(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002792
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】歯車機構およびロボット
(51)【国際特許分類】
F16H 57/032 20120101AFI20241226BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20241226BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
F16H57/032
B25J17/00 E
F16H1/32 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103144
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】521432650
【氏名又は名称】技術研究組合産業用ロボット次世代基礎技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】武居 直行
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 浩太
【テーマコード(参考)】
3C707
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3C707BS10
3C707CX01
3C707CX03
3C707HS27
3C707HT25
3J027FA36
3J027FB32
3J027FC07
3J027FC12
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC24
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE14
3J063AA27
3J063AB15
3J063AC01
3J063BB44
3J063CA01
3J063CD41
3J063XC05
3J063XC07
(57)【要約】
【課題】従来の歯車機構に比べて、軽量化を実現しつつ強度を確保すること。
【解決手段】筐体(22,23)と、駆動が入力される入力部(26+27)と、入力部(26+27)からの駆動が伝達される歯車部材(28)と、歯車部材(28)からの駆動が出力される出力部(31)と、を備え、筐体(22,23)は樹脂材料で構成され、出力部(31)は筐体(22,23)よりも強度の高い材料で構成されたことを特徴とする歯車機構(21)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内部に配置され、駆動が入力される入力部と、
前記筐体内部に配置され、前記入力部からの駆動が伝達される歯車部材と、
前記筐体内部に配置され、前記歯車部材からの駆動が出力される出力部と、
を備え、
前記筐体は、樹脂材料で構成され、
前記出力部は、前記筐体よりも剛性の高い材料で構成された
ことを特徴とする歯車機構。
【請求項2】
入力軸部と、前記入力軸部と共に回転可能な偏心軸部と、を有する前記入力部と、
前記偏心軸部から駆動が伝達される遊星歯車で構成された前記歯車部材と、
前記遊星歯車の外周に接触して配置され且つ前記筐体に固定された太陽歯車部と、
前記遊星歯車の周方向に沿って間隔をあけて形成された複数の出力伝達部と、
複数の前記出力伝達部のそれぞれに対応して配置され且つ前記出力伝達部に遊嵌された複数の出力被伝達部材と、
全ての前記出力被伝達部材を支持し且つ出力軸が支持される前記出力部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の歯車機構。
【請求項3】
エピトロコイド曲線に基づく外周形状を有する前記遊星歯車、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の歯車機構。
【請求項4】
カーボンファイバーを含有するナイロン樹脂で構成された前記筐体と、
カーボンファイバーを含有するエポキシ樹脂で構成された前記歯車部材および出力部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の歯車機構。
【請求項5】
複数のアーム部と、
2つのアーム部どうしの連結部位である関節部と、
前記関節部に配置され、一方のアーム部に対して他方のアーム部を変位させる駆動を伝達する請求項1ないし4のいずれかに記載の歯車機構と、
を備えたことを特徴とするロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車を有する歯車機構および歯車機構を備えたロボットに関し、特に、産業用ロボットの減速機に好適に利用可能な歯車機構およびロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的に持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)やカーボンニュートラルに向けた取り組みが広がっており、産業用ロボットの分野においても、省エネルギー化が望まれている。産業用ロボットの消費電力は、特にロボットの自重が大きく関わっており、自重の低減が省エネルギー化につながる。
ロボットを軽量化するためには、従来金属で作られていたものを樹脂等の軽量な非金属材料に置き換えることが従来から検討されている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】吉田 賢央、他3名、“産業応用に向けた3Dプリンタ製ロボット機構部品-第2報:樹脂製減速機の政策及び試験”,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会’21,2P3-A04,2021
【非特許文献2】平間 翔大,他4名、“教育・研究向けのトルク制御可能な7軸ロボットアームCRANE-X7の紹介”,第19回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2018),2E3-12,p.2163,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(従来技術の問題点)
産業用ロボットには、用途に応じて可搬重量や強度が要求される。したがって、非特許文献1,2に記載のように、全体を単純に樹脂で製作すると、軽量化はできても強度が確保できない恐れがある。
【0005】
本発明は、従来の歯車機構に比べて、軽量化を実現しつつ強度を確保することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の歯車機構は、
筐体と、
前記筐体内部に配置され、駆動が入力される入力部と、
前記筐体内部に配置され、前記入力部からの駆動が伝達される歯車部材と、
前記筐体内部に配置され、前記歯車部材からの駆動が出力される出力部と、
を備え、
前記筐体は、樹脂材料で構成され、
前記出力部は、前記筐体よりも剛性の高い材料で構成された
ことを特徴とする。
【0007】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、「樹脂材料」は樹脂材料を母材とする樹脂系複合材料も含む意味で使用する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の歯車機構において、
入力軸部と、前記入力軸部と共に回転可能な偏心軸部と、を有する前記入力部と、
前記偏心軸部から駆動が伝達される遊星歯車で構成された前記歯車部材と、
前記遊星歯車の外周に接触して配置され且つ前記筐体に固定された太陽歯車部と、
前記遊星歯車の周方向に沿って間隔をあけて形成された複数の出力伝達部と、
複数の前記出力伝達部のそれぞれに対応して配置され且つ前記出力伝達部に遊嵌された複数の出力被伝達部材と、
全ての前記出力被伝達部材を支持し且つ出力軸が支持される前記出力部と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の歯車機構において、
エピトロコイド曲線に基づく外周形状を有する前記遊星歯車、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の歯車機構において、
カーボンファイバーを含有するナイロン樹脂で構成された前記筐体と、
カーボンファイバーを含有するエポキシ樹脂で構成された前記歯車部材および出力部と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項5に記載の発明のロボットは、
複数のアーム部と、
2つのアーム部どうしの連結部位である関節部と、
前記関節部に配置され、一方のアーム部に対して他方のアーム部を変位させる駆動を伝達する請求項1ないし4のいずれかに記載の歯車機構と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1,5に記載の発明によれば、従来の歯車機構に比べて、軽量化を実現しつつ強度を確保することができる。
請求項2に記載の発明によれば、遊星歯車と太陽歯車とを有する歯車機構において、軽量化を実現しつつ強度を確保することができる。
請求項3に記載の発明によれば、インボリュート型の遊星歯車に比べて、繊維が含有された樹脂を使用する場合には、強度を確保し易い。
請求項4に記載の発明によれば、出力支持部材が金属の場合に比べて、軽量化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の実施例1のロボットの概略説明図である。
【
図2】
図2は本発明の歯車機構の一例としての減速機の分解説明図である。
【
図3】
図3は
図2の減速機の遊星歯車や太陽歯車、偏心軸等の挙動の説明図である。
【
図4】
図4は無負荷ランニングトルクの実験結果の説明図であり、横軸に目標角速度をとり、縦軸に駆動トルクを取ったグラフである。
【
図5】
図5はトルク-ねじれ角特性の実験結果の説明図であり、横軸に出力トルクをとり、縦軸に減速機のねじれ角に相当する値を取ったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例0015】
図1は本発明の実施例1のロボットの概略説明図である。
図1において、本発明のロボットの一例としての実施例1のロボットアームシステムSは、アーム部材1を有する。アーム部材1は、複数のアーム部2と、アーム部2どうしを連結する関節部3とを有する。実施例1のアーム部材1は、台座部4に一端が支持された第1のアーム部2aを有する。第1のアーム部2aの他端には、第1の関節部3aが支持されている。以下同様に、第2のアーム部2b、第2の関節部3b、…、第9の関節部3i、第10のアーム部2jが連結されている。第10のアーム部2jの他端(先端)には対象物を把持、解放可能なロボットハンド部2kが形成されている。
したがって、実施例1のアーム部材1では、全体としては、第1のアーム部2aの一端部が基端部となり、第10のアーム部2jの他端部が自由端部となる。
【0016】
なお、実施例1では、9個の関節部3a~3iと、10個のアーム部2a~2jを有する構成を例示したがこれに限定されない。また、実施例1では、関節タイプを回転関節のみの構成例であるが、直動関節を含んだロボットアームでもよい。
アーム部2や関節部3の数は、アーム部材1の用途や設計、仕様等に応じて任意の数に増減可能である。
【0017】
前記関節部3(3a~3i)は、回転軸を中心として一方のアーム部2a~2iに対して他方のアーム部2b~2jを回転(変位)可能に構成されている。各関節部3には、図示しないモータおよび歯車機構の一例としての減速機が内蔵されており、モータの回転駆動、回転停止を制御することで回転量を制御可能に構成されている。各関節部3のモータは、実施例1では、図示しない無線通信チップで制御信号を受信して駆動する構成としているが、これに限定されない。通信ケーブル等の有線で制御信号を送受信可能な構成としてモータを制御することも可能である。なお、無線通信や有線通信の方式は、従来公知の任意の通信方式とすることが可能であり、携帯電話回線やBluetooth(登録商標)、無線LAN等、任意の無線通信方式を採用したり、USB(Universal Serial Bus)等のシリアル方式やパラレル方式等任意の有線通信方式を採用することが可能である。
【0018】
前記アーム部材1は、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置11で制御される。実施例1では、アーム部材1はコンピュータ装置11との間で無線通信が可能に構成されている。コンピュータ装置11は、コンピュータ本体12と、表示部の一例としてのディスプレイ13と、入力部の一例としてのキーボード14およびマウス15と、を有する。なお、実施例1では、コンピュータ装置11としてデスクトップ型のコンピュータ装置を例示したがこれに限定されず、ラップトップ型(ノート型)のコンピュータ装置を使用することも可能である。また、コンピュータ装置11として、パーソナルコンピュータ装置に限定されず、サーバー型やマイクロコンピュータ型、チップ型等の任意の形態とすることも可能である。
【0019】
(減速機の説明)
図2は本発明の歯車機構の一例としての減速機の分解説明図である。
図3は
図2の減速機の遊星歯車や太陽歯車、偏心軸等の挙動の説明図である。
図2において、本発明の歯車機構の一例としての減速機21は、筐体の一例としての上部ケース22と、下部ケース23とを有する。上部ケース22は、内部が中空の箱型に形成されており、天面部22aには、開口22bが形成されている。下部ケース23は、底板部23aと、円筒状の筒部23bとを有し、筒部23bの内部を貫通する開口23cが形成されている。上部ケース22と下部ケース23との間には、太陽歯車部24が配置されている。太陽歯車部24は、筒部23bの周方向に沿って間隔をあけて複数配置されている。太陽歯車部24は、一端が筒部23bに支持され、他端が上部ケース22に支持されている。なお、太陽歯車部24は、軸に回転可能なベアリングが支持された構成とすることも可能であるが、回転不能な構成(固定のシャフト)とすることも可能である。
【0020】
上部ケース22の中央部には、偏心軸部の一例としての偏心シャフト26が配置されている。偏心シャフト26は、中心軸26aと、中心軸26aに支持された円板状の偏心ベアリング26bとを有する。偏心ベアリング26bは円板の中心が、中心軸26aに対して偏心して支持されている。また、実施例1では、偏心ベアリング26bは、中心軸26aの軸方向に沿って2つ支持されており、第1偏心ベアリング26b-1と、第2偏心ベアリング26b-2は、第1偏心ベアリング26b-1の短径部分に第2偏心ベアリング26b-2の長径部分が対応するように異なる位相で支持されている。
中心軸26aの下端部は、入力軸部27に支持されている。実施例1の入力軸部27は、円板状に形成されており、図示しないモータの出力軸から延びる連結部(ジョイント)が連結可能である。なお、偏心シャフト26の他端は、出力フランジ31(後述)の中心にベアリングを介して回転可能に支持される。
前記入力軸部27や偏心軸部26等により、実施例1の入力部26+27が構成されている。
【0021】
太陽歯車部24の内側には、歯車部材の一例としての遊星歯車28が支持されている。実施例1の遊星歯車28は、2つの偏心ベアリング26b-1,26b-2に対応して、第1遊星歯車28-1と第2遊星歯車28-2を有する。
図2、
図3において、遊星歯車28には、中心部に、入力伝達部の一例としての入力伝達孔28aが形成されている。入力伝達孔28aは、偏心シャフト26が貫通するとともに、内面が偏心ベアリング26bの外面に接触して、偏心シャフト26の駆動が伝達される。遊星歯車28には、入力伝達孔28aの径方向の外側の位置に、出力伝達部の一例としての出力伝達孔28bが形成されている。
【0022】
遊星歯車28の外周28cは、太陽歯車部24に接触する歯車状に構成されている。実施例1の遊星歯車28の外周28cは、エピトロコイド曲線に沿った外形形状に形成されている。ここで、歯の凸部の頂点どうしの角度をθ、歯車のピッチ円の半径(遊星歯車28の中心から太陽歯車の中心までの距離)をa、歯数をn、モジュール(実施例1の構成では偏心度)をb/nとした場合に、エピトロコイド曲線は、以下の数1で表される。
【数1】
ただし、数1は、半径が0である内歯太陽歯車における遊星歯車の形状であり、実際の遊星歯車の形状は内歯太陽歯車の半径r
sだけ変位させた曲線となる。
【0023】
図2において、遊星歯車28と入力軸部27との間には、第2の出力支持部材の一例としての出力支持端29が配置されている。実施例1の出力支持端29は円板状に形成されている。出力支持端29の中心部には、中心軸26aが貫通する貫通孔29aが形成されている。
遊星歯車28の上面側には、出力支持部材の一例としての出力フランジ31が配置されている。出力フランジ31は円板状に形成されている。出力フランジ31は、上部ケース22の開口22bに回転可能に支持されるベアリング部31aと、図示しない関節部3の出力軸が連結される出力軸部31bとを有する。
【0024】
出力フランジ31と出力支持端29との間には、出力被伝達部材の一例としての出力ピン32が支持されている。
図3において、出力ピン32は、遊星歯車28の出力伝達孔28bを貫通している。出力ピン32の外径は、出力伝達孔28bの内径に対して、隙間34(遊び)が十分にできるように小径に形成されており、出力ピン32は出力伝達孔28bに対して遊びのある状態で嵌まっている(すなわち、遊嵌している)。出力ピン32は、2つの遊星歯車28-1,28-2の両方の出力伝達孔28bを貫通する形で配置されている。
前記出力ピン32、出力フランジ31、出力支持端29により、実施例1の出力部29~32が構成されている。
出力フランジ31の上側には、出力フランジ31を回転可能に支持するベアリング部31aを保持する出力蓋部33が配置されている。
【0025】
図3において、入力軸部27に矢印Ya方向(
図3における時計回り方向)の駆動が入力されると、偏心シャフト26が矢印Ya方向に回転する。偏心シャフト26の回転に伴って、遊星歯車28も矢印Ya方向に回転する。2つの遊星歯車28が矢印Ya方向に回転すると、遊星歯車28の外周28cが太陽歯車部24に接触しながら回転することとなり、太陽歯車部24を遊星歯車28が周期的に乗り越えるような挙動となって、径方向にも移動する。遊星歯車28の矢印Ya方向の回転と径方向の移動に伴って、出力ピン32が出力伝達孔28bで押され、出力ピン32や出力フランジ31、出力支持端29は、遊星歯車28等とは逆方向である矢印Yb方向に回転する。実施例1の減速機21では、偏心シャフト26から遊星歯車28への駆動の伝達時に減速されると共に、遊星歯車28から出力ピン32への駆動の伝達時にも減速がされる。
したがって、実施例1の減速機21は、いわゆる、トロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車減速装置で構成されており、入力軸部27から入力された駆動が、出力フランジ31に減速されて出力される。
【0026】
実施例1では、上部ケース22および下部ケース23は、樹脂材料で構成されている。樹脂材料の一例として、カーボンファイバーを含有するナイロン樹脂をベースとすることが好ましい。当該ナイロン樹脂において、3Dプリンタを使用して製作する場合には、3Dプリンタのノズルの大きさによって異なるが、カーボンファイバーの繊維長は0.01mm~0.5mm程度が好適であり、カーボンファイバーの含有率は体積含有率では8~12%程度が好適である。また、当該ナイロン樹脂に連続繊維の炭素繊維を加えて強度、剛性を調整することも可能であり、上部ケース22および下部ケース23に要求される強度、剛性等の使用に応じて、加える量を調整可能である。
【0027】
また、実施例1の出力フランジ31は、上部ケース22および下部ケース23よりも剛性の高い材料で構成されている。実施例1の出力フランジ31は、剛性の一例として引張強度や引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率の全てが高い樹脂材料が好適である。一例として、カーボンファイバーを含有するエポキシ樹脂をベースとすることが好ましい。当該エポキシ樹脂において、カーボンファイバーの繊維長は20mm以上若しくは連続繊維が好適であり、カーボンファイバーの含有率は体積含有率で30%~60%程度が好適である。当該エポキシ樹脂は、強度、剛性が高いため、切削加工が可能であり、切削加工で遊星歯車28を切り出して製作することが可能である。
【0028】
実施例1では、出力支持端29と遊星歯車28も出力フランジ31と同様の樹脂材料で構成されている。したがって、実施例1では、上部ケース22および下部ケース23も出力フランジ31等も、共に、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:カーボンファイバー強化プラスチック)で構成されているが、強度の異なるCFRPが使用されている。なお、CFRPに限定されず、GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics:ガラス繊維強化プラスチック)やKFRP(Kevlar Fiber Reinforced Plastics:ケブラー(登録商標)繊維強化プラスチック)等、任意の樹脂材料を使用可能である。
なお、実施例1では、太陽歯車部24や偏心シャフト26、出力ピン32は、ステンレス(SUS304)で構成されているが、これに限定されない。要求される強度に応じて、一般のスチール(鉄鋼)で構成することも可能であるし、非金属材料(樹脂)で構成することも不可能ではない。
【0029】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のロボットアームシステムSの減速機21では、ケース22,23や出力フランジ31等が非金属材料の樹脂で構成されており、全て金属製で構成されている場合に比べて、軽量化される。また、実施例1では、ケース22,23の構成材料に比べて、出力フランジ31等は、強度、剛性の高い材料で構成されている。出力フランジ31等は、駆動が伝達、出力される部分であり、ケース22,23のように強度、剛性が低い材料で構成すると、強度不足で破損しやすくなったり、変形して駆動の伝達不良が発生したりしやすくなり、寿命が短くなる恐れがある。したがって、ケース22,23の構成材料よりも強度、剛性の高い材料で出力フランジ31等を構成する実施例1の減速機21では、出力フランジ31等もケース22,23と同様の材料で構成する場合に比べて、強度を確保することが可能である。
【0030】
(実験例)
次に、実施例1の効果を確認するための実験を行った。
(実験例1)
実験例1では、遊星歯車28として、a=30mm、b=11、n=11として設計し、そこからrs=3.5mmだけ変位させるように設計した。また、減速比は10とした。実験例1では、ケース22,23を、カーボンファイバーを含有するナイロン樹脂で構成し、遊星歯車28、出力支持端29、出力フランジ31を、カーボンファイバーを含有するエポキシ樹脂で構成した。この構成の減速機21において、重量と、無負荷ランニングトルクと、トルク-ねじれ角特性を計測した。
【0031】
(比較例1)
比較例1では、全ての構成材料を金属で構成した。具体的には、ケース22,23をアルミニウム合金(A7075、超々ジュラルミン)で構成し、出力フランジ31や遊星歯車28、出力支持端29等をステンレス鋼(SUS304)で構成した。その他は、実験例1と同様の構成とした。
(実験例2)
実験例2では、比較例1に対して、ケース22,23のみをカーボンファイバーを含有するナイロン樹脂に変更しただけで、その他は比較例1と同様である。
(実験例3)
実験例3では、比較例1に対して、ケース22,23と遊星歯車28、出力支持端29をカーボンファイバーを含有するナイロン樹脂に変更し、出力フランジ31は比較例1と同様にステンレス鋼(SUS304)とした。その他は比較例1と同様である。
【0032】
(重量の実験結果)
重量は、比較例1では772gであった。これに対して、実験例1では383g、実験例2では637g、実験例3では473gであった。したがって、実験例1-3では、比較例1に対して軽量化されたことが確認された。
【0033】
(無負荷ランニングトルクの実験結果)
図4は無負荷ランニングトルクの実験結果の説明図であり、横軸に目標角速度をとり、縦軸に駆動トルクを取ったグラフである。
図4において、減速機21の入力側に取り付けられたモータの目標角速度が10rpm/sの傾きで速度変化させたときの駆動トルクを測定した。
図4において、基準となるモータ単体での無負荷トルクは0.03N・mであった。
比較例1では、0.15N・mであり、モータ単体の約5倍になった。これに対して、実験例1では、約0.08N・m、実験例2,3では約0.07N・mであった。
図4の実験結果から、金属材料のみで構成された比較例1では、製作誤差・組立誤差に起因して生じる部品どうしにかかる力が大きく、大きな摩擦が生じる一方で、樹脂部品に置換された実験例1-3では、大きな力を受けた際に樹脂部品が変形することで緩和され、摩擦が小さくなったものと考えられる。そのため、無負荷トルクは、樹脂化した実験例1-3では、金属製の比較例1に比べて約50%低減したものと考えられる。すなわち、ケース22,23を金属から樹脂に置換することは、部品の誤差を許容し、駆動を滑らかにしながら軽量化に貢献できることが期待される。
【0034】
(トルク-ねじれ角特性)
図5はトルク-ねじれ角特性の実験結果の説明図であり、横軸に出力トルクをとり、縦軸に減速機のねじれ角に相当する値を取ったグラフである。
実施例1の減速機21の出力軸にトルクメータを設置してトルクを計測した結果を
図5の横軸に取った。入力トルクは、モータの定格トルク1N・mを最大入力トルクとし、0.05N・m/sの傾きで、入力トルクを変化させる。縦軸は、減速機21のねじれ角に相当する、減速機21の入力側に取り付けられたモータの角度を減速比で割った角度を取った。
図5の実験結果によれば、実験例2では、比較例1に対して、ねじれ角の最大値は6.5倍に増加した。これに対して、実験例1,3では比較例1に対して2倍程度の増加であった。
ケース22,23は最も体積が大きな部品であるが、これに対するねじれ角の増加(実験例2と比較例1との対比)は、内部部品の置換(実験例1,3と実験例2との対比)と比較すると小さい。具体的には、ケース22,23を樹脂に変えた後の対比として、内部部品である遊星歯車28や出力支持端29が金属(実験例2)と樹脂(実験例1,3)の場合を対比すると、実験例3のねじれ角が大きく増加している一方で、内部部品である遊星歯車28や出力支持端29が金属で、ケース22,23が金属(比較例1)の場合と樹脂(実験例2)の対比では、ねじれ角の増加はそれほど大きくないことがわかる。したがって、ケース22,23を金属(比較例1)から樹脂(実験例1~3)に置換することは、ねじれ剛性への影響を抑えつつ、軽量化に大きく貢献できると共に、さらに内部部品および出力部品を金属(実験例2)からケースよりも剛性の高い樹脂(実験例1)に置換することは金属と同等の剛性を保持したまま軽量化が可能であることが実験結果からわかった。
【0035】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H06)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、関節部3の数やアームの長さや数、形状等は例示した形態に限定されない。したがって、アーム部材の用途や設計、仕様等に応じて、数や長さ、形状等、任意に変更可能である。
【0036】
(H02)前記実施例や実験例において、例示した材料名や数値とすることが好ましいが、これらに限定されない。例えば、実験例2のようにケース22,23を樹脂材料で構成し、出力フランジ31等をケース22,23よりも強度、剛性の高いチタン合金等の金属材料で構成することも可能である。
(H03)前記実施例において、関節部3の種類は回転関節のみで構成されていたが、その形態に限定されない。すなわち、直動関節を含む場合も適用可能である。
【0037】
(H04)前記実施例において、遊星歯車28の外周28cを、エピトロコイド曲線を用いた形状とする場合を例示したが、これに限定されない。歯車で一般的に使用されるインボリュート型の外形とすることも可能である。なお、インボリュート型は、エピトロコイド曲線に比べて、歯が細かく、歯の外形の曲線形状の変化が大きく(エピトロコイド曲線の方が滑らかな曲線形状)、歯の接触時に受ける力が大きくなりやすい傾向がある。歯が細かくなると、製作時にカーボンファイバーの繊維が分断されやすくなり、強度、剛性、寿命が低下しやすくなる。よって、繊維強化プラスチックを使用する場合には、インボリュート型よりもトロコイド型の方がより好ましい。
(H05)前記実施例において、歯車機構として、減速機21を例示したが、これに限定されず、増速機にも適用可能である。
(H06)前記実施例において、遊星歯車機構を例示したが、これに限定されず、一般的な歯車機構にも適用可能である。