(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002827
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池および電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241226BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241226BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241226BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241226BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/58
H01M4/36 E
H01M10/48 P
H02J7/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103190
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 裕介
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5G503BA01
5G503BB02
5G503EA05
5H030AA01
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA29
5H050CB03
5H050CB29
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】SOCの推定精度を改善すること。
【解決手段】非水電解質二次電池は、正極、負極および電解質を含む。正極および負極の少なくとも一方は、二相共存型活物質を含む。二相共存型活物質は、2種以上の粒子群を含む。単極試験において、各粒子群の放電曲線は、電位平坦部を有する。各粒子群は、電位平坦部における電位が実質的に等しい。各粒子群は、電位平坦部に対応する比容量が互いに異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および電解質を含み、
前記正極および前記負極の少なくとも一方は、二相共存型活物質を含み、
前記二相共存型活物質は、2種以上の粒子群を含み、
単極試験において、各前記粒子群の放電曲線は、電位平坦部を有し、
各前記粒子群は、前記電位平坦部における電位が実質的に等しく、かつ、
各前記粒子群は、前記電位平坦部に対応する比容量が互いに異なる、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記二相共存型活物質は、一般式:
LixFeyMzPO4
の組成を有し、
前記一般式中、Mは、Al、Co、Cr、Cu、Mg、Mn、Mo、Nb、Ni、Ti、V、W、および、Zrからなる群より選択される少なくとも1種であり、かつ0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1の関係が満たされる、
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
全種の前記粒子群のうち、前記比容量が最大である前記粒子群は、全種の前記粒子群の合計に対して、50から90%の質量分率を有する、
請求項1または請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記非水電解質二次電池の放電曲線は、2以上の電圧平坦部を有し、
前記電圧平坦部の数は、前記粒子群の種類の数に等しく、
各前記電圧平坦部同士の間に段差があり、かつ
前記段差は、過電圧の増加を示す、
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項4に記載の非水電解質二次電池、および
制御装置を含み、
前記制御装置は、SOC推定を実行するように構成されており、
前記SOC推定は、
(a)前記非水電解質二次電池に流れた電流の合計量から、現在のSOCを推定した第1推定値を算出すること、
(b)前記第1推定値および各前記粒子群の前記比容量から、前記過電圧が増加するべきSOCを推定した第2推定値を算出すること、
(c)前記過電圧の増加を検出することにより、実際に前記過電圧が増加した時のSOCの実測値を取得すること、
(d)前記第2推定値が前記実測値に比して大きい時、前記第1推定値に補正値を加算することにより、第3推定値を算出すること、および
(e)前記第2推定値が前記実測値以下である時、前記第1推定値から前記補正値を減算することにより、前記第3推定値を算出すること、
を含む、
電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池および電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2010-027409号公報(特許文献1)は、二相共存型活物質を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二相共存型活物質を含む非水電解質二次電池(以下「電池」と略記され得る。)が開発されている。二相共存型活物質においては、二相共存反応(「二相分離反応」とも記される。)により、放電が進行する。二相共存型活物質の放電曲線においては、電位平坦部(プラトー)の平坦性が非常に高い傾向がある。電池の電圧変化が小さいため、終始安定した出力が期待される。ただし、電圧変化は、電池のSOC(State Of Charge)を推定するための情報として使用され得る。電圧変化が小さいため、SOCの推定が難しくなる可能性がある。
【0005】
SOCの推定精度を高めるため、例えば、複数種の二相共存型活物質を混合することが提案されている(特許文献1参照)。複数種の二相共存型活物質は、互いに異なるイオン拡散係数を有する。すなわち、複数種の二相共存型活物質は、反応性が互いに異なる。反応性の違いにより、放電曲線に段差が現れる。段差の位置により、SOCが推定され得る。しかしながら、充放電レートの大小により、段差の位置が大きく変化する可能性がある。SOCの推定精度に改善の余地がある。
【0006】
本開示の目的は、SOCの推定精度を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.非水電解質二次電池は、正極、負極および電解質を含む。正極および負極の少なくとも一方は、二相共存型活物質を含む。二相共存型活物質は、2種以上の粒子群を含む。単極試験において、各粒子群の放電曲線は、電位平坦部を有する。各粒子群は、電位平坦部における電位が実質的に等しい。各粒子群は、電位平坦部に対応する比容量が互いに異なる。
【0008】
以下「電位平坦部における電位」は「プラトー電位」とも記される。「電位平坦部に対応する比容量」は「プラトー容量」とも記される。2種以上の粒子群は、それぞれ、二相共存型活物質である。2種以上の粒子群は、実質的に等しいプラトー電位を有する。2種以上の粒子群は、互いに異なるプラトー容量を有する。
【0009】
図1は、段差の発生原理を示す第1概略図である。
図1の横軸は、SOCである。SOCは、0から100%までの値を取る。横軸を右に行く程、SOCは小さくなる。
図1の縦軸は、反応電位である。一例として、3種の粒子群の組み合わせが説明される。第1活物質は、第1プラトー電位P
1を有する。第2活物質は、第2プラトー電位P
2を有する。第3活物質は、第3プラトー電位P
3を有する。「P
0=P
1=P
2=P
3」の関係が満たされる。第1活物質は、第1プラトー容量C
1を有する。第2活物質は、第2プラトー容量C
2を有する。第3活物質は、第3プラトー容量C
3を有する。「C
3<C
2<C
1」の関係が満たされる。
図1においては、一例として「C
2/C
1=0.8(80%)」および「C
3/C
1=0.5(50%)」の関係が満たされる。
【0010】
図2は、段差の発生原理を示す第2概略図である。放電の進行により、SOCが減少する。SOCの減少により、第3活物質は、最初に完全放電状態になる。第3活物質が完全放電状態に達することにより、第3活物質がキャリアイオンを受け入れなくなる。そのため、第2活物質および第1活物質へのキャリアイオンの分配量が増加すると考えられる。分配量の増加は、実質的なレートの上昇である。負荷の上昇により、過電圧の増加ΔV
1が発生する。過電圧の増加により、反応電位が卑な方向にシフトすると考えられる。その結果、第3プラトー容量C
3に対応する位置に第1段差S
1が形成され得る。さらに放電が進行することにより、第2活物質が完全放電状態になる。過電圧の増加ΔV
2が発生する。第2プラトー容量C
2に対応する位置に第2段差S
2が形成され得る。各段差の位置は、SOC推定を補助する情報となり得る。プラトー容量の差による段差の位置は、充放電レートに依存し難いと考えられる。したがって、SOCの推定精度の改善が期待される。
【0011】
なお充電時は、過電圧の増加により、反応電位が貴な方向にシフトし得る。充電曲線においても、放電曲線と同様の段差が観測され得ると考えられる。放電曲線および充電曲線の段差は、例えば、dV/dQ曲線のピークとして検出されてもよい。
【0012】
2.上記「1」に記載の非水電解質二次電池は、例えば、次の構成を含んでいてもよい。二相共存型活物質は、下記一般式の組成を有する。
LixFeyMzPO4
Mは、Al、Co、Cr、Cu、Mg、Mn、Mo、Nb、Ni、Ti、V、W、および、Zrからなる群より選択される少なくとも1種である。0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1の関係が満たされる。
【0013】
上記一般式で表される二相共存型活物質においては、例えば、Mの種類、x、yおよびzの値により、プラトー電位が維持されたまま、プラトー容量が変化し得る。
【0014】
3.上記「1」または「2」に記載の非水電解質二次電池は、例えば、次の構成を含んでいてもよい。全種の粒子群のうち、比容量が最大である粒子群は、全種の粒子群の合計に対して、50から90%の質量分率を有する。
【0015】
最大のプラトー容量を有する粒子群の質量分率が50から90%である時、所望のエネルギー密度が維持されつつ、過電圧の増加の検出が容易になることが期待される。
【0016】
4.上記「1」から「3」のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池は、例えば、次の構成を含んでいてもよい。非水電解質二次電池の放電曲線は、2以上の電圧平坦部を有する。電圧平坦部の数は、粒子群の種類の数に等しい。各電圧平坦部同士の間に段差がある。段差は、過電圧の増加を示す。
【0017】
5.電池システムは、上記「4」に記載の非水電解質二次電池、および、制御装置を含む。制御装置は、SOC推定を実行するように構成されている。
SOC推定は、下記(a)から(e)を含む。
(a)非水電解質二次電池に流れた電流の合計量から、現在のSOCを推定した第1推定値を算出する。
(b)第1推定値および各粒子群の比容量から、過電圧が増加するべきSOCを推定した第2推定値を算出する。
(c)過電圧の増加を検出することにより、実際に過電圧が増加した時のSOCの実測値を取得する。
(d)第2推定値が実測値に比して大きい時、第1推定値に補正値を加算することにより、第3推定値を算出する。
(e)第2推定値が実測値以下である時、第1推定値から補正値を減算することにより、第3推定値を算出する。
【0018】
例えば、過電圧が増加した時のSOCにより、現在のSOCの推定値が補正されてもよい。補正値は、例えば、第2推定値と実測値との絶対差であってもよい。補正により、推定精度の改善が期待される。
【0019】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、非制限的である。本開示の技術的範囲は、請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【0020】
「mからn%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、両端を含む。すなわち「mからn%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。「以上」および「以下」は、等号付き不等号「≦」によって表される。「超」および「未満」は、等号を含まない不等号「<」によって表される。数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0021】
本開示においては、「SOC」との用語に代えて、DOD(Depth of Discharge)との用語が使用されてもよい。100%のSOCは、0%のDODに対応する。0%のSOCは、100%のDODに対応する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】本実施形態における非水電解質二次電池の一例を示す概念図である。
【
図4】本実施形態における電極の一例を示す概念図である。
【
図5】本実施形態における電池システムを示す概念図である。
【
図6】本実施形態におけるSOC推定の一例を示す概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.非水電解質二次電池
本実施形態は、任意の非水電解質二次電池に適用され得る。非水電解質二次電池は、例えば、リチウムイオン電池、または、ナトリウムイオン電池のいずれでもよい。
【0024】
図3は、本実施形態における非水電解質二次電池の一例を示す概念図である。電池100は、発電要素50および外装体60を含む。外装体60は、発電要素50を収納している。発電要素50は、正極11、負極12および電解質20を含む。電解質20は、液体電解質、ゲル電解質、または、固体電解質のいずれでもよい。液体電解質は、例えば、電解液、イオン液体等を含んでいてもよい。液体電解質は、セパレータ(多孔質膜)に含浸されていてもよい。
【0025】
図4は、本実施形態における電極の一例を示す概念図である。電極10は、正極11または負極12のいずれでもあり得る。電極10は、例えば、活物質層5および集電箔6を含んでいてもよい。活物質層5は、集電箔6の表面に配置されている。活物質層5は、活物質を含む。活物質層5は、導電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。活物質層5は、例えば、質量分率で、0~20%の導電材、0~20%のバインダ、および、残部の活物質を含んでいてもよい。
【0026】
活物質層5は、二相共存型活物質を含む。二相共存型活物質は、例えば、LiFePO4(リチウムイオン電池用正極活物質)、LiMnPO4(リチウムイオン電池用正極活物質)、LiCoPO4(リチウムイオン電池用正極活物質)、Li4Ti5O12(リチウムイオン電池用負極活物質)、NaFeO2(ナトリウムイオン電池用正極活物質)、または、Na0.6Ni0.22Al0.11Mn0.66O2(ナトリウムイオン電池用正極活物質)等であってもよい。二相共存型活物質においては、二相共存反応により、充放電が進行する。一例として、LiFePO4の二相共存反応においては、LiFePO4相およびFePO4相が共存すると考えられる。
【0027】
二相共存型活物質は、2種以上の粒子群を含む。粒子群の種類は、例えば、3種以上、4種以上、または、5種以上のいずれでもよい。粒子群の種類は、例えば、10種以下、5種以下、4種以下、または、3種以下のいずれでもよい。活物質層5は、例えば、第1粒子群1、第2粒子群2および第3粒子群3を含んでいてもよい。第1粒子群1、第2粒子群2および第3粒子群3は、実質的に等しいプラトー電位を有する。「実質的に等しいプラトー電位」は、本開示技術の基本的かつ新規な特性に影響しない範囲で、プラトー電位が異なってもよいことを示す。例えば、2種以上の粒子群において、下記式の関係が満たされていてもよい。
【0028】
0.95≦Pi/Pu≦1.05
Pi:いずれか1種の粒子群の単独のプラトー電位(Pi=P1,P2,P3,・・・)
Pu:全種の粒子群のプラトー電位の算術平均
【0029】
「Pi/Pu」は、例えば、0.96以上、0.97以上、0.98以上、0.99以上、0.999以上、または、0.9999以上のいずれでもよい。「Pi/Pu」は、例えば、1.04以下、1.03以下、1.02以下、1.01以下、1.001以下、または、1.0001以下のいずれでもよい。
【0030】
第1粒子群1、第2粒子群2および第3粒子群3は、互いに異なるプラトー容量を有する。例えば、下記式の関係が満たされていてもよい。
【0031】
C3<C2<C1
C1:第1粒子群1のプラトー容量
C2:第2粒子群2のプラトー容量
C3:第3粒子群3のプラトー容量
【0032】
例えば、下記式の関係が満たされていてもよい。
10%≦(C1-C2)≦30%
10%≦(C2-C3)≦30%
百分率は、C1を100%とみなした時の値である。
「C1-C2」は、例えば、20%以上、または、20%以下のいずれでもよい。「C2-C3」は、例えば、20%以上、または、20%以下のいずれでもよい。
【0033】
例えば、下記式の関係が満たされていてもよい。
60%≦C2/C1≦90%
30%≦C3/C1≦60%
「C2/C1」は、例えば、70%以上、80%以上、80%以下、または、70%以下のいずれでもよい。「C3/C1」は、例えば、40%以上、50%以上、50%以下、または、40%以下のいずれでもよい。
【0034】
例えば、第1粒子群1、第2粒子群2および第3粒子群3は、いずれも、下記一般式の組成を有する二相共存型活物質であってもよい。
LixFeyMzPO4
Mは、Al、Co、Cr、Cu、Mg、Mn、Mo、Nb、Ni、Ti、V、W、および、Zrからなる群より選択される少なくとも1種である。0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1の関係が満たされる。
【0035】
上記一般式で表される二相共存型活物質においては、例えば、Mの種類、x、yおよびzの値により、プラトー電位が維持されたまま、プラトー容量が変化し得る。例えば、第1粒子群1、第2粒子群2および第3粒子群3において、M、x、yおよびzの少なくとも1つが互いに異なっていてもよい。
【0036】
第1粒子群1、第2粒子群2および第3粒子群3においては、第1粒子群1が最大のプラトー容量(C1)を有する。全体に対して、第1粒子群1の質量分率は、例えば、50から90%であってもよい。全体は、第1粒子群1、第2粒子群2および第3粒子群3の合計を示す。第1粒子群1の質量分率が90%以下であることにより、過電圧の増加の検出が容易になることが期待される。第1粒子群1の質量分率が50%以上であることにより、所望のエネルギー密度が維持されることが期待される。第1粒子群1の質量分率は、例えば、80%以下、70%以下、または、60%以下のいずれでもよい。第1粒子群1の質量分率は、例えば、60%以上、70%以上、または、80%以上のいずれでもよい。
【0037】
電池100の放電曲線は、2以上の電圧平坦部を有する。電圧平坦部の数は、粒子群の種類の数に等しい。例えば、活物質層5が第1粒子群1、第2粒子群2および第3粒子群3を含む時、3個の電圧平坦部が形成され得る。各電圧平坦部同士の間に段差がある。段差は、放電時の電圧降下、または、充電時の電圧上昇である。段差は、過電圧の増加を示す。過電圧の増加は、プラトー容量の差により発生し得る。
【0038】
段差の大きさ(過電圧の増加量)は、例えば、0.01V以上、0.025V以上、0.05V以上、0.075V以上、0.1V以上、0.15V以上、または、0.2V以上のいずれでもよい。段差の大きさは、例えば、0.2V以下、0.15V以下、0.1V以下、0.075V以下、0.05V以下、または、0.025V以下であってもよい。
【0039】
「電圧平坦部の数」、「段差の数」および「段差の大きさ」は、0.1Cのレートの放電曲線において確認される。「C」は、レート(時間率)を表す記号である。1Cのレートは、電池100の定格容量を1時間で放電する。
【0040】
2.電池システム
図5は、本実施形態における電池システムを示す概念図である。電池システム1000は、電池100および制御装置200を含む。電池100の詳細は、前述のとおりである。制御装置200は、例えば、演算装置、記憶装置、入出力インターフェイス、電圧センサ、電流センサ等を含んでいてもよい。制御装置200は、SOC推定を実行するように構成されている。
【0041】
図6は、本実施形態におけるSOC推定の一例を示す概略フローチャートである。SOC推定は、例えば、「(a)第1推定値の算出」、「(b)第2推定値の算出」、「(c)実測値の取得」、「(d)加算補正」および「(e)減算補正」を含む。なお、
図6におけるステップの実行順序は一例に過ぎない。例えば、複数のステップが同時に実行されてもよい。例えば、いずれか1つ以上のステップが相前後してもよい。
【0042】
(a)において、電池100に流れた電流の合計量から、第1推定値が算出される。第1推定値は、現在のSOCを推定した値である。電流の合計量(積算)は、放電電流の合計量、および、充電電流の合計量を含む。例えば、前回の満充電時の容量、その後の放電電流の合計量、および、その後の充電電流の合計量から、現在のSOCが推定されてもよい。
【0043】
(b)においては、第1推定値、および、各粒子群のプラトー容量から、第2推定値が算出される。第2推定値は、過電圧が増加するべきSOCを推定した値である。
【0044】
(c)においては、過電圧の増加が検出される。過電圧の増加は、例えば、放電中の電圧降下、または、充電中の電圧上昇により検出され得る。例えば、dV/dQ曲線におけるピークが検出されてもよい。dV/dQ曲線は、電圧が容量で微分されることにより導出される。放電曲線に比して、dV/dQ曲線においては、過電圧の増加が明瞭となることが期待される。実際に過電圧が増加した時のSOCが記録される。すなわち、SOCの実測値が取得される。実測値は、第2推定値と比較される。
【0045】
(d)においては、第2推定値が実測値より大きい。第1推定値に補正値が加算されることにより、第3推定値が算出される。補正値は、例えば、第2推定値と実測値との絶対差であってもよい。
【0046】
(e)においては、第2推定値が実測値以下である。第1推定値から補正値が減算されることにより、第3推定値が算出される。
【実施例0047】
3.実験
正極活物質、導電材、バインダおよび分散媒が混合されることにより、スラリーが調製された。固形分の質量比は、「正極活物質:導電材:バインダ=8:1:1」であった。スラリーが集電箔の表面に塗工されることにより、活物質層が形成された。スラリーの乾燥後、活物質層の目付は、10mg/cm2であった。これにより正極原反が作製された。打ち抜き加工により、正極原反から、試料が採取された。試料は円板状(直径:16mm)であった。
【0048】
本実験では下記材料が使用された。
正極活物質:LiFePO4(以下「LFP(1)」とも記される。)
導電材:アセチレンブラック
バインダ:カルボキシメチルセルロース
分散媒:水
集電箔:Al箔(厚さ:12μm)
【0049】
テストセルが組み立てられた。本実験のテストセルは下記構成を有していた。
正極:上記で作製された試料
負極:Li金属
セパレータ:ポリプロピレン製微多孔膜
電解質(電解液):溶質「LiPF6(1.1mоl/L)」、溶媒組成(体積比)「エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:4:3」、注液量:10μL
外装体:コイン形(2032サイズ、直径20mm、厚さ3.2mm)
定格容量:2.5mAh
【0050】
室温環境下において、テストセルの充放電が実施された。電流は10mAであった。10mAは、4Cのレートに相当する。
図7は、No.1の放電曲線である。
図8は、No.1のdV/dQ曲線である。
【0051】
No.1の放電曲線においては、単一の電位平坦部が観測された(
図7参照)。No.1のdV/dQ曲線においては、ピークが観測されなかった(
図8参照)。No.1においては、活物質が1種類であるためと考えられる。
【0052】
LFP(2)が準備された。LFP(1)のプラトー容量に対する、LFP(2)のプラトー容量の百分率は、60%であった。No.2からNo.6においては、LFP(1)とLFP(2)との混合物が、正極活物質として使用された。これを除いては、No.1と同様に、テストセルが作製された。
図9は、ブレンド比率を示す表である。
【0053】
図10は、No.3の放電曲線である。
図11は、No.3のdV/dQ曲線である。No.3の放電曲線においては、過電圧による電圧降下が観測された。充放電レートが10mAである時、テストセルの容量は、1.1mAhである。電圧降下は、1.1mAhの60%の位置で観測された。No.3のdV/dQ曲線においては、電圧の変化(ピーク)がより明瞭に確認された。dV/dQ曲線は、過電圧の増加の検出に好適であると考えられる。
【0054】
図9に示されるように、LFP(2)の比率が10%以上である時、dV/dQ曲線におけるピークの明瞭さが良好であった。ただしLFP(2)の比率が増加する程、エネルギー密度が低下する傾向がある。エネルギー密度は、単位質量あたりの値である。
図9のエネルギー密度は、No.1のエネルギー密度を100%とする相対値である。例えば、下記式の関係が考慮されることにより、ブレンド比率が検討されてもよい。
【0055】
x≦(1-r)/(1-α)
x:LFP(1)とLFP(2)との合計に対する、LFP(2)のブレンド比率
α:LFP(1)のプラトー容量に対する、LFP(2)のプラトー容量の比
r:LFP(1)の比率が100%である電極のエネルギー密度に対する、任意のブレンド比率を有する電極のエネルギー密度の比。0≦r≦1。
【0056】
粒子サイズ効果および溶解度ギャップを考慮すると、SOCが20%以上80%以下である時、二相共存反応が進行しやすいと考えられる。よって、例えば、0.2≦α≦0.8の関係が満たされてもよい。ただし、所定の範囲にわたって、平坦なプラトーが形成され得る限り、αは任意である。例えば、0.02≦α≦0.98の関係が満たされてもよい。例えば、粒子サイズが大きい程、αの範囲が拡大し得る。
【0057】
上記式の関係から、αが0.8以下である時、xは0.5以下となる。したがって、LFP(2)の比率が10から50%である時、所望のエネルギー密度が維持されつつ、dV/dQ曲線のピークが明瞭になることが期待される。すなわち、LFP(1)の比率が50から90%である時、所望のエネルギー密度が維持されつつ、dV/dQ曲線のピークが明瞭になることが期待される。
【0058】
なお、上記式のrは、例えば、0.7以上、0.8以上、0.9以上、または、0.95以上のいずれでもよい。例えば、r=0.9である時、90%以上のエネルギー密度が期待される。
1 第1粒子群、2 第2粒子群、3 第3粒子群、5 活物質層、6 集電箔、10 電極、11 正極、12 負極、20 電解質、50 発電要素、60 外装体、100 電池、200 制御装置、1000 電池システム、C1 第1プラトー容量、C2 第2プラトー容量、C3 第3プラトー容量、P0 プラトー電位、S1 第1段差、S2 第2段差。