(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002857
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】足回内推定装置、足回内推定方法、および、足回内推定プログラム
(51)【国際特許分類】
A43B 1/02 20220101AFI20241226BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A43B1/02
A61B5/107 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103229
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】中山 和長
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 舞
(72)【発明者】
【氏名】筒井 雅之
【テーマコード(参考)】
4C038
4F050
【Fターム(参考)】
4C038VA02
4C038VA04
4C038VB14
4C038VC05
4F050NA88
(57)【要約】
【課題】回内タイプを簡易に判別する技術を提供する。
【解決手段】足回内推定装置50において、回内推定部72は、所定部位の特徴量と基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する。特徴量抽出部60は、足幅の長さ、および、踏まず部形状における凹み量を少なくとも含む複数部位の特徴量を上面視画像から抽出する。回内推定部72は、足幅の長さ、および、踏まず部形状の凹み量を少なくとも含む複数部位の特徴量とそれぞれの基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する。複数部位の特徴量は、足長および小趾球近傍の外郭形状における張り出し量をさらに含む。回内推定部72は、足の回内の度合いで分類されたタイプとして、回内の度合いが所定基準より高い第1のタイプと、回内の度合いが所定基準以下である第2のタイプのうちいずれに該当するかを推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像として少なくとも足の上面視画像を取得する画像取得部と、
前記上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す所定部位の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記所定部位の特徴量と基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する回内推定部と、
を備えることを特徴とする足回内推定装置。
【請求項2】
前記特徴量抽出部は、足幅の長さ、および、踏まず部形状における凹み量を少なくとも含む複数部位の特徴量を前記上面視画像から抽出し、
前記回内推定部は、前記足幅の長さ、および、前記踏まず部形状の凹み量を少なくとも含む複数部位の特徴量とそれぞれの基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定することを特徴とする請求項1に記載の足回内推定装置。
【請求項3】
前記複数部位の特徴量は、足長をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の足回内推定装置。
【請求項4】
前記複数部位の特徴量は、小趾球近傍の外郭形状における張り出し量をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の足回内推定装置。
【請求項5】
足の回内の度合いで分類されたタイプとして、回内の度合いが所定基準より高い第1のタイプと、回内の度合いが所定基準以下である第2のタイプと、を少なくとも含む複数の回内タイプを記憶する記憶部をさらに備え、
前記回内推定部は、前記所定部位の特徴量と基準値との比較に基づき、前記複数の回内タイプのうちいずれに該当するかを推定することを特徴とする請求項1に記載の足回内推定装置。
【請求項6】
足の回内に対処する態様で分類された靴のタイプとして、回内の度合いが所定基準より高い場合に対処するための第1の靴タイプと、回内の度合いが所定基準以下である場合に対処するための第2の靴タイプと、を少なくとも含む複数の靴タイプを記憶する記憶部と、
前記回内推定部により推定される回内の度合いに基づき、前記測定対象者に推奨する靴タイプを前記複数の靴タイプから決定するタイプ決定部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の足回内推定装置。
【請求項7】
前記所定部位の特徴量に関する基準値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記回内推定部は、前記抽出された特徴量と前記記憶された基準値との比較に基づいて前記回内の度合いを推定することを特徴とする請求項1に記載の足回内推定装置。
【請求項8】
前記画像取得部は、前記上面視画像として、測定対象者の座位における足の上面視輪郭形状を示す画像を取得することを特徴とする請求項1に記載の足回内推定装置。
【請求項9】
前記画像取得部は、測定対象者の足の側面視画像をさらに取得し、
前記特徴量抽出部は、前記上面視画像および前記側面視画像のうち少なくともいずれかから前記所定部位の特徴量を抽出することを特徴とする請求項1に記載の足回内推定装置。
【請求項10】
測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像として少なくとも足の上面視画像を取得する過程と、
前記上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す所定部位の特徴量を画像処理により抽出する過程と、
前記所定部位の特徴量と基準値との比較処理に基づいて足の回内の度合いを推定する過程と、
を備えることを特徴とする足回内推定方法。
【請求項11】
測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像として少なくとも足の上面視画像を取得する機能と、
前記上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す所定部位の特徴量を抽出する機能と、
前記所定部位の特徴量と基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する機能と、
前記推定の結果を示す情報を出力する機能と、
をコンピュータに発揮させることを特徴とする足回内推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、足回内推定装置に関する。特に、足形の画像から足の状態を分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一部のランニングシューズ製品では、回内の類型(プロネーションタイプ)に対応してカテゴリー分けがなされる場合がある。カテゴリーの分け方としては、過回内(オーバープロネーション)のランナー向けと、それ以外(ニュートラルプロネーション、アンダープロネーション)のランナー向けで分けられることが多い。ランナーは、自身の回内タイプに適したカテゴリーのランニングシューズを使用することで、適度な回内を保って故障リスクを低減させることができる。
【0003】
ここで、フットプリントまたは足の圧力分布を測定して顧客のアーチ高率または足の柔軟度を推定し、顧客に適合する靴のタイプを選択する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回内タイプに応じてランニングシューズを選定するには、自身がいずれの回内タイプであるかを認識できることが前提となる。しかしながら、回内タイプを判定するには、通常はトレッドミル上でのランニングを後方から撮影して足の運びを解析する必要があり、そうした撮影や解析のための機材を有する施設を利用しなければならなかった。あるいは、特許文献1における回内タイプの判定技術では、フットプリントや足の圧力分布から推定することができるものの、光学センサや圧力センサといった計測機器の使用を要することから、一般的なランナーにとって必ずしも手軽に判定できるものではなかった。
【0006】
一方、靴メーカーは、回内タイプに応じてランニングシューズのカテゴリーを分けている以上、過回内でないランナーが過回内向けのシューズを使用してしまうようなタイプのミスマッチを避けられるのが望ましい。特に、オンラインでの靴販売も一般的となった昨今では、専用機材のない環境でも容易に回内タイプを判定できる手法の確立が望まれていた。
【0007】
本開示は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、回内タイプを簡易に判別する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の足回内推定装置は、測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像として少なくとも足の上面視画像を取得する画像取得部と、上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す所定部位の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、所定部位の特徴量と基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する回内推定部と、を備える。
【0009】
本開示の別の態様は、足回内推定方法である。この方法は、測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像として少なくとも足の上面視画像を取得する過程と、上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す所定部位の特徴量を画像処理により抽出する過程と、所定部位の特徴量と基準値との比較処理に基づいて足の回内の度合いを推定する過程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、回内タイプを簡易に判別する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】足回内推定システムの基本的な構成を示す図である。
【
図2】足回内推定装置の各構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】内側凹み量および外側張り出し量の測定方法を示す図である。
【
図5】回内タイプと靴タイプの関係を示す図である。
【
図6】決定木分析による被験者の分類結果と三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果との照合結果を示す図である。
【
図7】足長、足幅、内側凹み量の3要素に基づく足回内推定の決定木分析結果を模式的に示す樹形図である。
【
図8】足長、足幅、内側凹み量の3要素に基づく足回内推定アルゴリズムを用いた足回内推定処理の過程を示すフローチャートである。
【
図9】足幅、内側凹み量、外側張り出し量の3要素に基づく足回内推定の決定木分析結果を模式的に示す樹形図である。
【
図10】足幅、内側凹み量、外側張り出し量の3要素に基づく足回内推定アルゴリズムを用いた足回内推定処理の過程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態、変形例では、同一または同等の構成要素には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0013】
本実施形態においては、測定対象者の座位における足の上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す特徴量を抽出し、基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する。上面視画像は、測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像である。上面視画像は、爪先形状や踵形状など、足全体の輪郭形状が含まれるため、上面視画像からは足長や足幅をはじめとする足部位の特徴量を抽出することができる。足部位の特徴量に基づいて回内タイプを推定する手法としては、複数の被験者について測定した足部位の特徴量と回内タイプとの関係性を、決定木を用いてあらかじめ分析し、その分析結果に基づく推定アルゴリズムを用いて推定する手法を採用する。
【0014】
図1は、足回内推定システム100の基本的な構成を示す。足回内推定システム100は、情報端末16または三次元足形計測器18などの足の上面視画像を取得するためのデバイスと、足回内推定装置50と、を備える。例えば回内タイプに応じてカテゴリーが分けられたランニングシューズの購入を検討しているランナーを測定対象者10とし、測定対象者10が自身の足の回内タイプを判定するために情報端末16または三次元足形計測器18を用いることを想定する。測定対象者10は、片足ずつ上面視画像を取得し、左右の足のそれぞれについて回内タイプを判定する。
【0015】
情報端末16は、スマートフォンやタブレット端末等の携帯型情報端末であってもよいし、パーソナルコンピューターであってもよい。情報端末16は、例えばカメラモジュール、測距センサ、マイクロプロセッサー、タッチパネル、メモリー、通信モジュール等のハードウェアの組み合わせで構成される。情報端末16は、測定対象者10または靴販売店が用意したスマートフォンやタブレット端末等の汎用的な情報端末であってよい。情報端末16には、ウェブブラウザを介して足回内推定装置50が提供するウェブサイトにアクセスするか、情報端末16で稼働するアプリケーションソフトウェアによって足回内推定装置50から提供される情報が画面表示される。
【0016】
情報端末16を用いる場合、測定対象者10は自身の携帯電話端末等の情報端末16に内蔵のカメラで自身の座位における足を撮影して画像を取得する。例えば、足の真上から足全体を撮影する手法の場合、踵が十分に映り込むようにしても、足首が映り込んでしまうため、足全体の輪郭形状を1枚の画像に収めるのは困難である。そのため、爪先および踵の輪郭、前足部から中足部にかけての左右両側の輪郭が少なくとも映り込んだ画像となるように撮影することを前提としてもよい。
【0017】
情報端末16がLiDAR(Light Detection And Ranging)等の技術を利用した三次元スキャナー機能を有する場合、足の周囲をスキャンして足形状の三次元モデルを生成し、その三次元モデルから二次元画像である上面視画像を取得してもよい。情報端末16がLiDAR等による三次元スキャナー機能を有していない場合であっても、フォトグラメトリー等の画像合成処理により足形状の三次元モデルを生成し、その三次元モデルから二次元画像である上面視画像を取得してもよい。測定対象者10は、専用の計測マット12に足を載せ、情報端末16のカメラ機能および足形取得アプリケーションを用いて自身の足形をスキャンし、足形状の三次元モデルを生成してもよい。
【0018】
三次元足形計測器18を用いる場合、測定対象者10は、例えば靴販売店の店頭に設置された三次元足形計測器18を用いて足の三次元形状を生成し、その三次元モデルから二次元画像である上面視画像を取得してもよい。三次元足形計測器18は、レーザー計測により足形状の三次元データを取得する。三次元足形計測器18によってスキャンされた足形の三次元計測結果としての計測値は、三次元足形計測器18から足回内推定装置50へ送信され、足回内推定装置50において三次元モデルから二次元画像である上面視画像が生成されてもよい。
【0019】
なお、変形例においては、測定対象者10の足の上面視画像に代えて側面視画像を取得するようにしてもよい。あるいは、測定対象者10の足の上面視画像および側面視画像の双方を取得するようにしてもよい。あるいは、測定対象者10の立位における足の上面視画像または側面視画像を取得するようにしてもよい。
【0020】
足回内推定装置50は、複数の情報端末16または三次元足形計測器18との間でインターネットやLAN(Local Area Network)等のネットワーク回線および無線通信等の通信手段を介して接続される。足回内推定装置50は、複数の情報端末16または三次元足形計測器18から送信される測定データに基づいて足の回内タイプを推定するサーバーとして実現してもよい。足回内推定装置50は、単体のサーバーコンピューターで構成されてもよいし、複数台のサーバーコンピューターの組み合わせで構成されてもよい。なお、請求項にいう「足回内推定装置」は、足回内推定システム100全体を指してもよいし、足回内推定装置50を指してもよい。また、本実施形態においては、請求項にいう「足回内推定装置」に含まれる特徴的な機能の多くを足回内推定装置50が備える形で実現するため、実質的に足回内推定装置50が請求項の「足回内推定装置」に相当する。ただし、変形例においては、上面視画像の取得や足部位特徴量の抽出、足回内タイプの推定結果の出力等の処理を情報端末16が実行するように構成するなど、足回内推定装置50と情報端末16の協働によって請求項にいう「足回内推定装置」が構成されるように実現してもよい。
【0021】
図2は、足回内推定装置50の各構成を示す機能ブロック図である。
図2では、足回内推定装置50に関して、様々なハードウェア構成およびソフトウェア構成の連携によって実現され得る機能ブロックを描いている。これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。足回内推定装置50は、例えばマイクロプロセッサー、メモリー、ディスプレイ、通信モジュール等のハードウェアの組み合わせで構成される。足回内推定装置50は、靴メーカーが構築および管理をするサーバーコンピューターであってよい。ただし、足回内推定装置50には、以下の機能を持つプログラムが稼働する。足回内推定装置50は、その機能として、通信部52、画像取得部54、特徴量抽出部60、評価部70、記憶部80、出力部90、分析処理部99を含む。足回内推定装置50の通信部52と情報端末16または三次元足形計測器18は、ネットワークを介して接続される。
【0022】
画像取得部54は、情報端末16または三次元足形計測器18から送信される上面視画像を、通信部52を介して取得する。画像取得部54は、上面視画像として、測定対象者10の座位における足の上面視輪郭形状を示す画像を取得する。画像取得部54は、左右の足について片足ずつ上面視画像を取得する。ただし、左右両足の画像取得は必須ではなく、左右いずれかの片足の画像取得でもよい。変形例においては、画像取得部54は、測定対象者10の足の上面視画像および側面視画像を取得してもよい。また変形例においては、画像取得部54は、立位における足の上面視画像または側面視画像を取得してもよい。
【0023】
画像取得部54は、計測値取得部56、画像生成部58を含む。情報端末16または三次元足形計測器18から、上面視画像ではなく足形の三次元計測値が送信される場合、計測値取得部56が通信部52を介して三次元計測値を取得する。その場合、画像生成部58が三次元計測値に基づいて三次元モデルを生成し、三次元モデルから二次元画像である上面視画像を生成する。三次元計測値から三次元モデルを生成する技術は公知であるため、その説明を省略する。
【0024】
特徴量抽出部60は、複数の足部位の特徴量を上面視画像から抽出する。複数の足部位の特徴量は、(1)足長、(2)足幅の長さ、(3)踏まず部形状における凹み量(以下、「内側凹み量」という)、(4)小趾球近傍の外郭形状における張り出し量(以下、外側張り出し量」という)、のうち少なくともいずれかである。特徴量抽出部60は、足長算出部62、足幅算出部64、凹み量算出部66、張り出し量算出部68を含む。足長算出部62は、上面視画像から足長を算出する。足幅算出部64は、上面視画像から足幅を算出する。凹み量算出部66は、上面視画像から内側凹み量を算出する。張り出し量算出部68は、上面視画像から外側張り出し量を算出する。
【0025】
回内推定部72は、足長、足幅、内側凹み量、外側張り出し量のうち少なくともいずれかを含む特徴量と基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する。回内推定部72は、後述する決定木分析により設計段階においてあらかじめ決定された足回内推定アルゴリズムを用いて、測定対象者10の足が複数の回内タイプのうちいずれに該当するかを推定する。回内推定部72は、測定対象者10の左右の足について片足ずつ回内タイプを推定する。
【0026】
記憶部80は、基準記憶部82、回内タイプ記憶部84、靴タイプ記憶部86を含む。基準記憶部82は、後述する決定木分析により決定された、複数の足部位の特徴量に関するそれぞれの基準値を記憶する。
【0027】
回内タイプ記憶部84は、足の回内の度合いで分類されたタイプとして、回内の度合いが所定基準より高い第1のタイプと、回内の度合いが所定基準以下である第2のタイプと、を少なくとも含む複数の回内タイプを記憶する。ここでいう所定基準は、例えば着地の際に踵が適度に内側に倒れ込む「ニュートラルプロネーション」である。
【0028】
靴タイプ記憶部86は、足の回内に対処する態様で分類された靴のタイプとして、回内の度合いが所定基準より高い第1のタイプに対処するための第1の靴タイプと、回内の度合いが所定基準以下である第2のタイプに対処するための第2の靴タイプとに分けて、靴製品モデルの情報を記憶する。
【0029】
評価部70は、回内推定部72、タイプ決定部74、靴タイプ記憶部86を含む。回内推定部72は、後述する足回内推定アルゴリズムを用いて測定対象者10の足の回内タイプを推定する。タイプ決定部74は、回内推定部72により推定される回内の度合いに基づき、測定対象者10に推奨する靴タイプを複数の靴タイプから決定する。靴選択部76は、タイプ決定部74で決定された靴タイプに対応する靴製品モデルを靴タイプ記憶部86から選択する。
【0030】
出力部90は、結果出力部92、推薦出力部94を含む。結果出力部92は、回内推定部72により決定された測定対象者10の足の回内タイプに関する情報や、タイプ決定部74により決定された測定対象者10の足に適合する靴タイプに関する情報を、通信部52を介して情報端末16に送信する。推薦出力部94は、靴選択部76により選択された、測定対象者10に推薦する靴製品モデルに関する情報を、通信部52を介して情報端末16に送信する。
【0031】
分析処理部99は、足回内推定装置50の設計段階において、複数の被験者の足の画像から計測された複数の特徴量に基づき、足の回内の度合いが第1のタイプと第2のタイプのいずれに該当するかを推定するための足回内推定アルゴリズムを決定する。分析処理部99は、決定木分析、特に回帰木により、足回内推定アルゴリズムを決定する。決定木分析は、測定対象者10に対して足回内を推定する時点より前の段階、例えば足回内推定システム100の設計段階においてあらかじめ実行される。決定木分析により決定された特徴量ごとの判定手順および判定閾値は、回内推定部72における足回内の推定処理において足回内推定アルゴリズムとして採用される。決定木分析により決定された特徴量ごとの判定閾値は、足回内推定処理における特徴量ごとの判定基準値として基準記憶部82に記憶される。足回内の推定に用いる各足部位の特徴量の候補は、足長、足幅、内側凹み量、外側張り出し量であり、いずれも上面視画像から抽出され得る特徴量である。
【0032】
設計段階における決定木分析は以下の手順で実施される。まず、被験者が裸足でランニングをしている様子をモーションキャプチャーシステムで撮影した映像から踵の三次元外反角度を検出し、実際の回内タイプを判定する。特に、踵の外反角度が所定の閾値Xより大きい場合にオーバープロネーションまたは第1のタイプと判定する。なお、被験者が裸足でトレッドミル上をランニングをしている様子の後方撮影映像から踵の二次元外反角度を検出する方法を採用してもよい。また、裸足でなくとも、プロネーション抑制機能のないシューズであれば着用した状態でランニングしてもよい。このような回内タイプの判定をn人の被験者について実施し、回内タイプで分類する。一方、これらの被験者における決定木分析の対象データとして、複数の足部位の特徴量を測定する。足部位の特徴量として、例えば足長、足幅、内側凹み量、外側張り出し量を足の上面視画像から抽出する。
【0033】
n人の被験者が過回内に該当するか否かの分類を目的変数とし、足長、足幅、内側凹み量、外側張り出し量のうち2要素以上を説明変数とする決定木分析が実行される。足長、足幅、内側凹み量、外側張り出し量の4要素のうち、2要素の組み合わせ、3要素の組み合わせ、4要素の組み合わせ、というように説明変数とする要素の組み合わせを入れ替えながら、すべての組み合わせパターンについて決定木分析が実行される。決定木分析においては、ノードの最大深さを5に設定し、分岐したノードごとの損失関数である二乗誤差が最小となる説明変数の要素およびその閾値が回帰的に決定される。
【0034】
決定木分析による被験者の分類結果と、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果とを照合する。照合の結果、被験者全員の分類結果が100%一致した場合における特徴量の組み合わせが、高い精度で足回内を推定できる有効な説明変数と考えることができる。高い精度で足回内を推定できた決定木分析における分岐条件と分岐の順序を、回内推定部72で用いる足回内推定アルゴリズムに採用する。分岐条件として決定された特徴量ごとの閾値は、足回内推定アルゴリズムにおける特徴量ごとの基準値として基準記憶部82に記憶される。基準記憶部82には、特徴量ごとの基準値だけでなく、足回内推定アルゴリズム自体もまた記憶されてもよい。例えば、事後的な追加実験により、さらに精度よく足の回内タイプを判定するアルゴリズムや特徴量ごとの基準値が決定木分析により決定された場合に、基準記憶部82に記憶させる情報を書き換えてもよい。これにより、足回内推定アルゴリズムや特徴量ごとの基準値を更新でき、容易に推定精度を向上させることができる。
【0035】
図3は、足長および足幅の測定方法を示す。特徴量抽出部60は、上面視画像30において、足部20の輪郭を囲む境界ボックス21を設定する。境界ボックス21は、足部20全体の輪郭に外接する最小の長方形となるように設定される矩形領域である。足部20の輪郭と境界ボックス21の接点は、爪先側端点24、踵側端点25、内側端点28、外側端点29である。
【0036】
足指以外の足裏部分は、主に前足部40、中足部41、後足部42に分けられる。中足部41の特に内足側の領域が踏まず部43である。踏まず部形状44は、前足部40から中足部41にかけての内足側(足部内側ともいう)の輪郭形状であって、主に踏まず部43の内足側の輪郭形状をいう。踏まず部形状44は、通常は凹みを有している部分の形状である。小趾球近傍の外郭形状45は、主に前足部40から中足部41にかけての外足側(足部外側ともいう)の輪郭形状であって、主に前足部40の外足側の輪郭形状をいう。小趾球近傍の外郭形状45は、通常は張り出している部分の形状である。
【0037】
境界ボックス21において爪先側端点24を通る上辺22と踵側端点25を通る下辺23の距離、すなわち内側端点28を通る左辺26の長さを足長算出部62が足長31として算出する。内側端点28は、左辺26において所定割合の位置、例えば足長31の72%または上辺22から28%の位置である。外側端点29は、右辺27において所定割合の位置、例えば足長31の63%または上辺22から37%の位置である。内側端点28と外側端点29を結ぶ直線の長さを足幅算出部64が足幅32として算出する。
【0038】
図4は、内側凹み量および外側張り出し量の測定方法を示す。凹み量算出部66が算出する内側凹み量38は、踏まず部形状44における最も張り出した位置を通る仮想線と最も凹んだ位置を通る仮想線との幅の距離である。すなわち内側凹み量38は、内側端点28を通る左辺26と、踏まず部形状44において最も凹んだ位置である最凹点33を通る内側基準線36との距離である。内側基準線36は、左辺26に平行な仮想線である。内側凹み量38は、凹みを有している場合は負の値をとり、逆に凹みを有さず張り出した形状を有している場合は正の値をとる。ここで、最凹点33を通るとともに内側基準線36に直交する仮想線を足幅方向線35とする。また、中足部41の外足側の輪郭線と足幅方向線35の交点を外側基準点34とする。外側基準点34を通す仮想線であって右辺27と平行な線を外側基準線37とする。
【0039】
張り出し量算出部68が算出する外側張り出し量39は、小趾球近傍の外郭形状45における最も張り出した位置を通る仮想線と、所定の基準点を通る仮想線との幅の距離である。すなわち外側張り出し量39は、外側端点29を通る右辺27と、外側基準点34を通る外側基準線37との距離である。外側張り出し量39は、張り出している場合は正の値をとり、逆に張り出さずに凹みを有している場合は負の値をとる。
【0040】
図5は、回内タイプと靴タイプの関係を示す。回内タイプ120としては、着地の際に踵が適度、すなわち外反角度が閾値X以内で内側に倒れ込む「ニュートラルプロネーション」と、踵が大きく内側に倒れ込んで外反角度が閾値Xを超える「オーバープロネーション」と、踵の内側への倒れ込みが小さい、または外側に倒れ込む「アンダープロネーション」と、が回内タイプ記憶部84に記憶される。踵が外側に倒れ込む場合を「回外(サピネーション)」ともいうが、ここでは内側への倒れ込みが小さい「アンダープロネーション」に含まれる形で分類されている。「ニュートラルプロネーション」を基準とし、足の回内の度合いが「ニュートラルプロネーション」より高い場合を第1のタイプ110とし、「ニュートラルプロネーション」以下の場合を第2のタイプ111とする。
【0041】
靴タイプ121としては、第1のタイプ110に対応する「プロネーション対応モデル」と、第2のタイプ111に対応する「クッションモデル」が、靴製モデルとして靴タイプ記憶部86に記憶される。「プロネーション対応モデル」は、「スタビリティモデル」とも呼ばれる。これらのモデルは、回内を抑制するために、踵の内側に硬めの部材が配置されていたり、アーチを保持するための機構を有していたり、中足部の内ねじれを抑制する機能を有していたりしてもよい。
【0042】
図6は、決定木分析による被験者の分類結果と三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果との照合結果を示す。1番目の分析では、足長、足幅、内側凹み量、外側張り出し量の4要素すべてに基づいて決定木分析をした。1番目の分析では、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と一致し、100%の精度で回内タイプを推定できた。2番目の分析では、内側凹み量、外側張り出し量の2要素に基づいて決定木分析をした。2番目の分析でも、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と一致し、100%の精度で回内タイプを推定できた。
【0043】
3番目の分析では、足長、内側凹み量、外側張り出し量の3要素に基づいて決定木分析をした。3番目の分析では、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と部分的に一致せず、100%未満の推定精度となった。4番目の分析では、足幅、内側凹み量、外側張り出し量の3要素に基づいて決定木分析をした。4番目の分析でも、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と一致し、100%の精度で回内タイプを推定できた。
【0044】
5番目の分析では、足長、足幅、内側凹み量の3要素に基づいて決定木分析をした。5番目の分析でも、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と一致し、100%の精度で回内タイプを推定できた。6番目の分析では、足長、足幅、外側張り出し量の3要素に基づいて決定木分析をした。6番目の分析でも、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と一致し、100%の精度で回内タイプを推定できた。
【0045】
7番目の分析では、足長、内側凹み量の2要素に基づいて決定木分析をした。7番目の分析でも、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と一致し、100%の精度で回内タイプを推定できた。8番目の分析では、足長、外側張り出し量の2要素に基づいて決定木分析をした。8番目の分析では、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と部分的に一致せず、100%未満の推定精度となった。
【0046】
9番目の分析では、足幅、内側凹み量の2要素に基づいて決定木分析をした。9番目の分析でも、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と一致し、100%の精度で回内タイプを推定できた。10番目の分析では、足幅、外側張り出し量の2要素に基づいて決定木分析をした。10番目の分析では、三次元外反角度に基づく回内タイプの分類結果と部分的に一致せず、100%未満の推定精度となった。
【0047】
以上の実験によれば、特に足幅と内側凹み量を含む要素の組み合わせで決定木分析をした場合に高い精度で回内タイプを推定できることがわかる。一方、推定精度が100%に満たなかった決定木分析は、いずれも外側張り出し量を含む要素の組み合わせで行われた分析であった。そこで、好適な組み合わせとして、足幅と内側凹み量を少なくとも含んでいる、(1)足長、足幅、内側凹み量の3要素、または、(2)足幅、内側凹み量、外側張り出し量の3要素、に基づく足回内推定アルゴリズムを本実施形態では採用する。ただし、変形例においては、足幅および内側凹み量の2要素の組み合わせに基づく足回内推定アルゴリズムも有効であり、足長、足幅、外側張り出し量の3要素の組み合わせに基づく足回内推定アルゴリズムも有効である。さらに、足長、足幅、内側凹み量、外側張り出し量の4要素すべてに基づく足回内推定アルゴリズムも有効である。
【0048】
図7は、足長、足幅、内側凹み量の3要素に基づく足回内推定の決定木分析結果を模式的に示す樹形図である。
図7の例では、サンプル数nが11である測定値を決定木分析によりノードの最大深さを5に設定して分類する。ルートノードであるN10では、説明変数として「足長」が、閾値として「所定値a」が回帰的に決定され、足長がa以下であるか否かが分岐条件となる。
【0049】
足長がa以下の場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN11は、その外反角度からアンダープロネーションに分類される。足長がaを超えた場合の分岐先はノードN12である。サンプル数nが10のノードN12では、説明変数として「足幅」が、閾値として「所定値b」が回帰的に決定され、足幅がb以下であるか否かが分岐条件となる。
【0050】
足幅がb以下である場合の分岐先はノードN13である。サンプル数nが2のノードN13では、説明変数として「足幅」が、閾値として「所定値c」が回帰的に決定され、足幅がc以下であるか否かが分岐条件となる。足幅がc以下の場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN14は、その外反角度が閾値Xを超えてオーバープロネーションに分類される。足幅がcを超えた場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN15もまた、その外反角度が閾値Xを超えてオーバープロネーションに分類される。
【0051】
ノードN12で足幅がbを超える場合の分岐先はノードN16である。サンプル数nが8のノードN16では、説明変数として「足幅」が、閾値として「所定値d」が回帰的に決定され、足幅がd以下であるか否かが分岐条件となる。足幅がd以下の場合の分岐先はノードN17である。サンプル数nが3のノードN17では、説明変数として「内側凹み量」が、閾値として「所定値e」が回帰的に決定され、内側凹み量がe以下であるか否かが分岐条件となる。内側凹み量がe以下である場合、二乗誤差が0、サンプル数nが2となるリーフノードN18は、その外反角度の平均からニュートラルプロネーションに分類される。内側凹み量がeを超えた場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN19もまた、その外反角度からニュートラルプロネーションに分類される。
【0052】
ノードN16で足幅がdを超える場合の分岐先はノードN20である。サンプル数nが5のノードN20では、説明変数として「内側凹み量」が、閾値として「所定値f」が回帰的に決定され、内側凹み量がf以下であるか否かが分岐条件となる。内側凹み量がf以下の場合、二乗誤差が約0.9、サンプル数nが4となるリーフノードN21は、その外反角度の平均が閾値Xを超えてオーバープロネーションに分類される。内側凹み量がfを超えた場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN22は、その外反角度からニュートラルプロネーションに分類される。
【0053】
決定木分析を用いて分類することにより、リーフノードN11のように外反角度が大きく外れた値となるサンプルが含まれている場合があっても、分類に適した特徴量とその閾値が回帰的に決定される。したがって、全体的な足回内推定の精度に影響を及ぼすことなく適切に分類することができる。
【0054】
図7の決定木分析により決定された手順にしたがい、回内推定部72で用いられる足回内推定アルゴリズムが決定される。ここで、回内推定部72による推定処理では、オーバープロネーション、ニュートラルプロネーション、アンダープロネーションのすべてを判定するのではなく、
図6に示すように第1のタイプと第2のタイプのいずれであるかを推定するだけである。したがって、ニュートラルプロネーションとアンダープロネーションを区別する推定処理は不要となる。また、ノードN13やノードN17のように、分岐先のいずれもが同じ分類となる場合も推定処理は不要となる。その結果、回内推定部72に採用する足回内推定アルゴリズムは
図7の決定木分析による手順より簡略化され、次図のようになる。分岐条件としての閾値となる所定値a,b,d,fは、決定木分析により具体的な数値が決定され、足回内推定アルゴリズムの一部となり、それぞれが特徴量ごとの基準値として基準記憶部82に記憶される。
【0055】
図8は、足長、足幅、内側凹み量の3要素に基づく足回内推定アルゴリズムを用いた足回内推定処理の過程を示すフローチャートである。
図8の例では、
図7の決定木分析におけるノードN10,N12,N16,N20に相当する分岐判定が足回内推定アルゴリズムとして採用されている。画像取得部54が測定対象者10の足の上面視画像を取得し(S10)、特徴量抽出部60が足部位の特徴量として足長、足幅、内側凹み量を抽出する(S11)。回内推定部72は、足長が所定値a以下であれば(S12のY)、第2のタイプであると推定する(S17)。足長が所定値aを超える場合であって(S12のN)、足幅が所定値b以下であれば(S13のY)、第1のタイプであると推定する(S16)。S13において足幅が所定値bを超える場合であって(S13のN)、足幅が所定値d以下であれば(S14のY)、第2のタイプであると推定する(S17)。S14において足幅が所定値dを超える場合であって(S14のN)、内側凹み量が所定値f以下であれば(S15のY)、第1のタイプであると推定し(S16)、内側凹み量が所定値fを超える場合は(S15のN)、第2のタイプであると推定する(S17)。第1のタイプおよび第2のタイプのいずれに該当するかの推定(S16,S17)の結果に基づき、出力部90は回内タイプを出力し(S18)、足回内推定処理が終了する。以上のフローにおいて、S12,S13,S14,S15の処理が、
図7のノードN10,N12,N16,N20に相当する分岐判定処理である。
【0056】
図9は、足幅、内側凹み量、外側張り出し量の3要素に基づく足回内推定の決定木分析結果を模式的に示す樹形図である。
図9の例でも、サンプル数nが11である測定値を決定木分析によりノードの最大深さを5に設定して分類する。ルートノードであるN30では、説明変数として「足幅」が、閾値として「所定値b」が回帰的に決定され、足幅がb以下であるか否かが分岐条件となる。
【0057】
足幅がb以下の場合の分岐先はノードN31である。サンプル数nが2のノードN31では、説明変数として「足幅」が、閾値として「所定値c」が回帰的に決定され、足幅がc以下であるか否かが分岐条件となる。足幅がc以下である場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN32は、その外反角度が閾値Xを超えてオーバープロネーションに分類される。足幅がcを超えた場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN33もまた、その外反角度が閾値Xを超えてオーバープロネーションに分類される。
【0058】
ルートノードN30において足幅がbを超えた場合の分岐先はノードN34である。サンプル数nが9のノードN34では、説明変数として「内側凹み量」が、閾値として「所定値g」が回帰的に決定され、内側凹み量がg以下であるか否かが分岐条件となる。
【0059】
内側凹み量がg以下である場合の分岐先はノードN35である。サンプル数nが2のノードN35では、説明変数として「内側凹み量」が、閾値として「所定値h」が回帰的に決定され、内側凹み量がh以下であるか否かが分岐条件となる。内側凹み量がh以下の場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN36は、その外反角度からニュートラルプロネーションに分類される。足幅がhを超えた場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN37は、その外反角度からアンダープロネーションに分類される。
【0060】
ノードN34で内側凹み量がgを超える場合の分岐先はノードN38である。サンプル数nが7のノードN38では、説明変数として「足幅」が、閾値として「所定値i」が回帰的に決定され、足幅がi以下であるか否かが分岐条件となる。足幅がi以下の場合の分岐先はノードN39である。サンプル数nが3のノードN39では、説明変数として「外側張り出し量」が、閾値として「所定値j」が回帰的に決定され、外側張り出し量がj以下であるか否かが分岐条件となる。外側張り出し量がj以下である場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN40は、その外反角度からニュートラルプロネーションに分類される。外側張り出し量がjを超えた場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN41もまた、その外反角度からニュートラルプロネーションに分類される。
【0061】
ノードN38で足幅がiを超える場合の分岐先はノードN42である。サンプル数nが5のノードN42では、説明変数として「足幅」が、閾値として「所定値k」が回帰的に決定され、足幅がk以下であるか否かが分岐条件となる。足幅がk以下の場合、二乗誤差が約0.9、サンプル数nが4となるリーフノードN43は、その外反角度の平均が閾値Xを超えてオーバープロネーションに分類される。足幅がkを超えた場合、二乗誤差が0、サンプル数nが1となるリーフノードN44は、その外反角度からニュートラルプロネーションに分類される。
【0062】
図9の決定木分析により決定された手順にしたがい、回内推定部72で用いられる足回内推定アルゴリズムが決定される。ここで、回内推定部72による推定処理では、オーバープロネーション、ニュートラルプロネーション、アンダープロネーションのすべてを判定するのではなく、
図6に示すように第1のタイプと第2のタイプのいずれであるかを推定するだけである。したがって、ニュートラルプロネーションとアンダープロネーションを区別する推定処理は不要となる。また、ノードN13やノードN17のように、分岐先のいずれもが同じ分類となる場合も推定処理は不要となる。その結果、回内推定部72に採用する足回内推定アルゴリズムは
図9の決定木分析による手順より簡略化され、次図のようになる。また、外側張り出し量に基づく分岐処理であるノードN39は、いずれの判定結果もニュートラルプロネーションであり、次図の足回内推定アルゴリズムでは省略される。したがって、外側張り出し量は足回内推定処理において参照されず、実質的に足幅および内側凹み量の2要素に基づく足回内推定処理に等しい。分岐条件としての閾値となる所定値b,g,i,kは、決定木分析により具体的な数値が決定され、足回内推定アルゴリズムの一部となり、それぞれが特徴量ごとの基準値として基準記憶部82に記憶される。
【0063】
図10は、足幅、内側凹み量、外側張り出し量の3要素に基づく足回内推定アルゴリズムを用いた足回内推定処理の過程を示すフローチャートである。
図10の例では、
図9の決定木分析におけるノードN30,N34,N38,N42に相当する分岐判定が足回内推定アルゴリズムとして採用されている。画像取得部54が測定対象者10の足の上面視画像を取得し(S20)、特徴量抽出部60が足部位の特徴量として足幅、内側凹み量、外側張り出し量を抽出する(S21)。変形例においては、特徴量抽出部60が足部位の特徴量として足幅および内側凹み量のみを抽出する仕様でもよい。回内推定部72は、足長が所定値b以下であれば(S22のY)、第1のタイプであると推定する(S26)。足長が所定値bを超える場合であって(S22のN)、内側凹み量が所定値g以下であれば(S23のY)、第2のタイプであると推定する(S27)。S23において内側凹み量が所定値gを超える場合であって(S23のN)、足幅が所定値i以下であれば(S24のY)、第2のタイプであると推定する(S27)。S24において足幅が所定値iを超える場合であって(S24のN)、足幅が所定値k以下であれば(S25のY)、第1のタイプであると推定し(S26)、足幅が所定値kを超える場合は(S25のN)、第2のタイプであると推定する(S27)。第1のタイプおよび第2のタイプのいずれに該当するかの推定(S26,S27)の結果に基づき、出力部90は回内タイプを出力し(S28)、足回内推定処理が終了する。以上のフローにおいて、S22,S23,S24,S25の処理が、
図9のノードN30,N34,N38,N42に相当する分岐判定処理である。
【0064】
以上、実施の形態を説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0065】
変形例においては、足の上面視画像に加えて側面視画像を補助的に用い、複数の足部位の特徴量のうち一部を側面視画像から抽出してもよい。別の変形例においては、回内推定部72が測定対象者10の既往症に関する情報を取得し、回内タイプの推定処理において既往症に関する情報を補助的に参照してもよい。
【0066】
別の変形例においては、多数の測定対象者10に対する回内タイプの推定結果に基づき、その回内タイプの分布に応じて第1のタイプに対応する靴製品モデルと第2のタイプに対応する靴製品モデルの製造数割合を調整するようにしてもよい。別の変形例においては、測定対象者10に対する回内タイプの推定結果に応じて、後脛骨筋や体幹、臀部のトレーニング方法を提案するようにしてもよい。別の変形例においては、回内タイプの推定結果に応じた靴製品モデルの推薦だけでなく、回内タイプの推定結果に応じたインソールの設計を提案するようにしてもよい。
【0067】
また、上述した実施形態を一般化すると以下の態様が得られる。
(1)本開示の一態様にかかる足回内推定装置は、
測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像として少なくとも足の上面視画像を取得する画像取得部と、
前記上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す所定部位の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記所定部位の特徴量と基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する回内推定部と、
を備える。
上記(1)の足回内推定装置によれば、測定対象者は、回内タイプを簡易に判別する技術を提供することができる。
【0068】
(2)(1)に記載の足回内推定装置において、
前記特徴量抽出部は、足幅の長さ、および、踏まず部形状における凹み量を少なくとも含む複数部位の特徴量を前記上面視画像から抽出し、
前記回内推定部は、前記足幅の長さ、および、前記踏まず部形状の凹み量を少なくとも含む複数部位の特徴量とそれぞれの基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定してもよい。
【0069】
(3)(2)に記載の足回内推定装置において、
前記複数部位の特徴量は、足長をさらに含んでもよい。
【0070】
(4)(2)に記載の足回内推定装置において、
前記複数部位の特徴量は、小趾球近傍の外郭形状における張り出し量をさらに含んでもよい。
【0071】
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の足回内推定装置において、
足の回内の度合いで分類されたタイプとして、回内の度合いが所定基準より高い第1のタイプと、回内の度合いが所定基準以下である第2のタイプと、を少なくとも含む複数の回内タイプを記憶する記憶部をさらに備え、
前記回内推定部は、前記所定部位の特徴量と基準値との比較に基づき、前記複数の回内タイプのうちいずれに該当するかを推定してもよい。
【0072】
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の足回内推定装置において、
足の回内に対処する態様で分類された靴のタイプとして、回内の度合いが所定基準より高い場合に対処するための第1の靴タイプと、回内の度合いが所定基準以下である場合に対処するための第2の靴タイプと、を少なくとも含む複数の靴タイプを記憶する記憶部と、
前記回内推定部により推定される回内の度合いに基づき、前記測定対象者に推奨する靴タイプを前記複数の靴タイプから決定するタイプ決定部と、
をさらに備えてもよい。
【0073】
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の足回内推定装置において、
前記複数部位の特徴量に関するそれぞれの基準値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記回内推定部は、前記抽出された特徴量と前記記憶された基準値との比較に基づいて前記回内の度合いを推定してもよい。
【0074】
(8)(1)から(7)のいずれかに記載の足回内推定装置において、
前記画像取得部は、前記上面視画像として、測定対象者の座位における足の上面視輪郭形状を示す画像を取得してもよい。
【0075】
(9)(1)から(8)のいずれかに記載の足回内推定装置において、
前記画像取得部は、測定対象者の足の側面視画像をさらに取得し、
前記特徴量抽出部は、前記上面視画像および前記側面視画像のうち少なくともいずれかから前記所定部位の特徴量を抽出してもよい。
【0076】
(10)本開示の一態様にかかる足回内推定方法は、
測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像として少なくとも足の上面視画像を取得する過程と、
前記上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す所定部位の特徴量を画像処理により抽出する過程と、
前記所定部位の特徴量と基準値との比較処理に基づいて足の回内の度合いを推定する過程と、
を備える。
【0077】
(11)本開示の一態様にかかる足回内推定プログラムは、
測定対象者の足の上面視における輪郭形状を示す画像として少なくとも足の上面視画像を取得する機能と、
前記上面視画像から足の上面視輪郭形状を示す所定部位の特徴量を抽出する機能と、
前記所定部位の特徴量と基準値との比較に基づいて足の回内の度合いを推定する機能と、
前記推定の結果を示す情報を出力する機能と、
をコンピュータに発揮させる。
【符号の説明】
【0078】
10 測定対象者、 30 上面視画像、 31 足長、 32 足幅、 38 内側凹み量、 39 外側張り出し量、 44 踏まず部形状、 45 小趾球近傍の外郭形状、 50 足回内推定装置、 54 画像取得部、 60 特徴量抽出部、 72 回内推定部、 74 タイプ決定部、 80 記憶部、 110 第1のタイプ、 111 第2のタイプ、 120 回内タイプ、 121 靴タイプ。