(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028751
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】ガラスチョップドストランドマット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4218 20120101AFI20250221BHJP
D04H 1/4226 20120101ALI20250221BHJP
【FI】
D04H1/4218
D04H1/4226
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079271
(22)【出願日】2024-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2023133287
(32)【優先日】2023-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺平 怜央
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA05
4L047AB02
4L047AB07
4L047BA12
4L047CB01
4L047CC13
4L047EA01
(57)【要約】
【課題】機械的強度に優れる、ガラスチョップドストランドマットを提供する。
【解決手段】複数本のガラスチョップドストランドが結着剤により結着されてなるガラスチョップドストランドマットであって、前記ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が、4以下である、ガラスチョップドストランドマット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のガラスチョップドストランドが結着剤により結着されてなるガラスチョップドストランドマットであって、
前記ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が、4以下である、ガラスチョップドストランドマット。
【請求項2】
前記ガラスチョップドストランドの番手が、6tex以上、20tex以下である、請求項1に記載のガラスチョップドストランドマット。
【請求項3】
前記ガラスチョップドストランドの長さが、20mm以上、150mm以下である、請求項1又は2に記載のガラスチョップドストランドマット。
【請求項4】
前記ガラスチョップドストランドマットの目付が、40g/m2以上、200g/m2以下である、請求項1又は2に記載のガラスチョップドストランドマット。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のガラスチョップドストランドマットの製造方法であって、
複数本のガラスストランドが束ねられてなるロービングを準備する工程と、
前記ロービングを所定の長さに切断することによりガラスチョップドストランドを得る工程と、
前記ガラスチョップドストランドを分散させて堆積し、ガラスチョップドストランド堆積シートを得る工程と、
前記ガラスチョップドストランド堆積シートに結着剤を散布し、ローラーによりプレス成形する工程と、
を備え、
前記ロービングは、分割率が50%以上である、ガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスチョップドストランドマット及び該ガラスチョップドストランドマットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスチョップドストランドマットは、多数本のガラスチョップドストランドを互いに結合してマット状に成形した補強材であって、軽量であり、高い機械的強度を有することが知られている。このようなガラスチョップドストランドマットは、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や、自動車成形天井材等の補強材として広く用いられている。
【0003】
ガラスチョップドストランドマットの製造方法としては、多数本のガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布し、集束することによって得られたガラスストランドを所定長に切断してなるガラスチョップドストランドを多数本用意し、これらを均等無秩序にシート状に堆積した後、得られたシート状堆積物に結着剤と水を散布し、次いでこの結着剤を加熱溶融した後にシート状堆積物をプレス成形し、冷却固化させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラスチョップドストランドを作製するに際しては、複数本のガラスストランドが束ねられてなるロービングを準備し、このロービングを所定の長さに切断することによりガラスチョップドストランドを作製することがある。しかしながら、このようにして作製したガラスチョップドストランドを用いてなるガラスチョップドストランドマットでは、その機械的強度を十分に高められない場合がある。そのため、自動車成形天井材等の用途で高い機械的強度を有するガラスチョップドストランドマットが求められており、特に目付を変えずとも、機械的強度を高める手法が求められている。
【0006】
本発明の目的は、機械的強度に優れる、ガラスチョップドストランドマット及び該ガラスチョップドストランドマットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するガラスチョップドストランドマット及び該ガラスチョップドストランドの製造方法の各態様について説明する。
【0008】
本発明の態様1に係るガラスチョップドストランドマットは、複数本のガラスチョップドストランドが結着剤により結着されてなるガラスチョップドストランドマットであって、前記ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が、4以下であることを特徴としている。
【0009】
態様2に係るガラスチョップドストランドマットは、態様1において、前記ガラスチョップドストランドの番手が、6tex以上、20tex以下であることが好ましい。
【0010】
態様3に係るガラスチョップドストランドマットは、態様1又は態様2において、前記ガラスチョップドストランドの長さが、20mm以上、150mm以下であることが好ましい。
【0011】
態様4に係るガラスチョップドストランドマットは、態様1~態様3のいずれか1つの態様において、前記ガラスチョップドストランドマットの目付が、40g/m2以上、200g/m2以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様5に係るガラスチョップドストランドの製造方法は、態様1~態様4のいずれか1つの態様のガラスチョップドストランドマットの製造方法であって、複数本のガラスストランドが束ねられてなるロービングを準備する工程と、前記ロービングを所定の長さに切断することによりガラスチョップドストランドを得る工程と、前記ガラスチョップドストランドを分散させて堆積し、ガラスチョップドストランド堆積シートを得る工程と、前記ガラスチョップドストランド堆積シートに結着剤を散布し、ローラーによりプレス成形する工程とを備え、前記ロービングは、分割率が50%以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機械的強度に優れる、ガラスチョップドストランドマット及び該ガラスチョップドストランドマットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ガラスチョップドストランドマットを構成するガラスチョップドストランドの番手の正規分布の一例を示すグラフである。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るガラスチョップドストランドマットの製造に用いるロービングの製造装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明のガラスチョップドストランドマットの製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0016】
(ガラスチョップドストランドマット)
本発明のガラスチョップドストランドマット(以下、単に「ガラスチョップドストランドマット」を「マット」と称する場合がある)は、複数本のガラスチョップドストランドが結着剤により結着されてなるガラス繊維シートである。ガラスチョップドストランドマットでは、複数本のガラスチョップドストランドのシート状堆積物が、結着剤によって結合されている。
【0017】
本発明のガラスチョップドストランドマットでは、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が、4以下である。そのため、本発明のガラスチョップドストランドマットは、機械的強度に優れている。これについて、以下、
図1を参照して説明する。
【0018】
図1は、ガラスチョップドストランドマットを構成するガラスチョップドストランドの番手の正規分布の一例を示すグラフである。
図1の実線は、本発明のガラスチョップドストランドマットのグラフである。また、
図1の破線は、比較例のガラスチョップドストランドマットのグラフである。
【0019】
なお、ガラスチョップドストランドマットを構成するガラスチョップドストランドの番手の正規分布を測定するに際しては、例えば、ガラスチョップドストランドマットを焼却することにより結着剤を分解除去し、得られたガラスチョップドストランドの中からランダムに500本のガラスチョップドストランドを抽出する。次に、抽出した500本のガラスチョップドストランドの番手を測定し、その平均値及び標準偏差を求める。次に、以下の式(1)において、μに上記平均値を代入し、σに上記標準偏差を代入して、正規分布のグラフを得ることができる。
【0020】
【0021】
また、ガラスチョップドストランドの番手は、JIS R3420(2013年)の「7.1 番手」に準拠して測定することができる。
【0022】
図1に示すように、本発明のガラスチョップドストランドマットの一例では、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布におけるピーク高さが高く、ピーク幅が狭くなっていることがわかる。一方、比較例のガラスチョップドストランドマットでは、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布におけるピーク高さが低く、ピーク幅がブロードになっていることがわかる。
【0023】
図1から明らかなように、本発明のガラスチョップドストランドマットでは、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布におけるピーク高さが高く、ピーク幅が狭くなっていることから、ガラスチョップドストランドの番手のバラつきが小さい。特に、本発明のガラスチョップドストランドマットでは、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が4以下であり、ガラスチョップドストランドの番手のバラつきが特に小さいガラスチョップドストランドにより構成されているので、ガラスチョップドストランドマット(マット)の目付を変えずとも、その機械的強度を効果的に高めることができる。なお、この理由は以下のように考えられる。
【0024】
ガラスチョップドストランドの番手のバラつきが小さいと、同じ目付のマットで比較した場合に、ガラスチョップドストランドの本数が多くなる。ガラスチョップドストランドの本数が多くなると、ガラスチョップドストランドをより密に配置することができるため、ガラスチョップドストランド同士の接着箇所が多くなり、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度が高くなる。また、この場合、使用する結着剤の量が比較的少なくても、所望の機械的強度を有するガラスチョップドストランドマットを得やすくなる。
【0025】
本発明において、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは1.0以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.5以下、最も好ましくは2.0以下である。
【0026】
ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が上記下限値以上である場合、ガラスチョップドストランドの生産性をより高めることができる。また、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が上記上限値以下である場合、ガラスチョップドストランドの番手のバラつきをより一層小さくすることができ、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度をより一層高めることができる。
【0027】
ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差は、例えば、500本のガラスチョップドストランドから求めるものとする。また、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差は、上述した方法によりガラスチョップドストランドマットからガラスチョップドストランドを抽出して求めることが望ましい。
【0028】
本発明において、ガラスチョップドストランドの番手(平均番手)は、好ましくは6tex以上、より好ましくは8tex以上、さらに好ましくは10tex以上であり、好ましくは20tex以下、より好ましくは17tex以下、さらに好ましくは14tex以下である。
【0029】
ガラスチョップドストランドの番手が上記下限値以上である場合、ガラスチョップドストランドマットを製造する際の生産性をより一層高めることができる。また、ガラスチョップドストランドの番手が上記上限値以下である場合、同じ目付のマットで比較すると、ガラスチョップドストランドの本数が多くなり、より密に配置することができ、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度をより一層向上させることができる。
【0030】
なお、ガラスチョップドストランドの番手は、例えば、500本のガラスチョップドストランドの平均値から求めることができる。また、ガラスチョップドストランドの番手の平均値は、上述した方法によりガラスチョップドストランドマットからガラスチョップドストランドを抽出して求めることが望ましい。
【0031】
本発明において、ガラスチョップドストランドの長さは、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上、さらに好ましくは40mm以上であり、好ましくは150mm以下、より好ましくは120mm以下、さらに好ましくは90mm以下である。
【0032】
ガラスチョップドストランドの長さが上記下限値以上である場合、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度をより一層向上させることができる。また、ガラスチョップドストランドの長さが上記上限値以下である場合、ガラスチョップドストランドマットにおいてガラスチョップドストランドがより均一に分布されるように配置することができ、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度をより一層向上させることができる。
【0033】
本発明において、ガラスチョップドストランドマットの目付は、好ましくは40g/m2以上、より好ましくは50g/m2以上、さらに好ましくは60g/m2以上であり、好ましくは200g/m2以下、より好ましくは180g/m2以下、さらに好ましくは160g/m2以下である。
【0034】
ガラスチョップドストランドマットの目付が上記下限値以上である場合、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度をより一層向上させることができる。また、ガラスチョップドストランドマットの目付が上記上限値以下である場合、ガラスチョップドストランドマットをより一層軽量化することができる。
【0035】
なお、本明細書において、ガラスチョップドストランドマットの目付は、JIS R3420(2013年)の「7.2 クロス及びマットの質量(質量)」に準拠して測定することができる。
【0036】
本発明において、ガラスチョップドストランドマットの厚みは、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.02mm以上、さらに好ましくは0.04mm以上であり、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.8mm以下、さらに好ましくは0.6mm以下である。
【0037】
ガラスチョップドストランドマットの厚みが上記下限値以上である場合、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度をより一層向上させることができる。また、ガラスチョップドストランドマットの厚みが上記上限値以下である場合、ガラスチョップドストランドマットをより一層薄型化(あるいは軽量化)することができる。
【0038】
ガラスチョップドストランドマットを構成するガラスチョップドストランドの材質は、例えば、Eガラス、Sガラス、Tガラス、Aガラス、Cガラス、Dガラス、Hガラス等が挙げられる。
【0039】
ガラスチョップドストランドマットを構成する結着剤の材質は、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、酢酸ビニル、アクリル、エポキシ等の樹脂を用いることができる。なかでも、結着剤としては、ポリエステル樹脂が好ましく、粉末不飽和ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。この場合、結着剤の溶融や冷却固化をより一層容易に行うことができる。
【0040】
本発明のガラスチョップドストランドマットでは、結着剤の付着量が、質量割合で、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上であり、好ましくは20%以下、より好ましくは17%以下である。
【0041】
ガラスチョップドストランドマットにおける結着剤の付着量が上記下限値以上である場合、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度をより一層向上させることができる。また、ガラスチョップドストランドマットにおける結着剤の付着量が上記上限値以下である場合、ガラスチョップドストランドマットの厚みがより均一となり、ガラスチョップドストランドマットの柔軟性を高めることができる。また、ガラスチョップドストランドマットにおける結着剤の付着量が上記上限値以下である場合、結着剤の使用量が少なくなるため、製造コストを低減することができる。
【0042】
なお、本明細書において、ガラスチョップドストランドマットにおける結着剤の付着量は、JIS R3420(2013年)の「7.3 水分率及び強熱減量」に準拠して測定された強熱減量である。
【0043】
本発明のガラスチョップドストランドマットは、機械的強度に優れるので、繊維強化成形複合材に好適に用いることができ、特に自動車成形天井材等の補強材として好適に用いることができる。
【0044】
(ガラスチョップドストランドマットの製造方法)
本発明のガラスチョップドストランドマットの製造方法は、複数本のガラスストランドが束ねられてなるロービングを準備する工程(工程1)と、ロービングを所定の長さに切断することによりガラスチョップドストランドを得る工程(工程2)と、ガラスチョップドストランドを分散させて堆積し、ガラスチョップドストランド堆積シートを得る工程(工程3)と、ガラスチョップドストランド堆積シートに結着剤を散布し、ローラーによりプレス成形する工程(工程4)とを備える。
【0045】
以下、工程1~工程4の一例について説明する。
【0046】
工程1;
図2は、本発明の一実施形態に係るガラスチョップドストランドマットの製造に用いるロービングの製造装置の一例を示す模式図である。工程1では、
図2に示すロービングの製造装置1を用いてロービングを準備する。
【0047】
工程1では、まず、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を溶融して溶融ガラスとする。この溶融ガラスを均質な状態とした後に、ブッシング2に付設された耐熱性を有するノズルから溶融ガラスを引き出す。その後、引き出された溶融ガラスを冷却して複数本のガラスフィラメント3(モノフィラメント)を形成する。なお、ブッシング2としては、例えば、白金製のブッシングを用いることができる。
【0048】
ガラスフィラメント3の組成は、特に限定されず、例えば、Eガラス、Sガラス、Tガラス、Aガラス、Cガラス、Dガラス、Hガラス等が用いられる。これらのなかでも、ガラスフィラメント3の組成は、Eガラスであることが好ましい。Eガラスは、安価であり、ガラスチョップドストランドマットの機械的強度をより一層高めることができる。
【0049】
ガラスフィラメント3の本数は、特に限定されないが、好ましくは500本以上、より好ましくは1000本以上、好ましくは10000本以下、より好ましくは8000本以下である。ガラスフィラメント3の本数が上記下限値以上である場合、製造するロービングの生産性をより一層向上させることができる。また、ガラスフィラメント3の本数が、上記上限値以下である場合、各ガラスフィラメント3の長さをより一層揃い易くすることができる。
【0050】
次に、得られた複数本のガラスフィラメント3の表面に、集束剤塗布機構4によって集束剤を塗布する。複数本のガラスフィラメント3の表面に集束剤が均等に塗布された状態で、複数本のガラスフィラメント3を引き揃え、集束する。複数本のガラスフィラメント3は、集束シュー5により引き揃え、集束することができる。これにより、ガラスストランド6を形成することができる。
【0051】
なお、
図2では、図示の都合上、1本のガラスストランド6のみを図示しているが、集束シュー5においては、複数本のガラスストランド6に分糸して集束させる。例えば、5000本のガラスフィラメント3を用いる場合は、ガラスフィラメント3を500本ずつ引き揃えて10本のガラスストランド6を形成してもよい。
【0052】
分糸により形成されるガラスストランド6の本数は、特に限定されないが、好ましくは2本以上、より好ましくは3本以上、好ましくは25本以下、より好ましくは20本以下である。分糸により形成されるガラスストランド6の本数が上記範囲内にある場合、ロービングの生産性をより一層向上させることができる。
【0053】
集束剤としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリ酢酸ビニル、又はポリフェニレンスルフィド樹脂などの熱可塑性樹脂を含有することができる。また、集束剤は、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を含有してもよい。集束剤は、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、又は帯電防止剤等の各成分を含有することもできる。これらの成分の配合比については、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0054】
次に、複数本のガラスストランド6をワイヤートラバース7により綾振りを行いながら、コレット8を用いて巻き取り、複数本のガラスストランド6が束ねられてなるロービングの巻回体9を作製する。
【0055】
ワイヤートラバース7としては、特に限定されないが、例えば、特開2021-147208号公報の
図8に記載されているワイヤートラバースを用いることができる。なお、特開2021-147208号公報では、4本に分糸されたガラスストランドSが、ワイヤートラバースにより、コレットに綾振りされながら巻き取られている。
【0056】
ガラスストランド6の巻き取りに際しては、例えば、直径100mm~500mmのコレット8を用いることができる。
【0057】
次に、集束剤を加熱乾燥させ、水分を蒸発させることにより、ガラスフィラメント3の表面に被膜を形成する。加熱乾燥の方法としては、例えば、熱風乾燥又は誘電乾燥を用いることができる。加熱乾燥は、例えば、100℃~150℃の温度範囲において、1時間~24時間行うことができる。これにより、ロービングの乾燥ケーキ(以下、単にケーキともいう)を得ることができる。乾燥ケーキの巻き厚みは、例えば、5mm~500mmである。
【0058】
なお、加熱乾燥には、熱風乾燥を用いることが好ましい。この場合、ガラスストランド6の巻き始め部分から巻き終わり部分までをより均一に加熱乾燥することができる。熱風乾燥であれば、集束剤を一定範囲の温度で保持することが容易である。なお、熱風乾燥と誘電乾燥を併用してもよい。
【0059】
工程1で準備するロービングは、分割率が50%以上である。なお、分割率とは、ロービングの任意の100箇所を2.5cmの長さに切り出したときに、他のガラスストランド6と接着せずに1本のガラスストランド6で構成されるガラスストランド6の割合のことをいう。従って、ガラスストランド束を構成するガラスストランド6間における接着箇所数の指標として用いることができ、分割率が大きいほどガラスストランド6間の接着箇所数が少なくなることを示している。従って、ロービングの分割率が50%以上であることにより、後述するガラスチョップドストランドの番手のバラつきを小さくすることができる。
【0060】
工程1で準備するロービングの分割率は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上であり、好ましくは99%以下、より好ましくは98%以下である。
【0061】
工程1で準備するロービングの分割率が上記下限値以上である場合、後述するガラスチョップドストランドの番手のバラつきをより小さくすることができる。また、工程1で準備するロービングの分割率が上記上限値以下である場合、分割したガラスストランド6をロービングより解舒する際の作業性がより一層向上する。
【0062】
なお、ロービングの分割率は、例えば、
図2に示す距離A、距離B、及び距離Cを変化させることにより、調整することができる。
【0063】
距離Aは、集束シュー5の中心とコレット8の中心との間の高さ方向における距離である。距離Aが小さすぎると、ガラスストランド6に加わるテンションが大きくなり、ガラスストランド6同士が互いに接着しやすくなって、ロービングの分割率が小さくなる。また、距離Aが大きすぎると、ガラスストランド6に加わるテンションが小さくなり、ケーキの形状が悪くなったり、ケーキからのロービングの解舒性が悪くなったりすることがある。これらの点を考慮して、距離Aは、例えば、500mm以上、3000mm以下とすることができる。
【0064】
距離Bは、集束剤塗布機構4のカーボンローラー4aにおけるガラスフィラメント3との接点と、集束シュー5の中心との間の水平方向における距離である。距離Bが小さすぎると、ガラスストランド6に加わるテンションが小さくなり、ケーキの形状が悪くなったり、ケーキからのロービングの解舒性が悪くなったりすることがある。また、距離Bが大きすぎると、ガラスストランド6に加わるテンションが大きくなり、ガラスストランド6同士が互いに接着しやすくなって、ロービングの分割率が小さくなる。これらの点を考慮して、距離Bは、例えば、50mm以上、200mm以下とすることができる。
【0065】
距離Cは、巻回体9の最もワイヤートラバース7に近い表面と、ワイヤートラバース7の軸7aから最も離れた箇所との間の水平方向における距離である。なお、ガラスストランド6の巻き始めにおいては、巻回体9の最もワイヤートラバース7に近い表面ではなく、コレット8の最もワイヤートラバース7に近い表面と、ワイヤートラバース7の軸7aから最も離れた箇所との間の水平方向における距離である。
【0066】
距離Cが小さすぎると、ガラスストランド6に加わるテンションが大きくなり、ガラスストランド6同士が互いに接着しやすくなって、ロービングの分割率が小さくなる。また、距離Cが大きすぎると、ガラスストランド6に加わるテンションが小さくなり、ケーキの形状が悪くなったり、ケーキからのロービングの解舒性が悪くなったりすることがある。これらの点を考慮して、距離Cは、例えば、10mm以上、200mm以下とすることができる。
【0067】
工程2~工程4;
図3は、本発明のガラスチョップドストランドマットの製造装置の一例を示す模式図である。
【0068】
図3に示すように、工程1で得られたケーキの内層からロービング10を解舒し、チャンバー11の天井部分に取り付けられた複数個の切断機12に送り込む。これにより、ロービング10を構成するガラスストランドを所定長に切断して、ガラスチョップドストランド10Aを得る。なお、各切断機12は、カッターローラー12aとゴムローラー12bとから構成される。各切断機12では、互いに回転するカッターローラー12aとゴムローラー12bとの間にロービング10が送り込まれることによってガラスストランドを切断する。
【0069】
次に、ガラスチョップドストランド10Aを、チャンバー11の底部に配置された第1の搬送コンベア13の上で均一になるように分散させ、シート状に堆積する。シート状に堆積されたガラスチョップドストランド10Aは、チャンバー11の外へ搬送し、次の第2の搬送コンベア14に搬送する。
【0070】
続いて、第2の搬送コンベア14上で移動するガラスチョップドストランド10A上に散布機15によって結着剤を均一に散布し、次の第3の搬送コンベア16に搬送する。結着剤が散布されたガラスチョップドストランド10Aのシート状堆積物を、加熱炉17中に移動させ加熱することによって、結着剤を軟化させ、溶融させる。
【0071】
次いで、ガラスチョップドストランド10Aのシート状堆積物を、加熱炉17の外部に移動させ、冷却圧延機水冷ロール18の間を通して冷却、プレスする。これにより、溶融していた結着剤を固化させ、ガラスチョップドストランドマット19を得ることができる。なお、ガラスチョップドストランドマット19は、巻き取り機20によって巻き取られ、引き出すことによって使用することができる。
【0072】
ガラスチョップドストランド10Aを結合させる結着剤としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、酢酸ビニル、アクリル、エポキシ等の樹脂を用いることができる。なかでも、結着剤としては、ポリエステル樹脂が好ましく、粉末不飽和ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。この場合、結着剤の溶融や冷却固化をより一層容易に行うことができる。
【0073】
結着剤の形態としては、特に限定されず、例えば、粉末状、液状、繊維状、シート状又はフィルム状のものを用いることができる。
【0074】
本発明のガラスチョップドストランドマットの製造方法では、工程1で製造されるロービングの分割率が50%以上であることにより、ガラスチョップドストランドの番手のバラつきを小さくすることができ、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差を4以下とすることができる。従って、本発明のガラスチョップドストランドマットの製造方法により得られたガラスチョップドストランドマットは、機械的強度に優れている。
【0075】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0076】
(実施例1)
図2に示すロービングの製造装置1を用いて、ロービングを製造した。具体的には、まず、Eガラスの組成である溶融ガラスをブッシング2から引き出して1000本のガラスフィラメント3を得た。次に、得られたガラスフィラメント3の表面に集束剤塗布機構4により、集束剤を強熱減量が0.50質量%となるように調整して塗布し、集束シュー5を用いてガラスフィラメント3を集束させ、ガラスストランド6を得た。なお、集束シュー5においては、1000本のガラスフィラメント3を分糸し、100本ずつ引き揃えて10本のガラスストランド6を形成した。
【0077】
次に、得られた10本のガラスストランド6を、ワイヤートラバース7により綾振りを行いながら、直径が300mmのコレット8に巻き取り、ガラスストランド6が束ねられてなるロービングの巻回体9を作製した。次いで、作製した巻回体9を150℃で600分間、熱風乾燥炉で加熱乾燥させて、ロービングの乾燥ケーキ(ケーキ)を得た。乾燥ケーキ(ケーキ)の巻き厚みは、45mmであった。
【0078】
なお、ロービングのケーキを製造するに際しては、集束シュー5の中心とコレット8の中心との間の高さ方向における距離Aを500mmとした。集束剤塗布機構4のカーボンローラー4aにおけるガラスフィラメント3との接点と、集束シュー5の中心との間の水平方向における距離Bを100mmとした。巻回体9の最もワイヤートラバース7に近い表面と、ワイヤートラバース7の軸7aから最も離れた箇所との間の水平方向における距離Cを100mmとした。
【0079】
次に、
図3に示すように、乾燥されたケーキの内層からロービング10を解舒し、チャンバー11の天井部分に取り付けられた複数個の切断機12に送り込み、所定長に切断した。各切断機12は、カッターローラー12aとゴムローラー12bから構成され、互いに回転するカッターローラー12aとゴムローラー12bとの間にロービング10が送り込まれることによって切断される。
【0080】
チャンバー11の底部には、第1の搬送コンベア13が配置され、長さ50mmに切断されたガラスチョップドストランド10Aを、第1の搬送コンベア13の上で均一になるように分散させ、シート状に堆積してからチャンバー11の外へ搬送し、次の第2の搬送コンベア14に搬送した。
【0081】
第2の搬送コンベア14上で移動するガラスチョップドストランド10A上に散布機15によって結着剤であるポリエステル樹脂を、付着量が15.0質量%となるように均一に散布した後、次の第3の搬送コンベア16に搬送した。第3の搬送コンベア16の途中には、加熱炉17が配置され、ポリエステル樹脂が散布されたガラスチョップドストランド10Aのシート状堆積物を、加熱炉17中に移動させ260℃で加熱することによって、ポリエステル樹脂を軟化、溶融させた。
【0082】
次いで、このガラスチョップドストランド10Aのシート状堆積物を、加熱炉17の外部に移動した後、下方のロールの外周に厚み100mm、硬度80度のゴム層を固着した冷却圧延機水冷ロール18の間を通して冷却、プレスを行い、これにより溶融していたポリエステル樹脂が固化し、ガラスチョップドストランドマット19が作製され、その後、巻き取り機20によって巻き取った。なお、得られたガラスチョップドストランドマット19の厚みは、0.25mmであった。
【0083】
このようにして得られた実施例1のガラスチョップドストランドマットの結着剤の付着量を測定したところ、15.0質量%であり、目付を測定したところ、79.8g/m2であった。
【0084】
なお、ガラスチョップドストランドマットの目付(マットの目付)と、結着剤の付着量、すなわち強熱減量とは、JIS R3420(2013年)に準拠して測定した。具体的に結着剤の付着量は、JIS R3420(2013年)に準拠して測定したガラスチョップドストランドマットの強熱減量からガラスチョップドストランドの製造に使用したケーキの強熱減量を差し引くことにより求めた。
【0085】
(実施例2~10及び比較例1~6)
ロービングのケーキを製造するに際し、距離A、距離B、及び距離Cを下記の表1~表3のように設定し、かつ、結着剤(ポリエステル樹脂)の付着量が下記の表1~表3に記載の量となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、ガラスチョップドストランドマットを作製した。なお、実施例2~10及び比較例1、4、5のガラスチョップドストランドマットにおいても、実施例1と同様にしてマットの目付を測定したところ、下記の表1~表3に示すように、実施例1とほぼ同様の値であった。また、比較例2、3、6では、後述するように、ケーキの形状及びロービングの解舒性が悪く、ガラスチョップドストランドマットを得ることができなかった。
【0086】
(実施例11~15及び比較例7、8)
ロービングのケーキを製造するに際し、距離A、距離B、及び距離Cを下記の表4及び表5のように設定し、結着剤(ポリエステル樹脂)の付着量が下記の表4及び表5に記載の量となるように調整し、かつ、マットの目付が100g/m2~140g/m2程度となるように、ガラスチョップドストランド10Aの堆積量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、ガラスチョップドストランドマットを作製した。
【0087】
[評価]
実施例1~15及び比較例1~8で得られたロービング及びガラスチョップドストランドマットについて、下記の評価を行った。
【0088】
(ロービングの分割率)
ロービングを2.5cmの長さとなるように100箇所で切断し、それぞれ切り出されたロービングから分散させたガラスストランドの本数を実測し、下記式(2)により分割率を算出した。
【0089】
分割率=X/(Y×Z)×100(%)…式(2)
X:ガラスストランドの実測本数の平均値
Y:ケーキ1個当たりのガラスストランドの本数
Z:合糸するためのケーキの個数
【0090】
なお、分割率は、ロービングの先端から4100m、8200m、12300m、16400m、20500m、24600m、28700mの地点から、2.5cmの長さとなるように100個採取して測定し(4100m、8200mは15個、12300m、16400m、20500m、24600m、28700mは14個)、その平均値を求めた。
【0091】
(ガラスチョップドストランドの番手)
ガラスチョップドストランドマットを焼却することにより結着剤を分解除去し、得られたガラスチョップドストランドの中からランダムに500本のガラスチョップドストランドを抽出した。次に、抽出した500本のガラスチョップドストランドの番手を測定し、その平均値を求めた。ガラスチョップドストランドの番手(ストランド平均番手)は、JIS R3420(2013年)の「7.1 番手」に準拠して測定した。
【0092】
(ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差)
ガラスチョップドストランドマットを焼却することにより結着剤を分解除去し、得られたガラスチョップドストランドの中からランダムに500本のガラスチョップドストランドを抽出した。次に、抽出した500本のガラスチョップドストランドの番手を測定し、その標準偏差(ストランド番手の標準偏差)を求めた。ガラスチョップドストランド番手は、JIS R3420(2013年)の「7.1 番手」に準拠して測定した。
【0093】
(短冊引張強度)
短冊引張強度は、日本工業規格(JIS R3420(2013) 7.18)に従い測定した。なお、ガラスチョップドストランドマットの短冊引張強度は、ガラスチョップドストランドマットを150mm×300mmの大きさに切り出して、n=50で短冊引張強度を測定し、その平均値から求めた。また、ガラスチョップドストランドマットの短冊引張強度は、資材流れ方向である縦方向及び資材流れ方向に直交する横方向の双方について測定した。
【0094】
(ケーキの形状及び解舒性)
ロービングのケーキについて、その形状及びロービングの解舒性を下記の評価基準で評価した。
【0095】
<評価基準>
〇…ケーキの形状及びロービングの解舒性が良好である
×…ケーキの形状及びロービングの解舒性が悪い
【0096】
結果を下記の表1~表5に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
表1~表5に示すように、実施例1~15のガラスチョップドストランドマットは、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が、4以下であり、縦方向及び横方向ともに引張強度が高められていることが確認できた。
【0103】
一方、比較例1、4、5、7、及び8のガラスチョップドストランドマットは、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差が、4より大きく、同等のマットの目付で比較した場合に、縦方向及び横方向ともに引張強度が十分ではなかった。
【0104】
例えば、実施例1~10及び比較例1、4、及び5では、ほぼ同じ目付であるにも関わらず、実施例1~10のガラスチョップドストランドマットでは、ガラスチョップドストランドの番手の正規分布における標準偏差を4以下とすることにより、引張強度等の機械的強度を高められることが確認できた。なお、実施例11~13と比較例7との比較、及び、実施例14と比較例8との比較においても、同様のことが言える。
【0105】
比較例2、3、及び6では、ケーキの形状が歪んでおり、ケーキからロービングを解舒する際にガラスストランドが引っかかって、途中で解舒できなくなるという不具合が発生した。そのため、ガラスチョップドストランドマットを得ることができなかった。
【符号の説明】
【0106】
1…ロービングの製造装置
2…ブッシング
3…ガラスフィラメント
4…集束剤塗布機構
4a…カーボンローラー
5…集束シュー
6…ガラスストランド
7…ワイヤートラバース
7a…軸
8…コレット
9…巻回体
10…ロービング
10A…ガラスチョップドストランド
11…チャンバー
12…切断機
12a…カッターローラー
12b…ゴムローラー
13…第1の搬送コンベア
14…第2の搬送コンベア
15…散布機
16…第3の搬送コンベア
17…加熱炉
18…冷却圧延機水冷ロール
19…ガラスチョップドストランドマット
20…巻き取り機