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特開2025-2832細胞培養足場および細胞を培養する手法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002832
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】細胞培養足場および細胞を培養する手法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241226BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20241226BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103195
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】秋山 里桜子
(72)【発明者】
【氏名】山田 巌浩
(72)【発明者】
【氏名】千原 拓未
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC11
4B065AA93X
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC09
4B065BC26
4B065BC42
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】湿式不織布からなる細胞培養足場であって、細胞培養効率や生存率を向上させることが可能な細胞培養足場、および細胞を培養する手法を提供する。
【解決手段】湿式不織布からなる細胞培養足場であって、捲縮数が3~25個/25.4mmの短繊維を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式不織布からなる細胞培養足場であって、捲縮数が3~25個/25.4mmの短繊維を含むことを特徴とする細胞培養足場。
【請求項2】
短繊維が異型度1.5~6.0の異型断面短繊維である、請求項1に記載の細胞培養足場。
【請求項3】
短繊維が、繊維の断面形状において3~10個の突起部を有する異型断面短繊維である、請求項1に記載の細胞培養足場。
【請求項4】
短繊維において、繊維長0.5~30mm、繊維径0.5~60μmである、請求項1に記載の細胞培養足場。
【請求項5】
短繊維がポリエチレンテレフタレートからなる、請求項1に記載の細胞培養足場。
【請求項6】
さらにバインダー繊維を含有し、該バインダー繊維において、繊維長が0.5~30mm、繊維径が0.5~50μmである、請求項1に記載の細胞培養足場。
【請求項7】
空隙率が80~99%である、請求項1に記載の細胞培養足場。
【請求項8】
平均孔径が20μm~60μmである、請求項1に記載の細胞培養足場。
【請求項9】
目付けが10~100g/m、厚さが0.10~1.0mmである、請求項1に記載の細胞培養足場。
【請求項10】
細胞培養足場に細胞を播種後、振盪培養と静置培養を組み合わせて行うことを特徴とする細胞培養方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の細胞培養足場を用いる、請求項10に記載の細胞培養方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の細胞培養足場を用い、バイオリアクターに培養液とともに供給する、細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式不織布からなる細胞培養足場であって、細胞培養効率や生存率を向上させることが可能な細胞培養足場、および細胞を培養する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療やワクチンに必要な、酵素、ホルモン、抗体、サイトカイン、ウイルス(ウイルスたんぱく質)等のタンパク質が培養細胞を用いて工業的に産生されている。しかし、こうしたたんぱく質の生産技術は効率面に課題を抱えており、それが持続的かつ広範な供給が不可欠であるバイオ医薬品について、タイムリーな安定供給等に影響を及ぼす状況が生じていた。そのため、高効率かつ安定で迅速な生産方法の確立に向けて、高密度に細胞を培養する技術や、高効率連続生産法等のたんぱく質の産生量を増大させるような技術が求められていた。
【0003】
タンパク質を産生させる細胞として、培養基材に接着する足場依存性の接着細胞が用いられることがある。特に、再生医療分野において、様々な組織または器官に誘導する幹細胞が注目されている。例えば、間葉系幹細胞は、哺乳類の骨髄などに存在し、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞に分化する幹細胞として知られており、骨、軟骨、神経、腱または歯周組織など多くの組織の再生のために注目を浴びている。こうした細胞は、足場依存的に増殖するため、シャーレ、プレートまたはチャンバーの表面に接着させて培養する必要がある。従来、こうした接着細胞を大量に培養するためには、接着するための表面積を大きくする必要があった。ところが、培養面積を大きくするためには、空間を必然的に増大させる必要があり、それが培養効率を低下させ、設備の煩雑化や大型化を招く要因となっていた。培養空間を小さくしつつ、接着細胞を大量に培養する方法として、微小多孔を有する担体、特に、マイクロキャリアを用いた培養法が開発されている(例えば、特許文献1)。マイクロキャリアを用いた細胞培養系は、マイクロキャリアが互いに凝集しないようにするために十分に攪拌・拡散される必要がある。そのため、マイクロキャリアを分散させた培養液を十分に攪拌・拡散することができるだけの容積が必要となるため、培養できる細かな粒子を分別できるフィルターで分離させる必要があり、それがバイオ医薬品等のたんぱく質やワクチン等の生産性を低下させる原因ともなっていた。こうした状況から、高密度の細胞を培養する細胞培養の方法論が望まれていた。
【0004】
従来、付着性培養細胞の培養において、高密度培養を目的としてポリエステル繊維からなる繊維集積体を用いる培養方法(例えば、特許文献2)、皮膚や歯周組織、顎骨などの組織再生・修復用の足場やテンプレートとしての不織布シートを用いる培養方法(例えば、特許文献3)、繊維束を構成する繊維間の配向と平均繊維径の両方を制御することによって、細胞の接着性と増殖性の両方の効率を向上させる方法(例えば、特許文献4)、さらに、骨補填材を含有する不織布を細胞足場材として使用する骨芽細胞を増殖させる方法(例えば、特許文献5)が知られている。
【0005】
また、哺乳動物や昆虫細胞の培養用支持体として、ポリエステル不織布で構成されるマクロ多孔性担体であるBioNOCII(商標)担体が市販されている。一方、不織布(ポリフッ化ビニリデン繊維)を足場として用いる細胞移植を目的とした3次元培養において、間葉系間質細胞の増殖における該繊維の断面形状の影響を検討した報告もある(例えば、非特許文献1)。また、ポリオレフィン繊維を親水化処理した細胞培養足場およびモジュールにより培養する方法も知られている(例えば、特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/054174号パンフレット
【特許文献2】特開平8-33473号公報
【特許文献3】特開2015-158026号公報
【特許文献4】国際公開第2016/68279号パンフレット
【特許文献5】特開2012-192105号公報
【特許文献6】特開2019-126342号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Schellengber.A.,et al.,PLOS One,vol.9,e94353(2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、湿式不織布からなる細胞培養足場であって、細胞培養効率や生存率を向上させることが可能な細胞培養足場、および細胞を培養する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、前記課題を達成できる細胞培養足場、および細胞を培養する手法を発明するに至った。かくして、本発明によれば以下の発明が提供される。
【0010】
1.湿式不織布からなる細胞培養足場であって、捲縮数が3~25個/25.4mmの短繊維を含むことを特徴とする細胞培養足場。
2.短繊維が異型度1.5~6.0の異型断面短繊維である、上記1に記載の細胞培養足場。
3.短繊維が、繊維の断面形状において3~10個の突起部を有する異型断面短繊維である、上記1または2に記載の細胞培養足場。
4.短繊維において、繊維長0.5~30mm、繊維径0.5~60μmである、上記1~3のいずれかに記載の細胞培養足場。
5.短繊維がポリエチレンテレフタレートからなる、上記1~4のいずれかに記載の細胞培養足場。
6.さらにバインダー繊維を含有し、該バインダー繊維において、繊維長が0.5~30mm、繊維径が0.5~50μmである、上記1~5のいずれかに記載の細胞培養足場。
7.空隙率が80~99%である、上記1~6のいずれかに記載の細胞培養足場。
8.平均孔径が20μm~60μmである、上記1~7のいずれかに記載の細胞培養足場。
9.目付けが10~100g/m、厚さが0.10~1.0mmである、上記1~8のいずれかに記載の細胞培養足場。
10.細胞培養足場に細胞を播種後、振盪培養と静置培養を組み合わせて行うことを特徴とする細胞培養方法。
11.上記1~9のいずれかに記載の細胞培養足場を用いる、上記10に記載の細胞培養方法。
12.上記1~9のいずれかに記載の培養足場を用い、バイオリアクターに培養液とともに供給する、細胞培養方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、湿式不織布からなる細胞培養足場であって、細胞培養効率や生存率を向上させることが可能な細胞培養足場、および細胞を培養する手法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明は、湿式不織布からなる細胞培養足場(「不織布足場」、「不織布」、「培養足場」ということもある。)であり、細胞培養効率や生存率を向上させることが可能な細胞培養足場、および細胞を培養する方法である。かかる足場を用いることにより、播種した細胞を不織布足場に満遍なく付着させ、高空隙率を持つ不織布足場内へ酸素を行き渡らせることで、効果的に細胞培養速度を向上させ、大量の細胞を増殖させることが可能となる。
【0013】
ここで、不織布足場に使用する捲縮のある短繊維は、捲縮数が3~25個/25.4mm(好ましくは5~20山/25.4mm)であることが重要である。短繊維に捲縮を持たせることで、抄紙した際、短繊維の捲縮が厚み方向に出るため、厚みがあり、空隙の高い不織布を得ることが可能となる。そのため、不織布足場内へ酸素を行き渡らせることが可能となり、効果的に細胞培養速度を向上させ、大量の細胞を増殖させることが可能となる。捲縮数が3山/25.4mmより少ない場合、捲縮が掛かっていない短繊維に近づくため、抄紙した不織布は、厚みが薄く、空隙率が小さくなる。捲縮数が25山/25.4mmより多い場合、製造困難になる可能性がある。
【0014】
また、前記短繊維が、異型度(外接円の径/内接円の径)が1.5~6.0の異型断面短繊維であることが好ましい。異形度が1.5より小さくなると、丸断面に近づくため、空隙率が下がってしまい、細胞の成長スペースが減ってしまうおそれがある。
【0015】
また、異型断面形状には、中空断面、三角断面、四つ山断面や扁平断面等でもよいが、異型断面短繊維が繊維断面形状において周囲に3~10個(より好ましく3~8個)の突起部を有する繊維であることが好ましい。突起部の数が3個未満では、空隙の効果が得られなくなる可能性がある。一方、突起部が10個より多いものは、形状が丸断面に近づいていくため、空隙の効果が得られなくなる可能性がある。特に、十字断面(突起部4個)が好ましい。なお、本発明でいう突起とは、中心部から放射状に延在する突起であり、突起部の長さLAとしては、中心部長径(内接円直径)DAとの比LA/DAが0.4以上(より好ましくは0.4~3.0)となる長さであることが好ましい。
【0016】
また、前記短繊維の繊維長(カット長)は0.5~30mmが好ましく、繊維径は0.5~60μmが好ましい。なお、単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、繊維径は、単繊維の横断面の外接円の直径を用いるものとする。
【0017】
前記短繊維など湿式不織布を形成する素材としては、ポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ポリオレフィンの他、コラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等、生体内で分解する素材のうちいずれを使用してもよい。
【0018】
ここで、ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレート(PET)を使用することが好ましいが、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸(PLA)を使用してもよい。また、前記を主たる繰返し単位とし、その他のコモノマー成分としてイソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等を更に共重合させた共重合体が好ましい。マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009-091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。また、ナイロン6、ナイロン66、ポリオレフィンの他、コラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等、生体内で分解する素材のうちいずれを使用してもよい。
【0019】
さらには、不織布足場に使用される短繊維は、ポリアルキレンテレフタレートで構成されていることが好ましく、構成成分の60モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることがより好ましい。その理由は、後述する通り、未延伸糸をフロー延伸することで、均一極細化が容易であるところ、エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリアルキレンテレフタレートで容易であるためである。なお、該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0020】
エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリアルキレンテレフタレートからなる未延伸糸を溶融紡糸で得て、70~100℃の温水中または熱媒浴中で5倍以上、好ましくは10~50倍のフロー延伸しポリエステル繊維を製造してもよい。
【0021】
また、強度を向上させるために、フロー延伸後、室温~ガラス転移温度近傍の温度でネック延伸し、熱収縮率低減のための熱処理(定長状態あるいは弛緩状態)を施すことが好ましい。また、本発明で用いる繊維は公知の方法によりクリンパー等を用いて捲縮を付与する。捲縮数としては前記の通り、3~25個/25.4mmとすることが重要である。捲縮を固定した後、上記の範囲で繊維をカットし、短繊維を得る。
【0022】
前記不織布は、前記短繊維などを主体繊維とし、さらにバインダー繊維(熱融着性繊維)を含むことが好ましい。バインダー繊維(以下、「熱融着性繊維」ということもある。)は、熱融着性を有する繊維であり、不織布の構造を固定する効果を有する。かかるバインダー繊維としては、未延伸繊維(複屈折率(Δn)が0.05以下であり、「低配向」ということもある。)または複合繊維を用いることができる。
【0023】
ここで、未延伸繊維としては、紡糸速度が好ましくは800~1200m/分、さらに好ましくは900~1150m/分で紡糸された未延伸ポリエステル繊維が挙げられる。ここで、未延伸繊維に用いられるポリエステルとしては、ポリアルキレンテレフタレートが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられ、好ましくは生産性、水への分散性等の理由から、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。
【0024】
一方、複合繊維としては、抄紙後に施す80~170℃の熱処理によって融着し接着効果を発現するポリマー成分(例えば、非晶性共重合ポリエステル)が鞘部に配され、これらのポリマーより融点が20℃以上高い他のポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の通常のポリエステル)が芯部に配された芯鞘型複合繊維が好ましい。なお、バインダー繊維は、バインダー成分(低融点成分)が単繊維の表面の全部または一部を形成している、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維等の公知のバインダー繊維でもよい。
【0025】
また、バインダー繊維の繊維長は0.5~30mmであることが好ましく、繊維径が0.5~50μmであることが好ましい。
【0026】
ここで、上記非晶性共重合ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の酸成分と、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分とのランダムまたはブロック共重合体として得られる。中でも、従来から広く用いられているテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびジエチレングリコールを主成分として用いることがコストの面で好ましい。このような共重合ポリエステルは、ガラス転移点が50~100℃の範囲となり、明確な結晶融点を示さない。
【0027】
また、本発明の不織布足場は湿式不織布からなる。前記短繊維などの主体繊維と必要に応じてバインダー繊維とを用いて湿式不織布を製造することにより得られる。その際、主体繊維の重量比率としては不織布重量対比10~90重量%であることが好ましい。主体繊維のうち前記捲縮を有する短繊維が10~100重量%であることが好ましい。また、バインダー繊維の重量比率としては不織布重量対比10~90重量%であることが好ましい。
【0028】
湿式不織布の製造法は、水中に短繊維を分散したスラリーの均一性が高く、斑のない安定した空隙構造の形成に優位である。乾式法では、高空隙率構造形成には有利であるが、空隙が大きすぎて有効な足場となりにくい。かかる湿式不織布を製造する方法としては、通常の長網抄紙機、短網抄紙機、丸網抄紙機、あるいはこれらを複数台組み合わせて多層抄きなどとして抄紙した後、熱処理する製造方法が好ましい。その際、熱処理工程としては、抄紙工程後、ヤンキードライヤー、エアースルードライヤーのどちらでも可能である。また、熱処理の後、金属/金属ローラー、金属/ペーパーローラー、金属/弾性ローラーなどのカレンダーを施してもよい。
【0029】
また、例えば、前記のような湿式不織布を得た後、カレンダー機などを用いて接着させて多層構造としてもよい。
かくして得られた不織布足場は、高空隙率の不織布からなるので,培養液や細胞回収時に用いる酵素液を基材内部にまでよく浸透させるために、基材内部に細胞が浸潤して増殖しやすくなるとともに内部に浸潤した細胞を回収しやすくなる。
【0030】
また、不織布足場に使用する不織布において、空隙率が80~99%(より好ましくは88~93%)であることが好ましい。高空隙率を保つことで、効果的に細胞培養速度を向上させ、培養進行中に活性の高い状態を維持することが可能となる。空隙率が80%より小さい場合は、繊維間空隙が小さく、不織布内部の連通孔や空隙に細胞が侵入せずに、細胞の成長スペースが減少して、不織布表面での細胞培養成長となるおそれがある。その際、細胞塊が密接になりやすく、栄養や酸素が行き届かなくなり、成長速度が鈍化したり、活性が落ちたりするおそれがある。
【0031】
また、不織布足場において、目付けが10~100g/mであることが好ましい。また、厚みが0.15~1mmであることが好ましい。目付けが10g/mより小さい場合や厚みが0.15mmより小さい場合、培養中に折れ曲がったり、賦形がしにくくなったりするおそれがある。また、100g/mより大きい場合や厚みが1mmより大きい場合、培養液中での振盪培養の際に、自重で沈殿しやすくなるおそれがある。
【0032】
また、不織布足場において、平均孔径が20~60μmであることが好ましい。さらには、平均孔径の孔径分布が全体の20~45%であることが好ましい。孔径分布が広く、ランダムな孔径分布を持つ方が、細胞サイズや成長細胞塊サイズに広く適応できる足場となるため好ましい。平均孔径の孔径分布45%を越える場合は、孔サイズの均一性傾向となり、不織布表面での成長となる可能性があり、培養効率が低下するおそれがある。20%未満では、繊維の分散が不十分に起因する孔径の分布の幅が広くなり、粗密差が大きく、不均一性が強く、培養効率が低下するおそれがある。なお、細孔径値(d)を算出するd=Cγ/Pから、孔径の分布を求め、全体の孔径個数に対する平均孔径の個数比率を孔径分布とする。Pは圧力(Pa)、C:圧力定数:2860、γは測定液の表面エネルギー(dynes/cm)である。
【0033】
次に、本発明の細胞培養方法は、細胞培養足場に細胞を播種後、振盪培養と静置培養を組み合わせて行うことを特徴とする細胞培養方法である。特に、不織布からなる細胞培養足場に細胞を播種後、2~60分の振盪培養後に、8時間以上(好ましくは24~48時間)の静置培養を行い、次いで振盪培養を行うことが好ましい。その際、細胞培養足場としては、前記のようなものが好ましい。2~60分の短時間の振盪培養を行うことで、播種した細胞が不織布足場に満遍なく行き渡り、続けて8時間以上の静置培養を行うことで、不織布足場に安定して接着する。その後、振盪培養で細胞に酸素を行き渡らせることで、細胞が増殖する。ここで、播種後、静置培養のみでは、細胞への酸素が不十分となり、成長速度が鈍化したり、細胞が死滅したりするおそれがある。また、振盪培養のみでは、播種した細胞が不織布足場へ十分に接着しない可能性がある。
【0034】
さらに、細胞培養期間は、長時間培養でもよいし短期間培養でもよい。例えば、4~30日間であることが好ましい。培養期間が4日未満では、細胞は十分に増殖せず、培養期間が14日間以降では、細胞を分化することができる。また、振盪培養と静置培養の条件は、15秒毎に正逆回転で2~10分間、5~200rpmにて振盪培養を実施したのち、5~15時間静置培養する方法を1~10回繰り返すことが好ましい。また、2~60分の振盪培養と8時間以上の静置培養後、続けて振盪培養を行うことが重要である。後半の振盪培養の条件は、5rpm~200rpmで連続して15秒毎に正逆回転させることが好ましく、前記条件を2日間以上行うことが好ましい。また、振盪方法が回転、反転、往復、または八の字であってもよく、回転、反転の組み合わせが好ましい。
【0035】
また、本発明の細胞を培養する手法として、カットしたシート状の前記不織布足場、またはマットまたはスポンジ状に加工した前記の不織布足場をボトル、フラスコ、カラム、タンクなどのバイオリアクターに培養液とともに静置、振盪、分散、充填し、培養液を静置培養、振盪培養などの手法によって供給することで細胞を培養してもよい。かかる手法により、細胞培養効率や生存率(活性)を向上させることが可能となる。
【実施例0036】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されているものではない。実施例中の物性は、以下の方法により測定した。
【0037】
(1)空隙率
不織布足場の目付け、厚み、ポリエチレンテレフタレート繊維密度(g/cm)から下記式にて計算した。
空隙率(%)=100-((目付け)/(厚み)/繊維密度×100)
【0038】
(2)異型度
不織布足場に使用している繊維の断面をSEMを用い、外接径と内接径を測長し、下記式にて計算した。
異型度=外接径/内接径
【0039】
(3)孔径
ASTM-F-316-86にて平均孔径、最大孔径を求めた。なお、試験液の表面張力は15.9dynes/cmである。
【0040】
(4)平均孔径の孔径分布
細孔径値(d)を算出するd=Cγ/Pから、孔径の分布を求め、全体の孔径個数に対する平均孔径の個数比率を孔径分布とした。Pは圧力(Pa)、C:圧力定数:2860、γは測定液の表面エネルギー(dynes/cm)である。
【0041】
(5)厚み
ディジタルリニアゲージ(小野測器、DG-925)を用い、直径10mm(円形)の加圧面で荷重をかけ、厚みを測定した。測定荷重は127g/cmにて、サンプル数=5で測定し、平均値を求めた。
【0042】
(6)捲縮数
JIS L1015により測定した。
【0043】
(7)細胞数、細胞生存率、増殖率
100枚分について細胞数を市販のセルカウンターで測定した。細胞生存率は、全細胞中の生細胞の割合として求めた。また、増殖率は、播種後と回収後の細胞数から算出した。
【0044】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートを常法により、紡糸、延伸、カットした、十字断面繊維(突起部4個)の繊維径19.7μm(内接円の繊維径7.4μm、外接円の繊維径19.7μm、異型度2.7、捲縮数6.1個/25.4mm)×長さ5mmのカットファイバー70重量%と、丸断面繊維の繊維径14.4μm×長さ5mmの未延伸タイプ(低配向性ポリエチレンテレフタレート繊維)のバインダーカットファイバー(帝人フロンティア(株)製 TJ04CN SD2.2dtex)30重量%を界面活性剤と粘剤を添加した水中に分散させて、カットファイバーが均一分散したスラリーを一定量ポンプ供給し、短網により抄き上げ、脱水およびプレス処理をして水分率を低下させた後、120℃のドライヤーでプレスと乾燥後、巻き取り、湿式不織布を得た。
【0045】
前記不織布を5mmΦの大きさに切断、エンドトキシン洗浄、滅菌を行ったものを不織布足場として使用した。0.1g重量の不織布足場を150mLのストレージボトル(Corning(登録商標)♯431175)に配置したのち、培地(ADSC用培地(KBM ADSC-1、コージンバイオ株式会社)に懸濁したMSC細胞(LONZA社製、PT-5006 P3のヒト脂肪由来間葉系幹細胞、ADSC)を播種密度1.2×10cells/0.1g、不織布足場/50mL培地になるよう播種し、COインキュベーター内(37℃、5%、CO雰囲気)で、Ai-genmix(登録商標)無せん断ミキサー(Osaka Sanitary)を使用し、15秒毎に正逆回転で5分間、100rpmにて振盪培養を実施したのち、8時間静置を2回繰り返し実施した。その後、100rpmにて連続して15秒毎に正逆回転の振盪培養を80時間実施した。培養4日目に、PBSで細胞と不織布足場を洗い、必要量のトリプシンを添加し、マイクロキャリアと混合した。全溶液とマイクロキャリアを70μmセルストレーナーに通し、セルストレーナーに通した溶液と培地を混合した。5分間遠心分離器にかけ、上清を取り除き、細胞凝集体は新たな培地で分散し細胞数を測定した。評価結果を表1、表2に示す。
【0046】
[実施例2]
実施例1と同様の製法で作製された不織布足場を用い、0.1g重量の不織布足場を150mLのストレージボトル(Corning(登録商標)♯431175)に配置したのち、培地に懸濁したMSC細胞を播種密度1.2×10cells/0.1g、不織布足場/50mL培地になるよう播種し、COインキュベーター内(37℃、5%、CO雰囲気)で、Ai-genmix(登録商標)無せん断ミキサー(Osaka Sanitary)を使用し、15秒毎に正逆回転で5分間、100rpmにて振盪培養を実施したのち、8時間静置を3回繰り返し実施した。その後、100rpmにて連続して15秒毎に正逆回転の振盪培養を72時間実施した。培養4日目に、実施例1と同様の方法を用い、細胞数を測定した。評価結果を表1、表2に示す。
【0047】
[実施例3]
実施例1と同様の製法で作製された不織布足場を用い、0.1g重量の不織布足場を150mLのストレージボトル(Corning(登録商標)♯431175)に配置したのち、培地に懸濁したMSC細胞を播種密度1.2×10cells/0.1g、不織布足場/50mL培地になるよう播種し、COインキュベーター内(37℃、5%、CO雰囲気)で、Ai-genmix(登録商標)無せん断ミキサー(Osaka Sanitary)を使用し、15秒毎に正逆回転で5分間、100rpmにて振盪培養を実施したのち、8時間静置を6回繰り返し実施した。その後、100rpmにて連続して15秒毎に正逆回転の振盪培養を48時間実施した。培養4日目に、実施例1と同様の方法を用い、細胞数を測定した。評価結果を表1、表2に示す。
【0048】
[実施例4]
実施例1と同様の製法で作製された不織布足場を用い、0.1g重量の不織布足場を150mLのストレージボトル(Corning(登録商標)♯431175)に配置したのち、培地に懸濁したMSC細胞を播種密度1.2×10cells/0.1g、不織布足場/50mL培地になるよう播種し、COインキュベーター内(37℃、5%、CO雰囲気)で、Ai-genmix(登録商標)無せん断ミキサー(Osaka Sanitary)を使用し、15秒毎に正逆回転で5分間、100rpmにて振盪培養を実施したのち、8時間静置した。その後、100rpmにて連続して15秒毎に正逆回転の振盪培養を88時間実施した。培養4日目に、実施例1と同様の方法を用い、細胞数を測定した。評価結果を表1、表2に示す。
【0049】
[実施例5]
実施例1と同様の製法で作製された不織布足場を用い、0.1g重量の不織布足場を150mLのストレージボトル(Corning(登録商標)♯431175)に配置したのち、培地に懸濁したMSC細胞を播種密度1.2×10cells/0.1g、不織布足場/50mL培地になるよう播種し、COインキュベーター内(37℃、5%、CO雰囲気)で、Ai-genmix(登録商標)無せん断ミキサー(Osaka Sanitary)を使用し、15秒毎に正逆回転で5分間、100rpmにて振盪培養を実施したのち、96時間静置培養した。培養4日目に、実施例1と同様の方法を用い、細胞数を測定した。評価結果を表1、表2に示す。
【0050】
[実施例6]
ポリエチレンテレフタレートを常法により、紡糸、延伸、カットした、丸断面繊維の繊維径12.6μm×長さ5mm、捲縮数8.1個/25.4mmのカットファイバー70重量%と、丸断面繊維の繊維径14.4μm×長さ5mmの未延伸タイプ(低配向性ポリエチレンテレフタレート繊維)のバインダーカットファイバー30重量%を水中に界面活性剤と粘剤を添加した水中に分散させた以外は実施例1と同様に実施した。評価結果を表1、表2に示す。
【0051】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレートを常法により、紡糸、延伸、カットした、丸断面繊維の繊維径12.6μm×長さ5mmのカットファイバー70重量%と、丸断面繊維の繊維径14.4μm×長さ5mmの未延伸タイプ(低配向性ポリエチレンテレフタレート繊維)のバインダーカットファイバー30重量%を水中に界面活性剤と粘剤を添加した水中に分散させた以外は実施例1と同様に実施した。評価結果を表1、表2に示す。
【0052】
[比較例2]
比較例1と同様の製法で作製された不織布足場を用いた以外は、実施例4と同様に実施した。培養4日目に、実施例1と同様の方法を用い、細胞数を測定した。評価結果を表1、表2に示す。
【0053】
[比較例3]
比較例1と同様の製法で作製された不織布足場を用いた以外は、実施例5と同様に実施した。培養4日目に、実施例1と同様の方法を用い、細胞数を測定した。評価結果を表1、表2に示す。
【0054】
[比較例4]
ディッシュ(Nunc イージーディッシュ100mm(Thermo ScientificTM#150464))に培地10mL、懸濁したMSC細胞を2.75×10cells播種し、COインキュベーター内(37℃、5%、CO雰囲気)で、96時間静置培養した。培養4日目に、実施例1と同様の方法を用い、細胞数を測定した。評価結果を表1、表2に示す。
【0055】
実施例1~4では、不織布に捲縮をもつ短繊維を使用することにより短期間で多量の細胞培養が可能なのに対し、比較例1~3では、捲縮を持たない短繊維で作製した不織布足場を使用し、播種後の振盪培養ののち、静置培養を行うことで、実施例1~4で得られた細胞数と比較して少ない結果となった。これは、不織布足場の空隙率が捲縮を持つ短繊維で作製された不織布足場の方が高いため、細胞が不織布内部まで入り込み、成長できる場所が十分あり、さらに、振盪培養の際、酸素の供給が不織布内部まで十分行われたと考えられる。
【0056】
また、実施例1~3、6では、不織布足場と静置培養、振盪培養の組み合わせにより、細胞数が4日間で短期間で多量の細胞培養が可能なのに対し、実施例5、比較例3では、不織布足場を使用し、播種後の振盪培養ののち、静置培養を行うことで、4日間の培養で細胞数が実施例1~3、6で得られた細胞数と比較して少ない結果となった。これは、播種後の振盪培養ののち、静置培養のみを行ったため、細胞が不織布足場にしっかりと接着できていないまま、培養が進み、かつ静置培養のため細胞への酸素の供給が少なくなり、細胞増殖量が実施例1~3、6と比較して少なくなったと考える。
【0057】
また、実施例4、比較例2では、静置培養と振盪培養の時間が8時間と短いため、細胞数は4日間の培養で実施例1~3、6と比較し、少ない結果となった。これは、播種後の振盪培養と静置培養の時間が短いため、細胞が不織布足場にしっかりと接着できていないまま、培養が進み、結果として細胞増殖量が実施例1~3、6と比較して少なくなったと考える。
【0058】
また、比較例4はDishでの培養であり、細胞数は4日間の培養で1.9×10個/10mLとなっており、50mL換算すると約9.5×10個/50mLとなる。そのため、実施例1~3はDishと同等の細胞数が得られていることが分かる。つまり、実施例1~3(特に実施例3)の手法を用いることで、従来のDish培養と同等以上の細胞量を培養できる。また、Dishでの培養は、シャーレの面積が限られており、使用枚数が増え、毎日培地交換が必要など、手間やコスト面でも実施例記載の培養手法はメリットがある。
前記の通り、実施例にて不織布足場を用い、振盪培養と静置培養を組み合わせて培養した細胞増殖量は、本発明の目的を満たすものであった。
【0059】
以上、実施例に示した通り、捲縮数が3~25個/25.4mmの短繊維を含む湿式不織布からなる細胞培養足場を使用することで、不織布が高空隙となり、振盪培養を行うことで、酸素の供給、培養液の入れ替わりが起こり、成長速度が速く、効率的に多量に細胞を培養でき、2~60分の振盪培養と24時間以上の静置培養を行うことで、不織布足場への細胞の接着が良好になり、その後、振盪培養を行うことで細胞を多量に培養可能な手法であった。
一方、比較例4では、1枚のDishで培養できる細胞数は限られており、大量培養には多量の枚数が必要となる。
【0060】
【表1-1】
【0061】
【表1-2】
【0062】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、湿式不織布からなる細胞培養足場であって、細胞培養効率や生存率を向上させることが可能な細胞培養足場、および細胞を培養する手法が得られ、その工業的価値は極めて大である。