IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 木下 久義の特許一覧

特開2025-29557抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法
<>
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図1
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図2
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図3
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図4
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図5
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図6
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図7
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図8
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図9
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図10
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図11
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図12
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図13
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図14
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図15
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図16
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図17
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図18
  • 特開-抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029557
(43)【公開日】2025-03-06
(54)【発明の名称】抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/06 20060101AFI20250227BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20250227BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20250227BHJP
   A01N 25/22 20060101ALI20250227BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/22
A01N25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011190
(22)【出願日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2023134204
(32)【優先日】2023-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523318475
【氏名又は名称】木下 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】木下 久義
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA01
4H011BA04
4H011BB18
4H011BC01
4H011BC06
4H011BC18
4H011BC19
4H011DA01
4H011DA14
4H011DF02
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】抗菌性が長く継続する徐放性の抗菌剤とその製造方法、この抗菌剤を含む樹脂組成物及び樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含む酸化カルシウム質粒子を含み、前記酸化カルシウム質粒子の表面のpHが12.0以上である抗菌剤。前記抗菌剤と、樹脂と、を含む、樹脂組成物。前記樹脂組成物を含む樹脂成形体。乾燥卵殻を、1000℃以上で1~2時間焼成することで、酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含み、表面のpHが12.0以上である酸化カルシウム質粒子を得る焼成工程を備える抗菌剤の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含む酸化カルシウム質粒子を含み、
前記酸化カルシウム質粒子の表面のpHが12.0以上である抗菌剤。
【請求項2】
前記水和抑制成分が酸化マグネシウムである請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
前記酸化カルシウム質粒子は、前記酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が分散している請求項2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
前記酸化カルシウム質粒子は、焼成卵殻粒子である請求項1又は2に記載の抗菌剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗菌剤と、
樹脂50と、を含む、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物を含む樹脂成形体。
【請求項7】
乾燥卵殻を、1000℃以上で1~2時間焼成することで、酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含み、表面のpHが12.0以上である酸化カルシウム質粒子を得る焼成工程を備える抗菌剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルス感染症が流行したため、細菌・ウイルスへの抗菌性を有する抗菌剤、及び抗菌性を有する製品に対するニーズが高まっている。抗菌性を有する製品としては、機能性の高さ(耐久性・軽さ・加工のしやすさ)及びコスト優位性より、プラスチック製品(樹脂製品)が望まれている。
【0003】
一方、プラスチック製品に用いられるプラスチックについては、海洋プラスチック問題、循環型社会の実現等から、使用量の削減が望まれている。また、近年、3R(スリーアール)、すなわちリデュース(Reduse)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の要請が大きくなっている。
【0004】
上記抗菌性、プラスチック使用量の削減、3Rの観点から、通常、廃棄されている卵殻を活用した抗菌剤、及びこの抗菌剤を含むプラスチック製品の使用が検討されている。
【0005】
特許文献1には、焼成卵殻の消化粉末を含む卵殻粉末と、生分解性樹脂粉末とを含む生分解性樹脂組成物の製造方法であって、卵殻粉末を1質量%乃至80質量%の割合にて含む生分解性樹脂組成物の製造方法が開示されている。なお、特許文献1によれば、上記消化粉末は、水和(消化)させて得られる水酸化カルシウム主体の焼成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6802242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の樹脂組成物は、消化粉末が水酸化カルシウムを主体とするため、樹脂組成物の表面に露出した卵殻粉末の露出面全体が空気中の水分に接触して速やかに溶出し始める。水酸化カルシウムの溶解度は比較的小さいものの、卵殻粉末の溶出が継続して進行すると、露出面の卵殻粉末が早く枯渇して抗菌性が消滅したり、卵殻粉末の露出面の強アルカリ化による使用者の接触部分の肌荒れ等が生じたりするおそれがある。
【0008】
このように、特許文献1の樹脂組成物は、樹脂組成物の表面に露出した卵殻粉末の抗菌性が早く消滅するおそれがあるという問題があった。なお、特許文献1で用いられる卵殻粉末自体を抗菌剤として用いる場合も、抗菌性が早く消滅するおそれがあると推測される。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、抗菌性が長く継続する徐放性の抗菌剤とその製造方法、この抗菌剤を含む樹脂組成物及び樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る抗菌剤は、酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含む酸化カルシウム質粒子を含み、
前記酸化カルシウム質粒子の表面のpHが12.0以上である。
【0011】
前記水和抑制成分が酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0012】
前記酸化カルシウム質粒子は、前記酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が分散していることが好ましい。
【0013】
前記酸化カルシウム質粒子は、焼成卵殻粒子であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る樹脂組成物は、前記抗菌剤と、樹脂と、を含む。
【0015】
本発明に係る樹脂成形体は、前記樹脂組成物を含む。
【0016】
本発明に係る抗菌剤の製造方法は、乾燥卵殻を、1000℃以上で1~2時間焼成することで、酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含み、表面のpHが12.0以上である酸化カルシウム質粒子を得る焼成工程を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る抗菌剤によれば、抗菌性が長く継続する徐放性の抗菌剤を提供することができる。
【0018】
本発明に係る抗菌剤の製造方法によれば、抗菌性が長く継続する徐放性の抗菌剤を効率よく製造することができる。
【0019】
本発明に係る樹脂組成物によれば、樹脂組成物や樹脂組成物を用いて成形される樹脂成形体の表面及び内部が抗菌性を有する。
【0020】
本発明に係る樹脂成形体によれば、樹脂成形体の表面及び内部が抗菌性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
図2】本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100A(100)(サンプルA)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
図3図2を、Caの分布のみで示した定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、相対的に白い部分がCaの分布のみで示した部分である。
図4図2を、Mgの分布のみで示した定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、相対的に白い部分がMgの分布のみで示した部分である。
図5】本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100B(100)(サンプルB)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
図6】本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100C(100)(サンプルC)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
図7】本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100D(100)(サンプルD)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
図8】本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100E(100)(サンプルE)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
図9】本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20が示すpH領域と、各種細菌の生存可能なpH領域及び各種ウイルスが不活性でないpH領域とを示す図である。
図10】本発明に係る抗菌剤の製造方法の一例を示す図である。
図11】本発明に係る抗菌剤の用途の一例を示す図である。
図12】実施例2の試験片No.A3の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
図13図12を、Caの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がCaの分布のみで示した部分である。
図14図12を、Mgの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がMgの分布のみで示した部分である。
図15図12を、Oの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がOの分布のみで示した部分である。
図16】実施例2の試験片No.A3の他の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
図17図16を、Caの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がCaの分布のみで示した部分である。
図18図16を、Mgの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がMgの分布のみで示した部分である。
図19図16を、Oの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がOの分布のみで示した部分である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、抗菌剤について説明する。
【0023】
[抗菌剤]
本発明に係る抗菌剤は、酸化カルシウム質粒子を含む。本発明に係る抗菌剤は、通常、微小な酸化カルシウム質粒子の集合体である酸化カルシウム質粉末からなる。
【0024】
(酸化カルシウム質粒子)
酸化カルシウム質粒子は、酸化カルシウム質粒子のそれぞれが、酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含む。
【0025】
水和抑制成分としては、例えば酸化マグネシウムが用いられる。このため、酸化カルシウム質粒子は、例えば、酸化カルシウムと酸化マグネシウムとを含む。酸化マグネシウムは難溶性である。
【0026】
酸化カルシウム質粒子が、酸化カルシウムと酸化マグネシウムとを含む場合、酸化カルシウム質粒子は、通常、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が分散したものになっている。
【0027】
図1は、本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。図1に示される酸化カルシウム質粒子20は、長径と短径との相加平均値である長短平均径が10~15μm程度になっている。図1では、酸化カルシウム質粒子20が複数個集合して酸化カルシウム質粉末を形成している。
【0028】
図2は、本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100A(100)(サンプルA)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。なお、サンプルAは、ニワトリの白い卵殻の一例である。図2において、大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。図3は、図2を、Caの分布のみで示した定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、相対的に白い部分がCaの分布のみで示した部分である。図4は、図2を、Mgの分布のみで示した定性分析結果の一例である。大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、相対的に白い部分がMgの分布のみで示した部分である。
【0029】
図2では、図を縦横に2等分して4分割したときの右上部分にCaの分布を示す濃いグレーの部分が比較的多い。しかし、図2では、Caの分布を示す濃いグレーのマトリックス相中にMgの分布を示す薄いグレーの分散相が比較的均一に分散している。
【0030】
すなわち、図2に示されるように、焼成卵殻100A(サンプルA)の表面は、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が比較的均一に分散したものになっている。
【0031】
未焼成の卵殻中のCa及びMgの分布と、焼成後の卵殻中のCa及びMgの分布とは、通常、大きく変化しない。このため、図2図4に示す焼成卵殻100A(サンプルA)を焼成して得られる酸化カルシウム質粒子20は、図2図4に示すのと同様に酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が比較的均一に分散したものになる。
【0032】
酸化カルシウム質粒子20は、図2に示すように、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が比較的均一に分散していると、酸化カルシウム質粒子20中の酸化カルシウムの水和が抑制され、酸化カルシウム質粒子20の抗菌作用が長時間持続しやすいため好ましい。
【0033】
酸化カルシウム質粒子20としては、例えば、焼成卵殻粒子が用いられる。ここで、焼成卵殻粒子とは焼成卵殻の粒子であり、焼成卵殻とは、焼成した卵殻である。焼成卵殻は、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が比較的均一に分散した構造を有し、マトリックス相中に分散相が比較的均一に分散した焼成卵殻粒子を得やすいため好ましい。また、卵殻は卵殻内外での空気の透過を可能とするために、貝殻のような密な構造でなく面方向に多くの気孔を有する比較的粗な構造になっている。このため、焼成卵殻は、焼成のみ又は微力でのほぐし作業で容易に解砕されて焼成卵殻粒子が得られやすいことから、省設備、省エネルギーでの製造が可能であるため好ましい。
【0034】
焼成卵殻は、卵膜を含まない卵殻を焼成したものであると、卵膜のタンパク質に由来する悪臭が焼成卵殻粒子に残存したり焼成設備内部を汚染したりしにくいため好ましい。
【0035】
卵殻としては、例えば、ニワトリの卵、ウズラの卵、ダチョウの卵、等が用いられる。このうち、ニワトリの卵は、卵殻が、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が比較的均一に分散したものになりやすいため好ましい。なお、ウズラの卵は、卵殻が、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が不均一に分散したもの、例えばマトリックス相中に大きな分散相が偏在したものになりやすい。
【0036】
図5は、本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100B(100)(サンプルB)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。なお、サンプルBは、ウズラの卵殻の一例である。図5において、亀裂部は卵殻の亀裂、大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
【0037】
図5では、図中亀裂の上側に亀裂に平行するように左側中央から右側上部にかけて存在する横長部分と、図中亀裂の下側に存在する幅広C字状部分とに、Mgの分布を示す薄いグレーの部分が存在する。図5では、上記薄いグレーの部分以外はほぼCaの分布を示す濃いグレーの部分になっている。図5では、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が局所的に配置され、分散相が偏在している。
【0038】
酸化カルシウム質粒子20は、図5に示すように、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が偏在していると、酸化カルシウム質粒子20中の酸化カルシウムの水和が抑制されにくく、酸化カルシウム質粒子20の抗菌作用が長時間持続しにくいおそれがある。
【0039】
図6は、本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100C(100)(サンプルC)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。なお、サンプルCは、ニワトリの赤い卵殻の一例である。図6において、大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
【0040】
図6では、Caの分布を示す濃いグレーのマトリックス相中にMgの分布を示す薄いグレーの分散相がかなり均一に分散している。
【0041】
図7は、本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100D(100)(サンプルD)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。なお、サンプルDは、ニワトリの赤い卵殻の他の一例である。図7において、大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
【0042】
図7では、Caの分布を示す濃いグレーのマトリックス相中にMgの分布を示す薄いグレーの分散相がかなり均一に分散している。
【0043】
図8は、本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20の原料である焼成前の乾燥卵殻100E(100)(サンプルE)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での定性分析結果の一例である。なお、サンプルEは、ニワトリの白い卵殻の他の一例である。図8において、大きさ1μm程度の黒い小点は気孔、濃いグレーの部分はCaの分布、薄いグレーの部分はMgの分布を示す。
【0044】
図8では、図の中央部分から左側にかけてCaの分布を示す濃いグレーの部分が比較的多く、Mgの分布を示す薄いグレーの部分は上記中央部分の下側部分や右下部分にやや偏在している。しかし、図8では、全体としてCaの分布を示す濃いグレーのマトリックス相中にMgの分布を示す薄いグレーの分散相が比較的均一に分散している。
【0045】
すなわち、図8に示されるように、焼成卵殻100E(サンプルE)の表面は、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が比較的均一に分散したものになっている。
【0046】
酸化カルシウム質粒子20は、酸化マグネシウムを0.5~10質量%、好ましくは1~5質量%含む。酸化マグネシウムの含有量が上記範囲内にあると、酸化カルシウム質粒子20中の酸化カルシウムの水和が抑制され、酸化カルシウム質粒子20の抗菌作用が長時間持続しやすいため好ましい。
【0047】
酸化カルシウム質粒子20の大きさは、例えば1μm以上20μm以下である。酸化カルシウム質粒子20の大きさが上記範囲内にあると、酸化カルシウム質粒子20が酸化カルシウムと酸化マグネシウムとを十分に含みやすいため好ましい。ここで「酸化カルシウム質粒子20の大きさ」とは、粒子の最大長さを意味する。
【0048】
酸化カルシウム質粒子20は、長短平均径が10~15μmであると、酸化カルシウム質粒子20の集合体である酸化カルシウム質粉末と樹脂とを混合して得られる樹脂組成物中に酸化カルシウム質粒子20が均一に分散されやすくなることで酸化カルシウム質粒子20が樹脂組成物の表面に露出しやすいため好ましい。長短平均径とは、長径と短径との相加平均値である。
【0049】
酸化カルシウム質粒子20は、長短平均径が1~3μmであると、酸化カルシウム質粒子20の集合体である酸化カルシウム質粉末を繊維に組み込んだ場合に酸化カルシウム質粒子20が繊維の表面に露出しやすいため好ましい。
【0050】
酸化カルシウム質粒子20は、粒子表面のpHが12.0以上、好ましくは12.2以上である。ここで、酸化カルシウム質粒子20のpHとは、酸化カルシウム質粒子20の表面に水分を接触させたときの接触した水分の平衡状態でのpHを意味する。
【0051】
本発明に係る酸化カルシウム質粒子20は、酸化カルシウムと、酸化カルシウムの水和を抑制する酸化マグネシウム等の水和抑制成分と、を含み、好ましくは、酸化カルシウムからなるマトリックス相中に酸化マグネシウムからなる分散相が分散している。
【0052】
このため、本発明に係る酸化カルシウム質粒子20が水分と接触した場合、酸化カルシウムが露出した部分は速やかに水酸化カルシウムを生成し水分に溶解して局所的にpHが12.0以上になる。一方、本発明に係る酸化カルシウム質粒子20のうち酸化マグネシウム等の水和抑制成分は、一般的に難溶性であり、酸化カルシウムからなる部分の水分との接触を抑制して水酸化カルシウムの生成を抑制する。したがって、本発明に係る酸化カルシウム質粒子20が水分と接触した場合、全体として、酸化カルシウムから水酸化カルシウムへの変化及び水酸化カルシウムの溶解が比較的ゆっくり進行する。
【0053】
なお、上記酸化カルシウム質粒子20の粒子表面のpHは、酸化カルシウム質粒子20の表面に水分を接触させたときの接触した水分の平衡状態でのpHであるため、酸化カルシウム質粒子20の粒子表面に接触した水分全体のpHである。本発明に係る抗菌剤は、通常、酸化カルシウム質粒子20と同様に、抗菌剤を構成する粒子表面のpHが12.0以上である。
【0054】
図9は、本発明に係る抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20が示すpH領域と、各種細菌の生存可能なpH領域及び各種ウイルスが不活性でないpH領域とを示す図である。図9中、VOBLEEDと表示した矩形の領域は、本発明に係る抗菌剤(抗菌剤は酸化カルシウム質粒子20のみからなる)の示すpH領域である。図9中、細菌又はウイルス名、及びその左右に数値が記載された横長の帯部は、その細菌又はウイルスが、生存又は不活性でないpHの下限値及び上限値を示す。例えば、「6 口蹄疫ウイルス 9」は、口蹄疫ウイルスが、pH6~9の範囲内で不活性でなく、pH6未満及びpH9超で不活性であることを示す。また、「4 サルモネラ菌 9」は、サルモネラ菌が、pH4~9の範囲内で生存し、pH4未満及びpH9超で不活性であることを示す。
【0055】
図9に示すように、一般的な細菌やウイルスはpH12.6を超えると死滅又は不活性化する。本発明に係る抗菌剤は、酸化カルシウム質粒子20の粒子表面のpHが12.0以上であるため、抗菌剤の酸化カルシウム質粒子20に接触した一般的な細菌やウイルスは死滅又は不活性化する。
【0056】
酸化カルシウム質粒子20は、白度が90~100であり、白い。ここで、白度とは、酸化マグネシウムの極微粉を付着させた面の白さを100、暗黒状態を0としたときに、両者の間を百等分した指標である。本発明に係る抗菌剤は、通常、酸化カルシウム質粒子20と同様に白度が90~100であり、白い。
【0057】
酸化カルシウム質粒子20や抗菌剤の白度が上記範囲内にあると、抗菌剤と樹脂とを含む樹脂組成物や、樹脂組成物を含む樹脂成形体の色味を、白を含む広いバリエーションにすることができるため好ましい。
【0058】
(作用)
本発明に係る抗菌剤によれば、抗菌剤を構成する酸化カルシウム質粒子20が抗菌性を有し、この抗菌性は長く継続する徐放性の性質を示す。酸化カルシウム質粒子20の抗菌性は、酸化カルシウム質粒子20に含まれる酸化カルシウムの露出した部分が空気中等の水分と反応して水酸化カルシウムを生成し、この水酸化カルシウムが水分に溶解することで酸化カルシウム質粒子20の表面がpH12.0以上の強アルカリ性になることによるものである。また、抗菌剤の抗菌性が徐放性であることは、酸化カルシウム質粒子20に含まれる酸化マグネシウムが水に難溶性であるため、酸化カルシウム質粒子20の全体としては、酸化カルシウムから水酸化カルシウムへの変化及び水酸化カルシウムの溶解が比較的ゆっくり進行することによるものである。また、本発明に係る抗菌剤によれば、樹脂と混合して得られる樹脂組成物や樹脂成形体の表面及び内部が徐放性の抗菌性を有する。
【0059】
(効果)
本発明に係る抗菌剤によれば、抗菌性が長く継続する徐放性の抗菌剤が得られる。
【0060】
また、本発明に係る抗菌剤を構成する酸化カルシウム質粒子20が焼成卵殻粒子である場合、酸化カルシウム質粒子20が天然素材から形成されるため、環境に優しい抗菌剤が得られる。
【0061】
[抗菌剤の製造方法]
本発明に係る抗菌剤の製造方法は、焼成工程を備える。
【0062】
図10は、本発明に係る抗菌剤の製造方法の一例を示す図である。図10に示す抗菌剤の製造方法の一例では、原料として卵殻を用い、酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含み、表面のpHが12.0以上である酸化カルシウム質粒子20の集合体である酸化カルシウム質粉末(焼成卵殻粉末)を製造する例を示す。本発明に係る抗菌剤の製造方法は、必要により、焼成工程S20の前に乾燥工程を有していてもよいし焼成工程S20の前後の少なくとも一方に粉砕工程を有していてもよい。
【0063】
(乾燥工程)
原料として卵殻を用いる場合、乾燥工程は、卵殻を乾燥させて乾燥卵殻100を得る工程である。乾燥前の卵殻は卵膜を含まないことが好ましい。乾燥前の卵殻が卵膜を含まないと、焼成工程S20で得られる焼成卵殻にタンパク質に由来する匂いが残らないため好ましい。乾燥工程での乾燥温度は、好ましくは90~120℃である。
【0064】
(焼成工程)
焼成工程S20は、乾燥卵殻100を、1000℃以上で1~2時間焼成することで、酸化カルシウムと、前記酸化カルシウムの水和を抑制する水和抑制成分と、を含む酸化カルシウム質粒子20を含み、前記酸化カルシウム質粒子20の表面のpHが12.0以上である酸化カルシウム質粒子20を得る工程である。原料として乾燥卵殻100を用いる場合、焼成工程S20で得られる酸化カルシウム質粒子20は、通常、酸化カルシウム質粒子20の集合体である酸化カルシウム質粉末(焼成卵殻粒子の集合体である焼成卵殻粉末)の形態をとる。
【0065】
焼成工程S20は、例えば、乾燥卵殻100を、連続炉等の焼成炉中で焼成することにより実施される。なお、図10には、焼成工程S20の一例として、筒状の容器に収容した乾燥卵殻100を連続炉で焼成する様子を示した。しかし、本発明の焼成工程S20で用いられる焼成炉や乾燥卵殻100を保持する容器は、図10に示すものに限定されない。また、本発明の焼成工程S20は、乾燥卵殻100を保持する容器を用いず、焼成炉中のコンベア等に乾燥卵殻100を直接載置して行ってもよい。
【0066】
焼成工程S20での焼成温度は、好ましくは1100℃以上、より好ましくは1200℃以上である。
【0067】
焼成工程S20での上記焼成温度での焼成時間は、好ましくは1~2時間である。
【0068】
(焼成工程の後の粉砕工程)
焼成工程S20の後の粉砕工程S30は、酸化カルシウム質粒子20を粉砕することにより、粒径や形状を調整した酸化カルシウム質粒子20を得る工程である。
【0069】
粉砕工程S30は、酸化カルシウム質粒子20の長短平均径が10~15μmになるまで粉砕する工程であると、酸化カルシウム質粒子20の集合体である酸化カルシウム質粉末と樹脂とを混合して得られる樹脂組成物中に酸化カルシウム質粒子20が均一に分散されやすくなることで酸化カルシウム質粒子20が樹脂組成物の表面に露出しやすいため好ましい。
【0070】
粉砕工程S30は、酸化カルシウム質粒子20の長短平均径が1~3μmになるまで粉砕する工程であると、酸化カルシウム質粒子20の集合体である酸化カルシウム質粉末を繊維に組み込んだ場合に酸化カルシウム質粒子20が繊維の表面に露出しやすいため好ましい。
【0071】
(効果)
本発明に係る抗菌剤の製造方法によれば、抗菌性が長く継続する徐放性の抗菌剤を効率よく製造することができる。
【0072】
また、本発明に係る抗菌剤の製造方法において、原料として卵殻を用いかつ抗菌剤を構成する酸化カルシウム質粒子20が焼成卵殻粒子である場合、酸化カルシウム質粒子20が天然素材から形成されるため、環境に優しい抗菌剤が得られる。
【0073】
粉砕工程S30は、例えば、公知の粉砕機を用いて酸化カルシウム質粒子20を粉砕することにより実施される。なお、図10には、粉砕工程S30の一例として、石臼を示した。しかし、本発明の粉砕工程S30で用いられる粉砕機は、石臼に限定されず、公知の粉砕機を用いることができる。
【0074】
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、本発明に係る抗菌剤と、樹脂と、を含む。
【0075】
樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、PVC樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ナイロン樹脂等のポリアミド(PA)樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、エラストマー樹脂、PBT樹脂等の結晶性樹脂及び非結晶性樹脂を用いることができる。ここで、ポリプロピレンとしては、ホモPP、ランダムPP、ブロックPP等を用いることができる。また、ポリプロピレン共重合体としては、ランダムポリプロピレン共重合体、ブロックポリプロピレン共重合体等を用いることができる。
【0076】
上記樹脂は、新品で規格内の市場に提供される樹脂でもよいが、新品のOG(オフグレード)樹脂;容器包装プラスチック類、リサイクル樹脂等の再生樹脂等であってもよい。
【0077】
リサイクル樹脂としては、例えば、いわゆる「容リ材」を用いることができる。「容リ材」とは、容量包装リサイクル法に基づき各市町村が収集したプラスチック製容器包装廃棄物をマテリアルリサイクルして得られるリサイクル材料を意味する。容リ材としては、例えば、PP容リ材、PE容リ材等を用いることができる。ここで、PP容リ材は、ポリプロピレンを90質量%以上含む。また、PE容リ材は、ポリエチレンを90質量%以上含む。容リ材の形状としては、ペレット、フレーク等が挙げられる。
【0078】
本発明に係る樹脂組成物は、例えば、後述の本発明に係る樹脂成形体の原料となる。後述のように本発明に係る樹脂成形体は、樹脂中に存在し空気や水に接触しない高い抗菌性を保持する抗菌剤を有する場合、マテリアルリサイクルした場合に、リサイクル後の樹脂成形体の抗菌性を高い状態で維持する又はより高くすることが容易である。このため、本発明に係る樹脂組成物は、新品で規格内の市場に提供される樹脂、新品のOG(オフグレード)樹脂;容器包装プラスチック類、リサイクル樹脂等の再生樹脂等を用いて、マテリアルリサイクル用の樹脂組成物として好適に用いることができる。ここで、OG(オフグレード)樹脂とは、所定の複数のグレードの間に存する中間処理グレードの樹脂を意味する。なお、マテリアルリサイクル用の樹脂組成物には、適宜抗菌剤を添加してもよい。
【0079】
本発明に係る樹脂組成物は、抗菌剤の含有量が1~20質量%であると樹脂組成物中に抗菌剤が均一に分散されやすく、また樹脂組成物を成形して得られた樹脂成形体の表面の抗菌剤が高くなりやすいため好ましい。
【0080】
本発明に係る樹脂組成物は、例えば、樹脂ペレットのような形態にすることができる。
【0081】
(効果)
本発明に係る樹脂組成物によれば、樹脂組成物や樹脂組成物を用いて成形される樹脂成形体の表面及び内部が抗菌性を有する。
【0082】
後述のように本発明に係る樹脂成形体は、樹脂中に存在し空気や水に接触しない抗菌剤を有する場合、マテリアルリサイクルした場合に、リサイクル後の樹脂成形体の抗菌性を高い状態で維持する又はより高くすることが容易であるという効果も有する。本発明に係る樹脂成形物は、本発明に係る樹脂成形体の原料として好適である。
【0083】
[樹脂成形体]
本発明に係る樹脂組成物を成形すると、樹脂成形体を作製することができる。本発明に係る樹脂成形体は、例えば、樹脂の表面及び内部に本発明に係る抗菌剤が存在するようになっている。樹脂成形体としては、例えば、カップ1A(1)、トレイ1B(1)、食品トレイ1C(1)等が挙げられる。
【0084】
本発明に係る樹脂成形体は、抗菌剤の含有量が1~20質量%であると樹脂成形体中に抗菌剤が均一に分散されることで樹脂成形体の表面の抗菌剤が高くなりやすいため好ましい。
【0085】
本発明に係る樹脂成形体の成形方法としては、例えば、射出成型、押出成形、フィルム押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、プレス成形等を用いることができる。
【0086】
(効果)
本発明に係る樹脂成形体によれば、樹脂成形体の表面及び内部が抗菌性を有する。
【0087】
本発明に係る樹脂成形体の抗菌性は、主に水分を含む空間に露出したり水分に接触したりする抗菌剤の表面がpH12.0以上の強アルカリ性を示すことにより発現する。抗菌剤の表面がpH12.0以上になる理由は、抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20に含まれる酸化カルシウムの露出した部分が空気中等の水分と反応して水酸化カルシウムを生成し、この水酸化カルシウムが水分に溶解することで酸化カルシウム質粒子20の表面がpH12.0以上の強アルカリ性になることによるものである。
【0088】
例えば、本発明に係る樹脂成形体が、内部に空隙等を有しない緻密な樹脂の表面及び内部に、本発明に係る抗菌剤が存在するものである場合、樹脂成形体の抗菌性は、主に樹脂成形体の表面に露出した抗菌剤の表面で発現する。なお、本発明に係る樹脂成形体が、内部に空隙等を有しない緻密な樹脂の表面及び内部に、本発明に係る抗菌剤が存在するものである場合であっても露出していない抗菌剤に達する亀裂等が樹脂部分に生じることにより、露出していない抗菌剤に抗菌性が発現することもある。
【0089】
また、本発明に係る樹脂成形体が、内部に空隙等を有する疎な樹脂の表面及び内部に本発明に係る抗菌剤が存在するものである場合、樹脂成形体の抗菌性は、主に樹脂成形体の表面及び内部の空隙に露出した抗菌剤の表面で発現する。
【0090】
一方、本発明に係る樹脂成形体の樹脂中に含まれる抗菌剤のうち、水分を含む空間に露出したり水分に接触したりしない抗菌剤は、抗菌剤に含まれる酸化カルシウム質粒子20に含まれる酸化カルシウムが空気中等の水分と反応しないため、水酸化カルシウムを生成せず組成が変化しない。
【0091】
このため、本発明に係る樹脂成形体の樹脂中に含まれる抗菌剤のうち、水分を含む空間に露出したり水分に接触したりしない抗菌剤は、樹脂中で抗菌剤の機能を保持し続ける。従って、本発明に係る樹脂成形体において、樹脂中に含まれる抗菌剤のうち、水分を含む空間に露出したり水分に接触したりしなかった抗菌剤を含む樹脂成形体は、マテリアルリサイクルで再び樹脂成形体として用いる場合に、抗菌剤の機能を保持しやすい。
【0092】
本発明に係る樹脂成形体がマテリアルリサイクルで再び樹脂成形体として用いる場合に、抗菌剤の機能を保持しやすいことにつき、以下の試験を行った。はじめに、焼成卵殻粉末からなる抗菌剤と、樹脂と、を含む樹脂組成物を樹脂成形して本発明に係る樹脂成形体Aを作製し、1か月間使用した。次に、この樹脂成形体Aを粉砕し、得られた粉砕物を用い再度樹脂成形して樹脂成形体Bを作製した。これら樹脂成形体A及びBの表面についてpH測定を行ったところ、樹脂成形体Bの表面のpHは、樹脂成形体Aの表面と同様に12.0以上になることが分かった。これに対し、上記試験において、焼成卵殻粒子に代えてホタテ貝殻粉末を用いた以外は同様にして、樹脂成形体Cを作製し、1か月間使用した。次に、この樹脂成形体Cを粉砕し、得られた粉砕物を用い再度樹脂成形して樹脂成形体Dを作製した。これら樹脂成形体C及びDの表面についてpH測定を行ったところ、樹脂成形体Cの表面のpHは12.0以上であったが、樹脂成形体Dの表面のpHは12.0未満になることが分かった。このように、ホタテ貝殻粉末を用いた樹脂成形体はマテリアルリサイクル後の樹脂成形体の表面のpHが12.0未満になりやすいが、焼成卵殻粉末を用いた本発明に係る樹脂成形体はマテリアルリサイクル後の樹脂成形体の表面のpHが12.0以上になりやすいことが分かった。すなわち、焼成卵殻粉末を用いた本発明に係る樹脂成形体は、マテリアルリサイクルで再び樹脂成形体として用いる場合に、抗菌剤の機能を保持しやすいことが分かった。
【0093】
例えば、本発明に係る樹脂成形体を構成する全抗菌剤のうち、樹脂の表面に露出する抗菌剤の割合が10質量%、樹脂中に存在し空気や水に接触しない抗菌剤の割合が90質量%である樹脂成形体を考える。この樹脂成形体を十分な長期間使用すると樹脂の表面に露出する10質量%の抗菌剤は抗菌剤としての機能が失われる可能性があるが、樹脂中に存在する90質量%の抗菌剤は抗菌剤としての機能を保持し続ける可能性が高い。このため、十分な長期間使用した樹脂成形体から抗菌剤と樹脂とを含む樹脂組成物を作製し、この樹脂組成物をそのまま用いてマテリアルリサイクルした場合でも、リサイクル後の樹脂成形体はリサイクル前の樹脂成形体の抗菌性の90%の抗菌性を有する可能性が高い。また、十分な長期間使用した樹脂成形体から抗菌剤と樹脂とを含む樹脂組成物を作製し、この樹脂組成物に新たに抗菌剤を添加すれば、リサイクル後の樹脂成形体をリサイクル前の樹脂成形体の抗菌性の100%以上の抗菌性を有するようにすることも可能である。
【0094】
このように、樹脂中に存在し空気や水に接触しない抗菌剤を有する本発明に係る樹脂成形体によれば、マテリアルリサイクルを行った場合に、リサイクル後の樹脂成形体の抗菌性を高い状態で維持する又はより高くすることが容易であるという効果も有する。
【0095】
[抗菌液]
本発明に係る抗菌剤は、抗菌剤を構成する酸化カルシウム質粒子20の粒子表面のpHが12.0以上である。抗菌剤を水と混合すると、得られる上澄液80もアルカリ性になる。この上澄液80は、水に対する抗菌剤の混合割合を高くすることにより、pHを12.0以上にすることが可能である。このpH12.0以上の上澄液80は、抗菌液80として用いることができる。
【0096】
(効果)
本発明に係る抗菌液によれば、対象物品に噴霧、塗布等することで、対象物品の表面に抗菌性を付与することができる。
【0097】
図11は、本発明に係る抗菌剤の用途の一例を示す図である。図11に示すように、本発明に係る抗菌剤であるVOBLEED20(10)はそのまま抗菌剤10として用いることができる。本発明に係る抗菌剤は、水に対する抗菌剤の混合割合を高くすることにより、上澄液を抗菌液80として用いることができる。本発明に係る抗菌剤は、樹脂と混合することにより表面が抗菌性を有する樹脂ペレット等の樹脂組成物70が得られる。本発明に係る樹脂組成物70は、成形することにより、表面が抗菌性を有する樹脂成形体1(1A、1B、1C)が得られる。
【実施例0098】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
[実施例1]
(試験片)
<樹脂>
ランダムポリプロピレン共重合体を用意した。
【0100】
<抗菌剤>
抗菌剤として、VOBLEEDを用意した。
VOBLEEDは、焼成卵殻粉末のみからなるものであった。VOBLEEDは、分級により大きさが1μm~20μmの範囲内になるようにした。「大きさ」とは、粒子の最大長さを意味する。
VOBLEEDを構成する焼成卵殻粉末は、下記試験例1に示すように水に接触させたときの焼成卵殻粒子の表面のpHに相当する混合液の上澄液のpHが、1分後に12.34、3分後に12.50であった。
【0101】
<試験例1>
はじめに1000mlビーカーに水道水を500g入れ、水のpH及び温度を測定したところ、pH7.56、水温26.0℃であった。この水道水500gに、26.0℃の水道水中の焼成卵殻粉末(VOBLEED)の飽和溶解度を超える量である1.5gの焼成卵殻粉末を添加し(3質量%)、スターラーで攪拌した。この溶解しない焼成卵殻粉末を含む混合液の上澄液について、焼成卵殻粉末の添加0.5分後、添加1分後、添加2分後、添加3分後のpH及び温度を測定した。測定は3回実施し、pH及び温度の平均値を求めた。結果を表1に示す。
なお、焼成卵殻粉末の添加0.5分後の混合液は、明らかに溶け残りが多く、多くの粉末が水面上に浮いている状態であった。これは、焼成卵殻粉末に含まれる撥水性のMgOの作用であると推測される。
【0102】
<試験例2>
焼成卵殻粉末に代えて水酸化カルシウム粉末(粒径1μm~20μm)を用いた以外は試験例1と同様にして、水及び混合液の上澄液のpH及び温度を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
<試験例3>
焼成卵殻粉末に代えて酸化カルシウム粉末(粒径1μm~20μm)を用いた以外は試験例1と同様にして、水及び混合液の上澄液のpH及び温度を測定した。結果を表1に示す。
【0104】
表1に示すように、水酸化カルシウム粉末(試験例2)及び酸化カルシウム粉末(試験例3)は、水と混合した場合の上澄液のpHの上昇が急激であり、0.5分でpHがほぼ平衡状態になる。一方、焼成卵殻粉末(試験例1、VOBLEED)は、水と混合した場合の上澄液のpHの上昇が緩やかであり、pHがほぼ平衡状態になるまで1分程度要する。
【0105】
試験例1~試験例3より、焼成卵殻粉末(試験例1、VOBLEED)は、酸化カルシウムとこれよりも溶解度が小さい酸化マグネシウムとを含むために、水への溶解速度が水酸化カルシウム粉末や酸化カルシウム粉末よりも遅くなったと考えられる。一方、焼成卵殻粉末(試験例1、VOBLEED)は、上澄液のpHが1分後にpH12.0を超え2分後には水酸化カルシウム粉末(試験例2)及び酸化カルシウム粉末(試験例3)の上澄液のpHと同等の数値を示しており、焼成卵殻粉末に接触した水が十分に高いアルカリ性を示すことが分かった。
【0106】
これらの結果より、焼成卵殻粉末(試験例1、VOBLEED)は、接触した水が十分に高いアルカリ性を示すと共にその性質が水酸化カルシウム粉末や酸化カルシウム粉末よりも長期間持続する機能を有すると考えられる。
【0107】
【表1】
【0108】
<試験片の作製>
上記ランダムポリプロピレン共重合体と、VOBLEEDとを混錬して、ランダムポリプロピレン共重合体98質量%、VOBLEED2質量%のペレットを得た。
上記ペレットから50mm×50mmの試験片(試験片No.A2)を作製した。試験片No.A2では、ランダムポリプロピレン共重合体中にVOBLEEDの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.A2の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0109】
(試験菌液)
試験菌として、黄色ブドウ球菌(NBRC12732)及び大腸菌(NBRC3972)を用意した。これらの試験菌を用い、JIS Z 2801に準じて試験菌液を調製した。
【0110】
(抗菌性試験)
上記試験片及び試験菌液を用い、JIS Z 2801に準じて抗菌性試験を行った。
試験片は、試験片の表面に紫外線UVを10分間照射して清浄化した。
滅菌済シャーレを2個用意し、各シャーレ中に試験片の1個を試験面を上にして配置した。一方のシャーレ中の試験片の試験面に黄色ブドウ球菌の試験菌液0.4mLを滴下し、他方のシャーレ中の試験片の試験面に大腸菌の試験菌液0.4mLを滴下した。
各試験片上に滴下された試験菌液の上を、40mm×40mmのPEフィルムで被覆した。
試験菌液の接種後、35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した後の試験片(サンプルNo.SA2(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EA2(大腸菌))の菌数を測定し試験片の抗菌活性を判定した。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0111】
なお、表2中の菌数は、指数形式で示す。例えば、参考例1の「1.4E+04」は「1.4×10」を示し、比較例2の「E+03」は「10オーダー」を示す。表2中のNDは、「検出されなかった」ことを示す。
【0112】
また、表2の抗菌活性判定のA、B及びCの意味は以下のとおりである。
A:加工品(抗菌剤を含む試験片)が、無加工品(対照試験片;抗菌剤を含まない試験片)に比較して抗菌効果がある(加工品の菌数が無加工品の菌数より3桁以上減少)。
B:加工品が、無加工品(対照試験片)に比較して抗菌効果を有する可能性が高い(加工品の菌数が無加工品の菌数より2桁減少)。
C:加工品が、無加工品(対照試験片)に比較して抗菌効果がない(加工品の菌数が無加工品の菌数より1桁以下減少)。
【0113】
【表2】
【0114】
[参考例1及び2]
(対照試験片)
<対照試験片の準備>
実施例1で用いたものと同じPEフィルムを対照試験片(試験片No.RA)とした。試験片No.RAは、参考例1及び2で用いた。
【0115】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて対照試験片(試験片No.RA)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った。
参考例1では、試験菌液の接種直後(培養時間0)の対照試験片(サンプルNo.SRA0(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERA0(大腸菌))の抗菌性試験を行った。参考例2では、試験菌液の接種後、35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した後の対照試験片(サンプルNo.SRA24(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERA24(大腸菌))の抗菌性試験を行った。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0116】
[比較例1]
(試験片)
実施例1と同じランダムポリプロピレン共重合体のみを用いて50mm×50mmの試験片(試験片No.A1)を作製した。
【0117】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.A1)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SA1(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EA1(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0118】
[実施例2~4]
(試験片)
<試験片の作製>
上記ランダムポリプロピレン共重合体と、VOBLEEDとの配合比を、表2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして試験片(試験片No.A3~A5)を作製した。試験片No.A3~A5では、ランダムポリプロピレン共重合体中にVOBLEEDの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.A3~A5の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0119】
(試験片の表面分析)
試験片No.A3の表面について、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)を用いて走査型電子顕微鏡(SEM)写真観察及び定性分析を行った。
【0120】
図12は、実施例2の試験片No.A3からなる樹脂成形体1D(1)の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。図13は、図12を、Caの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がCaの分布のみで示した部分である。図14は、図12を、Mgの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がMgの分布のみで示した部分である。図15は、図12を、Oの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がOの分布のみで示した部分である。
【0121】
図16は、実施例2の試験片No.A3からなる樹脂成形体1Dの他の表面の、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)での走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。図17は、図16を、Caの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がCaの分布のみで示した部分である。図18は、図16を、Mgの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がMgの分布のみで示した部分である。図19は、図16を、Oの分布のみで示した定性分析結果の一例である。図中、相対的に白い部分がOの分布のみで示した部分である。
【0122】
図12によれば、試験片No.A3からなる樹脂成形体1Dでは、ランダムポリプロピレン共重合体からなる樹脂50の表面に、直径20μm程度の酸化カルシウム質粒子(焼成卵殻粉末、VOBLEED)20(20Aa、20Ab、20Ac等)が露出していることが分かった。
【0123】
一方、図13及び図14によれば、酸化カルシウム質粒子20Aa、20Ab、20AcのいずれもCa及びMgを含むことが分かった。また、図15によれば、酸化カルシウム質粒子20Aa、20Ab、20AcのいずれもOを含むことが分かった。
【0124】
図12図14より、酸化カルシウム質粒子20Aa、20Ab、20AcのいずれもCa及びMgを含むことが分かった。また、図15によれば、酸化カルシウム質粒子20Aa、20Ab、20Acは、Caの酸化物及びMgの酸化物を含むと推測されるが、試験例1の結果に鑑みた下記理由から酸化カルシウム質粒子20は酸化カルシウムと酸化マグネシウムとを含んでいるといえる。
【0125】
すなわち、試験例1における焼成卵殻粉末(試験例1、VOBLEED)の水への溶解速度が酸化カルシウム粉末(試験例3)の溶解速度よりも小さいという結果は、酸化カルシウム質粒子(焼成卵殻粉末、VOBLEED)20が、酸化カルシウムよりも水への溶解度が小さい物質である酸化マグネシウムを含んでいることを示しているといえる。すなわち、酸化カルシウム質粒子(焼成卵殻粉末、VOBLEED)20は、酸化カルシウムと酸化マグネシウムとを含んでいるといえる。
【0126】
また、図16によれば、試験片No.A3からなる樹脂成形体1Dでは、ランダムポリプロピレン共重合体からなる樹脂50の表面に、大きさ20μm程度の酸化カルシウム質粒子(焼成卵殻粉末、VOBLEED)20Baと、大きさ5~8μm程度の酸化カルシウム質粒子(焼成卵殻粉末、VOBLEED)20Bb、20Bc、20Bd、20Beと、大きさ1μm以上5μm未満の酸化カルシウム質粒子(焼成卵殻粉末、VOBLEED)20Bf、20Bgとが露出していることが分かった。
【0127】
一方、図17及び図18によれば、酸化カルシウム質粒子20Ba、20Bb、20Bc、20Bd、20Be、20Bf、20BgのいずれもCa及びMgを含むことが分かった。また、図19によれば、酸化カルシウム質粒子20Ba、20Bb、20Bc、20Bd、20Be、20Bf、20BgのいずれもOを含むことが分かった。
【0128】
図16図18より、大きさが1μm以上20μm以下の酸化カルシウム質粒子20Ba、20Bb、20Bc、20Bd、20Be、20Bf、20BgのいずれもCa及びMgを含むことが分かった。また、図19によれば、酸化カルシウム質粒子20Ba、20Bb、20Bc、20Bd、20Be、20Bf、20Bgは、Caの酸化物及びMgの酸化物を含むと推測されるが、試験例1の結果に鑑みた上記理由から酸化カルシウム質粒子20は酸化カルシウムと酸化マグネシウムとを含んでいるといえる。
【0129】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.A3~A5)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SA3~SA5(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EA3~EA5(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0130】
実施例2の結果より、樹脂成形体1Dは、ランダムポリプロピレン共重合体からなる樹脂50の表面に存在する酸化カルシウム質粒子(焼成卵殻粉末、VOBLEED)20の大きさが1μm以上20μm以下の範囲内で、酸化カルシウム質粒子20が酸化カルシウムと酸化マグネシウムとを含んでいるといえ、この結果、抗菌性試験の結果が良好になっていると考えられる。
【0131】
[参考例3及び4]
(対照試験片)
参考例1及び2の対照試験片(試験片No.RA)と同じ試験片を耐水処理して、試験片(試験片No.RB)を作製した。試験片No.RBは、参考例3及び4で用いた。
上記耐水処理は、SIAA耐水区分2の浸漬条件である50℃水中に16時間浸漬させる処理とした。
【0132】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて対照試験片(試験片No.RB)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った。
参考例3では、試験菌液の接種直後(培養時間0)の対照試験片(サンプルNo.SRB0(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERB0(大腸菌))の抗菌性試験を行った。参考例4では、試験菌液の接種後、35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した後の対照試験片(サンプルNo.SRB24(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERB24(大腸菌))の抗菌性試験を行った。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0133】
[比較例2]
(試験片)
比較例1の試験片(試験片No.A1)と同じ試験片を耐水処理して、比較例2の試験片を作製した(試験片No.B1)。
上記耐水処理は、SIAA耐水区分2の浸漬条件である50℃水中に16時間浸漬させる処理とした。
【0134】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.B1)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SB1(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EB1(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0135】
[実施例5~8]
(試験片)
実施例1~4の試験片(試験片No.A2~A5)と同じ試験片のそれぞれを耐水処理して、実施例5~8の試験片を作製した(試験片No.B2~B5)。
上記耐水処理は、SIAA耐水区分2の浸漬条件である50℃水中に16時間浸漬させる処理とした。
【0136】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.B2~B5)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SB2~SB5(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EB2~EB5(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0137】
[実施例9]
(試験片)
<樹脂>
ポリスチレンを用意した。
【0138】
<抗菌剤>
実施例1と同じVOBLEEDを用意した。
【0139】
<試験片の作製>
上記ポリスチレンと、VOBLEEDとを混錬して、ポリスチレン98質量%、VOBLEED2質量%のペレットを得た。
上記ペレットから50mm×50mmの試験片(試験片No.C2)を作製した。試験片No.C2では、ポリスチレン中にVOBLEEDの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.C2の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0140】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.C2)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SC2(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EC2(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0141】
[参考例5及び6]
(対照試験片)
<対照試験片の準備>
実施例1で用いたものと同じPEフィルムを対照試験片(試験片No.RC)とした。
【0142】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて対照試験片(試験片No.RC)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った。
参考例5では、試験菌液の接種直後(培養時間0)の対照試験片(サンプルNo.SRC0(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERC0(大腸菌))の抗菌性試験を行った。参考例6では、試験菌液の接種後、35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した後の対照試験片(サンプルNo.SRC24(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERC24(大腸菌))の抗菌性試験を行った。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0143】
[比較例3]
(試験片)
実施例9と同じポリスチレンのみを用いて50mm×50mmの試験片(試験片No.C1)を作製した。
【0144】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.C1)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SC1(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EC1(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0145】
[実施例10~12]
(試験片)
<試験片の作製>
上記ポリスチレンと、VOBLEEDとの配合比を、表2に示すように変えた以外は、実施例9と同様にして試験片(試験片No.C3~C5)を作製した。試験片No.C3~C5では、ポリスチレン中にVOBLEEDの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.C3~C5の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0146】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.C3~C5)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SC3~SC5(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EC3~EC5(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0147】
[実施例13]
(試験片)
<樹脂>
ABS樹脂を用意した。
【0148】
<抗菌剤>
実施例1と同じVOBLEEDを用意した。
【0149】
<試験片の作製>
上記ABS樹脂と、VOBLEEDとを混錬して、ABS樹脂98質量%、VOBLEED2質量%のペレットを得た。
上記ペレットから50mm×50mmの試験片(試験片No.D2)を作製した。試験片No.D2では、ABS樹脂中にVOBLEEDの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.D2の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0150】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.D2)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SD2(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ED2(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0151】
[参考例7及び8]
(対照試験片)
<対照試験片の準備>
実施例1で用いたものと同じPEフィルムを対照試験片(試験片No.SRD)とした。
【0152】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて対照試験片(試験片No.SRD)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った。
参考例7では、試験菌液の接種直後(培養時間0)の対照試験片(サンプルNo.SRD0(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERD0(大腸菌))の抗菌性試験を行った。参考例8では、試験菌液の接種後、35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した後の対照試験片(サンプルNo.SRD24(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERD24(大腸菌))の抗菌性試験を行った。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0153】
[比較例4]
(試験片)
実施例13と同じABS樹脂のみを用いて50mm×50mmの試験片(試験片No.D1)を作製した。
【0154】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.D1)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SD1(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ED1(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0155】
[実施例14~16]
(試験片)
<試験片の作製>
上記ABS樹脂と、VOBLEEDとの配合比を、表2に示すように変えた以外は、実施例13と同様にして試験片(試験片No.D3~D5)を作製した。試験片No.D3~D5では、ABS樹脂中にVOBLEEDの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.D3~D5の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0156】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.D3~D5)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SD3~SD5(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ED3~ED5(大腸菌))。
試験条件及び結果を表2に示す。
【0157】
[実施例17]
(試験片)
<樹脂>
PP容リペレットを用意した。ここで、「PP容リペレット」とは、PP(ポリプロピレン)製容リ材のペレットを意味する。また、「容リ材」とは、容量包装リサイクル法に基づき各市町村が収集したプラスチック製容器包装廃棄物をマテリアルリサイクルして得られるリサイクル材料を意味する。PP容リペレットは、PPを90質量%以上含み、残部がPP以外の樹脂やその他不純物からなるものであった。
【0158】
<抗菌剤>
実施例1と同じVOBLEEDを用意した。
【0159】
<試験片の作製>
上記PP容リペレットと、VOBLEEDとを混錬して、PP製容リ材99質量%、VOBLEED1質量%のペレットを得た。
上記ペレットから50mm×50mmの試験片(試験片No.E2)を作製した。試験片No.E2では、PP製容リ材中にVOBLEEDの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.E2の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0160】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.E2)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SE2(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EE2(大腸菌))。
試験条件及び結果を表3に示す。
【0161】
【表3】
【0162】
[参考例9]
(対照試験片)
<対照試験片の準備>
実施例1で用いたものと同じPEフィルムを対照試験片(試験片No.RE)とした。
【0163】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて対照試験片(試験片No.RE)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った。
試験菌液の接種直後(培養時間0)の対照試験片(サンプルNo.SRE0(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.ERE0(大腸菌))の抗菌性試験を行った。
試験条件及び結果を表3に示す。表3の抗菌活性判定(A)の意味は表2の抗菌活性判定(A)の意味と同じである。
【0164】
[比較例3]
(試験片)
実施例17と同じPP容リペレットのみを用いてPP製容リ材100質量%の50mm×50mmの試験片(試験片No.E1)を作製した。
【0165】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.E1)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SE1(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EE1(大腸菌))。
試験条件及び結果を表3に示す。
【0166】
[実施例18~20]
(試験片)
<試験片の作製>
上記PP容リペレットと、VOBLEEDとの配合比を、表3に示すように変えた以外は、実施例17と同様にして試験片(試験片No.E3~E5)を作製した。試験片No.E3~E5では、PP製容リ材中にVOBLEEDの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.E3~E5の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0167】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.E3~E5)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SE3~SE5(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EE3~EE5(大腸菌))。
試験条件及び結果を表3に示す。
【0168】
[参考例10]
(試験片)
<樹脂>
実施例17と同じPP容リペレットを用意した。
【0169】
<抗菌剤>
抗菌剤として、株式会社シナネンゼオミック製低変色樹脂添加抗菌剤であるゼオミックLJ10D-CP(D50:7~10μm、平均粒子径:8~12μm)を用意した。
ゼオミックLJ10D-CPは、ゼオライト骨格に銀イオンが担持された銀系無機抗菌剤をカプセル化した粒子からなるものであった。
【0170】
<試験片の作製>
上記PP容リペレットと、ゼオミックLJ10D-CPとを混錬して、PP容リペレット99.7質量%、ゼオミックLJ10D-CP0.3質量%のペレットを得た。
上記ペレットから50mm×50mmの試験片(試験片No.E6)を作製した。試験片No.E6では、PP製容リ材中にゼオミックLJ10D-CPの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.E6の表面には一部のゼオミックLJ10D-CPが露出していた。
【0171】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.E6)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SE6(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EE6(大腸菌))。
試験条件及び結果を表3に示す。
【0172】
[参考例11及び12]
(試験片)
<試験片の作製>
上記PP容リペレットと、ゼオミックLJ10D-CPとの配合比を、表3に示すように変えた以外は、参考例10と同様にして試験片(試験片No.E7(参考例11)及びE8(参考例12))を作製した。試験片No.E7及びE8では、PP製容リ材中にゼオミックLJ10D-CPの各粒子がほぼ均一に分散して含まれていた。試験片No.E7及びE8の表面には一部のVOBLEEDが露出していた。
【0173】
(抗菌性試験)
試験片(試験片No.A2)に代えて試験片(試験片No.E7及びE8)を用いた以外は実施例1と同様にして抗菌性試験を行った(サンプルNo.SE7及びSE8(黄色ブドウ球菌)、サンプルNo.EE7及びEE8(大腸菌))。
試験条件及び結果を表3に示す。
【0174】
表2及び3より、樹脂成形体のVOBLEEDの含有量が1~20質量%の範囲内で樹脂成形体の表面の抗菌剤が高いことが分かった。
【0175】
本発明は、上述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0176】
1、1A、1B、1C、1D 樹脂成形体
10 抗菌剤
20、20Aa、20Ab、20Ac、20Ba、20Bb、20Bc、20Bd、20Be、20Bf、20Bg 酸化カルシウム質粒子(焼成卵殻、焼成卵殻粒子)
50 樹脂
70 樹脂組成物(樹脂ペレット)
80 上澄液(抗菌液)
100、100A、100B、100C、100D、100E 乾燥卵殻
S20 焼成工程
S30 粉砕工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19