(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029324
(43)【公開日】2025-03-06
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接方法および被溶接体
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20250227BHJP
B23K 11/18 20060101ALI20250227BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
B23K11/30
B23K11/18
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133874
(22)【出願日】2023-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近野 佑太郎
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA12
4E165AB02
4E165AC01
4E165BB02
4E165BB12
4E165BB25
4E165EA14
(57)【要約】
【課題】重ね合わせた2枚のアルミニウム合金材の外縁同士をスポット溶接した被溶接体の品質低下を抑える。
【解決手段】重ね合わせた2枚のアルミニウム合金材24,25の外縁同士を、互いに対向する第1電極12および第2電極14で挟持し、加圧しながら通電してスポット溶接を行う際に、第1電極12のアルミニウム合金材24への接触面積が、第2電極14のアルミニウム合金材25への接触面積より大きくなる状態で、スポット溶接を行うことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた2枚のアルミニウム合金材の外縁同士を、互いに対向する第1電極および第2電極で挟持し、加圧しながら通電してスポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法であって、
前記第1電極の前記アルミニウム合金材への接触面積が、前記第2電極の前記アルミニウム合金材への接触面積より大きくなる状態で、前記スポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法。
【請求項2】
前記第1電極および前記第2電極は、先端に、前記アルミニウム合金材の表面に沿って平坦に形成された平坦部を有し、
前記第1電極の前記平坦部の接触面積の、前記第2電極の前記平坦部の接触面積に対する比が、1.4以上10.0以下となる状態で、前記スポット溶接を開始する請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項3】
前記スポット溶接が完了した時において、前記第1電極の接触面積の前記第2電極の接触面積に対する比が、1.05以上8.00以下となるように、前記スポット溶接を行う請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項4】
前記第1電極が正極側の電極とされ、前記第2電極が負極側の電極とされている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項5】
前記第1電極の中心軸と前記第2電極の中心軸が、同一線上に配されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項6】
2枚のアルミニウム合金材の外縁同士が抵抗スポット溶接によって溶接された被溶接体であって、
前記抵抗スポット溶接により形成されたナゲット部において、前記2枚のアルミニウム合金材の一方に形成された窪みの面積は、他方に形成された窪みの面積より大きく、
前記一方の窪みの前記他方の窪みに対する面積比が、1.05以上8.00以下とされている被溶接体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗スポット溶接方法に関し、その抵抗スポット溶接方法によって溶接された被溶接体に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、2枚の金属板を、互いに対向する第1電極および第2電極で挟持し、加圧しながら通電してスポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法が開示されている。特許文献1に記載の技術は、鋼材(被溶接材)と、アルミニウム又はアルミニウム合金材(被溶接材)とを抵抗スポット溶接する方法であり、少なくとも一方の電極は、被溶接材に接触する部分(電極先端部)の直径dが、電極径Dより小さく、3.6mm~7.5mmとされている。通常、アルミニウム系材を溶接する場合には、大電流の溶接電源が必要であるが、下記特許文献1に記載の方法によれば、鋼材用の低電流の電源を使用して、抵抗スポット溶接が可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、2枚のアルミニウム合金材を抵抗スポット溶接する場合があり、そのような場合にも問題が生じている。詳しく言えば、重ね合わせた2枚のアルミニウム合金材の外縁同士をスポット溶接する場合、2枚のアルミニウム合金材の間から、溶融したアルミニウム合金がはみ出して、その状態で凝固してしまう場合がある。このはみ出した部分(チリ)の存在は、被溶接体として品質上許容できない場合が多い。
【0005】
本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、重ね合わせた2枚のアルミニウム合金材の外縁同士をスポット溶接した被溶接体の品質低下を抑えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本願に開示される抵抗スポット溶接方法は、下記の構成とされている。
(1)重ね合わせた2枚のアルミニウム合金材の外縁同士を、互いに対向する第1電極および第2電極で挟持し、加圧しながら通電してスポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法であって、
前記第1電極の前記アルミニウム合金材への接触面積が、前記第2電極の前記アルミニウム合金材への接触面積より大きくなる状態で、前記スポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法。
【0007】
本願に開示の抵抗スポット溶接方法(以下、単に「溶接方法」と略す場合がある)は、第1電極のアルミニウム合金材への接触面積が、第2電極のアルミニウム合金材への接触面積より大きくされていることで、第1電極と第2電極との間で電流が流れる面積が変化する構成、つまり、アルミニウム合金材内で電流が流れる面積が変化する構成となる。換言すれば、板厚方向において電流密度が異なり、相対的に第1電極側で電流密度が粗に、第2電極側で電流密度が密になる。そして、電流密度が密になるほど、抵抗値が上がって発熱し易くなる。つまり、本願に開示の溶接方法によれば、アルミニウム合金材の板厚方向において、温度勾配をつけることができ、特定の個所に熱が集中して、アルミニウム合金材が溶融し過ぎることを回避し、溶融したアルミニウム合金が2枚のアルミニウム合金材の間からはみ出して凝固してしまうこと、いわゆるチリの発生を回避することができる。
【0008】
本願に開示の溶接方法において、電極は、先端にアルミニウム合金材の表面に沿う平坦部を有するものであっても、曲面状(凸状)に形成されたものであってもよい。電極の先端が曲面形状である場合、加圧する前において、電極は、アルミニウム合金材にほぼ点で接しており、加圧および通電することで、アルミニウム合金材を凹ませていくことになり、接触面積が徐々に大きくなる。本願に開示の溶接方法は、その点を考慮し、スポット溶接の開始から完了までの間、第1電極の接触面積が、第2電極の接触面積より大きな状態であり続けることが望ましい。例えば、第1電極が平坦部を有するものとし、第2電極が曲面形状あるいは第1電極の平坦部より小さな平坦部を有するものとすることで、スポット溶接の開始から完了までの間、第1電極の接触面積が、第2電極の接触面積より大きな状態とすることができる。
【0009】
また、上記構成の抵抗スポット溶接方法において、以下に示す種々の態様とすることが可能である。なお、本発明は以下の態様に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0010】
(2)前記第1電極および前記第2電極は、先端に、前記アルミニウム合金材の表面に沿って平坦に形成された平坦部を有し、
前記第1電極の前記平坦部の接触面積の、前記第2電極の前記平坦部の接触面積に対する比が、1.4以上10.0以下となる状態で、前記スポット溶接を開始する(1)項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【0011】
この構成の溶接方法によれば、常時、第1電極の接触面積が第2電極の接触面積より大きな状態となる。そして、第1電極と第2電極の両者が平坦部の全域においてアルミニウム合金材に接触している場合、スポット溶接開始前の接触面積は平坦部の表面積であり、その平坦部の表面積比が、この範囲内であれば、良好なスポット溶接を行うことができる。ちなみに、平坦部の表面積比が1.4より小さい場合には、チリの発生を十分に抑えることができず、10.0を超えた場合には、温度勾配がつき過ぎて、2枚のアルミニウム合金材の間で温度上昇し難く、十分なスポット溶接を行うことができない。また、本願に開示の溶接方法は、第1電極における平坦部の一部がアルミニウム合金材の外縁より外側に突出した状態で、スポット溶接行うことも可能である。この場合には、第1電極の平坦部の表面積ではなく、平坦部のアルミニウム合金材への接触面積を用い、その接触面積が、上記範囲内とすることで、良好なスポット溶接を行うことができる。
【0012】
なお、この構成の溶接方法においては、溶接開始前の接触面積比が、1.6以上8.0以下であることが望ましく、1.6以上3.0以下であることがより望ましい。この範囲にすることにより端部にチリが排出されず、外観上良好な接合状態が得られるとともに、接触面積を大きくした電極側のナゲットが、他方の電極側のナゲットに比較して浅くなり、ナゲットが目立ちにくく、より外観上良好な接合状態とすることができる。
【0013】
(3)前記スポット溶接が完了した時において、前記第1電極の接触面積の前記第2電極の接触面積に対する比が、1.05以上8.0以下となるように、前記スポット溶接を行う(1)項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【0014】
本願に開示の溶接方法は、前述したように、電極の先端が曲面形状とすることができる。また、接触面積が比較的小さい電極で溶接した場合には、電極の先端が曲面形状の場合と同様に、スポット溶接時にアルミニウム合金材に食い込むことになる。つまり、電極とアルミニウム合金材との接触面積は、溶接の開始時よりも完了時の方が大きくなる場合がある。このような場合には、スポット溶接完了時における2つの電極の接触面積比が、1.05以上8.0以下となるようにすることで、良好なスポット溶接が行われることとなる。なお、この構成においては、スポット溶接完了時における2つの電極の接触面積比が、1.1以上5.0以下であることが望ましく、1.1以上2.0以下であることがより望ましい。この範囲にすることにより端部にチリが排出されず、外観上良好な接合状態が得られるとともに、接触面積を大きくした電極側のナゲットが、他方の電極側のナゲットに比較して浅くなり、ナゲットが目立ちにくく、より外観上良好な接合状態とすることができる。
【0015】
(4)前記第1電極が正極側の電極とされ、前記第2電極が負極側の電極とされている(1)項から(3)項のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【0016】
正極側の電極とアルミニウム合金材の表面との間の方が、負極側の電極に比較して、抵抗値が上がりやすい。この構成の溶接方法によれば、正極側の接触面積が、負極側の接触面積より大きくされるため、アルミニウム合金材の板厚方向において温度勾配が付きやすく、熱の集中を効果的に抑えることができる。
【0017】
(5)前記第1電極の中心軸と前記第2電極の中心軸が、同一線上に配されている(1)項から(4)項のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【0018】
この構成の溶接方法によれば、スポット溶接の加圧時において、アルミニウム合金材に捩れるような力が作用しないため、アルミニウム合金材が変形するような事態を回避することができる。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本願に開示される被溶接体は、下記の構成とされている。
(6)2枚のアルミニウム合金材の外縁同士が抵抗スポット溶接によって溶接された被溶接体であって、
前記抵抗スポット溶接により形成されたナゲット部において、前記2枚のアルミニウム合金材の一方に形成された窪みの面積は、他方に形成された窪みの面積より大きく、
前記一方の窪みの前記他方の窪みに対する面積比が、1.05以上8.0以下とされている被溶接体。
【0020】
抵抗スポット溶接によって形成されたナゲット部の形状によって、前述した本願に開示の溶接方法を用いたか否かを判断することができる。つまり、本願に開示の被溶接体のように、上記窪みの面積比が上記範囲内にある場合には、本願に開示の溶接方法を用いて溶接している被溶接体であると判断できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、重ね合わせた2枚のアルミニウム合金材の外縁同士をスポット溶接した被溶接体の品質低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態の抵抗スポット溶接方法に使用される抵抗スポット溶接機の概略図
【
図2】自動車のサイドドアにおいて抵抗スポット溶接が用いられる箇所を示す図
【
図3】実施例1において、スポット溶接を行っている状態を示す側面断面図
【
図4】実施例1において、アルミニウム合金材に対する第1電極と第2電極との接触部分を示す平面図
【
図6】比較例1において、スポット溶接を行っている状態を示す側面断面図
【
図8】実施例2において、スポット溶接を行っている状態を示す側面断面図
【
図9】実施例2において、アルミニウム合金材に対する第1電極と第2電極との接触部分を示す平面図
【
図10】実施例3において、スポット溶接を行っている状態を示す側面断面図
【
図11】実施例3において、アルミニウム合金材に対する第1電極と第2電極との接触部分を示す平面図
【
図16】実施形態(比較例1)の抵抗スポット溶接方法によって溶接された被溶接体のナゲット部を拡大して示す側面断面図
【
図17】被溶接体のナゲット部を拡大して示す平面図
【
図18】変形例の抵抗スポット溶接機において、スポット溶接を行っている状態を示す側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態である抵抗スポット溶接方法について、
図1から
図17を参照しつつ説明する。本実施形態の抵抗スポット溶接方法は、
図1に概略構成を示す抵抗スポット溶接機10を用いて行われる。抵抗スポット溶接機10は、一対の電極である第1電極12および第2電極14と、それら第1電極12および第2電極14に通電するための溶接電源16と、を備えている。第1電極12および第2電極14は、軸状のものであり、先端が互いに対向する状態で、同軸的に配されている。詳しく言えば、第1電極12と第2電極14とは、それらの中心軸が同一直線上に重なるように配置されている。また、それら第1電極12および第2電極14は、軸方向において、相対移動可能とされている。詳しく言えば、第1電極12を第2電極14に対して、接近・離間させることが可能とされるとともに、被溶接材を挟んだ状態で、加圧することも可能である。そして、抵抗スポット溶接機10は、第1電極12と第2電極14とによって、重ね合わせた2枚の被溶接材を挟持した状態で、加圧しながら通電することで、電気抵抗により発生した熱によって、2枚の被溶接材を溶融接合するものである。
【0024】
本実施形態に係る抵抗スポット溶接機10は、例えば、
図2に示す自動車のサイドドア20の製造工程において用いられる。具体的には、サイドドア20のウインドウフレーム22において、ウインドウの上側を形成する部分22aが、2枚のアルミ合金材を重ね合わせたものとされ、本実施形態に係る抵抗スポット溶接機10は、例えば、それら2枚のアルミニウム合金材24,25(
図3参照)の外縁同士を接合する際に用いられる。そして、一般的に、抵抗スポット溶接機は、この2枚のアルミニウム合金材の外縁同士の接合が不得手なものであるが、本実施形態に係る抵抗スポット溶接機10は、そのような2枚のアルミニウム合金材の外縁同士の接合が可能なものとなっている。
【0025】
本実施形態に係る抵抗スポット溶接機10は、一対の電極12,14の関係に特徴を有しており、まず、それら一対の電極12,14の形状について説明する。
図1に示すように、第1電極12および第2電極14は、いずれも、先端に、被溶接材であるアルミニウム合金材24,25の表面に沿って平坦に形成された円形状の平坦部13,15を有している。ただし、正極側の第1電極12の平坦部である第1電極平坦部13は、負極側の第2電極14の平坦部である第2電極平坦部15より、大きくされている。具体的には、第1電極平坦部13の外径r
1-1の第2電極平坦部15の外径r
2に対する比である外径比R
rが、1.2以上3.2以下とされている。ちなみに、
図1には、第1電極として、後述する実施例3の第1電極12Cを記載している。
【0026】
なお、本実施形態の実施例1に係るスポット溶接機10Aにおいては、
図3,
図4に示すように、第2電極平坦部15Aの外径r
2が、6mmであるのに対して、第1電極平坦部13Aの外径r
1-1が、8mmとされ、外径比R
rは1.33とされている。
【0027】
ちなみに、本実施形態において、第1電極12と第2電極14とは、平坦部13,15が円形状とされていたが、それに限定されず、四角形や多角形同士であってもよく、第1電極と第2電極とで、異なる形状とされていてもよい。
【0028】
ここで、従来の抵抗スポット溶接の問題点について説明する。
図6に示すように、比較例1の抵抗スポット溶接機100は、上記実施形態と同様に、第1電極102および第2電極104が、先端に、円形状の平坦部を有している。ただし、第1電極平坦部102aと第2電極平坦部104aとは、同じ外径(6mm)とされている。この抵抗スポット溶接機100によって、2枚のアルミニウム合金24,25の外縁同士に対してスポット溶接を行うと、
図6,
図7に示すように、2枚のアルミニウム合金材24,25の対向面における電流が流れる部分に熱が集中することで、アルミニウム合金材24,25を押し潰して外縁が広がってしまうとともに、2枚のアルミニウム合金材24,25の接触面側が溶融し過ぎて、その溶融したアルミニウム合金が2枚のアルミニウム合金材24,25の間からはみ出して再凝固してしまうという問題、いわゆるチリ106が発生してしまうという問題がある。このチリ106の存在は、ウインドウフレーム22として品質上、許容することができない。
【0029】
一方で、本実施形態に係る抵抗スポット溶接機10は、第1電極12のアルミニウム合金材24への接触面積S
1-1が、第2電極14のアルミニウム合金材25への接触面積S
2より大きくされていることで、第1電極12と第2電極14との間で電流が流れる面積が変化する構成、つまり、アルミニウム合金材24,25内で電流が流れる面積が変化する構成となる。換言すれば、板厚方向において電流密度が異なり、相対的に第1電極12側で電流密度が粗に、第2電極14側で電流密度が密になる。なお、電流密度が密になるほど、抵抗値が上がって発熱し易くなる。つまり、本実施形態の抵抗スポット溶接機10によれば、アルミニウム合金材24,25の板厚方向において、温度勾配をつけることができ、特定の個所(対向面の中央)に熱が集中して、アルミニウム合金材24,25の対向面が溶融し過ぎることを回避し、溶融したアルミニウム合金が2枚のアルミニウム合金材24,25の間からはみ出して凝固してしまうこと、いわゆるチリの発生を回避することができる。なお、
図5に、実施例1の抵抗スポット溶接機10Aにおける熱解析の結果を示している。
【0030】
また、正極側である第1電極平坦部13が、負極側である第2電極平坦部15より大きくされている。それにより、正極側の第1電極12とアルミニウム合金材24の表面との間の方が、負極側の第2電極14とアルミニウム合金材25の表面との間に比較して、抵抗値が上がりやすい。つまり、正極側である第1電極12とアルミニウム合金材24との接触面積S1-1が、負極側である第2電極14とアルミニウム合金材25との接触面積S2より大きくされていることで、アルミニウム合金材24,25の板厚方向において温度勾配が付きやすく、熱の集中を効果的に抑えることができる。
【0031】
次に、実施例2に係る抵抗スポット溶接機10B, 実施例3に係る抵抗スポット溶接機10Cについて、
図8~
図13を参照しつつ説明する。これら、実施例2の抵抗スポット溶接機10B、および、実施例3の抵抗スポット溶接機10Cは、第2電極14が、実施例1の抵抗スポット溶接機10Aと同一のものであるが、第1電極12B,12Cが、実施例1の抵抗スポット溶接機10Aにおける第1電極12Aと相違する。詳しく言えば、
図8,
図9に示す実施例2に係る第1電極12B、および、
図10,
図11に示す実施例3に係る第1電極12Cは、実施例1に係る第1電極12Aと同様に、先端に、平坦部13B,13Cを有するものとされているが、その大きさが異なり、実施例1における第1電極平坦部13Aより大きくされている。また、実施例3における第1電極平坦部13Cは、実施例2における第1電極平坦部13Bより、さらに大きくされている。
【0032】
具体的には、実施例2における第1電極平坦部13Bの外径r1-2が、10mmとされ、外径比Rrは、1.67となっている。また、実施例3における第1電極平坦部13Cの外径r1-3が、19mmとされ、外径比Rrは、3.17となっている。換言すれば、実施例2における表面積比RS1は、2.78とされ、実施例3における表面積比RS1は、10.03とされている。
【0033】
しかしながら、これら実施例2の抵抗スポット溶接機10Bおよび実施例3の抵抗スポット溶接機10Cを用いた場合、
図8~
図11に示すように、第1電極平坦部13B,13Cの一部がアルミニウム合金材24,25の外縁より外側に突出した状態で、スポット溶接が行われるようになっている。つまり、第1電極12B,12Cとアルミニウム合金材24との接触面積S
1-2,S
1-3は、第1電極平坦部13B,13Cの表面積とは、相違しており、第1電極の接触面積の第2電極の接触面積に対する比である接触面積比R
S2は、実施例2が2.61で、実施例3が7.64である。そして、
図12,
図13に示すように、熱解析の結果、これら実施例2,3においても、チリを発生させることなく、適切にスポット溶接を行えることが確認された。
【0034】
本実施形態の抵抗スポット溶接方法は、
図14の比較表に示すように、スポット溶接を開始する前の接触面積比(溶接前接触面積比)R
S2が、少なくとも1.78以上7.64以下であれば、適切にスポット溶接を行うことが可能である。なお、溶接前接触面積比R
S2が、1.40以上10.00以下である場合には、良好なスポット溶接が行えることが確認された。さらに、溶接前接触面積比R
S2は、1.60以上8.00以下であることが望ましく、1.60以上3.00以下であることがより望ましい。この範囲にすることにより、端部にチリが排出されず、外観上良好な接合状態とすることができる。また、接触面積を大きくした第1電極12側のアルミニウム合金材24のナゲットが、第2電極14側のアルミニウム合金材25のナゲットに比較して浅くなって目立ちにくく、より外観上良好な接合状態とすることができる。
【0035】
第1電極12,14の先端が平坦であっても、溶接前の接触面積が小さいほど、加圧・通電によって、その電極がアルミニウム合金材24,25に食い込むことになる。つまり、溶接後における電極12,14とアルミニウム合金材24,25との接触面積は、溶接前の接触面積に比較して大きくなる。したがって、
図14の比較表に示すように、スポット溶接完了時の接触面積比(溶接後接触面積比)R
S3が、少なくとも1.14以上4.89以下となれば、適切なスポット溶接が行れる。なお、溶接後接触面積比R
S3が、1.05以上8.00以下である場合には、良好なスポット溶接が行われたことが確認された。また、溶接後接触面積比R
S3は、1.10以上5.00以下となることが望ましく、1.10以上2.00以下rとなることがより望ましい。この範囲となるようにスポット溶接を行うことにより、端部にチリが排出されず、外観上良好な接合状態とすることができる。また、接触面積を大きくした第1電極12側のアルミニウム合金材24のナゲットが、第2電極14側のアルミニウム合金材25のナゲットに比較して浅くなって目立ちにくく、より外観上良好な接合状態とすることができる。
【0036】
なお、第1電極の接触面積を大きくし過ぎた場合(
図14における比較例2)には、具体的には、溶接前接触面積比R
S2が10.00より大きい場合、溶接後接触面積比R
S3が8.00より大きくなる場合には、
図15に熱解結果を示すように、温度勾配がつき過ぎて、2枚のアルミニウム合金材24,25の間で温度上昇し難く、十分なスポット溶接を行うことができないことが確認された。
【0037】
本実施形態の抵抗スポット溶接方法(実施例1の抵抗スポット溶接機10A)を用いて溶接された被溶接体70は、
図16および
図17に示すように、2枚のアルミニウム合金材24,25の外縁同士が溶接されたものであり、抵抗スポット溶接により形成されたナゲット部72において、一方のアルミニウム合金材24に形成された窪み74の面積は、他方のアルミニウム合金材25に形成された窪み75の面積より大きい。そして、その一方の窪み74の他方の窪み75に対する面積比が、1.05以上8.00以下となっている場合には、その被溶接体が、本実施形態の抵抗スポット溶接方法によって接合されたものであると判断することができる。
【0038】
<他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。例えば、次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0039】
上記実施形態の抵抗スポット溶接機10は、第2電極14が先端に平坦部15を有するものとされていたが、
図18に示すように、第2電極120には、上に凸な曲面形状のものを採用することもできる。この場合には、第2電極120がアルミニウム合金材25に接した当初は、ほぼ点で接触しており、常時、第1電極12のアルミニウム合金材24への接触面積が、第2電極120のアルミニウム合金材25への接触面積より大きくなる状態で、スポット溶接を行ことができる。そして、この構成の場合には、スポット溶接が完了した時において、第1電極12の接触面積の第2電極120の接触面積に対する比が、1.05以上8.00以下となるようにすることで、良好なスポット溶接が行われる。
【0040】
上記実施形態おいては、正極側の第1電極12の被接合材への接触面積が、負極側の第2電極14の被接合材への接触面積に比較して大きくなる構成とされていたが、負極側の電極の接触面積が正極側の電極の接触面積より大きくなる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…抵抗スポット溶接機、12…第1電極、13…第1電極平坦部、14…第2電極、15…第2電極平坦部、24,25…アルミニウム合金材、70…被溶接体、72…ナゲット部、74…窪み、75…窪み