(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028533
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】衝突試験装置
(51)【国際特許分類】
G01M 7/08 20060101AFI20250221BHJP
【FI】
G01M7/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133393
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】592244376
【氏名又は名称】日鉄テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142767
【弁理士】
【氏名又は名称】田ノ上 修二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰則
(72)【発明者】
【氏名】村上 哲也
(57)【要約】
【課題】従来の落錘型の衝突試験装置の小型化を図り、設置面積が狭くても衝突試験が可能な衝突試験装置を提供する。
【解決手段】本発明の衝突試験装置は、剛体壁と、剛体壁に固定された試験体に衝突台車を重力落下のエネルギーを利用して衝突させる衝突試験装置であって、剛体壁側に水平部と、水平部と連続する湾曲部と、湾曲部と連続する垂直部とに、第1のレールと第2のレールとを備えたレール構造体と、第1のレールに沿って走行する衝突台車と、第1のレールに沿って走行し、第2のレールを使ってレール構造体を昇降する昇降手段と衝突台車との連結を制御する電磁石とを備える牽引台車とからなり、牽引台車に連結されて牽引される衝突台車がレール構造体の所定の高さに達すると、電磁石の連結が解除され、衝突台車のみを第1のレールに沿って走行させて、試験体に衝突台車を衝突させることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛体壁と、前記剛体壁に固定された試験体に衝突台車を重力落下のエネルギーを利用して衝突させる衝突試験装置であって、
前記剛体壁側に水平部と、前記水平部と連続する湾曲部と、前記湾曲部と連続する垂直部とに、第1のレールと第2のレールとを備えたレール構造体と、
第1のレールに沿って走行する前記衝突台車と、
第1のレールに沿って走行し、第2のレールを使って前記レール構造体を昇降する昇降手段と前記衝突台車との連結を制御する電磁石とを備える牽引台車とからなり、
前記牽引台車に連結されて牽引される前記衝突台車が前記レール構造体の所定の高さに達すると、前記電磁石の連結が解除され、前記衝突台車のみを第1のレールに沿って走行させて、前記試験体に衝突台車を衝突させることを特徴とする衝突試験装置。
【請求項2】
第2のレールを使って前記レール構造体を昇降する昇降手段が、第2のレールにはラックを有し、前記牽引台車にはモータにより駆動されるピンギアを有し、前記ラックと前記ピンギアとの噛み合わせにより前記牽引台車が前記レール構造体を昇降することを特徴とする請求項1に記載の衝突試験装置。
【請求項3】
前記電磁石は、第1のレールの湾曲部で生ずる前記牽引台車と前記衝突台車との連結の相対角度を打ち消すように回転支持機構で支持されていることを特徴とする請求項1に記載の衝突試験装置。
【請求項4】
前記電磁石は、第1レールの湾曲部で生ずる前記牽引台車と前記衝突台車との連結の相対角度を打ち消すように回転支持機構で支持されていることを特徴とする請求項2に記載の衝突試験装置。
【請求項5】
前記第1のレールはレール頭部とレール側部で作る断面が略長方形であり、前記レール頭部を内側に相対して横向きにした2本のレールで構成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の衝突試験装置。
【請求項6】
前記衝突台車は、第1のレールのレール側部を厚み方向から拘束するレール側部拘束車輪と第1レールのレール頭部間の間隔を拘束するレール間隔拘束車輪を長さ方向に少なくとも2対ずつ備えることを特徴とする請求項5に記載の衝突試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の衝突性能をはじめとする動的強度評価のための衝突試験装置に関し、特に剛体壁に固定された試験体に衝突台車が衝突する衝突試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突安全性の評価は、極めて重要であり、前面衝突試験、側面衝突試験、ポール衝突試験等があり、自動車メーカーでは、衝突試験装置を使って乗員の安全性を確保できるような車両の評価、設計を行っている。同時に、自動車メーカーに部品、部材を供給する部品メーカー、部材メーカーでも動的な変形を伴う衝突性能評価試験は必要であり、衝突試験装置を使った評価結果を基に、CAE(Computer Aided Engineering)等による衝突試験の予測精度の向上や新たな衝突安全性に優れた部品や部材の設計に活用している。
【0003】
従来、前面衝突試験、ポール衝突試験では、固定した剛体壁やポールに対して、車両を牽引して車両の前面や側面を衝突させる衝突試験法が、側面衝突試験では、静止した車両や固定した部品、部材に対して、衝突台車等を牽引して衝突させる衝突試験法が用いられている。
【0004】
しかしながら、車両や衝突台車を牽引ロープで、平面上を牽引して所定の試験速度に達するまでには十分な距離が必要であり、また、衝突直前に牽引ロープが車両や衝突台車から外れるように工夫した衝突試験装置を備える必要があった。そのため衝突試験装置の設置面積は必然的に大きくなり、設置コストが嵩むという問題があった。
【0005】
車両や衝突台車を牽引ロープで、平面上を牽引する手法の1つとして、車両や衝突台車の牽引ロープの反対側を落錘と連結して、その落錘が落下することにより、車両や衝突台車を牽引する落錘型の衝突試験装置が知られている。この衝突試験装置の構成は簡単であるが、落錘の落下高さを高くし、また、落錘の重量を車両や衝突台車の摩擦抵抗に対し大きくしないと牽引速度は速くできないため試験装置が大型化する欠点があった。
【0006】
特許文献1の衝突試験装置は、落錘の部分に動滑車を用いているため、衝突試験装置の落錘の落下高さは低減できるものの、落錘の重量が大きいため、落錘の落下の衝撃を和らげる緩衝装置が必要となって、装置自体が大型化する問題が新たに生じている。また、落錘の落下を途中の緩衝装置で停止することになり、重力のエネルギーを十分に活用しているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の落錘型の衝突試験装置の重力エネルギーの効率的な衝突台車への運動エネルギーの転換を図り、衝突試験装置の小型化と牽引ロープを不要にした設置面積が狭くても衝突試験が可能な衝突試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の衝突試験装置は、剛体壁と、剛体壁に固定された試験体に衝突台車を重力落下のエネルギーを利用して衝突させる衝突試験装置であって、剛体壁側に水平部と、水平部と連続する湾曲部と、湾曲部と連続する垂直部とに、第1のレールと第2のレールとを備えたレール構造体と、第1のレールに沿って走行する衝突台車と、第1のレールに沿って走行し、第2のレールを使ってレール構造体を昇降する昇降手段と衝突台車との連結を制御する電磁石とを備える牽引台車とからなり、牽引台車に連結されて牽引される衝突台車がレール構造体の所定の高さに達すると、電磁石の連結が解除され、衝突台車のみを第1のレールに沿って走行させて、試験体に衝突台車を衝突させることを特徴とする。
【0010】
剛体壁側に水平部と、水平部と連続する湾曲部と、湾曲部と連続する垂直部とに、走行用の第1のレールと昇降用の第2のレールとを備えたレール構造体の所定の高さから衝突台車は重力落下のエネルギーを運動エネルギ―に転換して第1のレールを走行し、水平部で剛体壁に固定された試験体に衝突するので、エネルギー転換の無駄が少なく、装置全体の長さも短くて済み、衝突試験装置の小型化を図ることができる。
【0011】
また、第1のレールに沿って走行し、第2のレールを使って昇降する昇降手段を備える牽引台車により、衝突台車は電磁石で連結されてレール構造体の所定の高さまで牽引される。衝突台車が所定の高さに達すると、牽引台車の電磁石の連結が解除され、衝突台車のみが第1のレールに沿って走行して、試験体に衝突する。そのため衝突試験装置に牽引ロープが不要で、試験装置の小型化が可能になり、設置面積が狭くても衝突試験が可能となる利点がある。
【0012】
さらに、本発明の衝突試験装置では、第2のレールを使って昇降する昇降手段が、第2のレールにはラックを有し、牽引台車にはモータにより駆動されるピンギアを有し、ラックとピンギアとの噛み合わせにより牽引台車が第2のレールを昇降することを特徴とする。
【0013】
牽引台車のレール構造体の昇降手段として、第2のレールにはラックを有し、牽引台車にはモータにより駆動されるピンギアを有し、ラックとピンギアとの噛み合わせにより昇降するようにしたので、昇降手段としても牽引ロープが不要で衝突試験装置の小型化を図ることができる。
【0014】
また、本発明の衝突試験装置では、電磁石は、第1のレールの湾曲部で生ずる牽引台車と衝突台車との連結の相対角度を打ち消すように回転支持機構で支持されていることを特徴とする。
【0015】
牽引台車の電磁石は、回転支持機構で支持されているため、第1のレールの湾曲部で生ずる牽引台車と衝突台車との連結の相対角度を打ち消すように直線的に衝突台車の後部に連結するので、強い吸着力を保持することができる。
【0016】
また、本発明の衝突試験装置では、第1のレールはレール頭部とレール側部で作る断面が略長方形であり、レール頭部を内側に相対して横向きにした2本のレールで構成されることを特徴とする。
【0017】
第1のレールはレール頭部とレール側部で作る断面が略長方形であり、レール頭部を内側に相対して横向きにした2本のレールで構成されるので、衝突台車は、レール側部拘束車輪でレール側部を拘束しながら、レール間隔拘束車輪でレール頭部間の間隔を拘束しながら、揺れを抑えて走行及び衝突ができる。
【0018】
さらに、本発明の衝突試験装置では、衝突台車は、第1のレールのレール側部を厚み方向から拘束するレール側部拘束車輪と第1レールのレール頭部間の間隔を拘束するレール間隔拘束車輪を長さ方向に少なくとも2対ずつ備えることを特徴とする。
【0019】
衝突台車は、高速かつ高い位置精度で試験体に衝突する必要があり、また、衝突台車の衝突中の揺れや横ずれを低減するために、第1のレールのレール側部を厚み方向から拘束するレール側部拘束車輪と第1レールのレール頭部間の間隔を拘束するレール間隔拘束車輪を長さ方向に少なくとも2対ずつ備えることが必要である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の衝突試験装置において、衝突台車は、剛体壁側に水平部と、水平部と連続する湾曲部と、湾曲部と連続する垂直部とに、第1のレールと第2のレールとを備えたレール構造体の所定の高さから、重力落下のエネルギーを運動エネルギ―に転換して走行し、水平部で剛体壁に固定された試験体に衝突するので、エネルギー転換の無駄が少なく、装置全体の長さも短くて済み、衝突試験装置の小型化を図ることができる。また、昇降手段を備える牽引台車により、衝突台車は電磁石で連結されてレール構造体の所定の高さまで牽引される。衝突台車が所定の高さに達すると、牽引台車の電磁石の連結が解除され、衝突台車のみが第1のレールに沿って走行して、試験体に衝突する。そのため衝突試験装置に牽引ロープが不要で、試験装置の小型化が可能になり、試験装置の設置面積が狭くても衝突試験が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態の衝突試験装置の正面概略図である。
【
図3】実施形態の衝突台車の外観図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(b)のB-B線断面図、(d)は(b)のC-C線断面図である。
【
図4】実施形態の牽引台車の外観図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(b)のD-D線断面図、(d)は(b)のE-E線断面図である。
【
図5】衝突試験装置の試験動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【実施例0023】
図1は、実施形態の衝突試験装置の正面概略図である。衝突試験装置1は、レール構造体2と、剛体壁4と、衝突台車6と、牽引台車8とから構成される。
【0024】
剛体壁4は、レール構造体2の水平部の端部に設けられ、剛体壁4に固定された試験体Tの衝突台車6による衝突の衝撃を受け止めるものである。なお、剛体壁4に固定された試験体Tとは、本発明では試験前に試験体Tの少なくとも一部が剛体壁4に接した状態であることを意味する。また、試験体Tの姿勢を保持するための姿勢保持具を用いる場合は、姿勢保持具が剛体壁4に接した状態であることを意味する。
【0025】
レール構造体2は、剛体壁4側に水平部と、水平部と連続する湾曲部と、湾曲部と連続する垂直部から構成され、走行用の第1のレール22と昇降用の第2のレール25とを備えている。水平部の長さは、最大の試験体Tの長さと、衝突台車6の長さと、牽引台車8の長さとの和と同程度の長さであれば良く、湾曲部は、本実施例の第1のレール22では、半径Rの1/4円弧であり、水平部、垂直部と滑らかに連続している。湾曲部の高さと連続する垂直に形成された垂直部の長さとにより、衝突台車6の速度が決まるが、例えば、垂直部の長さが、円弧の半径Rと等しい場合には、2Rの高さからの落下と同等になり、R=5mとすると、摩擦等を無視した場合には、衝突台車6は、14m/s(50.4km/h)で、試験体Tに衝突することになる。なお、湾曲部として楕円等の1/4の曲線形状も想定できるが、円の1/4の形状が曲率半径が一定で、レール構造体2の設計や建設も容易であるので好ましい。
【0026】
図2は、
図1のA-A線断面の拡大図である。第1のレール22はレール頭部24とレール側部23で作る断面が略長方形であり、レール頭部24を内側に相対して横向きにした2本のレールで構成されている。第1のレール22の下側には、ラック26を有する第2のレール25が敷設されている。第1のレール22と第2のレール25は、鋼鉄製のフレームによって支持されている。
【0027】
図3(a)は衝突台車の平面図、
図3(b)は衝突台車の正面図である。なお、
図3(b)では第1のレール22の底部を省略している。衝突台車6は、前部60a、中間部60b、後部60cの3つの部位から構成されている。
【0028】
前部60aには、本実施形態では、ポール状の衝突部材61が取り付けられているが、この部分は衝突試験に応じてアルミハニカムの衝撃吸収部材等に付け替えることができる。また、衝突の衝撃により、変形しないように進行方向には、H形鋼、I形鋼のような補強材66が使用されている。
【0029】
中間部60bは、前後を前部60aと後部60cにボルト等で結合される。前部60aの衝突の衝撃を受け止めるため、中間部60bにも進行方向には、H形鋼、I形鋼のような補強材66が使用されている。また、衝突台車6の衝突中の揺れや横ずれを低減するために、第1のレール22のレール頭部24間の間隔を拘束するレール間隔拘束車輪64a、64bを備えている。
【0030】
後部60cには、第1のレール22のレール側部23を厚み方向から拘束するレール側部拘束車輪62a、62bが前後に1対ずつ設けられている。これにより、第1のレール22のレール側部23に沿った走行ができ、縦揺れを防止することができる。また、後ろのレール側部拘束車輪62a、62bの前には、第1のレール22のレール頭部24の間隔を拘束するレール間隔拘束車輪64a、64bを備えている。これにより、後部60cの横揺れを防止することができ、中間部60bのレール間隔拘束車輪64a、64bと相まって、衝突台車6には、第1のレール22のレール側部23を厚み方向から拘束するレール側部拘束車輪62a、62bと第1レールのレール頭部24間の間隔を拘束するレール間隔拘束車輪64a、64bを長さ方向に少なくとも2対ずつ備えることにより、衝突台車6の走行及び衝突中の揺れや横ずれを低減している。
【0031】
また、後部60cには、牽引台車8の電磁石81に吸着される強磁性体の鉄製の吸着部材67が設けられている。更に、衝突台車6の衝突のエネルギー量を変更するために衝突台車6の重量を調整する錘を積載固定できるようになっている。なお、後部60cにも前部60a、中間部60bと同様に補強材66が使用されて、衝突時の衝撃による変形を防止している。
【0032】
図3(c)は、
図3(b)のB-B線断面図であり、衝突台車6の中間部60bの後部60cよりの断面図である。中間部60bの補強材66の断面と後部60cの第1のレール22のレール側部23を厚み方向から拘束するレール側部拘束車輪62a、62bがレール側部拘束車輪の車軸63にそれぞれ取り付けられている。本実施形態では、1本の車軸に2個の車輪を付けているが、1本の車軸に1個の車輪を付けて、独立して車輪が回るようにしても良い。
【0033】
図3(d)は、
図3(b)のC-C線断面図であり、衝突台車6の前部60aの中間部60bよりの断面図である。前部60aの補強材66の断面と中間部60bの第1のレール22のレール頭部24間の間隔を拘束するレール間隔拘束車輪64a、64bがレール間隔拘束車輪の車軸65にそれぞれ取り付けられている。
【0034】
図4(a)は牽引台車の平面図、
図4(b)は牽引台車の正面図、
図4(c)は
図4(b)のD-D線断面図、
図4(d)は
図4(b)のE-E線断面図である。なお、
図4(b)では第1のレール22の底部を省略している。牽引台車8は、主にモータ80による駆動部位と電磁石81による吸着部位から構成されている。
【0035】
牽引台車8には、第1のレール22のレール側部23を厚み方向から拘束するレール側部拘束車輪82a、82bが前後に1対ずつ設けられている。牽引台車8は衝突台車6と異なり高速走行する必要がないので、レール間隔を拘束する専用の車輪は、特に必要としない。それに替わって、
図4(c)に示すように、レール側部拘束車輪82a、82bには、横方向のずれも防止できるようにフランジの付いた車輪が用いられて、レール側部拘束車輪の車軸83にそれぞれ取り付けられている。
【0036】
モータ80による駆動力は、モータ側スプロケット91からチェーンベルト90によりギア側スプロケット92に伝達される。
図4(d)に示すように、ギア側スプロケット92はギアシャフト94を回転させ、ギアシャフト94に固定されているピンギア93を回転させる。ピンギア93は、第2のレール25のラック26と噛み合って、レール構造体2を昇降する推進力になる。そして牽引台車8は第1のレール22を前後にレール側部拘束車輪82a、82bで走行する。なお、モータ80はモータ単独だけでなく、減速機を含んでいても良い。また、モータによる駆動力をスプロケットとチェーンベルトを使ってピンギアを回転させたが、この実施形態に限定されることなく、モータからギアを使ってピンギアを回転させることも可能である。
【0037】
牽引台車8には、衝突台車6を連結して牽引するための電磁石81が備えられている。牽引台車8の電磁石81が固定支持の場合、第1のレール22の水平部、垂直部で、衝突台車6を牽引することに問題は生じないが、第1のレール22の湾曲部では、牽引台車8と衝突台車6との連結部に角度が生じてしまい、電磁石81の連結が切断される危険性がある。そのため、電磁石81には牽引台車8と衝突台車6との連結の相対角度を打ち消すような回転支持機構が必要である。
【0038】
本実施形態での回転支持機構は、以下のようなものである。電磁石ホルダ85は、吸着部が円状の電磁石81の周方向の下半分と裏面の下半分を包むような形状の部材に2本の腕が付いた形状で、その腕は電磁石支持部84に回転可能にねじ止めされている。また、電磁石81の背後はリンクチェーン86で回転可能に結合され、リンクチェーン86も電磁石支持部84に回転可能にねじ止めされている。そのため電磁石ホルダ85の腕は、電磁石支持部84のねじ止めを中心に回転し、また、電磁石81は、電磁石81の背後のリンクチェーン86の結合部で回転することにより、電磁石81の吸着面と衝突台車6の連結が直線的になり、連結の切断を防ぐことができる。更に電磁石ホルダ85の腕と牽引台車8の台車面との間にバネ87の弾性体を介在させて、水平部では電磁石81の荷重でバネ87は押圧圧縮され電磁石ホルダ85を水平に保つようにし、湾曲部では、バネ87への電磁石81からの押圧が減少するため、バネ87が伸長して電磁石ホルダ85を少し回転させ、連結の角度を小さくするように作用する。
【0039】
次に、衝突試験装置における試験動作を示すフローについて
図5を用いて説明する。試験開始前には、試験体Tと衝突台車6と牽引台車8は、
図1に示すように、レール構造体2の水平部に停止しており、試験体Tは、剛体壁4に固定されている(ステップS10)。
【0040】
牽引台車8を衝突台車6の後部の吸着部材67に近づけ、牽引台車8の電磁石81の電源が入り(電磁石ON)、牽引台車8の電磁石81と衝突台車6の吸着部材67とを吸着させて、牽引台車8と衝突台車6とを連結させる(ステップS20)。
【0041】
牽引台車8のモータ80の電源が入り、上昇モードで牽引台車8のピンギア93が回転を開始し、第2のレール25のラック26と噛み合ってレール構造体2の湾曲部へと進行する。この際、牽引台車8の車輪と連結された衝突台車6の車輪は、第1のレール22を走行する。レール構造体2の湾曲部に達すると牽引台車8と衝突台車6との間に角度が生じるが、牽引台車8の電磁石81は相対角度を打ち消すように回転支持機構に支持されているため、電磁石81の吸着面と衝突台車6の吸着部材67との連結は折れ曲がりのない直線的になり、連結の切断の恐れがなく、牽引台車8と衝突台車6はレール構造体2の湾曲部を上昇して、垂直部へと進行する(ステップ30)。
【0042】
垂直部へと進行した牽引台車8と衝突台車6は、衝突台車6がレール構造体2の所定の高さまで到達すると、牽引台車8のモータ80の電源が切れて、その位置で停止する(ステップ40)。レール構造体2の所定の高さとは、試験体Tに衝突する直前の衝突台車6の速度と運動エネルギー(衝突エネルギ―)が所望の値になる高さである。なお、摩擦を無視できる場合は、衝突台車6の速度は高さのみで決まるが、実際には摩擦による減速があるので事前に試験をして高さと速度の関係の校正曲線を作成しておけば良い。また、運動エネルギーは、速度と重量から求まるので、重量を調整することで、所望の衝突速度と運動エネルギーになる所定の高さを決めることができる。
【0043】
牽引台車8の電磁石81の電源が切られ(電磁石OFF)、衝突台車6との連結が解除されて、衝突台車6は、レール構造体2の所定の高さから第1のレール22を重力落下のエネルギーを利用して走行し、剛体壁4に固定された試験体Tに衝突して、衝突試験は、終了する(ステップ50)。図示はしないが、試験体Tの周辺には、照明装置と高速度カメラ等を設置して、衝突前後の試験体Tの変形挙動が記録される。
【0044】
衝突試験終了後に、変形した試験体Tはレール構造体2の水平部から取り除かれ、レール構造体2の垂直部に停止している牽引台車8のモータ80の電源が入り、降下モードで牽引台車8のピンギア93が逆回転を開始し、第2のレール25のラック26と噛み合ってレール構造体2を降下して、水平部まで到達し、モータ80の電源が切られ、試験前の位置に復帰する(ステップ60)。
【0045】
本発明での衝突試験の試験体Tとしては、自動車本体、自動車の強度部材、電気自動車のバッテリーケース等があり、試験方法としては、衝突台車6の試験体Tへの前面衝突、側面衝突、後面衝突、ポール衝突等の試験方法が可能である。
【0046】
衝突試験の評価としては、変形した試験体Tの変形量の測定、吸収エネルギー量、高速度カメラによる衝突による変形挙動の解析等がある。また、試験前に試験体Tの各部位にひずみゲージや加速度計等のセンサーを取り付けておけば、衝突の際の変形量の時間的推移をデータとして得ることができる。このような衝突試験の評価結果とCAE等で計算した予想との妥当性の評価を行って、CAEによる衝突試験の予測精度の向上に役立てるとともに、CAEを使って衝突安全性に優れた新たな車体設計や部材設計に役立てることができる。
【0047】
以上、本発明の衝突試験装置について、実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構造や動作に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、適宜その構造や動作を変更することができる。また、車両の安全性評価試験のみならず、構造物への動的強度評価試験にも適用が可能である。