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特開2025-2797力覚提示装置、運動教示装置、力覚提示方法、運動教示方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002797
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】力覚提示装置、運動教示装置、力覚提示方法、運動教示方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20241226BHJP
   A63B 71/06 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
G06F3/01 560
A63B71/06 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103154
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】堀江 新
(72)【発明者】
【氏名】稲見 昌彦
【テーマコード(参考)】
5E555
【Fターム(参考)】
5E555AA07
5E555AA08
5E555BA01
5E555BA38
5E555BB01
5E555BB38
5E555BC04
5E555CA41
5E555CB20
5E555DA24
5E555DD06
5E555DD08
5E555EA14
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】ユーザの現在の運動の情報に基づいてユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに目標とすべき運動に相当する力覚を提示する技術を与える。
【解決手段】ユーザの皮膚に刺激を提示することによってユーザに力覚を提示するための力覚提示装置1は、ユーザの皮膚上に配置されてユーザの運動の情報を取得するセンサ10と、ユーザの皮膚上に配置されてユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子20と、センサ10が取得したユーザの運動の情報に基づいて刺激素子20を制御する制御部30と、を備える。センサ10の検知方向と、刺激素子20が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの皮膚に刺激を提示することによって前記ユーザに力覚を提示するための力覚提示装置であって、
前記ユーザの皮膚上に配置されて前記ユーザの運動の情報を取得するセンサと、
前記ユーザの皮膚上に配置されて前記ユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子と、
前記センサが取得した前記ユーザの運動の情報に基づいて前記刺激素子を制御する制御部と、
を備え、
前記センサの検知方向と、前記刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことを特徴とする力覚提示装置。
【請求項2】
前記センサの検知方向と、前記刺激素子が与える刺激の方向とは、略直交することを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項3】
前記センサは圧力センサであって、前記ユーザの皮膚面に略垂直な方向の圧力を検知し、
前記刺激素子は、前記ユーザの皮膚面に略平行な方向に刺激を与えることを特徴とする請求項2に記載の力覚提示装置。
【請求項4】
前記センサと前記刺激素子とは一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項5】
前記センサと前記刺激素子とは隣接して配置されることを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項6】
前記刺激素子は、回転運動によって皮膚に刺激を与える回転刺激素子であり、
前記回転刺激素子は、その回転軸に垂直な面で前記ユーザの皮膚に接触して当該皮膚を捻ることにより当該皮膚にせん断ひずみを与えることを特徴とする請求項3に記載の力覚提示装置。
【請求項7】
前記刺激素子は、前記ユーザの皮膚に当該皮膚面と平行な並進方向にせん断ひずみを与えることを特徴とする請求項3に記載の力覚提示装置。
【請求項8】
隣接する前記刺激素子間の間隔は、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であることを特徴とする請求項3に記載の力覚提示装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記センサが取得した前記ユーザの運動と、予め定められた目標運動とを比較した結果に基づいて前記刺激素子を制御することを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項10】
前記センサと前記刺激素子とで構成される組が複数設けられており、
前記制御部は、前記ユーザに所定の力覚を与えるようなアルゴリズムに従って、前記刺激素子の各々を個別に制御することを特徴とする請求項1に記載の力覚提示装置。
【請求項11】
前記センサは圧力センサであって、前記ユーザの皮膚面に略垂直な方向の圧力を検知し、
前記回転刺激素子は、前記圧力センサが検知した皮膚からの圧力の方向の周りに回転運動することによりユーザの皮膚に捻りを与えるとともに、前記回転運動の速度ベクトル向きに垂直な高周波の振動を与えることを特徴とする請求項6に記載の力覚提示装置。
【請求項12】
ユーザの皮膚に刺激を提示することによって前記ユーザに運動を教示するための運動教示装置であって、
前記ユーザの皮膚上に配置されて前記ユーザの運動の情報を取得するセンサと、
前記ユーザの皮膚上に配置されて前記ユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子と、
前記センサが取得した前記ユーザの運動の情報に基づいて、前記ユーザに教示すべき教示運動を決定する教示運動決定部と、
前記教示運動決定部が決定した運動に相当する刺激を前記ユーザに与えるように前記刺激素子を制御する制御部と、
を備え、
前記センサの検知方向と、前記刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことを特徴とする運動教示装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記ユーザの運動と前記教示運動との差が小さければ小さいほど、前記ユーザの皮膚に与える刺激が小さくなるように前記刺激素子を制御することを特徴とする請求項12に記載の運動教示装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記ユーザの運動と前記教示運動との差が所定の閾値より小さいとき、前記ユーザの皮膚に与える刺激の大きさが0になるように前記刺激素子を制御することを特徴とする請求項12に記載の運動教示装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記ユーザの運動と前記教示運動との差が所定の閾値より小さいとき、前記ユーザの皮膚に特定の刺激を与えるように前記刺激素子を制御することを特徴とする請求項12に記載の運動教示装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記ユーザの運動と前記教示運動との差の正負に応じて、前記ユーザの皮膚に異なる刺激を与えるように前記刺激素子を制御することを特徴とする請求項12に記載の運動教示装置。
【請求項17】
前記ユーザに運動を教示する運動教示者の運動の情報をリアルタイムに取得する教示者用センサをさらに備え、
前記教示運動決定部は、前記センサが取得した前記ユーザの運動の情報と、前記教示者用センサが取得した運動教示者の運動とを比較した結果に基づいて、前記教示運動を決定することを特徴とする請求項16に記載の運動教示装置。
【請求項18】
ユーザの皮膚に刺激を提示することによって前記ユーザに力覚を提示するための力覚提示方法であって、
前記ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いて前記ユーザの運動の情報を取得するステップと、
制御器を用いて、前記センサが取得した前記ユーザの運動の情報に基づいて前記ユーザの皮膚上に配置された刺激素子を制御するステップと、
前記刺激素子を用いて前記ユーザの皮膚に刺激を与えるステップと、
を含み、
前記センサの検知方向と、前記刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことを特徴とする力覚提示方法。
【請求項19】
ユーザの皮膚に刺激を提示することによって前記ユーザに力覚を提示するためのプログラムであって、
前記ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いて前記ユーザの運動の情報を取得するステップと、
制御器を用いて、前記センサが取得した前記ユーザの運動の情報に基づいて前記ユーザの皮膚上に配置された刺激素子を制御するステップと、
前記刺激素子を用いて前記ユーザの皮膚に刺激を与えるステップと、
を含み、
前記センサの検知方向と、前記刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことを特徴とする方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項20】
ユーザの皮膚に刺激を提示することによって前記ユーザに運動を教示するための運動教示方法であって、
前記ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いて前記ユーザの運動の情報を取得するステップと、
前記センサが取得した前記ユーザの運動の情報に基づいて、前記ユーザに教示すべき教示運動を決定する教示運動決定ステップと、
前記教示運動決定ステップで決定した運動に相当する刺激を前記ユーザに与えるように前記ユーザの皮膚上に配置された刺激素子を制御する制御ステップと、
前記刺激素子を用いて前記ユーザの皮膚に刺激を与えるステップと、
を含み、
前記センサの検知方向と、前記刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことを特徴とする運動教示方法。
【請求項21】
ユーザの皮膚に刺激を提示することによって前記ユーザに運動を教示するためのプログラムであって、
前記ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いて前記ユーザの運動の情報を取得するステップと、
前記センサが取得した前記ユーザの運動の情報に基づいて、前記ユーザに教示すべき教示運動を決定する教示運動決定ステップと、
前記教示運動決定ステップで決定した運動に相当する刺激を前記ユーザに与えるように前記ユーザの皮膚上に配置された刺激素子を制御する制御ステップと、
前記刺激素子を用いて前記ユーザの皮膚に刺激を与えるステップと、
を含み、
前記センサの検知方向と、前記刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことを特徴とする方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力覚提示装置、運動教示装置、力覚提示方法、運動教示方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
バーチャルリアリティやテレプレゼンスなどの応用分野では、ユーザに高い臨場感を与える必要があるため、力の感覚を提示できることが望ましい。従来のモーションプラットフォームは、実際に人を動かしたり傾けたりする必要があった。これに対し、ユーザに実際に運動させる代わりに、ユーザの皮膚に刺激を与えることにより、三次元的な運動に伴う運動感覚などの力覚を提示することができる装置を提案している(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
スポーツや伝統技術などの分野において、高い技能を持つ熟練者の技能伝承が課題になっている。熟練者の身体感覚をユーザに直接伝えることができれば効果的な技能伝承が可能となることが期待される。これを実現するものとして、ユーザの皮膚に力覚を提示することによって運動教示者の身体感覚を誘発させ、身体運動を教示するためのウェアラブルな装置が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021049296号
【特許文献2】国際公開第2022145258号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Z. G. Xiao and C. Menon, “A review of force myography researchand development,” Sensors, vol. 19, no. 20, p. 4557, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1または特許文献2に記載された装置は、ユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子による刺激そのものが、ユーザの身体運動情報を計測するセンサの出力に影響を与えるため、センサが精度よく身体運動情報を計測できないおそれがある。このため、これらの装置では、提示または教示すべき目標身体運動をユーザに対して的確にフィードバックする面で改良の余地がある。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ユーザの現在の身体運動の情報を精度よく得て、かかる情報に基づいてユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに目標とすべき力覚を提示または運動を教示する技術を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の力覚提示装置は、ユーザの皮膚に刺激を提示することによってユーザに力覚を提示するための力覚提示装置であって、ユーザの皮膚上に配置されてユーザの運動の情報を取得するセンサと、ユーザの皮膚上に配置されてユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子と、センサが取得したユーザの運動の情報に基づいて刺激素子を制御する制御部と、を備える。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0009】
ある実施の形態では、センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、略直交してもよい。
【0010】
ある実施の形態では、センサは圧力センサであって、ユーザの皮膚面に略垂直な方向の圧力を検知し、刺激素子は、ユーザの皮膚面に略平行な方向に刺激を与えてもよい。
【0011】
ある実施の形態では、センサと刺激素子とは一体化されていてもよい。
【0012】
ある実施の形態では、センサと刺激素子とは隣接して配置されてもよい。
【0013】
ある実施の形態では、刺激素子は、回転運動によって皮膚に刺激を与える回転刺激素子であり、当該回転刺激素子は、その回転軸に垂直な面でユーザの皮膚に接触して当該皮膚を捻ることにより当該皮膚にせん断ひずみを与えてもよい。
【0014】
ある実施の形態では、刺激素子は、ユーザの皮膚に当該皮膚面と平行な並進方向にせん断ひずみを与えてもよい。
【0015】
ある実施の形態では、制御部は、センサが取得したユーザの運動と、予め定められた目標運動とを比較した結果に基づいて刺激素子を制御してもよい。
【0016】
ある実施の形態では、センサと刺激素子とで構成される組が複数設けられていてもよい。このとき制御部は、ユーザに所定の力覚を与えるようなアルゴリズムに従って、刺激素子の各々を個別に制御する。
【0017】
ある実施の形態では、センサは圧力センサであって、ユーザの皮膚面に略垂直な方向の圧力を検知してもよい。このとき回転刺激素子は、圧力センサが検知した皮膚からの圧力の方向の周りに回転運動することによりユーザの皮膚に捻りを与えるとともに、回転運動の速度ベクトル向きに垂直な高周波の振動を与える。
【0018】
本発明の別の態様は、ユーザの皮膚に刺激を提示することによってユーザに運動を教示するための運動教示装置である。この運動教示装置は、ユーザの皮膚上に配置されてユーザの運動の情報を取得するセンサと、ユーザの皮膚上に配置されてユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子と、センサが取得したユーザの運動の情報に基づいてユーザに教示すべき教示運動を決定する教示運動決定部と、教示運動決定部が決定した運動に相当する刺激をユーザに与えるように刺激素子を制御する制御部と、を備える。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0019】
ある実施の形態では、制御部は、ユーザの運動と教示運動との差が小さければ小さいほど、ユーザの皮膚に与える刺激が小さくなるように刺激素子を制御してもよい。
【0020】
ある実施の形態では、制御部は、ユーザの運動と教示運動との差が所定の閾値より小さいとき、ユーザの皮膚に与える刺激の大きさが0になるように刺激素子を制御してもよい。
【0021】
ある実施の形態では、制御部は、ユーザの運動と教示運動との差が所定の閾値より小さいとき、ユーザの皮膚に特定の刺激を与えるように刺激素子を制御してもよい。
【0022】
ある実施の形態では、制御部は、ユーザの運動と教示運動との差の正負に応じて、ユーザの皮膚に異なる刺激を与えるように刺激素子を制御してもよい。
【0023】
ある実施の形態の運動教示装置は、ユーザに運動を教示する運動教示者の運動の情報をリアルタイムに取得する教示者用センサをさらに備えてもよい。このとき教示運動決定部は、センサが取得したユーザの運動の情報と、教示者用センサが取得した運動教示者の運動とを比較した結果に基づいて教示運動を決定してもよい。
【0024】
本発明の別の態様は、ユーザの皮膚に刺激を提示することによってユーザに運動を教示するための力覚提示方法である。この方法は、ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いてユーザの運動の情報を取得するステップと、制御器を用いてセンサが取得したユーザの運動の情報に基づいてユーザの皮膚上に配置された刺激素子を制御するステップと、刺激素子を用いてユーザの皮膚に刺激を与えるステップと、を含む。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0025】
本発明のさらに別の態様は、プログラムである。このプログラムは、ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いてユーザの運動の情報を取得するステップと、制御器を用いてセンサが取得したユーザの運動の情報に基づいてユーザの皮膚上に配置された刺激素子を制御するステップと、刺激素子を用いてユーザの皮膚に刺激を与えるステップと、を含む運動教示方法をコンピュータに実行させる。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0026】
本発明の別の態様は、ユーザの皮膚に刺激を提示することによってユーザに運動を教示するための運動教示方法である。この方法は、ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いてユーザの運動の情報を取得するステップと、センサが取得したユーザの運動の情報に基づいて、ユーザに教示すべき教示運動を決定する教示運動決定ステップと、教示運動決定ステップで決定した運動に相当する刺激をユーザに与えるようにユーザの皮膚上に配置された刺激素子を制御する制御ステップと、刺激素子を用いてユーザの皮膚に刺激を与えるステップと、を含む。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0027】
本発明のさらに別の態様は、プログラムである。このプログラムは、ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いてユーザの運動の情報を取得するステップと、センサが取得したユーザの運動の情報に基づいて、ユーザに教示すべき教示運動を決定する教示運動決定ステップと、教示運動決定ステップで決定した運動に相当する刺激をユーザに与えるようにユーザの皮膚上に配置された刺激素子を制御する制御ステップと、刺激素子を用いてユーザの皮膚に刺激を与えるステップと、を含む方法をコンピュータに実行させる。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0028】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ユーザの現在の運動の情報に基づいてユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに目標とすべき力覚を提示し、運動を教示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1の実施の形態に係る力覚提示装置の機能ブロック図である。
図2】センサと刺激素子とを含むユニットの写真である。
図3】ユーザの皮膚との接触面側からみた刺激素子の斜視図である。
図4】力覚提示装置がユーザに装着されたときの動作を示す模式図である。
図5】第2の実施の形態に係る運動教示装置の機能ブロック図である。
図6】第3の実施の形態に係る運動教示装置の機能ブロック図である。
図7】第4の実施の形態に係る力覚提示方法の処理手順を示すフローチャートである。
図8】第6の実施の形態に係る運動教示方法の処理手順を示すフローチャートである。
図9】あるユーザのFMG値と握力との関係を示すグラフである。
図10】ユーザの握力の時間変化を、実測値およびフィッティング関数に基づく評価値について示すグラフである。
図11】最大回転角を6度、12度、18度、24度、30度に設定したときの、それぞれの回転刺激素子の時間変化を示すグラフである。
図12】10人のユーザによる刺激の相対的強度の評価結果とその平均を示すグラフである。
図13】最大回転角を30度としたときの、握力目標値と握力評価値との差と、回転角との関係を示すグラフである。
図14】握力目標値が30Nのときの、握力評価値および握力実測値の結果を示すグラフである。
図15】握力目標値が50Nのときの、握力評価値および握力実測値の結果を示すグラフである。
図16】握力目標値が70Nのときの、握力評価値および握力実測値の結果を示すグラフである。
図17】・・背もたれおよび座面に刺激素子を配置した寝椅子の模式図である。
図18】・・図17の刺激素子によって生じたユーザUの皮膚上の歪みの分布を示す模式図である。
図19】・・ユーザの左右の大腿部および左右の下腿部に装着するための力覚提示装置の模式図である。
図20】・・図19の力覚提示装置を装着したユーザを示す模式図である。
図21】・・ユーザの皮膚を刺激する刺激部品を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態および変形例では、同一または同等の構成要素、ステップ、部材には同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示す。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要でない部材の一部は省略して表示する。また、第1、第2などの序数を含む用語が多様な構成要素を説明するために用いられるが、こうした用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0032】
具体的な実施の形態を説明する前に、基礎となる知見を説明する。本発明者は、自らが行った研究の結果、人の臀部の皮膚にせん断変形(皮膚の方向に沿った変形)を加えることにより、乗り物に乗ったときに誘発される加速感覚や、起伏を乗り越えた際の上下方向の運動感覚を再現できることを見出した。
【0033】
例えば自動車のシートに腰掛けた状態で、加速または減速したりステアリングを切ったりすると、運転者の臀部の一部は、前後や左右の方向にせん断変形する。本発明者はこの現象に着目し、シートにそれぞれ独立して前後および左右に運動する接触子を複数個面状に分布した状態で設けて、被験者の臀部にせん断変形を与えるだけで、被験者の前後および左右方向の加速感覚を誘発して再現できることを見出した。
【0034】
また、自動車に乗って段差や起伏を乗り越えると、身体が上下方向に運動して変位する。こうした上下運動の感覚も、皮膚のせん断変形により再現できることが分かった。例えば臀部がシートの座面から鉛直方向に運動すると、坐骨付近に分布していた圧力分布のピークは、尾てい骨の方向に変位する。本発明者はこの現象に着目し、圧力分布のピーク位置の変位を臀部の皮膚のせん断変形によって提示するだけで、座面からの突き上げに伴う感覚の誘発が可能となることを見出した。さらに本発明者は、起伏を乗り越えた際に生じる進行方向へのせん断力を臀部に提示するだけで、起伏を乗り越えたという感覚を誘発して再現できることも見出した。
【0035】
このような感覚が誘発される理由について、以下と考えられる。先ず、こうしたせん断力が皮膚に与えられると、皮膚には、単位体積あたりの力学的量の分布、例えばひずみエネルギーの分布が形成される。すなわち、人がシートなどに接触した状態で運動すると、皮膚の各箇所にひずみが発生する。このひずみのエネルギー密度の時間的および空間的な分布(以下、「ひずみエネルギー密度分布」という)は、当該運動の種類、大きさ、方向などの特性を反映したものであると考えられる。力覚を司っている皮膚内部の機械受容器は、このひずみエネルギー密度分布の変化によってニューロン発火の頻度が決定される。従って、様々な運動に対応するひずみエネルギー密度分布の変化を皮膚に形成するように人の皮膚に刺激を与えることによって、実際にその人を動かさなくても、その人に自身がそのような運動をしているという感覚、あるいはこれから自身がどのような運動をしようとしているかという感覚を誘発できると考えられる。
【0036】
刺激を与える皮膚の部位は、臀部に限られず、背部、腹部、頭部、上腕部、前腕部、手首、手指、大腿部、下腿部、足首、足指、首、胴体あるいは腰部など、目的とする運動に対応するひずみエネルギー密度分布が形成されるための部位であれば、いずれであってもよい。また、目的とする運動に対応する力学的量の分布(以下、「力学的分布」と呼ぶ)は、ひずみエネルギー密度分布に限られず、ひずみ(例えば、主ひずみや相当ひずみなど)の分布、力(例えば、せん断力や垂直抗力など)の分布、応力(すなわち、単位面積あたりの力。例えば、圧力、主応力、ミーゼス応力など)の分布なども含む。
【0037】
以下本明細書では、人が、あたかも自分が運動している、あるいは自分が空間的に変位しているかのように感じる感覚を「自己運動感覚」と呼ぶ。この自己運動感覚は、例えば乗り物に乗っているときのような、実際に自分が運動しているときに感じる運動感覚に限られない。例えば皮膚に接触した物体が運動しているときは、自分がその物体に対して相対運動しているように感じる。本明細書においては、このような感覚、すなわち実際には自分が運動していないときに感じる運動感覚も、自己運動感覚に含まれるものとする。
【0038】
本明細書において、「力覚を提示する」とは、人が感じる力の感覚について、当該力の大きさと方向を提示することをいう。
【0039】
スポーツ、楽器演奏、乗り物の運転あるいは職人技といった運動を伴う技術の分野において、高い技能を持つ運動教示者の身体感覚を、個々の筋肉毎にユーザに教示することができれば、手本となる技術を正確かつ効率的に伝授することができる。こうした手本となる運動の情報は、運動教示者の運動を計測または推定することにより取得・蓄積することができる。このような情報に基づいて、目的とする力覚を発生させる力学的分布を皮膚に形成するように、ユーザの筋肉の表面に近接する皮膚に刺激を与えることで、ユーザは正しい運動や筋肉の使い方を習得することができる。またこれとは逆に、こうした手段を用いて、ユーザが動作している際の身体感覚を運動教示者に誘発させることも考えられる。このようにユーザの身体感覚を理解することで、運動教示者はより的確に動作教示のための指導を行えると期待される。
【0040】
ユーザが運動すると、その運動の状態は身体の特定の部分の皮膚の状態に反映する。例えば、ユーザが物を握った場合、前腕部の筋肉が収縮し隆起する。従ってその握力に応じて、当該ユーザの前腕部の皮膚に圧力が発生する。この皮膚の状態を検知することにより、ユーザの現在の運動の状態を評価することができる。この評価値と、予め定められた目標値(すなわち、提示しようとする力覚や、教示しようとする運動)とを比較し、この比較値を基にユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに的確な力覚提示や運動教示が実現できる。
【0041】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る力覚提示装置1の機能ブロック図である。力覚提示装置1は、ユーザの皮膚に刺激を提示することによって当該ユーザに力覚を提示する。以下に説明するように、力覚提示装置1は、ユーザの皮膚に刺激を提示することによって当該ユーザに力覚を提示する。力覚提示装置1は、センサ10と、刺激素子20と、制御部30と、を備える。
【0042】
センサ10の検知方向と、刺激素子20が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。例えば、センサ10の検知方向と、刺激素子20が与える刺激の方向とは、略直交していてもよい。
【0043】
センサ10は、ユーザの皮膚S上に配置されて当該ユーザの運動の情報を取得する。センサ10は、ユーザの皮膚の状態を検知し、これに基づいて当該ユーザの運動の情報を取得できるものであれば任意のセンサであってよい。センサ10好適な例として、FSRセンサ(Force Sensing Register)などの圧力センサがある。
【0044】
FMG(Force Myography)は、圧力センサなどのユーザ動作を監視するアプリケーションを使用して、筋収縮などの筋肉活動を非侵襲的に測定する。具体的には、筋収縮に伴う皮膚の隆起や硬さの変化を圧力センサによって検知するものがある(例えば、非特許文献2参照)。例えば握力などの手の力/トルクを推定するためには、腕に装着されたFSRセンサ(Force Sensing Register)を用いることにより、FMG信号を取得することができる。FMGは、従来の表面筋電位計測(sEMG)などと比べ、皮膚表面の影響を受けることなく検知が可能である。このためFMGは、発汗などを伴う運動の計測に適しているとされる。本実施の形態では、センサ10の出力は、FMG信号を生成する。
【0045】
刺激素子20は、ユーザの皮膚上に配置されて当該ユーザの皮膚に刺激を与える。刺激素子20は、回転運動、せん断方向への引っ張り、圧迫、吸引などの力学的方法によってユーザの皮膚に刺激を提示してもよい。刺激素子20は、単体で刺激を提示できるものであってもよい。あるいは刺激素子20は、複数の刺激素子の組が共同して皮膚上に所定の力学的分布を形成することによって、刺激(例えば、力覚)を提示できるものであってもよい。
【0046】
刺激素子20が複数の刺激素子から構成される素子群である場合、隣接する刺激素子同士の間隔は、空間的に連続な力覚を提示可能な間隔であればよい。この場合、隣接する刺激素子同士の間隔は、例えば、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔であってもよい。あるいは、隣接する刺激素子間の間隔は、当該皮膚の領域における二点弁別閾の範囲内にある間隔であってもよい。
【0047】
二点弁別閾とは、体表面上の2点に刺激を与えたとき、それらが別々の二点であることを識別できる最小の距離のことをいう。これは、人間の皮膚の空間解像度を表す指標となる。すなわち二点弁別閾が小さければ小さいほど、皮膚の空間解像度が高いといえる。二点弁別閾は、皮膚の部位によって異なり、指先、口唇、舌先などでは小さく、脚、腕、背中、肩などでは大きい。例えば、指先では3~4mm、上口唇では6~7mmであるのに対し、前腕では37~39mm、背中では40~60mmである。
【0048】
隣接する刺激素子同士の間隔を、当該隣接する刺激素子によって提示される力覚の範囲が重なりを持つような間隔とする、あるいは皮膚の領域における二点弁別閾の範囲内にある間隔とすることにより、ユーザは、刺激素子によって皮膚の異なる複数の点に与えられた刺激をあたかも一点に与えられたかのように感じる。これにより刺激素子は、ユーザに空間的に連続な力覚を提示することができる。この実施の形態によれば、有限の個数の刺激素子を用いて連続的で広がりをもった力覚を提示できる。従ってユーザは、よりリアルで多様な運動感覚を体験できる。
【0049】
センサ10と刺激素子20とは、できるだけ接近して配置されることが望ましい。例えば、センサ10と刺激素子20とは、一体化されていてもよい。あるいは、センサ10と刺激素子20とは、隣接して配置されていてもよい。
【0050】
ユーザの皮膚上で、センサ10が運動の情報を取得する点と、刺激素子20が刺激を与える点とは、できるだけ接近していることが望ましい。さらに言えば、ユーザの皮膚上で、センサ10が運動の情報を取得する点と、刺激素子20が刺激を与える点とは、一致していることが最も望ましい。
【0051】
センサ10が圧力センサの場合、センサ10は、ユーザの皮膚面に略垂直な方向の圧力を検知してもよい。このとき、刺激素子20は、ユーザの皮膚面に略平行な方向に刺激を与えてもよい。すなわちこの場合、センサ10の検知方向と、刺激素子20が与える刺激の方向とは、略直交している。
【0052】
図2は、センサ10と刺激素子20とを含むユニット100の写真である。すなわち、この例では、センサ10と刺激素子20とが、1つのユニット100に一体化されている。ユニット100は、サーボモータ41、センサ10、刺激素子20およびサーボホーン40のから成る組を4つ備える。サーボモータ41の回転が、サーボホーン40を介し、回転運動として刺激素子20へ与えられる。センサ10、刺激素子20およびサーボホーン40は、それぞれ略同じ直径(約20mm)を持つ円盤状をなしており、同軸上に統合されている。本実施の形態において、サーボホーンの突起は特に必要なく、取り除いてもよい。なお図2では、1つの組についてその構造を分解して示している。
【0053】
ユニット100は、ほぼ正方形をなす。ユニット100の四隅に、それぞれセンサ10と、刺激素子20と、サーボホーン40と、の組が配置される。図2には、センサ10と、刺激素子20と、サーボホーン40と、の4つの組が、互いに40mmおよび45mmの間隔を空けて、ホルダ50に取り付けられた状態が示されている。
【0054】
センサ10の各々は、直径約20mmの円盤状のFSRセンサである。センサ10は、刺激素子20とサーボホーン40との間に、刺激素子20とサーボホーン40と同軸上に配置される。ユニット100が4つのセンサ10を備えることにより、それぞれのセンサからの情報である4チャネルの信号が得られる。
【0055】
前述の通り、刺激素子20の各々は、直径約20mmの円盤状の回転刺激素子である。刺激素子20の素材は、硬すぎると体に馴染まず、刺激素子20のエッジが接触することによる痛みや、刺激素子20と衣服との間の滑りが生じやすくなる。逆に刺激素子20の素材が柔らかすぎると、回転力を伝えにくくなる。これらの特徴を考慮し、刺激素子20の素材として、本実施の形態においてはクロロプレンゴムスポンジが使用されている。
【0056】
ただし刺激素子20にクロロプレンゴムスポンジのようなスポンジを用いた場合、スポンジが変形することにより、皮膚への圧力が影響を受ける場合がある。このような影響は、スポンジに代えて、より好適な非圧縮性の材料を使うことによって除去できると考えられる。あるいは、スポンジの変形が圧力に与える影響を、ソフトウェアにより評価し除去してもよい。
【0057】
図3は、ユーザの皮膚との接触面側からみた刺激素子の斜視図である。この図では、ホルダ50に取り付けられた4つの刺激素子を、それぞれ、20a、20b、20c、20dで区別している。刺激素子20a、20b、20c、20dは、サーボモータによってそれぞれ独立に回転運動を与えられる。すなわち、刺激素子20a、20b、20c、20dは、回転運動によって皮膚に刺激を与える回転刺激素子である。刺激素子20a、20b、20c、20d(いずれも回転刺激素子)は、それぞれ独立してその回転軸に垂直な面で皮膚に接触して当該皮膚を捻ることにより、当該皮膚にひずみエネルギー密度分布を形成する。
【0058】
特にユーザの皮膚に刺激を与えて、筋肉の表面に近接する皮膚に力覚を提示する場合、刺激は、吸引、電気刺激、温度刺激、圧迫、または皮膚のせん断方向に沿った並進運動などによるものではなく、回転運動によるものであると効果が大きい。その理由は以下の通りである。1つには、このような形態では、刺激は衣服を介して皮膚に与えられることが前提となる。この場合、例えば吸引、電気刺激または温度刺激などによる刺激は直接適用することができない。2つには、圧迫による刺激は、ユーザの運動を妨げる原因となるので、力覚の提示に向かない。さらに3つには、皮膚のせん断方向に沿った並進運動による刺激を与えようとした場合、動力源となるモータの回転運動を並進運動に変換する必要がある。このため、皮膚上に刺激素子を密に並べた形態では機構が複雑となる。この点、回転運動による刺激提示は、上記のような問題を伴うことなく実施の形態に適用することができる。
【0059】
上記のように、ユーザの皮膚に与えられる刺激は回転運動によるものが効果が大きいが、必ずしもこれに限られない。応用によっては、刺激素子は、例えばユーザの皮膚に当該皮膚面と平行な並進方向にせん断ひずみを与えてもよい。
【0060】
図2および図3の例では、センサ10は圧力センサであり、ユーザの皮膚面に略垂直な方向の圧力を検知する。一方、刺激素子20は、回転運動によって皮膚に刺激を与える回転刺激素子でユーザの皮膚に接触して当該皮膚を捻ることにより、当該皮膚にせん断ひずみを与える。言い換えると、刺激素子20は、ユーザの皮膚面に略平行な方向に刺激を与える。このように、センサ10の検知方向と、刺激素子20が与える刺激の方向とは、略直交している。これにより、センサ10による検知と、刺激素子20による刺激とは、それぞれ独立して機能することができる。このように、検知方向と刺激方向とが略直交することにより、刺激素子20による皮膚の変形や変位がセンサ10の検知に及ぼす相互影響を防ぐ(または最小限に抑える)ことが可能となる。
【0061】
なお、センサ10の検知方向と、刺激素子20が与える刺激の方向とは、必ずしも直交していなくてもよく、前述の相互影響が問題とならない範囲内、あるいは相互影響を取り除くことができる範囲内で一定の有限の角度をなしていればよい。かかる範囲は、実施の形態による。また相互影響を取り除く方法としては、センサの検知出力に対して信号処理を行ってもよい。
【0062】
制御部30は、センサ10が取得したユーザの運動の情報に基づいて刺激素子20を制御する。制御部30は、既知のコンピュータのハードウェアおよびソフトウェアを用いて構成されてよい。図2および図3の例では、制御部30は、刺激素子20a、20b、20c、20dのそれぞれの回転角度、回転方向、回転速度または回転速度に到達するまでの時間を制御する。
【0063】
図4は、力覚提示装置1がユーザUに装着されたときの動作を示す模式図である。この例では、図2に示されるユニット100がアームバンドを用いてユーザUの右前腕部に取り付けられる。理解を助けるために、図2では、ユニット100からセンサ10および刺激素子20を抽出して示している。図4の構成は、フォースゲージFを握るときの最適な握力に相当する力覚をユーザUに提示することを目的とする。
【0064】
ユーザUが右手でフォースゲージFを握ると、その握力に応じて前腕筋が収縮し、その筋肉部分が隆起し、前腕部の皮膚に圧力が生じる。センサ10は、この圧力をユーザUの運動の情報として検知する。センサ10が検知した圧力は、FMG値として制御部30に送信される。制御部30は、FMG値sと握力との相関を表す相関関数f(s)を用いて、現在のユーザの握力の評価値を算出する。相関関数f(s)は、ユーザの上腕部に取り付けられたFSRセンサの計測値と、握力計の計測値を予め複数の圧力値について数多く同時に取得して、例えば重回帰分析を適用し、回帰係数を決定することによって得られる。制御部30は、算出した握力評価値と、与えられた握力目標値とを比較する。制御部30は、この比較結果に基づいて、刺激素子20に制御信号(フィードバック信号)を与えて、刺激素子20を制御する。
【0065】
本実施の形態によれば、ユーザの現在の運動の情報に基づいてユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに目標とすべき運動に相当する力覚を提示する技術を与えることができる。特に、センサ10の検知方向と、刺激素子20が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことにより、刺激素子20による皮膚の変形や変位がセンサ10の検知に及ぼす影響を影響を防ぐ(または最小限に抑える)ことができる。これにより、ユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子が、ユーザの運動情報を計測するセンサに影響を与えるため、センサが正しい身体運行情報計測できず、提示すべき目標運動をユーザに対して正確にフィードバックできないという従来の課題を解決することができる。
【0066】
本実施の形態では、制御部30は、握力評価値と握力目標値との差が小さければ小さいほど、ユーザUの皮膚に与える刺激が小さくなるように刺激素子20を制御する。この実施の形態によれば、ユーザUは、皮膚に与えられる刺激がなるべく小さくなるように自分の運動を修正することにより、目標とする運動を習得することができる。
【0067】
別の実施の形態では、制御部30は、握力評価値と握力目標値との差が所定の閾値より小さいとき、ユーザUの皮膚に与える刺激の大きさが0になるように刺激素子20を制御する。この実施の形態によれば、ユーザUは、皮膚に与えられる刺激の大きさが0になったことにより、目標とする運動がほぼ習得できたことを知ることができる。
【0068】
別の実施の形態では、制御部30は、握力評価値と握力目標値との差が所定の閾値より小さいとき、ユーザUの皮膚に特定の刺激を与えるように刺激素子20を制御する。この実施の形態によれば、ユーザUは、皮膚に特定の刺激が与えられたことにより、目標とする運動がほぼ習得できたことを知ることができる。
【0069】
ある実施の形態では、制御部30は、握力評価値と握力目標値との差の正負に応じて、ユーザUの皮膚に異なる刺激を与えるように刺激素子20を制御する。例えば、制御部30は、握力評価値と握力目標値との差が正だった場合(すなわち、ユーザの握力が握力目標値に比べて強すぎた場合)、ユーザに皮膚を右方向に捻る刺激を与える。逆に制御部30は、握力評価値と握力目標値との差が負だった場合(すなわち、ユーザの握力が握力目標値に比べて弱すぎた場合)、ユーザに皮膚を左方向に捻る刺激を与えるように刺激素子20を制御する。この実施の形態によれば、ユーザUは、皮膚に与えられた刺激の種類から、自分の運動をどのように修正すればよいか(この例では、握力を弱める方向にすればよいか、それとも強める方向にすればよいか)を知ることができる。
【0070】
ある実施の形態では、力覚提示装置1には、センサ10と刺激素子20とで構成される組が複数設けられている。制御部30は、ユーザUに所定の力覚を与えるようなアルゴリズムに従って、刺激素子20の各々を個別に制御する。この実施の形態によれば、刺激素子ごとに最適なアルゴリズムを適用して、刺激を素子を個別に制御できるので、より制度の高い力覚提示を実現できる。
【0071】
[変形例]
以下、第1の実施の形態に対する変形例について説明する。変形例の図面および説明では、第1の実施の形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施の形態と重複する説明を適宜省略し、第1の実施の形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0072】
[第2の実施の形態]
図5は、第2の実施の形態に係る運動教示装置2の機能ブロック図である。運動教示装置2は、センサ10と、刺激素子20と、制御部30と、教示運動決定部60と、を備える。すなわち、運動教示装置2は、図1の力覚提示装置1に対し、教示運動決定部60をさらに備える。運動教示装置2のその他の構成は、力覚提示装置1の構成と共通である。運動教示装置2は、ユーザの皮膚に刺激を提示することによって当該ユーザに運動(例えば、手本となる運動)を教示する。以下に説明するように、運動教示装置2は、ユーザの皮膚に刺激を提示することによって当該ユーザに運動を教示する。
【0073】
運動教示装置2のセンサ10と、刺激素子20と、制御部30は、図1の力覚提示装置1の各構成と共通であるので、詳しい説明は省略する。
【0074】
教示運動決定部60は、センサ10からユーザの運動の情報を取得し、取得した情報に基づいて当該ユーザに教示すべき教示運動を決定する。教示運動決定部60は、例えば、記憶された手本となる身体運動を記憶しておき、これをユーザの運動の情報と比較することにより、ユーザの運動がなるべく手本となる身体運動に近くなるように教示運動を決定してもよい。あるいは教示運動決定部60は、ユーザがベストコンディションにあるときの当該ユーザの身体情報を取得して記憶し、これをユーザの現在の運動の情報と比較することにより、ユーザの運動がなるべくベストコンディションに近くなるように教示運動を決定してもよい。
【0075】
本実施の形態では、ユーザの運動と教示運動との差が小さければ小さいほど、ユーザの皮膚に与える刺激が小さくなるように刺激素子20を制御する。この実施の形態によれば、ユーザは、皮膚に与えられる刺激がなるべく小さくなるように自分の運動を修正することにより、教示運動を習得することができる。
【0076】
別の実施の形態では、制御部30は、ユーザの運動と教示運動との差が所定の閾値より小さいとき、ユーザの皮膚に与える刺激の大きさが0になるように刺激素子20を制御する。この実施の形態によれば、ユーザは、皮膚に与えられる刺激の大きさが0になったことにより、教示運動がほぼ習得できたことを知ることができる。
【0077】
別の実施の形態では、制御部30は、ユーザの運動と教示運動との差が所定の閾値より小さいとき、ユーザの皮膚に特定の刺激を与えるように刺激素子20を制御する。この実施の形態によれば、ユーザは、皮膚に特定の刺激が与えられたことにより、教示運動がほぼ習得できたことを知ることができる。
【0078】
本実施の形態によれば、ユーザの現在の運動の情報に基づいてユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに目標とすべき運動を教示する技術を与えることができる。特に、センサ10の検知方向と、刺激素子20が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことにより、刺激素子20による皮膚の変形や変位がセンサ10の検知に及ぼす影響を影響を防ぐ(または最小限に抑える)ことができる。これにより、ユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子が、ユーザの運動情報を計測するセンサに影響を与えるため、センサが正しい身体運行情報計測できず、教示すべき目標運動をユーザに対して正確にフィードバックできないという従来の課題を解決することができる。
【0079】
[第3の実施の形態]
図6は、第3の実施の形態に係る運動教示装置3の機能ブロック図である。運動教示装置3は、センサ10と、刺激素子20と、制御部30と、教示運動決定部60と、教示者用センサ70と、を備える。すなわち、運動教示装置2は、図5の運動教示装置2に対し、教示者用センサ70をさらに備える。運動教示装置3のその他の構成は、運動教示装置2の構成と共通である。
【0080】
教示者用センサ70は、運動教示者Tの運動の情報をリアルタイムに取得する。教示者用センサ70は、例えば運動教示者Tの身体の様々な部位に取り付けられた生体センサや圧力センサである。運動教示者Tの運動とは、運動教示者が技能を披露するときの筋肉の運動であり、従ってユーザの手本である教示運動となるものである。
【0081】
教示者用センサ70は、取得した運動教示者Tの運動の情報を教示運動決定部60に送信する。教示運動決定部60は、センサ10が取得したユーザの運動の情報と、教示者用センサ70が取得した運動教示者の運動とを比較する。教示運動決定部60は、この比較結果を制御部30に送信する。制御部30は、この比較結果に基づいて刺激素子20を制御する。その結果、ユーザの皮膚には、時々刻々と取得する運動教示者の運動の情報に基づいて、力学的分布が形成される。
【0082】
ユーザが目標とする運動に対して未熟であればあるほど、ユーザの運動と教示者の運動との差異は大きい。従って、この差異をリアルタイムに計測し、当該差異に基づいて刺激素子を制御することにより、ユーザは自ら運動を修正し、手本となる教示運動に近づけることができる。
【0083】
本実施の形態によれば、手本となる運動教示者の運動をリアルタイムに習得し、これに基づいてユーザに手本となる運動を教示することができる。
【0084】
ある実施の形態では、運動教示者の運動情報は、運動教示者の筋電位、筋張力、皮膚変形などを含んでもよい。この場合、教示者用センサ70は、筋電位センサ、筋力測定装置、皮膚ひずみ測定装置などを含む。この実施の形態によれば、様々な運動情報または生体情報から、運動教示者の運動情報を取得することができる。
【0085】
[第4の実施の形態]
図7は、第4の実施の形態に係る力覚提示方法の処理手順を示すフローチャートである。この力覚提示方法は、ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いて当該ユーザの運動の情報を取得するステップS1と、制御器を用いてセンサが取得したユーザの運動の情報に基づいて刺激素子を制御するステップS2と、ユーザの皮膚上に配置された刺激素子を用いて当該ユーザの皮膚に刺激を与えるステップS3と、を含む。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0086】
本実施の形態によれば、ユーザの現在の運動の情報に基づいてユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに目標とすべき運動に相当する力覚を提示することができる。特に、センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことにより、刺激素子による皮膚の変形や変位がセンサの検知に及ぼす影響を影響を防ぐ(または最小限に抑える)ことができる。これにより、ユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子が、ユーザの運動情報を計測するセンサに影響を与えるため、センサが正しい身体運行情報計測できず、提示すべき目標運動をユーザに対して正確にフィードバックできないという従来の課題が解決される。
【0087】
[第5の実施の形態]
第5の実施の形態はプログラムである。このプログラムは、図7に示される力覚提示方法をコンピュータに実行させる。すなわちこのプログラムは、ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いて当該ユーザの運動の情報を取得するステップS1と、制御器を用いてセンサが取得したユーザの運動の情報に基づいて刺激素子を制御するステップS2と、ユーザの皮膚上に配置された刺激素子を用いて当該ユーザの皮膚に刺激を与えるステップS3と、を含む力覚提示方法をコンピュータに実行させる。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0088】
[第6の実施の形態]
図8は、第6の実施の形態に係る運動教示方法の処理手順を示すフローチャートである。
この運動教示方法は、ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いて当該ユーザの運動の情報を取得するステップS1と、センサが取得したユーザの運動の情報に基づいて、ユーザに教示すべき教示運動を決定する教示運動決定ステップS4と、制御器を用いてセンサが取得したユーザの運動の情報に基づいて刺激素子を制御するステップS2と、ユーザの皮膚上に配置された刺激素子を用いて当該ユーザの皮膚に刺激を与えるステップS3と、を含む。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0089】
本実施の形態によれば、ユーザの現在の運動の情報に基づいてユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに目標とすべき運動を教示する技術を与えることができる。特に、センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことにより、刺激素子による皮膚の変形や変位がセンサの検知に及ぼす影響を影響を防ぐ(または最小限に抑える)ことができる。これにより、ユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子が、ユーザの運動情報を計測するセンサに影響を与えるため、センサが正しい身体運行情報計測できず、教示すべき目標運動をユーザに対して正確にフィードバックできないという従来の課題を解決することができる。
【0090】
[第7の実施の形態]
第7の実施の形態はプログラムである。このプログラムは、図8に示される力覚提示方法をコンピュータに実行させる。すなわちこのプログラムは、ユーザの皮膚上に配置されたセンサを用いて当該ユーザの運動の情報を取得するステップS1と、センサが取得したユーザの運動の情報に基づいて、ユーザに教示すべき教示運動を決定する教示運動決定ステップS4と、制御器を用いてセンサが取得したユーザの運動の情報に基づいて刺激素子を制御するステップS2と、ユーザの皮膚上に配置された刺激素子を用いて当該ユーザの皮膚に刺激を与えるステップS3と、を含む方法をコンピュータに実行させる。センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなす。
【0091】
本実施の形態によれば、ユーザの現在の運動の情報に基づいてユーザの皮膚に刺激を与えることにより、ユーザに目標とすべき運動を教示する方法をコンピュータで実行可能なプログラムとして実装できる。特に、センサの検知方向と、刺激素子が与える刺激の方向とは、有限の角度をなすことにより、刺激素子による皮膚の変形や変位がセンサの検知に及ぼす影響を影響を防ぐ(または最小限に抑える)ことができる。これにより、ユーザの皮膚に刺激を与える刺激素子が、ユーザの運動情報を計測するセンサに影響を与えるため、センサが正しい身体運行情報計測できず、提示すべき目標運動をユーザに対して正確にフィードバックできないという従来の課題が解決される。
【0092】
[実証実験]
本発明者らは、本発明の有効性を検証するために以下の3つの実験を行った。これらの実験は、ヘルシンキ宣言に則って行われた。
【0093】
(実験1)
実験1は、実施の形態の力覚提示装置が提示する握力評価値が正しいかを検証することを目的とする。図9に、あるユーザがフォースゲージを握ったときのFMG値(本実験では、4つの圧力センサの平均値を用いた)と、当該ユーザの握力との関係を示す。黒丸は握力と握力値との実測値である。図示されるように、FMG値と握力との間には強い相関があることが分かる。実線は、二次関数で近似したフィッティング曲線(フィッティング関数)である。フィッティング曲線の平均決定係数は、回帰関数から導出され、0.958であった。これにより、このフィッティング曲線が、FMG値と握力との相関を略正確に近似していることが分かる。
【0094】
図10に、上記のユーザの握力の時間変化を、実測値および上記のフィッティング関数に基づく評価値について示す。図示されるように、実測値と評価値とが非常によく合っていることが分かる。
【0095】
(実験2)
実験2は、実施の形態の力覚提示装置が様々な刺激強度を提示できるかを検証することを目的とする。ユーザが適切に感じ取れる刺激を提示できれば、制御器からの制御信号に基づいて、ユーザに正しく力覚を提示することができると考えられる。
【0096】
回転刺激素子の回転角の大きさは、ユーザに与える刺激の強度に対応するものと考えられる。この実験では、5種類の最大回転角(6度、12度、18度、24度、30度)を設定した上で、回転刺激素子を図11に示すように時間変化させた。ユーザは、参照回転角(15度)のときの参照刺激強度を10と仮定した上で、上記の5種類の刺激を受けたときに感じる刺激の相対的強度を0~20の整数値で評価した。
【0097】
図12に、10人のユーザによる刺激の相対的強度の評価結果を点線で示す。中央の太い実線は、10人の平均である。図示されるように、回転角が大きければ大きいほど、各ユーザが感じる刺激強度は強いことが分かる。従って、ユーザが感じ取る刺激強度を、回転素子の回転角によって制御できることが期待される。
【0098】
図1に示されるユーザごとのばらつきを予め測定しておき、このばらつきを補正するようにキャリブレーションを行ってもよい。またこのキャリブレーションは、実際の測定に基づくのではなく、ユーザの属性、例えば性別、年齢、体重、身長などに基づいてもよい。
【0099】
(実験3)
実験3は、センサからの情報に基づいて刺激を与えられたユーザが、自分の運動(この例では、握力)を調整できるかを検証することを目的とする。
【0100】
本実験では、ユーザの握力目標値と握力評価値との差の絶対値が小さければ小さいほど、回転刺激素子の回転角が小さくなるように(すなわち、当該ユーザに与える刺激が小さくなるように)制御を行った。具体的には、最大回転角を30度として、図13に示すようなプロファイルを用いた。
【0101】
図14に、握力目標値が30Nのときの、握力評価値および握力実測値の結果を示す。図15に、握力目標値が50Nのときの結果を示す。図16に、握力目標値が70Nのときの結果を示す。いずれの図も、実験の最後の5秒間における振る舞いを示す。
【0102】
図示されるように、握力目標値が30N、50N、70Nのいずれの場合も、握力評価値は目標領域(握力目標値±5Nの領域)に到達していることが分かる。従って、センサからの情報に基づいて刺激を与えられたユーザが、正しく自分の握力を調整できることが期待される。
【0103】
刺激素子により皮膚に形成される力学的分布は、ひずみエネルギー密度分布であってもよい。あるいは力学的分布はひずみの分布であってもよく、このひずみは主ひずみまたは相当ひずみであってもよい。あるいは、力学的分布は力の分布であってもよく、この力はせん断力または垂直抗力であってもよい。さらに、力学的分布は応力の分布であってもよく、この応力は、圧力、主応力またはミーゼス応力のいずれかであってもよい。
【0104】
前述の実施の形態は、ユーザに握力目標値を与えて、ユーザが自身の握力を正しく調整できるようにした力覚提示・運動教示への応用例である。この変形の1つとして、前述のセンサと刺激素子を複数面状に設けてもよい。この場合、それぞれのセンサから圧力を基に、所望の力覚提示・運動教示が行えるように、複数の刺激素子をそれぞれ独立して制御すればよい。これらの複数のセンサおよび刺激素子の配置、個数および制御は、所望の力覚および運動教示応じて設定できる。
【0105】
図4の例は、力覚提示装置1はユーザUの上腕部に装着されていた。しかしこれに限られず、力覚提示装置は、ユーザの臀部、背部、腹部、頭部、手首、手指、大腿部、下腿部、足首、足指、首、胴体あるいは腰部など、目的とする運動に対応するひずみエネルギー密度分布が形成されるための部位であれば、いずれに装着されてもよい。
【0106】
図17は、複数の刺激素子20を背もたれおよび座面に配置した寝椅子Cの模式図である。刺激素子20は、ユーザUの臀部、背部、大腿部を含む身体に部位に刺激を与えて力覚を提示または運動を教示する。
【0107】
図18は、図17の刺激素子20によって生じたユーザUの皮膚上の歪みの分布を示す模式図である。この実施の形態によれば、ユーザUがリラックスした状態で、ユーザUの身体の広い面積に力覚を提示または運動を教示することができる。
【0108】
図19は、ユーザの左右の大腿部および左右の下腿部に装着するための力覚提示装置1Aの模式図である。力覚提示装置1Aは、左右の大腿部にそれぞれ3個ずつ、左右の下腿部にそれぞれ1個ずつの力覚提示のための機構を含むユニット100を備える。図19の右側に拡大して示されるように、ユニット100には、刺激素子20a~20dがホルダ50に取り付けられて、センサとともに一体化されている。ユニット100の詳細は、図2および図3を参照して説明したとおりである。
【0109】
図20は、図19の力覚提示装置1Aを装着したユーザUを示す模式図である。この実施の形態によれば、特にユーザの大腿部および下腿部に刺激を与えて力覚を提示することができる。
【0110】
上記では図18および図19を使って、ユーザの左右の大腿部および左右の下腿部に装着するための力覚提示装置を説明したが、これを前述の運動教示装置に置き換えてもよいことは言うまでもない。
【0111】
図21に、さらなる変形例として、ユーザの皮膚Sを刺激する刺激部品90を示す。刺激部品90は、圧力センサパッド80と、刺激素子20eと、を備える。圧力センサパッド80は、筋収縮に伴う皮膚の隆起や硬さの変化を圧力センサによって検知する。刺激素子20eは、回転刺激素子として機能し、圧力センサパッド80が検知した皮膚からの圧力の方向の周りに回転運動することによりユーザの皮膚に捻りを与える。刺激素子20eはさらに、上記の回転運動の速度ベクトル向きに垂直な高周波の振動を与える。
【0112】
この実施の形態によれば、皮膚を捻る低周波の回転運動と、この回転運動に垂直な高周波の振動とを組み合わせた混合刺激により、さらに精度の高い力覚提示または運動教示を実現できる。
【0113】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0114】
上述した各実施の形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる各実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0115】
1・・力覚提示装置、
1A・・力覚提示装置、
2・・運動教示装置、
3・・運動教示装置、
10・・センサ、
20・・刺激素子、
20a・・刺激素子、
20b・・刺激素子、
20c・・刺激素子、
20d・・刺激素子、
20e・・刺激素子、
30・・制御部、
40・・サーボホーン、
41・・サーボモータ、
50・・ホルダ、
60・・教示運動決定部、
70・・教示者用センサ、
80・・圧力センサパッド、
90・・刺激部品、
100・・ユニット、
C・・寝椅子、
F・・フォースゲージ、
S・・皮膚、
T・・教示者、
U・・ユーザ、
S1・・ユーザの運動の情報を取得するステップ、
S2・・刺激素子を制御するステップ、
S3・・ユーザの皮膚に刺激を与えるステップ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
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図21