電極8)の先端が被溶接物Wに接触して短絡が発生した場合、ワイヤ送給装置5が溶接ワイヤの送給を継続すると、台車4が傾く場合がある。このとき、溶接トーチ3が台車4の右側に配置されていることで、
図3(a)に示すように、点X1を中心として、台車4を矢印Y1の方向に回転させるモーメントが働いて、台車4が左側に傾いた不安定な状態になる。しかし、挿通部42の貫通部の内面の下側に支持部材45が当接して、台車4がそれ以上傾かなくなる。これにより、台車4の転倒が防止される。また、溶接トーチ3が台車4の前側に配置されていることで、
図3(b)に示すように、点X2を中心として、台車4を矢印Y2の方向に回転させるモーメントが働いて、台車4が後側に傾いた不安定な状態になる。しかし、この場合も、前方に配置されている挿通部42の貫通部の内面の下側に支持部材45が当接して、台車4がそれ以上傾かなくなる。これにより、台車4の転倒が防止される。
【0031】
なお、溶接時の短絡発生による場合以外でも、例えば、非溶接時に溶接ワイヤをインチングし続けた場合などでも同様である。このように、支持部材45および挿通部42によって、溶接ワイヤの送給継続による台車4の転倒が防止される。なお、台車4の転倒は防止されるが、ワイヤ送給装置5による溶接ワイヤの送給は、作業者が手動操作により、または、その他の停止のための構成によって、停止する必要がある。
【0032】
次に、本実施形態に係る溶接システムA1の作用および効果について説明する。
【0033】
本実施形態によると、台車4は、右側の側面41に固定されている挿通部42を備えている。挿通部42は、走行方向に貫通した貫通部を有し、貫通部には溶接線に沿って延びる支持部材45が挿通されている。溶接トーチ3の先端から溶接ワイヤが突出しすぎて台車4が左側に所定以上傾くと、支持部材45が挿通部42の貫通部の内面に当接する。したがって、台車4は、それ以上傾くことが抑制される。また、台車4が後側または前側に所定以上傾いた場合も、支持部材45が挿通部42の貫通部の内面に当接することで、台車4はそれ以上傾くことが抑制される。これにより、溶接システムA1は、台車4の転倒を防止できる。本発明は、実際の溶接作業の前の条件出し(溶接条件を決めるために各パラメータを変更して試行する溶接)を行う際に、特に有効である。また、本発明は、実際に台車4が傾いたときにそれ以上傾くことを抑制するので、台車4が傾くことを予測して溶接ワイヤの送給を停止する場合と比較して、正確に台車4の転倒を防止できる。
【0034】
また、本実施形態によると、支持部材45は、溶接線に沿って延びるように固定される。挿通部42は、台車4に固定されており、支持部材45を挿通される。したがって、溶接システムA1は、大掛かりな転倒防止のための機構を備えている場合と比較して、持ち運び、および、設置が容易である。また、台車4は、従来の台車に挿通部42を固定するだけで容易に構成できる。本実施形態では、既製品のアイボルトを用いて挿通部42および固定部43としているので、台車4をより容易に構成できる。
【0035】
また、本実施形態によると、挿通部42は、環形状である。したがって、挿通部42が支持部材45から外れることを防止できる。
【0036】
なお、本実施形態においては、挿通部42が固定部43を介して右側の側面41に固定されている場合について説明したが、これに限られない。挿通部42は、台車4の右側に配置されていれば、台車4のいずれの面に固定されていてもよい。
【0037】
なお、本実施形態においては、溶接トーチ3が台車4の右側に配置されているので、挿通部42が台車4の右側に配置されている。溶接トーチ3が台車4の左側に配置されている場合は、挿通部42が台車4の左側に配置される。
【0038】
図4は、第1実施形態に係る溶接システムA1の挿通部42の変形例を示す簡略図である。
図4(a)に示す第1変形例に係る挿通部42は、円環形状の上方側が開放された形状である。本変形例でも、台車4が左側に傾いた場合に、挿通部42の貫通部の内面の下側に支持部材45が当接して台車4の転倒を防止できる。また、挿通部42は、一部が開放された形状なので、支持部材45に取り付けが容易である。
図4(b)に示す第2変形例に係る挿通部42は、本体部42aおよび開閉部42bを備えている。本体部42aは、円環形状の上方側が開放された開放部を有する。開閉部42bは、本体部42aの一方端に連結されており、開放部を開閉可能に構成されている。挿通部42は、開閉部42bを下方に押して開放部を開放させることで、支持部材45に容易に取り付けることができる。また、取り付けた後は、開閉部42bもとに戻して、開放部を閉鎖させることで、挿通部42が支持部材45から外れることを防止できる。なお、本体部42aは、環形状の下方側または右側に開放部を有してもよい。
【0039】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係る溶接システムA2を説明するための図であり、溶接システムA2の台車4を、走行方向の後方から見た簡略図である。
図5において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。本実施形態に係る溶接システムA2は、挿通部42の配置位置および形状が、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0040】
本実施形態においては、挿通部42は、固定部43を介して台車4の左側の側面44に固定されており、台車4の左側に配置されている。つまり、挿通部42は、平面視において台車4に対して溶接トーチ3とは反対側に配置されている。また、挿通部42は、円環形状の下方側が開放された形状である。
図5(b)に示すように、台車4が左側に所定以上傾いた場合、挿通部42の貫通部の内面の上側に支持部材45が当接して、台車4がそれ以上傾かなくなる。これにより、台車4の転倒が防止される。なお、挿通部42は、円環形状であってもよい。
【0041】
本実施形態によると、台車4は、左側の側面44に固定されている挿通部42を備えている。挿通部42は、走行方向に貫通した貫通部を有し、貫通部には溶接線に沿って延びる支持部材45が挿通されている。溶接トーチ3の先端から溶接ワイヤが突出しすぎて台車4が左側に所定以上傾くと、支持部材45が挿通部42の貫通部の内面の上側に当接する。したがって、台車4は、それ以上傾くことが抑制される。これにより、溶接システムA2は、台車4の転倒を防止できる。また、本実施形態においても、溶接システムA2は、溶接システムA1と同様の構成を備えていることで、溶接システムA1と同様の効果を奏することができる。
【0042】
なお、本実施形態においては、溶接トーチ3が台車4の右側に配置されているので、挿通部42が台車4の右側に配置されている。溶接トーチ3が台車4の左側に配置されている場合は、挿通部42が台車4の左側に配置される。
【0043】
また、台車4は、左側および右側の両方に、それぞれ挿通部42および支持部材45を備えてもよい。すなわち、台車4は、左側の側面44に固定され、かつ、台車4の左側に配置された支持部材45を挿通された挿通部42と、右側の側面41に固定され、かつ、台車4の右側に配置された支持部材45を挿通された挿通部42とを両方備えてもよい。この場合、左側に配置された挿通部42は、環形状の下方側が開放された形状または環形状であり、右側に配置された挿通部42は、環形状の上方側が開放された形状または環形状であればよい。
【0044】
〔第3実施形態〕
図6は、第3実施形態に係る溶接システムA3を説明するための図であり、溶接システムA3の台車4を、走行方向の後方から見た簡略図である。
図6において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。本実施形態に係る溶接システムA3は、支持部材45が台車4の本体を貫通する貫通孔に挿通されている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0045】
本実施形態においては、台車4は、第1,2実施形態のような挿通部42および固定部43を備えておらず、代わりに、台車4の本体を前後(走行方向)に貫通した貫通孔4aを備えている。本実施形態では、貫通孔4aは、台車4の重心位置より右側に配置されている。なお、貫通孔4aの配置位置は限定されない。貫通孔4aには、支持部材45が挿通されている。つまり、本実施形態に係る貫通孔4aは、第1,2実施形態に係る挿通部42の貫通部に相当する。
【0046】
本実施形態によると、台車4は、本体を前後(走行方向)に貫通した貫通孔4aを備えている。貫通孔4aには溶接線に沿って延びる支持部材45が挿通されている。溶接トーチ3の先端から溶接ワイヤが突出しすぎて台車4が左側に所定以上傾くと、支持部材45が貫通孔4aの内面の下側に当接する。したがって、台車4は、それ以上傾くことが抑制される。これにより、溶接システムA3は、台車4の転倒を防止できる。また、本実施形態においても、溶接システムA3は、溶接システムA1と同様の構成を備えていることで、溶接システムA1と同様の効果を奏することができる。
【0047】
本発明に係るサブマージアーク溶接システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るサブマージアーク溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0048】
A1~A3:溶接システム、3:溶接トーチ、4:台車、42:挿通部、42a:本体部、42b:開閉部、45:支持部材、5:ワイヤ送給装置