(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002936
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】四輪独立駆動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20241226BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20241226BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20241226BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241226BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20241226BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60T8/1755 A
B60W10/00 120
B60W10/08
B60W10/184
B60W10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103336
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英司
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D241AA21
3D241AC01
3D241AC26
3D246AA05
3D246AA06
3D246DA01
3D246EA05
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3D246EA18
3D246GB05
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3D246JA12
3D246JB11
3D246JB23
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA07
5H125CA02
5H125CA13
5H125CB00
5H125DD15
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】四輪独立駆動車両の旋回走行時の走行安定性の向上とエネルギ効率の向上もしくは維持とを両立させる。
【解決手段】コントローラ35は、駆動状態が四輪駆動か二輪駆動かを判定する駆動判定部35aと、旋回走行することを判定する旋回判定部35bと、駆動判定部35aによって四輪駆動が判定され、かつ旋回判定部35bによって旋回走行が判定された場合に、四輪のそれぞれのモータを旋回走行に適する出力トルクとなるように制御する四輪旋回制御部35cと、二輪駆動が判定され、かつ旋回走行が判定された場合に、二輪駆動のために駆動される駆動輪に対応して設けられているモータを旋回走行に適する出力トルクとなるように制御するとともに、非駆動輪のブレーキ機構による制動力もしくは操舵機構による転舵角を旋回走行に適するように制御する二輪旋回制御部35dとを備えている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前二輪および後二輪の合計四輪のそれぞれに対応して駆動力源が設けられるとともにそれらの前記駆動力源によって前記四輪のそれぞれのトルクを互いに独立して制御することにより、四輪の全てで駆動トルクを発生して走行する四輪駆動と、前後いずれか二輪で駆動トルクを発生して走行する二輪駆動とが可能であり、かつ要求されている走行状態に基づいて前記四輪駆動もしくは前記二輪駆動を選択して設定することができ、さらに少なくとも前記二輪駆動の状態で前記駆動力源によって駆動されない非駆動輪を制動するブレーキ機構もしくは転舵する操舵機構が設けられている四輪独立駆動車両の制御装置であって、
前記駆動力源と前記ブレーキ機構もしくは操舵機構とを制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
選択されて設定されている駆動状態が前記四輪駆動か前記二輪駆動かを判定する駆動判定部と、
前記四輪独立駆動車両が旋回走行することを判定する旋回判定部と、
前記駆動判定部によって前記四輪駆動が判定され、かつ前記旋回判定部によって前記旋回走行が判定された場合に、前記四輪のそれぞれに対応して設けられている前記駆動力源を前記旋回走行に適する出力トルクとなるように制御する四輪旋回制御部と、
前記駆動判定部によって前記二輪駆動が判定され、かつ前記旋回判定部によって前記旋回走行が判定された場合に、前記二輪駆動のために駆動される駆動輪に対応して設けられている前記駆動力源を前記旋回走行に適する出力トルクとなるように制御するとともに、前記非駆動輪の前記ブレーキ機構による制動力もしくは前記操舵機構による転舵角を前記旋回走行に適するように制御する二輪旋回制御部とを備えている
ことを特徴とする四輪独立駆動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪それぞれの駆動トルクを互いに独立して制御できる車両の制御装置に関し、特に四輪の全てを駆動する四輪駆動状態と、前後いずれか二輪を駆動する二輪駆動状態とを選択的に設定できる車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
四輪のそれぞれを互いに独立して制御できる車両が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された車輪独立駆動電気自動車は、四輪のそれぞれにモータを設け、それらのモータを個別に制御することにより、各車輪の駆動トルクを個別に適宜に制御できるように構成されている。この種の車両では、左右の車輪の駆動トルクに差を設け、あるいは前後の車輪の駆動トルクに差を設けることにより、車体にヨーイングが発生するので、運転者が意図する旋回経路に沿って走行するように各車輪の駆動トルクを制御して旋回性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両における四輪全てのトルク(駆動トルクならびに制動トルク)を適宜に制御すれば、走行安定性や悪路の走破性を向上させることができ、さらにはエンジンブレーキ(駆動力源ブレーキ)による制動性を向上させることができる。特許文献1に記載されているような車輪独立駆動車両では、このような特性を有効に利用し、旋回走行時に四輪全てのトルクを独立して制御して旋回性あるいは走行安定性を向上させている。しかしながら、各車輪のそれぞれにおける駆動力源であるモータやそのモータから車輪にトルクを伝達する伝動機構には、摩擦や慣性力などに起因する不可避的な損失があるから、旋回走行する際に、常時、四輪全てのトルクを制御するとすれば、エネルギ損失が大きくなって、例えば電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEVもしくはPHEV)では電費が悪化する可能性が高くなる。
【0005】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、四輪独立駆動車両の旋回走行時の走行安定性の向上とエネルギ効率の向上もしくは維持とを両立させることのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、前二輪および後二輪の合計四輪のそれぞれに対応して駆動力源が設けられるとともにそれらの前記駆動力源によって前記四輪のそれぞれのトルクを互いに独立して制御することにより、四輪の全てで駆動トルクを発生して走行する四輪駆動と、前後いずれか二輪で駆動トルクを発生して走行する二輪駆動とが可能であり、かつ要求されている走行状態に基づいて前記四輪駆動もしくは前記二輪駆動を選択して設定することができ、さらに少なくとも前記二輪駆動の状態で前記駆動力源によって駆動されない非駆動輪を制動するブレーキ機構もしくは転舵する操舵機構が設けられている四輪独立駆動車両の制御装置であって、前記駆動力源と前記ブレーキ機構もしくは操舵機構とを制御するコントローラを備え、前記コントローラは、選択されて設定されている駆動状態が前記四輪駆動か前記二輪駆動かを判定する駆動判定部と、前記四輪独立駆動車両が旋回走行することを判定する旋回判定部と、前記駆動判定部によって前記四輪駆動が判定され、かつ前記旋回判定部によって前記旋回走行が判定された場合に、前記四輪のそれぞれに対応して設けられている前記駆動力源を前記旋回走行に適する出力トルクとなるように制御する四輪旋回制御部と、前記駆動判定部によって前記二輪駆動が判定され、かつ前記旋回判定部によって前記旋回走行が判定された場合に、前記二輪駆動のために駆動される駆動輪に対応して設けられている前記駆動力源を前記旋回走行に適する出力トルクとなるように制御するとともに、前記非駆動輪の前記ブレーキ機構による制動力もしくは前記操舵機構による転舵角を前記旋回走行に適するように制御する二輪旋回制御部とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、二輪駆動で走行している状態で旋回走行が判定されると、駆動される二輪(駆動輪)のトルクが旋回走行に適するトルクに制御され、併せて非駆動輪の制動力あるいは転舵角が旋回走行に適するように制御される。その場合、駆動輪のトルク制御と非駆動輪の制動制御もしくは操舵制御とは協調して実行される。したがって、駆動すべき車輪の数もしくは駆動トルクを出力するべき動力源の数が二つに限られるので、不可避的な損失が少なくなってエネルギ効率あるいは電費が向上し、少なくともエネルギ効率あるいは電費の悪化を回避もしくは抑制でき、あるいは維持できる。また、その場合、非駆動輪はブレーキ機構あるいは操舵機構によって、そのトルクあるいは転舵角が旋回走行に適するように制御されるので、旋回性が維持され、あるいは悪化することが抑制もしくは回避される。また一方、四輪駆動で走行している状態で旋回走行が判定されると、四輪のそれぞれのトルクが旋回走行に適したトルクとなるよう、車輪ごとの駆動力源が制御される。したがってこの場合は、四輪の全てで車両を旋回させることになるので、旋回時の走行安定性が良好になる。なおこの場合、ブレーキ機構や操舵機構は旋回走行のためには特には機能(動作)させない。したがって、本発明によれば、旋回走行時の走行安定性の向上とエネルギ効率の向上もしくは維持とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態における四輪独立駆動車両の駆動系統を模式的に示すブロック図である。
【
図2】後輪側の駆動ユニットの一例を示すスケルトン図である。
【
図3】前輪側の駆動ユニットの一例を示すスケルトン図である。
【
図4】車両の走行ならびに停止および旋回のための各種の機構を説明するための模式図である。
【
図5】コントローラの入出力信号を例示するブロック図である。
【
図6】コントローラの機能的構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の実施形態で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】走行モードごとのオイルポンプの回転数を決めてあるマップの一例を示す線図である。
【
図9】旋回走行(コーナリング)開始時の駆動状態に基づいて旋回走行中の駆動状態を決める制御例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】Dレンジで使用する要求駆動トルクマップを模式的に示す線図である。
【
図11】DレンジないしLレンジでアクセル開度が50%の要求駆動トルクマップを模式的に示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を添付の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を実施した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0010】
本発明で対象とする車両は、前二輪および後二輪の合計四輪の車両であって、四輪全てを互いに独立して駆動できるように、それぞれの車輪に対応させて駆動力源を設けた四輪独立駆動車両である。その例を
図1に模式的に示してある。ここに示す車両Veは、左右の前輪1r,1lと左右の後輪2r,2lとを備え、これらの車輪1r,1l,2r,2lのそれぞれに対応して駆動力源としての駆動ユニットPfr,Pfl,Prr,Prlが設けられている。これらの駆動ユニットPfr,Pfl,Prr,Prlは、それぞれ、モータおよび歯車減速機構(伝動機構)を主体として構成されている。
【0011】
図2に後輪2r,2l側の駆動ユニットPrr,Prlの一例をスケルトン図で示してある。これらの駆動ユニットPrr,Prlは左右対称な構成であるから、特に「右」、「左」と断らずにまとめて説明する。モータMrr,Mrlがその回転中心軸線を車両Veの前後方向に向けて搭載されており、そのロータ軸にドライブギヤ4rr,4rlが取り付けられ、このドライブギヤ4rr,4rlがカウンタドリブンギヤ5rr,5rlに噛み合っている。そのドライブギヤ4rr,4rlよりもカウンタドリブンギヤ4rr,4rlが大径であり、したがってこれらのギヤ対が減速機構を構成している。カウンタドリブンギヤ5rr,5rlと同一軸上にベベルギヤであるカウンタドライブギヤ6rr,6rlが一体回転するように設けられており、このカウンタドライブギヤ6rr,6rlが、後輪2r,2lに連結されているドライブシャフト7rr,7rlと一体のベベルギヤであるドリブンギヤ8rr,8rlに噛み合っている。カウンタドライブギヤ6rr,6rlよりもドリブンギヤ8rr,8rlを大径にすることにより、これらのギヤ対を減速機構とすることができる。
【0012】
これらのモータMrr,Mrlや減速機構ならびに各ベベルギヤはケーシング9の内部に液密状態で収容されている。このケーシング9の内部のモータMrr,Mrlに対して、主として冷却のためのオイルを供給する電動式のオイルポンプOPrr,OPrlが設けられている。これらのオイルポンプOPrr,OPrlはケーシング9の外部で車両Veの適宜の箇所に設けられており、オイル溜まり10からオイル11を汲み上げて、冷却油路12rr,12rlを介してモータMrr,Mrlにオイル11を供給するように構成されている。なお、特には図示していないが、ケーシング9の内部からオイル溜まり10にオイル11が還流するように構成されている。また、冷却油路12rr,12rlの途中にオイルクーラを設けてもよい。
【0013】
図3に前輪1r,1l側の駆動ユニットPfr,Pflの一例をスケルトン図で示してある。これらの駆動ユニットPfr,Pflは左右対称な構成であるから、特に「右」、「左」と断らずにまとめて説明する。モータMfr,Mflがその回転中心軸線を車両Veの幅方向(横方向)に向けて搭載されており、そのロータ軸にドライブギヤ13fr,13flが取り付けられ、このドライブギヤ13fr,13flがアイドルギヤ14r,14lに噛み合っている。このアイドルギヤ14r,14lの回転中心軸線と平行にカウンタシャフト15r,15lが設けられており、このカウンタシャフト15r,15lに取り付けられているカウンタドリブンギヤ16fr,16rlにアイドルギヤ14r,14lが噛み合っている。モータMfr,Mrlに取り付けられているドライブギヤ13fr,13flによりもカウンタドリブンギヤ16fr,16flが大径であることにより、これらのギヤ対によって減速機構が構成されている。カウンタシャフト15r,15lにはカウンタドライブギヤ17fr,17flが取り付けられており、このカウンタドライブギヤ17fr,17flが前輪1r,1lに連結されているドライブシャフト18fr,18flと一体のドリブンギヤ19fr,19flに噛み合っている。このカウンタドライブギヤ17fr,17flよりもドリブンギヤ19fr,19flが大径であることにより、これらのギヤ対によって減速機構が構成されている。
【0014】
前輪1r,1l側のモータMfr,Mflは、後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlと同様にオイル11によって冷却するように構成されている。すなわち、前輪1r,1l側のモータMfr,Mflに対応して電動式のオイルポンプOPfr,OPrlが設けられており、これらのオイルポンプOPfr,OPflがオイル溜まり10からオイル11を汲み上げて、冷却油路20fr,20flを介してモータMfr,Mflにオイル11を供給するように構成されている。なお、特には図示していないが、モータMfr,Mflを冷却したオイルはオイル溜まり10に還流するように構成されている。また、冷却油路20fr,20flの途中にオイルクーラを設けてもよい。さらに、オイル溜まり10およびオイル11は、前輪1r,1l側と後輪2r,2l側とに別々に設けてもよい。
【0015】
潤滑のためのオイルをくみ上げるオイルポンプOPmが設けられている。このオイルポンプOPmは、機械式のポンプであって、
図3に示す例では、左前輪1l側のカウンタシャフト15lに連結されている。したがって、このオイルポンプOPmは車両Veが走行している場合に駆動されて、オイル溜まり10からオイル11を汲み上げるとともに、所定の潤滑箇所にオイル11を供給するように構成されている。
【0016】
上記の各モータMfr,Mfl,Mrr,MrlやオイルポンプOPfr,OPrlとの間で電力を授受する蓄電装置(Bat)21が設けられている。この蓄電装置21は、リチウムイオン電池や全固体電池などの二次電池を主体として構成されている。各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlは例えば永久磁石式の同期電動機であり、これらのモータMfr,Mfl,Mrr,Mrlはインバータを主体とするパワーコントローラPCfr,PCfl,PCrr,PCrlを介して蓄電装置21に接続されている。したがって各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlはその出力トルクやエネルギ回生時の制動トルクを互いに独立して個別に制御される。なお、パワーコントローラPCfr,PCfl,PCrr,PCrlは機能が互いに独立していればよく、全体として一体のユニットして構成してあってもよい。
【0017】
車両Veは、走行ならびに停止および旋回のための各種の機構を、通常の車両と同様に備えている。その主な構成を
図4に模式的に記載してある。各車輪1r,1l,2r,2lにブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlが設けられている。これらのブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlは、図示しないブレーキペダルを操作することにより制動力を発生することに加えて、電気的に制御されて制動力を発生するように構成されている。その制動力を電気的に制御するシステムとして、ビークルスタビリティシステム(VSC)22が設けられている。VSC22は従来知られている構成と同様の構成であってよく、例えば各車輪の駆動力を制限するようにブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlを動作させるトラクションコントロールシステム(TCS)23や、各車輪のロックを回避するようにブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlの制動力を低減もしくは解放するアンチロックブレーキシステム(ABS)24を統合したシステムである。
【0018】
図4に示す車両Veは、前輪1r,1lが転舵輪であって、ステアリングホイール25およびステアリングリンケージ26ならびに操舵力をアシストするアクチュエータ27などからなるパワーステアリング機構(PSもしくはEPS)が設けられている。また、前輪1r,1lの操舵に協調して後輪2r,2lを操舵する機構が設けられている。すなわち、
図4に示す車両Veはいわゆる四輪操舵(4WS)車両であって、後輪2r,2lを転舵させるリンケージ28とそのリンケージ28を動作させるアクチュエータ29などからなる操舵機構が設けられている。そして、前輪1r,1l用の上記のアクチュエータ27および後輪2r,2l用のアクチュエータ29を制御する四輪操舵(4WS)用コントローラ30が設けられている。
【0019】
さらに、車両Veには、加減速操作を行うためのアクセルペダル31や、変速段もしくは走行レンジを選択するためのシフト装置32、走行モードを選択するためのモード選択スイッチ33などが設けられている。これらのシフト装置32やモード選択スイッチ33は、フロアーやセンターコンソールなどに設けられたレバーによって変速段(変速比)を選択する構成のもの、あるいはシフトレンジを選択する構成のもの、さらにはマニュアルポジションでアップ操作もしくはダウン操作することにより1段ずつ変速段を切り替える構成のものであってよく、あるいはインストルメントパネルやステアリングホイールもしくはステアリングコラムなどに設けられたボタンスイッチを操作することによりシフトレンジを順に切り替え、あるいは変速段(変速比)を1つずつ切り替える構成のものであってもよい。また、車両Veの位置や周辺の地図データあるいは走行予定路などのデータを検出するとともに運転者に提供するナビゲーションシステム(NAVI)34などが設けられている。
【0020】
なお、走行モードは、主として、駆動トルクを所定の基準に基づいて制御する制御形態であって、各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlの駆動トルクおよび回生トルク(制動トルク)ならびに各ブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlの制動力を制御してコーナリング性能を向上させるトラックモードや、四輪のそれぞれのトルクを個別に制御してアンダーステアを解消し、あるいは最適なトラクションに制御し、さらには旋回走行時の敏捷性とドライビング精度とを向上させるドリフトモード、変速段(変速比)や転舵角を制御して、高車速まで大きい駆動トルクを確保して俊敏な走行を可能にするマニュアルスポーツモードなどである。上記のモード選択スイッチ33によってこれらのいずれかの走行モードを選択し、あるいはその選択を解除して通常のノーマルモードを選択するように構成されている。
【0021】
車両Veの車速を含む各種の動作状態は、センサによって検出されている。そのセンサの例を挙げると、特には図示しないが、車速センサ、アクセル開度センサ、油温センサ、操舵角センサ、シフトポジションセンサ、ブレーキセンサ、走行モードセンサ、モータ回転数センサ、モータ温度センサなどである。
【0022】
これらのセンサで検出された動作状態や走行要求状態などに基づいて、前後四輪の駆動トルクや転舵角を制御するコントローラ35が設けられている。コントローラ35は、マイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータを使用して、所定のプログラムに従って演算を行い、その演算の結果を、前述したパワーコントローラPCfr,PCfl,PCrr,PCrlや電動式のオイルポンプOPfr,OPrl、あるいはVSC22ならびに四輪操舵用コントローラ30などに、制御指令信号として出力するように構成されている。特にコントローラ35は、運転者の要求に適した旋回走行を行うように前後の四輪のそれぞれのトルクを制御し、また二輪駆動状態の場合には、駆動トルクを発生していない前後いずれか二輪(非駆動輪)の転舵角を制御するように構成されている。
【0023】
このような制御を行うための入力信号および出力信号の例を
図5に挙げてある。入力信号の例は、車速信号、アクセル開度信号、シフト位置信号、操舵角信号、エコノミースイッチ信号、ブレーキ信号、シフトアップ(+)信号、シフトダウン(-)信号、ニュートラル信号、トラックモード信号、ドリフトモード信号などである。出力する指令信号の例は、左後輪2l用のモータMrlのトルク、右後輪2r用のモータMrrのトルク、左後輪2l用のオイルポンプOPrlの制御信号、右後輪2r用のオイルポンプOPrrの制御信号、左前輪1l用のモータMflのトルク、右前輪1r用のモータMfrのトルク、左前輪1l用のオイルポンプOPflの制御信号、右前輪1r用のオイルポンプOPfrの制御信号、非駆動輪転舵角信号などである。
【0024】
これらの入力信号および出力信号による制御は、要は、旋回走行をより的確に行うための四輪の駆動トルクや非駆動輪の転舵角の制御であり、したがってコントローラ35の機能的構成を示せば
図6のとおりである。四輪駆動時と二輪駆動時とでは異なる制御を行うことになるので、コントローラ35は、要求されている駆動状態ならびにそれに伴う走行状態もしくは実際に選択されて設定されている駆動状態あるいは走行状態を判定する必要があり、その判定のための駆動判定部35aを備えている。この判定は、例えば前述したトラックモード信号の有無、ドリフトモード信号の有無や、前述したマニュアルスポーツモードの選択の有無などに基づいて行うことができる。また、車両Veが旋回走行しているか否か、あるいは旋回走行するか否かを判定する旋回判定部35bを備えている。この判定は、操舵角に基づいて行うことができ、あるいはNAVI34による位置信号や走行予定路の信号などに基づいて行うことができる。
【0025】
四輪駆動状態であれば、四輪のトルクを適宜に制御することにより車両Veにヨーイングを生じさせることができるので、四輪のそれぞれのトルク(具体的には前述したモータMfr,Mfl,Mrr,Mrlの駆動トルクや回生トルク)を制御する四輪旋回制御部35cが設けられている。さらに、二輪駆動状態であれば、駆動される二輪(駆動輪)のトルクと、非駆動輪の転舵とによって車両Veのヨーを適宜に制御できるので、駆動輪のトルクと非駆動輪の転舵角とを制御する二輪旋回制御部35dが設けられている。
【0026】
このコントローラ35による制御の一例を
図7に示すフローチャートを参照して説明する。
図7に示すルーチンは、車両Veが旋回走行している場合、あるいは旋回走行しようとしている場合に、所定の短時間ごとに繰り返し実行される。先ず、ステップS1で入力データが取得される。ここで取得する入力データは、アクセル開度、車速、モータ温度、油温、シフトレンジ、走行モードなどである。つぎに、選択もしくは設定されている走行モードが判断される。ここで判断される走行モードは、前述したトラックモードが選択もしくは設定されているか(ステップS2)、ドリフトモードが選択もしくは設定されているか(ステップS3)、マニュアルスポーツモードが選択もしくは設定されているか(ステップS4)である。なお、これらの判断の順序は特には限定されず、適宜であってよい。
【0027】
ステップS2ないしステップS4のいずれかの判断の結果が「イエス」の場合、四輪駆動が要求され、あるいは二輪駆動状態で走行しているので、前後の四輪のそれぞれに対応させて設けてある電動機のオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlを駆動してモータMfr,Mfl,Mrr,Mrlにオイルを積極的に供給してその冷却を促進する(ステップS5)。その状態で、前後四輪の駆動トルクを使用した旋回制御を実行する(ステップS6)。その後、リターンする。ここで「前後四輪の駆動トルクを使用した旋回制御」とは、前後の各車輪1r,1l,2r,2lのそれぞに対応して設けてあるモータMfr,Mfl,Mrr,Mrlを個別に制御して、各車輪1r,1l,2r,2lの駆動トルクあるいはエネルギ回生による制動トルクを個別に制御することにより、車両Veを旋回走行させる制御である。また、その制御では、前輪1r,1lの操舵角度および車速に基づいて求まる目標走行経路もしくは目標ヨーに即して走行するように各車輪1r,1l,2r,2lを制御するから、運転者の意図した旋回走行を的確に行うことができ、また走行安定性が良好になる。
【0028】
一方、ステップS2ないしステップS4の判断の結果が「ノー」の場合には、二輪駆動が要求され、あるいは二輪駆動状態で走行しているので、駆動輪とされる後輪2r,2lに対応して設けてあるオイルポンプOPrr,OPrlを駆動して後輪2r,2l用のモータMrr,Mrlにオイルを積極的に供給してその冷却を促進する(ステップS7)。その状態で、左右の後輪2r,2lの駆動トルクを使用し、かつ非駆動輪である前輪1r,1lの制動トルクを使用した旋回制御を実行する(ステップS8)。その後、リターンする。ここで「左右の後輪2r,2lの駆動トルクを使用」するとは、後輪2r,2lのそれぞれの駆動トルクもしくはエネルギ回生による制動トルクを、後輪2r,2lのそれぞれに対応して設けてあるモータMrr,Mrlによって制御することである。また、「前輪1r,1lの制動トルクを使用」するとは、前述したVSC22によって前輪1r,1lの制動トルクを制御して所定のヨーを生じさせる制御である。したがって、この場合は、走行のためのエネルギ消費は、後輪2r,2l側で生じるのみであるから、エネルギ損失を抑制でき、あるいはエネルギ効率(電費)が良好になる。また、この場合、前輪1r,1lは駆動トルクを発生していないとしても、制動トルクを発生しているので、実質的に、四輪の全てで車両Veの旋回を制御していることになり、したがって四輪駆動状態ほどではないとしても、運転者の意図した旋回走行を的確に行うことができ、また走行安定性が良好になる。
【0029】
なお、二輪駆動状態で旋回走行する場合、非駆動輪の制動トルクをVSC22などによって制御することに加えて、あるいは替えて、転舵角度を制御することとしてもよい。例えば操舵輪である前輪1r,1lを駆動輪とした場合、非駆動輪である後輪2r,2lを四輪操舵用コントローラ30によって制御することとしてもよい。
【0030】
上述したようにモータMfr,Mfl,Mrr,Mrlによって駆動トルクを制御する場合、それらのモータMfr,Mfl,Mrr,Mrlの冷却のためにオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlを併せて駆動するが、各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlの負荷およびそれに伴う発熱量が走行モードによって異なるので、オイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlの回転数(もしくはオイル吐出量)は、走行モードに応じて設定することが好ましい。
図8に走行モードごとのオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlの回転数を示してある。ここに示す例は、手動操作でレンジを選択するモードであるマニュアルレンジモード、変速段(もしくは変速比)を手動操作で選択するモードであるマニュアルスポーツモード、ドリフトモード、ならびにトラックモードを設定可能な車両Veについての回転数マップであり、ここに挙げたモードの順にオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlの回転数が高くなるように設定してある。なお、モータ温度が高くなるのに従って回転数を高くするのは、いずれのモードであっても同様である。
【0031】
上述したように車両Veが旋回走行する場合、四輪駆動状態として、四輪のそれぞれを個別に設けたモータによって制御することにより、旋回性能が良好になる。その半面、エネルギ(電力)消費量が多くなってエネルギ効率(電費)が悪化する。これとは、反対に二輪駆動状態であれば、エネルギ効率(電費)が良好になるものの、旋回性能は四輪駆動状態の場合に比較して低下する。そこで、旋回走行時に、四輪駆動と二輪駆動とのいずれを選択するかは、選択もしくは設定されている前述した走行モードに基づいて決めることができるが、それ以外に、旋回走行を開始した時点の駆動状態に基づいて、旋回走行中のの駆動状態を決めることとしてもよい。
【0032】
図9は旋回走行(コーナリング)開始時の駆動状態に基づいて、旋回走行中の駆動状態を決める制御例を説明するためのフローチャートである。この
図9に示すルーチンは、車両Veが走行している場合に所定の短時間ごとに繰り返し実行される。先ず、ステップS11で入力データを取得する。これは、前述した
図7に示すステップS1と同様の制御である。ついで、エコノミースイッチがオンになっているか否かが判断される(ステップS12)。エコノミースイッチは、エネルギ効率(電費もしくは燃費)を優先した走行制御を選択するためのスイッチであって、特には図示しないが、車両Veのインストルメントパネルやステアリングホイール25などに設けられている。このステップS2での判断結果が「イエス」の場合には、特に制御を行うことなくリターンする。これとは反対にステップS2での判断結果が「ノー」の場合には、コーナリングを開始した否かが判断される(ステップS13)。この判断は、操舵角度や車両Veの横加速度などに基づいて行うことができる。コーナリングを開始していないことによりステップS13での判断結果が「ノー」であれば、特に制御を行うことなくリターンする。これとは反対にステップS13の判断結果が「イエス」の場合には、その時点の駆動状態が二輪駆動か否かが判断される(ステップS14)。
【0033】
コーナリング開始時の駆動状態が二輪駆動であることによりステップS14の判断結果が「イエス」であれば、モータによって駆動されているいずれか二輪(駆動輪)で旋回制御を実行する(ステップS15)。その後、リターンする。すなわち、駆動輪の駆動トルクもしくはエネルギ回生に伴う制動トルクを積極的に制御して、目標とする旋回経路もしくは目標ヨーに即して車両Veが走行するように、駆動輪に対応して設けてあるモータを制御する。これとは反対にコーナリング開始時の駆動状態が二輪駆動ではないことによりステップS14での判断結果が「ノー」の場合には、四輪で旋回制御を実行する(ステップS16)。その後、リターンする。すなわち、前後四輪の全ての駆動トルクもしくはエネルギ回生に伴う制動トルクを個別にかつ積極的に制御して、目標とする旋回経路もしくは目標ヨーに即して車両Veが走行するように、それぞれの車輪に対応して設けてあるモータを制御する。
【0034】
図9にフローチャートで示すように制御すれば、コーナリング開始時に四輪駆動であれば、旋回走行中にその駆動状態を維持して、四輪の全てで旋回のためのトルク制御を行うので、運転者の意図する旋回走行を的確に行うことができ、走行安定性が良好になる。また、二輪駆動状態でコーナに進入した場合には、駆動輪を二輪に限って、新たに他の二輪を駆動することがないので、エネルギ効率(電費)の悪化を回避もしくは抑制でき、あるいはエネルギ効率(電費)を向上させることができる。
【0035】
なお、ここで、走行レンジの切り替え制御について説明する。各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlは、アクセル開度と車速とから求まる要求駆動トルクを達成するように制御する。その要求駆動トルクは、車両Veが滑らかに走行し、また過不足なく加減速するように予め設定してある。その要求駆動トルクの設定の仕方によって、加減速度が大きくなり、あるいは反対に小さくなる。一方、走行レンジは、一般的な走行時に適したドライブ(D)レンジや、それよりも加減速度が大きくなる3レンジや2レンジさらにはLレンジなどがあり、これらの3レンジならびに2レンジおよびLレンジは、マニュアル操作スイッチがオンになっている状態でアップ(+)スイッチやダウン(-)スイッチを操作することにより順に選択される。そして、ここに挙げた順に要求駆動トルクを大きくするのが通常である。
図10にはDレンジで使用する要求駆動トルクマップを模式的に示してあり、また
図11には、DレンジないしLレンジでアクセル開度が50%の要求駆動トルクマップを模式的に示してある。
【符号の説明】
【0036】
1r,1l 前輪
2r,2l 後輪
10 オイル溜まり
11 オイル
12rr,12rl 冷却油路
20fr,20fl 冷却油路
21 蓄電装置
22 ビークルスタビリティコントローラ(VSC)
23 トラクションコントロールシステム(TCS)
24 アンチロックブレーキシステム(ABS)
25 ステアリングホイール
26 ステアリングリンケージ
27 アクチュエータ
28 リンケージ
29 アクチュエータ
30 四輪操舵用コントローラ
31 アクセルペダル
32 シフト装置
33 モード選択スイッチ
34 ナビゲーションシステム(NAVI)
35 コントローラ
35a 駆動判定部
35b 旋回判定部
35c 四輪旋回制御部
35d 二輪旋回制御部
Bfr,Bfl,Brr,Brl ブレーキ機構
Mfr,Mfl,Mrr,Mrl モータ
OPfr,OPfl,OPrr,OPrl オイルポンプ
Pfr,Pfl,Prr,Prl 駆動ユニット
PCfr,PCfl,PCrr,PCrl パワーコントローラ
Ve 車両