(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028615
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/468 20060101AFI20250221BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20250221BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
C04B35/468 200
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01B3/12 303
H01B3/12 333
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133534
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】増田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉山 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】朝日 敏夫
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
5G303
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E082AA01
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
5G303AA01
5G303AB05
5G303AB20
5G303BA11
5G303CA01
5G303CB03
5G303CB17
5G303CB35
(57)【要約】
【課題】熱衝撃などによるクラックを抑制することができる誘電体組成物を提供すること。
【解決手段】主相粒子と、偏析粒子と、を含む誘電体組成物であって、偏析粒子の少なくとも一部は、RE元素、Mg、TiおよびOを含むRE-Mg-Ti-O偏析粒子であり、RE元素は希土類元素であり、RE-Mg-Ti-O偏析粒子に含まれる金属元素の合計を100モル部としたとき、RE-Mg-Ti-O偏析粒子に含まれるRE元素、MgおよびTiの合計が70モル部以上であり、RE-Mg-Ti-O偏析粒子におけるRE元素およびMgの合計に対するMgの比率が0.1~0.3である誘電体組成物。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相粒子と、偏析粒子と、を含む誘電体組成物であって、
前記偏析粒子の少なくとも一部は、RE元素、Mg、TiおよびOを含むRE-Mg-Ti-O偏析粒子であり、
前記RE元素は希土類元素であり、
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子における金属元素の合計を100モル部としたとき、前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子におけるRE元素、MgおよびTiの合計が70モル部以上であり、
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子におけるRE元素およびMgの合計に対するMgの比率が0.1~0.3である誘電体組成物。
【請求項2】
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子は前記主相粒子の粒界に存在する請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子の平均粒径が0.1μm以下である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
前記誘電体組成物の断面を合計で5μm2以上観察したときに、前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子が平均で0.2~2個/μm2観察される請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項5】
前記主相粒子の組成はBaTiO3である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項6】
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子の組成は{RE(1-a)Mga}2Ti2O7であり、
前記aは0.1~0.3である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の誘電体組成物を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物および、当該誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に組み込まれる電子回路あるいは電源回路には、誘電体が発現する誘電特性を利用する積層セラミックコンデンサのような電子部品が多数搭載されている。特許文献1には、電子部品の誘電体セラミックの主成分が、一般式ABO3(ただし、AはBa、Sr、CaおよびMgのうちの少なくとも一種、BはTi、ZrおよびHfのうちの少なくとも一種)で表される組成物である旨が開示されている。
【0003】
特許文献1にも示す従来の電子部品は、回路基板などに「リフローはんだ」や「フローはんだ」などの方法で実装される。「フローはんだ」は「リフローはんだ」に比べてコストがかからないというメリットがあるものの、「フローはんだ」により基板に実装される場合には、熱衝撃などのために、電子部品の誘電体組成物(誘電体セラミック)にクラックが生じることがある。そのため、熱衝撃などでのクラックを有効に防止することができる誘電体組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、熱衝撃などによるクラックを抑制することができる誘電体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る誘電体組成物は、
主相粒子と、偏析粒子と、を含む誘電体組成物であって、
前記偏析粒子の少なくとも一部は、RE元素、Mg、TiおよびOを含むRE-Mg-Ti-O偏析粒子であり、
前記RE元素は希土類元素であり、
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子に含まれる金属元素の合計を100モル部としたとき、前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子に含まれるRE元素、MgおよびTiの合計が70モル部以上であり、
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子におけるRE元素およびMgの合計に対するMgの比率が0.1~0.3である。
【0007】
本発明者らは、熱衝撃などによるクラックを抑制することができる誘電体組成物について鋭意検討した結果、RE-Mg-Ti-O偏析粒子を有する誘電体組成物が、クラック抑制に優れた効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子により、熱衝撃などによるクラックを抑制することができる理由は必ずしも明らかではないが、たとえば、RE-Mg-Ti-O偏析粒子が主相粒子の過度な粒成長を抑制するためではないかと考えられる。
【0009】
また、仮に誘電体組成物にクラックが発生したとしても、クラックがRE-Mg-Ti-O偏析粒子に到達することにより、クラックの進行が止められるのではないかと考えられる。
【0010】
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子は前記主相粒子の粒界に存在していてもよい。
【0011】
好ましくは、前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子の平均粒径が0.1μm以下である。
【0012】
好ましくは、前記誘電体組成物の断面を合計で5μm2以上観察したときに、
前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子が平均で0.2~2個/μm2観察される。
【0013】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子を細かくして表面積を増やすことで表面エネルギーを高くすることができるため、RE-Mg-Ti-O偏析粒子は少量含まれるだけでも、主相粒子の粒界の移動を効率的に抑制でき、主相粒子の過度な粒成長をより抑制することができる。その結果、クラックをより生じにくくすることができる。
【0014】
また、RE-Mg-Ti-O偏析粒子は少量であることから、RE-Mg-Ti-O偏析粒子は主相粒子間を完全にふさがないため、主相粒子間において熱伝導し易く、誘電体組成物全体としても熱伝導率が高くなり、熱衝撃に強くなる。その結果、熱衝撃によるクラックをより抑制することができる。
【0015】
さらに、RE-Mg-Ti-O偏析粒子の平均個数が上記の範囲である場合は、上記の範囲を上回る場合に比べて高い比誘電率を維持することができる。RE-Mg-Ti-O偏析粒子の平均個数が上記の範囲である場合は、誘電特性を主に発揮する主相粒子が誘電体組成物中に十分に存在することから比誘電率が高くなると考えられる。
【0016】
好ましくは、前記主相粒子の組成はBaTiO3である。
【0017】
好ましくは、前記RE-Mg-Ti-O偏析粒子の組成は{RE(1-a)Mga}2Ti2O7-aであり、
前記aは0.1~0.3である。
【0018】
本発明の電子部品は、本発明に係る誘電体組成物を含む誘電体層を備える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る誘電体組成物の断面の模式図で ある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<
積層セラミックコンデンサ>
本実施形態に係る電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が
図1Aおよび
図1Bに示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0021】
本実施形態では、素子本体10の縦寸法L0(
図1A参照)は、3.5~0.4mmであることが好ましい。本実施形態では、素子本体10の幅寸法W0(
図1B参照)は、2.7~0.2mmであることが好ましい。
【0022】
素子本体10の具体的なサイズとしては、L0×W0が(3.2±0.3)mm×(2.5±0.2)mm、(3.2±0.3)mm×(1.6±0.2)mm、(2.0±0.2)mm×(1.2±0.1)mm、(1.6±0.2)mm×(0.8±0.1)mm、(1.0±0.1)mm×(0.5±0.05)mm、(0.6±0.06)mm×(0.3±0.03)mm、(0.4±0.04)mm×(0.2±0.02)mmの場合等が挙げられる。また、H0は特に限定されず、たとえばW0と同等以下程度である。
【0023】
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。
【0024】
誘電体層2の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは30μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。また、誘電体層2の積層数は特に限定されないが、本実施形態では、たとえば20以上であることが好ましい。
【0025】
本実施形態では、内部電極層3は、各端部が素子本体10の対向する2端面の表面に交互に露出するように積層してある。
【0026】
内部電極層3の厚みは特に限定されないが、たとえば2μm以下であり、好ましくは1.5μm以下である。
【0027】
内部電極層3に含有される導電材としては特に限定されない。導電材として用いられる貴金属としては、たとえばPd、Pt、Ag-Pd合金等が挙げられる。導電材として用いられる卑金属としては、たとえばNi、Ni系合金、Cu、Cu系合金等が挙げられる。なお、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金中には、Pおよび/またはS等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0028】
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂等公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0029】
<
誘電体組成物>
図2に示すように、誘電体層2を構成する誘電体組成物は、主相粒子20と、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22と、を含む。RE-Mg-Ti-O偏析粒子22は、RE元素、Mg、TiおよびOを含む。ここで、「RE元素」とは希土類元素を意味する。RE-Mg-Ti-O偏析粒子22は主相粒子20の粒界28に存在していてもよい。
【0030】
なお、本実施形態では、誘電体組成物に含まれる偏析粒子の少なくとも一部がRE-Mg-Ti-O偏析粒子22であればよく、誘電体組成物がRE-Mg-Ti-O偏析粒子22以外の組成の偏析粒子を含んでいてもよい。
【0031】
<主相粒子>
本実施形態の主相粒子20はAMO3で表される化合物を主成分として含む。なお、主相粒子20の主成分とは、主相粒子20を100質量部としたとき、80~100質量部を占める成分であり、好ましくは、90~100質量部を占める成分である。
【0032】
(Aのモル比/Mのモル比)で表されるA元素とM元素とのモル比は1であってもよいし、1でなくてもよい。(Aのモル比/Mのモル比)は0.9~1.2であることが好ましい。
【0033】
A元素はBaおよびCaから選ばれる少なくともいずれか1つを含む。A元素はBaであることが好ましい。これにより、誘電体組成物は、より高い比誘電率を示すことができる。
【0034】
また、A元素がBaおよびCaである場合には、BaおよびCaの合計を1モル部とした場合に、Baの含有量が0.9~1モル部であることが好ましい。
【0035】
M元素はTiおよびZrから選ばれる少なくともいずれか1つを含む。M元素はTiであることが好ましい。これにより、誘電体組成物は、より高い比誘電率を示すことができる。
【0036】
また、M元素がTiおよびZrである場合には、TiおよびZrの合計を1モル部とした場合に、Tiの含有量が0.8~1モル部であることが好ましい。
【0037】
主相粒子20はさらに、Mg、Mn、Cr、Si、RE元素、V、Li、B、Al等を含んでいてもよい。
【0038】
<RE-Mg-Ti-O偏析粒子>
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22は、RE元素、Mg、TiおよびOを含んでいる。
【0039】
「RE元素」は希土類元素を示す。RE元素の種類は、特に限定されないが、たとえばY、DyまたはHoを用いることができる。RE元素は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22に含まれる金属元素の合計を100モル部としたとき、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22に含まれるRE元素、MgおよびTiの合計が70モル部以上である。
【0041】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22におけるRE元素およびMgの合計に対するMgの比率{Mg/(RE+Mg)}は0.1~0.3である。
【0042】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22におけるRE元素およびMgの合計に対するTiの比率{Ti/(RE+Mg)}は、好ましくは0.7~1.3である。
【0043】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の組成は特に限定されないが、たとえば{RE(1-a)Mga}2Ti2O7-aでもよく、aは0.1~0.3であってもよい。
【0044】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の平均粒径は0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の平均粒径はRE-Mg-Ti-O偏析粒子22の円相当径の平均であってもよい。
【0045】
誘電体組成物の断面を合計で5μm2以上観察したときに、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22が平均で0.2~2個/μm2観察されることが好ましく、0.5~1.5個/μm2観察されることがより好ましい。ここで、「誘電体組成物の断面を合計で5μm2以上観察したときに」とは、観察視野が1視野の場合は、「5μm2以上の1視野を観察したときに」の意味であり、観察視野が2視野以上の場合は、「各視野の面積を合計すると5μm2以上である場合に、各視野でそれぞれ観察したときに」の意味である。
【0046】
なお、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22は、1つの視野に全てが含まれているものを1個として数える。たとえば、視野の端にあり、部分的に欠けて観察されるRE-Mg-Ti-O偏析粒子22は数に入れない。
【0047】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の結晶系は正方晶系であることが好ましい 。
【0048】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の空間群は、
【数1】
であることが好ましい。
【0049】
<偏析粒子の確認方法>
誘電体層2を構成する誘電体組成物がRE-Mg-Ti-O偏析粒子22を有するか否かを判断する方法としては、特に限定されないが、以下に具体的な方法を例示する。
【0050】
まず、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて誘電体組成物の断面を撮影し、暗視野(DF)像を得る。撮影する視野の広さは特に限定されないが、たとえば、1~10μm四方程度の広さである。この暗視野像において主相粒子20とは異なるコントラストを有する領域を異相であると認定する。異なるコントラストを有するか否か、すなわち異相を有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0051】
そして、上記の異相について、エネルギー分散型X線分析(EDS分析)により、各種元素を測定する。
【0052】
異相の同じ位置にRE元素、Mg、TiおよびOが存在しており、当該異相における金属元素の合計を100モル部としたとき、当該異相におけるRE元素、MgおよびTiの合計が70モル部以上であり、当該異相におけるMg/(RE+Mg)が0.1~0.3である場合には、当該異相はRE-Mg-Ti-O偏析粒子22であると判断することができる。
【0053】
この他にも、元素マッピング画像によりRE-Mg-Ti-O偏析粒子22であると判断することができる。
【0054】
<
積層セラミックコンデンサの製造方法>
次に、
図1Aおよび
図1Bに示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について以下に説明する。
【0055】
本実施形態では、上記の誘電体組成物を構成する主相粒子20の主成分であるAMO3の仮焼き粉末と、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料混合物の仮焼き粉末と、を用意する。
【0056】
AMO3の仮焼き粉末とは、焼成後に主相粒子20を構成するA元素およびM元素の仮焼き粉末である。
【0057】
RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料混合物の仮焼き粉末とは、焼成後にRE-Mg-Ti-O偏析粒子22を構成するRE元素、MgおよびTiの仮焼き粉末である。
【0058】
上記の各元素の原料としては特に限定されず、各元素の酸化物を用いることができる。また、焼成により各元素の酸化物を得ることができる各種化合物を用いることができる。各種化合物としては、たとえば炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。本実施形態では、上記の出発原料は粉末であることが好ましい。
【0059】
準備した出発原料のうち、AMO3粒子の原料を所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉を乾燥後、大気中において700~1300℃の範囲で熱処理を行い、AMO3粒子の原料混合物の仮焼き粉末を得る。また、仮焼き粉末はボールミル等を用いて所定の時間、粉砕を行ってもよい。
【0060】
焼成後にRE-Mg-Ti-O偏析粒子22を構成する各元素の酸化物等の各種化合物を準備し、熱処理した後に、ボールミル等を用いて所定の時間で粉砕してRE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料混合物の仮焼き粉末を得る。
【0061】
たとえば、粉砕時間を変えることで、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の粒径を変えることができ、粉砕時間が長い程、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の粒径を小さくすることができる。また、ボールミルのメディア径を変えることでもRE-Mg-Ti-O偏析粒子22の粒径を変えることができる。
【0062】
続いて、グリーンチップを作製するためのペーストを調製する。得られたAMO3粒子の原料混合物の仮焼き粉末と、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料混合物の仮焼き粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。
【0063】
誘電体層用ペーストは、必要に応じて、可塑剤や分散剤等の添加物を含んでもよい。
【0064】
内部電極層用ペーストは、上述した導電材の原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。内部電極層用ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0065】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製することができる。
【0066】
得られた各ペーストを用いて、グリーンシートを形成し、グリーンシート上に内部電極パターンを形成し、これらを積層した積層体を得る。次いで、該積層体を切断してグリーンチップを得る。
【0067】
得られたグリーンチップに対し、必要に応じて、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は、たとえば、保持温度を好ましくは200~350℃とする。
【0068】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、素子本体10を得る。本実施形態では、焼成時の雰囲気は特に限定されず、空気中であってもよいし、還元雰囲気下であってもよい。本実施形態では、焼成時の保持温度は特に限定されず、たとえば1200~1350℃である。
【0069】
焼成後、得られた素子本体10に対し、必要に応じて、再酸化処理(アニール)を行う。アニール条件は、たとえば、アニール時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1150℃以下とすることが好ましい。
【0070】
上記のようにして得られた素子本体10の誘電体層2を構成する誘電体組成物は、上述した誘電体組成物である。この素子本体10に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0071】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0072】
<本実施形態のまとめ>
誘電体組成物のクラックの原因の一つとして、「主相粒子20の過度な粒成長」が挙げられる。すなわち、主相粒子20が過度に粒成長することにより、誘電体内組成物内に気孔が生じやすくなり、たとえば「フローはんだ」などにより熱衝撃が加わることにより、その気孔を発端としてクラックが生じることがある。
【0073】
このため、誘電体組成物のクラックを抑制するために、主相粒子20の過度な粒成長を抑制することが望まれている。
【0074】
主相粒子20の過度な粒成長を抑制する方法の一つとして、「第2相粒子によるピン止め効果」を用いる方法が挙げられる。ここで、「ピン止め効果」とは、第2相粒子により粒界28の移動が抑制されることにより、第1相粒子(本実施形態では主相粒子20)の粒成長が抑制される現象である。このため、本発明者は誘電体組成物に第2相粒子となる粒子を存在させる方法を検討した。
【0075】
まず、RE2O3やMgOは単体だとAMO3に固溶し易いため、AMO3に溶け込んでしまうことがある。このため、RE2O3やMgOは単体の場合は誘電体組成物にてピン止め効果を発揮する第2相粒子として存在しにくい。
【0076】
さらに、RE2O3とMgOとは固溶体を形成し、RE2O3の一部をMgOが置換し、MgOの一部をRE2O3が置換するものの、これら以外の化合物を形成しない。このため、RE2O3やMgOの単体の挙動と同様に、RE2O3とMgOとの固溶体もAMO3に溶け込んでしまうため、RE2O3とMgOとの固溶体も誘電体組成物にてピン止め効果を発揮する第2相粒子として存在しにくい。
【0077】
そこで、本発明者は、RE2O3、MgOおよびTiO2からRE-Mg-Ti-O偏析粒子22を形成させて第2相粒子とすることを見出した。RE-Mg-Ti-O偏析粒子22は安定な化合物であることから、AMO3を主成分とする主相粒子20に溶け込みにくいと考えられる。このため、主相粒子20の粒界28にRE-Mg-Ti-O偏析粒子22が存在することにより、ピン止め効果により、主相粒子20の粒界28の移動を効率的に抑制でき、主相粒子20の粒成長を抑制することができる。その結果、熱衝撃などによるクラックを生じにくくすることができる。
【0078】
また、仮に誘電体組成物にクラックが発生したとしても、クラックがRE-Mg-Ti-O偏析粒子22に到達することにより、該クラックの進行が止められる。すなわち、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22にて、クラックの進行を止めることができる。
【0079】
さらに、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22を細かくして表面積を増やすことで表面エネルギーを高くすることができるため、主相粒子20間に少量含まれるだけでも、主相粒子20の粒界28の移動を効率的に抑制でき、主相粒子20の粒成長を抑制してクラックを生じにくくすることができると共に、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22にて、クラックの進行を止めることができる。
【0080】
さらに、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22が少量である場合には、主相粒子20間を完全にふさがないため、主相粒子20間において熱伝導し易く、誘電体組成物全体としても熱伝導率が高くなり、熱衝撃に強くなる。その結果、熱衝撃によるクラックをより抑制することができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【0082】
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本発明に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体組成物を有する電子部品であれば何でもよい。
【0083】
たとえば、上述した誘電体組成物に一対の電極が形成された単板型のセラミックコンデンサであってもよい。
【実施例0084】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
誘電体組成物に含まれる主相粒子20の出発原料として、BaCO3、CaCO3、ZrO2、TiO2の粉末を準備した。焼成後の主相粒子20の主成分が表1、表2および表4に記載の通りになるように、準備した出発原料を秤量した。
【0086】
次に、秤量した各粉末を、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式混合し、混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、得られた混合原料粉末を、大気中において保持温度1000℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行い、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式粉砕し、混合物を乾燥して主相粒子20の原料混合物の仮焼き粉末を得た。
【0087】
また、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料として、RE元素の酸化物(Y2O3)、MgCO3、TiO2の粉末を準備した。RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の「Ti/(RE+Mg)」および「Mg/(RE+Mg)」が表1、表2および表4に記載の通りになり、なおかつ主相粒子20の原料混合物の仮焼き粉末100質量部に対して、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料混合物の仮焼き粉末の添加量(単位:質量部)(表1、表2および表4では「添加量」と記載している)が表1、表2および表4に記載の通りになるように、準備した出発原料を秤量した。
【0088】
また、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料として、RE元素の酸化物(Y2O3)、MgCO3、TiO2の粉末を準備した。RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の「Ti/(RE+Mg)」および「Mg/(RE+Mg)」が表1、表2および表4に記載の通りになるように、準備した粉末を秤量した。
【0089】
次に、秤量した各粉末を、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式混合し、混合物を乾燥し、大気中において保持温度1000℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行い、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式粉砕し、混合物を乾燥してRE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料混合物の仮焼き粉末を得た。
【0090】
さらに、下記の方法により無機添加物を準備した。まず、MgCO3、Y2O3、MnCO3、SiO2およびV2O5の各粉末を、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式混合し、混合物を得た。次いで、該混合物を乾燥し、大気中において保持温度900℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行った。熱処理後の混合物を分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式粉砕し、乾燥して無機添加物を得た。
【0091】
続いて、主相粒子20の原料混合物の仮焼き粉末と、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料混合物の仮焼き粉末と、無機添加物と、バインダと、溶剤と、を混錬し塗料化して誘電体層用ペーストを調製した。ここで、主相粒子20の原料混合物の仮焼き粉末100質量部に対して、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の原料混合物の仮焼き粉末の添加量(単位:質量部)(表1、表2および表4では「添加量」と記載している)が表1、表2および表4に記載の通りになるように、準備した出発原料を秤量した。
【0092】
ニッケル粒子:56質量部と、ターピネオール:40質量部と、エチルセルロース(分子量14万):4質量部と、ベンゾトリアゾール:1質量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0093】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。内部電極層用ペーストをスクリーン印刷し、グリーンシートを形成した。
【0094】
グリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0095】
得られたグリーンチップに対し、脱バインダ処理を行い、還元雰囲気下で焼成し、さらにアニール処理を行い、還元雰囲気下で焼成した焼結体(誘電体組成物)を得た。焼成条件は、昇温速度を200℃/h、保持温度を1250℃、保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは、露点20℃に加湿した窒素と水素との混合ガス(水素濃度3%)とした。また、アニール処理条件は、保持温度を1050℃、保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは、露点20℃に加湿した窒素ガスとした。
【0096】
上記のようにして得られた素子本体10に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成した。
【0097】
このようにして、積層セラミックコンデンサ1(以下では「コンデンサ試料」とする)を得た。
【0098】
<主相粒子の観察>
得られたコンデンサ試料の誘電体組成物の断面の1.7μm×1.7μmの視野について、STEMにより主相粒子20を認定し、EDSを用いて、主相粒子20の主成分を認定した。結果を表1、表2および表4に示す。
【0099】
<偏析粒子の観察>
得られたコンデンサ試料の誘電体組成物の断面の1.7μm×1.7μmの視野について、STEMにより異相を認定し、EDSを用いて、Y、MgおよびTiの各量を測定した。
【0100】
同じ位置にY、MgおよびTiが存在しており、異相に含まれる金属元素の合計を100モル部としたとき、Y、MgおよびTiの合計が70モル部以上であり、Mg/(RE+Mg)が0.1~0.3である場合には、その異相はRE-Mg-Ti-O偏析粒子22であると判断した。RE-Mg-Ti-O偏析粒子22の有無、Ti/(RE+Mg)およびMg/(RE+Mg)の結果を表1、表2および表4に示す。なお、RE-Mg-Ti-O偏析粒子22を有する各コンデンサ試料ではRE-Mg-Ti-O偏析粒子22は主相粒子20の粒界28に存在していることを確認した。
【0101】
<320℃熱衝撃試験>
320℃に加熱したはんだ槽の中に、コンデンサ試料をフラックス中に浸漬した後に、コンデンサ試料をピンセットでつまんで浸漬した。その後、コンデンサ試料を取り出してから、シンナーで超音波洗浄を行った後に外観を観察した。当該試験を20個のコンデンサ試料に対して行った。クラックが生じていたコンデンサ試料の個数を表1、表3および表5に示す。
【0102】
<平均粒径>
表3および表5の各試料では平均粒径を測定した。具体的には、誘電体組成物の断面を合計で5μm2以上観察し、観察されるY-Mg-Ti-O偏析粒子22の円相当径を測定して、測定値を平均し、Y-Mg-Ti-O偏析粒子22の平均粒径とした。結果を表3および表5に示す。
【0103】
<350℃熱衝撃試験>
表3および表5の各試料では350℃熱衝撃試験を行った。具体的には、コンデンサ試料をフラックス中に浸漬した後に、350℃に加熱したはんだ槽の中に、コンデンサ試料をピンセットでつまんで浸漬した。その後、コンデンサ試料を取り出してから、シンナーで超音波洗浄を行った後に外観を観察した。当該試験を20個のコンデンサ試料に対して行った。クラックが生じていたコンデンサ試料の個数を表3および表5に示す。
【0104】
<380℃熱衝撃試験>
表3および表5の各試料では380℃熱衝撃試験を行った。具体的には、コンデンサ試料をフラックス中に浸漬した後に、380℃に加熱したはんだ槽の中に、コンデンサ試料をピンセットでつまんで浸漬した。その後、コンデンサ試料を取り出してから、シンナーで超音波洗浄を行った後に外観を観察した。当該試験を20個のコンデンサ試料に対して行った。クラックが生じていたコンデンサ試料の個数を表3および表5に示す。
【0105】
<平均粒子個数>
表5の各試料では平均粒子個数を測定した。具体的には誘電体組成物の断面
を合計で5μm2以上観察し、観察されるRE-Mg-Ti-O偏析粒子22の平均個数を算出した。結果を表5に示す。
【0106】
<比誘電率>
表5の各試料では、比誘電率を測定した。具体的には、コンデンサ試料に対し、室温(20℃)において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。そして、比誘電率を、焼結体の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。結果を表5に示す。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
表1より、誘電体組成物がRE-Mg-Ti-O偏析粒子を有する場合(試料番号5~7、9、10)は、誘電体組成物がRE-Mg-Ti-O偏析粒子を有していない場合(試料番号1~4、8)に比べて320℃熱衝撃試験の結果が良好であることが確認できた。