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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028648
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】検査装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20250221BHJP
   G01M 13/00 20190101ALI20250221BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20250221BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
G01N29/04
G01M13/00
G01N29/12
G01N29/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133592
(22)【出願日】2023-08-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年1月30日 東京工芸大学工学部工学科 卒業論文発表会にて公開 令和5年3月6日 International Symposium on Life Mechatronics 2023にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】597040902
【氏名又は名称】学校法人東京工芸大学
(71)【出願人】
【識別番号】319009222
【氏名又は名称】オングリットホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 剛
(72)【発明者】
【氏名】森川 歩
【テーマコード(参考)】
2G024
2G047
【Fターム(参考)】
2G024AA03
2G024BA25
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA04
2G024FA06
2G047AA05
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC11
2G047CA03
2G047EA10
2G047GG10
2G047GG12
2G047GG32
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】叩打による器具の検査において、器具の状態の判定精度を向上させる。
【解決手段】取得部32が、支柱に灯具が接合された照明装置の予め定めた位置を叩打した際の照明装置の振動を示す信号を取得し、算出部34が、取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出し、学習部36が、照明装置の使用開始時からの経過期間、照明装置の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された学習用信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を条件毎に学習し、判定部40が、取得された、条件が未知の検査用信号について、算出されたメル周波数ケプストラム係数と、学習された条件毎の確率密度関数とを比較して、検査用信号に対応する条件を判定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱に灯具が接合された器具の予め定めた位置を叩打した際の前記器具の振動を示す信号を取得する取得部と、
前記取得部により取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出する算出部と、
前記器具の使用開始時からの経過期間、前記器具の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を前記条件毎に学習する学習部と、
前記取得部により取得された、前記条件が未知の信号について、前記算出部により算出されたメル周波数ケプストラム係数と、前記学習部により学習された前記条件毎の確率密度関数とを比較して、前記未知の信号に対応する条件を判定する判定部と、
を含む検査装置。
【請求項2】
前記叩打位置は、前記器具の予め定めた複数の位置のいずれかであり、
前記器具の状態は、前記器具に含まれる複数のボルトのうち緩みが生じているボルトの位置の組み合わせである、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記器具の状態は、前記支柱の腐食及び帯水の少なくとも一方の有無又は程度であり、
前記叩打位置は、地表から所定高さの前記支柱の位置である、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
前記算出部は、算出した第1次元数のメル周波数ケプストラム係数を主成分分析により、前記第1次元数よりも低次元の第2次元数の主成分得点に変換する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記取得部により取得された信号の減衰部を用いて、前記メル周波数ケプストラム係数を算出する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記叩打位置を、前記灯具と前記支柱との接合部付近とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記器具は、道路の附属物である照明装置である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項8】
取得部が、支柱に灯具が接合された器具の予め定めた位置を叩打した際の前記器具の振動を示す信号を取得し、
算出部が、前記取得部により取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出し、
学習部が、前記器具の使用開始時からの経過期間、前記器具の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を前記条件毎に学習し、
判定部が、前記取得部により取得された、前記条件が未知の信号について、前記算出部により算出されたメル周波数ケプストラム係数と、前記学習部により学習された前記条件毎の確率密度関数とを比較して、前記未知の信号に対応する条件を判定する、
検査方法。
【請求項9】
コンピュータを、
支柱に灯具が接合された器具の予め定めた位置を叩打した際の前記器具の振動を示す信号を取得する取得部、
前記取得部により取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出する算出部、
前記器具の使用開始時からの経過期間、前記器具の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を前記条件毎に学習する学習部、並びに、
前記取得部により取得された、前記条件が未知の信号について、前記算出部により算出されたメル周波数ケプストラム係数と、前記学習部により学習された前記条件毎の確率密度関数とを比較して、前記未知の信号に対応する条件を判定する判定部
として機能させるための検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置、検査方法、及び検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路や建物といった構造物を叩いた際の打音信号に基づいて、構造物に異常がないか否かを検査する打音検査が行われている。このような打音検査に関する技術が様々提案されている。
【0003】
例えば、ネジによる接合部を含む器具のいずれかの部位を叩いた場合の打音を示す打音信号を取得し、打音信号を周波数解析し、スペクトル平坦度を算出し、算出されたスペクトル平坦度と、予め定めた基準とを比較して、ネジの緩みの有無を予測した予測結果を出力する検査装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-3843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、叩打による器具の検査において、器具の状態の判定精度を向上させることができる検査装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る検査装置は、支柱に灯具が接合された器具の予め定めた位置を叩打した際の前記器具の振動を示す信号を取得する取得部と、前記取得部により取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出する算出部と、前記器具の使用開始時からの経過期間、前記器具の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を前記条件毎に学習する学習部と、前記取得部により取得された、前記条件が未知の信号について、前記算出部により算出されたメル周波数ケプストラム係数と、前記学習部により学習された前記条件毎の確率密度関数とを比較して、前記未知の信号に対応する条件を判定する判定部と、を含んで構成される。
【0007】
本発明に係る検査装置によれば、取得部が、支柱に灯具が接合された器具の予め定めた位置を叩打した際の器具の振動を示す信号を取得し、算出部が、取得部により取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出し、学習部が、器具の使用開始時からの経過期間、器具の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を条件毎に学習し、判定部が、取得部により取得された、条件が未知の信号について、算出部により算出されたメル周波数ケプストラム係数と、学習部により学習された条件毎の確率密度関数とを比較して、未知の信号に対応する条件を判定する。これにより、器具の状態の判定精度を向上させることができる。
【0008】
また、前記叩打位置は、前記器具の予め定めた複数の位置のいずれかであり、前記器具の状態は、前記器具に含まれる複数のボルトのうち緩みが生じているボルトの位置の組み合わせとしてよい。これにより、緩みが生じているボルトの位置を予測することができる。
【0009】
また、前記器具の状態は、前記支柱の腐食及び帯水の少なくとも一方の有無又は程度であり、前記叩打位置は、地表から所定高さの前記支柱の位置としてよい。これにより、腐食及び帯水の状態を予測することができる。
【0010】
また、前記算出部は、算出した第1次元数のメル周波数ケプストラム係数を主成分分析により、前記第1次元数よりも低次元の第2次元数の主成分得点に変換してもよい。これにより、判定処理の計算コストを削減することができると共に、判定精度をより向上させることができる。
【0011】
また、前記算出部は、前記取得部により取得された信号の減衰部を用いて、前記メル周波数ケプストラム係数を算出してもよい。これにより、器具の状態の判定精度をより向上させることができる。
【0012】
また、前記叩打位置を、前記灯具と前記支柱との接合部付近としてもよい。これにより、器具の状態の判定精度をより向上させることができる。
【0013】
また、前記器具は、道路の附属物である照明装置としてよい。
【0014】
また、本発明に係る検査方法は、取得部が、支柱に灯具が接合された器具の予め定めた位置を叩打した際の前記器具の振動を示す信号を取得し、算出部が、前記取得部により取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出し、学習部が、前記器具の使用開始時からの経過期間、前記器具の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を前記条件毎に学習し、判定部が、前記取得部により取得された、前記条件が未知の信号について、前記算出部により算出されたメル周波数ケプストラム係数と、前記学習部により学習された前記条件毎の確率密度関数とを比較して、前記未知の信号に対応する条件を判定する方法である。
【0015】
また、本発明に係る検査プログラムは、コンピュータを、支柱に灯具が接合された器具の予め定めた位置を叩打した際の前記器具の振動を示す信号を取得する取得部、前記取得部により取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出する算出部、前記器具の使用開始時からの経過期間、前記器具の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を前記条件毎に学習する学習部、並びに、前記取得部により取得された、前記条件が未知の信号について、前記算出部により算出されたメル周波数ケプストラム係数と、前記学習部により学習された前記条件毎の確率密度関数とを比較して、前記未知の信号に対応する条件を判定する判定部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る検査装置、方法、及びプログラムによれば、叩打による器具の検査において、器具の状態の判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の概略を説明するための図である。
図2】灯具と支柱との接合部の一例を示す図である。
図3】検査装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】検査装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図5】緩んでいるボルトの位置の組み合わせのパターンの一例を示す図である。
図6】叩打位置の一例を示す図である。
図7】減衰部を説明するための図である。
図8】MFCCの主成分得点の分布を説明するための図である。
図9】学習処理の流れを示すフローチャートである。
図10】検査処理の流れを示すフローチャートである。
図11】本実施形態の有意性を説明するための図である。
図12】本実施形態の有意性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、道路附属物である照明装置の状態を検査する場合を例に説明する。
【0019】
図1を参照して、本実施形態の概略について説明する。本実施形態における検査では、照明装置50のいずれかの部位を打診棒52で叩打した際に、照明装置50に生じる振動を示す信号を計測器54で計測する。そして、計測された信号を検査装置10で信号処理することにより、照明装置50の状態を検査する。
【0020】
照明装置50は、灯具50Aと支柱50Bとを含み、灯具50Aは、複数のボルトにより支柱50Bに接合されている。図2に、灯具50Aと支柱50Bとの接合部の一例を示す。図2では、4つのボルトで灯具50Aと支柱50Bとが接合される例を示している。以下では、灯具50Aの先端側(支柱50Bから遠い側)の、灯具50A上面から見て右側のボルトの位置をFR、同じく左側のボルトの位置をFL、灯具50Aの支柱50B側の右側のボルトの位置をRR、同じく左側のボルトの位置をRLと表記する。
【0021】
計測器54は、叩打により照明装置50に生じる振動を検知する振動センサとしてよい。計測器54として振動センサを用いることで、道路の騒音等がノイズとして計測信号に含まれることが抑制される。
【0022】
図3は、本実施形態に係る検査装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。図3に示すように、検査装置10は、CPU(Central Processing Unit)12、メモリ14、記憶装置16、入力装置18、出力装置20、記憶媒体読取装置22、通信I/F(Interface)24、及び入出力I/F26を有する。各構成は、バス28を介して相互に通信可能に接続されている。
【0023】
記憶装置16には、後述する学習処理及び検査処理を実行するための検査プログラムが格納されている。CPU12は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各構成を制御したりする。すなわち、CPU12は、記憶装置16からプログラムを読み出し、メモリ14を作業領域としてプログラムを実行する。CPU12は、記憶装置16に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0024】
メモリ14は、RAM(Random Access Memory)により構成され、作業領域として一時的にプログラム及びデータを記憶する。記憶装置16は、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム及び各種データを格納する。
【0025】
入力装置18は、例えば、キーボードやマウス等の、各種の入力を行うための装置である。出力装置20は、例えば、ディスプレイやプリンタ等の、各種の情報を出力するための装置である。出力装置20として、タッチパネルディスプレイを採用することにより、入力装置18として機能させてもよい。記憶媒体読取装置22は、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、ブルーレイディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の各種の記憶媒体に記憶されたデータの読み込みや、記憶媒体に対するデータの書き込み等を行う。
【0026】
通信I/F24は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI又はWi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。入出力I/F26は、検査装置10と周辺機器とを接続するためのインタフェースである。本実施形態では、入出力I/F26を介して検査装置10と計測器54とが接続され、計測器54で計測された信号が検査装置10へ入力される。
【0027】
次に、本実施形態に係る検査装置10の機能構成について説明する。図4は、検査装置10の機能構成の例を示すブロック図である。図4に示すように、検査装置10は、機能構成として、取得部32と、算出部34と、学習部36と、判定部40とを含む。各機能構成は、CPU12が記憶装置16に記憶された検査プログラムを読み出し、メモリ14に展開して実行することにより実現される。また、検査装置10の所定の記憶領域には、確率密度関数DB(database)38が記憶される。
【0028】
取得部32は、計測器54で計測された信号を取得する。以下では、条件毎の確率密度関数(詳細は後述)の学習のために取得される信号を「学習用信号」、検査対象の照明装置50を叩打することにより取得される信号を「検査用信号」という。学習用信号と検査用信号とを区別なく説明する場合には、「計測信号」という。
【0029】
学習用信号は、照明装置50の使用開始時からの経過期間、複数のボルトのうち緩みが生じているボルトの位置の組み合わせ、及び叩打位置で定まる条件の各々の下で照明装置50を叩打することにより計測される信号である。本実施形態では、照明装置50の使用開始時からの経過期間を、新品と老朽品との2通りとする。老朽品は、使用開始からの経過期間が所定年数(例えば、10年)の照明装置50である。
【0030】
また、緩みが生じているボルトの位置の組み合わせは、例えば、図5に示すように、ボルトの位置(FL、FR、RL、RR)の各々が締まっているか緩んでいるかを総当り的に組み合わせた各パターンとして定義しておく。図5の例では、「X」は、その位置のボルトが緩んでいることを表す。すなわち、図5の例では、パターン番号1の組み合わせ(以下、「パターン1」という。他のパターン番号についても同様)は、4つのボルト全てが締まっていることを表しており、パターン7は、4つのボルト全てが緩んでいることを表している。
【0031】
照明装置50の状態として、ボルトの緩みを検査する場合、叩打位置は、例えば、図6に示すような位置を設定しておいてよい。図6の例では、A~Dの4つの叩打位置を設定した例を示しており、Aは灯具50Aの先端、Bは灯具50Aの中心、CはBと灯具50Aの根元との間、Dは灯具50Aに接合する支柱50Bの先端である。
【0032】
上記の例では、条件は、2×9×4=72通りとなる。なお、条件は上記の例に限定されない。例えば、使用開始時からの経過期間として、3段階以上の期間(例えば、0年、3年、6年、9年等)を設定してもよい。また、灯具50A内で電球を支えるボルトの位置も含めて5つのボルトのうち緩みが生じているボルトの位置の組み合わせである11パターンを条件に含めるようにしてもよい。また、叩打位置として、灯具50Aの側面等の他の位置を含めるようにしてもよい。
【0033】
学習用信号は、各条件について、複数回の叩打による複数個の信号を含むものとする。例えば、1つの条件につき、複数段階の強度(例えば、弱、中、強の3段階)で複数回(例えば、5回ずつ)叩打する。この例の場合、条件毎に15個の学習用信号が得られる。
【0034】
検査用信号は、照明装置50を叩打することにより得られる計測信号であることは学習用信号と同様であるが、学習用信号とは異なり、上記の条件が未知の計測信号である。なお、条件のうち叩打位置は既知であってもよい。
【0035】
取得部32は、取得した計測信号から減衰部を抽出する。計測信号において、特定の周波数帯域の信号の振動が減衰部に現れる。特定の周波数帯域は、上記の条件に応じた周波数であることが発明者らの実験により確認できた。したがって、減衰部の信号を用いて後段の処理を実行することで、照明装置50の状態の判定精度をより向上させることができる。
【0036】
具体的には、図7に示すように、取得部32は、叩打の瞬間から0~0.005sの計測信号の部分を立ち上がり部とし、0.005s以降の計測信号の部分を減衰部として抽出する。取得部32は、計測信号から抽出した減衰部の信号を算出部34へ受け渡す。
【0037】
算出部34は、取得部32から受け渡された減衰部の信号について、メル周波数ケプストラム係数(MFCC:Mel-Frequency Cepstrum Coefficients)を算出する。具体的には、算出部34は、減衰部の信号に対して短時間フーリエ変換を行い、周波数毎のパワースペクトルを算出する。算出部34は、パワースペクトルに20次元のメルフィルタバンクを乗算してメルパワースペクトルに変換する。算出部34は、メルパワースペクトルを対数スペクトルに変換したのちに離散コサイン変換をかけてメルケプストラムを算出し、定常成分及び高ケフレンシー成分を除去することで、スペクトル包絡の特徴であるMFCCを算出する。ここでは、12次元のMFCCを算出するものとする。
【0038】
算出部34は、算出した12次元のMFCCを主成分分析により、低次元(例えば、3次元)の主成分得点に変換する。算出部34は、学習用信号の減衰部から算出したMFCCの主成分得点を学習部36へ受け渡す。また、算出部34は、検査用信号の減衰部から算出したMFCCの主成分得点を判定部40へ受け渡す。
【0039】
第1次元数のメル周波数ケプストラム係数は、ボルトの緩み以外の要因による変動も含み得るが、第2次元数の主成分得点は、ボルトの緩みによる振動信号の変動以外の要因が次元圧縮によって削減される。すなわち、MFCCの主成分得点を算出することで、ボルトの緩みによる変動を表す部分空間に解を拘束することができる。これにより、計算コストを削減することができると共に、判定部40での判定精度をより向上させることができる。
【0040】
学習部36は、算出部34から受け渡された、学習用信号の減衰部から算出されたMFCCの主成分得点を条件毎に主成分空間に投影し、主成分空間における主成分得点の分布を表すモデルを学習する。図8に示すように、MFCCの主成分得点の分布は、条件毎にクラスタを形成する。図8の例では、パターン2(RLのみ締まっている)及び4(FLのみ締まっている)を含む条件について、パターン1(全てのボルトが締まっている)を含む条件と比較して分布を示している。
【0041】
具体的には、学習部36は、主成分得点を条件毎に主成分空間に投影し、主成分空間における主成分得点の分布に正規分布を当てはめて最尤推定を行い、下記(1)式に示す確率密度関数を条件毎に算出する。
【0042】
【数1】
【0043】
μはi番目の条件のクラスタ中心(平均ベクトル)、Σはi番目の条件の共分散行列(分布のばらつき)、dは主成分の次元数(d=3)である。また、xは検査用信号の減衰部の信号に対して算出されるMFCCの主成分得点、yはi番目の条件に関する確率密度関数の値である。学習部36は、条件毎に算出した確率密度関数を確率密度関数DB38に記憶する。
【0044】
判定部40は、算出部34から受け渡された、検査用信号の減衰部から算出されたMFCCの主成分得点と、学習部36により学習された条件毎の確率密度関数とを比較して、検査用信号に対応する条件を判定する。具体的には、判定部40は、確率密度関数DB38から各条件の確率密度関数を読み出す。そして、判定部40は、算出部34から受け渡された主成分得点を、(1)式のxに代入することにより、条件毎に尤度yを算出する。判定部40は、尤度が最大となる条件を、検査用信号に対応する条件として判定する。これにより、検査用信号から、照明装置50が新品か老朽品か、緩んでいるボルトの位置はどこかが予測される。なお、叩打位置については、確率密度分から予測してもよいし、検査用信号と共に叩打位置の情報を取得可能な場合には、取得した叩打位置を条件に含む確率密度分布との比較で、検査用信号に対応する条件を判定するようにしてもよい。判定部40は、判定した条件を検査結果として出力する。
【0045】
次に、本実施形態に係る検査装置10の作用について説明する。
【0046】
図9は、検査装置10のCPU12により実行される学習処理の流れを示すフローチャート、図10は、検査装置10のCPU12により実行される検査処理の流れを示すフローチャートである。CPU12が記憶装置16から検査プログラムを読み出して、メモリ14に展開して実行することにより、CPU12が検査装置10の各機能構成として機能し、学習処理及び検査処理の各々が実行される。なお、学習処理及び検査処理は、本発明の検査方法の一例である。
【0047】
まず、図9に示す学習処理について説明する。
【0048】
ステップS10で、取得部32が、計測器54で条件毎に複数回計測された学習用信号を取得する。そして、取得部32が、学習用信号の各々から減衰部を抽出する。次に、ステップS12で、算出部34が、学習用信号から抽出された減衰部の信号の各々について、例えば、12次元のMFCCを算出する。次に、ステップS14で、算出部34が、算出した12次元のMFCCを主成分分析により、例えば、3次元の主成分得点に変換する。
【0049】
次に、ステップS16で、学習部36が、学習用信号の減衰部から算出されたMFCCの主成分得点を条件毎に主成分空間に投影し、主成分空間における主成分得点の分布に正規分布を当てはめて最尤推定を行い、確率密度関数を条件毎に算出する。次に、ステップS18で、学習部36が、条件毎に算出した確率密度関数を確率密度関数DB38に記憶し、学習処理は終了する。
【0050】
次に、図10に示す検査処理について説明する。
【0051】
ステップS20で、取得部32が、計測器54で計測された検査用信号を取得し、検査用信号から減衰部を抽出する。次に、ステップS22で、算出部34が、検査用信号から抽出された減衰部の信号について、例えば、12次元のMFCCを算出する。次に、ステップS24で、算出部34が、算出した12次元のMFCCを主成分分析により、例えば、3次元の主成分得点に変換する。
【0052】
次に、ステップS26で、判定部40が、確率密度関数DB38から各条件の確率密度関数を読み出す。そして、判定部40が、検査用信号の減衰部の信号から算出されたMFCCの主成分得点を、条件毎の確率密度関数に代入することにより、条件毎に尤度を算出し、尤度が最大となる条件を、検査用信号に対応する条件として判定する。次に、ステップS28で、判定部40が、判定した条件を検査結果として出力し、検査処理は終了する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る検査装置は、支柱に灯具が接合された器具の予め定めた位置を叩打した際の器具の振動を示す信号を取得し、取得された信号について、メル周波数ケプストラム係数を算出する。また、検査装置は、器具の使用開始時からの経過期間、器具の状態、及び叩打位置で定まる条件毎に取得された信号の各々について算出されたメル周波数ケプストラム係数の確率密度関数を条件毎に学習する。そして、取得された、条件が未知の信号について算出されたメル周波数ケプストラム係数と、学習された条件毎の確率密度関数とを比較して、未知の信号に対応する条件を判定する。これにより、器具の状態の判定精度を向上させることができる。
【0054】
ここで、計測信号の特徴量としてMFCCを用いることの有意性について説明する。
【0055】
図11に、照明装置50として、松下電工製道路照明灯具YA34194K、打診棒52として、テストハンマーTH-4、計測器54として、東陽テクニカ製三軸加速度計356A06を用いて行った本検査装置による判定精度の検証結果を示す。図11では、全ての条件の各々についての検査用信号に対して、判定された条件が正解である検査用信号の割合である正解率を、叩打位置毎に示している。また、各叩打位置について、左側の棒グラフは、各条件について算出した尤度のうち1位の尤度に対応する条件が正解である場合の正解率、右側の棒グラフは、1位から3位までの尤度に対応する条件のいずれかが正解である場合の正解率である。なお、本検証では、照明装置50の使用開始時からの経過期間(新品又は老朽品)、5つのボルトのうち緩みが生じているボルトの位置の組み合わせの11パターン、及び4つの叩打位置をそれぞれ組み合わせた、2×11×4=88通りの条件で検証を行った。
【0056】
図11に示すように、灯具50Aと支柱50Bとの接合部付近(特に支柱50B側)での精度が高いことが分かった。また、図12に示すように、叩打位置C及びDでは、88通りの条件において、ボルト緩みを検出漏れすることもなかった。
【0057】
なお、上記実施形態では、照明装置の状態として、ボルトが緩んでいる位置の組み合わせを判定する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、支柱の腐食及び帯水の少なくとも一方の有無又は程度を照明装置の状態として判定するようにしてもよい。この場合、支柱に腐食又は帯水が生じている場合、生じていない場合、又は、腐食又は帯水の程度が段階的に異なる状態を条件に含めるようにすればよい。また、この場合、叩打位置は、地表から所定高さ(例えば、15cm)の支柱の位置としてよい。また、確率密度関数DBに、ボルトが緩んでいる位置の組み合わせを含む条件に対する確率密度関数群と、支柱の腐食及び帯水の少なくとも一方の有無又は程度を含む条件に対する確率密度関数群とを記憶しておいてもよい。そして、いずれかの確率密度関数群を選択的に利用するようにしてもよい。さらに、ボルトが緩んでいる位置の組み合わせと、支柱の腐食及び帯水の少なくとも一方の有無又は程度との両方を照明装置の状態として条件に含めるようにしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、検査装置が1ユニットで構成されている例について説明したが、これに限定されない。例えば、叩打が高所での作業となる場合、高所へ検査装置を移動させる必要があり、検査装置を超軽量化することが求められる。そのため、検査装置に搭載するCPUは、小型軽量のものを採用する必要があり、処理能力が限定される。そこで、高所において計測器54で計測された信号(波形データ)を取得する検査装置10Aと、地上等で検査装置10Aから送信される信号を取得し学習及び検査の処理を実行する検査装置10Bとの分散構成としてもよい。
【0059】
また、上記実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した学習処理及び検査処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、学習処理及び検査処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0060】
また、上記実施形態では、検査プログラムが記憶装置に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 検査装置
12 CPU
14 メモリ
16 記憶装置
18 入力装置
20 出力装置
22 記憶媒体読取装置
24 通信I/F
26 入出力I/F
28 バス
32 取得部
34 算出部
36 学習部
38 確率密度関数DB
40 判定部
50 照明装置
50A 灯具
50B 支柱
52 打診棒
54 計測器
図1
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