(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028543
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】電波吸収体の製造方法および電波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20250221BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
H05K9/00 X
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133421
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】303050746
【氏名又は名称】桐野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】桐野 秀樹
【テーマコード(参考)】
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
5E321BB23
5E321BB60
5E321GG11
5J020EA02
5J020EA03
5J020EA10
(57)【要約】
【課題】従来の広帯域な平面型の電波吸収体は、ミリ波帯では被覆樹脂の反射による影響があり、また外部振動や接触によりカーボンやフェライトの粉末ダストが電波吸収体から分離落下して電子機器の製造ラインにおいて問題であった。
【解決手段】連続気泡の発泡樹脂によるカバー層の一方の面に粘着剤を浸透させ、独立気泡もしくは連続気泡の発泡樹脂にカーボン粉体もしくはフェライト粉体を分散した吸収層の一方の面に粘着剤を塗布し、カバー層の粘着剤浸透面と吸収層の粘着剤塗布面を接合する。カバー層と吸収層の発泡樹脂は発泡ポリスチロールもしくは発泡ポリウレタンもしくは発泡ポリエチレンを、粘着剤はアクリル系粘着剤もしくはシリコーン粘着剤もしくはウレタン粘着剤もしくはゴム系粘着剤とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡として発泡させた樹脂によるカバー層の一方の面に表面から内部に向かって濃度が低くなるように粘着剤を浸透させ、独立気泡もしくは連続気泡として発泡させた樹脂にカーボン粉体もしくはフェライト粉体を分散した吸収層の一方の表面に粘着剤を塗布し、前記カバー層の粘着剤を浸透させた面と前記吸収層の粘着剤を塗布した面とを接面させ、前記カバー層と前記吸収層のそれぞれの表面に着いた粘着剤にて接合する電波吸収体の製造方法
【請求項2】
前記カバー層と吸収層の発泡させた樹脂は発泡ポリスチロールもしくは発泡ポリウレタンもしくは発泡ポリエチレンとする請求項1記載の電波吸収体の製造方法
【請求項3】
前記粘着剤はアクリル系粘着剤もしくはシリコーン粘着剤もしくはウレタン粘着剤もしくはゴム系粘着剤とする請求項1記載の電波吸収体の製造方法
【請求項4】
前記粘着剤を揮発性の有機溶剤と混合して液化ガスもしくは圧縮ガスによって霧状に噴射して前記カバー層の一方の面に浸透させる請求項1記載の電波吸収体の製造方法
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法で製造された電波吸収体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂を用いたミリ波帯向けの広帯域で平面型の電波吸収体の製造方法と、その製造方法による電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
無線機器の製造工程では放射電波強度や放射指向性等を検査する必要があり、高価格で生産量の少ない産業用の無線機器では広いスペースに設置された大型の電波暗室が用いられることが多い。これに対して、低価格で生産量の多い民生用の無線機器では限られたスペースに複雑に配置された複数の製造ラインに挿入できるように小型の電波暗箱が求められることが多い。
一方、電波暗箱の内面に貼られる電波吸収体にはピラミッド型やクサビ型や平面型があるが、民生用の無線機器の製造ラインに挿入される電波暗箱では、小型な電波暗箱内部の有効空間を広く確保できることに加え、製造ラインを構築調整する際に工具等が接触して電波吸収体を破損する危険性の少ないことから、平面型の電波吸収体が採用されることが多い。
以上のことから、近年普及が進む広帯域なミリ波帯を使用する民生用の無線機器においても、ミリ波帯で使用できる広帯域で平面型の電波吸収体が求められている。
ここで、広帯域で平面型の電波吸収体を実現する効果的な方法は、空間から電波吸収体内部への比誘電率を一様に増加させるとともに、電波吸収領域に発泡樹脂にカーボン粉体やフェライト粉体の損失物質を低密度で分散させた材料を用いることである。
特許文献1と特許文献2には、空間から電波吸収体内部への誘電率を一様に増加させる例が示されている。特許文献1は、誘電率の異なる複数枚の誘電体板を、空間から電波吸収体の深部へ向けて誘電率が徐々に大きくなるように積層し、積層した複数枚の誘電体板をポリカーボネートの薄膜で被膜することで一体化している。また、特許文献2は、バインダーとカーボンブラックおよび/またはグラファイトと予備発泡体ビーズによる誘電率の異なる複数個の混合物を作成し、これら混合物を誘電率が連続的に変化するよう積層して熱風乾燥させて一体化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実全昭60-048294号公報
【特許文献2】特開平04-018798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記の特許文献1では複数枚の誘電体板から成る電波吸収体の全体を非発泡状態のポリカーボネート等の薄膜で囲うことから、特に波長の短いミリ波ではポリカーボネート等の薄膜での反射が無視できず、よってミリ波帯での使用が困難であった。また、上記の特許文献2では電波吸収体に外部から振動が加わった場合や電波吸収体の表面に何かが触れた場合にカーボンブラックやグラファイトの粉末ダストが電波吸収体から分離落下し、特にミリ波帯の電子機器の製造ラインにおいて問題となっていた。具体的には、ミリ波帯の電子機器では導波管開口部や伝送線路に小さなカーボン等の粉末ダストが付着するだけで伝送特性が変化して製造ラインでの検査で不良品となり、また製品内に粉末ダストが混入したまま出荷されて使用中に導波管開口部や伝送線路に移動して付着し、突然の性能悪化や動作不良を起こすという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電波吸収体の製造方法は、前記従来の電波吸収体の有する問題を解決するために、連続気泡として発泡させた樹脂によるカバー層の一方の面に表面から内部に向かって濃度が低くなるように粘着剤を浸透させ、独立気泡もしくは連続気泡として発泡させた樹脂にカーボン粉体もしくはフェライト粉体を分散した吸収層の一方の表面に粘着剤を塗布し、前記カバー層の粘着剤を浸透させた面と前記吸収層の粘着剤を塗布した面とを接面させ、前記カバー層と前記吸収層のそれぞれの表面に着いた粘着剤にて接合するものである。
さらに、本発明の電波吸収体の製造方法は、前記カバー層と吸収層の発泡させた樹脂は発泡ポリスチロールもしくは発泡ポリウレタンもしくは発泡ポリエチレンとし、前記粘着剤はアクリル系粘着剤もしくはシリコーン粘着剤もしくはウレタン粘着剤もしくはゴム系粘着剤とするものである。
さらに、本発明の電波吸収体の製造方法は、前記粘着剤を揮発性の有機溶剤と混合して液化ガスもしくは圧縮ガスによって霧状に噴射して前記カバー層の一方の面に浸透させるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電波吸収体の製造方法によれば、以下の複数の効果を同時に実現できる。一つ目の効果は上記特許文献1が有する非発泡樹脂薄膜の反射によりミリ波帯での使用が困難となる問題を解決するものである。つまり、本発明の電波吸収体の製造方法によれば、カバー層の誘電率は樹脂の発泡密度を小さくすることにより空間の誘電率に近づけられるとともに、カバー層に浸透した粘着剤は空間から電波吸収体内部へ向かう方向に濃度が高くなるように分布していることから、粘着剤の濃度変化に合わせて電波吸収体の誘電率も一様に且つ連続的に増加することとなる。さらに、吸収層の発泡密度やカーボン粉体もしくはフェライト粉体の分散密度を調整することで、吸収層の誘電率をカバー層と吸収層の接合面の誘電率に近づけられるので、空間から見たカバー層の表面から吸収層までの誘電率を一様に且つ連続的に増加させることができる。その結果、広帯域で平面型の電波吸収体を実現できる。
二つ目の効果は上記特許文献2が有するカーボン等の粉末ダストによる問題を解決するものである。つまり、本発明の電波吸収体の製造方法によれば、電波吸収体のカバー層にはカーボン粉体もしくはフェライト粉体が含まれていないので電波吸収体の表面に何かが触れてもカーボンやフェライトの粉末ダストが電波吸収体から分離落下することがない。また、カーボン粉体もしくはフェライト粉体が含まれている吸収体層に外部から振動が加わりカーボンやフェライトの粉末ダストが吸収体層から分離しても、カバー層に浸透した粘着剤に捉えられてカバー層の表面まで粉末ダストが通過到達して落下することもない。よってミリ波帯の電子機器における製造ラインでの不良発生や、製品に混入したまま出荷されて機器使用中に内部で粉末ダストが導波管開口部や伝送線路上に移動して付着し、突然の性能悪化や動作不良を起こすという問題が起こることが防げる。
三つ目の効果は広帯域で平面型の電波吸収体を少ない構成要素で製造できることである。つまり、上述したように電波吸収体を広帯域とするには空間から電波吸収体の内部に向かって誘電率を一様に増加させる必要があるが、上記特許文献1では、誘電率の異なる複数枚の誘電体板が、空間から電波吸収体の深部へ向けて誘電率が徐々に大きくなっていると言うためには最低でも3枚以上の誘電体板が必要となる。また、上記特許文献2でも、誘電率の異なる複数個の混合物が、誘電率が連続的に変化するよう積層されていると言うためには最低でも3個以上の混合物が必要となる。これに対して、本発明の電波吸収体の製造方法によれば、カバー層と吸収層の2つを用意するだけであり、さらにカバー層と吸収層を一体化するための粘着剤の浸透濃度が連続的になることを利用して誘電率を一様に増加させられる。
四つ目の効果は、簡単な工法で製造できることである。つまり、上記特許文献1では、複数枚の誘電体を囲うようにポリカーボネート等の薄膜で被膜するので、全方向から薄膜を着ける必要がある。また、上記特許文献2では、複数個の混合物を順番にモールド型の中に積層してから熱風を導入した後にモールド型から取り出す必要がある。これに対して、本発明の電波吸収体の製造方法によれば、カバー層と吸収層に粘着剤を浸透もしくは塗布するのは1つの方向だけであり、カバー層と吸収層の粘着剤が着いた面を接面するだけで一体化できる。
以上のように、本発明は、従来技術である特許文献1と特許文献2の有する問題を解決できる効果に加え、少ない構成要素と簡単な工法で製造できるという効果を有する優れた電波吸収体の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】本発明の電波吸収体のカバー層に粘着剤を浸透させる方法の例を示す図
【
図3】本発明の電波吸収体の吸収層に粘着剤を塗布する方法の例を示す図
【
図4】本発明の電波吸収体の比誘電率の分布の例を示す図
【
図5】本発明の各層と電波吸収体の背面に金属板を置いたときの反射特性の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例0009】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の電波吸収体の構成を示している。
図1において、101は電波吸収体の全ての構成要素であり、102は連続気泡の発泡樹脂によるカバー層、103は連続気泡もしくは独立気泡の発泡樹脂にカーボン粉体もしくはフェライト粉体を分散した吸収層である。また、104はカバー層102の粘着剤を浸透させる面、105は吸収層の粘着剤を塗布する面を示している。また、106は吸収しようとする電波が到来する方向を示す矢印であり、電波吸収体101はカバー層102の粘着剤を浸透させる面104の反対側の空間から到来する電波を吸収する構造となっている。
ここで、カバー層に粘着剤を浸透させる方法の例を
図2に示す。
図2において、201は粘着剤をカバー層の面104に吹き付けるスプレー装置であり、スプレー装置201の内部には粘着剤が溶剤と混合され、液化ガスもしくは圧縮ガスとともに噴射される。なお、
図2では缶状のスプレー装置を1つだけ使用する例を示しているが、複数のノズルから同時に広範囲に粘着剤を噴射する特別な装置を用いることで効率良く均一に吹き付けることも可能である。
図2において、スプレー装置201から噴射された粘着剤202は、溶剤が気化するまでの時間は溶剤に粘着剤が溶けた低粘度な液体であることから、カバー層の面104からカバー層の内部に浸透圧により浸透していく。そして、低粘度な液体の粘着剤はカバー層の樹脂に少しずつ捉えられながら浸透していくことと、粘着剤の量が少ないほど浸透圧が大きくなることとから、粘着剤の濃度はカバー層の面104が最も高く、カバー層の内部に向かって濃度が一様に低くなるように浸透することとなる。つまり、
図1の電波の到来方向106である空気の側からカバー層の内部を見ると、粘着剤の濃度が一様に高くなるように浸透することとなる。なお、
図2に示すように空気側から吸引器203を用いて吸引しながら粘着剤を噴射すれば、浸透する深さをより深くすることが可能となる。
次に、吸収層に粘着剤を塗布する方法の例を
図3に示す。
図3において、301は粘着剤を吸収層の面105に塗布する塗布具、302は塗布具に塗られた粘着剤である。なお、
図3ではロール刷毛を塗布具とする例を示しているが、平面上に設けた多数のノズルから粘着剤を小量ずつ絞り出して押し付ける特別な装置を用いることで、効率良く均一に塗布することも可能である。
ここまでで、
図1のカバー層102には面104から内部に向かうほど粘着剤の濃度が低くなると同時に面104の表面にも粘着剤が塗布された状態となっており、
図1の吸収層103の面105の表面には粘着剤が塗布された状態となっている。よって、カバー層102の面104と吸収層の面105を互いに押し付けることにより、粘着層同士が接面保持されることで接合された状態となる。
図4は、カバー層102と吸収層103の内部の比誘電率の分布の例を示しており、401は比誘電率の分布線である。
図4に示すように、電波の到来方向106である空気の側からカバー層102の内部を見ると、粘着剤の濃度が一様に高くなるように浸透しているので、比誘電率も粘着剤の濃度に対応して一様に増加することとなる。そして、粘着剤により接面保持されたカバー層102と吸収層103の境界の比誘電率に一致するように吸収層103の比誘電率を調整することにより、
図4に示すような比誘電率の分布を実現することが可能となる。つまり、電波吸収体の表面から内部まで一様に且つ連続的に比誘電率が変化するとともに内部の吸収層にて電波を吸収させることができ、よって広帯域で良好な吸収特性を有する平面発泡型の電波吸収体を実現することができる。
図5は、カバー層として連続気泡とした発泡ポリエチレンによる厚さが5mmのシートを、吸収層として連続気泡として発泡ポリウレタンにカーボン粉体を分散した厚さが14mmのシートを、粘着剤としてスチレンブタジエンゴムを主成分としメチルペンタンとイソブタンを溶剤としてプロパンの液化ガスで噴射するものを使用した電波吸収体の反射特性の例である。なお、
図5は測定物の背面に金属板を置いたときの反射特性であり、測定はフリースペース法を用いて測定した。また、
図5において501は粘着剤を浸透させない状態でカバー層のみを測定した結果を、502は粘着剤を塗布しない状態で吸収層のみを測定した結果を、503は本実施の形態の電波吸収体を測定した結果を、それぞれ示している。
図5のように、カーボン粉体やフェライト粉体を含まないカバー層は比誘電率が空気に近く無損失に近いため反射特性は約0dBとなっているが、カーボン粉体を含む吸収層は反射特性が-21dBから-25dBとなっている。これに対して、カバー層の内部に一様な濃度勾配の粘着剤を有する本実施の形態の電波吸収体では、粘着剤の比誘電率の勾配がカバー層と吸収層のインピーダンスを整合させる効果を有することで、吸収層のみの反射特性と比べて最低でも3dBで、最大では15dBだけ反射特性が向上していることが分かる。なお、本実施の形態の電波吸収体の反射特性が72.5GHzで最良となるリップルが生じているのは、
図5に反射特性の実測値を示した実施例ではカバー層と吸収層の境界で比誘電率が一致するまでの調整ができていなく、よってカバー層と吸収層の境界と背面の金属板の間での多重反射により損失が増大したことによる。
以上、本発明のミリ波帯で広帯域な平面型の電波吸収体の製造方法について実施の形態を示したが、本発明は他の周波数帯の電波吸収体にも応用できることは言うまでもない。
以上のように本発明の電波吸収体の製造方法は、少ない構成要素と製造手順により広帯域で平面型のミリ波帯で使用できる電波吸収体を製造できるものであり、本発明の製造方法による電波吸収体は近年普及が進むミリ波レーダやミリ波帯を使用する高速無線機器に好適である。