(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002924
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】電気錠用のクリック機構及び電気錠
(51)【国際特許分類】
E05B 47/00 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
E05B47/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103318
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】390037028
【氏名又は名称】美和ロック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080838
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 光康
(74)【代理人】
【識別番号】100194261
【弁理士】
【氏名又は名称】栢原 崇行
(72)【発明者】
【氏名】中村勝則
(57)【要約】
【課題】省電力化およびモータやメカの耐久性の向上、静音性の向上を図ることができること。
【解決手段】手動側の駆動部の駆動時に付勢手段のバネ力に抗して作動するクリックピースと、一方、電動側の駆動部の駆動時に前記付勢手段のバネ力の影響を略受けずに作動するクリックアームとを錠箱内に組み込み、クリックアームは、内周面にカム面が形成されたカム部となっており、前記カム面は、前記錠箱内に組み込まれた電動側の駆動部の動力伝達部に設けられた連動突部に係合している電気錠用のクリック機構。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動側の駆動部の駆動時に付勢手段のバネ力に抗して作動するクリックピースと、一方、電動側の駆動部の駆動時に前記付勢手段のバネ力の影響を略受けずに作動するクリックアームとを錠箱内に組み込み、前記クリックアームはカム部を有し、前記カム部は前記錠箱内に組み込まれた電動側の駆動部の動力伝達部に設けられた連動突部に係合している電気錠用のクリック機構。
【請求項2】
請求項1に記載のクリック機構を含み、前記錠箱内に、さらに、進退動可能な施錠片を含む施錠部と、サムターン装置、シリンダ装置、ダルマ構成部材を含む手動側の駆動部と、制御部の制御信号により制御される電動側の駆動部と、前記手動側の駆動部と前記電動側の駆動部との間に位置し、かつ、クラッチ構成部材を構成要素とする動力伝達部とが組み込まれ、前記クリック機構は、クリック振動付与機能及びクリック振動解消機能の両方を有する電気錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的、電気的に施解錠できる電気錠用のクリック機構及び該クリック機構を含む電気錠に関する。
【背景技術】
【0002】
〈手動操作によるクリック感〉
機械式に施解錠できる錠前に於いて、鍵又はサムターン摘みという手動操作によるクリック感(振動音)の印象を受けるものとしては、特許文献1(特開2006-125058号公報)、特許文献2(特開2002-250160号公報)、特許文献3(実開昭50-35694号公報)に記載されている実施形態がある。ここで簡単に説明すると、特許文献1では、付勢手段31、
図1、
図8、
図9に手動操作によるクリック機構が記載されている。また特許文献2では、ダルマ駆動バネ40、段落0012、
図1、
図7等に記載されている。さらに、特許文献3では、ロッド14が死点を超えると、ばね19の弾発力により位置変位し、デッドボルト7が揺動しないように押さえ付けている。このように、手動操作による施解錠の場合には、デッドボルト7の回転終了時(施錠時、解錠時)に、操作者が完全にデッドボルト7が突出したか又は後退したかの確実性を実感するために「クリック感の印象(振動音の発生)」が要望されている。
【0003】
〈電気錠の場合〉
電気錠に於いて、駆動モータの場合も付勢手段の負荷を駆動モータに与える構造を採用しているものとしては、特許文献4(特開平10-82221号公報)、特許文献5(実開昭58-120353号公報)等がある。前記特許文献4は、駆動モータ47の駆動力で回動する駆動板43と、鍵やサムターンの操作力で回転する揺動板43を伸縮自在に一対の連結軸50、50及びコイルバネ49で接続しても、駆動モータ47は前記コイルバネ49の負荷を受けるものと認められる。また前記特許文献5は、角回転リンク8のアーム8aにバネ11の一端部が掛止めされているので、モータ2の駆動力がウオーム1、ウォームギヤ15及び回転リンク6を介して前記角回転リンク8に伝達するとき、前記バネ11の負荷が前記駆動モータ47にかかるものと理解することができる(符号は各特許文献のもの)。
【0004】
なお、特許文献6には、電気錠におけるクラッチ機構が記載されている。電気錠では、電動モータが駆動した場合に、電動部側の駆動力が手動側の駆動部に伝わらないように伝動歯車、係合部材等を利用した動力伝達部にクラッチ機構を配設することは周知技術である(例えば特開2006-125128号公報等)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-125058号公報
【特許文献2】特開2002-250160号公報
【特許文献3】実開昭50-35694号公報
【特許文献4】特開平10-82221号公報
【特許文献5】実開昭58-120353号公報
【特許文献6】特開2013-204367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に電気錠は、一般錠(機械的に施解錠する錠前)と同じく、バネによりダルマにクリック性を持たせているが、そのクリックは電気駆動時にはブレーキでしかない。そこで、電動モータの駆動時にバネの付勢を外すことが出来る構造とし、省電力化およびモータやメカの耐久性の向上、静音性の向上を図ることが望ましい(斬新な発明の課題)。
【0007】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は次の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。
ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気錠用のクリック機構は、手動側の駆動部の駆動時に付勢手段のバネ力に抗して作動するクリックピースと、一方、電動側の駆動部の駆動時に前記付勢手段のバネ力の影響を略受けずに作動するクリックアームとを錠箱内に組み込み、前記クリックアームはカム部を有し、前記カム部は前記錠箱内に組み込まれた電動側の駆動部の動力伝達部に設けられた連動突部に係合していることを特徴とする。前記連動突部は、例えばピン状である。
【0009】
しかして、各部材を合理的に組み合わせるために、実施形態の電気錠用のクリック機構は、クリック用の固定軸に一端部が軸支され、手動側の駆動部の駆動時に付勢手段のバネ力に抗して揺動するダルマ側のクリックピースと、一方、前記固定軸を同軸として軸支され、電動側の駆動部の駆動時に前記付勢手段のバネ力の影響を略受けずに揺動する電動モータ側のクリックアームとを錠箱内に組み込んだことを特徴とする。
【0010】
上記構成に於いて、前記付勢手段は、前記固定軸に巻装された中央部と、この中央部に連続して前記クリックピースのバネ端受け部に支持される一端部と、前記中央部に連続して前記クリックアームの枢着基端部側のバネ端受け部に支持される他端部から成ることを特徴とする。さらに、前記クリックアームの枢着基端部側から延びる先端部は、内周面に目玉形状のカム面が形成されたカム部となっており、前記カム面は、前記錠箱内の組み込まれた動力伝達部を構成するクラッチ構成部材の連動突部に係合していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の電気錠は、請求項1に記載のクリック機構を含み、前記錠箱内に、さらに、進退動可能な施錠片を含む施錠部と、サムターン装置、シリンダ装置、ダルマ構成部材を含む手動側の駆動部と、制御部の制御信号により制御される電動側の駆動部と、前記手動側の駆動部と前記電動側の駆動部との間に位置し、かつ、クラッチ構成部材を構成要素とする動力伝達部とが組み込まれ、前記クリック機構は、クリック振動付与機能及びクリック振動解消機能の両方を有することを特徴とする。
ここでの「クリック振動解消機能」は、完全に付勢手段のバネ力をなくすることまでを意味しない。完全に付勢手段のバネ力をなくすることは最も好ましいが、発明の課題を逸脱しない範囲で、「クリック感の印象(振動音の発生)」が相当に減少する実施形態も含まれる。
【発明の効果】
【0012】
電気駆動時にバネの付勢を外すことが出来る構造なので、省電力化およびモータやメカの耐久性の向上、静音性の向上を図ることができる。付言すると、クリックアーム43はカム部45を有し、該カム部は電動側の駆動部Eの動力伝達部Fに設けられた連動突部37に係合していることから、前記電動側の駆動部を、動力伝達部を介して施錠片に伝え、該施錠片が進退動して完全施錠又は完全解除した場合には、電動モータ21に負荷がかからないのみならず、クリック感の印象(振動音の発生)を防ぐことができる。一方、手動側の駆動部Aの駆動力により前記施錠片が進退動して「完全施錠」又は「完全解除」した場合には、クリック機構Gの振動付与機能g1により、操作者はクリック感の印象を、従来の実施形態と同様に受けることができる。なお、実施形態によっては、クリッピース42とクリックアーム43の一端部を同軸に軸支したので、付勢手段41を前記各部材42、43に合理的に配設することができる。したがって、錠箱1の内部空間を有効的に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1乃至
図16は本発明の実施形態を示す各説明図である。
【
図1】錠箱に配設される手動側の駆動部の概略説明図。
【
図2】錠箱、環状ダルマ、施錠部の一部、固定軸等を示す概略説明図。
【
図3】錠箱の一側壁側から見た電気錠の内部構造の説明図。
【
図4】錠箱の他側壁(反対)側から見た電気錠の内部構造の説明図。
【
図5】電気錠の錠箱内に組み込んだ各部の構成を示す概念図。
【
図6】手動側の駆動部を構成する環状ダルマと、電動側の駆動部と、両駆動部の間に位置しかつデッド駆動体を有する動力伝達部Fの接続関係を示す斜視図。
【
図7】電動側の駆動部側の動力伝達部を構成するクラッチ構成部材、連動突部を有する連動板等の斜視図。
【
図8】クリック機構部を構成する部材の斜視図(組み合わせ状態)。
【
図9】クリック機構部を構成する部材の斜視図(分解状態)。
【
図10】手動操作(施錠→解錠の場合)の初期時におけるデッド駆動体の山形状突起の位置を示す説明図。
【
図11】回転途中、デッド駆動体の山形状突起でクリックピースの先端部を押し込み、これにより環状ダルマのクリックが効く説明図。
【
図13】電動モータ操作の駆動(施錠→解錠の場合)の初期時におけるクリックアームの位置を示す説明図。
【
図14】クラッチギヤが反時計方向に回転中、連動突部も一緒に回転し、クリックアームを矢印方向に揺動させた説明図。
【
図15】デッド駆動体がフリーの状態で電動駆動する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電気錠用Xのクリック機構Gは、手動側の駆動部Aの駆動時に付勢手段41のバネ力に抗して作動するクリックピース42と、一方、電動側の駆動部Eの駆動時に前記付勢手段のバネ力の影響を略受けずに作動するクリックアーム43を錠箱1内に組み込み、前記クリックアームはカム部43を有し、カム部43は錠箱1内に組み込まれた電動側の駆動部Eの動力伝達部Fに設けられた連動突部37に係合していることを特徴とする。なお、前記カム部43の内周面にカム面45aが形成され、該カム面45aに前記連動突部37に係合している。
【0015】
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
図1乃至
図16は本発明の第1の実施形態を示す各説明図である。
【0016】
まず、
図1は錠箱1に配設される手動側の駆動部(ダルマ構成部材を含む)Aの概略説明図である。この
図1に於いて、aは建物の入口に設置された扉、左側は扉の外壁面b、右側は扉の内壁面cである。電気錠Xの錠箱1は、例えば扉1の木口に嵌め込まれている。
【0017】
電気錠Xの錠箱1内に組み込まれる各部(構成要素)は、
図3、
図4、
図5等で示す通りである。手動側の駆動部Aには、シリンダ装置2、サムターン装置3、前記シリンダ装置2とサムターン装置3とを接続するダルマ構成部材4とを含む。実施形態では、ダルマ構成部材4とは別体の進退動用アーム19を有するデッド駆動体9を含む。なお、前記デッド駆動体9は、電動側の駆動部Fの駆動力を手動側の駆動部Aの施錠片としてのデッドボルト11に前記進退動用アーム19で直接動力を伝達する機能を有することから、動力伝達部Fの構成要素でもある。
【0018】
シリンダ装置2及びサムターン装置3の具体的構成は周知技術なので、ここでは簡単に説明する。シリンダ装置2は、固定側の外筒、回転側の内筒、解錠整列ラインに移動する可動障害子(ピン型、C型等のタンブラー)、可動障害子用付勢手段、内筒の後端部に接続するテールピース等を有し、前記内筒の鍵穴に鍵のブレードを挿入して前記テールピースを施錠方向及び解錠方向に選択的に回転させることができる。
【0019】
図1では、シリンダ装置2を構成するシリンダ本体2aの前面が扉aの外壁面bと略面一であることを示している。なお、特に図示しないが、シリンダ本体2aの前面が扉aの外壁面から突出する場合には、化粧リングがシリンダ本体の先端部に設けられる。
一方、サムターン装置3は、筒状の固定ブロック3a、この固定ブロック内の中心部に設けられたサムターン軸3b、サムターン軸の後端部に一体的に設けられたサムターン摘み3c等を有し、例えば前記シリンダ装置2の後端部と一体的に連結される(例えば特開2008-308966号公報の
図1、段落0022)。
【0020】
次にダルマ構成部材4は、シリンダ本体2aのテールピース用の係合体5、サムターン軸用の係合体6(各係合体5、6は実質的に同一構成なので、便宜上、一方の図のみを示す)及び環状壁部7aの内周面に前記各係合体5、6に係脱する複数個の被係合部(例えば対向状態の係合突起)7bを有する環状ダルマ7とから成る。前記環状ダルマ7は、実施形態では、環状壁部7aの外周面の一部に弧状の係合歯(ダルマギヤ)7cを有している。
【0021】
図1の斜視の通り、前記各係合体5、6は、テールピースやサムターン軸の内端部が係合する非円形、多角形、+形状等の係合孔を有する環状板部分(5a、6a)と、該環状板部分の外周面から半径外方向に延びる一対のL型係合アームと(5b、6b)からなり、前記一対のL型係合アーム5b、6bが環状ダルマ7の内周面に突起状に設けた被係合部7bに選択的に係合する。
【0022】
次に
図2は、錠箱1、錠箱内に配設される手動側の駆動部Aの環状ダルマ7及び施錠部Bの一部、デッド駆動体用固定軸8、カマ軸13等を示す概略説明図である。この
図2では、錠箱1に形成された施錠片用の水平案内長孔等の細部的事項は省略し、特に、錠箱1の幅広側壁の下端部に形成した開口部から見える環状ダルマ7と、錠箱1のフロント板から突出した施錠部Bの突出先端部を示す。
【0023】
施錠部Bは、実施形態では、水平長孔に案内されながら進退動するデッドボルト11と、カマ軸13に軸支され、かつ、カマ連動軸・カマ連動軸用案内長孔を介してデッドボルト11に連動回転するカマデッド12とから成る。施錠部Bの構成は周知技術(例えば特開2013-204367号公報の図面、段落0028、特開2006-125128等)なので、ここでは簡単に説明する。
【0024】
普通一般に、金属製の錠箱1にはカマデッド12がカマ固定軸13を中心に回動自在に支持されている。そして、カマデッド12は、デッドボルトの進退動に従動して円弧状の軌跡を描いて木口面から進退される。
【0025】
次に
図3は、錠箱1の一側壁側から見た電気錠Xの内部構造の説明図で、後述するクリック機構部Gを構成するクリックアーム43の正面側が見える。一方、
図4は、錠箱1の他側壁側から見た電気錠Xの内部構造の説明図で、前記クリックアーム43の背面側が見える。
【0026】
次に
図5は電気錠Xの錠箱1内に組み込んだ各部の構成を示す概念図である。これらの図に於いて、電気錠Xは、クリック機構部Gの他、サムターン装置、シリンダ装置、ダルマ構成部材を含む手動側の駆動部Aと、進退動可能な施錠片を含む施錠部Bと、二次電池等の電源部Cと、電源部Cから電気の供給を受ける制御部Dと、前記制御部の制御信号により制御される電動側の駆動部Eと、前記手動側の駆動部Aと前記電動側の駆動部Eとの間に位置し、かつ、クラッチ構成部材30を構成要素とする動力伝達部Fとが組み込まれ、前記クリック機構部Gは、クリック振動付与機能g1及びクリック振動解消機能g2の両方を有する。
【0027】
図6は、手動側の駆動部Aを構成する環状ダルマ7と、電動側の駆動部Eと、両駆動部A、Eの間に位置し、かつ、環状ダルマ7と噛合するデッド駆動体9を有する動力伝達部Fの接続関係を示す斜視図である。
前述したように、前記デッド駆動体9は、施錠片としてのデッドボルト11を駆動させる部材であるが、前記電動側の駆動部Eの駆動力を減速歯車列、クラッチ部材を介して前記デッドボルト11に駆動力を伝えることから、ここでは手動側の駆動部Aのみならず、動力伝達部Fの構成要素に含めることもできる。
【0028】
そこで、
図3、
図4及び
図6を参照にして「デッド駆動体9」の構成を説明する。デッド駆動体9は、
図3、
図4で示すように、錠箱1の略中心部に設けられたデッド駆動体用の固定軸8に回転自在に装着されている。前記固定軸8に外嵌合する部分が中心軸筒部16である。この中心軸筒部16を基準にして
図3を参照にすると、下方の扇状部分の外周部に前述した環状ダルマ7の係合歯(ダルマギヤ)7cと噛合する第1ギヤ17が設けられている。一方、上方の扇状部分に、後述するクラッチ機構を構成するクラッチホルダーギヤと噛合する第2ギヤ18が設けられている。付言すると、前記第1ギヤ17は環状ダルマ7に接続するセグメントギアで、一方、前記第2ギヤ18は電動モータ21側のクラッチホルダー32のギヤ32aと噛合するセグメントギアである。
【0029】
さらに、ダルマ構成部材の環状ダルマ7は、普通一般のダルマの如く、デッドボルトの後端部の傾斜面を選択的に押し付ける進退動用アームを有しないことから、実施形態のデッド駆動体9は、前記第1ギヤ17を有する扇状部分の両側面に一対の進退動用アーム19を半径方向に有している(
図3と
図4を参照)。前記進退動用アーム19は、デッドボルト11の後端部に傾斜状形成された進退用受け部と、該進退用受け部に対して所定間隔離間する後退用受け部に選択的に係脱する。
【0030】
加えて、本発明では、クリック機構部Gは、クリックピース42を構成要素としていることから、環状ダルマ7が正転及び逆転方向に回転する際、前記クリックピース42を付勢手段41のバネ力に抗して所定範囲まで揺動させるための「押込み突起20」が設けられている。実施形態では、全体として山形形状の押込み突起20が中心軸筒部16の外周面から半径外方向に延びている(
図3を参照)。
【0031】
ここで、
図6を参照にして電気側の駆動部Eと減速手段22について説明する。電気側の駆動部Eは、正転及び逆転可能な電動モータ21を採用している。電動モータ21は電池又は商業用電源を利用することができる。この電動モータ21の出力軸にはウォームギヤが固定され、該ウォームギヤに減速手段22を構成する大小の減速歯車が接続する。しかして、ウォームギヤと噛合する減速歯車は、第1歯車23のみではなく、該第1歯車23及び電動駆動側のクラッチギヤ31に噛合する第2歯車24を設けている。前記第2歯車24を追加した理由は、減速効果をより効かせるためである。なお、減速手段22による減速をクラッチ機構の構成部材に対してどのように伝えるかは、本発明の本質的事項ではない(適宜に設計変更し得る)。
【0032】
次に
図7は、電動側の駆動部E側の動力伝達部Fを構成するクラッチ構成部材30、連動突部37を有する連動板36等の斜視図である。
図7を参照にして「クラッチ構成部材を含む動力伝達機構」を説明する。なお、
図7の動力伝達機構の内、クラッチ構成部材30を構成するクラッチギヤ(駆動側部材)31、クラッチホルダー(従動側部材)32、前記クラッチギヤの凹陥部31aに組み込まれる一対のアーム状の伝達係合片33、34、前記クラッチホルダー32の内側に支持される枠体型の伝達解除片35等の構成要素は、当業者にとって公知或いは周知技術(例えば特開2013-204367号公報の
図3、
図4、段落0009等)なので、詳細な説明は割愛し、ここでは新規事項について説明する。
【0033】
本発明の実施形態では、前記クラッチ構成部材30は、円盤状のクラッチギヤ31と、このクラッチギヤの一側面の凹所内に接着、複数の固定ピン等で嵌め込み式に固定された円形状の連動板36と、前記連動板36の周端部付近の一側面に突設され、かつ、クリックアーム43のカム部45の内周面に形成された目玉形状のカム面45aと摺接する連動突部37とから成る。なお、前記連動板36は中心部にクラッチギヤ用固定軸が貫通する軸孔36aを有し、該軸孔36aの同心円上に、固定ピン用の複数個の取付け小孔が形成されている。
【0034】
ここで、噛合関係について簡単に説明すると、円盤状のクラッチギヤ31は、前述した減速手段22の第2歯車24の小径部ギヤに噛合し、該第2歯車24の回転力はアーム状の伝達係合片33、34を介してクラッチホルダー32に伝えられる。そして、クラッチホルダー32の回転力はデッド駆動体9に伝えられる。したがって、デッド駆動体9の回転力は進退動用アーム19を介して環状ダルマ7に伝えられる。なお、動力伝達部Fはクラッチ部材30を含むことから、電動部側の駆動部Eの駆動力は、手動側の駆動部Aには伝わらない(但し、デッド駆動体9を除く)。
【0035】
次に、
図8はクリック機構部を構成する部材の斜視図(組み合わせ状態)、
図9はクリック機構部を構成する部材の斜視図(分解状態)である。
【0036】
電気錠用のクリック機構部(或いは「クリック機構」ともいう)Gは、クリック用の固定軸40に一端部が軸支され、手動側の駆動部Aを構成するダルマ構成部材4の駆動時に、前記固定軸40に設けられた付勢手段41のバネ力に抗して揺動するダルマ側の長板状のクリックピース42と、一方、前記固定軸40を同軸として軸支され、電動側の駆動部を構成する電動モータ21の駆動時に、前記付勢手段のバネ力の影響を略受けずに揺動する電動モータ側の長尺状のクリックアーム43とを具備し、錠箱1に組み込まれている。
【0037】
しかして、前記付勢手段41は、前記固定軸40に巻装された中央部41aと、この中央部に連続して前記クリックピースのバネ端受け部42aに支持される一端部41bと、前記中央部に連続して前記クリックアームの枢着基端部側のバネ端受け部43aに支持される他端部41cから成る。なお、クリックピース42は、不番の軸孔付近の部位に段差状の前記バネ端受け部42aを有し、さらにその先端部に、前述したデッド駆動体9の押し込み突起20用の垂直壁状受け部42bを有している。
【0038】
さらに、実施形態では、前記クリックアーム43は、長板状のクリックピース42の中央部乃至先端部寄りの部位を挟持できるように上板と下板を有するクリップ型の支持部材であり、クリックアーム43の一側面(
図8では下面)を支持する側は、クリックピース42の先端部よりも長手方向に突出している。付言すると、クリックアーム43のバネ受け部43aを有する枢着基端部側から延びる幅広の先端部は、内周面に目玉形状のカム面45aが形成されたカム部45となっており、前記カム面45aは、錠箱1内の組み込まれた動力伝達部Fを構成するクラッチ構成部材30のクラッチギヤ31側の連動突部37に係合している。
【0039】
次に、施錠→解錠の場合における、「手動操作による駆動場合」と「電動モータの起動による駆動の場合」について説明する。
【0040】
まず、
図10乃至
図12は手動操作による駆動場合である。すなわち、
図10は手動操作(施錠→解錠の場合)の初期時におけるデッド駆動体9の押込み突起(山形状突起)20の位置を示す説明図、
図11は回転途中、デッド駆動体9の山形状突起20の先端でクリックピース42の先端部を押し込み、これにより環状ダルマ7のクリックが効く説明図、そして、
図12は手動解錠が完了したときの説明図である。
【0041】
次に、
図13乃至
図16は電動モータ21の起動による駆動の場合である。すなわち、
図13は電動モータ21の駆動(施錠→解錠の場合)の初期時におけるクリックアーム43の位置を示す説明図である。この時、クリックアーム43は、カム面45aに当接している連動突部37に支持されている。
図14はクラッチギヤ31が反時計方向に回転中、連動突部37も一緒に回転し、クリックアーム43を矢印方向に揺動させた説明図である。この時、クラッチが連結する前にクリックアーム43が移動する。
図15はデッド駆動体9がフリーの状態で電動駆動する説明図、そして、
図16は電動解錠が完了したときの説明図である。この時、クラッチギヤ31が一回転し、クリックアーム43が初期位置に戻る。
【0042】
なお、電動モータ21の駆動については、施錠から解錠になる場合について説明したが、解錠から施錠になる場合には、クラッチギヤ31は反時計方向に回転し、各部材は逆の作動態様となり、最終作動部材である施錠片(デッドボルト11、カマデッド12)は、デッド駆動体9の逆回転により、錠箱1内へと後退する。
【0043】
〈付記〉クリックアーム43のカム部45に案内される連動突部37は、電動側の駆動部の動力伝達部の適宜箇所に設けても良い。すなわち、クリックアーム43のカム部45の内周面に形成された目玉形状のカム面45aと摺接する連動突部37は、実施形態では、例えばクラッチ構成部材30に設けているが、動力伝達部を構成する減速ギヤ等に設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、住宅の入口の扉に取付けられた電気錠の産業で利用される。
【符号の説明】
【0045】
X…電気錠、
1…錠箱、
A…手動側の駆動部、
2…シリンダ装置、2a…シリンダ本体、
3…サムターン装置、3b…サムターン軸、3c…サムターン摘み、
4…ダルマ構成部材、5、6…係合体、7…環状ダルマ、
8…デッド駆動体用固定軸、
9…デッド駆動体、16…中心軸筒部、20…押込み突起、
B…施錠部、11…デッドボルト、12…カマデッド、
C…電源部(電池)、
D…制御部(ICチップ)、
G…クリック機構部、
40…クリック用の固定軸、
41…付勢手段、
42…クリックピース、
43…クリックアーム、45…カム部、45a…カム面、
g1…クリック振動付与機能、
g2…クリック振動解消機能、
E…電動側の駆動部、
21…電動モータ、
F…動力伝達部、
22…減速手段、
30…クラッチ構成部材、
31…クラッチギヤ、36…連動板、37…連動突部、
32…クラッチホルダー、
33…伝達係合片、
35…伝達解除片。