(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028515
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】がん細胞株
(51)【国際特許分類】
C12N 5/09 20100101AFI20250221BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250221BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
C12N5/09
C12N5/10
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133367
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】西山 明宏
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸司
(72)【発明者】
【氏名】南條 成輝
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA22
4B065BA25
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】皮下腫瘍を容易に形成することができ、in vitro及びin vivoの治療実験を容易に行うことのできるがん細胞株を提供する。
【解決手段】 皮下腫瘍を形成でき、RET融合遺伝子陽性である、がん細胞株である。また、ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者胸水由来であるがん細胞株である。また、受託番号NITE P-03936として寄託されたがん細胞株である。また、ルシフェラーゼ遺伝子をさらに導入したがん細胞株である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮下腫瘍を形成でき、RET融合遺伝子陽性である、がん細胞株。
【請求項2】
ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者胸水由来であり、RET融合遺伝子陽性である、がん細胞株。
【請求項3】
受託番号NITE P-03936として寄託された細胞株である、請求項1または2に記載のがん細胞株。
【請求項4】
ルシフェラーゼ遺伝子をさらに導入した、請求項1または2に記載のがん細胞株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬効の検討などの試験に有用ながん細胞株に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞株を用いたがんの病態の研究や薬効の研究は広く行われている。ヒトから樹立したがん細胞株として、例えば、特許文献1には、ヒト十二指腸乳頭部における肝様細胞癌に由来する細胞株が開示されている。この技術は、特にヒト十二指腸乳頭部における肝様細胞癌に対する癌治療薬剤又はその候補物質の治療効果判定、あるいは予後の予測に関連する因子の探索ならびに開発に利用することができる細胞株を得ようとするものである。
【0003】
一方、がん遺伝子として知られる遺伝子に、RET融合遺伝子がある。正常細胞に存在する正常RET遺伝子と、別の遺伝子とが融合し、RET融合遺伝子が形成されると、細胞の腫瘍化を引き起こし、甲状腺がん、肺がんなどを発症するという機序が知られている。RET融合遺伝子に関して研究を進めることで、甲状腺がん、肺がんの病態の研究や、薬効の検討が可能になると考えられている。
【0004】
RET融合遺伝子の研究に用いることができる細胞株として、RET融合遺伝子肺がん細胞株である、LC-2/adが知られている。LC-2/adは、現在、購入が可能なRET融合遺伝子肺がん細胞株として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、病態や薬効の研究には、マウスなどの実験動物が用いられる。しかしながら、LC-2/ad細胞株は、免疫不全マウスの皮下で生着困難であり、皮下腫瘍を形成することができないという問題が従来、指摘されている。
すなわち、LC-2/ad細胞株を用いると、マウスを用いて腫瘍を形成させ、がんについての病態や薬効などの検討に用いることができない。そのため、LC-2/ad細胞株は実験では扱いづらい問題があった。
【0007】
このため、RET融合遺伝子陽性がん細胞株であって、皮下腫瘍を容易に形成できる、例えばマウスの皮下などに容易に生着し腫瘍を形成することができる細胞株が強く求められている。
【0008】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、皮下腫瘍を容易に形成することができ、in vitro及びin vivoの治療実験を容易に行うことのできるがん細胞株を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
本発明の態様1は、
皮下腫瘍を形成でき、RET融合遺伝子陽性である、がん細胞株である。
【0010】
本実施形態の態様2は、
ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者胸水由来であり、RET融合遺伝子陽性である、がん細胞株である。
【0011】
本実施形態の態様3は、
受託番号NITE P-03936として寄託された細胞株である、態様1または2に記載のがん細胞株である。
【0012】
本実施形態の態様4は、
ルシフェラーゼ遺伝子をさらに導入した、態様1または2に記載のがん細胞株である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、皮下腫瘍を容易に形成することができ、in vitro及びin vivoの治療実験を容易に行うことのできるがん細胞株が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施例のPB302p細胞株についてのmRNA-seqの解析結果を示す概略図である。
【
図2】本実施例のPB302/luc細胞を移植した髄膜がん腫症モデルのマウスのうち1匹の1~28日の状態を示す写真図である。
【
図3】本実施例のPB302/luc ivs LM-SC細胞を皮下に移植したマウスの写真図である。
【
図4】本実施例のPB302/luc ivs LM-SC細胞を顕微鏡で観察した写真図である。
【
図5】本実施例のPB302/luc ivs LM-SC細胞に対する選択的RET阻害剤の効果を検証するMTT assayの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るがん細胞株について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
(がん細胞株)
本実施形態のがん細胞株は、皮下腫瘍を形成でき、RET融合遺伝子陽性である。
皮下腫瘍を形成できるとは、皮下腫瘍状の組織を形成できることを広く指す。さらには、各種の動物の皮下に注射して数十日以内、好ましくは1~28日で、皮下腫瘍、すなわち皮下での腫瘍状組織を形成できることが好ましい。
ここで動物は、各種動物を適宜使用できるが、哺乳動物、特にマウス、ラット又はウサギ等の実験動物が好適に用いられる。これらの動物では、免疫不全動物、特に免疫不全マウスが好ましいが、これらに限らない。
ここで免疫不全動物は、T細胞やB細胞等の機能に障害が生じ、免疫不全状態にある動物である。これらの動物としては、例えばヌードマウスやSCIDマウスなどを用いることができる。
【0017】
本実施形態のがん細胞株は、ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者胸水由来であってもよい。
ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者胸水由来であるとは、ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者の胸水から得られた細胞、又はそこから誘導されて得られた細胞(RET融合遺伝子陽性肺がん細胞)であることを指す。そこから誘導されて得られた細胞とは、例えば前記胸水から得られた細胞に対して遺伝子導入を行った細胞や、スクリーニングにより一定の性質(例えば、ヒトRET融合遺伝子陽性以外の性質や、生育性など。生育性としては、前記皮下腫瘍の形成能が高いなど)を有する細胞を選択し、株化したものであってもよい。
細胞の株化には、従来知られた方法を用いることができる。例えば、分離した細胞株を公知の組織培養培地で培養し、安定的に増殖するまで定期的に培地を交換し、その後、一年間以上あるいは数十の継代にわたり安定的に増殖する細胞株を選択し、これを候補株としてもよい。
【0018】
なお、例えば、前記ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者の胸水から得られたがん細胞株より、上述した、皮下腫瘍を形成できる細胞株を得ることができる。
具体的には、皮下腫瘍を形成できる細胞株は、前記胸水から得られた細胞をもとに誘導し、スクリーニングや継続培養等により得ることができる。スクリーニングとしては、例えばin vivоスクリーニングを用いることができる。例えば、胸水から得られた細胞を株化した細胞をマウスなどの実験動物に皮下移植し、皮下腫瘍の形成能が高い細胞を摘出し、培養、株化してもよい。
【0019】
後述する本実施例では、前記ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者の胸水から得られたRET融合遺伝子陽性のがん細胞株(後述の実施例では、PB302p)は、皮下腫瘍を形成できるRET融合遺伝子陽性のがん細胞株(PB302/luc ivs LM)及び、皮下腫瘤を形成できるRET融合遺伝子陽性のがん細胞株(PB302/luc ivs LM-SC(PB302))を誘導して得るために用いることができる。これらの誘導された細胞株もいずれも、ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者胸水由来の細胞株である。
【0020】
本実施形態のがん細胞株は、受託番号NITE P-03936として寄託された細胞株であってもよい。
実施例において後述するように、受託番号NITE P-03936として寄託された細胞株(後述の実施例においては、PB302/luc ivs LM-SC細胞株、又は、単にPB302細胞株)は、ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者胸水由来であり、RET融合遺伝子陽性である。
この細胞株はまた、皮下腫瘍を形成できる。すなわち、ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者胸水から得られたRET融合遺伝子陽性をスクリーニングし、皮下腫瘍を形成できる細胞株を樹立する工程を経て得られている。この細胞株はまた、ルシフェラーゼ遺伝子が導入されている。この細胞株はまた、動物の皮下に移植した際に皮下腫瘍を形成できる。
【0021】
本実施形態のがん細胞株は、受託番号NITE P-03936として寄託された細胞株と、同等の生物学的性質を有する細胞株であってもよい。
【0022】
本実施形態の細胞株、特にPB302/luc ivs LM-SC細胞株の特徴としては、コンフルエント状態(目安として、1.0~5.0×105個/cm2)では小円形細胞を呈している。
【0023】
本実施形態のがん細胞株は、他の遺伝子をさらに導入したものであってもよい。
他の遺伝子を導入する方法としては、例えば前記遺伝子を導入したウィルスベクターをがん細胞株に感染させることにより導入することができる。ウィルスベクターをがん細胞株に感染させる方法としては、従来のウィルスベクターを感染させる方法を適宜用いることができる。
導入することのできる遺伝子としては、ルシフェラーゼなどが挙げられる。
【0024】
本実施形態のがん細胞株は、ルシフェラーゼ遺伝子をさらに導入したものであることがさらに好ましい。
ルシフェラーゼは発光アッセイのための遺伝子として広く用いられており、ルシフェラーゼの発現、すなわち発光を調べることで本実施形態のがん細胞株の位置を容易に確認することができるので、生物学的な検討に有用である。
【0025】
本実施形態のがん細胞株は、腫瘤を形成できるものであってもよい。腫瘤を容易に形成できるとは、例えば、前記動物に細胞株を移植して数日、好ましくは1~10日で腫瘤が形成されることである。皮下腫瘤については、特に、皮下に細胞株を移植し、4日以内に皮下腫瘤を形成できるものであってもよい。
腫瘤を容易に形成できる細胞株は、前記ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者の胸水から得られた細胞から、スクリーニングや継続培養等により得ることができる。例えば、胸水から得られた細胞を株化した細胞をマウスなどの実験動物に皮下移植し、皮下腫瘍の形成能が高かった組織から細胞を摘出し、株化することなどによって得ることができる。
【0026】
本実施形態のがん細胞株は、KIF5B及びRET遺伝子を有することが好ましい。
特に、ゲノム上に、KIF5B及びRET遺伝子が融合した配列を有することが好ましい。
KIF5Bは、がん組織、例えば非小細胞肺がんにおけるRET遺伝子との融合パートナーとして知られるうち、パートナーとなる頻度が高い因子として知られる。本実施形態の癌細胞は、RET遺伝子のパートナーとなる頻度が高い遺伝子を有することで、がんの機序の解析に関する試験に特に好適に用いることができる。
細胞株が有する遺伝子については、例えばmRNA-seqなどによって確認することができる。
【0027】
本実施形態のがん細胞株は、in vitroおよびin vivo実験に使用するためのがん細胞株であってもよい。
in vitroおよびin vivo実験は、従来知られたものを適宜使用できる。例えば、in vivo実験としては、動物を用いた試験などが挙げられる。動物を用いた試験としては、本実施形態のがん細胞株を動物の組織に移植し、がん組織の発達や転移などを調べるための試験研究に主に用いることができる。
【0028】
がんについてのin vitroおよびin vivo実験には、例えば薬剤のがんに対する影響を調べる使用マーカーを使用することができる。腫瘍マーカーとして血清AFP、GPC3等の濃度や、細胞株の増殖率、遊走能、浸潤能を測定することで、がん治療薬剤候補物質のがん細胞増殖抑制効果を判定することができる。
【0029】
in vitro実験、例えば薬剤をスクリーニングするin vitroスクリーニングとして用いることのできる細胞株の培養方法、がん治療薬剤候補物質と接触させる方法は、当業者であれば対象候補物質に応じて適宜至適条件を設定することができる。また、in vitroスクリーニングにおける腫瘍マーカーの測定は、上述の手法を用いることができる。
【0030】
in vivo実験、例えば薬剤をスクリーニングするin vivoスクリーニングとしては、例えば、がん治療薬剤候補物質を本実施形態のがん細胞株を移植した非ヒト哺乳動物に投与して、がん細胞増殖抑制効果を試験する工程を含むin vivoスクリーニングに用いることができる。このとき、前記腫瘍マーカーを指標とし、又は腫瘍の組織学的所見をもとに、がん治療薬剤候補物質のがん細胞増殖抑制効果を判定することができる。
【0031】
in vivoスクリーニングにおける癌治療薬剤候補物質の投与方法は、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射もしくは、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に投与するなど、当業者であれば適宜選択することができる。また、 in vivoスクリーニングにおける腫瘍マーカーの測定は、上述の手法を用いることができる。組織学的所見に関しても、常法により行うことができる。
【0032】
本実施形態のがん細胞株は、皮下で腫瘍または腫瘤を形成できるものである場合、これらの発達(成長、縮小、その他の変形)によってがん細胞の機序を容易に確認することができるので、特に有用である。
【0033】
本実施形態のがん細胞株は、中枢神経モデルの形成に使用することができることが好ましい。中枢神経モデルとしては、髄膜癌腫症、脳腫瘍などの疾患のモデルが挙げられる。
【0034】
本実施形態のがん細胞株は、RET阻害剤を投与することによって、前記腫瘍または腫瘤が小さくなるものであることが好ましい。
RET阻害剤の投与によって腫瘍または腫瘤が小さくなる性質を有することで、がん治療薬や診断薬などの選択、薬効検討などの試験全般に有用に用いることができる。
例えばIn vitroにおける選択的RET阻害薬の効果は、MTT assayなどを用いて効果を確認することができる。
【0035】
(本実施形態のがん細胞株の使用)
本実施形態のがん細胞株は、各種の疾患のモデルをマウス等を用いて作製する際に使用可能である。例えば、前記ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者の胸水から得られた細胞(例えばPB302p)およびルシフェラーゼを導入した細胞(例えばPB302/luc)は、脳転移モデル、髄膜がん腫症モデルなどの中枢神経モデルの作製に使用することができる。皮下腫瘍を形成可能な細胞(例えばPB302/luc ivs LM)および皮下腫瘤を形成可能な細胞(例えばPB302/luc ivs LM-SC)は、それらのモデルに加えて、皮下腫瘍形成、胸腔移植、肺移植のモデルの作製に使用することができる。
【0036】
例えば、中枢神経モデルとして、マウスのがん細胞株の脳内移植モデルは、以下のように作成することができる。マウスを麻酔し、保定して両耳の間の皮膚を切開し、右頭蓋骨を露出し、滑膜を除去してから頭蓋骨に穴をあけ、シリンジ等で前記細胞の懸濁液を注入する。切開した皮膚を針縫合する。細胞懸濁液の注入量は、通常のマウスの大きさの場合、細胞数1~5×105、懸濁液の容積は1~2μL程度が適切である。
【0037】
また、中枢神経モデルとして、マウスのがん細胞株の髄腔投与による髄膜がん腫症モデルは、以下のように作成することができる。マウスを麻酔し、保定して、頭蓋骨下端と脊柱上端の間隙に針を刺し、前記細胞の懸濁液を注入する。細胞懸濁液の注入量は、通常のマウスの大きさの場合、細胞数1~5×105、容積は20~100μL程度とするのが適切である。
【0038】
また、マウスのがん細胞株の骨移植モデルは、以下のように作成することができる。マウスの足などの注射箇所を除毛し、マウスを麻酔する。ひざを曲げて膝関節の白くなっている部分に注射針つきのシリンジで5mmほどの孔を一度設ける。注射針を抜き、そのまま開けた穴にマイクロシリンジ挿入し、細胞懸濁液を注入する。細胞個数は1~5×105、容積は1~5μL程度とするのが適切である。
【0039】
(本実施形態の効果)
本実施形態のがん細胞株によれば、皮下腫瘍を容易に形成することができ、in vitro及びin vivoの治療実験を容易に行うことができる。
本実施形態のがん細胞株は、ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者の胸水から得られたRET融合遺伝子陽性のがん細胞株(PB302p)を含み、そこから誘導され株化された、ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者の胸水由来のがん細胞株(PB302/luc ivs LM-SC又はPB302)はルシフェラーゼ遺伝子が導入され、皮下に生着して皮下腫瘍を形成することができ、また、動物に移植された際に皮下腫瘤を容易に形成できる。
【0040】
ヒトRET融合遺伝子陽性肺がん罹患者の胸水から得られたPB302p、及びそこから誘導されたPB302を含む細胞株は、クロモソーム10にKIF5BおよびRET遺伝子を有している。
KIF5Bは、がん組織、例えば非小細胞肺がんにおけるRET遺伝子との融合パートナーとして知られているが、頻度として60~90%に及ぶことがあり、他のパートナー(例えば、EML4、TRIM33など)と比べると、きわめてパートナーとなる頻度の高い因子である。
【0041】
従来、RET融合遺伝子肺がん細胞株として市販されていたLC-2/Ad細胞株は、パートナー遺伝子としては頻度が比較的高いCCDC6とRET遺伝子が融合されていたが、皮下に生着することができず、皮下腫瘍モデルをはじめとして実験に用いることが困難であった。また、in vitroでのRET阻害薬の効果は不安定であり、RET阻害薬を用いたがんの検証の実験には用いることが困難であった。
融合パートナーとしてEML4、TRIM33の遺伝子を有する細胞株は見出されているが(それぞれCUTO42細胞株、ECLC5B細胞株)これらはRETの融合パートナーとして頻度が低い。
融合パートナーとして頻度の高いKIFBの遺伝子を有する細胞株(CUTO22など)が、コロラド大学で樹立されているが、これらは皮下での生着しないもの、又はRET阻害薬の効果が無いものであり、いずれも実験に用いることは困難であった。
また、これらの従来知られていたRET融合遺伝子陽性肺がん細胞株は、いずれも他の転移モデルの検討は行われていない。
【0042】
これに対して、本実施形態のがん細胞株(PB302)は、(1)in vitroにおいてRET阻害薬の効果を確認、(2)KIF5B-RET融合遺伝子陽性でマウス皮下に生着、(3)中枢神経モデルの作製に成功、という特徴を有する。これらの3条件を満たす細胞株は、発明者らが樹立したもののみである。
本実施形態のがん細胞株は、in vitro, in vivoの治療実験で、頭蓋外の薬効をリーズナブルに確認できるため、従来知られているLC-2/adなどのRET融合遺伝子肺がん細胞株に置き換わる細胞株として、製薬方面でも注目される可能性がある。
【実施例0043】
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
(細胞の培養、保存等の条件)
細胞の培養の操作は、後述するそれぞれの培地に5.0×103cells/cm2以上で播種し、5~8日程度で継代を行った。PBSで2回洗浄後、0.05% トリプシンEDTA(25300054, Thermo Fisher)を3分間37℃で暴露し、継代を行った。
細胞の保存の操作は、保護剤としてセルバンカー(カタログ番号 CB021、ロット番号 220208)を添加し、-160℃のフリーザーで冷凍した。
保存した細胞の溶解は、37℃ウォーターバスにて融解し、15-40mLの前記培地に懸濁して遠心洗浄した。
【0045】
(ヒト由来細胞の寄託条件)
以下で用いるヒト由来細胞は、JCRB細胞バンク寄託条件をクリアしているものを用いた。JCRB細胞バンク研究倫理クリアランス(ヒト由来培養細胞研究資源寄託)として、科学技術庁による「ヒトゲノム研究に関する基本原則(2000.Apr.11)、第9項」ならびに厚生省の「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針(2000.Feb.4)、第6項、第7項」に基づき、細胞バンクに寄託できるヒト由来細胞として、満たすことが義務付けられている次の2条件を満たすものを用いた。(1)匿名化されたうえで試料提供者個人を特定できない(アンリンク)細胞であること(Coded Unlinked Sample)。(2)生体試料採取時に試料提供者から研究利用への承諾を文書で得ていること。
【0046】
[試験例1]
(PB302p細胞株の樹立)
RET融合遺伝子陽性肺がん患者の同意を得て、該患者の胸水をLymphocyte Separation Medium (LMS)(MP biomedicals, LOT NO. S8658)を用いてがん細胞を分離した。
具体的には、15mlのチューブにLMSを4mlまず入れ、その上より胸水10mlを入れる。遠心条件を400g、15分間として、遠心後はチューブの中間に見られる細胞層を1000μlのピペットマンを用いて吸い込み、培養液を入れた10cm dishに入れる。
該がん細胞を、RPMI1640(Thermo Fisher、カタログ番号11875093)500mLに10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン・ストレプトマイシンを加えた培地で培養、増殖を行った。この細胞の継代を重ね、安定的に増殖する細胞株を選択した。
この細胞株を、PB302p細胞株とした。
【0047】
得られたPB302p細胞株について、真核生物mRNA-seqを解析した。解析は概略としては、FastQCによるシーケンスリードの品質確認、Trimmomaticによるシーケンスリードのトリミング、STARによるシーケンスリードのマッピング、arribaによる融合遺伝子の検出及びFigureの作製、の順で行った。
【0048】
図1に、PB302p細胞株についてのmRNA-seqの解析結果を示した。クロモソーム10に、KIF5BとRET遺伝子が融合していることが明らかとなった。
すなわち、PB302p細胞株は、RET遺伝子と融合してがん遺伝子となる融合パートナーとして知られている、KIF5Bと、RETの融合遺伝子を有する。
【0049】
[試験例2]
(PB302/luc細胞株の作製)
前記PB302p細胞株にウィルスベクターを感染させ、ルシフェラーゼ遺伝子を導入し、PB302/luc細胞株を作成した。
【0050】
試薬として、
・感染させるがん細胞株:PB302p
・予備検討に用いた細胞:293T 細胞株(ヒト胎児腎細胞)
・Lipofectamine(R)LTX & Plus Reagent (Invitrogen Cat 15338-100)
・ベクター (MaRXTM IVf puro-EGFP-ELuc)
・Retrovirus Packaging Kit Ampho (TaKaRa #6161)
・8mg/mL Hexadimethrine bromide [別名 Polybrene] (SIGMA #9268)
・PEG-itTM virus precipitation solution (System Bioscience Cat LV810A-1)
・10mg/mL Puromycin
を用いた。
【0051】
293T細胞を用いた予備検討として、後述するように、
・感染させるがん細胞の Polybrene に対する感受性 (24 h)
(final conc. 0, 1, 2, 4, 8, 16 μg/mL)
・感染させるがん細胞のPuromycinに対する感受性 MTT assay (72~96 h)
(final conc. 0, 0.03, 0.1, 0.3, 1, 3, 10μg/mL)
を行った。
【0052】
感染の操作は以下のように行った。
1日目:細胞を2.5x106cells/10mL in 10cm dish 2枚に播き(10%FBS-DMEM P/S[+])、37℃で一晩培養した。
2~3日目:培地を除去、新鮮な培地 (10%FBS-DMEM P/S[-]) 9mL を加えた。Opti-MEM I Reduced-Serum Medium 2mL にMaRXTM IVf puro-EGFP-ELuc (15μg)、pGP vector (7.5μg) (Retrovirus Packaging Kit Amphoに付属)、pE-ampho vector (7.5μg) (Retrovirus Packaging Kit Amphoに付属)を加えた。
PLUS reagent 30μL を加え撹拌し、室温で5min 静置、Lipofectamine LTX 75μL を加えた。数回ピペッティングして、室温で 30min 静置した。細胞が播かれたディッシュに1mLの調製した溶液を添加(1mL x 2枚)、37℃にて培養した。6~8h後に10mLの新鮮な培地に交換(10%FBS-DMEM P/S[+])し、37℃にて48h培養し、蛍光顕微鏡でEGFPの蛍光を確認した。
4日目:ここから先廃棄物は全て P2 対応とした。培養上清 (20mL) を 50mL のFalcon チューブに回収した (細胞は廃棄)。20mL の培養上清を 0.44μm フィルターに通し、新しい50mLチューブに回収した。PEG-itTM virus precipitation solution 5mL を添加した。数回撹拌し、4℃にて一晩静置した。
5日目:1,500g×30minで遠心分離し、沈殿を回収し、上清は廃棄した。沈殿を1mL の10%FBS-RPMI P/S[+]に懸濁し、エッペンドルフチューブに回収した。この溶液を20倍濃縮のウイルス溶液とし、-80℃で保存した。
【0053】
がん細胞への感染実験は以下のように行った。
1日目:24well plateの6wellに細胞(PB302p)を2×104cell/1mL播き、37℃で一晩培養した。
2日目:培地を除去し、新鮮な培地10%FCS-RPMI P/S(+)を0.4mLずつ加えた。各ウェルに、非感染、Polybreneのみ添加、x1、x2.5、x5、x10倍濃縮となるように上述のウイルス溶液と、残りに上記培地を加えて600μLとした。Polybreneの濃度は24hの培養で細胞毒性の無い濃度をあらかじめ予備検討し決定したもので、非感染のウェル以外に1μLずつ加えた。37℃にて一晩培養した。
3日目:上清を除去し、新鮮な培地10%FCS-RPMI P/S(+)を1mL加え、37℃で24~48h培養した。
4~5日目:顕微鏡下で最適なウェルを選択し、Puromycin入りの培地で培養開始した。Puromycinの濃度は、親株が90%程度の増殖阻害が認められる濃度を予備検討で決定した。
【0054】
本実施例では、上記感染操作で、上述の20倍濃縮のウイルス溶液を用いた。がん細胞に×10倍濃縮の状態でウイルスを感染させ、Puromycin入り培地で培養し、ルシフェラーゼ遺伝子の導入を確認した。
ウィルスベクターの感染によりルシフェラーゼ遺伝子が導入されたPB302/luc細胞株を得た。
【0055】
得られたPB302/luc細胞株は、皮下で腫瘍を形成せず、胸腔移植および肺移植を行うも生着しなかった。一方で、脳転移モデル、髄膜がん腫症モデルに用いることができる性質を有していた。この性質は、既存の樹立細胞株のような性質であった。
【0056】
[試験例3]
(PB302/luc ivs LM細胞株の作製)
PB302/luc細胞株を用いて3匹の髄膜がん腫症モデルのマウスを以下の操作を経て作製した。
【0057】
髄膜がん腫症モデルのマウスは、免疫不全マウスから以下の操作を経て作成した。
マウスをイソフルレン吸入麻酔により眠らせた。左手でマウスの鼻と頭を伸ばすように把持し一直線になるように固定した。頭蓋骨下端と脊柱上端に間隙があるので、そこから27G針を45度の角度で穿刺し、脊柱に潜り込ませるように針を進めた。このとき、針によってマウスの体が持ち上がった状態となるようにした。濃度は1×105/50μLのPB302/luc細胞を、注入量50μLで注入した。
【0058】
この髄膜がん腫症モデルのマウスにて、髄腔で細胞が生着したことを確認した(
図2)。
図2に、髄膜がん腫症モデルのマウスが時間経過で腫瘍が進展する様子を示す(合計3匹、Day28の2匹は枠で囲んでいる1匹とは別)。写真中の発光はPB302/lucのルシフェラーゼのシグナルをマウス腹腔内にルシフェリンを投与し、IVIS Imaging Systemを用いて検出したものである。
ついで、マウスを解剖し発光している箇所(腫瘍)を取り出し、10cm dishにてRPMIで培養した。腫瘍から細胞株化(PB302/luc ivs LM)したことを確認し、免疫不全マウスを用いて皮下腫瘍の形成試験も行った。
15cm dish 複数枚に細胞が80%コンフルエントになるように培養した。メディウムを除去し、PBS で洗浄した。0.05%Trypsin溶液を加えて、細胞がはがれるまで37℃インキュベーターに静置し、10%FBS-RPMIを加えてTrypsinを中和し、50mLチューブに細胞懸濁液を回収した。20mLのメディウムでdishを洗浄し、洗浄液を回収した。1,100rpm×5min 遠心細胞ペレットを50mLのHBSS(Hanks’ balanced salt solution)で懸濁し、50mLチューブ一本にまとめた。
細胞数をカウントし、1,100rpm×5min遠心して得た細胞ペレットを3~5×10
7cells/mLになるようにHBSSで懸濁した。マウス体側皮下に27G注射針付きシリンジを用いて0.1mL/head(3~5×10
6cells)移植した。
【0059】
図3に、前記の皮下に移植したマウスを示す。PB302/luc ivs LMはマウス皮下に腫瘍を形成することが認められた。なお、皮下腫瘤形成までに約2か月間を要した。
【0060】
[試験例4]
(PB302/luc ivs LM-SC細胞株(PB302)の作製)
このマウスに形成された皮下腫瘍から、取り出し、試験例1と同様の条件で培養と継代を行って株化し、PB302/luc ivs LM-SC細胞株(本明細書では、単にPB302細胞株とも呼ぶ)とした。
なお、PB302pへのウイルスの感染からPB302の樹立までは、合計5~10回程度の継代を行っており、PB302にはウイルスは残存していないと考えられた。
【0061】
PB302/luc ivs LM-SC細胞株を、免疫不全マウスの皮下に移植し、皮下腫瘍を形成させた。皮下腫瘍を形成させる条件は試験例3と同様に行い、移植4日目に腫瘤形成することを確認した。また2週間で8.06mm×7.66mmのサイズのサイズになることも確認した。
【0062】
図4に、PB302/luc ivs LM-SC細胞をディッシュ上で観察した写真図を示した。観察条件は位相差顕微鏡で倍率100倍である。
このPB302/luc ivs LM-SC細胞は、コンフルエント状態では小円形細胞を呈していた。
【0063】
このPB302/luc ivs LM-SC細胞株(PB302細胞株)を、独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センターに寄託した(受領日:2023年7月3日、受託番号 NITE P-03936、細胞名「PB302」)。
【0064】
得られたPB302/luc ivs LM-SC細胞を、さらに別のマウスに移植し、腫瘍を形成させた。皮下腫瘍を形成させる条件は試験例3と同様に行った。
PB302/luc ivs LM-SC細胞を皮下に移植したマウスについて、移植4日目に、腫瘤の形成を確認することができた。皮下腫瘤は、前記細胞を移植した3匹中3匹すべてに生じていた。腫瘤の大きさは、2週間目では8.06mm×7.66mmとなった。
これらの結果より、PB302/luc ivs LM-SC細胞株を用いると、再現性をもって皮下腫瘤を形成することができた。
本実施例の細胞株を用いて、皮下腫瘍、皮下腫瘤を再現性をもって容易に形成することができるので、in vivoを含めたがんの治療実験を行うために有用と考えられる。
【0065】
[試験例5]
(RET阻害薬の効果の検証)
PB302/luc ivs LM-SC(PB302)細胞に対するIn vitroにおける選択的RET阻害薬の効果を、MTT assayを用いて検証した。
10cmディッシュにてコンフルエントになったPB302を剥がし、マイクロプレート(組織培養グレード、96ウェル、平底)に100μlの培地の細胞(2~3×104細胞/ウェル)に播種した(Day1)。細胞培養を37℃、5~6.5%CO2の条件下で24時間インキュベートし、Day2に各ウェルの薬剤濃度が0.001~10μmоl/LになるRET阻害薬(serpercatinib又はpralsetinib)を含んだ培地を100μl注入した。それらを37℃、5~6.5%CO2の条件下で72時間インキュベートしたDay5に、各ウェル200μlの培地を吸引し新たな100μlの培地に入れ替え、さらにMTT標識試薬(3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド、最終濃度0.5mg/ml)を各ウェルに50μl加えた。それらを5~6.5% CO2の条件下で1時間インキュベートし、各ウェルの培地を吸引し、DMSOを100μlを注入した。プレート内を目視で観察して紫色ホルマザン結晶が完全に可溶化されていることを確認し、マイクロプレート(ELISA)リーダーを使用してサンプルの吸光度を測定した。ホルマザン生成物の吸光度を測定する波長は、550~600nm、リファレンス波長は650nm以上とした。
【0066】
図5に、MTTアッセイの結果を示した。(a)にspelpercatinib、(b)にpralsetinibのRET阻害薬の各濃度における細胞生存率、すなわちRET阻害薬の効果を示している。いずれのRET阻害薬も濃度に応じて細胞生存率の低下が見られ、PB302細胞におけるRET阻害薬の効果が明らかとなった。PB302ではIn vitroでRET阻害剤によって細胞生存率が減少するので、in vivoでもPB302細胞による腫瘍・腫瘤の細胞が減少するという試験、診断に使用することができると期待される。
【0067】
[参考例1]
(がん細胞株の脳内移植モデル)
本実施形態の各がん細胞株は、脳内移植モデルの製造にも使用可能である。以下の操作で、脳内移植モデルの製造を行った。
がん細胞株の1×108cells/mL in HBSSの懸濁液を準備した。マウスをイソフルレン吸入麻酔により眠らせた。マウスをうつ伏せにし、両腕、両足を固定し、両耳の間の皮膚を正中に沿って5mm程度切開した。切開した部分を広げ、右頭蓋骨を露出し、滑膜をピンセットでこそぎ、マイクロドリルで頭蓋骨に穴をあけた。このとき、穴が開く瞬間いきおいで脳を損傷しないように留意しつつ行った。マイクロシリンジ(10μL)を脳内に5mm刺し、1.5μL(1.5×105cells)の細胞懸濁液を30secかけて注入した。注射針を抜き、脱脂綿で傷口を軽く抑えた。切開した皮膚を6-0vicrylを用いて2~3針縫合した。
【0068】
[参考例2]
(がん細胞株の髄膜がん腫症モデル作製)
本実施形態の各がん細胞株は、髄膜がん腫症モデルの製造にも使用可能である。以下の操作で、がん細胞株の髄腔投与による髄膜がん腫症モデルの製造を行った。この操作は、A925L/ELuc細胞株で行う際の手法を参照して行った。
がん細胞株1×108cells/mL in HBSSの懸濁液を準備した。マウスの左足(特に膝関節)を除毛クリームで除毛した。マウスをアバチン麻酔により眠らせた。左手でマウス左足のかかとを支え、ひざを90℃曲げた状態にした。膝関節の白くなっている部分より、27G注射針付きシリンジで脛骨に5mmほど確実に孔を設けた。このとき、シリンジを離し、シリンジが立っていれば、脛骨にしっかりささっていることが確認できる。逆に手を離した際にシリンジが倒れてしまう場合は脛骨ではなく、筋肉や皮膚に刺さってしまっている状態であるため適切でない。注射針を抜き、そのまま開けた穴にマイクロシリンジ(10μL)を5mm挿入した。このときは、前記設けた孔を広げないよう留意した。細胞懸濁液を4μL(4×105cells)注入した。
【0069】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。