(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028523
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】サーモスタット装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20250221BHJP
【FI】
F01P7/16 502B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133376
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000228741
【氏名又は名称】日本サーモスタット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】島崎 亮
(57)【要約】
【課題】冷却水の流路を形成するカバー部材またはハウジングへの取り付け作業を容易にしたサーモスタット装置を提供する。
【解決手段】本発明にかかるサーモスタット装置1は、冷却水の流路を形成するカバー部材およびハウジングでフランジ24を挟持することにより自動車の冷却回路に組み込まれたサーモスタット装置であって、フランジ24の外周縁24bとその周辺部分とを含む外周縁部に取り付けられた環状のシール部材30を備える。また、このシール部材30は、内周面に形成された嵌込用溝部と、外周面に設けられた外向突起30bと、を有する。さらに、本発明においては、サーモスタット装置1を冷却回路に組み込む際の押圧によって弾性変形するシール部材30の一部を収容する逃げとして、隙間34を形成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水の温度に反応して膨張、収縮する熱膨張体を内蔵するサーモエレメントと、前記サーモエレメントに取り付けられた制御バルブと、前記熱膨張体の膨張、収縮により伸縮するピストンロッドと、内周縁部に前記制御バルブが着座する弁座を形成するフランジと、を備え、前記ピストンロッドの伸縮による前記サーモエレメントの移動により前記制御バルブが開閉するように動作し、冷却水の流路を形成するカバー部材およびハウジングで前記フランジを挟持することにより冷却回路に組み込まれるサーモスタット装置であって、
前記フランジの外周縁とその周辺部分とを含む外周縁部に取り付けられ、前記カバー部材と前記ハウジングとの接続部分をシールする環状のシール部材を備え、
前記シール部材は、前記フランジの外周縁部を覆うように嵌め込むために内周面に形成された嵌込用溝部と、外周面に設けられた外向突起と、を有し、
さらに、サーモスタット装置を前記冷却回路に組み込む際の押圧によって弾性変形する前記シール部材の一部を収容する逃げとして、特定の隙間を形成する、
ことを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項2】
前記隙間を、前記フランジの外周縁と前記嵌込用溝部の底面との間に形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーモスタット装置。
【請求項3】
前記外向突起を前記シール部材の外周面に複数設け、
前記フランジの外周縁の一部に切り欠き部を設け、
前記隙間を、前記フランジの切り欠き部の外周縁と前記嵌込用溝部の底面との間に形成し、
前記切り欠き部は前記外向突起の位置に合わせて設ける、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーモスタット装置。
【請求項4】
隣接する外向突起は、前記カバー部材および前記ハウジングで前記フランジを挟持した際に前記カバー部材側と前記ハウジング側に分散するように、前記シール部材の外周面に配置される、
ことを特徴とする請求項3に記載のサーモスタット装置。
【請求項5】
前記フランジに補助弁であるジグルバルブが設けられている場合において、
前記シール部材は、その内周面に位置決め用目印部を有し、
前記位置決め用目印部は、前記ジグルバルブの位置に基づいて前記シール部材を嵌め込んだ際に、前記切り欠き部と前記外向突起の位置が一致するように設けられる、
ことを特徴とする請求項3に記載のサーモスタット装置。
【請求項6】
前記外向突起を前記シール部材の外周面に複数設け、
さらに、前記嵌込用溝部の底面に、前記フランジの外周縁部を前記シール部材に嵌め込んだ際に当該外周縁部の外周縁と当接する複数のリブを設け、
前記隙間を、前記フランジの外周縁と前記リブ以外の前記嵌込用溝部の底面との間に形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーモスタット装置。
【請求項7】
前記リブを、前記外向突起の位置からずらして配置する、
ことを特徴とする請求項6に記載のサーモスタット装置。
【請求項8】
前記リブを、前記外向突起の位置に合わせて配置する、
ことを特徴とする請求項6に記載のサーモスタット装置。
【請求項9】
前記シール部材には、前記隙間としての逃げ溝を断続的に設けることとし、
各逃げ溝は、それぞれ前記シール部材の外周縁から内周縁に向かって形成される対向する2つの面のうちの一方側の面に設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーモスタット装置。
【請求項10】
前記外向突起を前記シール部材の外周面に複数設け、
前記逃げ溝は、前記外向突起周辺に設けられる、
ことを特徴とする請求項9に記載のサーモスタット装置。
【請求項11】
隣接する逃げ溝を異なる面側に設ける、
ことを特徴とする請求項9または10に記載のサーモスタット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーモスタット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモスタット装置は、エンジンとラジエータとの間の流路内を流れる冷却水の温度変化を感知して膨張、収縮する熱膨張体を内蔵するサーモエレメントを備え、この熱膨張体の膨張、収縮に伴うピストンロッドの進退動作により制御バルブの開閉を行うことよって、冷却水を所定の温度内に保持するように機能する。そして、このように機能するサーモスタット装置は、冷却水の流路を形成するカバー部材とハウジングで挟持して一体形成することによって自動車の冷却回路に組み込まれる。
【0003】
上述したサーモスタット装置の冷却回路への組込み手段の一例として、特許文献1には、ラジエータからの冷却水を通す冷却媒体流路の一部を形成するインレットハウジングの所定位置にサーモスタットが係止され、エンジンの組立工程における梱包、搬送の際にサーモスタットがインレットハウジングから脱落することなく、エンジンの組立工程の合理化に寄与するサーモスタットの取付構造が開示されている。
【0004】
詳細には、従来のサーモスタット200は、
図19に示すように、弁函(上記サーモエレメントに相当)内に封入されたサーモワックス(上記熱膨張体に相当)の膨張、収縮に伴う伸縮ロッド(上記ピストンロッドに相当)の進退動作により弁体(上記制御バルブに相当)の開閉動作を行うことよって冷却水を所定の温度内に保持するサーモ動作ユニット221と、内周縁部を弁座222とする環状の支持基体223と、支持基体223に一体に形成され、弁函を伸縮ロッドの長手方向に沿って摺動自在にガイドするとともに、弁体を弁座側に付勢するスプリングを弁体との間に装着した支持フレーム224と、支持基体223に一体に形成され伸縮ロッドの突出頭部を規制する規制フレーム225と、を備える。
【0005】
また、弁座222の外径側には板状のフランジ部226が連なり、このフランジ部226の外周側には、上下両面にわたって外周縁部を覆うガスケット227が取り付けられている(
図19参照)。
【0006】
また、インレットハウジング211の下部開口の内周縁部には、その全周にわたりガスケット227を受容し得る段差部212が設けられており、ガスケット227外周の縁部には、係止手段として、弾力を保った状態でサーモスタット200を支持する外向突起部228が形成されている。特許文献1に記載された取付構造においては、外向突起部228によってサーモスタット200を段差部212に係止させた状態で、インレットハウジング211とエンジン本体213でガスケット227を挟装することにより、サーモスタット200を冷却媒体流路内に固定する。
【0007】
具体的には、ガスケット227を段差部212に圧入すると、外向突起部228は段差部212の内周面に弾力を保った状態で接触し、ガスケット227のビード部229は段差部212の天面に当接された状態となる。このとき、外向突起部228は押圧によって弾性変形し、その復元弾力により、ガスケット227は段差部212内に保持される。これにより、サーモスタット200は、落下することなく段差部212の内周面に弾力を保った状態で支持され、インレットハウジング211とエンジン本体213とを締結一体とする前でもサーモスタット200を安定して係止状態とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のように、外向突起部228を有するガスケット(後述する実施形態のシール部材に相当)227がフランジ部226の外周縁部を覆うように取り付けられている場合において、ガスケット227を、インレットハウジング(後述する実施形態のカバー部材に相当)211に形成された段差部212に圧入するためには、大きな荷重が必要となる。
【0010】
具体的にいうと、エンジンの組立工程における梱包、搬送の際にサーモスタット200がインレットハウジング211から脱落しないようにするためには、外向突起部228の弾性変形による復元弾力をより大きくする必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の取付構造においては、圧入時の荷重に対し、段差部212内には弾性変形による圧力を逃がすための手段がなく、外向突起部228の弾性変形による復元弾力を大きくするほど、段差部212内にガスケット227を圧入しづらくなる。すなわち、脱落防止の観点からガスケット227を圧入する際に必要な荷重を大きくすると、サーモスタット200のインレットハウジング211への取り付け作業が困難になる、という課題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、冷却水の流路を形成するカバー部材とハウジングでシール部材が取り付けられた状態のフランジを挟持することによって冷却回路に組み込まれるサーモスタット装置において、カバー部材またはハウジングへの取り付け作業を容易にしたサーモスタット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるサーモスタット装置は、冷却水の温度に反応して膨張、収縮する熱膨張体を内蔵するサーモエレメントと、前記サーモエレメントに取り付けられた制御バルブと、前記熱膨張体の膨張、収縮により伸縮するピストンロッドと、内周縁部に前記制御バルブが着座する弁座を形成するフランジと、を備え、前記ピストンロッドの伸縮による前記サーモエレメントの移動により前記制御バルブが開閉するように動作し、冷却水の流路を形成するカバー部材およびハウジングで前記フランジを挟持することにより冷却回路に組み込まれるサーモスタット装置であって、前記フランジの外周縁とその周辺部分とを含む外周縁部に取り付けられ、前記カバー部材と前記ハウジングとの接続部分をシールする環状のシール部材を備え、前記シール部材は、前記フランジの外周縁部を覆うように嵌め込むために内周面に形成された嵌込用溝部と、外周面に設けられた外向突起と、を有し、さらに、サーモスタット装置を前記冷却回路に組み込む際の押圧によって弾性変形する前記シール部材の一部を収容する逃げとして、特定の隙間を形成する、ことを特徴とする。
【0013】
具体的には、本発明にかかるサーモスタット装置においては、上記隙間を、フランジの外周縁と嵌込用溝部の底面との間に形成することとした。
【0014】
または、本発明にかかるサーモスタット装置においては、前記外向突起を前記シール部材の外周面に複数設け、前記フランジの外周縁の一部に切り欠き部を設け、前記隙間を、前記フランジの切り欠き部の外周縁と前記嵌込用溝部の底面との間に形成し、前記切り欠き部は前記外向突起の位置に合わせて設けることとした。この際、このサーモスタット装置において、隣接する外向突起は、前記カバー部材および前記ハウジングで前記フランジを挟持した際に前記カバー部材側と前記ハウジング側に分散するように、前記シール部材の外周面に配置される。また、このサーモスタット装置は、前記フランジに補助弁であるジグルバルブが設けられている場合において、前記シール部材がその内周面に位置決め用目印部を有し、前記位置決め用目印部は、前記ジグルバルブの位置に基づいて前記シール部材を嵌め込んだ際に、前記切り欠き部と前記外向突起の位置が一致するように設けられる。
【0015】
または、本発明にかかるサーモスタット装置においては、前記外向突起を前記シール部材の外周面に複数設け、さらに、前記嵌込用溝部の底面に、前記フランジの外周縁部を前記シール部材に嵌め込んだ際に当該外周縁部の外周縁と当接する複数のリブを設け、前記隙間を、前記フランジの外周縁と前記リブ以外の前記嵌込用溝部の底面との間に形成することとした。この際、リブを、外向突起の位置からずらして配置することとしてもよいし、また、外向突起の位置に合わせて配置することとしてもよい。
【0016】
または、本発明にかかるサーモスタット装置において、前記シール部材には、前記隙間としての逃げ溝を断続的に設けることとし、各逃げ溝は、それぞれ前記シール部材の外周縁から内周縁に向かって形成される対向する2つの面のうちの一方側の面に設けられることとした。そして、本発明にかかるサーモスタット装置においては、前記外向突起を前記シール部材の外周面に複数設け、前記逃げ溝は、前記外向突起周辺に設けられる。また、隣接する逃げ溝を異なる面側に設けることが好ましい。
【0017】
したがって、本発明によれば、カバー部材またはハウジングへの取り付け作業を容易にしたサーモスタット装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、冷却水の流路を形成するカバー部材またはハウジングへのサーモスタット装置の取り付け作業を容易にすることができ、ひいては、サーモスタット装置を冷却回路に組み込む際の組み立て作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明にかかるサーモスタット装置が自動車の冷却回路に組み込まれた状態の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明にかかるサーモスタット装置を含む冷却水の流路の分解構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明にかかるサーモスタット装置の構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明にかかるサーモスタット装置を冷却回路に組み込む際の組み立て方法の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、シール部材の形状の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、フランジにシール部材が嵌め込まれた状態を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本発明にかかるサーモスタット装置の構成の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、フランジにシール部材が嵌め込まれた状態を示す模式図である。
【
図9】
図9は、本発明にかかるサーモスタット装置の変形例を示す図である。
【
図11】
図11は、シール部材がジグルバルブにかかるように設けられている場合の位置決め用目印部の模式図である。
【
図12】
図12は、本発明にかかるサーモスタット装置の構成の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、フランジにシール部材が嵌め込まれた状態を示す模式図である。
【
図16】
図16は、フランジにシール部材が嵌め込まれた状態を示す模式図である。
【
図17】
図17は、本発明にかかるサーモスタット装置の構成の一例を示す図である。
【
図19】
図19は、従来のサーモスタットの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかるサーモスタット装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、本願の明細書および図面において、同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する場合がある。
【0021】
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態のサーモスタット装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、説明の便宜上、図中上下を、以下、「上」「下」という。
【0022】
<冷却回路>
図1は、本発明にかかるサーモスタット装置が自動車の冷却回路に組み込まれた状態の一例を示す図であり、
図1(a)は平面図であり、
図1(b)はA-A’断面を示す図であり、
図1(c)はカバー部材のA-A’断面を示す拡大図である。また、
図2は、サーモスタット装置を含む冷却水の流路の分解構成を示す図である。本実施形態のサーモスタット装置1は、エンジンとラジエータとの間で冷却水を循環させる自動車の冷却回路内に配置され、
図1および
図2に示すように、冷却水の流路を形成するカバー部材2およびハウジング3でサーモスタット装置1を挟持することによって冷却回路の所定位置に組み込まれる。
【0023】
図1(b)、
図2において、図中上方にはラジエータ側からの冷却水を導入する第1の流入口4が形成され、図中下方および図中左側には、ラジエータを経由しない冷却水を導入するための第2の流入口5および第3の流入口6がそれぞれ形成されている。また、図中左側には、冷却水の流出口7が形成されている。
【0024】
具体的には、たとえば、冷却水の温度が所定の温度より高い場合には、第1の流入口4から流入する冷却水の通路である第1の冷却水流路を開閉するバルブ(
図1(b)に示す制御バルブ21)が開かれる。そして、第1の冷却水流路を経由して流入した冷却水は、サーモスタット装置1を通過し、流出口7からエンジン側へ向かって流れる。
【0025】
また、たとえば、エンジンの水室内で急激に冷却水圧力が上昇した場合には、第2の流入口5から流入する冷却水の通路である第2の冷却水流路を開閉するバルブ(
図1(b)に示すリリーフバルブ22)が開かれる。そして、第2の冷却水流路を経由して流入した冷却水は、サーモスタット装置1を通過し、流出口7からエンジン側へ向かって流れる。この第2の冷却水流路を開閉するリリーフバルブ22は、圧力リリーフ用として使用しているので、エンジン側の冷却水圧力が高まったときに開弁して冷却水を流し、過度に冷却水圧力が高くなることを防ぐ安全弁として機能する。
【0026】
また、本実施形態においては、エンジン(シリンダヘッド側)から流出した冷却水がラジエータを経由せずに(迂回して)第3の流入口6から流入する第3の冷却水流路が形成されている。この第3の冷却水流路を経由して流入する冷却水は、その温度により制御バルブ21を開閉制御するための冷却水として常時循環され、サーモスタット装置1を通過し、流出口7からエンジン側へ向かって流れる。なお、この冷却水は、EGRクーラー,スロットルボディ,CVTウォーマ,ヒータ等の各種機器を介して第3の流入口6から流入する冷却水であってもよい。
【0027】
<サーモスタット装置の構成>
図3は、第1の実施形態のサーモスタット装置の構成の一例を示す図であり、(a)は、カバー部材2およびハウジング3に取り付ける前の状態のサーモスタット装置1の断面図であり、(b)は、B1-B1’断面図であり、(c)は、C部の拡大図である。
【0028】
本実施形態のサーモスタット装置1は、リリーフ機能を有するサーモスタット装置であり、上述した第1の冷却水流路を通り流入した冷却水の流れを制御するサーモ動作部11と、上述した第2の冷却水流路を通り流入した冷却水の流れを制御するリリーフ動作部12とを備える。そして、このサーモスタット装置1は、サーモ動作部11がフレーム23およびフランジ24からなる外殻部25内に収容され、リリーフ動作部12がサーモ動作部11の長手方向の一端側(後述するサーモエレメント26の下端部)に固着された状態で一体に形成されている(
図3(a)参照)。
【0029】
また、サーモ動作部11には冷却水の温度に反応して膨張、収縮する熱膨張体(ワックス)を内蔵する円筒状のサーモエレメント26が備えられており、熱膨張体の膨張、収縮により、ピストンロッド27がサーモ動作部11の長手方向に伸縮するように動作する。
【0030】
また、サーモエレメント26には傘状の制御バルブ21(弁体)が取り付けられており、この制御バルブ21は、フランジ24の内周縁部に形成された弁座28に当接することにより閉弁状態となる。そして、傘状の制御バルブ21の凹み部分に形成された第1のばね受け部21aに一端が接するように、コイルスプリング29がサーモエレメント26の周囲を囲むようにして配置され、コイルスプリング29の他端はフレーム23の下端に形成された環状の第2のばね受け部23aよって保持される。具体的にいうと、フレーム23に形成された第2のばね受け部23aは、環状に形成された鉤状の凹部を有し、その凹みにコイルスプリング29の端部(上記コイルスプリング29の他端に相当)が装着される。これにより、サーモ動作部11が外殻部25の内部に組み込まれる。そして、制御バルブ21は、コイルスプリング29により閉弁する方向に付勢される。
【0031】
また、サーモ動作部11のフレーム23には、環状の第2のばね受け部23aの中央部に、コイルスプリング29に囲まれたテーパー状の円筒部23bが設けられている。そして、この円筒部23bの先端にはその先端と略同一形状のサーモエレメント26の端部が挿入され、円筒部23bは、サーモエレメント26をピストンロッド27の伸縮動作に応じて軸方向(サーモ動作部11の長手方向)に沿って摺動自在にガイドする。
【0032】
また、外殻部25において、フレーム23の上端部には、所定の勾配で突出したブリッジ構造のピストン係止部24aが設けられたフランジ24が連結されている。このフランジ24に設けられたピストン係止部24aには、ピストンロッド27の先端が嵌め込まれている。これにより、ピストンロッド27が伸張すると、その反力がサーモエレメント26に作用し、サーモエレメント26は円筒部23bにガイドされて押し下げられる。
【0033】
また、
図3(a),(b)に示すように、外殻部25を構成するフランジ24には、その外周縁部(外周縁とその周辺部分)に環状のシール部材30が取り付けられ、一体化されている。このシール部材30は、外周に向かって先細りするテーパー形状を有し、カバー部材2およびハウジング3でサーモスタット装置1のフランジ24を挟持することによって冷却回路に組み込んだ際に、冷却水の通路の一部を形成するカバー部材2とハウジング3の接続部分をシールするためのものである。なお、シール部材30の詳細な形状および構造については後述する。
【0034】
上記のように構成されるサーモ動作部11は、ピストンロッド27が熱膨張体の熱膨張によって突出すると、コイルスプリング29の付勢力に抗ってサーモエレメント26と制御バルブ21が下方へ移動し、制御バルブ21が開弁状態となる。これにより、サーモ動作部11は、第1の冷却水流路を通り流入した冷却水(ラジエータ側からの冷却水)を流出口7からエンジン側へ向かって流出させる。すなわち、サーモ動作部11は、サーモエレメント26に固定された制御バルブ21とフランジ24の内周縁部に形成された弁座28とをピストンロッド27の伸縮に応じて接離させることにより、閉弁状態と開弁状態とを切り替えながら動作する。
【0035】
一方、リリーフ動作部12は、弁軸としてのリリーフロッド31を備える。このリリーフロッド31の一端側がサーモ動作部11の長手方向の一端側(サーモエレメント26の下端部)に固着されることにより、リリーフ動作部12は、サーモ動作部11と一体化される。
【0036】
そして、リリーフロッド31の他端側には、略板状の弁体であるリリーフバルブ22が嵌装して組付けられてEリング等で係止されている。このリリーフバルブ22は、リリーフロッド31の周囲を囲むようにサーモエレメント26の下端部とリリーフバルブ22との間に配置されたコイルスプリング32によって、ハウジング3における第2の冷却水流路の所定位置に形成された弁座33(
図1(b)参照)に付勢されることにより、支持されている。
【0037】
上記のように構成されるリリーフ動作部12において、リリーフバルブ22は、コイルスプリング32の付勢力によって弁座33に着座する構造となっており、第2の冷却水流路側での冷却水圧力に応じて開閉される。すなわち、本実施形態のサーモスタット装置1がカバー部材2およびハウジング3に組み込まれた状態において、リリーフバルブ22は、上記冷却水圧力が所定値(上限値)を超えているとき以外、コイルスプリング32の付勢力により弁座33に常時着座した状態となる(リリーフバルブ22は常時着座型のバルブである)。
【0038】
<組み立て方法>
つづいて、本実施形態のサーモスタット装置1を冷却回路に組み込む際の組み立て方法について説明する。なお、カバー部材2における下端開口の内周には、
図1(c)に示すように、全周にわたって、シール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ24を圧入により取り付けるための取付用溝部2aが予め設けられていることを前提とする。
【0039】
図4は、サーモスタット装置1を冷却回路に組み込む際の組み立て方法の一例を示す図であり、(a)~(c)は、順に組み立て方法(第1の組み立て方法と呼ぶ)における第1工程~第3工程を示している。
【0040】
本実施形態では、まず、第1工程において、シール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ24をカバー部材2に設けられた取付用溝部2a(
図1(c)参照)に圧入し、サーモスタット装置1とカバー部材2とを一体とする。
【0041】
つぎに、第2工程において、カバー部材2に固定された状態のサーモスタット装置1(フランジ24より下の部分)を、ハウジング3の上端開口からその内部に挿入する。
【0042】
最後に、第3工程において、カバー部材2の下端部とハウジング3の上端部でシール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ24を挟み込んだ状態で保持し、カバー部材2とハウジング3とを締結一体とする。カバー部材2とハウジング3が締結され一体に形成されると、テーパー形状のシール部材30に形成された上下の拡径部分も押圧変形して圧縮状態となり、その結果として、一体形成された両者の接続部分がシールされる。これにより、サーモスタット装置1を冷却回路に組み込むことができる。
【0043】
<シール部材30の詳細>
つづいて、本実施形態のサーモスタット装置1に使用されるシール部材30の形状および構造を図面に基づいて詳細に説明する。
【0044】
図5は、シール部材30の形状の一例を示す図であり、(a)は正面図であり、(b)は側面図であり、(c)は斜視図である。また、
図6は、フランジ24にシール部材30が嵌め込まれた状態を示す模式図であり、(a)はこの状態を正面から見た模式図であり、(b)はD-D’断面を示す模式図である。
【0045】
本実施形態のサーモスタット装置1に使用されるシール部材30は、たとえば、
図5および
図6に示すように外周に向かって先細りする環状のゴムリングであり、その内周面には、フランジ24の外周縁部の上下両面を覆うように嵌め込むための嵌込用溝部30aが全周にわたり形成されている。
【0046】
また、シール部材30の外周面には、係止手段として、サーモスタット装置1を弾力により支持し得る外向突起30bが設けられている。この外向突起30bは、サーモスタット装置1を安定的に支持できるように、特定の間隔で複数個、設けることが好ましい。本実施形態では、一例として、等間隔に8つの外向突起30bを設けた。外向突起30bを設けることにより、シール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ24を外向突起30bとともに取付用溝部2aに圧入すると、外向突起30bは取付用溝部2aの内周面2b(
図1(c)参照)に対して弾力を保った状態で接触(弾性接触)し、取付用溝部2aの上面2c(
図1(c)参照)にはシール部材30の環状の片側面が当接された状態となる。この際、外向突起30bは押圧によって弾性変形し、その復元弾力(反力)によりシール部材30が内周面2bに係止されるため、サーモスタット装置1は、手を離しても脱落することなく、取付用溝部2aの内周面2bに対して弾力を保った状態で支持される。すなわち、カバー部材2とハウジング3で挟み込んで締結一体とする前であっても、カバー部材2に対してサーモスタット装置1を安定して係止させることができる。
【0047】
なお、外向突起30bの間隔や個数は、上記に限定するものではなく、サーモスタット装置1の仕様や、サーモスタット装置1を冷却回路に組み込む際の組み立て方法、組み立て時の作業速度などに応じて適宜変更可能である。
【0048】
また、本実施形態においては、サーモスタット装置1を冷却回路に組み込むときの押圧によって弾性変形するシール部材30の一部を収容するために、嵌込用溝部30aの内部に特定の隙間を形成することとした。
【0049】
具体的には、
図3(c)および
図6に示すように、フランジ24の外周縁24bと嵌込用溝部30aの底面30cとの間に隙間34を設ける。この隙間34は、「外周縁24bの直径:m<底面30cの直径:n」の条件を満たすことによって形成される空間であり、隙間34の幅は、全周にわたって等間隔であってもよく、また、等間隔でなくてもよい(外周縁24bの中心と底面30cの中心が一致している必要はない)。すなわち、フランジ24の外周縁部(外周縁24bとその周辺部分)の上下両面を全周にわたり覆うようにシール部材30が嵌め込まれていれば(
図6参照)、隙間34の幅は全周にわたって等間隔である必要はなく、また、一部に隙間がない箇所(外周縁24bと底面30cが当接する箇所)があってもよい。
【0050】
上記特定の隙間として隙間34を設けることにより、シール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ24を取付用溝部2aに圧入した際に、この隙間34が、押圧により弾性変形した外向突起30bおよび周辺部分の「逃げ(遊び)」として機能するため、圧入時にかかる荷重を抑えることができる。これにより、サーモスタット装置1のカバー部材2への取り付け作業が容易になる。
【0051】
また、圧入時にかかる荷重を抑えることができるため、シール部材30のめくれによるシール不良や、圧縮割れによる破損等、取り付け作業による不具合を大幅に減らすことができる。
【0052】
<効果等>
以上のように、本実施形態のサーモスタット装置1は、冷却水の温度に反応して膨張、収縮する熱膨張体を内蔵するサーモエレメント26と、サーモエレメント26に取り付けられた制御バルブ21と、熱膨張体の膨張、収縮により伸縮するピストンロッド27と、内周縁部に制御バルブ21が着座する弁座28を形成するフランジ24と、を備え、ピストンロッド27の伸縮によるサーモエレメント26の移動により制御バルブ21が開閉するように動作し、冷却水の流路を形成するカバー部材2およびハウジング3でフランジ24を挟持することにより自動車の冷却回路に組み込まれたサーモスタット装置であって、フランジ24の外周縁24bとその周辺部分とを含む外周縁部に取り付けられた環状のシール部材30を備える。
【0053】
また、このシール部材30は、フランジ24の外周縁部を覆うように嵌め込むために内周面に形成された嵌込用溝部30aと、外周面に設けられた外向突起30bと、を有する。さらに、本実施形態においては、サーモスタット装置を冷却回路に組み込む際の押圧によって弾性変形するシール部材30の一部(外向突起30bおよびその周辺部分)を収容する逃げとして、隙間34を形成する。そして、本実施形態においては、この隙間34を、フランジ24の外周縁24bとシール部材30に形成された嵌込用溝部30aの底面30cとの間に形成することとした。
【0054】
これにより、冷却水の流路を形成するカバー部材2またはハウジング3へのサーモスタット装置1の取り付け作業を容易にすることができ、ひいては、サーモスタット装置1を自動車の冷却回路に組み込む際の組み立て作業を容易にすることができる。また、本実施形態のサーモスタット装置1は、圧入時にかかる荷重を抑えることができるため、シール部材のめくれによるシール不良や、圧縮割れによる破損等、取り付け作業による不具合を大幅に減らすことができる。
【0055】
なお、本実施形態においては、一例として、リリーフ機能を有するサーモスタット装置を自動車の冷却回路に組み込む場合について説明したが、冷却回路に組み込むサーモスタット装置は、これに限定されるものではない。フランジの外周縁部の上下両面を全周にわたり覆うように環状のシール部材が嵌め込まれ、シール部材が嵌め込まれたフランジを上下両面から挟み込んで固定するタイプのサーモスタット装置であれば、他のサーモスタット装置においても同様に適用可能である。
【0056】
また、本実施形態においては、カバー部材2における下端開口の内周に取付用溝部2aを設けることとしたが、これに限定されるものではない。たとえば、カバー部材2側ではなく、ハウジング3側に取付用溝部を設けることとしてもよい。具体的には、ハウジング3における上端開口の内周に、全周にわたって取付用溝部を設けることとしてもよい。
【0057】
ハウジング3側に取付用溝部を設けた場合には、まず、第1工程において、シール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ24をハウジング3側に設けた取付用溝部に圧入し、サーモスタット装置1とハウジング3とを一体とする。そして、第2工程において、ハウジング3に固定された状態のサーモスタット装置1(フランジ24より上の部分)を、カバー部材2の下端開口から内部に挿入し、最後に、第3工程において、カバー部材2とハウジング3でシール部材30を挟み込んだ状態で保持し、カバー部材2とハウジング3とを締結一体とする(第2の組み立て方法と呼ぶ)。これにより、サーモスタット装置1を冷却回路に組み込むことができる。
【0058】
なお、本実施形態において使用するサーモスタット装置1は、上述したように、リリーフバルブ22が常時着座型であるため、ハウジング3側に設けた取付用溝部にフランジ24を圧入すると、コイルスプリング32の付勢力でサーモスタット装置1が取付用溝部から外れてしまう可能性がある。そのため、本実施形態においては、ハウジング3側に設けた取付用溝部にフランジ24を圧入する第2の組み立て方法よりも、カバー部材2側に設けた取付用溝部2aにフランジ24を圧入する第1の組み立て方法の方が好ましい。第2の組み立て方法は、たとえば、リリーフ機能を有していないサーモスタット装置に好適である。
【0059】
また、本実施形態においては、シール部材30として、ゴム材を素材とするゴムリングを使用することとしたが、これに限るものではなく、所望のシール性や耐久性が満たされるものであれば、使用する材料は任意である。
【0060】
<第2の実施形態>
つづいて、第2の実施形態のサーモスタット装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、前述した第1の実施形態と同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する。また、
図1および
図2に示す冷却回路の構成については、前述した第1の実施形態と同様である。
【0061】
<サーモスタット装置>
図7は、第2の実施形態のサーモスタット装置の構成の一例を示す図であり、(a)は、カバー部材2およびハウジング3に取り付ける前の状態のサーモスタット装置101の断面図であり、(b)は、B2-B2’断面図であり、(c)は、E部の拡大図である。
【0062】
本実施形態のサーモスタット装置101は、前述した第1の実施形態と同様に、リリーフ機能を有するサーモスタット装置であって、フランジ(以後、フランジ41と呼ぶ)の形状のみが第1の実施形態と異なっている。すなわち、本実施形態のサーモスタット装置101は、サーモ動作部11がフレーム23およびフランジ41からなる外殻部42内に収容され、リリーフ動作部12がサーモ動作部11の長手方向の一端側(サーモエレメント26の下端部)に固着された状態で一体に形成されている(
図7(a)参照)。
【0063】
また、
図7(a),(b)に示すように、フランジ41には、その外周縁部(外周縁とその周辺部分)に環状のシール部材30が取り付けられ、一体化されている。このシール部材30は、外周に向かって先細りするテーパー形状を有し、カバー部材2およびハウジング3でサーモスタット装置101のフランジ41を挟持することによって冷却回路に組み込んだ際に、冷却水の通路の一部を形成するカバー部材2とハウジング3との接続部分をシールするためのものである。
【0064】
また、本実施形態においては、サーモスタット装置を冷却回路に組み込むときの押圧によって弾性変形するシール部材30の一部を収容するために、特定の隙間を形成することとした。
【0065】
具体的には、
図7(b)(c)に示すように、フランジ41の外周縁の一部に円弧状の切り欠き部41aを設ける。この切り欠き部41aは、シール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ41の、カバー部材2の取付用溝部2aへの圧入を容易にするために、外向突起30bの位置に合わせて設けることが好ましい。
【0066】
上記特定の隙間として切り欠き部41aを設けることにより、シール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ41を取付用溝部2aに圧入した際に、この切り欠き部41aにより形成された隙間(フランジ41の切り欠き部41aの外周縁41bとシール部材30の嵌込用溝部30aの底面30cとの間の隙間)が、押圧により弾性変形する外向突起30bおよびその周辺部分の「逃げ(遊び)」として機能するため、圧入時にかかる荷重を抑えることができる。これにより、サーモスタット装置101のカバー部材2への取り付け作業が容易になる。
【0067】
なお、本実施形態においては、一例として円弧状の切り欠き部41aを設けることとしたが、これに限るものではない。たとえば、切り欠き部41aにより特定の隙間が形成されていればよく、切り欠き部41aの形状は円弧状以外の形状であってもよい。
【0068】
また、上記切り欠き部41aにより特定の隙間を成形する記載以外の<サーモスタット装置の構成>および<組み立て方法>の説明については、前述した第1の実施形態と同様であり、サーモスタット装置1をサーモスタット装置101、フランジ24をフランジ41、外殻部25を外殻部42、にそれぞれ読み替えて説明可能である。
【0069】
<シール部材30の詳細>
本実施形態のサーモスタット装置101において、シール部材は、前述した第1の実施形態のサーモスタット装置1と同様にシール部材30を使用する。
図8は、フランジ41にシール部材30が嵌め込まれた状態を示す模式図である。本実施形態においては、
図8に示すように、フランジ41の外周縁部(外周縁41bとその周辺部分)の上下両面を全周にわたり覆うようにシール部材30が嵌め込まれている。
【0070】
また、前述した第1の実施形態においては、
図3(c)および
図6に示すように、フランジ24の外周縁24bと嵌込用溝部30aの底面30cとの間に隙間34を設けることとしたが、本実施形態においては、上述したように、シール部材30の外向突起30bの位置に合わせてフランジ41に切り欠き部41aを設けることとし、圧入した際の「逃げ(遊び)」となる空間(隙間)を形成するように構成しているので、同様の機能を有する隙間34は必須の構成ではない。
【0071】
したがって、
図8においては、一例として、フランジ41の切り欠き部41a以外の外周縁41bと嵌込用溝部30aの底面30cとの間に隙間34を設けたケースを示しているが、本実施形態においては、たとえば、
図7の(c)に示すように、フランジ41の切り欠き部41a以外の外周縁41bと嵌込用溝部30aの底面30cとを当接させ、隙間34を設けない構成としてもよい。
【0072】
なお、上記隙間の形成に関する記載以外の<シール部材30の詳細>の説明については、前述した第1の実施形態と同様であり、サーモスタット装置1をサーモスタット装置101、フランジ24をフランジ41、外殻部25を外殻部42、にそれぞれ読み替えて説明可能である。
【0073】
<効果等>
以上のように、本実施形態のサーモスタット装置101は、フランジ41の一部に切り欠き部41aを設け、このサーモスタット装置101を冷却回路に組み込む際の押圧によって弾性変形するシール部材30の一部(外向突起30bおよびその周辺部分)を収容する逃げとしての隙間を、フランジ41の切り欠き部41aの外周縁41bと嵌込用溝部30aの底面30cとの間に形成することとした。さらに、切り欠き部41aは外向突起30bの位置に合わせて設けることとした。
【0074】
これにより、冷却水の流路を形成するカバー部材2またはハウジング3へのサーモスタット装置101の取り付け作業を容易にすることができ、ひいては、サーモスタット装置101を自動車の冷却回路に組み込む際の組み立て作業を容易にすることができる。また、本実施形態のサーモスタット装置101は、圧入時にかかる荷重を抑えることができるため、シール部材のめくれによるシール不良や、圧縮割れによる破損等、取り付け作業による不具合を大幅に減らすことができる。
【0075】
<第2の実施形態の変形例>
つづいて、第2の実施形態のサーモスタット装置の変形例を図面に基づいて詳細に説明する。第2の実施形態のサーモスタット装置101は、上述したように、フランジ41の外周縁41bに複数の切り欠き部41aを断続的に設け、シール部材30が嵌め込まれた状態のフランジ41の取付用溝部2aへの圧入を容易にするために、切り欠き部41aと外向突起30bの位置が一致するように、シール部材30をフランジ41に嵌め込んでいる(
図7(b)(c)、
図8参照)。
【0076】
本変形例では、さらに、切り欠き部41aを外向突起30b’の位置に合わせて嵌め込む作業を容易にすることを目的とする(
図8参照)。
【0077】
図9は、第2の実施形態のサーモスタット装置の変形例を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。また、
図10は、この変形例において使用するシール部材の外観を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はシール部材を側面側から見たときの模式図である。
【0078】
本変形例におけるサーモスタット装置101’は、シール部材の形状以外、前述したサーモスタット装置101と同様の構造を有する。本変形例においては、たとえば、エア抜き用の補助弁であるジグルバルブ41cを利用して(
図9参照)シール部材30’をフランジ41に嵌め込む際の位置決めを行うことにより、シール部材30’をフランジ41に嵌め込む作業を容易にする。
【0079】
なお、上述した第2の実施形態のサーモスタット装置101においては、説明の便宜上、ジグルバルブ41cについて特に言及していないが、同様に、図示しないジグルバルブがエア抜き用の補助弁として機能している。また、本変形例においては、一例として、シール部材30’の外向突起30b’が等間隔に12個設けられている場合が記載されている(第2の実施形態のサーモスタット装置101では一例として外向突起30bが8個設けられている)。したがって、
図9(a)に示すシール部材30’が嵌め込まれた状態のサーモスタット装置101’においては、切り欠き部41aが等間隔に12個設けられ、第2に実施形態と同様に、切り欠き部41aと外向突起30b’の位置が一致していることを前提とする(フランジ41にシール部材30’が嵌め込まれた状態は
図8を参照)。
【0080】
本変形例において使用するシール部材30’は、第2の実施形態と同様に、環状のゴムリングであり(
図10(a)参照)、その内周面には、フランジ41の外周縁部(外周縁41bとその周辺部分)の上下両面を覆うように嵌め込むための嵌込用溝部30aが全周にわたり形成されている。
【0081】
また、シール部材30’の外周面には、係止手段として、サーモスタット装置101’を弾力により支持し得る外向突起30b’が設けられている。本変形例では、上述したとおり、等間隔に12個の外向突起30b’が設けられ、さらに、隣接する外向突起30b’が、
図10(b)に示すように、シール部材30’を側面側から見たときの外周面の上側と外周面の下側に交互に配置される。すなわち、外向突起30b’は、カバー部材2およびハウジング3でフランジ41を挟持した際にカバー部材2側(上記外周面の上側に相当)とハウジング3側(上記外周面の下側に相当)に分散するように、シール部材30’の外周面に配置される。ここでは、便宜上、カバー部材2側に設けられる外向突起30b’を上側外向突起30dとし、ハウジング3側に設けられる外向突起30b’を下側外向突起30eとする。
【0082】
このように外向突起30b’(上側外向突起30d,下側外向突起30e)を設けることにより、シール部材30’が嵌め込まれた状態のフランジ41を外向突起30b’とともにカバー部材2の取付用溝部2aに圧入すると、上側外向突起30dは取付用溝部2aの内周面2b(
図1(c)参照)に対して弾力を保った状態で接触(弾性接触)し、取付用溝部2aの上面2c(
図1(c)参照)にはシール部材30’の環状の片側面が当接された状態となる。この際、上側外向突起30dは押圧によって弾性変形し、その復元弾力(反力)によりシール部材30’が内周面2bに係止されるため、サーモスタット装置101’は、手を離しても脱落することなく、取付用溝部2aの内周面2bに対して弾力を保った状態で支持される。すなわち、カバー部材2とハウジング3で挟み込んで締結一体とする前であっても、カバー部材2に対してサーモスタット装置101’を安定して係止させることができる。
【0083】
なお、本変形例においては、一例として、上側外向突起30dと下側外向突起30eが交互に設けられているが、たとえば、カバー部材2における下端開口の内周に取付用溝部2aが設けられている場合、
図9(a)に示すサーモスタット装置101’において脱落防止として機能する外向突起30b’は上側外向突起30d(カバー部材2側の外向突起30b’)であり、また、圧入時にかかる荷重を抑えるために機能する隙間は、上側外向突起30dに対応する切り欠き部41aにより形成された隙間である。この場合、下側外向突起30eは、脱落防止や圧入時にかかる荷重を抑えるために機能することはないが、上側外向突起30dと下側外向突起30eを交互に設けることによって、環状のシール部材30’の面(表裏)を意識することなく、すなわち、どちらの面をカバー部材2側に取り付けたとしても、同様の効果が得られる。
【0084】
一方、ハウジング3側に取付用溝部が設けられている場合には、
図9(a)に示すサーモスタット装置101’において脱落防止として機能する外向突起30b’は、上記とは逆に下側外向突起30e(ハウジング3側の外向突起30b’)であり、また、圧入時にかかる荷重を抑えるために機能する隙間は、下側外向突起30eに対応する切り欠き部41aにより形成された隙間である。
【0085】
また、本変形例において使用するシール部材30’の内周面には、
図9および
図10(a)に示すように、位置決め用目印部30fが設けられている。この位置決め用目印部30fは、一例として2つの突起により構成され、この2つの突起の間にフランジ41に設けられたジグルバルブ41cが位置するようにシール部材30’を嵌め込んだ際に、自動的に切り欠き部41aと外向突起30b’の位置が一致するように設けられている。これにより、切り欠き部41aと外向突起30b’の位置を一致させるための位置決めを単純化するができ、伴って、シール部材30’をフランジ41に嵌め込む作業を容易にすることができる。
【0086】
すなわち、上述した位置決め用目印部30fを利用して位置決めを行うことにより、簡単に、フランジ41の切り欠き部41aとシール部材30’の外向突起30b’の位置を一致させことができる。また、上側外向突起30dと下側外向突起30eを設けることにより、シール部材30’をフランジ41に嵌め込む際に、環状のシール部材30’の面(表裏)を意識することなく嵌め込むことができる。
【0087】
なお、上述した位置決め用目印部30fについては、これに限定されるものではなく、形状および構造は任意である。本変形例では、一例として、2つの突起で位置決め用目印部30fを形成しているが、この位置決め用目印部30fは、切り欠き部41aと外向突起30b’の位置を一致させるための位置決めを実現できればよく、たとえば、シール部材30’に目印となる記号や図形などを刻印することとしてもよい。
【0088】
また、
図11(図上、外向突起30b’は省略)に示すように、シール部材30’がジグルバルブ41cにかかるように設けられている場合には、ジグルバルブ41cを避けるようにシール部材30’に切り欠きを設けることとしてもよい。これにより、この切り欠きの部分を位置決め用の目印(位置決め用目印部30f)とすることが可能となる。
【0089】
<第3の実施形態>
つづいて、第3の実施形態のサーモスタット装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、前述した第1の実施形態と同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する。また、
図1および
図2に示す冷却回路の構成については、前述した第1の実施形態と同様である。
【0090】
<サーモスタット装置>
図12は、第3の実施形態のサーモスタット装置の構成の一例を示す図であり、(a)は、カバー部材2およびハウジング3に取り付ける前の状態のサーモスタット装置102の断面図であり、(b)は、B3-B3’断面図であり、(c)は、F部の拡大図である。本実施形態のサーモスタット装置102は、シール部材(以後、シール部材51と呼ぶ)の構造のみが第1の実施形態のサーモスタット装置1と異なっている。
【0091】
したがって、上記以外の<サーモスタット装置の構成>および<組み立て方法>の説明については、前述した第1の実施形態と同様であり、サーモスタット装置1をサーモスタット装置102、シール部材30をシール部材51、にそれぞれ読み替えて説明可能である。
【0092】
<シール部材51の詳細>
つづいて、本実施形態のサーモスタット装置102に使用されるシール部材51の形状および構造を図面に基づいて詳細に説明する。
【0093】
図13は、本実施形態のサーモスタット装置102において使用されるシール部材51のB3-B3’断面(
図12(a)参照)を示す図である。また、
図14は、フランジ24にシール部材51が嵌め込まれた状態を示す模式図である。なお、シール部材51の外観(正面図、側面図、斜視図)は、前述した第1の実施形態のサーモスタット装置1において使用するシール部材30と同一である(
図5参照)。
【0094】
本実施形態のサーモスタット装置102に使用されるシール部材51は、
図5に示すように、外周に向かって先細りする環状のゴムリングであり、その内周面には、フランジ24の外周縁部の上下両面を覆うように嵌め込むための嵌込用溝部51aが全周にわたり形成されている。第1の実施形態において使用されるシール部材30と本実施形態において使用するシール部材51は、嵌込用溝部の内部構造のみが異なる。
【0095】
具体的にいうと、嵌込用溝部51aの底面51bには、
図13および
図14に示すように、フランジ24をシール部材51に嵌め込んだときに外周縁24bと当接するように、フランジ24に向かって突出する凸形状のリブ51cを複数個、設けることとした。これにより、フランジ24の外周縁24bとリブ51c以外の嵌込用溝部51aの底面51bとの間には、前述した特定の隙間として、隙間52が形成される。そして、このリブ51cは、各外向突起30bの位置からずらして配置することが好ましい。この位置にリブ51cを設けることにより、シール部材51が嵌め込まれた状態のフランジ24を取付用溝部2aに圧入した際に、隙間52が、押圧により弾性変形した外向突起30bおよびその周辺部分の「逃げ(遊び)」として機能するため、圧入時にかかる荷重を抑えることができる。これにより、第1の実施形態と同様の効果として、サーモスタット装置102のカバー部材2への取り付け作業が容易になる。
【0096】
また、圧入時にかかる荷重を抑えることができるため、シール部材51のめくれによるシール不良や、圧縮割れによる破損等、取り付け作業による不具合を大幅に減らすことができる。
【0097】
なお、上記嵌込用溝部51aの内部構造および隙間52の形成に関する記載以外の<シール部材51の詳細>の説明については、前述した第1の実施形態の<シール部材30の詳細>と同様であり、サーモスタット装置1をサーモスタット装置102、シール部材30をシール部材51、にそれぞれ読み替えて説明可能である。
【0098】
<効果等>
以上のように、本実施形態のサーモスタット装置102は、冷却回路に組み込む際の押圧によって弾性変形するシール部材51の一部(外向突起30bおよびその周辺部分)を収容する逃げとしての隙間52を、フランジ24の外周縁24bとリブ51c以外の嵌込用溝部51aの底面51bとの間に形成することとした。そして、このリブ51cは、外向突起30bの位置からずらして配置することが好ましい。
【0099】
これにより、冷却水の流路を形成するカバー部材2またはハウジング3へのサーモスタット装置102の取り付け作業を容易にすることができ、ひいては、サーモスタット装置102を自動車の冷却回路に組み込む際の組み立て作業を容易にすることができる。また、本実施形態のサーモスタット装置102は、圧入時にかかる荷重を抑えることができるため、シール部材のめくれによるシール不良や、圧縮割れによる破損等、取り付け作業による不具合を大幅に減らすことができる。
【0100】
<第3の実施形態:第1の変形例>
また、上述した第3の実施形態では、リブ51cを各外向突起30bの位置からずらして配置することとしたが、これに限るものではない。たとえば、上述したシール部材51の第1の変形例として、リブ51cを、シール部材51に設けられた各外向突起30bの位置に合わせて配置することとしてもよい。
図15は、第1の変形例におけるシール部材51のB-B’断面を示す図である。また、
図16は、フランジ24に第1の変形例のシール部材51が嵌め込まれた状態を示す模式図である。この第1の変形例においても、フランジ24の外周縁24bとリブ51c以外の嵌込用溝部51aの底面51bとの間には、隙間52が形成される。
【0101】
この第1の変形例は、たとえば、使用するシール部材の硬度が一般的に使用されるシール部材の硬度(たとえば、硬度が70程度)よりも比較的低い(たとえば、硬度が60程度)、より変形しやすいシール部材を使用する場合に効果的である。
図15および
図16の位置にリブ51cを設けることにより、シール部材51が嵌め込まれた状態のフランジ24を取付用溝部2aに圧入した際に、各外向突起30bの位置からずれた位置に形成された隙間52が、押圧により弾性変形した外向突起30b、リブ51cおよびそれらの周辺部分の「逃げ(遊び)」として機能するため、圧入時にかかる荷重を抑えることができる。
【0102】
<第3の実施形態:第2の変形例>
また、上述した第3の実施形態では、各外向突起30bの位置を基準として、複数のリブ51cを設けることとしたが、たとえば、外向突起30bの位置を基準とすることなく、複数のリブ51cを設けることとしてもよい。具体的には、上記外向突起30bに替えて、シール部材51の外周面に、係止手段としての環状の外向突起(図示せず)を全周にわたり設け、嵌込用溝部51aの底面51bの任意の位置に凸形状のリブ51cを複数個、設けることとしてもよい。この変形例においても、フランジ24の外周縁24bとリブ51c以外の嵌込用溝部51aの底面51bとの間には、隙間52が形成される。
【0103】
<第4の実施形態>
つづいて、第4の実施形態のサーモスタット装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、前述した第1の実施形態と同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する。また、
図1および
図2に示す冷却回路の構成については、前述した第1の実施形態と同様である。
【0104】
<サーモスタット装置>
図17は、第4の実施形態のサーモスタット装置の構成の一例を示す図であり、(a)はカバー部材2およびハウジング3に取り付ける前の状態のサーモスタット装置103の断面図であり、(b)はG部の拡大図である。本実施形態のサーモスタット装置103は、シール部材(以後、シール部材61と呼ぶ)の外観形状および嵌込用溝部(以後、嵌込用溝部61aと呼ぶ)の深さが第1の実施形態のサーモスタット装置1と異なっている。
【0105】
したがって、上記以外の<サーモスタット装置の構成>および<組み立て方法>の説明については、前述した第1の実施形態と同様であり、サーモスタット装置1をサーモスタット装置103、シール部材30をシール部材61、にそれぞれ読み替えて説明可能である。
【0106】
<シール部材61の詳細>
つづいて、本実施形態のサーモスタット装置103に使用されるシール部材61の形状および構造を図面に基づいて詳細に説明する。
【0107】
図18は、シール部材61の形状の一例を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はH部の拡大図である。
【0108】
本実施形態のサーモスタット装置103に使用されるシール部材61は、たとえば、
図17および
図18に示すように、外周に向かって先細りする環状のゴムリングであり、その内周面には、フランジ24の外周縁部の上下両面を覆うように嵌め込むための嵌込用溝部61aが全周にわたり形成されている。なお、本実施形態においては、一例として、シール部材61を外周に向かって先細りする環状のゴムリングとするが、これに限るものはなく、たとえば、対向する面(上側の面と下側の面)が平行な面で構成された環状のゴムリングなど、冷却水をシールできれば形状は任意である。
【0109】
また、本実施形態においては、前述した第1の実施形態において形成されていた隙間34を設けることなく、
図17(b)に示すように、フランジ24の外周縁24bと嵌込用溝部61aの底面61bとを全周にわたって当接させる。すなわち、第1の実施形態のシール部材30とは嵌込用溝部の深さが異なる。
【0110】
また、本実施形態のサーモスタット装置103に使用されるシール部材61は、サーモスタット装置を冷却回路に組み込むときの押圧によって弾性変形するシール部材30の一部を収容するために、特定の隙間を形成することとした。
【0111】
具体的には、
図18に示すように、上記特定の隙間としての逃げ溝61cを断続的に設けることとし、各逃げ溝61cは、それぞれ、シール部材61の上側の面(以後、上面と呼ぶ)または下側の面(以後、下面と呼ぶ)に設けられる。すなわち、各逃げ溝61cは、それぞれ、シール部材61の外周縁から内周縁に向かって形成される対向する2つの面(上面,下面)のうちの一方側の面に設けられる。本実施形態においては、一例として、シール部材61の外周面に8つの外向突起30bが設けられており(
図18(a)参照)、これらの外向突起30bの周辺に、個別に8つの逃げ溝61cが設けられている。また、本実施形態においては、フランジ24にシール部材61を嵌め込んだ場合に、少なくとも1つの逃げ溝61cが外向突起30bの下側となるようにする(
図17参照)。
【0112】
上述したように逃げ溝61cを設けることにより、シール部材61が嵌め込まれた状態のフランジ24を取付用溝部2aに圧入した際に、逃げ溝61cによる隙間が、押圧により弾性変形した外向突起30bおよびその周辺部分の「逃げ(遊び)」として機能するため、圧入時にかかる荷重を抑えることができる。これにより、第1の実施形態と同様の効果として、サーモスタット装置103のカバー部材2への取り付け作業が容易になる。
【0113】
また、圧入時にかかる荷重を抑えることができるため、シール部材61のめくれによるシール不良や、圧縮割れによる破損等、取り付け作業による不具合を大幅に減らすことができる。
【0114】
一方で、たとえば、逃げ溝をシール部材の外周面の全周にわたって形成した場合には、シール部材の体積が少なくなるため(弾性変形した外向突起30bの逃げとなる隙間の体積が大きくなり)、シール部材をカバー部材2とハウジング3で挟持したときにシーリング力が低下するおそれがある。一方、本実施形態に記載のように、逃げ溝61cを断続的に形成する場合には、逃げ溝61cを形成することによるシール部材61の体積減少が抑えられるため、シール部材61をカバー部材2とハウジング3で挟持したときのシーリング力を十分に確保することができる。
【0115】
なお、シール部材61は、すべての逃げ溝61cを同一の面側(上面側または下面側)に設けることとしてもよいが、このようにすると、シール部材61をフランジ24に嵌め込む際に、逃げ溝61cが外向突起30bの下方となるように(
図17参照)、一つ一つシール部材61の向きを確認しながら嵌め込むことになる。そのため、本実施形態のサーモスタット装置103に使用されるシール部材61は、フランジ24へ嵌め込む際の作業容易性の観点から、隣接する逃げ溝61cが、可能な限り同一の面側(上面側または下面側)とならないようにすることが好ましい。これにより、逃げ溝61cがシール部材61の両面に分散配置され、シール部材61の向きを意識しなくても、約半分の逃げ溝61cが外向突起30bの下方に位置することになるため、容易にシール部材61をフランジ24へ嵌め込むことができる。
【0116】
また、本実施形態においては、一例として、他の実施形態と同様に断続的に設けられた外向突起30bを有する構成としたが、必ずしも外向突起30bが断続的である必要はない。たとえば、外向突起30bは、シール部材61の外周面の全周にわたり環状に形成されていてもよい。外向突起30bをシール部材61の外周面全周に形成する場合、逃げ溝61cは、断続的に形成されていれば(例えば8つの逃げ溝61cが上述したように断続的に形成されていれば)圧入時の逃げ(遊び)として機能する。
【0117】
なお、上記シール部材61の外観(逃げ溝61c)、嵌込用溝部61aの深さ、隙間の形成に関する記載以外の<シール部材61の詳細>の説明については、前述した第1の実施形態の<シール部材30の詳細>と同様であり、サーモスタット装置1をサーモスタット装置103、シール部材30をシール部材61、にそれぞれ読み替えて説明可能である。
【0118】
<効果等>
以上のように、本実施形態のサーモスタット装置103において、シール部材61には、隙間としての逃げ溝を断続的に設けることとし、各逃げ溝は、それぞれシール部材61の外周縁から内周縁に向かって形成される対向する2つの面のうちの一方側の面に設けられる。また、外向突起30bをシール部材61の外周面に複数設ける場合には、シール部材61は、外周縁から内周縁に向かって形成される対向する2つの面のうちの一方側の面の外向突起30b周辺に、逃げ溝61cを設けることとした。
【0119】
これにより、冷却水の流路を形成するカバー部材2またはハウジング3へのサーモスタット装置103の取り付け作業を容易にすることができ、ひいては、サーモスタット装置103を自動車の冷却回路に組み込む際の組み立て作業を容易にすることができる。また、本実施形態のサーモスタット装置103は、圧入時にかかる荷重を抑えることができるため、シール部材のめくれによるシール不良や、圧縮割れによる破損等、取り付け作業による不具合を大幅に減らすことができる。
【0120】
また、本実施形態においては、逃げ溝61cを断続的に形成することとしたので、逃げ溝61cを形成することによるシール部材61の体積減少を抑えることができ、その結果として、シール部材61をカバー部材2とハウジング3で挟持したときのシーリング力を十分に確保することができる。
【0121】
なお、各実施形態の説明においては特に言及していないが、第3の実施形態の第1の変形例以外の各実施形態および変形例については、たとえば、使用するシール部材の硬度が一般的に使用されるシール部材の硬度(たとえば、硬度が70程度)か、それよりも比較的高硬度の、より変形しづらいシール部材を使用する場合に効果的である。
【0122】
また、第1~第4の実施形態のサーモスタット装置の形状および構造については、上述した各実施形態の形状および構造に限るものではなく、各部の形状および構造は、装置の仕様や使用環境等に応じて適宜変形、変更等が可能である。
【符号の説明】
【0123】
1,101,101’,102,103 サーモスタット装置
2 カバー部材
2a 取付用溝部
2b 内周面
2c 上面
3 ハウジング
4 第1の流入口
5 第2の流入口
6 第3の流入口
7 冷却水の流出口
11 サーモ動作部
12 リリーフ動作部
21 制御バルブ
21a 第1のばね受け部
22 リリーフバルブ
23 フレーム
23a 第2のばね受け部
23b 円筒部
24,41 フランジ
24a ピストン係止部
24b 外周縁
25,42 外殻部
26 サーモエレメント
27 ピストンロッド
28,33 弁座
29 コイルスプリング
30,30’,51,61 シール部材
30a,51a,61a 嵌込用溝部
30b,30b’ 外向突起
30c,51b,61b 底面
30d 上側外向突起
30e 下側外向突起
30f 位置決め用目印部
31 リリーフロッド
32 コイルスプリング
34,52 隙間
41a 切り欠き部
41b 外周縁
41c ジグルバルブ
51c リブ
61c 逃げ溝