(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029418
(43)【公開日】2025-03-06
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20250227BHJP
【FI】
F16J15/34 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134048
(22)【出願日】2023-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 直人
(72)【発明者】
【氏名】奥村 淳矢
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA01
3J041BB01
3J041BB02
3J041BC03
(57)【要約】
【課題】メカニカルシールのシール面に、安価なコストで凹部を形成できるようにする。
【解決手段】本開示のメカニカルシールは、回転軸側に一体回転可能に設けられ、シール面を有する回転密封環と、前記回転軸を包囲しているケーシング側に設けられ、前記回転密封環の前記シール面に対向するシール面を有する静止密封環と、前記回転密封環及び前記静止密封環のうちの一方を他方側へ押圧する弾性部材と、を備えるメカニカルシールであって、前記回転密封環及び前記静止密封環のうち少なくとも一つの密封環における前記シール面とは反対側の端面の一部が当接する第1当接部と、前記一つの密封環における前記端面の他の一部が当接する第2当接部と、を備え、前記第1当接部と前記第2当接部との間には、前記一つの密封環の前記反対側への変形を許容する空間が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸側に一体回転可能に設けられ、シール面を有する回転密封環と、
前記回転軸を包囲しているケーシング側に設けられ、前記回転密封環の前記シール面に対向するシール面を有する静止密封環と、
前記回転密封環及び前記静止密封環のうちの一方を他方側へ押圧する弾性部材と、を備え、前記回転密封環及び前記静止密封環により被密封流体を機内領域に密封するメカニカルシールであって、
前記回転密封環及び前記静止密封環のうち少なくとも一つの密封環における前記シール面とは反対側の端面の一部が当接する第1当接部と、
前記一つの密封環における前記端面の他の一部が当接する第2当接部と、を備え、
前記第1当接部と前記第2当接部との間には、前記一つの密封環の前記反対側への変形を許容する空間が形成されている、メカニカルシール。
【請求項2】
前記一つの密封環の前記反対側に配置された押し当て部材を備え、
前記押し当て部材は、前記第1当接部及び前記第2当接部を有する、請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記押し当て部材は、前記一つの密封環と同心の円環状に形成されている、請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記一つの密封環は、硬質材料からなる、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたメカニカルシールは、ハウジング側に設けられた静止密封環(固定環)と、回転軸側に設けられて静止密封環に対して摺動する回転密封環(回転環)と、静止密封環を回転密封環側に押圧する弾性部材(ベローズ)と、を備えている。静止密封環及び回転密封環は、弾性部材の付勢力により、互いに密着しながら摺動するシール面(摺動面)を有する。これら両シール面のうち、いずれか一方のシール面には、周方向に複数の凹部(収容ブロック)が形成されている。前記凹部に被密封流体が入り込むことで、両シール面間に潤滑膜が形成され、両シール面の潤滑性が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記メカニカルシールでは、静止密封環及び回転密封環は、耐摩耗性に優れた硬質材料の炭化ケイ素(SiC)からなるので、汎用の工作機械によってシール面に凹部を切削加工するのは困難である。このため、シール面に凹部を形成するには、特殊な加工方法を採用せざるを得ず、製造コストが高くなってしまう。
【0005】
本開示は、メカニカルシールのシール面に、安価なコストで凹部を形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示は、回転軸側に一体回転可能に設けられ、シール面を有する回転密封環と、前記回転軸を包囲しているケーシング側に設けられ、前記回転密封環の前記シール面に対向するシール面を有する静止密封環と、前記回転密封環及び前記静止密封環のうちの一方を他方側へ押圧する弾性部材と、を備え、前記回転密封環及び前記静止密封環により被密封流体を機内領域に密封するメカニカルシールであって、前記回転密封環及び前記静止密封環のうち少なくとも一つの密封環における前記シール面とは反対側の端面の一部が当接する第1当接部と、前記一つの密封環における前記端面の他の一部が当接する第2当接部と、を備え、前記第1当接部と前記第2当接部との間には、前記一つの密封環の前記反対側への変形を許容する空間が形成されている、メカニカルシールである。
【0007】
本開示のメカニカルシールによれば、前記一つの密封環におけるシール面とは反対側の端面は、弾性部材の弾性力および被密封流体の圧力により、第1当接部及び第2当接部に強く押し当てられる。これにより、前記一つの密封環の一部分が、両当接部の間に形成された空間に向かって突出するように前記反対側に変形する。この変形により、前記一つの密封環のシール面における前記一部分に対応する領域が前記反対側に向かって窪むので、その領域内に凹部が形成される。したがって、弾性部材の弾性力および被密封流体の圧力を利用することで、メカニカルシールのシール面に凹部が形成されるので、安価なコストで凹部を形成することができる。
【0008】
(2)前記(1)のメカニカルシールは、前記一つの密封環の前記反対側に配置された押し当て部材を備え、前記押し当て部材は、前記第1当接部及び前記第2当接部を有するのが好ましい。
この場合、第1当接部及び第2当接部は、押し当て部材にユニット化されるので、メカニカルシールを容易に組み立てることができる。
【0009】
(3)前記(2)のメカニカルシールにおいて、前記押し当て部材は、前記一つの密封環と同心の円環状に形成されているのが好ましい。
この場合、円環状の押し当て部材における周方向の任意の位置に、第1当接部及び第2当接部を配置できるので、前記一つの密封環のシール面における周方向の任意の位置に凹部を形成することができる。
【0010】
(4)前記(1)から(3)のいずれかのメカニカルシールにおいて、前記一つの密封環は、硬質材料からなるのが好ましい。
この場合、加工が困難である硬質材料からなる前記一つの密封環のシール面にも、安価なコストで凹部を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、メカニカルシールのシール面に、安価なコストで凹部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係るメカニカルシールの断面図である。
【
図2】第1実施形態の押し当て部材及び静止密封環を示す斜視図である。
【
図3】第2実施形態に係るメカニカルシールの断面図である。
【
図4】第2実施形態の押し当て部材及び回転密封環を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本開示の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
[第1実施形態]
<全体構成>
図1は、第1実施形態に係るメカニカルシール1の断面図である。
図1において、メカニカルシール1は、ポンプ等の回転機器70に用いられ、回転機器70の内部において被密封流体を密封するものである。メカニカルシール1は、回転機器70の回転軸71と、回転軸71を包囲しているケーシング72との間において、回転軸71の軸方向に沿って配置されている。
【0014】
以下、本明細書において、「軸方向」とは、回転軸71の軸線Xに沿った方向である。また、本明細書において「径方向」とは、回転軸71の軸線Xに対して直交する方向であり、「周方向」とは、回転軸71の軸線X回りの方向である。また、本明細書では、便宜上、
図1の右側を軸方向一方側といい、
図1の左側を軸方向他方側という(
図3も同様)。
【0015】
本実施形態のメカニカルシール1は、いわゆる回転型のメカニカルシールである。メカニカルシール1は、回転軸71に一体回転可能に設けられた回転ユニット2と、ケーシング72に設けられた静止ユニット3と、を備える。
【0016】
<回転ユニット>
回転ユニット2は、第1リテーナ11、セットスクリュー12、ドライブカラー13、スプリング(弾性部材)14、第2リテーナ15、及び回転密封環16を備える。第1リテーナ11は、円環状に形成され、回転軸71の軸方向一方側の外周面に嵌合されている。第1リテーナ11には、周方向に配置された複数(
図1では1つのみ図示)のセットスクリュー12が径方向に締め込まれている。これにより、第1リテーナ11は、回転軸71に固定されている。
【0017】
ドライブカラー13は、第1リテーナ11の軸方向他方側に間隔をあけて配置されている。ドライブカラー13は、円環状に形成され、回転軸71の外周面に対して軸方向に移動可能に嵌合されている。ドライブカラー13は、ドライブピン(図示省略)を介して第1リテーナ11に対して軸方向に移動可能に保持され、かつ第1リテーナ11に対する相対回転が規制されている。
【0018】
第1リテーナ11とドライブカラー13との間には、スプリング14が周方向に間隔をあけて複数(
図1では1つのみ図示)設けられている。スプリング14は、例えば圧縮コイルスプリングである。スプリング14は、その弾性力により、ドライブカラー13を第1リテーナ11に対して軸方向他方側へ押圧している。
【0019】
第2リテーナ15は、ドライブカラー13の軸方向他方側に隣接して配置されている。第2リテーナ15は、円環状に形成され、回転軸71の外周面に対して軸方向に移動可能に嵌合されている。第2リテーナ15の軸方向一方側の端部は、ドライブカラー13に固定されている。これにより、第2リテーナ15は、ドライブカラー13と共に回転軸71に対して軸方向に移動可能に保持され、かつドライブカラー13に対する相対回転が規制されている。第2リテーナ15の内周面と回転軸71の外周面との間は、Oリング17によりシール(二次シール)されている。
【0020】
回転密封環16は、円環状に形成され、第2リテーナ15の軸方向他方側の端部に固定されている。回転密封環16は、炭化ケイ素(SiC)、超硬合金等の耐摩耗性に優れた硬質材料からなる。回転密封環16の軸方向他方側には、シール面16aが形成されている。シール面16aは、径方向に延びる平坦な面である。回転密封環16は、スプリング14の弾性力により、ドライブカラー13及び第2リテーナ15を介して軸方向他方側へ押圧されている。
【0021】
<静止ユニット>
静止ユニット3は、シールケース31、押し当て部材32、及び静止密封環33を備える。シールケース31は、円筒状に形成されている。シールケース31は、回転機器70の機内領域Aと機外領域Bとを区画するために、回転軸71を包囲してケーシング72に固定されている。具体的には、シールケース31の軸方向一方側の側面は、ケーシング72の軸方向他方側の側面に当接した状態で、ボルト34及びナット35によりケーシング72に固定されている。シールケース31の軸方向一方側の側面とケーシング72の軸方向他方側の側面との間は、Oリング36によりシール(二次シール)されている。
【0022】
シールケース31の内周側には、径方向内方に延びる段差面31aが形成されている。段差面31aは、軸方向一方側(回転ユニット2側)に面している。シールケース31の内周面には、押し当て部材32が嵌合して固定されている。押し当て部材32は、段差面31aの軸方向一方側に隣接して配置され、かつ静止密封環33の軸方向他方側に隣接して配置されている。押し当て部材32の詳細については後述する。
【0023】
静止密封環33は、円環状に形成され、押し当て部材32の軸方向一方側においてシールケース31の内周面に嵌合して固定されている。静止密封環33は、回転密封環16と同様に、SiC、超硬合金等の耐摩耗性に優れた硬質材料からなる。静止密封環33の外周面とシールケース31の内周面との間は、Oリング37によりシール(二次シール)されている。
【0024】
静止密封環33の軸方向一方側には、回転密封環16のシール面16aに対向するシール面33aが形成されている。このシール面33aは、径方向に延びる平坦な面である。静止密封環33のシール面33aには、スプリング14により軸方向他方側に押圧される回転密封環16のシール面16aが密着した状態で摺動する。これにより、回転密封環16及び静止密封環33の両シール面16a,33aよりも径方向外側に、被密封流体が密封される機内領域Aが形成される。静止密封環33の軸方向他方側(シール面33aの反対側)には、シール面33aと平行な端面33bが形成されている。端面33bは、径方向全体にわたって平坦に形成されている。
【0025】
<押し当て部材>
図2は、押し当て部材32及び静止密封環33を示す斜視図である。
図2では、便宜上、押し当て部材32及び静止密封環33は、互いに軸方向に離れた状態で示されている。
図1及び
図2において、押し当て部材32は、その軸方向一方側から静止密封環33が押し当てられる部材である。
【0026】
押し当て部材32は、静止密封環33と同心の円環状に形成された板部材からなる。押し当て部材32は、例えばステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、チタン等の加工が容易な材料からなる。押し当て部材32の軸方向他方側の側面320は、その全体がシールケース31の段差面31aに面接触するように、径方向に平坦に形成されている。
【0027】
押し当て部材32の軸方向一方側の側面321には、軸方向他方側に窪む凹溝322が周方向に間隔(
図2では等間隔)をあけて複数形成されている。これら複数の凹溝322は、汎用の工作機械により、押し当て部材32の基材を切削加工することによって形成される。各凹溝322は、押し当て部材32の径方向の幅全体にわたって形成されている。各凹溝322は、軸方向一方側から見て、略台形状に形成されている。各凹溝322は、押し当て部材32の径方向内端から径方向外端へ向かうに従って周方向の溝幅が徐々に大きくなるように形成されている。
【0028】
押し当て部材32は、複数の凹溝322が形成されることで、軸方向一方側に突出する複数の当接部323を有する。すなわち、押し当て部材32は、凹溝322を挟んで周方向に間隔をあけて一体に形成された複数の当接部323を有する。複数の当接部323は、所定数の第1当接部324と、所定数の第2当接部325と、を含む。
【0029】
第1当接部324及び第2当接部325は、同数であり、押し当て部材32の周方向に交互に配置されている。本実施形態の押し当て部材32は、8個の当接部323を有し、4個の第1当接部324及び4個の第2当接部325が、押し当て部材32の周方向に交互に配置されている。
【0030】
第1当接部324は、押し当て部材32の側面321の一部である突出端面324aを有する。同様に、第2当接部325は、押し当て部材32の側面321の他の一部である突出端面325aを有する。
【0031】
押し当て部材32の側面321には、スプリング14により押圧される静止密封環33の端面33bが当接する。第1当接部324の突出端面324aには、静止密封環33の端面33bにおける周方向の一部が当接する。この第1当接部324と周方向に隣接する第2当接部325の突出端面325aには、静止密封環33の端面33bにおける周方向の他の一部が当接する。
【0032】
周方向に隣り合う第1当接部324と第2当接部325との間における凹溝322内には、空間S1が形成されている。つまり、押し当て部材32には、凹溝322と同数(ここでは8個)の空間S1が、周方向に間隔をあけて形成されている。空間S1は、静止密封環33における空間S1に対応する周方向の一部分が、軸方向他方側へ向かって突出するように変形するのを許容している。
【0033】
静止密封環33のシール面33aには、被密封流体の圧力が作用するため、静止密封環33は、シール面33aから端面33bに向かって軸方向他方側に押圧される。静止密封環33が、スプリング14の弾性力および被密封流体の圧力により軸方向他方側へ押圧されると、静止密封環33の端面33bが、押し当て部材32の周方向に隣り合う第1当接部324及び第2当接部325の各突出端面324a,325aに強く押し当てられる。そうすると、静止密封環33における空間S1に対応する一部分が、空間S1内の軸方向他方側へ向かって突出するように変形する。
【0034】
静止密封環33の前記一部分が変形すると、静止密封環33のシール面33aでは、前記一部分に対応する領域C(
図2の二点鎖線で示す領域)が、軸方向他方側へ向かって僅かに窪み、領域C内に凹部33cが形成される。これにより、静止密封環33のシール面33aには、周方向に複数(
図2では8個)の凹部33cが形成される。各凹部33cの軸方向の深さは、数μmである。なお、
図1及び
図2の静止密封環33は、変形前の状態を示している。
【0035】
静止密封環33のシール面33aに形成された各凹部33cには、機内領域Aの被密封流体が入り込む。これにより、回転密封環16及び静止密封環33の両シール面16a,33a間には、被密封流体により潤滑膜が形成され、両シール面16a,33aの潤滑性が確保される。
【0036】
<作用効果>
本実施形態のメカニカルシール1によれば、静止密封環33の軸方向他方側の端面33bは、スプリング14の弾性力および被密封流体の圧力により、押し当て部材32の第1当接部324及び第2当接部325に強く押し当てられる。これにより、静止密封環33の周方向の一部分が、周方向に隣り合う両当接部324,325の間に形成された空間S1内に向かって突出するように変形する。この変形により、静止密封環33のシール面33aにおける前記一部分に対応する領域Cが軸方向他方側に向かって窪むので、領域C内に凹部33cが形成される。したがって、スプリング14の弾性力および被密封流体の圧力を利用することで、静止密封環33のシール面33aに凹部33cが形成されるので、安価なコストで凹部33cを形成することができる。特に、静止密封環33が硬質材料からなる場合、静止密封環33のシール面33aに凹部を加工するのが困難であるため、本実施形態の構成を採用することがより有効となる。
【0037】
第1当接部324及び第2当接部325は、押し当て部材32に一体に形成されてユニット化されている。このため、押し当て部材32をシールケース31の内周に配置するだけで、第1当接部324及び第2当接部325をケーシング72側に取り付けることができる。したがって、メカニカルシール1を容易に組み立てることができる。
【0038】
押し当て部材32は、静止密封環33と同心の円環状に形成されている。これにより、円環状の押し当て部材32における周方向の任意の位置に、第1当接部324及び第2当接部325を形成できるので、静止密封環33のシール面33aにおける周方向の任意の位置に凹部33cを形成することができる。
【0039】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態に係るメカニカルシール1の断面図である。本実施形態のメカニカルシール1は、いわゆる静止型のメカニカルシールである点と、押し当て部材の凹溝の形状が異なる点で、第1実施形態と相違する。本実施形態のメカニカルシール1は、第1実施形態と同様に、回転軸71に一体回転可能に設けられた回転ユニット2と、ケーシング72に設けられた静止ユニット3と、を備える。
【0040】
<回転ユニット>
回転ユニット2は、スリーブ21、押し当て部材22、及び回転密封環23を備える。スリーブ21は、回転軸71の外周に嵌合して固定された円筒状のスリーブ本体21aと、スリーブ本体21aの軸方向一方側の端部から径方向外側に延びる円環部21bと、円環部21bの径方向外端から軸方向他方側に延びる円筒部21cと、を有する。
【0041】
スリーブ21の円筒部21cの内周面における軸方向一方側には、押し当て部材22が嵌合して固定されている。押し当て部材22は、スリーブ21の円環部21bの軸方向他方側に隣接して配置され、かつ回転密封環23の軸方向一方側に隣接して配置されている。押し当て部材22の詳細については後述する。
【0042】
回転密封環23は、円環状に形成され、押し当て部材22の軸方向他方側においてスリーブ21の円筒部21cの内周面に嵌合して固定されている。回転密封環23は、第1実施形態の回転密封環16と同様に、硬質材料からなる。回転密封環23の軸方向他方側には、シール面23aが形成されている。シール面23aは、径方向に延びる平坦な面である。
【0043】
回転密封環23の軸方向一方側(シール面23aの反対側)には、シール面23aと平行な端面23bが形成されている。端面23bは、径方向全体にわたって平坦に形成されている。円筒部21cの内周面と回転密封環23の外周面との間は、Oリング24によりシール(二次シール)されている。
【0044】
<静止ユニット>
静止ユニット3は、シールケース41、リテーナ42、スプリング(弾性部材)43、及び静止密封環44を備える。シールケース41の軸方向一方側の側面は、ケーシング72の軸方向他方側の側面に当接した状態で、ボルト45及びナット46によりケーシング72に固定されている。シールケース41の軸方向一方側の側面とケーシング72の軸方向他方側の側面との間は、Oリング47によりシール(二次シール)されている。
【0045】
シールケース41は、ケーシング72よりも径方向内側に延びる壁部41aと、壁部41aの径方向内端から軸方向一方側に延びる円筒部41bと、を有する。シールケース41の他の構成は、第1実施形態のシールケース31(段差面31aを除く)と同様であるため、説明を省略する。
【0046】
リテーナ42は、円環状に形成され、シールケース41の円筒部41bの外周面に対して軸方向に移動可能に嵌合されている。リテーナ42の内周面と円筒部41bの外周面との間は、Oリング48によりシール(二次シール)されている。
【0047】
リテーナ42とシールケース41の壁部41aとの間には、スプリング43が周方向に間隔をあけて複数(
図3では1つのみ図示)設けられている。スプリング43は、例えば圧縮コイルスプリングである。スプリング43は、その弾性力により、リテーナ42をシールケース41に対して軸方向一方側へ押圧している。
【0048】
静止密封環44は、円環状に形成され、リテーナ42の軸方向一方側の端部に固定されている。静止密封環44は、第1実施形態の静止密封環33と同様に、硬質材料からなる。静止密封環44の軸方向一方側には、回転密封環23のシール面23aに対向するシール面44aが形成されている。このシール面44aは、径方向に延びる平坦な面である。静止密封環44は、スプリング43の弾性力により、リテーナ42を介して軸方向一方側へ押圧されている。これにより、回転密封環23は、スプリング43の弾性力により、リテーナ42及び静止密封環44を介して軸方向一方側へ押圧されている。
【0049】
静止密封環44のシール面44aは、スプリング43により軸方向一方側に押圧されることで、回転密封環23のシール面23aに密着している。回転密封環23のシール面23aは、静止密封環44のシール面44aに密着した状態で摺動する。これにより、回転密封環23及び静止密封環44の両シール面23a,44aよりも径方向外側に、被密封流体が密封される機内領域Aが形成される。
【0050】
<押し当て部材>
図4は、押し当て部材22及び回転密封環23を示す斜視図である。
図4では、便宜上、押し当て部材22及び回転密封環23は、互いに軸方向に離れた状態で示されている。
図3及び
図4において、押し当て部材22は、その軸方向他方側から回転密封環23が押し当てられる部材である。
【0051】
押し当て部材22は、回転密封環23と同心の円環状に形成された板部材からなる。押し当て部材22は、第1実施形態の押し当て部材32と同様に、加工が容易な材料からなる。押し当て部材22の軸方向一方側の側面220は、その全体がスリーブ21の円環部21bにおける軸方向他方側の側面21b1に面接触するように、径方向に平坦に形成されている。
【0052】
押し当て部材22の軸方向他方側の側面221には、軸方向一方側に窪む凹溝222が周方向に間隔(
図4では等間隔)をあけて複数形成されている。これら複数の凹溝222は、汎用の工作機械により、押し当て部材22の基材を切削加工することによって形成される。各凹溝222は、押し当て部材22の径方向途中部から径方向外端まで形成されている。各凹溝222は、軸方向他方側から見て、略U字状に形成されている。各凹溝222は、押し当て部材22の径方向途中部から径方向外端へ向かうに従って周方向の溝幅が徐々に大きくなるように形成されている。
【0053】
押し当て部材22は、複数の凹溝222が形成されることで、軸方向他方側に突出する複数の当接部223を有する。すなわち、押し当て部材22は、凹溝222を挟んで周方向に間隔をあけて一体に形成された複数の当接部223を有する。複数の当接部223は、所定数の第1当接部224と、所定数の第2当接部225と、を含む。
【0054】
第1当接部224及び第2当接部225は、同数であり、押し当て部材22の周方向に交互に配置されている。本実施形態の押し当て部材22は、8個の当接部223を有し、4個の第1当接部224及び4個の第2当接部225が、押し当て部材22の周方向に交互に配置されている。周方向に隣り合う第1当接部224及び第2当接部225は、押し当て部材22における凹溝222よりも径方向内側において、互いに繋がっている。
【0055】
第1当接部224は、押し当て部材22の側面221の一部である突出端面224aを有する。同様に、第2当接部225は、押し当て部材22の側面221の他の一部である突出端面225aを有する。
【0056】
押し当て部材22の側面221には、スプリング43により押圧される回転密封環23の端面23bが当接する。第1当接部224の突出端面224aには、回転密封環23の端面23bにおける周方向の一部が当接する。この第1当接部224と周方向に隣接する第2当接部225の突出端面225aには、回転密封環23の端面23bにおける周方向の他の一部が当接する。
【0057】
周方向に隣り合う第1当接部224と第2当接部225との間における凹溝222内には、空間S2が形成されている。つまり、押し当て部材22には、凹溝222と同数(ここでは8個)の空間S2が、周方向に間隔をあけて形成されている。空間S2は、回転密封環23における空間S2に対応する周方向の一部分が、軸方向一方側へ向かって突出するように変形するのを許容している。
【0058】
回転密封環23のシール面23aには、被密封流体の圧力が作用するため、回転密封環23は、シール面23aから端面23bに向かって軸方向一方側に押圧される。回転密封環23が、スプリング43の弾性力および被密封流体の圧力により軸方向一方側へ押圧されると、回転密封環23の端面23bが、押し当て部材22の周方向に隣り合う第1当接部224及び第2当接部225の各突出端面224a,225aに強く押し当てられる。そうすると、回転密封環23における空間S2に対応する一部分が、空間S2内の軸方向一方側へ向かって突出するように変形する。
【0059】
回転密封環23の前記一部分が変形すると、回転密封環23のシール面23aでは、前記一部分に対応する領域D(
図4の二点鎖線で示す領域)が、軸方向一方側へ向かって僅かに窪み、領域D内に凹部23cが形成される。これにより、回転密封環23のシール面23aには、周方向に複数(
図4では8個)の凹部23cが形成される。各凹部23cの軸方向の深さは、数μmである。なお、
図3及び
図4の回転密封環23は、変形前の状態を示している。
【0060】
回転密封環23のシール面23aに形成された各凹部23cには、機内領域Aの被密封流体が入り込む。これにより、回転密封環23及び静止密封環44の両シール面23a,44a間には、被密封流体により潤滑膜が形成され、両シール面23a,44aの潤滑性が確保される。
【0061】
<作用効果>
本実施形態のメカニカルシール1によれば、回転密封環23の軸方向一方側の端面23bは、スプリング43の弾性力および被密封流体の圧力により、押し当て部材22の第1当接部224及び第2当接部225に強く押し当てられる。これにより、回転密封環23の周方向の一部分が、周方向に隣り合う両当接部224,225の間に形成された空間S2内に向かって突出するように変形する。この変形により、回転密封環23のシール面23aにおける前記一部分に対応する領域Dが軸方向一方側に向かって窪むので、領域D内に凹部23cが形成される。したがって、スプリング43の弾性力および被密封流体の圧力を利用することで、回転密封環23のシール面23aに凹部23cが形成されるので、安価なコストで凹部23cを形成することができる。特に、回転密封環23が硬質材料からなる場合、回転密封環23のシール面23aに凹部を加工するのが困難であるため、本実施形態の構成を採用することがより有効となる。
【0062】
第1当接部224及び第2当接部225は、押し当て部材22に一体に形成されてユニット化されている。このため、押し当て部材22をシールケース41の内周に配置するだけで、第1当接部224及び第2当接部225をケーシング72側に取り付けることができる。したがって、メカニカルシール1を容易に組み立てることができる。
【0063】
押し当て部材22は、回転密封環23と同心の円環状に形成されている。これにより、円環状の押し当て部材22における周方向の任意の位置に、第1当接部224及び第2当接部225を形成できるので、回転密封環23のシール面23aにおける周方向の任意の位置に凹部23cを形成することができる。
【0064】
[その他]
上記各実施形態において、凹部33c,23cが形成される密封環33,23は、硬質材料以外の他の材料により構成されてもよい。上記各実施形態の押し当て部材32,22の形状は、円環状に限定されず、円弧状等の任意の形状であればよい。押し当て部材32,22の凹溝322,222の形状は、上記各実施形態に限定されず、任意の形状であればよい。押し当て部材32,22は、第1当接部324,224及び第2当接部325,225を少なくとも1個ずつ有していればよい。
【0065】
第1実施形態の押し当て部材32を、第2実施形態の押し当て部材22として用いてもよい。その場合、第2実施形態において、回転密封環23の軸方向一方側に押し当て部材32を配置する際に、当接部323が軸方向他方側に突出するように押し当て部材32を配置すればよい。
【0066】
同様に、第2実施形態の押し当て部材22を、第1実施形態の押し当て部材32として用いてもよい。その場合、第1実施形態において、静止密封環33の軸方向他方側に押し当て部材22を配置する際に、当接部223が軸方向一方側に突出するように押し当て部材22を配置すればよい。
【0067】
第1実施形態では、静止密封環33の軸方向他方側に押し当て部材32を配置しているが、押し当て部材32の凹溝322部分をカットし、第1当接部324及び第2当接部325だけを周方向に間隔をあけて配置してもよい。同様に、第2実施形態では、回転密封環23の軸方向一方側に押し当て部材22を配置しているが、押し当て部材22の凹溝222部分をカットし、第1当接部224及び第2当接部225だけを周方向に間隔をあけて配置してもよい。
【0068】
当接部324,224の「第1」という記載と、当接部325,225の「第2」という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いたものである。したがって、前記「第1」及び前記「第2」を逆に用いてもよい。
【0069】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
1 メカニカルシール
14 スプリング(弾性部材)
16 回転密封環
16a シール面
22 押し当て部材
23 回転密封環
23a シール面
23b 端面
23c 凹部
32 押し当て部材
33 静止密封環
33a シール面
33b 端面
33c 凹部
43 スプリング(弾性部材)
44 静止密封環
44a シール面
71 回転軸
72 ケーシング
224 第1当接部
225 第2当接部
324 第1当接部
325 第2当接部
A 機内領域
S1 空間
S2 空間