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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028729
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】スピーカ用音響変換器
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20250221BHJP
   H04R 1/00 20060101ALN20250221BHJP
【FI】
H04R1/02 102B
H04R1/00 310F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182071
(22)【出願日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2023133636
(32)【優先日】2023-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 真
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 寛子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真也
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AE02
5D017AE16
(57)【要約】
【課題】別体で構成される振動対象と該振動対象に振動を伝達する振動部との接合面を安定させることができるスピーカ用音響変換器を得る。
【解決手段】スピーカ用音響変換器は、フレーム部を介して前記振動対象に固定される磁気回路部と、記磁気回路部に対して振動する振動部と、前記振動対象と前記フレーム部との間に介在する支持部材と、を備え、前記支持部材は、前記振動対象と前記フレーム部との接合位置に介在する第1接合部と、前記振動対象と前記振動部との接合位置に介在する第2接合部と、前記第1接合部と前記第2接合部とを連結し、前記フレーム部に対して前記振動部を弾性支持する弾性支持部と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム部を介して振動対象に固定される磁気回路部と、
前記磁気回路部に対して振動する振動部と、
前記振動対象と前記フレーム部との間に介在する支持部材と、を備え、
前記支持部材は、
前記振動対象と前記フレーム部との接合位置に介在する第1接合部と、
前記振動対象と前記振動部との接合位置に介在する第2接合部と、
前記第1接合部と前記第2接合部とを連結し、前記フレーム部に対して前記振動部を弾性支持する弾性支持部と、
を有するスピーカ用音響変換器。
【請求項2】
前記弾性支持部は、前記振動部の振動方向を板厚方向とする板状に形成され、板厚方向に貫通する開口部を有する、
請求項1に記載のスピーカ用音響変換器。
【請求項3】
前記支持部材は、前記振動対象との前記接合位置において、前記第1接合部と前記第2接合部とで接合面の位置が前記振動部の振動方向に異なる、
請求項1に記載のスピーカ用音響変換器。
【請求項4】
前記支持部材は、前記振動対象との前記接合位置において、前記第2接合部の接合面が、前記第1接合部の接合面に対して前記振動方向に突出している、
請求項3に記載のスピーカ用音響変換器。
【請求項5】
前記振動対象は曲面をなし、
前記支持部材は、前記第1接合部と前記第2接合部において、前記接合面の位置差分が、前記振動対象の取り付け面の位置差分よりも大きい、
請求項3に記載のスピーカ用音響変換器。
【請求項6】
前記振動部は、前記磁気回路部が形成する磁気ギャップに一端が挿入され、前記第2接合部を介して前記振動対象に他端が接合されるボイスコイルを含み、
前記第2接合部の径は、前記ボイスコイルの径よりも大きい、
請求項1に記載のスピーカ用音響変換器。
【請求項7】
前記第1接合部及び前記第2接合部は、前記振動対象との接合面の縁から一方向に延びる少なくとも一つの溝部を有する、
請求項1に記載のスピーカ用音響変換器。
【請求項8】
前記第1接合部及び前記第2接合部は、前記振動対象との接合面の縁から複数方向に延びる複数の前記溝部を有する、
請求項7に記載のスピーカ用音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピーカ用音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された自動車用ガラス振動型スピーカは、自動車のフロントガラスを振動対象として使用するように構成されている。この自動車用ガラス振動型スピーカでは、両面接着部によって全面がフロントガラスに接着された固定部に、ゴム性のダンパーを介してマグネット等が収容されたフレームが取り付けられている。また、ダンパーの内側でボビンに巻回されたボイスコイルが固定部に固定される。
【0003】
特許文献2に記載された車両用平板型スピーカは、車両のピラーを振動対象として使用するように構成されている。この車両用平板型スピーカでは、磁石部を収容するフレームに複数の突出部が設けられ、複数の突出部の内側に振動部が配置される。また、複数の突出部と振動部とが、接着材を介して、車両のピラーに接着される。
【0004】
上記の特許文献1及び特許文献2のように、別体で構成される振動対象に音響変換器(スピーカ)を取り付ける場合、磁気回路を保持するフレーム部とボイスコイル等を備える振動部とが接合面を介して振動対象に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平04-126485号公報
【特許文献2】特許5758021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、振動対象の取り付け面の形状は、振動対象として如何なる対象を採用するかによって異なることが想定されるため、例えば、取り付け面が曲面などである場合にも、接合面を安定させることが求められる。特に、フレーム部の内側に配置される振動部の接合面は、振動対象の取り付け面が平面ではない場合、フレーム部の接合面と比較して、安定させることが難しい。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮してなされたものであり、別体で構成される振動対象と該振動対象に振動を伝達する振動部との接合面を安定させることができるスピーカ用音響変換器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様に係るスピーカ用音響変換器は、フレーム部を介して前記振動対象に固定される磁気回路部と、記磁気回路部に対して振動する振動部と、前記振動対象と前記フレーム部との間に介在する支持部材と、を備え、前記支持部材は、前記振動対象と前記フレーム部との接合位置に介在する第1接合部と、前記振動対象と前記振動部との接合位置に介在する第2接合部と、前記第1接合部と前記第2接合部とを連結し、前記フレーム部に対して前記振動部を弾性支持する弾性支持部と、を有する。
【0009】
本開示の第1の態様に係るスピーカ用音響変換器では、支持部材の弾性支持部が取付面の形状に沿って変形すると、弾性支持部の変形に追従して、第1接合部及び第2接合部の位置が変位する。これにより、第2接合部も、取付面の形状に合わせて最適な位置に配置されるため、第2接合部の接合面を安定させることができる。その結果、別体で構成される振動対象と該振動対象に振動を伝達する振動部との接合面を安定させることができる。
【0010】
本開示の第2の態様に係るスピーカ用音響変換器は、第1の態様に記載の構成において、前記弾性支持部は、前記振動部の振動方向を板厚方向とする板状に形成され、板厚方向に貫通する開口部を有する。
【0011】
本開示の第2の態様に係るスピーカ用音響変換器では、開口部を設けることにより、弾性支持部を柔軟にし、振動方向における弾性を高めることができる。
【0012】
本開示の第3の態様に係る音響変換器は、第1の態様に記載の構成において、前記支持部材は、前記振動対象との前記接合位置において、前記第1接合部と前記第2接合部とで接合面の位置が前記振動部の振動方向に異なる。
【0013】
本開示の第3の態様に係るスピーカ用音響変換器では、取付面が曲面である場合に、一方の接合部の接合面を他方の接合部の接合面よりも振動方向に突出させることで、一方の接合部を他方の接合部よりも先に振動対象に接触させることができる。これにより、取付面の曲面形状に合わせて先に接触した接合部に作用する押圧荷重を効果的に高めることができる。
【0014】
本開示の第4の態様に係るスピーカ用音響変換器は、第3の態様に記載の構成において、前記支持部材は、前記振動対象との前記接合位置において、前記第2接合部の接合面が、前記第1接合部の接合面に対して前記振動方向に突出している。
【0015】
本開示の第4の態様に係るスピーカ用音響変換器では、取付面が凹曲面である場合に、第2接合部の接合面が第1接合部の接合面よりも先に取付面に接触する。これにより、振動対象と振動部との接合位置の押圧荷重を効果的に高めることができる。
【0016】
本開示の第5の態様に係るスピーカ用音響変換器は、第3の態様に記載の構成において、前記振動対象は曲面をなし、前記支持部材は、前記第1接合部と前記第2接合部において、前記接合面の位置差分が、前記振動対象の取り付け面の位置差分よりも大きい。
【0017】
本開示の第5の態様に係るスピーカ用音響変換器では、取付面が曲面である場合に、接合面の突出量を振動対象の曲面の突出量よりも大きくすることができるため、一方の接合部を他方の接合部よりも先に振動対象に接触させることができる。これにより、取付面の曲率に合わせて、先に接触した接合部に作用する押圧荷重を効果的に高めることができる。
【0018】
本開示の第6の態様に係るスピーカ用音響変換器は、第1の態様に記載の構成において、前記磁気回路部が形成する磁気ギャップに一端が挿入され、前記第2接合部を介して前記振動対象に他端が接合されるボイスコイルを含み、前記第2接合部の径は、前記ボイスコイルの径よりも大きい。
【0019】
本開示の第6の態様に係るスピーカ用音響変換器では、第2接合部を振動対象に接着させる際に、駆動部のボイスコイルから作用する押圧荷重を第2接合部の広い面積で受けて、振動対象との接合面を安定させることができる。
【0020】
本開示の第7の態様に係るスピーカ用音響変換器は、第1の態様に記載の構成において、前記第1接合部及び前記第2接合部は、前記振動対象との接合面の縁から一方向に延びる少なくとも一つの溝部を有する。
【0021】
本開示の第7の態様に係るスピーカ用音響変換器では、接合面に侵入した空気を溝部から逃がすことができ、接合面に空気だまりが発生することが抑制される。
【0022】
本開示の第8の態様に係るスピーカ用音響変換器は、第7の態様に記載の構成において、前記第1接合部及び前記第2接合部は、前記振動対象との接合面の縁から複数方向に延びる複数の前記溝部を有する。
【0023】
本開示の第8の態様に係るスピーカ用音響変換器では、接合面に侵入した空気を複数の方向延びる複数の溝部に逃がすことができ、空気だまりの発生を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本開示に係るスピーカ用音響変換器によれば、別体で構成される振動対象と該振動対象に振動を伝達する振動部との接合面を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係るスピーカ用音響変換器を備える車両を示す。
図2】第1実施形態に係るスピーカ用音響変換器の縦断面図であって、図1のII-II線に沿って切断した状態を示す。
図3】第1実施形態に係るスピーカ用音響変換器の側面図である。
図4】第1実施形態に係るスピーカ用音響変換器図3の矢印A方向から見た状態を示す。
図5】第1実施形態に係るスピーカ用音響変換器を図3の矢印B方向から見た状態を示す。
図6】第1実施形態に係るスピーカ用音響変換器を図3の矢印C方向から見た状態を示す。
図7】第1実施形態に係る押し当て部の縦断面図であって、図3のVII-VII線に沿って切断した状態を示す。
図8】(A)は、第1実施形態に係る支持部材を一部拡大して示す側面図であり、(B)は、支持部材を一部拡大して示す平面図である。
図9】支持部材が振動対象に取り付けられた状態を拡大して示す側面図である。
図10】(A)は、第2実施形態に係るスピーカ用音響変換器を図3の矢印A方向から見た状態を示しており、(B)は、第2実施形態に係るスピーカ用音響変換器を図3の矢印C方向から見た状態を示している。
図11】(A)は、第3実施形態に係るスピーカ用音響変換器を図3の矢印C方向から見た状態を示しており、(B)は、第3実施形態に係るスピーカ用音響変換器を図3の側面図である。
図12】第4実施形態に係るスピーカ用音響変換器を図3の矢印A方向から見た状態であって、(A)は、弾性押圧部の変形前の状態を示しており、(B)は、弾性押圧部の変形後の状態を示している。
図13】(A)~(C)は、支持部材の変形例を説明する図である。
図14】は、支持部材の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照し、本開示のスピーカ用音響変換器(以下、単に「音響変換器」ともいう。)に係る複数の実施形態及び変形例について説明する。本開示に係る音響変換器は、別体で構成された板状の振動対象に取り付けることで、当該振動対象を振動させることにより、人間の可聴周波数帯域の音を再生することができる。以下に説明する各実施形態及び変形例では、一例として、板状のガラスを振動対象としている。
【0027】
なお、通常、板状のガラスは、非弾性率に優れているが、紙などと比較すると比重が重い。このため、音響変換器のフレームがガラス同様に非弾性率に優れた構造である場合、音響変換器の振動部と磁気回路部との間で互いに発生する振動が抑制され、再生可能な周波数帯域が高くなる。
【0028】
これに対して、本開示に係る音響変換器は、音響変換器のフレームの弾性を改良した構造を備える。これにより、例えば、板状のガラスを振動対象として利用する構造において、周波数帯域を任意に調整し、振動対象を振動させることができる。例えば、本開示に係る構成では800[Hz]~20[kHz]の周波数帯域で振動対象を振動することが可能である。
【0029】
<第1実施形態>
図1図9を参照して、第1実施形態に係る音響変換器10Aについて説明する。図1に示されるように、音響変換器10Aは、例えば、車両12のガラスルーフ14に取り付けることができる。振動対象としてのガラスルーフ14は、板状のガラスで構成されており、車両12の天井の一部を構成する。音響変換器10Aは、車両12の室内側からガラスルーフ14に取り付けられている。ガラスルーフ14は、車両12の外側に向かって凸をなすように緩やかに湾曲しており、車両12の室内側に配置された音響変換器10Aに対して凹曲面をなしている。
【0030】
図2は、ガラスルーフ14に取り付けられた音響変換器10Aの断面図である。この図に示されるように、音響変換器10Aは、ガラスルーフ14に振動を伝達する駆動ユニットとして、磁気回路部20と振動部30を有している。磁気回路部20は、弾性変形するフレーム部50を介してガラスルーフ14に取り付けられている。振動部30は、フレーム部50に支持された支持部材60Aを介してガラスルーフ14に取り付けられている。
【0031】
(磁気回路部)
磁気回路部20は、有底筒状をなすポット型のヨーク21と、ヨーク21の内部に収容されたマグネット22とポールピース23とを有する。マグネット22は、ヨーク21の底面に取り付けられている。ポールピース23は、マグネット22に取り付けられている。マグネット22を挟んでヨーク21とポールピース23が配置されることにより、ヨーク21とポールピース23の間に磁気ギャップが発生する。
【0032】
(振動部)
振動部30は、導電性を有する線材からなるボイスコイル31と、ボイスコイル31が巻き付けられた筒状のボビン32とを有する。ボイスコイル31は、螺旋状に巻き付けられることにより筒状に形成されている。
【0033】
ボイスコイル31は、音響変換器10Aの振動方向を軸方向とする姿勢で配置され、軸方向の一端が磁気回路部20の形成する磁気ギャップに挿入されている。ボイスコイル31の両端は、図示しないリード線を介して駆動電流を供給する外部配線に接続されている。これにより、ボイスコイル31に駆動電流が供給されると、磁気回路部20と振動部30が振動する。
【0034】
ボビン32は、軸方向の一端にボイスコイル31が固定されており、軸方向の他端がボイスコイル31から突出している。ボイスコイル31から突出した他端には、押し当て部40が装着されている。
【0035】
(押し当て部)
押し当て部40は、振動部30に装着された本体部41と、当該本体部41の外周面から突出した鍔部42とを有している。押し当て部40は、例えば、樹脂成形品で構成されており、本体部41と鍔部42とが一体に形成されている。
【0036】
本体部41は、振動部30側に開口した有底筒状に形成されている。本体部41の内部には、ボイスコイル31から突出したボビン32の軸方向の他端が固定されている。なお、ボビン32を省略し、ボイスコイル31の軸方向の他端が本体部41に直接固定される構成としてもよい。
【0037】
本体部41において、ガラスルーフ14との対向面は、接合面S1とされている。接合面S1には、後述する支持部材60Aの一部が固定される。押し当て部40は、本体部41の接合面S1が、支持部材60Aを介してガラスルーフ14に接合される。
【0038】
鍔部42は、本体部41外周面から径方向外側に突出している(図3及び4参照)。鍔部42は、本体部41の軸方向から見ると全体として環状に形成されている。また、鍔部42は、環状の外周端の一部から片持ち梁状に延びるベロ部43を有している。ベロ部43は、本体部41の径方向に沿って一対の状態で設けられている。
【0039】
図4には、振動方向に沿って磁気回路部20側から見た音響変換器10Aの外観が示されている。また図5には、音響変換器10Aを側方から見た外観が示されている。図4及び図5に示されるように、押し当て部40に設けられた一対のベロ部43は、フレーム部50の幅方向の両側から突出して設けられることにより、フレーム部50の外側に露出している。
【0040】
音響変換器10Aの振動部30をガラスルーフ14に取り付ける際は、振動方向に沿って鍔部42を押圧することで、押し当て部40をガラスルーフ14に押し当てることができる。本実施形態では、押圧方向から見てフレーム部50の外側に露出したベロ部43を押圧すればよい。これにより、支持部材60Aを介して押し当て部40をガラスルーフ14に接合する際に、押し当て部40の接合面S1を簡単かつ十分に圧着させることができる。
【0041】
図7には、ベロ部43を通る押し当て部40の断面が示されている。図7に示されるように、本体部41の接合面S1は、鍔部42に対してガラスルーフ14側(振動対象側)に突出している。このため、鍔部42を押圧した際に本体部41の接合面S1に作用する押圧荷重を高めることができる。
【0042】
また、接合面S1の板厚T1は、鍔部42の板厚T2よりも厚く設定されている。このため、鍔部42を押圧した際に本体部41が変形しにくいため、本体部41に固定されたボビン32及びボイスコイル31の変形を抑制することができる。
【0043】
(フレーム部)
図3は、音響変換器10Aの側面図であり、フレーム部50を側方から見た外観が示されている。図3に示されるように、フレーム部50は、磁気回路部20を保持する保持部51と、保持部51から延びてガラスルーフ14に固定される一対の延在部52を有している。
【0044】
保持部51は、軸方向に貫通する筒状に形成されている。保持部51は、軸方向の一方側に設けられる開口端が磁気回路部20の受け口となっており、当該開口端からポット型のヨーク21が挿入される。また、保持部51の軸方向の中間部には、径方向内側に張り出した段差部511が形成されている(図2参照)。段差部511には、保持部51の内側に挿入されたポット型のヨーク21の開口端が固定されている。
【0045】
保持部51は、上記のような筒状の形態により、磁気回路部20の保持状態において、磁気回路部20の少なくとも一部を露出させている。本実施形態では、ポット型のヨーク21の底部が保持部51の外側に露出している。このため、磁気回路部20に発生する熱を効率良く外部に放出することができる。
【0046】
延在部52は、ガラスルーフ14に固定される固定部53と、当該固定部53と保持部51との間に設けられた弾性部54とを有している。
【0047】
固定部53は、音響変換器10Aの振動方向を板厚方向とする板状に形成されており、支持部材60Aを介してガラスルーフ14に固定される。
【0048】
弾性部54は、保持部51の外周面から径方向外側に延びる板状の水平部541と、水平部541の端部から固定部53に向かって斜めに延びる板状の傾斜部542とを有している。弾性部54は、水平部541と傾斜部542によって湾曲した形態をなすことにより、磁気回路部20の振動方向に対する弾性が高められている。即ち、フレーム部50の保持部51は、弾性部54によって弾性支持されている。このため、フレーム部50は、振動方向の弾性を有する構造となり、振動部30と磁気回路部20との間で互いに発生する振動が抑制されず、振動の伝達ロスが少なくなる。その結果、ガラスへの振動の伝達効率が向上するため、再生可能な周波数帯域を広くすることができる。
【0049】
また、弾性部54は、振動部30の振動方向から見て、固定部53とガラスルーフ14とを接合する接合部(第1接合部61)と、振動部30とガラスルーフ14とを接合する接合部(第2接合部62)との間に配置されている。このため、振動対象であるガラスルーフ14と接合部との間に弾性体が介在しないため、振動の伝達ロスをより一層少なくすることができる。
【0050】
また、図4及び図5に示されるように、弾性部54は、板厚方向に貫通する開口部543を有する。このため、開口部を有しない板状の構成と比較して、弾性部54が柔軟になり弾性をより一層高めることができる。
【0051】
保持部51は、弾性部54に支持されることにより、固定部53に対して振動部30の振動方向に突出して設けられている。このため、振動部30と磁気回路部20で互いに発生する振動のストロークを確保することができる。
また、保持部51から一対の弾性部54が延びており、第1延在部52Aの弾性部(第1弾性部)、保持部51、第2延在部52Bの弾性部(第2弾性部)がこの順で接続されることによりフレーム部50が形成されている。一例として、本実施形態では、一対の弾性部54と保持部51によってアーチ状をなしている。このような形態では、フレーム部を箱状のエンクロージャで構成する場合と比較して、外殻を小型化させることができる。また、振動の中心となる保持部51に対して弾性部54が対称に配置される。このため、磁気回路部20の振動方向のブレを抑制し、ガラスルーフ14に対する振動の伝達効率を高めることができるという利点もある。
【0052】
上記の延在部52は、保持部51から第1方向に沿って延びる第1延在部52Aと、第1方向と異なる第2方向に沿って延びる第2延在部52Bとによって一対をなしている。フレーム部50は、一対の延在部52A,52Bと保持部51とを接続することにより内側に開口部55を形成している。本実施形態では、更に、第1延在部52A、保持部51、第2延在部52Bとでアーチ状をなしている。
【0053】
図3に示されるように、開口部55は、フレーム部50の側方に形成され、保持部51と押し当て部40の鍔部42との間の空間に連通している。
【0054】
なお、第1延在部52Aには、固定部53に端子台74が設けられている。端子台74には、ボイスコイル31から延びるリード線(不図示)と、外部配線が接続される。ボイスコイル31から延びるリード線は、弾性部54に形成された開口部543を通って端子台74に接続される。
【0055】
(支持部材)
図2及び図6に示されるように、支持部材60Aは、振動対象としてのガラスルーフ14とフレーム部50との間に介在する部材である。支持部材60Aは、ガラスルーフ14とフレーム部50との接合位置に介在する第1接合部61と、第1接合部61の内側でガラスルーフ14と振動部30との接合位置に介在する第2接合部62と、第1接合部61と第2接合部62とを連結する弾性支持部63と、を有している。
【0056】
一例として、支持部材60Aは、振動方向を板厚方向とする扁平な板状に形成され、振動方向から見て長尺な矩形状に形成されている。支持部材60Aは、例えば、樹脂成形品で構成されており、第1接合部61、第2接合部62及び弾性支持部63が一体に形成されている。
【0057】
第1接合部61は、音響変換器10Aをガラスルーフ14に取り付けた状態において、一対の延在部52の固定部53とガラスルーフ14との間に介在する。第1接合部61は、板厚方向一方側に配置される側面が固定部53に固定されており、板厚方向他方側に配置される側面S2が、接着部材68を介してガラスルーフ14に固定されている。接着部材68は、例えば、両面テープなどで構成される。
【0058】
第2接合部62は、音響変換器をガラスルーフ14に取り付けた状態において、振動部30に装着された押し当て部40とガラスルーフ14の間に介在する。第2接合部62は、振動方向から見て円形状に形成されており、押し当て部40において有底筒状をなす本体部41の接合面S1(底面)と同等の大きさを有している。
【0059】
第2接合部62は、板厚方向一方側に配置される側面が押し当て部40の接合面S1に接合されており、板厚方向他方側に配置される側面S3が、接着部材68を介してガラスルーフ14に固定されている。
【0060】
なお、ガラスルーフ14に固定される側面S3は、矩形状の中央領域S3aを有しておいる。中央領域S3aは、側面S3の他の領域に対して振動方向に突出している。このため、側面S3は、中央領域S3aが、接着部材68を介してガラスルーフ14に固定されている。
【0061】
図8(B)は、支持部材を一部拡大して示す平面図である。図8(B)に示されるように、第2接合部62は、押し当て部40の接合面S1(底面)と同等の大きさを有しており、第2接合部62の径φ1は、ボイスコイル31の径(符号省略)よりも大きい。このため、第2接合部62をガラスルーフ14に接着させる際は、振動部30のボイスコイル31及びボビン32から作用する押圧荷重を第2接合部62の広い面積で受けて、ガラスルーフ14と接合面との接着を安定させることができる。
【0062】
一方で、第2接合部62の側面S3の中央領域S3aの径φ2は、第2接合部62の径φ1よりも小さい。また、本実施形態では、さらに、中央領域S3aの径φ2は、ボイスコイルの径(符号省略)よりも小さくなるように設定されている。このため、第2接合部62とガラスルーフ14との接合面積が小さくなり、振動部30からガラスルーフ14へ伝達される振動の伝達効率を向上させることができる。
【0063】
このように、第2接合部62は、振動部30との接触面積を大きくし、ガラスルーフ14との接触面積を小さくすることで、取付時の作業性の向上と、使用時の振動伝達性の向上とを図ることができる。
【0064】
一方、弾性支持部63は、扁平な帯状に延び、第1接合部61と第2接合部62とを連結している。この弾性支持部63は、実質的には、フレーム部50と、フレーム部50の内側に配置される振動部30とを連結していることになる。このため、振動部30は、弾性支持部63によって径方向の移動が規制される。また、振動部30は、弾性支持部63によって、フレーム部50に対する振動方向の可動が許可されるように弾性支持されている。
【0065】
即ち、支持部材60Aによって、フレーム部50に対して振動部30の位置が適切に保たれる。これにより、振動部30は、狭小な磁気ギャップの中で、磁気回路部20に接触せずに振動方向に可動することができる。このような支持部材は、振動対象とフレームとが一体に構成された公知の音響変換器では、ダンパと称して設けられている。ダンパは、スパイダとも称される。
【0066】
一般的に、振動対象と一体に構成される音響変換器では、振動部が、波形のコルゲーションが形成された板状のダンパを介してフレーム部に弾性支持されている。また、ダンパは、振動対象と振動部との間に配置され、フレーム部に内包されることが多い。
【0067】
これに対して、本実施形態に係る音響変換器10Aでは、フレーム部50とガラスルーフ14との間に配置される支持部材60Aが、ダンパとして機能する構造となっている。このため、フレーム部50にダンパを内包する構造と比較して、フレーム部50を小型化させることができる。特に、フレーム部50の外殻の高さを抑えることができ、ガラスルーフ14からの突出量が小さくなるという利点がある。
【0068】
また、支持部材60Aは、フレーム部50とガラスルーフ14との間に配置されることにより、ガラスルーフ14と振動部30との接合面を安定させることができる。即ち、振動部30とガラスルーフ14との接合位置(第2接合部62)は、フレーム部50とガラスルーフ14との接合位置(第1接合部61)よりもフレーム部50の内側に配置されるため、作業が容易ではなく、接合面を安定させることが難しい。特に、ガラスルーフ14のように、取り付け面が曲面である場合、接合面の安定は、より一層困難になる。
【0069】
しかし、本実施形態では、弾性支持部63が取付面の形状に沿って変形すると、弾性支持部63の変形に追従して、第1接合部61及び第2接合部62の位置が変位する。これにより、フレーム部50の内側に配置される第2接合部62も、取付面の形状に合わせて最適な位置に配置されるため、第2接合部62の接合面を安定させることができる。
【0070】
また例えば、本実施形態のように、取付面が凹曲面の場合、平面への設置と比較して、第1接合部61間の直線距離が小さくなる。この場合、支持部材60Aが凹曲面側に凸となるように弾性支持部63が撓み、第2接合部62の接合面を安定させることができる。
取付面が凸曲面の場合は、その逆となり、支持部材60Aが凸曲面側に凹となるように弾性支持部63が撓み、第2接合部62の接合面を安定させることができる。
【0071】
本実施形態では、弾性支持部63は、振動部30の振動方向を板厚方向とする板状に形成され、板厚方向に貫通する開口部64を有している。この開口部64により、弾性支持部63を柔軟にし、振動方向における弾性が一層高められている。
【0072】
図8(A)は、支持部材60Aを一部拡大して示す側面図である。図8(A)に示されるように、支持部材60Aは、第1接合部61の板厚T3と第2接合部62の板厚T4が異なる。このため、支持部材60Aは、ガラスルーフ14との接合位置において、第1接合部61の接合面(側面S2)の位置D1と、第2接合部62の接合面(側面S3の中央領域S3a)の位置D2が振動方向に異なるように構成されている。
【0073】
本実施形態では、第2接合部62の板厚T4が第1接合部61の板厚T3よりも厚い。従って、第2接合部62の接合面(中央領域S3a)が第1接合部61の接合面(側面S2)よりも振動方向に突出している。このため、ガラスルーフ14の凹曲面に音響変換器10Aを取り付ける際に、第1接合部61よりも先に第2接合部62を取付面に接触させることができ、第2接合部62(振動部30)に作用する押圧荷重を高めることができる。これにより、凹曲面への音響変換器の接合状態を安定させることができる。
【0074】
図8(A)には、第1接合部61と第2接合部62において、ガラスルーフ14との接合面の位置差分Δd1が示されている。また、図9には、第1接合部61と第2接合部62におけるガラスルーフ14の取り付け面の位置差分Δd2が示されている。図8(A)及び図9に示されるように、支持部材60Aは、第1接合部61と第2接合部62において、接合面の位置差分Δd1が、ガラスルーフ14の取り付け面の位置差分Δd2よりも大きく設定されている。このため、接合面の突出量(Δd1)がガラスルーフ14の曲面の突出量(Δd2)よりも大きくなる。このため、第1接合部61よりも先に第2接合部62を取付面に接触させることができ、ガラスルーフ14の曲率に合わせて第2接合部62(振動部30)に作用する押圧荷重を高めることができる。
【0075】
なお、第1接合部61及び第2接合部62の接合面の位置は、例えば、接合部にエンボス加工等を施すことにより、板厚を変えずに調整してもよい。
【0076】
図8(B)に示されるように、第1接合部61及び第2接合部62には、ガラスルーフ14との接合面の縁から一方向に延びる少なくとも一つの溝部65Aを有する。これにより、音響変換器10Aをガラスルーフ14に取り付ける際に、接合面に侵入した空気を溝部から逃がすことができ、接合面に空気だまりが発生することが抑制される。
【0077】
本実施形態では、溝部65Aは、互いに異なる方向に延びる第1溝部65Aa1と第2溝部65Aa2とが交差して設けられている。第1溝部65Aa1と第2溝部65Aa2は、それぞれが、接合面を横断している。これにより、接合面に侵入した空気を複数の方向延びる複数の溝部に逃がすことができ、空気だまりの発生をより効果的に抑制することができる。
【0078】
(作用並びに効果)
次に、第1実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0079】
第1実施形態に係る音響変換器10Aは、フレーム部50を介してガラスルーフ14に固定される磁気回路部20と、磁気回路部20が形成する磁気ギャップに挿入されることにより、磁気回路部20に対して振動する振動部30を備え、振動部30には、押し当て部40が装着されている。
【0080】
ここで、押し当て部40には、ガラスルーフ14に接合される接合面S1を有する本体部41と、該本体部41の外周面から突出した鍔部42とを有している。押し当て部40は、鍔部42を押圧することにより、本体部41の接合面S1をガラスルーフ14に押し当てることができる。このため、別体で構成されるガラスルーフ14に、振動部30を十分に圧着させることができる。
【0081】
また、本体部41の接合面S1は、鍔部42に対してガラスルーフ14側に突出している。このため、鍔部42を押圧した際に、鍔部42より先に本体部41の接合面S1をガラスルーフ14に押し当てることができる。
【0082】
さらに、図7に示されるように、本体部41の接合面S1の板厚T1は、鍔部42の板厚T2より厚い構成となっている。このため、鍔部42を押圧した際に本体部41が変形しにくいため、本体部41に固定されたボビン32及びボイスコイル31の変形を抑制することができる。
【0083】
本実施形態では、図4に示されるように、押し当て部40は、鍔部42から片持ち梁状に延びるベロ部43が設けられており、当該ベロ部43は、鍔部42の押圧方向から見てフレーム部50の外側に露出している。このため、押し当て部40をガラスルーフ14に押し当てる際に、押圧方向から見てフレーム部50の外側に露出したベロ部43を押圧すればよい。これにより、押し当て部40をガラスルーフ14に接合する際に、押し当て部40の接合面S1を簡単かつ十分に圧着させることができる。
【0084】
本実施形態では、フレーム部50は、磁気回路部20を保持する保持部51と、ガラスルーフ14に固定される固定部53と、該保持部51と固定部53との間に設けられ、保持部51を弾性支持する弾性部54と、を有している。これにより、フレーム部50は、振動方向の弾性を有する構造となり、その結果、振動部30と磁気回路部20との間で互いに発生する振動が抑制されず、ガラスへの振動の伝達効率が向上するため、再生可能な周波数帯域を広くすることができる。
【0085】
具体的に、本実施形態では、ガラスルーフ14での再生可能な周波数帯域が、800[Hz]~20[kHz]に設定されている。
【0086】
また、本実施形態では、フレーム部50の保持部51は、弾性部54に支持されることにより、固定部53に対して振動部30の振動方向に突出して設けられている。これにより、振動部30と磁気回路部20で互いに発生する振動のストロークを確保することができる。
【0087】
また、本実施形態では、第1延在部52Aの弾性部(第1弾性部)、保持部51、第2延在部52Bの弾性部(第2弾性部)がこの順で接続されることによりフレーム部50が形成されている。このため、フレーム部50を箱状のエンクロージャで構成する場合と比較して、外殻を小型化させることができる。また、振動の中心となる保持部51に対して弾性部54が対称に配置される。このため、磁気回路部20の振動方向のブレを抑制し、ガラスルーフ14に対する振動の伝達効率を高めることができる。
【0088】
また、弾性部54は、保持部51から固定部53へ伸びる板状に形成され、板厚方向に貫通する開口部543を有している。当該開口部543によって、開口部を有しない板状に形成する構成と比較して、弾性部が柔軟になり、振動方向の弾性を高めることができる。
【0089】
さらに、弾性部54は、振動部30の振動方向から見て支持部材60Aの第1接合部61と第2接合部62の間に配置されている。これにより、振動対象であるガラスルーフ14と接合部との間に弾性体が介在しないため、振動の伝達ロスを少なくすることができる。
【0090】
さらにまた、保持部51は、磁気回路部20の保持状態において、磁気回路部20の少なくとも一部を露出させている。これにより、磁気回路部20に発生する熱を効率良く外部に放出することができる。
【0091】
本実施形態に係る音響変換器10Aでは、支持部材60Aは、ガラスルーフ14とフレーム部50との接合位置に介在する第1接合部61と、第1接合部61の内側でガラスルーフ14と振動部30との接合位置に介在する第2接合部62と、第1接合部61と第2接合部62とを連結し、フレーム部50に対して振動部30を弾性支持する弾性支持部63と、を有している。このため、ガラスルーフ14に音響変換器10Aを取り付けると、弾性支持部63が取付面の形状に沿って変形する。このとき、弾性支持部63の変形に追従して、第1接合部61及び第2接合部62の位置が変位するため、フレーム部50の内側に配置される第2接合部62も、取付面の形状に合わせて最適な位置に配置される。これにより、第2接合部62の接合面を安定させることができる。
【0092】
また、支持部材60Aは、ガラスルーフ14との接合位置において、第1接合部61と第2接合部62とで接合面の位置が振動部30の振動方向に異なる構成となっている。このため、取付面が曲面である場合に、一方の接合部の接合面を他方の接合部の接合面よりも振動方向に突出させることで、一方の接合部を他方の接合部よりも先に振動対象に接触させることができる。これにより、取付面の曲面形状に合わせて先に接触した接合部に作用する押圧荷重を効果的に高めることができる。
【0093】
本実施形態では、図8(A)に示されるように、支持部材60Aは、凹曲面をなすガラスルーフ14との接合位置において、第2接合部62の接合面が、第1接合部61の接合面に対して振動方向に突出している。このため、第2接合部62の接合面が第1接合部61の接合面よりも先にガラスルーフ14の取付面に接触する。これにより、ガラスルーフ14と振動部30との接合位置の押圧荷重を効果的に高めることができる。
【0094】
また、支持部材60Aは、第1接合部61と第2接合部62において、接合面の位置差分Δd1が、ガラスルーフ14の取り付け面の位置差分Δd2よりも大きい構成となっている。このため、接合面の突出量(Δd1)をガラスルーフ14の曲面の突出量(Δd2)よりも大きくすることができるため、取付面の曲率に合わせて、先に接触した接合部に作用する押圧荷重を効果的に高めることができる。
【0095】
さらに、図8(B)に示されるように、第1接合部61及び第2接合部62は、ガラスルーフ14との接合面の縁から一方向に延びる少なくとも一つの溝部65Aを有している。これにより、接合面に侵入した空気を溝部から逃がすことができ、接合面に空気だまりが発生することが抑制される。
【0096】
さらにまた、溝部65Aは、互いに異なる方向に延びる第1溝部65Aa1と第2溝部65Aa2とを有している。このため、接合面に侵入した空気を複数の方向延びる複数の溝部に逃がすことができ、空気だまりの発生を効果的に抑制することができる。
【0097】
<第2実施形態>
以下、図10(A)及び図10(B)を参照し、第2実施形態に係る音響変換器10Bについて説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して詳細な説明を割愛する。この第2実施形態に係る音響変換器10Bは、振動部30に装着される鍔部42に、ベロ部43が形成されない点において、第1実施形態に係る音響変換器10Aと異なる。
【0098】
音響変換器10Bのフレーム部50には、鍔部42の押圧方向(振動部30の振動方向)に沿って該鍔部42と重なる位置に、切り欠き部56Aが形成されている。これにより、鍔部42は、上記第1実施形態と同様に、押圧方向から見てフレーム部50の外側に露出している。
【0099】
切り欠き部56Aは、延在部52において、保持部51の外周面から径方向外側に延びる板状の水平部541に形成されている。切り欠き部56Aは、水平部541を板厚方向に貫通しており、一例として、半円状に形成されている。また、切り欠き部56Aは、フレーム部50の幅方向の両端に、一対の状態で設けられている。
【0100】
上記の構成によれば、押し当て部40をガラスルーフ14側に押し当てる際に、切り欠き部56Aを通して鍔部42を押圧すればよい。これにより、押し当て部40の接合面S1を簡単かつ十分に圧着させることができる。
【0101】
また、第2実施形態に係る音響変換器10Bでは、押し当て部40の鍔部42がフレーム部の外殻から突出しないため、第1実施形態と比較して、音響変換器10Bを小型化させることができる。
【0102】
<第3実施形態>
以下、図11(A)及び図11(B)を参照し、第3実施形態に係る音響変換器10Cについて説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して詳細な説明を割愛する。この第3実施形態に係る音響変換器10Cは、振動部30に装着される鍔部42に、ベロ部43が形成されない点において、第1実施形態に係る音響変換器10Aと異なる。
【0103】
第3実施形態に係る音響変換器10Cでは、フレーム部50の側方に形成される開口部55から鍔部42を押圧するための治具70の挿入が可能になっている。治具70は、板状の部材で構成されており、作業者によって把持される把持部71と、把持部71から片持ち梁状に延びる一対の押圧片72を有する。
【0104】
フレーム部50の側方に形成された開口部55は、上述したように、磁気回路部20を保持する保持部51と、該保持部51と鍔部42との間の空間に連通している。押し当て部40をガラスルーフ14に押し当てる際は、開口部55から治具70を挿入し、一対の押圧片72で押し当て部40の本体部41を挟むようにして、押圧片72を鍔部42と重なる位置に配置する。そして、押圧片72で鍔部42を押圧することにより、押し当て部40をガラスルーフ14側に押し当てることができる。これにより、押し当て部40の接合面S1を簡単かつ十分に圧着させることができる。
【0105】
また、第3実施形態に係る音響変換器10Cでは、押し当て部40の鍔部42がフレーム部の外殻から突出しないため、第1実施形態と比較して、音響変換器10Cを小型化させることができる。
【0106】
<第4実施形態>
以下、図12(A)及び図12(B)を参照し、第4実施形態に係る音響変換器10Dについて説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して詳細な説明を割愛する。この第4実施形態に係る音響変換器10Dは、振動部30に装着される鍔部42に、ベロ部43が形成されない点において、第1実施形態に係る音響変換器10Aと異なる。
【0107】
音響変換器10Dのフレーム部50には、鍔部42の押圧方向(振動部30の振動方向)に沿って該鍔部42と重なる位置に、切り欠き部56Bが形成されている。これにより、鍔部42は、上記第1実施形態と同様に、押圧方向から見てフレーム部50の外側に露出している。
【0108】
切り欠き部56Bは、延在部52において、保持部51の外周面から径方向外側に延びる板状の水平部541に形成されている。切り欠き部56Bは、水平部541を板厚方向に貫通しており、一例として、矩形状に形成されている。また、切り欠き部56Bは、フレーム部50の幅方向の両端に、一対の状態で設けられている。
【0109】
フレーム部50には、切り欠き部56Bに架け渡されるようにして、弾性押圧部57が設けられている。この弾性押圧部57は、押し当て部40の本体部41の側方に配置されている。また、弾性押圧部57は、振動部30よりもフレーム部50の外側に配置されている。
【0110】
弾性押圧部57は、例えば、ゴムや、板バネ等の弾性部材で構成することができ、図12(A)に示す矢印方向に沿ってフレーム部50の側方から、押圧することにより、内側(本体部41側)へ弾性変形する。図12(B)に示されるように、弾性押圧部57は、内側に弾性変形することにより、鍔部42と重なる位置に配置される。これにより、弾性押圧部57を介して鍔部42を押圧することができ、押し当て部40をガラスルーフ14に押し当てる際に、押し当て部40の接合面S1を簡単かつ十分に圧着させることができる。
【0111】
さらに、弾性押圧部57は、振動部30よりも外側に配置されているため、音響変換器10Dの取付後も、振動部30に駆動時に振動を邪魔しない位置に設けられている。
【0112】
また、第4実施形態に係る音響変換器10Dでは、押し当て部40の鍔部42がフレーム部の外殻から突出しないため、第1実施形態と比較して、音響変換器10Cを小型化させることができる。
【0113】
<支持部材の変形例>
以下、図13(A)~図13(C)及び図14を参照して、上記各実施形態に係る支持部材60Aの変形例のバリエーションについて説明する。
【0114】
図13(A)は、第1変形例に係る支持部材60Bの側面図である。図13(A)に示されるように、支持部材60Bでは、第1接合部61の板厚T3が、第2接合部62の板厚T4よりも厚くなっている。従って、支持部材は、前記振動対象との前記接合部において、第1接合部の接合面(側面S2)が、第2接合部62の接合面(側面S3の中央領域S3a)に対して振動方向に突出している。このため、取付面が凸曲面である場合に、第2接合部62がガラスルーフ14の取付面に先に接触し、その直後に、第1接合部61をガラスルーフ14に接触させることができる。これにより、第2接合部62の押圧荷重を効果的に高めることができ、凸曲面への音響変換器の接合状態を安定させることができる。
【0115】
図13(B)は、第2変形例に係る支持部材60Cの平面図である。上記各実施形態では、第2接合部は、ガラスルーフ14に対向する側面S2において、中央領域S3aのみが接着部材68を介してガラスルーフ14に接合される構成とした。第2変形例に係る支持部材60Cでは、図13(B)に示されるように、第2接合部62の側面S3の略全域がガラスルーフ14との接合面となっている。この場合、ガラスルーフ14との接合面の径φ3は、ボイスコイル31の径(符号省略)よりも大きい構成となり、振動部30を、ガラスルーフ14に強力に接合することができる。
【0116】
図13(C)は第3変形例に係る支持部材60Dの平面図である。第3変形例に係る支持部材60Dは、上記各実施形態と同様に、第1接合部61及び第2接合部62は、ガラスルーフ14との接合面(側面S2,中央領域S3a)の縁から一方向に延びる複数の溝部65Bを有する。複数の溝部65Bは、接合面の縁の異なる位置からそれぞれ中央部に向かって延びている。これにより、接合面に侵入した空気を複数の方向延びる複数の溝部に逃がすことができ、空気だまりの発生を効果的に抑制することができる。
【0117】
図14は、第4変形例に係る支持部材60Eの斜視図である。第4変形例に係る支持部材60Eでは、第1接合部61及び第2接合部62に環状に形成されたリング部80が設けられている。第1接合部61において、リング部80は、第1接合部61の外周部に形成されている。リング部80は、第1接合部61の中央部に対して土手状に突出している。このため、第1接合部61において、ガラスルーフ14と接合(接着)する側面S2を環状に形成することができる。一方、第2接合部62において、リング部80は、第2接合部62の中央領域S3aを土手状に突出させることで形成されている。このため、第2接合部62において、ガラスルーフ14と接合(接着)する側面(中央領域S3a)を環状に形成することができる。
さらに、リング部80の表面(側面S,中央領域S3a)には、リング部80の内外を連通させる溝部65Cが形成されている。溝部65Cは、一つでもよく、複数でもよい。各溝部65Cは、第1接合部61及び第2接合部62において、ガラスルーフ14との接合面(側面S2,中央領域S3a)の縁から中央部に向かって一方向に延びる溝部となっている。これにより、リング部80の内側に侵入した空気は、溝部65Cを通じてリング部80の外側に逃がされるため、接合面に留まることはない。リング部80によれば、ガラスルーフ14との接合面(側面S2,中央領域S3a)において、安定した接着強度を得ることができる。
【0118】
なお、上記実施形態及び各変形例に係る支持部材では、支持部材が振動対象に対して接着部材を用いて接合される構成としたが、本開示はこれに限らない。振動対象に対して、締結等の機械的接合により支持部材及びフレーム部を接合してもよい。
[補足説明]
【0119】
上記の各実施形態及び変形例では、音響変換器がガラスルーフに取り付けられる構成としたが、本開示はこれに限定されない。音響変換器の取付対象は、車両に限らず、板状の部材であればよい。また、車両であれば、例えば、車両のフロントガラス、リアガラス、サイドガラスなどの窓ガラスに取り付けてもよい。また、車両のピラーや車体の側面に取り付けてもよい。
【0120】
また、上記の各実施形態及び変形例では、音響変換器が凹曲面に取り付けられる構成としたが、本開示はこれに限定されない。凸曲面や、平面に取り付けられる構成としてもよい。また、別体で構成される振動対象は、板状のガラスに限定されない。振動対象は、例えば、樹脂、金属、木材、布材、紙等の材料で形成される板状部材でもよい。
【0121】
上記の各実施形態及び変形例に係る音響変換器の構成は、ボイスコイルを振動させるムービングコイル式音響変換器と、磁気回路部を振動させるムービングマグネット式の音響変換器の両方に適用することができる。
【0122】
上記実施形態及び変形例では、フレーム部が一対の延在部を備える構成としたが、これに限定されない。フレーム部が、三つ以上の延在部を備える構成としてもよいし、一つの延在部を備える構成としてもよい。
【符号の説明】
【0123】
10A 音響変換器(スピーカ用音響変換器)
10B 音響変換器(スピーカ用音響変換器)
10C 音響変換器(スピーカ用音響変換器)
10D 音響変換器(スピーカ用音響変換器)
12 車両
14 ガラスルーフ(振動対象)
20 磁気回路部
30 振動部
31 ボイスコイル
40 押し当て部
41 本体部
42 鍔部
50 フレーム部
51 保持部
52 延在部
53 固定部
54 弾性部(第1弾性部,第2弾性部)
543 開口部
55 開口部
57 弾性押圧部
60A 支持部材
60B 支持部材
60C 支持部材
60D 支持部材
61 第1接合部
62 第2接合部
63 弾性支持部
64 開口部
65A 溝部
65B 溝部
D1 第1接合部の接合面の位置
D2 第2接合部の接合面の位置
Δd1 接合面の位置差分
Δd2 取り付け面の位置差分
S1 接合面(本体部の接合面)
S2 側面(第1接合部の接合面)
S3a 中央領域(第2接合部の接合面)
T1 本体部の接合面の板厚
T2 鍔部の板厚
図1
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