(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002967
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/14 20060101AFI20241226BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20241226BHJP
B60C 15/06 20060101ALI20241226BHJP
B60C 9/04 20060101ALI20241226BHJP
B60C 15/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B60C5/14 Z
B60C11/00 B
B60C15/06 C
B60C9/04 D
B60C15/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103386
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 瞳
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA08
3D131BA01
3D131BA05
3D131BA09
3D131BA18
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC36
3D131BC45
3D131CB01
3D131CB11
3D131CB12
3D131CB13
3D131EA01Z
3D131EA02U
(57)【要約】
【課題】タイヤの電気抵抗を継続的に低減させること。
【解決手段】ビードコア11と体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であるビード部ゴム30とが配置される一対のビード部10と、一対のビード部10間に架け渡され体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]以上である少なくとも1層のカーカス層13と、カーカス層13のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層14と、ベルト層14のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴム15と、シート状に形成されてタイヤ内表面25における少なくともベルト層14のタイヤ幅方向における端部144に重なる位置からビード部10まで連続して延在し、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である導電部材50と、を備え、導電部材50は、タイヤ径方向における内側の端部51がビード部10に配置されるビード部ゴム30に覆われる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードコアと体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であるビード部ゴムとが配置される一対のビード部と、
一対の前記ビード部間に架け渡され体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]以上である少なくとも1層のカーカス層と、
前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、
前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムと、
シート状に形成されてタイヤ内表面における少なくとも前記ベルト層のタイヤ幅方向における端部に重なる位置から前記ビード部まで連続して延在し、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である導電部材と、
を備え、
前記導電部材は、タイヤ径方向における内側の端部が前記ビード部に配置される前記ビード部ゴムに覆われることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記導電部材は、厚みTが0.01[mm]≦T≦3.0[mm]の範囲内である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記トレッドゴムは、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドのタイヤ径方向内側に積層されるアンダートレッドとを有し、且つ、
1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有すると共に少なくとも前記キャップトレッドを貫通して前記タイヤ接地面に露出するアーストレッドを備える請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記導電部材が前記ビード部ゴムに覆われる部分のタイヤ径方向における外側の端部の位置から、前記導電部材のタイヤ径方向における最も内側に位置する部分までのタイヤ径方向における高さHと、タイヤ断面高さSHとの関係が、0.10≦H/SH≦0.35の範囲内である請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記導電部材は、前記ビードコアのタイヤ幅方向内側の位置における、前記導電部材から前記タイヤ内表面までの厚みTRと前記導電部材の厚みTとの関係が、1.0≦TR/T≦4.5の範囲内である請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記導電部材は、タイヤ子午線方向の断面における前記ビード部ゴムに覆われている部分の長さLが、15[mm]≦L≦40[mm]の範囲内である請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記導電部材は帯状の形状で形成され、帯の幅方向がタイヤ周方向となる向きで配置される請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記導電部材は、タイヤ最大幅位置における前記導電部材の幅Wと、前記タイヤ最大幅位置におけるタイヤ周長Lpとが、W/Lp≦0.10の関係を有する請求項7に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記導電部材は、前記導電部材のゴム硬さHs(E)と前記ビード部ゴムのゴム硬さHs(C)の差Hs(E)-Hs(C)が、-5≦Hs(E)-Hs(C)≦5の範囲内である請求項1または2に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題などから低燃費タイヤの要求が高まっている。タイヤを低燃費化する手法として、タイヤのキャップトレッド、アンダートレッド、サイドウォールゴムなどを構成するゴムコンパウンドのシリカ含有量を増加させることで、タイヤの転がり抵抗を抑えるという手法が用いられている。しかしながら、シリカは絶縁特性が高いため、キャップトレッド等に用いられるゴムコンパウンドのシリカ含有量が増加すると、キャップトレッド等の電気抵抗値が増加して、タイヤの帯電抑制性能が低下する。タイヤの帯電抑制性能が低下すると、車両の走行時に発生する静電気が蓄積し易くなるため、ラジオノイズ等の電波障害を引き起こし易くなる。
【0003】
このため、従来の空気入りタイヤの中には、帯電抑制性能を向上させて車両走行時に車両に発生する静電気を路面に放出し易くするために、電気抵抗値が低い導電部材を備えているものがある。例えば、特許文献1では、1×10^8[Ω・mm^2]未満の表面抵抗率を有する導電部を、ビード部からベルト層までタイヤ内周面に露出しつつ連続して延在させて配置することにより、タイヤの帯電抑制性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導電部材に例えばゴムシートを採用した場合、インナーライナに対する導電部材の接着性が悪くなることがある。この場合、導電部材をインナーライナに接着してタイヤ内周面に露出させて配置した際に、タイヤ運搬時や使用時に撓みが生じ易いビード部側の端部を起点として、導電部材の剥離が発生する虞がある。導電部材がインナーライナから剥離した場合、導電部材による電気抵抗を低減させる効果が低下するため、タイヤの電気抵抗を継続的に低減させるという観点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、タイヤの電気抵抗を継続的に低減させることのできるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤは、ビードコアと体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であるビード部ゴムとが配置される一対のビード部と、一対の前記ビード部間に架け渡され体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]以上である少なくとも1層のカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムと、シート状に形成されてタイヤ内表面における少なくとも前記ベルト層のタイヤ幅方向における端部に重なる位置から前記ビード部まで連続して延在し、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である導電部材と、を備え、前記導電部材は、タイヤ径方向における内側の端部が前記ビード部に配置される前記ビード部ゴムに覆われることを特徴とする。
【0008】
また、上記タイヤにおいて、前記導電部材は、厚みTが0.01[mm]≦T≦3.0[mm]の範囲内であることが好ましい。
【0009】
また、上記タイヤにおいて、前記トレッドゴムは、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドのタイヤ径方向内側に積層されるアンダートレッドとを有し、且つ、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有すると共に少なくとも前記キャップトレッドを貫通して前記タイヤ接地面に露出するアーストレッドを備えることが好ましい。
【0010】
また、上記タイヤにおいて、前記導電部材が前記ビード部ゴムに覆われる部分のタイヤ径方向における外側の端部の位置から、前記導電部材のタイヤ径方向における最も内側に位置する部分までのタイヤ径方向における高さHと、タイヤ断面高さSHとの関係が、0.10≦H/SH≦0.35の範囲内であることが好ましい。
【0011】
また、上記タイヤにおいて、前記導電部材は、前記ビードコアのタイヤ幅方向内側の位置における、前記導電部材から前記タイヤ内表面までの厚みTRと前記導電部材の厚みTとの関係が、1.0≦TR/T≦4.5の範囲内であることが好ましい。
【0012】
また、上記タイヤにおいて、前記導電部材は、タイヤ子午線方向の断面における前記ビード部ゴムに覆われている部分の長さLが、15[mm]≦L≦40[mm]の範囲内であることが好ましい。
【0013】
また、上記タイヤにおいて、前記導電部材は帯状の形状で形成され、帯の幅方向がタイヤ周方向となる向きで配置されることが好ましい。
【0014】
また、上記タイヤにおいて、前記導電部材は、タイヤ最大幅位置における前記導電部材の幅Wと、前記タイヤ最大幅位置におけるタイヤ周長Lpとが、W/Lp≦0.10の関係を有することが好ましい。
【0015】
また、上記タイヤにおいて、前記導電部材は、前記導電部材のゴム硬さHs(E)と前記ビード部ゴムのゴム硬さHs(C)の差Hs(E)-Hs(C)が、-5≦Hs(E)-Hs(C)≦5の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るタイヤは、タイヤの電気抵抗を継続的に低減させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面から一方側の領域の詳細図である。
【
図3】
図3は、ベルト層に対する導電部材のラップ幅についての説明図である。
【
図5】
図5は、
図4におけるビードコアのタイヤ幅方向内側の位置での導電部材の詳細図である。
【
図6】
図6は、空気入りタイヤをタイヤ回転軸の方向にみた場合における導電部材の配置の形態を示す模式図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、導電部材の端部がビードコアのタイヤ径方向内側に位置する状態を示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、導電部材がビードコアのタイヤ幅方向外側に回り込んでいる状態を示す説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、導電部材の端部がビード部ゴムに入り込んでいる状態を示す説明図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、導電部材がビード部で折れ曲がる状態を示す説明図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、空気入りタイヤをタイヤ回転軸の方向にみた場合における導電部材の配置の形態を示す模式図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、導電部材がタイヤ赤道面をタイヤ幅方向に跨いで配置される状態を示す説明図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、導電部材がタイヤ赤道面をタイヤ幅方向に跨いで配置される状態を示す説明図である。
【
図14】
図14は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、導電部材がタイヤ幅方向における両側に亘って配置される状態を示す説明図である。
【
図15】
図15は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、導電部材がタイヤ幅方向における両側に配置される状態を示す説明図である。
【
図16】
図16は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、アーストレッドが配置される状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
[実施形態]
[空気入りタイヤ]
以下の説明では、本発明に係るタイヤの一例として、空気入りタイヤ1を用いて説明する。タイヤの一例である空気入りタイヤ1は、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。
【0020】
また、以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸であるタイヤ回転軸(図示省略)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、タイヤ回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面であり、タイヤ赤道面CLは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における中心位置であるタイヤ幅方向中心線と、タイヤ幅方向における位置が一致する。タイヤ幅は、タイヤ幅方向において最も外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。また、以下の説明では、タイヤ子午断面とは、タイヤ回転軸を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。
【0021】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1を示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域を示している。また、同図は、空気入りタイヤの一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。
【0022】
実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3、3と、一対のビード部10、10と、カーカス層13と、ベルト層14と、カーカス内側ゴム層20とを備える。このうち、一対のサイドウォール部3、3と、一対のビード部10、10とは、それぞれタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に1つずつが配置されている。
【0023】
一対のビード部10、10は、一対のサイドウォール部3、3のタイヤ径方向内側に位置しており、それぞれビードコア11と、ビードフィラー12と、ビード部ゴム30とを有している。即ち、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側には、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、一対のビード部ゴム30、30とが配置されている。
【0024】
一対のビードコア11、11は、複数のビードワイヤを束ねて成る環状部材であり、一対のビード部10、10のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外側にそれぞれ配置されてビード部10を補強する。
【0025】
カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造、或いは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向における両側に位置する一対のビード部10、10間に、トロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなどの有機繊維材から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成されている。このカーカス層13のカーカスプライは、タイヤ周方向に対するカーカスコードの延在方向の傾斜角として定義されるカーカス角度が、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下の範囲内になっている。
【0026】
本実施形態では、カーカス層13が、単層構造を有し、タイヤ幅方向両側のビードコア11、11間に連続して架け渡されている。また、カーカス層13の両端部が、ビードコア11及びビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止されている。つまり、カーカス層13は、タイヤ子午断面視における両端部付近が、ビードコア11及びビードフィラー12のタイヤ幅方向内側からタイヤ径方向内側を通り、タイヤ幅方向外側に巻き返されている。
【0027】
このためカーカス層13は、一対のビード部10同士の間に亘って配置されるカーカス本体部13aと、カーカス本体部13aから連続して形成されビードコア11のタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側にかけて折り返されるターンナップ部13bと、を有している。ここでいうカーカス本体部13aは、カーカス層13における一対のビードコア11のタイヤ幅方向内側同士の間に亘って形成される部分になっており、ターンナップ部13bは、ビードコア11のタイヤ幅方向内側でカーカス本体部13aから連続して形成され、ビードコア11のタイヤ径方向内側を通ってタイヤ幅方向外側にかけて折り返される部分になっている。ビードフィラー12は、このようにビードコア11のタイヤ幅方向外側に折り返される部分であるターンナップ部13bのタイヤ幅方向内側で、且つ、ビードコア11のタイヤ径方向外側に配置されている。
【0028】
このように形成されるカーカス層13のカーカスプライは、カーカスコードのコートゴムの60[℃]のtanδ値が、0.22以下であることが好ましい。また、カーカス層13は、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]以上になっており、詳しくは、カーカス層13は、カーカスコードのコートゴムの体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]以上になっている。これらにより、タイヤの転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率を有するコートゴムは、例えば、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用することにより生成される。さらに、コートゴムは、シリカを使用せずに構成されても良いし、シリカを含有させて補強されても良い。
【0029】
なお、60[℃]のtanδ値は、(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、振幅±0.5%、周波数20Hzの条件で測定される。
【0030】
また、体積抵抗率(体積固有抵抗)は、JIS K6271規定の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-体積抵抗率及び表面抵抗率の求め方」に基づいて測定される。一般に、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満、もしくは表面抵抗率が1×10^8[Ω/cm]未満の範囲にあれば、部材が静電気の帯電を抑制可能な導電性を有するといえる。
【0031】
一対のビード部10、10が有する一対のビード部ゴム30、30は、タイヤ幅方向両側のビードコア11、11及びカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されている。ビード部ゴム30は、空気入りタイヤ1をリムホイールに装着する際にリムホイールが有するリムフランジRに当接する部分になっており、ビード部10における、リムフランジRに対する接触面を構成する。
【0032】
ビード部ゴム30としては、空気入りタイヤ1をリムホイールに嵌合させた際にリムフランジRに接触するリムクッションゴムや、空気入りタイヤ1をリムホイールに嵌合させた際にカーカス層13がリムフランジRに接触して損傷することを抑制するゴムチェーファが挙げられる。ビード部10にリムクッションゴムとゴムチェーファとを隣接して配置した場合、双方の境界を明確に判別し難くなることがあるため、本実施形態では、ビード部10に配置されるこれらのリムクッションゴムやゴムチェーファを総称して、ビード部ゴム30として説明する。ビード部ゴム30は、体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]未満になっており、ビード部ゴム30の体積抵抗率は、1×10^7[Ω・cm]以下であることが好ましい。
【0033】
ベルト層14は、タイヤ幅方向に延びる1枚以上のベルトプライを有しており、本実施形態では、複数のベルトプライ141~143が積層されている。即ち、本実施形態では、ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とをタイヤ径方向に積層することにより構成され、カーカス層13のタイヤ径方向外側に配置されてカーカス層13の外周に掛け廻されている。一対の交差ベルト141、142は、スチール或いは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの延在方向の傾斜角であるベルト角度が、絶対値で20[deg]以上65[deg]以下の範囲内になっている。また、一対の交差ベルト141、142は、ベルト角度が相互に異符号となり、ベルトコードの延在方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造になっている。即ち、一対の交差ベルト141、142は、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向へのベルトコードの傾斜方向が、互いに反対方向になっている。ベルトカバー143は、コートゴムで被覆されたスチール或いは有機繊維材から成る複数のコードを圧延加工して構成され、ベルト角度が絶対値で0[deg]以上10[deg]以下の範囲内になっている。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0034】
トレッド部2は、ゴム組成物であるトレッドゴム15を有して構成され、カーカス層13及びベルト層14のタイヤ径方向外側に配置されていると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出している。このため、トレッド部2は、外周表面が空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成しており、トレッド部2には、タイヤ周方向に延びる周方向主溝6やラグ溝(図示省略)等の溝が複数形成されている。また、トレッド部2を構成するトレッドゴム15は、キャップトレッド151と、アンダートレッド152とを有している。
【0035】
キャップトレッド151は、トレッド部2のタイヤ径方向における最も外側に位置してタイヤ接地面2aを構成するゴム部材であり、単層構造を有しても良いし(
図1参照)、多層構造を有しても良い(図示省略)。キャップトレッド151の60[℃]のtanδ値は、0.25以下であることが好ましい。また、キャップトレッド151の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。これらにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率をもつキャップトレッド151は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。
【0036】
また、アンダートレッド152は、キャップトレッド151のタイヤ径方向内側に積層される部材である。アンダートレッド152の体積抵抗率は、キャップトレッド151の体積抵抗率よりも低いことが好ましい。
【0037】
一対のサイドウォール部3、3は、それぞれサイドウォールゴム16を有して構成され、一対のサイドウォール部3、3が有する一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されている。サイドウォールゴム16の60[℃]のtanδ値は、0.20以下であることが好ましい。また、サイドウォールゴム16の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。これらにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率をもつサイドウォールゴム16は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。
【0038】
なお、キャップトレッド151の体積抵抗率の上限値、アンダートレッド152の体積抵抗率の下限値、サイドウォールゴム16の体積抵抗率の上限値及びリムクッションゴム17の体積抵抗率の下限値は、特に限定がないが、これらがゴム部材であることから物理的な制約を受ける。
【0039】
カーカス内側ゴム層20は、空気入りタイヤ1の内側の表面であるタイヤ内表面25を構成しており、空気入りタイヤ1の内側の空間であるタイヤ内腔に面している。このように、タイヤ内表面25を構成するカーカス内側ゴム層20は、カーカス層13に対してタイヤ内腔側に配置されるゴム層になっており、カーカス層13をタイヤ内腔側から覆っている。
【0040】
[帯電抑制構造]
図2は、
図1のタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLから一方側の領域の詳細図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、車両走行時にて車両に発生する静電気を路面に放出するために、帯電抑制構造が採用されており、帯電抑制構造として、導電部材50が用いられる。導電部材50は、シート状に形成されてタイヤ周方向における一部の位置で、タイヤ内表面25における少なくともベルト層14のタイヤ幅方向における端部144に重なる位置からビード部10まで連続して延在し、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満の部材になっている。本実施形態では、導電部材50は、ベルト層14に対してはタイヤ幅方向における所定の範囲でタイヤ径方向に重なって配置されている。
【0041】
また、導電部材50は、ビード部10の位置では、タイヤ径方向における内側の端部51が、ビード部10に配置されるビード部ゴム30に覆われている。つまり、導電部材50は、ビード部10のタイヤ内腔側の部分における、ビード部ゴム30が配置される部分では、ビード部ゴム30に覆われることによりタイヤ内腔側に露出せず、ビード部ゴム30よりもタイヤ径方向外側の部分では、導電部材50はタイヤ内腔側に露出してタイヤ内表面25に配置されている。即ち、導電部材50は、ビード部10からベルト層14のタイヤ径方向内側の位置まで連続して配置されると共に、ビード部10におけるビード部ゴム30が配置される部分ではビード部ゴム30に覆われ、ビード部ゴム30よりもタイヤ径方向外側の部分ではタイヤ内表面25に配置されている。
【0042】
本実施形態では、導電部材50は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に配置されるビード部10のうち、一方のビード部10から、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置まで連続して配置されている。即ち、本実施形態では、導電部材50は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの片側に配置されている。
【0043】
なお、本実施形態では、ビード部10とは、リム径の測定点からタイヤ断面高さSHの1/3までの領域をいう。また、タイヤ断面高さSHとは、タイヤ外径とリム径との差の1/2をいい、空気入りタイヤ1を規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0044】
ここで、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、或いはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0045】
導電部材50は、カーカス内側ゴム層20に沿って配置されている。導電部材50は、カーカス内側ゴム層20に対して、例えば、接着剤を用いることにより、カーカス内側ゴム層20におけるタイヤ内腔側の面にカーカス内側ゴム層20に沿って配置されている。
【0046】
詳しくは、導電部材50は、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置では、カーカス内側ゴム層20のタイヤ径方向内側でタイヤ内表面25に沿って配置されており、導電部材50におけるタイヤ方向外側の端部は、ベルト層14のタイヤ径方向内側の部分に位置している。これにより、導電部材50は、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置では、ベルト層14に対してタイヤ径方向に重なって配置されている。
【0047】
また、導電部材50は、サイドウォール部3の位置では、カーカス内側ゴム層20のタイヤ幅方向内側でタイヤ内表面25に沿って配置されている。さらに、導電部材50は、ビード部10におけるビード部ゴム30が配置される位置のタイヤ径方向における外側では、カーカス内側ゴム層20のタイヤ幅方向内側でタイヤ内表面25に沿って配置され、ビード部10におけるビード部ゴム30が配置される位置では、ビード部ゴム30に覆われて配置されている。
【0048】
つまり、ビード部10におけるビード部ゴム30が配置される部分では、カーカス内側ゴム層20はビード部ゴム30によって覆われており、導電部材50は、カーカス内側ゴム層20とビード部ゴム30との間に入り込んで配置されている。導電部材50は、このようにカーカス内側ゴム層20とビード部ゴム30との間に配置されることにより、ビード部10におけるビード部ゴム30が配置される部分ではビード部ゴム30に重なって配置されており、ビード部ゴム30に接触している。これにより、リム嵌合面からビード部ゴム30を介して導電部材50に至る導電経路が確保され、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路が確保される。
【0049】
これらのように配置される導電部材50は、ベルト層14に対してタイヤ径方向に重なる位置では、タイヤ幅方向に近い方向に延在し、サイドウォール部3やビード部10の位置ではタイヤ径方向に近い方向に延在している。
【0050】
図3は、ベルト層14に対する導電部材50のラップ幅Laについての説明図である。導電部材50は、ベルト層14のペリフェリ方向における幅Lbpと、導電部材50におけるベルト層14とタイヤ径方向に重なる部分のペリフェリ方向の幅、即ち、ベルト層14に対する導電部材50ラップ幅Laとの関係が、0.01≦La/Lbp≦1を満たしている。また、ベルト層14に対する導電部材50ラップ幅Laは、La≧3[mm]であるのが好ましい。この場合における導電部材50ラップ幅Laは、導電部材50におけるベルト層14のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における距離Laになっている。
【0051】
なお、本実施形態においてペリフェリ方向とは、タイヤ周方向における位置が同じ位置における、空気入りタイヤ1の表面に沿った方向をいう。つまり、ペリフェリ方向は、トレッド部2の位置ではタイヤ幅方向に近い方向になり、サイドウォール部3の位置ではタイヤ径方向に近い方向になる。
【0052】
また、この場合におけるベルト層14のペリフェリ方向における幅Lbpは、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルトプライのタイヤ幅方向における両側の端部144からタイヤ内表面25に向けてそれぞれ垂線Qを引いた際における垂線Qとタイヤ内表面25との交点P間のペリフェリ長さになっている。また、ベルト層14に対する導電部材50のラップ幅Laは、導電部材50におけるベルト層14のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における長さになっており、具体的には、導電部材50における、交点P間に位置する部分のペリフェリ方向における長さになっている。
【0053】
図4は、
図2のA部詳細図である。カーカス内側ゴム層20は、タイヤ内表面25を構成するインナーライナ21と、インナーライナ21に対してカーカス層13が位置する側に配置されるタイゴム22とが積層されている。このうち、インナーライナ21は、空気透過防止層になっており、カーカス層13を覆って配置されることにより、カーカス層13の露出による酸化を抑制し、また、タイヤに充填された空気の洩れを防止する。また、インナーライナ21は、例えば、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物などから構成される。特に、インナーライナ21が熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマー組成物から成る構成では、インナーライナ21がブチルゴムから成る構成と比較して、インナーライナ21を薄型化できるので、タイヤ重量を大幅に軽減できる。
【0054】
なお、インナーライナ21の空気透過係数は、一般に、温度30[℃]でJIS K7126-1に準拠して測定した場合に、100×10^-12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることが好ましく、50×10^-12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることがより好ましい。また、インナーライナ21の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、一般に1×10^9[Ω・cm]以上であることが好ましい。
【0055】
ブチルゴムを主成分とするゴム組成物としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、ブチル系ゴムなどが採用され得る。ブチル系ゴムは、例えば、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)などのハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などが採用され得る。
【0057】
エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBRおよび低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr-IIR、Cl-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC、CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M-CM)〕、シリコーンゴム〔例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕などが採用され得る。
【0058】
また、インナーライナ21とカーカス層13との間に配置されるタイゴム22は、タイヤ製造時に未加硫の空気入りタイヤ1をインフレートする際に、カーカス層13のカーカスコードがインナーライナ21に喰い込むことを抑制するための層である。また、タイゴム22は、製造後の空気入りタイヤ1においては、空気透過防止性や乾燥路面における操縦安定性に寄与する。
【0059】
インナーライナ21とタイゴム22とが積層されるカーカス内側ゴム層20は、カーカス層13におけるタイヤ内腔側にカーカス層13に沿って配置されている。また、カーカス内側ゴム層20は、ビード部10の位置では、ビードコア11を包み込むように巻き返されるカーカス層13に沿って、タイヤ子午断面視においてビードコア11のタイヤ幅方向内側からビードコア11のタイヤ径方向内側に向けて折り返されている。
【0060】
ビード部10に配置されるビード部ゴム30は、ビード部10におけるビードコア11のタイヤ幅方向内側からビードコア11のタイヤ径方向内側を通り、ビードコア11のタイヤ幅方向外側に亘って配置されている。ビード部ゴム30は、ビードコア11のタイヤ幅方向内側とタイヤ幅方向外側のいずれの側においても、タイヤ径方向外側の端部が、ビードコア11よりもタイヤ径方向外側に位置している。本実施形態では、ビード部ゴム30における、ビードコア11のタイヤ幅方向内側に位置する部分のタイヤ径方向外側の端部30aは、ビードフィラー12がタイヤ径方向に配置される範囲内に位置しており、ビードコア11のタイヤ幅方向外側に位置する部分のタイヤ径方向外側の端部30bは、ビードフィラー12よりもタイヤ径方向外側に位置している。
【0061】
また、ビード部ゴム30は、ビードコア11のタイヤ幅方向内側の部分ではカーカス内側ゴム層20よりもタイヤ幅方向内側に配置され、ビードコア11のタイヤ径方向内側の部分ではカーカス内側ゴム層20よりもタイヤ径方向内側に配置されている。このため、ビード部ゴム30は、ビードコア11のタイヤ幅方向内側の部分ではカーカス内側ゴム層20をタイヤ幅方向内側から覆い、ビードコア11のタイヤ径方向内側の部分ではカーカス内側ゴム層20をタイヤ径方向内側から覆っている。
【0062】
つまり、ビード部10においてビードコア11のタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に亘って配置されるビード部ゴム30は、ビード部10においてビードコア11とカーカス層13とビード部ゴム30と覆って配置されている。このため、ビード部10では、ビード部ゴム30が配置される位置よりもタイヤ径方向外側ではカーカス内側ゴム層20におけるタイヤ内腔側の表面がタイヤ内表面25となり、ビード部ゴム30が配置される位置ではビード部ゴム30におけるタイヤ内腔側の表面がタイヤ内表面25となっている。
【0063】
このようにビード部10に配置されるビード部ゴム30は、ビード部10の内周面であるビードベース36や、ビードベース36におけるタイヤ幅方向内側の端部であるビードトゥ35を形成している。ビードベース36は、空気入りタイヤ1をリムホイールに装着した際に、リムホイールRに接触する部分になっている。ビード部ゴム30は、このように空気入りタイヤ1をリムホイールに装着する際のリムホイールに対する嵌合面であるビードベース36を形成している。
【0064】
また、カーカス内側ゴム層20に沿って配置される導電部材50は、ビード部10では、ビード部ゴム30よりもタイヤ径方向外側ではタイヤ内表面25に配置されてタイヤ内腔に露出している。一方、タイヤ径方向における、ビード部ゴム30におけるタイヤ内表面25を構成する部分が配置される位置では、導電部材50はカーカス内側ゴム層20と共に、ビード部ゴム30におけるタイヤ内表面25を構成する部分よりもタイヤ幅方向外側に位置してビード部ゴム30に覆われている。
【0065】
このため、ビード部ゴム30におけるタイヤ内表面25を構成する部分が配置される位置では、導電部材50は、タイヤ内表面25には配置されず、タイヤ内腔に露出せずに配置されている。つまり、導電部材50は、ビード部10のタイヤ径方向外側に配置される大部分がタイヤ内表面25に配置され、導電部材50のタイヤ径方向における内側の端部51付近が、タイヤ内表面25には配置されずにビード部ゴム30に覆われている。
【0066】
このように、ビード部10でビード部ゴム30に覆われる導電部材50は、導電部材50がビード部ゴム30に覆われる部分のタイヤ径方向における外側の端部53の位置から、導電部材50のタイヤ径方向における最も内側に位置する部分である最内側部52までのタイヤ径方向における高さHと、タイヤ断面高さSH(
図2参照)との関係が、0.10≦H/SH≦0.35の範囲内になっている。この場合における高さHは、空気入りタイヤ1を規定リムに装着し、内圧が0[kPa]、荷重が0[kN]の条件で測定される値になっている。
【0067】
また、導電部材50は、タイヤ子午線方向の断面におけるビード部ゴム30に覆われている部分の長さLが、15[mm]≦L≦40[mm]の範囲内になっている。この場合における長さLは、タイヤ子午断面視における、導電部材50に沿った長さになっている。つまり、この場合における長さLは、タイヤ子午断面視における、導電部材50がビード部ゴム30に覆われる部分のタイヤ径方向における外側の端部53の位置から、導電部材50のタイヤ径方向における内側の端部51、即ち、導電部材50におけるビード部10に位置する側の端部51までの、導電部材50に沿った長さになっている。
【0068】
本実施形態では、導電部材50のタイヤ径方向内側における内側の端部51は、タイヤ径方向におけるビードコア11が配置される範囲内に位置している。即ち、導電部材50のタイヤ径方向内側における内側の端部51は、ビードコア11のタイヤ幅方向内側に位置している。また、本実施形態では、導電部材50のタイヤ径方向内側における内側の端部51が、導電部材50のタイヤ径方向における最も内側に位置する最内側部52になっている。
【0069】
また、タイヤ径方向内側における内側の端部51付近がビード部ゴム30に覆われる導電部材50は、導電部材50のゴム硬さHs(E)とビード部ゴム30のゴム硬さHs(C)の差Hs(E)-Hs(C)が、-5≦Hs(E)-Hs(C)≦5の範囲内になっている。詳しくは、導電部材50のゴム硬さHs(E)は、55以上80以下の範囲内になっており、ビード部ゴム30のゴム硬さHs(C)は、60以上75以下の範囲内になっており、且つ、その差が、-5≦Hs(E)-Hs(C)≦5の範囲内になっている。
【0070】
ここでいうゴム硬さHsは、JIS K6253に準拠した20[℃]の温度条件にて測定される。なお、導電部材50のゴム硬さHs(E)とビード部ゴム30のゴム硬さHs(C)の差Hs(E)-Hs(C)は、-1≦Hs(E)-Hs(C)≦4の範囲内であるのが好ましい。
【0071】
図5は、
図4におけるビードコア11のタイヤ幅方向内側の位置での導電部材50の詳細図である。カーカス内側ゴム層20に沿って配置される導電部材50は、厚みTが0.01[mm]≦T≦3.0[mm]の範囲内になっている。導電部材50の厚みTは、0.3[mm]≦T≦2.0[mm]の範囲内であるのが好ましい。また、導電部材50は、ビードコア11のタイヤ幅方向内側の位置における、導電部材50からタイヤ内表面25までの厚みTRと、導電部材50の厚みTとの関係が、1.0≦TR/T≦4.5の範囲内になっている。導電部材50は、タイヤ径方向におけるビードコア11が配置される範囲ではビード部ゴム30に覆われているため、この場合における導電部材50からタイヤ内表面25までの厚みTRは、実質的にビード部ゴム30の厚みになっている。
【0072】
図6は、空気入りタイヤ1をタイヤ回転軸の方向にみた場合における導電部材50の配置の形態を示す模式図である。導電部材50は、所定の幅を有する略帯状の形状で形成されており、タイヤ周方向における1箇所に配置されている。導電部材50は、例えば、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である帯状のゴムシートが、接着剤を用いることによってカーカス内側ゴム層20におけるタイヤ内腔側の面に配置されている。略帯状の形状で形成される導電部材50は、ペリフェリ方向に延在し、帯の幅方向が略タイヤ周方向となる向きでカーカス内側ゴム層20に沿って配置されている。このため、帯状の導電部材50は、空気入りタイヤ1をタイヤ回転軸の方向にみた場合には、タイヤ径方向に沿って延在している。
【0073】
このように、帯の幅方向がタイヤ周方向となる向きで配置される導電部材50は、空気入りタイヤ1のタイヤ最大幅位置WP(
図2参照)における、導電部材50の幅Wと、タイヤ最大幅位置WPにおけるタイヤ周長Lpとが、W/Lp≦0.10の関係を有している。この場合におけるタイヤ最大幅位置WPは、JATMA規定のタイヤ断面幅の最大幅位置をいう。タイヤ断面幅は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に荷重が0[kN]の条件で測定される。
【0074】
タイヤ最大幅位置WPにおける導電部材50の幅Wは、タイヤ最大幅位置WPにおけるタイヤ周長Lpに対して、0.004≦W/Lp≦0.10の範囲内であるのが好ましい。また、タイヤ最大幅位置WPにおける導電部材50の幅Wは、5[mm]以上30[mm]以下の範囲内であるのが好ましい。
【0075】
[作用・効果]
実施形態に係る空気入りタイヤ1を車両に装着して走行すると、空気入りタイヤ1におけるトレッド部2の表面のうち、下方に位置して路面に対向する部分が路面に接触しながら当該空気入りタイヤ1は回転する。空気入りタイヤ1は、このようにトレッド部2の表面であるタイヤ接地面2aが順次路面に接触することにより、路面との間で摩擦力を発生させることができる。これにより、車両は、空気入りタイヤ1と路面との間の摩擦力によって、駆動力や制動力、旋回力を路面に伝えることができ、これらの駆動力、制動力、旋回力によって走行することができる。
【0076】
また、車両の走行中には静電気が発生することがあり、このような静電気は、リムフランジRからビード部ゴム30、導電部材50を通ってベルト層14に流れ、ベルト層14からトレッドゴム15に流れてトレッドゴム15から路面に放出される。これにより、車両に発生した静電気は路面に放出され、静電気による車両の帯電が抑制される。
【0077】
つまり、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である導電部材50は、比較的電気が流れ易くなっているため、空気入りタイヤ1の電気抵抗であるタイヤ電気抵抗を低減させることができる。これにより、導電部材50が配置された空気入りタイヤ1は、車両の走行中に発生した静電気を、ビード部ゴム30側から導電部材50を介してベルト層14側に流すことができ、静電気による車両の帯電を抑制することができる。
【0078】
ここで、車両の走行時には、車両の走行状態に応じて発生する荷重によってトレッド部2やサイドウォール部3、ビード部10等が変形しながら回転する。特に、ビード部10は、弾性変形をする空気入りタイヤ1を、剛性が高く変形し難いリムRに装着する部分であるため、サイドウォール部3に繋がる側の部分で弾性変形が発生し易く、即ち、撓みが生じ易くなっている。つまり、ビード部10は、リムRに装着される部分付近は、変形し難いリムRと一体となることにより弾性変形が発生難くなる一方で、ビード部10におけるサイドウォール部3に繋がる側の部分では、サイドウォール部3の弾性変形に伴って撓みが生じ易くなっている。
【0079】
また、ビード部10は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ径方向の最内側に位置する部分であるため、他の部材に対しては、ビード部10のタイヤ径方向外側に位置するサイドウォール部3に繋がっているのみになっている。このため、空気入りタイヤ1がリムRに装着されない状態では、ビード部10に対して外力が作用した場合、ビード部10は外力によって、例えばタイヤ幅方向に動いたり、タイヤ回転軸に対して傾いたりし易くなっている。空気入りタイヤ1がリムRに装着されない状態で、ビード部10に対する外力によってビード部10がこのように動くことにより、ビード部10は、サイドウォール部3に繋がる側の部分で撓みが生じ易くなっている。これにより、例えば、リムRに装着されていない状態の空気入りタイヤ1の運搬時に、外部の部材等がビード部10に当接したり、ビード部10に外部の部材等が当接したりした場合、ビード部10は外部の部材からの力によって動き、サイドウォール部3に繋がる側の部分で撓みが生じることがある。
【0080】
導電部材50は、ベルト層14が配置されている位置からビード部10の位置にかけて連続して配置されているため、ビード部10で撓みが生じた場合、導電部材50におけるビード部10に位置する部分も、ビード部10に位置する他の部材と共に撓む。導電部材50は、カーカス内側ゴム層20におけるタイヤ内表面25に配置されているが、導電部材50が、例えば、ビード部10においてもタイヤ内表面25に配置されている場合、ビード部10で撓みが発生した際に、導電部材50におけるタイヤ径方向内側の端部51が、タイヤ内表面25から剥離する虞がある。
【0081】
つまり、導電部材50が、ビード部10においてもタイヤ内表面25に配置されている場合には、ビード部10で撓みが発生した際に、導電部材50におけるビード部10に位置する側の端部51付近に応力集中が発生し、タイヤ内表面25に配置される導電部材50は、端部51から剥離し易くなる。タイヤ内表面25からの導電部材50の剥離が導電部材50におけるビード部10に位置する側の端部51から始まった場合、導電部材50の剥離は、導電部材50の端部51の剥離をきっかけとして、ビード部10やサイドウォール部3の撓みによって剥離する範囲が広がり易くなる。
【0082】
このように、導電部材50の剥離の範囲が広がることにより、導電部材50がビード部ゴム30から離れた場合、車両の走行中に発生して静電気は、ビード部ゴム30から導電部材50に流れ難くなる。このため、空気入りタイヤ1に導電部材50を配置した場合でも、車両の走行中に発生した静電気は路面に放出され難くなり、静電気による車両の帯電を抑制し難くなる。
【0083】
これに対し、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である導電部材50は、タイヤ内表面25におけるベルト層14に重なる位置からビード部10まで連続して延在し、タイヤ径方向における内側の端部51がビード部ゴム30に覆われている。このため、導電部材50のタイヤ径方向における内側の端部51は、導電部材50の端部51を覆うビード部ゴム30によって抑えられるため、導電部材50が配置される部材であるカーカス内側ゴム層20から導電部材50が剥離することを抑制することができる。これにより、車両の走行中や空気入りタイヤ1の運搬時にビード部10に撓みが発生した場合でも、カーカス内側ゴム層20からの導電部材50の剥離を抑制することができ、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路を、導電部材50を介して継続して確保することができる。この結果、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0084】
また、導電部材50は、厚みTが0.01[mm]≦T≦3.0[mm]の範囲内であるため、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路を、導電部材50を介して継続して確保することができる。つまり、導電部材50の厚みTがT<0.01[mm]である場合は、導電部材50の厚みTが薄過ぎるため、空気入りタイヤ1の運搬時や車両の走行時に削れてしまい、導電部材50が破断してしまう虞がある。この場合、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路を、導電部材50を介して確保するのが困難になる虞がある。また、導電部材50の厚みTがT>3.0[mm]である場合は、導電部材50の厚みTが厚過ぎるため、導電部材50が配置される位置における部材の段差が大ききなり易くなる。この場合、導電部材50が配置される位置と、導電部材50に隣接して導電部材50が配置されない位置との間の剛性差が大きくなるため、導電部材50が配置される位置の近傍で応力集中が発生し易くなり、導電部材50の剥離が生じ易くなる虞がある。
【0085】
これに対し、導電部材50の厚みTが、0.01[mm]≦T≦3.0[mm]の範囲内である場合は、導電部材50の厚みTが薄過ぎることに起因する導電部材50の破断を抑制すると共に、導電部材50の厚みTが厚過ぎることに起因する導電部材50の剥離を抑制することができる。これにより、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路を、導電部材50を介して継続して確保することができる。この結果、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0086】
また、導電部材50は、ビード部ゴム30に覆われる部分のタイヤ径方向における外側の端部53の位置からタイヤ径方向における最も内側に位置する最内側部52までのタイヤ径方向における高さHと、タイヤ断面高さSHとの関係が、0.10≦H/SH≦0.35の範囲内であるため、ビード部ゴム30のゴムボリュームが多くなり過ぎることを抑制しつつ、ビード部ゴム30によって導電部材50の剥離を抑制することができる。つまり、ビード部ゴム30に覆われている部分の導電部材50のタイヤ径方向における高さHとタイヤ断面高さSHとの関係が、H<0.10である場合は、ビード部ゴム30によって導電部材50を覆う範囲が小さ過ぎるため、ビード部ゴム30によって導電部材50を効果的に抑え難くなる虞がある。この場合、導電部材50の剥離をビード部ゴム30によって効果的に抑制し難くなる虞がある。また、ビード部ゴム30に覆われている部分の導電部材50のタイヤ径方向における高さHとタイヤ断面高さSHとの関係が、H>0.35である場合は、ビード部ゴム30によって導電部材50を覆う範囲が大き過ぎるため、ビード部ゴム30のゴムボリュームが多くなり過ぎる虞がある。この場合、ビード部ゴム30のゴムボリュームが多くなり過ぎることに起因して、空気入りタイヤ1の転がり抵抗が悪化する虞がある。
【0087】
これに対し、ビード部ゴム30に覆われている部分の導電部材50のタイヤ径方向における高さHとタイヤ断面高さSHとの関係が、0.10≦H/SH≦0.35の範囲内である場合は、ビード部ゴム30によって導電部材50を覆う範囲が大きくなり過ぎることを抑制しつつ、導電部材50をビード部ゴム30によって適切に抑えることができる。これにより、ビード部ゴム30のゴムボリュームが多くなり過ぎることを抑制しつつ、ビード部ゴム30によって導電部材50の剥離を抑制することができる。この結果、空気入りタイヤ1の転がり抵抗の悪化を抑制しつつ、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0088】
また、導電部材50は、ビードコア11のタイヤ幅方向内側の位置における、導電部材50からタイヤ内表面25までの厚みTRと導電部材50の厚みTとの関係が、1.0≦TR/T≦4.5の範囲内であるため、ビード部ゴム30のゴムボリュームが多くなり過ぎることを抑制しつつ、ビード部ゴム30によって導電部材50の剥離を抑制することができる。つまり、ビードコア11のタイヤ幅方向内側の位置における、導電部材50からタイヤ内表面25までの厚みTRと導電部材50の厚みTとの関係が、TR/T<1.0である場合は、ビード部ゴム30の厚みが薄過ぎるため、ビード部ゴム30によって導電部材50を効果的に抑え難くなる虞がある。この場合、導電部材50の剥離をビード部ゴム30によって効果的に抑制し難くなる虞がある。また、ビードコア11のタイヤ幅方向内側の位置における、導電部材50からタイヤ内表面25までの厚みTRと導電部材50の厚みTとの関係が、TR/T>4.5である場合は、ビード部ゴム30の厚みが厚過ぎるため、ビード部ゴム30のゴムボリュームが多くなり過ぎる虞がある。この場合、ビード部ゴム30のゴムボリュームが多くなり過ぎることに起因して、空気入りタイヤ1の転がり抵抗が悪化する虞がある。
【0089】
これに対し、ビードコア11のタイヤ幅方向内側の位置における、導電部材50からタイヤ内表面25までの厚みTRと導電部材50の厚みTとの関係が、1.0≦TR/T≦4.5の範囲内である場合は、ビード部ゴム30の厚みが厚くなり過ぎることを抑制しつつ、導電部材50をビード部ゴム30によって適切に抑えることができる。これにより、ビード部ゴム30のゴムボリュームが多くなり過ぎることを抑制しつつ、ビード部ゴム30によって導電部材50の剥離を抑制することができる。この結果、空気入りタイヤ1の転がり抵抗の悪化を抑制しつつ、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0090】
また、導電部材50は、タイヤ子午線方向の断面におけるビード部ゴム30に覆われている部分の長さLが、15[mm]≦L≦40[mm]の範囲内であるため、導電部材50を覆うビード部ゴム30によって、導電部材50の剥離を継続的に抑制することができる。つまり、導電部材50におけるビード部ゴム30に覆われている部分の長さLが、L<15[mm]である場合は、導電部材50におけるビード部ゴム30に覆われている部分の長さLが短過ぎるため、導電部材50をビード部ゴム30によって効果的に抑え難くなる虞がある。この場合、導電部材50の剥離をビード部ゴム30によって効果的に抑制し難くなる虞がある。また、導電部材50におけるビード部ゴム30に覆われている部分の長さLが、L>40[mm]である場合は、導電部材50におけるビード部ゴム30に覆われている部分の長さLが長過ぎるため、導電部材50を覆うビード部ゴム30が、導電部材50から剥離する虞がある。この場合、導電部材50をビード部ゴム30によって継続的に抑え難くなり、導電部材50の剥離をビード部ゴム30によって継続的に抑制し難くなる虞がある。
【0091】
これに対し、導電部材50におけるビード部ゴム30に覆われている部分の長さLが、15[mm]≦L≦40[mm]の範囲内である場合は、導電部材50を覆うビード部ゴム30によって導電部材50を継続的に抑えることができる。これにより、導電部材50の剥離を、導電部材50を覆うビード部ゴム30によって継続的に抑制することができる。この結果、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0092】
また、導電部材50は帯状の形状で形成され、帯の幅方向がタイヤ周方向となる向きで配置されるため、導電部材50のボリュームが大きくなることを抑制しつつ、導電部材50をビード部10の位置からベルト層14の位置にかけて配置することができる。これにより、導電部材50によって空気入りタイヤ1の転がり抵抗が悪化することを抑制しつつ、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路を、導電部材50を介して確保することができる。この結果、空気入りタイヤ1の転がり抵抗の悪化を抑制しつつ、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0093】
また、タイヤ最大幅位置WPにおける導電部材50の幅Wと、タイヤ最大幅位置WPにおけるタイヤ周長Lpとが、W/Lp≦0.10の関係を有するため、導電部材50の幅Wが広過ぎることに起因する導電部材50の剥離を抑制することができる。つまり、タイヤ最大幅位置WPにおける導電部材50の幅Wが、タイヤ最大幅位置WPにおけるタイヤ周長Lpに対してW/Lp>0.10である場合は、導電部材50の幅Wが広過ぎるため、導電部材50が配置されている位置と、導電部材50が配置される位置に隣接する位置との間での剛性差が大きくなり易くなる虞がある。この場合、剛性差に起因して導電部材50が配置される位置の近傍で応力集中が発生し易くなり、導電部材50の剥離が生じ易くなる虞がある。
【0094】
これに対し、タイヤ最大幅位置WPにおける導電部材50の幅Wが、タイヤ最大幅位置WPにおけるタイヤ周長Lpに対してW/Lp≦0.10である場合は、導電部材50が配置されている位置と、導電部材50が配置される位置に隣接する位置との間での剛性差が大きくなり過ぎることを抑制できる。これにより、剛性差に起因して導電部材50が配置される位置の近傍で応力集中が発生することを抑制することができ、導電部材50の幅Wが広過ぎることに起因する導電部材50の剥離を抑制することができる。この結果、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路を、導電部材50を介して継続して確保することができ、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0095】
また、導電部材50のゴム硬さHs(E)とビード部ゴム30のゴム硬さHs(C)の差が、-5≦Hs(E)-Hs(C)≦5の範囲内であるため、導電部材50とビード部ゴム30との間での剥離を抑制することができる。つまり、導電部材50のゴム硬さHs(E)とビード部ゴム30のゴム硬さHs(C)の差が、Hs(E)-Hs(C)<-5であったり、Hs(E)-Hs(C)>5であったりする場合は、導電部材50とビード部ゴム30の間でのゴム硬さHsの差が大きくなり過ぎる虞がある。この場合、外力が作用した際における弾性変形の大きさが、導電部材50とビード部ゴム30とで大きく異なることになるため、これに起因して導電部材50とビード部ゴム30との間で剥離が発生し易くなり、導電部材50を介した導電経路を確保し難くなる虞がある。
【0096】
これに対し、導電部材50のゴム硬さHs(E)とビード部ゴム30のゴム硬さHs(C)の差が、-5≦Hs(E)-Hs(C)≦5の範囲内である場合は、導電部材50とビード部ゴム30の間でのゴム硬さHsの差が大きくなり過ぎることを抑制することができる。これにより、導電部材50とビード部ゴム30との間での剥離を抑制することができ、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路を、導電部材50を介して確保することができる。この結果、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0097】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、導電部材50のタイヤ径方向における内側の端部51は、ビードコア11のタイヤ幅方向内側に位置しているが、導電部材50の端部51は、ビードコア11のタイヤ幅方向内側以外に位置していてもよい。
【0098】
図7は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部材50の端部51がビードコア11のタイヤ径方向内側に位置する状態を示す説明図である。
図8は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部材50がビードコア11のタイヤ幅方向外側に回り込んでいる状態を示す説明図である。
図9は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部材50の端部51がビード部ゴム30に入り込んでいる状態を示す説明図である。導電部材50は、例えば、
図7に示すように、ビード部10においてビードコア11のタイヤ幅方向内側からビードコア11のタイヤ径方向内側に回り込み、導電部材50のタイヤ径方向における内側の端部51がビードコア11のタイヤ径方向内側に位置していてもよい。
【0099】
また、導電部材50は、例えば、
図8に示すように、ビード部10においてビードコア11のタイヤ幅方向内側からビードコア11のタイヤ径方向内側に回り込み、さらに、ビードコア11のタイヤ幅方向外側に回り込んで配置されていてもよい。
【0100】
また、導電部材50は、例えば、
図9に示すように、ビード部10においてビードコア11のタイヤ幅方向内側の位置からタイヤ径方向内側に延び、導電部材50のタイヤ径方向における内側の端部51が、ビード部ゴム30に入り込んでいてもよい。
【0101】
導電部材50は、ビード部10における配置の形態に関わらず、導電部材50がビード部ゴム30に覆われる部分のタイヤ径方向外側の端部53の位置から導電部材50の最内側部52までのタイヤ径方向における高さHと、タイヤ断面高さSH(
図2参照)との関係が0.10≦H/SH≦0.35の範囲内であり、タイヤ子午断面におけるビード部ゴム30に覆われている部分の長さLが15[mm]≦L≦40[mm]の範囲内であれば、配置の形態は問わない。
【0102】
また、上述した実施形態では、導電部材50は、ベルト層14の位置からビード部10の位置にかけてカーカス内側ゴム層20に沿って配置され、ビード部10でもカーカス内側ゴム層20に沿って配置されているが、カーカス内側ゴム層20に沿わない部分を有していてもよい。
【0103】
図10は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部材50がビード部10で折れ曲がる状態を示す説明図である。導電部材50は、例えば、
図10に示すように、ビード部10の位置で折れ曲がっていてもよい。つまり、導電部材50は、タイヤ子午断面において、ビード部10のタイヤ径方向外側からビード部10に向かってタイヤ径方向内側に延びる導電部材50がビード部10で折れ曲がり、折れ曲がった位置からタイヤ径方向外側に向かって延びる形態で配置されていてもよい。この場合、導電部材50は、タイヤ径方向における内側の端部51よりも、折れ曲がっている部分がタイヤ径方向内側に位置し、折れ曲がっている部分が導電部材50の最内側部52となって形成される。
【0104】
導電部材50は、このようにビード部10で折れ曲がって形成される場合でも、タイヤ幅方向内側からビード部ゴム30に覆われて配置されていればよい。導電部材50は、折れ曲がっているか否かに関わらず、導電部材50のタイヤ径方向における内側の端部51がビード部10に配置されるビード部ゴム30に覆われることにより、導電部材50が配置されるカーカス内側ゴム層20からの導電部材50の剥離を抑制することができる。これにより、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路を、導電部材50を介して継続して確保することができ、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0105】
また、上述した実施形態では、導電部材50は、タイヤ周方向における1箇所に配置されているが、導電部材50は、タイヤ周方向における複数の位置に配置されていてもよい。
図11は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、空気入りタイヤ1をタイヤ回転軸の方向にみた場合における導電部材50の配置の形態を示す模式図である。導電部材50は、例えば、
図11に示すように、タイヤ周方向に一定の間隔をあけて複数の導電部材50が配置されていてもよい。つまり、複数の導電部材50は、タイヤ周方向に所定の間隔をあけつつ、放射状に配置されていてもよい。
【0106】
導電部材50は、複数をカーカス内側ゴム層20に沿って配置することにより、空気入りタイヤ1の電気抵抗を、複数の導電部材50によって効果的に低減させることができる。また、複数の導電部材50を、一定の間隔をあけて放射状に配置することにより、タイヤ周方向における一部の位置の剛性が高くなることに起因するユニフォミティの悪化を抑制することができる。これにより、空気入りタイヤ1の電気抵抗を低減させつつ、ユニフォミティの悪化を抑制することができる。
【0107】
また、上述した実施形態では、導電部材50は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨ぐことなく配置されているが、導電部材50は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置されていてもよい。
図12、
図13は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部材50がタイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置される状態を示す説明図である。導電部材50は、例えば、
図12、
図13に示すように、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置されていてもよい。この場合、導電部材50におけるタイヤ径方向外側の端部は、
図12に示すように、ベルト層14のタイヤ径方向内側に位置していてもよい。または、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置される導電部材50は、
図13に示すように、タイヤ幅方向においてベルト層14が配置されている範囲を超えて、導電部材50が配置される側のサイドウォール部3の反対側のサイドウォール部3まで延在していてもよい。
【0108】
また、上述した実施形態では、導電部材50は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの片側に配置されているが、導電部材50は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に配置されていてもよい。
図14は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部材50がタイヤ幅方向における両側に亘って配置される状態を示す説明図である。導電部材50は、例えば、
図14に示すように、タイヤ幅方向における両側に亘って配置されていてもよい。即ち、導電部材50は、タイヤ幅方向における両側に位置するビード部10のうち、一方のビード部10側から他方のビード部10側にかけて、連続して配置されていてもよい。
【0109】
図15は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部材50がタイヤ幅方向における両側に配置される状態を示す説明図である。また、導電部材50は、
図15に示すように、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側の領域でそれぞれ、互いに独立した導電部材50がビード部10の位置からベルト層14の位置にかけて延在して配置されていてもよい。この場合、ベルト層14に対する導電部材50ラップ幅La(
図3参照)は、タイヤ幅方向における両側に配置される導電部材50同士で同じ大きさであってもよく、互いに異なる大きさであってもよい。
【0110】
また、上述した実施形態では、車両走行時に車両に発生する静電気を路面に放出するための帯電抑制構造として、導電部材50が用いられているが、帯電抑制構造には、導電部材50の他の部材も用いられていていてもよい。
図16は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、アーストレッド60が配置される状態を示す説明図である。車両に発生する静電気を路面に放出するための帯電抑制構造には、例えば、
図16に示すように、アーストレッド60が用いられていてもよい。この場合におけるアーストレッド60は、トレッドゴム15に埋設されてタイヤ接地面に露出する導電ゴムである。導電部材50とアーストレッド60とを有する帯電抑制構造では、導電部材50によってベルト層14に流された車両からの静電気が、ベルト層14からアーストレッド60を介して路面に放出されて、車両の帯電が抑制される。
【0111】
詳しくは、アーストレッド60は、トレッドゴム15の踏面に露出し、キャップトレッド151及びアンダートレッド152を貫通してベルト層14に導電可能に接触する。即ち、アーストレッド60は、少なくともキャップトレッド151を貫通してタイヤ接地面2aに露出する。
図16に示す変形例では、アーストレッド60は、キャップトレッド151及びアンダートレッド152を貫通し、タイヤ径方向における内側の端部がベルトカバー143に導電可能に接触している。これにより、ベルト層14から路面への導電経路が確保される。
【0112】
また、アーストレッド60は、タイヤ全周に渡って延在する環状構造を有し、その一部をトレッド踏面に露出させつつタイヤ周方向に連続的に延在している。従って、空気入りタイヤ1の転動時にて、アーストレッド60が常に路面に接触することにより、ベルト層14から路面への導電経路が常に確保される。
図16に示す変形例では、アーストレッド60のタイヤ幅方向における幅は、トレッド部2にタイヤ周方向に延びて形成される周方向主溝6の溝幅よりも狭くなっており、タイヤ幅方向に隣り合う周方向主溝6同士の間に形成されている。
【0113】
また、アーストレッド60は、トレッドゴム15よりも低い体積抵抗率を有する導電性ゴム材料から成る。具体的には、アーストレッド60の体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]未満であることが好ましく、1×10^6[Ω・cm]以下であることがより好ましい。
【0114】
これらのように、導電部材50の他にアーストレッド60も用いて帯電抑制構造を構成することにより、リムRからビード部ゴム30、導電部材50及びベルト層14を通りアーストレッド60に至る経路を、車両から路面へ静電気を放出するための導電経路として用いることができる。つまり、アーストレッド60は、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有すると共に、少なくともキャップトレッド151を貫通してタイヤ接地面2aに露出するため、ベルト層14側から路面への導電経路を、アーストレッド60によって確保することができる。これにより、導電部材50から路面への導電経路を確保することができ、リムRからアーストレッド60に至る導電経路を、より確実に確保することができる。従って、リムRと路面との間の電気抵抗を、より確実に下げることができ、車両に発生した静電気をより確実に路面に放出することができる。この結果、より確実に空気入りタイヤ1の電気抵抗を低減させることができる。
【0115】
また、アーストレッド60を設けることにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗を低減して低燃費性能を向上させることを目的としてキャップトレッド151、アンダートレッド152、サイドウォールゴム16などを構成するゴムコンパウンドのシリカ含有量を増加させた場合における帯電抑制性能の低下を抑制することができる。つまり、シリカは絶縁特性が高いため、キャップトレッド151のシリカ含有量が増加すると、キャップトレッド151の体積抵抗値が増加して帯電抑制性能が低下するが、アーストレッド60を設けることにより、ベルト層14と路面との導電経路が確保することができる。この結果、転がり抵抗を低減しつつ、空気入りタイヤ1の電気抵抗を低減することができる。
【0116】
また、上述した実施形態や変形例は、適宜組み合わせてもよい。また、上述した実施形態では、本発明に係るタイヤの一例として空気入りタイヤ1を用いて説明したが、本発明に係るタイヤは、空気入りタイヤ1以外であってもよい。本発明に係るタイヤは、例えば、気体を充填することなく使用することができる、いわゆるエアレスタイヤであってもよい。
【0117】
[実施例]
図17A~
図17Cは、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する比較例の空気入りタイヤとについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、空気入りタイヤの電気抵抗と、導電部材の耐剥離性と、空気入りタイヤの転がり抵抗とについての試験を行った。
【0118】
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが195/65R15 91Hサイズの空気入りタイヤを、試験タイヤとして用いて行った。空気入りタイヤの電気抵抗についての評価試験は、JATMA規定の測定条件に基づき、株式会社アドバンテスト製のR8340A ウルトラ・ハイ・レジスタンスメータを使用して、試験タイヤの電気抵抗[Ω]を測定した。
【0119】
また、導電部材の耐剥離性についての評価試験は、ドラム径1707[mm]のドラム試験機を用いて試験タイヤに対して室内ドラム試験を行い、速度170~210[km/h]、荷重4.82[kN]、試験開始時の空気圧が280[kPa]の条件で10[km/h]毎に10[分]走行させた後の、導電部材のタイヤ径方向における内側の端部付近の剥離を観察することにより行った。導電部材の耐剥離性についての評価は、試験後の導電部材のタイヤ径方向における内側の端部付近の剥離を観察し、導電部材の剥離の長さの逆数を、後述する従来例を100とする指数評価によって行った。導電部材の耐剥離性は、指数評価の数値が大きいほど導電部材の剥離が発生し難く、導電部材の耐剥離性が優れていることを示している。なお、導電部材の耐剥離性は、指数が90以上であれば従来例に対して同程度のレベルが維持され、導電部材の耐剥離性が確保されているものとする。
【0120】
また、空気入りタイヤの転がり抵抗についての評価試験は、ドラム径1707[mm]のドラム試験機を用いて試験タイヤに対して室内ドラム試験を行い、荷重4.82[kN]、速度80[km/h]の条件における試験タイヤの転がり抵抗を測定することにより行った。空気入りタイヤの転がり抵抗の評価は、測定した転がり抵抗の逆数を、後述する従来例を100とする指数評価によって行った。空気入りタイヤの転がり抵抗は、指数評価の数値が大きいほど転がり抵抗が小さく、転がり抵抗についての性能が優れていることを示している。なお、転がり抵抗は、指数が90以上であれば従来例に対して同程度のレベルが維持され、転がり抵抗についての性能が確保されているものとする。
【0121】
性能評価試験は、従来の空気入りタイヤの一例である従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1である実施例1~17と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する空気入りタイヤである比較例との19種類の空気入りタイヤについて行った。このうち、比較例の空気入りタイヤは、カーカス内側ゴム層の表面に導電部材が配置されていない。また、従来例の空気入りタイヤは、カーカス内側ゴム層の表面に導電部材が配置されているものの、導電部材のタイヤ径方向内側の端部は、ビード部ゴムに覆われておらず、タイヤ内表面に露出している。
【0122】
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1~17は全て、導電部材50のタイヤ径方向内側の端部51は、ビード部ゴム30に覆われている。さらに、実施例1~17に係る空気入りタイヤ1は、導電部材50の厚みT[mm]や、導電部材50がビード部ゴム30に覆われる部分のタイヤ径方向における高さHとタイヤ断面高さSHと比≦H/SH、導電部材50からタイヤ内表面25までの厚みTRと導電部材50の厚みTとの比TR/T、導電部材50がビード部ゴム30に覆われている部分の長さL[mm]、タイヤ最大幅位置WPにおける導電部材50の幅Wとタイヤ周長Lpとの比W/Lp、導電部材50のゴム硬さHs(E)とビード部ゴム30のゴム硬さHs(C)との差Hs(E)-Hs(C)が、それぞれ異なっている。
【0123】
これらの空気入りタイヤ1を用いて評価試験を行った結果、
図17A~
図17Cに示すように、実施例1~17に係る空気入りタイヤ1は、比較例に対して電気抵抗を低下させることができ、従来例よりも導電部材50の耐剥離性を向上させることができる、または導電部材50の耐剥離性は従来例と同程度で従来例よりも電気抵抗を低下させることができることが分かった。これにより、実施例1~17に係る空気入りタイヤ1は、従来例よりも導電部材50の耐剥離性を向上させる、または導電部材50の耐剥離性は従来例と同程度で従来例よりも電気抵抗を低下させることにより、電気抵抗を長い期間に亘って低下させることができることが分かった。つまり、実施例1~17に係る空気入りタイヤ1は、空気入りタイヤ1の電気抵抗を継続的に低減させることができる。
【0124】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1]
ビードコアと体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であるビード部ゴムとが配置される一対のビード部と、
一対の前記ビード部間に架け渡され体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]以上である少なくとも1層のカーカス層と、
前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、
前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴムと、
シート状に形成されてタイヤ内表面における少なくとも前記ベルト層のタイヤ幅方向における端部に重なる位置から前記ビード部まで連続して延在し、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である導電部材と、
を備え、
前記導電部材は、タイヤ径方向における内側の端部が前記ビード部に配置される前記ビード部ゴムに覆われることを特徴とするタイヤ。
発明[2]
前記導電部材は、厚みTが0.01[mm]≦T≦3.0[mm]の範囲内である発明[1]に記載のタイヤ。
発明[3]
前記トレッドゴムは、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドのタイヤ径方向内側に積層されるアンダートレッドとを有し、且つ、
1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有すると共に少なくとも前記キャップトレッドを貫通して前記タイヤ接地面に露出するアーストレッドを備える発明[1]または発明[2]に記載のタイヤ。
発明[4]
前記導電部材が前記ビード部ゴムに覆われる部分のタイヤ径方向における外側の端部の位置から、前記導電部材のタイヤ径方向における最も内側に位置する部分までのタイヤ径方向における高さHと、タイヤ断面高さSHとの関係が、0.10≦H/SH≦0.35の範囲内である発明[1]から発明[3]のいずれか1つに記載のタイヤ。
発明[5]
前記導電部材は、前記ビードコアのタイヤ幅方向内側の位置における、前記導電部材から前記タイヤ内表面までの厚みTRと前記導電部材の厚みTとの関係が、1.0≦TR/T≦4.5の範囲内である発明[1]から発明[4]のいずれか1つに記載のタイヤ。
発明[6]
前記導電部材は、タイヤ子午線方向の断面における前記ビード部ゴムに覆われている部分の長さLが、15[mm]≦L≦40[mm]の範囲内である発明[1]から発明[5]のいずれか1つに記載のタイヤ。
発明[7]
前記導電部材は帯状の形状で形成され、帯の幅方向がタイヤ周方向となる向きで配置される発明[1]から発明[6]のいずれか1つに記載のタイヤ。
発明[8]
前記導電部材は、タイヤ最大幅位置における前記導電部材の幅Wと、前記タイヤ最大幅位置におけるタイヤ周長Lpとが、W/Lp≦0.10の関係を有する発明[7]に記載のタイヤ。
発明[9]
前記導電部材は、前記導電部材のゴム硬さHs(E)と前記ビード部ゴムのゴム硬さHs(C)の差Hs(E)-Hs(C)が、-5≦Hs(E)-Hs(C)≦5の範囲内である発明[1]から発明[8]のいずれか1つに記載のタイヤ。
【符号の説明】
【0125】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
6 周方向主溝
10 ビード部
11 ビードコア
12 ビードフィラー
13 カーカス層
14 ベルト層
15 トレッドゴム
16 サイドウォールゴム
20 カーカス内側ゴム層
21 インナーライナ
22 タイゴム
25 タイヤ内表面
30 ビード部ゴム
35 ビードトゥ
36 ビードベース
50 導電部材
60 アーストレッド