(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002948
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】酸化物セラミックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/50 20060101AFI20241226BHJP
C01F 17/32 20200101ALI20241226BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C04B35/50
C01F17/32
C01G25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103358
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】506175530
【氏名又は名称】株式会社ワールドラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】池末 明生
【テーマコード(参考)】
4G048
4G076
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
4G076AA02
4G076AA18
4G076AB02
4G076AC06
4G076BA38
4G076CA11
4G076CA23
4G076CA29
4G076DA11
(57)【要約】
【課題】希土類酸化物セラミックス又はジルコニアセラミックスにおいて、より緻密なセラミックスを提供する。
【解決手段】(1)(1-1)原子番号21(Sc)、原子番号39(Y)及び原子番号57(La)~71(Lu)のランタノイド系希土類の少なくとも1種の元素を含む立方晶系酸化物セラミックス又は(1-2)ジルコニウムを含む単斜晶系酸化物セラミックスであって、(2)前記(1-1)又は(1-2)の酸化物セラミックスは、(a)ZnO及びTi酸化物の少なくとも1種:合計50~10000重量ppm(ただし、当該元素として原子番号65(Tb)を含む場合は、Ti酸化物の含有量は1000重量ppm未満である。)及び(b)MgO、CaO及びSrOの少なくとも1種:合計0~0.3重量%を含むことを特徴とする酸化物セラミックスに係る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(1-1)原子番号21(Sc)、原子番号39(Y)及び原子番号57(La)~71(Lu)のランタノイド系希土類の少なくとも1種の元素を含む立方晶系酸化物セラミックス又は(1-2)ジルコニウムを含む単斜晶系酸化物セラミックスであって、
(2)前記(1-1)又は(1-2)の酸化物セラミックスは、
(a)ZnO及びTi酸化物の少なくとも1種:合計50~10000重量ppm(ただし、当該元素として原子番号65(Tb)を含む場合は、Ti酸化物の含有量は1000重量ppm未満である。)及び
(b)MgO、CaO及びSrOの少なくとも1種:合計0~0.3重量%
を含むことを特徴とする酸化物セラミックス。
【請求項2】
相対密度が98%以上である、請求項1に記載の酸化物セラミックス。
【請求項3】
平均結晶粒径が0.3~50μmである、請求項1に記載の酸化物セラミックス。
【請求項4】
前記(1-1)の酸化物セラミックスの厚み2mmのサンプルの当該厚み方向において、波長1μmの光線に対する光学ロスが5%/cm以下である、請求項1に記載の酸化物セラミックス。
【請求項5】
前記(1-1)の酸化物セラミックスの厚み2mmのサンプルの当該厚み方向において、波長1μmの光線に対する消光比が25dB以上である、請求項4に記載の酸化物セラミックス。
【請求項6】
請求項4に記載の酸化物セラミックスを含む光学素子。
【請求項7】
光パッシブ製品又は光アクティブ製品に用いられる、請求項4に記載の光学素子。
【請求項8】
希土類酸化物セラミックスを製造する方法であって、
(1)(a)平均一次粒子径が0.05~3μmの希土類元素含有物質の粉末と、(b)焼結助剤としてZn及びTiの少なくとも1種を含む化合物とを含む原料をアルコール中で湿式混合することにより混合物を得る工程、
(2)前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る工程、
(3)前記圧粉体を温度900~1450℃で予備焼結することにより相対密度91~99.8%の予備焼結体を得る工程、及び
(4)前記予備焼結体を温度1000~1600℃、かつ、圧力98~392MPaにてHIP処理する工程
を含むことを特徴する希土類酸化物セラミックスの製造方法。
【請求項9】
ジルコニアセラミックスを製造する方法であって、
(1)(a)平均一次粒子径が0.02~0.2μmの単斜晶ジルコニアの粉末と、(b)焼結助剤としてZn及びTiの少なくとも1種を含む化合物とを含む原料をアルコール中で湿式混合することにより混合物を得る工程、
(2)前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る工程、及び
(3)前記圧粉体を温度1000~1100℃で焼結することにより相対密度92~99.8%の焼結体を得る工程
を含むことを特徴するジルコニアセラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な酸化物セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物セラミックスを緻密化することは、酸化物セラミックスの透光性、機械的強度(耐摩耗性等)等を高めるうえできわめて重要であることから、これまで各種の製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、希土類酸化物に透明を付与する方法として、2400℃程度以上の高温で目的の酸化物を溶融し、凝固させる方法で単結晶を得る方法が知られている。ところが、例えばY2O3のような希土類酸化物では、2400℃の融点以下の2280℃で斜方晶~立方晶の相転移するため、単結晶化に成功したとしても、相転移による結晶構造の変化及び容積変化が起こり、これにより単結晶内に歪みが入る。このため、最悪の場合はその歪みによる亀裂又は材料の崩壊を伴うことから、透明性のある単結晶を安定的に得ることは事実上不可能である。
【0004】
上記のような単結晶に対し、融点以下の温度で焼結法により多結晶を合成する方法がある。この方法によれば、特にイオン半径の小さなSc、Lu、Y等の酸化物は、斜方晶~立方晶の相転移温度も高いので、緻密かつ透明な希土類酸化物セラミックスを得ることができる。これら希土類酸化物セラミックスの合成に際しては、焼結過程で希土類酸化物粒子どうしの合体による粒成長を防止し、残留気孔の排除を促すために焼結助剤が通常使用されている。
【0005】
Greskovicは、Y2O3に焼結助剤として10%ThO2を添加した材料を水素雰囲気中2170℃で30時間以上焼結することによって透明な希土類酸化物セラミックを合成している(非特許文献1)。この材料は、透過率80%程度に達しているが、オレンジピールと呼ばれるインクリュージョンが大量に検出され、散乱は数%/cmと大きく、光学的不均一状態であるので、複屈折が極めて大きくなるおそれがある。また、レーザー光のようなコヒーレンス光が入射すると、ビームの歪みを生じるおそれもある。
【0006】
その他にも、焼結助剤を用いて希土類酸化物セラミックを合成する方法が提案されている。例えば、J. Zhangらは、Lu2O3に焼結助剤としてZrO2を添加し、1600℃で予備焼結した後、温度1700℃及び圧力196MPaでHIP処理することで透明体を得ている(非特許文献2)。
【0007】
また例えば、池末らは、レーザー活性元素としてNdを添加した透明なY2O3セラミックスを得るために少量のHfO2を添加して1650℃の予備焼結を行い、1700℃でHIP処理する方法を報告している(非特許文献3)。
【0008】
透明なY2O3焼結体を得ることを目的として、少量のBeOを添加し、2150℃以上の高温で焼結させる方法が提案されている(非特許文献4)。
【0009】
また、J. Zhangらによれば、透明なTb2O3-Lu2O3系セラミックスを作製するために少量のZrO2を添加した後、これをHIP処理する方法が提案されている(非特許文献6)。
【0010】
これらの報告にもあるように、これまでの透明な希土類酸化物セラミックスの合成温度は、予備焼結及び高圧焼結も含めて1600℃以上であり、常圧焼結にあっては2000℃付近以上と極めて高温である。
【0011】
ここで、各種希土類イオンのイオン半径と温度に対する安定相の状態図を
図1に示す。イオン半径の小さな酸化物は、立方晶の安定域が広いため、高温での合成(焼結)が可能となる。立方晶の安定域を超える高温で焼結を行えば、焼結体は立方晶→斜方晶となり、冷却過程で斜方晶→立方晶に相転移を繰り返すので、材料中には光学歪(複屈折)又はクラックを引き起こし、たとえ透明な焼結体が得られたとしても実用レベルの光学材料として使用することはできない。この観点において、Tb
2O
3、Dy
2O
3は、ベルデ定数が大きいことから有望なファラデー素子として期待されるものの、それらの相転移温度は約1500~1600℃と低いため、高密度の焼結体を作製することさえ困難である。さらに、イオン半径の大きなGd
2O
3及びEu
2O
3では、相転移温度はそれぞれ1200℃及び1050℃付近であるので、この温度よりも低い温度で緻密な焼結体を作製する技術はなく、また成功した報告も見当たらない。
【0012】
このように、多結晶の希土類酸化物セラミックスの合成においても、特に、相転移温度が比較的低い酸化物においては、光学用途に適した材料を作製することは困難である。
【0013】
それだけでなく、焼結助剤に起因する問題もある。すなわち、残留気孔の除去を目的として焼結助剤を添加しても、その除去効果が不十分でミー散乱を起こし、透過率のベースラインが理論値より低下してしまう。また、ZrO2等の焼結助剤は、希土類酸化物の粒子内部に固溶するが、その一部がインクリュージョンとなって析出又は粒界近傍に偏析してしまう。インクリュージョンの場合はサイズが大きいので残留気孔と同様のミー散乱を起こし、粒界偏析の場合は散乱体サイズがナノレベルとなるのでレイリー散乱を引き起こす。
【0014】
例えば、ZrO2等の焼結助剤を添加して作製されたSc2O3、Y2O3、Lu2O3等の焼結体の透過率については、そのほとんどが試料厚さ僅か数mmであるにもかかわらず、(a)透過率のベースラインが理論透過率より低く、(b)測定波長が短くなるほど透過率が低下する、という現象がみられる。
【0015】
上記(a)に関しては、緻密化を目的とした焼結助剤の効果が十分でないために材料内部に測定波長と同等又は大きなサイズの組織欠陥(主に残留気孔)が残されていることを示唆している。他方、上記(b)に関しては、透過率の波長依存性があることから典型的なレイリー散乱が生じていると考えるのが理論的に妥当であり、粒界近傍に焼結助剤が偏析しているものと推定される。そして、上記(a)又は(b)のいずれか一方又は双方の問題が生じたときは、材料は透明体にはなるものの、実用的な光学材料として応用することは不可能又は限定的となる。
【0016】
ちなみに、これらの焼結助剤の添加量は比較的少なく、粒界近傍に緩やかな分布をもつため、TEM-EDS(Transmission Electron Microscopy - Energy Dispersive Spectroscopy)では検出が困難となり、それゆえにSIMS(Secondary Ion Nass Spectroscopy)分析に頼らなければならない。
【0017】
J. Zhangらは、希土類酸化物セラミックスの合成に際してZrO2を焼結助剤とした試料の透過スペクトルを示しているが、厚さ5mm程度のサンプルで測定波長が短くなるにつれて透過率が低下している。これは、ZrO2の粒界偏析で材料内部でレイリー散乱が引き起こされていることを意味している。ZrO2を焼結助剤とした材料のほとんどがこの透過スペクトルパターンを示し、未だに良質の光学材料は開発されていない。
【0018】
池末らは、透明なY2O3-Tb2O3セラミックスを作製する目的で少量のZrO2を添加し、1500~1700℃の温度範囲で予備焼結とHIP処理をすることで高品質の焼結体を得ている(非特許文献7)。しかし、ベルデ定数が最大値を示すTb2O3を作製する温度は1500℃以上であり、この温度は相転移点を超えているので材料内部に歪みを生じていると考えられる。また、得られた焼結体の微構造がTEM-EDSにて観察されているが、Zrの粒界偏析をTEM-EDSで検出することは困難である。
【0019】
これに関し、本発明者は、同組成の材料を再現し、粒界をSIMSで分析したが、Zrの粒界偏析があることを確認している。このことは、ZrO2、HfO2等の焼結助剤を利用する限り、粒界部の粒内の屈折率差から光散乱(レイリー散乱)が引き起こされるので粒界散乱を避けることはできていないことから、なお根本的な技術改良の必要性を示唆している。
【0020】
このような焼結助剤による粒界散乱を避けるために、焼結助剤を添加せずに高密度の希土類酸化物セラミックスを合成する方法がある。ところが、この場合でも焼結温度は1600℃程度では不十分な光学特性(厚さ1mm程度、可視域では僅か30%程度以下の透過率)となるので、2000℃又はそれ以上の温度で長時間の焼結が必要となる。その結果、得られた材料の光学特性は非常に低く、実用レベルとは程遠いのが現実である。
【0021】
例えば、焼結助剤を添加しない透明Y2O3焼結体の作製にあたり、ナノサイズの特別な粉末を合成し、低温焼結を試みた事例がある(非特許文献5)。しかし、この焼結体においても、試料厚さが1mmと薄い場合でも可視域~近赤外域の透過率は10~0%程度に留まっている。焼結助剤を添加しない場合は、焼結途上でY2O3の粒成長が促進され、粒成長と残留気孔の移動速度がマッチングしなくなるため、粒子内部に気孔がトラップされ、著しい散乱が引き起こされてしまう。遷移金属元素は、Sc,Y、ランタニド希土類元素よりイオン半径が小さく、たとえ焼結助剤に適用したとしても固溶しない(つまり、遷移金属元素は、Sc,Y, ランタニド希土類元素に置換できない)ものと考えられてきたため、遷移金属元素が添加された高品質な透明性希土類酸化物セラミックスを作製した例は皆無といえる。
【0022】
このように、従来技術では、低温合成を実現するためには、出発原料の粒子サイズを小さく、例えばミクロンからナノサイズに変える、いわゆるサイズ効果により粒子間の実質的な物質移動を少なくする設計がなされている。ところが、粒子サイズを小さくすると、粒子間の反発力が強くなり、成形時のパッキング低下等の影響により実質的な低温化はそれほど期待できない。
【0023】
特に、希土類酸化物は難焼結性であるため、焼結助剤なしでは高密度化又は透光化が困難とされている。それゆえに、高密度化すべく前述したSr、Zr、Hr等の酸化物を焼結助剤として使用されているが、これらの元素が最終的に希土類酸化物中のカチオンと置換し、粒界に析出しないような配慮がなされている。すなわち、希土類元素との価数が異なることにより材料内での物質移動が促進でき、粒界析出しないと考えられるイオン半径の近い元素が選択されている。
【0024】
ところが、既述の通り、実際はSrOを添加しても希土類酸化物セラミックを高温焼成したときの粒成長は抑制できないため、粒子内部に気孔が残り著しいミー散乱が発生するセラミックスしか報告されていない。
【0025】
ZrO2又はHfO2を添加するとSrのような高温焼成時の粒成長を防止できるので、Srより透過率の高いセラミックスが合成できる。例えば、Y2O3-ZrO2系の状態図を見るとY2O3へのZrO2の固溶範囲は大きいいので、セラミック合成においても一般論としてZrO2はY2O3粒子へ均一に固溶するものと考えられる。しかし、SIMSを使って分析すると、ZrO2を添加したY2O3セラミックスを構成する個々のY2O3粒子の粒界近傍にはZrが偏析している。合成条件によりZrの偏析状態が異なるので、材料の透過スペクトルも異なる。典型的な例として非特許文献6,7であるが、同程度のZrを類似材料に添加した場合、非特許文献6は透過率の波長依存性が顕著(すなわち、測定波長が短波長になるにつれて透過率が低下する、いわゆる典型的なレイリー散乱を生じた状態)であるのに対し、非特許文献7は粒界散乱の少ない光学品質である。これは粒界のZr偏析の制御技術の違いであるが、いかにコントロールを施してもZrの偏析は避けられない。
【0026】
これまで遷移金属元素のイオン半径は希土類元素(Scを除く)のそれとは異なるので、遷移金属元素は希土類元素の焼結助剤と考え難かった。事実、周期律表の原子番号22(Ti)~29(Cu)の酸化物を希土類酸化物セラミックスの焼結助剤として添加した場合、密度上昇は見られるものの、着色と粒界偏析が生じる。
【0027】
他方、ジルコニア(ZrO2)も、より高い機能を付与するためには緻密化が不可欠とされている。ところが、ジルコニアは、950~1100℃付近に単斜晶~正方晶の相転移があるため、緻密な焼結体を得ることはほどんど不可能な状況にある。焼結温度が1100℃を超えると、相転移に伴う容積変化(4%の体積膨張)を伴うため、焼結体に亀裂が発生するだけでなく、多くの場合は崩壊に至る。
【0028】
この課題に対し、ジルコニア原料を510MPaの高圧でCIP(Cold Isostatic Press)にて処理することで強引に初期密度を向上させる方法が提案されている(非特許文献8)。ところが、1100℃程度で焼結させて緻密な焼結体を得ることは非常に困難であり、これまで非常に小さな試料(0.8cm3程度)で相対密度90%程度を確保した例が最高の結果である。また、ジルコニア焼結体の一部は、単斜晶以外の結晶相も混在するという問題点もある。焼結密度が高い単斜晶ジルコニアセラミックスの合成例が存在しないことから、この材料の物性は詳細に調べることができず、それゆえに上記材料の明確な応用方法も確立されていないのが現状である。
【0029】
ZrO2にY2O3等の安定化剤を添加していくと、単斜晶→正方晶→立方晶へと結晶相が変化し、焼結温度の制限もなくなる。ジルコニア正方晶材料では高強度・高靭性を有するエンジニアリング材料、例えば耐摩耗性が高い粉砕用ボール、ベアリング等への応用、ジルコニア立方晶材料では固体電解質等の機能材料としてSOFC(Solid Oxide Fuel Cell)としての応用がある。これらの応用例は、それらの合成自体が可能となり、物性の解明が行われたからである。
【0030】
これに対し、単斜晶ジルコニアは、上記のように比較的低温で相転移が起こるために実質的に合成が不可能な状況にあることから、本材料の応用は未だ確立されていない。もし本材料の合成が可能となり、物性の解明も進めば、既存市場にはない新たな応用も生まれる可能性を秘めている。
【0031】
このように、従来技術では、酸化物セラミックスの緻密化に限界があるのが現状である。このため、多結晶体である希土類酸化物セラミックスにおいて、特に光学用途として高品質な材料が要請されているものの、未だそのような材料の開発に至っていないのが現状である。同様の理由から、より高密度の単斜晶ジルコニアセラミックスの開発にも至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】C. Greskovich, K. Woods, "Fabrication of Transparent ThO2-doped Y2O3", Ceramic Bulletin, 52 [5] 473-8 (1973).
【非特許文献2】Edited By A. Ikesue, ”Processing of Ceramics“, pp.46, Wiley (Am. Ceram. Soc. (ISBN: 9781119538707 (2021).
【非特許文献3】A. Ikesue、K. Kamata, K. Yoshida, "Synthesis of Transparent Nd-doped HfO2-Y2O3 Ceramics using HIP", J. Am. Ceram. Soc., 79[2] 359-64 (1996).
【非特許文献4】戸田堯三、松山巌, "透明Y2O3の焼結に及ぼすBeOの影響", 粉体及び粉末冶金, 35巻第6号, 486-91(1988).
【非特許文献5】N. Saito, S. Matsuda, T. Ikegami, "Fabrication of Transparent Yittria Ceramics at Low Temperature using Carbonate-Derived Powder", J. Am. Ceram. Soc., 81 [8] 2023-28 (1998).
【非特許文献6】J. Zhang, H. Chen, J. Wang, D. Wang, S. Wang, "Preparation of (Tb1-xLux)2O3 Transparent Ceramics by Solid Solution for Magneto-Opticadoi:10.3390/mal Application", J. Eur. Ceram. Soc., 41, 2818- 25 (2021).
【非特許文献7】A. Ikesue, Y. L. Aung, S. Makikawa, A. Yahagi, "Total Performance of Magneto-Optical Ceramics with a Bixbyite Structure", Materials, 12,421; doi:10.3390/ma1230421 (2019).
【非特許文献8】J. Eichler, U. Eisele, J. Rodel, "Mechanical Properties of Monoclinic Zirconia ", J. Am. Ceram. Soc., 87 [7] 1401- 03(2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
従って、本発明の主な目的は、希土類酸化物セラミックス又はジルコニアセラミックスにおいて、より緻密なセラミックスを提供することにある。特に、本発明は、より優れた光学的特性も備えた希土類酸化物セラミックスを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成及び構造を有する酸化物セラミックスが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0035】
すなわち、本発明は、下記に示す酸化物セラミックス及びその製造方法に係る。
1. (1)(1-1)原子番号21(Sc)、原子番号39(Y)及び原子番号57(La)~71(Lu)のランタノイド系希土類の少なくとも1種の元素を含む立方晶系酸化物セラミックス又は(1-2)ジルコニウムを含む単斜晶系酸化物セラミックスであって、
(2)前記(1-1)又は(1-2)の酸化物セラミックスは、
(a)ZnO及びTi酸化物の少なくとも1種:合計50~10000重量ppm(ただし、当該元素として原子番号65(Tb)を含む場合は、Ti酸化物の含有量は1000重量ppm未満である。)及び
(b)MgO、CaO及びSrOの少なくとも1種:合計0~0.3重量%
を含むことを特徴とする酸化物セラミックス。
2. 相対密度が98%以上である、前記項1に記載の酸化物セラミックス。
3. 平均結晶粒径が0.3~50μmである、前記項1に記載の酸化物セラミックス。
4. 前記(1-1)の酸化物セラミックスの厚み2mmのサンプルの当該厚み方向において、波長1μmの光線に対する光学ロスが5%/cm以下である、前記項1に記載の酸化物セラミックス。
5. 前記(1-1)の酸化物セラミックスの厚み2mmのサンプルの当該厚み方向において、波長1μmの光線に対する消光比が25dB以上である、前記項4に記載の酸化物セラミックス。
6. 前記項4に記載の酸化物セラミックスを含む光学素子。
7. 光パッシブ製品又は光アクティブ製品に用いられる、前記項4に記載の光学素子。
8. 希土類酸化物セラミックスを製造する方法であって、
(1)(a)平均一次粒子径が0.05~3μmの希土類元素含有物質の粉末と、(b)焼結助剤としてZn及びTiの少なくとも1種を含む化合物とを含む原料をアルコール中で湿式混合することにより混合物を得る工程、
(2)前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る工程、
(3)前記圧粉体を温度900~1450℃で予備焼結することにより相対密度91~99.8%の予備焼結体を得る工程、及び
(4)前記予備焼結体を温度1000~1600℃、かつ、圧力98~392MPaにてHIP処理する工程
を含むことを特徴する希土類酸化物セラミックスの製造方法。
9. ジルコニアセラミックスを製造する方法であって、
(1)(a)平均一次粒子径が0.02~0.2μmの単斜晶ジルコニアの粉末と、(b)焼結助剤としてZn及びTiの少なくとも1種を含む化合物とを含む原料をアルコール中で湿式混合することにより混合物を得る工程、
(2)前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る工程、及び
(3)前記圧粉体を温度1000~1100℃で焼結することにより相対密度92~99.8%の焼結体を得る工程
を含むことを特徴するジルコニアセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、より緻密な酸化物セラミックスを提供することができる。特に、本発明では、より優れた光学的特性も備えた希土類酸化物セラミックスを提供することが可能である。
【0037】
本発明では、特に、焼結助剤として特定量のZnO及び/又はTi酸化物を含有させているので、より緻密であるがゆえに、極めて良好な光学品質の希土類酸化物セラミックスを提供することができる。さらには、合成手段が確立されていないために詳細な物性は不明な高密度の単斜晶ジルコニアセラミックスを提供することもできる。しかも、これまでの焼結助剤では考えられないような低温領域での合成ができる。その結果、これまで相転移の問題で合成が極めて困難であった立方晶構造のDy、Tb、Gd、Eu等の酸化物の透明体の作製も実現することが可能となる。
【0038】
これまで希土類酸化物セラミックスの緻密化又は透明化にZn又はTiの遷移金属の酸化物が有効であるという報告がなされていない。Zn2+とTi4+のイオン半径は、それぞれ0.74及び0.68Åであり、希土類イオンの代表であるY3+及びLu3+のイオン半径0.90及び0.86Åに比べて小さすぎるので、格子置換が困難になると考えられる。それゆえに、焼結助剤としてZnO又はTiO2を添加しても、これら焼結助剤は粒界に顕著に析出するおそれがあり、これらが添加された希土類酸化物セラミックスは光学性能として不十分なものになると予測される。
【0039】
結晶を構成する格子中の特定イオンに対して安定的に置換できるイオンサイズの差異は±10%程度と言われている。例えばY3+のイオン半径は0.90Åであるので、せいぜいイオン半径0.99~0.81Åのイオンしか置換できないことになる。前述の通り、Zn2+又はTi4+のイオン半径は小さすぎるので、これらの酸化物は透明な希土類酸化物セラミックスを合成する焼結助剤として対象外と考えるのがこれまでの技術常識とされている。これに対し、そのような技術常識はあくまでも熱力学的な観点(平衡論)からの考察であって、材料合成の低温化(非平衡)では状況が異なるという本発明者による知見ないしは発想が本発明の出発点でもある。
【0040】
そして、前記のような知見を起点として、本発明ではZn+等を希土類酸化物セラミックスあるいはジルコニアセラミックスの添加剤として有効に利用できるという、これまでの常識では考えられない結果を導き出している。特に、前記「安定的に固溶できるイオンサイズの差異が±10%程度」であるという点につき、“安定”とは大幅な固溶範囲をもつという意味であり、焼結助剤は少量添加で光学的に問題がなければ差し支えないので、このコンセプトを本発明に適用・導入したことがこれまでと異なる特徴である。
【0041】
前記の通り、焼結体の低温合成(低温焼結)は、合成に消費するエネルギーを低減し、合成のための装置も安価なものにするだけにとどまらず、光学品質を向上させるうえでも有効であるが、より低温でも品質の高い希土類酸化物の焼結体を得るためにはさらなる改良が必要である。
【0042】
例えば、一次粒子径0.1μmの市販Y2O3原料を用い、(a)焼結助剤が無添加の場合、(b)1%ZrO2を添加した場合において、99%の相対密度を得るには前記(a)が1650℃、前記(b)は1700℃が必要となる。これに対し、本発明のように、0.1%ZnOを添加した場合は1150℃、0.1%TiO2添加でも1300℃で同じ密度の焼結体が得られる。これまでのZr,Hf等の酸化物を焼結助剤として添加した場合でも透光性又は透明体は得られるものの、局所的に異相、粒界相又は粒界近傍の焼結助剤成分の偏析を生じるために光学材料としての問題点も存在することから、一般的な単結晶に類比する光学特性としては不十分である。
【0043】
本発明の添加剤を使用し、適切な条件で材料合成が行われた場合、異相又は粒界相も実質的に存在しないため、光学品質は極めて良好となる。予備焼結とHIP(Hot Isostatic Press)を用いれば、予備焼結に高温は不要となり、900~1450℃程度という比較的低温下で相対密度91%以上の焼結体を得ることができ、HIP処理温度も900~1600℃(例えば1200~1400℃程度)の範囲で透明化できる画期的な低温合成プロセスとなる。しかも、タングステン等の発熱体を使った真空焼結装置も必須ではなく、大気圧下又は酸素雰囲気下でSiC発熱体、MoSi発熱体等を使用した安価な焼結炉での合成も可能となる。
【0044】
例えば、原子番号65であるTbの酸化物(Tb2O3)はベルデ定数が大きいので小型高性能アイソレーターを開発する上で重要なファラデー素子に応用できる。しかし、その相転移点が約1400℃であるのでその温度以下での低温合成が不可欠である。本材料にZrO2等を添加し、1500~1600℃の高温で高密度かつ光学グレードのセラミック合成例はあるものの、相転移点を超えてしまうため、光学的な問題を残しているが、本発明によりその問題を解消することができる。また例えば、Gd2O3、Eu2O3等は、さらに相転移温度が低いため、さらなる低温合成が必要とされるが、これらについても本発明によって実現可能となっている。
【0045】
さらに、原子番号58(Ce)~62(Sm)の酸化物は、さらなる低温合成を要求されるので、本発明を用いても原子番号58~62の酸化物単体又は2種以上の組み合わせからなる複酸化物(複合酸化物、混合酸化物)については、Sc,Y及び原子番号63~71から選ばれた1種以上の酸化物又は複酸化物と原子番号58~62の酸化物を組み合わせた組成の複酸化物のセラミックスを合成することは可能となる。
【0046】
以上のように、緻密かつ透明な希土類酸化物セラミックスの低温合成を基本とする本発明によれば、より高い透明度を有する、すなわち散乱が小さく、均一性の高い材料の提供が可能となる。このことは低温で高品質の材料合成は可能となるほか、相転移の存在のために合成できないとされていた物質の合成も可能となる。
【0047】
一方、ジルコニアにおいても、本発明によって、これまでのジルコニアセラミックスよりも緻密なジルコニアセラミックス(特に単斜晶ジルコニア)を提供することが可能となる。一般に、ジルコニアは、相転移により1100℃以下の焼成温度では高密度の焼結体を合成することは不可能とされていたところ、本発明では1100℃以下という比較的低い温度でも合成可能となり、特に加圧焼結法(HIP)の導入によって相対密度99%以上の緻密質のジルコニア焼結体の合成も可能となる。このような本発明のジルコニアセラミックス(特に単斜晶ジルコニア)は、これまでにない緻密な材料であることから、これまでのジルコニアの用途に加え、さらなる用途の拡大を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】各種の希土類元素のイオン半径と温度に対する安定相の状態図である。
【
図2】1000重量ppmのZnOを添加したY
2O
3セラミックス(t=11mm)の透過スペクトルを示す。
【
図3】150重量ppmのZnO、1200重量ppmのTiO
2をそれぞれ添加したY
2O
3焼結体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である
【
図4】150重量ppmのZnO、1200重量ppmのTiO
2を添加したY
2O
3焼結体の透過偏光顕微鏡写真である。(a-1)(a-2)は偏光板1枚で偏光モード、(b-1)(b-2)は偏光板2枚をクロスさせた状態での撮影である。
【
図5】2000重量ppmのTiO
2及び1000重量ppmのCaOを添加したY
2O
3セラミックス(t=1及び11mm)とY
2O
3単結晶(t=1mm)の透過スペクトルを示す。
【
図6】540重量ppmのZnOを添加し、HIP処理したY
2O
3焼結体(直径6インチ、厚さ10mm)越しに景色を透視した図である。
【
図7】一次粒子径0.05μmの単斜晶ジルコニア粉末に0.8wt%のZnOを添加した単斜晶構造を有する相対密度99.9%ジルコニアセラミックスにおいて外観上の透光性を示す。
【
図8】
図7のセラミックスにおいて、単斜晶ジルコニアのピークを発現するXRD(X-ray Diffraction Pattern)を示す。
【
図9】
図7のセラミックスのSEMによる微構造写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
1.酸化物セラミックス
本発明の酸化物セラミックス(本発明セラミックス)は、(1)(1-1)原子番号21(Sc)、原子番号39(Y)及び原子番号57(La)~71(Lu)のランタノイド系希土類の少なくとも1種の元素を含む立方晶系酸化物セラミックス又は(1-2)ジルコニウムを含む単斜晶系酸化物セラミックスであって、
(2)前記(1-1)又は(1-2)の酸化物セラミックスは、
(a)ZnO及びTi酸化物の少なくとも1種:50~10000重量ppm(ただし、当該元素として原子番号65(Tb)を含む場合は、Ti酸化物の含有量は1000重量ppm未満である。)及び
(b)MgO、CaO及びSrOの少なくとも1種:0~0.3重量%
を含むことを特徴とする。
【0050】
なお、以下においては、ZnO及びTi酸化物の少なくとも1種を「第1添加剤」とし、MgO、CaO及びSrOの少なくとも1種を「第2添加剤」とし、第1添加剤と第2添加剤とをまとめて「添加剤」と総称することもある。
【0051】
本発明セラミックスは、上記のように、第1添加剤及び必要に応じて第2添加剤を含む酸化物セラミックスであるが、その主要構成元素の種類に応じて、前記(1-1)立方晶系酸化物セラミックス(第1発明)と(1-2)単斜晶系酸化物セラミックスセラミックス(第2発明)に大別できる。以下においては、便宜上、第1発明と第2発明とを分けて説明する。
【0052】
(A)第1発明(以下「希土類酸化物セラミックス」という。)
本発明の希土類酸化物セラミックスは、原子番号21(Sc)、39(Y)及び原子番号57(La)~71(Lu)の少なくとも1種の希土類酸化物の多結晶(特に立方晶構造を有する多結晶)を主要な構成成分とする。
【0053】
第1発明の希土類酸化物セラミックスの組成としては、希土類酸化物と添加剤との合計が99.9重量%以上であることが好ましい。従って、前記合計が100重量%である場合も本発明に包含される。なお、本発明の効果を妨げない範囲内において、その他の物質が0.1重量%以下の範囲内で含有することは許容される。
【0054】
第1発明の希土類酸化物セラミックスは、第1添加剤として、ZnO及びTi酸化物の少なくとも1種を合計で50~10000重量ppmの範囲で含み、好ましくは50~5000重量ppmの範囲(ただし、前記の元素として原子番号65(Tb)を含む場合は、Ti酸化物の含有量は1000重量ppm未満である。)で含む。第1添加剤の添加により、焼結温度は低下し、低温合成が可能となるばかりでなく、適正な合成条件によって透明度の高い希土類酸化物セラミックス(焼結体)を得ることができる。
【0055】
ZnO及びTi酸化物(粉末)は、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。Ti酸化物は、その価数は限定されず、従ってTiO2、TiO、T2O3等のいずれも使用することができる。
【0056】
第1添加剤の含有量は、上記の通り、ZnO及びTi酸化物の合計量で50~5000重量ppmとすることが好ましい。ただし、前記の元素として、原子番号65(Tb)を含む場合は、Ti酸化物の含有量は1000重量ppm未満とし、好ましくは900重量ppm以下とする。
【0057】
特に、本発明では、(a)ZnOを含み、Ti酸化物を含まない場合は、その含有量は50~2000重量ppmとし、(b)Ti酸化物を含み、ZnOを含まない場合は、その含有量は100~5000重量ppmとし、(c)ZnOとTi酸化物の双方を含む場合は、その合計含有量を50~5000重量ppmとすることが望ましい。第1添加剤が少なすぎると、希土類酸化物セラミックスの緻密化が困難となるため、焼結温度が上昇するばかりでなく、透光性の焼結体が得られにくい。また、第1添加剤が多すぎると、ZnOの場合は異常粒成長が起こるので緻密化しても粒子が大きく機械的強度も弱く、光学的性能も極端に低下する。Ti酸化物の場合は多すぎれば、Tiを含む複酸化物の粒界析出が顕著となり、光学性能は極端に低下する。
【0058】
特に、原子番号22(Ti)~30(Zn)の酸化物を希土類酸化物に対する添加剤として添加した場合、ほとんどの場合で着色及び粒界へ添加物の析出が確認され、無色かつ透明な希土類酸化物セラミックスを得ることは困難である。これに対し、TiとZnに限り適正量を添加した場合は、950℃の低温でも相対密度98%以上の焼結体が得られ、相対密度が91%以上に達した焼結体を圧力49~392MPa及び温度1000~1600℃でHIP処理することで透光性を付与することができる。また、ZnOとTiO2は、それぞれ単独添加だけではなく、両者を添加しても差し支えない。ZnO単独添加の場合は50~2000重量ppm、TiO2単独添加の場合は100~5000重量ppm、共添加の場合は50~5000重量ppmの範囲であれば、比較的容易に高密度かつ透光性の希土類酸化物セラミックスが得られる。ZnO又はTiO2はそれぞれ単独添加又は共添加でも良い、さらに後記に示す第2添加剤をZnO又はTiO2と共に添加しても差し支えなく、条件によっては第1添加剤とともに第2添加剤を添加すると微構造がさらに改善され、極めて散乱の少ない希土類酸化物セラミックスを作製することができる。
【0059】
第1発明の希土類酸化物セラミックスでは、必要に応じて、第2添加剤として、MgO、CaO及びSrOの少なくとも1種を0~0.3重量%の範囲内で含有させることもできる。第2添加剤を第1添加剤と併用することで、さらに透明度の高い(散乱係数の小さな)焼結体を得ることも可能となる。
【0060】
第1発明の希土類酸化物セラミックスは、多結晶体であるところ、その平均結晶粒径は通常1~50μm程度であることが望ましい。このような平均結晶粒径の範囲内に設定することで、より優れた光学特性を得ることができる。
【0061】
第1発明の希土類酸化物セラミックスにおける相対密度は、例えば用途、所望の光学特性等に応じて適宜選択することができるが、通常は98%以上であることが好ましい。特に、本発明セラミックスを光学用途として用いる場合は、相対密度は99.9%以上であることが好ましく、特に99.99%以上であることがより好ましい。さらに、用途がレーザー、アイソレーター等である場合は、相対密度99.9999%以上であることが最も好ましい。
【0062】
第1発明の希土類酸化物セラミックスでは、光学ロスが小さいことが好ましい。例えば、波長633nmで10%/cm以下であることが好ましい。また、近赤外の波長1μmでは5%/cm以下であることが好ましい。
【0063】
第1発明の希土類酸化物セラミックスは、透光性を有するものであり、特に厚さ2mmの本発明セラミックスのサンプルにおいて、波長1μmにおける消光比が25dB以上であることが好ましい。このような物性を有することにより、赤外線領域でもウインドー等の光学材料として応用することができる。これにより、単純な透過機能が必要とされるウインドー応用に対しても歪みがなく、鮮明な画像を得ることができる。本発明セラミックスのように立方晶構造であれば理論的に複屈折の存在がなく、消光比は非常に高い値を示すはずであるが、既存の立方晶構造の一般的な単結晶又は多結晶セラミックスにおいても複屈折が存在するため、消光比が高くない例が少なくはない。本発明の応用分野の一つであるレーザー又はアイソレーター用途では消光比が重要であるが、上記のように25dB以上、さらには35dBもしくは40dB以上の消光機能を発揮することができる。なお、高い透光性が要求されない用途に本発明セラミックスを用いる場合は、必ずしも上記消光比を備えている必要はない。
【0064】
(B)第2発明(以下「ジルコニアセラミックス」という。)
本発明のジルコニアセラミックスは、ジルコニア(ZrO2)を含む多結晶(特に単斜晶構造を有する多結晶)を主要な構成成分とする。
【0065】
第2発明のジルコニアセラミックスの組成としては、ジルコニア、その原料由来のHfO2及び添加剤との合計が99.8重量%以上であることが好ましい。従って、前記合計が100重量%である場合も本発明に包含される。なお、本発明の効果を妨げない範囲内において、その他の物質が0.2重量%以下の範囲内で含有することは許容される。なお、一般的には、ジルコニアセラミックスは光学応用されることはないので、本発明の効果を妨げない範囲内で添加剤の粒界偏析は許容される。
【0066】
第2発明のジルコニアセラミックスは、第1添加剤として、ZnO及びTi酸化物の少なくとも1種を合計で50~10000重量ppmの範囲で含み、好ましくは2000~10000重量ppmの範囲で含む。第1添加剤の添加により、焼結温度は低下し、低温合成が可能となるばかりでなく、適正な合成条件によって、より緻密なジルコニアセラミックスを得ることができる。
【0067】
ZnO及びTi酸化物(粉末)は、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。Ti酸化物は、その価数は限定されず、従ってTiO2、TiO、T2O3等のいずれも使用することができる。
【0068】
第1添加剤の含有量は、上記の通り、ZnO及びTi酸化物の合計量で2000~10000重量ppmとすることが望ましい。第1添加剤が少なすぎると、ジルコニアセラミックスの緻密化が困難となるほか、焼結温度が上昇するため、焼結後のセラミックスは多数のクラックの発生又は崩壊も生じるおそれがある。また、第1添加剤が多すぎると、ZnOの場合は粒界近傍に第二相(粒界相)の形成が顕著となり、XRD分析でも検出可能とな状態となるため、特性上何らかの問題が発生するおそれがある。
【0069】
第2発明のジルコニアセラミックスでは、必要に応じて、第2添加剤として、MgO、CaO及びSrOの少なくとも1種を0~0.3重量%の範囲内とし、特に0~0.1重量%とすることが好ましい。本発明のジルコニアセラミックスにおいては、第1添加剤及び第2添加剤ともに、第二相の形成あるいは過度な粒成長を避けるためにできるだけ少量とすることが好ましい。かかる観点から、特に第2添加剤については、実質的に0重量%とすることが最も好ましい。
【0070】
第2発明のジルコニアセラミックスは多結晶体であるところ、その平均結晶粒径は通常0.3~5μm程度であることが望ましい。これによって、より緻密な構造をもつジルコニアセラミックスを構成することができる。
【0071】
また、第2発明に係るジルコニアセラミックスの相対密度は、例えば用途、所望の光学特性等に応じて適宜選択することができるが、一般的に工業化されるセラミックスのほとんどは98%以上であるので、特に98%以上であることが好ましい。本材料は、結晶構造が単斜晶であるため、光学応用の可能性は非常に低いが、相対密度は99.99%程度まで実現することができる。
【0072】
2.酸化物セラミックスの製造方法
本発明の酸化物セラミックスは、例えば下記の製造方法より好適に製造することができる。以下においては、第1発明と第2発明の好ましい製造方法をそれぞれ説明する。
【0073】
(A)第1発明の製造方法
第1発明に係る希土類酸化物セラミックスは、下記の製造方法より好適に製造することができる。すなわち、希土類酸化物セラミックスを製造する方法であって、
(1)(a)平均一次粒子径が0.05~3μmの希土類元素含有物質の粉末と、(b)Zn及びTiの少なくとも1種を含む化合物とを含む原料をアルコール中で湿式混合することにより混合物を得る工程、
(2)前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る工程、
(3)前記圧粉体を温度900~1450℃で予備焼結することにより相対密度91~99.8%の予備焼結体を得る工程、及び
(4)前記予備焼結体を温度1000~1600℃、かつ、圧力98~392MPaにてHIP処理する工程
を含むことを特徴する製造方法によって、本発明の希土類酸化物セラミックスを好適に製造することができる。
【0074】
混合工程
混合工程では、(a)平均一次粒子径が0.05~3μmの希土類元素含有物質の粉末と、(b)Zn及びTiの少なくとも1種を含む化合物とを含む原料をアルコール中で湿式混合することにより混合物を得る。
【0075】
希土類元素含有物質としては、原子番号21(Sc)、原子番号39(Y)及び原子番号57(La)~71(Lu)のランタノイド系希土類の少なくとも1種の元素を含む物質であれば良い。通常は、前記物質として希土類酸化物を好適に用いることができるが、最終的に酸化物となるものであればこれに限定されず、例えば炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩等の希土類化合物を用いることもできる。上記物質の純度は、本発明の効果を妨げない限りは制限されないが、通常は99.9%以上であることが好ましい。これらの物質は、公知又は市販のものを使用することができる。
【0076】
希土類元素含有物質は、平均一次粒子径が0.05~3μm(好ましくは0.05~1μm)の粉末の形態で用いられる。このような範囲内に設定することによって、より緻密な焼結体を得ることができる。
【0077】
混合工程では、添加剤としてZn及びTiの少なくとも1種を含む化合物を用いる。これらは、第1添加剤の供給源となるものである。従って、上記化合物としては、HIP処理等を経由して最終的に酸化物になっていれば良く、酸化物のほか、例えば水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、アルコキシド、アセチルアセトネート等の化合物を用いることもできる。より具体的には、Zn(OH)2、Ti(OH)4、ZnCl2、TiOCl2等の無機化合物、Zn又はTiのアルコキシド、アセチルアセトネート等の有機化合物が挙げられる。
【0078】
好ましい実施形態として、本発明では、第1添加剤として、(b1)前記希土類酸化物粉末の平均一次粒子径と同等又はそれ以下の平均一次粒子径を有するZn酸化物又はTi酸化物粉末、(b2)有機Zn化合物又は有機Ti化合物、及び(b3)Zn塩又はTi塩の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0079】
上記(b1)としては、例えば平均一次粒子径が1μm以下(好ましくは0.5μm以下)のZnO粉末、TiO2粉末等が挙げられる。
【0080】
上記(b2)としては、例えばZnTiアルコキシド化合物、Znアセチルアセトネート化合物、Zn,Tiの有機酸塩等が挙げられる。より具体的には、テトラ-n-ブトキシ(Zn,Ti)、(Zn,Ti)プロポキシド、(Zn,Ti)ブトキシド、亜鉛アセチルアセトネート、チタニルアセチルアセトネート等が例示される。
【0081】
上記(b3)としては、例えばZnCl2、TiOCl2、Zn(NO3)2、TiO(NO3)2・2H2O、TiO(CH3COO)2)等が挙げられる。
【0082】
希土類酸化物出発原料とZn及びTi酸化物供給源との混合比率は、最終的に得られる本発明セラミックス中におけるZn及びTi酸化物含有量が前記で説明した含有量となるように調整すれば良い。従って、ZnO単独添加の場合は50~2000重量ppm、Ti酸化物単独添加の場合は100~5000重量ppmとなるように調整することが好ましい。また、ZnとTi酸化物を併用する場合は、合計量で50~5000重量ppmとなるように調整することが好ましい。
【0083】
また、本発明では、本発明セラミックスに第2添加剤も含有させる場合、必要に応じて第2添加剤の供給源となる物質を原料に含有させることもできる。すなわち、Mg、Ca及びSrの少なくとも1種を含む化合物を上記原料に配合することもできる。これを添加することによって、得られる焼結体の微構造の改善、ひいては光学特性をさらに向上させることが可能となる。
【0084】
これらの化合物としては、HIP処理等を経由して最終的に酸化物になるものであれば良く、例えば酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、シュウ酸塩、酢酸塩等の無機酸塩又は有機酸塩のほか、アルコキシド等を用いることもできる。より具体的には、CaO、MgO、SrO、CaCO3、Ca(OH)2、CaCl2、CaC2O4、MgaCO3、Mg(OH)2、MgCl2、MgaC2O4、SrCO3、Sr(OH)2、SrCl2、SrC2O4等の少なくとも1種が挙げられる。
【0085】
上記原料の混合は、アルコール中での湿式混合にて実施する。アルコールとしては、エタノールを主成分とする工業用アルコール(例えば製品名「ソルミックス」(登録商標、日本アルコール販売(株)等)が経済的に有効であるが、特に限定されず、例えばエタノールを使用しても良い。アルコールは、固形分の合計重量100重量部に対して150~300重量部程度の範囲で用いることができるが、これに限定されない。
【0086】
上記原料中には、必要に応じて有機バインダー等を配合することもできる。有機バインダーとしては、特に限定されないが、例えばアクリル樹脂系バインダー、ポリビニルアルコール系バインダー等の合成樹脂バインダーを好適に用いることができる。有機バインダーの使用量は、希土類酸化物供給源とZn及びTi酸化物供給源の合計重量100重量部に対して1~3重量部程度とすることができるが、これに限定されない。
【0087】
湿式混合に際しては、基本的にYTZ(Y部分安定化ジルコニア)を用いることが望ましい。例えば、純度99.5重量%以上のYTZ等を好適に用いることができる。これにより、ボールからのコンタミネーションを極小化できる。また、粉砕用メディアを用いる場合の容器も、同様の理由から、合成樹脂製容器又は純度99.5重量%以上のYTZ製容器を用いることが好ましい。従って、例えば純度99.5重量%以上で直径0.5~3.0mmのYTZボールを希土類酸化物原料とZn及びTi酸化物供給源の合計重量100重量部に対して500~2000重量部を用い、これらを純度99.5%以上の合成樹脂ポットに入れ、回転式の架台に載せて15~30時間程度混合して混合物をスラリーの形態で得ることができる。
【0088】
スラリーは、乾燥処理、造粒処理等を実施して得られるものを成形工程に供することもできる。乾燥処理としては、例えば1)スラリーを70~90℃の温度下で溶媒を蒸発させることにより乾燥粉末を得る行程、2)乾燥粉末を破砕処理した後、100メッシュ程度の篩を通過した粉末を得る工程を含む方法を採用することができる。
【0089】
造粒処理としては、例えばスラリーを造粒及び乾燥する工程を含む方法を採用することができる。造粒及び乾燥を実施できる方法としては、例えばスプレードライ等の公知の方法で実施することができる。この場合の造粒物(顆粒)の平均粒径は、限定的ではないが、通常は10~50μm程度とすることが望ましい。
【0090】
本発明の製造方法では、混合物を少なくとも乾燥処理された物をいずれも乾燥物という。従って、上記のような造粒物も乾燥物に包含される。なお、乾燥物中の固形分量は、例えば乾燥物を構成する成分の種類等に応じて適宜調整することができる。
【0091】
成形工程
成形工程では、前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る。成形工程では、前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る。成形方法は、特に限定されず、例えば一軸プレス成形、冷間静水圧プレス法(CIP成形)、鋳込み成形、押出し成形、射出成形等の各種の方法を1種又は2種以上組み合わせて採用することができる。2種以上の成形法の組み合わせとしては、例えば1次成形として一軸プレス成形をした後に、2次成形としてCIP法により圧粉体を得ることができる。
【0092】
また、成形工程では、所望の製品形状等に応じて成形法及びその条件を適宜設定することができる。例えば、スマートフォン用スクリーンを形成する場合は、前記乾燥粉末を利用せずに原料中にワックスを練りこんで、射出(インジェクション)法でニアネット成形することも可能である。また例えば、赤外線用のレンズ等を形成する場合は、ディスクを形成するための金型を準備し、ドーム形状であればドーム型のラバーモールドを準備したうえで、成形することができる。
【0093】
成形する際の圧力は、用いる原料粉末の粒径、原料粉末の組成等に応じて適宜設定することができるが、一般的には得られる成形体の理論密度の45~65%程度の密度となるように加圧することが好ましい。
【0094】
本発明では、比較的均一な密度分布を形成できるという点で、CIP成形を行うことが望ましい。CIP成形による場合の成形圧は、通常98~392MPa(好ましくは100~250MPa程度)の範囲内で適宜設定することができるが、これに限定されない。また、前記のように2段階で成形する場合は、例えば金型を用いて5~20MPaの範囲内で一軸プレス成形した後、98~392MPaの範囲でCIP成形すれば良い。
【0095】
得られた圧粉体は予備焼結工程に供される。ただし、成形工程で有機バインダーを用いた場合、粉砕用メディア(特に合成樹脂製メディア)を用いた場合等は、得られた圧粉体を焼成することにより有機成分を除去することが好ましい。この場合の焼成(脱有機物処理)条件は、限定的でなく、例えば酸化性雰囲気中にて600~800℃程度とすることができる。
【0096】
予備焼結工程
予備焼結工程では、前記圧粉体を温度900~1450℃で予備焼結することにより相対密度91~99.8%の予備焼結体を得る。
【0097】
予備焼結温度は、通常900~1450℃とすれば良く、特に1000~1400℃とすることが好ましいが、使用する原料の焼結特性に応じて適宜調整すれば良い。上記温度が低すぎる場合は、緻密化が不十分な予備焼結体(開口気孔の多い焼結体)をHIPしても圧力が内部に伝達できないため、緻密化そのものが不十分となり、十分な透明度が得られない。上記温度が高すぎると、残留気孔サイズに対して構成粒子が大きすぎるため、残留気孔を効率的に除去できない理由により緻密化と透明化が不十分となる。予備焼結時間は、予備焼結体の密度と粒子サイズ、圧粉体のサイズ等に応じて適宜設定すれば良い。
【0098】
これらの性能を発揮させるには一般的に高温で焼結させより緻密かつ均一性の高い材料に仕上げるのが普通であるが、本発明では透明体を得るためにこれまでより低温の900~1450℃で予備焼結する。焼結温度は使用する出発原料の焼結性と焼結錠剤の添加量で適宜変更できる。例えば、市販の平均一次粒子径が0.2μmのY2O3にZnOを1000重量ppm添加すると予備焼結温度は1100℃程度で相対密度98.8%程度に達するものもある。ZnOを上限の2000重量ppmまでにすれば、予備焼結温度950℃で94.2%となるので低温焼結が実現する。予備焼結した材料の粒子サイズは、温度と第1添加剤又は第2添加剤の添加量等に影響されるが、少なくとも予備焼結後で平均粒子径が5μm以下であり、特に1μm以下であることが好ましい。
【0099】
また、予備焼結時の昇温速度は、例えば圧粉体の焼結性、大きさ等に応じて適宜設定できるが、特に800℃以上の温度範囲では100℃/時以下とすることが好ましい。これによって、より効果的に残存気孔量を減らすことができる。
【0100】
予備焼結雰囲気は、ZnOを添加する場合は酸素を含む雰囲気下、Ti酸化物の場合は水素雰囲気、酸素雰囲気又は真空下のいずれかが好ましいが、特に真空下とすることがより好ましい。その真空度は、限定的ではないが、特に10-1~10-5Pa程度とすることが好ましい。
【0101】
特に、Zn添加の場合、密度91~99.8%の予備焼結体をより確実に得るためには酸素を含む雰囲気下で焼結することが好ましい。有機バインダー、分散剤等を添加した原料を混合して成形体を脱脂する際は空気中、脱脂した圧粉体を仮焼結する際は空気中又は酸素中で処理しなければならず、例えばN2ガス、水素、真空雰囲気下ではZnOが蒸発するため、添加効果が失われてしまうおそれがある。また、特に、Ti添加において、脱脂後に仮焼結する場合は、酸素、窒素、水素、真空等のいずれも選択できる。無論ZnとTiが共添加された場合は、Zn単独添加と同様に処理する必要がある。
【0102】
このようにして得られた予備焼結体をHIP処理工程に供する。この場合の予備焼結体は、相対密度91~99%とし、特に94~99.8%とすることが好ましい。さらに、予備焼結体の平均結晶粒径を5μm以下、好ましくは1μm以下とすることが望ましい。上記のような条件の範囲内で予備焼結することによって、より確実に本発明の特性を有する材料を得ることができる。
【0103】
HIP処理工程
HIP処理工程では、前記予備焼結体を温度1000~1600℃、かつ、圧力98~392MPaにてHIP処理する。
【0104】
透明体を得る場合は、例えばSPS(Spark Plasma Sintering)、HP(Hot Press)等の圧力を印加してより緻密化する方法も可能ではあるが、最も品質が高く、量産に適しているという点でHIP処理を採用することが好ましい。
【0105】
加圧焼結の温度は、目的物質の相転移点以下で行うことが原則であるが、本発明では原子番号58(Ce)~62(Sm)元素の酸化物単独又はそれらの元素を混合して高密度及び透光性焼結体を合成することは対象としない場合、予備焼結温度と加圧焼結温度はそれぞれ、950~1450℃及び1000~1600℃の範囲と設定することができる。
【0106】
HIP処理においては、処理後のサンプルは添加したTiが部分的に価数変化、Zn又はTiが希土類中に固溶されたことにより呈色されることがある。このため、加圧焼結後に呈色が生じた場合は、酸素を含む雰囲気中700~1100℃で2~10時間程度熱処理することによって、ほぼ無色の透光性希土類酸化物セラミックスが得られる。熱処理の温度と時間は、試料サイズ又は加圧焼結での呈色の状態により適宜決めれば良いが、1100℃を超える場合、処理サンプルはリバウンド(HIP処理により圧縮された残留気孔が圧力開放により再発泡 )するので、できる限り低温で処理することが好ましい。このようにして、非常に低温で高密度の希土類酸化物セラミックスが得られるほか、加圧焼結により高品質の光学グレード希土類酸化物セラミックスの合成も可能となる。
【0107】
予備焼結した材料をHIP焼結することにより、透光性を有する材料が得られる。HIP条件は(i)焼結体中の焼結助剤添加量、(ii)予備焼結体の粒子サイズと相対密度により決まるが、添加剤量が比較多く、焼結体の粒子サイズが小さければ1000℃程度の温度でHIPによる緻密化が推進され、最終的に透明体となる。HIP圧力、保持時間を適正化することで光学ロスが波長633nmで1%/cm以下、条件次第では0.1%/cm以下、波長1μmではその光学ロスはそれ以下となり、超高品質材料の合成も可能である。HIP後の焼結体の相対密度は、光学材料の場合には高いほど良い。また、HIP後の平均粒子サイズは1~50μm程度になるが、焼結体の平均粒子サイズと光学品質には因果関係はなく、この範囲に仕上がっていれば問題はない。
【0108】
HIP処理における温度は、通常1000~1600℃程度とすれば良いが、目的材料の相転移温度に問題がなければ1200~1600℃とすることが好ましい。このような温度範囲に設定することにより、得られる焼結体中に残存する気孔量及び気孔サイズを効果的に低減することができると同時に粒成長を抑制した微構造を得ることができる結果、優れた光学特性をもつ材料特性を付与できる。
【0109】
HIP処理の圧力は、通常は98~392MPaとし、特に147~294MPaとすることが好ましい。
【0110】
HIP処理の雰囲気は、特に制約されず、例えば酸素含有雰囲気、不活性ガス雰囲気等のいずれも採用することができる。不活性ガス雰囲気としては、例えばN2ガス、Arガス等を用いることができる。また、酸素含有雰囲気としては、酸素濃度20体積%以下のO2-Ar混合ガス、酸素濃度20体積%以下のO2-N2混合ガスを好適に用いることができる。本発明では、特に20体積%以下のO2-Ar混合ガス、O2-N2混合ガスの雰囲気下とすることがより好ましい。ただし、Tb2O3を含む希土類酸化物セラミックスを合成する場合は、Tbの一部以上がTb4+となり、光機能を阻害するのでO2を含むガスを使用することはできない。上記の酸素濃度の下限値は、いずれの場合も例えば10体積%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0111】
HIP処理時間は、限定的でなく、HIP処理温度等に応じて適宜変更することができるが、通常は1~10時間の範囲内とすれば良い。
【0112】
HIP処理において、昇温速度及び降温速度は特に限定されるものではないが、いずれも通常300~600℃/hr程度であれば良い。
【0113】
アニール工程
本発明では、HIP処理後の焼結体に対して、必要に応じてアニール処理を施すことができる。カーボンヒータかつ不活性ガスによるHIP処理では、ときおり材料が還元され、灰色等の呈色を伴うことがあるので(特に酸素を導入しないN2ガス、Arガス等をHIP処理に使用した場合)、前記HIP処理で得られた焼結体を700~1100℃でアニール(焼鈍)することができる。アニール工程を実施することによって、焼結体内部に存在し得る格子欠陥、歪み等をより確実に取り除くことができる結果、より透明な焼結体を得ることができる。
【0114】
アニール処理の温度は、通常は700~1100℃とすれば良く、特に800~1000℃とすることが好ましい。処理雰囲気は、酸素含有雰囲気とすれば良いが、HIP処理温度より低温で行うことが望ましい。圧力は、特に制限されないが、通常は大気圧下(常圧下)で実施すれば良い。アニール処理時間は、例えば焼結体の大きさ、処理温度等に応じて適宜変更することができるが、通常は3~10時間程度の範囲内とすれば良い。例外であるがTbを含む材料はアニール中にTb4+が形成され、可視~赤外域での光吸収が大きくなるので、このような材料はアニールの適用外となる。
【0115】
アニール処理がなされた焼結体は、そのまま又は必要に応じて所定の形状に加工された後、所定の光学材料として用いることができる。加工方法は、特に限定されず、公知の切削方法、研磨方法等に従って実施することができる。
【0116】
(B)第2発明の製造方法
第2発明のジルコニアセラミックスは、下記の製造方法より好適に製造することができる。すなわち、ジルコニウム酸化物セラミックスを製造する方法であって、
(1)(a)平均一次粒子径が0.02~0.2μmの単斜晶ジルコニアの粉末と、(b)Zn及びTiの少なくとも1種を含む化合物とを含む原料をアルコール中で湿式混合することにより混合物を得る工程(混合工程)、
(2)前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る工程(成形工程)、及び
(3)前記圧粉体を温度1000~1100℃で焼結することにより相対密度92~99.8%の焼結体を得る工程(焼結工程)
を含むことを特徴する製造方法によって、第2発明に係るジルコニアセラミックスを好適に製造することができる。
【0117】
混合工程
混合工程では、(a)平均一次粒子径が0.02~0.2μmの単斜晶ジルコニアの粉末と、(b)Zn及びTiの少なくとも1種を含む化合物とを含む原料をアルコール中で湿式混合することにより混合物を得る。
【0118】
本発明の製造方法では、ジルコニア供給源として単斜晶ジルコニアの粉末を好適に用いることができる。上記粉末の純度は、本発明の効果を妨げない限りは制限されないが、通常は99.9%以上であることが好ましい。このような粉末は、公知又は市販のものを使用することができる。
【0119】
単斜晶ジルコニアの粉末は、平均一次粒子径が0.02~0.2μm(好ましくは0.02~0.1μm)である。このような範囲内に設定することによって、より緻密な焼結体を得ることができる。
【0120】
混合工程では、添加剤としてZn及びTiの少なくとも1種を含む化合物を用いる。これらは、第1添加剤の供給源となるものである。従って、上記化合物としては、HIP処理等を経由して最終的に酸化物になっていれば良く、酸化物のほか、例えば水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、アルコキシド、アセチルアセトネート等の化合物を用いることもできる。より具体的には、Zn(OH)2、Ti(OH)4、ZnCl2、TiOCl2等の無機化合物、Zn又はTiのアルコキシド、アセチルアセトネート等の有機化合物が挙げられる。
【0121】
好ましい実施形態として、本発明では、第1添加剤として、(b1)前記希土類酸化物粉末の平均一次粒子径と同等又はそれ以下の平均一次粒子径を有するZn酸化物又はTi酸化物粉末、(b2)有機Zn化合物又は有機Ti化合物、及び(b3)Zn塩又はTi塩の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0122】
上記(b1)としては、例えば平均一次粒子径が1μm以下(好ましくは0.5μm以下)のZnO粉末、TiO2粉末等が挙げられる。
【0123】
上記(b2)としては、例えばZnTiアルコキシド化合物、Znアセチルアセトネート化合物、Zn,Tiの有機酸塩等が挙げられる。より具体的には、テトラ-n-ブトキシ(Zn,Ti)、(Zn,Ti)プロポキシド、(Zn,Ti)ブトキシド、亜鉛アセチルアセトネート、チタニルアセチルアセトネート等が例示される。
【0124】
上記(b3)としては、例えばZnCl2、TiOCl2、Zn(NO3)2、TiO(NO3)2・2H2O、TiO(CH3COO)2)等が挙げられる。
【0125】
単斜晶ジルコニアの粉末とZn及びTi酸化物供給源との混合比率は、最終的に得られる本発明セラミックス中におけるZn及びTi酸化物含有量が前記で説明した含有量となるように調整すれば良い。従って、ZnO単独添加の場合は50~2000重量ppm、Ti酸化物単独添加の場合は100~5000重量ppmとなるように調整することが好ましい。また、ZnとTi酸化物を併用する場合は、合計量で50~5000重量ppmとなるように調整することが好ましい。
【0126】
また、本発明では、本発明セラミックスに第2添加剤も含有させる場合、必要に応じて第2添加剤の供給源となる物質を原料に含有させることもできる。すなわち、Mg、Ca及びSrの少なくとも1種を含む化合物を上記原料に配合することもできる。
【0127】
これらの化合物としては、HIP処理等を経由して最終的に酸化物になるものであれば良く、例えば酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、シュウ酸塩、酢酸塩等の無機酸塩又は有機酸塩のほか、アルコキシド等を用いることもできる。より具体的には、CaO、MgO、SrO、CaCO3、Ca(OH)2、CaCl2、CaC2O4、MgaCO3、Mg(OH)2、MgCl2、MgaC2O4、SrCO3、Sr(OH)2、SrCl2、SrC2O4等の少なくとも1種が挙げられる。
【0128】
上記原料の混合は、アルコール中での湿式混合にて実施する。アルコールとしては、エタノールを主成分とする工業用アルコール(例えば製品名「ソルミックス」(登録商標、日本アルコール販売(株)等)が経済的に有効であるが、特に限定されず、例えばエタノールを使用しても良い。アルコールは、固形分の合計重量100重量部に対して150~300重量部程度の範囲で用いることができるが、これに限定されない。
【0129】
上記原料中には、必要に応じて有機バインダー等を配合することもできる。有機バインダーとしては、特に限定されないが、例えばアクリル樹脂系バインダー、ポリビニルアルコール系バインダー等の合成樹脂バインダーを好適に用いることができる。有機バインダーの使用量は、単斜晶ジルコニアの粉末とZn及びTi酸化物供給源との合計重量100重量部に対して1~3重量部程度とすることができるが、これに限定されない。
【0130】
湿式混合に際しては、基本的にYTZ(Y部分安定化ジルコニア)ボールを粉砕・混合媒体として用いることが好ましい。例えば、純度99.5重量%以上のYTZボール等を好適に用いることができる。これにより、ボールからのコンタミネーションを極小化できる。また、粉砕用メディアを用いる場合の容器も、同様の理由から、合成樹脂製容器又は純度99.5重量%以上のYTZ製容器を用いることが好ましい。従って、例えば純度99.5重量%以上で直径0.5~3.0mmのYTZボールを単斜晶ジルコニアの粉末とZn及びTi酸化物供給源の合計重量100重量部に対して500~2000重量部を用い、これらを純度99.5%以上の合成樹脂ポットに入れ、回転式の架台に載せて15~30時間程度混合して混合物をスラリーの形態で得ることができる。
【0131】
スラリーは、乾燥処理、造粒処理等を実施して得られるものを成形工程に供することもできる。乾燥処理としては、例えば1)スラリーを70~90℃の温度下で溶媒を蒸発させることにより乾燥粉末を得る行程、2)乾燥粉末を破砕処理した後、100メッシュ程度の篩を通過した粉末を得る工程を含む方法を採用することができる。
【0132】
造粒処理としては、例えばスラリーを造粒及び乾燥する工程を含む方法を採用することができる。造粒及び乾燥を実施できる方法としては、例えばスプレードライ等の公知の方法で実施することができる。この場合の造粒物(顆粒)の平均粒径は、限定的ではないが、通常は10~50μm程度とすることが望ましい。
【0133】
本発明の製造方法では、混合物を少なくとも乾燥処理された物をいずれも乾燥物という。従って、上記のような造粒物も乾燥物に包含される。なお、乾燥物中の固形分量は、例えば乾燥物を構成する成分の種類等に応じて適宜調整することができる。
【0134】
成形工程
成形工程では、前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る。成形工程では、前記混合物又はその乾燥物を成形することにより圧粉体を得る。成形方法は、特に限定されず、例えば一軸プレス成形、冷間静水圧プレス法(CIP成形)、鋳込み成形、押出し成形、射出成形等の各種の方法を1種又は2種以上組み合わせて採用することができる。2種以上の成形法の組み合わせとしては、例えば、1次成形として一軸プレス成形をした後に、2次成形としてCIP法により圧粉体を得ることができる。
【0135】
また、成形工程では、所望の製品形状等に応じて成形法及びその条件を適宜設定することができる。例えば、赤外線用のレンズ、窓材、ドーム等を形成する場合は、ディスクを形成するための金型を準備し、ドーム形状であればドーム型のラバーモールドを準備したうえで、成形することができる。
【0136】
成形する際の圧力は、用いる原料粉末の粒径、原料粉末の組成等に応じて適宜設定することができるが、一般的には得られる成形体の理論密度の45~65%程度の密度となるように加圧することが好ましい。
【0137】
本発明では、比較的均一な密度分布を形成できるという点で、CIP成形を行うことが望ましい。CIP成形による場合の成形圧は、通常98~392MPa(好ましくは100~250MPa程度)の範囲内で適宜設定することができるが、これに限定されない。また、前記のように2段階で成形する場合は、例えば金型を用いて5~20MPaの範囲内で一軸プレス成形した後、98~392MPaの範囲でCIP成形すれば良い。
【0138】
得られた圧粉体は予備焼結工程に供される。ただし、成形工程で有機バインダーを用いた場合、粉砕用メディア(特に合成樹脂製メディア)を用いた場合等は、得られた圧粉体を焼成することにより有機成分を除去することが好ましい。この場合の焼成(脱有機物)条件は、限定的でなく、例えば酸化性雰囲気中にて600~800℃程度とすることができる。
【0139】
焼結工程
焼結工程では、前記圧粉体を温度1000~1100℃で予備焼結することにより相対密度92~99.8%の焼結体を得る。
【0140】
焼結温度は、通常1000~1100℃程度とし、特に1050~1100℃とすることが好ましいが、使用する原料の焼結特性に応じて適宜調整すれば良い。前記温度が高すぎると相転移温度を超えるので、焼結後にクラックの発生又は試料の崩壊が生じる。前記温度が低すぎる場合は、希土類酸化物セラミックスと同様、緻密化が不十分となる。
【0141】
原料粉末の粒径は、限定的でしないが、ジルコニアセラミックスの場合は焼結の上限温度が1100℃と制限されているので、使用する出発原料の一次粒子径は30~300nmの範囲とする。なお、このような微粉末を出発原料としても、ジルコニアのみ又はジルコニアの一般的な焼結助剤であるアルミナをジルコニアに添加したとしても1100℃以下で緻密化させるのは不可能である。これに対し、本発明では、特定量のZn及びTi酸化物を添加することで容易に92%以上の緻密な焼結体を得ることができる。
【0142】
また、焼結時の昇温速度は、例えば圧粉体の焼結性、大きさ等に応じて適宜設定できるが、特に800℃以上の温度範囲では100℃/時以下とすることが好ましい。これによって、より効果的に残存気孔量を減らすことができる。
【0143】
焼結雰囲気は、特に限定されないが、母材であるジルコニア自体が酸素の拡散係数が大きい材料であることから、その特徴を焼結過程で活かすために酸化性雰囲気で実施することが好ましく、特に酸素雰囲気中(特に酸素含有率20体積%以上、例えば20~100体積%)であることがより好ましい。
【0144】
特に、Zn添加の場合、相対密度92~99.8%の焼結体を得るには酸素を含む雰囲気下で焼結することが好ましい。有機バインダー、分散剤等を添加した原料を混合して成形体を脱脂する際は空気中、脱脂した圧粉体を仮焼結する際は空気中又は酸素中で処理しなければならず、N2ガス、水素、真空雰囲気下ではZnOが蒸発するために添加効果が失われてしまう。また、特に、Ti添加の場合は、脱脂後に仮焼結する場合は酸素、窒素、水素又は真空のいずれも選択できる。無論ZnとTiが共添加された場合は、Zn単独添加と同様に処理する必要がある。このようにして、第2発明のジルコニアセラミックスを得ることができるが、必要に応じて得られた焼結体をさらに下記のHIP処理に供することもできる。
【0145】
HIP処理工程
HIP処理工程では、前記焼結体を温度1000~1100℃、かつ、圧力98~392MPaにてHIP処理することができる。HIP処理工程を含む場合は、前記焼結工程は「予備焼結工程」と呼ぶこともでき、それによって得られた焼結体は「予備焼結体」と呼ぶこともできる。
【0146】
焼結した材料をHIP焼結することによって、より緻密な材料が得られる。HIP条件は(i)焼結体中の添加剤の添加量、(ii)焼結体の粒子サイズと相対密度により決まるが、添加剤の添加量が比較的多く、焼結体の粒子サイズが小さければ1000℃程度の温度でHIPによる緻密化が望ましい。
【0147】
HIP処理における温度は、通常1000~1100℃程度とし、特に1050~1100℃とすることが好ましい。このような温度範囲に設定することによって、得られる焼結体中に残存する気孔量及び気孔サイズを効果的に低減することができると同時に粒成長を抑制した微構造を得ることができる結果、緻密質のジルコニアセラミックスを好適に得ることができる。
【0148】
HIP処理の圧力は、通常は98~392MPa程度とし、特に147~294MPaとすることが好ましい。
【0149】
HIP処理の雰囲気は、特に制約されず、例えば酸素含有雰囲気、不活性ガス雰囲気等のいずれも採用することができる。不活性ガス雰囲気としては、例えばN2ガス、Arガス等を用いることができる。また、酸素含有雰囲気としては、酸素濃度20体積%以下のO2-Ar混合ガス、酸素濃度20体積%以下のO2-N2混合ガスを好適に用いることができる。本発明では、特に20体積%以下のO2-Ar混合ガス、O2-N2混合ガスの雰囲気下とすることがより好ましい。上記の酸素濃度の下限値は、いずれの場合も例えば10体積%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0150】
HIP処理時間は、HIP処理温度等に応じて適宜変更することができるが、通常は1~10時間の範囲内とすれば良い。
【0151】
HIP処理において、昇温速度及び降温速度は特に限定されるものではないが、いずれも通常300~600℃/hr程度であれば良い。
【0152】
アニール工程
ジルコニアセラミックスを製造する場合も、通常はアニールは不要であるが、必要に応じて実施することができる。すなわち、前記HIP処理で得られた焼結体をアニール(焼鈍)することができる。アニール工程を実施することによって、焼結体内部に存在し得る格子欠陥、歪み等をより確実に取り除くことができる結果、より緻密な焼結体を得ることができる。
【0153】
アニール処理の温度は、限定的ではないが、通常は700~1100℃程度とすれば良く、特に800~1000℃とすることが好ましい。さらには、HIP処理温度より低温で行うことが望ましい。処理雰囲気は、特に限定されないが、酸素含有雰囲気とすることが好ましい。圧力は、特に制限されないが、通常は大気圧下(常圧下)で実施すれば良い。アニール処理時間は、例えば焼結体の大きさ、処理温度等に応じて適宜変更することができるが、通常は3~10時間程度の範囲内とすれば良い。
【0154】
アニール処理がなされた焼結体は、そのまま又は必要に応じて所定の形状に加工された後、所定の光学材料として用いることができる。加工方法は、特に限定されず、公知の切削方法、研磨方法等に従って実施することができる。
【0155】
3.本発明セラミックスの使用
本発明の希土類酸化物セラミックスは、各種の用途に用いることができる。例えば、可視~赤外線(約8μm)用の窓材として利用することができる。特に、Gd,Lu,Sc,Y等の少なくとも1種の酸化物をホストにして、蛍光元素であるNd,Yb,Er等の少なくとも1種の酸化物を添加した透明体は、レーザー媒質又はシンチレータ媒質として好適に用いることができる。また、Tb,Dy,Ho等の少なくとも1種を含む透明体は、ファイバーレーザー又は固体レーザー用の戻り波をシャットダウンできるアイソレーターデバイスのファラデー回転子として好適に用いることができる。その他にも、各種の光学材料等として好適に用いることができる。
【0156】
本発明では、Tb,Eu,Gd等の単独酸化物又はこれらを大量に含有する希土類酸化物セラミックスは相転移点が比較的低く、これまで合成困難とされていたセラミックスの合成も可能となる。
【0157】
また、本発明のジルコニアセラミックスに関しては、緻密かつ単斜晶の多結晶体合成に成功した例がないことから、そのような多結晶体の詳細な物性は不詳な状況にあるが、本発明により合成可能となった単斜晶ジルコニアセラミックスの物性がさらに解明されれば、ジルコニアセラミックスのさらなる用途拡大が期待できる。
【0158】
<本発明セラミックスの実施形態>
本発明セラミックスを作製するには、原子番号21(Sc)、39(Y)及び原子番号57(La)~71(Lu)のランタノイド希土類酸化物原料として、純度99.9重量%以上で平均粒子径が0.1~3μmの原料を準備する。これらの希土類酸化物原料中にZnO又はTi酸化物をそれぞれ単独又は併用して添加することを基本とするが、Zn及びTi酸化物の供給源として平均粒径1μm以下(特に0.5μm以下)の粒子形態のZn又はTiのアルコキシドあるいはZnCl2、TiOCl2(チタンオキシクロライド)等の塩類を添加することによっても、最終的に酸化物としてアルミナセラミックス中に含有させることができる。
【0159】
但し、材料の光学特性(特に均一性)を向上させる目的で希土類酸化物粒子の平均粒径より小さいZnO又はTi酸化物を添加することが好ましい。
【0160】
上記の酸化物を添加する場合は、できるだけ粒子サイズの小さなZnO又はTi酸化物を適用することが好ましい。このため、原料の平均粒子径を1μm以下とし、特に0.5μm以下とすることが好ましい。
【0161】
上記のアルコキシド等を添加する場合は、本発明セラミックス中のZnO及び/又はTiO2含有量が所定量となるようにZn又はTiアルコキシドの適量を添加すれば良い。
【0162】
上記c)の場合は、例えば塩化亜鉛(ZnCl2)、オキシ塩化チタニウム(TiOCl2)、オキシ硝酸チタニウム(TiO(NO3)2・2H2O)、オキシ酢酸チタニウム(TiO(CH3COO)2)等を用いることができる。ZnC2O4・2H2O(シュウ酸亜鉛)、Zn(OH)2、Ti(OH)4、TiO、Ti2O3等の化合物(水酸化物又は酸化物)も適用することができる。
【0163】
本発明では、ZnOの添加よって焼結温度(緻密化温度)を効果的に下げることができるので、上限の2000重量ppm付近まで添加すれば、ほとんどの希土類酸化物セラミックスの予備焼結温度を1200℃以下まで下げることができる。しかし、ZnO濃度が高い場合はHIP処理温度が高いと粒成長が起こり、光学特性も良好でなくなる場合があるので、予備焼結温度~+100℃程度に抑制することが望ましい。ZnOの添加量が少なければ、緻密化と粒成長が抑制されるので、予備焼結温度とHIP温度は相対密度が91~99%になる範囲で適宜決定すれば良い。TiO2添加の場合は、その添加量は予備焼結温度に強く影響しないので、希土類酸化物の種類、出発原料の粒子サイズ等に応じて100~5000重量ppmの範囲で適宜決めれば良い。
【0164】
上記a)~c)に示すジルコニア源を添加した後、適量の有機バインダーとエチルアルコールを添加し、例えば99.9%の高純度ジルコニアボールを用いて15~30時間粉砕・混合を行い均一なスラリーを得ることができる。得られたスラリーはスプレードライヤーにて噴霧・乾燥して20~50μm程度の球状の顆粒を得ることができる。
【0165】
一方、緻密な単斜晶ジルコニアセラミックスの粉末の調製も、希土類酸化物セラミックスと基本的に共通している。第2発明のジルコニアセラミックスは、焼結後の結晶構造が単斜晶であり、光学用途でない場合は第1添加剤を希土類酸化物セラミックスより多く添加することも可能であり、これにより焼結温度を相転移点の上限である1100℃以下とすることができる。第1添加剤等を加えた原料粉末の処理方法は、希土類酸化物セラミックスの場合と同様に行えば良い。
【0166】
得られた顆粒を金型にて成形し、直径12mmの金型を用いて10~20MPaの圧力で一軸成形し、厚さ20mm程度の成形体(圧粉体)を作製する。成形体を98~196MPaの圧力でCIP成形した後、酸素を含む雰囲気中700~900℃の温度で3時間脱脂処理して有機バインダー等の有機成分を除去する。さらに、ZnO添加の場合は酸素を含むガス中で900~1400℃で2~5時間程度焼結し、TiO2添加の場合はZnO添加の場合と同様酸素を含むガス中で焼結し、あるいは10-2~10-5Paの真空中で1100~1450℃で2~5時間程度焼結し、密度91~99%の予備焼結体を得る。予備焼結体は900~1600℃(特に1000~1600℃)で1~5時間程度HIP処理(ガス圧は98~392MPa)することで残留気孔が1000ppm以下の超緻密質焼結体が得られ、その結果として透明な焼結体を得ることができる。
【0167】
一方、第2発明に係るジルコニアセラミックスの合成においては、母材であるジルコニア自体が非酸化性雰囲気下では酸素拡散が低下するため、酸素を含む雰囲気中(好ましくは酸素雰囲気中)での焼結が望ましい。相対密度91%以上の比較的緻密な予備焼結体を得るためには焼成温度1000℃以上となるが、上限は相転移の問題から1100℃以下という制限がある。焼結時間は、添加剤の種類と添加量に依存するが、焼結温度の制限があるため、特に3~100時間程度とすることが望ましい。
【0168】
図3は、本発明で得られた代表的な試料であり150重量ppmのZnOと1200重量ppmのTiO
2を添加したY
2O
3セラミックスのSEM写真である。平均粒子径はそれぞれ約2及び1μmであり、観察視野内に残留気孔は存在しない。
【0169】
図4(a-1)(b-1)は、
図3に示した150重量ppmのZnO及び1200重量ppmのTiO
2を添加したY
2O
3セラミックスの透過偏光顕微鏡写真である。複屈折の検出が不能なレベルであり、観察視野内に残留気孔は検出されず、極めて高密度の焼結体ができている。(a-2)(b-2)は、偏光板2枚をクロスさせて材料内部の複屈折を観察したものであるが、この材料には複屈折が検出できないため偏光板をクロスさせた状態での漏れ光も検出できないほど良好な光学性能である。両材料の消光比は>35dBと極めて高い。
【0170】
図5には、TiO
2を2000重量ppm添加し、CaOを1000重量ppm添加したY
2O
3セラミックス(試料厚さは1mm,11mm)、さらにベルヌイ法で作製した市販のY
2O
3単結晶(試料厚さは1mm)の透過スペクトルを示す。同じ厚さの単結晶と多結晶セラミックスを比較すると、粒界の存在する多結晶セラミックスの透過率が測定波長全域に渡って高い。厚さ11mmのサンプルは波長800nm以下では光学ロスがやや大きく、波長633nmの光学ロスは2.4%/cmである。1mm厚さの多結晶セラミックスの透過率が単結晶より高いので、波長633nmで得られた本発明品の光学ロスは単結晶より低い(高性能)と見るのが妥当であり、前述したように単結晶は相転移の問題から高品質化が困難であり、さらに直径6mm×厚み1mm程度のサイズしか合成できないので、事実上実用化もできない。また、900nm以上の波長になると、いずれの試料の透過率は見掛け上同一レベルとなるが、波長1μmにおける本材料の光学ロスは0.07%/cmと多結晶材料として驚異的な数値を示す。また、干渉計を用いた波面歪は0.06λ/cmであり、これまで前例のない光学的均一性を示す。
【0171】
図6は、屋外の景色をY
2O
3焼結体(直径6インチ、厚さ10mm)を介して透視した状態を示す図である。この焼結体は、Y
2O
3原料に540重量ppmのZnOを添加し、純酸素中で1200℃×4時間予備焼結した後、N
2ガスを媒体として1290℃×3時間(圧力196MPa)でHIP処理し、さらに酸素中950℃×5時間熱処理することによって作製されている。さらに作製された焼結体は、直径6インチ面の両面を鏡面研磨して厚さを10mmに調整されている。得られた焼結体は、透明であり、光学ロスは波長1μmにおいて<1%/cmであるので1μm以上の赤外線透過窓材として利用することができる。
【0172】
図7~
図9は、結晶構造が単斜晶系のジルコニアセラミックスの観察結果をそれぞれ示す。これは、平均一次粒子径0.05μmのジルコニア粉末に平均粒子径0.1μmのZnO粉末0.8重量%となるように添加し、純酸素中で1080℃×8時間焼結した後、Arを圧力媒体として1070℃で2時間(圧力180MPa)HIP処理することによって作製されたジルコニアセラミックスである。その相対密度は99.9%に達する。ジルコニアセラミックスの下方向からLED白色光を照射すると光透過が確認できる(
図7)。本材料をX線回折分析すると、
図8に示すように単斜晶構造のみから構成されていることが確認できる。また、
図9は、得られた焼結体の微構造(破断面)のSEM写真であるが、表面にはほとんど残留気孔のない緻密な組織であって、その平均粒子径が0.5μmであることが確認された。これまで緻密な単斜晶ジルコニア焼結体の合成例は見当たらず、本発明が初めての成功例と考えられる。
【0173】
以下においては、代表例として、透明なY2O3セラミックスと、相転移温度が1200℃でこれまで合成することができなかった高密度透明Gd2O3セラミックスとに関する合成の具体例を示す。特に、Y2O3は室温から2200℃付近まで安定した立方晶構造であるので、合成温度の観点では作製しやすいように考えられるが、光学品質の高い材料の合成は容易ではない。一般的に低温合成するにはナノサイズの原料を用いてできるだけ高圧で処理しなければならない。実際、例えばZrO2を焼結助剤に用いた場合、Y2O3原料は数十ナノレベルでも1500~1600℃の予備焼結し、1600~1700℃程度でHIP処理しなければならない。
【0174】
代表例の一例目として、平均一次粒子径0.2μmのY2O3原料を用い、これに平均一次粒子径0.5μmのZnOを1000重量ppm添加し、粉砕・混合用メディアとしてジルコニアボールと適量の有機バインダー、分散剤、そしてエタノール(粉末重量に対して2~3倍量)を加え、15時間ボールミル混合した。得られたスラリーを攪拌しながら溶媒を加熱蒸発させることで乾燥した粉末を得た。この粉末を直径10mm×高さ20mmに金型成形した後、98MPaの圧力でCIP成形した。成形体は空気中700℃×3時間脱脂処理を行い、圧粉体中の有機成分を除去した。圧粉体をアルミナチューブ内で雰囲気制御できる管状炉に入れ、純酸素雰囲気中1150℃×2時間焼結して相対密度98.5%の焼結体を得た。(この密度の焼結体でも絶縁材料等には応用できる。)得られた予備焼結体はArを圧力媒体として、1350℃×3時間(176MPa)HIP処理を行い、透明体を得た。HIP処理した焼結体はやや赤みを帯びていたため、空気中950℃×3時間熱処理を行い見かけ上無色透明な試料を得た。
【0175】
この試料(厚さ11mm)の両端面を光学研磨したものが、
図2の透過スペクトルである。633nmにおける透過率は77.2%、波長1μmでは80.9%に達する。厚さ1mmの試料も準備し、厚さの違いから光学ロスを求めると、波長633nmで2.5%/cm、波長1μmでは0.5%/cmと非常に高品質の材料が得られた。本材料は可視~赤外域での窓材としては十分な光学特性である。
【0176】
二例目として、平均一次粒子径0.5μmのY2O3原料を用い、これに平均一次粒子径0.5μmのZnOを100重量ppm、CaCO3を1800重量ppm(CaOに換算すると約1000重量ppm)添加して、粉砕・混合用メディアとしてジルコニアボールと適量の有機バインダー、分散剤及びエタノール(粉末重量に対して2~3倍量)を加え、20時間ボールミル混合した。得られたスラリーを攪拌しながら溶媒を加熱蒸発させることにより乾燥した粉末を得た。この粉末を直径10mm×高さ20mmに金型成形した後、147MPaの圧力でCIP成形した。得られた圧粉体を空気中700℃×3時間脱脂処理を行い、圧粉体中の有機成分を除去した。圧粉体をアルミナチューブ内で雰囲気制御できる管状炉に入れ、純酸素雰囲気中1390℃×2時間焼結して相対密度97.7%の焼結体を得た。(この密度の焼結体でも絶縁材料等には応用できる。)得られた予備焼結体はArを圧力媒体として、1600℃×3時間(147MPa)HIP処理を行い、透明体を得た。HIP処理した焼結体はやや赤みを帯びていたため、空気中980℃×3時間熱処理を行い、見かけ上無色透明な試料を得た。
【0177】
前述と同様にして、厚さ11mmの試料と厚さ1mmの試料も準備し、厚さの違いから波長633nmと1μmにおけるそれぞれの光学ロスを求めると0.9%/cm及び0.06%/cmと非常に高品質の材料が得られた。
【0178】
三例目として、平均一次粒子径0.5μmのY2O3(95%)と平均一次粒子径0.1μmのEr2O3(5%)原料を用い、これに平均一次粒子径0.5μmのTiO2を900重量ppm添加し、粉砕・混合用メディアとしてジルコニアボールと適量の有機バインダー、分散剤、そしてエタノール(粉末重量に対して2~3倍量)を加え、20時間ボールミル混合した。得られたスラリーを攪拌しながら溶媒を加熱蒸発させることによって乾燥した粉末を得た。この粉末を直径10mm×20mmに金型成形した後、98MPaの圧力でCIP成形した。成形体は空気中700℃×3時間脱脂処理を行い、圧粉体中の有機成分を除去した。タングステンヒータの真空炉に入れ、1×10-3Paの真空下1350℃×2時間焼結して相対密度96.6%の焼結体を得た。(この密度の焼結体でも絶縁材料等には応用できる。)得られた予備焼結体はArを圧力媒体として、1550℃×3時間(198MPa)HIP処理を行い、透明体を得た。HIP処理した焼結体はやや緑色を帯びていたため、酸素中1000℃×3時間熱処理を行い見かけ上無色透明な試料を得た。
【0179】
前述と同様に、厚さ11mmの試料と厚さ1mmの試料も準備し、厚さの違いから波長633nmと1μmにおける光学ロスを求めるとそれぞれ1.1%/cm及び0.1%/cmと非常に高品質の材料が得られるので、この材料はレーザー発振媒体として用いることができる。
【0180】
四例目として、平均一次粒子径0.3μmのGd2O3原料を用い、これに平均一次粒子径0.05μmのZnOを900重量ppm添加して、粉砕・混合用メディアとしてジルコニアボールと適量の有機バインダー、分散剤、そしてエタノール(粉末重量に対して2~3倍量)を加え、20時間ボールミル混合した。得られたスラリーを攪拌しながら溶媒を加熱蒸発させることで乾燥した粉末を得た。この粉末を直径10mm×15mm金型成形した後、147MPaの圧力でCIP成形した。成形体は空気中700℃×3時間脱脂処理を行うことによって圧粉体中の有機成分を除去した。その後、この圧粉体をアルミナチューブ内で雰囲気制御できる管状炉に入れ、純酸素雰囲気中950℃×5時間焼結して相対密度98.8%の焼結体を得た。(この密度の焼結体でも絶縁材料等には応用できる。)得られた予備焼結体は20%O2-Arを圧力媒体として、1050℃×3時間(147MPa)HIP処理を行い、これによって透明体を得た。HIP処理した焼結体は無色透明であった。
【0181】
前述と同様にして、厚さ11mmの試料と厚さ1mmの試料も準備し、厚さの違いから波長633nmと1μmにおける光学ロスを求めると6.6%/cmと2.0%/cm透明の材料が得られる。この材料は一般的な光透過窓材のほか、高比重(7.41g/cm3)であるので放射線シャットダウン用の窓にも利用することができる。Gd2O3は斜方晶~立方晶の相転移温度が1200℃近傍であるので、従来の溶融凝固法で単結晶を作製することが不可能であることはもとより、これまで焼結法でも作製に成功した例は見られない。
【0182】
第2発明に係るジルコニアセラミックスを作製する場合は、単斜晶のジルコニア原料を用い、ZrO2とHfO2(HfO2は天然原料由来の同族の不可避不純物)の合計量で純度99.8重量%以上とし、Zn酸化物単独又はZn酸化物とTi酸化物を併用して添加すれば良い。これらの添加剤は前記酸化物粉末の形態で添加しても良いし、例えばジルコニア粉末を合成する際の共沈法等によりジルコニア粉末中に予め添加物を含有させても良い。また、希土類酸化物セラミックスの合成の場合と同様に、Zn,Tiの有機化合物又は塩類を使用することもできる。
【実施例0183】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0184】
実施例1
原料として、市販のY2O3粉末(純度>99.95%, 平均一次粒子径0.2μm)を用いた。この粉末に第1添加剤としてZnO粉末(純度:99.9%, 平均一次粒子径0.5μm)を50重量ppm加え、これらの混合粉末100重量部に対し、市販のアクリル樹脂系バインダー(アクリル樹脂の20%溶液)2重量部、分散剤0.5重量部(フローレンGW1500,共栄社化学(株)製)を添加し、合成樹脂製容器に入れた。前記混合粉末合計100g対して粉砕用高純度TYZ(Y安定化ジルコニア)製ボール(粒径約2mm)1kg及びエタノール200mlを入れたうえで24時間かけて湿式混合することによってスラリーを調製した。回収されたスラリーはマグネチックスータラーを用いて加熱・攪拌しながら溶媒を蒸発させ乾燥粉末を得た。
得られた粉末をナイロン製篩(150メッシュ)で篩いにかけた。次に、篩いをパスした粉末を金型(直径10mm×長さ20mm)に充填して約10MPaの圧力下にてプレス成形した後、147MPaの圧力下にてCIP成形を行った。
得られた成形体を700℃×3時間で脱脂処理した。これを、アルミナ製チューブ内で雰囲気制御できる管状炉に入れ、酸素雰囲気下にて昇温速度150℃/hrにて最高到達温度1380℃で2時間予備焼結を実施した。得られた予備焼結体の相対密度をアルキメデス法で測定したところ、98.5%であった。
続いて、前記予備焼結体のHIP処理を行った。処理条件は、処理雰囲気:Arガス、圧力:147MPa、温度:1400℃、処理時間:2時間とした。HIP処理した焼結体は透明ではあるが淡赤色であったので、さらに空気中950℃で5時間アニールを行い、着色及び内部に存在する格子欠陥を取り除いた。このようにして見かけ上無色透明な焼結体を作製した。
【0185】
実施例2~10
表1に示す条件としたほかは、実施例1と同様にZnOを添加して焼結体を作製した。
【0186】
実施例11~20
第1添加剤をTi酸化物に代えたほかは、表2に示すようにして実施例1と同様に焼結体を作製した。
【0187】
実施例21~30
希土類酸化物を表3に示すように変更し、さらに実施例21~25は第1添加剤をZnOとし、実施例26~30は第1添加剤をTiO2としたほかは、実施例1と同様にして希土類酸化物焼結体を作製した。
【0188】
実施例31~40
表4に示すように、第1添加剤としてZnO又はTiO2をそれぞれ添加し、第2添加剤の供給源としてMg化合物、Ca化合物及びSr化合物の少なくとも1種を添加したほかは、実施例1と同様にして焼結体を作製した。
なお、上記のMg化合物としてMgO、Ca化合物としてCaCO3、Sr化合物としてシュウ酸ストロンチウムをそれぞれ用いた(以下の実施例等も同様である。)。
【0189】
実施例41~50
表5に示すように、第1添加剤としてZnOとTiO2とを共添加し、、一部の試料には第2添加剤の供給源としてMg化合物、Ca化合物及びSr化合物の少なくとも1種を添加したほかは、実施例1と同様にして焼結体を作製した。
【0190】
実施例51~60
表6に示すように、2種類以上の希土類酸化物原料を用い、第1添加剤としてZnO又はTiO2を単独添加し、一部の試料には第2添加剤としてMgO、CaO及びSrOの少なくとも1種を添加したほかは、実施例1と同様にして焼結体を作製した。
【0191】
実施例61
実施例1の方法に準じてジルコニアセラミックスを作製した。原料として、市販のZrO2粉末(純度99.9%(ZrO2とHfO2の合量), 平均一次粒子径0.05μm)を用いた。この粉末に第1添加剤としてZnO粉末(純度:99.9%, 平均一次粒子径0.5μm)を表7に示す添加量を加え、これらの混合粉末100重量部に対し、市販のアクリル樹脂系バインダー(アクリル樹脂の20%溶液)2重量部、分散剤0.5重量部を添加し、合成樹脂製容器に入れた。前記混合粉末合計100g対して粉砕用高純度TYZ(Y安定化ジルコニア)製ボール(粒径約2mm)1kg及びエタノール200mlを入れたうえで24時間かけて湿式混合することによってスラリーを調製した。
回収されたスラリーはマグネチックスータラーを用いて加熱・攪拌しながら溶媒を蒸発させ乾燥粉末を得た。この粉末をナイロン製篩(150メッシュ)で篩いにかけた。次に、篩いをパスした粉末を金型(直径10mm×長さ20mm)に充填して約10MPaの圧力下にてプレス成形した後、147MPaの圧力下にてCIP成形を行った。
得られた成形体を600℃×3時間で脱脂処理した。これを、アルミナ製チューブ内で雰囲気制御できる管状炉に入れ、酸素雰囲気下にて昇温速度150℃/hrにて最高到達温度1090℃で10時間予備焼結を実施した。
続いて、前記予備焼結体のHIP処理を行った。処理条件は、処理雰囲気:Arガス、圧力:147MPa、温度:1095℃、処理時間:2時間とした。さらに、HIP処理された焼結体を空気中700℃で3時間アニールを行った。得られた焼結体は透光性であり、淡緑色であった。
【0192】
実施例62~80
表7~表8に示す条件としたほかは、実施例61と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
【0193】
比較例1~2
表9に示すように、添加剤を加えなかったほかは、実施例1と同様にして焼結体を作製した。
【0194】
比較例3~4
表9に示すように、Zr酸化物又はHf酸化物を焼結助剤として用いたほかは、実施例1と同様にして焼結体を作製した。
【0195】
比較例5~10
表9に示すように、第1添加剤及び第2添加剤の添加量が本発明の範囲外となる条件としたほかは、実施例1と同様にして焼結体を作製した。
【0196】
比較例11~15
表10に示すように、本発明の範囲内で添加剤を添加し、予備焼結条件又はHIP条件が本発明の条件外としたほかは、実施例1と同様にして焼結体を作製した。
【0197】
比較例16~25
表11に示すような条件としたほかは、実施例61と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。
【0198】
試験例1
各実施例及び比較例のサンプルについて、以下の特性を評価した。その結果を表1~表11に示す。表1~表11には、各サンプルの組成等も併せて示す。
【0199】
(a)添加したZnO,TiO2等の分析
材料中に添加された添加剤は、一般的な機器分析装置ICP(Inductive Coupled Plasma)-MASSにて材料中のZnO、TiO2、MgO、CaO、SrO等の含有量を重量ppm単位で検出することができる。
【0200】
(b)焼結体の平均粒子径
市販の走査型電子顕微鏡装置を用いて少なくとも任意の3ヶ所を200~1000倍で観察し、画像解析装置で粒子サイズの測定を行う。
【0201】
(c)光学ロスの測定
作製した試料を厚さ1と11mmに調整し、両面を鏡面研磨する。研磨試料は市販のスぺクトロフォトメーター(分光器)を用い、波長633nmでのそれぞれの透過率測定を行い[(厚さ1mmのサンプルの透過率(%)-(厚さ11mmのサンプルの透過率(%)]の差が1cm当たりの透過ロスとなる。
【0202】
(d)材料内の残留気孔量の計測
作製した試料を厚さ1mmに調整し、両面を鏡面研磨する。透過顕微鏡を用い、100倍で任意の5ヶ所の写真を撮り、[厚さ1mm×観察エリア=観察体積]で確認できる気泡のサイズと数量を計測することで残留気孔量を求めることができる。本発明において残留気孔とは、あくまでも100倍で観察できる気孔の総量を言い、本方法で検出できない気泡はカウントしないものとする。
【0203】
(e)消光比の測定
作製した試料を厚さ1mmに調整し、両面を鏡面研磨する。試料を分光器内に装着し、試料両端に偏光子2枚をセットする。測定波長を1000nmとし、偏光子を平行にした状態(直線透過率が最も高い状態)の透過率THを計測する。次に、片側の偏光板を直交させ直交近傍で透過率が最低となる角度で止めたときの消光値を透過率TLを測定する。そのうえで下記式Aにより消光比(dB値)を求める。
dB=10×log(TH/TL) ・・・式A
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
実施例81
実施例1に準じてGd2O3系焼結体を作製した。市販のGd2O3粉末(純度99.9%、一次粒子径0.3μm)にZnO粉末(純度:99.9%, 平均一次粒子径0.5μm)0.3重量%、さらに原料100重量部に対して2倍量のエタノール、適量の分散剤と市販のアクリル樹脂系バインダー(アクリル樹脂の20%溶液)をエンジニアプラスティックに入れ、YTZボールを粉砕媒体として加え20時間粉砕・混合を実施した。得られたスラリーをビーカーに移し、攪拌しながら溶媒を蒸発させることにより乾燥粉末を得た。乾燥粉末を100メッシュの篩を通し、直径18mmの金型で成形した後、146MPaでCIP成形した。
得られた成形体を空気中600℃で3時間の脱脂処理した後、酸素雰囲気下で1050℃で5時間焼結して相対密度97.6%の焼結体を得た。この焼結体をArガスを圧力媒体として1070℃で2時間のHIP処理を行うことにより透明な焼結体を得た。
得られた焼結体は、Gd2O3の立方晶⇔単斜晶の相転移温度(1200℃)以下で合成したので、X線回折では立方晶構造であることを確認した。また、この材料を機械加工し、直径12mm×厚み2mmの試験片(直径12mmの表面は鏡面研磨)を作製し、分光器により透過スペクトルを測定した。吸収端は650nmであり、700~1600nmにおける透過率は71.1~72.6%であった。薄膜のGd2O3から得られた本材料の理論透過率は72%と報告されているので、ほぼ理論透過率に達している。また、本材料の1μmにおける消光比は30dBと非常に高い。また、波長1064nmにおけるベルデ定数は10redm-1T-1とあまり大きな値ではないが、本材料は反磁性材料であることが確認された。これは、波長700~1600nmにおけるベルデ定数の波長依存性がないことからも判断できる。このため、Gd2O3単結晶は無論のこと、同多結晶の透明セラミックスもこれまで合成に成功した例がなく、反磁性を有するファラデー素子として新たな機能と応用が期待できる。
本発明は、高密度かつ透光性の希土類酸化物セラミックスを作製するに際し、これまでに報告が見当たらない新たな焼結助剤であるZnとTi酸化物を適量添加することで、低温で高密度の焼結体が合成できることを発見しただけでなく、添加量と合成条件を適正化することで高品質の透明希土類酸化物セラミックスの合成を可能としている。特に、斜方晶~立方晶の相転移温度が低いTb, Gd, Euの各酸化物は合成不可能とされてきたが、本発明によって新たな技術の扉を開くことができた。とりわけ、Tb2O3又はTbO3濃度の高い透明な希土類酸化物セラミックスは、ベルデ定数が高く、有望なファラデー回転子として産業上重要であるが、合成できる技術が存在しなかった。このような材料は、加工用ファイバーレーザーの戻り波をシャットダウンできる小型高性能アイソレーターデバイスの産業応用が期待できる。また、Gd2O3は、透明な焼結体ができ、材料は反磁性であることが確認され、また可視~赤外の広範囲にわたって光吸収のない特性であることも確認できたことから、有望なファラデー回転子として利用できる。高密度で放射線のシャットダウン能力も高いことから放射線使用環境下での窓材、Eu2O3の用途は不明であるが本材料に隠された潜在性能が判明すれば、産業応用もあり得る。
また、低温合成を可能とする本発明では、材料合成のエネルギーコストを下げるだけでなく、低価格の製造装置も利用できるメリットがある。また、これまでの透明な希土類酸化物セラミックスの粒界散乱の問題を大幅に改善でき、性能向上にも大きく貢献できる。
このように、本発明によれば、難焼結性の希土類セラミックスを低温合成が可能となり、これによって緻密質又は緻密かつ透光性を有する希土類セラミックスを提供することが可能となる。特に、磁気光学材料として有望であるDy2O3、Tb2O3等は低温で立方晶~斜方晶の相転移を生じることから合成困難であったが、本発明により合成可能かつ高品質化が期待できる。また、既述の通り、立方晶の高密度Gd2O3セラミックス、Eu2O3セラミックス等も合成が可能となり、La~Gdを大量に含有する希土類セラミックスの合成も可能とするため、それらの物性が解明できれば新しい用途開発、さらはその工業化も期待される。