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<図1>
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図1
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図2
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図3A
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図3B
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図3C
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図4
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図5
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図6
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  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図8
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図9A
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図9B
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図10A
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図10B
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図11
  • 特開-厚さ計測装置と厚さ計測方法 図12
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029688
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】厚さ計測装置と厚さ計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20250228BHJP
【FI】
G01B11/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134449
(22)【出願日】2023-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】399060908
【氏名又は名称】一般財団法人NHK財団
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅之
(72)【発明者】
【氏名】田附 遼太
(72)【発明者】
【氏名】林 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】黒田 穣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大一郎
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA22
2F065AA30
2F065BB01
2F065CC14
2F065CC31
2F065EE08
2F065FF01
2F065FF04
2F065FF07
2F065FF42
2F065HH06
2F065JJ03
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065QQ13
2F065QQ24
2F065QQ25
2F065QQ28
2F065QQ31
2F065RR09
(57)【要約】
【課題】計測者の計測技量に依存せずに、レーザスキャナを用いることなく、簡易な装置で、壁面などの施工面に形成した被覆層の厚さを計測可能にする。
【解決手段】施工面1に形成された被覆層2の厚さを計測する厚さ計測装置10は、投影装置3と撮像装置5と厚さ推定部7を備える。投影装置3は、被覆層2を形成する施工の前後において、施工面1または被覆層2の表面2aに所定形状の像を第1方向D1に投影する。撮像装置5は、施工の前後において、第1方向D1と交差する第2方向D2から施工面1上または被覆層2上の像を撮像して当該像の画像を生成する。厚さ推定部7は、施工前の画像における像の位置と、施工後の画像における像の位置とのずれ量に基づいて、被覆層2の厚さを推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工面に形成された被覆層の厚さを計測する厚さ計測装置であって、
前記被覆層を形成する施工の前後において、前記施工面または前記被覆層の表面に所定形状の像を第1方向に投影する投影装置と、
前記施工の前後において、前記第1方向と交差する第2方向から前記施工面上または前記被覆層上の前記像を撮像して当該像の画像を生成する撮像装置と、
前記施工前の前記画像における前記像の位置と、前記施工後の前記画像における前記像の位置とのずれ量に基づいて、前記被覆層の厚さを推定する厚さ推定部と、を備える厚さ計測装置。
【請求項2】
前記所定形状は、格子形状である、請求項1に記載の厚さ計測装置。
【請求項3】
前記厚さ推定部は、前記施工面における所定の計測点での前記被覆層の厚さを推定するために、
前記画像における前記計測点での前記ずれ量に対応する実際のずれ量を求める位置ずれ特定部と、
前記計測点での前記施工面の法線ベクトルと、当該計測点と前記撮像装置とを結ぶ線分とのなす角度と、前記計測点における前記実際のずれ量とに基づいて、前記計測点における前記被覆層の厚さを算出する厚さ算出部と、を有する、請求項1に記載の厚さ計測装置。
【請求項4】
前記位置ずれ特定部は、前記施工の前後の前記画像に基づいて前記画像における前記ずれ量を求め、当該ずれ量と、前記画像における単位長さに対する、当該単位長さの実際の寸法の比率とに基づいて、前記実際のずれ量を求める、請求項3に記載の厚さ計測装置。
【請求項5】
前記第2方向は、前記施工面に対して斜めの方向であり、
前記厚さ算出部は、次の式により、前記計測点での前記被覆層の厚さを算出し、
t=Δx/sinθ
ここで、tは、前記計測点での前記被覆層の厚さであり、Δxは、前記計測点での前記実際のずれ量であり、θは、前記計測点での前記なす角度である、請求項3に記載の厚さ計測装置。
【請求項6】
前記第2方向は、前記施工面に対して斜めの方向であり、
前記厚さ算出部は、次の式により、前記施工面において、前記撮像装置からの距離が互いに異なる複数の前記計測点の少なくともいずれかの計測点での前記被覆層の厚さを算出し、
=Δx/sinθ
ここで、iは、計測点の識別子であり、tは、当該計測点iでの前記被覆層の厚さであり、Δxは、当該計測点iでの前記実際のずれ量であり、θは、複数の前記計測点のそれぞれの前記なす角度の代表値である、請求項3に記載の厚さ計測装置。
【請求項7】
前記第2方向は、前記施工面に対して斜めの方向であり、
前記厚さ算出部は、次の式により、前記施工面において、前記撮像装置からの距離が互いに異なる複数の前記計測点の少なくともいずれかの計測点での前記被覆層の厚さを算出し、
=Δx・w/sinθ
ここで、iは、計測点の識別子であり、tは、当該計測点iでの前記被覆層の厚さであり、Δxは、当該計測点iでの前記実際のずれ量であり、θは、当該計測点iでの前記なす角度であり、wは、当該計測点iに関する補正係数である、請求項3に記載の厚さ計測装置。
【請求項8】
前記第2方向は、前記施工面に対して斜めの方向であり、
前記厚さ算出部は、次の式により、前記施工面において、前記撮像装置からの距離が互いに異なる複数の前記計測点の少なくともいずれかの計測点での前記被覆層の厚さを算出し、
=(Δx/sinθ)-α
ここで、iは、計測点の識別子であり、tは、当該計測点iでの前記被覆層の厚さであり、Δxは、当該計測点iでの前記実際のずれ量であり、θは、前記計測点iでの前記なす角度であり、αは、前記計測点iに関する補正量である、請求項3に記載の厚さ計測装置。
【請求項9】
前記厚さ推定部は、前記画像における前記計測点での前記像の比較部分の寸法と、前記画像における基準点での前記像の比較部分の寸法との相違を示す指標値を求め、当該指標値と前記なす角度との関係とに基づいて、前記計測点での前記なす角を求め、求めた当該なす角度を前記厚さ算出部に入力する角度特定部を有する、請求項3に記載の厚さ計測装置。
【請求項10】
前記施工前の画像と前記施工後の前記画像の各々において、前記像の歪みを補正する歪み補正部を備え、
前記位置ずれ特定部は、前記像の歪みが補正された、前記施工の前後の前記画像に基づいて、前記ずれ量を求める、請求項4に記載の厚さ計測装置。
【請求項11】
前記投影装置が前記施工面に前記第1方向に投影した前記像を、前記撮像装置が前記第2方向に撮像できるように、前記投影装置と前記撮像装置とが、互いに一体化され又は連結部材により連結されている、請求項1に記載の厚さ計測装置。
【請求項12】
施工面に形成された被覆層の厚さを計測する厚さ計測方法であって、
前記被覆層を形成する施工の前後において、前記施工面または前記被覆層の表面に所定形状の像を第1方向に投影し、
前記施工の前後において、前記第1方向と交差する第2方向から前記施工面上または前記被覆層上の前記像を撮像して当該像の画像を生成し、
前記施工前の前記画像における前記像の位置と、前記施工後の前記画像における前記像の位置とのずれ量に基づいて、前記被覆層の厚さを推定する、厚さ計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設または建築において、建物の壁面などの施工面に形成した被覆層の厚さを計測する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設または建築の業務として、建物の壁面に所定の材料を吹き付ける等の施工により、当該壁面に所定材料の層を形成する業務がある。所定材料には各種材料があるが、その一例は、断熱材である。
【0003】
このような業務において、所定材料の被覆層が規定の厚さで施工できているかを管理しなければならない場合がある。この場合、施工後に、壁面に形成した層の厚さを計測する必要がある。
【0004】
この計測に関して、従来では、例えば、施工後において、壁面に吹き付けた材料が硬化する前に、当材料の層に棒状部材を差し込み、この棒状部材に付着した上記材料の長さを定規で計ることで、当該層の厚さを計測していた。
【0005】
また、上記施工の前後において、レーザスキャナにより壁の3次元座標データ(3次元点群データ)を取得し、施工前後の3次元座標データを互いに比較することで、被覆層の厚さを計測することもできる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-76585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、棒状部材を用いる場合、壁に対して垂直な方向に、棒状部材を被覆層に正確に差し込むことが難しい。また、棒状部材において材料が付着した位置が被覆層の実際の厚さと整合しない可能性もある。また、作業員によって厚さの計測値にばらつぎが生じる可能性もある。このような理由により、棒状部材を用いて被覆層の厚さを精度よく計測できない可能性がある。
【0008】
また、レーザスキャナを用いる場合、高精度な計測が可能であるが、容量の大きい3次元点群データを取得して処理するため、計測に時間がかかる可能性がある。また、レーザスキャナは高価であり、コストがかかる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、計測者の計測技量に依存せずに、レーザスキャナを用いることなく、簡易な装置で、壁面などの施工面に形成した被覆層の厚さを計測可能な装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による厚さ計測装置は、施工面に形成された被覆層の厚さを計測する装置であって、
前記被覆層を形成する施工の前後において、前記施工面または前記被覆層の表面に所定形状の像を第1方向に投影する投影装置と、
前記施工の前後において、前記第1方向と交差する第2方向から前記施工面上または前記被覆層上の前記像を撮像して当該像の画像を生成する撮像装置と、
前記施工前の前記画像における前記像の位置と、前記施工後の前記画像における前記像の位置とのずれ量に基づいて、前記被覆層の厚さを推定する厚さ推定部と、を備える。
【0011】
また、上述の目的を達成するため、本発明による厚さ計測方法は、施工面に形成された被覆層の厚さを計測する方法であって、
前記被覆層を形成する施工の前後において、前記施工面または前記被覆層の表面に所定形状の像を第1方向に投影し、
前記施工の前後において、前記第1方向と交差する第2方向から前記施工面上または前記被覆層上の前記像を撮像して当該像の画像を生成し、
前記施工前の前記画像における前記像の位置と、前記施工後の前記画像における前記像の位置とのずれ量に基づいて、前記被覆層の厚さを推定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、計測者の計測技量に依存せずに、レーザスキャナを用いることなく、簡易な装置で、施工面に形成した被覆層の厚さを計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態による厚さ計測装置を示す。
図2】施工面に投影された像の一例を示す。
図3A】像に歪みが生じている画像の例を示す。
図3B】像に歪みが生じている画像の別の例を示す。
図3C】像の歪みが補正された画像の例を示す。
図4】施工前の画像と施工後の画像を完全に重ね合わせた状態を示す。
図5】厚さ推定部の構成例を示すブロック図である。
図6】撮像装置が撮像した施工前の像を含む画像を示す。
図7】被覆層の厚さを求める処理の説明図である。
図8】本発明の実施形態による厚さ計測方法を示すフローチャートである。
図9A】撮像装置の光軸を施工面に正射影した線と平行な方向の位置に応じた計測誤差を示す。
図9B】施工前の画像における格子形状の像を示す。
図10A】被覆層の厚さ計測に関する誤差量と補正量の一例を示す。
図10B】補正係数または補正量の設定方法の説明図である。
図11】変更例による厚さ計測装置を示す。
図12】別の変更例による厚さ計測装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
[第1実施形態]
(厚さ計測装置の構成)
図1は、本発明の実施形態による厚さ計測装置10を示す。厚さ計測装置10は、建物における所定の施工面1に形成された被覆層2の厚さを計測する。ここで、施工面1は、例えば、建物の壁面、床面、天井面、または屋上面であってよい。なお、施工面1は、建物の屋内に面するものであってもよいし、建物の屋外に面するもの(例えば建物の外壁面)であってもよい。施工面1は、平面であってよいが、曲面であってもよい。図1において、この図の紙面と直交する方向は、鉛直方向であってもよいし、水平方向であってもよい。
【0016】
被覆層2は、例えば、所定材料を施工面1に吹き付けることにより形成されたものであってもよいし、所定材料を施工面1に塗布することにより形成されたものであってもよいし、他の方法で形成されたものであってもよい。被覆層2は断熱層であってよい。例えば、所定材料としての液状の断熱材料を施工面1に吹き付けることにより、断熱層を形成してよい。この断熱材料は、例えばウレタン樹脂に発泡剤(フロンガス等)を加えたものであってよい。
【0017】
厚さ計測装置10は、投影装置3、撮像装置5、歪み補正部6、および厚さ推定部7を備える。
【0018】
投影装置3は、被覆層2を施工面1に形成する施工(以下で単に施工ともいう)の前後において、施工面1に、所定形状の像4(後述の図2を参照)を第1方向D1に投影する。第1方向D1は、例えば、施工面1に正対(直交)する方向であってもよいし、施工面1に対して斜めの方向であってもよい。
【0019】
投影装置3は、施工の前後で同じ形状と寸法の像4が施工面1(施工後の場合には、被覆層2が存在しないと仮定した場合の施工面1)の同じ位置に投影されるように、施工面1に対して像4を投影する。より詳しくは、施工後において、仮に被覆層2が形成されていなかったと仮定して投影装置3が施工面1に投影する像4の形状、寸法、および位置が、施工前に投影した像4の形状、寸法、および位置が同じになるように、投影装置3は、施工後の施工面1(すなわち、被覆層2の表面2a)に像4を投影する。例えば、投影装置3は、施工の前後において、施工面1(被覆層2を含まない施工面1)に対する位置と向きが同じであり、投影装置3は施工面1に対し同じ断面形状の投影光束を投射する。
【0020】
図2は、図1のII-II矢視図であり、施工面1の投影された像4の一例を示す。すなわち、図2は、投影装置3により、像4が投影された施工面1をその法線方向から見た図である。図2の例のように、投影装置3が施工面1に投影する像4の上記所定形状は、格子形状であってよい。格子形状は、互いに間隔(例えば等間隔)をおいた複数の縦線と、互いに間隔(例えば等間隔)をおいた複数の横線とが、互いに交差(例えば直交)している形状であってよい。なお、本発明によると、施工面1に投影される像4は、格子形状のものに限定されず、矩形、三角形など他の形状を有するものであってもよい。なお、像4は、施工面1上に投影された時に所定の長さを有する部分を含むものであるのがよい。
【0021】
撮像装置5は、施工の前後において、第1方向D1と交差する方向から、施工面1の像4を撮像して当該像4の画像を生成する。施工面1(被覆層2を含まない施工面1)に対する撮像装置5の位置と向きは、施工の前後で同じである。以下において、施工前に撮像装置5が撮像した施工面1の画像を、単に施工前の画像ともいい、施工後に撮像装置5が撮像した施工面1上の被覆層2の画像を、以下で単に施工後の画像ともいう。
【0022】
歪み補正部6は、施工前の画像と施工後の画像の各々において、所定の基準線L(後述の図3Aなどを参照)に対する像4の歪みを補正する。この基準線Lは、撮像装置5の光軸を施工面1に正射影した線(以下で単に光軸の正射影線ともいう)に一致する線であってよい。また、この基準線Lは、像4の中心を通る直線であってよい。以下において、施工前の画像と施工後の画像は、歪み補正部6により歪みが補正された画像であってよい。
【0023】
図3A図3Bは、像4に歪みが生じている画像の例を示す。図1の紙面と垂直な方向が鉛直方向である場合に、図3Aは、図1において撮像装置5が斜め下側から格子形状の像4(図2の像4)を撮像した画像を示し、図3Bは、図1において撮像装置5が斜め上側から格子形状の像4(図2の像4)を撮像した画像を示す。
【0024】
図3A図3Bでは、撮像装置5が、施工面1に投影された像4を斜め下側または斜め上側から撮像したことにより、画像の横方向に延びる基準線L(図3A図3Bにおける破線)に対して縦方向に歪んでいる。
【0025】
歪み補正部6は、このような図3A又は図3Bの像4の歪みを補正することにより、図3Cのように歪みが無くなった(又は低減された)画像に補正する。歪み補正部6は、例えばアフィン変換による歪み補正であってよい。この場合、歪み補正部6は、画像の拡大処理と縮小処理を行わなくてよい。
【0026】
厚さ推定部7は、施工面1の画像における像4の位置と、施工後の画像における像4の位置とのずれ量d(以下で単に画像におけるずれ量ともいう)に基づいて、所定の計測点での被覆層2の厚さを推定する。ここで、所定の計測点は、施工面1に投影された像4における認識可能な点(例えば、像4を構成する複数の線の交点、像4の所定形状の角など)であってよい。格子形状の像4の場合には、所定の計測点は、格子形状を構成する複数の線(例えば縦線と横線)の交点(格子点)であってよい。以下において、所定の計測点を単に計測点ともいう。
【0027】
画像におけるずれ量について、より詳しく説明する。施工前の画像と施工後の画像とを、両画像の外縁同士が完全に一致するように重ねた場合に、施工前の画像における像4の特定箇所(例えば計測点またはその近傍箇所)から施工後の画像における像4の同じ特定箇所までの長さが、画像におけるずれ量であってよい。格子形状の像4の場合には、上記の特定箇所は、格子点であってもよいし、隣接する格子点同士を結ぶ線分であってもよい。また、画像におけるずれ量は、重ね合わせた画像の画素数で表されてよい。
【0028】
図4は、像4が格子形状を有する場合の、画像におけるずれ量dを説明するための図であり、施工前の画像と施工後の画像を上述のように完全に重ね合わせた状態を示す。なお、図4において、格子形状の像4は、その外縁のみを図示している。図4において、符号Eが、施工前の画像の外縁と施工後の画像の外縁を示し、両外縁が完全に重なっている。また、図4において、符号4aは、被覆層2の表面2aに投影された格子形状の像4の外縁を示し、符号4bは、施工前の施工面1に投影された格子形状の像4の外縁を示す。
【0029】
施工面1に被覆層2を形成すると、実際の3次元空間において、被覆層2に投影される像4の位置は、施工面1に投影された像4の位置から被覆層2の厚みの分だけ投影装置3の投影方向(第1方向)にずれる。したがって、施工前の画像と施工後の画像とを完全に重ね合わせると、図4のように、施工前の画像における像4の特定箇所(例えば格子点)と、施工後の画像における像4の同じ特定箇所とは、互いにずれている。このずれ量dは、光軸の正射影線と平行な方向におけるずれ量の成分であってもよいし、上述のように互いに重ね合わせた施工前の画像と施工後の画像における、対応する特定箇所同士の距離であってもよい。なお、図4では、画像内の像4の格子形状において、撮像装置5に最も近い側でのずれ量dを示している。
【0030】
図5は、厚さ推定部7の構成例を示すブロック図である。厚さ推定部7は、位置ずれ特定部7aと角度特定部7bと厚さ算出部7cを有する。
【0031】
位置ずれ特定部7aは、施工前の画像と施工後の画像を撮像装置5から(例えば歪み補正部6を介して)受け、当該両画像を上述のように互いに重ね合わせて、画像におけるずれ量dを求める。
【0032】
また、位置ずれ特定部7aは、求めた画像上のずれ量dに対応する実際のずれ量Δxを求める。例えば、位置ずれ特定部7aは、画像における単位長さ(例えば1つの画素)に対する、当該単位長さに対応する実際の長さの比率cと、画像におけるずれ量dとに基づいて、実際のずれ量Δxを求めてよい。この実際のずれ量Δxは、Δx=c・dである。ここで、cは、上述の比率であり、例えば、画像における1つのピクセルの寸法に対する当該ピクセルに対応する実際の長さを示す分解能(mm/ピクセル)であってよい。
【0033】
ここで、上記比率cは、予め求められ、位置ずれ特定部7aに記憶されていてよい。上記比率cは、例えば、上述のように施工前の画像に投影された像4の所定部分の寸法と、施工面1上における当該所定部分の実際の寸法とに基づいて、例えば比率算出部7dにより、予め求められ、位置ずれ特定部7aに入力されて記憶されてよい。比率算出部7dは、厚さ推定部7の構成要素であってよい。なお、位置ずれ特定部7aへの比率の入力は、比率算出部7dの代わりに人が適宜の入力装置を用いて行ってもよい。比率の算出は、後述の厚さ計測方法においてより詳しく説明する。
【0034】
図1図6を参照して、角度特定部7bの処理を説明する。図6は、撮像装置5が撮像した、施工前(または施工後)の画像を示す。角度特定部7bは、施工前(または施工後)の画像上の像4における2つの比較部分の寸法に基づいて、施工面1における計測点での施工面1の法線ベクトルと、計測点と撮像装置5(例えば撮像装置5の撮像素子または最も施工面1側のレンズの中心)とを結ぶ線分とのなす角度θ(図1を参照)を求める。像4における2つの比較部分は、それぞれ計測点と基準点の部分である。計測点と基準点は、撮像装置5の光軸を施工面1に正射影した光軸(光軸の正射影線)と平行な方向(図6の左右方向)の位置が互いに異なっている。2つの比較部分は、施工面1における実際の寸法は同じであるが、施工面1に対して斜めに撮像された画像においては互いに寸法が異なっている。像4が格子形状を有する場合には、各比較部分は、例えば、図6のように隣接する格子点同士を結ぶ線分(図6の破線で囲んだ線分)であってよい。
【0035】
角度特定部7bは、画像(例えば施工前の画像)に基づいて、当該画像における上記2つの比較部分同士の寸法の違いを示す指標値を求める。この指標値は、計測点における比較部分の寸法と、基準点における比較部分の寸法との差または割合であってよい。
【0036】
角度特定部7bは、求めた指標値と、当該指標値となす角度との関係とに基づいて、計測点での上述のなす角度θを求める。ここで、当該関係は予め求めたものであってよく、角度特定部7bに記憶されていてよい。なお、角度特定部7bを設けずに、人が、適宜の計測機器を用いて、なす角度θを求め、求めたなす角度θを、予め厚さ算出部7cに記憶させてもよい。
【0037】
厚さ算出部7cは、位置ずれ特定部7aが求めた上述の実際のずれ量Δxと、角度特定部7bが求めた上述のなす角度θとに基づいて、計測点における被覆層2の厚さを算出する。
【0038】
図7は、被覆層2の厚さtを求める処理の説明図であり、図1の部分拡大図である。厚さ算出部7cは、次の式(E1)により、被覆層2の厚さを算出してよい。

t=Δx/sinθ ・・・(E1)

ここで、式における各記号の意味は以下の通りである。
tは、計測点における被覆層2の厚さである。
Δxは、計測点における上述した実際のずれ量である。
θは、計測点における上述のなす角度である。なす角度θは、180度未満である。
これらのt,Δx,θは、例えば図7に示すものであってよい。
【0039】
なお、厚さ推定部7(位置ずれ特定部7aと角度特定部7bと厚さ算出部7cと比率算出部7d)および歪み補正部6は、コンピュータと、当該コンピュータを厚さ推定部7(位置ずれ特定部7aと角度特定部7bと厚さ算出部7cと比率算出部7d)および歪み補正部6として機能させるプログラムとにより構成されてよい。すなわち、当該プログラムが、厚さ推定部7の各部(位置ずれ特定部7aと角度特定部7bと厚さ算出部7cと比率算出部7d)および歪み補正部)が行う上記処理をコンピュータに実行させてよい。なお、厚さ推定部7および歪み補正部6の上述した処理に必要なデータ(画像、比率など)や上記プログラムは、上記コンピュータの記憶装置に記憶されてよい。
【0040】
(厚さ計測方法)
図8は、本発明の実施形態による厚さ計測方法を示すフローチャートである。この厚さ計測方法は、上述した厚さ計測装置10を用いて行われてよい。厚さ計測方法は、ステップS1~S10を有する。
【0041】
ステップS1において、投影装置3により、施工前の施工面1に所定形状の像4を第1方向D1に投影する。一例では、この時、施工面1に投影される像4の所定形状は、図2のような格子形状である。この場合、図2のように、施工面1上の当該像4の格子形状を構成する複数の縦線と複数の横線とが互いに直交していてよい。
【0042】
ステップS2において、ステップS1により施工面1に投影された像4の所定部分の実際の寸法を計測する。この所定部分は、計測点に位置してよい。像4が格子形状を有する場合、この所定部分は、像4において隣接する格子点同士を結ぶ線分(図2の破線で囲んだ部分)であってよい。また、当該所定部分の実際の寸法は、例えば、光軸の正射影線と直交する方向(図2では縦方向)の寸法であってもよいし、光軸の正射影線と平行な方向の寸法であってもよい。
【0043】
ステップS2の計測は、適宜の装置または器具(例えば定規)を用いて行ってよい。ステップS2での計測値は、例えば人が適宜の入力装置を用いて比率算出部7dに入力されてよい。
【0044】
ステップS3において、撮像装置5により、ステップS1により施工面1に投影された像4を第2方向D2に撮像する。また、ステップS3おいて、当該画像における像4の歪みを、歪み補正部6により補正する。以下において、ステップS3で生成された施工前の画像は、このように歪みが補正された画像であってよい。
【0045】
ステップ4において、比率算出部7dは、ステップS3で生成された施工前の画像における像4の上記所定部分の寸法と、ステップS2で計測した像4の上記所定部分の実際の寸法とに基づいて、当該画像における単位長さに対する、当該単位長さに対応する実際の寸法の比率cを求める。比率算出部7dは、求めた当該比率cを位置ずれ特定部7aに入力する。
【0046】
ステップS5において、角度特定部7bは、ステップS3で生成された画像に基づいて、施工面1における計測点での施工面1の法線ベクトルと、計測点と撮像装置5とを結ぶ線分とのなす角度θを求める。すなわち、上述のように、角度特定部7bは、ステップS2で生成された画像において、互いに異なる計測点と基準点での像4の比較部分同士の寸法の差を示す指標値を求め、当該指標値と、指標値となす角度θとの関係とに基づいて、なす角度θを求める。
【0047】
なお、ステップS4とステップS5は、図8では、この順に行われているが、逆の順で行われてもよいし、並行して行われてもよい。
【0048】
ステップS6において、施工面1に被覆層2を形成する施工が行われる。
【0049】
ステップS7において、再び、投影装置3により、施工面1に、すなわち、施工面1に形成された被覆層2に、所定形状の像4を第1方向D1に投影する。
【0050】
ステップS8において、再び、撮像装置5により、ステップS4により施工面1上の被覆層2に投影された像4を第2方向D2に撮像する。また、ステップS8おいて、当該画像における像4の歪みを、歪み補正部6により補正する。以下において、ステップS8で生成された施工後の画像は、このように歪みが補正された画像であってよい。
【0051】
ステップS1とステップS7では、投影装置3は、施工面1に対して同じ位置から同じ第1方向D1に、施工面1(被覆層2を含まない施工面1)の同じ位置または範囲に同じ寸法で同じ形状の像4を投影するように、施工面1または被覆層2の表面2aに像4を投影する。ステップS1の開始時点からステップS7の終了時点まで、投影装置3の位置と向きは、固定されていてよい。
【0052】
また、ステップS3とステップS8では、撮像装置5は、施工面1に対して同じ位置から同じ第2方向D2に、施工面1または被覆層2の表面2aに投影された像4を含む同じ範囲を撮像する。ステップS3の開始時点からステップS8の終了時点まで、撮像装置5の位置と向きは、固定されていてよい。
【0053】
なお、ステップS1の開始前に、投影装置3が施工面1に第1方向D1に投影した像4を、撮像装置5が第2方向D2に撮像できるように、投影装置3と撮像装置5を配置してよい。この配置において、投影装置3の光軸と撮像装置5の光軸とは、(例えば施工面1において)互いに交差してよい。この配置は、ステップS8が終わるまで固定されてよい。
【0054】
ステップS9において、位置ずれ特定部7aは、上述のように、ステップS3で生成された施工前の画像における像4の位置と、ステップS8で生成された施工後の画像における像4の位置とのずれ量dを求める。ここで、施工前の画像における像4の位置と、施工後の画像における像4の位置とは、像4における同じ位置である。また、施工前の画像における像4の位置は、施工面1における計測点に対応する位置(例えば計測点の位置、または計測点の近傍の位置)である。
【0055】
また、ステップS9において、位置ずれ特定部7aは、求めた当該ずれ量dと、ステップS4で求められた比率cとに基づいて、ずれ量dに対応する実際のずれ量Δx(=c・d)を求める。
【0056】
ステップS10において、ステップS5で求められたなす角度θと、ステップS9で求められた実際のずれ量Δxとに基づいて、厚さ算出部7cは、施工面1上の計測点における被覆層2の厚みtを求める。厚さ算出部7cは、求めた厚みtは、図示しないディスプレイまたは記憶装置に出力されることにより、当該ディスプレイに表示され又は当該記憶装置に記憶されてよい。なお、当該ディスプレイと当該記憶装置は、上述したコンピュータの構成要素であってよい。
【0057】
(第1実施形態の効果)
本実施形態によると、被覆層2を形成する施工の前後において、投影装置3により、施工面1または被覆層2の表面2aに所定形状の像4を第1方向D1に投影する。また、施工の前後において、第1方向D1と交差する第2方向D2から施工面1上または被覆層2上の像4を、撮像装置5により撮像して当該像4の画像を生成する。施工前の画像における像4の位置と、施工後の画像における像4の位置とのずれ量dに基づいて、厚さ推定部7により、被覆層2の厚さを推定する。したがって、計測者の計測技量に依存せずに、また、レーザスキャナを用いることなく、投影装置3と撮像装置5などの簡易な装置で、施工面1に形成した被覆層2の厚さを計測できる。
【0058】
より具体的には、厚さ推定部7は、画像におけるずれ量dに対応する実際のずれ量Δxを求める位置ずれ特定部7aを有する。また、厚さ推定部7は、計測点での施工面1の法線ベクトルと、当該計測点と撮像装置5とを結ぶ線分とのなす角度θと、計測点における実際のずれ量Δxとに基づいて、計測点における被覆層2の厚さを算出する厚さ算出部7cを有する。このような構成により、被覆層2の厚さを求めることができる。
【0059】
また、位置ずれ特定部7aは、画像における単位長さに対する、当該単位長さの実際の寸法の比率cと、画像におけるずれ量dとに基づいて、実際のずれ量Δxを求めることができる。
【0060】
厚さ算出部7cは、t=Δx/sinθにより被覆層2の厚みtを算出する。したがって、レーザスキャナで得た3次元点群データを処理する場合と比較して、被覆層2の厚みtを求めるのに要する処理量を少なくすることができる。
【0061】
また、歪み補正部6は、施工前の画像と施工後の画像の各々において、所定の基準線Lに対する像4の歪みを補正し、位置ずれ特定部7aは、像4の歪みが補正された施工の前後の画像に基づいて、ずれ量を求める。これにより、ずれ量を精度よく求めることができる。
【0062】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態による厚さ計測装置10について説明する。第2実施形態について、以下において説明しない事項は、第1実施形態の場合と同じであってよい。
【0063】
第1実施形態では、施工面1における1つの計測点での被覆層2の厚みを求めたが、第2実施形態では、施工面1における複数の計測点での被覆層2の厚みを求めることが可能である。すなわち、第2実施形態でも、上述した第1実施形態の厚さ計測方法のステップS1~S10を上述の順序で行うが、上述したステップS2、S4、S5、S9、S10は、複数の計測点の各々について行われてよい。以下において、i(および各記号の添え字i)は、計測点の識別子(例えば番号)を意味する。例えば、計測点が9個ある場合には、iは、1~9までの自然数の値をとる。
【0064】
ステップS2では、ステップS1により施工面1に投影された像4の複数の所定部分の実際の寸法を計測する。これらの所定部分は、それぞれ、複数の計測点i(=1~9)に位置してよい。
【0065】
ステップ4において、比率算出部7dは、像4における上記複数の所定部分の各々について、ステップS3で生成された施工前の画像における像4の当該所定部分の寸法と、ステップS2で計測した像4の当該所定部分の実際の寸法とに基づいて、当該画像における単位長さに対する、当該単位長さに対応する実際の寸法の比率を、当該所定部分が位置する計測点での比率cとして求める。
【0066】
ステップS5では、角度特定部7bは、ステップS3で生成された画像に基づいて、施工面1における計測点での施工面1の法線ベクトルと、各計測点iと撮像装置5とを結ぶ線分とのなす角度の代表値θを求める。この代表値は、複数の計測点iのうちいずれかの計測点についての上記なす角度θであってよい。あるいは、この代表値は、複数の計測点iのそれぞれについての複数の上記なす角度θの平均値であってもよい。
【0067】
ステップS9において、位置ずれ特定部7aは、複数の計測点iの各々について、ステップS3で生成された施工前の画像の像4において当該計測点iに対応する位置と、ステップS8で生成された施工後の画像における像4の位置とのずれ量dを求める。ここで、施工前の画像において当該計測点に対応する位置と、施工後の画像における像4の位置とは、像4における同じ位置である。
【0068】
また、ステップS9において、位置ずれ特定部7aは、各計測点iについて、求めたずれ量dと、ステップS4で求めた比率cとに基づいて、ずれ量dに対応する実際のずれ量Δx(=c・d)を求める。
【0069】
ステップS10において、各計測点iについて、ステップS5で求めたなす角度の代表値θと、ステップS9で求めた実際のずれ量Δxとに基づいて、施工面1上の当該計測点iにおける被覆層2の厚みtを求める。
【0070】
より具体的には、厚さ算出部7cは、上述の式(E1)の代わりに、次の式(E2)により、施工面1において、撮像装置5からの距離が互いに異なる複数の計測点iの各々での被覆層2の厚さを算出する。

=Δx/sinθ ・・・(E2)

ここで、t=は、計測点iでの被覆層2の厚さである。
Δxは、計測点iでの上述した実際のずれ量であり、ステップS9で求められたものである。
θは、複数の計測点のそれぞれのなす角度の代表値であり、ステップS5で求められたものである。
【0071】
(第2実施形態の効果)
本実施形態によると、複数の計測点iでの被覆層2の厚さtを求めることができる。特に、上述のステップS1~S10を1回行うだけで、複数の計測点iでの被覆層2の厚さtを求めることができる。また、計測点i毎になす角度θを求めることが不要になる。
【0072】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態による厚さ計測装置10について説明する。第3実施形態について、以下において説明しない事項は、第2実施形態の場合と同じである。
【0073】
上述の第2実施形態では、ステップS5において、複数の計測点iに対してなす角度θの代表値θを求めたが、第3実施形態では、ステップS3において、複数の計測点iの各々についてなす角度θを求める。
【0074】
すなわち、第3実施形態では、ステップS5において、角度特定部7bは、各計測点iについて、ステップS2で生成された施工前の画像に基づいて、当該計測点iでの施工面1の法線ベクトルと、当該計測点iと撮像装置5とを結ぶ線分とのなす角度θを求める。
【0075】
また、第3実施形態では、ステップS10において、各計測点iについて、ステップS5で求めたなす角度θと、ステップS9で求めた実際のずれ量Δxとに基づいて、施工面1上の当該計測点iにおける被覆層2の厚みtを求める。
【0076】
より具体的には、厚さ算出部7cは、上述の式(E2)の代わりに、次の式(E3)により、施工面1において、撮像装置5からの距離が互いに異なる複数の計測点iの各々での被覆層2の厚さを算出する。

=Δx/sinθ ・・・(E3)

ここで、θは、計測点iでの上記なす角度θであり、ステップS5で求められたものである。式(E3)における他の各記号の意味は、第2実施形態の場合と同じである。
【0077】
(第3実施形態の効果)
本実施形態においても、各計測点iについてなす角度θを求めるので、計測点iに応じたなす角度θの違いが反映された厚さtを得ることができる。本実施形態の他の効果は、第2実施形態の場合と同様である。
【0078】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態による厚さ計測装置10について説明する。第4実施形態について、以下において説明しない事項は、第1実施形態、第2実施形態、または第3実施形態の場合と同じであってよい。
【0079】
図9Aは、施工面1における光軸の正射影線(撮像装置5の光軸を施工面1に正射影した線)と平行な方向の位置に応じた計測誤差を示す。図9Aの横軸は、光軸の正射影線と平行な方向における、施工面1上の位置を示す。すなわち、図9Aの横軸上の数字1~9は、図9Bに示す施工前の画像における格子形状の像4において数字1~9が付された縦線の位置(計測点)を示す。なお、図9Aの横軸の向き(右側)は、撮像装置5から遠い側を示す。
【0080】
図9Aの縦軸は、実際に10cmの厚さの被覆層2を施工面1(壁面)に形成した場合に、上述の第3実施形態により各計測点i(図9Aの横軸の数字1~9のそれぞれの計測点)で求めた被覆層2の厚さの誤差を示す。図9Aの(1)~(5)の各データは、図9Bに示す施工前の画像における格子形状の像4において数字(1)~(5)が付された横線の位置での誤差データを示す。
【0081】
施工面1において撮像装置5に近い計測点iほど上述のなす角度θが小さくなるので、その分、図9Aのように、上述の式(E1)、(E2)、または(E3)で求める被覆層2の厚さの誤差が大きくなる傾向がある。
【0082】
そこで、本実施形態では、ステップS10において、上述の式(E1)、(E2)、または(E3)の代わりに、次の式(E4)により、施工面1において計測点iでの被覆層2の厚さを算出する。

=Δx・w/sinθ ・・・(E4)

ここで、wは、計測点iに関する補正係数である。wは、例えば、1よりも小さい正の数であって、施工面1において、光軸の正射影線に平行な方向において、計測点iが撮像装置5に近いほど小さくなるように設定されている。wは、予め求められて厚さ算出部7cに記憶されていてよい。式(E4)における他の各記号の意味は、第3実施形態の場合と同じである。
【0083】
一例では、像4が格子形状を有する場合に、wは、次の式(E5)で表されてよい。

=L(0)/L(i) ・・・(E5)

ここで、L(0)は、施工前の画像での像4の格子形状において、固定点(例えば撮像装置5から最も遠い位置)での隣接する格子点同士の距離である。L(i)は、施工前の画像での像4の格子形状において、計測点iの位置での隣接する格子点同士の距離である。
【0084】
あるいは、実験的に求めた図9Aのような誤差に基づいて後述する図10のような補正量(補正曲線)を予め設定してもよい。この場合には、本実施形態では、ステップS10において、上述の式(E4)の代わりに次の式(E6)により、施工面1において計測点iでの被覆層2の厚さを算出する。

=(Δx/sinθ)-α ・・・(E6)

ここで、αは、計測点iに関する補正量である。αは、予め求められて厚さ算出部7cに記憶されていてよい。式(E6)における他の各記号の意味は、第3実施形態の場合と同じである。
【0085】
図10Aは、誤差量と補正量αの一例を示す。横軸は、図9Aの横軸と同様に、光軸の正射影線と平行な方向における、施工面1上の計測点iの位置を示す。この横軸上の数字1~9の順に、撮像装置5から遠くなっている。図10Aの縦軸は、予め推定された誤差量、または、補正量を示す。図10Aにおいて、破線の曲線は、予め推定された誤差量を示し、実線の曲線は、推定された誤差に対する補正量である。両曲線は、この例では、横軸に関して対称な曲線である。
【0086】
図10Aに示す補正量のように、αは、光軸の正射影線に平行な方向における計測点iの位置に応じて設定されている。αは、計測点iで生じる上記誤差の推定値と同じ大きさである。
【0087】
図10Bは、補正係数wまたは補正量αの設定方法の説明図である。補正係数wまたは補正量αは、次のように求めることができる。第2実施形態または第3実施形態の厚さ計測方法のステップS1~S10を実験的に実施する。この際、ステップS6では、施工面1に被覆層2を形成する代わりに、図10Bのように、厚さが均一な校正用シート11を施工面1に取り付ける。校正用シート11の厚さは、施工面1に形成する予定の被覆層2の厚さの所望値であってよい。
【0088】
また、厚さ計測方法の実験的な実施において、ステップS10で各計測点iについて、被覆層2の厚さtの代わりに、シート11の厚さtが求められる。各計測点iについて、シート11の厚さtとシート11の実際の厚さに基づいて、補正係数wまたは補正量αを求めて、厚さ算出部7cに設定してよい。
【0089】
(第4実施形態の効果)
本実施形態によると、光軸の正射影線に平行な方向の位置の違いによる被覆層2の厚さ計測誤差に対応して、当該方向における計測点の位置に応じて値が異なる補正係数または補正量を設定する。このように設定した補正係数または補正量を用いて、被覆層2の厚さを求めるので、計測点の位置の違いによる誤差を無くし又は低減することができる。
【0090】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の実施形態による厚さ計測装置10は、上述した複数の事項の全て有していなくてもよく、上述した複数の事項のうち一部のみを有していてもよい。
【0091】
また、上述の第1~第4実施形態のいずれかにおいて、以下の変更例1又は2を採用してもよい。この場合、以下で述べない事項は、上述と同じである。
【0092】
(変更例1)
図11は、変更例1による厚さ計測装置10を示す。図11のように、投影装置3が施工面1に第1方向D1に投影した像4を、撮像装置5が第2方向D2に撮像できるように、投影装置3と撮像装置5とが互いに連結部材8により連結されている。この連結により、投影装置3と撮像装置5との互いに対する位置と向きが、固定され又は固定可能になっていてよい。なお、連結部材8と投影装置3と撮像装置5の各々との連結は、適宜の手段(例えばボルトやネジなど)を用いてなされてよい。
【0093】
(変更例2)
図12は、変更例2による厚さ計測装置10を示す。図12のように、投影装置3が施工面1に第1方向D1に投影した像4を、撮像装置5が第2方向D2に撮像できるように、投影装置3と撮像装置5とが互いに一体化されている。この一体化により、投影装置3と撮像装置5との互いに対する位置と向きが、固定され又は固定可能になっていてよい。
【0094】
図12のように、厚さ計測装置10は、投影装置3と撮像装置5が取り付けられ投影装置3と撮像装置5を支持する支持体9を備える。支持体9は、投影装置3と撮像装置5に共通のものである。例えば、支持体9は、撮像装置5と投影装置3が内部に取り付けられるハウジングであってもよいし、撮像装置5と投影装置3が取り付けられるフレームであってもよい。
【0095】
また、歪み補正部6と厚さ推定部7(例えば、歪み補正部6と厚さ推定部7を構成する上述のコンピュータ)は、支持体9に取り付けられていてもよく、例えばハウジングの内部に取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 施工面
2 被覆層
2a 被覆層の表面
3 投影装置
4 像
5 撮像装置
6 歪み補正部
7 厚さ推定部
7a 位置ずれ特定部
7b 角度特定部
7c 厚さ算出部
7d 比率算出部
8 連結部材
9 支持体
10 厚さ計測装置
D1 第1方向(投影方向)
D2 第2方向(撮像方向)
L 基準線
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12