(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028650
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】マイオカイン産生促進剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/14 20060101AFI20250221BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250221BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250221BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20250221BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20250221BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20250221BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20250221BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
A61K36/14
A61P21/00
A61P29/00
A61P43/00 107
A61P43/00 111
A61P37/02
A61K9/12
A61K9/08
A61K9/107
A61K9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133594
(22)【出願日】2023-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】513211560
【氏名又は名称】SHIODAライフサイエンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509324713
【氏名又は名称】株式会社タカフジ
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 清二
(72)【発明者】
【氏名】竹ノ谷 文子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 聖也
(72)【発明者】
【氏名】背戸 克稔
【テーマコード(参考)】
4C076
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA24
4C076BB31
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC09
4C088AB03
4C088AC06
4C088CA03
4C088MA13
4C088MA16
4C088MA22
4C088MA28
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA94
4C088ZB07
4C088ZB09
4C088ZB11
4C088ZB22
4C088ZC02
(57)【要約】
【課題】エビデンスに裏付けられた「マイオカイン産生促進剤の製造方法」を提供し、また、体内(骨格筋等)においてマイオカインの産生を促して骨格筋や免疫に関して優れた効果を発揮する種々の剤を提供すること。
【解決手段】容器内に入れた固液分離の対象物の温度を45℃以下に維持しながら、抽出媒体である抽出液体も抽出水蒸気も使用せずに、該容器内を減圧して該対象物を固液分離し、該対象物に含有されている液体を有効成分として回収するマイオカイン産生促進剤の製造方法であって、
該対象物が、ヒノキの完全には乾燥していない未乾燥品であることを特徴とするマイオカイン産生促進剤の製造方法、及び、該製造方法で製造されたマイオカイン産生促進剤、並びに、それを含有する、骨格筋の抗炎症剤、骨格筋の形成促進剤、骨格筋の損傷修復剤、骨格筋の肥大剤、運動後の免疫低下抑制剤。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に入れた固液分離の対象物の温度を45℃以下に維持しながら、抽出媒体である抽出液体も抽出水蒸気も使用せずに、該容器内を減圧して該対象物を固液分離し、該対象物に含有されている液体を有効成分として回収するマイオカイン産生促進剤の製造方法であって、
該対象物が、ヒノキの完全には乾燥していない未乾燥品であることを特徴とするマイオカイン産生促進剤の製造方法。
【請求項2】
前記マイオカインが、Interleukin 6(IL6)、Recombinant Murine IP-2(CXCL2)、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)、Rps6kb1(RPS6KB1)、又は、Musclin(OSTN)である請求項1に記載のマイオカイン産生促進剤の製造方法。
【請求項3】
前記対象物である前記ヒノキが、ヒノキの間伐材、ヒノキの枝葉、ヒノキの流木、又は、ヒノキの樹皮である請求項1に記載のマイオカイン産生促進剤の製造方法。
【請求項4】
前記ヒノキを裁断してから前記容器内に入れて固液分離をする請求項1に記載のマイオカイン産生促進剤の製造方法。
【請求項5】
少なくとも主たる固液分離中は、前記容器内を20kPa以下の圧力に維持する請求項1に記載のマイオカイン産生促進剤の製造方法。
【請求項6】
前記対象物として、更に、スギの完全には乾燥していない未乾燥品を用いる請求項1に記載のマイオカイン産生促進剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のマイオカイン産生促進剤の製造方法を使用して製造されるものであることを特徴とするマイオカイン産生促進剤。
【請求項8】
請求項7に記載のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする骨格筋の抗炎症剤。
【請求項9】
請求項7に記載のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする骨格筋の形成促進剤。
【請求項10】
請求項7に記載のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする骨格筋の損傷修復剤。
【請求項11】
請求項7に記載のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする骨格筋の肥大剤。
【請求項12】
請求項7に記載のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする運動後の免疫低下抑制剤。
【請求項13】
請求項7に記載のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする筋肉用スプレー液。
【請求項14】
請求項7に記載のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする筋肉付与用のクリーム、水性液体、乳液、又は、ジェル。
【請求項15】
請求項7に記載のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする筋肉マッサージ用のクリーム、又は、ジェル。
【請求項16】
請求項9に記載の骨格筋の形成促進剤を含有することを特徴とする筋肉付与用のクリーム、水性液体、乳液、又は、ジェル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイオカイン産生促進剤の製造方法、及び、該製造方法で製造されたマイオカイン産生促進剤に関するものであり、また、該マイオカイン産生促進剤を含有する、骨格筋の抗炎症剤、骨格筋の形成促進剤、骨格筋の損傷修復剤、骨格筋の肥大剤、及び、運動後の免疫低下抑制剤に関するものであり、更に、該剤を含有する、筋肉付与用若しくはマッサージ用のクリーム、水性液体、乳液、ジェル等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
針葉樹から抽出装置によって抽出した精油は、モノテルペン等の香気成分を含んでいることもあって、該針葉樹は抽出対象として多く用いられている。
また、樹木、野菜、果実等は、抽出対象として用いられるほかにも、特定の乾燥装置で乾燥させてバイオマス発電、廃棄物処理等に用いられている。
【0003】
特許文献1には、マイクロ波を照射しながら、減圧下に、水蒸気蒸留を行うことによって、不要な二酸化窒素やホルムアルデヒドの含有量を減らし、高純度のモノテルペンの抽出方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、特定の木材乾燥抽出装置を用いることによって、木材、野菜等を乾燥させることによって、種々のエキスを得る装置が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1、2では、抽出時の温度に上限がないために、樹木、野菜、果物等の対象物に含有される有効成分が分解してしまっていた。
また、特許文献1では、水蒸気と言う抽出媒体を外部から加えているため、該水を除去するときに有効成分が散逸するだけでなく、水蒸気と共に不純物が入り、全て天然物のエキスが得られると言う訳ではなかった。
【0006】
上限温度を規定した抽出方法・抽出装置として、特許文献3には、シークワーサー由来の精油等の香気成分を、65℃以下で減圧にして生産する方法が記載されている。
しかしながら、特許文献3では、抽出対象がシークワーサーに限定され、得られた香気成分の用途は、アロマセラピー用、香料用、化粧品用等であった。すなわち、基本的には、シークワーサー精油の匂い・香りに着目したものであった。
【0007】
上限温度を規定した抽出方法・抽出装置として、特許文献4には、ラベンダーを固液分離して水性の抽出液を得る方法が記載され、得られた水性抽出液は、自律神経調節剤になることが記載されている。
しかしながら、特許文献4では、抽出対象が特定のラベンダーに限定され、特許文献4に記載の抽出物は、経鼻的に摂取することによって、大脳の特定部分に作用して上記効果を得るものであった。すなわち、ラベンダーからの抽出液の匂い・香りに着目したものであった。
【0008】
一方、特許文献5には、カモミール精油、ローズマリー精油、メントール、リモネン等を含有するIL-6(サイトカインの1種)の生産促進剤が記載されている。
しかしながら、特許文献5には、ヒノキからの抽出については記載がなく、また、IL-6の産生しか確かめていないため、IL-6に限定した発明であった。
【0009】
近年、骨格筋(筋肉)から分泌される生理活性物質(サイトカイン)であるマイオカインが、骨格筋(筋肉)に対して種々の作用・効果を及ぼしていることが分かってきているが、具体的にどのような物質が該マイオカインの産生を促進するかと言う研究は多くはなく、況や、植物の細胞内の液体(組成物)にそのような効果があるか否かも詳しくは分かっていなかった。
該物質が植物内に存在するか否か、また、どのような植物の細胞内の液体(組成物)にそのような効果(該物質)があるかの検討や、存在する場合、該物質を含有する剤の検討はなされていなかった。
【0010】
近年、スポーツが盛んになると共にスポーツ選手の健康維持と筋力アップが重要になってきており、また、平均寿命の延長により老化による筋力の衰えを抑制することも重要になってきている。
そして、如何にしてスポーツ選手に効率的に(トレーニング等をして)健康維持と筋力アップをさせられるか、如何にして老人に筋力低下を阻止させられるかが問題となってきている。
【0011】
しかしながら、骨格筋(筋肉)を対象にして、医学的測定、分析的測定、ヒト(の骨格筋)に直結した測定等によって直接裏付けられた(エビデンスのある)筋肉付与剤は殆どなく、特に、該剤として、「植物からの抽出物(植物由来物)」についての報告は全くなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013-100520号公報
【特許文献2】特許第7154643号公報
【特許文献3】特開2013-203911号公報
【特許文献4】特開2020-147547号公報
【特許文献5】特開2019-147777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、前記問題点を解決し、科学的測定結果(エビデンス)に裏付けられた「マイオカイン産生促進剤の製造方法」を提供し、また、摂取者の体内(骨格筋等)において該マイオカインの産生を促して骨格筋や免疫に関して優れた効果を発揮する種々の剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の状態のヒノキを用い、かつ、特定の方法で「固液分離して得た液体」において、マイオカイン産生効果が特に著しいことを見出して本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、容器内に入れた固液分離の対象物の温度を45℃以下に維持しながら、抽出媒体である抽出液体も抽出水蒸気も使用せずに、該容器内を減圧して該対象物を固液分離し、該対象物に含有されている液体を有効成分として回収するマイオカイン産生促進剤の製造方法であって、
該対象物が、ヒノキの完全には乾燥していない未乾燥品であることを特徴とするマイオカイン産生促進剤の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記マイオカインが、Interleukin-6(IL-6)、Recombinant Murine IP-2(CXCL2)、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)、Rps6kb1(RPS6KB1)、又は、Musclin(OSTN)である前記のマイオカイン産生促進剤の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記の「マイオカイン産生促進剤の製造方法」を使用して製造されるものであることを特徴とするマイオカイン産生促進剤を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする、骨格筋の抗炎症剤、骨格筋の形成促進剤、骨格筋の損傷修復剤、骨格筋の肥大剤、及び、運動後の免疫低下抑制剤を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、前記のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする筋肉用スプレー液;筋肉付与用のクリーム、水性液体、乳液、又は、ジェル;筋肉マッサージ用のクリーム、又は、ジェル;を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、前記の骨格筋の形成促進剤を含有することを特徴とする、筋肉付与用のクリーム、水性液体、乳液、又は、ジェルを提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、前記問題点と課題を解決し、ヒノキの未乾燥品を45℃以下で固液分離して得た液相側の液体に、ヒトの体内でマイオカインの産生を促進する効果があることを見出してなされたものである。
「マイオカイン」とは、骨格筋(筋肉)細胞から分泌される生理活性物質(サイトカイン)のことである。
【0022】
本発明において、「電気刺激(EPS)を与えることで運動をした状態を作り出せるC2C12細胞」に複数の評価対象物を加え、様々な「マイオカインの遺伝子」の発現を、RT-PCR法で確認した。
そして、「乾燥していないヒノキを特定の方法で固液分離した液体」を上記評価対象物としたときに、意外にも、少なくとも5種の「マイオカインの遺伝子」の発現が確認された。複数の植物について上記方法で測定した結果、特に顕著にヒノキで上記事実が確認された。
なお、スギでも、ヒノキに比較すれば、発現が確認された「マイオカインの遺伝子」の数・種類が少なかったものの、他の植物に比較すれば上記事実が確認された。
【0023】
ここで、「C2C12細胞」とは、マウス骨格筋細胞であり、in vitroで増殖させた細胞に電気刺激(EPS)を与えることで、in vitroで運動をした状態を作り出せる「運動様骨格筋培養細胞」とも呼べるものである(例えば、Hatakeyama H, Kanzaki M. Mol Biol Cell, 24(6), 809-817, (2013)等、参照)。
【0024】
以下、「対象物の温度を45℃以下に維持しながら、抽出媒体である抽出液体も抽出水蒸気も使用せずに減圧して該対象物を固液分離する方法」を、単に「低温真空抽出法」と略記することがある。ただし、該方法は、抽出媒体に有効成分を抽出・移行させる訳ではないので、狭義の抽出方法ではなく、固液分離方法と言えるものである。
【0025】
運動を行った人の骨格筋から様々なマイオカインが分泌されることは、既に明らかとなっている(例えば、Pedersen BK, J Appl Physiol, 103(3), 1093-8, 2007 等、参照)。
そして、該マイオカインは、種々の生理作用を有し、健康増進に多大な影響を与えると考えられ、特に(運動した後の)ヒトの骨格筋に対して優れた効果を奏しているはずである。
【0026】
近年の運動生理学的な背景に鑑み、効率的でより効果のある骨格筋・筋力アップを実現するための、トレーニング(運動)や、運動後の骨格筋のケア等を検討した。
そして、本発明において、上記を達成・実現させるためには、「如何にして骨格筋から有効なマイオカインの分泌量を増やすか」という課題を解決すればよいことを見出した(該課題を見出した)。
【0027】
本発明によって、有効なものとして見出された複数のマイオカイン(C2C12細胞に産生された複数のマイオカイン)は、それぞれのマイオカインごとに、抗炎症作用、骨格筋の形成促進作用、骨格筋の損傷修復作用、骨格筋の肥大作用、又は、免疫低下抑制作用があることが分かっている(実施例に記載の文献参照)。
本発明における液体を、皮膚等の上から投与後に、体内に産生される上記「複数のマイオカイン」には、それぞれ、上記作用の何れかがあるので、従って、該液体(ヒノキから低温真空抽出法によって固液分離された液体)を投与すれば、上記作用の何れもがあることになる。
【0028】
本発明において、ヒノキ由来の液体に、少なくとも5種ものマイオカインが骨格筋に産生されることが明らかになった。従って、たとえ産生されないマイオカインが幾つかあったとしても、本発明は、「マイオカイン産生促進剤の製造方法」にまで一般化できるものである。
【0029】
本発明のマイオカイン産生促進剤、並びに、該マイオカイン産生促進剤を含有する、骨格筋の抗炎症剤、骨格筋の形成促進剤、骨格筋の損傷修復剤、骨格筋の肥大剤、及び、運動後の免疫低下抑制剤は、一般人の通常の状態のときに投与(好ましくは筋肉の上の皮膚に付与)してもその効果を発揮する。従って、該剤を含有させることによって、健康に関連した商品や、化粧品に関連した商品等に応用可能である。
【0030】
ただ、運動前、運動中又は運動後に、スポーツ選手や運動した人若しくは運動する人の筋肉の上から付与すると、より前記効果を発揮する。更に、運動後のスポーツ選手に対して、特に前記効果を発揮する。
【0031】
該マイオカイン産生促進剤を含有させた筋肉用スプレー液や、筋肉マッサージ用の液・クリーム・ジェル等とすると、その使用態様が特に前記効果を増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明における低温真空抽出法の抽出工程に用いられる装置の一形態を示す概略図である。
【
図2】本発明における低温真空抽出法の抽出工程に用いられる装置の他の形態を示す概略図である。
【
図3】本発明においてマイオカイン産生の評価・確認に用いた装置の概略図である。 (a)C2C12細胞に電気刺激(EPS)を与えて、in vitroで運動をした状態を作り出している評価装置の概略図 (b)C2C12細胞の顕微鏡拡大写真
【
図4】C2C12細胞に、スギ又はヒノキから固液分離した液体を付与して、電気刺激(EPS)を与えた、直後、60分後、120分後のIL-6の遺伝子発現量を表した棒グラフである。
【
図5】C2C12細胞に、スギ又はヒノキから固液分離した液体を付与して、電気刺激(EPS)を与えた、直後、60分後、120分後のCXCL2の遺伝子発現量を表した棒グラフである。
【
図6】C2C12細胞に、スギ又はヒノキから固液分離した液体を付与して、電気刺激(EPS)を与えた、直後、60分後、120分後のCXCL10の遺伝子発現量を表した棒グラフである。
【
図7】C2C12細胞に、スギ又はヒノキから固液分離した液体を付与して、電気刺激(EPS)を与えた、直後、60分後、120分後のRPS6KB1の遺伝子発現量を表した棒グラフである。
【
図8】C2C12細胞に、スギ又はヒノキから固液分離した液体を付与して、電気刺激(EPS)を与えた、直後、60分後、120分後の遺伝子発現量を表した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0034】
本発明のマイオカイン産生促進剤の製造方法は、前記定義による「低温真空抽出法」によって、対象物を固液分離し、そこに含有されている液体を有効成分として回収する方法であり、該対象物として、「ヒノキの完全には乾燥していない未乾燥品」を用いることに特徴がある。
【0035】
<対象物であるヒノキ>
ヒノキは、マツ綱、マツ目、ヒノキ科、ヒノキ属に属する植物であり、本発明においては、ヒノキの樹齢や産地(種々の産地を表した商標を含む)等は限定されない。
また、ヒノキの部位は、特に限定はなく、幹、樹皮、枝、葉、花、果実等が挙げられる。好ましくは、樹皮、枝、又は、葉であり、樹皮、又は、枝葉に含まれる(混入した)上記部位も挙げられる。本発明の対象物41として、特に好ましくは、ヒノキの樹皮、又は、ヒノキの枝葉である。
【0036】
また、その由来から分類すると、限定はされないが、本発明の対象物41として、好ましくは、優れた建材を得るため等に、所々、木ごと伐採したヒノキの間伐材;建材等を得るために切り落とした(枝打ちした)ヒノキの枝葉;川、ダム、池、湖等の下流側に滞留・堰き止め等しているヒノキの流木;建材を得るため等に剥がしたヒノキの樹皮;等である。
これらは、不要物として大量に入手することができ、また、廃棄物処理も兼用できて、本発明のコストダウンにもなる。
【0037】
本発明において、固液分離の対象物41として、ヒノキの完全には乾燥していない未乾燥品を用いることが必須である。乾燥品を用いると固液分離して液体42を回収することができない。
通常、前記由来のヒノキを用い、意識して乾燥をしなければ、「完全には乾燥していない未乾燥品」に該当する。
【0038】
本発明においては、固液分離の対象物41であるヒノキを裁断してから容器内に入れることが好ましい。ヒノキを裁断しないで入れてもよいが、固液分離が良好に進行しない場合がある。裁断の程度は、特に限定はないが、1個のピースの最も長いところの距離の個数平均値で、0.1cm以上50cm以下が好ましく、0.3cm以上40cm以下がより好ましく、1.0cm以上30cm以下が更に好ましく、3cm以上20cm以下が特に好ましい。
短過ぎると、乾燥が進み易く、ヒノキに含有されている液体42の収率が落ちる、沸点の低い有効成分が散逸する等の場合があり、長過ぎると、撹拌や固液分離の効率が落ちる、装置に負荷がかかる等の場合がある。
【0039】
<固液分離の方法(低温真空抽出法)>
本発明の製造方法は、容器内に入れたヒノキの温度を45℃以下に維持しながら、抽出媒体である抽出液体も抽出水蒸気も使用せずに、該容器内を減圧して該対象物41を固液分離し、該対象物41に含有されている液体を有効成分として回収する。言い換えれば、本発明は、ヒノキを対象物41として、低温真空抽出法によって固液分離をして、液体側を回収する。
【0040】
使用しない抽出媒体とは、水;アルコール類等の有機溶媒;二酸化炭素等の超臨界流体・亜臨界流体;等が挙げられる。上記水蒸気とは、水蒸気蒸留法で使用するような水蒸気等のことを言う。
ここで「使用せず」とは、実質的に使用しないことを言い、「実質的に使用しない」とは、対象物の3質量%以下しか使用しないことを言い、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下しか使用しないことであり、特に好ましくは全く使用しないことである。
【0041】
低温真空抽出法によれば、抽出媒体が残留しないので天然成分だけの抽出物が製造できる、抽出媒体の臭いが残らない、抽出媒体を除く必要がない、含有成分が熱分解しない、含有成分が散逸しない、ヒノキ内の水が殆ど散逸しないで液体42が得られる、実際に本発明の前記効果を他の抽出法による抽出物より好適に奏し易い、固液分離した固体側(残渣44)も有効利用できる、等の点から好ましい。
【0042】
ヒノキを低温真空抽出法で固液分離すると、主に水性抽出物が得られる。該「水性抽出物」には、「精油とも言われる油性成分が溶解していて水溶液として均一になっている場合」も、「少量の油性成分が上層に分離していて撹拌すると均一に分散する場合」も含まれる。油性成分(精油)が上層に分離している場合は、撹拌等を行って均一な液体42として使用することもできるし、油性成分を除いて、本発明における「液体42」として使用することもできる。
【0043】
本発明おける固液分離して得られる液体42、すなわちマイオカイン産生促進剤は、ヒノキの細胞内の水(細胞内液)を含むものであり、従って、該液体42(マイオカイン産生促進剤)は、全てヒノキと言う天然物(植物)由来のものである。また、低温真空抽出法で抽出すると熱による変質が起らないので、完全に天然物(植物)のままである。
【0044】
<<固液分離の装置と固液分離の条件>>
図1、2は、ヒノキを固液分離するために用いられる装置の一例を示す概略図であるが、本発明の範囲内であれば、本発明は、実際に
図1、2に示された装置での固液分離には限定されない。
【0045】
容器21は、原料41であるヒノキを収容し、撹拌羽根23で撹拌し、所定の温度範囲(該温度は原料であるヒノキの温度を言う)を維持しながら、容器内を減圧して固液分離するものであり、冷却器22は容器21から出る気体(蒸気)を冷却する装置である。
【0046】
容器21の周囲には、容器21の内部及び対象物(原料)41に熱を加える加熱装置24がある。容器21には冷却装置が設けられていてもよい(図示せず)。容器21の上部には、対象物41であるヒノキの投入口と該投入口を塞ぐ蓋が設けられており、容器21の最下部の中央には、固液分離後のヒノキの固体残渣44を取り出す排出口26が設けられている。
容器21には、吸引される蒸気の排気口25が設けられ、この排気口25には前記冷却器22につながる配管27が接続されている。
【0047】
容器21には、該容器内の真空度を計測する真空計32、温度計33等の測定計が設置されており、抽出時における容器内の圧力(減圧度)と温度を測定し、抽出対象(原料)41であるヒノキの温度も間接的に測定するために設けられ、また、抽出の開始と終了を判定するために設けられている。
【0048】
固液分離の操作は、例えば、下記のように行なわれる。
作業開始に当り、冷却ユニットに冷却水が充填される。対象物(原料)41であるヒノキを投入口から容器内に投入して蓋を閉じる。
撹拌を開始し、加熱装置24により、外部から熱を加える。容器21に加えられた熱は、対象物(原料)41であるヒノキに伝達され、ヒノキが撹拌されることにより固液分離が促進される。
その際、加熱装置24や冷却装置を調節して、ヒノキの温度を、後記する好ましい範囲にする。
【0049】
減圧装置35で吸引することにより、容器内の気体、すなわち液体の蒸気及び空気は、配管27を通じて吸引され、容器内のヒノキに含まれている液体42すなわち常温で液体である成分の蒸発が始まる。
その際、減圧装置35で吸引する量や吸引力を調節して、圧力(減圧度)を後記する好ましい範囲にする。また、対象物41の温度範囲を後記する好適範囲に維持する。
工業的に実施可能な(現実的な)「排気容量と減圧度の関係」から、減圧装置35は、排気容量が大きいエゼクターが好ましい。
【0050】
容器内の「ヒノキに含まれる水性成分の蒸気」等の有効成分の蒸気は、配管27を通して吸引されて冷却器22に導入され、冷却・液化されて、回収液となって回収槽34内に溜まる。
回収槽34に、水性液体42が所定量まで貯まったら、減圧装置35での吸引を停止し、バルブと弁を適宜開閉して水性液体42を回収する。
ヒノキからの液体42の場合、殆どが水性である。ただ、油層(精油)が分離している場合は、要すれば静置して分液をして油層(精油)を取り除き、水層のみを水性液体42として回収してもよいし、油層(精油)を均一に水層に分散させて全て水性液体42として回収してもよい。
【0051】
本発明においては、筋肉に対して付与するマッサージ用等のクリーム・水性の液体・乳液・ジェル等として好適に使用できる点;マイオカイン産生促進剤として、後記する種々の剤に特に効果的である点;等から、固液分離した液体側である水性液体42を使用することが特に好ましい。
水性液体42は、油性抽出物(精油等)に比べて、本発明の剤としての効果に優れると言った主効果の他にも、1回の固液分離でより多くの量を回収できる;油性抽出物(精油等)に比べて匂いが薄く、比較的心地よく感じる匂いである;等の点で、油性抽出物(精油等)より優れている。
【0052】
固液分離時の対象物(原料)41の温度(範囲)は、45℃以下の温度を維持することが必須であるが、好ましくは10℃以上43℃以下であり、より好ましくは15℃以上40℃以下であり、特に好ましくは20℃以上38℃以下である。
温度が高過ぎると、有効成分が熱分解や変質する場合、有効成分が散逸する場合、天然物以外の成分が生成する場合等がある。一方、温度が低過ぎると、固液分離が好適に進行しない場合等がある。
【0053】
固液分離の減圧度は特に限定されないが、少なくとも主たる固液分離中は、前記容器内を20kPa以下の圧力に維持することが好ましく、15kPa以下の圧力に維持することがより好ましく、1kPa以上10kPa以下の圧力に維持することが特に好ましい。
【0054】
圧力の上限が上記範囲であると、水の沸点を勘案し低い温度での有効成分の抽出が可能になるので、有効成分の熱による変性・分解が防止でき、十分に有効成分を抽出できる。また、抽出時間を短くできるので、有効成分の分解・逸失が抑制され、また、不必要な時間のロスがなく経済的である。
工業的に実施しようとすると、温度範囲を前記範囲に維持する等のために、排気容量が大きい必要がある。現実的な「排気容量と減圧度の関係」から、すなわち減圧装置35が実際に存在しなくてはならない等の点から、圧力の下限は上記範囲が好ましい。
【0055】
<対象物としてのスギ>
本発明のマイオカイン産生促進剤の製造方法は、対象物41が「ヒノキの完全には乾燥していない未乾燥品」であることを特徴とするが、対象物41を「スギの完全には乾燥していない未乾燥品」としたときに、ヒノキほどではないが、幾つかのマイオカインの産生が確認された(マイオカイン遺伝子の発現が確認された)(実施例参照)。
【0056】
従って、本発明の「ヒノキを固液分離して得たマイオカイン産生促進剤」には、「スギを固液分離して得た液体」を混合させることも好ましい。
本発明は、前記対象物41として、更に、スギの完全には乾燥していない未乾燥品を用いる前記のマイオカイン産生促進剤の製造方法でもある。
【0057】
「スギ」の、(枝葉等の)部位、(間伐材等の)由来、裁断等を含めた定義や好ましい態様等は、前記した「ヒノキ」の場合と同様である。また、固液分離の方法・条件も前記した「ヒノキ」の場合と同様である。
【0058】
ヒノキとスギは、別々に固液分離して、得られた液体42を混合してマイオカイン産生促進剤としてもよいし、ヒノキとスギを同時に容器21に入れて固液分離してマイオカイン産生促進剤としてもよい。
ヒノキ由来の液体とスギ由来の液体の混合比(ヒノキとスギの割合)は、特に限定はないが、マイオカイン産生効果、匂いの種類や強さを勘案して、ヒノキ(由来液)/スギ(由来液)として、100/0~60/40が好ましく、95/5~65/35がより好ましく、90/10~70/30が特に好ましい。
【0059】
<<他の方法(抽出法)との比較>>
植物から機能性成分を抽出する方法として現在多く使われているのは、溶剤抽出法や水蒸気蒸留法である。
このうち、溶剤抽出法は、溶剤の残留があり、マイオカイン産生促進剤として悪影響を及ぼす。なお、該溶剤には水も含まれる。
【0060】
また、水蒸気蒸留法は、植物から水蒸気によって精油成分等の成分を得る方法であり、安全性の高い伝統的な技術であるが、100℃前後の高温に晒されるため、本来植物が有している成分が分解される。また、精油と共に抽出される大量の芳香を有する蒸留された水は、高温を経験しているため含有成分が変質しており、本発明のマイオカイン産生促進剤として、更には、後記する「マイオカイン産生促進剤を含有する種々の剤」としては使用できない。
【0061】
また、溶剤抽出法や水蒸気蒸留法では、成分抽出後の残渣は特に活用方法がなく、産業廃棄物として投棄されているが、本発明では、固液分離して得られた液体42のみならず、固体残渣44も有効利用ができる可能性が高い。
【0062】
ヒノキを固液分離して液体42を得るために用いた本発明の製造方法は、他の製造(抽出)方法の問題点が解決されており、前記したような種々の効果を奏するが、更に、(重複するものも含め)以下のような利点がある。
(1)45℃以下の低温で固液分離するため、酵素等の熱に弱い成分を自然に近い形で取り出すことができる。
(2)溶剤や水蒸気等を使用しないので、100%ヒノキ由来の天然有効成分の獲得が可能である。
(3)有機溶媒の残存の心配がなく、安心性・安全性が高い。
(4)含有成分の濃度が他の抽出法に比べて高い。
【0063】
<マイオカイン>
ヒノキを上記方法で固液分離して得られた液体42は、前記した「電気刺激(EPS)を与えることで運動をした状態を作り出せるC2C12細胞」に加えたところ、様々な「マイオカインの遺伝子」の発現が確認された(実施例参照)。
【0064】
対応する遺伝子の発現が確認されたマイオカイン(タンパク質)は、Interleukin-6(IL-6)、Recombinant Murine IP-2(CXCL2)、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)、Rps6kb1(RPS6KB1)、Musclin(OSTN)であった。
【0065】
本実施例において、少なくとも上記5種類ものマイオカインの生成が確認され、また、このような知見は新たに見出されたものであるので、中には生成しないマイオカインは当然あるものの、「本発明のマイオカイン産生促進剤の製造方法」におけるマイオカインは特に限定はされず、マイオカインと言う上位概念全体に及ぶものである。
【0066】
ただ、本発明の好ましい態様は、産生されるマイオカインが、Interleukin-6(IL-6)、Recombinant Murine IP-2(CXCL2)、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)、Rps6kb1(RPS6KB1)、又は、Musclin(OSTN)である、前記の「マイオカイン産生促進剤の製造方法」である。
【0067】
ここで、上記5種のマイオカイン(タンパク質)の正式の名称と、該タンパク質の遺伝子の正式の名称は、上記のマイオカイン(タンパク質)の順番に、以下の通りである。
それぞれ、上段はマイオカイン名(タンパク質名)であり、下段は遺伝子名である。
また、マイオカイン名(タンパク質名)、遺伝子名の何れも、コロン「:」の次の記載は、それぞれの略称である。
【0068】
・タンパク質名:略称
(遺伝子名:略称)
・Interleukin 6: IL6
(Interleukin 6: Il6)
・Recombinant Murine IP-2, C-X-C motif chemokine ligand 2: MIP-2, CXCL2
(C-X-C motif chemokine ligand 2: Cxcl2)
・Recombinant Murine IP-10, C-X-C motif chemokine ligand 10: MIP-10,CXCL10
(C-X-Cmotif chemokine ligand 10: Cxcl10)
・Ribosomal protein S6 kinase, polypeptide 1: RPS6KB1
(Ribosomal protein S6 kinase, polypeptide 1: Rps6kb1)
・Musclin, Osteocron: OSTN
(Osteocrin: Ostn)
【0069】
上記マイオカイン(タンパク質)は、実施例を含む本願明細書中においては、それぞれ、前記した通り(請求項に記載のように)表現するものとする。
【0070】
<マイオカイン産生促進剤>
本発明は、前記の「マイオカイン産生促進剤の製造方法」を使用して製造されるものであることを特徴とするマイオカイン産生促進剤でもある。
【0071】
本発明の製造方法によるマイオカイン産生促進剤には、極めて多くの有効成分が含有されているところ、それらの成分を同定すること、それらの成分から本発明の効果を奏する有効成分を同定することは、不可能であるか又はおよそ実際的でない(「不可能・非実際的事情」がある)。
従って、本発明における「ヒノキから低温真空抽出法で得られた液体42」については、製造方法(固液分離方法)で特定する以外に方法がない。
【0072】
<<骨格筋の抗炎症剤>>
本発明は、上記のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする骨格筋の抗炎症剤でもある。
【0073】
Interleukin-6(IL-6)が、骨格筋の抗炎症として作用することは、例えば、実施例の<Interleukin-6(IL-6)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
【0074】
従って、本発明における「ヒノキから低温真空抽出法で得られた液体42」が、骨格筋の抗炎症剤であることは、本実施例において、該液体42が、Interleukin-6(IL-6)を産生したことから明らかである(実施例参照)。
【0075】
<<骨格筋の形成促進剤>>
本発明は、上記のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする骨格筋の形成促進剤でもある。
【0076】
Interleukin-6(IL-6)が、骨格筋の形成促進として作用することは、例えば、実施例の<Interleukin-6(IL-6)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
また、Rps6kb1(RPS6KB1)が、骨格筋の形成促進として作用することは、例えば、実施例の<Rps6kb1(RPS6KB1)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
また、Musclin(OSTN)が、骨格筋の形成促進として作用することは、例えば、実施例の<Musclin(OSTN)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
【0077】
従って、本発明における「ヒノキから低温真空抽出法で得られた液体42」が、骨格筋の形成促進剤であると言えることは、本実施例において、該液体42が、Interleukin-6(IL-6)、Rps6kb1(RPS6KB1)、Musclin(OSTN)を産生したことから明らかである(実施例参照)。
【0078】
<<骨格筋の損傷修復剤>>
本発明は、上記のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする骨格筋の損傷修復剤でもある。
【0079】
Interleukin-6(IL-6)が、骨格筋の損傷修復として作用することは、例えば、実施例の<Interleukin-6(IL-6)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
また、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)が、骨格筋の損傷修復として作用することは、例えば、実施例の<Recombinant Murine IP-10(CXCL10)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
【0080】
従って、本発明における「ヒノキから低温真空抽出法で得られた液体42」が、骨格筋の損傷修復剤であると言えることは、本実施例において、該液体42が、Interleukin-6(IL-6)、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)を産生したことから明らかである(実施例参照)。
【0081】
<<骨格筋の肥大剤>>
本発明は、上記のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする骨格筋の肥大剤でもある。
【0082】
Rps6kb1(RPS6KB1)が、骨格筋の肥大作用があることは、例えば、実施例の<Rps6kb1(RPS6KB1)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
【0083】
従って、本発明における「ヒノキから低温真空抽出法で得られた液体42」が、骨格筋の肥大剤であると言えることは、本実施例において、該液体42が、Rps6kb1(RPS6KB1)を産生したことから明らかである(実施例参照)。
【0084】
<<運動後の免疫低下抑制剤>>
本発明は、上記のマイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする運動後の免疫低下抑制剤でもある。
【0085】
Recombinant Murine IP-2(CXCL2)が、運動後の免疫低下抑制作用があることは、例えば、実施例の<Recombinant Murine IP-2 (CXCL2)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
また、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)が、運動後の免疫低下抑制作用があることは、例えば、実施例の<Recombinant Murine IP-10(CXCL10)>の項に記載した文献等によって既に知られている。
【0086】
従って、本発明における「ヒノキから低温真空抽出法で得られた液体42」が、運動後の免疫低下抑制剤であると言えることは、本実施例において、該液体42が、Recombinant Murine IP-2(CXCL2)、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)を産生したことから明らかである(実施例参照)。
【0087】
<本発明のマイオカイン産生促進剤を含有する具体的な用途(製品)>
本発明のマイオカイン産生促進剤は、それを含有させてどのような製品(形態)にするかについては、特に限定はないが、骨格筋(筋肉)の上の皮膚の上から付与する用途(製品)にすることが好ましい。
該骨格筋(筋肉)は、動物のものでもよいが、人間のものであることが好ましい。
【0088】
スポーツ選手等にトレーニングを介して健康維持と筋力アップをさせることが、注目を集めいていることから、該人間は、スポーツ選手、スポーツをする人、筋肉労働者等が、特に好ましい。また、老人に筋力低下を阻止させられるかが重要であるので、該人間としては老人も挙げられる。
【0089】
本発明は、前記マイオカイン産生促進剤を含有することを特徴とする、筋肉用スプレー液;筋肉付与用のクリーム、水性液体、乳液、又は、ジェル;筋肉マッサージ用のクリーム、又は、ジェル;筋肉付与用のクリーム、水性液体、乳液、又は、ジェル;でもある。
かかる製品(形態)は、要すれば、例えば下記する公知の配合剤を配合させて、常法によって調製される。
【0090】
上記形態であることが、骨格筋(筋肉)に好適に作用させられる形態として好ましい。
骨格筋(筋肉)に対する付与(投与)時期は、運動をする前でも、運動中でも、運動後でもよい。運動後に、マッサージを兼ねて、筋肉マッサージ用のクリーム、又は、ジェルを、筋肉の上の皮膚から付与(投与)することが好ましい。
【0091】
<<配合物>>
本発明のマイオカイン産生促進剤や、前記した機能を有する剤や、上記した具体的な製品(態様)には、適宜、配合物を加えて、形態、物性、使い勝手等を調整することができる。
該配合品としては、「主成分であるヒノキの細胞内液」以外の外部から加える水;クリームや外用剤用の配合剤;香料;等が挙げられる。
具体的には、例えば、精油等の香料;アロマオイル;メントール、ハッカ、テルペン類等の清涼剤;安定化剤;湿潤剤;乳化剤;結合剤;等張化剤;ワセリン等の増粘剤;ゲル化剤;有機・無機フィラー;防腐剤;他の薬効成分;等が挙げられる。
【0092】
本発明のマイオカイン産生促進剤は、対象物41が同じヒノキであっても、「所謂アロマセラピー用のヒノキ精油」とは全く異なった匂いがする。また、匂いの強さは精油に比べれば弱い。
しかし、アロマセラピー用(の精油)では、大気中に極めて少量の蒸気(気体)があればよいが、本発明の前記用途では、本発明における液体42、すなわちマイオカイン産生促進剤を多く使用する。
そのため、使用段階で匂いが強くなる場合もある。従って、上記した配合剤のうち、香料又は清涼剤は、「匂い調節剤」として配合することが好ましい。
【実施例0093】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例中、単に「%」との記載は、特に断りがない限り、「質量%」を意味する。
【0094】
実施例1
<ヒノキから低温真空抽出法による固液分離>
対象物(原料)41である「ヒノキ」として、大分県で伐採した乾燥していないヒノキの間伐材の枝葉30kgを用いた。
伐採したものを、1つのピースにおいて最も長い差し渡し長さが、3cm~30cmになるように裁断して、
図1、2に示す容器21の中に投入した。
【0095】
図1、
図2に示した装置を用いて、ヒノキ30kgを固液分離した。固液分離の条件は以下とした。
(1)対象物の温度:30~40℃
(2)容器内の設定温度:35~40℃
(3)圧力:4~8kPa
(4)撹拌羽根の回転数:4rpm(回転/分)
【0096】
回収槽34に溜まった液体42は、殆どが均一な水相(水層)であった。その液体全部(全回収液)を目的の水性液体42とした。なお、油性成分が存在していたとしても、水相(水層)に溶解又は微分散していた。
得られた水性液体42の収量は20kgであった。最後に、排出口26から固体残渣44を回収した。固体残渣44は10kgであった。なお、該固体残渣44も有効利用した。
【0097】
得られた水性液体42を、以下、「ヒノキCE」と略記する。
【0098】
実施例2
<スギから低温真空抽出法による固液分離>
対象物41である「スギ」は、大分県で伐採した際のヒノキの間伐材の枝葉30kgを用いた。
伐採したものを、1つのピースにおいて最も長い差し渡し長さが、3cm~30cmになるように裁断して、
図1、2に示す容器21に投入した。
【0099】
図1、
図2に示した装置を用いて、スギ30kgを固液分離した。固液分離の条件は、上記の実施例1(ヒノキの場合)と同様にした。
【0100】
回収槽34に溜まった液体は、殆どが均一な水相(水層)であった。その液体全部(全回収液)を目的の水性液体とした。なお、油性成分が存在したいたとしても、水相(水層)に溶解又は微分散していた。
得られた水性液体の収量は20kgであった。最後に、排出口26から固体残渣44を回収した。固体残渣44は10kgであった。該固体残渣44も有効利用した。
【0101】
得られた水性液体を、以下、「スギCE」と略記する。
【0102】
比較例1
<ヒノキから水蒸気蒸留法による抽出>
原料は調製例1と同様のものを用いた。
通常の水蒸気蒸留装置を用い、100℃の水蒸気で、常法に従って抽出し、その後、抽出該体として使用した水を分離した。
得られたものは、所謂「精油」と言われているものであり、ヒノキの細胞内液は、単身として純粋な形では得られなかった。
【0103】
比較例2
<ヒノキから溶剤抽出法による抽出>
原料は調製例1と同様のものを用いた。
原料の3倍量の40℃の、水/エタノール混合溶剤を抽出媒体として用いて、常法に従って抽出した。
【0104】
得られた抽出液から、抽出媒体を、40℃以下で減圧留去して抽出物を得た。
減圧蒸留の際、ヒノキの細胞内液は散逸(蒸発)してしまった。
得られた抽出物には、本発明における有効成分を含んでおらず、また、外部から加えた水、エタノール等の抽出溶媒を含むものであった。
【0105】
評価例1
<マイオカイン産生促進についての評価>
C2C12細胞に、ヒノキCE、又は、スギCEを、濃度を変化させて添加した後、電気パルス刺激(Electric pulse stimulation)(以下、「EPS」と略記する)を下記する条件で加えた。以下、電気パルス刺激による処理を、「EPS処理」と略記する。
「C2C12細胞」は、マウス骨格筋細胞であり、EPSを与えることで、in vitroで運動をした状態を作り出せるものであり、例えば、Hatakeyama H, Kanzaki M. Mol Biol Cell, 24(6), 809-817, (2013) 等の記載を参照して、作製、調製、使用できる。
【0106】
<<C2C12細胞>>
C2C12細胞は、4well プレートマルチディッシュ(Nunclon Delta 処理)4well 角型/平底)に、1.25×105 cells/well となるように播種し、10%のウシ胎児血清(FBS)、30μg/mLペニシリン-ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、4.5%/D-グルコース)で、37℃、5%CO2 条件で増殖させた。
【0107】
3日後に、80-90%コンフルエントの状態になった状態で、2.0% 馬血清(HS)、30μg/mL ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、1.0%/D-グルコース)で、37℃、5%CO2 条件で、7-9日間分化させた。
【0108】
<<電気パルス刺激(EPS)処理>>
まず、C2C12細胞分化後に培地を除去し、5mLの37℃無血清イーグル培地(MEM)を添加した。1時間半後に培地を除去し、再度新たな37℃無血清イーグル培地(MEM)を5mL添加した。
【0109】
次に、滅菌水で、500mMに調整した、上記調製例1においてヒノキを固液分離して得た液体42である「ヒノキCE」、上記実施例2においてスギを固液分離して得た液体である「スギCE」を、1mM、2mMになるように上記培地に添加し、コントロールとしてはPBSを添加して、インキュベーター内に静置した。
【0110】
次に、37℃、5%CO2条件で、30分後にC-Pace EM(IonOptix Corporation)C-Dishカーボン電極を、4well プレートに配置し、インキュベーター(37℃、5%CO2)内に静置し、印加電圧40V、印加周波数1Hz、1回の印加時間2ms、の条件で、120分間EPS処理を行った。
【0111】
<<RT-PCR解析>>
EPS処理後、直ちに培地を除去し、ウェルを、37℃のPBSで、2回洗浄し、RNeasy Micro Kit (Qiagen)を用い、Total RNA の抽出を行った。
抽出したRNAを鋳型とし、Affinity Script QPCR cDNA synthesis kit (Agilent)を用いてcDNAを合成した。
【0112】
次に、合成cDNAを鋳型として、Emerald Amp PCR Master(TAKARA)を用いて、PCRを行った。
全てのPCR反応は、初期変性、95℃で5分を行った後に、熱変性、95℃45秒;アニーリング、50-55℃、45秒;伸長反応、72℃1分を、43-45サイクル行い、72℃、10分間で伸長反応を終了した。
【0113】
PCR反応は、特異的遺伝子プライマー(64遺伝子)をデザインし、RT-PCR反応に用いた。
本実験で使用した特異的プライマーのデザインの詳細を表1及び表2に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
評価例2
<実施例1及び実施例2で得られた固液分離液体によるマイオカイン生成の確認>
<<ヒノキCE又はスギCEと運動の併用によるマイオカイン分泌促進遺伝子の同定>>
マイオカインを分泌する運動様細胞であるC2C12細胞に、ヒノキCE、スギCE、PBS(コントロール)を添加し、様々なマイオカインの遺伝子発現を、上記したRT-PCR法を用いて検討した。
また、0分、60分、120分で、EPS処理を行った後、RNAを抽出して、RT-PCR解析を行った。
【0117】
今回の試験では、サンプルの添加濃度を1mMと2mMで行ったが、多くのサイトカインにおいて、1mMよりも2mMの濃度で遺伝子発現の増加が観察されたので、本研究では2mMの濃度でのデータを示す。
結果を、
図4~8に示す。
図4~8中、有意差があったものに、「*」又は「**」を付した上で、棒グラフの棒を楕円で囲んで示した。
【0118】
<<インターロイキン-6(Interleukin-6:IL-6)>>
C2C12細胞に、ヒノキCE、又は、スギCEを添加したところ、
図4に示したように、PBSと比較し、IL-6の遺伝子発現の増加が確認された。該液体を添加直後(0分)において、10%スギCEで、IL-6の高い遺伝子発現と、10%ヒノキCEで、有意の遺伝子発現が確認された(
図4)。
また、両者の液体を添加後60分では、IL-6の遺伝子発現量に影響は見られなかったが、添加後120分では、5%及び10%ヒノキCEで、有意(5%)なIL-6の遺伝子発現量の増加が見られた(
図4)。
【0119】
IL-6は、様々な作用を持つサイトカインとして知られているが、従来、IL-6は、運動後に血液中に上昇することから、「強度の運動により,骨格筋が炎症して免疫細胞から分泌され血液中のIL-6の上昇が起こる」と考えられていた。
【0120】
しかし、近年での様々な検証により、運動ではIL-6 mRNAの発現は増加しないこと等から、血液中のIL-6のレベルの上昇は、骨格筋細胞からの分泌によることが示唆された(Ullum H, Haahr PM, Diamant M, Palmo J, Halkjaer-Kristensen J, Pedersen BK. Bicycle exercise enhances plasma IL-6 but does not change IL-1 alpha, IL-1 beta, IL-6, or TNF-alpha pre-mRNA in BMNC. J Appl Physiol, 77(1):93-7,1985.)。
【0121】
また、最近の培養技術の進歩により、IL-6は、収縮を引き金として骨格筋細胞から分泌されているマイオカインであることが明らかにされた(Nedachi T, Fujita H, Kanzaki M. Contractile C2C12 myotube model for studying exercise-inducible responses in skeletal muscle. Am J Physiol Endocrinol Metab,5(5):E1191-204, 2008.)。
【0122】
IL-6の生理的作用は、骨格筋の糖取り込みの促進をはじめ、インスリン分泌促進作用、全身の糖代謝、筋形成の促進や抗炎症作用(Munoz-Canoves P, Scheele C, Pedersen BK, Serrano AL. Interleukin-6 myokinesignaling in skeletal muscle: a double-edged sword FEBS J, 280(17):4131-48,2013.)、筋衛生細胞の機能維持、更には、脂肪組織の分解等、様々な作用が報告されている。
【0123】
上記結果から(
図4から)、ヒノキCE、スギCEは、IL-6の分泌を促すことから、IL-6が有する上記何れの生理作用をも有することが示唆された。
すなわち、ヒノキCEは、IL-6の分泌を促すことから、骨格筋の抗炎症剤、骨格筋の形成促進剤、骨格筋の損傷修復剤であること(としての機能を有すること)が示唆された。
【0124】
<<Recombinant Murine IP-2(CXCL2)>>
CXCL2は、炎症性サイトカインの1つであり、白血球が傷害部位に集まるための走化性サイトカインである。また、CXCL2は、強力な好中球化学誘引物質でもあり、創傷治癒、癌転移、および血管新生などの多くの免疫応答に関与することが知られている(Al-Alwan LA, Chang Y, Mogas A, Halayko AJ, Baglole CJ, Martin JG, Rousseau S, Eidelman DH, Hamid Q. Differential roles of CXCL2 and CXCL3 and their receptors in regulating normal and asthmatic airway smooth muscle cell migration. J Immunol, 191(5):2731-2741, 2013.)。
【0125】
図5から、C2C12細胞へのヒノキCEの添加により、120分後で、PBSと比較し、CXCL2の有意な増加が確認された。
【0126】
一方、スギCEでも、60分、120分で増加傾向が見られたものの、濃度依存的な増加ではないことや標準偏差にばらつきが見られた。
上記結果を考察すると、ヒノキCEの添加により、CXCL2が刺激されることは間違いないことから、運動後にヒノキCEを使用することにより、免疫応答に何らかの良い影響を及ぼすことが示唆された。
【0127】
ヒノキCEは、CXCL2の分泌を促すことから、CXCL2が有する上記何れの生理作用をも有することが示唆された。
すなわち、ヒノキCEは、CXCL2の分泌を促すことから、運動後の免疫低下抑制剤であること(としての機能を有すること)が示唆された。
【0128】
適度な運動は免疫機能を上げることが知られているが、強度の高い運動は免疫を下げることが知られている。このことから、運動後の免疫低下の抑制・防止として、ヒノキCE(の成分)が含まれる例えばマッサージクリームを使用した施術等により、免疫改善に繋がることが示唆された。
【0129】
<<Recombinant Murine IP-10(CXCL10)>>
CXCL10も、CXCL2と同様に、免疫、炎症、造血作用、血管新生、更には、抗ガン活性を示すサイトカインである(Sgadari, C., A. L. Angiolillo, B. W. Cherney, S. E. Pike, J. M. Farber, L. G. Koniaris, P. Vanguri, P. R. Burd, N. Sheikh, G. Gupta, J. Teruya-Feldstein, and G. Tosato. Interferon-inducible protein-10 identified as a mediator of tumor necrosis in vivo. Proc Natl Acad Sci U S A 93: 13791-13796, 1996.)。
【0130】
また、CXCL10は、運動依存的な免疫機能を制御するマイオカインであることも示唆されているが、近年の研究では、通常の骨格筋から分泌されるマイオカインは運動の筋肉収縮に対して分泌促進するのに対し、CXCL10は、分泌抑制を示すマイオカインとされ、運動により発現が低下するmyostatinと似た作用を示すことが報告されている。
【0131】
CXCL10は、その受容体であるCXCR3に結合することにより、筋の再生で中心的な役割を担う骨格筋の幹細胞であるサテライト細胞の増殖と分化を増加させる。
更に、損傷した筋肉におけるCXCL10の発現は、サテライト細胞の増殖を増加させ、筋肉の成長を増加させる等、筋肉再生に関与することも報告されている(Tidball JG, Flores I, Welc SS, Wehling-Henricks M, Ochi. Aging of the immune system and impaired muscle regeneration: A failure of immunomodulation of adultmyogenesis. Exp Gerontol, 145:111200, 2021.)。
【0132】
図6から分かる、ヒノキCEの添加によるCXCL10発現の増加は、細胞レベルでの実験ではあるが、ヒトに置き換えたときに、ヒノキCE、スギCEは、免疫のみならず、運動で損傷した筋の微細な構造を修復することが示唆された。
【0133】
ヒノキCEは、CXCL10の分泌を促すことから、CXCL10が有する上記何れの生理作用をも有することが示唆された。
すなわち、ヒノキCEは、CXCL10の分泌を促すことから、骨格筋の損傷修復剤、運動後の免疫低下抑制剤であること(としての機能を有すること)が示唆された。
【0134】
<<Rps6kb1(RPS6KB1)>>
生物学的プロセスに関与する細胞内シグナル伝達経路の PI3K-Akt signalling pathway に、RPS6KB1を介した経路は幾つか存在し、RPS6KB1の、細胞増殖、血管新生、糖代謝等の関与が示唆されている(Pende M, Kozma SC, Jaquet M, Oorschot V, Burcelin R, Le Marchand-Brustel Y, Klumperman J, Thorens B, Thomas G. Hypoinsulinaemia, glucose intolerance and diminished beta-cell size in S6K1-deficient mice. Nature, 408(6815):994-997, 2000.)。
【0135】
また、RPS6KB1は、筋肉の肥大に関与することが報告されている一方で、筋肉のサイズではなく、筋力増加に関与することなどの報告もある(Marabita M, Baraldo M, Solagna F, Ceelen JJM, Sartori R, Nolte H, Nemazanyy I, Pyronnet S, Kruger M, Pende M, Blaauw B. S6K1 Is Required for Increasing Skeletal Muscle Force during Hypertrophy. Cell Rep. 4;17(2):501-513. 2016)。
【0136】
これらの報告から、運動とヒノキCE、スギCEの効果を考えると、効率的なトレーニングと、ヒノキCE、スギCEの使用により、特に効率的な筋肥大ためのトレーニング効果を得ることができる。
【0137】
図7から分かる通り、ヒノキCEは、RPS6KB1の分泌を促すことから、RPS6KB1が有する上記何れの生理作用をも有することが示唆された。
すなわち、ヒノキCEは、RPS6KB1の分泌を促すことから、骨格筋の形成促進剤、骨格筋の肥大剤であること(としての機能を有すること)が示唆された。
【0138】
<<Musclin(OSTN)>>
Musclin(OSTN)は、骨格筋に発現しており、生理的役割はグルコース代謝調節などが報告されていることから(Nishizawa H, Matsuda M, Yamada Y, Kawai K, Suzuki E, Makishima M, Kitamura T, Shimomura I. Musclin, a novel skeletal muscle-derived secretory factor. J Biol Chem. 7;279 (19):19391-19395. 2004.)、インスリン抵抗性を示す可能性が示唆され、比較的新しい骨格筋由来の分泌因子として知られるようになってきたマイオカインである。
【0139】
近年では、Musclin(OSTN)が、ミトコンドリアの生合成を促進し、持久力向上に寄与することも報告されている(同上の文献)。
図8から分かる通り、ヒノキCEは、Musclin(OSTN)の分泌を促すことから、Musclin(OSTN)が有する上記・下記の何れの生理作用をも有することが示唆された。
すなわち、ヒノキCEは、Musclin(OSTN)の分泌を促すことから、骨格筋の形成促進剤であること(としての機能を有すること)が示唆された。
【0140】
また、特に、ヒノキCEの生理作用は、投与後60分で最大値を示すことから(
図8)、運動してから約1時間経過した後、ヒノキCEを投与すれば、インスリン抵抗性を向上させることができるので、生活習慣病のヒトにおいても有効であると考えらた。
【0141】
評価例3
<比較例1及び比較例2で抽出して得られた液体の評価>
比較例1で得られたヒノキからの精油は、そもそも精油であり、細胞内液体でもなく水性液体でもない。かつ、それに加えて、C2C12細胞において、マイオカイン産生促進が見られなかった。
【0142】
比較例2で得られたヒノキからの液体は、そもそも、ヒノキの細胞内液体でもなく固液分離された水性液体でもない。かつ、それに加えて、C2C12細胞において、マイオカイン産生促進が見られなかった。
【0143】
評価例4
<評価例1と評価例2で評価したヒノキCEとスギCEのまとめ>
C2C12細胞にヒノキCEを添加することにより、Interleukin-6(IL-6)、Recombinant Murine IP-2(CXCL2)、Recombinant Murine IP-10(CXCL10)、Rps6kb1(RPS6KB1)、及び/又は、Musclin(OSTN)の遺伝子発現の増加が見られた(
図4~8)。
【0144】
上記した各マイオカインには、それぞれ上記した作用があることが論文等から明らかになっていることから、ヒノキCEは、C2C12細胞において、上記した何れのマイオカインをも生成するので、それら何れもが機能することによって、ヒノキCEは、骨格筋の、抗炎症剤、形成促進剤、損傷修復剤、肥大剤、及び、運動後の免疫低下抑制剤となる(として機能する)ことが明らかである。
【0145】
また、スギCEも、上記したうちの幾つかのマイオカインの産生を促進することから(
図4~8)、スギCEにも、上記した機能の何れかがあることが分かった。従って、少なくとも、ヒノキCEの含有を必須として、スギCEをも併用すれば、更に優れたマイオカイン産生促進剤となることが推認された。
【0146】
これらの結果から、運動に際して、特に運動後に、ヒノキCEが含まれるクリーム、オイル、水性液体、乳液、ジェル等を塗布することにより、骨格筋の抗炎症、骨格筋の形成促進、骨格筋の損傷修復、骨格筋の肥大、及び、運動後の免疫低下抑制が達成されることが分かった。
また、筋肉マッサージ用のクリーム又はジェルによって、上記効果の他にも、血流促進等、健康に寄与する何らかの効果がもたらされる可能性が予測された。
本発明のマイオカイン産生促進剤に含有されているヒノキの固液分離液体は、ヒノキの細胞内液をそのままの状態で含み、また、従来のヒノキ抽出物とは異なる成分組成を有する。また、低温で減圧下に固液分離され、外部から抽出媒体を混入させないので、熱分解(成分)もなく、全てヒノキ由来(天然物由来)であり、安全性が極めて高い。
従って、本発明のマイオカイン産生促進剤は、健常人にも疾患を有する人にも有用であり、特にスポーツ選手に有効であるため、体育、トレーニング(運動)、介護、医療、整体・マッサージ等の分野において広く利用されるものである。
また、医療品、医薬部外品、マッサージ用品、化粧料、入浴剤、トイレタリー等の製造・使用分野等においても広く利用されるものである。また、ヒノキやスギを伐採する林業分野、廃棄物処理分野、廃棄物有効利用分野等においても広く利用されるものである。