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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029087
(43)【公開日】2025-03-05
(54)【発明の名称】藻類の培養方法及び藻類培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20250226BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20250226BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250226BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20250226BHJP
   C12M 1/04 20060101ALI20250226BHJP
   C12M 1/38 20060101ALI20250226BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20250226BHJP
   C12N 13/00 20060101ALI20250226BHJP
   B63B 25/00 20060101ALI20250226BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/00 B
C12M1/00 E
C12M1/02 B
C12M1/04
C12M1/38 Z
C12M1/42
C12N13/00
B63B25/00 102Z
B63H21/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024209856
(22)【出願日】2024-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】302002801
【氏名又は名称】有限会社栄和商事
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(74)【代理人】
【識別番号】100076244
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 清規
(72)【発明者】
【氏名】土居 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高柳 寛治
(72)【発明者】
【氏名】南 隆
(72)【発明者】
【氏名】長岡 文好
(57)【要約】      (修正有)
【課題】船舶のエンジンから生ずる排熱を利用して藻類を培養することができ、船舶内に広い作業場所を用意する必要がなく、藻類培養のための人員を船舶に配置せずに低コストで藻類を培養する、藻類の培養方法及び装置を提供する。
【解決手段】藻類培養装置1は、藻類の播種又は植付の過程と収穫過程とを陸地で行い、育成過程を船舶F1内で行うための装置であり、海水と海水が船舶F1のエンジンF2の熱によって昇温されて得られた温排水を混合して培養水を調製する混合水槽3と、培養水と空気を供給し、さらに光を照射することで藻類を培養する培養水槽4と、培養水槽4から排出される培養排水に次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水を混合して殺菌する排水殺菌部9と、培養水槽4内の培養水の温度と藻類に照射する光の照射時間と、排水殺菌部9における培養排水への殺菌用水の混合量を自動的に制御する制御部2を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類の播種又は植付の過程と収穫過程とを陸地で行い、育成過程を船舶内で行う藻類の培養方法であって、
該育成過程は、前記船舶によって海から取り込まれた海水の一部と、該海水の他の一部が前記船舶のエンジンの熱によって昇温されて得られた温排水の一部とを混合して培養水を調製する培養水調製工程と、
該培養水を供給するとともに、培養水に空気を供給し、さらに前記藻類に光合成を行わせるための光を照射することにより前記藻類を培養する培養工程と、
前記海水のさらに他の一部を電気分解することで次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水を調製する殺菌用水調製工程と、
前記培養工程から排出される使用済みの培養水に前記殺菌用水を混合して殺菌済みの培養排水とする排水殺菌工程とを有し、
少なくとも、前記培養工程における培養水の温度と前記藻類に照射する光の照射時間と、前記排水殺菌工程における前記使用済みの培養水への前記殺菌用水の混合量は、自動的に制御されることを特徴とする藻類の培養方法。
【請求項2】
前記藻類は、キリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養方法。
【請求項3】
前記船舶は、フェリー又はRORO船であることを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の藻類の培養方法を実施するための藻類培養装置であって、
前記船舶によって海から取り込まれた海水の一部と、該海水の他の一部が前記エンジンの熱によって昇温されて得られた温排水の一部とを混合して培養水を調製する混合水槽と、
該培養水を供給して前記藻類を培養する培養水槽と、
該培養水槽内の培養水に空気を供給する給気部と、
該培養水槽内の前記藻類に光を照射する光照射部と、
前記海水のさらに他の一部を電気分解することで次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水を調製する電解部と、
前記培養水槽から排出される使用済みの培養水に前記殺菌用水を混合して殺菌済みの培養排水とする排水殺菌部と、
少なくとも、前記培養水槽内の培養水の温度と前記藻類に照射する光の照射時間と、前記排水殺菌部における前記使用済みの培養水への前記殺菌用水の混合量を、自動的に制御する制御部と、
前記混合水槽、前記培養水槽、前記給気部、前記光照射部、前記電解部、前記排水殺菌部及び制御部が内部に設置される函体と、を備えることを特徴とする藻類培養装置。
【請求項5】
前記藻類培養装置は、移動用の車輪を備えることを特徴とする請求項4に記載の藻類培養装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は藻類の培養方法及び藻類培養装置に関し、特にフェリーやRORO船などの船舶内において、船舶のエンジンから排出される温排水を利用して行う藻類の培養方法と、その培養方法を実施するための藻類培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止等の環境保全の見地から、世界的に、重油、軽油又はガソリン等の化石燃料の燃焼によって生ずる二酸化炭素の排出量を低減する各種の取り組みがなされており、例えば、本発明の発明者らは、特許文献1(特開2020-198821号公報)において、火力発電所等の事業所から排出される二酸化炭素を含む排ガスと温排水とを藻類の培養に使用することによって、二酸化炭素の排出量を効率的に低減する発明を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-198821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その後、本願発明の発明者は、船舶の動力源として多く採用されているディーゼルエンジンから排出される大量の排熱が、船内の暖房以外の目的では有効に利用されておらず、また、定期航路を航行する多くのフェリーやRORO船において、貨物の積載率が50~90%程度に止まっているという現状に鑑み、フェリーやRORO船の貨物室の空きスペースにおいて、船舶のディーゼルエンジンの排熱を利用して藻類の培養を行うというアイデアを考えついた。
【0005】
かかるアイデアを実現すれば、化石燃料の燃焼によって生ずるディーゼルエンジンの排熱を利用して藻類を効率的に培養することで、藻類の光合成によって藻類体内に空気中の二酸化炭素を固定することができるため、地球温暖化防止の環境保全に役立つ。
また、収穫された藻類は、食品や化粧品の原料、飼料、肥料等として利用することで収益化できるため、フェリーやRORO船を運航する会社の業績向上に資することができる。
【0006】
しかし、藻類の培養の際に行う播種又は植付の作業と収穫の作業には、広い作業場所が必要であるため、利用可能なスペースが限られている船舶内では、十分な広さの作業場所を確保することが困難であるという問題がある。
【0007】
また、藻類の培養には、専門知識と技能を有する人員が必要であるが、船舶は人件費を抑制するためになるべく少人数で運航することが求められており、船舶の航行に必要な人員とは別に、藻類培養のための人員を船舶に配置することは困難であるという問題がある。
【0008】
さらに、フェリーやRORO船の貨物の積載率は、季節や経済状況等を要因として変動するので、それに伴って、藻類培養に使用できる貨物室の空きスペースの広さも変動する。したがって、船舶内における藻類培養の規模を頻繁に拡大又は縮小しなければならないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、船舶内において船舶のエンジンから生ずる排熱を利用することで効率的に藻類を培養することができ、船舶内に広い作業場所を用意する必要がなく、かつ、藻類培養のための人員を船舶に配置する必要がないため低コストで藻類を培養することができる藻類の培養方法及び藻類培養装置を提供することを課題とする。
さらに、船舶内における藻類栽培の規模を臨機応変に拡大又は縮小することができる藻類培養装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は以下の手段により解決された。
【0011】
〔1〕 藻類の播種又は植付の過程と収穫過程とを陸地で行い、育成過程を船舶内で行う藻類の培養方法であって、該育成過程は、前記船舶によって海から取り込まれた海水の一部と、該海水の他の一部が前記船舶のエンジンの熱によって昇温されて得られた温排水の一部とを混合して培養水を調製する培養水調製工程と、該培養水を供給するとともに、培養水に空気を供給し、さらに前記藻類に光合成を行わせるための光を照射することにより前記藻類を培養する培養工程と、前記海水のさらに他の一部を電気分解することで次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水を調製する殺菌用水調製工程と、前記培養工程から排出される使用済みの培養水に前記殺菌用水を混合して殺菌済みの培養排水とする排水殺菌工程とを有し、少なくとも、前記培養工程における培養水の温度と前記藻類に照射する光の照射時間と、前記排水殺菌工程における前記使用済みの培養水への前記殺菌用水の混合量は、自動的に制御されることを特徴とする藻類の培養方法。
【0012】
〔2〕 前記藻類は、キリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサのいずれかであることを特徴とする前記〔1〕に記載の藻類の培養方法。
【0013】
〔3〕 前記船舶は、フェリー又はRORO船であることを特徴とする前記〔1〕に記載の藻類の培養方法。
【0014】
〔4〕 前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の藻類の培養方法を実施するための藻類培養装置であって、前記船舶によって海から取り込まれた海水の一部と、該海水の他の一部が前記エンジンの熱によって昇温されて得られた温排水の一部とを混合して培養水を調製する混合水槽と、該培養水を供給して前記藻類を培養する培養水槽と、該培養水槽内の培養水に空気を供給する給気部と、該培養水槽内の前記藻類に光を照射する光照射部と、前記海水のさらに他の一部を電気分解することで次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水を調製する電解部と、前記培養水槽から排出される使用済みの培養水に前記殺菌用水を混合して殺菌済みの培養排水とする排水殺菌部と、少なくとも、前記培養水槽内の培養水の温度と前記藻類に照射する光の照射時間と、前記排水殺菌部における前記使用済みの培養水への前記殺菌用水の混合量を、自動的に制御する制御部と、前記混合水槽、前記培養水槽、前記給気部、前記光照射部、前記電解部、前記排水殺菌部及び制御部が内部に設置される函体と、を備えることを特徴とする藻類培養装置。
【0015】
〔5〕 前記藻類培養装置は、移動用の車輪を備えることを特徴とする前記〔4〕に記載の藻類培養装置。
【発明の効果】
【0016】
前記〔1〕の発明にかかる藻類の培養方法によれば、船舶内で行う藻類培養の育成過程においては、船舶のエンジンで生成される温排水を用いて培養水を調製するため、排熱として捨てる温排水の熱を藻類の培養に有効利用することができる。
また、海水と海水を昇温させた温排水を藻類の栽培に利用することで、海水に含まれる窒素、リンを含む栄養塩類を藻類が吸収して成長が促進されるとともに、別途肥料等を添加する必要がないため、低コストで藻類の培養を行うことができる。
【0017】
さらに、培養工程で使用済みの培養水、すなわち培養排水を、次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水を混合して殺菌した後に海に排出するので、培養排水に、藻類の成体(栄養器官)の一部や胞子(果胞子)等の藻類の再繁殖が可能な組織や細胞が含まれていたとしても、それらを死滅させた後に排出することができる。そのため、培養排水を排出する海域に天然では生息しない藻類等を繁殖させてしまうという生態系への悪影響の発生を防ぐことができる。
また、次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水は、海水を電気分解することで得られるため、別途に殺菌剤を用意する必要がないため便宜である。
【0018】
さらに、培養工程における培養水の温度と藻類に照射する光の照射時間と、排水殺菌工程における使用済みの培養水への殺菌用水の混合量は、自動的に制御されるため、藻類培養のための専門知識と技能を有する人員を船舶に配置する必要がなく、藻類培養のコストを低減することができる。
【0019】
また、藻類培養の播種又は植付の過程と収穫過程は、いずれも広い作業場所が必要であるが、陸地で行うため、利用可能なスペースが限られている船舶内に広い作業場所を用意する必要がなく便宜である。
【0020】
前記〔2〕の発明にかかる藻類の培養方法によれば、船舶のエンジンの熱によって昇温された温排水を用いた培養水を用いるため、比較的高い水温を好む亜熱帯性又は熱帯性の藻類であるキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサを高密度で培養することができる。
また、培養されたキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサはいずれも食品や化粧品の原料、飼料、肥料等として用いることが可能であるため、収穫した藻類を販売することにより収益を得ることができる。
【0021】
前記〔3〕の発明にかかる藻類の培養方法によれば、藻類培養の育成過程を行う船舶としてフェリー又はRORO船を用いることで、貨物室の空きスペースを有効に活用して藻類培養を行うことができる。
【0022】
前記〔4〕の発明にかかる藻類培養装置によれば、函体の内部に混合水槽、培養水槽、給気部、光照射部、電解部、排水殺菌部及び制御部といった藻類培養装置の主要構成要素が全て設置されているので、この函体を船舶内に搬入することで、船舶内で藻類培養装置を稼働させて藻類培養の育成過程を行うことができる。
【0023】
その育成過程では、温排水を用いて培養水を調製するため、排熱として捨てる温排水の熱を藻類の培養に有効利用することができる。
また、海水と海水を昇温させた温排水を藻類の栽培に利用することで、海水に含まれる窒素、リンを含む栄養塩類を藻類が吸収して成長が促進されるとともに、別途肥料等を添加する必要がないため、低コストで藻類の培養を行うことができる。
【0024】
さらに、培養工程における培養水の温度と藻類に照射する光の照射時間と、排水殺菌工程における使用済みの培養水への殺菌用水の混合量は、自動的に制御するため、藻類培養のための専門知識と技能を有する人員を船舶に配置する必要がなく、藻類培養のコストを低減することができる。
【0025】
また、藻類培養の播種又は植付の過程と収穫過程を、前記函体を陸地に搬出して行うことで、容易に広い作業場所を確保することができるため便宜である。
【0026】
さらに、船舶内に搬入する函体の数を増やしたり減らしたりすることで、船舶内における藻類栽培の規模を容易に拡大又は縮小することができる。したがって、フェリーやRORO船の貨物の積載率の変動に伴って、藻類培養に使用できる貨物室の空きスペースの広さが変動した場合でも、その空きスペースに搬入する函体の数を増減させることで、臨機応変に対応することができる。
【0027】
前記〔5〕の発明にかかる藻類培養装置によれば、藻類培養装置には移動用の車輪が備えられているので、藻類培養装置に牽引用車両を連結することで、藻類培養装置の船舶内への搬入や陸地への搬出を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施の形態による藻類培養装置の概略図。
図2】本発明の実施の形態による藻類培養装置の構造を示す説明図
図3】本発明の実施の形態による藻類培養装置の培養水槽の平面図。
図4】本発明の実施の形態による藻類培養装置の培養水槽の中央断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態による藻類培養装置1を、図1から図4に基づき説明する。
藻類培養装置1は、直方体状の函体10の内部に、制御部2、混合水槽3、培養水槽4、給気部5、光照射部6、ヒーター7、電解部8、排水殺菌部9が設置されて構成されている。このうち、培養水槽4は4基設置されており、培養水槽4毎に光照射部6とヒーター7とが設置されている。
【0030】
函体10は、一般的な20フィートコンテナと略同じ大きさ(長さ約6060mm,幅約2440mm,高さ約2590mm)であり、主に鉄骨とステンレス製のパネルによって構築されている。また、底部には2本のシャフトを有する計8個のトラック用の車輪12と、前方に突設された牽引用車両と連結するための連結部13が設けられている。
【0031】
かかる藻類培養装置1は、陸地において藻類Aの播種又は植付の過程が行われる。例えば、藻類Aがキリンサイである場合には、キリンサイの成体の切断片を培養ネット48に収納して円筒形槽41の中の培養水40に浸漬することで植付を行う(図4)。
その際、函体10の左右どちらか一方のサイドパネル(図示せず。)を、その上辺を支軸として側方に約90°上方に開けることで、作業者が4基の円筒形槽41に接触し易くなり、播種又は植付の作業を効率的に行うことができるようになる。
【0032】
培養水槽4への藻類Aの播種又は植付を終えた藻類培養装置1は、その連結部13にトレーラーヘッド等の牽引用車両を連結して、フェリーやRORO船の船舶F1の貨物室に搬入される。搬入後、牽引用車両は藻類培養装置1から切り離されて下船し、藻類培養装置1は、船舶F1の航行中に移動しないように船舶F1の床面に固定される。
その後、船舶F1の取水管F5に藻類培養装置1の送水管110を接続し、船舶F1の排水管F6に藻類培養装置1の送水管111を接続し、さらに排水管F6のより下流側に送水管116を接続する。
【0033】
また、船舶F1の発電機又はバッテリー等の電源F4に電気コード14を接続して、藻類培養装置1を稼働させるための電気の供給を受ける。なお、通常のフェリーやRORO船には、貨物として冷凍・冷蔵用コンテナを受け入れて稼働させるための電源が備えられており、その規格は三相200V・5kWが一般的である。
【0034】
ここで、フェリーとは、自動車、貨物及び旅客を同時に輸送する船舶であり、RORO船とは、貨物を積んだトラックやシャーシ(車輪付きの台車)を輸送する船舶である。フェリーもRORO船も、トラックやトレーラーが自走して乗り降り可能な構造としてある点で共通している。
【0035】
船舶内では、藻類Aの育成過程が行われる。育成過程では、藻類Aを大きく育てるために、清浄かつ適温の海水と、藻類Aの光合成を促進するための光と空気が必要である。
【0036】
船舶F1のエンジンF2が起動すると、そのエンジンF2を冷却するために取水管F5から海水が汲み上げられて熱交換器F3に供給され、熱交換器F3で昇温された海水(温排水)は排水管F6から海に排出される。
その際、藻類培養装置1は、船舶F1の取水管F5と接続してある送水管110から必要量の海水を混合水槽3に供給し、また、船舶F1の排水管F6と接続してある送水管111から必要量の温排水を混合水槽3に供給する。これにより、混合水槽3において藻類Aの育成に適当な温度よりも10~20℃程度高温の培養水が調製される。
【0037】
混合水槽3で調製された培養水は、培養水槽4の円筒形槽41に送水管112によって供給される。送水管112は円筒形槽41の周縁に沿うように設けられているため、送水管112から流出する培養水は、円筒形槽41に緩やかな旋回流を発生させる(図3)。
【0038】
円筒形槽41中の培養水40の温度は、藻類Aが亜熱帯性又は熱帯性の藻類であるキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサである場合には、20~32℃の範囲に維持することが好ましい。
なお、藻類Aは、キリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサに限定されず紅藻類、緑藻類、褐藻類、珪藻類、藍藻類といった光合成を行う生物であって水中又は水面に生息している生物であればよい。また、クロロコックム、ドルシベントラレ、又はガルディエリア属に属する微細藻類であってもよい。
【0039】
培養水40の温度は、センサー43(図4)で検出し、この温度情報は制御部2に電気ケーブル21を介して伝えられる。円筒形槽41内の培養水40の温度が所定範囲よりも低下した場合は、制御部2の指令によって混合水槽3内の所定範囲よりも10~20℃程度高温の培養水が送水管112から供給される。円筒形槽41内の培養水40の温度が所定範囲に達した場合には、制御部2の指令によって送水管112からの培養水の供給が停止される。
【0040】
なお、船舶F1が港湾に停泊中でエンジンF2が停止している状況では温排水を確保できないが、その際、円筒形槽41内の培養水40の温度が所定範囲よりも低下した場合には、制御部2の指令によってヒーター7に通電し、培養水40の温度を所定範囲まで上昇させることができる。
このような円筒形槽41内の培養水40の温度管理は、制御部2によって自動的に制御して行われる。
【0041】
培養水槽4で藻類Aを大きく育てるには、藻類Aが十分に光合成を行える量の光が必要である。
培養水槽4の円筒形槽41の上方には、光合成促進波長の光を発するLEDを備えた4本の光照射部6が設置してある。光照射部6の光照射時間は、電気ケーブル21を介して制御部2により自動的に制御される。培養する藻類Aがキリンサイである場合には、1日当たりの光照射時間は8時間以上であることが望ましい。
【0042】
円筒形槽41内の培養水40には、藻類Aが光合成と呼吸を行うための空気を溶かし込む必要がある。
給気部5はエアポンプを備えており、藻類培養装置1の壁面の一部を貫通して設けられた給気口51から送気管52を介して空気を吸入し、かかる空気は送気管53を介して円筒形槽41に供給される。送気管53は円筒形槽41の底部付近に設けられたエアディフューザー42に接続してあり、送気管53から供給された空気は、エアディフューザー41によって細密な気泡にされて培養水40に溶かし込まれる。
【0043】
円筒形槽41に供給する空気の量は、藻類Aの光合成と呼吸を促進するためには多過ぎて問題となることはないため、藻類培養装置1が船舶F1の電源F4から電気の供給を受けている間中ずっと空気を供給し続けても良いが、節電の観点から、空気の供給時間を制御部2で自動的に制御するようにしてもよい。
【0044】
培養水槽4では、藻類Aが適切な期間育成される。適切な育成期間は、藻類Aの種類や播種量又は植付量によって異なるが、1ヶ月程度で収穫できるように調節することが望ましい。
【0045】
円筒形槽41は繊維強化プラスチック(FRP)で形成されており、1基あたり約2.5tの培養水40を収容することができる。円筒形槽41の内面側には、ヒーター7、エアディフューザー42、センサー43、ループハンガー46及び送水管115が設置されている(図4)。
【0046】
送水管115はポリ塩化ビニル(PVC)管であり、円筒形槽41の側壁下部を貫通して略中央部まで延設され、さらに上方に延設されている。送水管115の上方に向かって開口した端部には、円筒形のセンターハンガー45が取付けられており、センターハンガー45の上面開口部から送水管115内に培養水40が流入するようになっている。これにより、円筒形槽41内の培養水40の水面Wは、常にセンターハンガー45の上面よりも少し下に位置することになる。
【0047】
センターハンガー45と、円筒形槽41の内周面にセンターハンガー45と略同じ高さで固設されたループハンガー46との間には、ナイロン製の8本の培養ロープ47が張架されている。培養ロープ47は、その一端をセンターハンガー45に設けられたフックに引っ掛け、他端をループハンガー46に設けられたフックに引っ掛けることで張架される。
【0048】
夫々の培養ロープ47には藻類Aが収容された複数個の培養ネット48が吊り下げられており、全ての培養ネット48が培養水40に浸漬するようになっている。培養ネット48の網糸はナイロン製であり、目合は20×20mmから50×50mmの範囲であることが望ましい。また、培養ネット48にはプラスチック製のかごを用いることもできる。
【0049】
送水管115に流入した培養水40は、使用済みの培養水(培養排水)として最終的には海に排出するが、かかる培養排水には、培養した藻類Aの成体(栄養器官)の一部や胞子(果胞子)等の藻類Aの再繁殖が可能な組織や細胞が含まれていることが多い。そのため、これらの組織や細胞が、培養排水が排出される海域に天然では生息していない藻類Aのものである場合には、その海域の生態系への悪影響の発生を防ぐために、これらの組織や細胞を死滅させてから培養排水を排出する必要がある。
【0050】
電解部8は、海水を電気分解して次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水を調製する電気分解機を備えている。船舶F1の取水管F5によって取水され、送水管110と送水管113を介して電解部8に供給された海水は、電気分解機によって殺菌用水になって送水管114を介して排水殺菌部9に供給される。
【0051】
また、排水殺菌部9には、送水管115から藻類Aの再繁殖が可能な組織や細胞が含まれた培養排水が流入し、送水管114から供給される殺菌用水と混合される。これによって、培養排水に含まれる藻類Aの組織や細胞が死滅して殺菌済みの培養排水となる。
培養排水への殺菌用水の混合量は、混合後の培養排水の次亜塩素酸ナトリウムの濃度が200ppm以上になるように、より好ましくは500ppm以上になるように調節する。かかる混合量の調節は、制御部2によって自動的に制御して行われる。
【0052】
排水殺菌部9において殺菌された培養排水は、送水管116を介して船舶F1の排水管F6から海に排出される。
【0053】
藻類Aが十分に育って育成過程が終了すると、収穫過程を行うために藻類培養装置1を船舶F1の貨物室から陸地に搬出する。
藻類培養装置1を搬出するには、まず、送水管110を船舶F1の取水管F5から取り外し、送水管111と送水管116を船舶F1の排水管F6から取り外し、電気コード14を船舶F1の電源F4から取り外す。その後、培養装置1の船舶F1の床面への固定を解いて、培養装置1の連結部13を陸地から船舶F1内に乗り入れて来た牽引用車両に連結し、かかる牽引用車両によって牽引して陸地に搬出する。
【0054】
藻類Aの収穫過程は、前記の播種又は植付の過程と同様に、藻類培養装置1の函体10のサイドパネル(図示せず。)を、その上辺を支軸として側方に約90°上方に開けて行う。作業者は、4基の円筒形槽41から、培養ネット48を培養ロープ47ごと取り外して作業台に移し、培養ネット48内から大きく成長した藻類Aを取り出して収穫する。
藻類Aの収穫を終えた後、作業者は培養装置1の清掃と点検を行い、次回の使用に備える。
【0055】
以上のとおり、藻類培養装置1によれば、函体10の内部に混合水槽3、培養水槽4、給気部5、光照射部6、電解部8、排水殺菌部9及び制御部2といった藻類培養装置1の主要構成要素が全て設置されているので、この函体10を船舶F1内に搬入することで、船舶F1内で藻類培養装置1を稼働させて藻類Aの培養の育成過程を行うことができる。
【0056】
その育成過程では、温排水を用いて培養水を調製するため、排熱として捨てる温排水の熱を藻類Aの培養に有効利用することができる。
また、海水と海水を昇温させた温排水を藻類Aの栽培に利用することで、海水に含まれる窒素、リンを含む栄養塩類を藻類Aが吸収して成長が促進されるとともに、別途肥料等を添加する必要がないため、低コストで藻類Aの培養を行うことができる。
【0057】
さらに、培養工程における培養水の温度と藻類に照射する光の照射時間と、排水殺菌工程における培養排水への殺菌用水の混合量は、自動的に制御するため、藻類培養のための専門知識と技能を有する人員を船舶に配置する必要がなく、藻類Aの培養のコストを低減することができる。
【0058】
また、藻類Aの培養の播種又は植付の過程と収穫過程を、函体10を陸地に搬出して行うことで、容易に広い作業場所を確保することができるため便宜である。
【0059】
さらに、船舶F1内に搬入する函体10の数を増やしたり減らしたりすることで、船舶F1内における藻類Aの栽培の規模を容易に拡大又は縮小することができる。したがって、フェリーやRORO船の貨物の積載率の変動に伴って、藻類Aの培養に使用できる貨物室の空きスペースの広さが変動した場合でも、その空きスペースに搬入する函体10の数を増減させることで、臨機応変に対応することができる。
【0060】
また、藻類培養装置1によれば、藻類培養装置1には移動用の車輪12が備えられているので、藻類培養装置1に牽引用車両を連結することで、藻類培養装置1の船舶内への搬入や陸地への搬出を容易に行うことができる。
【0061】
さらに、藻類培養装置1を用いて実施する藻類Aの培養方法によれば、船舶F1内で行う藻類Aの培養の育成過程においては、船舶F1のエンジンF2で生成される温排水を用いて培養水を調製するため、排熱として捨てる温排水の熱を藻類Aの培養に有効利用することができる。
また、海水と海水を昇温させた温排水を藻類Aの栽培に利用することで、海水に含まれる窒素、リンを含む栄養塩類を藻類Aが吸収して成長が促進されるとともに、別途肥料等を添加する必要がないため、低コストで藻類Aの培養を行うことができる。
【0062】
さらに、培養工程で使用済みの培養水、すなわち培養排水を、次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水を混合して殺菌した後に海に排出するので、培養排水に、藻類Aの成体(栄養器官)の一部や胞子(果胞子)等の藻類の再繁殖が可能な組織や細胞が含まれていたとしても、それらを死滅させた後に排出することができる。そのため、培養排水を排出する海域に天然では生息しない藻類A等を繁殖させてしまうという生態系への悪影響の発生を防ぐことができる。
また、次亜塩素酸ナトリウムを含有する殺菌用水は、海水を電気分解することで得られるため、別途に殺菌剤を用意する必要がないため便宜である。
【0063】
さらに、培養工程における培養水の温度と藻類に照射する光の照射時間と、排水殺菌工程における使用済みの培養水への殺菌用水の混合量は、自動的に制御されるため、藻類培養のための専門知識と技能を有する人員を船舶に配置する必要がなく、藻類Aの培養のコストを低減することができる。
【0064】
また、藻類培養の播種又は植付の過程と収穫過程は、いずれも広い作業場所が必要であるが、陸地で行うため、利用可能なスペースが限られている船舶内に広い作業場所を用意する必要がなく便宜である。
【0065】
さらに、藻類培養装置1を用いて実施する藻類Aの培養方法によれば、船舶F1のエンジンF2の熱によって昇温された温排水を用いた培養水を用いるため、比較的高い水温を好む亜熱帯性又は熱帯性の藻類Aであるキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサを高密度で培養することができる。
また、培養されたキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサはいずれも食品や化粧品の原料、飼料、肥料等として用いることが可能であるため、収穫した藻類Aを販売することにより収益を得ることができる。
【0066】
さらに、藻類培養装置1を用いて実施する藻類Aの培養方法によれば、藻類培養の育成過程を行う船舶F1としてフェリー又はRORO船を用いることで、貨物室の空きスペースを有効に活用して藻類Aの培養を行うことができる。
【0067】
なお、本発明による藻類の培養方法及び藻類培養装置は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明による藻類の培養方法及び藻類培養装置は、船舶のエンジンから生ずる排熱を利用して藻類を育成する培養及び養殖の分野において利用できるものである。
【符号の説明】
【0069】
1 藻類培養装置
2 制御部
3 混合水槽
4 培養水槽
40 培養水
41 円筒形槽
42 エアディフューザー
43 センサー
45 センターハンガー
46 ループハンガー
47 培養ロープ
48 培養ネット
5 給気部
52,53 送気管
6 光照射部
7 ヒーター
8 電解部
9 排水殺菌部
10 函体
110~116 送水管
12 車輪
13 連結部
A 藻類
F1 船舶
F2 エンジン
F3 熱交換器
F4 電源
F5 取水管
F6 排水管
S 海

図1
図2
図3
図4