(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028633
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】オゾンインジケータおよびCT値を推定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20250221BHJP
【FI】
G01N21/78 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133561
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】503242877
【氏名又は名称】株式会社タムラテコ
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田村 耕三
(72)【発明者】
【氏名】福田 由之
(72)【発明者】
【氏名】由井 善博
(72)【発明者】
【氏名】小竹 武
(72)【発明者】
【氏名】石渡 俊二
(72)【発明者】
【氏名】井上 知美
(57)【要約】
【課題】オゾンガスによる殺菌、有害物の分解、脱臭等において、処理の途中のCT値および処理終了のCT値を推定できるオゾンインジケータを提供する。
【解決手段】オゾンインジケータ1は、シート状の基材11と、基材の表面に重なりを避けて形成された感応部12および比較部13と、を有する。感応部は、オゾンガスの暴露によりその色調が変化する色素を含んで形成される。比較部は、感応部に対するオゾンガス暴露過程における互いに異なる複数のCT値に達したときの当該CT値における感応部の色調が印刷で再現されて互いに重ならない複数のCT指標16a,・・・,16gで構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材と、
前記基材の表面に重なりを避けて形成された感応部および比較部と、
を有し、
前記感応部は、オゾンガスの暴露によりその色調が変化する色素を含んで形成され、
前記比較部は、前記感応部に対するオゾンガス暴露過程における互いに異なる複数のCT値に達したときの当該CT値における前記感応部の色調が印刷で再現されて互いに重ならない複数のCT指標で構成された
ことを特徴とするオゾンインジケータ。
【請求項2】
複数の前記CT指標のそれぞれの近傍に、当該CT指標に対応する前記CT値が数値で記載された
請求項1に記載のオゾンインジケータ。
【請求項3】
シート状の基材と、
前記基材の表面に重なりを避けて形成された感応部、比較部およびQRコード(登録商標)と、
を有し、
前記感応部は、オゾンガスの暴露によりその色調が変化する色素を含んで形成され、
前記比較部は、オゾンガス暴露過程における互いに異なる複数のCT値に達したときの当該CT値における前記感応部の色調が印刷で再現されて互いに重ならない複数のCT指標で構成され、
QRコード(登録商標)は、前記感応部がオゾンガス暴露されたとき変化したその色調と前記複数のCT指標の色調とからCT値を算出するための情報が記録されている
ことを特徴とするオゾンインジケータ。
【請求項4】
前記QRコード(登録商標)に記録された情報は、
オゾンガス暴露により変化した前記感応部の色調に対応するCT値を算出可能なアプリケーションの起動、ならびに感応部および比較部に関するものである、
請求項3に記載のオゾンインジケータ。
【請求項5】
前記QRコード(登録商標)に記録された情報は、
前記複数のCT指標に対応するCT値である
請求項3に記載のオゾンインジケータ。
【請求項6】
色調が変化する前記色素は、
ブロモフェノールブルー、クマシーブリリアントブルーおよび食用色素のいずれかである
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のオゾンインジケータ。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載されたオゾンインジケータを、演算装置のデジタルカメラで読み取り、
前記オゾンインジケータにおける前記感応部および前記複数のCT指標を前記デジタルカメラで画像データ化し、
前記画像データにおける前記感応部および前記複数のCT指標を領域抽出し、
前記感応部および前記複数のCT指標それぞれの色調を256階調の明度データとして求め、
前記CT指標の数値として前記演算装置に記憶された複数の数値の昇順と前記明度データの降順とを対応させ、
前記感応部の明度データより大きくおよび小さく且つこの明度データに直近の2つのC
T指標の明度データおよびこれらに対応する2つのCT指標の数値の組み合わせを抽出し、
抽出した前記明度データとこれらに対応する前記CT指標の数値とから補間法により前記感応部の明度データに対応するCT値としての数値を求める
ことを特徴とするCT値の推定方法。
【請求項8】
請求項3ないし請求項5のいずれか1項に記載されたオゾンインジケータにおける前記QRコード(登録商標)を、演算装置のデジタルカメラで読み取り、
前記オゾンインジケータにおける前記感応部および前記複数のCT指標を前記デジタルカメラで画像データ化し、
前記QRコード(登録商標)からの読み取り情報に基づいて前記画像データにおける前記感応部および前記複数のCT指標を領域抽出し、
前記感応部および前記複数のCT指標それぞれの色調を256階調の明度データとして求め、
前記QRコード(登録商標)に前記CT指標の数値として記憶された複数の数値の昇順と前記明度データの降順とを対応させ、
前記感応部の明度データより大きくおよび小さく且つこの明度データに直近の2つのCT指標の明度データおよびこれらに対応する2つのCT指標の数値の組み合わせを抽出し、
抽出した前記明度データとこれらに対応する前記CT指標の数値とから補間法により前記感応部の明度データに対応するCT値としての数値を求める
ことを特徴とするCT値の推定方法。
【請求項9】
前記補間法に用いられる明度データとして、前記感応部におけるRGB各明度データの中で最も大きな値の色要素におけるもの、または前記RGB各明度データをグレースケール化したものを採用する
請求項7に記載のCT値の推定方法。
【請求項10】
前記補間法に用いられる明度データとして、前記感応部におけるRGB各明度データの中で最も大きな値の色要素におけるもの、または前記RGB各明度データをグレースケール化したものを採用する
請求項8に記載のCT値の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンガスによる殺菌、有害物分解および脱色等の処理において簡便に処理の終了を確認するためのインジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、21世紀に入ってから重症急性呼吸器症候群(Severe Acute RespiratorySyndrome:SARS)、および高病原性鳥インフルエンザウイルス等の細菌等に起因する感染症の流行が発生し、また鳥インフルエンザについては短い間隔で頻繁にその発生が報道されている。さらに最近は毎年数か月ごとに新型コロナウイルス(COVID-19)の感染のピークが繰り返され、我が国においては未だ流行の終息には至っていない。
【0003】
このような感染症の検査および治療等に使用した機器および器具等はその病原体に汚染された可能性が高い。そのため機器または器具等を再利用または医療廃棄物として処分するいずれの場合にも殺菌処理が必要である。また、内科医院等、病院等での待合室、治療室も同様に病原体に汚染されている可能性があり、これらについても常時または定期的に殺菌処理を行うのが好ましい。
【0004】
ところで、オゾンガスに殺菌作用があること、ならびに治療用機器、医療器具等および、待合室、治療室等の殺菌にオゾンガスが利用できることは広く知られており、オゾンガスは、新型コロナウイルスに対してもその活性を減弱させることが報告されている(非特許文献1)。このようなオゾンガスを用いる例えば病原体の殺菌処理等の進捗の管理は、オゾンガスの濃度(ppm)と接触時間(分)との積であるCT値で行われるのが通常であり、このようなCT値の管理は、オゾン濃度計を含む専用のCT値管理装置で行う必要がある。一方、オゾンガスによる殺菌処理等において、このようなCT値管理装置を用いないでその進捗の管理を行い得る可能性を有するオゾンインジケータが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】(世界初)オゾンによる新型コロナウイルス不活性化を確認、令和年2月14日、公立大学法人奈良県立医科大学、一般社団法人MBTコンソーシアム(インターネット、URL:http://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r2nendo/documents/press_2.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のオゾンインジケータは、オゾンガスによる例えば殺菌環境に配され、「殺菌処理後に処理が意図通り適切になされたか否かを目視により簡便に評価」可能に形成されている。特許文献1に記載のオゾンインジケータは、殺菌処理等を行う空間が広くオゾンガスを処理空間全体に均等に行き渡らせることが容易ではない場合、オゾンガスが達しにくく滞留が懸念される複数個所にオゾン濃度計(+CT算出機)の代わりに配置して、滞留懸念場所においても(終了CT値以上となり)意図通り殺菌等が完了したか否かを判断するのに適する。
【0008】
したがって、特許文献1に記載のオゾンインジケータは、オゾンガスによる処理の途中または終了時のCT値そのものを推定可能とはなっていない。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、オゾンガスによる殺菌、有害物の分解または脱臭等において、処理途中または処理終了時のCT値を推定できるオゾンインジケータおよびオゾンインジケータからCT値を推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るオゾンインジケータは、シート状の基材と、基材の表面に重なりを避けて形成された感応部および比較部と、を有する。感応部は、オゾンガスの暴露によりその色調が変化する色素を含んで形成される。比較部は、感応部に対するオゾンガス暴露過程における互いに異なる複数のCT値に達したときの当該CT値における感応部の色調が印刷で再現されて互いに重ならない複数のCT指標で構成される。基材を規定する「シート状」とは厚みに比べて表面積が大きなものをいい、可撓性を有さない材料をも含む意である。「色調」とは「明度と彩度との関係による色の感覚的な見え方」をいい、「明度」とは「色の明るさの度合い」を、「彩度」とは「色の鮮やかさの度合い」をいう。
【0011】
オゾンインジケータは、複数のCT指標のそれぞれの近傍に、当該CT指標に対応するCT値が数値で記載されているのが好ましい。
【0012】
他の本発明に係るオゾンインジケータは、シート状の基材と、基材の表面に重なりを避けて形成された感応部、比較部およびQRコード(登録商標)と、を有する。感応部は、オゾンガスの暴露によりその色調が変化する色素を含んで形成される。比較部は、オゾンガス暴露過程における互いに異なる複数のCT値に達したときの当該CT値における感応部の色調が印刷で再現されて互いに重ならない複数のCT指標で構成される。QRコード(登録商標)には、感応部がオゾンガスに暴露されたとき変化したその色調と複数のCT指標の色調とから、CT値を算出するための情報が記録されている。
【0013】
ここで「CT値を算出するための情報」とは、例えば、このオゾンインジケータにおける感応部の色調変化に基づいてCT値を推定するアプリケーションを提供するクラウド上のURL、感応部およびCT指標のアスペクト比、および印刷されたCT指標の色調に対応するCT値(数値)等のすべてまたはいずれかである。
【0014】
QRコード(登録商標)に記録された情報は、オゾンガス暴露により変化した感応部の色調に対応するCT値を算出可能なアプリケーションの起動、ならびに感応部および比較部に関するものである。QRコード(登録商標)に記録された情報には、複数のCT指標に対応するCT値が含まれてもよい。色調が変化する色素として、ブロモフェノールブルー、クマシーブリリアントブルーおよび食用色素のいずれかが使用される。
【0015】
本発明に係るCT値の推定方法は、上記したオゾンインジケータを、演算装置のデジタルカメラで読み取ることから始まる。演算装置は、デジタルカメラでオゾンインジケータにおける感応部および複数のCT指標を画像データ化する。演算装置は、画像データにおける感応部および複数のCT指標を領域抽出し、感応部および複数のCT指標それぞれの色調を256階調の明度データとして求める。続いて、演算装置は、CT指標の数値として演算装置に記憶された複数の数値の昇順と明度データの降順とを対応させ、感応部の明度データより大きくおよび小さく且つこの明度データに直近の2つのCT指標の明度データおよびこれらの明度データに対応する2つのCT指標の数値の組み合わせを抽出する。
【0016】
最後に、抽出した明度データとこれらに対応するCT指標の数値とから補間法により感
応部の明度データに対応するCT値としての数値を求め、求めた数値を演算装置の表示画面に表示させる。「演算装置のデジタルカメラ」とは、例えばスマートフォンに付属するデジダルカメラまたはデジタルカメラで撮影した撮影データを取り込むように構成されCPUを有する演算機能を備えた装置等に付属するデジタルカメラである。
【0017】
本発明に係る他のCT値の推定方法は、QRコード(登録商標)を有するオゾンインジケータのQRコード(登録商標)を、演算装置のデジタルカメラでの読み取りで開始される。オゾンインジケータにおける感応部および複数のCT指標をデジタルカメラで画像データ化し、QRコード(登録商標)からの読み取り情報に基づいて画像データにおける感応部および複数のCT指標を領域抽出する。領域抽出された感応部および複数のCT指標のそれぞれの色調を256階調の明度データとして求める。
【0018】
「領域抽出」とは、例えば明度差に基づいて対象の領域を切り出し他の領域と区別することをいう。「領域抽出」は公知の技術である。
【0019】
QRコード(登録商標)にCT指標の数値として記憶された複数の数値の昇順と明度データの降順とを対応させ、感応部の明度データより大きくおよび小さく且つこの明度データに直近の2つのCT指標の明度データおよびこれらの明度データに対応する2つのCT指標の数値の組み合わせを抽出する。抽出した明度データとこれらに対応するCT指標の数値とから補間法により感応部の明度データに対応するCT値としての数値を求める。
【0020】
CT値としての数値を求めるときの補間法に用いられる明度データとして、感応部におけるRGB各明度データの中で最も大きな値の色要素におけるもの、またはRGB各明度データをグレースケール化したものが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、オゾンガスによる殺菌、有害物の分解、脱臭等において、処理の途中のCT値および処理終了のCT値を推定できるオゾンインジケータおよびCT値の推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1はオゾンインジケータの概要を示す図である。
【
図2】
図2は試料にオゾンガスを作用させる試験装置の正面図である。
【
図4】
図4は濾紙上の試料から色濃度の測定部分を取り出す概念を示す図である。
【
図5】
図5は表1におけるCT値と色濃度変化率との関係を示す図である。
【
図7】
図7は退色速度が速い食用色素のCT値と色濃度の残存率との関係を示す図である。
【
図8】
図8は退色速度が中程度の食用色素のCT値と色濃度の残存率との関係を示す図である。
【
図9】
図9は退色速度が遅い食用色素のCT値と色濃度の残存率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1はオゾンインジケータ1の概要を示す図である。オゾンインジケータ1は、基材11、感応部12、比較部13およびQRコード(登録商標)14を有する。基材11は、オゾンインジケータ1の基礎的部分であり、厚紙またはポリプロピレン、ポリスチレン等の汎用樹脂のやや細長い矩形のシート等で形成される。基材11は、感応部12、比較部13およびQRコード(登録商標)14を有する面が、白色または高い明度の色である。
【0024】
感応部12は、オゾンガスが作用することにより退色する基本液が塗布、乾燥されて形成される。基本液は、例えば次のようにして調製される。すなわち、着色剤としてのブロモフェノールブルー(以下「BPB」と記すことがある)は、その濃度が0.02%となるように0.025mol/Lりん酸緩衝液(pH6.8)に溶解される。本書面において成分割合を示す「%」は、特に説明のない限り「重量%」をいう。
【0025】
BPBは富士フィルム和光純薬社販売試薬特級が使用される。0.025mol/Lりん酸緩衝液は、堀場製作所販売のLAQUA(登録商標)シリーズにおけるpH標準液セット101-Sから中性リン酸塩標準液(pH6.86)を用いて調整される。「基本液」とは、BPBをりん酸緩衝液に溶解した液をいう。着色剤としてクマシーブリリアントブルーを使用することができる。
【0026】
感応部12は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(以下「PVDF」と記す)製の親水性膜に基本液を滴下し、これを自然乾燥(室内放置)して形成される。PVDF親水性膜は、メルク社が製造するポアサイズ5.0μm、直径47mmのメンブレンフィルター(登録商標「デュラポア」)が用いられる。自然乾燥により得た感応部12の外観は、青が強調された青紫色であり、視覚的には湿り気を感じさせない。
【0027】
オゾンガス処理におけるCT値の増加に伴う感応部12の退色を遅らせるには、基本液にチオ硫酸ナトリウムを加える。チオ硫酸ナトリウムは、基本液における濃度の増加に伴い、感応部12の明度の増加を遅らせる。特許文献1には基本液にチオ硫酸ナトリウムを加えるとCT値の増加による退色の進行(色濃度の減少)が遅れることが開示される(特許文献1、
図7~
図10)。退色の進行とは、明度の増加である。
【0028】
感応部12は、基本液等が塗布され乾燥されたメンブレンフィルターを所定の寸法の細長い矩形に整えたものである。感応部12は、長手方向を基材11の長手方向に揃えて、その親水性膜が接着剤により基材11の所定の位置に固定される。
【0029】
比較部13は、明度が異なる複数のCT指標16a,16b,16c,16d,16e,16f,16gからなる。各CT指標16a,・・・,16gは、感応部12の幅寸法をその長手方向長さとする矩形であり、これらは縦および横の寸法が皆同じである。CT指標16a,・・・,16gは、事前に求めた感応部12のオゾンガス暴露におけるCT値増加過程での色調(色あい)の変化から、退色完了までのいくつかのCT値(例えば50,100,200,・・・)ごとにその感応部12の各色調とそれぞれの指標16a,・・・,16gとが同じ色調になるよう染料または顔料で形成される。CT指標16a,・・・,16gは、感応部12の(
図1における)下方に、基材11の長手方向の一方(
図1の左側)から他方(
図1の左側)に明度の昇順に並べられる。最も左のCT指標16aは、オゾンガスを作用させる前(CT値=0)の感応部12と同じ色調である。なお、「色調」とは「明度と彩度との関係による色の感覚的な見え方」をいい、「明度」とは「色の明るさの度合い」を、「彩度」とは「色の鮮やかさの度合い」をいう。
【0030】
CT指標16a,・・・,16gは、そのいずれかの明度が高く(基材11表面の明度に近く)、画像データにおいて後述する明度差を利用する領域抽出に困難が懸念されるときは、明度が高いCT指標を明度が低い色(例えば黒)により囲むオゾンインジケータ1Bが採用される(
図1(b)の符号16Bf,16Bg参照)。感応部12およびそれぞれのCT指標16a,・・・,16Bgは、互いに接しないよう(これらの間に基材11表面が露出するよう)に基材11に配される。
【0031】
各CT指標16a,・・・,16Bgの下にはそれぞれの色調を呈するときのCT値、
つまり感応部12がオゾンガスによりその上のCT指標16a,・・・,16Bgの色にまで退色した時のCT値が記載されている。このCT値の記載により、後述するスマートフォン(「スマホ」と略す)等で動作するCT値推定アプリケーション(以下「推定アプリ」と略すことがある)が使用できない状況でも、おおよそのCT値を目視で推測することができる。CT指標16a,・・・,16Bgの下の記載されたCT値は一例であり、感応部12のオゾンガスによる退色感度により、全体の数値が大きくなり、または小さくなる。数値として記載されたCT値は、最下位桁、その一つ上の桁等が「0」でなくとも良い。
【0032】
比較部13は、基材11上にインクジェットプリンタにより印刷される。比較部13は、印刷されたインクが直接オゾンガスに触れないように、オゾンガス耐性を有するポリエチレン、ポリプロピレン、またはナイロン等によるノングレアフィルム(非光沢フィルム)で保護される。比較部13の印刷は、他のデジタル印刷またはオフセット印刷等でも行えるが、事前に色調の経時変化が少ない印刷方式およびインクが選択される。
【0033】
QRコード(登録商標)14は、感応部12および比較部13に重ならないようにして基材11に印刷等される。QRコード(登録商標)14には、クラウド上の推定アプリのURL、オゾンインジケータ1における感応部12のアスペクト比(矩形の縦と横の比)、各CT指標16a,・・・,16Bgの(一つの)アスペクト比および各CT指標16a,・・・,16Bgに対応するそれぞれのCT値が記録される。
【0034】
オゾンインジケータ1は、オゾンガスにより殺菌処理等を行う環境に置かれて、殺菌処理等が行われた際のCT値を推測するためのものである。CT値の推測は、画像データについての、オゾンガスにより退色した感応部12の明度を比較部13の各CT指標16a,・・・,16Bgの明度と比較し、感応部12の明度に近い明度の2つのCT指標(のCT値)から補間法により行われる。感応部12と比較部13との明度の比較は、スマートフォン等のデジタルカメラでオゾンインジケータ1を撮影した画像データにおける適切な色要素により行われる。
【0035】
デジタルカメラのイメージセンサは光の波長(色)ではなく光量のみを検出する。画像データにおける一画素は、Red,Green,Blue(以下「RGB」という)のいずれかのカラーフィルターを通して得たRGBいずれかの色の光量値(デジタル値)と周辺画素により補間された他の色の光量値とからなる。画像データは、このようにして得た多くのRGB画素データ(ビットマップデータ)の群として構成される。
【0036】
次に、スマホ等のカメラ撮影により得るオゾンインジケータ1のRGB各画像データの中で、CT値の推定のための感応部12と比較部13との比較に適する色(R,G,B)を検討した。検討に用いた試料20は、前述したBPBを含む基本液を用いて形成されたものである。検討は、試料20をオゾンガス環境下にCT値がそれぞれ30,60,100になるまで置き、デジタルカメラで撮影した試料20の画像におけるR,G,B各要素の色濃度の変化の大きさを比較した。
【0037】
図2は試料20へのオゾンガス暴露に用いた試験装置2の正面図、
図3は試験装置2の平面図である。 試験装置2は、容器21、オゾン発生器22、加湿装置23、温度計、湿度計24、オゾン濃度計25およびCT値記録装置からなる。 容器21は、直方体の中空の箱であり、上面は取り外し可能な蓋26で閉じられる。 容器21は、外部から内部の観察が容易なように、透明な塩化ビニル樹脂により製作されている。
【0038】
オゾン発生器22は、オゾンランプ(紫外線ランプ)および強制循環ファンを内蔵する
据え置き型の公知のオゾンガス発生装置である。 加湿装置23は、圧電振動子に高周波
の交流電圧を加えて振動させ、発生する超音波により水から霧を発生させ、これを放出口27から外部に放出する装置である。 湿度計24は、容器21内の湿度を測定し表示す
る装置である。湿度計24は、容器21に収容されている。
【0039】
オゾン濃度計25は、容器21内に設置され、容器21内のオゾンガス濃度を測定するための公知の機器である。オゾン濃度計25は、外部に図示しないコントロール部を備え、コントロール部は、測定されたオゾン濃度をデジタル化してCT値記録装置に送信する。
図2および
図3における試料台28は、試料20を載せるためのものである。
【0040】
CT値記録装置は、オゾン濃度計25から送信されるオゾン濃度と送信の間隔(時間)とからCT値(=オゾン濃度×間隔時間)の増分を算出し、オゾンガス暴露処理を開始した時点からこの増分を積算してその表示装置に積算値を表示する。CT値記録装置は、パーソナルコンピュータが用いられる。
【0041】
検討は、試料20を試料台28に載せ、オゾン濃度計25の計測値が所定の濃度(5ppmまたは30ppm)になるように、オゾン濃度計25のコントロール部によりオゾン発生器22の動作を制御して行った。容器21内の温度は、20℃に保たれるように試験装置2が設置された室内のエアコンの温度設定を行い、容器21内がこの温度範囲に収まることを容器21内に差し入れられた熱電対により定期的に確認した。試験装置2内での試料20へのオゾンガス暴露は、CT値がそれぞれ30,60,100になるまで行い、試験装置2から取り出した試料20をデジタルカメラで撮影した画像データにおけるR,G,B各要素の色濃度の変化の大きさを比較した。
【0042】
図4は濾紙31上の試料20から色濃度の測定部分を取り出す概念を示す図である。オゾンガスに曝された試料20は、暴露終了後に濾紙31上に載せられる。使用する濾紙31は、アドバンテック社製の定性濾紙No.2である。濾紙31に載せられた試料20は、蛍光灯の照明のもとで、スタンドに固定されたデジタルカメラにより、統一された条件で撮影される。「統一された条件」とは、カメラ、カメラと被写体との距離、撮影環境の明るさ、撮影画素数、撮影感度、絞り値、シャッタースピード、ホワイトバランス等において同じ(統一された)条件の意である。
【0043】
撮影は、試料20を含む濾紙31全体を対象にし、画像データはパソコンに取り込まれて、解析ソフトImageJ1.52v(URL:https://imagej.jaleco.com/ からダウンロード)により試料の色濃度が求められる。パソコンでは、取り込まれた画像が、ImageJ1.52vにより光の三原色(RGB)それぞれの要素に分解され、R(レッド)、G(グリーン)およびB(ブルー)の各要素について、試料20の一部分32およびこれと同一面積である濾紙31の一部分33の、それぞれの濃度が求められる。RGBの三要素に分解された画像は、明暗だけのモノクロであり、求められる「濃度」は実際には各要素における「明度(実際は暗さ)」である。 前述した「色濃度」とは、各要素における試料20の「濃度」の値から濾紙31の「濃度」の値を差し引いた値である。
【0044】
表1は、試料20にオゾンガスを作用させたときのCT値と試料20の色濃度変化率との関係である。
【0045】
【0046】
表1における「色濃度変化率」の各数値は、上述した(ImageJ1.52vを用いた)方法により求めた値に「-1」を掛け合わせた色濃度が、(オゾンガスを作用させる前のCT値0の)試料20の色濃度に対して変化(退色)した割合を示す数値である。また、表1における「擬NTSC」は、デジタルのカラー画像をモノクロ画像に変換する際に用いられるNTSC加重平均法を模して、R要素、G要素、B要素それぞれに重みづけをして求めたものである(擬NTSC=0.29891×R要素+0.58661×G要素+0.11448×B要素)。
【0047】
NTSC加重平均法は輝度(画面の明るさ、色には無関係)に関する処理法であり輝度は明度(色の明るさ)とやや異なるが、「明るさ」として共通するので、R,G,B各要素の全てを考慮した処理としてNTSC加重平均法を流用した。
【0048】
図5は表1におけるCT値と色濃度変化率との関係を示す図である。
図5から、感応部12の着色剤としてブロモフェノールブルーを使用したときR要素およびG要素に着目すれば、色濃度変化率が大きくかつ色濃度変化率はCT値に略比例することが分かる。また、カラー画像をモノクロ画像に変換する際に利用されるNTSC加重平均法を流用して処理した「擬NTSC」による色濃度変化率もCT値に略比例する。オゾンインジケータ1,1Bでは、感応部12のR要素、G要素の画像データまたはR,G,Bの三要素をNTSC加重平均法に倣って処理した画像データを用いることで、オゾンガス暴露後のCT値の推定を行うことができる。
【0049】
次に、オゾンガスによる処理を行った環境に置かれ回収されたオゾンインジケータ1をスマ-トホンで撮影した画像データから、推定アプリを用いて感応部12の退色が示すCT値を推定する手順について説明する。
【0050】
図6は推定アプリによるCT値の推定過程を示すフローダイヤグラムである。初めに、スマートフォンでオゾンインジケータ1のQRコード(登録商標)14を読み取る(S1)。QRコード(登録商標)14には、クラウド上の推定アプリのURLおよびオゾンインジケータ1の感応部12およびCT指標16a,・・・,16Bgに関する情報が記録されている。
【0051】
作業者(CT値の推定を行う者)は、スマートフォンが読み取ったURLからクラウド上の推定アプリを起動させる。クラウド上の推定アプリの起動は、QRコード(登録商標)14の読み取り後にスマートフォンの画面に表示されるURLをタップして行う。推定アプリはQRコード(登録商標)に記録された他の情報(感応部12およびCT指標16a,・・・,16Bgのアスペクト比ならびに各CT指標16a,・・・,16Bgに対応するCT値)を定数としてメモリに保存する(S1)。続いて、スマホのカメラ機能が作動し、画面にはオゾンインジケータ1における感応部12および比較部13を画面全体
に入れるように、指示が表示される(S1)。
【0052】
スマートフォンのカメラが感応部12および比較部13を画面全体に捉えたら(S3でYES)、推定アプリは感応部12およびそれぞれのCT指標16a,・・・,16Bgを個別に識別可能か判断し、識別可能(S4でYES)であればその判断画像(1フレーム、静止画像)を記憶する。推定アプリによる識別可否の判断は、画像データから明度差を用いて領域抽出(基材11に比べ明度が小さな輪郭で囲まれた画素データ群の抽出)が可能か否かで行う。領域が抽出されたらその領域のアスペクト比を求め、これらのアスペクト比とメモリに保存された感応部12およびCT指標16a,・・・,16Bgのアスペクト比とを比較し、抽出された領域が感応部12なのか比較部13なのかを識別する(S5)。比較部13については、QRコード(登録商標)に記録されたCT値(例えば0,50,100,200,300,・・・)の数と判別した比較部13の数とが一致すれば認識されたと判断される(S5)。「領域抽出」とは、例えば明度差に基づいて対象の領域を切り出し他の領域と区別することをいう。「領域抽出」は公知の技術である。
【0053】
感応部12およびCT指標16a,・・・,16Bgの各領域が識別されると、これらの領域の画素データからそれぞれの平均明度を算出する(S6)。例えばBPBを着色剤とするオゾンインジケータ1では、表1および
図5から、明度としてR,Gの画素データおよびNTSC加重平均法で求めた明度を示すいずれかの数値が算出される。「明度」とは各画素の光量を0~255のいずれかの数値で表現(明度高い=数値大)したものである。
【0054】
推定アプリは、この段階でオゾンインジケータ1には7つのCT指標16a,・・・,16Bgが存在すること、および領域抽出された感応部12の平均明度値および7つのCT指標16a,・・・,16Bgの各平均明度値を認識する。推定アプリは、7つのCT指標16a,・・・,16Bgの各平均明度値を昇順に並べ、これらはQRコード(登録商標)14から読み取った7つの昇順に並べたCT値に関連付けられる。すなわち上述の例では、最小平均明度がCT値0に、その次に小さな平均明度がCT値50というように順に関連付けられる(S6)。
【0055】
推定アプリは、画像データにおける感応部12に対応する画素の平均明度を算出し、この明度よりも大きなおよび小さな直近の明度およびこれと関連付けられたCT値を抽出する(S7)。例えばCT値が0,50,100,200,300に関連付けられたCT指標16a,・・・,16Bgの256諧調における平均明度値がそれぞれ,30,37,41,60,75であり、感応部12の平均明度値が58であれば、明度41とCT値100との組み合わせおよび明度60とCT値200との組み合わせが抽出される。
【0056】
推定アプリは、これら2組の組み合わせから、独立変数が明度、従属変数がCT値である一次式「CT値=C1×明度+C2」における一次係数C1および定数C2を求める(S8)。例では、一次式は「CT値=5.26×明度-115.8」となり、例えば感応部12の明度が58であれば明度に58を代入しCT値として189を求める(S9)。推定アプリは、求めたCT推定値をスマートフォンの画面に表示し、CT推定処理を終了する。
【0057】
スマートフォンはマイクロコンピュータ(CPU)で動作し、上記処理を行う「(デジタルカメラを有する)演算装置」と見なすことができる。上記処理は、デジタルカメラを有しCT値の推定に特化した演算装置でも行うことができる。
【0058】
感応部12に用いられる基本液の色素に食用色素を使用することができる。
【0059】
そこで、種々の食用色素のCT指標としての適用の可能性、つまりオゾンガス暴露による退色の程度とCT値との関係(退色速度、オゾン感度)について検討した。検討には、BPBを着色剤とする前述した基本液の色素を種々の食用色素に替え、溶媒および食用色素の濃度等はBPBを色素とする場合と同じとして調製した試料を用いた。また、試料へのオゾンガスの暴露は
図2および
図3に示す試験装置2を用い、その暴露条件等も試料20に対するものと同じとした。
【0060】
表2は、市販の食用色素を用いた基本液により試料を作成し検討したRGB各要素についての色濃度および感応部12への利用可否を示す。
【0061】
【0062】
表2に示される各食用色素は、以下に示すものを使用した。
(a) 東京化成工業株式会社販売の食品着色料検査用対照試液Aセット
以下の食用色素は、それぞれ0.1%の水溶液として提供される。
【0063】
(A-1) 食用赤色2号(アマランス)
(A-2) 食用赤色3号(エリスロシン)
(A-3) 食用赤色40号(アルラレッドAC)
(A-4) 食用赤色102号(ニューコクシン)
(A-5) 食用赤色104号(フロキシン)
(A-6) 食用赤色105号(ローズベンガル)
(A-7) 食用赤色106号(アシッドレッド)
(A-8) 食用黄色4号(タートラジン)
(A-9) 食用黄色5号(サンセットイエローFCF)
(A-10) 食用緑色3号(ファストグリーンFCF)
(A-11) 食用青色1号 (ブリリアントブルーFCF)
(A-12) 食用青色2号(インジゴカルミン )
(b) 東京化成工業株式会社販売の食品着色料検査用対照試液Bセット
以下の食用色素は、それぞれ0.1%の水溶液として提供される。
【0064】
(B-3) ポンソーR(旧食用赤色101号)
(B-4) エオシン(旧食用赤色103号)
(B-5) ナフトールエローS(旧食用黄色1号)
(B-6) ライトグリーンSF黄色(旧食用緑色2号)
(B-7) オレンジ I(旧食用橙色1号)
(B-8) オレンジ II
(B-9) マルチウスイエロー
(B-10) ウラニン
(B-11) ギネアグリーンB(旧食用緑色1号)
(B-12) ブリリアントミリンググリーン
(B-13) アズールブルーVX
(B-14) アシッドバイオレット6B(旧食用紫色1号)
(c) (B-1) ニューコクシン(赤色1号):富士フィルム和光純薬製
(B-2) タートラジン(黄色4号):富士フィルム和光純薬製
表3は、表2の各食用色素を着色剤として調製した試料をオゾンガス暴露したときの、CT値と各食用色素代表色の色濃度の残存率との関係を示す。ここで「食用色素代表色」とは、表2の各食用色素における値が最も大きな(表2で網掛けされた)(着目する)色要素をいうものとする。
【0065】
【0066】
表2における色濃度および表3における色濃度残存率は、BPBを着色剤とした試料20で用いたと同じようにデジタルカメラで撮影し解析ソフトImageJ1.52vを使用して求めた。
【0067】
図7~
図9は表3に示される各食用色素のCT値と色濃度の残存率との関係を示す図である。表3における退色速度の評価は、CT値が800未満で残存率が10%以下になる群を「速い」(
図7)、CT値が800以上2600未満で残存率が10%以下になる群を「中」(
図8)、およびCT値が2600以上で残存率が10%以下になる群を「遅い」(
図9)とした。
【0068】
一つの食用色素を着色剤として感応部12を形成する場合、RGB解析におけるRGB要素のいずれか最も大きな値が他の2つの値のいずれよりも10倍以上であれば、感応部12を形成するための色素として好ましい(表2)。「推定アプリ」でのCT値の推定において、最も大きな値を有する色要素の画像データについて処理すれば、他の色要素によ
る干渉が少なくその精度が高まるからである。
【0069】
表3および
図7~
図9から、オゾンガスによる殺菌等の処理が短時間で終了する場合(低CT値で処理が終了)から処理に長時間を要する場合(処理終了に高CT値が必要)まで、食用色素を選択することによりそれぞれに適したオゾンインジケータ1を形成することが可能である。
【0070】
なお、青色を呈するBPBで形成された感応部12は、表1および
図5から推定アプリでR要素、G要素の画像データまたはR,G,Bの三要素をNTSC加重平均法に倣って処理した画像データを処理するのが適切であった。これに対し、表2における利用可能(〇)な食用色素で感応部12を形成する場合には、RGBの中から最も大きな値を示す色要素の画像データまたはRGB全てをNTSC加重平均法に倣ってグレースケール化した画像データが、CT値推定を行う推定アプリで採用される。
【0071】
食用色素で感応部12が形成されたオゾンインジケータ1では、QRコード(登録商標)14に「食用色素代表色」に関する情報(例えば文字情報「R」、または文字情報「R,NTSC」)が記録され、推定アプリはこの記録された色の画像データに基づいて推定CT値を算出する。
【0072】
表2で利用可能とされた食用色素の異なる2つの色を用いて感応部12を形成することができる。異なる2つの色の食用色素は、オゾンガスによる退色の速さが同程度のもの、および退色の速さが異なるもの、いずれの組み合わせでもよい。2つの色の食用色素で感応部12を形成した場合、推定アプリでは表2におけるこれらの色濃度の中で最も大きな値を示す色要素、またはNTSC加重平均法によるグレースケールで感応部12および比較部13を数値化しCT値の推定に用いる。
【0073】
特に退色速度が異なる2つの色の食用色素を用いた感応部12は、オゾンガスによる退色の過程で色相および色調が変化する。そのため推定アプリに頼らずに目視での感応部12と比較部13,13B(のCT指標16a,・・・,16Bg)との対比が容易であり、凡そのCT値を知りたい場合に適する。なお「色相」とは「赤」「黄色」「青」のような色の相違をいう。
【0074】
オゾンインジケータ1,1Bにおける感応部12を食用色素で形成する場合、比較部13,13Bにおける各CT指標16a,・・・,16Bgは、その感応部12におけるオゾンガスによる退色過程の各色調が印刷により表現される。オゾンインジケータ1,1Bは、オゾンガスにより退色した感応部12とCT指標16a,・・・,16Bgとを目視で比較することにより、オゾンガス暴露による処理におけるおおよそのCT値をより簡便に推定することができる。また、オゾンインジケータ1,1Bは、推定アプリと併用することにより、目視よりも高い精度でオゾンガス処理終了時のCT値を推定することができる。
【0075】
目視および推定アプリ併用によるCT値の推定は、オゾンガスによる暴露処理の途中でも行うことができる。オゾンインジケータ1、1Bは、CT値の推定を推定アプリによる明度(グレースケール)でのみ行うとの制限下では、CT指標16a,・・・,16Bgを無彩色で形成可能である。CT値増加とともに退色する感応部12の色調を印刷ではCT指標16a,・・・,16Bgに再現不可能な場合にも、CT指標16a,・・・,16Bgを無彩色で形成し、推定アプリによる処理を明度のみで行う。
【0076】
上述の実施形態において、オゾンインジケータ1,1BのQRコード(登録商標)14に当該オゾンインジケータの品番号(複数種のオゾンインジケータを区別するためのアイ
テム)を記録し、スマートフォンのカメラ等で読み取った(QRコード(登録商標)14の)品番号から、推定アプリによる処理に必要な比較部13,13BのCT指標16a,・・・,16Bgの数、それぞれのCT指標16a,・・・,16Bgに対応するCT値、それぞれのアスペクト比等に関する情報をクラウドのサーバからダウンロードするように構成することができる。
【0077】
CT値推定アプリケーションが事前にスマートフォンにインストールされている場合、またはこのアプリケーションが組み入れられた専用の推定装置を使用する等の場合では、QRコード(登録商標)14にクラウド上の推定アプリのURLを記録する必要がない。オゾンインジケータ1,1Bが一種類しかなく、CT指標16a,・・・,16Bgの数および各CT指標16a,・・・,16Bgが示すCT値も一種類のみの場合には、各アスペクト比および各CT値は不変であり定数としてCT値推定アプリケーションに組み入れることが可能である。この場合、オゾンインジケータ1,1BのQRコード(登録商標)14は不要である。
【0078】
上述した「色調」の語は、例えば異なる2色の食用色素で形成された変色部のようにオゾンガスによる退色過程で色相が変化する場合については、「色の三属性である色相、彩度、明度による色の感覚的な見え方」の意と解するものとする。
【0079】
上述の実施形態において、オゾンインジケータ1,1B、およびオゾンインジケータ1,1Bの各構成または全体の構造、形状、材質等は、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。スマートフォン等で動作させるCT値推定アプリケーションのCT推定アルゴリズムにおける、デジタル画像データから感応部12および比較部13を抽出する手順等、およびこれらの色調または明度等の比較によりCT値を求める手順等については、本発明の主旨に沿って任意に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、オゾンガスによる殺菌、有害物の分解、脱臭等において、処理の途中のCT値および処理終了のCT値の推定に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1,1B オゾンインジケータ
11 基材
12 感応部
13 比較部
14 QRコード(登録商標)
16a,16b,16c,16d,16e,16f,16g,16Bf,16Bg CT指標