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特開2025-28629サブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法
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  • 特開-サブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法 図1
  • 特開-サブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法 図2
  • 特開-サブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028629
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/18 20060101AFI20250221BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20250221BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
B23K9/18 E
B23K9/12 306Z
B23K9/095 505B
B23K9/18 F
B23K9/12 350A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133554
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】本田 玲央
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB05
4E001DE03
(57)【要約】
【課題】サブマージアーク溶接において、溶接ワイヤの送給可変速制御によってアーク長を制御して溶接を安定化しつつ、溶接方向の単位長さあたりのワイヤ溶着量を一定に保つことができるサブマージアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】母材の溶接線に沿ってトーチを移動させながら母材を溶接するサブマージアーク溶接方法であって、トーチから送給される溶接ワイヤの送給速度を変化させることによってアーク長を制御し、溶接線に沿う単位長さあたりのワイヤ溶着量が一定となるトーチの移動速度を決定し、決定した移動速度に基づいてトーチの移動速度を制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の溶接線に沿ってトーチを移動させながら母材を溶接するサブマージアーク溶接機であって、
溶接線に沿って前記トーチを移動させる移動装置と、
溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置と、
アーク長に対応する溶接電圧を検出する電圧センサと、
制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記電圧センサにて検出された電圧に基づいて、前記ワイヤ送給装置による前記溶接ワイヤの送給速度を変化させることによってアーク長を制御し、
溶接線に沿う単位長さあたりのワイヤ溶着量が一定となる前記トーチの移動速度を決定し、
決定した移動速度に基づいて前記移動装置による前記トーチの移動速度を制御する
サブマージアーク溶接機。
【請求項2】
前記制御装置は、下記式に基づいて前記トーチの移動速度を決定する
請求項1に記載のサブマージアーク溶接機。
Sw×Vw×ρ/v=Q
但し、
Sw:前記溶接ワイヤの断面積
Vw:前記溶接ワイヤの送給速度
ρ:前記溶接ワイヤの密度
v:前記トーチの移動速度
Q:前記ワイヤ溶着量
【請求項3】
前記溶接ワイヤの断面積、前記溶接ワイヤの密度、及び前記ワイヤ溶着量に係る設定情報を受け付ける設定受付部を備え、
前記制御装置は、
前記電圧センサにて検出された電圧に基づいて、前記溶接ワイヤの送給速度を決定し、
決定した前記溶接ワイヤの送給速度と、前記設定受付部にて受け付けた前記設定情報に基づく、前記溶接ワイヤの断面積と、前記溶接ワイヤの密度と、前記ワイヤ溶着量とに基づいて、前記トーチの移動速度を決定する
請求項2に記載のサブマージアーク溶接機。
【請求項4】
前記移動装置は、
前記トーチを搭載し、該トーチを母材の溶接線に沿って移動させる台車である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のサブマージアーク溶接機。
【請求項5】
母材の溶接線に沿ってトーチを移動させながら母材を溶接するサブマージアーク溶接方法であって、
前記トーチから送給される溶接ワイヤの送給速度を変化させることによってアーク長を制御し、
溶接線に沿う単位長さあたりのワイヤ溶着量が一定となる前記トーチの移動速度を決定し、
決定した移動速度に基づいて前記トーチの移動速度を制御する
サブマージアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接電圧に応じて溶接ワイヤの送給速度を変化させる送給可変速制御によってアーク長を制御するサブマージアーク溶接方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
送給可変速制御では、ワイヤ送給速度を逐次変化させることで、アーク長を示すアーク電圧が一定に維持される。太径ワイヤを用いるサブマージアーク溶接では、溶接電流が多少変化してもワイヤ溶融速度が変化しにくく、定電圧特性の溶接電源を用いたGMA溶接で一般的に利用されるアーク長の自己制御作用が得られにくいため、送給可変速制御がアーク長制御に対して有効であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-271944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、送給可変速制御では、ワイヤ溶融速度の変化に伴い、溶接方向の長さあたりのワイヤ溶着量が変化する。ワイヤ溶着量の変化は、脚長の不足や、積層計画に影響を及ぼす。これを回避するためには、ワイヤ送給速度を定速送給とする必要があり、その場合は定電圧特性の溶接電源を用いて、アーク長の自己制御作用によりアーク長を制御する必要がある。しかしながら、先に述べたように、太径ワイヤを用いるサブマージアーク溶接では、アーク長の自己制御作用が得られにくく、十分なアーク安定性(溶接安定性)が得られない。
【0006】
本開示の目的は、サブマージアーク溶接において、溶接ワイヤの送給可変速制御によってアーク長を制御して溶接を安定化しつつ、溶接方向の単位長さあたりのワイヤ溶着量を一定に保つことができるサブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係るサブマージアーク溶接機は、母材の溶接線に沿ってトーチを移動させながら母材を溶接するサブマージアーク溶接機であって、溶接線に沿って前記トーチを移動させる移動装置と、溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置と、アーク長に対応する溶接電圧を検出する電圧センサと、制御装置とを備え、前記制御装置は、前記電圧センサにて検出された電圧に基づいて、前記ワイヤ送給装置による前記溶接ワイヤの送給速度を変化させることによってアーク長を制御し、溶接線に沿う単位長さあたりのワイヤ溶着量が一定となる前記トーチの移動速度を決定し、決定した移動速度に基づいて前記移動装置による前記トーチの移動速度を制御する。
【0008】
本開示の一側面に係るサブマージアーク溶接方法は、母材の溶接線に沿ってトーチを移動させながら母材を溶接するサブマージアーク溶接方法であって、前記トーチから送給される溶接ワイヤの送給速度を変化させることによってアーク長を制御し、溶接線に沿う単位長さあたりのワイヤ溶着量が一定となる前記トーチの移動速度を決定し、決定した移動速度に基づいて前記トーチの移動速度を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一側面によれば、サブマージアーク溶接において、溶接ワイヤの送給可変速制御によってアーク長を制御して溶接を安定化しつつ、溶接方向の単位長さあたりのワイヤ溶着量を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るサブマージアーク溶接機の一構成を示す模式図である。
図2】本実施形態に係るサブマージアーク溶接機の一構成を示すブロック図である。
図3】本実施形態に係る制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態に係るサブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、本実施形態に係るサブマージアーク溶接機の一構成を示す模式図、図2は、本実施形態に係るサブマージアーク溶接機の一構成を示すブロック図である。本実施形態に係るサブマージアーク溶接機は、溶接電源1と、制御装置2と、トーチ3と、ワイヤリール4と、ワイヤ送給装置5と、フラックス供給装置6と、台車7と、電圧センサ8と、電流センサ9とを備える。本実施形態に係るサブマージアーク溶接機は、溶接断面あたりのワイヤ溶着量が一定になるように台車走行速度を自動調整することができる溶接システムである。
【0013】
トーチ3は、銅合金等の導電性材料からなり、母材Aの被溶接部へ溶接ワイヤWを案内するとともに、アークの発生に必要な溶接電流を供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤWに接触し、溶接電流を溶接ワイヤWに供給する。
【0014】
ワイヤ送給装置5は、ワイヤリール4に巻回された溶接ワイヤWを引き出してトーチ3へ送給する送給ローラ51と、当該送給ローラ51を回転させるモータ52とを有する。ワイヤ送給装置5は、送給ローラ51を回転させることによって、溶接ワイヤWをトーチ3へ供給する。溶接ワイヤWの送給速度は、アーク長が変動しないように溶接電圧に応じて調整される。ワイヤ送給装置5による、溶接ワイヤWの送給速度は、制御装置2によって制御される。
【0015】
フラックス供給装置6は、フラックスホッパ61、ノズル62及びバルブ63、図示しないフラックス回収機等を備える。フラックスホッパ61は、上部から投入されたフラックスBを蓄えており、フラックスBは、フラックスホッパ61の下部に接続されたノズル62を通じて母材Aの被溶接部に供給される。バルブ63は、フラックスホッパ61からノズル62への経路を開閉し、フラックスBの供給量を調整する。バルブ63の開閉及び開閉量は、制御装置2によって制御される。なお、バルブ63の開閉及び開閉量は手動で操作されるように構成してもよい。
【0016】
台車7は、溶接電源1、制御装置2、トーチ3、ワイヤリール4、ワイヤ送給装置5、フラックス供給装置6等を搭載し、母材Aの溶接線に沿って移動する搬送装置である。台車7は、車輪を回転させる走行モータを備える。走行する台車7によって、トーチ3及びフラックス供給装置6は母材Aの溶接線に沿って移動し、フラックスホッパ61に貯留された粒状のフラックスBが溶接線に沿って散布され、ワイヤ送給装置5によって溶接ワイヤWがフラックスBの中に送給される。台車7の走行速度は制御装置2によって制御される。
【0017】
電圧センサ8は、トーチ3に取り付けたアーク電圧検出リード線と、母材Aに取り付けたアーク電圧検出リード線との間の電圧を、溶接電圧(アーク電圧)として検出し、検出された電圧値を示す電圧値信号を制御装置2へ出力するセンサである。
【0018】
電流センサ9は、溶接電源1からトーチ3を介して溶接ワイヤWへ供給され、アークを通じて母材Aに流れる溶接電流を検出し、検出した電流値を示す電流値信号を制御装置2へ出力するセンサである。
【0019】
溶接電源1は、定電流特性を有するインバータ制御の交流溶接電源であり、商用電源の入力側から順に直列接続された整流器11、1次インバータ12、変圧器13、整流器14、直流リアクタ15、2次インバータ16を備える。溶接電源1は、給電ケーブルを介して、トーチ3のコンタクトチップ及び母材Aに接続される。溶接電源1は、商用電源を入力として、溶接ワイヤWと、母材Aとの間に溶接電力を供給してアークを発生させる。
【0020】
整流器11は、商用電源の交流を整流して1次インバータ12へ出力する。1次インバータ12は、十数kHz~数十kHzの高周波数で駆動し、高周波の交流を変圧器13の1次コイルに与える。変圧器13は交流を変圧し、変圧された交流は整流器14で整流され、直流リアクタ15を介して2次インバータ16へ出力される。2次インバータ16は、数十~数百Hzの低周波数で駆動し、低周波数の交流を出力する。交流の出力により、交流の溶接電圧がトーチ3と母材Aとの間に印加され、溶接電源1から供給された溶接電流は、電源ケーブルを介してトーチ3から溶接ワイヤWに流れる。溶接電流により、母材A及び溶接ワイヤW間に発生したアークの熱によって母材Aの溶接を行う。アークは、フラックス供給装置6によって供給されたフラックスBで覆われる。
【0021】
制御装置2は、溶接電源1の1次インバータ12及び2次インバータ16へそれぞれ制御信号を出力し、各インバータを独立してデジタル制御する回路である。また、制御装置2は、ワイヤ送給装置5による溶接ワイヤWの送給速度、フラックス供給装置6によるフラックスBの供給量、台車7の走行速度等を制御する。
【0022】
制御装置2はプロセッサであり、CPU、マルチコアCPU等の演算処理部21と、記憶部22と、設定受付部23と、ワイヤ送給速度制御部24と、フラックス供給制御部25と、台車走行速度制御部26とを有する。
【0023】
記憶部22は、ROM(Read Only Memory)、EEPROM等の不揮発性メモリ、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリを含む記憶装置である。記憶部22は、溶接ワイヤWの種類と、溶接ワイヤWの密度とを対応付けたワイヤ特性テーブルを備える。
【0024】
設定受付部23は、ボタン、キー、ダイヤル等の入力装置であり、サブマージアーク溶接機の設定電流、溶接ワイヤWのワイヤ径、溶接ワイヤWの種類、溶接方向の単位長さあたりの溶着量、その他の溶接条件を含む設定情報を受け付ける。
【0025】
ワイヤ送給速度制御部24は、モータ52の駆動回路に接続されており、当該駆動回路へワイヤ送給速度に応じた回転制御信号を出力することによって、ワイヤ送給装置5による溶接ワイヤWの送給を制御する。送給ローラ51は回転制御信号に応じた速度で回転し、溶接ワイヤWがトーチ3を介して、母材Aの被溶接部へ供給される。
【0026】
アーク長は、溶接電圧(アーク電圧)に比例する。溶接電圧は、トーチ3のコンタクトチップと、母材Aとの間の電圧であり、電圧センサ8によって検出される。ワイヤ送給速度制御部24には、目標値である送給速度設定値が設定される。ワイヤ送給速度制御部24は、送給速度設定値と、電圧センサ8によって検出された溶接電圧の平均値(交流溶接の場合は溶接電圧の絶対値の平均値を意味する。)又は実効値と差分を操作量として、アーク長が一定になるように溶接ワイヤWの送給速度を制御する。
【0027】
フラックス供給制御部25は、フラックス供給装置6のバルブ63を開閉させる駆動回路に接続されており、当該駆動回路へフラックス供給量に応じた開閉信号を出力することによって、フラックス供給装置6によるフラックスBの供給を制御する。なお、バルブ63の開閉が手動で操作される構成の場合、フラックス供給制御部25は不要である。
【0028】
台車走行速度制御部26は、台車7の走行モータを駆動する駆動回路に接続されており、当該駆動回路へ台車7の走行速度に応じた走行制御信号を出力することによって、台車7の走行を制御する。
【0029】
また、制御装置2の図示しない信号入出力端子には電圧センサ8、電流センサ9、1次インバータ12、2次インバータ16が接続されており、設定された溶接条件、検出された溶接電流及び溶接電圧に基づいて、定電流特性で動作するよう1次インバータ12をPWM制御する。母材A及び溶接ワイヤW間には、所用の溶接電圧が印加され、溶接電流が通電する。
【0030】
上記したワイヤ送給速度制御部24及び台車走行速度制御部26は、溶接ワイヤWの送給可変速制御によってアーク長を制御して溶接を安定化しつつ、溶接方向の単位長さあたりのワイヤ溶着量を一定に保つことを可能にするものである。
【0031】
溶接方向の長さあたりのワイヤ溶着量は、単位時間あたりのワイヤ送給重量を、溶接速度で除して算出される。すなわち、このワイヤ溶着量は、ワイヤ送給速度に比例し、溶接速度(台車7の走行速度)に反比例する。
【0032】
そこで、送給可変速制御を適用しつつ、送給速度/走行速度が一定値になるように、台車走行速度制御部26は、台車7の走行速度を変化させる。より具体的には、台車走行速度制御部26は、単位長さあたりのワイヤ溶着量、すなわち、ワイヤ断面積×ワイヤ送給速度×ワイヤ密度/走行速度=溶接方向の長さあたりのワイヤ溶着量の設定値、となるように、走行速度を逐次変化させる。
この操作により、溶接方向の長さあたりのワイヤ溶着量を一定に保ちつつ、送給可変速制御により安定したサブマージアーク溶接を行うことができる。
【0033】
図3は、本実施形態に係る制御方法を示すフローチャートである。以下の説明では、主に、アーク長制御及び走行速度制御を説明し、その他のアーク溶接制御の詳細は省略し、又は簡略化して説明する。制御装置2は、サブマージアーク溶接機の設定電流、溶接ワイヤWのワイヤ径、溶接ワイヤWの種類、溶接方向の単位長さあたりの溶着量、その他の溶接条件を含む設定情報を受け付け(ステップS11)、サブマージアーク溶接制御を開始する(ステップS12)。
【0034】
次いで、制御装置2は、電圧センサ8にて溶接電圧を検出する(ステップS13)。そして、制御装置2は、検出された溶接電圧の平均値又は実効値と、設定電圧との差分に基づいて、ワイヤ送給速度を決定し(ステップS14)、決定したワイヤ送給速度によって、溶接ワイヤWの送給可変速制御を行う(ステップS15)。設定電圧は、アーク長が所定長であるときの電圧である。溶接電圧を設定電圧に一致させることによって、アーク長を一定に保持することができる。制御装置2は、検出された溶接電圧と設定電圧の差電圧の符号によってモータ52の正転又は逆転が決定され、また、この差電圧の値によってワイヤ送給速度が決定される。具体的には、制御装置2は、(検出された溶接電圧)-(設定電圧)の差電圧が正である場合、ワイヤ送給速度を増加させ、(検出された溶接電圧)-(設定電圧)の差電圧が負である場合、ワイヤ送給速度を減少させる。
【0035】
次いで、制御装置2は、ステップS11で受け付けた溶接ワイヤWのワイヤ径及び種類に基づいて、溶接ワイヤWの断面積及び密度を特定する。溶接ワイヤWの断面積は、ステップS11で受け付けたワイヤ径から算出することができる。また、溶接ワイヤWの密度は、ステップS11で受け付けた溶接ワイヤWの種類をキーにしてワイヤ特性テーブルを参照することによって、当該溶接ワイヤWの密度を特定することができる。
【0036】
そして、制御装置2は、ステップS11で設定されたワイヤ溶着量と、ステップS14で決定した溶接ワイヤWの送給速度と、ステップS17で特定された溶接ワイヤWの断面積及び密度とに基づいて、溶接線に沿った単位長さあたりのワイヤ溶着量が一定になるように、台車7の走行速度を決定し(ステップS16)、台車7の走行速度の可変速制御を行う(ステップS17)。
【0037】
具体的には、制御装置2は、下記式(1)に基づいて台車7の走行速度を決定する。
【0038】
Sw×Vw×ρ/v=Q…(1)
但し、
Sw:溶接ワイヤWの断面積
Vw:溶接ワイヤWの送給速度
ρ:溶接ワイヤWの密度
v:台車7の走行速度(トーチ3の移動速度)
Q:ワイヤ溶着量
【0039】
以下、制御装置2は、所定の終了条件を満たすか否かを判定し(ステップS18)、終了条件を満たした場合(ステップS18:YES)、溶接処理を終了する。終了条件を満たしていない場合(ステップS18:NO)、制御装置2は、ステップS12~ステップS17の処理を繰り返し実行し、サブマージアーク溶接方法を実行する。
【0040】
(実施例)
本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法の実施例を説明する。
溶接ワイヤWとして、ワイヤ径4.8mmの鉄製ワイヤ(密度7.87g/cm)を用いて、溶接電流800Aで、溶接方向の長さ1cmあたりのワイヤ溶着量を3.56g/cmに設定して、送給可変速制御を適用してサブマージアーク溶接を行う。
このとき、走行速度(cm/分)=0.24(cm)×0.24(cm)×π×7.87(g/cm)×送給速度(m/分)×100/3.56(g/cm)=40×送給速度(m/分)、を満たすように、走行速度を調整する。例えば、送給速度が1m/分のとき、走行速度は40cm/分となる。送給速度が2m/分のとき、走行速度は80cm/分となる。
【0041】
以上の通り、本実施形態に係るサブマージアーク溶接機及びサブマージアーク溶接方法によれば、溶接ワイヤWの送給可変速制御によってアーク長を制御して溶接を安定化しつつ、溶接方向の単位長さあたりのワイヤ溶着量を一定に保つことができる。
【0042】
なお、溶接方向の長さあたりのワイヤ溶着量の代わりに、溶接方向に垂直な断面あたりのワイヤ溶着面積等、他の指標を送給速度制御の指標に用いても良い。
【0043】
トーチ3を移動させる移動装置の一例として台車7を説明したが、移動装置として溶接ロボットを用いてトーチ3の移動速度を制御しても良い。
【符号の説明】
【0044】
1:溶接電源、2:制御装置、3:トーチ、4:ワイヤリール、5:ワイヤ送給装置、
6:フラックス供給装置、7:台車、8:電圧センサ、9:電流センサ、21:演算処理部、22:記憶部、23:設定受付部、24:ワイヤ送給速度制御部、25:フラックス供給制御部、26:台車走行速度制御部、A:母材、B:フラックス、W:溶接ワイヤ
図1
図2
図3