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特開2025-29004疾患・体質の分析方法、疾患・体質の分析システム、プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体
<図1>
  • 特開-疾患・体質の分析方法、疾患・体質の分析システム、プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体 図1
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< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029004
(43)【公開日】2025-03-05
(54)【発明の名称】疾患・体質の分析方法、疾患・体質の分析システム、プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20250226BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20250226BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20250226BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12M1/34 Z
G01N33/53 M
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024207138
(22)【出願日】2024-11-28
(62)【分割の表示】P 2023080515の分割
【原出願日】2019-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】517331871
【氏名又は名称】医薬資源研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(74)【代理人】
【識別番号】100174012
【弁理士】
【氏名又は名称】小前 陽一
(72)【発明者】
【氏名】團 克昭
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡便な方法により採取した検体を用いて疾患の発症リスクの分析を行うことができる分析方法を提供する。
【解決手段】非侵襲の手段で採取した検体からエクソソームを抽出する工程と、前記エクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量する工程と、定量されたmicroRNA量に基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する工程とを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非侵襲の手段により採取した検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量する測定部と、
前記測定部により定量されたmicroRNA量を分析装置に送信する送信部と
を備える測定装置と、
前記測定装置から送信された前記microRNA量を受信する受信部と、
前記microRNA量に基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する分析する分析部と
を備える分析装置と
を含む疾患・体質の分析システム。
【請求項2】
コンピュータを
非侵襲の手段により採取した検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量して得られたmicroRNA量のデータを取得する手段と、
前記microRNA量のデータに基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する手段
として機能させるためのプログラム。
【請求項3】
コンピュータを
非侵襲の手段により採取した検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量して得られたmicroRNA量のデータを取得する手段と、
前記microRNA量のデータに基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する手段
として機能させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患・体質の分析方法、疾患・体質の分析システム、プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病は、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」のことを指し、例えばインスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、循環器病(先天性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、歯周病等の疾患が例示されている。また、生活習慣病の予防は喫緊の課題となっている。したがって、生活習慣病を発症する前の段階で、そのリスクを検査することも重要となっている。
【0003】
生活習慣病のリスクを予測する検査としては、血液中のアミノ酸濃度を測定する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照。)この検査では、血液中のアミノ酸濃度を用いて、所定の基準により生活習慣病の指標の状態を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/168125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この検査は血液を用いる検査であり、生体への負担を生じない非侵襲のものではなかった。
【0006】
そこで、簡便に検体を採取する検査として、遺伝子を用いた検査が検討されている。ここで、遺伝子検査としては、DNA検査とRNA検査とがあるが、DNAは、一生変化しない遺伝子であり、疾患の発症リスクが高いものがあったとしても、必ずしも発症するとは限らないものである。
【0007】
一方、RNA検査は、後天的要因で増殖する生活習慣病の発症リスクを遺伝子レベルで解析する検査であり、生活習慣・環境・ストレス・加齢等の後天的要因により遺伝子が変異し発症する生活習慣病の発症リスクを検査することに向いていると考えられる。
【0008】
また、後天的要因を検査することのできるRNA検査であれば、その時々の体の状態を把握することができ、生活習慣・環境・食生活、サプリメント等の摂取による状態の改善や疾患の発症を未然に予防することができる可能性が考えられる。
【0009】
本発明の目的は、簡便な方法により採取した検体を用いて生活習慣病等の疾患の発症リスクの分析を行うことができる疾患・体質の分析方法、疾患・体質の分析システム、プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、非侵襲な手段により採取した検体を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、
【0011】
(1) 非侵襲の手段により採取した検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量する測定部と、前記測定部により定量されたmicroRNA量を分析装置に送信する送信部とを備える測定装置と、前記測定装置から送信された前記microRNA量を受信する受信部と、前記microRNA量に基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する分析部とを備える分析装置とを含む疾患・体質の分析システム、
(2) コンピュータを非侵襲の手段により採取した検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量して得られたmicroRNA量のデータを取得する手段と、前記microRNA量のデータに基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する手段として機能させるためのプログラム、
(3) コンピュータを非侵襲の手段により採取した検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量して得られたmicroRNA量のデータを取得する手段と、前記microRNA量のデータに基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する手段として機能させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便な方法により採取した検体を用いて生活習慣病等の疾患の発症リスクの分析を行うことができる疾患・体質の分析方法、疾患・体質の分析システム、プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る疾患・体質の分析システムのシステム構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る疾患・体質の分析システムを用いた疾患・体質の分析方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の第1の実施の形態に係る疾患・体質の分析結果の一例を示す図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析システムを用いた疾患・体質の分析方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施の形態に係る疾患・体質の分析方法について説明する。
【0015】
本発明の第1の実施の形態に係る疾患・体質の分析方法は、非侵襲の手段により採取した検体からRNAを抽出する抽出工程と、前記RNA中に存在するmRNAのうち、特定の疾患の発症および/または特定の体質に関連するmRNAを定量する工程と、定量されたmRNA量に基づいて前記特定の疾患および/または前記特定の体質の状態を分析する分析工程とを含む。
【0016】
また、本発明の第1の実施の形態に係る疾患・体質の分析システムは、非侵襲の手段により採取した検体から抽出されたRNAのうち、特定の疾患の発症および/または特定の体質に関連するmRNA量を定量する測定部と、前記測定部により定量されたmRNA量を分析装置に送信する送信部とを備える測定装置と、前記測定装置から送信された前記mRNA量を受信する受信部と、前記mRNA量に基づいて前記特定の疾患および/または前記特定の体質の状態を分析する分析する分析部とを備える分析装置とを含む。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る疾患・体質の分析システムのシステム構成を示すブロック図である。図1に示すように疾患・体質の分析システム2は、測定装置としての定量PCR装置4、分析装置としてのPC(パーソナルコンピュータ)6を備えている。
【0018】
また、定量PCR装置4は、定量PCR装置4の各部を統括的に制御する制御部8を備え、制御部8には測定条件や測定開始等の入力操作を受け付ける入力部10、mRNAを所定のプライマーを用いて増幅し、定量する測定部12、測定部12により測定したmRNA量のデータをPC6へ送信する送信部14が接続されている。
【0019】
また、PC6は、CPU16を備え、CPU16には定量PCR装置4から送信されたmRNA量のデータを受信する受信部18、mRNA量のデータを記憶する記憶部20、mRNA量のデータに基づいて疾患の状態を分析する分析部22、疾患の状態の分析に用いるデータの指定および疾患の分析開始指示等の入力を行う操作部24が接続されている。
次に、図2に示すフローチャートを参照して本発明の実施の形態に係る疾患の分析システムを用いた疾患・体質の分析方法について説明する。
【0020】
まず、本発明においては、生体に非侵襲な手段により採取された検体を用い、この検体からRNAを抽出する(ステップS1)。RNAの抽出方法としては、遠心分離法、吸引濾過法、抽出用試薬、抽出用キットを用いる方法等の公知の方法を採用することができるが、RNAを安定的に保存するための処理を行うことや、RNAを抽出・安定的に保存可能に処理された乾燥ろ紙を用いることが好ましく、RNAを抽出・安定的に保存可能に処理された乾燥ろ紙を用いることがより好ましい。
RNAを安定的に保存するための処理としては、例えば、採取された検体に対してRNAlater(登録商標)等を用いた処理を行うことが挙げられる。
【0021】
このような乾燥ろ紙としては、例えば、RNASound RNA Sampling / Extracting Card (Metammune社製)等が挙げられる。
また、非侵襲な手段により採取された検体としては、唾液、口腔粘膜、尿などが挙げられ、唾液、口腔粘膜が好ましく、唾液がより好ましい。
【0022】
したがって、RNASound RNA Sampling / Extracting Card等のRNAを抽出・安定的に保存できるように処理された乾燥ろ紙に上記検体を注ぐ等することにより付着又は吸着させた後に、この状態(以下、「検体付着ろ紙」ということがある。)で簡便に運搬することができる。
【0023】
RNAの抽出方法として遠心分離法、吸引濾過法や抽出用試薬を用いた方法を用いた場合には、検体が採取された容器を液体等の状態で検査機関・検査室まで運搬する必要があるが、RNASound RNA Sampling / Extracting Card等のRNAを抽出・安定的に保存できるように処理された乾燥ろ紙を用いると、RNASound RNA Sampling / Extracting Card等のカードや紙を媒体として検査機関・検査室まで運搬することができるため、室温で運搬できるなどの輸送の容易さの点、輸送コストの点で好ましい。
なお、検体付着ろ紙を運搬する際には、防臭等の観点から所定の袋等に入れて運搬してもよい。
【0024】
次に、抽出したRNAのうち、特定の疾患の発症に関連するmRNAの量を、定量PCR装置4を用いて定量する(ステップS2)。定量を行う際には、まず、ステップS1にて抽出したRNAを測定部12にセットする。そして、操作者により入力部10から定量開始の指示が入力されると、制御部8は測定部12にセットされたRNAについてmRNAの定量を開始させる。ここで、定量PCR装置4においてはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅を経時的に測定するリアルタイムPCRにより測定を行うことが好ましい。また、特定の疾患の発症および/または特定の体質に関連するmRNAのそれぞれに対して設計されたプライマーを用いて増幅させることができる。また、mRNAの発現量解析のコントロールとしてGAPDH等のハウスキーピング遺伝子を用いる。
【0025】
本実施の形態において、特定の疾患としては、がん、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、免疫機能に関わる疾患、自己免疫疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、高脂血症、血栓、過食症、甘み摂取、肥満、メタボリックシンドローム、コレステロールに関わる疾患、中性脂肪に関わる疾患、肝硬変、腎結石、胆石、尿路結石、肺気腫、ニコチン依存、骨の疾患、炎症、リウマチ、関節炎、痛風、腰痛、十二指腸潰瘍、貧血、鼻炎、むずむず脚症候群、群発頭痛、片頭痛、加齢黄斑変性、緑内障、乱視、肌老化、アトピー、日焼けそばかす、そばかす、疲労、慢性疲労、円形脱毛症などが挙げられる。また、解毒、薬剤耐性、アルコール代謝、カフェイン代謝、運動療法、睡眠時間、長寿等の特定の体質についても分析することができる。
【0026】
がんの発症に関連するmRNAとしては、種々のがんを抑制する遺伝子であるp53、発がん遺伝子の前段階であるBRAF、肉腫ウイルスがん遺伝子であるK-RAS、肺がん、胃がん、卵巣がん等に関連するCytokeratin-7、肺がん、乳がん、甲状腺がん等に関連するCytokeratin-19、胃がん、大腸がん、膵臓がん等に関連するCytokeratin-20、メラノーマ細胞から発見された腫瘍特異抗原であり、肺がん、胃がん、肝臓がん等に関連するMAGE-A1、メラノーマ細胞から発見された腫瘍特異抗原であり、肺がん、胃がん、乳がん等に関連するMAGE-A3、メラノーマ細胞から発見された腫瘍特異抗原であり、食道がん、乳がんに関連するMAGE-A12、核内リポたんぱく質であり、主に肺がんに関連し、乳がん等との関連も認められるHnRNP、粘液糖たんぱく質であり、食道がん、大腸がん、膵臓がん等に関連するMucin-1、腫瘍マーカーとして用いられ、胎児性細胞接着、大腸がん、肺がん、膵臓がん等で発現するCEAのそれぞれのmRNA等が挙げられる。
【0027】
また、動脈硬化に関連するmRNAとしては、高血圧、動脈硬化など心血管病変の発症時に産生が亢進するエンドセリン、細胞壁の炎症とそれに伴う白血球の血管内皮細胞への接着は動脈硬化の発症に必須であると考えられ、動脈硬化巣で発見される接着分子であるVCAM-1、モノサイト、リンパ球の血管内皮への接着機構に関わるレセプターで、強固な接着が起こるための分子であるICAM-1、LDLが血管内皮細胞上で酸化されて生じる酸化LDLがマクロファージへ際限なく取り込まれることにより、マクロファージが泡沫細胞となりプラークを形成する際の反応系に関わるP-セレクチン、動脈硬化発生の初期段階に深く関連するM-CSF、動脈硬化の種々の危険因子が臓器障害をもたらす機序において、重要な役割を果たしている可能性が示唆されるLOX-1、動脈硬化、血管形成術後再狭窄、クモ膜下出血後脳血管攣縮、血管炎、バージャー病、肺高血圧等の多くの血管病の発症や進展に関連するトロンビンRのそれぞれのmRNA等が挙げられる。
また、脳梗塞の発症に関連するmRNAとしては、脳梗塞の発症、脳血管系に関わる遺伝子であるNINJ2のmRNA等が挙げられる。
【0028】
また、心筋梗塞の発症に関連するmRNAとしては、細胞増殖に機能し、家族性心血管障害と強い関連があると報告されている9番目染色体のCDKN2B-CDKN2A遺伝子群に存在するCDKN2B-AS1のmRNA等が挙げられる。
【0029】
また、免疫機能に関わる疾患の発症に関連するmRNAとしては、遺伝的に免疫力が高い傾向にあるかを判定することができるTNF-αのmRNA等が挙げられる。
【0030】
また、自己免疫疾患の発症に関連するmRNAとしては、自分自身の体を作っている物質に対して免疫が異物と判断し、拒絶反応を引き起こす反応に関わる遺伝子群に属するIL-6、NF-κB、FKBP5、KLF5、Foxp3のそれぞれのmRNA等が挙げられる。
【0031】
また、糖尿病(1型及び2型)の発症に関連するmRNAとしては、糖代謝、脂肪代謝に関わる遺伝子群に属するPPARganma、Glucokinase、HNF-4α、Adiponectin 、TNF-αのそれぞれのmRNA等が挙げられる。
【0032】
また、2型糖尿病の発症に関連するmRNAとしては、主にインスリン分泌など膵臓機能、糖質代謝に関わる遺伝子群に属するSORBS1、LMNA、UCP2のそれぞれのmRNA等が挙げられる。
【0033】
また、高脂血症の発症に関連するmRNAとしては、家族性高コレステロール血症の第3の原因遺伝子であることが報告されたPCSK9、コレステリルエステル転送蛋白であるCETP、原発性高リポ蛋白血症、肥満、糖尿病、ネフローゼ症候群に関与するLCATのそれぞれのmRNA等が挙げられる。
また、血栓の発症に関連するmRNAとしては、血液凝固に関与する遺伝子であるABOのmRNA等が挙げられる。
また、過食症の発症に関連するmRNAとしては、細胞内の脂質とタンパク質の輸送に関与するRUFY1のmRNA等が挙げられる。
【0034】
また、甘み摂取の発症に関連するmRNAとしては、アドレナリンを受け取り、血糖値を上昇させる遺伝子あり、甘い物の消費が多い傾向にあるか否かを判定することができるADRA2AのmRNA等が挙げられる。
【0035】
また、肥満の発症に関連するmRNAとしては、β3-アドレナリン受容体遺伝子と呼ばれる倹約遺伝子であるβ3AR、脂肪を燃焼させる、熱産生タンパクであるUCP1、β2-アドレナリン受容体遺伝子と呼ばれる倹約遺伝子であるβ2ARのmRNA等が挙げられる。
【0036】
また、メタボリックシンドロームの発症に関連するmRNAとしては、脂質異常症のリスクが高いか否かに関連する遺伝子であるAPOE、高血圧症のリスクが高いか否かに関連する遺伝子であるACEのmRNA等が挙げられる。
【0037】
また、高コレステロール血症等のコレステロールに関連する疾患の発症に関連するmRNAとしては、悪玉コレステロール(LDL)の代謝に関与する遺伝子であるABCG8のmRNA等が挙げられる。
【0038】
また、中性脂肪に関連する疾患の発症に関連するmRNAとしては、中性脂肪の分解に関わる遺伝子であるAPOA5、糖や脂質代謝に関わる遺伝子であるGCKRのmRNA等が挙げられる。
【0039】
また、肝硬変の発症に関連するmRNAとしては、胆管が破壊されて胆汁が肝臓へ逆流し発症する原発性胆汁性肝硬変の遺伝子であるTNPO3のmRNA等が挙げられる。
また、腎結石の発症に関連するmRNAとしては、DGKHのmRNA等が挙げられる。
【0040】
また、胆石の発症に関連するmRNAとしては、脂肪分解のスイッチを入れる鍵穴として働き、内臓脂肪のつきやすさと関係がある遺伝子であるADRB3のmRNA等が挙げられる。
また、尿路結石の発症に関連するmRNAとしては、尿路系でカルシウム沈着に関わる遺伝子であるUMODのmRNA等が挙げられる。
また、肺気腫の発症に関連するmRNAとしては、CSMD1、肺気腫感受性遺伝子であるBICD1のそれぞれのmRNA等が挙げられる。
また、ニコチン依存の発症に関連するmRNAとしては、ニコチンの反応性や代謝などに関与する遺伝子であるCHRNA3のmRNA等が挙げられる。
【0041】
また、骨の疾患の発症に関連するmRNAとしては、ビタミンDの核内受容体であり、骨代謝に関連する遺伝であるVDR、骨の非コラーゲン性タンパク質であり、オステオカルシン (osteocalcin)による骨形成に関わるBGLAPのそれぞれのmRNA等が挙げられる。
【0042】
また、炎症の発症に関連するmRNAとしては、炎症物質が体内で炎症を引き起こしやすいか否かを判定することができるmEPHX1のmRNA等が挙げられる。
【0043】
また、リウマチの発症に関連するmRNAとしては、手足をはじめとする全身の関節に激しい痛みや腫れを起こす原因の遺伝子群であるPADI4のmRNAが挙げられる。
また、関節炎の発症に関連するmRNAとしては、DVWAのmRNA等が挙げられる。
また、痛風の発症に関連するmRNAとしては、尿酸の排出に関与する遺伝子であるSLC2A9のmRNA等が挙げられる。
また、腰痛の発症に関連するmRNAとしては、軟骨の修復に関与する遺伝子であるCILPのmRNA等が挙げられる。
また、十二指腸潰瘍の発症に関連するmRNAとしては、胃と小腸の粘膜に関与する遺伝子であるPSCAのmRNA等が挙げられる。
また、貧血の発症に関連するmRNAとしては、血液中の鉄輸送に関わる遺伝子であるIGLのmRNA等が挙げられる。
【0044】
また、鼻炎の発症に関連するmRNAとしては、鼻閉に関わり、喘息の発症リスクに関与すると報告されているGSDMB のmRNA等が挙げられる。
また、むずむず脚症候群の発症に関連するmRNAとしては、足のかゆみや痛みなどの症状に関わる遺伝子であるBTBD9のmRNA等が挙げられる。
また、群発頭痛の発症に関連するmRNAとしては、HCRtr2のmRNA等が挙げられる。
また、片頭痛の発症に関連するmRNAとしては、PRDM16のmRNA等が挙げられる。
また、加齢黄斑変性の発症に関連するmRNAとしては、CFH等が挙げられる。
また、緑内障の発症に関連するmRNAとしては、眼圧や水晶体の機能に関係する遺伝子群の一つに属するCDKN2BのmRNA等が挙げられる。
また、乱視の発症に関連するmRNAとしては、角膜乱視のヒトに高発現が認められるPDGFRAのmRNA等が挙げられる。
【0045】
また、肌老化の発症に関連するmRNAとしてはコラーゲンを分解する酵素であるMMP1、有害物質フィルター遺伝子であり、肌老化に影響を与える有害物質の解毒に関する遺伝子であるGPX1、ストレス代謝遺伝子であり、肌老化に影響を与える活性酸素の除去に関する遺伝子であるSOD2のそれぞれのmRNA等が挙げられる。
また、アトピーの発症に関連するmRNAとしては、免疫系の遺伝子群に属するFLG、SPINK5、ZNF365のそれぞれのmRNA等が挙げられる。
また、日焼けそばかすの発症に関連するmRNAとしては、メラニン生成に関与する遺伝子であるASIPのmRNA等が挙げられる。
また、そばかすの発症に関連するmRNAとしては、そばかすのでき易さが判定できるとされる遺伝子であるIRF4のmRNA等が挙げられる。
【0046】
また、疲労の発症に関連するmRNAとしては、体内のエネルギーを燃焼するユビキノン(コエンザイムQ10)の産生に関わる遺伝子であるNQO1のmRNA等が挙げられる。
また、慢性疲労の発症に関連するmRNAとしては、神経伝達物質セロトニン生成に関与する遺伝子であるTPH2のmRNA等が挙げられる。
また、円形脱毛症の発症に関連するmRNAとしては、自己免疫疾患からくる脱毛に関連する原因遺伝子の一つとされるCTLA4のmRNA等が挙げられる。
また、解毒に関連するmRNAとしては、活性酸素種の処理に関与する遺伝子であるGPX1のmRNA等が挙げられる。
また、薬剤耐性に関連するmRNAとしては、multidrug resistance proteinのmRNA等が挙げられる。
【0047】
また、アルコール代謝に関連するmRNAとしては、PEPCK、アルコール代謝に関わる酵素の遺伝子であるアルデヒド脱水素酵素及びアセトアルデヒド脱水素酵素のそれぞれのmRNAが挙げられる。
【0048】
また、カフェイン代謝に関連するmRNAとしては、カフェイン入りの飲み物が体質に与える影響が大きいか否かを判定することができるCYP1A2のmRNAが挙げられる。
【0049】
また、運動療法に関連するmRNAとしては、インスリン抵抗性や糖代謝、ミトコンドリアでの脂肪燃焼に関わる遺伝子であるAMP kinase、GLUT4、PGC-1αのそれぞれのmRNA等が挙げられる。
【0050】
また、睡眠時間に関連するmRNAとしては、遺伝的に生体時計、特に就寝時間が遅くなる傾向にあるかを判定することができるNRSR1のmRNA等が挙げられる。
【0051】
また、長寿に関連するmRNAとしては、Mitochondria、細胞内のミトコンドリアなどエネルギー消費、体温上昇などに関わるFOXO3のそれぞれのmRNA等が挙げられる。
すなわち、本発明において定量の対象とするmRNAは上記したものが例示される。
【0052】
次に、定量PCR装置4の制御部8は送信部14を介して、定量によって得られたmRNA量のデータをPC6へ送信し(ステップS3)、PC6は受信部18を介して定量によって得られたmRNA量のデータを受信する(ステップS4)。ここで、定量PCR装置4の送信部14とPC6の受信部18との間の通信は有線LAN等の有線通信により行ってもよいし、無線LANやBluetooth(登録商標)等の無線通信により行ってもよい。
【0053】
次に、PC6のCPU16は、受信部18を介して受信したmRNA量のデータを記憶部20に記憶させる(ステップS5)。ここで、記憶部20においては、mRNA量のデータを例えば、検体IDや測定日時、測定番号などと対応させて記憶する。
【0054】
そして、操作部24を介して分析対象のデータを指定し、分析開始の指示が入力されると、CPU16は分析部22に特定の疾患・体質の状態の分析を行わせる(ステップS6)。なお、特定の疾患・体質の状態の分析を行う際には、CPU16は記憶部20に記憶されたmRNA量のデータのうち、分析対象として指定されたデータを読み出し、分析部22に特定の疾患・体質の状態の分析を行わせる。分析結果の一例を図3に示す。
【0055】
ここで、定量PCR装置4を用いて定量されたmRNA量は、統計処理により分析することができるが、比較Ct法により得られたデータを統計処理して分析することが好ましい。
たとえば、特定の人の検体から抽出したmRNAを継続的に定量することにより、平常時のデータを収集し、これに対してmRNA量に変化があった際に特定の疾患の発症リスクがあると分析することができ、また、特定の体質となる傾向であると分析することができる。
また、mRNA量としては、定量PCRにより検出できた時のサイクル数を用い、またGAPDHの発現量により補正した値を用いる。
【0056】
分析部22による特定の疾患・体質の状態の分析においては、たとえば、特定の個人ごとに継続的に収集したデータを用いることにより、継続的に収集したデータと比較して、特定の疾患の発症・特定の体質に関連するmRNA量が変動した時に特定の疾患の発症リスクがあると分析することができ、また、特定の体質となる傾向であると分析することができる。
【0057】
また、特定の疾患・体質の状態を分析する際に、所定の閾値を用いて分析を行ってもよい。この場合には、記憶部20に記憶されたmRNA量のうちの全部のデータや無作為に抽出されたデータから特定の疾患の発症・特定の体質に関連するmRNA量を統計処理することにより、予め特定の疾患の発症・特定の体質の分析を行うための閾値を算出する。そして、この閾値を特定の疾患・特定の体質の状態を分析する際の閾値として設定することにより、特定のデータが特定の疾患・特定の体質である状態であるか否かの分析を行うことができる。
【0058】
なお、上述の特定の疾患・特定の体質の状態の分析においては外れ値や欠損値等のデータを除去して、特定の疾患・特定の体質の状態の分析を行ってもよい。
【0059】
本発明の第1の実施の形態に係る疾患・体質の分析方法および疾患・体質の分析システムによれば、簡便な方法により採取した検体を用いて生活習慣病等の疾患の発症リスクの分析を行うことができる。
【0060】
なお、上述の第1の実施の形態においては、分析装置としてPC6を例に説明したが、分析装置としてタブレット端末等を用いてもよい。また、疾患・体質の分析システム2として定量PCR装置4およびPC6の2台の装置を備える構成を例に説明したが、例えば、定量PCR装置4に分析装置の機能を組み込むことにより1台の装置により分析システムを構成することもできる。
【0061】
また、第1の実施の形態において、測定装置である定量PCR装置4から分析装置であるPC6へmRNA量のデータを送信する構成としたが、定量PCR装置4とPC6との間での通信が不可能である場合等に、USBメモリやSDカード等の記録媒体を介して定量PCR装置4からPC6へmRNA量のデータを移行してもよい。
【0062】
また、上述の第1の実施の形態において、操作部24を介して分析対象のデータを指定し、分析開始の指示が入力されると、PC6により特定の疾患・特定の体質の状態を分析する構成として説明したが、検体から抽出されたmRNAのうち、特定の疾患・体質に関連するmRNA量のデータに基づいて特定の疾患・体質の状態を分析する分析プログラムをインターネット等のネットワークを介してダウンロードし、コンピュータに組み込むことによって、上述の分析処理が行うことができるようにコンピュータを機能させるようにしてもよい。ここで、この分析プログラムは、ネットワーク上またはコンピュータ上に記憶されている特定の疾患の発症および/または特定の体質に関連するmRNA量のデータを読み出して、特定の疾患・体質の状態の分析に用いてもよい。
【0063】
また、当該プログラムはフレキシブルディスク、CD-ROM、DVD等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。即ち、コンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み取り、コンピュータに組み込むことによって、上述の特定の疾患・体質の状態の分析を行うことができるようにコンピュータを機能させるようにしてもよい。
【0064】
次に、図面を参照して本発明の第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析方法について説明する。なお、この第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析方法は、第1の実施の形態において用いたmRNAに代えて、microRNAを用いる構成に変更したものである。従って、第1の実施の形態と同一の構成についての詳細な説明は省略し、異なる部分のみについて詳細に説明する。
【0065】
本発明の第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析方法は、非侵襲の手段により採取した検体からエクソソームを抽出する抽出工程と、前記エクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-141、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量する工程と、定量されたmicroRNA量に基づいて特定の疾患の発症および/または特定の体質の状態を分析する分析工程とを含む。
【0066】
また、本発明の第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析システムは、非侵襲の手段により採取した検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-141、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-223、miR-23a、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-17-5p、miR-19a、miR-146a、miR-718、miR-375、miR-1290、miR-101、miR-373、miR-320、miR-574-3pのうちの少なくとも1つを定量する測定部と、前記測定部により定量されたmicroRNA量を分析装置に送信する送信部とを備える測定装置と、前記測定装置から送信された前記microRNA量を受信する受信部と、前記microRNA量に基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する分析部とを備える分析装置を含む。
【0067】
さらに、本発明の第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析方法は、唾液検体からエクソソームを抽出する抽出工程と、前記エクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-103と、miR-21および/またはmiR-19とを定量する工程と、miR-103と、miR-21および/またはmiR-19のmicroRNA量に基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する分析工程とを含む。
【0068】
また、本発明の第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析システムは、唾液検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-103と、miR-21および/またはmiR-19のmicroRNA量を定量する測定部と、前記測定部により定量されたmiR-103と、miR-21および/またはmiR-19のmicroRNA量を分析装置に送信する送信部とを備える測定装置と、前記測定装置から送信された前記microRNA量を受信する受信部と、前記microRNA量に基づいて特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する分析する分析部とを備える分析装置とを含む。
【0069】
第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析システムは、第1の実施の形態において用いた図1に示す分析システムを用いる。
次に、図4に示すフローチャートを参照して本発明の実施の形態に係る疾患の分析システムを用いた疾患・体質の分析方法について説明する。
【0070】
まず、本発明においては、生体に非侵襲な手段により採取された検体を用い、この検体からエクソソームを抽出する(ステップS11)。エクソソームの抽出方法としては、超遠心分離法、限外濾過法、ゲル濾過法、HPLCや抽出用試薬を用いた方法等が挙げられるが、エクソソームをトラップできるように処理されたろ紙を用いることが好ましい。
【0071】
このようなろ紙としては例えば、FTAマイクロカード(GEヘルスケア社製)等が挙げられる(たとえば、米国特許第5496562号、第5756126号、第5807527号、第5972386号および第5985327号等参照)。このFTAマイクロカードは、セルロースベースの紙に、トリスヒドロキシメチルメタン等の弱塩基、エチレンジアミン四酢酸塩等のキレート剤、ドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、尿酸または尿酸塩等のフリーラジカルトラップを含んでなる組成物を吸着又は組み込ませたろ紙を有する。
【0072】
なお、FTAマイクロカードを構成するろ紙は、核酸を絡めてトラップするように設計されているが、本発明者らの検討によれば、FTAマイクロカードに検体を注ぐ、又は付着させると、エクソソームがトラップされることが分かった。
【0073】
したがって、FTAマイクロカード等のエクソソームをトラップできるように処理されたろ紙に尿検体を注ぐ等することにより付着又は吸着させた後に、この状態(以下、「検体付着ろ紙」ということがある。)で簡便に運搬することができる。
【0074】
エクソソームの抽出方法として超遠心分離法、限外濾過法、ゲル濾過法、HPLCや抽出用試薬を用いた方法を用いた場合には、検体が採取された容器中の液体等の状態状態で検査機関・検査室まで運搬する必要があるが、エクソソームをトラップできるように処理されたろ紙を用いると、FTAマイクロカード等のカードや紙を媒体として検査機関・検査室まで運搬することができるため、室温で運搬できるなどの輸送の容易さの点、輸送コストの点で好ましい。
なお、検体付着ろ紙を運搬する際には、防臭等の観点から所定の袋等に入れて運搬してもよい。
また、非侵襲な手段により採取された検体としては、唾液、尿などが挙げられ、唾液がより好ましい。
【0075】
次に抽出工程において検体からエクソソームを抽出した後、エクソソームからmicroRNAを取り出す(ステップS12)。エクソソームからmicroRNAを取り出す方法としては、特に限定されず、市販の種々の抽出用キットを用いることができる。例えば、miRCURY RNA Isolation Kit (Product# 300110; EXIQON社)などが使用できる。
【0076】
次に、抽出したmicroRNAの量を、定量PCR装置4を用いて定量する(ステップS13)。定量を行う際には、まず、ステップS12にて取り出したmicroRNAを測定部12にセットする。そして、操作者により入力部10から定量開始の指示が入力されると、制御部8は測定部12にセットされたmicroRNAの定量を開始させる。ここで、定量PCR装置4においてはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅を経時的に測定するリアルタイムPCRにより測定を行うことが好ましい。また、特定の疾患の発症および/または特定の体質に関連するmicroRNAのそれぞれに対して設計されたプライマーを用いて増幅させることができる。また、microRNAの発現量解析のコントロール(対照)として所定のmicroRNA等を用いることができる。
【0077】
第2の実施の形態において、特定の疾患・特定の体質としては、卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、前立腺がん、咽頭扁平上皮がん、乳がん、神経膠腫、多形神経膠芽腫等のがんが挙げられる。
【0078】
卵巣がんの発症に関連するmicroRNAとしては、miR-21、miR-141、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、miR-214、miR-373等が挙げられる。
【0079】
また、大腸がんの発症に関連するmicroRNAとしては、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-21、miR-223、miR-23a、miR-19a等が挙げられる。
また、膵臓がんの発症に関連するmicroRNAとしては、miR-1246、miR-4644、miR-3976、miR-4306、miR-21等が挙げられる。
また、子宮頸がんの発症に関連するmicroRNAとしては、miR-21、miR-146a等が挙げられる。
また、肝臓がんの発症に関連するmicroRNAとしては、miR-21、miR-718等が挙げられる。
【0080】
また、前立腺がんの発症に関連するmicroRNAとしては、miR-375、miR-141、miR-1290等が挙げられる。
また、咽頭扁平上皮がんの発症に関連するmicroRNAとしては、miR-21等が挙げられる。
また、乳がんの発症に関連するmicroRNAとしては、miR-101、miR-373等が挙げられる。
また、神経膠腫の発症に関連するmicroRNAとしては、miR-21等が挙げられる。
また、多形神経膠芽腫の発症に関連するmicroRNAとしては、miR-320、miR-574-3p等が挙げられる。
【0081】
本実施の形態において、定量対象のmicroRNAを、唾液検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、miR-103と、miR-21および/またはmiR-19とすることもできる。
【0082】
ここで、miR-103は血清/血漿中、尿中および脳脊髄液のエクソソーム中において安定して発現するものである(例えば、http://www.exiqon.com/ls/Documents/Scientific/microRNA-serum-plasma-guidelines.pdfのTable6(25頁)参照)。
【0083】
また、miR-21は、血清または脳脊髄液等から抽出されたエクソソームに含まれる疾患特異的分子として、卵巣がん、大腸がん、膵臓がん、子宮頸がん、肝臓がん、咽頭扁平上皮がんおよび神経膠腫といった幅広い種類のがんにみられるmicroRNAである。即ち、幅広い種類のがん細胞から多く分泌される種類のmicroRNAである。
【0084】
ここで、上述のmiR-103のように血清/血漿中、唾液中および脳脊髄液のエクソソームで安定して発現する種類のmicroRNAもあれば、安定して発現しないmicroRNAも存在する(上記と同様に、例えば、http://www.exiqon.com/ls/Documents/Scientific/microRNA-serum-plasma-guidelines.pdfのTable6(25頁)参照)。したがって、血清や脳脊髄液等から抽出されたエクソソームに含まれる種類のmicroRNAとして発現するからといって、唾液や尿から抽出されたエクソソームに含まれる種類のmicroRNAとして発現するとはいえないものである。すなわち、血清や脳脊髄液等から抽出されたエクソソームに含まれるmicroRNAの種類と、唾液から抽出されたエクソソームに含まれるmicroRNAの種類との間に完全な相関が認められるものではない。
【0085】
また、miR-19は、幅広いがん細胞から分泌が抑制される種類のmicroRNAであり、がん患者の血清または脳脊髄液等から抽出されたエクソソームに含まれる種類のmicroRNAとしては発現量が少なくなる。
【0086】
次に、定量PCR装置4の制御部8は送信部14を介して、定量によって得られたmicroRNA量のデータをPC6へ送信し(ステップS14)、PC6は受信部18を介して定量によって得られたmicroRNA量のデータを受信する(ステップS15)。ここで、定量PCR装置4の送信部14とPC6の受信部18との間の通信は有線LAN等の有線通信により行ってもよいし、無線LANやBluetooth(登録商標)等の無線通信により行ってもよい。
【0087】
次に、PC6のCPU16は、受信部18を介して受信したmicroRNA量のデータを記憶部20に記憶させる(ステップS16)。ここで、記憶部20においては、microRNA量のデータを例えば、検体IDや測定日時、測定番号などと対応させて記憶する。
【0088】
そして、操作部24を介して分析対象のデータを指定し、分析開始の指示が入力されると、CPU16は分析部22に特定の疾患および/または特定の体質の状態の分析を行わせる(ステップS17)。なお、特定の疾患および/または特定の体質の状態の分析を行う際には、CPU16は記憶部20に記憶されたmicroRNA量のデータのうち、分析対象として指定されたデータを読み出し、分析部22に特定の疾患および/または特定の体質の状態の分析を行わせる。
【0089】
ここで、定量PCR装置4を用いて定量されたmicroRNA量は、統計処理により分析することができるが、比較Ct法により得られたデータを統計処理して分析することが好ましい。たとえば、特定の人の検体から抽出したエクソソームに含まれるmicroRNAを継続的に定量することにより、平常時(例えば、非がんであるとき)のデータを収集し、これに対してmicroRNA量に変化が認められた際に特定の疾患の発症リスクがあると分析することができ、また、特定の体質となる傾向であると分析することができる。なお、例えば、microRNA量として、miR-21、miR-19の量を用いる場合には、miR-21の量およびmiR-19の量は、miR-103の量と比較した値を用いることにより分析を行う。
【0090】
分析部22による特定の疾患および/または特定の体質の状態の分析においては、たとえば、特定の個人ごとに継続的に収集したデータを用いることにより、継続的に収集したデータと比較して、特定の疾患の発症・特定の体質に関連するmRNA量が変動した時に特定の疾患の発症リスクがあると分析することができ、また、特定の体質となる傾向であると分析することができる。
【0091】
また、特定の疾患および/または特定の体質の状態を分析する際に、所定の閾値を用いて分析を行ってもよい。この場合には、記憶部20に記憶されたmicroRNA量のうちの全部のデータや無作為に抽出されたデータから特定の疾患の発症・特定の体質に関連するmicroRNA量を統計処理することにより、予め特定の疾患の発症・特定の体質の分析を行うための閾値を算出する。そして、この閾値を特定の疾患・特定の体質の状態を分析する際の閾値として設定することにより、特定のデータが特定の疾患・特定の体質である状態であるか否かの分析を行うことができる。
【0092】
なお、上述の特定の疾患・特定の体質の状態の分析においては外れ値や欠損値等のデータを除去して、がんの状態の分析を行ってもよい。
【0093】
本発明の第2の実施の形態に係る疾患・体質の分析方法および疾患・体質の分析システムによれば、簡便な方法により採取した検体を用いて生活習慣病等の疾患の発症リスクの分析を行うことができる。
【0094】
なお、上述の第2の実施の形態においては、分析装置としてPC6を例に説明したが、分析装置としてタブレット端末等を用いてもよい。また、疾患・体質の分析システム2として定量PCR装置4およびPC6の2台の装置を備える構成を例に説明したが、例えば、定量PCR装置4に分析装置の機能を組み込むことにより1台の装置により分析システムを構成することもできる。
【0095】
また、第2の実施の形態において、測定装置である定量PCR装置4から分析装置であるPC6へmicroRNA量のデータを送信する構成としたが、定量PCR装置4とPC6との間での通信が不可能である場合等に、USBメモリやSDカード等の記録媒体を介して定量PCR装置4からPC6へmicroRNA量のデータを移行してもよい。
【0096】
また、上述の実施の形態において、操作部24を介して分析対象のデータを指定し、分析開始の指示が入力されると、PC6により特定の疾患・特定の体質の状態を分析する構成として説明したが、検体から抽出されたエクソソーム中に存在するmicroRNAのうち、特定の疾患・体質に関連するmRNA量のデータに基づいて特定の疾患・体質の状態を分析する分析プログラムをインターネット等のネットワークを介してダウンロードし、コンピュータに組み込むことによって、上述の分析処理が行うことができるようにコンピュータを機能させるようにしてもよい。ここで、この分析プログラムは、ネットワーク上またはコンピュータ上に記憶されている特定の疾患の発症および/または特定の体質に関連するmicroRNA量のデータを読み出して、特定の疾患・体質の状態の分析に用いてもよい。
【0097】
また、当該プログラムはフレキシブルディスク、CD-ROM、DVD等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。即ち、コンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み取り、コンピュータに組み込むことによって、上述の特定の疾患・体質の状態の分析を行うことができるようにコンピュータを機能させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0098】
2…疾患・体質の分析システム、4…定量PCR装置、6…PC、8…制御部、12…測定部、16…CPU、20…記憶部、22…分析部
図1
図2
図3
図4