IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立マクセル株式会社の特許一覧

特開2025-28352レンズユニットおよびカメラモジュール
<>
  • 特開-レンズユニットおよびカメラモジュール 図1
  • 特開-レンズユニットおよびカメラモジュール 図2
  • 特開-レンズユニットおよびカメラモジュール 図3
  • 特開-レンズユニットおよびカメラモジュール 図4
  • 特開-レンズユニットおよびカメラモジュール 図5
  • 特開-レンズユニットおよびカメラモジュール 図6
  • 特開-レンズユニットおよびカメラモジュール 図7
  • 特開-レンズユニットおよびカメラモジュール 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028352
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20250220BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20250220BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20250220BHJP
   H04N 23/55 20230101ALI20250220BHJP
   H04N 23/52 20230101ALI20250220BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 A
G02B7/02 B
G03B30/00
G03B15/00 V
H04N23/55
H04N23/52
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024225133
(22)【出願日】2024-12-20
(62)【分割の表示】P 2020030335の分割
【原出願日】2020-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 章
(57)【要約】
【課題】最も物体側に位置されるレンズとこれに隣接するレンズとの間のレンズ間空間内を接着媒体により気密に保持してレンズ間空間内への水蒸気の侵入を抑制できるとともに、接着媒体に伴うレンズの割れ現象も防止できるレンズユニットおよびカメラモジュールを提供する。
【解決手段】本発明のレンズユニット11において、第1および第2のレンズ13,14は、光軸方向で互いに対向してレンズの径方向に延びる円環状の対向面13a,14aを有し、これらの対向面13a,14a同士が対向する対向領域Rの径方向外側端縁Pよりも径方向外側で、第1のレンズ13と第2のレンズ14との間のレンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように接着媒体40が第1のレンズ13および/または第2のレンズ14の外表面に塗布されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットにおいて、
前記レンズ群は、最も物体側に位置される第1のレンズと、この第1のレンズとその像側で隣接する光学要素とを有し、
前記第1のレンズと前記鏡筒との間には、前記鏡筒の内側のレンズ群を外部に対してシールするシール部材が介挿され、
前記第1のレンズおよび前記光学要素は、光軸方向で互いに対向してレンズの径方向に延びる円環状の対向面を有し、これらの対向面同士が対向する対向領域の径方向外側端縁よりも径方向外側で、前記第1のレンズと前記光学要素との間の空間内が外部に対して密閉されるように、接着媒体が、前記シール部材が介挿される前記第1のレンズと前記鏡筒との間の通路に面する前記第1のレンズおよび/または前記光学要素の外表面に塗布されることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記光学要素は、第1のレンズとその像側で隣接する第2のレンズであることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記接着媒体は、前記第1のレンズの外表面と前記第2のレンズの外表面とにわたって塗布されることを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記接着媒体は、前記第1のレンズおよび前記第2のレンズの外表面と前記鏡筒の内面とを接着することを特徴とする請求項3に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記接着媒体は、前記第2のレンズの外表面と前記鏡筒の内面とを接着することを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記対向領域の円環の厚みの50%以上の範囲に前記接着媒体が塗布されないことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項7】
前記対向領域の径方向内側で前記接着媒体が塗布されないことを特徴とする請求項6に記載のレンズユニット。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のレンズユニットを備えるとともに、前記レンズユニットにより形成される像を受光する位置に撮像素子が配置されることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成し得るレンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒(バレル)と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特に車載カメラ用のレンズユニットでは、少なくとも一部が車外に設置される場合、防水および防塵のため、図8に示されるように、鏡筒102の内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ100と鏡筒102との間にOリング104が介挿され、鏡筒102の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、例えば、第1のレンズ100の外周側面100aに、該レンズ100の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部100bが設けられ、この縮径部100bにOリング104が装着されて、第1のレンズ100の外周側面100aと鏡筒102の内周面102aとの間でOリング104が径方向で圧縮されることにより、鏡筒102の物体側端部が封止された状態となっている。
【0004】
さらに、鏡筒102は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(図8において上端部)のカシメ部123が径方向内側にカシメられることにより、第1のレンズ100をこのカシメ部123で鏡筒102の物体側端部に固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-231993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述したようにOリング104によって防水対策を行なっても、湿気(水蒸気)は様々な経路を通じてレンズユニット内に侵入し得る。そのため、外気温とレンズユニット内の温度との間の差が大きくなると、レンズユニット内の水蒸気が凝縮してレンズ表面に結露が生じる。特に、外部との温度差の影響が最も大きい第1のレンズ100とこれに隣接する第2のレンズ101との間のレンズ間空間S1内で、とりわけ第1のレンズ100の裏面100cに結露が生じ易い。
【0007】
外気温とレンズユニット内の温度との間の差が大きくなる要因としては、外気が冷たい冬期にレンズユニット内の温度が上昇すること、例えばレンズユニットを通じて集光される光を受光して電気信号に変換するための常時通電されたイメージセンサ(撮像素子)から伝わる熱によりレンズユニット内の温度が上昇すること、あるいは、前記イメージセンサや周囲環境(例えば車両のエンジン)からの熱によりレンズユニット内の温度が高い状態で第1のレンズ100の表面100dが外気や雨等に晒されたりするなどして第1のレンズ100が冷却されることなどが挙げられる。
【0008】
また、レンズユニット内への水蒸気の侵入を許容する経路としては、例えば、鏡筒102のカシメ部123と第1のレンズ100との間の隙間からOリング104の周囲の一部並びに第1のレンズ100と鏡筒102および/または第2のレンズ101との間の隙間を通じてレンズ間空間S1等へと至る経路、あるいは、鏡筒102を形成する透湿性の樹脂を介しての経路などを挙げることができる。さらに、レンズユニットの像側に配置されたイメージセンサ(撮像素子)は動作時に100度前後に上昇するが、その際イメージセンサが搭載された基板に含まれる水分が水蒸気化してレンズ間空間S1に到達する経路もある。
【0009】
いずれにしても、このような経路を通じて水蒸気がレンズユニット内に侵入し、前述したような要因により外気とレンズユニット内との間で温度差が生じると、レンズ間空間S1内で、とりわけ第1のレンズ100の裏面100cに結露が起こり、撮像画像がぼやけて、所望の解像度が得られなくなる(視認性が悪化する)。したがって、レンズユニットの気密性を更に一層確保して、レンズ間空間S1内への水蒸気の侵入を抑制することが求められる。
【0010】
そのため、例えば、第1のレンズ100および第2のレンズ101の対向面100e,101a同士を接着媒体により接着してレンズ間空間S1内を気密に保持することも考えられる。しかしながら、そのような場合、接着媒体の硬度によっては、所定の状況下でレンズに割れが生じる虞がある。特に、第1のレンズ100がガラス製で且つ第2のレンズ101が樹脂製である場合など線膨張係数が異なるレンズの組み合わせにおいて、接着媒体が例えばエポキシ系の接着剤などの水を透過し難い硬質な接着剤(例えば、硬度がショア硬度でD80前後)である場合には、接着剤の高硬度に起因してレンズ100,101間を強固に接着できるものの、レンズ100,101同士の線膨張係数差に伴う温度変化時のレンズの膨張収縮量の違いに起因するレンズ100,101同士の径方向の相対変位によって接着剤がガラス製の第1のレンズ100から剥がれ、それに伴って第1のレンズ100に作用する応力により第1のレンズ100の表面に割れが生じる場合がある。特に、このような割れ現象は、レンズの形状やレンズ同士の接合形態にも起因して応力集中が生じ易いレンズ100,101同士の対向領域の径方向内側で起こり易い。また、このような問題は、第1のレンズ100と第2のレンズ101との間に中間スペーサが介在している場合において、ガラス製の第1のレンズ100と樹脂製の中間スペーサとの間においても生じ得る。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、最も物体側に位置されるレンズとこれに隣接するレンズとの間のレンズ間空間内を接着媒体により気密に保持してレンズ間空間内への水蒸気の侵入を抑制できるとともに、接着媒体に伴うレンズの割れ現象も防止できるレンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明は、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットにおいて、
前記レンズ群は、最も物体側に位置される第1のレンズと、この第1のレンズとその像側で隣接する光学要素とを有し、
前記第1および前記光学要素は、光軸方向で互いに対向してレンズの径方向に延びる円環状の対向面を有し、これらの対向面同士が対向する対向領域の径方向外側端縁よりも径方向外側で、前記第1のレンズと前記第2のレンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるように接着媒体が前記第1のレンズおよび/または前記光学要素の外表面に塗布されることを特徴とする。
【0013】
本発明者らは、前述したレンズの割れ現象の主な原因が、互いに対向する第1および第2のレンズの対向面の対向領域の全体にわたって硬質の接着媒体(接着剤)を塗布するためであることを様々な実験等により突き止めた。第1のレンズがガラス製で且つ第2のレンズが樹脂製であって、接着媒体がエポキシ系の接着剤を含む例えばショア硬度でD70以上の高い硬度を有する接着剤である場合には、図1に示されるように、互いに対向する第1および第2のレンズ13,14の対向面13a,14aの円環状の対向領域Rにおいて、円環の内周から円環の厚みT(本明細書中では、円環の外径と内径との間の差をいう)の50%をこえた範囲に接着媒体40が塗布されないようにすることによって前述した第1のレンズ13の割れ現象を回避できることが分かった。換言すると、円環状の対向領域Rの外周から円環の厚みの50%以内の範囲にのみ接着媒体40が塗布されるようにしさえすれば、前述した第1のレンズ13の割れ現象を防止し得る。そのため、本発明の上記構成では、第1および第2のレンズの対向面同士が対向する対向領域の径方向外側端縁よりも径方向外側で、第1のレンズと第2のレンズとの間のレンズ間空間(S1;図1参照)内が外部に対して密閉されるように接着媒体を第1のレンズおよび/または第2のレンズ(光学要素)の外表面に塗布するようにしたものである。ここで、レンズの対向面の対向領域とは、対向面の光軸方向の間隔が500μm以下の領域をいうものとする。なお、以上のことは、第1のレンズと第2のレンズとの間に中間スペーサが介在している場合において、ガラス製の第1のレンズと樹脂製の中間スペーサ(光学要素)との間においても当てはまる。
【0014】
このような接着媒体の塗布形態により、第1のレンズと第2のレンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるため、高湿環境下であっても、最も結露が生じ易いレンズ間空間内への水蒸気の侵入を、ひいては更に像側からレンズユニット内への水蒸気の侵入も抑えて(気密性を向上させて)、レンズ間空間内の水蒸気量を低下させ、レンズ表面結露、とりわけ、第1のレンズの像側の表面(裏面13c;図1参照)に結露が生じることを抑制できるとともに、互いに対向する第1および第2のレンズの対向面の円環状の対向領域において、円環の内周から円環の厚みの50%をこえた範囲に接着媒体が塗布されないようにすることができるため、接着媒体に伴う第1のレンズの割れ現象も防止できる。
【0015】
また、本発明に係るカメラモジュールは、前記レンズユニットを備えることを特徴とする。
このような構成によれば、前述のレンズユニットの作用効果をカメラモジュールで得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1のレンズおよび光学要素の対向面同士が対向する対向領域の径方向外側端縁よりも径方向外側で、第1のレンズと第2のレンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるように接着媒体が第1のレンズおよび/または光学要素の外表面に塗布されるため、第1のレンズと第2のレンズとの間のレンズ間空間内を接着媒体により気密に保持してレンズ間空間内への水蒸気の侵入を抑制できるとともに、接着媒体に伴うレンズの割れ現象も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の概念を説明するためのレンズ対の模式図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係るレンズユニットの概略半断面図である。
図3図2のレンズユニットを有するカメラモジュールの概略断面図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係るレンズユニットの概略半断面図である。
図5】本発明の第3の実施の形態に係るレンズユニットを示し、(a)は、接着媒体塗布前における第2のレンズが位置される部位での光軸方向と直交する断面であり、(b)は、接着媒体塗布後における第2のレンズが位置される部位での光軸方向と直交する断面であり、(c)は、レンズユニットの光軸方向に沿う概略半断面図である。
図6】本発明の第4の実施の形態に係るレンズユニットの概略半断面図である。
図7】本発明の第5の実施の形態に係るレンズユニットの概略半断面図である。
図8】従来のレンズユニットの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、全ての図においてレンズについてはハッチングを省略している。
【0019】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施の形態のレンズユニット11は、例えば樹脂製の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側から、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、第4のレンズ16および第5のレンズ17から成る5つのレンズと、2つの絞り部材22a,22bとを備えている。2つの絞り部材22a,22bのうちの物体側から1番目の絞り部材22aは、第2のレンズ14と第3のレンズ15との間に配置されている。物体側から2番目の絞り部材22bは、第3のレンズ15と第4のレンズ16との間に配置されている。絞り部材22a,22bは透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0020】
鏡筒12の内側収容空間S内に組み込まれて収容保持される複数のレンズ13,14,15,16,17は、それぞれの光軸を一致させた状態で積み重ねられて配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。この場合、レンズ群Lを構成する最も物体側に位置される第1のレンズ13は、物体側に凸面を有するとともに像側に凹面を有する球面ガラスレンズであり、その他のレンズ14,15,16,17は樹脂レンズであるが、これに限定されない。
【0021】
本実施の形態を含む本発明は、互いに対向する第1および第2のレンズ13,14の対向面(光軸方向で互いに対向してレンズの径方向に延びる円環状の対向面)13a,14aの円環状の対向領域Rにおいて、円環の内周から円環の厚み(円環の外径と内径との間の差)の50%をこえた範囲に接着媒体40が塗布されないようにする(後述する)ことを特徴としており、レンズの数、レンズおよび鏡筒の素材等については用途等に応じて任意に設定できる。また、本実施の形態において、像側に位置される2つの第4および第5のレンズ16,17は貼り合わせレンズであるが、そうである必要はない。なお、これらのレンズ13,14,15,16,17の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0022】
また、本実施の形態において、最も物体側に位置される第1のレンズ13と鏡筒12との間にはシール部材としてのOリング26が介挿され、鏡筒12の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、第1のレンズ13の外周面13dに、該レンズ13の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部13eが設けられ、この縮径部13eにOリング26が装着されて、第1のレンズ13の外周面13dと鏡筒12の内周面12aとの間でOリング26が径方向で圧縮されることにより、鏡筒12の物体側端部が封止された状態となっている。なお、第1のレンズ13と鏡筒12との間に介挿されるシール部材は、Oリングに限定されず、第1のレンズ13と鏡筒12との間をシールできる環状体であればどのような形態であっても構わない。
【0023】
また、鏡筒12は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(図1において上端部)のカシメ部23が径方向内側に熱的にカシメられることにより、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ13をこのカシメ部23により鏡筒12の物体側端部に光軸方向で固定する。この場合、安定したカシメを行なえるように、カシメ部23が圧接されるガラスレンズ13の部位は平面状に斜めにカットされた平坦部13bとして形成される。
【0024】
また、鏡筒12の像側の端部(図1において下端部)には、第5のレンズ17よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15,16,17と絞り部材22a,22bとが光軸方向で保持固定されている。
【0025】
鏡筒12は、その内径が物体側から像面側に向かって段階的に小さくなっている。これに対応して、レンズ13,14,15,16,17は、物体側から像面側に向かうにつれて、外径が小さくなっている。基本的に、レンズ13,14,15,16,17それぞれの外径と、鏡筒12の各レンズ13,14,15,16,17が支持される部分それぞれの内径とは略等しくなっている。なお、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鏡筒12の外周面に鍔状に設けられている。
【0026】
また、図3は、図2のレンズユニット11を有する本実施の形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、カメラモジュール300は、フィルタ100が装着されたレンズユニット11を含んで構成されている。
【0027】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0028】
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12dとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0029】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0030】
以上のような構成を成すレンズユニット11およびカメラモジュール300は、第1のレンズ13と第2のレンズ14との間のレンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように塗布される接着媒体が例えばエポキシ系の接着剤などの水を透過し難い硬質な接着剤(例えば、硬度がショア硬度でD80前後)である場合に、第1のレンズ13の表面に割れが生じることを抑制するために、第1のレンズ13および第2のレンズ14の対向面13a,14a間である円環状の対向領域Rに接着剤を積極的に設けないことを特徴とするものである。ここで、第1のレンズ13および第2のレンズ14の対向面13a,14a間である円環状の対向領域Rとは、第1のレンズ13と第2のレンズ14の対向面13a,14aの光軸方向の間隔が500μm以下の領域をいい、間隔0の当接領域も含むものとする。なお、本実施の形態で用いられる接着媒体40は、エポキシ系の接着剤(エポキシ樹脂を50重量%以上含む接着剤)であるが、アクリル系やオレフィン系の接着剤(アクリル系の接着剤とはアクリル樹脂を50重量%以上含む接着剤、オレフィン系の接着剤とはオレフィン系樹脂(二重結合を1箇もった鎖状炭化水素)を50重量%以上含む接着剤をいうものとする)、粘着性を有する(例えばゲル状の)弾性材料などを接着媒体として使用することもできる。また、このような接着媒体40は、レンズ13,14の有効径の外側(光線が通らない光学面外部位)に設けられる。
【0031】
また、本実施の形態において、接着媒体40は、レンズ13,14同士の線膨張係数差に伴う温度変化時のレンズの膨張収縮量の違いに起因するレンズ13,14同士の径方向の相対変位に追従できる「径方向追従性」(温度変化に伴うレンズ13,14の膨張(収縮)後にレンズ13,14の接着界面に加わる径方向の応力に十分に耐え得る柔軟性)、および/または、高温環境下におけるレンズ間空間S1の内圧上昇に伴うレンズ13,14同士の光軸O方向での離間に起因してレンズ13,14間の接着界面が剥離しないようにする良好な「密着性」(レンズ13,14の対向面13a,14aに対する接着媒体40の密着性)、あるいは、光軸O方向でのレンズ13,14間の離間変位に追従できる「光軸方向追従性」を有することが好ましい。
【0032】
接着媒体40に求められる「径方向追従性」は、接着媒体40の硬度をショア硬度でA10~A100(ショアA硬度10~100)の範囲内またはショア硬度でD10~D90(ショアD硬度10~90)の範囲内に設定することによって実現できる。特に、A30~A95またはD10~D60の範囲内でより好適な結果が得られる。また、このような「径方向追従性」は、接着媒体の硬度をこのような値の範囲内に設定することに加えまたは代え、接着媒体の厚さを所定以上に確保することによっても実現し得る。接着媒体40の厚さを所定以上に確保する(接着媒体40の径方向に沿う動き代を確保する)ための手段としては、例えば、接着媒体40中にフィラーを含ませ、これらのフィラーの最大長さを5~500μmに設定することが挙げられる。接着媒体中におけるフィラーの配向にもよるが、フィラーが接着媒体40中で光軸O方向側に向けて延在していれば、その延在するフィラーの長さによって接着媒体40の厚み(光軸O方向の寸法)が規定され得る。
【0033】
このような接着媒体40を用いる本実施の形態では、ガラス製の第1のレンズ13および樹脂製の第2のレンズ14の対向面13a,14a同士が対向(当接状態も含む)する対向領域Rの径方向外側端縁Pよりも径方向外側で、レンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように接着媒体40(本実施の形態では、ショア硬度がD80前後のエポキシ系の接着剤)が第1のレンズ13の外表面(底面;像側の表面)と第2のレンズ14の外表面(鏡筒12の内面に面する外周側面)とにわたって塗布されている。この場合、接着媒体40は、第1のレンズ13の像側に面する表面のうち第2のレンズ14の対向面14aと当接あるいは対向しない径方向外側の外表面部位13hと、この外表面部位13hに隣接して鏡筒12の内面と対向する第2のレンズ14の外周側面である外表面部位14hとにわたって連続的に延在している(L字形塗布形態)。
【0034】
接着媒体40のこのような塗布形態では、塗布過程において接着媒体40が表面張力により円環状の対向領域Rに若干浸透することがあり得るが、部分的にでも円環の外周から円環の厚み(円環の外径と内径との間の差)の50%をこえる範囲に接着媒体40が入り込むことはないため、温度変化時に接着媒体40により第1のレンズ13に大きな応力が作用して第1のレンズ13に割れが発生することを防止できる。また、このようにして接着媒体40が塗布された第1のレンズ13および第2のレンズ14は、接着媒体40を伴った一体のユニットとして組み合わされた状態で鏡筒12内に組み込まれる。このようなレンズ13,14のユニット化は、レンズ間空間S1内の気密試験(密閉状態を確認する試験)をユニット単体で行なえるという利点を有する。
【0035】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係るレンズユニット11Aを示している。図示のように、本実施の形態に係るレンズユニット11Aでは、第1の実施の形態と同様、第1のレンズ13および第2のレンズ14の対向面13a,14a同士が対向する対向領域Rの径方向外側端縁Pよりも径方向外側で、レンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように接着媒体40が第1のレンズ13の外表面である外周側面と第2のレンズ14の外表面である外周側面とにわたって塗布されている。この場合、接着媒体40は、鏡筒12の内面と対向する第1のレンズ13の外表面部位13iと、この外表面部位13iに隣接して鏡筒12の内面と対向する第2のレンズ14の外表面部位14hとにわたって連続的に延在している(ストレート塗布形態)。
【0036】
このようにして接着媒体40が塗布された第1のレンズ13および第2のレンズ14も、接着媒体40を伴った一体のユニットとして組み合わされた状態で鏡筒12内に組み込まれる。また、接着媒体40のこのような塗布形態でも、塗布過程において接着媒体40が表面張力により円環状の対向領域Rに若干浸透することがあり得るが、部分的にでも円環の外周から円環の厚み(円環の外径と内径との間の差)の50%をこえる範囲に接着媒体40が入り込むことは抑制できる。したがって、温度変化時に接着媒体40により第1のレンズ13に大きな応力が作用して第1のレンズ13に割れが発生することを防止できる。
【0037】
図5は、本発明の第3の実施の形態に係るレンズユニット11Bを示している。図示のように、本実施の形態に係るレンズユニット11Bでは、レンズ群Lを構成する第1のレンズ13を除く各レンズ14,15,16,17が、光軸方向に対して垂直な断面内で鏡筒12と周方向で点接触する(例えば、光軸方向に対して垂直な断面において、鏡筒12の内周面が多角形を成し且つレンズが円形を成す)ことにより、径方向で鏡筒12の内面との間に隙間Cを形成している(図5の(a)参照)。そして、この実施の形態でも、対向領域Rの径方向外側端縁Pよりも径方向外側で、接着媒体40が第2のレンズ14の外表面に塗布されている。しかしながら、この場合、接着媒体40は、鏡筒12の内面と第2のレンズ14との間に形成される隙間Cを完全に埋めるように、第2のレンズ14の物体側に面する外表面部位14iと鏡筒12の内面に対向する第2のレンズ14の外周側面である外表面部位14hとにわたって連続的に延在して、第2のレンズ14の外表面部位14hと鏡筒12の内面とを接着している(図5の(b)(c)参照)。
【0038】
接着媒体40のこのような塗布形態では、対向領域Rの面積の100%の範囲(円環の厚みの100%)にわたって完全に接着媒体40が塗布されないようにすることができ、したがって、イメージセンサ(撮像素子)100(図2参照)側からの水蒸気がレンズ間空間S1に到達する経路を遮断することができ、その結果、第2のレンズ14の外表面の接着媒体40と第1のレンズ13の側面のOリング26とによってレンズ間空間S1の外部に対する密閉性が確保される。この場合、対向領域Rの径方向外側端縁Pの近傍で第1のレンズ13の外表面と第2のレンズ14の外表面とにわたって接着媒体40を設ければレンズ間空間S1の密閉性をさらに向上させることができる。
【0039】
なお、各レンズを光軸方向に対して垂直な断面内で鏡筒12と周方向で点接触させる方法は、鏡筒12の内面を多角形にする場合に限らず、鏡筒12の内周に突起状のリブを設けて点接触するようにしてもよい。ここで、点接触とは、光軸方向に対して垂直な断面内で点接触しているものをいい、光軸方向に直線状に接触しているものを含むものである。また、本実施の形態では第2のレンズ14と鏡筒12とを接着しているが、これに限らず、第2~第5レンズのいずれかあるいは複数のレンズと鏡筒12とを接着するものでもよい。
【0040】
図6は、本発明の第4の実施の形態に係るレンズユニット11Cを示している。図示のように、本実施の形態に係るレンズユニット11Cは、第2の実施の形態(図4参照)の変形例であり、第2の実施の形態と同様に、接着媒体40は、鏡筒12の内面と対向する第1のレンズ13の外表面部位13iと、この外表面部位13iに隣接して鏡筒12の内面と対向する第2のレンズ14の外表面部位14hとにわたって連続的に延在している。ただし、本実施の形態では、接着媒体40はレンズ14の外表面部位14hを鏡筒12の内面にも接着している。接着媒体40のこのような塗布形態でも、塗布過程において接着媒体40が表面張力により円環状の対向領域Rに若干浸透することがあり得るが、円環の外周から円環の厚み(円環の外径と内径との間の差)の50%をこえる範囲に接着媒体40が入り込むことは抑制できる。
【0041】
以上のごとく、円環状の対向領域Rの外周から円環の厚みの50%をこえる範囲に接着媒体40が塗布されないように、対向領域Rの径方向外側端縁Pよりも径方向外側で、レンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように接着媒体40が第1のレンズ13および/または第2のレンズ14の外表面に塗布されれば、前述したように、レンズ13,14同士の線膨張係数差に伴う温度変化時のレンズの膨張収縮量の違いに起因するレンズ13,14同士の径方向の相対変位によって接着媒体40がガラス製の第1のレンズ13から剥がれ、それに伴って第1のレンズ13に作用する応力により第1のレンズ13の表面に割れが生じるといった現象を回避できる。
【0042】
図7は、本発明の第5の実施の形態に係るレンズユニット11Gを示している。この実施の形態では、図2に示されるようなL字形の接着媒体塗布形態が樹脂製の中間スペーサ530(第1のレンズ13と第2のレンズ14との間に介挿されている)と第1のガラス製のレンズ13との間に適用されている。具体的には、第2のレンズ14と中間スペーサ530との間に接着媒体548が介在するとともに、第1のレンズ13と中間スペーサ530とにわたって図2と同様にL字形の接着媒体塗布形態が採用される。より具体的には、この実施の形態に係るレンズユニット11Gにおいて、第1のレンズ13および中間スペーサ530の対向面13a,530a同士が対向する円環状の対向領域Rの径方向外側端縁Pよりも径方向外側で、レンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように接着媒体40が第1のレンズ13の外表面(底面;像側の表面)と中間スペーサ530の外表面(鏡筒12の内面に面する外周側面)とにわたって塗布されている。この接着媒体40はエポキシ系の接着剤を含む例えばショア硬度でD70以上の高い硬度を有する接着剤である。
この場合、接着媒体40は、第1のレンズ13の像側に面する表面のうち中間スペーサ530の対向面150aと当接あるいは対向しない径方向外側の外表面部位13hと、この外表面部位13hに隣接して鏡筒12の内面と対向する中間スペーサ530の外周側面である外表面部位530dとにわたって連続的に延在している(L字形塗布形態)。接着媒体40のこのような塗布形態では、塗布過程において接着媒体40が表面張力により円環状の対向領域Rに若干浸透することがあり得るが、部分的にでも円環の外周から円環の厚み(円環の外径と内径との間の差)の50%をこえる範囲に接着媒体40が入り込むことはないため、温度変化時に接着媒体40により第1のレンズ13に大きな応力が作用して第1のレンズ13に割れが発生することを防止できる。また、このような第1のレンズ13と中間スペーサ530との間にわたる接着媒体40の塗布形態は、L字形塗布形態に限らず、図4に関連して前述した鏡筒12との接着を伴わないストレート塗布形態や、図6に関連して前述した鏡筒12との接着を伴うストレート塗布形態、あるいは、図5に関連して前述した塗布形態、すなわち、中間スペーサ530と鏡筒12との間の隙間を完全に埋めるように接着媒体40が塗布される塗布形態であってもよい。なお、第2のレンズ14と中間スペーサを接着する接着媒体は、エポキシ系の接着剤に限らず他の種類の接着剤を用いることができる。
【0043】
なお、前述した実施の形態において、レンズ、鏡筒などの形状等は、前述した実施の形態に限定されない。また、前述した実施の形態は、レンズ13の表面結露を防止する手段を開示するが、このような結露防止手段に加えて従来から行われているレンズユニット内部に吸湿部材を設置する方法などを併用することを妨げるものではない。また、前述した全ての実施の形態において、第2のレンズ14が低透湿性(例えば、厚み0.025mmにおいて30g/m・24h以下)の樹脂(例えば、COP(シクロオレフィンポリマー)などの材料またはCOPを母材とする樹脂)で構成されるのが好ましい。これにより、第1および第2のレンズ13,14間の気密性はもとより、第2のレンズ14自体の透湿によるレンズ間空間S1内への水蒸気の侵入も防止できる。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。また、各実施形態において記載された技術的事項は、その効果を得るために他の実施形態に用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
11 レンズユニット
12 鏡筒
13 第1のレンズ
13a 対向面
14 第2のレンズ
14a 対向面
40 接着媒体
300 カメラモジュール
L レンズ群
O 光軸
P 径方向外側端縁
R 対向領域
S 内側収容空間
S1 レンズ間空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8