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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028471
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】ガラス基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 19/00 20060101AFI20250221BHJP
【FI】
C03C19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133306
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 克
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC01
(57)【要約】
【課題】表面の触り心地や、ペンによる書き心地を効果的に向上させ得る、ガラス基板を提供する。
【解決手段】第1の主面1aに凹凸部2と、凹凸部2を設けるための加工がなされていない非加工部3とを有する、ガラス基板1であって、凹凸部2は、74μm×55μmの領域において、高域フィルタλcのカットオフ値を14μmとし、低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmとしたときに、算術平均高さSaが、1nm以上、100nm以下であり、凹凸部2は、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有し、凹凸部2の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、非加工部3の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差が、0.1質量%以上である、ガラス基板1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸部と、前記凹凸部を設けるための加工がなされていない非加工部とを有する、ガラス基板であって、
前記凹凸部は、74μm×55μmの領域において、高域フィルタλcのカットオフ値を14μmとし、低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmとしたときに、算術平均高さSaが、1nm以上、100nm以下であり、
前記凹凸部は、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有し、
前記凹凸部の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、前記非加工部の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差が、0.1質量%以上である、ガラス基板。
【請求項2】
表面に凹凸部と、前記凹凸部を設けるための加工がなされていない非加工部とを有する、ガラス基板であって、
前記凹凸部は、74μm×55μmの領域において、高域フィルタλcのカットオフ値を14μmとし、低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmとしたときに、算術平均高さSaが、1nm以上、100nm以下であり、
前記凹凸部に、Al、Zr、及びSiのうち少なくとも1種を含む粒子が複合化されている、ガラス基板。
【請求項3】
前記ガラス基板の一方側主面に、前記凹凸部と、前記非加工部との双方が設けられている、請求項1又は2に記載のガラス基板。
【請求項4】
前記ガラス基板が、対向している第1の主面及び第2の主面を有し、
前記ガラス基板の前記第1の主面に、前記凹凸部が設けられており、
前記ガラス基板の前記第2の主面に、前記非加工部が設けられている、請求項3に記載のガラス基板。
【請求項5】
前記凹凸部の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、前記非加工部の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差が、10質量%以下である、請求項1又は2に記載のガラス基板。
【請求項6】
前記ガラス基板が、シリケート系ガラスにより構成されている、請求項1又は2に記載のガラス基板。
【請求項7】
前記粒子が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ジルコニウム、イットリア安定化ジルコニア、ジルコン、酸化ケイ素、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の粒子である、請求項2に記載のガラス基板。
【請求項8】
前記粒子の平均粒子径が、0.1μm以上、10μm以下である、請求項2に記載のガラス基板。
【請求項9】
前記粒子の純度が、90%以上である、請求項2に記載のガラス基板。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法であって、
元ガラス基板を準備する工程と、
前記元ガラス基板にブラスト処理を施す工程と、
を備え、
前記ブラスト処理時の処理圧力が、0.1MPa以上、3.0MPa以下である、ガラス基板の製造方法。
【請求項11】
前記ブラスト処理を施した元ガラス基板に熱処理を施す工程をさらに備える、請求項10に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理時の熱処理温度が、100℃以上、前記元ガラス基板のガラス転移温度以下である、請求項11に記載のガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹凸部を有する、ガラス基板及び該ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のディスプレイや、筐体、あるいは扉体等に用いられるガラス基板では、表面に凹凸を付与することにより、表面の触り心地や、ペンによる書き心地を向上させる試みがなされている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、ペン入力装置におけるディスプレイ装置の前面側に配置されるペン入力装置用ガラス基板が開示されている。特許文献1には、上記ガラス基板が、少なくとも一方の主面に凹凸を有し、凹凸を有する主面における、粗さ曲線の最大谷深さRvが10nm以上かつ400nm以下であり、粗さ曲線の平均長さRSmが500nm以上かつ2000nm以下であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-20942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラス基板の表面の触り心地や、ガラス基板の表面に文字を入力する際の書き心地等の趣向は、人や用途によってそれぞれ異なる。例えば、ガラス基板に触れる際には、ガラス基板の表面に強いひっかかりがある方が好ましい場合がある。また、ガラス基板の表面にペンで入力する際には、強い(摩擦の強弱がダイレクトに伝わる)書き心地の方が好ましい場合がある。しかしながら、特許文献1のような凹凸は、比較的さらさら感が強く、ガラス基板の表面の触り心地や、ペンによる書き心地を十分に向上させることが難しい場合がある。
【0006】
本発明の目的は、表面の触り心地や、ペンによる書き心地を効果的に向上させ得る、ガラス基板及び該ガラス基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するガラス基板及び該ガラス基板の製造方法の各態様について説明する。
【0008】
本発明の態様1に係るガラス基板は、表面に凹凸部と、前記凹凸部を設けるための加工がなされていない非加工部とを有する、ガラス基板であって、前記凹凸部は、74μm×55μmの領域において、高域フィルタλcのカットオフ値を14μmとし、低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmとしたときに、算術平均高さSaが、1nm以上、100nm以下であり、前記凹凸部は、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有し、前記凹凸部の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、前記非加工部の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差が、0.1質量%以上であることを特徴としている。
【0009】
本発明の態様2に係るガラス基板は、表面に凹凸部と、前記凹凸部を設けるための加工がなされていない非加工部とを有する、ガラス基板であって、前記凹凸部は、74μm×55μmの領域において、高域フィルタλcのカットオフ値を14μmとし、低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmとしたときに、算術平均高さSaが、1nm以上、100nm以下であり、前記凹凸部に、Al、Zr、及びSiのうち少なくとも1種を含む粒子が複合化されていることを特徴としている。
【0010】
態様3のガラス基板では、態様1又は態様2において、前記ガラス基板の一方側主面に、前記凹凸部と、前記非加工部との双方が設けられていてもよい。
【0011】
態様4のガラス基板では、態様3において、前記ガラス基板が、対向している第1の主面及び第2の主面を有し、前記ガラス基板の前記第1の主面に、前記凹凸部が設けられており、前記ガラス基板の前記第2の主面に、前記非加工部が設けられていてもよい。
【0012】
態様5のガラス基板では、態様1~態様4のいずれか1つの態様において、前記凹凸部の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、前記非加工部の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差が、10質量%以下であることが好ましい。
【0013】
態様6のガラス基板では、態様1~態様5のいずれか1つの態様において、前記ガラス基板が、シリケート系ガラスにより構成されていることが好ましい。
【0014】
態様7のガラス基板では、態様2~態様6のいずれか1つの態様において、前記粒子が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ジルコニウム、イットリア安定化ジルコニア、ジルコン、酸化ケイ素、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の粒子であることが好ましい。
【0015】
態様8のガラス基板では、態様2~態様7のいずれか1つの態様において、前記粒子の平均粒子径が、0.1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0016】
態様9のガラス基板では、態様2~態様8のいずれか1つの態様において、前記粒子の純度が、90%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の態様10に係るガラス基板の製造方法は、態様1~態様9のいずれか1つの態様のガラス基板の製造方法であって、元ガラス基板を準備する工程と、前記元ガラス基板にブラスト処理を施す工程とを備え、前記ブラスト処理時の処理圧力が、0.1MPa以上、3.0MPa以下であることを特徴としている。
【0018】
態様11のガラス基板の製造方法では、態様10において、前記ブラスト処理を施した元ガラス基板に熱処理を施す工程をさらに備えていることが好ましい。
【0019】
態様12のガラス基板の製造方法では、態様11において、前記熱処理時の熱処理温度が、100℃以上、前記元ガラス基板のガラス転移温度以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、表面の触り心地や、ペンによる書き心地を効果的に向上させ得る、ガラス基板及び該ガラス基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るガラス基板を示す模式的断面図である。
図2】変形例のガラス基板を示す模式的断面図である。
図3】変形例における凹凸の測定断面曲線を説明するための図である。
図4】実施例4のガラス基板の凹凸部を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図5図4のアルミナ粒子が設けられている部分を拡大した走査型電子顕微鏡写真である。
図6】比較例1のガラス基板の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図7】比較例3のガラス基板の凹凸部を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0023】
[ガラス基板]
図1は、本発明の一実施形態に係るガラス基板を示す模式的断面図である。
【0024】
図1に示すように、ガラス基板1は、矩形平板状の形状を有する。もっとも、ガラス基板1の形状は、特に限定されず、円形又は多角形の輪郭からなる平板状や、平板状のものを全体的に湾曲させた形状、球面、非球面のレンズ形状等であってもよい。
【0025】
ガラス基板1の材質は、特に限定されないが、例えば、アルミノシリケートガラス、アルカリ含有アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、リチウムシリケートガラス、ソーダライムシリケートガラス等のシリケート系ガラス等が挙げられる。ここで、シリケート系ガラスとは、ガラス組成としてSiOを10質量%以上含有するガラスのことである。
【0026】
ガラス基板1は、対向している第1の主面1a及び第2の主面1bを有する。第1の主面1a及び第2の主面1bは、ガラス基板1の表面である。本実施形態では、ガラス基板1の第1の主面1aにおける一部に、凹凸部2が設けられている。また、ガラス基板1の第1の主面1aには、凹凸部2を設けるための加工がなされていない非加工部3も設けられている。なお、本実施形態では、ガラス基板1の第2の主面1b全体も、凹凸部2を設けるための加工がなされていない非加工部3である。もっとも、本発明においては、ガラス基板1の第2の主面1bにも凹凸部2が設けられていてもよい。
【0027】
本発明においては、ガラス基板1の第1の主面1aにおける少なくとも一部に凹凸部2が設けられていればよい。凹凸部2は、ガラス基板1の第1の主面1aにおける1%以上の領域に設けられていることが好ましく、30%以上の領域に設けられていることがより好ましく、50%以上の領域に設けられていることがさらに好ましい。
【0028】
図2は、変形例のガラス基板を示す模式的断面図である。図2に示すガラス基板10のように、凹凸部2は、ガラス基板10の第1の主面1aにおける全面に設けられていてもよい。この場合、ガラス基板10の第2主面1bの少なくとも一部に非加工部3が設けられていればよい。以下、変形例のガラス基板10も総称して、ガラス基板1と称することとする。
【0029】
ガラス基板1の厚みは、特に限定されず、例えば、30μm以上、5mm以下とすることができる。
【0030】
本実施形態において、ガラス基板1の凹凸部2は、74μm×55μmの領域において、高域フィルタλcのカットオフ値を14μmとし、低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmとしたときに、算術平均高さSaが、1nm以上、100nm以下である。本実施形態のガラス基板1は、凹凸部2の算術平均高さSaが上記範囲内にあるので、表面(凹凸部2)の触り心地やペンによる書き心地に優れている。
【0031】
ガラス基板1の凹凸部2における算術平均高さSaは、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは4nm以上、さらにより好ましくは5nm以上、さらにより好ましくは10nm以上、さらにより好ましくは15nm以上、特に好ましくは20nm以上であり、好ましくは98nm以下、より好ましくは97nm以下、さらに好ましくは96nm以下、さらにより好ましくは95nm以下、さらにより好ましくは90nm以下、さらにより好ましくは85nm以下、特に好ましくは80nm以下である。
【0032】
ガラス基板1の凹凸部2における算術平均高さSaが上記下限値以上である場合、ガラス基板1の表面の触り心地やペンによる書き心地をより一層向上させることができる。また、ガラス基板1の凹凸部2における算術平均高さSaが上記上限値以下である場合、ガラス基板1に表示される映像の視認性をより一層向上させることができる。また、この場合、ガラス基板1の凹凸部2がざらざらしすぎず、ガラス基板1の表面の触り心地やペンによる書き心地をより一層向上させることができる。
【0033】
なお、「算術平均高さSa」は、ISO 25178によって規定されるパラメータであって、凹凸の断面形状を示す測定断面曲線を面に拡張したパラメータである。具体的には、算術平均高さSaは、所定の三次元領域における表面の平均面に対する各点の高さZnの絶対値の平均(Sa=(Σ|Zn|)/n)から求めることができる。本発明においては、74μm×55μmの領域で測定を行い、高域フィルタλcのカットオフ値を14μmとし、低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmとして、算術平均高さSaを求めている。
【0034】
本願の第1の発明においては、ガラス基板1の凹凸部2が、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有する。また、ガラス基板1において、凹凸部2の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、非加工部3の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差が、0.1質量%以上である。
【0035】
なお、任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合は、例えば、走査型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により、任意の100μm四方の範囲において元素分析を行うことにより求めることができる。なお、任意の100μm四方の範囲における元素分析は、複数の測定箇所において行い、その平均値から各成分の質量割合を求めることが望ましい。後述の実施例では、凹凸部(加工部)及び非加工部につき、それぞれ任意の5カ所において、100μm四方の範囲における元素分析を行ない、その平均値を各成分の質量割合としている。
【0036】
また、本願の第2の発明においては、ガラス基板1の凹凸部2に、Al、Zr、及びSiのうち少なくとも1種を含む粒子が複合化されている。
【0037】
なお、ガラス基板1の凹凸部2に、Al、Zr、及びSiのうち少なくとも1種を含む粒子が複合化されているとは、ガラス基板1の凹凸部2に、Al、Zr、及びSiのうち少なくとも1種を含む粒子が、化合物化や、混合物化の状態になっていることをいい、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、粒子が複合化されているか否かを観察し、観察した粒子についてSEM-EDXにより元素分析を行うことにより確認することができる。
【0038】
以下、第1の発明及び第2の発明を総称して本発明と称することがある。第1の発明及び第2の発明は、それぞれ単独で実施してもよく、組み合わせて実施してもよい。
【0039】
本実施形態のガラス基板1は、上記構成を備えるので、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地を効果的に向上させることができる。なお、この点については、以下のように説明することができる。
【0040】
ガラス基板の表面の触り心地や、ガラス基板の表面に文字を入力する際の書き心地等の趣向は、人や用途によってそれぞれ異なる。例えば、ガラス基板に触れる際には、ガラス基板の表面に強いひっかかりがある方が好ましい場合がある。また、ガラス基板の表面にペンで入力する際には、強い(摩擦の強弱がダイレクトに伝わる)書き心地の方が好ましい場合がある。しかしながら、従来の方法でガラス基板の表面にブラスト処理やエッチング処理を施すことにより形成された凹凸は、さらさら感が強く、ガラス基板の表面における触感や書き心地を十分に高められない場合があった。
【0041】
これに対して、本願の第1の発明では、凹凸部2の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、非加工部3の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差が、0.1質量%以上であるので、ガラス基板1の凹凸部2に強いひっかかりを与えることができ、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地を効果的に向上させることができる。なお、この点については、以下のように説明することができる。
【0042】
ガラス基板1では、凹凸部2の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、非加工部3の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差が、0.1質量%以上であるので、ガラス基板1の凹凸部2には、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子が存在しているものと考えられる。この粒子の存在により、ガラス基板1の表面における凹凸部2に強いひっかかりを与えることができ、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地を効果的に向上させることができる。
【0043】
また、本願の第2の発明においても、凹凸部2に、Al、Zr、及びSiのうち少なくとも1種を含む粒子が複合化されているので、この粒子の存在により、ガラス基板1の表面における凹凸部2に強いひっかかりを与えることができ、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地を効果的に向上させることができる。
【0044】
本実施形態において、凹凸部2の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、非加工部3の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差は、好ましくは0.11質量%以上、より好ましくは0.12質量%以上、さらに好ましくは0.13質量%以上、特に好ましくは0.14質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下、特に好ましくは7質量%以下である。
【0045】
凹凸部2と非加工部3との上記質量割合の差が上記下限値以上である場合、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。また、凹凸部2と非加工部3との上記質量割合の差が上記上限値以下である場合も同様に、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。
【0046】
なお、ガラス基板1自体のガラス組成として、Al、Zr、及びSiが含有される場合、あるいはAl、Zr、及びSiのうちのいずれか又は全てが含有されない場合のうちいずれの場合においても、凹凸部2の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合と、非加工部3の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合との差は同じように求めることができる。
【0047】
本実施形態において、凹凸部2の任意の100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0048】
凹凸部2の上記質量割合が上記下限値以上である場合、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。また、凹凸部2の上記質量割合が上記上限値以下である場合も同様に、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。
【0049】
ガラス基板1の凹凸部2には、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子(以下、単に粒子と称する場合がある)が複合化されていることが好ましく、Al及びZrのうち少なくとも一方を含む粒子が複合化されていることがより好ましく、Alを含む粒子が複合化されていることがさらに好ましい。
【0050】
Alを含む粒子としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム等の粒子が挙げられる。なかでも、Alを含む粒子は、結晶性の高いαアルミナ等のアルミナ粒子であることが好ましい。
【0051】
Zrを含む粒子としては、例えば、酸化ジルコニウム、イットリア安定化ジルコニア、ジルコン等の粒子が挙げられる。
【0052】
Siを含む粒子としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の粒子が挙げられる。
【0053】
なお、これらの粒子は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0054】
粒子のモース硬度は、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.5以上、さらに好ましくは5.0以上である。この場合、ガラス基板1の凹凸部2により強いひっかかりを与えることができ、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。なお、粒子のモース硬度の上限値は、特に限定されず、例えば、10とすることができる。
【0055】
粒子の形状としては、例えば、角状、針状、多面体状、破砕状、不定形状、略球状等が挙げられる。なかでも、ガラス基板1の凹凸部2により強いひっかかりを与えたり、ガラス基板1の凹凸部2に粒子を複合化させ易いという観点からは、粒子は、多面体状であることが好ましい。
【0056】
粒子の純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、さらに好ましくは92%以上である。粒子の純度が上記下限値以上である場合、ガラス基板1の凹凸部2における透明性をより一層向上させることができる。従って、粒子の純度は、100%であってもよい。なお、粒子の純度は、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の純度である。
【0057】
粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは9μm以下、さらに好ましくは8μm以下である。粒子の平均粒子径が上記上限値以下である場合、ガラス基板1の凹凸部2における透明性をより一層向上させることができる。また、粒子の平均粒子径が上記範囲内にある場合、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。
【0058】
なお、本明細書において、平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡により凹凸部2にある粒子を観察することにより測定することができる。例えば、凹凸部2の任意の100μm四方の範囲において観察された全ての粒子に対して画像解析ソフト(日立ハイテク社製、S3400 SEM-EDX付属ソフトウェア)により粒子の投影面積円相当径を測定し、平均粒子径を求めることができる。
【0059】
本実施形態において、ガラス基板1の凹凸部2における粗さ曲線要素の平均長さRSmは、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは50nm以上、さらにより好ましくは100nm以上、さらにより好ましくは200nm以上、特に好ましくは500nm以上であり、好ましくは10000nm以下、より好ましくは8000nm以下、さらに好ましくは5000nm以下、さらにより好ましくは3000nm以下、特に好ましくは2000nm以下である。ガラス基板1の凹凸部2における平均長さRSmが上記下限値以上である場合、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。また、ガラス基板1の凹凸部2における平均長さRSmが上記上限値以下である場合、ガラス基板1の凹凸部2を含む表面に示される映像の視認性をより一層向上させることができる。
【0060】
本実施形態において、ガラス基板1の凹凸部2における最大谷深さRvは、好ましくは0.3nm以上、より好ましくは1nm以上、さらに好ましくは10nm以上であり、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは10000nm以下、より好ましくは8000nm以下、さらに好ましくは5000nm以下、さらにより好ましくは3000nm以下、特に好ましくは1000nm以下である。ガラス基板1の凹凸部2における最大谷深さRvが上記下限値以上である場合、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。また、ガラス基板1の凹凸部2における最大谷深さRvが上記上限値以下である場合、ガラス基板1の凹凸部2を含む表面に示される映像の視認性をより一層向上させることができる。
【0061】
ガラス基板1の凹凸部2における粗さ曲線要素の平均長さRSm及び最大谷深さRvが上記範囲にある場合、ガラス基板1をディスプレイに用いた場合の解像度をより高めることができ、しかもペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。また、この場合、形成された凹凸部2によって散乱光が干渉し、スパークリングと呼ばれるギラツキが発生することをより確実に抑制することもできる。
【0062】
「粗さ曲線要素の平均長さRSm」及び「最大谷深さRv」は、ガラス基板1の凹凸部2の断面形状を示す輪郭曲線から長波長成分を遮断するための高域フィルタλcのカットオフ値を14μmに設定し、かつ凹凸部2の断面形状を示す輪郭曲線から短波長成分を遮断するための低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmに設定した場合に得られる値である。
【0063】
「粗さ曲線要素の平均長さRSm」は、JISB0601:2001によって規定されるパラメータであって、凹凸部2の断面形状を示す輪郭曲線において、互いに隣り合う凹部と凸部との平均ピッチを表すパラメータである。なお、以下、「粗さ曲線要素の平均長さRSm」を、「平均長さRSm」と称する場合があるものとする。
【0064】
また、「最大谷深さRv」は、JISB0601:2001によって規定されるパラメータであって、凹凸部2の断面形状を示す輪郭曲線における平均線に対して、最も深い谷の深さを表す。なお、上記「平均線」は、高域フィルタλcによって遮断される長波長成分を表す曲線を最小二乗法により直線におきかえた線である。
【0065】
なお、ガラス基板1の凹凸部2は、上述した粗さ曲線要素の平均長さRSmを有する凹凸を第1の凹凸としたときに、第1の凹凸より粗さ曲線要素の平均長さRSmの大きい、第2の凹凸をさらに有していてもよい。より具体的には、図3に示すように、凹凸部2の測定断面曲線において、微小凹凸である第1の凹凸と、大きな凹凸である第2の凹凸を有していてもよい。
【0066】
第2の凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSm2は、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは100μm以上であってもよく、好ましくは10000μm以下、より好ましくは8000μm以下、さらに好ましくは5000μm以下、1000μm以下、500μm以下であってもよい。
【0067】
「粗さ曲線要素の平均長さRSm2」は、凹凸部2の断面形状を示す輪郭曲線から長波長成分を遮断するための高域フィルタλcのカットオフ値を第2の凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmの4倍の値に設定し、かつ凹凸部2の断面形状を示す輪郭曲線から短波長成分を遮断するための低域フィルタλsのカットオフ値を0.35μmに設定した場合に得られる値である。なお、第2の凹凸の高域フィルタλcのカットオフ値は、フィルタ無しで仮測定したときに得られる仮の粗さ曲線要素の平均長さRSmの値を4倍にした値を採用することができる。「粗さ曲線要素の平均長さRSm2」は、第1の凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmと同様にJISB0601:2001に準拠して測定することができる。「粗さ曲線要素の平均長さRSm2」は、所定の基準長さにおける凹凸の各周期長さXsの平均である。
【0068】
ガラス基板1のヘイズは、特に限定されず、求められる特性や目的によって任意に選択することができる。ガラス基板1に散乱性や、防眩性を付与したり、ガラス基板1の鏡面反射率を抑制したりすることを重視する場合、ガラス基板1のヘイズは、380nm~780nmの波長域において、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上であり、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下である。ガラス基板1のヘイズが上記下限値以上である場合、ガラス基板1の鏡面反射をより一層抑制し、透過した光をより散乱させることができる。また、ガラス基板1のヘイズが上記上限値以下である場合、ガラス基板1の透明性をより一層向上させることができる。
【0069】
一方、ガラス基板1の透明性を重視する場合、ガラス基板1のヘイズは、380nm~780nmの波長域において、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらにより好ましくは1%以上であり、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。ガラス基板1のヘイズが上記範囲内にある場合、ガラス基板1の透明性をより一層向上させることができる。
【0070】
ガラス基板1の非加工部3には、表面処理が全く施されていなくてもよく、凹凸部2とは異なる表面処理が施されていてもよい。凹凸部2とは異なる表面処理としては、例えば、凹凸部2とは異なる条件で行うブラスト処理や、SiO成分を含む成分によるコーティング、フッ素を含む成分によるコーティング、あるいはHFエッチング処理による表面処理等が挙げられる。なお、非加工部3には、凹凸部2とは異なる複数の表面処理が施されていてもよい。
【0071】
また、ガラス基板1の非加工部3には、反射防止膜や、防汚膜、加飾フィルム、あるいは加飾コーティング等が設けられていてもよい。また、場合によっては、ガラス基板1の凹凸部2に防汚膜、加飾フィルム、あるいは加飾コーティング等が設けられていてもよい。
【0072】
反射防止膜としては、例えば、相対的に屈折率が低い低屈折率膜と相対的に屈折率が高い高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜が用いられる。反射防止膜は、スパッタリング法、又はCVD法などにより形成することができる。
【0073】
防汚膜は、指紋の付着を防止し、撥水性、撥油性を付与するための膜である。防汚膜は、主鎖中にケイ素を含む含フッ素重合体を含むことが好ましい。含フッ素重合体としては、例えば、主鎖中に、-Si-O-Si-ユニットを有し、かつ、フッ素を含む撥水性の官能基を側鎖に有する重合体を用いることができる。含フッ素重合体は、例えばシラノールを脱水縮合することにより合成することができる。
【0074】
加飾フィルムや加飾コーティングとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル、ウレタン、フッ素系樹脂などの樹脂や、金属箔、また、それらの積層体などが挙げられる。
【0075】
本実施形態のガラス基板1は、電子機器のディスプレイや、筐体、あるいは扉体等に好適に用いることができる。なかでも、液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置の前面に設けられるカバー部材により好適に用いることができる。この場合、ガラス基板1は、入力ペンや指先などの入力手段を用いて文字及び図形等の入力操作(ポインティング操作)を行うことができるペン入力装置に用いてもよい。
【0076】
[ガラス基板の製造方法]
次に、ガラス基板1の製造方法の一例について説明する。
【0077】
ガラス基板1の凹凸部2は、例えば、元ガラス基板の表面にブラスト処理等の加工を施すことにより形成することができる。ブラスト処理は、ウェットブラスト処理であってもよく、サンドブラスト処理であってもよい。もっとも、ブラスト処理は、ウェットブラスト処理であることが望ましい。
【0078】
ウェットブラスト処理は、アルミナなどの固体粒子により構成される砥粒と、水などの液体とを均一に撹拌してスラリーとしたものを、圧縮エアを用いて噴射ノズルから元ガラス基板からなるワークに対して高速で噴射することにより、ワークに微細な凹凸を形成する処理である。
【0079】
ウェットブラスト処理においては、高速に噴射されたスラリーがワークに衝突した際に、スラリー内の砥粒がワークの表面を削ったり、叩いたり、こすったりすることにより、ワークの表面に微細な凹凸が形成されることとなる。
【0080】
この場合、ワークに噴射された砥粒や、砥粒により削られたワークの破片は、ワークに噴射された液体によって洗い流されるため、ワークに残留する粒子が少なくなる。
【0081】
なお、ウェットブラスト処理においては、スラリーをワークに噴射した場合、液体が砥粒をワークまで運ぶため、乾式サンドブラスト処理に比べて微細な砥粒を使用しやすくなるとともに、砥粒がワークに衝突する際の衝撃が小さくなり、精密な加工を行うことが可能である。
【0082】
ウェットブラスト処理において、ノズルの走査ピッチは、例えば、50μm以上、10000μm以下とすることができる。ノズルの走査回数(同一箇所を走査する回数)は、例えば、1回以上、5回以下とすることができる。また、ノズルの移動速度(処理速度)は、例えば、1mm/s以上、300mm/s以下とすることができる。
【0083】
本実施形態の製造方法では、ブラスト処理時の処理圧力が、0.1MPa以上、3.0MPa以下である。ブラスト処理時の処理圧力は、好ましくは0.2MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.35MPa以上、さらにより好ましくは0.4MPa以上、好ましくは2.8MPa以下、より好ましくは2.7MPa以下である。なお、ブラスト処理時の処理圧力は、スラリーの噴射圧力である。
【0084】
本実施形態の製造方法では、ブラスト処理時の処理圧力が上記下限値以上であることにより、得られるガラス基板1の凹凸部2に、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子を複合化させ易くすることができる。また、ブラスト処理時の処理圧力が上記上限値以下である場合、得られるガラス基板1にマイクロクラックがより一層生じ難い。
【0085】
なお、スラリー中の砥粒の濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは27質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。スラリー中の砥粒の濃度が上記範囲内にある場合、得られるガラス基板1の凹凸部2に、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子を複合化させ易くすることができる。
【0086】
砥粒としては、上述したAl、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含む粒子を用いることができる。
【0087】
砥粒のモース硬度は、好ましくは4以上、より好ましくは4.5以上、さらに好ましくは5以上である。この場合、得られるガラス基板1の凹凸部2により強いひっかかりを与えることができ、ガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。なお、砥粒のモース硬度の上限値は、特に限定されず、例えば、10とすることができる。
【0088】
砥粒の形状としては、例えば、角状、針状、多面体状、破砕状、不定形状、略球状等が挙げられる。なかでも、得られるガラス基板1の凹凸部2により強いひっかかりを与えたり、ガラス基板1の凹凸部2に粒子を複合化させ易いという観点から、砥粒は、多面体状であることが好ましい。
【0089】
砥粒の純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、さらに好ましくは92%以上である。砥粒の純度が上記下限値以上である場合、得られるガラス基板1の凹凸部2における透明性をより一層向上させることができる。従って、砥粒の純度は、100%であってもよい。なお、砥粒の純度は、Al、Zr、及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の純度である。
【0090】
砥粒の平均粒子径D50は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは9μm以下、さらに好ましくは8μm以下である。砥粒の平均粒子径D50が上記範囲内にある場合、得られるガラス基板1の表面の触り心地や、ペンによる書き心地をより一層効果的に向上させることができる。
【0091】
また、本実施形態の製造方法では、ウェットブラスト処理における砥粒の粒度を大きくしたり、スラリーの濃度を大きくしたり、処理圧力を大きくしたり、ノズルの移動速度を遅くしたり、ノズルの走査回数を増やしたりすることにより、ガラス基板1の凹凸部2における算術平均高さSa及び最大谷深さRvを大きくすることができる。
【0092】
また、ウェットブラスト処理における砥粒の粒度を小さくしたり、スラリーの濃度を小さくしたり、処理圧力を小さくしたり、ノズルの走査速度を速くしたりすることにより、ガラス基板1の凹凸部2における粗さ曲線要素の平均長さRSmを小さくすることができる。
【0093】
また、本実施形態の製造方法では、ブラスト処理を施した元ガラス基板に熱処理を施すことが好ましい。この場合、得られるガラス基板1の凹凸部2に、粒子をより強固に複合化することができる。そのため、粒子が経時で脱落したり、摩擦によって剥がれたりすることを防止することができ、安定して優れた表面の触り心地や、ペンによる書き心地を有するガラス基板1を得ることができる。
【0094】
元ガラス基板の熱処理温度は、例えば、100℃以上、元ガラス基板のガラス転移温度以下とすることができる。また、元ガラス基板の熱処理温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、好ましくは550℃以下、より好ましくは500℃以下である。
【0095】
元ガラス基板の熱処理時間は、例えば、10分以上、24時間以下とすることができる。また、元ガラス基板の熱処理は、例えば、大気雰囲気で行うことができる。
【0096】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0097】
(実施例1~6)
まず、元ガラス基板として、アルミノシリケートガラス板(日本電気硝子社製、50mm角、厚み:0.5mm)を準備した。
【0098】
次に、準備した元ガラス基板の一方側主面に、ウェットブラスト処理を施すことにより、凹凸部を形成した。なお、ウェットブラスト処理は、砥粒と水とを均一に撹拌することにより調整したスラリーを使用し、ガラス基板を載置した処理台に対して、エアを用いて、ノズルを20mm/sの速度で移動させながら走査させ(走査ピッチ:0.5mm)、ノズルからスラリーを噴射することにより行なった。
【0099】
なお、実施例1~6では、砥粒として、αアルミナ粒子(純度96%)を用いた。水としては、pH=7の純水を用いた。また、実施例1~6におけるウェットブラスト処理において、処理圧力としてのスラリーの噴射圧力及びスラリー中における砥粒の濃度(スラリー濃度)は下記の表1及び表2に示す通りである。
【0100】
また、実施例1~5では、ウェットブラスト処理後の元ガラス基板を純水で洗浄した後、元ガラス基板に120℃で30分間の熱処理を施し、ガラス基板を得た。一方、実施例6では、ウェットブラスト処理後の元ガラス基板に熱処理を施さず、そのままガラス基板として用いた。
【0101】
(実施例7、8)
砥粒として、酸化ジルコニウム粒子(純度93%)を用いたこと、及び処理圧力としてのスラリーの噴射圧力及びスラリー中における砥粒の濃度(スラリー濃度)を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてガラス基板を得た。なお、実施例7、8におけるウェットブラスト処理において、処理圧力としてのスラリーの噴射圧力及びスラリー中における砥粒の濃度(スラリー濃度)は下記の表3に示す通りである。
【0102】
(実施例9、10)
砥粒として、酸化ケイ素粒子(純度96%)を用いたこと、及び処理圧力としてのスラリーの噴射圧力及びスラリー中における砥粒の濃度(スラリー濃度)を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてガラス基板を得た。なお、実施例9、10におけるウェットブラスト処理において、処理圧力としてのスラリーの噴射圧力及びスラリー中における砥粒の濃度(スラリー濃度)は下記の表4に示す通りである。
【0103】
(比較例1)
元ガラス基板としてのアルミノシリケートガラス板(日本電気硝子社製、50mm角、厚み:0.5mm)にウェットブラスト処理を施さず、そのままガラス基板として用いた。
【0104】
(比較例2)
実施例1と同様にして準備した元ガラス基板の一方側主面に、実施例1と同様にして調整したスラリーを塗布し、自然乾燥させた。その後、スラリーを塗布した元ガラス基板に450℃で30分間の熱処理を施し、ガラス基板を得た。
【0105】
(比較例3)
実施例1と同様にして準備した元ガラス基板の一方側主面に、フッ化水素アンモニウムを用いてエッチング処理を施すことにより凹凸部を形成し、ガラス基板を得た。
【0106】
[評価方法]
(ガラス基板の表面粗さの評価)
実施例1~10及び比較例2、3で得られたガラス基板の凹凸部(加工部)における算術平均高さSaを測定した。また、比較例1のガラス基板の表面における算術平均高さSaを測定した。結果を下記の表1~4に示した。
【0107】
算術平均高さSaの測定は、白色干渉顕微鏡を用いて行った。用いた白色干渉顕微鏡は、Zygo社製の白色干渉顕微鏡(製品名:NewView7300)である。
【0108】
測定条件は、対物レンズ50倍、ズームレンズ2倍を使用し、測定エリア74μm×55μmの領域に対して、カメラ画素数640×480、積算回数10回となるように、算術平均高さSaの測定を実施した。凹凸部(表面)の算術平均高さSaを測定する際の高域フィルタλcのカットオフ値は、14μmに設定し、低域フィルタλsのカットオフ値は、0.35μmに設定した。
【0109】
(ガラス基板の表面観察)
実施例1~10及び比較例1~3のガラス基板の表面を走査型電子顕微鏡により観察した。走査型電子顕微鏡としては、日立ハイテク社製、品番「S3400」を用いた。測定条件としては、倍率1000倍の条件で測定した。
【0110】
図4は、実施例4のガラス基板の凹凸部を示す走査型電子顕微鏡写真である。図5は、図4のアルミナ粒子が設けられている部分を拡大した走査型電子顕微鏡写真である。図6は、比較例1のガラス基板の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。また、図7は、比較例3のガラス基板の凹凸部を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【0111】
図4及び図5に示すように、実施例4のガラス基板では、凹凸部(加工部)にアルミナ粒子が複合化されていることがわかる。一方、図6に示すように、比較例1のガラス基板の表面には、アルミナ粒子が存在していないことがわかる。また、図7に示すように、比較例3のガラス基板においても、ガラス基板の凹凸部(加工部)にアルミナ粒子が存在していないことがわかる。
【0112】
なお、同様にして、実施例1~3、5、6のガラス基板においても、ガラス基板の凹凸部(加工部)にアルミナ(Al)粒子が複合化されていることを確認した。さらに、実施例7、8のガラス基板においては、ガラス基板の凹凸部(加工部)に酸化ジルコニウム(ZrO)粒子が複合化されていること、さらに、実施例9、10のガラス基板においては、ガラス基板の凹凸部(加工部)に酸化ケイ素(SiO)粒子が複合化されていることを確認した。また、比較例2のガラス基板では、ガラス基板の凹凸部(加工部)にアルミナ粒子が存在していたものの、アルミナ粒子の複合化は観察されなかった。なお、走査型電子顕微鏡写真において、Alの濃度が90質量%以上の箇所をアルミナ粒子の存在箇所とし、Zrの濃度が90質量%以上の箇所を酸化ジルコニウム粒子の存在箇所とし、Siの濃度が90質量%以上の箇所を酸化ケイ素粒子の存在箇所とした。
【0113】
また、実施例1~10及び比較例2で観察された各粒子の平均粒子径を画像解析ソフト(日立ハイテク社製、S3400 SEM-EDX付属ソフトウェア)により測定した。結果を下記の表1~4に示す。
【0114】
また、走査型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX、日立ハイテク社製、品番「S3400」)により、実施例1~10及び比較例2のガラス基板における凹凸部及び非加工部につき、それぞれ任意の5カ所において、100μm四方の範囲におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合を求め、その平均値を凹凸部及び非加工部におけるAl、Zr、及びSiの合計の質量割合とした。そして、凹凸部のAl、Zr及びSiの合計質量割合と、非加工部のAl、Zr、及びSiの合計質量割合との差から、凹凸部及び非加工部のAl、Zr、及びSiの合計質量割合の差を求めた。結果を下記の表1~4に示す。
【0115】
(触り心地及び書き心地の評価)
実施例1~10及び比較例2、3のガラス基板の凹凸部(加工部)について、触り心地及び書き心地の評価を行った。また、比較例1のガラス基板の表面について、触り心地及び書き心地の評価を行った。結果を下記の表1~4に示す。
【0116】
触り心地及び書き心地の評価は、年齢、性別の異なる被験者10人による官能評価を行ない、以下の評価基準で評価した。なお、触り心地評価は、評価対象部を直接指で触ることにより評価した。また、書き心地評価は、市販のスタイラスペンを用いて、評価対象部に文字を描くことにより評価した。
【0117】
<評価基準>
5:10人中8人以上が、引っかかり感があると感じた
4:10人中6人~7人が、引っかかり感があると感じた
3:10人中5人が、引っかかり感があると感じた
2:10人中6人~7人が、引っかかり感がないと感じた
1:10人中8人以上が、引っかかり感がないと感じたか、それ以外の感覚があった
【0118】
また、実施例1~10及び比較例2のガラス基板について、耐久性試験を行い、耐久性試験前後で触り心地評価を行った。これにより、耐久性試験前後での触り心地評価における変化の有無を評価した。なお、耐久性試験は、25mm×25mmのガーゼの上に、荷重500gのおもりを載置し、おもりを摩擦速度100mm/sでガラス基板の凹凸部を500往復させることにより行った。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
表1~4から明らかなように、実施例1~10のガラス基板には、凹凸部に強い引っかかり感があり、表面の触り心地や、ペンによる書き心地が効果的に向上していることが確認できた。特に、熱処理を施した実施例1~5、7~10のガラス基板では、耐久性試験後も変化なく、表面の触り心地に優れることが確認できた。一方、比較例1~3のガラス基板では、表面の触り心地や、ペンによる書き心地を十分に向上させることができなかった。
【符号の説明】
【0124】
1,10…ガラス基板
1a…第1の主面
1b…第2の主面
2…凹凸部
3…非加工部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7