(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002841
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】金型温度調整装置
(51)【国際特許分類】
B22C 9/06 20060101AFI20241226BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B22C9/06 B
B22D17/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103208
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】冨田 高嗣
(72)【発明者】
【氏名】古川 雄一
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093NA01
4E093NB01
4E093NB05
(57)【要約】
【課題】固定型及び可動型の間に形成されたキャビティに充填された溶湯を所望の温度に保温することができる金型温度調整装置を提供すること。
【解決手段】金型温度調整装置100は、ダイカスト鋳造に用いられる固定型1及び可動型2を有する金型10の温度を調整する装置である。金型温度調整装置100は、固定型1及び可動型2の間に形成されたキャビティ30に接続されるオーバーフロー41を加熱する加熱手段と、加熱手段の温度を制御する制御手段と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型及び可動型の間に形成されたキャビティに接続されるオーバーフローを加熱する加熱手段と、
前記加熱手段の温度を制御する制御手段と、
を有する金型温度調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は金型温度調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型内に形成された可動型と固定型との間のキャビティに溶湯を充填して鋳造品を製造するダイカスト鋳造は、製造コストが安い割りには複雑な形状の鋳造品を製造することができる等のメリットから、産業界で多く使用されている。そして、ダイカスト鋳造に用いられる金型の温度を調整する技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、可動型と固定型とを備える金型の温度を調整しながらダイカスト鋳造により製品を製造する鋳造品の製造方法において、ダイカスト鋳造を中断する場合には、可動型と固定型とを型締めして溶湯を充填した状態で、可動型と固定型に熱媒体を供給して保温する鋳造品の製造方法及び金型温度調整装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術によれば、キャビティ部の内壁の温度を容易に均一化することができ、予熱時のロスを減らして鋳造品の品質の均一化を図ることができることが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、熱媒体を供給するための熱媒体通路を金型に設ける必要があるが、複雑な製品形状に対応するキャビティが形成された金型であると、製品形状に追従した熱媒体通路を金型に設けることが困難な場合や、熱媒体通路を設けるために金型の加工コストが増大する虞があるという問題があった。
【0006】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、固定型及び可動型の間に形成されたキャビティに充填された溶湯を所望の温度に保温することができる金型温度調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態にかかる金型温度調整装置は、固定型及び可動型の間に形成されたキャビティに接続されるオーバーフローを加熱する加熱手段と、加熱手段の温度を制御する制御手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、固定型及び可動型の間に形成されたキャビティに充填された溶湯を所望の温度に保温することができる金型温度調整装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1にかかる金型温度調整装置を適用した金型の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。ただし、本開示が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0011】
図1は、実施の形態1にかかる金型温度調整装置を適用した金型の一例を示す断面図である。
図2は、金型に含まれる可動型の平面図である。本実施形態にかかる金型温度調整装置100は、ダイカスト鋳造に用いられる固定型1及び可動型2を有する金型10の温度を調整する装置である。
図1に示すように、金型温度調整装置100は、固定型1及び可動型2の間に形成されたキャビティ30に接続されるオーバーフロー41を加熱する加熱手段としてのヒータ50と、ヒータ50の温度を制御する制御手段としての制御装置60と、を有する。
【0012】
可動型2は、固定型1に対して接近及び離間する型開閉方向に移動可能に設けられている。金型10は、固定型1及び可動型2を合わせて型締めすることにより、固定型1及び可動型2の間にランナー20、ランナーゲート21、キャビティ30、オーバーフローゲート40、及びオーバーフロー41を形成する。
【0013】
ダイカスト鋳造時に、ランナーゲート21を介してランナー20からキャビティ30に供給された溶湯Mは、オーバーフローゲート40を通じてオーバーフロー41に到達して、金型10内のランナー20、ランナーゲート21、キャビティ30、オーバーフローゲート40、及びオーバーフロー41のそれぞれで凝固する。凝固した溶湯は、粗材として金型10から取り出される。したがって、溶湯は、ランナー20、ランナーゲート21、キャビティ30、オーバーフローゲート40、及びオーバーフロー41の順に、湯流れ方向の上流から下流に向けて金型10内を流れる。
【0014】
粗材は、ランナー20、ランナーゲート21、オーバーフローゲート40、及びオーバーフロー41のそれぞれの形状に対応する鋳造品以外の部分と、キャビティ30の形状に対応する鋳造品と、を含む。鋳造品に連結した鋳造品以外の部分を粗材から除去することで鋳造品が得られる。溶湯となる金属材料は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金である。
【0015】
固定型1は、キャビティ30を形成する固定側キャビティ面1aを有している。固定型1には、キャビティ30に開口するランナーゲート21、及びランナーゲート21を介して溶湯をキャビティ30に供給するランナー20が形成されている。ランナー20に接続された図示しない射出スリーブから溶湯が押し出されると、ランナー20を通じて金型10内に溶湯が導かれる。
【0016】
可動型2は、主型3、及び主型3に取り付けられた入子4を有している。主型3は、キャビティ30を形成する可動側キャビティ面3aを有している。主型3及び入子4には、キャビティ30に開口するオーバーフローゲート40が主型3及び入子4に跨るように形成されている。そして、入子4には、オーバーフローゲート40を通じてキャビティ30に接続されたオーバーフロー41が形成されている。
【0017】
可動型2は、オーバーフロー41が形成された少なくとも1つの入子4を有している。例えば、本実施形態にかかる可動型2は、
図2に示すように、3つの入子4を有している。なお、
図2には、固定型1のランナー20及びランナーゲート21を一点鎖線で示している。オーバーフロー41は、粗材の薄肉部に対応するキャビティ30の薄肉領域に接続されていることが好ましい。これにより、オーバーフロー41が加熱された場合に、キャビティ30の薄肉領域に充填された溶湯を容易に保温することができる。
【0018】
主型3は、耐高温性に優れた材料を用いて形成されている。主型3は、例えば鉄鋼材料を用いて形成されている。入子4は、主型3より熱伝導率の高い材料を用いて形成されていることが好ましい。オーバーフロー41とヒータ50との間の伝熱を良好にする観点から、入子4は、銅又は銅合金等の金属材料を用いて形成されていることが好ましい。
【0019】
ヒータ50は、入子4に内蔵されている。ヒータ50は、オーバーフロー41の近傍に設けられていることが好ましい。また、ヒータ50は、オーバーフロー41が形成された入子4ごとに設けられていることが好ましい。ヒータ50は、制御装置60に接続されている。ヒータ50は、制御装置60の制御により発熱して、オーバーフロー41を加熱する。
【0020】
図1に示すように、制御装置60は、各種演算を実行するCPU等のプロセッサ61、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリ62、及び入出力I/F63を備えるコンピュータにより構成されている。制御装置60は、プロセッサ61がメモリ62に予め格納される金型温度調整プログラムを実行することで、ヒータ50の温度を制御する。制御装置60は、金型温度調整装置100に内蔵されてもよく、図示しないダイカストマシンのメインコントローラに内蔵されてもよい。なお、ダイカストマシンは、金型10を用いてダイカスト鋳造により鋳造品を製造する装置である。
【0021】
制御装置60は、入出力I/F63にヒータ50、保温開始指示入力手段71、及び保温終了指示入力手段72のそれぞれが接続されている。保温開始指示入力手段71は、保温の開始指示を入力する手段である。保温終了指示入力手段72は、保温の終了指示を入力する手段である。
【0022】
次に、金型温度調整装置100の動作の一例を説明する。金型温度調整装置100は、保温開始指示入力手段71に保温の開始指示が入力されると、制御装置60によりヒータ50に対して電力を供給することでヒータ50の温度を上昇させる。これにより、金型10内に充填された溶湯を保温する。また、金型温度調整装置100は、保温終了指示入力手段72に保温の終了指示が入力されると、制御装置60によりヒータ50に対する電力の供給を遮断することでヒータ50の温度を低下させる。金型温度調整装置100は、例えば、ダイカスト鋳造時に金型10内へ溶湯の充填が完了してから金型10の型開きが開始されるまでの間、ヒータ50を発熱させてオーバーフロー41を加熱する。
【0023】
ここで、金型10を用いてダイカスト鋳造により鋳造品を製造する製造方法について一例を説明する。当該製造方法は、例えば、離型剤塗布工程、型締め工程、充填工程、凝固工程、型開き工程、及び取出工程を含む。これらの各工程は、ダイカストマシンにより実現することができる。まず、ダイカストマシンは、予め固定型1及び可動型2を加熱して固定側キャビティ面1a及び可動側キャビティ面3aを所定の設定温度に昇温させる。
【0024】
離型剤塗布工程では、可動型2を固定型1から離間する方向へ移動させて金型10を型開きした後、固定型1及び可動型2の溶湯が接する面に離型剤を塗布する。型締め工程では、離型剤を塗布した後、可動型2を固定型1に接近する方向へ移動させて型締めを行う。
【0025】
充填工程では、型締めを行った後の金型10内へ加熱した溶湯を充填する。金型10内へ溶湯を充填する際、キャビティ30から溢れた溶湯は、オーバーフローゲート40を通じてオーバーフロー41に排出される。溶湯の湯流れ方向の先端には不純物や異物等が多く含まれるため、溶湯がオーバーフロー41に排出されることで、キャビティ30に充填された溶湯内に不純物や異物等が残存することが抑制される。
【0026】
金型10内へ溶湯の充填が完了した後、凝固工程では、金型10を冷却して金型10内の溶湯を凝固させる。凝固工程において所定の冷却時間が経過すると、型開き工程では、金型10を型開きする。取出工程では、金型10を型開きした後の可動型2に付着した粗材を可動型2から押し出すことにより金型10から粗材を取り出す。さらに、粗材から鋳造品に連結した鋳造品以外の部分を除去することにより、鋳造品が得られる。
【0027】
ここで、溶湯が凝固する際に溶湯内で晶出する晶出物の生成量や粒径を制御することで、溶湯が凝固した粗材から得られる鋳造品の性能が変化し得る。例えば所定温度以上の高温状態である溶湯内で晶出する晶出物の生成量や粒径を制御することが要求される場合、金型10内の溶湯の冷却速度が速いと、晶出物の生成量や粒径を制御することが困難になる虞があるという問題がある。
【0028】
このような問題に対し、金型温度調整装置100は、ダイカスト鋳造時に金型10内へ溶湯の充填が完了してから金型10の型開きが開始されるまでの間、ヒータ50を発熱させることで、オーバーフロー41を加熱する。ヒータ50の発熱は、熱伝導によりオーバーフロー41を介して金型10内の溶湯の全体に伝わる。そのため、本実施形態にかかる金型温度調整装置100によれば、キャビティ30(金型10内)に充填された溶湯を容易に所望の温度に保温することができる。
【0029】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を用いたダイカスト鋳造では、金型10内の溶湯を冷却する際に、冷却速度を速くして生産性の向上が図られる。しかし、複雑な形状のキャビティ30が形成された金型10であったり、肉厚が不均一な粗材を成形する金型10であったりすると、粗材の各部位に対応するキャビティ30の領域間で生じる冷却速度の差によってキャビティ30(金型10内)に充填された溶湯の温度分布が不均一となり得る。例えば、粗材の厚肉部に対応するキャビティ30の厚肉領域に比べてキャビティ30の薄肉領域は冷却速度が速い。その結果、粗材から得られる鋳造品の寸法精度が低下する虞があるという問題がある。
【0030】
このような問題に対し、金型温度調整装置100は、ダイカスト鋳造時に金型10内へ溶湯の充填が完了してから金型10の型開きが開始されるまでの間、ヒータ50を発熱させることでキャビティ30の薄肉領域に接続されるオーバーフロー41を加熱する。これにより、ヒータ50の発熱は、熱伝導によりオーバーフロー41を介してキャビティ30の薄肉領域に充填された溶湯に伝わる。そのため、金型温度調整装置100を用いれば、キャビティ30に充填された溶湯の温度を均一化することができる。その結果、鋳造品の寸法精度の低下が抑制される。
【0031】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、加熱手段はヒータ50に限らず、例えば、入子4内に加熱した媒体(熱媒体)を流動させる熱媒体流路を設け、当該熱媒体流路に熱媒体を流すことでオーバ-フローを加熱する構成であってもよい。熱媒体は、オーバーフロー41を加熱することができる流体であれば特に限定されないが、例えば油や水等である。
【0032】
また、上記実施の形態では、主型3より熱伝導率が高い材料を用いて形成された入子4を例示したが、これに限らない。例えば、金型温度調整装置100は、断熱材等の熱伝導率の低い材料が主型3との間に介在した入子4に加熱手段が設けられた構成であってもよい。このような構成により、入子4から主型3への伝熱が抑制されるため、加熱手段が入子4に形成されたオーバーフロー41を局所的に加熱することができる。主型3と入子4との間が断熱されている場合、入子4は、主型3より熱伝導率が高い材料を用いて形成されていてもよく、主型3と同じ材料を用いて形成されていてもよく、主型3より熱伝導率が低い材料を用いて形成されていてもよい。
【0033】
又は、金型温度調整装置100は、加熱手段がオーバーフロー41を局所的に加熱することができれば、例えばオーバーフロー41が形成された入子4に加熱手段を設ける代わりに、オーバーフロー41が形成された主型3に加熱手段を設けた構成であってもよい。
【0034】
また、上記実施の形態では、加熱手段が可動型2に設けられている場合を例に挙げて金型温度調整装置100の詳細を説明したが、加熱手段は、固定型1及び可動型2の少なくとも一方に設けられていればよい。固定型1に加熱手段を設ける場合、固定型1は、オーバーフロー41が形成されるとともに加熱手段を内蔵した入子を主型に取り付けた入子構造とすることが好ましい。ただし、固定型1は、オーバーフロー41が形成された主型に加熱手段が設けられた構成であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 固定型 1a 固定側キャビティ面
2 可動型 3 主型 3a 可動側キャビティ面 4 入子
10 金型
20 ランナー 21 ランナーゲート
30 キャビティ
40 オーバーフローゲート 41 オーバーフロー
50 ヒータ
60 制御装置 61 プロセッサ 62 メモリ 63 入出力I/F
71 保温開始指示入力手段 72 保温終了指示入力手段
100 金型温度調整装置