(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027943
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】正極材料及びその製造方法並びにナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20250220BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250220BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20250220BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M10/054
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012942
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】202311041962.7
(32)【優先日】2023-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】524042089
【氏名又は名称】湖北宇浩高科新材料有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】522485888
【氏名又は名称】湖北万潤新能源科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUBEI WANRUN NEW ENERGY TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 五星
(72)【発明者】
【氏名】彭 嘉玉
(72)【発明者】
【氏名】劉 世奇
(72)【発明者】
【氏名】付 偉
(72)【発明者】
【氏名】晏 益志
(72)【発明者】
【氏名】陳 世涛
(72)【発明者】
【氏名】登 志斌
(72)【発明者】
【氏名】呉 玉林
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL13
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ05
5H029HJ10
5H029HJ14
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB12
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA18
5H050GA10
5H050GA26
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】空気中での保存安定性と電気化学性能を効果的に向上させることができる正極材料を提供する。
【解決手段】正極材料は、プルシアンブルー基体と、前記プルシアンブルー基体の表面に順次被覆された第1被覆層及び第2被覆層と、を含み、前記第1被覆層を形成する材料は、タンニン酸のポリマーを含み、前記第2被覆層を形成する材料は、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オクタデシルホスホン酸、N-フェニルトリフルオロメタンスルホンイミド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリエトキシシラン及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールのうちの少なくとも1つを含む。本発明の正極材料は、電気化学性能に影響を与えないことを基本として、プルシアンブルー正極材料が吸湿しやすいという問題を効果的に解決することができ、それにより正極材料の空気中での保存性と電気化学性能を効果的に向上させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プルシアンブルー基体と、前記プルシアンブルー基体の表面に順次被覆された第1被覆層及び第2被覆層と、を含み、
前記第1被覆層を形成する材料は、タンニン酸のポリマーを含み、
前記第2被覆層を形成する材料は、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オクタデシルホスホン酸、N-フェニルトリフルオロメタンスルホンイミド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリエトキシシラン及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする正極材料。
【請求項2】
前記プルシアンブルー基体の化学式は、NaxMaM’b(CN)6・zH2Oであり、式中、M及びM’は、それぞれ独立してNi、Cu、Fe、Mn、Co及びZnのうちの少なくとも1つから選択され、0<x<2、0<a<1、0<b<1、z>0であり、
及び/又は、前記正極材料の粒径は、200~300nmであることを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記第1被覆層の厚さは、3~4nmであることを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
前記第2被覆層の厚さは、1~2nmであることを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項5】
タンニン酸と、ホルムアルデヒドと、アンモニウムイオンと、第1溶媒と、水と、を混合して、タンニン酸を含む前駆体溶液を得るステップと、
プルシアンブルー基体と、タンニン酸を含む前記前駆体溶液と、を第1反応させて、PB@TAを得るステップと、
前記PB@TAwと、第2被覆層を形成する材料と、第2溶媒と、を第2反応させて、前記正極材料を得るステップと、を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記第1反応と前記第2反応の温度は、それぞれ独立して、25~80℃であり、
及び/又は、前記第1反応と前記第2反応の時間は、それぞれ独立して、1~72hであることを特徴とする請求項5に記載の正極材料の製造方法。
【請求項7】
前記タンニン酸と前記ホルムアルデヒドとのモル比は、(0.022~0.024):1である特徴(1)、
前記アンモニウムイオンを提供する物質は、アンモニア水を含む特徴(2)、
前記アンモニア水の濃度は、20~30wt%であり、前記アンモニア水と前記タンニン酸との使用量比は、1mL:0.1~1mmolである特徴(3)のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記プルシアンブルー基体と前記タンニン酸との質量比は、1:(0.05~2)であり、
及び/又は、前記PB@TAと前記第2被覆層を形成する材料との質量比は、1:(0.1~5)であることを特徴とする請求項5に記載の正極材料の製造方法。
【請求項9】
前記第1溶媒は、エタノールを含み、
及び/又は、前記第2溶媒は、メタノール、エタノール、エチレングリコール、アセトン及びテトラヒドロフランのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の正極材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料を含むことを特徴とするナトリウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2023年8月17日に提出された、出願番号が202311041962.7である中国特許出願の優先権を主張しており、その全ての内容を引用により本願に取り込む。
【0002】
技術分野
【0003】
本発明は、ナトリウムイオン電池の技術分野に関し、具体的には、正極材料及びその製造方法並びにナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0004】
プルシアンブルー(PB)は、ナトリウムイオン電池の重要な正極材料であり、一般的にNaxMaM’b(CN)6・zH2Oを使用することができ、ここで、0<x<2、0<a<1、0<b<1、z>0であり、MとM’は、遷移金属を表す。プルシアンブルー正極材料は、理論容量が高く、ギャップが大きく、化学成分が調整可能であり、構造安定性がよいなどの利点を有し、非常に優れた電気化学性能を示す同時に、該材料は、安価であり、無毒かつ無害であり、製造が簡単であり、エネルギー消費量が低いなどの利点を有し、ナトリウムイオン電池研究での商業適用が期待される正極材料である。
【0005】
プルシアンブルーをナトリウムイオン電池の正極材料として使用するためには、まだ、解決すべき問題がある。プルシアンブルーは、通常、単純な化学的沈殿法で製造されるため、材料の構造に空孔欠陥と結晶水があり、ここで、結晶水は、吸着水、間隙水及び配位水で構成される。構造中の結晶水は、ナトリウムイオンの移動に影響を与えたり、電解液と副反応を起こしたり、電池の安全性に影響するガスを発生させたりするなどの電極材料と電解液に重大な悪影響を及ぼす可能性がある。材料における吸着水と間隙水の大部分は、高温熱処理により、除去され得るが、脱水したプルシアンブルーは、空気に触れると、急速に吸水できるため、強い吸湿性を有する。ナトリウムイオン電池の制造プロセスでは、プルシアンブルーは、パルプ化、塗布、圧延、スライス、巻き取り/積層、液体注入、化成、パッケージングなどのプロセスを経なければならず、これらのプロセスでは、塗布、圧延、スライス、巻き取り/積層のほとんどは、空気環境にさらされ、プルシアンブルーの吸湿特性により、極片の加工性能が悪くなり、吸着した水分は、そのナトリウム貯蔵性能と電池の安全性に深刻な影響を与える。
【0006】
これに鑑み、特に本発明を提案する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1目的は、プルシアンブルーの電気化学性能に影響を与えないことを基本として、材料の吸湿性を抑制することができ、それにより正極材料の空気中での保存安定性と電気化学性能を効果的に向上させることができる正極材料を提供することである。
【0008】
本発明の第2目的は、上記正極材料の製造方法を提供することであり、前記製造方法は、ステップが簡単であり、大規模な工業生産に適する。
【0009】
本発明の第三目的は、上記正極材料を含み、優れた電気化学性能を有するナトリウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的を達成するために、特に以下の技術的解決手段を使用する。
本発明は、プルシアンブルー基体と、前記プルシアンブルー基体の表面に順次被覆された第1被覆層及び第2被覆層と、を含む正極材料を提供し、
前記第1被覆層を形成する材料は、タンニン酸のポリマーを含み、
前記第2被覆層を形成する材料は、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オクタデシルホスホン酸、N-フェニルトリフルオロメタンスルホンイミド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリエトキシシラン及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールのうちの少なくとも1つを含む。
【0011】
本発明は、上記正極材料の製造方法をさらに提供し、前記製造方法は、
タンニン酸と、ホルムアルデヒドと、アンモニウムイオンと、第1溶媒と、水と、を混合して、タンニン酸を含む前駆体溶液を得るステップと、
プルシアンブルー基体と、前記タンニン酸を含む前駆体溶液と、を第1反応させて、PB@TAを得るステップと、
前記PB@TAと、第2被覆層を形成する材料と、第2溶媒と、を第2反応させて、前記正極材料を得るステップと、を含む。
本発明は、上記正極材料を含むナトリウムイオン電池をさらに提供する。
【発明の効果】
【0012】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は、以下のとおりである。
1、本発明が提供する正極材料は、プルシアンブルー基体を二重被覆することにより、電気化学性能に影響を与えないことを基本として、プルシアンブルー正極材料が吸湿しやすいという問題を効果的に解決することができ、それにより正極材料の空気中での保存性と電気化学性能を効果的に向上させることができる。
2、本発明が提供する正極材料の製造方法は、プルシアンブルー基体の表面に2層の被覆層を均一に被覆することができるため、材料の吸湿性を効果的に抑制することができ、ステップが簡単である。
3、本発明の正極材料は、ナトリウムイオン電池に使用されるため、ナトリウムイオン電池が優れたサイクル性能と倍率性能を有することを確保することを基本として、高湿度環境下での保存性能を向上させることができる。
【0013】
添付図面の簡単な説明
本発明の具体的な実施形態又は従来技術の技術的解決手段をより明確に説明するために、以下に具体的な実施形態又は従来技術の記述において使用する必要がある添付図面を簡単に説明するが、当然ながら、以下に記載する添付図面は、本発明のいくつかの実施形態であり、当業者であれば、創造的な労力を要することなく、これらの添付図面に基づいて他の添付図面に想到しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1のPBとPB@TA@ODAのXRD図である。
【
図2】本発明の実施例1のPB@TA@ODAのSEM図である。
【
図3】本発明の実施例1のPBとPB-7DのTG曲線である。
【
図4】本発明の実施例1のPB@TA@ODAとPB@TA@ODA-7DのTG曲線である。
【
図5】本発明が実施例1のPBを使用して製造した正極極片のぬれ角の光学写真である。
【
図6】本発明が実施例1のPB@TA@ODAを使用して製造した正極極片のぬれ角の光学写真である。
【
図7】本発明が実施例1のPBとPB@TA@ODAをそれぞれ使用して製造したナトリウムイオン電池の充放電曲線である。
【
図8】本発明が実施例1のPBとPB@TA@ODAを使用して製造したナトリウムイオン電池のサイクル曲線である。
【
図9】本発明が実施例1のPB-7DとPB@TA@ODA-7Dを使用して製造したナトリウムイオン電池の充放電曲線である。
【
図10】本発明が実施例1のPB-7DとPB@TA@ODA-7Dを使用して製造したナトリウムイオン電池のサイクル曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面及び具体的な実施形態と併せて、本発明の技術的解決手段を明確かつ完全に説明するが、当業者であれば、以下に説明する実施例は、本発明の実施例の一部であり、すべての実施例ではなく、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないことを理解するであろう。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的な労力を要することなく取得したすべての他の実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。実施例には具体的な条件が明記されていない場合、従来の条件又は製造業者が推奨する条件に従って行う。使用される試薬又は機器にはメーカーが明記されていない場合、それは、いずれも市場で購入できる従来の製品である。
【0016】
第1態様において、本発明のいくつかの実施例は、プルシアンブルー基体と、プルシアンブルー基体の表面に順次被覆された第1被覆層及び第2被覆層と、を含む正極材料を提供し、
第1被覆層を形成する材料は、タンニン酸のポリマーを含み、
第2被覆層を形成する材料は、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オクタデシルホスホン酸、N-フェニルトリフルオロメタンスルホンイミド、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリエトキシシラン及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールのうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
本発明の正極材料では、タンニン酸のポリマーがプルシアンブルー基体の表面に均一かつ完全に被覆されて第1被覆層、すなわちタンニン酸ポリマー層を形成し、第2被覆層が第1被覆層の表面に被覆され、化学結合によって第1被覆層に接続される。
【0018】
本発明の正極材料では、プルシアンブルー基体の表面を二重被覆することにより、プルシアンブルー基体の表面を親水性から疎水性に変化させ、研究により、本発明が提供する正極材料は、常温、常圧、高湿度の条件下で7日間放置した後、150~250℃の条件下での重量減少が少ないため、本発明が提供する正極材料は、常温、常圧、高湿度の環境下で、吸湿性をよく抑制できるため、電気化学性能に影響を与えないことを基本として、プルシアンブルー正極材料が吸湿しやすいという問題を効果的に解決することができ、それにより該正極材料は、空気中によく保存され得、優れた電気化学性能を有することができることが分かる。
【0019】
本発明の正極材料では、プルシアンブルー基体は、活性物質として使用され、第1被覆層は、第2被覆層に結合基を提供し、第2被覆層は、疎水被覆層を形成し、三者の相互協力により、プルシアンブルー系正極材料は、優れた電気化学性能を有すると同時に、良好な環境保存性能を有する。
【0020】
一好ましい実施形態では、プルシアンブルー基体の化学式は、NaxMaM’b(CN)6・zH2Oであり、式中、M及びM’は、それぞれ独立して、Ni、Cu、Fe、Mn、Co及びZnのうちの少なくとも1つから選択され、0<x<2、0<a<1、0<b<1、z>0である。M及びM’は、同じでも異なっていてもよい。
【0021】
一好ましい実施形態では、プルシアンブルー基体は、NaxFea[Feb(CN)6]・zH2O、NaxMna[Feb(CN)6]・zH2O、NaxNia[Feb(CN)6]・zH2O及びNaxCoa[Feb(CN)6]・zH2Oのうちの少なくとも1つを含む。
【0022】
一好ましい実施形態では、正極材料の粒径は、200~300nmであり、典型的であるが、非限定的であり、例えば、正極材料の粒径は、200nm、220nm、240nm、260nm、280nm、300nm又はこれらの値のうちのいずれか2つからなる範囲値である。
【0023】
一好ましい実施形態では、第1被覆層の厚さは、3~4nmであり、典型的であるが、非限定的であり、例えば、第1被覆層の厚さは、3nm、3.5nm、4nm又はこれらの値のうちのいずれか2つからなる範囲値であってもよい。
【0024】
一好ましい実施形態では、第2被覆層の厚さは、1~2nmであり、典型的であるが、非限定的であり、例えば、第2被覆層の厚さは、1nm、1.5nm、2nm又はこれらの値のうちのいずれか2つからなる範囲値であってもよい。
【0025】
本発明の正極材料では、第1被覆層の厚さが高すぎると、ナトリウムイオン界面輸送に影響を与え、低すぎると、完全な被覆層を形成することができず、第2被覆層の厚さが高すぎると、ナトリウムイオン界面輸送に影響を与え、低すぎると、良好な疎水性を有していない。
【0026】
第2態様において、本発明のいくつかの実施形態は、前記正極材料の製造方法をさらに提供し、前記製造方法は、
タンニン酸と、ホルムアルデヒドと、アンモニウムイオンと、第1溶媒と、水と、を混合して、タンニン酸を含む前駆体溶液を得るステップと、
プルシアンブルー基体(PB)と、タンニン酸を含む前駆体溶液と、を第1反応させて、PB@TAを得るステップと、
PB@TAと、第2被覆層を形成する材料と、第2溶媒と、を第2反応させて、正極材料を得るステップと、を含む。
【0027】
本発明では、タンニン酸の前駆体溶液と、プルシアンブルー基体と、を第1反応させ、タンニン酸、ホルムアルデヒド及びアンモニウムイオンは、マンニッヒ反応を起こし、縮合してタンニン酸のポリマーを形成し、且つプルシアンブルー基体の表面に1層の均一なタンニン酸ポリマー層を形成し、タンニン酸ポリマーで被覆されたプルシアンブルー基体(PB@TA)を得、その後、疎水性を有する材料を使用して被覆し、例えば、オクタデシルアミンがタンニン酸ポリマー中の水酸基又はカルボニル基とマイケル付加反応又はシッフ塩基反応を起こし、PB@TAの表面に第2被覆層を形成することで、二重被覆構造を有する正極材料(PB@TA@ODA)を得ることができる。
【0028】
一好ましい実施形態では、第1反応と第2反応の温度は、それぞれ独立して、25~80℃であり、第1反応と第2反応の時間は、それぞれ独立して、1~72hであり、典型的であるが、非限定的であり、例えば、第1反応と第2反応の温度は、それぞれ独立して、25℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃又はこれらの値のうちのいずれか2つからなる範囲値であってもよく、第1反応と第2反応の時間は、それぞれ独立して、1h、10h、20h、30h、40h、50h、60h、70h又はこれらの値のうちのいずれか2つからなる範囲値であってもよい。
【0029】
一好ましい実施形態では、第1反応後、第1洗浄と第1乾燥をさらに含み、第2反応後、第2洗浄と第2乾燥をさらに含み、好ましくは、乾燥の温度は、50~200℃である。
【0030】
一好ましい実施形態では、タンニン酸とホルムアルデヒドとのモル比は、(0.022~0.024):1であり、好ましくは0.023:1である。
【0031】
一好ましい実施形態では、アンモニウムイオンを提供する物質は、アンモニア水を含む。
【0032】
一好ましい実施形態では、アンモニア水の濃度は、20~30wt%であり、アンモニア水とタンニン酸との使用量比は、1mL:0.1~1mmolであり、典型的であるが、非限定的であり、例えば、アンモニア水とタンニン酸との使用量比は、1mL:0.1mmol、1mL:0.3mmol、1mL:0.5mmol、1mL:0.7mmol、1mL:1mmol又はこれらの値のうちのいずれか2つからなる範囲値である。
【0033】
一好ましい実施形態では、タンニン酸を含む前駆体溶液の製造方法は、タンニン酸水溶液と、ホルムアルデヒド水溶液と、アンモニア水と、第1溶媒と、水と、を混合して、タンニン酸を含む前駆体溶液を得ることを含み、好ましくは、タンニン酸水溶液の濃度は、0.01~0.02mol/Lであり、ホルムアルデヒド水溶液の濃度は、2~5wt%であり、アンモニア水の濃度は、20~30wt%であり、より好ましくは、アンモニア水とタンニン酸水溶液との体積比は、1:(15~25)であり、好ましくは1:20である。
【0034】
一好ましい実施形態では、第1反応系のpH値は、6~7である。
タンニン酸、ホルムアルデヒド及びアンモニウムは、マンニッヒ反応を起こし、縮合してタンニン酸のポリマーを形成し、上記使用量のアンモニア水は、反応速度を加速するのに十分なNH4+を提供することができる。
【0035】
一好ましい実施形態では、プルシアンブルー基体とタンニン酸との質量比は、1:(0.05~2)であり、典型的であるが、非限定的であり、例えば、プルシアンブルー基体とタンニン酸との質量比は、1:0.05、1:0.08、1:0.1、1:0.2、1:0.4、1:0.6、1:0.8、1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.8、1:2又はこれらの値のうちのいずれか2つからなる範囲値であり、好ましくは、プルシアンブルー基体とタンニン酸との質量比は、1:(0.15~0.2)である。
【0036】
一好ましい実施形態では、PB@TAと第2被覆層を形成する材料との質量比は、1:(0.1~5)であり、典型的であるが、非限定的であり、例えば、PB@TAと第2被覆層を形成する材料との質量比は、1:0.1、1:0.5、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、1:5又はこれらの値のうちのいずれか2つからなる範囲値であってもよく、好ましくは、PB@TAと第2被覆層の材料との質量比は、1:(0.8~1.2)である。
一好ましい実施形態では、第1溶媒は、エタノールを含む。
【0037】
一好ましい実施形態では、タンニン酸と第1溶媒との質量比は、1:(45~50)である。
【0038】
一好ましい実施形態では、第1溶媒と水との体積比は、(0.01~1):1である。
【0039】
一好ましい実施形態では、第2溶媒は、メタノール、エタノール、エチレングリコール、アセトン及びテトラヒドロフランのうちの少なくとも1つを含む。
【0040】
一好ましい実施形態では、第2被覆層の材料と第2溶媒との質量比は1:(50~55)である。
【0041】
一好ましい実施形態では、プルシアンブルー基体の製造方法は、液相法又は固相法を含む。
【0042】
一好ましい実施形態では、プルシアンブルー基体の製造方法は、
Na4Fe(CN)6の水溶液と可溶性金属塩の水溶液とを反応させた後、プルシアンブルー基体を得るステップを含み、
ここで、可溶性金属塩は、クエン酸ナトリウムと、Ni塩、Cu塩、Fe塩、Mn塩、Co塩及びZn塩のうちの少なくとも1つと、を含む。
【0043】
一好ましい実施形態では、プルシアンブルー基体の製造方法は、
Na4Fe(CN)6と金属塩をボールミリングして、プルシアンブルー基体を得るステップを含み、
ここで、金属塩は、Ni塩、Cu塩、Fe塩、Mn塩、Co塩及びZn塩のうちの少なくとも1つを含む。
【0044】
第3態様において、本発明のいくつかの実施形態は、上記正極材料を含むナトリウムイオン電池をさらに提供する。
【0045】
本発明の正極材料をナトリウムイオン電池に使用することで、ナトリウムイオン電池が優れたサイクル性能と倍率性能を有することを確保することを基本とし、常温、常圧、高湿度でのナトリウムイオン電池の保存性能を向上させることができる。
以下、実施例と併せて、本発明の実施形態を詳細に説明するが、当業者であれば、以下の実施例は、本発明を説明するためにのみ使用されるが、本発明の範囲を限定すると見なされるべきではないことを理解するであろう。実施例には具体的な条件が明記されていない場合、従来の条件又は製造業者が推奨する条件に従って行う。使用される試薬又は機器にはメーカーが明記されていない場合、それは、いずれも市場で購入できる従来の製品である。
【実施例0046】
実施例1
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、
4mmolのNa4Fe(CN)6・10H2Oを200mLの脱イオン水に溶解して溶液Aを形成し、6mmolのFeSO4・7H2Oと15gのクエン酸ナトリウムを200mLの脱イオン水に溶解して溶液Bを形成し、溶液Aを溶液Bに加え、その後、常温(25℃)で6h静置した後、固液分離して濾過ケーキを得、濾過ケーキを脱イオン水と無水エタノールでそれぞれ3回遠心洗浄し、送風乾燥ボックス内で、80℃で12h乾燥させて、プルシアンブルー基体(PB)Na1.54Fe[Fe(CN)6]・0.96H2Oを得るステップS1と、
濃度0.015Mのタンニン酸水溶液2mL、ホルムアルデヒド水溶液(3.7wt%)1mL、アンモニア水(濃度25wt%)0.1mL及びエタノール3mLを脱イオン水13mLに加え、十分に混合して、タンニン酸前駆体溶液を得、0.3gのNa1.54Fe[Fe(CN)6]・0.96H2Oをタンニン酸前駆体溶液に加え、室温(25℃)で24h撹拌し続け、濾過後、80℃で真空乾燥させて、PB@TAを得るステップS2と、
オクタデシルアミン0.3gをエタノール20mLに加え、十分に溶解して、オクタデシルアミン前駆体溶液を得、0.3gのPB@TAをオクタデシルアミン前駆体溶液に加え、室温(25℃)で24h撹拌し続け、濾過後、80℃で真空乾燥させて、正極材料(PB@TA@ODA)を得るステップS3と、を含む。
【0047】
実施例2
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、
不活性雰囲気下で、5mmolのMnCl2・4H2Oと5mmolのNa4Fe(CN)6・10H2Oを瑪瑙ボールミル瓶に加え、ボール対材料比は、1:20であり、300r/minの速度で12hボールミリングした後、混合物を得、混合物を、最初に、無水エタノールで3回遠心洗浄し、その後、脱イオン水で3回遠心洗浄し、その後、真空オーブン内で、80℃で12h乾燥させて、プルシアンブルー基体(PB)Na1.63Mn[Fe(CN)6]・1.41H2Oを得るステップS1と、
濃度0.015Mのタンニン酸水溶液2mL、ホルムアルデヒド水溶液(3.7wt%)1mL、アンモニア水(濃度25wt%)0.1mL及びエタノール3mLを脱イオン水13mLに加え、十分に混合して、タンニン酸前駆体溶液を得、0.15gのNa1.63Mn[Fe(CN)6]・1.41H2Oをタンニン酸前駆体溶液に加え、40℃で24h撹拌し続け、濾過後、80℃で真空乾燥させて、PB@TAを得るステップS2と、
オクタデシルアミン0.3gをエタノール20mLに加え、十分に溶解して、オクタデシルアミン前駆体溶液を得、0.15gのPB@TAをオクタデシルアミン前駆体溶液に加え、60℃で24h撹拌し続け、濾過後、80℃で真空乾燥させて、正極材料(PB@TA@ODA)を得るステップS3と、を含む。
【0048】
実施例3
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS2において、Na1.54Fe[Fe(CN)6]・0.96H2Oの質量が1gである点のみが異なる。
【0049】
実施例4
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS2において、Na1.54Fe[Fe(CN)6]・0.96H2Oの質量が0.025gである点のみが異なる。
【0050】
実施例5
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS3において、PB@TAの質量が3gである点のみが異なる。
【0051】
実施例6
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS3において、PB@TAの質量が0.06gである点のみが異なる。
【0052】
実施例7
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS2において、Na1.54Fe[Fe(CN)6]・0.96H2Oの質量が0.1gであり、ステップS3において、PB@TAの質量が0.1gである点のみが異なる。
【0053】
実施例8
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS3において、オクタデシルアミンをオクタデシルホスホン酸に置き換える点のみが異なる。
【0054】
実施例9
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS3において、オクタデシルアミンを1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールに置き換える点のみが異なる。
【0055】
実施例10
本実施例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS3において、オクタデシルアミンをN-フェニルトリフルオロメタンスルホンイミドに置き換える点のみが異なる。
【0056】
対比例1
本対比例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS2において、ホルムアルデヒド水溶液とアンモニア水を添加しない点のみが異なる。
【0057】
対比例2
本対比例が提供する正極材料の製造方法は、実施例1を参照し、ステップS1とステップS2を除去し、実施例1におけるプルシアンブルー基体(PB)Na1.54Fe[Fe(CN)6]・0.96H2Oに対してステップS3を直接行うことで、試料PB@ODAを得ることができる点のみが異なる。
【0058】
試験例1
実施例1におけるPBとPB@TA@ODAに対してXRD試験を行い、その結果は、
図1に示すとおりである。
【0059】
図1からわかるように、PB@TA@ODAの構造は、PBの構造と比較して、大きく変化しておらず、依然として純粋な立方体プルシアンブルー構造である。
【0060】
実施例1におけるPB@TA@ODAを走査型電子顕微鏡で試験し、その結果は、
図2に示すとおりである。
【0061】
図2から分かるように、PB@TA@ODAは、依然として立方体の形状を維持している。
【0062】
実施例1におけるPB、PB-7D、PB@TA@ODA及びPB@TA@ODA-7Dに対して熱重量試験を行い、その結果は、
図3と
図4に示すとおりである。ここで、PB-7Dは、PBを常温、常圧、湿度80%で7日間放置することを示し、PB@TA@ODA-7Dは、PBを常温、常圧、湿度80%で7日間放置することを示す。
【0063】
図3と
図4から分かるように、試料PB-7Dは、150℃と250℃での重量減少が著しく、材料中の吸着水と間隙水は、著しく増加している。一方、PB@TA@ODA-7DのTG曲線は、PB@TA@ODAと比較してほとんど変化せず、優れた吸湿抑制能力を示す。
【0064】
試験例2
正極極片の製造方法は、
正極材料、導電剤(質量比1:1のカイエン・ブラック(Ketjen Black)と超伝導カーボンブラック(Super P))及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比7:2:1でそれぞれ秤量し、溶媒として一定量のN-メチルピロリドン(NMP)を加え、これらを粉砕して均一なスラリーを形成するステップと、
上記スラリーをアルミニウム箔に均一に塗布し、その後、70℃で24hベーキングするステップと、
最後に、直径8mmの小円板に切断して、担持量が1.6~2.4mg/cm2である正極極片を得るステップと、を含む。
【0065】
ナトリウムイオン電池の製造方法は、
上記正極極片を2032型電池シェルに入れ、ナトリウム片を負極とし、ガラス繊維を隔膜とし、発泡ニッケルを支持片とするステップと、
1mol/LのNaClO4を体積比1:1のEC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルエチルカーボネート)に溶解し、5%のFEC(フッ素化エチレンカーボネート)を加えて、電解液を得るステップと、
アルゴンで満たされたグローブボックス内で組み立て、グローブボックス内の水分含量を0.01ppm未満、酸素含有量を0.05ppm未満に厳密に制御して、ナトリウムイオン電池を得るステップと、を含む。
【0066】
パッケージングされたナトリウム電池を室温で8h放置し、武漢藍電公司のCT2001充放電試験機を使用して充放電試験を行い、充放電電圧を2.0V~4.2Vに設定する。サイクル性能試験では、1C(1 C=170mA g-1)の倍率で試験を行う。
【0067】
実施例1におけるPBとPB@TA@ODAをそれぞれ正極材料として使用し、上記正極極片の製造方法に従って正極極片を製造し、正極極片のぬれ角を試験し、その結果は、
図5と
図6に示すとおりである。
【0068】
図5と
図6からわかるように、
図5は、PBで製造した正極極片のぬれ角であり、前記ぬれ角は、108°であり、
図6は、PB@TA@ODAで製造した正極極片のぬれ角であり、前記ぬれ角は、127°であり、PBで製造した正極極片よりもはるかに大きく、このことから、PB@TA@ODAは、良好な疎水性を有することが分かる。
【0069】
実施例1におけるPB、PB-7D、PB@TA@ODA及びPB@TA@ODA-7Dをそれぞれ正極材料として使用し、上記ナトリウムイオン電池の製造方法に従ってナトリウム電池を製造し、ナトリウムイオン電池に対して充放電とサイクル試験を行い、その結果は、
図7、
図8、
図9及び
図10に示すとおりである。ここで、PB-7Dは、PBを常温、常圧、湿度80%で7日間放置することを示し、PB@TA@ODA-7Dは、PBを常温、常圧、湿度80%で7日間放置することを示す。
【0070】
図7と
図8から分かるように、PBとPB@TA@ODAをそれぞれ使用して製造したナトリウムイオン電池の初回放電容量は、それぞれ142mAh g-1と150mAh g-1であり、大きな違いがなく、サイクル性能が比較的類似している。
【0071】
図9から分かるように、PB7は、日間放置された後、初回放電容量が116mAh g-1まで減衰し、そのナトリウム貯蔵性能が著しく低下し、一方、PB@TA@ODA-7Dは、初回放電容量が依然として145mAh g-1以上であり、PB@TA@ODAと比較して容量減衰がほとんどなく、常温、常圧、高湿度の環境下でのより優れた保存性を示す。
【0072】
図10から分かるように、PB@TA@ODA-7Dは、ナトリウムイオン電池の正極として、サイクル安定性が依然として非常に安定しており、高い初回効率及び高い比容量を示し、優れた疎水性能を示す。
【0073】
実施例1~10及び対比例1~2で製造した正極材料と7日間放置された後の正極材料をそれぞれ使用し、上記ナトリウムイオン電池の製造方法に従ってナトリウム電池を製造し、ナトリウムイオン電池に対して充放電とサイクル試験を行い、その結果を表1に記録する。
【0074】
【0075】
表1からわかるように、プルシアンブルーは、適量のタンニン酸ポリマーと第2層被覆材料で二重被覆された場合、優れた電気化学性能を示しながら、良好な環境保存性能を示すことができる。
【0076】
本発明を具体的な実施例で説明したが、上記各実施例は、本発明の技術的解決手段を説明するためにのみ使用され、それらを限定するものではないことに留意されたい。当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、前述の各実施例に記載された技術的解決手段を修正するか、又はその技術特徴の一部又は全部を同等置換することができ、これらの修正又は置換は、対応する技術的解決手段の本質を本発明の各実施例の技術的解決手段の範囲から逸脱させるものではないことを理解すべきであり、したがって、添付の特許請求の範囲には、本発明の範囲に属するこれらすべての置換と修正が含まれることを意味する。