(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028556
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250221BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20250221BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20250221BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250221BHJP
C23C 10/28 20060101ALI20250221BHJP
C23C 12/00 20060101ALI20250221BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20250221BHJP
H01F 3/02 20060101ALI20250221BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20250221BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20250221BHJP
C22C 21/10 20060101ALN20250221BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
C21D9/46 501A
C23C10/28
C23C12/00
H01F1/147 183
H01F3/02
H01F41/02 B
H02K1/02 Z
C22C21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133453
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 岳顕
(72)【発明者】
【氏名】山村 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 一郎
(72)【発明者】
【氏名】真木 純
【テーマコード(参考)】
4K028
4K033
5E041
5E062
5H601
【Fターム(参考)】
4K028CA02
4K028CA03
4K028CB02
4K028CB03
4K028CB04
4K028CB05
4K028CC02
4K028CD02
4K028CE02
4K033AA01
4K033CA00
4K033CA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA04
4K033CA05
4K033CA06
4K033CA07
4K033CA08
4K033CA09
4K033EA00
4K033EA02
4K033FA01
4K033FA03
4K033FA13
4K033FA14
4K033GA00
4K033HA02
4K033KA01
4K033KA02
4K033KA03
4K033QA01
4K033QA02
4K033RA03
4K033SA03
4K033SA04
4K033TA09
5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
5E041BD09
5E041CA04
5E041NN01
5E062AA06
5H601AA09
5H601AA26
5H601AA29
5H601HH02
5H601HH07
(57)【要約】
【課題】磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性に優れる無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法を提供する。
【解決手段】母材鋼板が、化学組成として、Si、Zn、Alを含有し、この母材鋼板を、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域の平均Zn濃度が、板厚1/4部のZn濃度と比較して0.20質量%以上高く、且つ板厚1/2部のZn濃度と比較して0.40質量%以上高い無方向性電磁鋼板を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材鋼板と、絶縁被膜とを備える無方向性電磁鋼板において、
前記母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
Zn:0.5%以上5.0%以下、
Al:1.0%以上6.0%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
前記母材鋼板の板厚が、0.10mm以上0.35mm以下であり、
前記母材鋼板を、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、
前記母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域の平均Zn濃度が、
板厚1/4部のZn濃度と比較して0.20質量%以上高く、且つ
板厚1/2部のZn濃度と比較して0.40質量%以上高く、
前記板厚1/4部の前記Zn濃度が、
前記板厚1/2部の前記Zn濃度と比較して0.20質量%以上高く、
前記母材鋼板の前記表面から板厚1/10までの領域の平均Al濃度が、
板厚1/4部のAl濃度と比較して1.50質量%以上高く、且つ
板厚1/2部のAl濃度と比較して3.0質量%以上高く、
前記板厚1/4部の前記Al濃度が、
前記板厚1/2部の前記Al濃度と比較して1.50質量%以上高い
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記母材鋼板が、前記化学組成として、質量%で、
Cr:0.50%以上2.0%以下、
を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板を含む鉄心。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板を積層する工程を有する鉄心の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の鉄心を含むモータ。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板を積層して鉄心を得る工程と、前記鉄心を組み立ててモータを得る工程とを有するモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、磁束密度が高く、鉄損特性に優れ、且つ打ち抜き性にも優れる無方向性電磁鋼板、この無方向性電磁鋼板を含む鉄心および鉄心の製造方法、並びに、この鉄心を含むモータおよびモータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスを削減する必要性から、工業分野では消費エネルギーの少ない製品が開発されている。例えば、自動車分野では、ガソリンエンジンとモータとを組み合わせたハイブリッド駆動自動車、モータ駆動の電気自動車等の低燃費自動車がある。これら低燃費自動車に共通した技術はモータであり、モータの小型化や高効率化が重要な技術となっている。
【0003】
例えば、ハイブリッド駆動自動車や電気自動車の駆動モータは、設置スペースの制約および重量減による燃費低減のために、小型化の需要が高まっている。モータを小型化するには、モータを高トルク化する必要がある。そのため、モータの鉄心材料として用いられる無方向性電磁鋼板には、磁束密度をさらに高めることが求められている。
【0004】
加えて、自動車に搭載できる電池容量には制限があることから、駆動モータに対して高効率化の需要が高まっている。モータを高効率化するには、エネルギー損失を低減する必要がある。そのため、モータの鉄心材料として用いられる無方向性電磁鋼板には、さらなる低鉄損化が求められている。特に、ハイブリッド駆動自動車や電気自動車のモータでは、小型化に伴うトルク低下を補うために、モータの回転速度を高めることが試みられている。そのため、無方向性電磁鋼板には、商用周波域から高周波域における鉄損をさらに低減することが求められている。
【0005】
加えて、モータでは、その内部構造として固定子(ステータ)と回転子(ロータ)との間の隙間が小さいほど、モータとしての性能が向上する。モータの各部材は、形状精度が高いことが必要となる。そのため、モータの鉄心材料として用いる無方向性電磁鋼板は、鋼板の打ち抜き性にも優れることが求められている。
【0006】
例えば、特許文献1には、高周波鉄損の改善を目的として、鋼板表層のSi濃度が鋼板の板厚中心部のSi濃度よりも高い珪素鋼板が開示されている。また、特許文献2には、高周波鉄損の改善を目的として、厚み方向でAlの濃度勾配を有する無方向性電磁鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-293422号公報
【特許文献2】国際公開第2009/072394号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した特許文献1および特許文献2の技術を用いれば、高周波鉄損がある程度は向上する。しかし、これらの技術では、商用周波鉄損が十分に考慮されているとは言えない。加えて、これらの技術では、Siなどの元素を鋼板表層に偏析させることに起因して、鋼板の打ち抜き性が低下しやすく、磁束密度の向上も十分に考慮されているとは言えない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた。本発明は、磁束密度、鉄損特性(商用周波鉄損および高周波鉄損)、並びに打ち抜き性に優れる無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。加えて、本発明は、この無方向性電磁鋼板を含む鉄心および鉄心の製造方法、並びに、この鉄心を含むモータおよびモータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一態様にかかる無方向性電磁鋼板は、
母材鋼板と、絶縁被膜とを備え、
前記母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
Zn:0.5%以上5.0%以下、
Al:1.0%以上6.0%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
前記母材鋼板の板厚が、0.10mm以上0.35mm以下であり、
前記母材鋼板を、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、
前記母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域の平均Zn濃度が、
板厚1/4部のZn濃度と比較して0.20質量%以上高く、且つ
板厚1/2部のZn濃度と比較して0.40質量%以上高く、
前記板厚1/4部の前記Zn濃度が、
前記板厚1/2部の前記Zn濃度と比較して0.20質量%以上高く、
前記母材鋼板の前記表面から板厚1/10までの領域の平均Al濃度が、
板厚1/4部のAl濃度と比較して1.50質量%以上高く、且つ
板厚1/2部のAl濃度と比較して3.0質量%以上高く、
前記板厚1/4部の前記Al濃度が、
前記板厚1/2部の前記Al濃度と比較して1.50質量%以上高い。
(2)上記(1)記載の無方向性電磁鋼板では、
前記母材鋼板が、前記化学組成として、質量%で、
Cr:0.50%以上2.0%以下、
を含有してもよい。
(3)本発明の一態様にかかる鉄心は、上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板を含んでもよい。
(4)本発明の一態様にかかる鉄心の製造方法は、上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板を積層する工程を有してもよい。
(5)本発明の一態様にかかるモータは、上記(3)に記載の鉄心を含んでもよい。
(6)本発明の一態様にかかるモータの製造方法は、上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板を積層して鉄心を得る工程、およびこの鉄心を組み立ててモータを得る工程を有してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記態様によれば、磁束密度、鉄損特性(商用周波鉄損および高周波鉄損)、並びに打ち抜き性に優れる無方向性電磁鋼板を提供することができ、加えて、この無方向性電磁鋼板を含む鉄心および鉄心の製造方法、並びに、この鉄心を含むモータおよびモータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板の断面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。各元素の含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
【0014】
[無方向性電磁鋼板]
本発明者らは、従来技術で検討されていないZnに着目し、母材鋼板の厚み方向でZn濃度を勾配させることを着想した。具体的には、板厚中心部から母材鋼板の表面に向かってZn濃度が高まるような勾配を持たせることにより、磁束密度、鉄損特性(商用周波鉄損および高周波鉄損)、並びに打ち抜き性を向上できると考えた。
【0015】
上記のようなZn濃度勾配を実現するには、母材鋼板の原料として製鋼段階からZnを含有させては濃度勾配の制御が難しいと考えられるが、製造工程の途中段階で母材鋼板中にZnを拡散させれば濃度勾配が制御できると考えられる。本発明者らは、上記のようなZn濃度勾配を実現する工程条件を種々検討した。例えば、製造工程の途中段階で鋼板にZnめっきを施して熱処理することで、Znを鋼板中に拡散させることを試みた。
【0016】
しかし、めっき条件や熱処理条件などを種々検討したが、この方法では、Znを鋼板中に好ましく拡散させることができなかった。本発明者らは、Zn単体では鋼板中にZnを拡散させることが難しいと考え、他元素を併用してZnを複合的に鋼板中に拡散させることを試みた。その結果、本発明者らは、製造工程の途中段階で鋼板にZn単体めっきではなくZnAl合金めっきを施し、その上で拡散熱処理条件を制御すれば、Znを鋼板中に好ましく拡散できることを見出した。
【0017】
さらに、本発明者らは、ZnAl合金めっき条件および拡散熱処理条件を種々変更して様々な濃度勾配を有する鋼板を製造し、これらの鋼板の磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性を評価した。その結果、本発明者らは、磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性を好ましく向上できるZn濃度勾配およびAl濃度勾配を見出した。
【0018】
本発明者らが検討した結果、特に、上述したように母材鋼板の厚み方向でZn濃度を勾配させることで、磁束密度、商用周波鉄損、打ち抜き性を劣化させずに、高周波鉄損を向上させることができることが分かった。ZnがFe中に拡散したときに鋼板の固有抵抗へ与える影響は現時点で明確になっていないが、ZnがFe中に拡散すると、SiやAlほどではないが、鋼板の固有抵抗を高め、その結果、高周波数で顕著になる表皮効果存在時の鉄損、主に渦電流損を下げると推定される。また、本実施形態では、Zn濃度に加えて、母材鋼板の厚み方向でAl濃度を勾配させるが、このAl濃度の勾配が、高周波数で顕著になる表皮効果存在時の鉄損、主に渦電流損を下げると推定される。
【0019】
SiやAlは、Fe中に拡散すると、結晶格子歪みを生じ、磁壁移動を阻害し、ヒステリシス損を増加させ、並びに、鋼硬度を上昇させて打ち抜き性を劣化させるが、Znは、Fe同様に遷移元素であるため、Fe中に拡散しても、結晶格子歪みが小さく、Al単独の拡散に比べて磁壁移動の阻害や鋼硬度の上昇が抑制されると推定される。
【0020】
以上の知見により完成した本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、次の特徴を有する。
【0021】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、母材鋼板と、絶縁被膜とを備え、
上記母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
Zn:0.5%以上5.0%以下、
Al:1.0%以上6.0%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
上記母材鋼板の板厚が、0.10mm以上0.35mm以下であり、
上記母材鋼板を、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、
上記母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域の平均Zn濃度が、
板厚1/4部のZn濃度と比較して0.20質量%以上高く、且つ
板厚1/2部のZn濃度と比較して0.40質量%以上高く、
上記板厚1/4部の上記Zn濃度が、
上記板厚1/2部の上記Zn濃度と比較して0.20質量%以上高く、
上記母材鋼板の上記表面から板厚1/10までの領域の平均Al濃度が、
板厚1/4部のAl濃度と比較して1.50質量%以上高く、且つ
板厚1/2部のAl濃度と比較して3.0質量%以上高く、
上記板厚1/4部の上記Al濃度が、
上記板厚1/2部の上記Al濃度と比較して1.50質量%以上高い。
【0022】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、
上記母材鋼板が、上記化学組成として、質量%で、
Cr:0.5以上2.0%以下、
を含有することが好ましい。
【0023】
図1として、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の断面模式図を示す。以下では、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の各特徴について詳しく説明する。
【0024】
[板厚]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板の板厚を、0.35mm以下とする。好ましくは0.30mm以下である。一方、過度の薄肉化は鋼板やモータの生産性を著しく低下させるので、母材鋼板の板厚は0.10mm以上とする。好ましくは、0.15mm以上である。
【0025】
母材鋼板の板厚は、マイクロメーターにより測定すればよい。なお、測定試料となる無方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、これを除去した後に測定する。例えば、絶縁被膜は、次の方法で除去すればよい。
【0026】
絶縁被膜等を有する無方向性電磁鋼板を、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液に順に浸漬し、その後、洗浄すればよい。最後に、温風で乾燥すればよい。これにより、絶縁被膜が除去された無方向性電磁鋼板(母材鋼板)を得ることができる。
【0027】
[Zn濃度勾配]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板を切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域(表層領域)の平均Zn濃度が、板厚1/4部のZn濃度と比較して0.20質量%以上高く、且つ板厚1/2部のZn濃度と比較して0.40質量%以上高ければよい。磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性を好ましく向上させるには、表層領域の平均Zn濃度は、板厚1/4部のZn濃度と比較して、0.25質量%以上高いことが好ましく、0.3質量%以上高いことがさらに好ましい。また、表層領域の平均Zn濃度は、板厚1/2部のZn濃度と比較して、0.50質量%以上高いことが好ましく、0.6質量%以上高いことがさらに好ましい。
【0028】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、上記の切断面で見たとき、板厚1/4部のZn濃度が、板厚1/2部のZn濃度と比較して0.20質量%以上高ければよい。板厚1/4部のZn濃度は、板厚1/2部のZn濃度と比較して、0.25質量%以上高いことが好ましく、0.3質量%以上高いことがさらに好ましい。
【0029】
なお、表層領域の平均Zn濃度、板厚1/4部のZn濃度、および板厚1/2部のZn濃度は、相互に上記関係を満足すればよい。そのため、表層領域、板厚1/4部、および板厚1/2部での、化学組成としてのZn濃度は、特に制限されない。ただ、上記切断面中でZn濃度が最小値に近くなる板厚1/2部のZn濃度は、化学組成として、0.050質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがさらに好ましい。板厚1/2部のZn濃度は、化学組成として、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましい。同様に、上記切断面中でZn濃度が最大値に近くなる表層領域の平均Zn濃度は、化学組成として、6.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。表層領域の平均Zn濃度は、化学組成として、1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることが好ましく、3.3質量%以上であることがより好ましく、3.5質量%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
上記したZn濃度勾配は、切断方向が板厚方向と平行な切断面を、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で確認すればよい。
【0031】
具体的には、まず初めに、上記した方法で無方向性電磁鋼板から絶縁被膜などを除去して母材鋼板を得る。この母材鋼板から、切断方向が板厚方向と平行となるように試験片を切り出す。この切断面の断面構造を、観察視野中に母材鋼板の板厚が入る倍率にてEPMAで観察する。観察視野中に母材鋼板の板厚が入らない場合には、連続した複数視野にて断面構造を観察する。
【0032】
上記した観察視野中の母材鋼板について、EPMAで板厚方向に沿って線分析を行い、母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域(表層領域)の平均Zn濃度と、板厚1/4部のZn濃度と、板厚1/2部のZn濃度とを求めればよい。なお、板厚1/2部は、上記の切断面で母材鋼板の板厚方向における中心部に対応し、板厚1/4部は、上記の切断面で母材鋼板の表面と板厚1/2部との間の板厚方向における中間部に対応する。
上記の線分析において、表層領域の測定ラインと、板厚1/4部の測定ラインと、板厚1/2部の測定ラインとは、板厚方向に沿って重なっているものとする。また、表層領域の平均Zn濃度は、母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域を、深さ方向に等間隔(例えば、0.5μmピッチ)でZn濃度を分析し、その平均値を「母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域の平均Zn濃度」とする。
【0033】
なお、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、板面上で互いに離間する任意の10カ所の観察箇所にて上記した切断面の観察を行い、7カ所以上でZn濃度勾配が上記条件を満足すればよい。7カ所以上の観察箇所でZn濃度勾配が上記条件を満足すれば、磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性が好ましく向上する。
【0034】
[Al濃度勾配]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板を切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域(表層領域)の平均Al濃度が、板厚1/4部のAl濃度と比較して1.50質量%以上高く、且つ板厚1/2部のAl濃度と比較して3.0質量%以上高ければよい。母材鋼板中で上記Zn濃度を好ましく勾配させるには、表層領域の平均Al濃度は、板厚1/4部のAl濃度と比較して、1.8質量%以上高いことが好ましく、2.0質量%以上高いことが好ましく、2.5質量%以上高いことがさらに好ましい。また、表層領域の平均Al濃度は、板厚1/2部のAl濃度と比較して、3.5質量%以上高いことが好ましく、4.0質量%以上高いことが好ましく、4.5質量%以上高いことがさらに好ましい。
【0035】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、上記の切断面で見たとき、板厚1/4部のAl濃度が、板厚1/2部のAl濃度と比較して1.50質量%以上高ければよい。板厚1/4部のAl濃度は、板厚1/2部のAl濃度と比較して、1.8質量%以上高いことが好ましく、2.0質量%以上高いことが好ましく、2.4質量%以上高いことがさらに好ましい。
【0036】
なお、表層領域の平均Al濃度、板厚1/4部のAl濃度、および板厚1/2部のAl濃度は、相互に上記関係を満足すればよい。そのため、表層領域、板厚1/4部、および板厚1/2部での、化学組成としてのAl濃度は、特に制限されない。ただ、上記切断面中でAl濃度が最大値に近くなる表層領域の平均Al濃度は、化学組成として、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以下であることがさらに好ましい。表層領域の平均Al濃度は、化学組成として、3.0質量%以上であることが好ましく、4.0質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることがさらに好ましい。同様に、上記切断面中でAl濃度が最小値に近くなる板厚1/2部のAl濃度は、化学組成として、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。板厚1/2部のAl濃度は、化学組成として、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
上記したAl濃度勾配は、Zn濃度勾配と同様に、切断方向が板厚方向と平行な切断面を、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で確認すればよい。
【0038】
また、Zn濃度勾配と同様に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、板面上で互いに離間する任意の10カ所の観察箇所にて上記した切断面の観察を行い、7カ所以上でAl濃度勾配が上記条件を満足すればよい。7カ所以上の観察箇所でAl濃度勾配が上記条件を満足すれば、母材鋼板中で上記Zn濃度が好ましく勾配する。
【0039】
[化学組成]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、Zn濃度勾配およびAl濃度勾配が上記のように制御されていれば効果を得られるので、母材鋼板の化学組成は、特に制限されない。母材鋼板は、化学組成として、Si、Zn、およびAlを含有し、必要に応じて選択元素を含有し、残部がFe及び不純物からなればよい。以下、各元素について説明する。なお、下記する母材鋼板の化学組成は、母材鋼板全体としての平均値である。
【0040】
Si:1.0%以上5.0%以下
Si(ケイ素)は、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Si含有量は1.0%以上とする。Si含有量は、1.5%以上であることが好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい。一方、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。したがって、Si含有量は5.0%以下とする。Si含有量は、4.0%以下であることが好ましく、3.50%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
Zn:0.5%以上5.0%以下
Zn(亜鉛)は、磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性を向上させるのに有効な元素である。したがって、Zn含有量は、母材鋼板全体の平均として、0.5%以上とする。Zn含有量は、0.7%であることが好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましい。一方、過剰に含有させても上記効果が飽和する。したがって、Zn含有量は、母材鋼板全体の平均として、4.0%以下とする。Zn含有量は、3.0%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましい。なお、Znは、母材鋼板の原料として製鋼段階から含まれてもよいが、上記のようにZn濃度勾配を制御するためには、製造工程の途中段階で母材鋼板中にZnを拡散させることが好ましい。
【0042】
Al:1.0%以上6.0%以下
Al(アルミニウム)は、母材鋼板中でZn濃度を勾配させるのに有効な元素である。したがって、Al含有量は、母材鋼板全体の平均として、1.0%以上とする。Al含有量は、1.5%であることが好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい。一方、過剰に含有させても上記効果が飽和する。したがって、Al含有量は、母材鋼板全体の平均として、6.0%以下とする。Al含有量は、5.0%以下であることが好ましく、4.0%以下であることがさらに好ましい。なお、Alは、母材鋼板の原料として製鋼段階から含まれてもよいが、上記のようにZn濃度勾配を制御するためには、製造工程の途中段階で母材鋼板中にAlを拡散させることが好ましい。なお、本実施形態では、Alは酸可溶性アルミニウムを意味する。
【0043】
C:0%以上0.0050%以下
C(炭素)は、選択元素である。しかし、過剰に含有されると磁気特性が劣化する。したがって、C含有量は0.0050%以下とする。C含有量は、0.0030%以下であることが好ましい。一方、C含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値を、0%超としてもよく、0.0010%としてもよい。
【0044】
Mn:0%以上3.0%以下
Mn(マンガン)は、選択元素である。Mnは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させる効果を有する。ただ、Mnは、SiやAlに比べて合金コストが高いため、Mn含有量が多くなると経済的に不利となる。このため、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.50%以下である。Mnは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Mn含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
P:0%以上0.30%以下
P(リン)は、選択元素である。Pは、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させる効果を有する。ただ、Pは固溶強化元素でもあるため、P含有量が過剰になると、鋼板が硬質化して冷間圧延が困難になる。このため、P含有量は0.30%以下とする。P含有量は、0.20%以下であることが好ましい。Pは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、P含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましく、0.0150%以上であることがさらに好ましい。
【0046】
S:0%以上0.010%以下
S(硫黄)は、選択元素である。ただ、Sは、鋼中のMnと結合して微細なMnSを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させることがある。このため、S含有量は0.010%以下とする。S含有量は、0.0050%以下であることが好ましく、0.0030%以下であることがさらに好ましい。S含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値を、0%超としてもよく、0.00010%としてもよい。
【0047】
N:0%以上0.010%以下
N(窒素)は、選択元素である。ただ、Nは、Alと結合して微細なAlNを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、磁気特性を劣化させることがある。このため、N含有量を0.010%以下とする。N含有量は、0.0050%以下であることが好ましく0.0030%以下であることがさらに好ましい。N含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値は、0%超としてもよく、0.00010%以上としてもよく、0.00150%超としてもよく、0.00250%以上としてもよい。
【0048】
Sn:0%以上0.10%以下
Sb:0%以上0.10%以下
Sn(錫)およびSb(アンチモン)は、選択元素である。SnおよびSbは、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性(例えば、磁束密度)を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、鋼を脆化させて冷延破断を引き起こすことがあり、また磁気特性を劣化させることがある。このため、SnおよびSbの含有量はそれぞれ0.10%以下とする。SnおよびSbは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Sn含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがさらに好ましい。また、Sb含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましく、0.0020%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがさらに好ましく、0.0250%超であることがさらに好ましい。
【0049】
Ca:0%以上0.010%以下
Ca(カルシウム)は、選択元素である。Caは、粗大な硫化物を生成することで微細な硫化物(MnS、Cu2S等)の析出を抑制するので介在物制御に有効である。Caを適度に添加すると、結晶粒成長性を向上させて磁気特性(例えば、鉄損)を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ca含有量は0.010%以下とする。Ca含有量は、0.0080%以下であることが好ましく、0.0050%以下であることがさらに好ましい。Caは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Ca含有量を、0%超とすることが好ましく、0.00030%以上とすることが好ましい。Ca含有量は、0.0010%以上であることが好ましく、0.0030%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
Cr:0%以上5.0%以下
Cr(クロム)は、選択元素である。Crは、固有抵抗を高めて、磁気特性(例えば、鉄損)を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、飽和磁束密度を低下させることがあり、また上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Cr含有量は5.0%以下とする。Cr含有量は、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。Crは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Cr含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましい。また、Crは、母材鋼板中にZnやAlを拡散させる際に、カーケンダルボイドが形成されることを抑制する。そのため、Cr含有量は0.50%以上であることが好ましい。
【0051】
Ni:0%以上5.0%以下
Ni(ニッケル)は、選択元素である。Niは、磁気特性(例えば、飽和磁束密度)を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ni含有量は5.0%以下とする。Ni含有量は、0.50%以下であることが好ましく、0.10%以下であることがさらに好ましい。Niは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Ni含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましい。
【0052】
Cu:0%以上5.0%以下
Cu(銅)は、選択元素である。Cuは、鋼板強度を向上させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、飽和磁束密度を低下させることがあり、また上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Cu含有量は5.0%以下とする。Cu含有量は、0.10%以下であることが好ましい。Cuは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Cu含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましい。
【0053】
Ce:0%以上0.10%以下
Ce(セリウム)は、選択元素である。Ceは、粗大な硫化物、酸硫化物を生成することで微細な硫化物(MnS、Cu2S等)の析出を抑制し、粒成長性を良好にして鉄損を低減させる効果を有する。ただ、過剰に含有させると、硫化物および酸硫化物以外に酸化物も生成し、鉄損を劣化させることがあり、また上記効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ce含有量は0.10%以下とする。Ce含有量は、0.010%以下であることが好ましく、0.0090%以下であることがさらに好ましく、0.0080%以下であることがさらに好ましい。Ceは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記効果をより確実に得るには、Ce含有量は、0%超であることが好ましく、0.0010%以上であることが好ましい。Ce含有量は、0.0020%以上であることがさらに好ましく、0.0030%以上であることがさらに好ましく、0.0050%以上であることがさらに好ましい。
【0054】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成は、上記の元素に加えて、選択元素として、例えば、B、O、Mg、Ti、V、Zr、Nd、Bi、W、Mo、Nb、Yを含有してもよい。これらの選択元素の含有量は、公知の知見に基づいて制御すればよい。例えば、これらの選択元素の含有量は、以下とすればよい。これらの選択元素の下限値は、0%超であってもよい。
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下。
【0055】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材鋼板は、化学組成として、質量%で、
C :0.0010%以上0.0050%以下、
Mn:0.0010%以上3.0%以下、
P :0.0010%以上0.30%以下、
S :0.00010%以上0.010%以下、
N :0.00150%超0.010%以下、
B :0.00010%以上0.10%以下、
O :0.00010%以上0.10%以下、
Mg:0.00010%以上0.10%以下、
Ca:0.00030%以上0.010%以下、
Ti:0.00010%以上0.10%以下、
V :0.00010%以上0.10%以下、
Cr:0.0010%以上5.0%以下、
Ni:0.0010%以上5.0%以下、
Cu:0.0010%以上5.0%以下、
Zr:0.00020%以上0.10%以下、
Sn:0.0010%以上0.10%以下、
Sb:0.0010%以上0.10%以下、
Ce:0.0010%以上0.10%以下、
Nd:0.0020%以上0.10%以下、
Bi:0.0020%以上0.10%以下、
W :0.0020%以上0.10%以下、
Mo:0.0020%以上0.10%以下、
Nb:0.00010%以上0.10%以下、
Y :0.0020%以上0.10%以下、
の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0056】
また、B含有量は0.010%以下であることが好ましく、O含有量は0.010%以下であることが好ましく、Mg含有量は0.0050%以下であることが好ましく、Ti含有量は0.0020%以下であることが好ましく、V含有量は0.0020%以下であることが好ましく、Zr含有量は0.0020%以下であることが好ましく、Nd含有量は0.010%以下であることが好ましく、Bi含有量は0.010%以下であることが好ましく、W含有量は0.010%以下であることが好ましく、Mo含有量は0.01%以下であることが好ましく、Nb含有量は0.0020%以下であることが好ましく、Y含有量は0.010%以下であることが好ましい。また、Ti含有量は0.0010%以上であることが好ましく、V含有量は0.0020%以上であることが好ましく、Nb含有量は0.0020%以上であることが好ましい。
【0057】
上記した化学組成は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、化学組成は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、Alは、酸可溶性Alとして、試料を酸で加熱分解した後の濾液を用いてICP-AESによって測定すればよい。また、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
【0058】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、母材鋼板の結晶粒径は、特に限定しないが、例えば、結晶粒径は平均で40μm以上200μm以下であることが好ましい。母材鋼板の平均結晶粒径は、60μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがさらに好ましい。一方、母材鋼板の平均結晶粒径は、150μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい。
【0059】
平均結晶粒径は、JIS G0551:2020に規定される切断法により測定すればよい。例えば、縦断面組織写真において、板厚方向および圧延方向について切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いればよい。この縦断面組織写真としては光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば50倍の倍率で撮影した写真を用いればよい。
【0060】
[無方向性電磁鋼板の製造方法]
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上述の構成を有すれば、製造方法は特に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造するための一つの例であり、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の好適な例である。
【0061】
例えば、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、鋳造工程と、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、表面処理工程と、仕上焼鈍工程と、を備えればよい。なお、表面処理工程は、鋼板表面にZnAl合金をめっきする工程であり、例えば熱間圧延工程後または冷間圧延工程後に実施すればよい。また、仕上焼鈍工程は、一般的に鋼の再結晶と結晶粒径とを制御する工程であるが、本実施形態では、ZnAl合金を鋼板中に拡散させる熱処理も兼ねる。
【0062】
具体的には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、
鋳造工程と、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、表面処理工程と、仕上焼鈍工程と、を備え、
上記鋳造工程では、化学組成として、質量%で、
Si:1.0%以上5.0%以下、
Zn:0%以上0.10%以下、
Al:0%以上0.6%以下、
C :0%以上0.0050%以下、
Mn:0%以上3.0%以下、
P :0%以上0.30%以下、
S :0%以上0.010%以下、
N :0%以上0.010%以下、
Sn:0%以上0.10%以下、
Sb:0%以上0.10%以下、
Ca:0%以上0.010%以下、
Cr:0%以上5.0%以下、
Ni:0%以上5.0%以下、
Cu:0%以上5.0%以下、
Ce:0%以上0.10%以下、
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブを鋳造し、
上記熱間圧延工程では、スラブに熱間圧延を施し、
上記冷間圧延工程では、鋼板に冷間圧延を施し、
上記表面処理工程では、鋼板の表面上に、Alが50質量%以上80質量%以下で残部がZnおよび不純物からなるZnAl合金を厚さ3μm以上35μm以下でめっきし、
上記仕上焼鈍工程では、
酸化過程として、ZnAl合金がめっきされた鋼板を、露点0℃超20℃以下の雰囲気中で、室温から200℃以上500℃以下の温度範囲まで昇温し、
昇温過程として、酸化過程後の鋼板を、水素95体積%以上100体積%以下で露点-50℃以上0℃以下の雰囲気中で、1000℃以上1200℃以下の温度範囲まで、1秒以上15時間以下の昇温時間で昇温し、1000℃以上1200℃以下の温度範囲で0分以上1分未満の時間保定し、
均熱過程として、昇温過程後の鋼板を、800℃以上1100℃以下の温度範囲まで冷却した後に、800℃以上1100℃以下の温度範囲で1分以上20時間以下の均熱を行い、
冷却過程として、均熱過程後の鋼板を、0.1℃/分以上10℃/分以下の平均冷却速度で、室温以上400℃以下の温度範囲まで冷却すればよい。
なお、上記の室温とは、JIS Z 8703:1983に規定されている「常温」に相当し、20±15℃(5~35℃)の範囲を意味する。
【0063】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記熱間圧延工程後に、熱延板焼鈍工程を有してもよい。また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、熱間圧延工程後または熱延板焼鈍工程後に、酸洗工程を有してもよい。また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、仕上焼鈍工程後に、被膜形成工程を有してもよい。
【0064】
図2として、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の流れ図を示す。以下では、各工程について詳しく説明する。
【0065】
[鋳造工程]
鋳造工程では、上記化学組成を有するスラブ(鋼片)を鋳造すればよい。なお、上記したスラブの化学組成は、ZnおよびAlを除いて、上記した無方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成と実質的に同一である。ZnおよびAlは、表面処理工程で鋼板上にZnAl合金としてめっきし、仕上焼鈍工程で鋼板中に拡散させる。そのため、本実施形態では、スラブと最終製品とでは、ZnおよびAlの含有量が異なる。
【0066】
鋳造方法は、特に限定されないが、例えば、連続鋳造法によりスラブを製造してもよく、溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。また、他の方法によりスラブを製造してもよい。
【0067】
スラブの厚さは、特に限定されないが、例えば、150mm以上350mm以下とすればよい。スラブの厚さは好ましくは、220mm以上280mm以下である。スラブとして、厚さが10mm以上70mm以下の、いわゆる薄スラブを用いてもよい。
【0068】
[熱間圧延工程]
熱間圧延工程では、上記スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板を得ればよい。熱間圧延の条件は、特に限定されないが、例えば、熱延鋼板の板厚(仕上げ板厚)を、1.0mm以上2.5mm以下とすることが好ましい。板厚が1.0mm以上であると、熱間圧延機にかかる負荷が少なく、熱間圧延工程における生産性が高い。
【0069】
熱間圧延前のスラブの加熱温度は特に限定されないが、コスト等の観点から1000℃以上1300℃以下とすればよい。また、粗圧延後の仕上げ熱延では、仕上げ熱延の最終圧延温度を900℃以上とすることが好ましく、950℃以上とすることがさらに好ましい。
【0070】
[冷間圧延工程]
冷間圧延工程では、鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得ればよい。冷間圧延工程では、冷延鋼板の板厚(仕上げ板厚)を、0.10mm以上0.35mm以下とすればよい。なお、冷間圧延を施す鋼板は、熱間圧延工程後の鋼板、熱延板焼鈍工程後の鋼板、酸洗工程後の鋼板、または表面処理工程後の鋼板の何れでもよい。
【0071】
その他の冷間圧延の条件は、特に限定されないが、例えば、冷間圧延における累積圧下率は、60%~95%とすることが好ましい。圧下率が60%以上であると、Pが無方向性電磁鋼板の集合組織に与える効果をより安定的に得ることができる。また、圧下率が95%以下であると、無方向性電磁鋼板を工業的に安定して製造できる。
【0072】
冷間圧延時の鋼板温度は、室温でもよい。また、冷間圧延は、鋼板温度が100℃~200℃である温間圧延であってもよい。鋼板温度を100℃~200℃まで加熱するために、鋼板を予熱してもよいし、ロールを予熱してもよい。
【0073】
[表面処理工程]
表面処理工程では、鋼板の表面上に、Alが50質量%以上80質量%以下で残部がZnおよび不純物からなるZnAl合金を厚さ3μm以上35μm以下でめっきすればよい。なお、表面処理を施す鋼板は、熱間圧延工程後の鋼板、熱延板焼鈍工程後の鋼板、酸洗工程後の鋼板、または冷間圧延工程後の鋼板の何れでもよい。
【0074】
鋼板の表面上にめっきさせるZnAl合金に含まれるAlは、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。一方、このAlは、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
また、鋼板の表面上にめっきさせるZnAl合金の厚さは、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがさらに好ましい。一方、この厚さは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。なお、冷間圧延前にZnAl合金をめっきさせる場合、冷間圧延でZnAl合金の厚さが1/5程度にまで減厚されるので、冷間圧延での減厚分を見込んだ厚さとすることが好ましい。例えば、上記した数値範囲内で、25μm以上35μm以下とすることが好ましい。
【0076】
鋼板の表面上にZnAl合金をめっきさせる方法は、特に限定されないが、例えば、溶融めっき、電気めっき、溶融塩電解、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)とすればよい。これらのうち、モータ用材料であることや処理コストなどを考慮すると、溶融めっきが好ましい。
【0077】
[仕上焼鈍工程]
仕上焼鈍工程では、ZnAl合金がめっきされた鋼板を、酸化過程、昇温過程、均熱過程、および冷却過程に供する。この仕上焼鈍によって、鋼が再結晶し、結晶粒が好ましい粒径に成長し、且つZnAl合金が鋼板中に拡散する。
【0078】
[酸化過程]
仕上焼鈍工程の酸化過程では、ZnAl合金がめっきされた鋼板を、露点0℃超20℃以下の雰囲気中で、室温から200℃以上500℃以下の温度範囲まで昇温すればよい。なお、酸化過程に供する鋼板は、冷間圧延工程後の鋼板、または表面処理工程後の鋼板の何れでもよい。
【0079】
酸化過程の雰囲気の露点は、5℃以上であることが好ましく、8℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、15℃以下であることが好ましく、12℃以下であることがさらに好ましい。また、酸化過程で昇温する温度範囲は、250℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、450℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがさらに好ましい。
【0080】
上記の酸化過程によって、ZnAl合金の表面にAl酸化被膜が形成され、後処理である昇温過程および均熱過程中にZnが蒸発することが抑制され、その結果、母材鋼板中のZn濃度勾配が実現できると考えられる。
【0081】
なお、上記の酸化過程は、鋼板にめっきされたZnAl合金のZn含有量が10%超である場合に必要となる工程である。鋼板にめっきされたZnAl合金のZn含有量が10%以下である場合に上記の酸化過程を実施すると、磁気特性が劣化する。
【0082】
[昇温過程]
仕上焼鈍工程の昇温過程では、酸化過程後の鋼板を、水素95体積%以上100体積%以下で露点-50℃以上0℃以下の雰囲気中で、1000℃以上1200℃以下の温度範囲まで、1秒以上15時間以下の昇温時間で昇温し、1000℃以上1200℃以下の温度範囲で0分以上1分未満の時間保定すればよい。
【0083】
昇温過程の雰囲気の水素は、96体積%以上であることが好ましく、97体積%以上であることがさらに好ましい。一方、この水素は、99体積%以下であることが好ましく、98体積%以下であることがさらに好ましい。また、昇温過程の雰囲気の露点は、-40℃以上であることが好ましく、-30℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、-10℃以下であることが好ましく、-20℃以下であることがさらに好ましい。また、昇温過程で昇温する温度範囲は、1050℃以上であることが好ましく、1100℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、1150℃以下であることが好ましく、1130℃以下であることがさらに好ましい。また、昇温過程で昇温する温度範囲は、昇温過程で保定する温度範囲と同じであることが好ましい。保定時間は1秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがさらに好ましい。一方、この保定時間は50秒以下であることが好ましく、30秒以下であることがさらに好ましい。
【0084】
上記の昇温過程によって、ZnがZnAl合金から母材鋼板へ拡散して、母材鋼板の表層領域でのZn濃度が高くなると考えられる。
【0085】
[均熱過程]
仕上焼鈍工程の均熱過程では、昇温過程後の鋼板を、800℃以上1100℃以下の温度範囲まで冷却した後に、800℃以上1100℃以下の温度範囲で1分以上20時間以下の均熱を行えばよい。なお、均熱過程での均熱温度は、昇温過程での保定温度よりも低い温度とする。
【0086】
均熱過程で均熱する温度範囲は、850℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、1080℃以下であることが好ましく、1060℃以下であることがさらに好ましい。また、均熱過程で均熱する時間は、10分以上であることが好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。一方、この時間は、10時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがさらに好ましい。
【0087】
均熱過程の雰囲気は、特に限定されないが、例えば、水素を95体積%以上100体積%以下で露点を-50℃以上0℃以下とすればよい。
【0088】
上記の均熱過程によって、昇温過程で母材鋼板の表層領域に拡散したZn濃度と、母材鋼板の内部のZn濃度とが好ましくバランスして、上記した母材鋼板のZn濃度勾配が実現できると考えられる。同時に、上記した母材鋼板のAl濃度勾配が実現できると考えられる。
【0089】
[冷却過程]
仕上焼鈍工程の冷却過程では、均熱過程後の鋼板を、0.1℃/分以上10℃/分以下の平均冷却速度で、室温℃以上400℃以下の温度範囲まで冷却すればよい。なお、平均冷却速度とは、均熱温度から400℃までの温度を、均熱温度から400℃までの冷却時間で割った値を意味する。
【0090】
冷却過程での平均冷却速度は、0.3℃/分以上であることが好ましく、0.5℃/分以上であることがさらに好ましい。一方、この平均冷却速度は、5℃/分以下であることが好ましく、3℃/分以下であることがさらに好ましい。また、冷却過程で冷却する温度範囲は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、370℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがさらに好ましい。
【0091】
なお、冷却過程での平均冷却速度が上記範囲よりも遅い場合や、冷却過程で冷却する温度範囲が上記範囲よりも高い場合には、均熱過程までに制御された母材鋼板内のZn濃度勾配が、冷却過程中に乱されることがある。
【0092】
[熱延板焼鈍工程]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記熱間圧延工程後に、熱延板焼鈍工程を有してもよい。熱延板焼鈍を施すことにより、好ましい磁気特性が得られる。この熱延板焼鈍は、熱間圧延後の冷却途中で熱延鋼板を保熱する保熱処理であってもよい。
【0093】
熱延板焼鈍の条件は、特に限定されず、公知の条件とすればよい。例えば、箱焼鈍により行う場合には、700℃以上900℃以下の温度域に60分以上20時間以下保持することが好ましい。連続焼鈍により行う場合には、900℃以上1100℃以下の温度域に1秒間以上180秒間以下保持することが好ましい。
【0094】
[酸洗工程]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、熱間圧延工程後または熱延板焼鈍工程後に、酸洗工程を有してもよい。酸洗によって、鋼板の表面に生成したスケールを除去すればよい。酸洗条件は、特に限定されず、公知の条件とすればよい。
【0095】
[被膜形成工程]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、仕上焼鈍工程後に、被膜形成工程を有してもよい。被膜形成工程では、仕上焼鈍工程後の鋼板を、被膜形成過程に供し、必要に応じて焼鈍過程に供すればよい。
【0096】
[被膜形成過程]
被膜形成条件は、特に限定されず、公知の条件とすればよい。例えば、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁被膜を鋼板表面に塗布して被膜を形成すればよい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁被膜を形成してもよい。また、被膜形成過程は、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施す過程であってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などがある。
【0097】
[焼鈍過程]
焼鈍過程では、鋼板を、750℃以上850℃以下の温度範囲で30分以上150分以下にて保持すればよい。なお、焼鈍過程に供する鋼板は、被膜形成過程後の鋼板、または被膜形成過程後に打抜加工などを行って鉄心を形作るための形状を付与した鋼板の何れでもよい。
【0098】
焼鈍過程で保持する温度範囲は、760℃以上であることが好ましく、770℃以上であることがさらに好ましい。一方、この温度範囲は、840℃以下であることが好ましく、830℃以下であることがさらに好ましい。また、焼鈍過程の上記温度範囲で保持する時間は、45分以上であることが好ましく、60分以上であることがさらに好ましい。一方、この時間は、135分以下であることが好ましく、120分以下であることがさらに好ましい。
【0099】
この焼鈍過程によって、鋼に残留した歪が除去されるとともに、鋼が再結晶し、結晶粒が好ましい粒径に成長することもある。なお、本実施形態に係る焼鈍過程後の鋼板は、焼鈍過程前に形成された各元素の濃度勾配が維持されている。
【0100】
焼鈍過程の雰囲気は、特に制限されない。例えば、焼鈍過程の雰囲気は、窒素雰囲気、水素雰囲気、または窒素と水素との混合雰囲気とすればよい。また、焼鈍過程の雰囲気の露点は、-50℃以上であることが好ましく、-40℃以上であることがさらに好ましい。一方、この露点は、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがさらに好ましい。
【0101】
[鉄心]
本実施形態に係る鉄心は、上述した無方向性電磁鋼板を含めばよい。詳しくは、この鉄心は、上述した特徴を有し且つ鉄心を形作るための形状を有する無方向性電磁鋼板を重ね合わせて一体化した積層体であればよい。本実施形態に係る鉄心は、一体打抜き型鉄心または分割型鉄心であればよい。
【0102】
[鉄心の製造方法]
本実施形態に係る鉄心の製造方法は、上述した無方向性電磁鋼板を積層する工程を有すればよい。詳しくは、この鉄心の製造方法は、上述した特徴を有し且つ鉄心を形作るための形状を有する無方向性電磁鋼板を重ね合わせて一体化する積層工程を有すればよい。無方向性電磁鋼板の積層数や積層条件は、目的に応じて調整すればよい。
【0103】
なお、本実施形態に係る鉄心の製造方法に供する鋼板が鉄心を形作るための形状を有していない場合には、上記の積層工程の前に、鋼板を打抜加工して打抜部材を得る打抜工程を有してもよい。鋼板の打抜形状や打抜条件は、目的に応じて調整すればよい。
【0104】
また、本実施形態に係る鉄心の製造方法は、上記の打抜工程後、または上記の積層工程後に、歪取焼鈍工程を有してもよい。
【0105】
なお、本実施形態に係る鉄心の製造方法にて歪取焼鈍工程を実施する場合には、上記した無方向性電磁鋼板の製造方法にて被膜形成工程の焼鈍過程を省略してもよい。例えば、上記した仕上焼鈍工程後の鋼板を、被膜形成工程の被膜形成過程に供し、被膜形成工程の焼鈍過程に供さずに、被膜形成過程後の鋼板を打抜工程に供し、この打抜部材を積層工程に供すればよい。その上で、上記の打抜工程後、または上記の積層工程後に、歪取焼鈍工程を実施すればよい。
【0106】
この歪取焼鈍工程によって、鋼に残留した歪が除去されるとともに、鋼が再結晶し、結晶粒が好ましい粒径に成長することもある。
【0107】
歪取焼鈍工程では、打抜部材または積層体を、750℃以上850℃以下の温度範囲で30分以上150分以下にて保持すればよい。歪取焼鈍工程の雰囲気は、特に制限されない。例えば、歪取焼鈍工程の雰囲気は、窒素雰囲気、水素雰囲気、または窒素と水素との混合雰囲気とすればよい。また、歪取焼鈍工程の雰囲気の露点は、-50~0℃であればよい。
【0108】
[モータ]
本実施形態に係るモータは、上述した鉄心を含めばよい。詳しくは、モータは、主に、固定子(ステータ)、回転子(ロータ)、ベアリング、ブラケット、リード線を含むが、本実施形態に係るモータは、ステータやロータの鉄心として、上述した鉄心を含めばよい。本実施形態に係るモータは、ハイブリッド駆動自動車や電気自動車の駆動モータであることが好ましく、例えばIPMモータやSPMモータなどのPMモータであることが好ましい。
【0109】
[モータの製造方法]
本実施形態に係るモータの製造方法は、上述した無方向性電磁鋼板を積層して鉄心を得る工程、およびこの鉄心を組み立ててモータを得る工程を有すればよい。詳しくは、このモータの製造方法は、上述した特徴を有し且つ鉄心を形作るための形状を有する無方向性電磁鋼板を積層して鉄心を得る積層工程と、この鉄心をステータ鉄心やロータ鉄心として用いて組み立ててモータを得る組立工程を有すればよい。無方向性電磁鋼板の積層数や積層条件、および鉄心の組立条件は、目的に応じて調整すればよい。
【0110】
なお、上記した鉄心の製造方法と同様に、本実施形態に係るモータの製造方法に供する鋼板が鉄心を形作るための形状を有していない場合には、上記の積層工程の前に、鋼板を打抜加工して打抜部材を得る打抜工程を有してもよい。鋼板の打抜形状や打抜条件は、目的に応じて調整すればよい。
【0111】
また、上記した鉄心の製造方法と同様に、本実施形態に係るモータの製造方法は、上記の打抜工程後、または上記の積層工程後に、歪取焼鈍工程を有してもよい。この歪取焼鈍工程を実施する場合には、上記した無方向性電磁鋼板の製造方法にて被膜形成工程の焼鈍過程を省略してもよい。本実施形態に係るモータの製造方法での歪取焼鈍条件は、上記した鉄心の製造方法での歪取焼鈍条件と同じとすればよい。
【実施例0112】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。以下、本発明例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
【0113】
表1~6に示す化学組成を有するスラブを用いて、表17~21に示す条件で各工程を実施して無方向性電磁鋼板を製造した。また、何れの製造でも、熱間圧延後または熱延板焼鈍後に酸洗を行い、冷間圧延後にZnAl合金を鋼板上にめっきして、仕上焼鈍後に絶縁被膜を形成した。絶縁被膜としては、主として無機成分と樹脂を含有する有機無機複合被膜を鋼板上に形成した。
【0114】
製造した無方向性電磁鋼板の母材鋼板について、板厚、Zn濃度勾配、Al濃度勾配、
化学組成、平均結晶粒径などを測定した。これらの測定方法は、上述の通りである。これらの測定結果を表7~16および表22~26に示す。表中で「-」で表す元素は、意識した制御および製造をしていないことを示す。また、表中で「-」で表す製造条件は、その制御を行っていないことを示す。また、表中に示す「表層領域」は、母材鋼板の表面から板厚1/10までの領域に対応する。また、製造した無方向性電磁鋼板の母材鋼板の板厚は、冷間圧延工程後の鋼板の板厚と同一であった。
【0115】
製造した無方向性電磁鋼板の母材鋼板について、磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性を評価した。
【0116】
磁束密度および鉄損特性は、上記した被膜形成過程後に焼鈍過程(800℃で60分)に供した鋼板を用いて、JIS C 2556:2015に規定されている単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)に基づいて評価した。なお、JISに規定されるサイズの試験片を採取することに代えて、より小さいサイズの試験片、例えば、幅55mm×長さ55mmの試験片を採取して、単板磁気特性試験法に準拠した測定を行ってもよい。また、幅55mm×長さ55mmの試験片が採取できない場合には、幅8mm×長さ16mmの試験片を2枚用いて幅16mm×長さ16mmの試験片として単板磁気特性試験法に準拠した測定を行ってもよい。その際、JIS C 2550:2011に規定されるエプスタイン試験器での測定値へ換算したエプスタイン相当値としてもよい。
【0117】
磁束密度として、鋼板を磁化力5000A/mで磁化した場合の圧延方向の磁束密度B50を単位:T(テスラ)で測定して求めた。磁束密度B50が、1.50T以上である場合を合格と判断した。また、鉄損特性として、鋼板を50Hzで磁束密度1.5Tに磁化した時の圧延方向の鉄損W15/50(商用周波鉄損)、および鋼板を1kHzで磁束密度1.0Tに磁化した時の圧延方向の鉄損W10/1k(高周波鉄損)を単位:W/kgで測定して求めた。鉄損W15/50が、2.20W/kg以下であり、且つ鉄損W10/1kが、33W/kg以下である場合を合格と判断した。
【0118】
打ち抜き性は、上記の被膜形成過程に供したが焼鈍過程に供していない鋼板を用いて、5mmの円形金型をスチールダイスで打ち抜いて、かえり高さで評価した。クリアランスは板厚の6%とし、速乾油を用いて打抜いた。かえり高さが50μm以上になる打ち抜き回数が、50万回以上である場合を合格と判断した。
【0119】
表1~31に示すように、試験No.1~108のうち、本発明例は、いずれも無方向性電磁鋼板として、磁束密度、鉄損特性、および打ち抜き性に優れていた。一方、試験No.1~108のうち、比較例は、磁束密度、鉄損特性、または打ち抜き性の少なくとも一つが優れなかった。
【0120】
次に、被膜形成過程に供したが焼鈍過程に供していない無方向性電磁鋼板を打抜加工し、この打抜部材を積層して鉄心を製造した。製造した鉄心は、上記の無方向性電磁鋼板を含んでいた。また、製造した鉄心を歪取焼鈍し、この鉄心をステータ鉄心やロータ鉄心として用いて組み立ててモータを製造した。製造したモータは、上記の鉄心を含んでいた。なお、上記の歪取焼鈍では、鉄心を750℃以上850℃以下の温度範囲で30分以上150分以下にて保持した。
【0121】
製造したモータは、トルクセンサ(MAGTROL製TM308)を介して、負荷モータと接続した。製造したモータには、インバータから三相交流電流を供給して駆動した。インバータから供給した電流と電圧を電力計(横河電機製モデルWT1804E)で測定し、入力とした。トルクセンサで測定したトルクT(単位:N・m)と回転数N(rpm)から、2πTN/60=出力(W)とした。効率(%)は出力/入力×100で求めた。
製造した鉄心や製造したモータは、上記した試験No.1~108のうちの本発明例である無方向性電磁鋼板を用いた場合には、トルク特性やエネルギー効率に優れていた。一方、製造した鉄心や製造したモータは、上記した試験No.1~108のうちの比較例である無方向性電磁鋼板を用いた場合には、トルク特性やエネルギー効率が優れなかった。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
本発明の上記態様によれば、磁束密度、鉄損特性(商用周波鉄損および高周波鉄損)、並びに打ち抜き性に優れる無方向性電磁鋼板の提供が可能となり、加えて、この無方向性電磁鋼板を含む鉄心および鉄心の製造方法、並びに、この鉄心を含むモータおよびモータの製造方法の提供が可能となるので、産業上の利用可能性が高い。