(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029246
(43)【公開日】2025-03-06
(54)【発明の名称】セルロース含有マスターバッチ
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20250227BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20250227BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20250227BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20250227BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20250227BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08L7/00
C08L91/00
C08L1/02
C08K5/09
C08L93/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133762
(22)【出願日】2023-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】川添 真幸
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA06
4F070AC40
4F070AC72
4F070AC94
4F070AD02
4F070AE14
4F070FA05
4F070FB04
4F070FB06
4F070FC03
4J002AB012
4J002AC011
4J002AE053
4J002AF023
4J002EF056
4J002FD012
4J002FD023
4J002FD026
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】含有するセルロースの分散性が高く且つ貯蔵安定性が高く、引張応力が優れた加硫ゴム組成物を得ることが可能なセルロース含有マスターバッチを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム、セルロース、および脂肪酸と樹脂酸との混合物を含み、このジエン系ゴム100質量部に対してセルロースを1~20質量部含有し、このセルロース1質量部に対して脂肪酸と樹脂酸との混合物を0.4~1.0質量部含有するセルロース含有マスターバッチとすることにより、上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム、セルロース、および脂肪酸と樹脂酸との混合物を含むセルロース含有マスターバッチであって、
前記ジエン系ゴム100質量部に対して前記セルロースを1~20質量部含有し、
前記セルロース1質量部に対して前記脂肪酸と樹脂酸との混合物を0.4~1.0質量部含有する、
セルロース含有マスターバッチ。
【請求項2】
前記セルロースが粉末セルロースである、請求項1に記載のセルロース含有マスターバッチ。
【請求項3】
前記セルロースがセルロースナノファイバーおよび/またはセルロースナノクリスタルである、請求項1に記載のセルロース含有マスターバッチ。
【請求項4】
前記脂肪酸と樹脂酸との混合物が粗トール油である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース含有マスターバッチ。
【請求項5】
前記脂肪酸と樹脂酸との混合物が、脂肪酸に対する樹脂酸の質量比(樹脂酸/脂肪酸)が0.9以上の混合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース含有マスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース含有マスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどを構成するゴム組成物は、弾性率(伸び)、硬度(硬さ)などの特性が優れたものが求められている。そして、このような特性を向上させるために、ゴム組成物中にカーボンブラックやシリカなどの無機充填剤を配合する技術が知られている。
【0003】
さらに、資源の有効利用や軽量化などの観点から、ゴム組成物中にセルロース(セルロースの極細繊維であるナノセルロースも含む)を充填剤として配合する技術も開発されている。例えば、特許文献1には、変性セルロースナノファイバー及びゴム成分を含む、大きなひずみを与えた場合でも十分な補強性を持ったゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マスターバッチ(ゴムマスターバッチ)の製造において、セルロースはゴム成分との親和性が高くないため、これを均質に分散させることが難しいという課題がある。特にナノセルロースは、マスターバッチ製造時の凝固や乾燥などの水分を除去する工程等において凝集して集束しやすい性質を有するため、特許文献1のような変性ナノセルロースであっても、ナノセルロースが均質に分散してナノレベルまで解繊された状態を保つことはかなり難しい。そして、含有するセルロースが均質に分散していないマスターバッチは、このセルロースの機能(特に加硫ゴム組成物としたときの充填剤としての機能)が十分に発揮されない。
【0006】
なお、セルロースを均質に分散させるために、乳化剤や界面活性剤などを併せて配合することが考えられるが、このような成分を一定量配合すると、マスターバッチの貯蔵中に経時変化によって染み出しが発生する場合がある。したがって、この場合でも、セルロースの分散性とマスターバッチの貯蔵安定性との両立という点で改善の余地がある。
【0007】
そこで本発明は、含有するセルロースの分散性が高く且つ貯蔵安定性が高く、引張応力が優れた加硫ゴム組成物を得ることが可能なセルロース含有マスターバッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ジエン系ゴム、セルロース、および脂肪酸と樹脂酸との混合物を含み、このジエン系ゴム100質量部に対してセルロースを1~20質量部含有し、このセルロース1質量部に対して脂肪酸と樹脂酸との混合物を0.4~1.0質量部含有するセルロース含有マスターバッチが、含有するセルロースの分散性が高く且つ貯蔵安定性が高く、引張応力が優れた加硫ゴム組成物を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は次の<1>~<5>である。
<1>ジエン系ゴム、セルロース、および脂肪酸と樹脂酸との混合物を含むセルロース含有マスターバッチであって、前記ジエン系ゴム100質量部に対して前記セルロースを1~20質量部含有し、前記セルロース1質量部に対して前記脂肪酸と樹脂酸との混合物を0.4~1.0質量部含有する、セルロース含有マスターバッチ。
<2>前記セルロースが粉末セルロースである、<1>に記載のセルロース含有マスターバッチ。
<3>前記セルロースがセルロースナノファイバーおよび/またはセルロースナノクリスタルである、<1>に記載のセルロース含有マスターバッチ。
<4>前記脂肪酸と樹脂酸との混合物が粗トール油である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のセルロース含有マスターバッチ。
<5>前記脂肪酸と樹脂酸との混合物が、脂肪酸に対する樹脂酸の質量比(樹脂酸/脂肪酸)が0.9以上の混合物である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のセルロース含有マスターバッチ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、含有するセルロースの分散性が高く且つ貯蔵安定性が高く、引張応力が優れた加硫ゴム組成物を得ることが可能なセルロース含有マスターバッチを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、ジエン系ゴム、セルロース、および脂肪酸と樹脂酸との混合物を含み、このジエン系ゴム100質量部に対してセルロースを1~20質量部含有し、このセルロース1質量部に対して脂肪酸と樹脂酸との混合物を0.4~1.0質量部含有するセルロース含有マスターバッチである。以下においては、これを「本発明のセルロース含有マスターバッチ」ともいう。
【0012】
なお、本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、特段の断りがない限り、「~」の前に記載される数値を下限値、および「~」の後に記載される数値を上限値とする数値範囲を意味する。
【0013】
以下、本発明のセルロース含有マスターバッチに含まれる成分、その含有量などについて、詳細に説明する。
【0014】
[ジエン系ゴム]
本発明のセルロース含有マスターバッチに含まれるジエン系ゴムは、ゴムラテックス(ゴム成分が水中にコロイド状に分散した水分散体)とすることが可能なジエン系ゴムであれば特に限定されない。なお、このジエン系ゴムとは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム成分であり、例えば、天然ゴム(NR)のラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)のラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)のラテックス、クロロプレンゴム(CR)のラテックスなどを用いることができる。特に、本発明の効果がより発揮され易くなることから、このジエン系ゴムとして天然ゴム(NR)を用いるのがより好ましい。つまり、本発明のセルロース含有マスターバッチに含まれるジエン系ゴムが天然ゴム(NR)を主成分として含むのがより好ましく、天然ゴム(NR)からなるのがさらに好ましい。
なお、この「主成分」とは、ジエン系ゴムの全質量のうち80質量%以上含まれることを意味し、この割合は90質量%以上であるのがより好ましい。
【0015】
また、このジエン系ゴムの重量平均分子量はいずれも、50000~3000000であることが好ましく、100000~2000000であることがより好ましい。さらに、これらはいずれも、ビニルモノマーによりグラフト変性されているものや有機過酸によりエポキシ化されているものであってもよい。
ここで、本発明において「重量平均分子量」とは、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。また、このGPC測定は、測定器としてカラム(Polymer Laboratories社製、MIXED-B)を使用し、40℃において行う。
【0016】
[セルロース]
本発明のセルロース含有マスターバッチに含まれるセルロースは、例えば、粉末セルロースであってよい。これにより、比較的安価なセルロース含有マスターバッチとすることができる。ここで、この粉末セルロースには、後述するナノセルロースの粉末(例えばセルロースナノクリスタルの粉末など)は包含されない。この粉末セルロースとしては、概ね球状(形状未制御)の粉末セルロースとしてビスコパール(レンゴー社製品)など、繊維状の粉末セルロースとしてKCフロック(日本製紙社製品)などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
なお、この粉末セルロースの平均粒子径(D50)は、限定されるものではないが、1000μm以下であるのが好ましく、800μm以下であるのがさらに好ましく、600μm以下であるのがさらに好ましく、400μm以下であるのがさらに好ましく、250μm以下であるのがさらに好ましく、100μm以下であるのがさらに好ましい。下限は、5μm以上であってよく、さらには10μm以上であってもよい。ここで、この「平均粒子径(D50)」とは、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積基準の平均粒子径(体積積算分布50%径(D50))である。
【0017】
本発明のセルロース含有マスターバッチに含まれるセルロースは、セルロースナノファイバーおよび/またはセルロースナノクリスタルであると好ましい。これらは前述した粉末セルロースよりもさらにマスターバッチ中に分散させ難いものであるが、本発明のセルロース含有マスターバッチの構成はこれらの分散性も高めることができる。そして、これらを含む本発明のセルロース含有マスターバッチは、加硫ゴム組成物としたときに引張応力がより優れたものとなり易い。これらは、総称して「ナノセルロース」とも呼ばれ、平均繊維径が1~1000nmの極細繊維であり、平均繊維長さが0.5~5μmであるアモルファスを含むナノセルロースがセルロースナノファイバー(CNF、例えば日本製紙社製のCellenpiaなど)であり、これはミクロフィブリル化セルロースとも呼ばれる。また、平均繊維径が1~1000nmの極細繊維であり、平均繊維長さが0.1~0.5μmである結晶性の(例えば針状結晶、あるいは球状結晶の)ナノセルロースがセルロースナノクリスタル(CNC、例えばフィラーバンク社製のセルロースナノクリスタルなど)である。
【0018】
なお、セルロースナノファイバーおよびセルロースナノクリスタルの平均繊維径は前述したように1~1000nmであるが、これは1~200nmであるのが好ましい。また、これらの平均アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は好ましくは10~1000、より好ましくは50~500である。平均繊維径が上記範囲未満および/または平均アスペクト比が上記範囲を超えると、マスターバッチ中への分散性が低下し易い傾向がある。また平均繊維径が上記範囲を超過および/または平均アスペクト比が上記範囲未満であると、補強性能が低下し易い傾向がある。
【0019】
ここで、この「平均繊維径」および「平均繊維長さ」とは、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得て、この画像中の少なくとも50本以上において測定したときの繊維径および繊維長さの平均値を意味する。そして、このようにして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比を算出する。
【0020】
なお、これらのセルロース(ナノセルロースの場合は原料となるセルロース)は、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のいずれでもよく、特段限定されない。また、上記したナノセルロースの作製方法としては、例えば、原料となるセルロースに水を加え、ミキサー等により処理して、水中にセルロースを分散させたスラリーを調製し、これを高圧式や超音波式などの装置によって直接機械的なせん断力をかけて解繊する方法や、このスラリーに酸化処理やアルカリ処理、酸加水分解などの化学処理を施し、セルロースを変性して解繊しやすくしてから分散機などによって機械的なせん断力をかけて解繊する方法が例示される。このように化学処理を施してから解繊することにより、セルロースを低いエネルギーでより細かく均質に解繊することができ、化学変性ナノセルロース(化学修飾ナノセルロース)なども容易に得ることができる。なお、化学処理としては、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下、「TEMPO」という)、4-アセトアミド-TEMPO、4-カルボキシ-TEMPO、4-アミノ-TEMPO、4-ヒドロキシ-TEMPO、4-フォスフォノオキシ-TEMPO、リン酸エステル、過ヨウ素酸、水酸化アルカリ金属および二硫化炭素などの化学処理剤による処理を挙げることができる。また、セルロースの機械的解繊を行ってから化学処理を行ってもよい。さらに、前述した化学処理に加えて、解繊工程のあとにセルラーゼ処理、カルボキシメチル化、エステル化、カチオン性高分子による処理などを施すこともできる。
【0021】
本発明のセルロース含有マスターバッチは、このようなセルロースが後述する脂肪酸と樹脂酸との混合物とともにジエン系ゴムのラテックスに混合されて製造される。そして、ジエン系ゴム100質量部(ジエン系ゴムラテックスの固形分100質量部)に対して、このセルロースを1~20質量部含む。この上限は、セルロースの分散性やジエン系ゴム成分の含有率などの観点から、18質量部以下であるのがより好ましく、15質量部以下であるのがさらに好ましく、12質量部以下であるのがさらに好ましい。下限は、加硫ゴム組成物とした際の引張応力などの観点から、2質量部以上であるのがより好ましく、3質量部以上であるのがさらに好ましく、5質量部以上であるのがさらに好ましく、8質量部以上であるのがさらに好ましい。
【0022】
[脂肪酸と樹脂酸との混合物]
本発明のセルロース含有マスターバッチに含まれる脂肪酸と樹脂酸との混合物は、脂肪酸と樹脂酸とがいずれも含まれ且つこれらが合計で50質量%超(好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上)含まれている限り他は限定されず、不ケン化物などの成分がさらに含まれていてもよい。このような脂肪酸と樹脂酸との混合物としては、粗トール油が好ましいものとして例示される。ここで、この「粗トール油」とは、木材チップに水酸化ナトリウム等の化学薬品を加え、高温、高圧下で分解(アルカリ分解)してパルプ繊維を取り出すクラフト法において副生物として回収されるものであり、パルプ繊維を固めていたリグニン、樹脂成分と化学薬品とが混じった液体を濃縮した黒液を硫酸等の酸で中和することで得ることが出来る。なお、この粗トール油を精留することにより得られるのがトールロジンおよびトール油脂肪酸であり、これらを分離する際に副生物として回収されるのが蒸留トール油である。そして、粗トール油の原料である木材の種類は、特に限定されないが、松由来の粗トール油であることが好ましい。松の種類についても、特に限定されるものではなく、馬耳松、テューダ松、エリオッティ松などが挙げられる。
しかしながら、この脂肪酸と樹脂酸との混合物は、脂肪酸を含む原料と樹脂酸を含む原料とをそれぞれ準備し、これらを混合したものであっても構わない。なお、これは脂肪酸と樹脂酸との混合物であることが重要であり、樹脂酸のみではセルロースの分散性を高めることができず、脂肪酸のみではセルロースの分散性およびマスターバッチの貯蔵安定性をいずれも高めることができない。
【0023】
なお、本発明の効果がより発揮され易くなることから、この脂肪酸としてオレイン酸および/またはリノール酸を含むものであるとより好ましく、オレイン酸およびリノール酸をいずれも含み且つリノール酸よりもオレイン酸の方が多く含まれるものであるとさらに好ましい。
また、同様の理由から、樹脂酸としてアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、およびデヒドロアビエチン酸からなる群から選ばれる1以上を含むものであるとより好適であり、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、およびパラストリン酸からなる群から選ばれる1以上を含むものであるとさらに好適である。
【0024】
特に、本発明のセルロース含有マスターバッチでは、セルロースの分散性および貯蔵安定性の両立という観点から、この脂肪酸と樹脂酸との混合物が、脂肪酸に対する樹脂酸の質量比(樹脂酸/脂肪酸)が0.9以上の混合物であるのがより好ましく、この質量比が0.9以上の粗トール油であるのがさらに好ましい。
そして、この下限は、1.0以上であるのがより好ましく、1.1以上であるのがさらに好ましい。上限は、2.0以下であるのがより好ましく、1.8以下であるのがさらに好ましく、1.5以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
本発明のセルロース含有マスターバッチは、このような脂肪酸と樹脂酸との混合物が前述したセルロースとともにジエン系ゴムのラテックスに混合されて製造される。そして、セルロース1質量部に対して、この脂肪酸と樹脂酸との混合物を0.4~1.0質量部含む。この上限は、マスターバッチの貯蔵安定性や加硫ゴム組成物とした際の引張応力などの観点から、0.9質量部以下であるのがより好ましく、0.8質量部以下であるのがさらに好ましく、0.7質量部以下であるのがさらに好ましい。下限は、セルロースの分散性などの観点から、0.5質量部以上であるのがより好ましい。本発明のセルロース含有マスターバッチでは、所定量のセルロースに対する脂肪酸と樹脂酸との混合物の量が厳密に調整されていることにより、含有するセルロースの分散性およびその貯蔵安定性が高度に両立できるようになっている。
【0026】
なお、限定されるものではないが、本発明のセルロース含有マスターバッチでは、その貯蔵安定性や加硫ゴム組成物とした際の引張応力などの観点から、前述したジエン系ゴムの量に対するこの脂肪酸と樹脂酸との混合物の質量も所定の範囲内となっていると好ましい。
具体的には、前述したセルロースに対する量を満たしつつ、ジエン系ゴム100質量部(ジエン系ゴムラテックスの固形分100質量部)に対して、この脂肪酸と樹脂酸との混合物を1~10質量部含むと好ましい。この上限は、9質量部以下であるのがより好ましく、8質量部以下であるのがさらに好ましい。下限は、2質量部以上であるのがより好ましく、4質量部以上であるのがさらに好ましい。
【0027】
[その他の成分]
本発明のセルロース含有マスターバッチには、本発明の効果に影響を与えない範囲において、上記以外の成分が含まれていてよい。例えば、セルロース以外の充填剤が含まれていてもよい。この充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、クレイ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム、レシチン等を例示することができる。そして、これらの充填剤は、単数または複数を組み合わせて配合することができる。また、ジエン系ゴム以外のゴム成分(ゴムラテックスとすることが可能なゴム成分)が一部含まれていても構わない。
しかしながら、本発明のセルロース含有マスターバッチは、ジエン系ゴム以外のゴム成分を含まないのが好ましく、ジエン系ゴム、セルロース、および脂肪酸と樹脂酸との混合物(特に粗トール油)からなるものであるとより好ましい。
【0028】
ここで、本発明において「シリカ」とは、二酸化ケイ素(SiO2)からなる、あるいは二酸化ケイ素を主成分とする(例えば80質量%以上、さらには90質量%以上含む)粒子物質を意味し、「カーボンブラック」とは、工業的に品質制御して製造された直径3~500nm程度の一次粒子からなる炭素微粒子を意味する。
【0029】
<本発明のセルロース含有マスターバッチの製造方法>
本発明のセルロース含有マスターバッチの製造方法の一例を説明すると、まず、ジエン系ゴムのゴムラテックスに、ジエン系ゴム(ゴムラテックスの固形分)100質量部に対してセルロースを1~20質量部含むように添加し、さらにセルロース1質量部に対して脂肪酸と樹脂酸との混合物を0.4~1.0質量部含むように添加して、必要であればさらに充填剤等を配合し、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の原料分散液を取得する。この分散方法は、特に限定されず、機械的方法などで行えばよい。前述したナノセルロースを用いる場合には、ナノセルロースの水分散液としてからゴムラテックスに混合してもよい。
【0030】
なお、この原料分散液の固形分濃度は60質量%以下であるのが好ましく、2~50質量%であるのがより好ましく、5~50質量%であるのがさらに好ましい。この固形分濃度が60質量%を超えると、原料分散液の安定性が低下する可能性がある。
また、限定されるものではないが、得られる原料分散液の粘度(30℃における粘度)が100~1000mPa・s程度となるように固形分濃度や配合量などを調整すると好適である。ここで、この粘度は、市販のB型粘度計(例えば東機産業社製のTVB-10など)を用いて30℃において測定した値である。
【0031】
そして、この得られた原料分散液を攪拌しながら凝固剤を添加して高分子成分を凝固させ、ろ過などにより凝固物と水分とを概ね分離し、必要に応じて凝固物を洗浄して凝固剤の除去を行い、さらに必要に応じて凝固物の乾燥処理(例えば50~100℃の条件下で0.5~30時間乾燥する処理)などを行って、本発明のセルロース含有マスターバッチを得る。
ここで、凝固剤としては、無機塩(塩化ナトリウム、塩化カリウムなど)、不飽和脂肪酸金属塩(アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩など)などを使用することができる。
【0032】
特に、凝固剤として不飽和脂肪酸金属塩を使用すると、得られるマスターバッチ中にこの不飽和脂肪酸金属塩が含まれていても、このマスターバッチから得られる加硫ゴム組成物の力学特性が低下し難いことから、上記原料分散液の凝固後における凝固物の洗浄工程を省略することができるため好ましい。不飽和脂肪酸金属塩としては、アクリル酸金属塩および/メタクリル酸金属塩を用いるのが好ましい。また、金属塩の好ましい金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ネオジムなどが例示される。
【0033】
さらに、本発明のセルロース含有マスターバッチを使用して、ゴム成分(ジエン系ゴムなど)、充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、樹脂成分(テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂など)、粘着剤、素練り促進剤、老化防止剤、ワックス、加工助剤、アロマオイル、液状ポリマー、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤、架橋剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を適量配合し、公知の方法で混合および混練してゴム組成物(例えば加硫ゴム組成物)とすることができる。
【0034】
このようにして得られる本発明のセルロース含有マスターバッチは、セルロースが均質に分散しており、且つ、貯蔵安定性が高いものとなる。
また、この本発明のセルロース含有マスターバッチを用いて得られた加硫ゴム組成物は、引張応力が優れたものとなる。したがって、本発明のセルロース含有マスターバッチは、ゴム組成物への配合材料とすることができる。
【0035】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0036】
(セルロース含有マスターバッチおよび加硫ゴム試験片の作製および評価)
下記表1に示すセルロース含有マスターバッチを作製し、これらを用いて加硫ゴム試験片を作製した。
【0037】
具体的には、まず下記表1の成分を固形分量として下記表1に示す質量比となるように混合分散して、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の各原料分散液を取得した。なお、セルロースナノファイバーは、水分散液としてから添加した。そして、各原料分散液について、凝固剤として塩化ナトリウムを用いた塩析により攪拌を行いながら凝固を行い、さらにこの凝固物を回収して洗浄および乾燥を行い、各セルロース含有マスターバッチを取得した。なお、洗浄は、ブフナー漏斗で減圧ろ過しながら蒸留水を凝固物表面に散布して塩化ナトリウムを洗い流す操作を5回繰り返した。また、乾燥は、洗浄された凝固物をバットに広げて70℃の恒温乾燥器に入れて24時間実施した。さらに、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて、上記で得られた各セルロース含有マスターバッチに硫黄および加硫促進剤を所定量混合して混錬し、これを所定の金型中において170℃10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片も作製した。
【0038】
そして、得られた比較例1~7、および実施例1~3のセルロース含有マスターバッチについて、ISO 11345(E法)に準拠してセルロースの分散性の測定を行い評価した。なお、この分散性の評価は、10点満点で7点以上を〇、9点以上を◎とした。
さらに、これらのセルロース含有マスターバッチについて、二本ロールで厚み5mmのシート状に成型したのち25℃の室内で10日間保管することにより貯蔵安定性も評価した。なお、このマスターバッチの貯蔵安定性の評価は、成型したシート表面への油状成分の染み出しが全くないものを〇とした。
これらの結果を下記表1下段に示した。
【0039】
また、得られた比較例1~7、および実施例1~3の加硫ゴム試験片について、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、100%モジュラス(M100:MPa)を室温(20℃)にて測定した。
なお、下記表1下段では、比較例1の加硫ゴム試験片のM100値を100とする指数(index%)で表した。
【0040】
【0041】
上記表1中における各成分の詳細な内容は以下の通りである。
・天然ゴム(NR):天然ゴムのゴムラテックス(HYTEX HA,高アンモニアタイプ,固形分濃度60質量%、SIME DARBY PLANTATION SDN BHD製)
・粉末セルロース:ビスコパールD-30(平均粒子径(D50)20~40μm、レンゴー社製)
・セルロースナノファイバー:酸化セルロースナノファイバー(CNF;日本製紙社製,Cellenpia)
・脂肪酸:オレイン酸およびリノール酸の質量比等量混合物(いずれも関東化学社製)
・樹脂酸:アビエチン酸(関東化学社製)
・粗トール油:松由来の粗トール油。脂肪酸および樹脂酸を合計で80質量%以上含み、脂肪酸に対する樹脂酸の質量比(樹脂酸/脂肪酸)は約1.2であり、含まれる脂肪酸のうちオレイン酸が約50%、リノール酸が約35%であり、樹脂酸として少なくともアビエチン酸、ネオアビエチン酸、およびパラストリン酸を含む。
【0042】
まず、分散性および貯蔵安定性の結果から、所定量のセルロースとともに所定量の脂肪酸と樹脂酸との混合物を配合することにより、セルロースの分散性が高く且つマスターバッチの貯蔵安定性も高いセルロース含有マスターバッチが得られることが示された(実施例1~3)。特に、脂肪酸と樹脂酸との混合物として粗トール油を配合した実施例2、3は、セルロースの分散性が極めて高かった。
一方で、セルロースとともに脂肪酸または樹脂酸のいずれかを配合しても、セルロースの分散性は十分に高まらず(比較例2、3)、さらに脂肪酸だけの配合では貯蔵中に染み出しが発生した。つまり、マスターバッチの貯蔵安定性も低かった(比較例2)。また、セルロースの配合量に対する脂肪酸と樹脂酸との混合物の配合量が少ない場合も、セルロースの分散性は十分に高まらなかった(比較例4、7)。加えて、セルロースの配合量に対する脂肪酸と樹脂酸との混合物の配合量が多い場合は、マスターバッチの貯蔵安定性が低かった(比較例5)。
【0043】
さらに、加硫ゴム試験片の試験結果から、実施例1~3の加硫ゴム試験片は高い引張応力を有するものであることが明らかとなった。特に、粗トール油を所定量配合した実施例2、3の加硫ゴム試験片はこの引張応力がより優れ、セルロースナノファイバーを含む実施例3の加硫ゴム試験片はこの引張応力が特に優れていた。
一方で、配合したセルロースの分散性が低いセルロース含有マスターバッチから得られた比較例2~4、7の加硫ゴム試験片は、セルロースの性能が発揮されていない上に配合した脂肪酸、樹脂酸、または脂肪酸と樹脂酸との混合物が逆に悪い影響を及ぼして引張応力が比較例1より低くなってしまい、また、配合したセルロースの分散性は高いがその含有量が少ないセルロース含有マスターバッチから得られた比較例6の加硫ゴム試験片も、比較例1より引張応力が低かった。さらに、セルロースの配合量に対する脂肪酸と樹脂酸との混合物の配合量が多すぎるセルロース含有マスターバッチから得られた比較例5の加硫ゴム試験片も、比較例1より引張応力が低かった。