IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2025-28756養殖データ管理装置、養殖データ管理方法、養殖データ管理プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028756
(43)【公開日】2025-03-03
(54)【発明の名称】養殖データ管理装置、養殖データ管理方法、養殖データ管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/90 20170101AFI20250221BHJP
【FI】
A01K61/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103765
(22)【出願日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2023133715
(32)【優先日】2023-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年8月18日以降に、様々なウェブサイト(例えば、https://aquacraft.blue/services/uwotech、https://www.youtube.com/@uwotech、https://aquacraft.blue/notices、https://note.com/fish_dx/m/m962abb3b1605、https://aspiring-blinker-16b.notion.site/uwotech-20e547a8e07c4294a5c6685b61bf0a2d、https://drive.google.com/file/d/1GAmDCa7SKPaYCBcIR2zuTHs0X0aXgZ1g/view)や、様々な展示会(具体的には、第25回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー、第21回シーフードショー大阪)において公開
(71)【出願人】
【識別番号】522330463
【氏名又は名称】Aquacraft株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167900
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 仁
(72)【発明者】
【氏名】加地 誠
(72)【発明者】
【氏名】新 真理
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104CC34
2B104GA01
(57)【要約】
【課題】魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀の状況の把握を容易にできる養殖データ管理装置等を提供する。
【解決手段】養殖データ管理装置は、魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀を、それらの実際の配置を模して基本画面上に配置される複数の生簀セルとして表示する表示部140を備え、各生簀セルには、当該各生簀セルに対応する各生簀に収容されている魚介類の基本情報が、表示部140によって表示される。表示部140は、各生簀セルについて、当該各生簀セルに対応する各生簀を識別する生簀識別情報を表示する。基本画面上には、複数の生簀セルを格子状に表示可能な格子表示領域31が設けられ、格子表示領域31において、複数の生簀の実際の配置において生簀が存在しない場所に対応する格子点には、生簀セルが表示されない、または、表示される生簀セルに基本情報が表示されない。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀を、それらの実際の配置を模して基本画面上に配置される複数の生簀セルとして表示する表示部を備え、
前記各生簀セルには、当該各生簀セルに対応する前記各生簀に収容されている魚介類の基本情報が、前記表示部によって表示される、
養殖データ管理装置。
【請求項2】
前記表示部は、前記各生簀セルについて、当該各生簀セルに対応する前記各生簀を識別する生簀識別情報を表示する、請求項1に記載の養殖データ管理装置。
【請求項3】
前記基本画面上には、前記複数の生簀セルを格子状に表示可能な格子表示領域が設けられ、
前記格子表示領域において、前記複数の生簀の実際の配置において生簀が存在しない場所に対応する格子点には、生簀セルが表示されない、または、表示される生簀セルに前記基本情報が表示されない、
請求項1に記載の養殖データ管理装置。
【請求項4】
前記格子表示領域において、前記複数の生簀の実際の配置において生簀が存在しない場所に対応する格子点には生簀セルが表示されず、魚介類が収容されていない生簀に対応する生簀セルには前記基本情報が表示されない、請求項3に記載の養殖データ管理装置。
【請求項5】
前記表示部は、前記複数の生簀セルのうち特定の生簀セルに対するユーザ操作に応じて、当該特定の生簀セルに対応する特定の生簀およびそこに収容されている魚介類の少なくともいずれかに関する詳細画面を表示する、請求項1から4のいずれかに記載の養殖データ管理装置。
【請求項6】
前記詳細画面は、前記特定の生簀に収容されている魚介類に関する飼育情報を記録する画面である、請求項5に記載の養殖データ管理装置。
【請求項7】
前記詳細画面は、一つの前記特定の生簀に収容されている魚介類を複数の生簀に分ける分養を記録する画面、複数の前記特定の生簀に収容されている魚介類を一つの生簀にまとめる統合を記録する画面、一つの前記特定の生簀に収容されている魚介類を一つの他の生簀に移す移動を記録する画面、の少なくともいずれかであり、
前記分養、前記統合、前記移動の少なくともいずれかが前記詳細画面において記録されると、前記基本画面における対象の生簀セルの前記基本情報が当該分養、当該統合、当該移動に応じて更新される、
請求項5に記載の養殖データ管理装置。
【請求項8】
前記表示部は、前記養殖場における前記複数の生簀に収容されている魚介類の変遷を表示し、
前記変遷は、一つの生簀に収容されている魚介類を複数の生簀に分ける分養、複数の生簀に収容されている魚介類を一つの生簀にまとめる統合、一つの生簀に収容されている魚介類を一つの他の生簀に移す移動、の少なくともいずれかに基づく、
請求項1から4のいずれかに記載の養殖データ管理装置。
【請求項9】
複数の生簀を1つずつ識別する生簀識別情報と、前記複数の生簀のいずれかに収容される魚群について1つ以上の種苗に分類し、魚群ごとに割り当てられた魚群識別情報と、を記憶するデータベースと、
前記生簀識別情報が割り当てられた生簀のうち1つに収容された魚群の少なくとも一部について、前記複数の生簀から新たな生簀を特定し、元の生簀から魚の収容先の変更を指示する指示部と、
前記指示部によって魚群の収容先の変更が指示された場合に、新たな生簀に収容先が変更される魚群については、それぞれ元の生簀についての元の魚群識別情報に基づく新たな魚群識別情報を割り当てる割り当て部と、
を備える養殖データ管理装置。
【請求項10】
前記指示部は、前記新たな生簀として複数の生簀識別情報を指定し、新たな生簀識別情報に収容される魚群の尾数を指定して、それぞれの新たな生簀に該当する尾数の魚群を収容するよう指示し、
前記割り当て部は、生簀ごとに新たに収容される魚群ごとに新たな魚群識別情報を割り当て、元の魚群識別情報の情報を新たな魚群識別情報について含める、
請求項9に記載の養殖データ管理装置。
【請求項11】
前記指示部は、前記元の生簀として複数の生簀を指定し、指定された元の生簀から新たな1つの生簀を指定して、それぞれの元の生簀から新たな生簀に魚群の収容先を変更するよう指示し、
前記割り当て部は、新たに収容される魚群に新たな魚群識別情報を割り当て、元の生簀に収容されていた魚群ごとの魚群識別情報の情報を新たな魚群識別情報について含める、
請求項9または10に記載の養殖データ管理装置。
【請求項12】
魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀を、それらの実際の配置を模して基本画面上に配置される複数の生簀セルとして表示させる際に、前記各生簀セルに、当該各生簀セルに対応する前記各生簀に収容されている魚介類の基本情報を表示させることを実行する養殖データ管理方法。
【請求項13】
魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀を、それらの実際の配置を模して基本画面上に配置される複数の生簀セルとして表示させる際に、前記各生簀セルに、当該各生簀セルに対応する前記各生簀に収容されている魚介類の基本情報を表示させることをコンピュータに実行させる養殖データ管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、養殖データ管理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖の業界において、給餌や投薬の最適化は経営を左右する重要なテーマである。無駄な給餌や投薬はコストの増大を招くだけでなく、水質悪化を招く要因ともなり環境への負荷も高めることになる。他方で餌や栄養剤などの給餌記録やへい死記録といった飼育記録の記録・保管方法はまだまだ紙が主流となっており、データの分析・活用まではできていない。
【0003】
特許文献1には、養殖魚の各層の活動状況を正確に把握することにより、生簀の大きさ、深さ、形状、養殖魚の種類等、様々な条件が異なる生簀であっても、個々の生簀に対して、養殖魚の摂餌への活動状況に応じて、給餌量を適正に調節することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-43950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
魚等の養殖場には多数の生簀が設けられることも多い。しかも、それぞれの生簀は、必ずしも整列配置されているとは限らない。このように乱雑に配置されうる多数の生簀の状況を把握することは、養殖事業者にとって極めて重要であるが容易なことではない。特許文献1の技術は、個々の生簀において、養殖魚の各層における活動状況の精緻な把握と給餌量の最適化を可能にするが、養殖場における多数の生簀の状況把握を容易にするものではない。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀の状況の把握を容易にできる養殖データ管理装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の養殖データ管理装置は、魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀を、それらの実際の配置を模して基本画面上に配置される複数の生簀セルとして表示する表示部を備える。各生簀セルには、当該各生簀セルに対応する各生簀に収容されている魚介類の基本情報が、表示部によって表示される。
【0008】
本態様では、魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀の実際の配置を模した複数の生簀セルが基本画面上に表示される。そして、各生簀セルには、それに対応する各生簀に収容されている魚介類の基本情報が表示される。このような基本画面を見る養殖事業者等のユーザは、表示される各生簀セルと実際の各生簀を配置の類似性に基づいて直感的に関連付けることができ、当該各生簀セル/当該各生簀における魚介類の状況を基本情報から容易に把握できる。なお、本明細書において、魚介類とは、魚類、貝類、甲殻類、軟体動物、棘皮動物を含む、養殖可能な任意の水産動物、水生動物、海生動物等を表す。後述される実施形態では、魚介類として魚または養殖魚が具体的に例示されるが、これらの実施形態は、魚または養殖魚以外の養殖可能な任意の魚介類に適用可能または拡張可能である。
【0009】
本開示の別の態様もまた、養殖データ管理装置である。この装置は、複数の生簀を1つずつ識別する生簀識別情報と、複数の生簀のいずれかに収容される魚群について1つ以上の種苗に分類し、魚群ごとに割り当てられた魚群識別情報と、を記憶するデータベースと、生簀識別情報が割り当てられた生簀のうち1つに収容された魚群の少なくとも一部について、複数の生簀から新たな生簀を特定し、元の生簀から魚の収容先の変更を指示する指示部と、指示部によって魚群の収容先の変更が指示された場合に、新たな生簀に収容先が変更される魚群については、それぞれ元の生簀についての元の魚群識別情報に基づく新たな魚群識別情報を割り当てる割り当て部と、を備える。
【0010】
本態様によれば、魚群と生簀の組合せを効果的に把握できる。
【0011】
本開示の更に別の態様は、養殖データ管理方法である。この方法は、魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀を、それらの実際の配置を模して基本画面上に配置される複数の生簀セルとして表示させる際に、各生簀セルに、当該各生簀セルに対応する各生簀に収容されている魚介類の基本情報を表示させることを実行する。
【0012】
本開示の更に別の態様もまた、養殖データ管理方法である。この方法は、複数の生簀を1つずつ識別する生簀識別情報と、複数の生簀のいずれかに収容される魚群について1つ以上の種苗に分類し、魚群ごとに割り当てられた魚群識別情報と、を記憶するデータベースに対して、生簀識別情報が割り当てられた生簀のうち1つに収容された魚群の少なくとも一部について、複数の生簀から新たな生簀を特定し、元の生簀から魚群の収容先を変更する指示をする指示ステップと、指示ステップによって魚群の収容先を変更する指示がされた場合に、新たな生簀に収容される魚群については、それぞれ元の生簀についての元の魚群識別情報に基づく新たな魚群識別情報を割り当てる割り当てステップと、を含む。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀の状況の把握を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】養殖データ管理装置の機能的構成を示すブロック図である。
図2A】種苗(魚群)の池入の例を示す。
図2B】魚群の移動の例を示す。
図2C】魚群の分養の例を示す。
図2D】魚群の統合の例を示す。
図2E】魚群の初期化の例を示す。
図3】生簀構成を模式化した図である。
図4】生簀に収容した魚群の情報を画面に表示した状態を示す。
図4A図3および図4に基づく画面例を示す。
図5】池入・移動・分養・統合・初期化を繰り返した結果の生簀構成の変化を示す図である。
図5A】分養を記録する詳細画面の例を示す。
図5B】統合を記録する詳細画面の例を示す。
図5C】移動を記録する詳細画面の例を示す。
図5D】養殖場における複数の生簀および/またはそれらに収容されている魚介類の変遷を表示する画面の例を示す。
図5E】ユーザによって選択された特定の生簀に収容されている魚介類に関する飼育情報または養殖情報を記録または閲覧する画面である。
図5F】各生簀に収容されている魚介類の養殖に要した費用や採算性等を表示する画面である。
図6】データベースに記録するデータの内訳を示す。
図6A】分養の際のデータの変化を模式的に示す。
図6B】統合の際のデータの変化を模式的に示す。
図6C】移動の際のデータの変化を模式的に示す。
図7】養殖データ管理方法の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では、実施形態とも表される)について詳細に記述する。記述および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する記述を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、記述の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態において提示される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。実施形態は、便宜的に、それを実現する機能毎および/または機能群毎の構成要素に分解されて提示される。但し、実施形態における一つの構成要素が、実際には別体としての複数の構成要素の組合せによって実現されてもよいし、実施形態における複数の構成要素が、実際には一体としての一つの構成要素によって実現されてもよい。また、複数の実施形態や変形例が並列的に開示されうるが、各実施形態および/または各変形例の任意の構成要素は、互いの機能を阻害しない限り任意の態様で組み合わされてもよい。
【0017】
養殖魚の生産管理の独特な点は、牛や豚のような個体管理ができない点にある。畜産業ではどの個体にどれだけの飼料を与えたか、どの個体が体調を崩しているのか、ある程度一頭ずつ認識・記録することができる。一方で、養殖魚は水の中にいるためはっきりと個体を識別することができない。数千~数万尾の養殖魚を一つの生簀で飼育するのが一般的なため個体ではなく、群での生産管理が必要になる。
【0018】
養殖場には生簀が多数あり、養殖事業者は生簀で飼育している魚群に対して給餌や投薬、消毒、ワクチン接種などの生産活動を行っている。なお、生産管理上の養殖魚の集合のことをここでは魚群という。
【0019】
稚魚の魚群を養殖場内の生簀に導入することを池入という。池入は魚群に係る生産活動の起点となるイベントである。ここでは、池入時の魚群を種苗といい、通常の魚群とは区別して扱う。魚の飼育期間は魚種によって異なるが、導入される種苗によっても成長速度や生産効率に違いが生じることが多い。
【0020】
各魚群の尾数は魚病や災害、鳥害等によるへい死や出荷によって変化するだけでなく、魚の個々の成長により魚群の平均体重や平均体長も日々変化する。そのため、飼育効率や業務効率、リスク管理等の観点から適切に生簀の魚群構成を見直す必要が出てくることがある。そこで養殖場で行われるのが、移動や分養、統合といった生簀構成の変更である。
【0021】
移動とは、魚群の収容先の生簀を変更することである。ある魚群が収容されている生簀の近くに同じ魚齢や種苗の魚群を移動したり、出荷場所の近くに出荷前もしくは出荷中の魚群を移動したりすることで、生産活動における業務効率化を図る狙いがある。
【0022】
分養とは、ある生簀に入っている魚群を複数の生簀に分割して収容することをいう。たとえば、成長により生じた個体差を分養により平準化することで給餌効率を高めたり、統合を行い空の生簀を準備しておくことで円滑に稚魚の池入を行うことができたりする。また分養には、過密養殖による酸欠を防ぐことでへい死率を下げたり、魚病が蔓延するリスクを下げたりする狙いもある。分養先となる生簀が複数存在することもある。
【0023】
統合とは、複数の生簀に収容されている魚群を、一つの生簀にまとめることである。統合はへい死や出荷により大きく尾数が減った場合に行われることが多く、異なる魚齢や種苗の魚群が統合されることもある。
【0024】
これらの池入・移動・分養・統合に加えて、特定の生簀内の魚群に係る生産管理を終結させるイベントをここでは初期化または飼育完了という。初期化が行われるのは主に出荷やへい死により生簀内が空になる時である。また、魚群の尾数が少なくなったり養殖場における飼育対象の魚種が変更されたりすることで、継続的にある生簀内の魚群の生産指標を管理する必要性が乏しくなった時にも、便宜上、初期化が行われたものとみなすことができる。
【0025】
上記に示したような生簀構成の変更が行われると、管理対象となる魚群の構成が変化し、1つの生簀に複数の種苗が混在した魚群を管理するケースが生じてくる。このとき問題となるのは、種苗ごとに成長曲線や増肉計数、飼料効率、肥満度、歩留まり、原価、販売単価といった生産管理指標を把握するための計算処理が複雑かつ膨大になってしまうことである。たとえば、分養すると過去の給餌量や給餌コスト、へい死数などのデータを分養後の魚群の尾数で按分したうえで、按分後のデータを分養先に引き継がねばならい。更に、他の魚群と分養や統合を繰り返していくと、それぞれ異なる種苗情報や生産データを持つ複数の種苗を束ねた魚群を管理することになるため、複雑性は加速度的に増していくことになる。データ分析に関する専門的知見をもつ人材を養殖事業者が抱えていないことが多いことも相まって、データ活用には限界が生じてしまいやすくなっていた。
【0026】
生産管理指標の把握が難しくなっている要因は他にもある。その要因の1つとして紙を中心としたデータ管理が行われているということが挙げられる。養殖場内の生簀数が多くなると、データの再入力を行うだけでも多くの手間や時間を要する。デジタル化を図る選択肢としては他社がすでに提供している業務用アプリケーションや表計算ソフトが存在するものの、解釈のしづらいリスト形式で飼育記録を残す対象となる生簀を読み解く必要があったり、魚群と生簀の組合せが読み解きづらかったりするため、視覚的な把握には難点があった。
【0027】
紙のデータだけではなく、デジタル化されたデータにも課題がある。近年IT化・スマート化が進んできていることもあり、自動給餌器やICTブイ等の機器の導入が進んでおり、それらの機器を通じて養殖事業者は様々なデータを収集できるようになっている。しかし、それらのデータを各サービス上でしか扱えていないため、統合的にデータを集約・管理することができていない。
【0028】
以上のような背景から、養殖魚の生産管理におけるデータの管理・統合・分析は難易度が高くなっており、養殖事業者は局所最適な領域でしか生産情報を分析できていなかった。
【0029】
養殖事業は一般にコストの6割を餌代が占めるにも関わらず日々の生産活動に対する管理指標を把握できていないため、経験や勘のみに頼って意思決定をせざるを得なくなってしまっている。結果的に予算管理も曖昧になりやすい。客観的な意思決定ができなければ、事業の運営にも支障をきたしかねない。
【0030】
本実施形態は、以上のような課題を効果的に解決できる養殖データ管理装置等を提供することを一つの目的とする。
【0031】
本開示の一実施形態に係る養殖データ管理装置は、複数の生簀を1つずつ識別する生簀識別情報と、複数の生簀のいずれかに収容される魚群について1つ以上の種苗に分類し、魚群ごとに割り当てられた魚群識別情報と、を記憶するデータベースと、生簀識別情報が割り当てられた生簀のうち1つに収容された魚群の少なくとも一部について、複数の生簀から新たな生簀を特定し、元の生簀から魚の収容先の変更を指示する指示部と、指示部によって魚群の収容先の変更が指示された場合に、新たな生簀に収容先が変更される魚群については、それぞれ元の生簀についての元の魚群識別情報に基づく新たな魚群識別情報を割り当てる割り当て部と、を備える。
【0032】
生簀の座標情報に紐付く形で魚群と生簀の組合せがわかるようになれば、生簀数の多い養殖場でも視覚的に理解しやすい形式で生簀構成を表現できるようになるため、操作性や使いやすさを高めることができる。また他社の機器とAPIを経由するなどしてデータを接続させる際も魚群と生簀の組合せがわかればデータの連携先が明確になり、円滑にデータ統合を進めていくことができる。そこで本実施形態に係る養殖データ管理装置では、飼育期間中の該当日に養殖場を空撮した場合の生簀構成をシステム上で模式的に表現する。
【0033】
また、池入・移動・分養・統合・初期化の前後で、魚群と生簀の組合せがどのように変更されたのかを把握することができれば、給餌量・投薬量・へい死数などの各種生産データを種苗ごとに按分する計算を簡単に行えるようになり、池入・移動・分養・統合・初期化によって生じるデータ処理の複雑性の問題を解消することができる。そこで本実施形態に係る養殖データ管理装置では、魚群と生簀に関する生産管理上のデータ構成と変更について管理を行う。
【0034】
本実施形態に係る養殖データ管理装置の制御部は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、画像処理部と、メモリを備えている。CPU、ROM、RAM、画像処理部およびメモリは、バスを介して相互に接続されている。
【0035】
CPUは、ROMに記録されているプログラム、またはメモリからRAMにロードされたプログラムに従って各種処理を実行する。RAMには、CPUが各種処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0036】
画像処理部は、DSP(Digital Signal Processor)や、VRAM(Video Random Access Memory)等から構成されており、CPUと協働して、画像のデータに対して各種画像処理を施す。
【0037】
メモリは、DRAMやキャッシュメモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等何らかの記憶媒体が挙げられる。メモリは、バスにより接続されるもののみならず、ドライブまたはインターネットを介して読み書きされるものも含まれる。本実施形態で記憶されたデータは、一時的記憶も不揮発性メモリによる長期記憶の場合も、このメモリにいったん記憶するものとして説明する。特に、本実施形態に係る養殖データ管理装置の制御部は次の図1に示す機能を有する。
【0038】
図1は、養殖データ管理装置の機能的構成を示すブロック図である。図1に示す養殖データ管理装置の制御部は、データベース110と、指示部120と、割り当て部130と、表示部140を備える。
【0039】
以下で説明される作用および/または効果の少なくとも一部を養殖データ管理装置が実現できる限り、これらの機能ブロックの一部は省略されてもよい。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現されてもよい。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現されてもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現されてもよい。
【0040】
データベース110は、魚群を収容する生簀ごとに割り当てられた、複数の生簀を1つずつ識別する生簀識別情報(生簀ID)と、この複数の生簀のいずれかに収容される魚群について1つ以上の種苗に分類し、魚群ごとに割り当てられた魚群識別情報(魚群ID)と、を記憶する。魚群は、この複数の生簀のいずれかに収容され、生簀識別情報と魚群識別情報の組合せがデータベース110に記憶される。
【0041】
指示部120は、生簀識別情報が割り当てられた生簀のうち1つに収容された魚群の少なくとも一部について、データベース110にある複数の生簀から新たな生簀を特定し、新たな収容先として変更を指示する。割り当て部130は、指示部120によって新たな収容先への変更が指示された場合に、新たな生簀に収容する魚群については、それぞれ元の生簀についての元の魚群識別情報に基づく新たな魚群識別情報の割り当てを行う。表示部140は、前記生簀識別情報ごとに、当該生簀識別情報で特定される生簀に含まれる魚群の魚群識別情報で特定される情報を表示する。
【0042】
図2Aに、種苗(魚群)の池入の例を示す。池入例201に示すとおり、一般的には第三者から稚魚の魚群を購入し、養殖場内の生簀に導入する。次に図2Bに魚群の移動の例を示す。移動例202に示すとおり、移動をしても魚群そのものには変化がないため、移動前後での魚群は同一のものとなる。しかし収容先の生簀は移動により変更されるため、生簀構成には影響がある。図2Cに魚群の分養の例を示す。分養により魚群内の各個体の個体差を平準化させるとともに、飼育尾数の調整を図る場合、分養例203に示すとおりとなる。更に図2Dに魚群の統合の例を示す。統合例204に示すとおり、統合をすると異なる生簀に収容されていた魚群が1つの生簀にまとめて収容されることになる。最後に図2Eに魚群の初期化の例を示す。生簀内に魚群が存在している状態で初期化を行う場合、初期化例205に示すとおりとなる。生簀内の情報が初期化されるため、初期化完了後の生簀は空の状態となる。実態としては魚群が存在していたとしても、生産管理上では初期化された魚群は存在しないものとして扱われる。
【0043】
池入の場合の指示部120と割り当て部130の処理を説明すると、指示部120は、この新たな生簀として1つの生簀識別情報を指定し、新たな生簀に池入される種苗の尾数を新たに収容するよう指示する。割り当て部130は、新たな生簀に収容された魚群に新たな魚群識別情報を割り当て、種苗情報を新たな魚群識別情報について含める。
【0044】
移動の場合の指示部120と割り当て部130の処理を説明すると、指示部120は、この元の生簀として1つの生簀識別情報を指定し、この新たな生簀として1つの生簀識別情報を指定し、元の生簀に収容されている魚群の尾数を新たな生簀に収容するよう指示する。割り当て部130は、新たな生簀に収容された魚群に対して、元の魚群識別情報の情報を割り当てる。
【0045】
分養の場合の指示部120と割り当て部130の処理を説明すると、指示部120は、この元の生簀として1つの生簀識別情報を指定し、この新たな生簀として1つもしくは複数の生簀識別情報を指定し、新たな生簀にそれぞれ収容する尾数を指定し、新たな生簀にそれぞれ指定した尾数の魚群を収容するよう指示する。割り当て部130は、新たな生簀ごとに収容される魚群ごとに新たな魚群識別情報を割り当て、元の魚群識別情報の情報を新たな魚群識別情報について含める。
【0046】
統合の場合の指示部120と割り当て部130の処理を説明すると、指示部120は、この元の生簀として1つもしくは複数の生簀識別情報を指定し、この新たな生簀として1つの生簀識別情報を指定して、それぞれの元の生簀から新たな生簀に収容する尾数を指定し、新たな生簀に指定した尾数の魚群を収容するよう指示する。割り当て部130は、新たな生簀に収容される魚群に新たな魚群識別情報を割り当て、元の生簀に収容されていた魚群ごとに、元の魚群識別情報の情報を新たな魚群識別情報について含める。
【0047】
初期化の場合の指示部120と割り当て部130の処理を説明すると、指示部120は、この元の生簀として1つの生簀識別情報を指定し、元の生簀を初期状態に戻すよう指示する。割り当て部130は、元の生簀に収容された魚群の魚群識別情報の割り当てを削除する。
【0048】
図3は、生簀構成を模式化した図である。データベース110は、図3に示す生簀の配置および各生簀で保有する魚群の情報をデータベースとして保持する。生簀は必ずしも矩形であるであるとは限らないが、図3では便宜上矩形であるものとして表現する。図3に示すように、行方向にA-1、B-1、・・・、列方向にA-1、A-2、・・・と生簀がそれぞれ配置されている。
【0049】
生簀構成を形成するセルの一つ一つが生簀を表現しており、セルによる各レコードは主に、行(1,2,3,・・・)、列(1,2,3,・・・)、名前(A-1,A-2,・・・,B-1,・・・,E-1,E-2)、という3つの情報を格納する。図3の例の場合、4行5列の合計20の生簀レコードまたは生簀セルが存在している。
【0050】
図4は、生簀に収容した魚群の情報を画面に表示した状態を示す。データベース110は、図3に示す各生簀の情報を保持しており、表示部140はこの生簀と収容される魚群の情報を図4に示すように表示する。魚が収容されていない生簀は空であり、魚群の情報は保持されていないため、生簀名のみが表示される。
【0051】
たとえば生簀A-1のように、ブリ当歳、18000尾、近大産、といった情報が表示される。同様に、B-1にはブリ2年生、7600尾、近大産、C-1は空、D-1にはマダイ当歳、15000尾、近大産、と各生簀内の情報が保持されている。図4の例では生簀1つ当たり魚群1つという形で配置されているが、分養や統合を繰り返すと複数の種苗を束ねた魚群を収容することになる。複数の種苗が同時に混在する場合は尾数が多い種苗の魚群情報が優先して表示される。
【0052】
このように、本実施形態に係る養殖データ管理装置では、養殖に係る養殖場を鳥瞰し、模式化して示すことにより、特定の日時において、どこの生簀にどんな魚群が何尾収容されているかを直感的に知ることができる。
【0053】
図4Aは、図3および図4に基づく画面例を示す。これは、養殖事業者等のユーザが使用するスマートフォン、タブレット、パーソナルコンピュータ等の任意の情報処理デバイスのディスプレイ等の表示部140に表示される基本画面の例である。
【0054】
表示部140は、魚介類または魚の養殖場に設けられる複数の生簀を、それらの実際の配置を模して基本画面上に配置される複数の生簀セルとして表示する。図4に関して前述されたように、各生簀セルには、当該各生簀セルに対応する各生簀に収容されている魚介類または魚の基本情報が、表示部140によって表示される。
【0055】
基本情報は、各生簀セル内の限られたスペースに十分な視認性を伴って表示可能である限り、任意に選択可能である。図4Aの例では、基本情報として、各生簀セルに対応する各生簀に収容されている魚の代表的な魚種(カンパチ、ブリ等)、平均体重(カメラ等で各魚または魚群を撮影し、画像解析等を通じて各魚の体重または魚群の平均体重を推定する技術が知られている)、尾数が選択されている。このように選択された基本情報のセットは、全ての生簀セル(ブランクであるものを除く)について共通で表示される。このため、養殖事業者等のユーザは、養殖場に設けられる多数の生簀の全体的な状況を一覧できると共に、個々の生簀の状況を他の生簀の状況と比較しながら的確に把握できる(後述されるように、個々の生簀の状況の詳細画面にも遷移可能である)。
【0056】
図4Aの例では、基本画面上に、複数の生簀セルを格子状に表示可能な格子表示領域31が設けられる。図3および図4に関して前述されたように、格子表示領域31は、実際の各生簀に対応する各生簀セルを、格子状または行列状に表示可能である。具体的には、画面における横方向の並びである行を指定する行番号(1、2、3…)と、画面における縦方向の並びである列を指定する列番号(A、B、C…)の組合せまたは対によって指定される格子点(A-1、A-2、B-1、B-2…)に、生簀セルが表示可能である。このように行番号と列番号の対である格子点番号は、当該格子点に表示または配置される各生簀セルに対応する各生簀を識別する生簀識別情報(生簀ID)を構成する。図4Aに例示されるように、この生簀識別情報としての格子点番号または行列番号は、上記の魚介類または魚の基本情報と共に、各生簀セルに関連付けて表示される。
【0057】
図4Aに例示されるように、格子表示領域31における全ての格子点が、魚介類または魚の基本情報が入力された有効な生簀セルによって占められている必要はない。むしろ、図4Aのような基本画面上に表示される複数の生簀セルが、実際の養殖場に設けられる複数の生簀の物理的な配置を模式的に再現する上では、このようにブランクまたは疎密のある表示を採用するのが好ましい。
【0058】
具体的には、格子表示領域31において、複数の生簀の実際の配置において生簀が存在しない場所に対応する格子点(例えば、A-1~A-4、B-1、C-1~C-2、C-6)における「無効」な生簀セルは、他の「有効」な生簀セルより視認性が低い態様(例えば、グレーアウト)で表示されてもよい。そして、「無効」な生簀セルに対応する生簀は実際には存在しないため、当該生簀セルは上記の魚介類または魚の基本情報が入力されずにブランクになっている。
【0059】
なお、格子表示領域31において、複数の生簀の実際の配置において生簀が存在しない場所に対応する格子点(例えば、A-1~A-4、B-1、C-1~C-2、C-6)には、そもそも生簀セルが表示されなくてもよい。また、格子表示領域31では、実際に生簀が存在しない場所に対応する格子点と、実際に存在するものの魚介類または魚が養殖されていない空の生簀に対応する格子点で、異なる態様の表示が行われてもよい。例えば、実際に生簀が存在しない場所に対応する格子点には、生簀セルが表示されなくてもよく、空の生簀に対応する格子点には、ブランクの生簀セルがグレーアウト等または他の有効な生簀セルと同様の態様で表示されてもよい。
【0060】
以上のような本実施形態では、魚介類の養殖場に設けられる複数の生簀の実際の配置を模した複数の生簀セルが基本画面上に表示される。そして、各生簀セルには、それに対応する各生簀に収容されている魚介類の基本情報が表示される。このような基本画面を見る養殖事業者等のユーザは、表示される各生簀セルと実際の各生簀を配置の類似性に基づいて直感的に関連付けることができ、当該各生簀セル/当該各生簀における魚介類の状況を基本情報から容易に把握できる。
【0061】
なお、基本画面における格子表示領域31は、図4Aに例示されるような縦方向(列方向)および横方向(行方向)に沿って整列配置された格子点(生簀セルを表示可能な点または単位領域)によって構成されるものに限らず、基本画面において交差する任意の二つの直線状または曲線状の方向(例えば、少なくとも一方は基本画面における斜め方向)に沿って、それぞれ任意の間隔で整列配置された格子点によって構成されてもよい。
【0062】
また、基本画面において複数の生簀セルが表示される態様は、図4Aに例示されるような格子状または行列状に限らず、任意の規則的な二次元パターンに従ってもよいし、実際の生簀の配置を可能な限り忠実に模した不規則的な配置に従ってもよい。以上のように、基本画面において複数の生簀セルが配置または表示される態様は、養殖場に設けられる実際の複数の生簀との対応関係を、養殖事業者等のユーザが視認または理解できる程度に類似していれば任意である。
【0063】
ここで、複数の生簀/生簀セルの配置は、各生簀/生簀セルの代表位置(座標)、各生簀/生簀セルの向き、任意の二つの生簀/生簀セルの間の相対位置(変位や距離)等によって複合的に定められる。従って、複数の生簀セルを基本画面上に配置する際に、実際の生簀の配置における代表位置、向き、相対位置等を総合的に考慮することで、以上の目的に適った生簀セルの類似配置を実現できる。
【0064】
例えば、実際の三つの生簀に対応する三つの生簀セルを基本画面上に配置する場合を考える。ここで、第1の生簀と第2の生簀の間の距離をd12とし、第1の生簀と第3の生簀の間の距離をd13とした場合、d12>d13であったとする。この場合、第1~第3の生簀に対応する第1~第3の生簀セルを基本画面上に配置する際に、第1の生簀セルと第2の生簀セルの間の距離d12′と、第1の生簀セルと第3の生簀セルの間の距離d13′について、実際の生簀配置におけるd12>d13という大小関係に倣ってd12′>d13′とすることで、類似の生簀セル配置を実現できる。
【0065】
但し、前述されたように、配置の類似性が担保できる限り、配置の厳密な相似性が求められるものではない。例えば、上記の例において、対応する二つの距離の比d12/d13およびd12′/d13′が、厳密に一致する必要はない。なお、以上では、複数の生簀/生簀セルの間の相対的な距離(絶対値)について例示的かつ簡易的に説明したが、複数の生簀/生簀セルの間の相対的な方向(例えば、変位ベクトルの方向)についても、養殖事業者等のユーザが視認する際の最低限の類似性が担保できる限り、厳密な相似性が求められるものではない。
【0066】
以上のように、基本画面上における生簀セルの配置は、実際の生簀の配置と類似している限り任意であるが、各生簀セルの形状は前述の基本情報を入力するために共通化されているのが好ましい。例えば、図4Aに例示されるように、実際の生簀の形状に関わらず、全ての生簀セルの形状が一律に同じ矩形とされてもよい。このように、各生簀セルの形状は、実際の各生簀の形状と異なっていてもよい。以上のような共通または同一の形状の生簀セルを使用することによって、基本画面は統一感および美観に優れたユーザインターフェースを提供できる。一方で、生簀セルの配置は実際の生簀の配置を模しているため、各生簀セルの形状が実際の各生簀と異なっていたとしても、養殖事業者等のユーザは、各生簀セルを各生簀に容易に関連付けることができる。
【0067】
なお、実際の養殖場における生簀は、その代表位置(座標)に任意の向きで生簀枠を配置し、養殖対象の魚介類が当該生簀枠外に逃げないように網等を設置したものである。本実施形態に係る養殖データ管理装置は、各生簀における生簀枠や網の有無や設置態様その他の設置情報を、各生簀セルに紐付けて記録または管理してもよい。この場合、図4Aのような基本画面や生簀セル毎の詳細画面(不図示)において、各生簀セルが、生簀枠および/または網の設置情報に応じて、視覚的に異なる態様で表示されてもよい。例えば、生簀枠が未設置の生簀セルの輪郭線はなく(あるいは、前述のように生簀セル自体が非表示でもよい)、生簀枠が設置済で網が未設置の生簀セルの輪郭線は点線で表示され、生簀枠および網が設置済の生簀セルの輪郭線は実線で表示されてもよい。
【0068】
図4Aに例示される基本画面には、生簀セルを表示するための前述の格子表示領域31に加えて、表示対象の日付や日時をユーザが選択可能な表示対象日選択領域32(図4Aの例では「2023/3/24月」が選択されている)と、表示対象の養殖場の「内水面」や「海面」等の種別をユーザが選択可能な養殖場種別選択領域33(図4Aの例では「海面」が選択されている)と、表示対象日選択領域32および養殖場種別選択領域33によって選択された日および養殖場における「溶存酸素」や「水温」等の養殖場の状態を表示する養殖場状態表示領域34が設けられる。なお、養殖場状態表示領域34は、格子表示領域31においてユーザによって選択された特定の生簀セルに対応する特定の生簀における「溶存酸素」や「水温」等の状態を表示してもよい。
【0069】
以上、図4および図4Aのように示した生簀構成は、池入・移動・分養・統合・初期化を行うことで変更することができる。生簀構成の変更が発生する場合は、その日時、変更前後の生簀・魚群・種苗の情報をデータベース110に記録し、図4の表示画面または図4Aの基本画面を更新する。
【0070】
ここで一例として、生簀が5つ存在する養殖場において生簀構成の変更を行った場合に、生簀・魚群・種苗の情報がどのように変化していくかを時系列に沿って考える。図5は、池入・移動・分養・統合・初期化を繰り返した結果の生簀構成の変化を示す図である。生簀501内に魚群510の種苗を池入し、魚群510に対して分養を行った場合、生簀501内は魚群510の一部として魚群511が収容され、新たな生簀502に残りの魚群512が収容される。
【0071】
次に生簀504内に魚群520の種苗を池入し、魚群520に対して分養を行った場合、生簀503内は魚群520の一部として魚群521が収容され、新たな生簀505に残りの魚群522が収容される。
【0072】
このように分養することで同じ種苗が複数の魚群に分かれる。給餌量や給餌コスト、へい死数などの生産データは分養後の魚群の尾数で按分され、分養先のそれぞれの魚群に引き継がれる。また種苗情報についても同様に引き継がれる。
【0073】
図5Aは、一つの特定の生簀に収容されている魚介類を複数の生簀に分ける分養を記録する詳細画面の例を示す。この分養画面は、例えば、図4Aの基本画面に表示されている複数の生簀セルのうち特定の生簀セルに対するユーザ操作(例えば、分養対象の一つの生簀セルの選択操作)に応じて、遷移可能または表示可能である。図5Aの例では、分養対象の特定の生簀セルとして、「B-6」を生簀IDとする一つの生簀セルが、図4Aの基本画面において指定されている。
【0074】
以上のように基本画面から遷移可能な分養画面は、分養に関する様々な情報を記録または表示する。例えば、分養の日時、分養元の生簀セル、分養先の生簀セル、分養前に分養元の生簀に収容されている尾数、そのうち分養によって分養先の生簀に移動する尾数、分養後の各生簀における尾数、分養後の各生簀における魚群の平均体重、備考等が、分養画面において記録または表示される。
【0075】
図5Aの例では、分養の日時として、日付「2023/04/24」および時刻「9:00」がユーザによって入力されており、分養元の生簀に対応する生簀セルとして、「B-6」の生簀セルが図4Aの基本画面において指定されており、分養先の生簀に対応する生簀セルとして、「C-6」を生簀IDとする一つの生簀セルがユーザによって指定されており、分養前に分養元の生簀「B-6」に収容されている尾数として、「4,620」が図4Aの基本画面やデータベース110に記録済の基本情報に基づいて自動的に入力されており(または、ユーザによってマニュアル入力されていてもよい(後述される尾数調整))、「4,620」尾のうち分養によって分養先の生簀「C-6」に移動する尾数として、「2,500」がユーザによって入力されており、分養後の各生簀における尾数として、分養元の生簀「B-6」についての「2,120」(=「4,620」-「2,500」)と分養先の生簀「C-6」についての「2,500」が自動的に入力されており、分養後の各生簀における魚群の平均体重として、「2,000」がユーザによって入力されている(典型的なケースでは、両生簀における魚群の平均体重は実質的に同じであるが、分養時に各生簀における魚群の平均体重を測定した場合には、それぞれの測定値を個別に入力可能である)。
【0076】
図5Aに例示されるように、分養が詳細画面において記録されると、図4Aの基本画面における対象の生簀セル「B-6」および「C-6」の基本情報(例えば、図5Aで入力された平均体重や尾数)が当該分養に応じて更新される。なお、図4Aの基本画面において、分養直後等に対象の生簀セル「B-6」および「C-6」が、他の生簀セルと異なる態様で強調表示されてもよい。
【0077】
図5において、更に生簀502内の魚群512と生簀503内の魚群521を統合し、新たな生簀504に収容する。生簀504に収容される新たな魚群を魚群531とする。統合時は魚群512と魚群521に紐づく生産データが合算され、統合先の魚群531に引き継がれる。種苗情報についても分養同様、魚群512と魚群521からそれぞれ引き継がれる。また統合後の生産データ(給餌、投薬、へい死、成長など)については魚群531を構成する魚群512と魚群521の尾数で按分する。
【0078】
図5Bは、複数(図示の例では二つ)の特定の生簀に収容されている魚介類を一つの生簀にまとめる統合を記録する詳細画面の例を示す。この統合画面は、例えば、図4Aの基本画面に表示されている多数の生簀セルのうち複数の特定の生簀セルに対するユーザ操作(例えば、統合対象の二つの生簀セルの選択操作)に応じて、遷移可能または表示可能である。図5Bの例では、統合対象の特定の生簀セルとして、「B-3」を生簀IDとする生簀セルと「C-3」を生簀IDとする生簀セルが、図4Aの基本画面において指定されている。
【0079】
以上のように基本画面から遷移可能な統合画面は、統合に関する様々な情報を記録または表示する。例えば、統合の日時、統合元の複数の生簀セル、統合先の一つの生簀セル、統合前に統合元の各生簀に収容されている統合対象の尾数、統合によって統合先の生簀に移動する尾数、統合後の各生簀における尾数、統合後の各生簀における魚群の平均体重、備考等が、統合画面において記録または表示される。
【0080】
図5Bの例では、統合の日時として、日付「2023/04/24」および時刻「9:00」がユーザによって入力されており、統合元の複数の生簀に対応する生簀セルとして、「B-3」および「C-3」の複数の生簀セルが図4Aの基本画面において指定されており、統合先の一つの生簀に対応する生簀セルとして、「A-3」を生簀IDとする一つの生簀セルがユーザによって指定されており、統合前に統合元の各生簀「B-3」「C-3」に収容されている統合対象の尾数として、それぞれの全数である「2,110」「2,500」が図4Aの基本画面やデータベース110に記録済の基本情報に基づいて自動的に入力されており(または、ユーザによってマニュアル入力されていてもよい)、統合によって統合先の生簀「A-3」に移動する尾数として、統合対象の尾数として入力されている「2,110」「2,500」およびその和である「4,610」が自動的に入力されており、統合後の各生簀における尾数として、統合元の生簀「B-3」「C-3」についての「0」と統合先の生簀「A-3」についての「4,610」が自動的に入力されており、統合後の各生簀における魚群の平均体重として、統合先の生簀「A-3」についての「2,300」が図4Aの基本画面やデータベース110に記録済の基本情報や統合時の体重測定結果に基づいて自動的に入力されている(または、ユーザによってマニュアル入力されていてもよい)。
【0081】
なお、統合前に統合元の生簀「B-3」「C-3」に収容されている統合対象の尾数として、それぞれの全数である「2,110」「2,500」より少ない尾数が、ユーザによってマニュアル入力されてもよい。この場合、統合対象外の尾数は、統合後に統合元の生簀に残る。このため、当該生簀を単独で見れば分養が行われたことになる(一部の尾数が統合先の生簀に移り、残りの尾数が統合元の生簀に残存する)。このように、統合は分養を兼ねうる。
【0082】
同様に、分養は統合を兼ねうる。図5Bと異なる例として、分養元の生簀「A-1」から一部の尾数を分養先の生簀「B-1」に分養した場合を考える。ここで、当該分養先の生簀「B-1」は空でなかったものとする。この場合、当該分養先の生簀「B-1」では、元々飼育されていた尾数に対して、分養元の生簀「A-1」からの分養尾数が統合されることになる。
【0083】
更に、図5Bの例において、統合前に統合元の生簀「B-3」「C-3」に収容されている統合対象の尾数として、それぞれの全数である「2,110」「2,500」が入力されている場合、統合元の生簀「B-3」「C-3」から統合先の生簀「A-3」(例えば、統合前は空であったとする)への移動が行われたことになる。このように、統合は移動を兼ねうる。
【0084】
図5Bに例示されるように、統合が詳細画面において記録されると、図4Aの基本画面における対象の生簀セル「B-3」「C-3」「A-3」の基本情報(例えば、図5Bで入力された平均体重や尾数)が当該統合に応じて更新される。なお、図4Aの基本画面において、統合直後等に対象の生簀セル「B-3」「C-3」「A-3」が、他の生簀セルと異なる態様で強調表示されてもよい。
【0085】
図5において、魚群512と魚群521で構成される生簀504内の魚群531を更に生簀502と生簀503に分養する。生簀502には魚群541、生簀503には魚群542の魚群がそれぞれ新たに収容される。このとき魚群531の生産データが尾数で按分されたり、種苗情報が各魚群に引き継がれたりする点については先に述べた通りである。生簀502の魚群541については、その後初期化が行われ、生簀と魚群の組合せが解消されている。以降、生簀502は空の状態となる。
【0086】
最後に、生簀505に収容されている魚群522を、生簀504に移動する。魚群は同一であるが、生簀と魚群の組合せは変更される。
【0087】
図5Cは、一つの特定の生簀に収容されている魚介類を一つの他の生簀に移す移動を記録する詳細画面の例を示す。この移動画面は、図5Aの分養画面や図5Bの統合画面と同様に、図4Aの基本画面と完全に別の画面として構成されてもよいが、図5Cの例では、図4Aの基本画面の一部が変化した画面として構成されている。この移動画面は、例えば、図4Aの基本画面に表示されている複数の生簀セルのうち一つの特定の生簀セル(不図示)に対するユーザ操作(例えば、移動元の一つの生簀セルの選択操作)に応じて表示可能である。
【0088】
この移動画面は、移動に関する様々な情報を記録または表示する。例えば、移動の日時、移動元・移動先の生簀セルの組合せが、移動画面において記録または表示される。図5Cの例では、移動の日時として、日付「2023/04/24」および時刻「9:00」がユーザによって入力されており、移動元の一つの生簀に対応する生簀セルとして、「D-1」を生簀IDとする一つの生簀セルがユーザによって選択されている。このように選択された移動元の生簀セル「D-1」は、他の生簀セルと異なる態様で強調表示されている。
【0089】
この状態でユーザによって移動先の生簀セル(不図示)が指定されると、移動元の生簀セル「D-1」に紐付いて記録されていた魚の全数およびその関連情報が、移動先の生簀セルにそのまま転記された後に、再び移動元の生簀セル「D-1」が選択可能になる。なお、ユーザによって選択された移動先の生簀セル(不図示)や既に移動の指定を行った生簀セル(不図示)も、移動元の生簀セル「D-1」と同じまたは異なる態様で強調表示されてもよい。
【0090】
以上のように移動元と移動先の生簀セルの組合せを指定した後、ユーザが決定操作(例えば、図5Cの最下部に表示されている「次へ」のタップ操作)を行うと、図4Aの基本画面における対象の生簀セル「D-1」等の基本情報(例えば、魚種、平均体重、尾数)も当該移動に応じて更新される。具体的には、移動元の生簀セル「D-1」の全基本情報が、移動先の生簀セル(不図示)の基本情報として転記されると共に、移動元の生簀セル「D-1」は基本情報のないブランクセルになる。なお、図4Aの基本画面において、移動直後等に対象の生簀セル「D-1」等が、他の生簀セルと異なる態様で強調表示されてもよい。
【0091】
図5Dは、養殖場における複数の生簀および/またはそれらに収容されている魚介類の変遷を表示する画面の例を示す。この変遷画面は、例えば、図4Aの基本画面から所定のユーザ操作に応じて遷移可能であり、各生簀および/またはそこに収容されている魚介類の変遷を、基本画面と同様の態様で表示する。具体的には、変遷画面には、図4Aの基本画面と同様の格子表示領域31が設けられる。
【0092】
変遷画面には、生簀および/または魚介類の変遷に関する主要なイベント(例えば、池入、移動、分養、統合、飼育完了)をユーザが選択可能な変遷イベント選択領域35が設けられる。この変遷イベント選択領域35には、過去に対象の養殖場において記録された変遷イベントが、そのタイプ(例えば、池入、移動、分養、統合、飼育完了)や日付等の発生時と共に、時系列で選択可能に表示されている。
【0093】
変遷イベント選択領域35に表示されている複数の変遷イベントのうち、一つの変遷イベントがユーザによって選択されると(図5Dの例では、「2023/4/11」の「分養」が選択されている)、当該一つの変遷イベントの完了または記録の直後の生簀および魚介類の状態が格子表示領域31に表示される。なお、この状態で、ユーザが特定の生簀セルを選択することで、当該特定の生簀セルおよび/またはそこに収容されている魚介類の当該変遷イベント直後の詳細情報を、不図示の詳細画面において確認できる。
【0094】
表示部140は、以上に例示された様々な画面に加えてまたは代えて、複数の生簀セルのうち特定の生簀セルに対するユーザ操作に応じて、当該特定の生簀セルに対応する特定の生簀およびそこに収容されている魚介類の少なくともいずれかに関する、図5E図5Fに例示されるような他の詳細画面も表示できる。
【0095】
図5Eに例示される詳細画面は、ユーザによって選択された特定の生簀に収容されている魚介類に関する飼育情報または養殖情報を記録または閲覧する画面である。この飼育画面は、例えば、図4Aの基本画面に表示されている多数の生簀セルのうち一つの特定の生簀セルに対するユーザ操作に応じて、遷移可能または表示可能である。図5Eの例では、飼育情報の記録または閲覧の対象の特定の生簀セルとして、「B-2(海面)」を生簀IDとする生簀セルが選択されている。
【0096】
この飼育画面には、飼育情報の記録または閲覧の対象の日付等の対象時をユーザが選択可能な対象時選択領域36が設けられる。図5Eの例では、対象時として「2023/4/24」が選択されている。基本情報表示領域37には、対象時選択領域36において選択された対象時に、対象の生簀(生簀セル「B-2」)に収容されている魚介類の基本情報(例えば、魚種、平均体重、尾数)が表示される。
【0097】
種別選択領域38には、記録または閲覧の対象の飼育情報の種別が、ユーザによって選択可能に設けられる。図示の例では、餌や薬剤等の投与物の投与に関する「投与」、当該生簀における尾数の減少に関する「斃死・廃棄」、当該生簀において発生している望ましくない病害、寄生虫、災害等の「魚病・災害」、当該生簀における尾数の調整に関する「尾数調整」(不図示)が、種別選択領域38において選択可能に設けられている。図示の例にあるように、種別選択領域38における各種別欄内には、記録済の対応する飼育情報の一部または全部が表示されてもよい。
【0098】
飼育情報記録領域39では、養殖事業者等のユーザが、種別選択領域38において選択した種別の飼育情報を記録または編集できる。図5Eの例では、種別選択領域38において「投与」が選択されており、飼育情報記録領域39では、対象の生簀(生簀セル「B-2」)に収容されている魚介類に対する餌や薬剤等の投与物の投与記録をユーザが入力可能である。具体的には、投与に関する飼育情報記録領域39では、投与時刻(なお、投与日は対象時選択領域36で選択済)、各投与物の名称その他の識別情報、投与量、単価(図5Eの例では、別画面で登録可能)等が記録可能である。
【0099】
なお、図示は省略されるが、種別選択領域38において「斃死・廃棄」が選択されている場合には、飼育情報記録領域39では、対象の生簀(生簀セル「B-2」)に収容されている魚介類の斃死数、廃棄数、それらの理由等をユーザが入力可能であり、種別選択領域38において「魚病・災害」が選択されている場合には、飼育情報記録領域39では、対象の生簀(生簀セル「B-2」)において発生している病害、寄生虫、災害等の概要や被害状況等をユーザが入力可能である。
【0100】
種別選択領域38において「尾数調整」が選択されている場合には、飼育情報記録領域39では、対象の生簀(生簀セル「B-2」)において実際に生存している尾数等をユーザが入力可能である。これは、対象の生簀における尾数の棚卸または在庫確認を可能にする。多数の魚が飼育されている生簀では、過去の記録時から尾数が増減することも想定されるため、ユーザが任意のタイミングで棚卸を行えるようにすることで、可能な限り正確な尾数の記録または捕捉が可能になる。なお、このような「尾数調整」のための入力欄は、分養(図5A)、統合(図5B)、移動(図5C)、投与(図5E)等の各イベントの入力画面に一体化されてもよい。実際の棚卸は、ワクチン接種等のイベントの際に併せて行われることが多いと想定されるため、このように「尾数調整」が組み込まれた画面構成が有利である。
【0101】
図5Fに例示される詳細画面は、各生簀に収容されている魚介類の養殖に要した費用や採算性等を表示する画面である。この画面例では、ユーザによって選択された月(図5Fの例では「2023年10月」が選択されている)および魚種(図5Fの例では「マダイ」が選択されている)に該当する各種苗(「近大2202」「山崎2305」等と示されているもの)について、当月における生存尾数、当月に投与された餌や薬剤等の量や原価、前月以前から繰り越された原価(「前月繰越種苗代」として示されている)、当月末における累計の原価等の、各種苗の採算性を把握するための様々な情報が一覧表示されている。
【0102】
これらの様々な情報は、前述の図5A図5C図5Eのような様々な記録画面を通じて記録された様々な情報に基づいて、自動的に演算または集計されたものである。例えば、当月における生存尾数は、図5A図5Cを通じて記録された生簀間を移動した尾数や、図5Eを通じて記録された斃死数や廃棄数に基づいて、自動的に算出または集計される。また、様々な投与物の量や原価は、図5E(または、そこから「仕入経路・単価設定」を通じて遷移可能な不図示の別画面)を通じて記録された情報に基づいて、自動的に算出または集計される。
【0103】
図5Fの例では、種苗「山崎2305」が選択または展開されて、四つの生簀「A-1」~「A-4」の情報にブレークダウンされている。このように、本画面を通じて、生簀毎の採算性を把握できる。例えば、生簀「A-2」に収容されている魚群の一尾当たりの累計原価は「129」円であり、それに生存尾数「11,970」尾を乗算することで、本生簀「A-2」に収容されている種苗「山崎2305」由来の魚群の総原価を容易に算出できる(それが、図5F等の画面に表示されてもよい)。なお、図5における魚群531のように、複数の種苗が一つの生簀に混在している場合は、それぞれの種苗の平均原価を生存尾数で加重平均したものが当生簀の魚群全体の平均原価となる(それが、図5F等の画面に表示されてもよい)。
【0104】
以上のような生簀毎の総原価(全尾の原価の合計)や平均原価(一尾当たりの原価)は、出荷前の原価であるため、在庫原価(会計上は資産)と表されてもよい。そして、生簀から魚群の一部または全部が出荷または販売されて売上が計上されると、売上尾数に応じた在庫原価が売上原価(会計上は費用)に振り替えられる。
【0105】
例えば、図5Fにおいて、生簀「A-2」に収容されている「11,970」尾のマダイのうち、「5,000」尾が翌月(2023年11月)初に出荷されたとする。この場合、総在庫原価「1,544」千円(=0.129千円*11,970尾)のうち、平均原価「129」円に出荷尾数「5,000」尾を乗算した「645」千円が、売上原価に振り替えられる。この結果、生簀「A-2」の総在庫原価としては「899」(=1,544-645)千円(6,970尾分)が残る。
【0106】
以降の月において、出荷までの間に餌や薬剤等が追加的に投与された場合は、その費用が在庫原価に加算される。また、以降の月において、斃死や廃棄等で生簀「A-2」における生存尾数が減少した場合や、他の生簀との間で尾数が移動した場合は、図5F等における生存尾数が経時的に更新される。図示は省略されるが、このような計算または遷移の過程や結果も、表示部140によって表示されるのが好ましい。以上のように、図5Fのような画面を通じて、任意のタイミングにおける種苗毎および/または生簀毎の費用や採算性を的確に把握できる。
【0107】
なお、以上の例では、魚群の原価として餌や薬剤等の投与物の費用が主に考慮されたが、本生簀や本魚群の維持管理費や、そのための養殖事業者の人件費等の間接費の少なくとも一部(会計上、売上原価としての計上が認められる部分)が、魚群および/または生簀の原価として記録されてもよい。その場合、図示は省略されるが、生簀毎および/または魚群毎の間接費をユーザが入力可能な画面が設けられる。
【0108】
また、魚群の採算性としては、一尾当たりの原価に加えてまたは代えて、単位重さ(例えば、1kg)当たりの原価も重要である。前述のように、魚群の平均体重はカメラ等を通じて推定可能であるため、このような「kg単価」等も容易に算出可能であり、図5F等の画面に併せて表示されてもよい。
【0109】
図6は、データベース110に記録するデータの内訳を示す。魚種については、魚種IDに紐付けて魚種名が管理されている。各魚群の群610ごとに群IDが割り当てられており、群IDごとに魚種IDが特定される。魚群には魚種は1種類のみであり、複数の魚種は含まれない。複数の魚種を同一の漁場で飼育する場合は魚種ごとに異なる魚種IDが割り当てられる。
【0110】
他方で生簀620ごとに生簀IDが割り当てられている。生簀IDごとに、生簀の行および列の位置、そして生簀の名称が割り当てられている。そして生簀群630ごとに群IDと生簀IDが割り当てられ、生簀IDの生簀で群IDの魚群を飼育する期間について開始日時と終了日時がそれぞれ記録されている。
【0111】
特定の生簀620に収容されている特定の群610に関する様々な飼育データ(例えば、給餌データ、斃死データ、出荷データ、不明尾数データ、魚病データ、投薬データ、消毒データ、ワクチン接種データ、尾数調整データ、平均体重測定記録、平均体長測定記録、平均体高測定記録)は、当該群610および当該生簀620の一方に紐付けて記録されてもよいが、当該群610および当該生簀620の組である生簀群630に紐付けて記録されるのが好ましい。
【0112】
本実施形態に係るデータベース110は、池入、移動、分養、統合、飼育完了等を通じて経時的に変化する生簀群630(群610および生簀620の組)に基づいて構築されるため、このような基礎データとしての生簀群630に飼育データを紐付けることは合理的であり、データベース110におけるトレーサビリティや検索性を高めることができる。また、図4A等の画面における基本表示単位である生簀セルは、データベース110における生簀群630そのものであるため、当該生簀群630に紐付けられた飼育データの一部(図4Aの例では、平均体重および尾数)を基本情報として生簀セル内に表示する目的にも適ったデータ体系になっている。
【0113】
図6Aは、分養の際のデータの変化を模式的に示す。本図の例では、生簀IDが「1」の生簀1が分養元であり、生簀IDが「2」の生簀2が分養先である。
【0114】
分養前の生簀1には、魚群IDが「N」のn尾の魚群または種苗(群N)が収容されている。群Nには、n尾の魚群または種苗に関する主に定性的な群情報または種苗情報が紐付いて記録されている。群情報としては、前述の魚種IDが例示される。また、前述のように、生簀1と群Nの組である生簀群(不図示)には、n尾の魚群または種苗に関する主に定量的な飼育データが紐付いて記録されている。
【0115】
図6Aにおける分養では、分養前のn尾の魚群または種苗のうちのb尾が分養先の生簀2に移動する。分養元の生簀1にはa尾の魚群または種苗が残る。従って、n=a+bである。
【0116】
分養元の生簀1に残るa尾の魚群または種苗には、新たな魚群IDとして「A」が付与される。子IDである「A」は親IDである「N」と異なるが、その親子関係「N-A」は不図示のテーブル等に保存される。このように新たに生成された魚群ID「A」のa尾の魚群または種苗(群A)には、親の群Nと実質的に同じ群情報または種苗情報が紐付いて記録される。
【0117】
また、生簀1と群Aの組である生簀群(不図示)には、a尾の魚群または種苗に関する主に定量的な飼育データが紐付いて記録される。この飼育データは、親の生簀群(生簀1×群N)に関する飼育データを、尾数の変化(n→a)を考慮して換算したものである。例えば、親の生簀群について記録された餌や薬剤等の投与物の累計投与量、総原価、総体重等は、尾数の変化に応じて按分される(つまり、a/nが乗算される)。なお、平均原価、平均体重、平均年齢等の一尾当たりの定量データや、魚病データ、消毒データ、ワクチン接種データ等の定性データは、そのまま子の生簀群(生簀1×群A)の飼育データとして引き継がれる。但し、定性データを引き継ぐ際には、当該定性データの基になった事象が、引き継がれたa尾の魚群または種苗において発生した旨の記録を併せて引き継ぐのが好ましい。
【0118】
分養先の生簀2に移るb尾の魚群または種苗には、新たな魚群IDとして「B」が付与される。子IDである「B」は親IDである「N」と異なるが、その親子関係「N-B」は不図示のテーブル等に保存される。このように新たに生成された魚群ID「B」のb尾の魚群または種苗(群B)には、親の群Nと実質的に同じ群情報または種苗情報が紐付いて記録される。
【0119】
また、生簀2と群Bの組である生簀群(不図示)には、b尾の魚群または種苗に関する主に定量的な飼育データが紐付いて記録される。この飼育データは、親の生簀群(生簀1×群N)に関する飼育データを、尾数の変化(n→b)を考慮して換算したものである。例えば、親の生簀群について記録された餌や薬剤等の投与物の累計投与量、総原価、総体重等は、尾数の変化に応じて按分される(つまり、b/nが乗算される)。なお、平均原価、平均体重、平均年齢等の一尾当たりの定量データや、魚病データ、消毒データ、ワクチン接種データ等の定性データは、そのまま子の生簀群(生簀2×群B)の飼育データとして引き継がれてもよい。但し、定性データを引き継ぐ際には、当該定性データの基になった事象が、引き継がれたb尾の魚群または種苗において発生した旨の記録を併せて引き継ぐのが好ましい。
【0120】
図6Bは、統合の際のデータの変化を模式的に示す。本図の例では、生簀IDが「1」の生簀1および生簀IDが「2」の生簀2が統合元であり、生簀IDが「3」の生簀3が統合先である。
【0121】
統合前の生簀1には、魚群IDが「A」のa尾の魚群または種苗(群A)が収容されている。群Aには、a尾の魚群または種苗に関する主に定性的な群情報または種苗情報が紐付いて記録されている。また、前述のように、生簀1と群Aの組である生簀群(不図示)には、a尾の魚群または種苗に関する主に定量的な飼育データが紐付いて記録されている。
【0122】
統合前の生簀2には、魚群IDが「B」のb尾の魚群または種苗(群B)が収容されている。群Bには、b尾の魚群または種苗に関する主に定性的な群情報または種苗情報が紐付いて記録されている。また、前述のように、生簀2と群Bの組である生簀群(不図示)には、b尾の魚群または種苗に関する主に定量的な飼育データが紐付いて記録されている。
【0123】
図6Bにおける統合では、統合前の生簀1におけるa尾の魚群または種苗の全てと、統合前の生簀2におけるb尾の魚群または種苗の全てが、統合先の生簀3に移動する。統合先の生簀3にはn尾の魚群または種苗が移る。従って、a+b=nである。
【0124】
統合先の生簀3に移るn尾の魚群または種苗には、新たな魚群IDとして「N」が付与される。子IDである「N」は親IDである「A」および「B」と異なるが、その親子関係「A-N」および「B-N」は不図示のテーブル等に保存される。このように新たに生成された魚群ID「N」のn尾の魚群または種苗(群N)には、親の群Aおよび群Bと実質的に同じ群情報または種苗情報が紐付いて記録される。なお、統合対象の群Aおよび群Bは、魚種等の群情報または種苗情報が実質的に同じものであるのが好ましいが、群情報または種苗情報が異なる群Aおよび群Bが統合される場合、両方の群情報または種苗情報が、統合後の群Nに紐付いて並列的に記録されるのが好ましい。
【0125】
また、生簀3と群Nの組である生簀群(不図示)には、n尾の魚群または種苗に関する主に定量的な飼育データが紐付いて記録される。この飼育データは、親の生簀群(生簀1×群Aおよび生簀2×群B)に関する飼育データを、統合(a、b→n)を考慮して換算したものである。例えば、親の生簀群について記録された餌や薬剤等の投与物の累計投与量、総原価、総体重等は、統合に応じて単純に加算される。また、平均原価、平均体重、平均年齢等の一尾当たりの定量データは、親の尾数(aおよびb)で加重平均される(あるいは、親の総原価、総体重、総年齢の和がnで除算される)。例えば、「群Nの平均原価」=「群Aの平均原価」×a/n+「群Bの平均原価」×b/n、である。更に、魚病データ、消毒データ、ワクチン接種データ等の定性データは、それぞれの親の尾数(a尾またはb尾)に対するデータとして、そのまま並列的に引き継がれてもよい。
【0126】
図6Cは、移動の際のデータの変化を模式的に示す。本図の例では、生簀IDが「1」の生簀1が移動元であり、生簀IDが「2」の生簀2が移動先である。
【0127】
移動前の生簀1には、魚群IDが「A」のn尾の魚群または種苗(群A)が収容されている。群Aには、n尾の魚群または種苗に関する主に定性的な群情報または種苗情報が紐付いて記録されている。また、前述のように、生簀1と群Aの組である生簀群(不図示)には、n尾の魚群または種苗に関する主に定量的な飼育データが紐付いて記録されている。
【0128】
図6Cにおける移動では、移動前の生簀1におけるn尾の魚群または種苗の全てが、移動先の生簀2に移動する。移動先の生簀2にはn尾の魚群または種苗が移る。
【0129】
移動先の生簀2に移るn尾の魚群または種苗は、移動元の生簀1にあった群Aと実質的に同じであるため、新たな魚群IDが付与される必要はなく、移動元の魚群ID「A」がそのまま引き継がれてもよい。このような移動後の魚群ID「A」のn尾の魚群または種苗(群A)には、親の群Aと実質的に同じ群情報または種苗情報が紐付いて記録される。
【0130】
また、生簀2と群Aの組である生簀群(不図示)には、n尾の魚群または種苗に関する主に定量的な飼育データが紐付いて記録される。この飼育データも、親の生簀群(生簀1×群A)に関する飼育データがそのまま引き継がれたものである。
【0131】
図7は、養殖データ管理方法の処理を示すフローチャートである。まずデータベース110を制御する制御部により、生簀構成をデータベース化し、データベース110に格納する(S110)。このときデータベース110は初期状態にある。この生簀構成について、図3図4を参照して説明したように、生簀ごとに生簀識別情報が用意されている。これらの生簀に対して魚群を収容すると、魚群の情報が生簀識別情報に対応付けてレコードとして記録され、これがデータベース110に格納される。
【0132】
データベース化された生簀構成で魚群を扱うためには、生簀に新たに種苗を池入し、養殖場に魚群を導入する必要がある(S120)。種苗を新たに池入すると、魚群の種苗情報がデータベース110内に保存される。種苗情報には池入年月や種苗元(種苗生産業者名や産地など)などの情報が含まれる。池入時に複数の生簀に分けて魚群を導入する場合は、基本的にはそれぞれの池入先の生簀で種苗情報をデータベ―スに保存する。また池入時には魚群の情報として、群IDに魚種IDを対応付けておく。
【0133】
次に、データベース110を制御する制御部により、生簀に収容された魚群について飼育の継続を行うかどうかについて判定を行う(S130)。飼育を継続する場合は、移動・分養・統合が行われた際にそれぞれ処理を行う。移動の場合は移動処理を行う(S140)。分養の場合は分養処理を行う(S150)。統合の場合は統合処理を行う(S160)。移動、分養、統合のいずれについても生簀構成が変更・更新される(S170)。指示部120により魚群と生簀の組合せの変更が生じる前の生簀識別情報と変更後の生簀識別情報を指定し、割り当て部130は、新たに生簀に収容される魚群について、新たな魚群識別情報を割り当てる。そして、ステップS130に戻って一連の処理を繰り返す。なお、移動、分養、統合のいずれもが発生しない場合、魚群と生簀の組合せの変更は発生しない。
【0134】
各生簀内の魚群において、給餌・へい死・投薬・消毒・ワクチンなどの各種生産データの入力が行われた場合は、各生簀識別情報と紐づく魚群識別情報に対して紐付けを行う。更に魚群を複数の種苗で構成する場合は、給餌量やへい死数といった量的データを尾数に応じて按分する。
【0135】
S130において飼育の継続をしないと判定された場合は、生産管理を終了する生簀と魚群の組合せを選択し、初期化の処理を行う(S180)。完了後は移動、分養、統合を行う際と同様に、生簀構成の変更・更新を行う。
【0136】
以上のように魚群と生簀についてデータベース化することにより、魚群の収容先となる生簀を変更することで異なる種苗を由来とする魚群が混じり合っても、魚群や種苗ごとの生産データを管理・統合・把握・分析できるようになる。得られた結果を活用し、増肉係数や原価といった生産管理指標を計算することで、給餌頻度や給餌量を最適化したり、販売計画を見直したりすることができる。無駄な給餌を抑制できればコストの増大を抑えることができ、水質悪化を抑制することもできる。
【0137】
以上、本開示について実施例を用いて説明したが、本開示の技術的範囲は上記実施例に記載の範囲には限定されない。上記実施例に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0138】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0139】
31 格子表示領域、110 データベース、120 指示部、130 割り当て部、140 表示部。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図4A
図5
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図6A
図6B
図6C
図7